SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[6470] 気がついたら妖精(現実→幻想郷 TS 勘違い 東方ネタ)11/2更新
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2012/11/02 13:04
お知らせ
まことに申し訳ありませんが、諸事情があり本SSを削除せざるえない状態になりました。
近日中に、アルカディアにあるSSを全て削除する予定です。
続編を期待していてくれた皆様、支援していただいた皆様、このようなことになってしまい、重ね重ねとなりますが真に申し訳ありませんでした。
なお、小説家になろうにあげているオリジナル小説につきましては、更新は止まっていますが、続けていく予定です。


この小説は、東方Projectの二次小説です。

オリキャラ・TSの要素があります。
それらが嫌いな方は見ないことをお勧めします。

東方Projectの二次小説ですが、
世界観やキャラクターの性格設定等は原作ではなく、
オンライン等(同人・web漫画・某動画)に出回っているものに準拠しています。
二次創作を元にした幻想郷が舞台になります。
(例・ルーミアがワハーと言う。そーなのかーを連発。原作では一言もワハーとは言っていません。そーなのかーも確か一回しか言っていないはず…)
そのため、かなりのキャラ崩壊発生しています。
また、見る人から見れば世界観を破壊している場合もあります。
それらに耐えられない方は見ないことをお勧めします。

それ以外にも、独自解釈・ご都合主義・(主人公が)頭悪すぎな展開・不真面目展開がありますが、
ご了承ください。

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ありません


2009年4月12日追記
一旦完結していましたが、再開することになりました。
ゆっくりとしたペースになると思いますがよろしくお願いします。
基本的にこれまでと同じ方向性で進む予定ですが、何かの間違いで脱線するかもしれません。ご了承ください。
なお、勘違い系の宿命でもあるのですが、徐々に本編の流れとは別のオリジナル流れの部分が増えてしまいます。
その点もご了承のうえ読んでください。

2010年10月24日追記
短編外伝を一纏めにしていましたが、分離しました。
なお、その際にオリキャラの絵をアップしたpixivへのリンク(短編外伝第三話内)と、マリーダの羽の設定とクラン・シーの髪の毛の設定を変更しました。

2010年10月30日追記
シトリンの羽の設定を変更しました。
なお、シトリンの絵をpixivへ追加しました。

2010年10月31日追記
セルトンとセトルンの絵のpixivへリンクを追加しました。

2010年11月1日追記
アイリスの羽の設定を変更しました。
アイリスの絵のpixivへリンクを追加しました。

2010年11月10日
間違えて、ゼロ番目の記事(このページ)を削除してしまい、一時期投稿掲示板から検索できない事態となっていました。お騒がせいたしました。
なお、内容に関しては直したつもりですが、万が一おかしいところや、文章が飛んでいるところがあれば感想掲示板に連絡をお願いします。
よろしくお願いします。

●イラストのご紹介●
AA◆98e2dffc様がハニューの絵を描いてくれました。
※すみません、荒らし対策でURLを貼った状態で更新しようとすると、弾かれる仕様となってしまったため、URLが貼れなくなってしまいました。
現在対策を検討中で、以下は代替策です。
pksp.jp/aa-0718/
エイチティーティーピー コロン スラッシュ スラッシュ を前に追加してください。

●三次小説のご紹介●
あきら◆72790bb6様が気がついたら妖精の三次小説を書いてくれました。
現在、XXX板で連載中です。
題名 『もしも●●だったら(「東方Project」三次創作 元ネタ「気がついたら妖精」)』
18禁ですので、大人の人専用です。


PS
もう一つの作品の続編を楽しみにされていた方には申し訳ありません。



[6470] 第一話 王道的な始まり。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/11/28 10:49
第一話
王道的な始まり。



眩しい。
朝日が眩しい。
カーテンの隙間から朝日が入ってきているようだ。

うーん今何時だ?6時ぐらいか?

ってあれ?時計が無いですよ?というか、このベッド自分のじゃないですよ?

おおい!この部屋誰のだよ。なんというか女の子の部屋というか…
メルヘンチックな部屋というか…明らかに自分の部屋じゃないぞ。

本当にどこだよここ。





朝起きてから10分ほど経ったが、何も思い出せない。
いつもと同じく、普通に自分のベッドで寝たはずなのだが。
まさか誘拐された?それにしては、監視もされていないようだし、こんなメルヘンな部屋であるというのも変だ。
とにかく、考えていても仕方が無い。行動を開始しよう。
なんだか、変な服を着ているがそれもとにかく無視だ。
行動だ!行動!





玄関を開けたら死にかけました。

何ですかこの家は!?
ツリーハウスというか、家が木の中にありますよ。
っていうか、どうやって出入りするんだ。玄関が大木の幹の中腹あたりにあるなんて…
空でも飛べるのならとにかく、どう考えても使いにくすぎるだろう。
このご時勢にバリアフリーを無視した家を作るとは、この家の住人はとんだ変人だな。
常識的に考えて欠陥住宅だろこれ…







疲れた。
まさか家から出るのにこんなに疲れるとは。
木登り(木降り?)をするなんて小学生以来だぞ。
いや、しかし、疲れたがいい空気だな。これならあっという間に疲労も忘れそうだ!
あははははは…



----------



どこまでも続く森。
二時間ぐらい歩いても森が続いているとは…これは樹海だぁ!


おれオワタ!\(^o^)/


欠陥住宅の次は樹海かよ。
なんだよ泣きたくなってきたぞ。というか泣いた。
泣くなんて何年ぶりだ、何十年ぶりか?








ガサガサガサ!!
誰か来た!!人?狐?狸?まさか熊じゃないだろうな?
答えは?

クモさんでしたーーーーーー!!
体長3mぐらいの…
なんだよこれ!!!!

「人かと思ったら不味い妖精か…」
なにこのクモ喋ってるし!キモ!

うわああ、こっち来るなこっち来るな。
襲われる、食べられる、殺される。
どうにかしないと。なんとかしないと。

と思ったら手からビームが出ました。
そして、そのビームはクモさんの体を少し抉っていきましたよ。

「不意打ちとはやってくれるな。
 見逃してやろうと思ったが、気が変わった…この傷の分の栄養はきっちり頂かせてもらう!」

完全に戦闘態勢に入ったクモに隙は見当たらない。
隙が見つかっても、どうやったらまたビームが出せるのか皆目見当がつかない。

や、やばい死ぬ。
今度こそ本当に死ぬ。




「誰か助けて!!!!」
あれ?俺こんな声してたっけ?
ってそんなことを考えている場合ではない。
クモの口が目の前に。
もう駄目だ。









「動かないで!」



突然の第三者の声に俺は従う。というか、腰が抜けて動けないのだが。

そんな俺を避けるようにしてクモに殺到するビームの嵐。
俺が打ち出したビームとは明らかに威力の違うそれが、クモの体に突き刺さる。
いや、クモの体をバラバラにしていった。

そのあまりの威力に見惚れていたのか、衝撃を受けていたのか。
とにかく俺は、先ほどの声の主が、俺に話しかけてくるまで何もできないでいた。

「怪我は無いですか?大丈夫ですか?」
そんなやさしい声の主は。

緑色の髪の毛をサイドテールにまとめた、羽のあるコスプレ少女だった。
奇妙な格好だが、彼女を見た瞬間に涙が出てしまい、そのまましがみ付いてしまった。




----------




5分ほどそうしていたのだろうか。
俺は、大人が少女に涙を流して抱きついているということを思い出していた。
うわ!やばいよ!誰かに見られたら、警察を呼ばれてしまう!


俺は、焦る心を抑え、なるべく慎重に体を離すと「ありがとうございました。本当に助かりました。」と礼を言う。
俺はどんな時でも礼儀を忘れない男なのだ。
嘘です。礼儀良くして、警察を呼ばれないようにしようと考えていただけです。すいません。


だが、そんな俺の反応に目の前の少女は気を良くしたらしい。
にっこりと微笑みながら「どういたしまして。それより、体のほうは大丈夫ですか?」
とこちらの体を気遣ってくれた。


俺は、幸いにもクモに傷つけられてはいなかった。
しかし、かれこれ二時間以上歩き回り俺は疲れ果てていた。
少し休みたいと伝えると、少女は近くに自分の家があるので、そこで休めばいいと提案してくれた。


「ついてきてください」といって空に舞い上がる少女。


っておおい!この少女、空を飛んでるよ!
俺普通の人間だから飛べないんですが…

「どうしたんですか?まさか飛べないほど怪我をして!?」

「いやどうやって飛べばいいか分からないんですが…」



息を呑む音が聞こえる。
「まさか、さっきのクモ、記憶を奪う程度の能力!?」
なにか、ボソボソ言ってるなと思ったら、もの凄い勢いで少女に誘拐されました。

現在少女にお嬢様抱っこされて空を飛んでいます。はい。

何このプレイ。
恥ずかしくて死にそうなんですが。

とにかく俺はどうなるんだろう。
あと、考えなくしていたのだが、俺の体なんか変ですよ?
なんというか、少女っぽい?



----------



少女の家も欠陥住宅でした。
施工業者はマジで訴えられると思うぞこれ。

そんなことを思っている俺を無視して、少女は俺を洗面所に連れて行き俺の服を…
この場合、何かお約束のリアクションでも取るのだろうが、俺は目の前の鏡に釘付けになっていた。
覚悟はしていたが、実際にその目で見るとショッキングだった。
そこには、少女より少し小さいぐらいの背格好の青色の髪の少女がいた。
普通の少女と違うのは背中からモンシロチョウみたいな羽が生えていることかなー


呆然としている俺に少女が、
「服は後で洗っておきますから、その間この服でも着ていてください」
と話しかける。そう、俺の服は慣れない森の散策で、悲惨なほど汚れていたのだ!


服を俺に渡すと少女も着替え始める。
うう、あなたの服まで汚してしまいごめんなさい。
他人の服を汚してしまったことに、俺は少し落ち込んだ。


「お名前聞かせてくれませんか?」
リビングに戻った俺に少女は名前を聞いてきた。
そういえば、まったく自己紹介をしていなかったことに気がついた。
「俺の俺の名前は…」
いきなり詰まってしまった。まずい、明らかに前の男の名前だとおかしいだろ。
気を取り直し、まずは俺の住んでいる所は…


いやまてよ、なんて説明すればいいんだ?俺の住んでいる所は、日本だがここはそもそも日本か?
ダサイタマで有名な埼玉でーすと答えようとしたが、通じるのかそのギャグ…


そう悩んでいると、突然少女に抱きしめられた。
「辛いことを聞いてごめんなさい。わからないんですよね。」

「いや、そんなことはない。時間があれば説明できるようになるから。」
考える時間をください。まじで。


俺の言葉を聞いた少女は。何か決意したような顔で。
「そうですよね。時間がきっと解決してくれます。解決するまでの間、私の家で一緒にくらしましょう。」

ええー!!
自己紹介も満足にできない不審者を泊めてくれるとは、なんていい子なんだ。
しかも、一泊とは表現せずに、気を使ってまるで何泊も泊めてくれるように言ってくれるとは。
少女が天使に見えるぜ。


「ありがとうございます。あの…」


と、ここで少女の名前を知らないことに気がついた。

そのことを察した少女が話し始める。
「実は私には、本当の名前はありません。でも私の親しい人たちは私のことを『大ちゃん』と呼んでいます。あなたも、私のことを大ちゃんと呼んでください。」




----------




そっと、ソファーからベッドの方を見る。
大ちゃんはぐっすりと寝ているようだ。
俺は今日一日のことを思い出した。
大ちゃんのおかげで朝から続く混乱から立ち直り考えることができたからだ。
何もかもがありえないことばかりだった。

しかし、そのありえないことが、今の現状を推測する糧になった。

まずここの場所であるが、大ちゃんによると『ゲンソウキョウ』という場所であるらしい。
そんな地名は聞いたことが無い。
つまり、秘匿された場所だということだ。
そして秘匿されているということは、公にできない何かが行われているということだ。

そして次に大ちゃん等のここにいる生物についてだ。
明らかに人ではない。人は空を飛ぶことはできないし、ビームを撃つことができない。
そして、知能を持つクモ。どれも自然発生したものとは思えない。
どれもが進化の樹形図から外れているものなのだ。
つまり、通常の進化とは別の流れのもの。
人為的に作られたものであることは間違いないだろう。
バイオノイド。
しかも高い戦闘能力を誇る。

これは間違いなく兵器として開発されたものだろう。

大ちゃん。
彼女の名前も自分の考えの正しさを示している。
正式な名前が無い彼女につけられたあだ名が死を連想させる『だい』とは、
ここの兵器開発者達は素晴らしい感性を持っているようだ。
大ちゃんの寝顔を見ると、その考えが間違っているような気がするが、
前線で兵士の目を騙すためには大ちゃんの容姿は武器になる。
兵士の目を騙すには目立つ髪の色をしているが、これはここが実験場であると仮定すると納得がいく。
試作兵器は試験結果を判別しやくするために、派手な色が塗られるのが通例なのだ。



次に先の戦闘について考えた。
恐ろしいことに、恐らくアレはここでは日常なのだろう。
生物兵器同士の戦闘。
生産した兵器が潰しあうのは一見非効率だが、使える兵器を探すという意味では効率的なことだろう。
本日の戦闘のように潰しあっていけば、いずれは優秀な種だけが生き残る。
あとはそれのクローンを大量生産し、売り出せばいいだけなのだ。


そして最後に自分のことだ。
自分も、恐らく大ちゃんと同じ兵器なのだろう。
しかし、自分には過去の記憶がある。
つまり、自分は改造されて兵器になったということだ。
そして洗脳されていたのだろう。
何が切っ掛けで記憶が蘇ったのかわからないが、このことは大ちゃんも同じ境遇である可能性を示している。


考えをまとめると。
ここはゲンソウキョウと呼ばれる、秘匿された生物兵器の実験場であるということ。
そこは、生物兵器同士の戦闘が日々行われているバトルロワイヤルな場所であること。
そして俺は、生物兵器に改造されたが、記憶を取り戻したということ。
大ちゃんも俺と同じ被害者である可能性が高いということ。

まったく、どんな三流SFだと思う。
ドッキリかと一瞬思ったが、それでは無理がありすぎる。
常識を捨て、現状を冷静に分析するとこれが最も可能性が高いといえるだろう。

とにかく、このゲンソウキョウの実態をよりよく知ることが必要だ。
そして、いつか本来の体を取り戻し、ゲンソウキョウを脱出しよう。



[6470] 第二話 自立って大切だよね!
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/18 21:32
第二話
自立って大切だよね!


side 大ちゃん
最初に出会った時は、礼儀正しいが力の弱い普通の妖精だと思った。
それだけだったら、この子の面倒を見ようとは思わなかったかもしれない。

この子はそれだけじゃない。
名前を聞く前からこの子は、落ち込んでいた。
そう、自分の記憶が無い異常性に既に気がついていた。
しかし、私の質問に必死に答えようとし、謝罪する私に気を使って
「いや、そんなことはない。時間があれば説明できるようになるから。」
などと言って安心させようとする。
記憶が無いことに自分が一番苦しいはずなのに。

妖精らしからぬ相手を慈しむ心がこの子にはある。
私はこの子のそんな所があっという間に好きになった。





朝になりましたー
現在朝食を食べております。
大ちゃん特製の和風朝食…
見た目日本人っぽくない少女の二人が、メルヘンな感じの家で日本食ですか。
うーん。なんかシュール。
それにしても和食とは、もしかして大ちゃんも元日本人?

あ、そうそう。俺の仮の名前決めました。
鏡に映った自分を見つめていたら何故か突然思いついたハニューって名前にしました。
なんというか安直?
ちなみに大ちゃんに「今日からハニューって呼んで」と言ったら「それは本当の名前ですか」って凄い勢いで聞かれた。
「違う仮の名前」と言ったら目に見えて落ち込んでしまった。
なんか悪いことをしたみたいで、微妙にへこむ。
でも、この格好でオッスオラ、東郷 源太郎とか言ったら大ちゃんもっと落ち込むと思うので、俺の判断は間違っていないはず。

とりあえず、今日は大ちゃんに飛び方を教えてもらいながら、食料集めを開始することになりました。
それではれっつごー


----------



飛ぶことなんて無理だと思っていたが、何とかなりそう。
大ちゃんに支えられながら、高度5cmを飛行しています。
何というか、一度自転車に乗れたら何十年経っても何とかなる感じ?




それにしても、大ちゃんに出会って本当に良かったと思う。
このゲンソウキョウにはスーパーやコンビ二のようなものは無いそうだ。
生物兵器の実験場だから当然だが…
人間の里という所には、小さなお店がいくつかあるそうだが俺は今無職だ。

つまり、俺はここでは自給自足しなくてはいけないということだ。
卒業した大学のお陰で、一般人より圧倒的に知識はある。
しかし、何の支援も期待できない現状では、いずれ生活環境が原始時代に戻ってしまうのは容易に想像できた。
オマケに、記憶を取り戻す前の自分の家がどこにあったかも分からない状況だ。

大人の俺が、見た目10歳ちょっとの少女のヒモ状態。
でも、大ちゃんに出会わなかったら、餓死していただろう。マジで。
うう情けない。情けなくて涙が出てきた。
「ハニューちゃん!?きっと記憶を取り戻す方法があるはずだから。頑張って!」


----------


そんなこんなで一日が過ぎ、なんとか低空なら飛べるようになりました。
なんで低空かって?そりゃ高い所が怖いからさ!
飛べると分かっていても、高所恐怖症の俺にはなかなか高いところなんて飛べません。
というかこれで十分です。木の高さ以上に飛ぼうとは思いません。

明日には、湖に行き大ちゃんの友達にも頼んで、飛び方やゲンソウキョウについてさらに詳しく教えてくれるそうだ。
ゲンソウキョウについて詳しくなれるのはありがたいが、そんな飛ぶことに拘らなくていいからって言ったら。
「ハニューちゃん遠慮しなくていいのよ。みんなの力があればもっと高くまで飛べるはずだから!」
って怒られました。
いやいやいやいや。
ジェットコースターが苦手な人でも、強引に周りが乗せたらいつかは好きになるって意味ですか!?
これは口には出してないが、高所恐怖症で高く飛べないことを見抜かれている!?
なかなかのスパルタっぷりにオラ怯えてきたぞ。



side 大ちゃん
ハニュー。この子の新しい名前。
その名前を聞いたとき、あまりにもピッタリだったので、思わず記憶を取り戻したのかと思ってしまった。
でも、記憶は戻っていなかった。
ハニューちゃんは私に迷惑をかけないように遠慮ばかりしている。
新しい名前を自分につけたのもその遠慮の表れ。
まだ低くしか飛べないのに十分だと言うのも遠慮の表れ。
もっと頼っていいんだよハニューちゃん。



----------



次の日紹介されたのは右側からリグル、ミスティア、チルノ、ルーミアという男の子一人に女の子三人だった。
リグルとミスティアには名字付きのしっかりとした名前があり、落ち着いた性格をしている。
この事から、二人が制式機若しくはそれに近い試作機であることがわかる。
チ●チ●と卑猥な言葉を口走り、純朴な少年をドギマギさせてしまう少女と、
誰もが嫌う黒光りしたあの生物を思わせるを服を着た少年、
というのがどこまで敵に打撃を与える兵器になるのか、なかなか考えさせられるものがあるが…
いや、この二人は精神的打撃までも考慮した兵器だと考えると納得がいく。
卑猥な言葉を喋りながら突撃してくる少女の群れと、黒光りした生物に見える少年の群れ。
練度の低い兵士達だったら、間違いなく戸惑う光景だろう。
ここの研究者達の発想力には思わず頭が下がるな…



残りのルーミアとチルノは残念ながら我々と同じレベルの試作機のようだ。
ルーミアの戦闘能力は分からないが「そーなのかー」という言葉を連発し妙に語彙が少ない。
コミュニケーション能力に問題があるようだ。
チルノは高い能力を持っているが、あまりにも子供っぽい性格をしていた。
おまけに、彼女は⑨と呼ばれ馬鹿にされているようだ。
彼女はこの呼び名を酷く嫌っている。
そういえば、昔のロボットアニメに出てくる強化人間が、同じように番号で呼ばれ苦しんだり、精神的に退行している描写があった。
彼女も同じような存在なのだろうか?


(因みに、俺を含めて3人が妖精で残り3人が妖怪というカテゴリーに入るそうだ。生物兵器にしては、面白いネーミングだと思う。)


彼、彼女等の能力には少々開きがあるようだが、皆良い奴等だということはすぐに分かった。
でも
「高く飛べないなら、高いところから落とせばいいんじゃない。あたいったら最強ね!」
「そーなのかー!!!」
等といって高いところから落とさないでください。
悔しいが確かに効果はかなりあった。
でも、もういやです。


----------



彼、彼女等の協力により何とか空高く飛べるようになりました。
オマケに弾幕ごっこという遊びを知りました。
先日出したビームを打ち合う遊びで、ビームを弾幕と呼ぶとのこと。
なるほど、戦闘訓練がここでは遊びというわけですか。

いやいや。
これは。
なるほど。
なかなか面白いかも?

うおお!?
チルノが何か必殺技みたいなのを出してきた!!


おおチルノすげえ…
あまりの凄さに俺も、

待ちに待った時が来たのだ。多くの英霊達が無駄死にで無かった事の証の為に、再びジオンの理想を掲げる為に、星の屑成就の為に!ゲンソウキョウよ、私は帰って来た!!

みたいな感じで、決め台詞言いながら必殺技出したらカッコイイよね等と思ってしまった。
(元ネタは核兵器だけど…)
今度、夜中にこっそり練習してみようかな!?
練習しているところ大ちゃんに目撃されたら、恥ずかしくて首吊っちゃいそうになるからね~






ってチルノその攻撃はマジでやばいって。
さすが戦闘訓練を兼ねているだけのことはあるぜ、攻撃に本気の殺気が乗っているような気がするぜ!



----------



彼、彼女達との交流が始まり二週間があっという間に過ぎていった。

そして俺は、皆に「職を持ち、自分の家を持って生活したい」と切り出していた。

そう、いつまでも大ちゃんのヒモであり続ける訳にはいかないのだ!
まず子供のヒモになっているという恥ずかしさが、俺の心に毎日ダメージを与えていた。
オマケに、あまりにのんびりし過ぎて「心の嫁」大ちゃんに「いい加減に出ていってください。社交辞令って言葉知らないんですか?」
なんて言われた日には、ショックで確実に首を吊る自信があったからだ。


side チルノ
あたいは凄くいやな奴だ。
ハニューは凄くいい奴なのに、ハニューが大ちゃんと一緒に住んでいると思うだけでハニューが大嫌いになる。
弾幕ごっこの時にはいつも、ハニューなんか居なくなれって、思わず本気で攻撃していた。
ハニューは怒るかと思ったけど、怒らなかった。
そして今日、ハニューは自分から大ちゃんの家を出て行くと言い出した。


全部あたいのせいだ。



----------



俺の話を聞いたら皆が引き止めだした。
なんだか、チルノなんか「ごめんなさい」とかいって泣きながら引き止めている。
って大ちゃんまで泣いてるし。

何だかよく分からないが、これはもしや感動的な場面なのか?

とにかく皆に「もう会わないわけじゃない。これからも友達だ。」と必死に説明した。
都合一時間ぐらい説明していたと思う。




そして、今俺は皆を引き連れて香霖堂に向かっている。
何故こうなったかというと。

職と住む家がほしい。
という条件で就職先を探した結果だった。
最初に案に上がったのはミスティアの屋台だったが、どう考えても俺とミスティアの二人が暮らせる収入は期待できなかった。
というか、これだと大ちゃんのポジションにミスティアが来るだけであまり意味が無い。

次に案に上がったのが、リグルが出した紅魔館に住み込みで働くという案だった。
なんでも紅魔館ではメイドが住み込みで働いており、場所もこのすぐ近くだというのだ。
おまけに、この紅魔館はなんでも強い力を持った吸血鬼(というタイプの生物兵器だろう)が住まう館で、このゲンソウキョウの中でもかなりの勢力になるらしい。
つまり、このゲンソウキョウの脱出するための有力な情報が得られるかもしれないのだ。

これほど好条件の就職先があるとは…リグルなんてお前は素晴らしいんだ!
黒くてカサカサした奴に似ているなんて思った俺を許してくれ。
お前は将来いい男になるぜ。
と心の中で感謝していると。
ルーミアからとんでもない爆弾が落とされた。

「試験は明日なのだー」
ルーミアは突然まともなことを言うので心臓に悪い。



ということで、今俺は香霖堂に向かってる。
香霖堂でリクルートスーツを買うのだ。
就職活動といったらリクルートスーツ!
大ちゃんによると、あるかどうか分からないが、ゲンソウキョウで可能性があるのはここだけらしい。
ちなみにお金はミスティアが5万円ぐらいまでなら立て替えてくれるとのこと。
第一印象で卑猥な言葉が好きな少女だと思った俺を許してくれ!

店主のこーりんとやらは「珍しいお客さんだね」といって我々を出迎えた。
珍しいお客ではなく、お客が来るのが珍しいのではないかと言いかけたがここは我慢。
リクルートスーツを売ってくれとお願いするが、残念ながら出てきたのはそれは少なくとも150年ぐらい前のものじゃないかという代物だった。

おいおいどうするよ…

うん?

あれは?

メイド服!?

「なあ?店主あれは?」

「あ、ああ。特別なルートを通って紅魔館から流れてきたものでね…」

ほほう。
その時俺は閃いた。

メイド服を普通の会社の採用試験に来ていけば、落ちるのは間違いないだろう。
しかし、メイドになるための採用試験なら、メイド服はリクルートスーツと同じ扱いになるのではないだろうか?

むしろ、メイド服を着ていくことが仕事への意気込みとして見られるかもしれない!!!!
あたいって最強だよね!!!



「店主!試着だ!!」

「ええ!?」

「いいから試着だ!試着室に案内しろ!」

「試着室はないから。裏の部屋で…」



----------



おお、ぴったりじゃないか。おまけに、羽を出す穴まで付いているぞこれ。
「店主どうだ?似合っているか?」


「…はっ、よくお似合いですよ。」

「そうか、これでイチコロだな!で値段のほうなんだが…8万円って高すぎるんじゃないか?」

「いや、しかしこれはこの値段でもマニアには結構よく売れていてね…」





「こんにちは!清く正しい射命丸です!」 
突然、大声が香霖堂に響き渡る。誰かが香霖堂にやってきたようだ。

しかし、今の俺はそれどころではなかった。
あまりの大声に驚く俺と店主はそのまま縺れ合って床に転がってしまった。
そこまではいい。俺は元男だし。
問題は、かすかに聞こえたビリッという音だ。

やばい、売り物破いちゃったかも。
どこが破けたんだ!?
この状況では確認できない。
とにかく店主には隠さないと。


「へー、お友達が試着のために霖之助さんと一緒に裏にですか…」


何故だか店主が慌てて起き上がろうとするが、今起き上がられては困る。
少なくとも破けた場所を把握する前に起き上がられたら、店主が先に破けた場所を見つけてしまうかもしれない。

俺は、店主が起き上がれないように、その体を抱き寄せた。

「なっ何の真似ですか!?」
何の真似といわれても困る。
本当のことなど言えるわけがない。
俺には取って付けたような笑顔をつくり、笑って誤魔化すしかできなかった。

何故だか店主の顔が青くなる。
微妙に震えているようにも見える。

おいおい…俺の笑顔ってそんなに怖いのか!?
少女になったのはショックだったが結構可愛くなれたのだけは救いだと思っていたのに…
また泣きそう。


「わっ分かった僕の負けだ。そのメイド服はタダであげるからその手を離してくれ。」


うおおおお!?
なんだか分からないがメイド服ゲットだぜ!!
ああそうか、これは口止め料ってやつだな?
俺が紅魔館に無事就職したら、紅魔館の関係者である俺が、メイド服の横流しを知っていることになるもんな。
だから、このメイド服をタダであげるから黙っておけと。
さすが商売人。僅かな情報から、俺が紅魔館に就職活動へ行くことを推理するとは恐れ入ったぜ。





「おかしいですね。珍しいお客さんが香霖堂に入っていたので、何か絶対ネタがあると思ったんですけどねえ。」
と首を傾げる知らない少女と。
「何も、無かったですよ。」
といって元気を無くしてしまった店主を置いて俺達は岐路についた。

因みに、メイド服は破れていなかった。
っていうことは店主の服が破れた?
これは、これで不味い。

まあいいか。

何と言っても、これから俺の必勝祈願?&(一時の)お別れ会を大ちゃん宅で行うのだ。
そんな些細なことは気にしていられない。


----------


俺は酔っ払いながら、皆と親交を深めていった。
なんだか大ちゃんに色々言い過ぎて、次の朝微妙な雰囲気だったような気がするが、気のせいだろう。
何か酷いこと言っていたら俺泣いちゃう。


よーし紅魔館メイド採用試験に合格するぞ!



side 森近 霖之助
あのようなのを小悪魔や悪女と言うのだろうか。
子供っぽい印象の妖精メイドの常識を覆す、彼女の凛とした雰囲気のメイド姿はなかなかのものだった。

そんな姿の彼女を見なければあんな事にはならなかっただろう。
文さんが香霖堂にやってきた直後、その姿に油断していた僕を一瞬で彼女は押し倒していた。
あの後、彼女の取引に応じなかったらと思うと冷や汗が出る。
メイド服を着て涙を流す彼女を押し倒す僕の姿。
それを見た文さんが何をするかは誰の目から見ても明らかだろう。
間違いなく、今頃僕は社会的に完全に抹殺されていたはずだ。
いや、生命にも危険が及んでいたかもしれない。

僕は完全に嵌められたのだろう。
おそらく文さんの乱入も、彼女の計算に入っていたのだろう。
考えすぎかもしれないが、彼女のあの恐ろしい笑顔が僕の考えを肯定していた。

しかし、「これでイチコロ」とは彼女はあの服を着て、誰かを倒そうとしているのだろうか。


side 大ちゃん
ハニューちゃんが私の家を出て行くと聞いたとき、悲しくて悲しくて泣き出してしまった。

ハニューちゃんが夜中に何だか難しいことを月に向かって叫んでいたのを聞いたときから、
ハニューちゃんには何か成さねばならない大切なことがあって、いつかは私の前から居なくなってしまうって分かっていたのに。
日に日に辛そうな顔をしていくハニューちゃんを見て、もう時間が無いことが分かっていたはずなのに。

こういう日が来ると分かっていたのに、覚悟していたはずなのに…


約束どおり、ハニューちゃんをずっと待っているから、大切なことが終わったらきっと戻ってきてね…



side ミスティア
大ちゃんは、ハニューちゃんと一緒に紅魔館メイド採用試験を受ける気だったようね。
でも、ハニューちゃんからあんな妬けるような台詞で、家に居ることを願われたら断れないわよね。
心の嫁か。面白い表現よねこれ。
今度の新曲に入れてみようかしら?

それにしても、大ちゃんの代わりがあの子とは、何だかちょっと心配。
大ちゃんが言っていた、ハニューちゃんの何か大切な目的とやらのサポートが上手くできるのかな?



[6470] 第三話 色々とありえない展開だと思う。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2009/11/22 01:10
第三話
色々とありえない展開だと思う。


皆に見送られて俺は、紅魔館へ向かう。
採用試験開始は、午前九時から!
現在多分午前7時30分ぐらい!
早めに試験会場に行くのは常識だよね!


----------


さあ着きましたよ紅魔館。
まずは元気よく紅い毛の門番のお姉さんに挨拶。
「おはようございます。」
これも基本だよね!

「はい、オハヨーふぁぁぁぁぁ。眠い。」

「美鈴隊長!シフトが始まったばかりなのに、寝ないでください!」


難なく第一関門突破!
普通の会社なら門番が密かに試験官だったということは無いが、
ここはゲンソウキョウにある紅魔館だ、どんな試験が待ち受けているか分からない。
たかが門番といっても油断してはならないのだ。


それにしても紅魔館とはよく言ったものだな。
本当に紅い色をしているぞ。
吸血鬼型の生物兵器がトップに居るってことだけはあるよな。
いや、自己顕示欲の強いトップというのは自分のものを自分の色で染めたがるからな。
恐らく、紅魔館のトップもそういった類の奴なのだろう。

そう、ここ紅魔館では皆、紅い色を身につけなくていけないのだ!
まずい、俺も何か紅い色を身につけてアピールしないと…
なんてね。
そんな訳ないか、さっきから見かけるメイドは別に紅い色を身につけていないしね。

あれ?
でも何でさっきの門番の隊長さんはあんな綺麗な紅い色の髪を?
もしかしたら、試験突破のための重要なヒントがあるかもしれない。
真面目に考えなくては。

まず紅魔館であることを無視して、生物兵器の特性から考えてみよう。
単純に、門で誰もが一旦停止するように、赤信号の代わりが務められるようにあの色にしたというのはどうだろうか。
門番用生物兵器として製造されたのならこれは十分にありえる。
なかなか有力な案だが、それならいっそうのこと信号を体に内蔵する等、もっと分かりやすい方法があったのではないだろうか。
兵器は合理的に作られるということを考えると、この案には少し無理があるな…

となると、製造目的以外の理由で後天的にあの色になったと考えるべきか。

彼女の容姿、モデル体系の美人。
性格、第一印象としては悪い人ではなさそう。
役割、門番の隊長。
その他、すいぶんと眠そうだった。

全く何も分からない。
いや、こういう時は合理的に考え不自然な点が無いかどうか分析すべきだ。
そういえばさっきの門番の隊長さん、朝の時間帯にしてはずいぶんと眠そうだったな。
夜勤明けということなら分かるが、さっき聞こえた会話からしてそれはありえない。
そもそも、ゲンソウキョウの一大勢力である紅魔館の門番の隊長たる人物が、睡眠不足で門番の仕事を行うなんてありえない事態だ。
ゲンソウキョウの一大勢力である紅魔館には敵も多いはずだ。
だから、それを撃退する役割の門番の隊長は、常に戦闘態勢で待機するようトップから指示を受けているはずだ。
では、なぜそんな彼女が睡眠不足で仕事についているのか。
それは、トップがそのことを認めているからだ。
つまり、彼女はトップの事情によって寝不足になり、そのまま仕事を任されているとは考えられないだろうか。

そう、トップにとっては、規則より、紅魔館の防衛力低下より、彼女が寝不足になる何かのほうが大切なのだ。

一方、紅魔館の紅い色は紅魔館が紅魔館のトップの所有物であることを示している。
つまり、当初考えたように、この紅魔館にある紅い色のものはトップの所有物であると考えるのが妥当だろう。
では何故、紅い色を身につけていないメイドが多数居るのか。
それは、彼女達がトップにとってそれほど大切なものではないからだ。
そう、ここのトップは自分にとって本当に大切なものだけ紅い色に染めているのだろう。

このように考えると、彼女はトップにとって大変大切な所有物であり、その彼女はトップの命令によって寝不足になる何かをしていた。

そして彼女は美人でスタイルも良く、恐らく性格も良い…

おいおい。
紅魔館に立ち入って早々、とんでもないことに気がついてしまったぞ。
門番の隊長と紅魔館のトップがそんな関係とは…

これは文々。新聞とやらに持ち込んだら、金一封ぐらい貰えるスクープではないだろうか。
いやいやいや。
そんなことを考えている場合じゃなかった、俺はこれから紅魔館メイド採用試験を受けるんだった。
この情報を採用試験突破に役立てなくては。

うーん。とりあえず、美人でスタイルが良くて、性格が良ければ採用されやすいということか?
だめだ。
今の俺では美人より可愛いだしスタイルは…
どう見ても、紅魔館のトップとは逆の趣味の人向けです。
性格は…
普通?

俺が採用される可能性って絶望的!?

とりあえず、正攻法で元気よく意欲を示して頑張ろう。


----------


道草を食ってしまったがなんとかホールへ到着したぞ。
さあ試験会場はどこだ?
おや?ホール脇の部屋に人が集まってきているぞ。
ここが試験会場か。


部屋の少し高くなった所にいる、メイド服を着たすらっとした綺麗な女の人が何か喋っているようだ。
ざわざわしてよく聞こえないが、一つだけはっきり聞こえたことがある。
「それでは紅魔館メイド採用試験を開始します。」


なんてこったい。
もう試験が始まっているじゃないか。
時間を間違えたのか?
いや、時間前に集合することは常識。
その常識を見るために、わざと早く試験を開始したのかもしれない。
恐るべし紅魔館。
試験が始まる前から試験が始まっていたとは。
オマケに、周りの受験生もみんなメイド服を着用しているじゃないか。
くそう、ゲンソウキョウではメイドの採用試験ではメイド服で出席するのは常識だったのか。
俺のアピールポイントが…


「まず机を並べて!」


ていきなり、指示が飛んできましたよ!?
「あーちょっとちょっと、並べる順番がおかしい!」
「そこ、廊下を塞ぐようにして机を運んでどうするんだ!」
なんというか皆酷い。効率が悪すぎる。
みんな試験というより、どこか遊んでいるように見えるのは気のせいか?
こちらが試験だからってことで張り切っていたのもあったけど、あまりにも酷いのでついつい声を出して周りに注意してしまった。

あううう。ライバルを助けてどうするんだよ…


「次は、この書類を並べて!」
ははーん読めてきたぞ。
渡された書類には紅魔館メイド採用試験と書いてあり、勤務条件や本日の日程などが書いてある。
つまり、そういうシチュエーションの元、いかに上手く会場設営ができるかといった試験内容なんだな。

「ちょっ!!適当に分けて並べてどうするんだよ!!」
何しているんだよ。どう見ても、解答用紙と問題の数があってないだろ。

「君はこの列!君はその隣の隣!間に一列開けて!」
ほらほら、文句を言う前に体を動かす!
え?なに?どうして一列開けるか分からないだって?

「どうしてって、カンニング対策に決まってるだろ」

うあああああ。またライバルを助けてしまったあ。



「あとは細かいことだけだから、最初に配った手順表どおりにやって。30分後に私が確認するから。それまでには終わらすように。」



よーし試験官が驚くぐらいしっかりとこなしてやるぞー!!
って、周りの受験生動き遅い。というかいまいちやる気なさそう。

これは酷い。


----------


それから20分、悪戦苦闘しながら何とか準備が終わりましたよ。
さすがに一人ではきついので、色々と指示出しまくりましたが、大半は一人でやってしまった。

しかし、それは幸いだったといえる。
俺はその途中に大変なものを見つけてしまった。
受験票。
採用試験にはよく見かけるものである。

だが、この試験では受験票はまだ一度も登場していなかった。
つまり、この会場設営試験は受験票を手に入れるという、裏の合格基準があったのだ!!!!!

あ、あぶなかった。
試験官が退室したからといって、まじめに課題に取り組まないと受験票が手に入らないとは。
紅魔館メイド採用試験恐るべし。


とりあえず、自分の名前を書いて一枚貰って置こう。
このままこの受験票を隠せば、俺以外全員不合格にできる!とも考えたが、
会場設営に受験票のことも書いてあったので、課題完遂のためにそれは止めることにした。


----------


予定より早く試験官が戻ってきた。
何も言わずに時間を早めるとは、紅魔館(ry


「す、すごい。ちゃんと準備ができてる…」

あ、なんか試験官が感極まっている。


「誰がやったの?」


その声に反応するものは無し。
俺でーすと言いたい所だが、下手なPRは採用試験では命取りになりかねない。


どうしようかと悩んでいると一人の受験生がおずおずと手を上げ「彼女です」と俺を指差しやがりましたよ。

「よくやったわ。引き続きこの後も手伝って頂戴。」
おお?これは二次試験に進めたということですか!?


あんな子いたっけ?とか他の受験生が囁いているが、これは俺がノーマークだったということですね!
良い流れです!



side 十六夜 咲夜
たった一人とはいえ、真面目に仕事をする妖精メイドがうちに居たなんて…
どれぐらい仕事ができるか気になるわね。
これから始まる紅魔館メイド採用試験では、色々と仕事を振ってみようかしら?


----------


そして始まりました。二次試験。
さすが紅魔館メイド採用試験。ここまで本格的だとは思わなかった。

今俺達受験生(生き残り4人?)の前には30人あまりの少女達が集まっています。
そう、彼女達は採用試験に集まってきた受験生という設定の試験官達なのです。
「わはー」
因みに、一人見知った顔がいるのはどういうことでしょうか?

どおりでルーミアが試験日を知っているはずだ。まさか試験官だったとは…
何だか裏切られた気分で泣きそうなのは気のせいでしょうか。



「これより、紅魔館メイド採用試験を開始します。まず最初は、あなた達の目の前にある机を拭いてもらいます。」

なるほど、机拭きですか。
あくまで設定だから仕方が無いのですが、もう少し面白みがあった方がよかったな。

「まずは手本を見せます。あなた手本を見せてあげなさい。」

おっ俺!?
そうか、こういう試験か!
多くの人に見られながらもちゃんと仕事ができるかを見る試験か!
なるほど、お客の前で緊張して粗相をするメイドなんて不味いからな。

水は良く絞り、丁寧かつ、拭き残しが無いよう。かつ素早く!
大学時代に磨かれた俺の腕前を見ろ!

どうだ!試験官!





「このように、しっかりと拭くこと!
 時間は1分、よーい  初め!!!」

おおすげえ、何だか本当の試験みたいだぞ。
一斉に机を拭きだす受験生役試験官達。
何も言われなかったってことは、OKってこなのかな?


あらあら…荒い拭き方をしたり、全然水が切れてなかったり酷いもんだ。
ってルーミアお前は…
すごく普通に拭いている。
なんだか以外だ、ルーミアなら何かやらかしてくれる気がしたんだが。


「やめ!」







「次、第二試験、接客試験」


先ほどと同じく手本を見せた後、俺達がお客様役になり、接客を受けるとのこと。

さて俺の相手は…
ルーミアお前か…

「こんにちは」

「いらっしゃいませ」
っておい、いらっしゃいませはおかしいだろ。
ミスティアの影響を受けすぎている。

「お茶にするのか~お酒にするのか~」
色々間違っている…
「じゃあお茶で…」

「そーなのかー」

お茶は上手かった。
帰り際の言葉は「またきてねー。」だった。

ある意味、失礼な態度は取っていないが色々と問題がありすぎる。
なかなか可愛いのでこれはこれでいいが、メイドのお仕事はママゴトでは無いと思う。



この試験は、全体的にかなり酷いものだった。
ルーミアの内容で中間ぐらいの成績だった。
いくら、リアリティを追求するために受験生役を集めていたとしても、この成績では逆にリアリティ無いだろう。
予算の関係で、あまり優秀な受験生役を集められなかったのか?
意外と紅魔館の財政事情も苦しいのかもしれないなあ。




と考えていると。

「こんなの、最初から出来るわけ無いじゃないですか!紅魔館の外ではこんなこと勉強しようとしたってなかなか勉強できません!」
突然一人の受験生役試験官が抗議の声を上げ始めた。

試験官がこちらを見ている。

実は試験官は俺に惚れていました。ってなわけないですよねー
次の試験が始まったのですね。わかります。

クレーム対応!ある意味最も難しい対応が迫られる事態だ。
試験内容としてはかなりの難易度のものだと言えるだろう。


俺は、頭を必死に回転させて喋りだす。


「確かにできないよりできた方が良い。しかし、この試験ができるできないを求めているといつ言いましたか?
 私たちが見ているのはあなた達の資質です。例えできなくても、例え知らなくても、その場で判断し解決しようとする行為が大切なのです。
 
 その行為すら捨てた者は、紅魔館には必要ありません。」



なぜか会場が静まり返ってしまった。
試験官はなぜか俺の顔をじっと見つめ続けている…


これはやってしまったのかもしれない…

すいません。調子に乗りすぎました!
ちょっとかっこよく説教したかっただけなんです!
粋がってスイマセンでした!!
とジャンピング土下座をしようとした瞬間。

「そのとおりよ、私たちは紅魔館のメイドとしてやっていけるかどうかの資質を見ているわ。」
と、試験官からのありがたいお言葉が始まった。

とりあえず、試験停止になるほど酷い回答ではなかったようだ。


----------


「最終試験、模擬戦闘を行います。」


きたあぁぁ。
さすが生物兵器の実験場ゲンソウキョウ。
メイドの採用試験なのに模擬戦闘なんて出てきやがりましたよ。
それにしても、これまでのパターンからいうと…

試験官との模擬戦闘になるに決まっている。

この試験官が滅茶苦茶強いのは素人の俺でもわかる。
なんといってもさっきから何度か突然現れたり消えたりしてるんですよ。
瞬間移動なんて、いったいどんなテクノロジーが詰まっているんですかこの試験官には。

怖い
怖い

死んでしまうぅぅぅぅぅ





そうだ!リタイアしよう!
何もこんなことで命を捨てなくてもいいじゃないか。
耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び、大ちゃんの所に帰ろう。

そうしよう!


「それでは、時間内に私達試験官の誰にでもいいから攻撃を命中させなさい。
 ただし、こちらも攻撃の内容に合わせて相応の反撃をするから覚悟するように。」

「それでは…」
まずい!始まってしまう!!

とにかく、受験票を返してリタイアの意思を示さないと!!
そうだ、受験票を試験官に投げてしまおう。
それの方が早くリタイアできる。
無礼だが、どうせ落ちるためだ関係ない!

「始め!!!!」

「すいません!これを!」
俺の投げた受験票は無事に試験官がキャッチしてくれました。




受験票をキャッチした試験官が驚愕の表情で俺を見ている。


そりゃ驚くよね。最終試験でいきなり試験放棄だもん。


「突然ですが予定を変更します。一旦ここで休憩を入れます。ハニューさん。あなたは私についてきてください。」

これはまずい。
きっと、別室で紅魔館を侮辱したとか言われてボコボコにされるに違いない。

怯えている俺に試験官は。
「こんなことは、紅魔館始まって以来です。しかし、あなたは試験内容をすべてクリアしました。よってあなたは合格です。おめでとう、紅魔館へようこそ。」

え?
合格?
まじで?

これはあれか?合格させて、職場いじめで復讐しようとかそういうことですか!?
でも弱い俺には、この誘いを断れるわけがなく。
無理やり作った笑顔で。
「ありがとうございます。」
といって握手することが精一杯でした。





因みに、その日の夜から紅魔館に住み込むことになりました。
あと、門番の隊長さんにはお近づきのしるしとして、香霖堂で見つけてきた紅色のヘアカラーをあげました。
我ながら粋な計らいだと思う。


side 十六夜 咲夜

最初に彼女に気がついたのは、私を含めた試験官達が簡単なリハーサルを行っていたときだった。
そこに遅刻して現れた彼女を(妖精メイドはこれだから困ったものね)と何時ものように見ていた。

妖精メイドにとっては、メイドの仕事も遊びの延長なのだ。
そのため、仕事の質・量共にあまりあてにはならないのが常だった。
しかし、彼女はその全てが逆だった。
会場設営では常にリーダーシップを発揮し、会場設営を私の支援無しに終わらせてしまった。
その光景を見た私は、やっと私にもまともな部下ができたと、思わず感極まってしまった。

その後の試験も彼女は受験生であるにも関わらず、手本を見せるべき試験官の仕事を完璧にやり遂げてしまった。
特に、試験の目的を完璧に言い当てたのを見た時には、記憶にあるベテランの妖精メイドの中に、彼女の姿が無いことを真剣に悩んでしまったほどだ。
そう、私は受験票を投げつけられるその瞬間まで、彼女を紅魔館のメイドであることを一切疑っていなかったのだ。

これだけなら、単純に彼女の存在を私は歓迎していただろう。
試験官のふりをすることによって、自らの力を示すという常識を覆すアピールを行った、優秀な新人メイドとして。

しかし、手放しでは彼女の存在を喜ぶことはできない。

それは彼女の戦闘技能の高さである。
彼女は、外部の妖精であるにも関わらず、見事この紅魔館に潜入し。
私に不意打ちという方法で、受験票という弾を命中させたのだ。
これまでの採用試験で私に攻撃を命中させた者は誰一人居なかったのに…

もちろん受験票は弾幕ではない。
しかし、あの試験の攻撃には何を持って攻撃と見做すかという定義が抜けていた。
彼女はその穴を自らの攻撃で指摘しただけなのだ。
そう、彼女はあえて弾幕ではなく、受験票で攻撃してきただけなのだ。


このように考えをまとめると、彼女の危険性が一層はっきりする。
例えば、今日の私の立場がお嬢様だったら、受験票ではなく本物の攻撃だったら。
つまり、彼女は妖精の身でありながら、お嬢様を暗殺しえる潜在能力を持った存在なのだ。


そもそも、これほどの能力を持った妖精がメイドの採用試験に紛れ込んでいること自体がおかしい。
彼女のような存在が、ただ職と家を求めて紅魔館を訪れるはずが無いのだから。


彼女の目的は分からない。
しかし、試験官側に潜入し最後に受験票を弾代わりに私を攻撃してくるという、見ようによっては極めて挑発的な態度。
握手するときの、欠片も喜びを感じさせないあの笑い。
彼女がただの下っ端のメイドとしての働くことに満足する器じゃないのは確かだろう。


side 紅 美鈴

何ですか!?
私、白髪があるんですか!?
皆、私に白髪があるのを知っていて黙っていたんですか!?

うぇーん



[6470] 第四話 復讐しよう!
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/18 21:33
第四話
復讐しよう!


「よーし、みんな集まったようだな!」

「そーなのかー」

紅魔館に就職してから、約四ヶ月経ちましたー。
俺は今、出世を目指して日夜頑張っております!

なぜそんなに頑張っているかって?
それはこれがゲンソウキョウ脱出の近道だと分かったからさ!




紅魔館に就職した俺は、まず情報網の構築に乗り出したのだ。
情報を制するものは、全てを制する。
この情報網により、俺の元にはこれまでよりかなり高品質の情報が集まるようになっていた。
そしてそこには、ゲンソウキョウの実態に関する情報もあったのだ。

「ただのメイド同士の噂話なのだー」

このゲンソウキョウには、八雲という管理人と博麗の巫女という処刑人が存在するらしい。
八雲はゲンソウキョウの維持管理及び出入りの管理。
博麗の巫女はゲンソウキョウのルールを脅かす生物兵器を抹殺することを主な任務としているらしい。


つまり、ゲンソウキョウからの脱出を図ろうとすると、この二人と接触する可能性が高いというわけだ。
これはかなりの難題である。

八雲はゲンソウキョウの出入りを管理しており、八雲が健在である限りゲンソウキョウから八雲の意思を無視して脱出することが困難だというのだ。
これは、八雲を説得若しくは欺くことにより、八雲の意思によってゲンソウキョウから出るか、八雲を倒すかの二つしかゲンソウキョウから脱出する方法が無いことを意味している。

これらを踏まえて検討した結果、現時点で可能性があるのは次の二つだった。

1 八雲に自分が優秀な生物兵器であることを証明し、八雲の意思によってゲンソウキョウから出してもらう。
2 八雲を誰かに倒してもらい、ゲンソウキョウから脱出する。

このほかにも、八雲を欺きゲンソウキョウから脱出する手段が想定できるが、現状の情報量では欺くための糸口すら見つからないため保留になった。

ちなみに自分で八雲を倒す、八雲に記憶が戻ったと事情を説明してゲンソウキョウから出してもらう、スネークして何とか脱出方法を探るは、どう考えても死亡フラグにしかならないので却下した。
また元の体の奪還は、この体そのものがゲンソウキョウの存在を示す証拠であるため、ゲンソウキョウ脱出以後に検討することにした。


だから俺は、現在進行形で出世を目指して必死に働いているのだ!

ゲンソウキョウの一大勢力である紅魔館で出世するということは、自分の生物兵器としての優秀性を八雲へアピールすることにもなるのだ。

これは余談だが、当初は生物兵器としての優秀性は単純な単体としての戦闘力のみを求められていると考えていたが、現在ではそうではないと考えている。

なぜそのような結論になったのか、それはゲンソウキョウには人間の里や紅魔館といった多様なコミュニティが存在するからである。
単純な単体としての戦闘能力を見るのなら、ゲンソウキョウにコミュニティは不要である。
しかし、現にコミュニティは存在する。
これは何を意味するのか。
そのように考えた場合「組織としての戦闘能力も求められている」という結論に至ったのである。

つまり簡単に言うと、単体としての戦闘能力が低くても、軍隊での参謀や補給部隊のように、直接の戦闘以外で戦闘に貢献できる存在もまたゲンソウキョウでは評価されるということなのだ。



以上のように考えをまとめ、出世=ゲンソウキョウ脱出を目指し必死に努力した俺は。

「よーし紅魔館メイド隊雑用班出動だ!」

「そーなのかー!」

雑用班の班長をやっています…

なにこの左遷。



俺すごく頑張ったよ。
自慢じゃないけど、普通のメイドの5・6人分の仕事もしてきた。
嫌な仕事も率先してやってきたよ。

一ヶ月の新人研修が終わって、メイド長の咲夜さんから直接呼び出されたときは、咲夜さん直属とまでいかなくても、華のある職場に行けると思ったわけですよ。


それなのに、いきなり雑用班ですか…


班長にはなりましたよ。はい。
でも、メイド長からファーストガンダムのセイラさん風に「あなたならできるわ」っていう理由で班長にされてもね…
これが配属されて数ヶ月とか一年とかならまだわかりますよ。
でも二日目でこれはないでしょ。
これはあれですか、班長なんて学級委員長みたいに、誰もがやりたがらない仕事ってことですか?


やっぱり、採用の時に思ったとおり、紅魔館に恥をかかせたから咲夜さんに苛められているのかな俺。

「そーなのかー?」



ってさっきから人の頭の中に突っ込みを入れているような気がするのは、副班長のルーミアだ。

驚いたことに彼女も紅魔館のメイドに採用されていた。
彼女はその戦闘能力が評価されたそうだ。
一人だと心細いので、メイド長に頼み込んで同じ配属にしてもらいました。
なんでも、ルーミアは大ちゃんと俺のためにメイドの採用試験を受けたそうだ。
どういう理屈で俺と大ちゃんのためになるのか分からないが、ありがたい話なのでお礼は言っておいた。




色々言いたいことはあるが、出世するために頑張るぜ。


「さて、今日の仕事は何ですかメイド長?」
「今日は何も無いわ。」

畜生。何時もまともな仕事が無い…
これも苛めの一環か…






とりあえず、班員連れて湖で演習という名の弾幕ごっこをやっています。

仕事が無いのなら、紅魔館でゴロゴロしていてもいいんじゃない?
って最初は思ったんだが。
妖精メイド達の姿がね。ちょっと…
最初は目の保養になっていいなーなんて思ってたんですがね。
もしかして、こいつらも俺と同じで中身男じゃね?
って考えたら悲しくなって、見てられなくなってしまったのですよ。
最近なんか、どんどん妄想が働いてしまって悲しいどころではないので、
視線を明後日の方向に向けて色々と我慢しているぐらいです。
(ちなみ、大ちゃんの中身は絶対、見た目どおりだと確信してます。というか、そうでなければ俺吊るぞ。)
おまけに、そんな俺が不気味だったのかどうかは分からないけど、皆俺のこと遠巻きに見るだけになってしまって、俺凄く嫌われてる!って感じ全開なんですよねー

本当に居心地が悪くて、悪くて。


そんな状態だったものなので、暇の時には湖に出てこのゲンソウキョウで最もメジャーな遊びである、弾幕ごっこを毎回行うことになったのです。
当初班員達は、なぜか集まってくるリグル達を見て焦っていたが…
今は、「期待に答えて見せます」とか言って必死な顔をして弾幕ごっこをしています。
まあ、リグルのゴキブリっぽい姿を見たら焦るのはわかるが、嫌ならそんなに無理して遊ばなくてもいいと思う。
ああそうか、俺達雑用班っていう「つまはじき者」だから、リグルがゴキブリっぽいという理由でハブられたらどんな気持ちになるか分かるから嫌でも遊んであげているのか。
皆優しい奴等だなあ。


ちなみに、俺の心の嫁、大ちゃんも来ています。

この雑用班、結構暇な時間が多く大ちゃんによく会えるという所が唯一の利点だ。

これが無かったら。
俺挫けてたかも。

グスッ


「ハニューちゃん何だか、大変そうだけど大丈夫なの?」

「いやー苛めにあってるけど頑張っているよ。」

「苛め!?何でハニューちゃんが苛められなくちゃならないの!!」

うおお。しまった、言うんじゃなかった。
大ちゃん落ち着いて!!
大ちゃんみたいな真面目な子にはまずい話題だったな。
反省
反省







「苛めですか。苦労してるんですね…」

「そうなんだよリグル。何かいい方法ないか?」

見た目以外は常識人なお前なら何かいい方法を見つけてくれそうだ。


「何だか、変なこと考えていません?とにかく上司に報告してみては?」

「いや、その上司が黒幕のようなんですが…」

「それは、困りましたね。」


「ち●ち●♪それなら、上司に気に入られるようなことをして、逆に仲良くなっちゃったら?」

おお、流石に屋台を伊達や酔狂でやっているわけではないな。
ミスティアはどんなお客でも上手く会話を弾まして、屋台のファンにしてしまっているのだろう。
会話にモザイクを入れなくてはいけないのが面倒臭いが、大人の感性を持っているミスティアの意見は参考になるな。

だがしかし、この案は駄目だ。

正直普通の男(元)である俺は、そんなに上手く女性に気に入られるテクニックなんて持っていない。
ミスティアの場合は、特にミスティアに対してフラットな状態のお客様が相手だからいいが、こちらは既に評価がどん底にまで落ちている相手に言わなくはいけない…
どう考えても成功の可能性は無い。
これを成功させようとした場合は、どんな女性でも口説き落としてハーレムを作ってしまうような、「どこぞの物語の主人公レベル」の口説きのテクニックが必要だ…

そんなテクニックは俺には無いのは仕方が無いとして、
そういったテクニックを教えてくれる奴でもいればあるいは…





そういえばリグルってこの中で唯一の男なのに、俺達五人と上手くやっているよな。
中身男の俺を抜くにしても、四人の女の子がリグルと親友とも言える関係を作っている。
これって凄いことだよね。
というより、これってあと一歩でハーレムじゃね!?

まさかこんな近くに「どこぞの物語の主人公レベル」のタマゴが居たとは…

「リグル!いや師匠!!俺のために女性に気に入られる方法を教えてください!というか、ストレートに口説き方でもいいです!!」

「ハニューさん!?何のことだか全然分からないんだけど!?」


「師匠が女性の口説き方を知っているのは分かっているんです。いや、本人は自覚していなくても、そういうテクニックを師匠は既に会得しているはずなんです。
 とにかく、やってみれば口と体が自然に動くはずです。さあ、紅魔館の美鈴さんを口説いてみてください。彼女を落とすのは難しいので、きっと良いデータが取れるはずです。」


「ちょっちょっと!ハニューさん落ち着いてよ!?だいたい、僕は女の人を口説いたりしてないよ!
 僕が男の人を口説くならともかく、女の人を口説くなんて、理屈が色々とおかしいよ!」




な ん だ と !?



リグルは男だ。
それなのに、女の人を口説いたことが無いだと!?
おまけに、男の人を口説くならともかく、女の人を口説くなんておかしいだと!?



なんてこったい!

まさかゲンソウキョウで唯一の男友達(俺は心だけ男だが)と思っていたリグルが心は女(ホモ)だったなんて!
つまり、この五人は皆心が女の子だから親友になれたというわけですね。

とにかく、リグルには俺の中身が男だと絶対にばれないようにしなければ…
もしばれたら、俺の人生に一生の汚点を残す事態が起きるかもしれない…


それにしても本当になんてこったい…
解決案と男友達を同時に失うことになるとは…

うう。泣きそうだぜ。


「!?ハニューちゃんどうしたの?リグルちゃんに何かされたの?」

「ぼ、僕は何もしてないよ!?」

大ちゃんに頭を撫でられたり、皆から心配される姿は我ながら情けないけど…
今はありがたいです。




----------





「それにしても、みんな馬鹿ばっかりだなー。そんな奴やっつければいいだろ!」

「だめだよチルノちゃん!そんなことしたらハニューちゃん逆にやられちゃうよ!」


ほんと勘弁してくれ、あんなハイスペックなメイド長相手に戦いを挑んだら即死確実です。
いや、まてよ…
ちょっとぐらいの悪戯ぐらいなら、許されるかもしれない。


彼女の立場上、ちょっとした悪戯に本気で反撃することは、逆にパーフェクトメイドである彼女の顔に自ら泥を塗ることになるのではないだろうか。

つまり、この程度のことにマジになるなんて、案外お前も器が小さいなプププ、ということである。

自分の現状を変えることにはならないが、少しは気が晴れるかもしれない。




やってみるか。







----------





「ということで香霖堂にきました。」

「君はいきなり何を言っているんだい?」



「今のは忘れてください。今日は買い物に来ました。」


「それで今日は何をお探しで?」

なんだか、店主の表情が妙に硬いな。
体調でも悪いのか?
そういえば、最初に来たときも青い顔をして震えていたな…

「いやね。爆竹を買いたいと思いまして。」

「バクチク?うーん。少し前にそういった名前のものを見た気もするんだが、思い出せないなぁ。それはどういった形のものだい?」

「筒状の紙に火薬が入っていて。筒の端から導火線という火をつける紐がついている奴なんだが…」










「どうした店主?」

「そっ、そういった形のものならいくつかあるが、君はそれで何をしようとしてるんだい?」

おいおい。そんなこと言えるわけないだろう。
万が一、店主から悪戯の犯人が俺でしたと漏れるかもしれない。
俺が犯人だと突き止められる可能性は高いが、何もリスクが上がることを喜んでやる理由はない。


「なに、他愛も無いお遊びですよ。あなたが知っても何も得はないですよ。」
まあ本当に、店主が知っても何も特はないだろう。



何故か店主がまた顔色を青くして震えだした。
おいおい、やっぱりこの店主、体がどこか悪いだろ!?

「おい店主、大丈夫か?そんな様子じゃ長生きできないぞ?」

震えが強くなってきたぞ!?
ヤバイだろ!

「店主。あなたも大人だろ?どうすれば長生きできるか分かっているんだろ?」
本当に、体は大切にしてください。
仕事を頑張るときは頑張る。
休むときはしっかり休む。
大人なら誰でも知っている常識です。
今の店主の様子は異常です、本当に早く休んだほうがいいですよ?
このゲンソウキョウには総合病院とか無いんですよ?
本当に早死にしちゃいますよ。





「あそこにある鉄の箱に収められている木箱の中身がそうだ。全部持っていっても構わない。代金も要らない。ただし、ここで買ったことは誰にも言わないでくれ。頼む。」



さすが店主!商売人だね!
これは先行投資ってやつですか?将来有望な俺に今のうちに恩を売っておこうということですね!!!
「店主!次に訪れるときは吉報を土産にしてやるぞ!」


いやーそれにしてもこの爆竹なんだか重いねえ?
この木箱の中にどれだけ詰まっていることやら。




side 森近 霖之助
今日は最悪の一日だった。
それは、僕がとんでもない事に加担してしまったかもしれないからだ。

彼女が求めていたものは、人を殺める力を持った道具だった。
バクチクと彼女は呼んでいたが、正式な名前は確かダイナなんとかだったと思う。
それを使い彼女が何をするのか、僕がそれを知ることは許されなかった。
あのようなものを彼女に渡してしまったのは、全て僕の弱さに原因がある。
彼女が、道具を渡すことに躊躇う私へ、道具を渡さなければ殺すと脅したその時に、
それを突き撥ねる強さがあれば、今僕はここまで悩み苦しむことは無かっただろう。





side 十六夜 咲夜
彼女の配属を決めるに当たり、私はかなり悩んだ。
彼女が使えるメイドであることは分かっている。
しかし、採用試験時の彼女の挑発的な態度が引っかかった。
彼女への判断が定まらない。

私は悩んだ挙句、彼女を雑用班へ配属した。
雑用班にはその名前とは裏腹に、高い能力が求められる。
いまいち働きの悪い妖精メイド達の尻拭いをさせられるだけではなく、有事の際には予備戦力として重要な局面に投入されることが多いからだ。
また、高い向上心が必要とされるのも特徴だ。
全てが上手くいっているときは雑用班には仕事が無い。
しかし、その空いた時間をいかに自分へ投資できるかが、その後の出世に大きく影響してくるのだ。

そう、実は雑用班は紅魔館のエリート街道への登竜門なのだ。
何を隠そう、私も雑用班から始まり、多くの仕事をこなし今の地位まで上り詰めた。


そしてもう一つ、雑用班には顔がある。
紅魔館を愛するものを生み出す場所であるということだ。
雑用班は紅魔館の全てを知ることができる。
それゆえに紅魔館の面白さに見せられ、紅魔館を愛するものが多い。
彼女も雑用班での勤めで、私と同じく紅魔館への愛情を持ってもらいたい。




side とある妖精メイド
ハニューさん、最近紅魔館の話題を独占している妖精メイド。
とにかくハニューさんには伝説が多い。
採用試験でメイド長に攻撃を命中させた人。
メイド長の特命で雑用班長を任された人。
私達妖精より強いはずの妖怪を従えている人。
時間があるときには必ず妖怪達と演習を行い、班員と自らの戦闘技量向上に務める人。
いつも、私達を悲しい目で見ている不思議な人。
どこか遠い違う世界を見ているような、そんな雰囲気を持つ素敵な人。

そして、多くの逸話ゆえに、何か重要な目的のために紅魔館へ来たと噂されている人。


ハニューさんには色々な逸話がある。
その逸話ゆえに、ハニューさんへ話しかけるにはとても勇気がいる。

きっとハニューさんは、私達普通の妖精なんて相手にしてくれないんだろうな…
でも、ハニューさんと仲良くなりたいな。

もし、仲良くなったらハニューさんが見ている世界を私も見ることができるのかな?
ハニューさんが見ている世界。
ハニューさんが見ようとしている世界。
どんな世界だろう…




side リグル・ナイトバグ
最近ハニューさんの様子が変だよ。
ハニューさんは男の子っぽい性格だから、同じく男の子っぽい性格の僕とは馬が合っていたんだけど…
なんだか最近は、急に余所余所しくなったというか何というか…
ミスティアに聞いたら「男女の仲なら、そういう時って相手を異性として意識したときよね~」
とか
「ハニューちゃん、リグルのことが気になりだしたんじゃないの?」
とか言われて余計に訳が分からなくなった。
女の子同士だよ僕達。そういう冗談は困るからやめてよ。
おまけに、何故か大ちゃんには睨まれるし、本当に困ったよ…



[6470] 第五話 何というか大変なことになってしまいました。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/18 21:33
第五話
何というか大変なことになってしまいました。




爆竹を使い、メイド長に効果的な悪戯を行う方法を検討するため、俺はメイド長についての情報を収集し合理的に分析することにした。
その結果、メイド長は胸部に何かを密かに装備していることが判明したのだ!


とあるベテラン妖精メイドの証言により、メイド長の胸部の大きさが不規則に変化している情報を掴んだ俺は、早速この情報の真偽についてメイド長に確認することにした。
すると「な!なにを証拠にそんなことを言っているのですか!」と何故か一喝されてしまった。

しかし、このことからメイド長は秘密にしなくてはいけない何かを、胸部に装備していると推定することができたのだ!

では何を装備しているのか?
これはずばり、メイド服の下に着用できる胸当て(胸部用防具)だと考えている。
何故そのような解釈に至ったのか。
それは、戦闘に勝利するということを前提に、メイド長の行動を検討した結果だ。
通常、兵士が相手の兵士を攻撃する場合、その胸部を狙い攻撃を行うよう訓練されている。
これは、頭部と同じく致命傷となり、さらに頭部より大きいため命中しやすいからだ。
そのため、胸部に防具を装備することは、戦闘に参加する可能性の高いメイド長の立場を考えた場合、合理的な行動だと言える。


では、何故それを秘密にしなくてはいけないのか。
それは、彼女がメイド長だからだ。
紅魔館という軍事組織の実質的司令官である彼女が、常に防具を付けているという状況は全体の士気と彼女の沽券に係わるのだ。
常に防具を装備しているということは、常に自らを戦場に置いているとPRする効果もあると言える。
しかし、いくら紅魔館といえでも年がら年中、戦闘が行われているわけでは無い。
そしてメイドとしての仕事もある。
つまり、常に防具を着けているという状況は、むしろメイド長が臆病であると示してしまうのではないだろうか?
よって、メイド長が過剰に防具を装備している事実が発覚すれば、彼女は臆病者として扱いを受け、そのような者が紅魔館のトップに居るという事実が紅魔館の士気を下げる結果になるのだ。

このように合理的に検討した結果、メイド長は密かに胸部に胸当て(胸部用防具)を装備しているということが分かった。

そして、これを悪戯で狙えば、極めて効果的にメイド長に打撃を与えられることも分かったのだ。


俺が考えた悪戯はこうだ。
メイド長の胸当てに爆竹と遠隔操作式発火装置を密かにセットし、そのことに気が付かずに胸当てをメイド長が装備したら起爆させるというものだ。
そうすれば、爆発音に驚いて自らメイド服を脱いで胸当てを曝してしまうかもしれないし、上手くいけばメイド服に穴が開いて胸当てが見えるようになってしまうかもしれない。
また、例え胸当てが曝されなかったとしても「胸当てを装備していることをしっているんですよ~」と暗に示すことができるので、彼女の精神には打撃を与えられるだろう。

なんだか、些細な悪戯では無くなってしまった様な気がするが、病床で吉報を待つ香霖堂の店主に報いるためにはこれぐらいの内容が必要だろう。


なお、遠隔式発火装置・胸当てに爆竹を密かに組み込む技術については、「にとり」という兵器開発技術者から入手できるという情報をミスティアから得ている。
なんでも、彼女の屋台を時々訪れる「豊穣の神」とかいう連中から得た情報だそうだ。
自分を神と称するとはどこぞの怪しい新興宗教の教祖かと思ったが、かなり確度が高い情報らしい。

因みに当初は、香霖堂で遠隔操作式発火装置等を手に入れる予定だったが、香霖堂を再度訪れたところ。
「遠隔操作式発火装置とバクチクを密かに組み込む技術!?」
「僕は何も聞いていない…」
「僕は何も聞いていない…」
「僕は何も聞いていない…」
「僕は何も聞いていない…」
「僕は何も聞いていない…」


といった感じで、店主が錯乱していたので香霖堂での入手は諦めていた。
店主…
錯乱するほど病状が悪化しているとは…
俺の届ける悪戯成功の吉報で少しでも元気になってくれればいいのだが…

以上、ちょっぴり論文調の回想終了!


----------



さて、以上のように悪戯の概要が決定したので、次にメイド長室にスネークする方法を検討することにしました。
いくら道具が揃っていても、メイド長室に行って胸当てを見つけなくては悪戯を始めることができないからでーす。

ところが、建物の内部からメイド長室にスネークできないことが判明しました。


メイド長室は咲夜さん直属部隊の事務室の奥にあるんですよね~
それだけなら問題無いのですが、24時間お嬢様の要求に応えられる様に、24時間営業なのですよ事務室が。

いやー、検討する順番を考えないで行動することのリスクの高さを思い知らされました。

でもこれぐらいで俺は諦めない。
俺はこの作戦を成功させ、店主に吉報を届けなくてはいけないのだ!
きっと店主も、病床で俺の吉報を(ry





ということで、建物の外から進入することにしました。
しかし、昼だろうと夜だろうと、見通しが良過ぎて簡単にスネークできない。
うーん霧でも出てくれれば…
できたら色つきで、スネークしやすいような霧が出てくださいお願いします!
うおお、俺の秘めたる力!出てこい!


いやね、神様なんか信じちゃいないが、このゲンソウキョウの生物兵器には、色々と特殊な機能が搭載されているものが多いらしい。
ちなみに、俺にも何かついている可能性があるそうなのだが、それが何かさっぱり解らない。
もしかしたら、気象操る程度の能力っていうやつかもしれないなんてねー

俺の秘めたる力はとにかく、紅魔館に霧を出せる能力を持っている奴がいるかもしれない。
「なあルーミア。紅い霧に包まれる紅魔館ってかっこよくね?そんなことができる奴がいたら、新聞の一面飾れるんじゃね?」
「そーなのか!!!!」
とりあえず、居るか居ないか分からない相手に届くようあちこちで話題でも振っておくか。










ということがあってから二週間が経ちました。





そして今、紅魔館は紅い霧に包まれています。

しかし悪戯が実行できません!







なぜなら。
「博麗の巫女って食べてもいい人類?」
そう、処刑人がこの紅魔館へ進撃を開始したのだ!

なんでも、紅い霧を出した張本人を抹殺しに来るらしい。

ま、まさか俺のことじゃないよな!?






あーとりあえず二週間前の俺、死んでくれ…
「そーなのかー」



side レミリア・スカーレット
「可愛い吸血鬼のお嬢さん。どうしてこんなことをしたのか教えていただけないかしら?」

何あなた?レディの部屋に勝手に入ってくるなんて、マナーがなっていないわね?

「フフフ…。幻想郷を紅い霧で覆うことは、マナー違反では無いのかしら?」

この行為の素晴らしさが分からないなんて、あなた下賤ね。

「では、下賤なこの私に、その素晴らしい行動の目的を教えてくれないかしら。可愛いお嬢さん。」

そうね。お日様が嫌いなだけよ。後は…

「後は?」

部下の期待に答えてあげるためよ。

「部下の期待?」

ええ、私と同じく幻想郷を霧で覆うことを願った部下が居るのよ。

「部下の期待に答えてあげるなんて、良い上司ね…でも、その部下は何のために紅い霧を望んだのかしら?」

そんな下々の細かいことまで知らないわ。

「そう、それは残念。」

ねえあなた、そろそろ帰ってくれない?私はもう眠いの。

「あらごめんなさい。そろそろお暇させてもらうわ。」

「あ、そうそう。今度私の友人があなたの所に遊びに行くはずだから、しっかりと相手をしてあげてね。」

「それと、彼女との遊びに負けたら、罰ゲームとしてこの紅い霧は止めてもらうことになるからよろしくね。」

フン!招かざる客だけど、歓迎してあげるわ。






八雲紫か…
やはり出てきたわね。





紅魔館は紅い霧で包まれ、博麗神社の巫女が異変を解決しに紅魔館へ攻めてくる。
さあハニュー、あなたが望んだ舞台は出来上がったわ。
あなたは私の暇つぶしを利用して、どんな面白いことを見せてくれるのかしら?
あなたが、噂とは違う目的で霧を望んでいることは分かっているのよ。
そう、もっと深く大きな何かのためにでしょ?


「お日様の下を自由に歩けるだけ」「巫女と本気の弾幕ごっこができるだけ」だったはずの暇つぶしに、新たな要素が加わるなんて…
フフ…
何が起きるか本当に楽しみだわ。



side 十六夜 咲夜
ハニューの仕事ぶりは素晴らしい。
雑用班の仕事を真面目にこなし、時間が空いたときは湖に集まる妖怪達と演習を繰り返している。
妖精の特徴である自由奔放さをかなぐり捨てた彼女の仕事ぶりは、鬼気迫るものを感じさせるほどだ。

また、人望も厚い。
彼女を密かに慕っている妖精メイドの数はかなりの数に上っているようだ。
同じ妖精という近しい立場にありながら、規格外の妖精である彼女は身近な憧れの対象なのだろう。


採用から四ヶ月が経ち、彼女は紅魔館の妖精メイドとしては100点満点とも言える存在になった。
彼女を採用し雑用班へ配属した私の目に狂いはなかった。


そう先日まで思っていた。

しかし私は今、彼女への判断が本当にそれで正しかったのか悩み始めている。

きっかけは一つの噂だった。
それは、彼女が紅い霧を発生させることができる奴がいたら、紅魔館の見栄えを良くしたとして幻想郷の有名人になれると言触らしているという話だった。
これを言触らしているのがただのメイドだったら、気にもしない話題だろう。
しかし、この噂を言触らしているのはあのハニューだ。
彼女が意味も無く、こんな噂を流すだろう?
それはありえない。
彼女は、仕事が無い時間を全て演習につぎ込むほど無駄なことをしない妖精なのだ。

彼女の意図は何処にあるのだろうか。
実際に紅い霧が発生したら、異変として扱われることを聡明な彼女なら分かっているはずだ。


悩んでも解答が出ない私は、このことを私の主人であるお嬢様に相談することにした。
しかし、そこで得られた回答は驚くべきものだった。
お嬢様は、紅い霧を発生させようとしていたのだ。

お嬢様は私の話を聞くと「へえ。面白いことになりそうね。」愉快そうに笑っていた。

もしや、彼女はお嬢様を称えるために、事前に紅魔館内部での印象操作を行っていたのだろうか?
そう、彼女の流した噂によりメイド達は、紅い霧を発生させたという「力」に対するお嬢様への畏怖以外でも、お嬢様を称えるようになるからだ。

そうであったとしても、彼女がどのようにしてお嬢様の内心を知ったのかという疑問が残る。

そう悩む私に構わずお嬢様は言葉を続ける。
「咲夜、幻想郷が紅い霧で包まれるのは決定事項よ。そしてこれは異変として扱われるわ。
 さあ、祭りの準備を始めなさい!」

そうだ、賽は投げられた。
彼女が何を考えているかは最早関係が無い。
私は準備を進めるだけだ。

彼女に対する悩みは一旦忘れることにしよう。




----------


発 紅魔館メイド隊 メイド長 十六夜咲夜
宛 紅魔館メイド隊 第十四メイド隊付属 雑用班長ハニュー

雑用班は、本日12:00時より、第十五メイド隊へ改編。
ハニューは雑用班長の任を解任。同時に第十五メイド隊長へ任命。

第十五メイド隊は第二・第五メイド隊と共に、本日18:00時までに鮮血の間に進出。
メインホール方面より進入する敵戦力を撃滅せよ。


----------




なんてことしやがりますが、あの糞メイド長は…
雑用班なら隠れていてもいいよねーと思った矢先に、最前線送りですか。

おまけに、ただの雑用班長をいきなり新編成のメイド隊の隊長にしないでください。

これはやっぱり、虐めが仕上げに入っているということですか。
つまり、気に入らない俺を博麗の巫女に殺させようということですね。

おまけに、第二メイド隊といえば紅魔館内の綱紀粛正を担当している奴等もセットですか。
これって俺の監視!?戦術的転進をしたら背中から撃たれるというやつですか?
これはひどいソ連軍ですね。


俺オワタ\(^o^)/


とりあえず、少しでも真面目に仕事しているところを見せなくては!!
そうしないと背中から撃たれてしまう!!

ということで一個分隊を紅魔館の外に偵察に出しました。
少しでも心の準備が欲しいから、早めに博麗の巫女の情報が欲しいからでは決して無い。
これは博麗の巫女の行動を掴み、適切に対処するためなのだ。
「そうなのかー?」







----------






「門番隊により決定的打撃を受けた博麗の巫女と八雲に如何ほどの戦力が残っていようとも、それは既に形骸である。敢えて言おう、カスであると!!
 それら軟弱の集団が、この鮮血の間を抜くことは出来ないと私は断言する。
 ゲンソウキョウは我等選ばれた淑女たる紅魔館メイド隊に管理運営されて、初めて永久に存続することが出来る。
 これ以上戦い続けてはゲンソウキョウそのものの危機である。博麗の巫女と八雲の無能なる者どもに思い知らせてやらねばならん。
 今こそ紅魔館メイド隊は明日の未来に向かって立たねばなぬ時であると!
 ジーク・ジオン!!!!」



「ジーク・ジオンなのだー」





「ジーク・ジオンなのだー!!」









「ジ ジーク・ジオン」




「ジーク・ジオン」



「ジーク・ジオン!」


「「ジーク・ジオン!!!」」


「「「「ジーク・ジオン!!!!!!」」」」


「「「「「「「ジーク・ジオン!!!!!!」」」」」」」


「「「「「「「ジーク・ジオン!!!!!!」」」」」」」




いやね、お通夜のような雰囲気だったから、何かこう一発芸でもしてね、皆を励ましているわけですよ。
決戦前の演説といえばこの人、ジオン公国のギレン・ザビだろやっぱり。
という独断と偏見で、ア・バオア・クーでの決戦前の演説をパクッてみました。

堅い場の雰囲気を和らげる。これも大人の仕事だよね!
といか、実はこうでもしないと俺がどうにかなってしまいそうです。
いつまで経っても偵察部隊は戻ってこないし…
もしかして全滅した!?


いや-それにしても一瞬完全に滑ったかと思ったぜ。
俺がジーク・ジオンと言った後にルーミア(桜)にジーク・ジオンと答えてもらった所までは良かったんだが…

ジーク・ジオン!
門番隊による決定的打撃って何よ?
おいこれってギレンのパクリじゃねー
うわwこれ死亡フラグw

という突っ込みがすぐに返ってくると期待したのに、全員面食らって棒立ちになっているんですよ。
(・3・)アルェー?


これを見て、完全にやってしまったと思ったね。
いやね、ゲンソウキョウの住人ってジオンどころかガンダムも知らないんじゃね?っていう根本的な問題があることにその時気がついたのですよ。
本当に先ほどの静粛は心臓に堪えたぜ!


いやーそれにしても凄い盛り上がりだな!
なんというか、本当にギレンの演説を聴いているみたいな雰囲気だぜ。
アニメだから本当の演説なんて見たこと無いけど。

そうか、みんな実はギレンが大好きなんだな!

いや、それだけではないか。
皆これから起こる戦闘が怖いんだな。だから、ちょっとした冗談でも騒ぎ、怖さを忘れようとしているのか…



「「「「「「「ジーク・ジオン!!!!!!」」」」」」」


「「「「「「「ジーク・ジオン!!!!!!」」」」」」」


だからといって盛り上がりすぎだろ、常識的に考えて。
いったい何時になったら収まるんだよ!



----------





あれ?何だか後方からドカン!ドカン!と戦場音楽が聞こえますよ?



しかも、後方からボロボロになった妖精が…
敗残兵?



なに?博麗の巫女は別ルートから侵攻?
おまけにメイド長を倒し、現在お嬢様と戦闘中だと!?



こっちのルートは無視かよ。

助かった!!!



イヤー何というラッキー
やったよね!


「いやあ君、素晴らしい情報をありがとう。とりあえず、休みたまえ。」






おや?今頃偵察に出した連中が戻ってきましたよ。
なに、博麗の巫女は既に館内に進入してます。
いや、分かってるよ。


うーん、なんと悪いタイミング。
いや、これは良いタイミングか。
お嬢様が博麗の巫女を倒すならOKだが、お嬢様が負けた場合荷物をまとめてさっさと逃げ出さなくてはならないかもしれないからだ。

そのためには、逃亡先の外部の様子を知ることは大事なのだ。

「外の様子はどうなっている?敵戦力は残っているのか?」

何?外は博麗の巫女にやられた味方しかいないだと?
門番隊は門番長以下全滅。
おまけに、湖を生活圏としている紅魔館と直接関係の無いチルノ以下の妖精も壊滅だと。

マジかよどこの大量破壊兵器だ。




チルノ以下?




チルノはああ見えて高い戦闘力があるため、その名前がメイドの口から出てくることは多い。
しかし…
「おい、何故ここでチルノが出てくる!!」


「はっはい、門番隊の生き残りが、湖面上空で博麗神社の巫女と戦闘するチルノともう一人の緑の髪の妖精を目撃したと言っています。」


「それで!どうなった!」


「博麗の巫女の攻撃を受け、全滅したとのことであります。」




全滅?
博麗の巫女の攻撃により全滅?

死んだ。


チルノが死んだ。


大ちゃんも死んだ。





博麗の巫女に殺された。


大ちゃんが博麗の巫女に殺された。


コロサレタ!









「隊長?」

頭が混乱する。
しかし何をすべきなのかはっきりと分かる。

俺は直に第二、第五メイド隊の隊長を集める。
そして告げる。
「博麗の巫女を倒す。俺の指揮下に入ってほしい。」

大ちゃんの敵討ちをしたい。
その思いに突き動かされ俺は行動を開始した。



side 第二メイド隊 隊長
私が咲夜さんから受けた命令は二つ、鮮血の間で博麗神社の巫女を迎撃することと、第十五メイド隊のハニュー隊長をバックアップすることだった。
具体的には、咲夜さん曰くハニュー隊長は優秀だが多くの部下を率いた経験が無いため、経験豊かな私がしっかりとバックアップしたうえで博麗神社の巫女と戦うようにとのことだった。

しかし、ハニュー隊長は咲夜さんや私の想像を超えた存在のだった。
直に復活するゆえに命を軽く扱われる私達妖精は「いつもどおり使い捨てにされるのね」という諦めムードが蔓延している中、彼女の演説が始まった。
その演説は衝撃的なものだった。

弱者であるはずの私達、幻想郷の脇役であるはずの私達が博麗神社の巫女を倒し、八雲紫の代わりに幻想郷を管理運営する。
そして、そうならなければ幻想郷の危機であると。

あまりにもとんでもない話に、私はハニュー隊長が何を話しているのか直には理解できなかった。

しかし、気がつくと他の妖精メイド達と共に、ジークジオンと彼女の考えを称える(と思われる)声をあげていた。

きっと私達妖精が、弱者ゆえに知らず知らずのうちに心の中に溜め込み続けた不満、それが彼女の訴えに応えているのだろう。

他の妖精メイド達も同じ気持ちだろう。
彼女達の熱狂振りを見れば分かる。





私を呼び出し、妖精らしからぬ迫力で博麗神社の巫女を倒すといったハニュー隊長の存在が少し恐ろしい。
でも、何を目的にしているのか謎だらけで有名なハニュー隊長がついに明かした目的。
私もその目的に向かって歩みたいと思った。



[6470] 第六話 真面目にやった結果がこれだよ!!! +グダグダEX編
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/18 21:34
第六話
真面目にやった結果がこれだよ!!!



俺の提案は否定されるかと思ったが、第二、第五メイド隊の隊長はすんなりと俺の提案を受け入れていた。
武者震いだろうか、少し震えていたのが気になったが。

現在俺の前には、家具等を使ってバリケード等を構築する各メイド隊の姿がある。

単独で紅魔館を壊滅させようとしている博麗の巫女の戦闘能力は半端なものではない。
偵察部隊及び敗残兵の情報によると博麗の巫女は極めて高い火力と回避能力を所持しており、一発の被弾も無く紅魔館を蹂躙していったらしい。
この二つの能力は博麗の巫女の力の恐ろしさを示しているが、博麗の巫女撃破の道筋も示している。

高い防御力があるのなら、回避というロスを捨てて戦う場面が見られてもおかしくない。
しかし、博麗の巫女は全ての攻撃を完全に回避したのだ。
これは博麗の巫女の防御力が低い可能性を示している。
もちろん、この理論には穴がありすぎる。
しかし、限られた時間と戦力では、最も可能性が高いと思う方法に全てを賭けるしかなかった。


俺が考えた博麗の巫女への攻撃は、端的にいえば残存兵力の全てを投入した一斉射撃だ。
敵の回避能力が高いのなら、回避できるスペースが無いほどの攻撃で敵を圧倒するだけだ。


大火力を持つ博麗の巫女に残存兵力の全てを晒すのはかなり危険なことともいえる。
現に「それでは最悪の場合、全滅してしまいます!」
と第二メイド隊長は指摘していた。

そんなことは分かっている。だからこそのバリケードである。
もちろん、このバリケードは数秒しか博麗の巫女の攻撃を防ぐことができないのは分かっている。
しかしその数秒で勝負は決するはずだ。

くそっ!任官拒否して辿り着いた先が戦場とは。
人生とは本当に一歩先が闇だな…


----------



「隊長、霧が…」

気が付くと戦場音楽が聞こえなくなり、霧が晴れていた。
第二メイド隊の隊長によると、博麗の巫女が勝利したとのことだった。
つまり、作戦を開始しなくてはいけないということだ。

さあ、腹を括るか。
俺は舞い上がり皆を視界に納める。





「総員傾注!」


誰かが、号令をかける。



「いや、そのまま聞いてくれ。」
しかし今は、作戦の準備が最優先だ。


「間もなく、博麗の巫女との決戦に入る。
 
 博麗の巫女は強い。
 
 しかし、総員が日々の訓練での成果を存分に発揮すれば、必ず勝てる相手だと俺は信じている。」
そう、厳しい戦いにはなるが、こちらが組織力を維持できれば勝てる見込みはある。

「さあ、勝つぞ。」


ルーミアの顔を見る。
ルーミアが何も言わずに頷く。
全ての準備が完了したようだ。



「作戦開始。」




紅魔館の奥へと繋がる扉を開け、第五メイド隊第三小隊の隊員が通路へ進出する。


通路を少し進んだ所にある十字路へ進出した第五メイド隊第三小隊は、弾幕をそれぞれの通路の奥へ向けて発射した。



弾幕が着弾し、紅魔館の壁や備品を次々と破壊していく。

静まり返った現在の紅魔館にとって、その着弾音はあまりもに大きい音だった。






程なくして、廊下の奥に何者かの姿が現れる。
赤と白の服を着た少女だ。
偵察部隊が持ち帰った情報と合致する。
間違いない博麗の巫女だ。



「撤退!」
小隊長の撤退命令が下り、第五メイド隊第三小隊が即座に撤退を開始する。




「撤退完了!扉を閉めろ!」
第五メイド隊の隊長の指示が飛ぶ。








「総員射撃用意!」









爆音。








扉が吹き飛ぶ。
「何?異変は収まったのにまだやる

博麗の巫女が何かを言っているが俺は無視して全軍に指示を出す。




「撃て!!」



手筈どおりルーミアがムーンライトレイを放つ。
ルーミアのムーンライトレイは前方に安全地帯ができるという欠点がある。
しかし、今回はこれでいい。

直後に第十五メイド隊がルーミアの脇からその安全地帯に向けて弾幕を発射する。
何故か、第十五メイド隊には戦闘能力が高く弾幕の密度が濃い者が多い。
その特性を使った、合わせ技ということである。
また同時に、博麗の巫女が進入してきたドア上部の壁に括りつけられた家具が、第十五メイド隊によって叩き落される。
博麗の巫女は左右をムーンライトレイ、前方を第十五メイド隊の弾幕、上下が天井と床、後方が家具により閉鎖された。
常識的に考えれば、博麗の巫女には攻撃を避けるスペースなど何処にも無いはずだ。

しかし、常識外の戦闘能力を持つ博麗の巫女を、この程度で倒せると思ってはいけない。
近代戦の常識、火力の集中を持ってさらに追い詰める。
第十五メイド隊の攻撃と時を同じくして、博麗の巫女の斜め前方、左右に展開した第二、第五メイド隊からの一斉攻撃が始まり、博麗の巫女に十字砲火を食らわせる。
博麗の巫女からの反撃も始まるが、バリケードと博麗の巫女の正面に陣取るルーミアがその攻撃を吸収してくれるはずだ。

そして俺は、最後の仕上げのために、博麗の巫女に接近しある一点に向けて弾幕を放った。
これだけの弾幕があれば、確実に仕留められるかもしれない。
しかし、相手は化け物だ。
このような事態は想定している可能性がある。
ゆえに、イレギュラーな事態が必要だ。

俺の弾幕は、博麗の巫女の足元にある木箱へ向かっていた。
そう、香霖堂から購入した爆竹が入った木箱である。
この予想外の爆発に、博麗の巫女が一瞬でも動きを乱せば勝機はあるは




















なんだ?
なぜ俺は月を見ている。
月?ここは屋内では?

なんだ?瓦礫の山?

「大丈夫なのかー!!!?大丈夫なのかー!!!!?」
ルーミアがらしくない慌てようで俺を揺さぶっている。


状況が分かってきた。

猛烈な威力を持った何かが天井を吹き飛ばし、俺も吹き飛ばされたのか…




「博麗の巫女は!?他の隊員は?」


「怪我を負った者はいますが全員無事です。むしろ隊長が最も大怪我をしています…」
なに?
「少なくとも、両足が複雑骨折しています。」
くそ!




「博麗の巫女は?…死んでは…」
博麗の巫女について問いただそうとした俺の視界の中に、金髪の女性に抱きかかえられる博麗の巫女の姿が入った。
何者だこいつ?




「あなた、自分が何をしたか分かっているの?」

突然、金髪の女性が俺に向かって話しかけてきた。
何を言っているのか意味がわからない。

「何をだと?俺はただ弾幕で圧倒し、博麗の巫女を倒そうとしただけだ。」

「これが弾幕ね。あなたはこれを弾幕と言い切るのね…」

何だこいつは?
もしかして話の通じないタイプの困った人か?
俺達は博麗の巫女を倒すために弾幕を張り、その結果博麗の巫女の技と思われる謎の攻撃に薙ぎ倒されたのがわからないのか?
まさか、俺がこの謎の攻撃の犯人だと思っているのか???

おかしいだろ。

弱小の俺にあんな攻撃が出来るわけが無い。

常識的に考えて。

まあ見た感じ、俺達の攻撃に焦った博麗の巫女が慣れない大技を使って、暴走したという所だろう。
現に博麗の巫女は気絶しているし、いかにも切れそうな年頃といった感じの見た目だ。

「おい待ってくれ、これは博麗の巫女に原因があることだ。そいつの自爆だよ。この結果は。」





場違いな笑い声が響く。
なんだこの人は突然笑い出したぞ?
今の所に何処に笑うところがあったのだろうか?
ただの笑い上戸?頭が困ったことになっている人?
本当に何なんだこいつは?



「あなた面白いわね。確かにこの子は未熟だわ。決められたルールの上でしか博麗の仕事がこなせないぐらいにね。この子にとって今回の件は良い経験になるわね。」


なんだかよく分からないが自己解決してしまったようだ。
本当に何が何だかよく分からない。


「それにしてもあなた。こんな危ないことをするなんて何が目的なの?」

目的?そんなもの決まっているじゃないか。

「ゲンソウキョウを出るため。」
そう、この異常な世界を抜け出し。
ここで行われている犯罪を世界に知らしめるために。
大ちゃんの命を無駄にしないためにも…


「幻想郷から出て行く?この幻想郷が気に入らないというの?」


「あたりまえだ!ここの在り方そのものが間違っている!」


何故だか金髪の女性の目が鋭くなる。

「では、あなたはどのような状態が正しいことだと思うの?」


「このゲンソウキョウが世界に知れ渡り、世界がこのゲンソウキョウを受け入れ、ゲンソウキョウが無くなることだ。」
そう、世界がゲンソウキョウを知り、生物兵器の開発が止まり、ゲンソウキョウの住人が普通の人と同じく暮らして行けること。
それがゲンソウキョウが向かわなくてはいけない姿だと思う。















「そんなことが可能だと思うの?」

「分からない。しかし、いずれはそのように変化しなくてはいけない。」



















「本当に面白い子ね。幻想郷は全てを受け入れる。今の所は、あなたも受け入れてあげるわ。」

そう言うと、その金髪の女性は博麗の巫女と共に、突然空中に現れた切れ目のような物の中に消えていった。




な、なんだか途中から怖くなって、思わず正直に喋ってしまった。
なんだか妙に怖いおばさんだった。
何者なんだ?

博麗の巫女のピンチに介入してきたことから、博麗の巫女を大切にしている人物であることは間違いない。
そして、博麗の巫女をお姫様抱っこしていたところから見て、博麗の巫女に対してかなりの愛情も持っていると考えるべきだ。
性格の面では、突然笑い出したり目が鋭くなったりする情緒不安定と、まるで自分がゲンソウキョウそのものであるかのように喋る誇大妄想を併せ持つ。
突然現れ姿を眩ますといった、人を密かに追尾したり、誘拐するのに便利な能力を持つ。

つまりこいつは…

ストーカーというやつか!


一瞬、こいつがゲンソウキョウの管理人である八雲かと思ったが、それが間違いであることはすぐに気が付いた。
八雲の道具として存在する博麗の巫女を助けるために、自らを危険に曝す行為は矛盾しているのだ。
大体、マッドサイエンティストであるゲンソウキョウの管理人といった雰囲気ではない。
彼女は、白衣や作業着ではなく、ネグリジェのような格好をしていたのだ。



博麗の巫女…
可哀相に。
きっと彼女は、これから口では言い表せないようなことをされるのだろう…










「凄いです!!」
うぉ!!なんだなんだ!?
なんだか知らないが、まわりのメイドたちが俺を褒めまくってるぞ!?

あなたに一生ついていきます?
あなたの夢に私を加えてください!?
私もジオンの一員に?

何だ?いったい何なんだ!?



何だかよく分からないが。大人である俺はここで空気を読まないといけないよね!


「今ここに諸君等有望なるメイド達を迎えて、大いなる期待を禁じえない。
 時代は現在、新たな局面へと向かいつつある!いかなる局面へか!?ゲンソウキョウ史の偉大な発展への局面である!!
 メイドとして就職することによって、我々は無限の可能性を手にした。誰の可能性か!!メイド全てか!?否!!我等紅魔館メイド隊にのみ許された可能性であるっ!!
 紅魔館メイド隊の淑女たる能力こそが停滞したゲンソウキョウ史を打破するのである!
 下積みの困難な時代を経て、かつて妖精の本質である自由を捨てた者とまで呼ばれていたメイド達は選ばれたメイドとなった!
 期せずして、ゲンソウキョウ史の最前列に立ったのだ!!本日博麗の巫女に勝利した諸君は更にその前衛である!!エリートを自負することに躊躇するな諸君!諸君はエリートだ!
 選ばれた紅魔館メイド隊の中から更に厳しく選抜されてここにいる諸君等こそ、ゲンソウキョウの守護者であると共に新しいゲンソウキョウのリーダーである!
 奮起せよ!未来のリーダーをめざして邁進せよ!我と我が戦線に加われ!!
 ジーク・ジオン!!」

「「「「「ジーク・ジオン!!!!!」」」」」
ギレンの士官学校での入学式の演説?からパクリました。
なんというか、今の状況と劇中の状況どちらも一つの山場を超えたって感じで似ている様な気がして。

でもやっぱり、俺達妖精の本質を捨てるほど仕事してないw、博麗の巫女に勝利って相手自爆しただけですよね~、またギレンのパクリw、内容が意味不明wとかいった突っ込みは無い。
正直言うと、自分でも意味不明な演説なんだけど、みんな喜んでくれてるからいいよね!?

いやーみんなギレンが好きでよかったよかった…











そんな訳無いだろ!



良くないよ!

やっぱりだめだ…

いつももどおり馬鹿騒ぎしたら忘れられるかと思ったけど。

忘れられないよ。










大ちゃん…












ごめん…
俺は大ちゃんの敵討ちすらできなかった…






大ちゃん…


もう一度だけでいいから会いたいよ…




















大ちゃん…
















----------







「ハニューちゃん、もうこんな危ないことしちゃ駄目よ!!」

えーこれはどういうことでしょうか。
俺は自室で大ちゃんに二時間説教されています。

なんで大ちゃん生きてるの?チルノもピンピンしてるし!?
一回ピチュった?
何それ?
チルノ、舌足らずで意味が通じないぞ。


すごく嬉しいですよ本当に。
でも、俺もしかしてものすごく無駄なことしてた?

助かったから良いけど、死んでたら洒落にならないぞ!?

「ハニューちゃん!聞いているの!!」

「はい!聞いております!」






side 十六夜 咲夜
彼女は危険だ。
彼女はできるメイドだと思っていた。
しかし、紅魔館を揺るがすバケモノだと気が付かなかった自分は迂闊だった。

彼女が博麗の巫女相手に奮闘したと話を聞いたときには、自分のことのように喜んでしまった。
お嬢様の敵討ちをするために彼女が奮闘したと思ったからだ。

しかし、それが直に間違いだと気が付かされた。
怪我の治療を受ける私に、第二メイド隊の隊長が報告してきた内容は異常なものだった。
彼女は博麗の巫女を撃退し、あの八雲紫と対峙し追い返したというのだ。
さらに、彼女が幻想郷を掌握するためのグループ「ジオン」を設立したというものだった。

あまりにも異常な内容に思考が追いつかなかった。
唯一つはっきりと分かったことは、彼女は紅魔館を踏み台にして幻想郷を手に入れようとしているのだ。

即座に排除しなくてはいけないかもしれない。
彼女に問いただすために、私は第十五メイド隊の控え室へ向かった。

そこにいた彼女は、まるで私がここに訪れた意味が何も分からないといった様子だった。
しかし、仮にも死線を潜って来た私にはそれがただの演技だと直に分かった。

彼女が手にしている鋏が、副隊長であるルーミアのリボンに近くに添えられていたからだ。
そのあまりにも自然な行動が逆に私の注目をリボンに集めることになった。
ルーミアに付けられているリボンは、リボンではなく博麗の札だったのだ。
しかも、最上級の代物である。
つまり、ルーミアはその強大な力を封印されている。
そして、彼女がその気になればその封印を即座に解除できる状態にあったのだ。

そう、私は圧倒的に不利な状態に置かれていた。
足を負傷しているとはいえ、博麗の巫女と八雲紫を撃退したハニュー、ハニューの側近であり未知数の力を持つルーミア。
完璧とは言いがたい私の現状では戦えば確実に殺される状況だった。

私はメイド長としてのプライドに突き動かされ「もしもあなたの刃がお嬢様に向けられたら、その時は覚悟しておきなさい。刺し違えてでもあなたを倒すわ。」
と負け犬の遠吠えを言うのが精一杯だった。


情けない。
これでは、彼女の迫力に負け、指揮権を預けてしまった第二、第五メイド隊の隊長と同じではないか。




side レミリア・スカーレット
まさか博麗神社の巫女を倒すなんて、思ってもいなかったわ。
しかも、私に断りも無くジオンなんて組織を作り上げてしまうなんて…

咲夜は今直ぐハニューを倒すか追い出すべきだと言っていたけど、それでは面白くないわ。
それにね、彼女のような部下を使いこなしてこそ紅魔館の主と言えるのよ。




side 八雲 紫
霊夢にとっては初めて体験する大規模な異変。
そのため、万が一の事態を考え、霊夢の動きをトレースしていて正解だった。
まさか霊夢が、ダイナマイトによって殺されかけることになるとは予想すらしていなかった。
強烈な爆発と、それに続く天井の崩壊。
人間である霊夢にとってどちらも致命傷になる攻撃だった。

霊夢を救い出した私は怒りに震えていた。
このような攻撃はスペルカードルールに反している。
その時私は、ルール違反をした者を殺そうと思っていた。


霊夢を殺そうとしたハニューという名の妖精を知ったのは、ほんの少し前のことだった。
霊夢と私を無能といい、自分達が幻想郷を運営することによって、幻想郷が永久に存続できると言い切った謎の妖精。
この時は追い込まれ、暴走している哀れな妖精だと思っていた。


そんな彼女は私の問いに対し、自分は弾幕を張っただけであり言外にこの事態の原因は未熟な霊夢にあると主張したのだ。

強者を前に謝るような奴なら即座に殺そうと思っていた。
しかし、返ってきたのは一見詭弁であるが、正当な反論だった。
確かにあの爆発が彼女を原因としている決定的な証拠が私には無い。
そして、スペルカードルールを守らせる側にある博麗の巫女にとって、
スペルカードルールを無視した攻撃に対処することは必須であると言える。
しかし、彼女は未熟にもそれができないことを今回の事態で露呈させてしまったのだ。

面白いと思った。
もう少し話を聞きたいと思った。

状況証拠から見て、この事態を引き起こしたのは彼女である。
場合によっては、私が彼女を感情にまかせて殺している可能性だってあったはずだ。
なぜ、彼女はここまで高いリスクを負ってまで、あのような行動に出たのか興味が沸いた。

その問いに対して、彼女は幻想郷から出て行くためだと主張した。
これまで鬼のように幻想郷から出て行った者たちはいた。
しかし、それではこのようなことをした理屈にならない。
幻想郷から出たいと私に伝えればいい。
このように力を示す理由にならない。
さらに詳しく問いただすと、幻想郷の存在そのものが間違っているという。

これには驚いた。
私の幻想郷が間違っていると指摘されたのだ。

では何を正せばいいのか?
その問いに対する答えは更に予想外だった。

世界が幻想郷を知り、世界が幻想郷を受け入れ、幻想郷が無くなることが正しいことだと言うのだ。

しかし、この答えを聞いて全て納得がいった。
彼女の行動。
そして彼女の演説の意味が。




彼女は本気で幻想郷の変革を考えているのだ。
しかも小規模な変革ではない、幻想郷の役割そのものを変えようとしているのだ。

幻想郷は外の世界で居場所を失った者達が逃げ込む場所だ。
しかし彼女は、世界が幻想郷を知り幻想郷を世界が受け入れられるにするという。



そう、つまり外の世界の理を変えようとしているのだ。
今の外の世界に幻想郷を受け入れる余地は無い。
我々の存在が外の世界に露呈すれば、間違いなくあらゆる形の衝突が発生するだろう。
そして非力である彼女等妖精は、その衝突の中で悲惨な状況に陥るだろう。
それを回避するためには、外の世界そのものを変化させ、幻想郷を受け入れられるようにしなくてはいけない。

外の世界の理が変わり幻想郷を受け入れられるようになれば、幻想郷の存在そのものが必要なくなり、この幻想郷から出ることができる。
幻想郷が逃げ込む場所から、世界へ進出する拠点へと変わる。


夢物語ともいえる。
しかし、彼女はいずれかはそのように変化しなくてはいけない言った。
そう、外の世界の技術力が上がれば、この幻想郷もいずれ月と同じく外の世界に捕捉されてしまう。
その時に備えなくてはいけない。
備えることができなければ、幻想郷は外の世界に滅ぼされてしまうのだから。
ただ時間を浪費するだけでは、幻想郷はいずれ滅んでしまう運命なのだ。

私達のやり方では幻想郷が滅びると彼女は考えたのだろう。
だからこそ、霊夢攻撃という明確なメッセージを持って彼女は立ったのだ。


どうやって外の世界の理を変えようとしているのか、武力もその選択肢の一つに入っているのは彼女の行動から分かる。
だが、具体的にどうやってそれを実行するかは彼女の口から語られることは無かった。
その手段によっては自らに危害が及ぶ可能性があることは分かっている。
しかし、彼女を生かすことにした。

彼女がいずれ幻想郷存続のための切り札に成長するかもしれないからだ。


こんなライバルが現れるなんて。
長生きはするものね。




----------



さあ、あの門を越えたら、大ちゃんの家まで一直線だぜ。
そう、紅魔館脱走まであと一歩。

もう紅魔館には居られません。
なんだか、俺に会うとジーク・ジオンとか言う奴等がいっぱい居るんですよ。
最初は洒落かと思ったけど、こう何回もやられたらさすがに嫌味だと気がつきますよ。
あの調子に乗って行った演説で、ガンオタキモイと皆思っていたわけですね。


おまけにメイド長なんて、頑張ったご褒美にルーミアの髪を切り揃えてあげている所に乱入してきて、
「もしも、あなたの刃がお嬢様に向けられたら、その時は覚悟しておきなさい。刺し違えてでもあなたを倒すわ。」
等と、とんでもない罵声を俺に浴びせて立ち去りやがりました(おかげで手元が狂いかけましたよ)。いや、刃って髪を切っているだけですが。
お嬢様の髪を私が切るのがそんなに嫌ですか。
というか、俺のことをそこまで嫌いになってしまったんですか。
ああ、元から凄く嫌われてたっけ…


因みに博麗の巫女を撃退したものの、期待していた八雲からの接触もありません。
ゲンソウキョウの管理人っていうからには、いかにもマッドサイエンティストといった感じのおっさんが現れて。
「すばらしい!この性能ならすぐに製品化が可能だぞ!さあ、製品化のために本国へ行こう!」
とか言ってゲンソウキョウの外に出るチャンスが訪れるのではと思っていたのだが…
誰もきません。
なぜだ!?



とにかく、俺の周りが敵だらけでお先真っ暗です。
ですので、足が完全に治ったので逃走しているわけです。
ちなみに完治するのに、一年近く掛かるってどういうことなの…
もちろん、一人置いていくのも可哀相なのでルーミアも連れています。
闇を操る能力が逃走に便利だと思ったからじゃないんだからね!!!
「そうなのか?本当にそうなのか?」

とにかく、ゲンソウキョウ脱出計画は諦めました!
でもいいもん!心の嫁、大ちゃんの家でゆっくりするんだもん!

え?
大ちゃんの家が居心地が悪くて出てきたんじゃなかったっけ?


もう大人のプライドなんて捨てました!
プライドを捨てた俺は無敵だぜ!
今なら「私はあなたの忠実な犬になります。だから見捨てないで~!!!ワンワン!!!」という感じに、大ちゃんに泣きつくこともできる気がするぜ!






それにしても、今日は何だか騒がしいなあ?いつまで経っても冬が終わらないことと関係あるのかな?
まあそのおかげで、混乱に乗じて逃走するチャンスだと思って逃げ出したんだけどね!!



「あら?ハニューじゃない、あなたも動き出したということは、これはやはり異変なのね?」


ってあれ?お嬢様?


「咲夜、ハニューも連れて行きなさい。この子がこの異変を使い何をするのか見てみたいわ。」

「分かりました。さあ、お嬢様の命令よ、ハニュー着いて来なさい。」


俺が何をするか見てみたいって。
それは弱い俺が、ボコボコにされるのを見て楽しみたいということですね!
なんというS…


って、勝手に襟首持って引っ張らないでください。
ちょっ!いやだ。



「ルーミア!大ちゃん助けて!!!」

「演技は、いい加減に辞めなさい!」




「本当に誰か助けて!!!」









side ルーミア
ハニューは誤解されやすいのだー
だから、ハニューよりお姉さんの私がちゃんと守ってあげないといけないのだー




side 大ちゃん
ハニューちゃん何だかとても大変そう…
最近会うたびに元気が無くなっているような気がする…
だから、もしも紅魔館から逃げて来るようなことがあったら、ずっと面倒を見てあげようと思っていました。

でも今は、しっかり抱きしめてあげた後、また送り出してあげようって思っています。
ミスティアちゃんがアドバイスしてくれたの。
「チンチン♪そういう時はベッドの上で一晩抱いてあげて、送り出してあげれば?それで元気になるわよ。」というこだそうです。
何でも、香霖堂で見つけた外の世界のシュウカンシという人間関係について色々と研究した結果をまとめた本に、そういう内容が載っていたんだとか…

流石に一晩中ハニューちゃんを抱きしめてあげるのは、腕が疲れちゃうしおトイレにも行きたくなっちゃうから無理だと思うけど…
それに、ベッドの上に立って抱きしめるなんて、ものすごくバランスが悪いような気がするの。


でも、できる限り長く抱きしめてあげて、しっかりとお話を聞いて励ましてあげようと思います。






それでね、その時伝えようと思っている言葉があります。
ミスティアちゃんに相談したら「チンチン!これってプロポーズ!?絶対に言わなきゃだめよ!」って言われました。
ぷろぽーずって言葉の意味は分からなけど、私がハニューちゃんとずっと仲良くしていきたいという気持ちを言葉にしました。


その言葉は…






気がついたら妖精 東方紅魔郷編 完











東方紅魔郷 グダグダEX編?

「ここから先はオマケなのだー。だから必ず読まなくてもいい内容なのだー。
 本編とは微妙に雰囲気が違うのだー。
 少しやりすぎて、本物の宴会並みにグダグダかもしれないのだー。
 下品な表現が結構あるのだー、お子様はあまり見ないほうがいいかもしれないのだー。他の漫画のネタがあるのだー。
 ハニューの影響で出現時期が一年以上ずれたキャラが居るのだー」

「以上全部が問題ない人だけ見るのだー」





ルーミア?お前は誰と喋ってるんだ?
まあいいか~ルーミアが変なのは、何時もの事だし。

いやー華やかだねw
お嬢様の提案でパーティが始まりました。
なんでも、明日お嬢様の妹を皆に紹介するので、その前祝だそうです。
上流階級のやることはよく分からん…


ちなみに、博麗の巫女との戦闘から2ヶ月経ったのに、俺の足はまったく直る気配がありません。
他のメイドは皆全快してるのにw
俺って貧弱w
(でも、飛べるからそんなに不便じゃないんですよね~)


お陰で、俺のお見舞いも含めてみんな集まってくれて嬉しいのですが…


「もっと持ってくるのだ~」
ちょっ!ルーミアお前どれだけ食べるんだ!?
どう見ても、お前の体積を超えている量を食べている気がするんだが…

質量保存の法則から考えても、ちょっとおかしいだろ!
食べた食べ物はどこに消えているんだ!?
ルーミアのお腹の中で圧縮されているというのはどうだろう?
この仮説が正しければ、ルーミアの体重が大変なことになるはずだ…
「わはー」
あーやっぱり、ルーミアって軽いよね。
ルーミアを持ち上げてみたが、いつもと変わらない。
この仮説は間違いか…
となると、入ったものは何らかの形でルーミアから排出されているはずだ。

だがルーミアはトイレにも行っていない…
ほかに排出されているものといったら?

この黒い何かか!!!
ルーミアの周辺に現れる黒い何か。
これが食べ物の行き着く先ですね。






あれ?

ということは、この黒い何かはルーミアの排泄物ですか?

良くて汗。
悪いと●●●!?


ルーミアの黒い何かの中って涼しいんですよね。
だから、夏の暑い時期は涼を求めて、皆でルーミアの黒い何かの中に入れてもらったのは良い思い出です。

つまり、皆でルーミアの●●●の中に入っていたわけですね!











思い出は美しいほうがいいよね!
そうだよね!
きっと俺の思い違いだ!
いくらルーミアとはいえ、友人を何も言わずにそんな所の中に入れないよね!

やっぱり友人を疑ってはいけないよね。
今日も俺のお見舞いをしてくれるルーミアに失礼だよね。


「まだまだ食べるのだ~」
前・言・撤・回
ルーミア!俺のお見舞いなんてお前何も考えていないだろ!?

信じていいよねルーミア。この黒い何かは断じて●●●じゃないよね!?
「わは~」


…ま、まあいいか。とりあえず忘れよう!
こんなことで悩んでいたら、俺のお見舞いに態々来てくれたチルノとかに悪いからね!

「チルノちゃん!そんなに食べちゃお腹壊すよ!?」

「あたいが最強なんだから!ルーミアなんかに負けないんだから!」

チルノお前もか…




もういいや!
こういう些細なことを気にすることが出来るっていうことが、幸せなんだからね!!!!






「おい霊夢あいつって…」

「っ…」


うん?


げ!


博麗の巫女が何故ここにいる!?

そ、そうか俺に復讐しに来たのですね!?
第三者から見たら、大ちゃんを殺していない博麗の巫女を殺そうとした俺の方が悪いですよね!?



大人である俺は、こういうときは正直に話して謝るべきだよね!



「いやあ、あの時は悪かったね。ちょっとした勘違いだったんだ。ごめんなさい。」

「勘違い!?紫から話は聞いているのよ!正直に話したらどうなの!」

「お、おい霊夢落ち着けって!」

「魔理沙はちょっと黙ってて!図書館で戦線離脱したあなたには関係の無い話よ!」

「霊夢~。あの時のこと、まだ根に持っているのかよ…。アレだけの本を目の前にしたら、読まないわけにはいかないだろ~」


なんだ!?博麗の巫女は何か決定的な勘違いをしている気がするぞ!?
とにかく丁寧にしっかりと答えなくては!
なんといっても相手はあの博麗の巫女だからな!
対応を間違えたら今度こそ殺されてしまう!

「とにかく、あの時は勘違いで本当に君を殺そうとしていたんですよ。
 勘違いで君を殺そうとしたことに対しては本当に申し訳ないと思います。
 でも、今は君を殺す必要が無いことが分かったので、もう殺そうとは思っていませんから。
 とにかく、俺はゲンソウキョウの平穏を乱そうとは思っていないので、今後は仲良くやっていきませんか?」


「くっ!」







「そう…そうなの…」





「次に合ったときは、私をまた殺したいと思わせるようにしてあげるから。覚悟しておきなさい!」


「これは面白そうになってきたぜ。                    れ、霊夢ちょっと待てよ~!」


何だこいつ~!?
何で殺されたいみたいなことを言うんだ!?

ああそうか、そういう性癖なんですね。わかります。
流石、処刑人。死を恐れないどころか、殺されることを快感に感じるようになっていたのですね。

でも、これが量産されない原因なのですね。
あれほどの性能を持ちながら、博麗の巫女が制式品として量産されていないのは不思議に思っていましたが…

戦闘を恐れないのはいいが、快楽を求めて自ら殺されに行くようでは兵器としては失格ですからね。



とりあえず、あまり係わらないようにしよう…






side 博麗 霊夢

なんなのあいつ!

何がごめんなさいよ!

何が殺す必要が無くなったよ!

自分の目的を達するために、私程度では障害にもならないことが分かったから、殺す価値も無くなったって言いたいんでしょ!?

しかも、幻想郷で堂々と異変を起こそうと公言している奴が、博麗の巫女である私に対して幻想郷の平穏を乱す気が無いから仲良くしようですって!?

こんな冗談笑えるわけないでしょ!

今度異変があったときは、絶対に私の力を認めさせてやるわ!






side 三妖精
「ちょっと!サニー!なんで、こんな場所に連れて来たのよ!」

「ルナもスターも賛成したじゃない!また紅魔館のパーティに潜り込んで、美味しい物食べようって!」

「だからって、妖怪がいっぱい居るテーブルのすぐ横だなんて聞いてないわよ!」

「妖怪が相手だったら、私達が外から潜入した妖精だってバレた時に、逃げ切れないかもしれないじゃない!」

「大丈夫だって!堂々としていれば、バレても大丈夫だって!」

(また根拠も無いことを言う…)

「ねえサニー、せめて席を移動しない?」

「もう、二人ともしょうがないな~」





何か、博麗の巫女に会ったら酔いが醒めたな…
さあ、気を取り直して今度は飯でも食うか…

って、なにこれ?
もう食べるものが無いですよ?


「もっと食べるのだ~」

「あたいは…さいきょーなのに…」


こいつ等が原因か。
くそっ、どこか他に料理は余ってないのか?




おや?
隣の三人組が食事を置いて移動しだしたぞ。
もしやこの三人組、俺に気を使ってくれているのか!?
これは、ちゃんとしたお礼をしなくては!

「ちょっと、そこの人たち!ちょっと待ってください!」


「なっ、何か用ですか?」


「君達の所属と名前を教えてくれませんか?」
後でこっそりお礼に行きたいからね~
今ここでお礼を言ってもいいが、ここでは下手にお礼が言えない。
さすがのルーミアも、自分の大食いが原因で知らない妖精メイドが、俺に気を使ったと知ったら恥ずかしい思いをしてしまうからだ。


「サニー!」

「わ、私達は極秘の仕事をする特別なメイドなのよ!だから、私達の所属と名前は教えられないわ。」


これは驚いた。
紅魔館にまだ俺の知らないメイド隊が存在したなんて。
この三人組はいったいどんな仕事をしているんだろう?

そうか!
例の地下室か!

紅魔館の地下には、立ち入りが一切禁止されている地下室がある。
そこでこの三人組は何か極秘の仕事をしているんだな!

「いやー、あの立ち入り禁止の秘密の地下室で働いているのですか。これは驚きました。」

「そ、そうよ!あの地下室よ!」

「因みに、あの地下室には何があるのか教えてくれませんか?みんな財宝があるとか色々噂してますけど…」

「それは秘密!秘密よ!」

「ですよね~引きとめて申し訳ありませんでした。このお礼は必ずしますので。」

「え、ええ。」




side 三妖精
「危なかったわねサニー。」

「そんなことより、二人とも行くよ!」

「行くってどこに行くのよ?」

「お宝を貰いに秘密の地下室へ!」

「ハア、やっぱりコソ泥稼業が板についてきている…」

「ちょっとスター!なにグズグズしてるのー?」












人の優しさっていうのはありがたいね!
さあ、三人組が残した料理をしっかり食うか!




「そろそろ腹八分目なのだー」
「…!…サ………ウ…!!」




こ・い・つ・ら!!
三人組が残した料理まで全部食っちまうとは…
目を離したのは、確か一分ぐらいしかなかったような?

そろそろ怒っていいよね?



「はい。ハニューちゃんの分だよ。」

大ちゃん!
さすが大ちゃんだぜ。
俺の分をルーミアとチルノの魔の手から守ってくれていたなんて!

「ありがとう大ちゃん。でも、せっかくだから二人で食べようか?」

「うん!」



----------





「chinnchinn♪chi●nchin●♪」


何だか、皆お酒が入ってグダグダになってきました。
何を隠そう、俺も酩酊しております!
おかげで、脳内でモザイクがスムーズに入りません!
チ●チ●ではなくローマ字で隙を突いてくるとはやるなミスティア!

よし、お前に対抗して、お前が言う●ン●ンという言葉は脳内で「リグル」に変換してやる。
どうだ参ったか!



それにしてもミスティアは本当に「リグル」が好きだな!
卑猥な言葉は他にも色々あるのに、何故かミスティアは「リグル」しか言わない。
何か相当な思い入れが「リグル」にあるとしか思えない。

仮に「リグル」に相当な思い入れがある、ミスティアに「リグル」を見せたらどんな反応を示すのだろうか?
お子様向けでは無いことが起きるのか?
いや、それはありえないな。
それでは兵器として意味が無い。
となると、むしろ逆に攻撃する可能性が高い。
ミスティアのあの鋭利な爪で一撃必殺…
ありえるな。

でもこれだと、ミスティアは「リグル」が好きなのに、「リグル」を切り落とさなくてはいけない。
別段問題が無いように見えるが、ミスティアには常に精神的負担が掛かってしまう。
むしろ喜んで「リグル」を切り落とす動機が必要だ。

「リグル」が好きでありながら、「リグル」を切り落とすか…うーん…

切り落とすというより奪うと考えてみたらどうだろう?
奪ってどうする?
どうしようもないな…
いや、奪うこと自体が目的なら?
奪うことによってミスティアが精神的に満足する。

なぜ満足する?





もしや、ミスティアは昔「リグル」を持っていたのではないだろうか?
それを生物兵器開発者達に奪われたのだろう。
だから、「リグル」が好きであり「リグル」に執着を見せる。

そして、「リグル」を持った相手を見つけたら、逆恨みによって「リグル」を攻撃するわけだ!
私にはもう「リグル」が無いのに!って感じで…

これなら、ミスティアへの精神的負担も少ないのではないか?
きっと「リグル」を攻撃するための洗脳も行いやすいだろう。



しかし、これは仮説だらけだな~
リグルの「リグル」をミスティアに見せて実験しないと実証できないな。
いや、流石に心は女の子のリグルとはいえ、実験でいきなり「リグル」を奪われるのは可哀相だな…

他に実験に付き合ってくれそうな男といえば?
ああ、他に男って言えば香霖堂の店主しかいませんね。

でも、この前爆竹がどうなかったか報告に行ったら、何故か休業状態になっていたな。
薬を届けに来たとかいう、ウサ耳の女子高生によると、店主は胃に穴が開いたそうだ…
可哀相に…

だめだな、これでは誰も実験に付き合ってくれる人が居ないではないか。

「ねえ大ちゃん?実験に付き合ってくれる度胸のある男って誰か知らない?」

「スースー」
大ちゃん寝てるし。

相当酔っ払っているんだな…

大丈夫か、急性アルコール中毒じゃないよな?




「 「リグル!」 次の曲いくよ~!次はルーミアちゃんのテーマソングです!」
ミスティアの奴、絶好調だな。
さっきから、ミスティアは勝手にテーブルをステージにして歌っています。
何故かルーミアも一緒です。

妖精メイド達も一緒に歌いだして、いい感じに盛り上がってますな~
なんとも平和な光景だなあ~

ミスティアの卑猥な言葉以外は…

でも、ミスティアの卑猥な言葉の裏に、生物兵器開発者達がミスティアから「リグル」を奪った残虐な行いがあるかと思うと、ミスティアの卑猥な言葉も許せるよな…






side リグル・ナイトバグ
よし!今の雰囲気なら言える気がする!
ハニューさんに問い質すチャンスだ!

ミスティアの言うとおり、お酒の力が効いている今なら、ハニューさんが何故余所余所しくなったか問い質せるはずだ。
そして、僕に悪い所があったのなら、それを直してまた昔の関係に戻るんだ!

「ハニューさん。大事な話があります。」







リグルの奴、いきなり真面目な顔をしてどうしたんだ?
「なあ、リグル?いきなりどうしたんだ?」


なんだ?真面目な顔というより…
これは思い詰めた顔?

まさか


このパターンは…


俺のこと好きでしたとか言うんじゃ!?




俺は男だぞ!?
ってまずい!
今は女の身体だ!


やっやばいぞ!!

あれ!?でもリグルは男が好きなはずだから…あれ?

なんだ!?訳が分からない。

もしかして、リグルはどっちでも問題ないのか!?

「駄目だリグル。早まるな!色々と道を踏み外しまくってる!」



「ハニューさん!?お願いですから聞いてください!!本当に大事な話なんです!ハニューさんは…
 なぜ最近僕と距離を置くんですか!?僕はいつもそれが苦しくて苦しくて仕方がないんです!
 答えを聞かせてください!!僕はハニューさんともっと親しい関係じゃないと嫌なんです!!!!」







分かりにくいけど、やっぱりこれって告白だよな…

しかし、俺は男だ、同じ男であるリグルには興味は無い!
これはリグルのためにも、しっかりと答えてやらないといけない…

「もしかしたら、色々と誤解させることを俺は知らず知らずの間にしてしまっていたのかもしれない。
 すまないリグル全て誤解なんだ。
 俺はお前とこれからもずっと友達で居たいんだ。」 

悪いなリグル。
これもいい経験だと思って諦めてくれ。





side リグル・ナイトバグ
良かった!全ては誤解だったんだ!
僕達はこれで親友に戻れるんだね!






ってリグルに突然抱きつかれたぞ!?
しかも満面の笑みで!?



なんで、振られたのに笑顔で抱きついて来るんだ?
もしや…
これは、強硬手段に出てきたということですか?

力ずくでも俺を手に入れようとしているのですね。分かります。



冗談抜きでヤバイのですが…

俺よりハイスペックの生物兵器であるリグルが本気になって俺を襲ったら…
どう考えても俺オワタ\(^o^)/





ヤバイ!
誰か!誰かタスケテ!

俺の貞操サヨナラ
泣いている場合じゃないのに、泣けてきた…






side リグル・ナイトバグ
ハニューさん…
ハニューさんが涙を流している…
ハニューさんも誤解が解けたことが嬉しいんだね。
僕も嬉しいよ!






「ハニューちゃん、どうしたのかな?」


「大ちゃん!リグルが!リグルが俺を!」









「相手の意思を無視してそういうことをすることは良くないと思うの…」


「大ちゃん?何を言っているの!?これはお互いが望んで(仲直り)したんだよ?」





「このゴキブリめ!盗人猛々しいとはこのことなの。
 とりあえずお前を全力全開で攻撃すれば全てが解決すると思うの。」




( ゚д゚)




なにこの超理論。
というか大ちゃんの様子が変です。
これは…完全に酩酊してる?




「魔符…

「ちょっと大ちゃん?!というかスペルカード持ってたの!?」

ディバインバスター!!!!」



ちょ!?なんで某魔砲少女の技を大ちゃ


















うぁぁあぁああああ?

ってあれ、俺は何をしてたんだっけ?
パーティで飲み食いして、大ちゃんと二人で一つの料理を分け合って食べて…
そのあとは?

あれ?


寝たのか?


何かとんでもないことがあったような気がする…
大ちゃんとリグルが何かしたような?

うーん思い出せない…

----------



結局、皆途中で眠ってしまったようです。

いつものメンバーに聞いて回ったが、パーティ後半について誰も知りませんでした。
まるで記憶を消されたみたいだな。
異星人に出会ったとか?そんなわけないか。


因みに、今俺達はいつものメンバーでまったりとしています。
あと一時間ぐらいで、お嬢様の妹のお披露目がある予定なので、とりあえず待機です。


それにしても、なんでリグルの服が焦げてるんだ?
というより、俺と大ちゃん以外全員服が焦げてるんだが…
俺達はいったいどんな飲み方をしていたんだ?



「ハニュー隊長!」


ん?どうしたんだ?

「本日のお嬢様の妹様のお披露目は延期になりました!」

「は?何で?」

「なんでも、お嬢様の体調が優れないらしく…」

これだから、お嬢様育ちの奴は困るな~


まあいいか!


「ということで、今日の用事は無くなったから!湖に行って弾幕ごっこでもしようか!」



「今日も、最強のあたいがなんばーわん!」

「そうなのか?」

「なんだか、今日は凄く良い気分なんです。だから僕が勝ちます!」

「チ●●ン♪みんな頑張ってね♪」




「じゃあ私も全力全開で頑張ります!」

















「程々でいいと思うのだ~」

「何だかよく分からないですが、僕も大ちゃんは程々でいいと思います。」

「私もそう思う…」

「あたいが最強ーなんだからね!大ちゃんなんか怖くないんだからね!」

何故か俺も大ちゃんが全力全開で頑張ると大変なことになる気がする…
チルノも自分で気が付いていないようだけど、何故か顔が青いし…






「ま、まあ、無理をしない程度に頑張ろうか?」


「「「「賛成!」」」」




「おかしいな。…みんな、どうしちゃったのかな?」




きょ、今日も楽しい一日になるかな!?







side 上白沢 慧音
あの紅魔館のメイド長が歴史を創り出せと要望してくるとは、いったい紅魔館で何があったのだろうか…

断ろうとして出した交換条件にあっさりと乗った所を見ると、これはただ事ではないな…

とにかく、寺子屋の運営資金が新たに手に入ったのでよしとしよう。

しかし今回は疲れた。
いくら満月で白沢化していたとはいえ、これほどの規模の歴史を作り出したのは久しぶりだ。
どこかに、ミスをしていなければ良いが…







side 十六夜 咲夜
お嬢様申し訳ありません。

でもこれはお嬢様の為なのです。

あのようなことは、無かったことにすべきなのです。

大好きなプリンを目の前にして油断していたとはいえ、お嬢様がたかが妖精に撃墜されるなんて…
そんな事実は存在してはいけない!

とにかく、あの悲劇を知っているのはもう私だけ…
お嬢様に歴史を創ったことを悟られないように気をつけないと。




大妖精…

ゴミを見るような目をして「ちょっと頭冷やそうか…」と言って止めようとする仲間の妖怪達まで打ち落とした妖精の少女。
酒の席での話と言えばそれまでだけど、酒の席だからこそ、その人の本性が見える。
彼女はかなり危険な性格をしているようね…



ハニューめ!
ルーミア以外にあんな危険な隠し玉を持っていたなんて!

ハニューがどんな手を使おうとも、お嬢様はこの十六夜咲夜がお守りします!
















でも、撃墜されて弱ったお嬢様はなかなか可愛かったわね…
たまには、お嬢様がハニューの魔の手に掛かるのも良いかも知れない…




side 大ちゃん
私には憧れの人が居ます。
でも実在の人物じゃありません。
憧れ人が居たのは、河童のにとりさんが見せてくれた「あにめ」の中でした。

凄く強くて、優しい魔法使い。
おまけにカッコイイ。

私もこんな存在になれたらいいなって思います。

だから、皆に秘密で作ったスペルカード。
憧れの人と同じ必殺技だったりします。
でも、凄く力が必要なのでとても私では使えそうにありません。

そうそう、この前パーティの日の夜に、憧れの人になる夢を見ました。

なぜか、ハニューちゃんがゴキブリの怪物にエッチなことをされそうになっていて、私のディバインバスターで怪物をやっつける夢でした。
他にも、プリンを目の前にして楽しそうに「うー!うー!」と奇声を上げている変な蝙蝠の怪物もいましたが、気持ち悪いのでついでにスターライトブレイカーを打ち込んでおきました。
なんだか、とても気持ちよかったです。

現実の私も、それぐらいの活躍ができたらいいのにな。
そしたら、もっとハニューちゃんと一緒に居れるのに…









side 三妖精
「ねえスター?何回ピチュッた?」

「45回」

「サニーの馬鹿!!!!何がお宝よ!!」

「違うわよ!お宝といったのは、あのメイドよ!きっとあいつに騙されたのよ!」

「あのメイド!次に出会ったら道に迷わせてやる~!」




「ごちゃごちゃ喋らずに、もっと真面目に遊んでよ!弱すぎて面白くない~!!!」

禁忌「レーヴァテイン」



ピチューン・ピチューン・ピチューン




東方紅魔郷 グダグダEX編? 完

「本当にグダグダなのだー多分反省していると思うのだー。」



[6470] 第六.五話 その一 あー死ぬかと思った & ネコ耳少女だなんて本当にここの技術者達は変(ry
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2009/09/24 18:02
第六.五話 その一
あー死ぬかと思った & ネコ耳少女だなんて本当にここの技術者達は変(ry

「※グダグダEX編と第六話真面目にやった結果がこれだよ!!!のラストの間の時期に相当する短編集なのだー」


・あー死ぬかと思った

side フランドール・スカーレット

外に出れたのは嬉しいけど…
外の世界には言葉だけは私を大切にしているようなことを言うお姉様と、お姉様にベッタリでお姉様のことしか尊敬してないメイド達ばかり…
そんなくだらない奴らばっかりだと思っていたけど、なかなか面白そうなメイドが入ってきているじゃない。
お姉様や他のメイド達によると、博麗霊夢と八雲紫を撃退したとか。
こいつを使って、憂さ晴らしでもしようかしら。







はいハニューです。
現在ハニューは平穏なる日々を過ごしております。
つい先日の妹様紹介の前祝で、何か大変なことがあったような気がするのは気のせいです。

やっぱり平凡で平穏な日々っていいですよね~

こういう日々がずっと続いたらいいなあ。

「あなたがハニューね?ちょっと遊びましょ?」

いや~ほんと今日も何もないなあ~。

「ちょっと聞いているの?ねえ遊びましょうよ?」

幻聴が聞こえるよ?
一応幻聴でもしっかりと答えないといけないよね。

「無理です。仕事がありますので。どうしてもというなら、お嬢様に許可を取ってください。」

「お姉様にはもう許可を取っているわ。存分に遊んできなさいって言っていたわよ。
 あと、咲夜からも紅魔館が崩れ落ちない程度なら暴れても問題ありませんって言われているわよ。」




えー。
紅魔館が崩れ落ちない程度って、それって遊びじゃない。

なんでも、妹様は博麗の巫女に負けず劣らずの廃スペックだとか。
博麗に殺されなかったから、今度は妹様に殺されろってことですか…


短かった俺の平凡で平穏な日々。
というか、平凡で平穏な日々からいきなりあの世に直行ですか。

もうやだ!おうちにかえる!



「ちょっと待ちなさい!」



ぎゃあああああ!

目の前の廊下が消滅しましたよ!!!!!?

これが妹様の能力、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力という奴か!

って早く逃げないと!

あれ?こ、腰が抜けて動けない…
というか、うまく飛べない…
えーと、こういう場合何が抜けてるって言えばいいんだ?


「逃げるのを止めたの?少しはやる気になったようね…」


いや違います。
動かないんじゃなくて、動けないんです。


「あのですね。妹様、俺は妹様に攻撃なんてする気なんてこれぽっちも無いです。というか、俺は妹様を攻撃することなんてできません!」
いやホント、俺は自殺願望も無いし、どう考えても低レベル俺の攻撃が通用する相手じゃないんですけど…







あれ?妹様が黙りこんでしまいましたよ!?

「…そんな台詞…聞き飽きたわよ!お姉様も他の住人達もメイド達もいつも同じようなことを言うのよ!優しい言葉かけてくるくせに、本当は気が狂っている私の事なんて何も…」

えええ!?

「ハニュー!あなたの正体!見せなさい!!!!!」

な?なにを言っているんですか???







side フランドール・スカーレット

なんで?なんでなの?
あなたは博麗霊夢と八雲紫を撃退した実力者でしょ?
お姉様達と同じ、私のことなんて本当は何とも思っていない奴なんでしょ?




なんで…





なんで…














あなたは、そこに倒れているの?



「ハニュー隊長!?しっかりしてください!救護班!いやパチュリー様を呼んで!!」



何かが間違っていた?
ハニューの実力が無かった?
そんなことは無い、博麗霊夢と八雲紫を撃退したのは事実。




私のことを攻撃しないという言葉を信じなかった私が間違っていた?




うふふふふふふ…



私は…



私は…



本当に狂っているのね…


「何をしているのかー?さっさと手伝うのだー!!」






















ぎゃああああ痛い!痛い!
主に全身が痛い!!!


誰でもいいから助けに来て!痛すぎて死ぬ!


「出血している場所を布で押さえるのだー」

「わ、わかった。でもどうやって押さえれば…」

「とにかく早くするのだー」



前言撤回!妹様は来なくていいです!



ぎゃあああ痛い!妹様!そんなに力いっぱい傷口押さえたら駄目!!!!!
なにこれ?
もしや、真面目に遊びの相手しなかったから怒ってる?
いや、というより弱すぎて期待外れで怒ってるうううう!?


「い、妹様…」

「!!」



「すみません…でも次からはもう少しおとなしい遊びをしましょう…」
本当に勘弁してください!だから怒りを沈めてください!
でも次は普通の女の子らしい遊びにしましょう。ママゴトとか…
というかそれで許してください!
本当のことを言うと、もう遊びたくないのですが、そんな妹様を激高させそうな台詞なんて怖くていえません!!!!


「!!!!」



あー痛さで気が遠くなってきた。







side フランドール・スカーレット

ハニュー。
攻撃を避けることができたのに、攻撃を避けなかったメイド。
攻撃することができたのに、私への宣言どおり攻撃してこなかったメイド。
私に怒りをぶつけてもおかしくない状況にあったのに、私を心配させたと思ったのか「すみません」と謝ったメイド。
もう二度と私と弾幕ごっこをしたくないと言ってもおかしくないのに、私に次からもう少しおとなしく弾幕ごっこをしましょうと言ったメイド。

ハニューのことが分からない。
どうして私のことをこんなに信用してくれるの?
私は狂っているのよ?

そんなに信用されたら、私もハニューのことを信用したくなっちゃうよ…




side レミリア・スカーレット
この結果は予想外ね。
ハニューの力を目の当たりにするチャンスかと思ったんだけど。
まさか、こんなことになるなんてね。

妹様もこれで力の使い方に少し慎重になるんじゃないですか?って美鈴は言っていたけどこれは恐らく半分あたりね。
確かに、フランはハニューとの戦闘以後、力の使い方を考えるようになっているわ。
でもこれは偶然じゃない。
恐らく、ハニューはこの結果を読んでいたはず。
考えすぎかもしれないけど、結果としてフランとハニューの関係は良好になり、ハニューの力を秘匿することに成功した。
全てはハニューの利益につながるように動いたわ。

結果がハニューのシナリオの存在を示しているのよ。






ねえハニュー?
フランを仲間に引き込もうとするなんて、私のカリスマとあなたのカリスマどちらが強いか勝負したいということなのかしら?





----------




ハニューです。
痛いです。
見た目ほど酷くはないから大丈夫と言われたけど…
やっぱり痛いです。

妹様に一言言ってやろうかと思いましたがやりませんでした。

ルーミアによると気を失った後も色々と看病してくれたそうです。
あとさっき謝りに来ました。
ぶっきらぼうに「ごめんなさい!」と一言言っただけでしたけど。

色々と酷い謝り方だったけど、大人の俺は少し精神的に成長した妹様のために広い心で赦してあげたのだ!
いやー俺って心が広くてかっこいい。



うそです、妹様みたいに精神年齢も見た目も子供の相手に、ボコボコにやられて怒り狂う大人って…
おまけに、慌ててやってきた大ちゃんの目の前ですよ…

俺って情けない(´・ω・`)








----------









・ネコ耳少女だなんて本当にここの技術者達は変(ry


あー暇だ。

ということで、無縁塚とかいうお墓&ゴミ捨て場に来ています。
どういうことなの…


いやね、足が折れて以後、紅魔館の中でも外でも俺が何かしようとすると、メイド達が「自分がやります!」とか言って俺の代わりに何でもやってしまうんですよ。
それだけなら問題ないのですけどね、「御身に何かあれば一大事です。やめてください。」とか言って散歩もできないんですよこれが。
あー因みに、3週間ほど前に妹様に襲われて以後さらにエスカレートしているような…

訳が分からないので「なぜ俺をそのように扱う?」って聞いたら、俺がジオンのトップだからということらしい。
(トップじゃなくて総帥だと教えてあげました)
つまり、そういうジョークや遊びということみたいです。
何かと娯楽が少ないゲンソウキョウのせいか、あの博麗との激突から3ヶ月経った今でも、俺のジョークが未だにいろんな形に変わって流行っているということだと思います。


色々と有難いやら、迷惑だったりする話ですが、女の子達のやることに大人の俺が目くじらを立てるのはおかしいので、とりあえずは我慢していました。
でも、一日中何もできないのは辛いです。


おまけに、こうもジークジオンとか総帥とか毎日言われると、何と言うか本当にジョークや遊びで言われているのか自信が無くなって来たぞ。
実はいじめだったりして…
なんてね…



ということで、俺の状況を不憫に思った大ちゃん達が俺を強引に連れ出してくれた先がお墓&ゴミ捨て場でした。
なんでも、ここは危ないので誰も近付かないからメイド達から隠れて遊ぶには最適だとのこと。

発案者はチルノです。
最強のあたいが居るから、ここは安全でメイド達にも見つからないとのこと。
何と言う発想。
一見筋が通っているようで、まったく通っていないぞ…

因みに、俺片足は折れたままだし。妹様に襲われたせいで体中に包帯を巻いているのですが…
何か危険な目にあったら誰か助けてくれるんだろうな?









なんか、不気味なところですが、せっかくなのでゴミを漁って宝探しをしています。

なにこれ?

ミッ○ーマウスの顔の下に蛸の足が生えている物体?

タカラギコ ぬいぐるみ(試作品)?

モビルフォース 量産型 ズク????


何だか変なものがいっぱい落ちています。

あ、でも最後のズクはいいかも。
ザクじゃないのは残念だけど、ちょうど暇を持て余していたから、このズクを改造してザクにしてしまおう!
ほとんど、フルスクラッチと同じになる気がするけど、これはこれで面白そうだ。
早速今晩から始めるか!




----------





「こらー!こんな所で遊んじゃだめー!」
ぎゃああ何か出た!!!



ルーミア助けて!
「そうなのかー?」
なぜ疑問系!?



じゃ、じゃあ大ちゃん助けて!
「なんで最初に、ルーミアちゃんに頼ったのかな?かな?」
あれ?何だか大ちゃんの方が危険な気がしますよ…


「ちょっと無視しないで!!」
って空から降りてきたのは、ネコ耳少女?


「なぜなのかー?」


「なぜって…子供が居ていいような安全な場所じゃないの!」

「そっちも子供なのだー」




「そうですよ!僕もおかしいと思います!」

「最強のあたいには関係ないよね!」







「うう…」




「それに、ルーミアは子供じゃないのだー」



あ…まずい…




「ちょっと藍様の真似をしたかっただけなのに…」





うわーん





あーあ…
泣かしちゃった…
なんという子供の喧嘩…

大ちゃんまでオロオロしてるし、ネコ耳少女は泣きながら尻尾を丸めちゃってるし…




これは大人の俺が何とかしないと。
とりあえず、こういう時は抱きしめたらいいって、子供を持っている友人が言っていた気がする。
こういう時はこの体で良かったと思う。
元の体なら犯罪者へ一直線です。



ギュッとな。





----------





「ばいばーい」



「橙ちゃんまた遊びましょう!」

「そうなのかー」

「チ●チン!気をつけてね。」



あー疲れた。

とにかく頭を撫で回したり…
悪気があった訳じゃ無いんですよーと言い訳したり。
さっき拾ったタカラギコのぬいぐるみとやらを、俺の宝物だと偽って渡してご機嫌とったり…

何とか泣き止んだと思ったら、弾幕ごっこだし…
ちなみにルーミア発案「ジオン入団」テストという名称はどうかと思う。

今紅魔館では何でもジオンを付けるのが流行っているようだけど、ちょっとやりすぎだと思うぞ。



まあ楽しかったから良いかな?







side 八雲 紫

「もう!藍ったら落ち着きなさい。」

「紫様!これが落ち着いていられますか!」



まあ、確かにちょっとビックリしたわね。

いつもと同じく夕食を食べていたら、橙からいきなり「藍様聞いてください!今日新しいお友達が出来たんです!」から始まる一連の内容。

簡単にまとめると橙があのハニューと接触して、篭絡されたという話。

ハニューの部下が橙を叩き、ハニュー本人が優しい声をかけて篭絡する。
もの凄く古典的な手法だけど、橙みたいな幼い子には逆に効果抜群な手法…

さすがやるわね。

八雲の名をまだ名乗らせていないとはいえ、八雲に連なる物がジオンの一員になったことをジオンの宣伝に使う気かしら。


「紫様が何もしないなら、私がハニューに二度と橙に手を出さないように言ってきます!」

「やめなさい、そんなことをしても橙のためにならないわ。」

「なっ」

そう、橙はいずれ八雲橙として幻想卿を背負って立つ身になる。
一方、ハニューは敵になるか味方になるかは分からない。
しかし、八雲橙が壁にぶつかるそのときに、必ずハニューはそこに居るだろう。
ハニューを知り、ハニューから多くのことを学ぶ必要がある。
橙の未来のために。

「ですが!それでも、橙がハニューに何か酷いことをされるのではないかと心配です!」

「それは大丈夫よ。このぬいぐるみを良く見なさい。藍。」

「これは!?」

まったく凄い贈り物だこと。
こんなに怨念の詰まったぬいぐるみなんて…
つまっている怨念の中身は「他人が作り出したものを自分のものにし、自分の利益に繋げようとする思い。」そして「それを防ごうとする思い。」
まるで今の私達とハニューの関係みたいね。

「つまり、ハニューは私達が橙のことで心配するなんて最初から分かっていたってことよ。
 これはそれを私に伝えるためのメッセージ。そして、橙の安全を保障するメッセージでもあるわね。」

「どういうことですか?」

「ここまで状況を読めているハニューなら、橙が酷い目に合ったら自分がどうなるか理解していないと思う?」

「あっ!
 し、しかし紫様!私達や橙自身が気が付かないような手段でハニューの魔の手が橙に迫ったら!
 気が付いたときには既に手遅れになったら!
 橙自身が酷い目に合っていると理解できないぐらいに洗脳されてしまったら!」

「はいストップ!その可能性はあるわね。でもね藍。そういった見えにくい脅威を、見えにくい形のままで処理できなければ八雲として失格よ。
 さっきも言ったように、これは橙が一人前になるために必要なこと。橙が乗り越えなくてはいけない試練よ。」

そして、ハニューのシナリオではなく、私達八雲のシナリオが幻想卿を守れるかどうかの試練でもある…

「藍。とにかく、現状ではハニューへの直接的な干渉は無し。橙の行動とハニュー及び彼女の組織であるジオンの動向についての監視のみにとどめなさい。」

「はい。わかりました…」



本当に藍ったら、いつまでたっても橙のことになると駄目な子のままね。

まあそこが可愛いんだけど。



[6470] 第六.五話 その二 どれだけ立派な遠隔操作式発火装置を造ろうとしているのかと…
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/18 21:36
第六.五話 その二
どれだけ立派な遠隔操作式発火装置を造ろうとしているのかと…

「※グダグダEX編と第六話真面目にやった結果がこれだよ!!!のラストの間の時期に相当する短編なのだー」





「はいこんにちは!こんにちは!ちょっとパンツ撮…じゃなくて、取材させてもらえませんか?」


今度は誰だ?
今日は二回目になる無縁塚だったのだが、その帰りにネコ耳少女ではなくカメラを持った少女に出会いましたよ。


「あやー、やっとお話できて嬉しいですねー。紅魔館では、何時もジオンの団員達に邪魔されて会うことすらできませんでしたからねー。
 ハニューさんが無縁塚で散歩をしている情報を持ってきた、椛には何かご褒美をあげないと~新しい首輪にしてあげましょうか…」


「あのーどちら様で?」

「あや!すいません。申し送れました、私はブン屋の射命丸文といいます。」

おお。久しぶりに名刺を見たぞ!!
なになに…

この人が文々。新聞の記者か!!
文々。新聞なら何回か読んだことがあります。

ここは俺も名刺を出すとしよう!
実は、紅魔館に就職してから「大人だったら名刺ぐらい持っていて当たり前だよね!」
と言って自作していたのですが、ゲンソウキョウでは名刺を使う習慣が無いらしくこれまで使ったことがありませんでした。
でもやっとここで出番が!


「紅魔館 第十五メイド隊長ハニューですか…。あやージオンの総帥としてお話を聞きたかったのですが…」

えーせっかく作ったのに…。
新聞記者としてはただのメイドの話より、今話題の遊び(ジョークか?)のジオンの方に目がいくわけですねか、そうですか。

「そう嫌そうな顔をしないでくださいよー。」

「ちょちょっと待ってください!ハニューちゃんと私はこれから私の家に行く予定があります。そういった話はまた今度にしてもらえませんか?」

そ、そうだこれから久しぶりに大ちゃんの家に行く予定だったんだ。
よし、ここはガツンと断ろう。

と思ったけど、大ちゃんと何かヒソヒソ話しているぞ?


「あや~。これはこれは、奥様もいらっしゃったのですか。」

「奥様!?わ、私とハニューちゃんはそんな関係ではないです!」

「そうなんですか?私はお二人を見ててっきり…」

「ええ!?ど、どうしよう…」

「お二人はお似合いだと思いますよ~、そんなお似合いのお二人が二人っきりであなたの家に行くなんて…何 を す る 気 だ っ た ん で す か ?」

「な、何って何ですか!?」


「何 か エ ッ チ な こ と で も す る 気 だ っ た ん じ ゃ な い で す か ?」

「え?え?え?エッチなこと!!?本当に!本当にそんなこと考えてないんですぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅーーーーーーー………」


ってあれ?大ちゃん!?どこいっちゃうの!!大ちゃん!?
大ちゃんカムバーク!!!!!


「ということで、大ちゃんさんは何か急用があるみたいなので少しお話を聞かせてくれませんか?」

はい!?

「な、なんか腑に落ちないが…」

「まあまあそう言わずに~、きっとここに居れば大ちゃんさんはまた戻ってくると思いますから、それまでの時間を潰すと思って~」

まあそういうことなら…




「はい、それでは最初の質問ですが、ジオン総帥として今後はどのような活動を行う予定ですか?」

「特に無し。」
だって、冗談のネタでジオン総帥と言われているのに、どう行動しろとw

「あや~。ノーコメントということですか。やっぱり具体的な話は機密の厚い壁が立ちはだかっているんですね~
 では、具体的な話ではなく、仮定の話をしましょう。もし、ジオンと外の世界が戦うことになったら、どう戦いますか?」

外の世界?何だそれ?

「外の世界って何ですか?」

「漠然としすぎてましたか…日本とかアメリカとか言う国でもいいですし、世界全ての国でもいいですよ~」

つまり、ジオン公国 VS 現代世界と…
何だか新聞記者っていうのは面白いことを考えるなあ~
でも、こんなこと聞いて何か意味があるのか?
ああそうか、こういうシチュエーションでの質問に対して、どう答えるかによってその人がどういった人か読み取ろうとしているんですね!
ちょうどジオンが今流行っているし、同じような質問をいろんな人にしてまとめたら結構面白い記事ができるだろう。
例えば「ジオン公国 VS 現代世界から見えてきたゲンソウキョウ住人の傾向」とか。


「とりあえず、最初はジオンの主力兵器たるモビルスーツを作りますよね。」

「もびるすーつ?それって何ですか?」

「最初の開発される機体はザクという名前のものなんですが、それを例にあげると全長17.5mの大型人型兵器です。
 ミノフスキー環境下における戦闘に特化していて、ミノフスキー環境下ではモビルスーツとモビルアーマー以外ありとあらゆるの近代兵器に対して優位に立てます。
 ああ、ちなみにミノフスキー粒子は、高い帯電性があり空間に立体格子状に整列する物質なんですが、これを散布することによって立体格子より小さな粒子や電波等の波を遮断するだけではなく、電子機器を狂わすわけです。
 RMA化が進んだ現代の軍隊では、こんなものが出てきたら致命的なことになりますね。」恐らく、ミノフスキー環境下に対応する前に戦争は終結するでしょう。
 それどころか、通信混乱により産業構造全体が崩壊し、継戦能力そのものを奪うでしょう。ああすいません。
 この説明ではイメージが湧かないですよね。簡単に説明すると、モビルスーツは同程度の技術力の相手であれば30倍の国力差を埋める力があります。
 つまり、現代の世界が相手では一方的な力を発揮すると言えるでしょう。装備に関しては、ザクマシンガンやヒートトマホーク。またNBC兵器の搭載も可能です。
 メインジェネレーターは、ミノフスキー粒子の使用により中性子の閉じ込めを行う常温型核融合炉です。」

「は、はあ…」

「まあ、でもこんなことするより、コロニー落としか隕石落としのほうが簡単ですよね。現代世界ではこれを防ぐ手段はありませんから。
 でもこれでは死者が大量に出てしまいますし、地球環境をかなり破壊してしまうので最終手段ですよね。」

「あ、あのハニューさん…。申し訳ありませんが、何を言っているのか全然分からないのですが…」

えー。
ガンダムの事、あまり勉強せずに質問してきたんですね。わかります。
よくマスコミにあるパターンですね。


「ハニューちゃん、ごめーん!!!」
おや!?大ちゃんが戻ってきた!!

「さっきはどうしたの大ちゃん?」

「ハニューちゃんごめんなさい!頭の中が真っ白になっちゃって、どうしたら良いか分からなくなっちゃって…」


とにかく大ちゃんの家に向かおう。射命丸さんも、記事を書くにはもう少しガンダムについて勉強しないといけないみたいだし。

「申し訳ありませんが、大ちゃんが戻ってきたので今日はこれで失礼します。」

「ちょ、ちょっと!ハニューさん待ってください!!」



side 射命丸 文
あやー、大ちゃんさんを退席させた所までは上手くいっていたんですがね。
ハニューさんが何を言っているのか意味が分かりませんでしたよ。

適当な言葉で、上手く煙に巻かれちゃったみたいです。


うーん…

でも折角だから、とりあえず記事にして見ますか。

謎の勢力ジオンに迫る!
嘘か真か、ジオンが開発しようとしている主力兵器モビルスーツザクとはいったい!?

こんな所ですかねえ?
記事にするには、情報量が少なすぎますね…
とりあえず、今回は第一報として、鋭意取材中としておきましょうか。




side 河城にとり

「紅魔館」
ここに、技術者としての私を欲している人物がいる。

その人と私の初めての接点は、大ちゃんという妖精が私の元を訪れた時だった。
大ちゃんによると、紅魔館にいるとある妖精が私に極秘で何かの開発を依頼したがっているので、会ってほしいということだった。

私はその話を聞いた時、あまり真剣には受け止めなかった。
大ちゃんが、私が持っていたアニメに夢中になってしまったことも原因の一つだったが…
端的に言えば悪戯好きに過ぎない妖精が私に依頼するものなど、たかが知れているという思いがあったからだ。




その考えを一変させられたのは、今日の朝だった。
文さんが配る文々。新聞。そこに書かれている内容に私は心を奪われてしまった。

ハニューが語る、幻想卿の外にも中にも無い新しい概念の兵器。
モビルスーツザク。

ただの妖精が語ったのなら、妄想ともいえる兵器。
しかし、博麗の巫女と八雲紫を撃退したハニューが、自らの勢力であるジオンの将来の主力兵器として語ったのである。

文さんは、意味が通じない言葉が多いため、ジオンの実力を隠すための偽の情報ではないかと結論付けているけど…
私にはこの言葉の意味が分かる。


分かってしまった。



文さんには申し訳ないが、ハニューが語る言葉の意味を彼女が分かるはずもなかった。
これは、文さんが持つカメラ等より遥かに高度な技術により開発される兵器のコンセプトだからだ。



ハニューの発言は偽の情報ではない。
つまり、この兵器は間違いなく開発される。




私は、この事実に気がついたとき、着の身着のままに走り出していた。


私は驕り高ぶり、とんでもない勘違いをしているのかもしれない。
しかし、文々。新聞の一面を飾るハニューと大ちゃんの姿が、私に極秘で開発を依頼しようとしていた何かと、モビルスーツザクに何らかの重大な関係があると私を確信させていた。





前代未聞の兵器の開発を任せられるかもしれない。
私の技術者として血が騒いでいる。





----------




なんでも、にとりさんが俺に会いに来てくれたそうです~。
にとりさんには、メイド長へ悪戯するための遠隔操作式発火装置等の各種装備の開発を依頼する予定だったので、向こうから来てくれてラッキーです。
爆竹は無くなってしまったけど、きっと何処かでまた手に入るよね?






あーそれにしても困ったなあ。
もうすぐにとりさんが来るのにこの無駄に巨大な地球儀どうしよう…











実は俺、第十五メイド隊長+博麗の巫女撃退の報酬とやらで、かなり広い部屋を与えられたんですよね。
「こんな広い部屋使ったことが無いぜー」って一瞬喜んだんですけどね、直ぐにあまりの殺風景さに寂しくなってしまったんですよ。
ちょっとした運動ができるぐらいの巨大な部屋に、ベッドと少しの私物入れだけってどんだけw

困り果ててルーミアに「もう少し、俺のカラーを出した部屋にしてもいいんじゃね?」って愚痴ったのが運のつきでした。
ルーミアはいつもどおり「そーなのかー」って言っていたけど次の日から…


無駄に巨大な机とか

無駄に巨大な地球儀とか

世界地図が描かれたヘンテコなデザインのカーペットとか

変な形の壷とか

俺が教えたジオンのマークを描いた垂れ幕とか



とにかく、大勢のメイド達が変なものを大量に俺の部屋に持ち込み始めたんですよ。



なんぞこれ!?




因みに、俺のベッドと私物入れは部屋の見えにくいところに押し込まれてしまいました。


インテリアのセンスというか、部屋のセンスそのものがどう考えてもおかしいと思います。
でも、ルーミアに聞いたら「ハニューらしい部屋なのだー」とか「ハニューは誤解されやすい言い方多いから、分かりやすく皆に伝えておいたのだー」とか言って埒が明きません。
他のメイド達に聞いても、俺に似合った部屋とか言いやがります。

ゲンソウキョウのセンスはどうやら日本とはかなり違うようです…
何だか凄く居心地が悪いが、郷に入れば郷に従えというのでゲンソウキョウの常識に慣れようと日々頑張って住んでいます。






でも今回ばかりは困ったぞ。
にとりさんが来るまで少し時間が余ったので、無駄に巨大な地球儀を回して遊んでいたら外れてしまいましたw
何とか戻そうとするのですが、重くて上手く持ち上がらないのですよこれが!
30センチも持ち上がりません。

誰かに手伝ってもらおうにも、にとりさんと秘密の会話ができるように、にとりさんの出迎えをお願いしたいという名目で人払いをしたので、他のメイドが誰もいません…

って
手が滑った!

ぎゃああああ!足の小指の上に落ちた!!!

痛い!
涙が止まらないぐらい痛い!


な、何でこんなことに…











「は、ハニューさん?は、初めまして、私は河城にとりといいます!」

って!いつの間にかにとりさんが来てるし!!!!

は、恥ずかしいぃいいい!!!
どこまで見てたんだ!?

「恥ずかしい所を見せてしまいましたね。」

「い、いえ…私は何も…」

よ、良かった、何も見られていなかったみたいだ…
とりあえず、気持ちを整え直してと…





おおー。

凄腕の技術者と聞いていたけど、結構普通の女の子だな。
いや、ここはゲンソウキョウだった。見た目に騙されてはいけない。
俺みたいに中身は別物かもしれない。
例えば、元は大手企業の技術部門のエリート技術者だったりして…
ここは、営業風にしっかりと対応してみようかなあ。

「こちらこそ初めまして。ハニューと申します。ささ、どうぞこちらへ。」

とりあえずは、少し世間話でもして、交流を深めてみよう。
だって凄腕の技術者だもん。
いきなり、メイド長への仕返しのためにあなたの技術を貸して下さいと言ったら、プライドを傷つけてしまって断られるかもしれない。



----------




ルーミアの入れたお茶を飲みながら雑談しているのだが…
困った、ネタが尽きた…
最初は、お嬢様の話題とかメイド長の話題とかのちょっと笑えるエピソードを話していたのだが…
もう後は、メイド長の丸秘エピソードぐらいしかネタが無い…

しかし、このネタが外に漏れたら、俺は八つ裂きになってしまう!!

考えろ俺!
そうだ!困った時は全国共通で使える話題で、営業マンの常識とも言えるテクニック、今日のお天気の話題だ!
これで少しネタを考える時間を稼ごう!

あとそれと、ルーミアにブロックサインを送ろう。
《ルーミア・なにか・ネタに・なるもの・持ってきて・できたら・何か・珍しいもの》


《そー・なの・かー》


「ハニューさんどうかされましたか?」

やばい、ブロックサインを送っていたことに気が付かれてしまう。
とりあえず、笑顔を作ってお天気の話題を始めよう。



「いやー最近のゲンソウキョウの天気はすごし易くて良いですね。」

「!?そ、そうですね。」

や、やっぱり強引過ぎるか!!でもここで止めたら、本当に会話が止まってしまう!

「でも、将来はそうはいかないと思いますね。」





「そ、それはどうしてですか!」

って何て滅茶苦茶な繋げ方をしてるんだ俺!
というよりにとりさん、何でここにそんなに食いつくんですか…
ここで「いやそれは地球温暖化でね」って繋げるつもりだったのに、そんなに食いつかれたらもっと捻らないといけないじゃないですか!

うおおお。
どうしよう…

そうだ!こういう時は「必殺」質問を質問で返すだ。
大人の会話としては完全に失格だが、にとりさんの答えで何か良い答えが思いつくかもしれない。


「にとりさんは、どうしてだと思いますか?」











何だか、にとりさんの様子がおかしい。
随分悩んでいるような。

やっぱり無理があったか!?



「それは、世界が変わって行くからだと思います。」

!!
良かった、にとりさんも地球温暖化で世界が変わってお天気が変わってしまうという答えに行き着きましたね。
とにかく、この会話から話を広げなくては!

「ではにとりさん、それを防ぐにはどうしたら良いと思いますか?」









「それは、技術の力で解決できると思います。」

おお!俺と同じ意見だ!
地球温暖化を招いたのは技術の力だけど、それを乗り越えるのもまた技術の力だと思うんですよね~
同好の士に会えて何だか嬉しいですね!
思わず笑みを浮かべてしまったぜ!
っとまずいまずい、あまりニヤニヤしていると、セクハラ的なこととか、何か変なことを考えている勘違いされたら困るからな。
ポーカーフェイス、ポーカーフェイス…








「あ、あの…ハニューさん…。技術の力で幻想郷の問題は解決できるかもしれません。しかし、それによって対立する相手はどうなってしまうのでしょうか?私はそれが心配です。」


ゲンソウキョウで地球温暖化を防ぐと、他の場所で地球温暖化が悪化するということか?それは無いだろ…
いや、これはゲンソウキョウが地球温暖化ビジネスで成功したら、その他の国々と軋轢が生じるということか…
例えば、石油の代替製品をゲンソウキョウが作り出したら、中東諸国との関係が悪化するみたいなものか。

「確かに多くの国々と利害の不一致から激突し、強引な手段に出なくてはいけない状態に陥る可能性はある。
 悲しいことですが。本当はこんなことで争っても何の意味も無いのに…目的はそこではないのに…」
って昔テレビか何かで言っていたから合っているはず。
でも、何だか自信が無いぞ…俺専門家じゃないしw
それに、すげえ曖昧で抽象的な回答だよなあ。具体的なお話を聞きたいのですが、強引な手段って何ですか?ってこれ以上突っ込まれたらやばいのですが…
あ、あの、にとりさんこんな答えでいいですか!?





「ハニューさん…」









「おまたせなのかー?」

よし!ルーミアナイスタイミングだ!ちょうどネタがまた途切れそうだったぜ!











ってルーミアなんでザクのプラモ(ハニューお手製ズク改造ザク)持ってきてるの!?
確かにゲンソウキョウ的には凄く珍しいけど、これネタにしろってか!?
無理があるだろ…
とりあえず、これは失礼だからにとりさんに謝らなくては。
「いやーすいません。ザクのプラモなんて出てきてしまって…」



「!!!!!!これがモビルスーツザクの模型ですか」

あれ?意外と好反応!?

「にとりさんはザクに興味があるんですか?」

「もちろんです!」

まさかこんな所に接点があったとは!!
俺のザクトークに火が付くぜ!!




----------




気が付いたら日が暮れていました~
ザクに対してにとりさんが質問して俺が答えるということを延々と続けてしまいましたよ。

それにしても、流石技術者ですね。
なんだか、技術的な話ばかりになってしまいましたよ。
おまけに、なぜか魔法の話とか出てきて訳がわからなかったけどw

おかげで赤い人の話とか一言も出せませんでした。
まあいいか!


いやー今日は楽しかった…











って、にとりさんに爆竹の遠隔操作式発火装置とかを、極秘に作ってもらうようお願いするのを忘れるところだった!!

「すいません、にとりさん極秘に開発をお願いしたいものがあるのですが…」



「ハニューさん。その話を大ちゃんを通して受けた時に、直ぐにお答えできなくて申し訳ありませんでした。実はその時は興味すら持ってはいませんでした。
 でも、今の私は極秘の開発に是非とも参加したいと思っています。
 極秘の開発任務お受けいたします!」

な、なんだ。既に大ちゃんをから、話を聞いていたのか~
そういえば、大ちゃんが「例の仕返しの件でにとりさんに会いにいったんだけど、良いお返事もらえなかったの。ごめんねハニューちゃん。」とか言っていたな…


「ただ、ハニューさんも気が付いていると思いますが、残念ながら私一人で手に負えるプロジェクトではありません。
 作業量だけではなく技術的な見地からも私の習得している技術の枠を超えた多方面の技術が必要になると思います。
 また、開発期間も数年間に渡る可能性があります。」


なんだってーーーーー!!!!

メイド長にちょっと悪戯するのに多方面の技術に数年間の開発期間だと!?
まさか、遠隔操作式発火装置とかを用意するのがそんなに大変だったなんて…
そんなに大変ならやらなくていいのですが…
っていいたいけど、にとりさん何だが凄いやる気だから言い出せない!!



「了解なのだ~。」



ちょっ!!
ルーミア勝手に返事しないで!!







どうしよう…









「細々としたものはルーミアに頼んで。あと何か優秀そうな人がいたら、そちらに手伝いに行くよう伝えておくから。」


俺って凄く周りに流され易くて情ねえええ…




side 河城にとり
紅魔館に乗り込んだ私がハニュー氏の部屋で見たものは、想像だにしなかった光景だった。
それは、そこに居る者の力を禍々しいまでに主張する部屋の片隅で、地球儀に手を当て静かに涙を流す少女の姿だった。





家を飛び出したときの私は、熱病にでもかかったような状態だった。
しかし、紅魔館に近付くにつれ、私の心の一部が冷えきっていくのを感じていた。
私は技術者としての力を存分に発揮し、その結果として力を求めるものに力を与える。
私はそれで満足するだろう、だが私の与えた力が多くの人を不幸にしたら、私は幸福でいられるだろうか?

ハニュー氏の噂だけを信じれば、飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を伸ばしている野心の固まりに見える。
力を与えるには危険な相手だと、冷え切った私の心の一部が必死に警告を出していた。


その警告は、ハニュー氏の部屋に近付くにつれて強くなっていった。
大勢の妖精メイド達が整然と私を出迎え、ハニュー氏の部屋の扉を開けた瞬間、その警告は最高潮に達していた。

ハニュー氏の部屋が発する力の主張の奔流に私は圧倒されつつも、この部屋の主は危険だと感じたからだ。
それは、この手の部屋の主は、部屋や地位の持つ魔力(力)に呑まれて力に振り回される弱い力と弱い心を持った小物か、部屋の持つ魔力が分からないぐらいに強い力と強い心を持つゆえに、力に翻弄される人々のことなど理解できない者が多いからだ。


だが、この部屋の主はそのどちらでも無かった。



そこに居ることが、あまりにも不自然な少女。
何かの間違いで、こんな部屋の主になってしまったのではないかと、思ってしまうような少女だった。
その不自然さが、涙を流すハニュー氏の姿を現実的なものではなく何かの幻影のように見せていた。

何を悲しんで彼女は涙を流しているのだろうか?その時の私には想像することすらできなかった。

その時の私は何かの禁忌を破ったような思いに駆られ、何もかもが上の空だったのだ。




その後の私は酷いものだった。
ハニュー氏への挨拶は呂律が回っていないものだったし、ハニュー氏の「恥ずかしい所を見せてしまいましたね。」という言葉にも、まともに返すことができなかった。

恐らくハニュー氏の配慮だろう。
ハニュー氏は私の緊張を解そうと、とても彼女の地位には似合わないくだらない話をしてくれた。
そのあまりのギャップが面白く、私は気が付くと緊張が解けていた。


今から思えば、このとき既にハニュー氏の魅力に私は捕らえられていたのだと思う。



しかし、ハニュー氏が不自然な笑顔と共に始めた話により、私は再び強い緊張を強いられることになった。
ハニュー氏は突然天気の話を始めたのだ。
そのあまりの下らなさに私は何が始まったのか意味が分からなかった。
だが、直後にハニュー氏が今後は幻想郷は過ごし難くなるという話をしたことにより、これは天気の話をしているのではないということに、ようやく私も気が付いた。

この天気は比喩表現であり、幻想郷の平和を意味していたのだ。

今後は幻想郷の平和が乱れる、ハニュー氏はそう語っていたのだ。
その解決方法を問う私に、ハニュー氏は同じ質問で私に返してきた。


私はここが正念場だと分かった。
私は、ハニュー氏が私の技術を提供するに値する人物か見定めていたつもりだったが、いつの間にかハニュー氏に私は協力を依頼するに足る人物か見定められていたのだ。



私は、どう答えるか悩んだ。
そして出した回答は、技術による解決だった。
私は技術者だ、それ以上も以下も無い。
それを正直に言うべきだと考えたからだ。


ハニュー氏は、私の回答に一瞬だけ笑顔を示した。
これは、合格を意味するのだろうか?
私の脳裏にそのような考えが浮かびあがってきた。
だが、何故か私はすぐに別のものに興味を引かれ始めてしまった。

今思えば、この興味が今の私とハニュー氏の関係を作り上げるターニングポイントだった。


それは、私の回答に対してハニュー氏が一瞬見せた、ごく普通の少女の笑顔だった。


そう、ごく普通の少女…
ごく普通の少女がジオンという組織を作り上げ、博麗の巫女と八雲紫に挑戦状を叩き付けたのだ。
それは無い。
ごく普通の少女などでは無いはずだ。



では私の中にある違和感は何だ?
その時、私は出所不明の激しい違和感に揺さぶられていた。


私はその違和感に突き動かされ、ハニュー氏が幻想郷と対立する相手はどうなるのかと問いかけていた。
人間の盟友である私にとって、人間と対立する可能性を示しているハニュー氏に対して、それは絶対に問わなくてはいけない質問であり、そこにこの違和感の答えがあるように感じられたからだ。


ハニュー氏は、争いになる可能性を正直に話した。そして、そこが目的ではないことも話してくれた。
優等生的な答え。
それ故に多くの場合あまり意味の無い答え。
しかし、その直後の彼女の表情が、その言葉が紛れも無い事実であるということと、私の知りたいことを教えてくれた。


彼女の顔には、嘘偽りの無い純粋さと、不安や怯えといった相反する表情が同時に浮かんでいたのだ。
まるで、母親に突然自分の行いについて問いただされ、正直に答えたが自分の答えが本当に正しいかどうか不安で仕方が無い子供のような…




私は、この表情を見た瞬間、これまで感じた違和感がパズルのように組み合わさり、ハニュー氏の真実の姿を形作っていくのを感じた。




そう、ごく普通の少女が、努力と使命感という鎧で身を固め、自らの本質を偽っているのが今のハニュー氏の姿だったのだ。
彼女の事を聞けば、多くの者は超人的な姿が彼女の本質であり、普通に見える姿は偽りの姿だと感じるだろう。
しかし、事実は逆だったのだ。
私の感じた第一印象は正しかった、彼女は本来あの部屋に居るべき人ではないのだ。
だが、彼女はごく普通の少女という本質のままあの部屋で幻想郷の、いや、世界のためにその身を捧げている。

これは悲劇だ。

彼女があの部屋や地位の力に振り回されるような弱い心と弱い力を持った小物だったら、彼女は成功はしないが、小さな失敗を繰り返すため大きな苦しみを味わないで済むだろう。
逆に彼女が強い力と強い心を持っていたのなら、彼女の目的を容易に進めることができるだろうが、失敗するその瞬間に一瞬の苦しみを味わうだけで済むだろう。そう裸の王様のように。

しかし現実の彼女は、弱い心と弱い力を努力と使命感で補ってしまった。
そして、力も努力と使命感でコントロールし正しく使いこなしている。

成功への道を彼女は進んでいると言える。

しかし、彼女は成功すればするほど、自らの本質を偽らなくてはならいのだ。
成功することが、彼女を苦しめる。
永遠の命を持つ妖精である彼女にとって、それは永遠の苦しみになるかもしれない。




何が彼女をそこまで駆り立てているのだろうか?

自らをボロボロにしながらも、地球儀に手を置きこの星を眺めながら何を彼女は悲しんでいたのだろうか?

私には分からない。

ただ、ハニュー氏の真実を知ったその時、私の技術によって彼女を支えようと決意した。



----------



・モビルスーツザク開発記録 1ページ目 記録者 河城 にとり


これまでに無い、大規模なプロジェクトになるため記録を残す。


私が初めてモビルスーツザクを見たのは、ハニュー氏を支えることを決意した直後だった。
側近のルーミア氏がモビルスーツザクの模型を持って入室してきたからかだ。

しかし私はこの時、モビルスーツザクの造詣より、ハニュー氏に認められたという事実ばかりに目が行ってしまっていた。
その後は、今思い出しても顔から火が出るような有様だった。
まるで片思いの相手と相思相愛だったことを知った子供のように、喜び勇みながらモビルスーツザクについてのコンセプトを聞き出し、それを現実的に手に入る技術でいかに実現するかのアイデアを捲くし立てていたのである。
その熱中ぶりは、最後の最後にハニュー氏から正式にモビルスーツザクの開発を依頼されるまで、まだ正式に開発を依頼されていなかったことを忘れていたぐらいだった。


しかし、この会話での収穫は大きかった。
まるで何かの物語のような例え話(私が分かりやすいように配慮してくれたのだろう)で紡がれるハニュー氏のモビルスーツザクのコンセプトは斬新で、私の技術者魂を震えさせたのだ。
もちろん良い話ばかりではなかった。モビルスーツザクの開発には、科学と魔法を高度に融合させる必要があるという事実が発覚したのだ。
そう、不本意だが私が手に入れることができる技術だけでは、どうしても技術力が足りないのである。
足りない技術は、ハニュー氏本人が応援を集めてくれることになった。
ハニュー氏を助けると決意したのにも関わらず、情けない話だと自分でも思う。


明日にはルーミア氏が約束してくれた、応援の妖精メイド達が来る予定だ。
とにかくできるところから手を付けてみよう。



[6470] 第七話 ぼ、僕は善良な一市民です、犯罪者じゃないんです。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/29 23:02
第七話
ぼ、僕は善良な一市民です、犯罪者じゃないんです。



「光の幕の向こう、モビルスーツが撥ね飛ばされているのだー」

「もっとよく観測して!何が起こっているの?……ハニューちゃん…」











「そうか、しかしこの温かさを持った人間が地球さえ破壊するのよ。それを分かるのよ、ハニュー!」

「わかってるよ博麗の巫女!だから、世界に人の心の光を見せなければならないんだろ。」

「ふん!そういう女にしてはフランに冷たかったわね?え?」

「俺はマシーンじゃない。フランの母親代わりなどできない。」
「だからか、貴様はフランをマシーンとして扱って!?」

「そうなの、フランは母親を求めていたの。それで、それを私は迷惑に感じて、フランをマシーンにしたのね。」

「貴様ほどの女が、なんて器量の小さい!」

「魔理沙は私の父になってくれるかもしれなかった女性だったのよ。その魔理沙を殺したお前に言えたことか!」

「お父さん?魔理沙が…? うわっ!」













「ああっ…霊夢が!」

「お嬢様!?どうしたのですか!?」

「ムキュー…紅魔館が地球から離れていくわ!」

「そんな馬鹿な!!」









「紅魔館進路変更確実、地球から離れていくのだー」

ガタッ(そんな…そんなことって…ハニューちゃん…)




こうして、紅魔館の地球落下による地球寒冷化は阻止され、後の世に博麗の逆襲と言われる紛争もまた終結した。

この紛争の中心人物である、博麗霊夢とハニューの行方は現在も不明である。

歴史の真実は、地球軌道を包んだ温かい謎の光の向こうに消え去ってしまったのだった。














そうなのかー





カットカットカットカットォ……!

駄目じゃん!
俺多分死んでるよ!

現実逃避して妄想していたら、妄想の先で死んでしまいましたよ…
いやね、ちょっと現実が重すぎたので…


現実はですね…






201X年ゲンソウキョウは核の炎に包まれた。






あらゆる生命体は絶滅したかにみえた。







しかし、妖怪と妖精は死に絶えてはいなかった…








「ヒャッハー! 汚物は消毒だ~っ!!」





というナレーションがついてもおかしくない状況なのでしょうかこれは!?



俺の前方では、博麗の巫女と魔理沙さんとメイド長が道行く(空飛んでますけど)人々を攻撃しまくっています。

どうやら三人とも、いつまでも続く冬という異常気象を解決するために出発し偶然集まってしまったとか…
その理屈は色々とおかしい。

異常気象は人間の力ではどうにもなりませんw


どう見てもただの憂さ晴らしです。
いつまでも暖かなくならないので、ストレスが溜まっていたんですね、わかります。

でも、三人は「これは弾幕ごっこよ!」
って言っていますけど…
俺達のやっている弾幕ごっことは明らかに違う気がするんですが…

俺達の弾幕ごっこでは当たっても少し痛い程度の威力でやっているんですが…
さっき三人の攻撃を受けた人なんて、どうみても致死的な速度で地面に叩きつけられたのですが…
(弾幕ごっことは、生物兵器同士の戦闘訓練なので、訓練で怪我をしたら意味が無いです。まあ、大ちゃん達も最初は凄い威力で弾幕ごっこしてましたが、力の使い方を分からない幼い子供に力の使い方を教えるのは大人の務めなので、そのあたりはしっかりと教育しておきました。)

慌てて、人が死んだことを知らせたら「なにその冗談!?一回ピチュッただけじゃない?それに妖精なんだから、万が一があってもすぐ生き返るに決まっているじゃない!ウケル~」と三人に笑われました。
死んでも生き返るって、なにこのゆとり教育!?

特に博麗の巫女が酷い、さっきから自分の行った大量虐殺に対して「ほら、良く見なさいハニュー。私が一番華麗かつ沢山撃ち落としているわ!」とかいって自慢してきます。
あまりにも酷い発言に、初めて聞いたときは固まってしまいましたよ。
まるでゲームのように大量虐殺を俺に自慢するなんて、どういう精神構造をしているのでしょうか!?
ゲーム脳っていうレベルじゃねーぞ…


ただの憂さ晴らしでここまでの大量虐殺をやらかすなんて…
さすが生物兵器の実験場。
やはりゲンソウキョウは恐ろしい所です。




こんな悪事を見過ごすわけにはいかないのですが、楽しそうに大量虐殺を行う三人の姿が怖すぎて、俺にはとても止めることなんて無理です。





因みに、さっきから三人の話題は、誰が一番妖精を撃ち落とせるかという話題で持ちきりです。
つまり、誰が一番沢山殺せるかということですよね…
本当にこの三人怖いよう…
マジで震えてきた…


とにかく逃げよう。
こんな危険な奴等と一緒に居なくてはならない理由ってないよね!?



side 博麗 霊夢

「ほら、良く見なさいハニュー。私が一番華麗かつ沢山撃ち落としているわ!」

雑魚相手の弾幕だったけど、その華麗さと数には自信があったのよ!
だから、少しは私のことを認めるようなことを言うと思ったのに!!


何なのあの表情は!?

何を言っているか分からない表情ってどういうことよ!?


この程度の弾幕で自慢しているのが理解できないってことなの!?



落ち着かなくちゃ駄目よ私!
あのパーティの夜のことを思い出すのよ。
今日はチャンス、絶対にハニューに私を認めさせてやるわ!






----------







「くろまく~」

「あなたが黒幕ね!では早速。」


おおう!
第三者が乱入してきて、何か罵り合ってますよ!?
でもこれは逃げるチャンスですね!?

馬鹿なババア達はそこでゆっくりしていってね!!
ハニュー達はゆっくり逃げるよ!!!

「ハニューとルーミアだ、おーい!」


ってあれ!?
「げげ!チルノと…あのちょっとムッチリした体型と薄紫の髪は…チルノのお母さんかお姉さんじゃないか!?」

「チルノにお母さんやお姉さんが居るなんて聞いたこと無いのだー?」

「ルーミア、あまり大きな声では言えないけどな、チルノの家庭はどうやら複雑みたいなんだ。だからチルノは秘密にしているんだと思う。」

「どういうことなのかー?」

「遠目で見ただけなんだけど、能力もよく似ているしチルノが甘えまくっているのを見たことがあるから、あの人とチルノは肉親であることは間違いないと思う。」
同じ冷たい系の能力ですし、チルノが抱っこされているのを目撃したんですよね。
「それで、何で秘密にしているかというと、なんでもチルノとあの人は冬の間しか会えないらしいんだ。
 一時期しか会えないなんて、どう考えたっておかしいだろ?こういうのは経験上、大抵家庭の事情ってやつで、あまり人に話したくない状況に陥っている場合が多いんだ。」
おまけに、春になったら次の冬まで会えないなんてやだーってチルノが駄々をこねているのも目撃しちゃいました。
「例えば、あの人がチルノのお母さんなら、何か理由があってチルノとチルノのお父さんを捨てて別の人と再婚したんだ。
 でも、それでも娘に会いたいということで、この冬の時期だけ会うのが許されているんだよきっと。
 お姉さんであっても同じ、きっと両親が離婚して、二人は別々の親に引き取られたとかそんな感じだと思う。」

「そうなのか?」

「まあ、ちょっと強引な推測だしゲンソウキョウの特性を考慮していないので本当の所は分からないけど、総合的に考えればチルノの肉親であるということが一番ありえる答えだと思うぞ。」

「そうなのかー」


どうしよう!?
このままじゃ、チルノとチルノのお母さんかお姉さんが死んでしまう。

なんとか戦闘を止めないと。


「その戦闘、ちょっと待った!!」




「これは私の獲物よ!ハニューにはあげないわ。」

流石博麗の巫女。
発想がずれてますね。
思ったとおり、こっちは説得不能ですね。

チルノサイドを説得するしかありません!

「あ、あのチルノのお姉さん!」


あれ?気がついてくれませんよ?
ということは、チルノのお姉さんではなくお母さんということですね!!



「くらえ!!」


って、博麗の巫女が攻撃を開始してしまいましたよ!?

もう駄目だ!早くチルノサイドを説得して、逃げてもらわないと!






「チルノのお母さん!!」








あれ?俺完全に無視ですか!?
「戦闘に集中していて、聞こえていないのかもしれないのだー」



ということは、この弾幕の中に入って説得しなくてはいけないのか…
えー
凄腕のパイロットとかじゃないと無理だろこの状況…

ここは、過去の凄腕のパイロットの名言を思い出すんだ。
きっと何か上手くやれるヒントがあるはず。


『私は故あれば寝返るのさ!!』
いや、この状況で寝返ってどうするんですかシーマ中佐…


『言って分かればこの世に争いなんて無くなります。分からないから敵になるんでしょう?そして敵は、討たねば。』
正論なのは良く分かりますけどね、俺が博麗の巫女を倒せるのならこんな状況になっていませんって!!
大体あなたはパイロットじゃないでしょアズラエルさん…


『バッキャロウ!エゥーゴだろうがアクシズだろうが、かたっぱしからやっちまえばええんや!』
両方攻撃したら意味ないじゃないですかドルク中尉…。というか、マイナーキャラ過ぎますよあなた。
カツを一瞬でヌッ殺してくれた時のあなたは最高に光っていましたが…


『やめてよね。本気で喧嘩したらサイが僕にかなうはず無いだろ。』



死ね!




何の参考にもならねええええ!!!!
というか、全員ガンダムのキャラってどういうこと?
さっきの妄想の影響!?
俺、もの凄く混乱してるな!



でも…
でも…

友達は見捨てる訳にはいかない!

くそ!行くしかないか!!


「方法は任せるから、ルーミアは博麗の巫女の気を引いて!俺はチルノのお母さんを止めるから!」

「どうすれば気を引けるのだ~?」

「博麗の好きなものとかを見せるとか、話しかけるとか!とにかく何でもいいからやってみて!!」

「そうなのかー」



----------



よし!!博麗の巫女から攻撃が止んだぞ!!
ルーミアは上手くやってくれたみたいだ!!
今だ!突撃だああああ!!

「チルノのお母さん聞いてください!!こんな挑発には乗らずにここは逃げてください!
 こんな所であなたが死んだら娘さんのチルノがどれだけ悲しむと思っているんですか!!大体、チルノだって死ぬ可能性があるんですよ!!!」

おお!
効いてる効いてる!
チルノのお母さん凄くショックを受けた顔をしていますよ!!
きっと、自分の軽率な行動に気がついてショックを受けているんですね、わかります。


「いやああああああああああああ…
「レティ!?どうしたの!?」

やった!説得に応じて逃げてくれたぞ。
何だか、ずいぶんと悲壮な感じで逃げていきましたが、自分の行動を恥じて明日の糧にするのも時には大切です。
いやー大事に至らなくて良かった。



side 霧雨 魔理沙
これってなんなのぜ!?
内容は聞こえなかったけど、ハニューが少し話しかけたら、まるでこの世の終わりといった感じで逃げ出しやがったぜ。

咲夜が言うには、自分達が仕えているハニューに手を出したことに気がついた妖怪が、ハニューからの制裁を恐れて逃げ出したとか。
こーりんも霊夢もやばい奴だと言っていたけど、本当みたいだぜ。





side 博麗 霊夢
「とっとと拾うのだー」
ハニューの部下のルーミアが、私に弾幕を投げつけて来るなんてどういうことよ!?
私とまたやる気!?
そっちがその気なら…



「いた!?」

「どうしたんですか魔理沙さん!?」

「ルーミアの流れ弾に当たっちまったぜ。」

「でもそれにしては怪我が…彼女は何を投げて…」

「…」

「なんで、小銭を投げてるんだぜ!?」






ハニューあなたって…







あなたって…












本当はいい奴だったのね!!!

お賽銭をもらったら、巫女としては願いを叶えてあげなくっちゃね!
だから博麗の巫女としてあの二人は見逃してあげるわ!



って騙される所だった…
あいつは私を殺そうとしたのよ…
こんな小銭で私の気持ちを自由にしようだなんて…!!!!

あああ、でもハニューを見るたびに顔が緩んでしまうううう!



でも、か、紙のお金をくれるなら、気持ちを自由にして…
だ、駄目よ私!!これは罠よ!我慢するのよ!!
あのパーティの夜の屈辱を忘れちゃ駄目よ!!





side レティ・ホワイトロック


いきなり、チルノのお母さんって言われるなんて、どういうことなの!?
大体、何なのあの子!?

私はそれなりの年だけど、まだチルノちゃんほど大きい子が居るほどの年じゃないもん!!

私はお母さんじゃないもん!まだピチピチだもん!!まだオバサンじゃないもん!!


うわーん…





「レティ…レティはあたいのママだったの?」


ちょっと、チルノちゃん!違うのよ!!?

「レティママ…」ぎゅっ

ど、ど、ど、どうしよう!?













ハニューです。
逃亡するチャンスを失いました。
なぜか博麗の巫女が俺を見る度に笑顔になりやがります。
博麗の巫女の邪魔をしたのに、この反応はどう考えも怪しいです。
これは、この笑顔の裏には何かあると考えたほうがいいです。
たぶん裏では、よくも獲物を横取りしてくれたわね!あんまりふざけた事するとコロスぞ!って思っているんだと思います。
つまり、この笑顔は俺を抹殺することを想像して笑顔になっているんですね!!!!!!!


とにかく、少し大人しくしてようと思います。
そうそう、知り合いが博麗の巫女に攻撃されるって事態もないと思いますし…
知らない皆さん見捨ててごめんなさい…






----------





「チルえもーん!!!」

「どうしたのさハニュー!」

「聞いてよチルえもん!!!またメイド長に、お嬢様に怒られたのは俺のせいだって虐められたんだよ~何か道具だして~!!」


「もうしょうがないなハニューは!さいきょーのあたいがメイド長を倒してきてあげる!」

「ホント!?チルえもん!ありがとう!!」






「チルえもん、君が大地に帰ったら部屋ががらんとしちゃったよ。でも…すぐに慣れると思う。だから……心配するなよチルえもん。」


帰ってこなかったチルえもん   完





って博麗の巫女の視線が怖いので、ルーミアの黒い何かの中で妄想して現実逃避していたら、ルーミアに噛み付かれていた。
な・・・何を言っているのかわからねーと思うが (ry


ちょっ何するのルーミア!?

「やっと戻ってきたのだー!早くあれを見るのだー!!!!」


!?


ちぇえええええええええええええん!!!!!!!!
橙が撃ち落とされてる!?




「何でこんなことに!?」


「あら、ハニューの知り合いだったの?あなたから、私達三人に手を出すようなバカな真似はしないように言っておきなさい。」
ちょ!?
三人でリンチかよ!?



「橙!?橙!?」


「ルーミア、何でもっと早く教えてくれなかったんだよ!」

「外が見えないのだ…」

「あ…ごめん。そういえば、黒い何かを出していたら、ルーミアも外が見えなかったんだよな…」




「イタタタ!うわ!服がボロボロ!?藍様に怒られちゃう!」
良かった、結構平気みたい…


「南無~。きっと極楽浄土は、暖かくて幸せに違いないでしょう。」

メイド長酷い!橙死んでないって!!
本当に皆冷血な奴ばっかりです。
橙を殺しかけたことなんて、何とも思っていないみたいです。


と、とりあえず、橙の治療を…
腕とか、お腹とか、太ももとか、あっちこっちから血が滲んでいるぞ!
くそ!包帯とか持ってくれば良かった。
ハンカチとメイド服で代用するしかないか…

「ハニューさん。私は大丈夫ですから、安心してください。」

「でも、殺されかけたんだよ!?」

「これは弾幕ごっこですから大丈夫です。だから安心してください。」

良い子過ぎるぞ橙は!!!
自分のことより、他人を安心させることを優先するなんて。!!!

実は橙は貧しい家の出身で、若い身でありながら苦労を経験しているせいか、他人にも優しくできる良い子です。
まあ、この場合は逆にグレてしまう人も多いんだけどね。

プライベートなことなので、あまり詳しく聞きだしてはいないのだが、これまでの断片的な話をまとめると、橙の家は母子家庭で「らん」というお母さんと、「ゆかり」という寝たきりのお婆さんが居るようです。
そして、らんお母さんは働けないゆかりお婆さんの分まで日々働き続けており、橙もそのお手伝いをしているとのこと。
あとこれは余談だけど、時々らんお母さんが屋外で裸になっているのを見かけて、橙は何をしているのか分からず不安がっているそうです。
これは、多分お金の工面のために、何かアダルトなお仕事までらんお母さんが手を出しているってことなのだと思うが、純粋な橙にそんなことは言えないので黙っています。

ちょっと話はそれましたが、橙はもの凄く優しい良い子です。

でも、ゲンソウキョウでこのお人好しっていうほどの良い子は、致命的だぞ。
どう見ても、博麗の巫女達は弾幕ごっこをやっていません。唯の虐殺です。
それに気が付くぐらいにはなってもらわないと…


橙はついて行きたいと主張していましたが、お人好しともいえるぐらいの良い子(しかも怪我をしている)をこのまま連れて行くと、色々とやばい目に会ったり、教育に悪い物を見せたりするので帰ってもらうことにしました。




「ハニューさん!ルーミアさん!次は一緒に遊んでください!!」


「分かったよー!」

「了解なのだー」






俺が不甲斐ないばっかりに…
ごめんね橙。


side 橙
「ちぇえええええええええん!!!」
「らんしゃま!!」

「どうしたんですか藍様?」

「橙が何か酷い目に会っているような気がしたから様子を見に…」
「橙!!その怪我は!?」

「霊夢さん達に弾幕ごっこで負けちゃって…」

「怪我の様子を直ぐ見ないと!!さあ早くスッパになるんだ橙!!」

「ら、らんしゃま!?」

「さあ!早く!早く!ハアッハアッ……」


「も、もう大丈夫です藍様!怪我の手当ては全部してもらっています。ほら!」




「ちぇ、橙…。これはもしや…」

「はい!ハニューさんが手当てをしてくれました!」











「藍様!何で、鼻血を流しているんですか!?」










ちぇんの日記

今日は、霊夢さん達に弾幕ごっこで負けて、ハニューさんに手当てをしてもらいました。
ハニューさんは、とても優しい人です。
こんなちょっとした怪我なのに、自分の服を破いて包帯にしてくれました。

今度しっかりとお礼しに行こうと思います。


藍様には私のせいで、無理をさせてしまいました。
今日の藍様は何だか息が荒かったり、鼻血を出したりしてとても体調が悪そうでした。

それなのに、私の怪我を心配してくれました。

本当に藍様は優しくて素敵な人だと思います。

今度からは、そんな藍様に負担をかけないように気をつけて遊ぼうと思います。


色々あったけど、今日はとても楽しかったです。


side 八雲 藍

橙成長日記 第516巻 72頁


通常調査項目(前日比)
身長 変化なし
体重 0.1kg上昇(食事の影響と思われる)
スリーサイズ 変化なし

その他特記事項
怪我 12箇所で怪我を確認(傷が残るものは無し。明日の朝には完治している予定。)
毛 髪の毛が6本抜けていることを確認
爪 平均0.1mmの成長を確認、しかし右手の人差し指の爪が1.1mm損傷

本日のコメント
お、おのれハニュー!!
怪我の治療に便乗して、私の橙にあんな所やこんな所を見たり触りまくったに違いない!!
最近は私ですら、一緒にお風呂に入ることもできないというのに!!!!

おまけに、ハニューの匂いがたっぷりついた包帯で橙にマーキングだと!?
なんて、うらやま…けしからんことを!!!!

わたil;30am;@papa0-aa かだ、ぃwlかゆliうま;あp-0あ:;だ:あす@じ

『藍、いつも言っているけど、もう少し落ち着かなくちゃだめよ。がんばって何ページも書いてあるけど、まったく読めないわよ。以上、17歳の謎の少女より。』



[6470] 第八話 妄想をもうそう!
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/21 21:19
第八話
妄想をもうそう!


橙の尊い犠牲によって、逃げ回っていても何も事態は改善しないことが分かりました。
橙死んでないけど。
だから俺は、積極的に助けられる人は助けようと思います。

といっても、俺が逃げろと警告する前に、みんな打ち落とされてしまっていますが…
俺って無力…



「こんな殺伐とした夜がいいのかしら?」

って、また誰か来た!!

今度は人形を連れた、まったく知らない人だ。



「都会派魔法使いよ。」

「あー?、辺境にようこそだな。」

「田舎の春は寒くて嫌ねぇ。」


まずい、また険悪な雰囲気になってきたぞ!?
早く止めないと!!


「あの魔理沙さん。そんな売り言葉に買い言葉で喧嘩するなんて良くないですよ。」

「こいつ、自律した人形を連れているなんて、なかなかのやり手だな。面白そうだぜ!」

魔理沙さん、あなたは少しはマシかと思っていたのですが、唯の戦闘民族だったのですか、そうですか。


あーやっぱり、相手の人を説得するしかないのですね。

「あのーすみません、そこの都会派魔法使いさん?」

「なに?」

取っ付き難!!
なにこのツンツンした人!

と、とりあえず、こういう時には誰でも使える出身地の話題でも話て、何か態度が軟化するポイントを見つけなくては!

「都会派魔法使いさんはどちらの出身なんですか!?」

「…」

「と、都会派っていうんだから、都会なんですよね!?」

「魔界から来たの。」

(´゚ω゚):;*.':;ブファ
ちょっ何そのジョーク!思わず吹いてしまった。
出身地が魔界ってどういうことよ!?どこかの芸能人かよ!?
実は私、10万16歳なのとか。

この人、ツンツンしているように見えてもの凄い冗談好きのようです!
よし!俺も冗談言いまくって、仲良くなって説得に応じてもらうぜ。

「魔界っていいところですよねー。太陽が無くて暗くてジメジメしていて…」

「…」

あれ?そんな所、良いところじゃないだろ!っていう突込みが来るかと思ったけど来ませんよ…
お、俺の冗談ではレベルが低すぎて駄目なのか!?
くそ!再チャレンジだ!

「都会派って自称するぐらいですから、魔界の流行とかに詳しいんですよね?是非とも教えてくださいよ。」

さあ、どう返してくるかな?

「流行!?あの…私は、その…」

あれ?
ああそうか!これはフリって奴ですか!?
となると、俺がボケるんですか?
いや、都会派魔法使いさんは、発言から見てボケ担当だから…
そうか、さらにこちらでフリを上手く作って返せってことですね!!

「そんなに隠さずに教えてくださいよ~。 都・会・派 魔法使いさん?実は私根暗な引きこもりで、流行は知らないの~とか言ったりしないですよね~?」

んなわけ、あらへんやろー、うちの都会派っぷりを見せてやるでーってボケが返って…

「…」

「…」



あれれれれれれれ!?
何だか、都会派の魔法使いさんが凄く凄く悲しそうな目で黙り込んでしまったぞ!?

返し方を間違えたのか!?
やっぱり、俺のレベルでは冗談の相方を務められないのか!?

し、しかしここで諦めたら、都会派魔法使いさんの命がピンチです。



話題の方向性を変えて再々チャレンジだ!



「い、いや~。それにしても、人形を操るテクニックが凄いですねえ。まるで生きているみたいですよ~」

「!?」

「やっぱり都会派魔法使いさんぐらいになると、無意識に動かせるぐらいのレベルなんですか?」

とりあえず、べた褒めしてみたんだが、どうでしょう?
これで機嫌が良くなって仲良くなれば、説得に応じてくれるかもしれません。

「なんで分かったの!?」

「いや、そんなの見れば分かりますよ。」
そりゃここはゲンソウキョウという凄い技術で生物兵器を造っている所ですけど…
普通、動いている人形を見たら、操り人形だって思うだろ…
そりゃ、玩具とかで勝手に動く奴とか、研究所で使われている奴とかあるけど、こんなに繊細で多様な動きをされたら自律だとは思わないって。

でも、そのまんま答えたら、都会派魔法使いさんの心を開けないぞ。
ここは少し都会派魔法使いさんを持ち上げた言い方にしよう。

「なんと言うか、都会派魔法使いさんを見た瞬間ピンと来ましたね!この人の持つオーラは普通の人とは違うって。
 人形使いとして、人形こそが友達さ!って感じに人形ばかりを相手にしている人っていう感じが物凄くしましたよ!!」
まさに、三度の飯より人形って感じの、職人の雰囲気がします!

「…」
あれ?何も反応が無い。

「シャンハーイ…」
「ホウラーイ…」

と思ったら、何故か人形が都会派魔法使いさんを抱き締めだしましたよ!?
やっぱり、凄い操作テクニックだな!とにかくもっと褒めまくって、この状況を打開して見せるぜ!

「本当に凄いですね。人形を操って自分で自分を抱きしめるなんて普通の人にはできないですよ!
 いやー!さすが都会派魔法使いさんですよね!これはちょっと誰でもできる芸当じゃないですよ!!!
 そうだ!これをフハハハハ我輩の10万16歳の年季が入った人形芸を見せてやろう!って感じで皆さんに見せたら、きっとみんな大笑いしてくれますよ!話題になりますよ!!」





「どうせ、どうせ私は!うぁぁあああぁぁぁぁぁああぁあああ…


あれ!?
泣きながら飛び去ってしまいましたよ!?




何が起こったんだ!?



何やら…

とんでもない誤解が発生したような気がします!
とりあえず、追いかけて誤解を解かなくては!!

「ハニュー待つのだー」








「嘘でしょ!?さらに追撃する気!?」

「あそこまで追い込んだのに更にやるのかよ…さ、さすがにこれは笑えないぜ…」

「ハニューめ、さっきのような台詞をお嬢様に吐いたら、覚悟しなさい!」



side アリス・マーガトロイド


大っ嫌い!

故郷の魔界を馬鹿にされた。


大っ嫌い!

私の全てを見透かされた。

都会派魔法使いって気取っているけど、本当は根暗な引きこもりで流行も知らない女だって見透かされた。

自律していない人形を、自律しているように見せかけて誤魔化していることを見透かされた。

一目で人形が友達で、生身の友達が一人も居ないって見透かされた。



大っ嫌い!

人形を使って自分で自分を慰める、自作自演をするキモチが悪い普通じゃない女って馬鹿にされた。

そんな姿を皆に見せたら、嘲笑されて話題になるって馬鹿にされた。



大っ嫌い!大っ嫌い!

こんな酷いことを言った奴は大っ嫌い!



言われた通りの私も大っ嫌い…

何もかも大っ嫌い…




side 十六夜 咲夜

ハニューが、敵との会話に割り込んで来たとき、私達は自然と彼女達の会話に聞き耳を立てていた。
今度の敵とハニューは、どのような関係なのかと皆気になっていたからだ。

でも、三人とも今はその行為を後悔していると思う。
私達三人は、人の心が言葉によって壊される所を目の当たりにしてしまったからだ。

ハニューの言葉は、一つ一つが私のナイフのような鋭さを持っていた。
まるで、ふざけている様な態度で話し続けるハニュー、しかし敵の顔を見れば分かる。
言葉のナイフは、適確に敵の心に突き刺さっていった。

これほど陰湿で恐ろしい攻撃を受けた敵には同情してしまう。
スペルカードルールが適用されている幻想郷では、何事も揉め事は弾幕ごっこで解決することが多い。
よって、この手の精神を攻撃する手段は珍しい。
恐らく敵は、心が無防備な状態でハニューの精神に対する攻撃を受けてしまったはずだ。

例えそのような攻撃がありふれている世界だったとしても、ハニューのように自らの黒い真の顔を一見無垢に見える笑顔で隠している相手では、簡単に隙を突かれてしまうかもしれないが…



今まで私は、ハニューの物理的攻撃がお嬢様に及ばないように、それだけを考えて行動してきた。
しかし、ハニューの精神に対する攻撃がお嬢様に向けられたら…
お嬢様は齢500歳以上になるお方だ。
しかし精神面では、時々外見と寸分変わらない子供のような弱さを見せるときがある。


ハニューがその気になれば、お嬢様の心が壊されてしまう。
お嬢様!例え私の心が壊れても、あなたを守って見せます。




side 博麗 霊夢

逃げた相手を追撃することはスペルカードルール違反!!
って言ってやりたいのに!
まさかこんなルールの抜け穴を考えていたなんて!!!

弾幕ではなく、言葉での攻撃ではスペルカードルールの想定外、違反にはならないわ…

言葉による精神への攻撃か…
力の弱い妖精でも使える、スペルカードルールの規制を受けない新たな攻撃法ってことなんだろうけど…
これでは私は倒せないわよ!凹むかもしれないけど。
いや、人間にはそうであったとしても、精神的部分のウェイトが大きい妖怪たちには…
!!

まずいわね…
これって、下手をしたらスペルカードルールを前提とした現在の幻想郷のパワーバランスがひっくり返る可能性があるってことじゃない!!


この事実を紫が知ったらどんな反応をするのかしら…
博麗の巫女としてあまり肩入れするのは良くないけど、この前ハニューの攻撃から私を助けてくれた義理もあるし…







そういえば、攻撃を受けたさっきの魔法使い、今度出会った時にはどんな姿になってるのかな…
心配してやる義理はないけど、同じハニューの犠牲者として気になるわね。


----------



「待ってください!!」

「いや!来ないで!!」

何だか、もの凄い嫌われようです。
誤解とは言え、俺が嫌っていない相手にここまで嫌われるのは、もの凄く辛いです。

「誤解なんですよ!!」

「誤解って何よ!!ふざけないで!じゃあ、あなたは何がしたかったって言うの!!」

「俺はあなたを救おうとしただけなんです!!!」



「!?な、何を訳の分からないことを!!」



「いや、本当なんです!あの三人は貴方を殺そうとしていたんです!!」

「!?」

「馬鹿なこと言わないで、仮にもスペルカードルールを守る博麗の巫女が、殺しを目的に攻撃してくるなんて…」

「事実なんです!既に何人もの犠牲者が出ているのを俺は見ているんです!!
 だから俺は、あなたをあの場から逃がそうと強引に会話に割って入って、あなたを逃がすチャンスを見計らっていたんです!!!」


「そ、そんな…」
や、やっと止まってくれた…


「だ、だからって!私の気にしていることをあんなに言っていい事には!」


「あの…俺の発言のどこに傷つかれたのですか!?」

「全部よ!!
 私が根暗だとか!
 引きこもりだとか!
 友達が居ないとか!
 キモチが悪い女だとか!!!」


えー!?
俺そんなこと言ってないよ!?

何がどうなって、そんなことに!??????


「本当に、貴方を傷つけるつもりは無かったんです。ここまで貴方を傷つけてしまうことになるとは思いませんでした。本当にごめんなさい!!」


「傷つけるつもりが無かったですって!!そんなの嘘よ!!信じられるわけないじゃない!!あそこまで適確に私の欠点を突いておいて!!
 大体、なんで私の嫌がることをあれだけ言ったのか、理由になってないじゃない!!!!」

うわあああ。どんどんヒートアップしてきた!?
どうしよう!?
大体適確に欠点を突いたってどういうことよ!?
都会派魔法使いさんの欠点なんて知らないですよ!?

----------


「ごめんなさい!ごめんなさい!結果としては最悪でしたけど、あなたの命を助けたい一心だったんです!!
 だから、どんな手段でもいいからあなたの気を引きたかったんです!!貴方を傷つけてしまったけど、これが最善の方法だと思ったんです!!」


都会派魔法使いさんが逃げるのを止めて何分も経ちましたが、俺はさっきから同じようことばっかり言っています。
だって、これ以上に言えることないし!なんでああいう誤解になったか全然分からないし!!
もう、何が何やらわかりません!!
謝りまくるしかないですよ!
泣きそうです!

「私を虐めて気を引くって、どこの子供よ!!私の気を引きたかったのなら、普通に話しかければいいじゃない!!
 それとも何!?私みたいな変な人間と知り合いにもなりたく無いから、まともに話しかけるのも嫌ってこと!?」

「そういう訳じゃないですよ!そんな人だったら助けようとは思いません!!大体あなたと別に友達になっても嫌とか思っていないですよ!!」




「友達ね…」



「それなら、私を傷つけた償いとして、友達になってもらえる?」

え?それでこのどうしようもない膠着状態が治まるなら…
こちらからお願いしたいぐらいです!!

「わかりました。友達になりましょう!」


「分かったわ…、じゃあ友達としてお願いがあるの…私は今凄く傷ついているし、腹も立っているの…だからそれを癒すために、友達の貴方には私の憂さ晴らしの相手をしてもらうわ。」

はい!?


「私の全力の攻撃をあなたが受けきってくれたら、きっと私の気も晴れると思うの。もちろん、逃げるのは禁止よ。
 友達として、あなたの態度で償いをしなさい。」


ちょ!?????

これはまずい。
どうにかして逃げなくては!!
ルーミアは…
まだ追いついてない!?
何でだ!?

他に誰か!?助けてぇぇぇぇ!

ん?
都会派魔法使いさんの姿の向こうに見えるのは…
人影?
誰だか知らないがあの人達に助けを求めよう!!!
全力疾走だ!!


「!!」



side アリス・マーガトロイド

嫌な子だと思っていた。

私にあんなに酷いことを言ったのは、私の命を助けるためだと彼女は言った。
彼女が言うには、あの博麗の巫女が私の命を狙っていたという。

無茶苦茶ないい訳だと思った。
腹が立った。

でも、彼女の態度からはそれが嘘だとは思えなかった。
訳が分からなくなった。
だから、少し話を聞いてみようと思った。



彼女の発言はあまりにも酷いものだった。
私を助けるために行ったことであり、その結果としてこんなに私が傷つくとは思わなかった。
ごめんなさい。
要約すると、たったこれだけの内容だった。

確かに、彼女の目的である博麗の巫女達から私を引き離し私の安全を確保するという目的は達していたいが…
どうして私にショックを与え逃亡させるという手法を選択したのかまったく説明になっていない。
あまりにも抜けた部分が多すぎる弁明だった。
(私はこう見えてもすぐにケンカを買う悪い癖がある、その意味では極めて効率的な手法だったと認めざるを得ないが。)

私の欠点を一瞬で見抜く洞察眼がありながら、私の心を簡単にボロボロにしながら、なんともお粗末な私への弁明。
これほどの力があれば、もう少し私を手玉に取るような弁明の仕方があっても良いはず。

この子は何なのか?
そう疑問に思う私の胸の奥底から、不思議な感覚が湧いてきた。

その不思議な感覚が、私の胸から広がり心を満たしていく。

これは何?


これは怒り?悲しみ?

いや違う…

親近感!?




どうして…




私は感情を剥き出しにしてただ、罵りあっていただけなのに…

そういえば、ここまで感情むき出しにして喧嘩をしたのは何十年ぶりだろうか…
私はいつも高いところから、他人を見下ろしていただけだったから…

どうして、この子には…





気がついたら、目の前の子が嫌な子から変な子に変わっていた。
酷いことを言われた怒りはあったが、殺意の篭った罵り合いが子供のケンカに変化していた。
何故だか、彼女の行動が悪意のあるものではなく、悪意の無いものだと確信するようになっていたからだ。

いつの間にか、嫌いな敵とではなく、昔からの友人とケンカをしているような気持ちになっていた。


まったく分からない。
自分の心が分からない。
私は混乱し始めていた。


そんな時だった、子供のようなケンカの果てに、彼女が私の友達になると言い出したのは。


彼女の友達という言葉を聞いたとき、彼女が本当に友達になれるか試してみたいと思った。

私には友達は居ない。
でも、過去には彼女のように、友達になってもいいと言った人達がいた。

でも裏切られた。
みんな、私の元を去っていった。
多分私の性格にも問題があったのだと思う。

そんな生活を繰り返していたら、私は裏切られるぐらいなら友達なんて要らないと、いつの間にか思うようになっていた。


友達なんて要らないと思っていた私が彼女を試す。
今から思えば、この時私は彼女を友達にしたいと心の奥底で強く思っていたのだと思う。



でもその時の私は、私の本当の思いに気が付いていなかった。
ただ、私と友達になってもいいという言葉を軽々しく使った彼女へ、何故か突然イライラとしたものを感じ始めていたからだ。

友達。
彼女が身を置く世界なら、それは軽い言葉としてありふれた存在なのだろう。

でも私の世界は違う。
そういった軽い言葉の友達は要らない。

わたしは、彼女に弾幕を叩き込むことにした。
口では全力の攻撃と言っているが、もちろん全力では叩き込まない。

そこまで私は悪辣な性格ではない。
これはただの憂さ晴らしではない、教育なのだ。
私は、何の教育をしようとしているのかということも分からないまま、そう自分に言い聞かせ、力を必死にセーブした。












彼女は私の攻撃が当たる直前、突然動き出したかと思うと、私の真横を通り過ぎ真後ろに躍り出た。


私を信じ、私の攻撃を真正面から受けた者だけが私の友達になれる。
でも、やっぱりあなたも駄目だったのね。
あなたも、私を裏切っていった人達と同じだったのね。


半ば予想していたことなのに…
こうなると分かっていて攻撃したのに…
何故だか異常に悲しくなった。


そして、こんなことでしか友達だと確信できない自分に、とても悲しくなった。







全てに絶望したその時、弾幕に吹き飛ばされ、落下していく彼女の姿が目に飛び込んできた…


















「食料役の人には当たってない。当たったのは、背景役の妖精。」
「大丈夫よ姉さん、私の演奏を聴いて無事だった食料は無いわ。次は必ず食料役の人に当ててみせる。」
「じんにくー、ちゃんと当たれー」

















不器用。

本当に不器用。

確かに私は、友達として償いを態度で示せって言ったけど…




身を挺して私を守るなんて!




もっと他に効率のいい方法があったはず。

それを実行する能力も彼女にはあるはず。

それなのに…

彼女はあまりにも不器用すぎる!

こんなに不器用だなんて、これじゃまるで…




!!!


そうか、そうなんだ…






彼女は私とそっくりなんだ。
私と同じとても不器用な少女なんだ。





彼女の不器用な姿に、不器用で上手く人と分かり合えない自分の姿を見ていたのね…
だからこそ、あそこまで感情を剥き出しにできた。
だからこそ、あんなに酷いことを言われた相手なのに親近感が湧いた。
だからこそ、彼女は本気で私を助けようとし、その言葉も本当に悪意が無いと何故か確信してしまった。
だからこそ、私は簡単に友達という言葉を使った彼女にイラつき教育しようとした。私と同じだから、そんなことではあなたも裏切られるって…


そして、私の傷を理解することが出来る彼女と友達になりたいと心の奥底で思ったんだ。
そうなんだ…私。



ごめんね。
もう一人の私。
もっと早く信じてあげればよかった。


あなたは、例え私に嫌われようとも…
例え自分の身がどのようになろうとも…
そんなことをかなぐり捨てて、一途に私の身の安全を思っていてくれたのに…

それなのに、私は傷ついただの、どうだのって自分の事しか見ていなくて…
確かに、彼女の事が嫌いだって思いはまだある…
でも、彼女は私と同じ。

彼女と和解し理解してあげられないのは、もう一人の自分を作ることと同じ。

これはただの同情心なのかもしれない。

でも、だからこそ。
私こそが真っ先にあなたの思いを分かってあげなくてはいけない!

信じてあげないといけない!!



ごめんね。
もう一人の私。
これからは、永遠に信じてあげる!!





「食料役の人、今度こそ仕留めます。」
「ちゃんと仕留めろー、また変なのに当てるなー」



「食料役じゃないわ、私はアリスよ。



 それに、彼女は変なのじゃないわ。









 友達よ。」







----------


side 博麗 霊夢

「3対1なのに良い覚悟です。」


「3対1?馬鹿なことを言わないで。



 100対3よ。一瞬で終わらせてあげる。」


「な!?」



何なのこれ!?
頭が春っぽいヘンテコな妖精をやっと始末して、ハニューとさっきの魔法使いに追いついたと思ったら。
ハニューの姿が無くて、魔法使いが三人組の騒霊と戦ってる!?

「うあー!?」
「リリカ!?」

いや、戦っているというより…

「姉さん!!」
「メルラン!!」

人形の津波に騒霊達が飲み込まれている!?

「なんで!こんな!?!!!!!」


「さようなら。」

「!!」




戦闘開始からまだ10秒も経っていないのに!?
思った以上にやるじゃない…



「ちょっとあなた、ハニューはどこに…」


って何よあいつ、私を無視して!!



「なあ霊夢~。こいつら何か知っているようだぜ。」
























落ちてます落ちてます落ちてます。
ゆっくりですけど、確実に落ちてます。

何が起きたかよく覚えていないのですが…
都会派魔法使いさんの攻撃をかわして、助けを求めようとしたはずなんですが…
気がついたら落っこちていました。
どうやら、都会派魔法使いさんの攻撃をかわしたと思ったけど、当たってしまったようです。


誰か助けてくれー

いやね、俺飛べるんですが、痛くて力が入りません!!
おまけに…
「ホウラーイ」
何だか、気がついた時からずっと人形が俺の襟首を引っ張り上げようと頑張っているのですが…
どう見ても、首吊りです。
本当にありがとうございました。


「大丈夫!!!」

おお!ルー…

ってあれ!?
都会派魔法使いさんじゃないですか!?

「よかった!!!無事みたいね!!!すぐに引き上げてあげるわ!!!」

!?
何だか、機嫌が直ってる!?

これは、俺を攻撃して憂さ晴らしができたということでしょうか。
なんというか、複雑な心境です。

「お願いだから、さっきみたいなバカな真似はもうしないでね。いくら友達を助けるためとはいえ、またあなたが撃ち落される所を見たくないわ。」

えー。
そちらが攻撃したんだろ!?
どういうことなの?
とりあえず話を合わせるべきか!?

「もうする予定は無いです。」



----------



「私の名前はアリス。アリス・マーガトロイドよ。あなたは。」

「ハニューです。」

「そう、ハニューね。これからよろしくハニュー。」

「よろしくお願いします。アリスさん。」

「あ、アリスって読んでいいわよ。友達なんだから。」

「そう言ってもらえるのは嬉しいのですが、ちょっと恥ずかしいので、アリスさんでいいですか?」

ああそうか、一応友達になったのか俺達。
あれで友達というのも変な気がするのですが…


何でも、アリスさんを守るために俺は盾になって撃ち落されたそうです。
そして、それを見たアリスは、俺を友達として信じることにしたとか。
でも、だからって俺の言ったことを全部許したわけじゃないから、自他共に認めるちゃんとした友達になることで償ってくれないと、許さないんだからねっていうことだそうです。

敵を命がけで守ったことによって、その敵との間に友情が芽生えるって…
どんなドラマチックな話ですかそれは…

それにそんな話、初めて聞いたのですが!?
そもそも、俺を撃ち落したのはアリスさんでしょ!


もしや…


この人は。
妄想の中で生きているタイプの人なのでしょうか!?

そう考えると辻褄が合うぞ!?
魔界出身発言で冗談好きかと思ったけど、妄想的には事実だったら魔界出身発言を聞いた瞬間、俺がウケてしまったことは失礼なことで、怒る原因になったとも言えるし…
そもそも、俺が酷いこと言ったとか言っているけど、そんなことを俺が言わなくても妄想で補完されたら…

これはまずいw

とにかく、下手に刺激しないほうが良さそうです。


「ハニューがそう言うのなら…でも慣れて来たらアリスって呼んでね。」


「わ、わかりました!!」





side アリス・マーガトロイド

心がグチャグチャ。
凄く嫌なことと凄く嬉しいことが同時に起きて、冷静に振舞うだけで精一杯。

私をこんな気持ちにさせたのはハニュー。
私の友達。
そして、私に嫌な思いをさせた人。

ハニューとは、もう友達になったのに…
大見得切って決意したはずなのに…
私の事をあれだけ思い、私と同じ不器用さを持つハニューとなら本当の友達になれるって訴える私と、どういった理由があってもあんな嫌な思いをさせた人は嫌という私が、今もケンカを続けている。

私の心は本当に弱い。

魔界に居たときの私だったら、こんなに心がグチャグチャになったら、きっと友達も何もかも投げ捨て、嫌な思いから逃げだしていたと思う。
でも、私は自分を変えるために魔界を出てきた。

逃げては駄目。

逃げていては私は変わることが出来ない。
逃げなければきっと変われるはず。

そうよ。

ハニューとは最悪の出会いだったけど、だからこそ私達の関係はこれからは上がっていくだけなのよ。
頑張れば、きっとこれまでとは違う未来が待っているわ。
頑張れ私。




----------




「ねえ?いきなりなんだけど、ハニューにどうしても聞きたいことがあるのだけど、聞いていい?」

なんだ?ちょっと怖いのですが…

「どうぞ…」

「なんで私をあそこまでして、助けようとしたの?
 身を挺してまで私を守ろうとしてくれたハニューの姿を見て、そりゃ酷い内容だったけど、私のことを思ってあんな滅茶苦茶なことをやったことは分かったんだけど…
 どうして、その相手が私なのかが分からないの…自分で言うのもなんだけど、そこまでしてハニューに守ってもらわなくてはいけない価値が私には無いわ…」
おおう。
実は、特に理由なんて無いのですが。
とにかく、誰でもいいから命を助けたかったんですけど…
うーん…
ここは正直に話すべきかな?

よし、正直に話そう。

「特に理由は無いです。ただアリスさんを見て、助けたいと思ったから助けたんです。」

改めて口にすると、これは酷い。
どこぞの正義のヒーローみたいだな…
でも、正義のヒーローと違ってアリスさんを傷つけちゃうし…
色々と酷くて顔から火が出そうだぜ…




誰か、話題を変えてくれ!
この話題は恥ずかしいのですが!?

「大丈夫だったのかー?」

って話題を変えるネタきたー!!
GJだルーミア。

「ハニュー、あなたどこに行っていたの?」
「私達は、この結界を越えていかなくてはならないのよ、あまりも遅いから置いていく所だったわ。」

何処と言われても困るのですがメイド長。
空と地上の間?


「なに!?やる気!?」


って、何でアリスさん戦闘態勢なんですか!?

「それは貴方達の態度次第ね。」

まずい、アリスさんに三人がアリスさんを殺そうとしていたことを伝えていたのを忘れていた!?
ここに居たらまずいぞ!?


「おーい!!先に行っているからな!!!」

ちょ!!魔理沙さんこちらの雰囲気無視ですか!?
でもこれは助かりました!


「とりあえず、先に進みましょう!!」



----------



とりあえず、皆で先に進むことになりました。
魔理沙さんが聞き出したところによると、この先で花見が行われているとか…
そしてそこが異常気象の元凶の可能性があるとか…

それはおかしいw
前後の文章が繋がっていません。




ちなみに、そんな情報誰から聞き出したのかと思ったら、さっき俺が助けを求めようとした人達からでした。
何でも、アリスさんにボコボコにされたので素直に言うことを聞いたとか…
アリスさんに聞いたら「あなたの敵をとったのよ!悪い?」って照れながら言われました。
俺、あの人達に何かされましたっけ!?
大体あの人達をどう見ても、ただの少年少女音楽隊とか、そういったモノにしか見えないのですが!?

これってあれですか?
アリスさんの頭の中では、この人達は俺を攻撃した悪の怪人にでも見えたってことですか!?

いやね、もしかしたらアリスさんの妄想が事実っていう可能性も考えていたのですよ。
でも、攻撃してきた人達が少年少女音楽隊ですとねぇ…
確かにここはゲンソウキョウですし、少年少女音楽隊に偽装された、もの凄い戦闘力を秘めた凶暴な生物兵器という可能性もありましたが…
少年少女音楽隊は花見の席での公演に向かっている途中だったそうですし…
ルーミアでも知っている有名な音楽隊だそうで…

常識的に考えて、いきなり襲い掛かってくる人達には見えないのですが…


アリスさんの妄想には気をつけたほうが良さそうです。
でも、こんなに綺麗な大人の人と友達になれったっていうのは、正直嬉しかったり…






いったいこの旅はどうなってしまうのでしょうか?
花見会場に乱入して大量虐殺…
そんな未来はごめんです。


side 博麗 霊夢

ハニューの精神攻撃を受けた魔法使いが、ハニューの代わりに戦闘を行った。
更に私達を前にして、まるでハニューを守るが如く戦闘態勢に入った。

私達と別れた後に何があったっていうの!?


「霊夢さん、ハニューとあの魔法使いに何があったのか気になりませんか?」

「気になってるわよ。でもさっぱり分からないわ。咲夜は何か心当たりある?」

「今回のケースとは違うのですが、下賎な吸血鬼は血を吸った相手を自分の下僕に作り変えてしまうことがあります。ハニューも何か、あの魔法使いに細工をしたのでは?」

「あいつ!そんなこともできるの!?」

「落ち着いてください!これはただの仮説です。」

気がついたら、ハニューの下僕に作り変えられていたなんて…
そんな恐ろしいことあってたまるもんですか!!




side アリス・マーガトロイド

命がけで私を守ってくれたのに…
その理由が私を見て、助けたいと思ったから助けたってどういうことなの!?

全然意味が分からないわ。

状況をよく思い出してみるのよ…

ハニューは助けた理由を話す時、少し躊躇っていたわ。
そして、話す時には少し決意したような表情をしていたわ。
話し終わった後は、何だか赤い顔をしていたわ。

やっぱり全然分からない。

適当なことを言われたのかしら!?

そんなことを考えたらだめよ!!
友達であるハニューを永遠に信じてあげるって決めたじゃない!!
今度こそ、ちゃんとした友達を作って私は変わるって決めたじゃない!!


そうだ!

今度、魔界に居る母さんに相談すればいいわ。



[6470] 第九話 常識的に考えて大人向けの内容だと思う。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/18 21:41
第九話
常識的に考えて大人向けの内容だと思う。


なんというか、だんだん暖かくなってきました。
桜の花びらも飛んでいます。

ここは楽園ですね~



嘘です。
少し嘘をつきました。


なんというか、半透明の何処と無く人魂っぽいのがいっぱい見えるのですが…
ちょっと怖いんですけど!?

「なあ、ルーミア…あれって人魂じゃないよね!?」

「そうなのかー」

パクッ

「冷たくて味がしないのだー」

ちょっ!?
いきなり、人魂っぽい何かを口に入れる奴がいるか!?
早く吐きなさい!
そんなもの食べたらお腹壊します!!
大体、呪われてもしらないぞ!?

「アリスさんからも何か言って!」

「実験用に何匹か捕まえておこうかしら…」

こっちはこっちでもっと恐ろしいこと言ってるし!?










これは、人魂ではない…
人魂ではない…
人魂ではない…


人魂なんて存在するわけないです。

そうです。
例え、ルーミアの口から吐き出させようとした人魂っぽい何かが、ルーミアの体をすり抜けて出てきても人魂であるはずなどありません。
多分見間違いです。
け、決して怖いわけではないぞ。
そ、そんな非科学的なものなんて無い筈だからこんなこと言っているんだぞ。


きっとこれ人魂型生物兵器とか、意表を突いて空飛ぶアリスクリームとかに違いありません。

「そ、そうだよな、ルーミア?」

「そーなのかー?」

「そうに決まってるだろ!!さっき、ルーミアの体を通り抜けたように見えたのはきっと錯覚だよ。今度こそはちゃんと食べられるはずさ!」

「ふーん、そうなのか。」

いつも通りそーなのかーって言ってよ!?




----------





それにしても、本当にここは何処なんでしょう。
何処となく、いつものゲンソウキョウと違う感じがします。
なんというか、人の気配がしないんですよね。
何処見ても人魂っぽい何かしか見えないし。
さっきから、攻撃してくるのも人魂っぽい何かばっかりですし。
まあ、博麗の巫女の犠牲者が出る心配が無いので、そこはありがたいのですが…

「あなた、人間ね。ちょうどいい。あなたの持ってるなけなしの春をすべて頂くわ!」

「ルーミアは妖怪なのだー」

そんなこと思っていたら、誰か来ちゃったよ。
また、説得しなくちゃならないのか?

「みんな騒がしいと思ったら、人間が三人に、魔法使い・妖怪・妖精が一人ずつ、全員生きているなんて。これだけ揃っていれば…」
揃っていたら何だというのですか?

「春をすべて頂きます!!」

何この人!?
いきなり春を頂くとか訳の分からないこと言っていますよ。

説得するにしても、この人が何を言っているか分からないとどうしようもないぞ?
いったい、どういう意味なんだ!?

春の意味とは…

四季の一つ

以上終わり。

えええ?俺達春なんて持ってないし…
意味が分からないのですか?
これは、何か別の意味があるのですか!?

春…


うーん…


この場合頂くというから、何かやり取りができるものだよな。

しかも話の内容からして、俺達全員が持っているもの。
となると、俺達の共通点と関係があるな。
俺達の共通点から考えると…

ゲンソウキョウの住人?
ゲンソウキョウの住人は春を標準装備している?
そんな話は聞いたことが無いな。

それ以外は…

全員見た目若い女性ってぐらいだが。
俺本当は男だけど…

若い女性ならやり取りできる春?
そんなものあったったけ?



そういえば、一つあったぞ。
これは今はあんまり使われてない言葉だけど、エッチなことをしてあげるために、女の人がお金を受け取ることを春を売る。
逆にエッチなことをするために男の人が女の人にお金を渡すことを春を買うという言葉があったはず。



じゃあ春を頂くって…



つまり、お金を強引に渡されてエッチなことも強引にされてしまうということですか!??????

ちょっ!????


いやいやいや。
そんなことあるはずない。
見た目、しっかりした感じの女の子がそんなこと…
服装もそんなに遊んでいる感じはしませんし…
そんなに悪人って感じもしませんし…
持っている刀も、なかなかアクセントがあって逆に似合ってますし。


刀!?


何であの子、刀なんて持っているんですか!?
メイド長みたいにナイフを投げるならとにかく、近代戦で刀なんて役に立たないだろ!?
妹様みたいに剣とか言いながら、実際は火炎放射器みたいに炎が出るやつだったらいいのですが…
どう見ても、普通の刀だよな…
妹様のは明らかに剣とは別の何かだったので納得だったのですが…
ということは、これはゲンソウキョウの生物兵器として最初から装備していたのではなく、何らかの理由で後付の可能性が高いな。

例えば、あの子の家は侍の家で、師匠からもらったとか…
ちょっと無理あるな。
年中バトルロワイヤルなゲンソウキョウで近代戦で不利な刀を武器に生き残ってくるなんて無理があるだろ。

となると、やはりあれは真剣であったとしても、飾りとしての用途が大きいのか。
「この楼観剣に斬れぬものなど、殆ど無い!」
あーやっぱりね。
博霊の巫女達と何やら言い合っている本人も、少し自信なさそうなことを言っているからこれは確定ですね。
あれはただの飾りです。
刀一本で生き抜いてきたのなら、こんな自信が無いようなことは言わないと思う。

となると、やっぱり用途としては飾りか~
刀を飾りとして持ち歩きそうな人達って何だ?
俳優さんとか?
いやあれは真剣じゃないだろ。
正確にはドスだけど、そんなヤのつくお仕事じゃあるまいし…


!?

なるほど~
つまりあの子は極道の世界で生きていて、女の子を集めて強引にエッチなことをしようとしているということですか、そうですか。





((((;゜Д゜)))ガクガクブルブルブルブル


あの子にエッチなことをされるのはまだ許せるのですが…
背後には、大勢の老若男女がいて…
きっとそこでは口では言えないようなとんでもないことが…
いやだー!!!
俺の貞操がピンチです!!!
怖いです!
もの凄く怖いです!
命のやり取りより、ある意味怖いです!!

本気で震えてきたのですが…




「あの、アリスさん…」

「ハニューどうしたの?」

「ちょっと、震えが治まるまで手を繋いでいてください…」


「え!?わかったわ。」




「春を取り戻すために、あなたを倒すわ!!」
メイド長達はあの子を異常気象の原因として攻撃するようです。
どう考えても、非常識な理由ですが今回ばかりは頑張ってください。
お願いします…本当に怖いんです。





----------





あの後直ぐに戦闘が始まって、現在一端戦闘が収まっています。

そして、博麗の巫女達と、例の女の子が現在何やら話しています。
因みに、俺は後方のほうでアリスさんに手を繋いでもらっていまず。
俺は背景です、無視してください作戦です。


「一時は貞操の危機かと思ったけど、俺達無視されているみたいだし、何とかなりそうだな。な、ルーミア?」


あれ?
ルーミア何処にいったんだ!?



「ひゃあああああああ!?」

「やっぱり食べられないのだー」

「何をみょんなことをしてるんですか!!!!!
 お、乙女の体を口に入れるなんて何考えているんですか!!!!!」

何するだァーッ!
ルーミアお前はそこで何をしているんだあああああ!?

「そーなのかー?
 ハニュー、やっぱり食べられないのだー」








「あなたですか…この子にこんなことをやらしたのですか…」
ええ?
「許しません!!」
俺がターゲットになってる!?
やばい!!攻撃してきた!???

いやだ、ネチョはいやだ!!

どうしよう!

どうしよう!

弾が!?
弾に当たる!!!

どうしよう!


「アリスさんごめん!!
 ルーミアごめん!!
 春を奪われるわけにはいかないんです!!
 だから、俺は……ごめんなさい!!」
すみません。逃げます!

「ハニュー!?」




side アリス・マーガトロイド


「逃げた?そんなバカな!?」


どういうこと?
ハニューが私達を置いて逃げた!?
博霊の巫女達は逃げたとか言っているけど本当なの?

確かに、ハニューは異常に震えていたわ。
でも、おかしいじゃない。
異変を止めようと出てきたハニューが、たかが攻撃の矛先が向いたぐらいで逃亡するなんて…

ハニューが震えだしたのは、あの春を集めている女の子に出会ってから。
あの女の子とハニューの行動には意味があるということかしら。

そういえばハニューは「春を奪われるわけにはいかない」「ごめんなさい」って言っていた…


もしや…
あの女の子の言葉から、春を集められたら何が起きるか気がついたというの!?

でも、それじゃ何故一人で…

(ごめんなさい)
まさか!?
何かとんでもない無茶をする気なんじゃ…
その無茶に私達が巻き込まれないように一人で…

本当は、ごめんなさいの後には「二人を置いて俺一人で敵と戦ってきます」とか言いたかったのね。

本当に不器用な子!

まったく呆れちゃうわ。

でも、きっと私の時もこんな感じだったのね…





「ルーミアは直ぐにハニューを追いかけて!多分桜の花弁を辿って進んでいるはずよ!!
 ここは私が引き受けるわ!!
 ハニューには、私は後で行くから安心して先に進んでって伝えておいて!!」

「そうなのかー!!」


目の前の敵を倒し、ハニューの後方の憂いを絶たなくては。
そして、出来るだけ早くハニューに追いつかないと。
もし、私の思い通りなら…

私の時みたいに無茶なことをしてはだめよ。
分かっているでしょうけど、命の概念が違う妖精といえでも、何をされても平気というわけではないのよ。














俺は何をやっているんだ…
いくら恐怖でパニックになっていたとしてもこれは酷い。
アリスさんとルーミアを置いて逃げちゃうなんて…
直ぐに戻って二人と合流しないと。


しかし、さっきからこの集中砲火は何だ!?
これじゃあ、前にも後ろにも進めないじゃないか!


「待つのだー」

おお!
ルーミアが追いついて来た!!
でもルーミアだけか…

「アリスさんは?」

「後で来るから安心するのだー。そんなことより、さっさと進むのだー」
そうか、よーし。
「ちょっとルーミア手伝って!!」

「そーなのかー」



----------




ルーミアの援護のおかげで、桜が満開になっている所につきました。
というか、実はルーミアの後について行っただけなんですけどね。
なんだか、ルーミアは全然迷い無しって感じで進んでいたもので。


大きな建物に、満開の桜。
あと、少し元気のないつぼみばっかりの桜。


綺麗な光景のはずなんですけど…
なんか違うような?
花の美しさというか、雰囲気というか…



「お腹が空いたのだー」


さすがルーミア、風流の欠片も無いなw
さっきから、やたら口に物を入れると思ったら、そういうことだったのか。
そんなこと言われてもどこか食事ができそうな所って…

あ!

「あっちの大きな建物にでも行って、何か食べ物が貰えるかどうか聞いてみようか?」

「そうなのかー!!」





ってルーミア飛ぶの速いよ!
ちょっと待って!!









「あらあら…騒がしいわね~」


おや?
この大きな建物の住人!?


ピンクの髪をした、どこかホワワンとした女性だ。
服装は…



何故この人は、帽子にドリーム●ャストのマークを着けているんだ!?

ド●ームキャスト。
それは、P●2に対抗してセ●が世紀末に投入したTVゲームマシン。
●ガが撤退を表明し、消えてしまったゲーム機のマークが何故ここに???


「いきなり、人の顔を凝視するなんて、失礼じゃないかしら?」

しまった、初対面の人に失礼なことをしてしまった。

「すみません。懐かしかったものですから。」


「まあ。そうなの!それじゃあ、ちゃんとお出迎えしてあげなくちゃいけなかったわね。
 もう、お客様が来ているというのに、うちの庭師ったら何処に行っているのかしら。」

何か誤解があるようです。
俺は、お客じゃないですよ。
「俺は、お客様ではないですよ。」

「じゃあ、あなたは何?」

「ただの通りすがりです。
 先ほど、刀を持ち体に人魂っぽい何かを巻きつけた女の子に襲われて逃げてきたんです。」

「まあ、うちの庭師から逃げてきたの。」


え?
まさか…この人、さっきの人の関係者!?

「あの子ったら、春を集めてくるよう言っておいたのに、逃しちゃうなんて。」

しかも、この人が黒幕!?
ということは…


組長なのか!?


おおう。
逃げたと思ったら、間違えて敵のど真ん中に来てしまった!
\(^o^)/



「あなたは、私の敵なの?
 春を集めることを阻止しに来たの?」


なんとか、弁明というか説得しなくては。
エッチなことを強引にされて、ネチョネチョのグチャグチャにされてしまう!


「俺は、敵ではありません。ただ…
 春を集めるのは止めた方が、あなたのためになると思います。
 そんなことをしたら、きっと最後は身を滅ぼしますよ。
 それに、そんなことをする必要ないじゃないですか。」
どう考えても、犯罪だし。
被害者は皆怒るだろうし。
大体、ゲンソウキョウって右見ても左見ても女の子ばっかりじゃないですか、こんなに供給過多なのになぜこんな無茶を…


「何でそんなことが分かるの?
 もう少しなの、もう少し春を集めたらサイギョウアヤカシがマンカイになるの。」

サイギョウアヤカシ?
マンカイ?

サイギョウアヤカシって何だ?
そんな言葉聞いたことがないのですが…
ということはこれは何かの固有名詞と考えるべきか。

マンカイって言ったら、普通は満開だけど…
エッチなことをする為に女の子を集めることと意味が通じにくいな。
となると…
満会のほうか!

先日何故か突然終わってしまった《小悪魔さんの花嫁修行を手伝う会》とかの色々な会の最後の会を満会って言うはず…
《小悪魔さんの花嫁修行を手伝う会》は最終回を目前にして主役の小悪魔さんが部屋に閉じこもってしまったので「本日で無事満会を迎えられました」とかいう内容のスピーチが無駄になったと聞いたぞ。

それはともかく…
もう少し女の子達をエッチなことをする目的で集めることができたら、サイギョウアヤカシ会が無事終了を迎えられるという意味ですか。





な、なんという18禁な会。
なんという犯罪集団。


ま、まさかあのお屋敷の中には、サイギョウアヤカシ会員の皆様が飢えた狼のように女の子達を待ち構えているとか…



とにかく俺の貞操が危険です。
どう危険かは、あ、あまり考えたくない…

ルーミア逃げるぞ!!
ってルーミアはあのお屋敷の中に入ったきり出てきてないか。














まさか、もう既にサイギョウアヤカシ会員の皆様の魔の手に!?



やばい!
何とか、ルーミアを奪還しなくては!

どうする。

1 強行突破してルーミアを奪還し脱出。
  「また一人来たぞーヒャッハァーーー」→ネチョ

2 俺の身を差し出すふりをして、油断した隙にルーミアを奪還し脱出。
  「たっぷり楽しんだ後返してやるよヒャッホォーーイ」→ネチョ

3 ドリキャス(目の前の人のこと)&サイギョウアヤカシ会員をフルボッコにして脱出。
  「我々の業界ではそれはご褒美です。」→ネチョ?
  とういうか、俺の戦闘力では無理だろ…

4 ルーミアを見捨てて逃げる。
  「ルーミア!?仕方がなかったんだ!!」→「大ちゃーん!」ドーン「汚い花火なのかー」→死

5 頑張ってドリキャスを何とか説得する。


辛うじて可能性があるのは5だけか。
もう既に一回失敗してるけど…
他に手がない。


「あのですね…
 自分の欲望というものも大切かもしれませんけど…もう少し先のことを考えてください
 そんなことをしたら、サイギョウアヤカシは満会になるかもしれないですけど、どう考えても身の破滅ですよ。
 大体ですね、あなただけの身の破滅では済まないのですよ。
 あなたの周りも皆迷惑を被るんですよ。
 こういうことをしたら身を滅ぼすことぐらい、あなただって分かっているはずでしょ?
 まさか、本当に分からないとか言うんじゃないでしょうね。」




「わからないわ~
 だからやってみようと思うの。」



駄目だ こいつ… 早くなんとかしないと…
でももう手がないぞ!?




「お話はおしまい。
 勝手に人の庭に入ってくるなんて悪い子ね。
 罰として、あなたの春を渡しなさい。」


どうしよう!
って既に捕まってるし!?


「馬鹿なことは止めろ!俺から春を奪ったらサイギョウアヤカシを潰すぞ!」
開放されたら、警察に言いつけて潰してやるもん!!
「そんなことが可能だと思っているの?」

うわーん
この人信じてない!
俺も信じてないけど!!
よく考えたら、こんな法律も何もないゲンソウキョウだったら、どうしようもないじゃないか~




あはははははは…



全てオワタ!!
\(^o^)/




こうなったら、やけだ!!
もう、どうにでもしてくれ!!
どんなプレイでも耐え切ってみせるぞ!!



これはサービスだ!!
俺から服を脱いでやる!!
ええい、面倒くさい!
破り捨ててやる!!



「!?」



さあこい!
サイギョウアヤカシ会員の皆様!!俺はここにいるぞ!!












あれ?


来ないのか!!??
怖気づいたのか!?

それても、俺の貧弱な体じゃ駄目なのか!?

ええい、ドリキャス!お前も服を脱げ!!!


「ちょっとなにするの?止めなさい!?
 この!!」



うわわわわわあー!?????












「おい!こっちにいたぜ!!!」



side 霧雨 魔理沙
アリスとか言う魔法使いが言うには、ハニューが単独で敵の黒幕と戦っているっていう話だったが…
本当だったみたいだぜ…

しかし、どんな凄い戦闘をしていたんだこれは。

黒幕っぽい奴は服が破れて半裸だし…
ハニューに至っては殆んど全裸だぜ…

ここまで服が破れるなんて、普通の弾幕ごっこだったら有り得ないぜ。



side アリス・マーガトロイド
やっぱり!
私の時と同じように、不器用なくせにまた無茶をしていた!!
たった一人で、服がボロボロになるまで戦っていたなんて!!

本当に不器用な子。
博霊の巫女達はあなたが逃げたと思っていたのよ…

でもおかげで、あなたが私の思ったとおりの人だって、本当に確信が持てたわ。
心の整理に少し時間がかかるかも知れないけど、あなたが私に言った酷い言葉、絶対に水に流してあげる。



ハニューが友達って決意するのはこれで何度目だったかしら。
でも、これで本当に最後。

ハニュー。
友達である私にこの後は任せて、そこでゆっくり休んでいてね。



----------






正に危機一髪といった感じでしょうか。

無理にドリキャスの服を脱がそうとしたら、弾き飛ばされました。
おかげで、服を破くことができたけど…



あのままだったら、確実にネチョか死んでいたと思います。

ドリキャスの戦闘力ははっきり言って凄かったです。
四人がかりだったのに、かなりの粘りを見せていましたし…
ドリキャスを倒したと思っても、何やら良くわからない状態になってまた襲ってきたりするし…
それに対抗できる博麗の巫女とかも凄いのですが…
まあ、途中から危ないので避難していたので、正直よく見ていなかったのですがとにかく凄かったです。
例の如く戦闘力を自慢してきた博麗の巫女にも「よく見てなかったけど、お互い凄かったですよ」と素直な感想が出てしまうぐらい凄かったです。



因みに、ドリキャスはサイギョウアヤカシを満会にするのを諦めたようです。
戻ってきたルーミアの相手をしていたので細かい話は聞いていませんが…


そうそう、ルーミアが戻ってきました。
本人曰く「お腹いっぱい食ったのだー」とのこと。
ルーミア…
まさか、性的な意味で腹いっぱい食べてきたとか言うんじゃないだろうな!?


「ルーミアに質問です、大盛りのご飯と男の人どちらが食べたいですか?」

「うーん…」

悩むのかよ!!
いつからそんな大人な…
というか変態になってしまったんだ…
これはしっかりと正しい男女関係を教えてあげなくてはいけないと思う。


























色々あったけど、とりあえずそろそろ帰るか。

「こんにちは!こんにちは!
 おおー!!
 ハニューさん大胆な格好をしてますね!」
パシャ!

ちょっ!?
何でここに文さんが!?
というか撮らないで!!
俺裸なんだけど!!

「何を嫌がっているんですかハニューさん!!なかなか似合ってますよ~」

服が殆んど残って無いのに似合っているっておかしいだろ!?
これは、芸術的なファッションとかじゃないし!?

「やめなさい!」

ギュっ

アリスさんありがとう!
アリスさんが俺を抱き締めて、カメラから見えないようにしてくれています。
これは助かります。

「まあ、まあ、硬いことを言わずに~」
パシャ!

「これはスクープですよ~」
パシャ!

「文先輩!流石に不味いですよ!これじゃ発禁になっちゃいますよ!!」

「椛!報道は真実をありのままに伝えるものなのよ!例えそこにどんなものが写っていたとしても、勇気を持って真実を報道しなくてはいけないのよ!!」

「!!文先輩…。そんなに報道への熱い心持っていたなんて!!」

「とういことで、ハニューさんの全てを撮らせてください。」

嘘だ!!
何この茶番劇!?


誰かお願いだから服を貸してくれ~



「しょうがないわね。
 私の代えのメイド服を貸してあげるわ。」






ええ?





何故メイド長が俺に服を?
しかも、もの凄い笑顔だし。

この笑顔見たことあるぞ?
あれだ、博麗の巫女と同じだ。

これには何か裏がありますね!?

そういえば、イタリア系のマフィアは殺す相手には敵意を隠すために贈り物をするとよく言われますよね…


やっぱり、メイド長は俺を殺す気ですね!?
博霊の巫女との最前線に送られて以来、露骨に殺されそうなことが起こらなかったから安心してましたが!?

何故今になって!?

そうか!

メイド服を破いたことが悪かったのですね!?

お嬢様からお借りしている大切なメイド服を破くとは…不敬罪で死刑です!
とかそういう展開ですね!?



やっぱりここは逃げるべきなのか!?
予定通り、大ちゃんの家に…

いやいやいや…
虐められている程度なら大ちゃんの家に逃げたらいいが、俺の命が狙われているとなると…
大ちゃんまで命が狙われるかも…

「避けられるものなら避けてみればいいわ」「お前が助かっても、大ちゃんは粉々だわ!!」

「考えたなちくしょー!」
って展開になるかもしれない。


ここは逃げずに生き残る方法を考えなくては。
例えば、優秀な働き振りを示しつつ、メイド長のイエスマンになって許してもらうとか…



パシャ!


「あーとにかく文さん?
 このメイド服着た後なら、いくらでも写真とっていいですけど…
 裸の写真を新聞に載せたら、二度と取材には応じませんよ!」


「えーーーー!そんな!表現の自由への挑戦ですか!?」


その理屈はおかしい。



side 十六夜 咲夜
勝った!!
ついにハニューに勝ったわ!!

ハニューって胸が私といい勝負かと思っていたけど。
小さいどころか、まったく無いじゃない!!
しかも、他の部分も幼児体型からあまり成長していないなんて!!

こんな哀れなスタイルの子とスタイルを張り合っていたなんて、私って大人気ないわね。
哀れなハニューには、大人としてスタイルと心に余裕のある私が代えのメイド服を貸してあげるわ。







早く紅魔館に帰ってこの偉大な勝利をお嬢様に報告しなくては。











----------














「なあ?ハニューは黒幕と、どういう戦いをしたんだ?」

ドリキャスさんとの戦いですか?
「説得しようとしただけですよ。」
戦っていませんし。

「…ずいぶんと荒っぽい説得だぜ…」

荒っぽい?
いや、どちらかというと丁寧な説得だったと思うのですが?
「そんなことないですよ。このままじゃ身を滅ぼすことになると丁寧に教えてあげたのですが、なかなか話を聞いてもらえなくて。」

本当に大変だったよな。俺必死だったし…
ああそうか、丁寧というより自分の身を守ろうと必死でしたね、中身男の俺が貞操の危機に陥るというのはちょっと笑える話ですけど…
ってにやけちゃ駄目だろ。
やっぱり冷静に考えて大ピンチだったよな。

「魔理沙さん達が来てくれなければ、大変なことになっていましたよ。
 もう説得を諦めたところでしたから。」
俺、人生オワタ状態でしたからね。

「……大変なこと!?」

「死か、永遠に続く…いやこの話は止めましょう。」
あまり楽しい話じゃないですし、そんなことよりもっと楽しい話をしたほうがいいです。

「…変なことを聞いて悪かったな。それじゃあお先に帰らせてもらうぜ!!」

ええ魔理沙さんもかよ!?

といった感じで、なんだかさっきから皆バラバラに帰っていきました。
なんというか流れ解散的な感じで、全然団結感がありません。

良くも悪くも、女の子を強引に集めてエッチなことをしようとした集団を止めたので、もう少しなんというか…

文さんたちは早く記事にしたいという理由で直ぐに帰っちゃったのは仕方が無いのですが…
メイド長は何も言わずにさっさと一人で帰っちゃうし。
博霊の巫女なんて怒って帰ってしまいました。

また例の如く「私のおかげでイヘンが終わったわ。私が居てラッキーだったわね?」とか言って何か自分の成果を自慢してきたのですが、言葉の意味がわからなかったので「イヘン?イヘンって何の話ですか?」って聞いただけなのに…
なぜ怒られるんだ!?
訳が分からん。

思春期の女の子は扱いが難しいです。



「ねえハニューって何処に住んでいるの?」

因みに、現在アリスさんとルーミアと俺で家路についています。

「紅魔館ですけど。」

「ああやっぱり…ハニューってあのジオンのハニューだったのね。
 なんだか、ちょっとイメージと違ったから、もしかして別人かなって思ったわ。
 もっと怖い人かと思っていたの。」

まあそりゃ、ギレン総帥にみたいなイメージを持たれたら困っちゃう外見ですもんね。
しかし、この変な現象はどこまで噂が広がっているんだwおまけに尾びれがいっぱいついてますしw
俺って、噂ではギレンのコスプレしているマニアみたいになっているのか!?

「そういえば、モビルスーツザクを造っているって聞いわ。
 私も、人形を造っているから、ちょっと気になっているのだけど…」

あー確かに、プラモのザクはある意味人形ですからね。
でも、俺が造ったズク改造ザクなんて、アリスさんの本格的な人形なんかより遥かに低レベルなんですけど…
とても恥ずかしくて見せられません。
正直興味持ってくれるのは凄く嬉しいのですが…

「興味を持ってくれるのは嬉しいのですが、こっちの世界を覗かないほうがいいですよ。」
なんというか、ただのオタクな世界なので…
「危険が伴います。」
アリスさんみたいな人は見ないほうが…
アリスさんが色々と汚染されてしまうかもしれません。

「危険ですって!?そう、そうなの…」


ちょっと、残念そうな顔をしていますが、アリスさんを守るためです。
これは仕方がありません。




おお!?
薄っすらと紅魔館の畔にある湖が見えてきました。
今日は凄く疲れました。
アリスさんが友達なったり、メイド長からまた目をつけられたり、大ちゃんの家へ脱出する計画が潰れたりしましたが、多分明日からまたいつもの日常が始まると思います。




side アリス・マーガトロイド

危険だから関わるなってなんて…
そんな、嘘には騙されないわよ…
これまで何度もそういう嘘に騙されてきたから…

やっぱり私は邪魔なのかしら…

「ねえ、ルーミア。私はハニューの邪魔なのかな…?」

「そうなのか?ハニューは嬉しがっていたのだー」

「え!?そうなの!?」

「ルーミアにはハニューの考えていることが良く分かるのだー
 ハニューは本当は嬉しくしょうがないのだー」

そんな!?
じゃあ、本当に私の身を案じて!?

また、不器用なことをして!!
友達だからこそ、危険も一緒に乗り越えていくものじゃないの!?

「ねえルーミア、ハニューに秘密で私にモビルスーツザクを見せてくれない。」

「そうなのかー」



モビルスーツザクに関わることには危険が伴う。
ということは、モビルスーツザクを本当に兵器として開発しているってこと。
不器用で誤解されやすいけど、本当は優しいハニューが造ろうとしているモビルスーツザク。

私にも、友達として何かしてあげれることがあるかもしれない。




side 西行寺 幽々子
結局今年も満開にはならなかったわね。

邪魔さえ入らなかったら、今度こそ満開になると思ったのに。

邪魔か…

博霊の巫女達は、春を取り戻しに来た。
だから、結果として私の邪魔をした。
それ以上でもそれ以下でもない。

でも、博麗の巫女達とは別行動を取っていたあの妖精だけは違ったわ。

春を集めるのをやめろ。
やめなければ私は身を破滅させる。

あの妖精は西行妖が満開になれば、私の身が破滅すると言っていた。
何が起こるか、知っているというの?

それだけじゃない。
私の顔を見て懐かしかったと言っていたわ。

つまり、私を知っていた。
でも私は、少なくとも亡霊になってから彼女に出会った記憶は無いわ。

となると、彼女は生前の私を知っているというの?


生前をの私を知り、西行妖が満開になれば何が起こるか知っているなんて…
あの妖精は何者なの?
謎が多いわね。

謎といえば、服を破り捨て、私の服まで破ろうとした行動の意味も分からないわ。
直前に西行妖を潰すと言っていた事と何か関係があるのかしら…


だめね、いくら考えても答えが見えて来ないわ。
これは直接本人に聞いてみるべきなのかしら…

いや、それは無理ね。
聞いて教えてくれるぐらいなら、私を説得しようとした時に話しているはず…


他に知っている可能性があるのは…
ゆかり、か…

親友であるゆかりが、あえて明かそうとしない私の過去。
多分そこに答えがある。







ぐぅー



「ねえ妖夢~お腹が空いたわ~」

「まだ食べ足りないのですか!?」

「何言っているの妖夢!?私まだ何にも食べてないわよ!!」

「幽々子様…あれだけ食べて、まだ何も食べてないと言いますか…」

???

「食料庫が空になるほど食べたのに…その程度では何も食べてないに等しいということですか…」

????

「よ、妖夢?私本当に食べてないのよ!?」

「言い訳はいい加減にしてください!幽々子様以外で、誰が食料庫の中身を全て食べることができるんですか!!
 素直に認めてくれれば、許してあげようと思いましたけど、幽々子様がそのつもりだったら許しません!
 私はもう寝ますので、食事は明日の買い出しまで我慢してください。」

「妖夢!?妖夢!?冗談でしょ妖夢!?私餓死しちゃう!!」

「もう死んでいるじゃないですか!!」




[6470] 第十話 何か噂されているような気がする…
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/21 21:20
第十話
何か噂されているような気がする…

「じゃあハニュー、その仕事お願いね。」


「はいメイド長。」

イエスマン。
俺はメイド長のイエスマンだ。
メイド長のイエスマンになって、この前の件での怒りを収めてもらうぜ。
というか、殺されないように頑張るぜ。


「少し肩が凝っちゃったわね…ハニューは大丈夫?」


「大丈夫ですメイド長。」


「胸が大きいと、肩が凝っちゃうのよね。その点ハニューは楽でいいわね。」
また始まったよ…

「はいメイド長。」
正直それほどメイド長の胸が大きいとは思いませんが、今の俺はイエスマンなので関係ありません。


それにしても、何故か最近のメイド長は、何かと胸の話をしたがりますね。
どういうことなのでしょうか?

男だった時も今も胸なんて無いので、胸があるから肩が凝るとか言われても「そーなのかー」っていう感じでしかないのですし…
正直同じような話題ばかりで、聞き飽きてうんざりです…

何が目的でメイド長はこんなことを言っているんだ?

そんなにメイド長の胸を強調して、何かいいことがあるのか?
胸の話ばっかりしていると、エロイ人と間違われたり、エロイ人に襲われても知りませんよ。



もしや…それが目的ですか!?


俺がメイド長の胸に欲情する。→メイド長は正当防衛で俺を抹殺する。→メイド長の威信を傷つけずに俺を処分できる。

((((;゜Д゜)))ガクガクブルブルブルブル
危ないところでした。
俺が若い男だったり、メイド長が普通の胸ではなく素晴らしい胸の持ち主だったら俺は終わりでしたね!


とにかく、メイド長の胸に欲情しないように気をつけながら、メイド長のイエスマンとして頑張るぜ。



side 十六夜 咲夜

どんなに胸の事でなじっても「はい、メイド長。」って言って素直に聞くなんて…
私に貧相な胸を見られたのが余程ショックだったのね。
それとも、バストのサイズが違いすぎる私のメイド服を着て、戦力差に気が付いて意気消沈しちゃったのかしら?

圧倒的な戦力差に気がついた私には、もうハニューなんて怖くないわ!


それにしても、胸の話でハニューにここまでダメージを与えることができるなんて。
あのハニューが顔を青くして、もうその話は止めてくれって表情をしているわ。




side 霧雨 魔理沙

「霊夢落ち着いて話を聞けって!」
ちょっと霊夢の所でお茶でも飲もうと思っただけなのに、何でこんなことになってしまったんだぜ?

さっきから、霊夢の愚痴ばっかり聞かされてるんだぜ。
これは早く霊夢がハニューに関わらないように説得して、話を切り上げるしかないな。
こんなのが毎日続いたら体が持たないぜ。

「異変って何の話ですかって言って来たのよ!?
 どう考えても、この程度は異変というレベルなんかじゃない、この程度で異変って騒いでいるなんてお前は未熟!って馬鹿にされたに決まっているじゃない!
 次の異変はもっと凄いものが起きてくれないと困るわ!それを解決して次こそは私を認めさせるのよ!」


おいおい…
異変を望むなんて霊夢は冷静さを完全に失っているぜ…
「博麗の巫女が、凄い異変を望むのはどうかと思うぜ。
 あのさ、もうハニューに関わるのは止めようぜ~」





「…どういうことなの?」



「ハニューに黒幕とどういう戦闘をしたか聞いたんだけどさ。
 あいつ、説得しただけだって言いやがったんだ。
 あんなに服がボロボロになる説得ってあると思うか!?」



「それって…?」



少しは落ち着いて話を聞くようになってきたようだぜ。
まったく私が霊夢の宥め役って…
ハニューのせいで変なことになってきたぜ。

「あいつにとっては、暴力で相手を屈服させることも説得って言うってことだぜ。
 しかもあいつ、その説明をした後ニヤニヤ笑ってやがったんだ。
 多分、黒幕を痛めつけている光景を思い出して笑っていたんだぜ。」
今思い出しても、寒気がする笑いだったぜ…
「おまけに、黒幕には死か死よりも恐ろしい何かをしようとしていたとか。」


「何よそれ!?」


イマイチうまく説明できてないな。
ハニューの性格をまとめると…
「あれは、私達みたいに弾幕ごっこをすること自体を楽しむタイプじゃない。
 他人を痛めつけることを楽しむタイプだぜ。」
つまり、どSってことだぜ。


「でもおかしいわよ、ハニューまでボロボロだったじゃない。」



あー確かに…
これはあれか?
「…自分が痛めつけられるのも好きとか?」




「…あいつ、そんな変態だったのね…」



「つまり、魔理沙が言いたいのは、変態だからハニューとは関わるなってこと?
 でも、そんなことでは私は引き下がれないわ!
 大体、魔理沙だって面白そうだぜ!とか言ってたじゃない!?
 マスタースパークで一発だぜ!とか気軽にいつも言っているあなたらしくないわね?」


霊夢は私を何だと思っているんだぜ?
「妖精は死なないんだぜ?
 ハニューに目を付けられて、ハニューが満足するまで変態行為に付き合って殺し合うなんて私の趣味じゃないぜ。」





「やっぱりそれでも引き下がれないわ!
 私は博麗霊夢なのよ!!」



この後は、スキマ妖怪の所に相談に行くらしいが、多分説得は…
してくれないだろうな。

何だか面倒くさいことになってきたぜ。


もしや、こうやって私達が悩んでいるのも、ハニューの差し金ってことは無いよな?






side レミリア・スカーレット



「メイド服の発注方法の注意点について説明するわ。
 ハニューみたいに胸がまったく無いお子様には理解できないでしょうが、バストのサイズは重要な個人情報だから、発注の際にはどの服が誰のものか、出入りしている業者に気取られないように。」
あれは咲夜と…


「はいメイド長、胸が無い俺にはそのような問題があったとは知りませんでした。」
ハニュー?


「大丈夫よハニューあなたもきっと努力を続ければ…70代後半ぐらいには届くはずよ。ウフフフフフフ…」


「はいメイド長。」



はぁ~

咲夜は何をやっているのよ。
やっぱり咲夜の様子が変だわ。

ハニューが何をするか見てきなさいって私は言ったのに、最初の報告がハニューの胸が可哀想なぐらい無かったってどういうことよ。
おまけに、私といい勝負かも知れないって言われてもあまり嬉しくないんだけど…
肝心のハニューがやろうとしていたことについての情報は、亡霊の姫と単独で戦ったことは分かったけど何が目的か分からないって…
おかしいわね、いつもの咲夜だったらちゃんと調査してくれるはずなんだけど…
さっきの、ハニューが妙に聞きわけが良い所にも、まったく気がついていないみたいだし…

ちょっと様子を調べてみようかしら。




「ちょっと咲夜~?」


「はい!お嬢様!」


「あなたは、今何をやっているの?」


「ハニューに新しい仕事を教えています。」

あら?おかしいわね?
確か咲夜は下手にハニューに情報を渡すと危険だとか言って、最近は仕事を教えようとはしていなかったはず…

「どうしたの?ハニューに仕事を教えるのを控えていたんじゃなかったの?」



「少し考えを改めました。
 ハニューのような可愛そうな胸の子に、大人気ない対応を私は取りすぎていました。」

はあ?

「ごめん咲夜、意味が分からないんだけど…」


「つまりですねお嬢様、私はもっと余裕を持ってもいいって分かったのです。
 ハニューも私との胸の大きさの違いに気がついて、随分と素直になったようなので、この程度なら大丈夫です。」


???
「そ、そうなの…咲夜がそう言うのなら、それでいいんじゃない。」

なんだか、全然意味が分からないわ。
どういうことなのかしら。


ちょっと、紅茶でも飲みながら考えましょう。

咲夜は…
咲夜のことを考えるのに、近くに本人が居るとやりにくいわね…

「ちょっと、そこのあなた!紅茶入れてくれない?」

「お嬢様!?わ、わ、わかりました!」




----------




「へぇー結構、美味しいわね。」

咲夜以外が入れる紅茶なんて、あまり期待してなかったけど意外と美味しいじゃない!?

「ありがとうございます!!」


「どうしたの?咲夜に教えてもらったの?」
でも、どこか咲夜の紅茶と違う感じね。

「いえ、咲夜メイド長ではなくハニュー隊長に教えてもらいました。
 あと、茶葉もハニュー隊長が主導して仕入れたものです。」


へぇ…

「ハニューは確か、通常配置では雑用部隊だったわね。
 いつから、そんなことをするようになったの。」


「先日の異変解決後から、色々と咲夜メイド長から仕事を任されるようになったみたいです。
 発注関連は先週からやっています。」


ふーん…
随分とハニューは手広く仕事を任され始めたのね。
でも、咲夜の代わりをちゃんと務められているのかしら?
あの咲夜が仕事を多くの任せられているのは、私の贔屓ではなく実力に裏づけされたものなのよ。
「担当者が咲夜から代わってやりにくくない?」


「少し不慣れな感じですが、色々一生懸命動いてくれるので問題なく仕事は進んでいるみたいです。
 それに、メイド長と違って話しやすいですから、色々と教えてもらえたり教えてあげたりできるので…」



「仕事がやり易いと。」


「はい…
 皆が皆、そう思っているかは分かりませんが、私や私の周りはそう言ってます。」



まずいわね。





----------



「咲夜居る!?」


「はい、お嬢様!ここに。」


こうやって、見るといつも通りの瀟洒で完璧なメイドなんだけど…
「咲夜、あなた墓穴を掘っているわよ。」


「お嬢様!?どういうことでしょうか?」

やっぱり気がついてないのね。
咲夜にキツイ事を言うのは少し辛いけど、ここは主人としてしっかりと言わないと駄目ね。

「咲夜!しっかりしなさい!
 ハニューに紅魔館での地位の全てを奪われかけていることに気がつかないの!!
 何がこの程度なら大丈夫よ!全然大丈夫じゃないじゃない!
 ハニューに上手く乗せられるなんて、瀟洒なメイドとしてどうなのよ!?もう!」


「お、お、お嬢様!?」


そんなにうろたえないでよ。
咲夜、これは愛の鞭なんだから、怒っているわけじゃないのよ。
「咲夜、あなたがハニューの胸に対して優越感に浸っている間に、その隙を使ってハニューは紅魔館での地盤を更に固めつつあるの。
 これまで、ジオンの活動やハニューの仕事と付き合いの薄かった連中に、ハニューの影響が及び始めているわ。」

そう…少なくとも1/3以上のメイドに影響が出てるわ。
下手すると半数かもしれないわね。

「咲夜が新たに仕事をハニューに教えたからよ。
 このままじゃ、気がついたらメイド全員ハニューの信奉者になってるわよ。」



「そんな!?ハニューは何を言っても素直に言うことを聞いています。
 胸の大きさのことを指摘しても、反論すらしません!
 コンプレックスになっている胸の小ささがバレたことや、私との大きさの違いに気が付いて意気消沈しているに違いありません!!」



ここまでしっかりと説明してあげたのに…
もう…
咲夜ったら何を言っているの!
「それは擬態よ!…咲夜、あなたが何時も言っていたことでしょ。」






「!!!!!!!」

「お、お嬢様。申し訳ありませんでした…
 ここ一年間で、初めてハニューに勝ったので浮かれていました…
 迂闊でした…」


こんなに咲夜が落ち込むなんて、新人の時以来ね。
ちょっと言い過ぎたかしら?
でも、ここまで完璧にハニューに嵌められていた状態で放置していたら大変なことになっていたわ。
「分かったならいいわ。
 気をつけるのよ。」





本当に気をつけてくれないと困るのよ。
あなたは大事な私の右腕なんだから。














はぁ~
油断も隙も無いわね。
自分の欠点を、勢力拡大に利用してくるなんて。

しかも、歴代紅魔館メイド長でも屈指の完璧さを誇る咲夜がここまで完璧に嵌められるなんて。
強大な強さを見せ付けたのはいいが、そのために咲夜の態度は硬化してしまい、勢力拡大の邪魔になった。
だから、あえて自分の欠点(しかも、咲夜の最も気にしている点)を曝すことによって咲夜の心に隙を作らせ…
そこを突く!
まさに、肉を切らせて骨を絶つ。

まったく大したものだわ。


咲夜を通してハニューを使うことは、もう限界かもしれないわね…
咲夜は気がついてないようだけど、胸の大きさ程度であそこまで浮かれるなんて…
これは、それだけ大きなストレスをハニューから受けていたってことね。

そろそろ、私が直々に動かないと駄目かしら。
さあ、どうやって使いこなしてやろうかしら。



side 稗田 阿求


巷では、博麗霊夢爆殺未遂事件の容疑者やジオンの総帥として恐れられていたのですけど…
この前の文々。新聞のおかげで随分と株を上げたようですね。

ダブダブのメイド服を着て、恥ずかしがる仕草をしている写真とセットになっているのが…
「俺なんて大したことは何もしていないです。」このように語るハニュー氏だったが、我々が現場に到着した直後のハニュー氏は全裸に近い状態であり、激しい戦闘が行われたのは明白だった。なお、より詳しい状況が知りたい方は…
この記事ですか…

随分と計算され尽くした行動ですね。
儚い少女が、母性本能や父性本能に訴える格好で巨悪に立ち向かい、そのことについて自慢もしない。
おまけに、善人が少しでも悪いことをすると随分評価が下がりますが、悪人が少しでも善いことをすると随分評価が上がるという補正付き。
どうやって、天狗を抱え込んだのか知りませんが、見事なメディア戦略です。


里の結構な数の若い男がコロッと騙されたようですね。
中には、博麗霊夢爆殺未遂事件は何かの間違いだとか、ジオンは幻想郷の平和を守る組織なのでは、とか主張する人も出てきたとか…
でも、歴史を眺め多くの人々の栄光と挫折を見てきた私は、こんなベタなメディア戦略では騙されませんよ。



しかし、このハニューというのはいったい何者なのでしょうか?
異変を解決するほどの力を持ちながら、転生を繰りかしえた私の耳に、その名前が一度も入ったことが無いとはどういうことでしょうか?




いや…


それほどの力がありながら表に出てこなかった存在が、なぜ今になってこの幻想郷の表舞台に上がってきたのでしょうか。

これは何かの始まりなのでしょうか。
それとも何かの終わりの始まりなのでしょうか。


歴史を書き残すものとして、興味が絶えません。




side 射命丸 文


「やっぱりハニューさんは、かなりの売れ行きですねー
 受けが良さそうな写真と台詞を選んで正解でしたね~注目度アップで裏市場での売り上げも大幅アップです
 …これで、本当に腹黒くない大人しい性格だったら最高だったんですけどねぇ。
 その点では、昔の椛は最高でしたねぇ~純粋で可愛くて…
 その椛が、まさかあんなに成長してしまうなんて…
 時の流れは残酷ですねぇ…」

ブツブツブツ…





「文先輩?何をしているんですか?」


!!!!!!!





「あやーこれはそのー」

「あ!これってハニューさんの裸の写真じゃないですか!!
 ハニューさんに裸の写真を掲載したら、二度と取材には応じないと言われて諦めたのじゃなかったのですか!?
 それにこの札束どうしたんですか!?
 まさか…文先輩はハニューさんの裸の写真を売りさばいて、お金を稼いでいるのですか!?」



あややややや。
これは不味いですよ~
「椛…世の中には、どうしても真実を知りたいという人もいるのよ。
 だから、私は真実を知らせるために、あえて約束を破って写真を売っているの!
 それに、新聞にはしていないから、正確にはハニューさんとの約束は破っていないですよ。」
私は何も嘘は言ってないですよ~


「それだったら、こんなに沢山のお金を受け取らなくても良いじゃないですか!!タダでも良いじゃないですか!!」


あや!?
そう返してくるとは、椛も本当に色々と成長しましたねえ。
でも、私に口で勝とうとするとは100年早いです!
「椛の馬鹿!!
 私達はプロなのよ!プロだからこそ、タダほど高いものは無いってことを知っているはずよ!!
 私達は沢山のお金を貰えるほどのよい仕事を常に求めないと駄目なの!
 それに、私と椛の夢…幻想郷史上最大の新聞社への道にはまだまだお金が必要なの…」


「…文先輩…
 私、文先輩がそこまで考えていたなんて知らないで、あんな酷いことを…」


「私は気にしていませんよ椛…」

ふうー
何とか誤魔化せましたねー。
コレクションの写真集を焼き回しして、通信販売で人間の里に売っているって椛にバレたら大変なことになるところでした。




side 神綺

「神綺様!アリスから通信が入ってます!」

!!
「アリスちゃんから!!
 えっと…これ、どうやって使えば…母さん神だから分からないわ~夢子ちゃんどうにかして~」


「ケイタイデンワとやらを真似してデザインしたのは神綺様じゃないですか!」


もう~ボケてるのに~
「母さん神だから、忙しくてそんな些細なこと覚えてないわ~」


「チンキ様!!いい加減に出ないと通信が切れちゃいますよ!!」


チンキ様って酷いわ…母さんへそを曲げちゃう!
もう!本当に夢子ちゃんはノリが悪いから困っちゃうわ!!
「ぶー。夢子ちゃんノリが悪いわ~、こんなに生真面目だなんて親の顔が見てみたいわ~」


「親は神綺様じゃないですか…もう疲れましたから早く通信に出てください。」


もう~夢子ちゃんは突込みが下手ね~。
今日はこれぐらいで許してあげるわ~。

ポチッ
「アリスちゃ~ん、母さんですよ~」











side アリス・マーガトロイド

「うん。元気にやってるわ。
 それでね、母さんに相談があって今日は連絡したの…」


「アリスちゃんに頼りにされて母さん嬉しいわ~何でも聞いて!」


「実はね…この前こっちで初めて友達ができたの…」


「本当!!それは友達になる代わりに、借金の保証人になってくれとかではなくて!?」


「もう!そんな訳無いじゃない!」
何言っているのよ母さん!その冗談は笑えないわ。
確かに、昔そんなことがあったけど…


「アリスちゃんが虐める~。でも嬉しいわ~母さん涙が出そう…」


「母さん…」

何だか、私も涙が出てきちゃいそう。

そうよね…
やっと私にも本当に友達ができたのね…

「それでね、母さんに相談したいことは、その友達がどうして私を助けようとしてくれたかなの。
 その子とは色々あったんだけど、友達になれた大きな理由の一つに、私を身を挺して守ってくれたことにあるの。」
本当に、あれが無ければ今頃は…多分誤解したままだった…
「どうしてなの?って聞いたら私を見て助けたいから助けたって言うの。
 全然意味が分からなくて…」


「アリスちゃん、母さん神だけどそれだけじゃ分からないわ~他に何か言ってなかったの?」


確かにこれだけじゃ母さんでも分からないか…
後は…
「これは言葉じゃ無いんだけど…
 その子は助けた理由を話すことを少し躊躇っていたの、でも少し決意したような表情で話してくれたわ。
 後は…話し終わった後、赤い顔をしていたぐらいね。」
それ以外には…



ビシ!!!                         「神綺様ー!???」



「母さん!!何かあったの!!凄い音が!!!」
夢子姉さんの悲鳴も聞こえたし…何事なの!?


「大丈夫よアリスちゃん~、母さんは神だからいつも冷静よ~」
何か様子が…?

「それで、その子とは今はどんな感じなの?結構進んじゃってるのかしら~
 母さんは心が広い神だから、手を繋ぐぐらいなら許してあげるわ~」
母さん何だか説明が難しいことを聞いてくるわね。
どういう仲の良さの友達かなんて上手く説明できないわ。
とにかく、最初の出会いから順を追って説明したほうがいいのかしら。

「最初はいきなり襲われて傷つけられちゃって、泣いちゃったの…」


「ちょっと!?アリスちゃん!?き、傷つけられたって何!?何を傷つけられたの!?」


「ごめん…母さん。恥ずかしくて言えない…」
流石にそれは、母さん相手でも言いにくいんだけど…
だって私の誰にも話したくない恥部ばかりなんだもん。



バキバキ!!!!!!                    「おお、落ち着いてください!!!?」

「母さん!?母さん!?」
????????

ガシャーン!!!!

「あ、アリス!神綺様はとても話せない状況だ!!」

「夢子姉さん!?」

「相手の気持ちも禄に確かめずに、行くところまで行ってしまったんだって?だから今になって、本当に自分が大切にされているか不安になったんだろ?」
確かに夢子姉さんの言うように、私不安なの…
「アリスは若いな…」
!?
「相手の気持ちが分からないから不安。確かにそうさ。
 でも、人間関係なんてそんなものだよ。どこまで行っても、相手の気持ちの奥底までは永遠に見えないものさ。」
!!そういえばそうか…こんなこと当たり前のことなんだ…
「それでも心配だったら自分を磨け。相手がアリスの虜になるくらいにな!
 大丈夫、アリスはいい子だから、きっと上手く行くさ!」

「夢子姉さん…」

ドーン!!!!

「そろそろ、本気で神綺様を止めないと不味そうだ。
 それじゃまたな。アリス。」



ありがとう夢子姉さん。
迷っていても、何も進まないものね。
前に向かって進まないと!
私…頑張ってハニューと最高の友達になってみせるわ!

ところで、ハニューと行くところまで行ったってどういうこと?
確かに理由を確認できずに冥界までは行ったけど、それが何か不味かったのかしら?


side 夢子

「アリスちゃんに惚れたからって、いきなり襲って傷物にするなんて!!!
 大体、そこまでの関係になっているのに友達ってどういうことなの!!!
 そいつ、アリスちゃんの体しか興味が無いんだわ!!!
 きっと付き合っても『もうそろそろお前には飽きたな』とか言ってアリスちゃんをボロキレみたいに捨てる気よ!!!!
 でもその時、アリスちゃんのお腹にはもう新しい命が宿っていたの!!!!
 独りで赤ちゃんを育てる決意をするアリスちゃん…
 そんなアリスちゃんを世間の冷たい風が襲うの!!
 心をボロボロにされて、魔界に逃げ帰ってくるアリスちゃん…

 なんて可哀想なのーーーーーーーー!!!!!!!!」


ハア
まったくこの人は…
いちいち突っ込む気にもなりませんよ。
「いつまで暴走している気なんですか!
 何も悪い方に話が進んでいくとは限らないじゃないですか…」


「良い方向に進む保障も無いもん!!」


ハア
確かにそうかもしれませんが、そんなことを言い出したらどうしようもないでしょう。
「とにかく、アリスを信じて見守ってあげましょう。」


「母さん今から幻想郷に行ってそいつ殺してくるわ~」


いきなり、何を言い出すんですか!?
「駄目ですって!そんなことをしたら、アリスは一生神綺様を許しませんよ!
 それに、幻想郷に神綺様がいきなり乗り込んだら戦争になりますよ!」


「夢子ちゃんはアリスちゃんが心配じゃないの!?」


心配に決まっているじゃないですか。
神綺様が母親だったら、私だって姉ですよ。
「もちろん心配です。もし、アリスがボロキレみたいに捨てられたら、私だってそいつを殺しにいきます。
 でも今は見守る時期です。」


「…分かったわ。母さんも夢子ちゃんを見習ってもう少しだけ様子を見るわ…」









「ねえ夢子ちゃん。アリスちゃんの相手って誰なのか心当たりある?」

そういえば、誰なんだろうか?
アリスの近くに男って誰か居たか?
新しく知り合った相手か?
あの人見知りするアリスが、知り合ったばかりの相手に半ば強引に…
話の感じだとそうとも受け止められるが、ちょっと考えられないな。
あれでもアリスは腕が立つ、知り合ったばかりの相手に押し倒されるほど油断はしないだろう。
となると、やはり何らかの接点があり油断していたということだろう。


「申し訳ありません、あまりこれといった心当たりはありません。
 但し、あの人見知りするアリスを押し倒した男性ですから、アリスと男女の仲を匂わせないで接近できる立場の人物かと。」


「夢子ちゃん。具体的にはどんな人物?」


何だかプロファイリングみたいになってきましたね。
「状況から考えて、アリスの近所に住んでいるとか、お店を開いていてアリスと商取引で顔を合わす機会がある人物だと思われます。
 もしその中に、一見紳士そうに見える人物が居ればかなり怪しいかと。」


「分かったわ。何かあれば、そういった特徴の奴を片っ端から殺せばいいのね!」







side 八雲 紫

「…ということなのよ。」




「紫、話してくれてありがとう。私とあの西行妖にそんな関係があったなんて…フフフッ
 でも、それなら何で止めてくれなかったの?」



「…気がつかないでずっと寝ていたの…」
だって…まさか冬が続く異変が起きているなんて思いもしなかったわ。
ちょっと今年の冬は長いなーって思って二度寝しちゃったんだもん。

「あらあら~紫らしいわね。」


紫らしいって…
幽々子ったら酷いわ。
「それより!ハニューのことだけど、幽々子のことと西行妖のことを知っていたのは間違いないのね?」


「そうなのよ~。でも紫もハニューの存在を知ったのが最近なのよね?」


「そうよ、最近まで知らなかったわ。」
どういうことなのかしら?
ハニューは何処からかこの事実を知った?
でもそれだと、幽々子のことを懐かしいとは言わないわ。
となると、やはり当時の状況をどこからか見ていたのかしら?
私と幽々子に気が付かれずに…

どうやって?


いや、それとも幽々子だけに接触していた?




しかし、それでも私の目を盗んでそんなことが?





大体、それだと幽々子は何故私に教えて…











「紫?紫?」

!!

「ねえ紫、とにかくこれまで話し合った内容をまとめてみましょう。
 ほら、こうやって書き出したほうが、分かりやすいと思うわ~」



「そうね。今回ハニューに関して分かったことは…」








1 ハニューの能力について
・ 言葉による精神に対する攻撃能力を保有。
  →霊夢が目撃。言霊の一種であると考えられる。種族によっては、かなりの威力を発揮すると推定される。
  補足事項 
   弾幕の一種とも捉えることは可能だが、弾幕として目に見えないためスペルカードルールの適用内かどうかは意見が分かれる。
   スペルカードルールの規定の甘さを付くことを念頭に置いた攻撃方法だと考えられる。
   そのためグレーゾーンの攻撃となり、理論上は使用者が任意にスペルカードルールの適用内か適用外かを決めることができる。

・ 裸になることにより西行妖を破壊する力を発揮することが可能。
  →幽々子が目撃。詳細は不明。封印状態とはいえ、西行妖を破壊できると発言したことから、かなりの力を発揮できると推定される。
  補足事項
   妖精は自然現象そのものであるという点から、服という人工的な物を捨て自然に近い状態になることにより、本来の力を取り戻そうとしたという仮説が考えられる。
   幽々子の服を破いた点については詳細不明だが、上記の仮説が正しい場合、邪魔な服を取り払い幽々子の体に何らかの力を直接注入し、内部から幽々子と西行妖を破壊しようとした可能性がある。
   
・ 洗脳能力を所持。
  →霊夢が目撃。敵対関係にあった魔法使いがハニューに洗脳された模様。
  補足事項
   詳細不明。危険な能力である可能性があるため要注意。
   藍のハニューに対する監視を一端引き上げる方向で検討。


2 ハニューの異常性について
・ 長期間記憶を保持し活用している。
  →ハニューの言動から、少なくとも1000年以上前のことを記憶し、その記憶を元に行動していることが判明した。
  補足事項
   妖精が事実上の不死でありながら幻想郷の中心となりえないのは、その事実上の長寿をまったく活かせていないためである。
   しかし、ハニューにはこの特徴が当てはまらない。極めて特異な個体だと考えられる。

・ 妖精としては異常な戦闘力を保有。 
  →各言動・行動から少なくとも大妖並みの戦闘力を保有していると考えられる。
  補足事項
   妖精の戦闘能力は、元となった自然現象に大きな影響を受けていることが分かっている。その点から、ハニューの元になった自然現象が極めて強力な何かであると推定できる。
   ジオン構成員として複数の妖精・妖怪を味方にしているため、無計画な攻撃は極めて危険。ジオンの総構成員数は不明。


3 ハニューの行動について
・ 西行妖の復活を阻止
  →ハニューの行動から見てほぼ間違いない。しかし、何故阻止しようとしたのかは不明。
  補足事項
   幽々子がこの件のお詫びとして、ハニューと接触する予定。そこで何らかの糸口がつかめる可能性がある。

・ ハニューの好感度が更に上昇
  →文々。新聞によって、幻想郷の春を取り戻した英雄の一人として紹介され、ハニュー及びジオンに対する好感度が上昇している。
  補足事項
   一部で異変解決直後を写したマル秘写真が流通しており、ハニューの好感度を更に上昇させている模様。写真の具体的な内容は不明。
   藍によると、厳重な機密保持が行われた流通網が使われていたとのこと。このことから、ハニューと繋がる水面下の巨大組織が存在すると推定される。

・ ハニューの行動原理
  →今回の異変の行動から総合的に判断すると、ハニューの行動原理はハニューの地位向上及びジオンの勢力拡大にあると判断できる。
  補足事項
   上記のような行動原理は、自然そのものである妖精とは本来相容れないため、更なる調査が必要と考えられる。




「これは凄いわね~」
確かにこれは凄いわ。
しかもこれだけじゃない、恐らくこれ以外にも多くの能力があるはず…


「ねえ紫、気をつけてね。
 紫がどういう思いで、ハニューを見ているかはよ~く分かったわ。
 でも、私は紫が居なくなったりしたらいやよ?」

「大丈夫よ。ライバルには最後の最後で勝つものなのよ。」
そう、これはハニューと私の競争。



でも、幻想郷の未来を勝ち取るのは私よ。





「ということで藍?当分は待機よ?
 藍?何しているの?」


「橙にハニューを退治してくると約束している所です。」


橙?
随分とモコモコしてるわね…
って!
「…橙はそんなぬいぐるみだったかしら?」


「ぬいぐるみじゃありません。等身大橙人形です。」
問題はそこじゃ無いわ、藍。
「橙…ハニューを退治したら、結界の管理なんて仕事は辞めて二人で小さなお店を開こう。
 絶対に帰ってくるから…大人しく家で待っているんだぞ。」


いきなり死亡フラグを立てちゃ駄目じゃない。
それに「結界の管理なんて」ってどういうことよ。
もう、この子も困ったものね。
「…そんな様子でハニューに勝てるわけ無いでしょ?
 藍、あなた気づいていないみたいだけど…怯えて尻尾が丸まってるわよ!?」






でも、怯えて尻尾を丸める藍もなかなか良いわね…


----------





凄く部屋が冷えて寒いです。
別にクーラーが効いているわけではありません。
人魂っぽい何かがいっぱい部屋に居るからです。

「先日のお詫びとして、好きなだけ幽霊達をあなたのジオンに貸してあげるわ。」

困ったことになりました。
ドリキャスさん改め幽々子さんが、先日のお詫びとして人魂っぽい何かをジオンに貸してくれると言い出しました。
えー。
この幽霊(っていうタイプの生物兵器だと思う)をジオンに貸してくれるって言っても…
ジオンはただの遊びでの話しなのですが…
どこをどう間違えたのか、ジオンが実在する何かの組織と勘違いしているようですね。

「ジオンなんて組織はありませんよ。ただの遊びの話でしかありません。だからお借りすることはできません。」

「そういえば、確かに公式には存在していないわね~
 それなら、その遊びに幽霊達も入れてあげてくれないかしら。きっと遊びが面白くなると思うわよ。」

どうやら、分かってくれたようですね。
でも、遊びを面白くすることがお詫びとは…

ああそうか、幽々子さんは意地になっているんですね。
よく考えたら、ジオンが存在すると勘違いして、準備してきたのにただの遊びだったとは、幽々子さん的には凄い赤っ恥ですよね!
これはまずい…
ヤのつくお仕事の人に恥をかかせてしまった。

「そういうことなら、喜んでお受けしましょう。」

「喜んでもらえて嬉しいわ~」

なんというか微妙な雰囲気…
やっぱり、かなり恥をかかせてしまったようです。
ここは笑顔で喜んでいることを表現すべきなのでしょうか!?

「フフフフフ…」




「ウフフフフフ」




「「ウフフフフフフフフ…」」











何だか、もの凄くぎこちない笑いになってしまいましたが、演技力の無い俺ではこれで限界です。
幽々子さんは一緒に笑ってくれましたが、一緒にいる妖夢さんは何故か固まってしまいました。
とにかく話を切り上げましょう。


「それでは幽々子さん、遊びで必要になったら自由に幽霊さん達を呼びにいっていいですよね?」

「あら~?こちらが推薦したら駄目なの?」

「いや、ただの遊びですから、推薦なんて必要ないですよ。遊べそうな幽霊さんを連れて行きますから安心してください。」
遊びに推薦だなんて、変なところで律儀ですね、これが極道というものなのでしょうか?
まあ、これ以上下手に幽々子さんが関わると、幽々子さんの恥の上塗りになりかねないので、強引ですがこんな感じでこっちが勝手に進めるのが一番良いでしょう。


「そうね、これは遊びですものね。フフフフフ…」







「そうだわ~私も遊びたいから、私も遊びに行っていいかしら?」

ええ?
幽々子さん本人が遊びに来るんですか?
「時が見えるわ~」とか言ってジオンごっこを幽々子さんが一緒に!?

えええ?
いくらなんでも、ヤのつくお仕事の幽々子さんがそれをするのは色々痛いだろ。

こういう巨乳で幽々子さんみたいなキャラが誰かいたら、それはそれでいいかも知れませんが…





そういえば立派な胸ですね、メイド長とは月と鼈です。


メイド長みたいに胸を強調されて罠にかけようとされたら、色々と危ないところでした。



(私も遊びに行っていいかしら?)
あれ?



まさか…



これは俺とエッチな意味で、遊ぼうと言っているのでしょうか!!?????



「大人の遊びを教えてあげる…」→ヤのつくお仕事の人に手を出したことになる→怖いお兄さん達が登場→おんどりゃあ何処の女に手ぇだしとるんやぁ!→コンクリ詰め



罠にかかる所でした!
メイド長の胸の罠を回避した経験が無ければ危ないところでした!
ゲンソウキョウの胸には危険がいっぱいです!!

サイギョウアヤカシを満会にできなかったことに対するお礼参りか何かですか!?
いや、それよりも恥をかかせたことに怒っています!??


何とか諦めてもらわないとやばいです。
ここは、エッチなことの意味なんて分からない、純粋なふりをして切り抜けてやります。
俺がエッチなことの意味が本当に分からないお子様なら、怖いお兄さん達も俺を追及すのに無理があると思うはずです。
つまり、この罠は有効には力を発揮できないので諦めるはずです。
名付けて「僕はお子様だから、エッチな遊びを教えて罠に嵌めようとしても、エッチなことの意味も分からないので無駄に終わりますよ作戦」です。
何だか穴だらけな作戦の気がしますが、これしか思いつかないです。


「本当にお子様のお遊びですから、幽々子さんみたいな大人は来てもらっても仕方が無いですよ。
 来てもらっても、本当にお子様のごっこ遊びをしているだけですから。
 何というか、ジークジオンと叫んだりしてるだけですから。」


「本当に遊んでいるだけ?」
すごく怪しまれてます。
こちらが、幽々子さんの罠に気がついて嘘をついていると怪しまれているのですね。
下手に隙を見せたら負けです。
というか、前に進むしかありません。


「本当にお子様の遊びを楽しんでいるんです。
 というか、俺って見たまんまの幼い性格ですから、お菓子と遊びが何よりも大好きなお子様なんですよ~」



「そうなの…ただの遊びなのね~そこまで言うのなら仕方ないわね~」








なんとか、納得して帰ってもらえたみたいです~
とにかく、幽霊さん達を受け入れることになったのですが…

このまま受け入れてよいのか?

俺は今、ジオンごっこをネタに紅魔館で虐められているので、正直呼びたくないのですが…
話の流れとはいえ、色々とおかしなことに…
この状況、呼び出される幽霊さんも困るだろ。

どうしよう。

だからといって、これで一人も幽霊さんを呼びにいかないと不審に思われますし…

良いこと思いついた!

嘘をついてもらえば、いいのです。
幽霊さんにはジオンごっこをしている振りをしてもらえばいいのです。



あーでも、これだと幽霊さんをどこかに隠しておかなくてはいけないですよね…
紅魔館に隠せればいいのですが、あんまり勝手なことをするとメイド長になにかされるかも…
また、俺の命がピンチです。


そうだ!
にとりさんの所に隠れていてもらおう。
にとりさんの研究所とやらはかなり広いそうですし、現在遠隔操作式発火装置の開発で人手が足りないようですから、その手伝いもできて一石二鳥です!!!

メイド長とかに、情報が漏れないよう気をつけるて貰えれば、これはかなりいいアイデアですね。

でもまてよ…
幽霊さん達に何かメリットあるのか?

何も無い…

誰も協力してくれないかも…
遣り甲斐がある内容だったら、協力してくれる奇特な人も探せばいるだろうけど、たかがメイド長への悪戯の手伝いなんて聞いたらやる気出ないだろ…

何かいいキャッチコピーでもつけて、やる気を出してもらうとか?
うーん…

「歴史を変える計画があなたの技術を待っている。」

嘘は言っていないよな…
上手くいけばメイド長体制とも言える現在の紅魔館の歴史に一石を投じる事件になるかも…



すげえ詐欺っぽい…


うぉー
俺の頭では駄目だ!!
とにかく、ここから先は実際に幽霊さんを勧誘するにとりさんに任せよう。
それでにとりさんに断られたり、勧誘が上手くいかなかったら、その時に次を考えよう!


「ルーミア!にとりさんに今回の経緯と、次の事を伝えておいて欲しいんだけど!」



side 西行寺 幽々子

相手のほうが一枚上手だったわね。
スパイとして準備した幽霊達が全員無駄になってしまったわ。

ジオンの手伝いのために、こちらが推薦した優秀な人材を派遣するという名目でスパイを潜り込ます予定だったのに。

まさかいきなり、ジオンはただの遊びで存在しないなんて言われるなんて。
何かの冗談かと思ったけど確かにその通り、公式的には存在しない組織。
それに同意したのが、間違いだったわ。

遊びだから推薦なんて要らない、遊びだから自由に幽霊を呼び出して構わない。
やってくれるわね~

おまけに、思いつきで打ち出した私が直接ジオンに行くって案も、ただの子供のお遊びだからと突っぱねられてしまったわ。
(本当にお子様の遊びを楽しんでいるんです。)
あの言い草だと、強引にジオンに参加しても、私に遊んでいる姿ばかりを見せて誤魔化す気だったようね~。
こちらの罠が読まれていた時点で完全に負けだったわね。


本当に完全にしてやられたわね~。
こちらの罠を読まれた上に、逆に利用されてしまうなんて。

ハニューに幽霊達を無償で貸し出す結果になっちゃったわ~。

ウフフフフフ。




そういえば、さっきから随分と妖夢が静かね?
「あら妖夢?最初の威勢はどうしたの?
 ハニューなんて不埒な奴は叩ききってやるーって言ってたじゃない?」


「自分の未熟さを思い知りました。
 あのような高度な駆け引きはとても自分には…」


高度ね…
一方的にやられた身としては、ちょっと辛い一言ね~

妖夢を見た感じ悪気は無いようだけど。

あら?

「妖夢震えているわよ?」


「申し訳ありません幽々子様!先ほどのハニューの笑い声を思い出してしまいました。」
「笑っているのに笑っていない…とても恐ろしかったです。」


良い勉強になるかと思ったんだけど、若い妖夢にはちょっと刺激が強すぎたようね。

「大丈夫よ妖夢。しっかり勉強して経験を積めば、いずれ妖夢にも対応できるようになるわ。」


「はい!幽々子様!頑張ります!」

良い返事ね。
やっぱり、妖夢はこうじゃないと駄目ね。

「頑張りなさい。
 ということで、ハニューとの駆け引きのせいでお腹が空いたわ~。」



「幽々子様、さっきハニューのところでお茶菓子をおかわりしていたような気がするのですが…」


















紫…
ごめんなさい、作戦は失敗に終わったわ。
でも一つだけ気が付いたことがあるの、私と紫の二人でハニューに対応しないと駄目だわ。




[6470] 第十一話 嫁がロリってどういうことなの…
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2009/09/24 18:12
第十一話
嫁がロリってどういうことなの…


side 河城 にとり


『第1中隊より報告します。敵部隊の撤退、間違いありません。』


なるほど、幻想郷に侵攻してきた敵部隊は、全て幻想郷外に撤退したようですね。
さて、問題はこの状況をどう判断し、どう活かすかですね。


「なんとか凌ぎ切ったようですね。予定通り各部隊の補給を順次実施します。よろしいですね、ルーミア副司令。」


「そーなのかー。」


ここで補給ですか、悪くない判断には見えますが…
少し遅いかもしれませんね。


「ルーミア副司令、状況がまとまりました。」

「そーなのかー。」

「モビルスーツザク隊の状況は喪失3、大破5、中破11、小破31、健在10です。なお、本艦の状況は小破です。
 ジオンの戦闘部隊の戦力指数は完全充足状態比の約67%にまで低下しています。しかし、敵正面戦力の約96%の壊滅に成功いたしました。
 我々幻想郷の勝利です。」



これは、かなりの好成績ですね。



「そうなのか?」

「も、申し訳ありません。正確にはジオンの勝利です。博霊神社・紅魔館・人間の里の壊滅を確認いたしました。現在組織的な抵抗が可能なのは我々だけです。
 博麗霊夢、霧雨魔理沙、レミリア・スカーレット、八雲一家については生死不明です。また、森近霖之助の死亡が確認されています。」

「そうなのかー。」



やはり、今の状況では幻想郷全てを救うことはできませんでしたか…
人間の盟友の私としては、人間との戦争で人間の里が壊滅してしまうとは、なんともやり切れない思いです。


しかし、この規模の敵通常戦力に対し、ついに勝利を収めましたか…
人間の里を守りきれなかった点といい、まだまだ戦力不足ですが、それでもハニュー氏の構想に基づいて構築する戦力は、極めて強力な戦力になると言っていいでしょう。
強力ゆえに、力の使い方次第で多くの人を救うこともできるが、奪うこともできます。

私の技術をハニュー氏に提供しようと思ったのは、私の技術者魂だけではありません。
ハニュー氏と出会ったあの日に、ハニュー氏ならきっと私の技術を正しく使ってくれると確信したからでもあるのです。


頼みましたよ。




「あれ?これって人工衛星で「どうした見せてみろ!」



「対空警報!!弾道弾だ!!!!!」


ついに最終段階が始まったようですね。
さて、どこまで持つでしょうか。


「各中隊!対空迎撃始め!!!!」


『第1中隊了解!!』

『りょ、了解!』

『えええ?』



『第3中隊りょうかいです~』



『あれ?休憩終わり!???』




----------




『増援を!我にもはや戦力なし!!中隊全機弾切れです!!』



『だめ!ビームライフルのチャージが間に合わない!!』



『あら~?いったい何発打ってきているの~?』

『何やってるの!囮弾を打ち落としても意味ないでしょ!!』



『バカ!核バズーカなんか構えてどうするの!!』

『そんなこと言ったって!もう弾が!』




『誰か弾をよこせぇ!早く!!』




最初は、もの凄い勢いで弾道弾を迎撃していましたが…
実態弾を装備した部隊は全機弾切れですか。

ビーム兵器を装備した部隊もエネルギーCAPは全て消耗。
ジェネレーターからのチャージに切り替えているようですが、チャージが間に合ってないようですね。

よく頑張りましたが、もう限界ですね…



「浮き足立つな!!落ち着け!!」





ビー

《状況終了》
《香霖堂に直上にて核弾頭が起爆しました、幻想郷側の敗北です。》
《コンセプトシミュレーターを終了します。》








「お疲れ様ー!」

『あーあ、また死んじゃったー』



『でも、記録更新ですよね!!』

『私のザク、緒戦で落とされちゃったんだけど…』

「あの…ミノフスキー粒子の散布を忘れていたみたいですよ?」

『あれええええ!?』





「無駄口を叩かずにさっさとシミュレーターから出ろ!ルーミア副指令がおやつを全部食べちゃうぞ!」



過去最高の成績でしたが、やはり今回も最終的な勝利までたどり着けませんでしたか。

ここら辺が、私達の力だけで達成できる限界なのかもしれませんね。

機体の設計方針と運用方法を固めるために、コンセプトシミュレーターを完成させたのはいいのですが…
何度機体の設計コンセプトと運用方法を変えて戦闘に出しても、最後は何時もジリ貧になってしまいますね。

機材とパイロットを務める妖精達の数の関係で、シミュレーター上の大半のモビルスーツがAI操縦になっているので、これをパイロットによる操縦に切り替えればもう少しマシになるのですが…
冥界から応援に来てくれている元軍人さん達に言わすと、それでもこの戦力比はひっくり返せないらしいですね。
何でも、圧倒的な数が持つ力を生前思い知らされたとか…
だいたい、今回のシミュレーションで使った、60機5個中隊編成というモビルスーツザクの数自体がシミュレーターの性能から出てきた根拠の無い数ですからね。
実際の生産数はこれより激減する可能性がある現状では、小手先の対策は無意味といえるでしょう。


実のところ、敵の設定が強すぎるのが敗北の最大の原因と言えるのですが…
ハニュー氏が考える最悪の状況では、この程度では甘すぎると言えるでしょう。
以前の話から考えると、恐らくハニュー氏は幻想郷と外の世界全てが対立する事態も考えているはず…


やはり、根本的な性能を底上げしないといけません。
早く魔法のエキスパートを引き込んで、大幅な性能向上を目指す必要がありますね。

と言っても、秘密が守れて信用できる魔法のエキスパートが簡単に見つかればいいのですが…


「にとりさん、アリスさんって人がお話をしたいそうです。」

そんな名前の人がここに居ましたっけ?
「何者ですか?」

「ルーミアさんが連れてきた方です。先ほどから後ろで見学されていますよ。」

!!
ちょっとルーミアさん、私に断りも無く部外者を入れないでください。




あれ?
あの人は、この前の新聞でハニュー氏と一緒に写真に写っていた人じゃないですか。

何やら、良い予感がしてきました。






----------





有名人になるっていいですよね!!
文さんの新聞のおかげで、俺が有名人になってしまいました。
色んな妖精達が俺に興味を示してきます。

前にも、記事になったようですが、その時は何故か怯えられました。
多分オタクキモイと思われていたんでしょう。

でも今回は、サイギョウアヤカシの満会を防いだことで記事になったようなので英雄扱いです~。

本当は何もしてなかったんだけどね!!
まあ、棚からぼた餅というか何と言うか…


はあ~
でも、俺が体も男だったらなあ~
こんなに女の子達にチヤホヤされるなんて一生に一度あるかどうかだろ…


「あの、ハニューさんですか?」

また誰か来ましたよ~

「やっぱり…この顔と背格好…」

そうです、俺が巷で噂のハニューです。

「あの!これ読んでください!!それとこれ!さよなら!」

おおう!何故か手紙らしきものが入った封筒と紙袋を押し付けられましたよ…
これってファンレターとプレゼントですか!?
でもなんで、逃げるように帰っちゃったのでしょうか?
そうか、恥ずかしくてまともに会話が出来ないぐらい俺のファンってことなのですね!!!
いや~参ったね。



さーて中身は…

っと、そんなことをしている場合じゃなかった…
大ちゃんの家に早く行かなくては。
中身は後から見るか…


色んな人に声をかけられたせいで、大ちゃんの家に着くのがちょっと遅くなりそうだな。






----------





「大ちゃんごめん!ちょっと遅くなっちゃった!」

「ハニューちゃん遅いよ。ハンバーグ焼かずに待ってたんだよ。」


今日は夕飯をご馳走してくれるということでしたがハンバーグですか。

これは楽しみですね。


「これから焼くから、もうちょっと待っててね。」


じゃあ、ちょっと待つとしますか。
でも、ただ待ってるのも暇だなー
言い訳にもなるし、さっきの話でもしようかな。


「遅れた理由なんだけどさ、何だか俺のファンって子に掴まっちゃってね~」


「ふーん…そうなんだー。良かったね。」

あれ?何だか反応が悪い??

「いやープレゼントにファンレターまで貰っちゃって参ったよ。」

「そう…」

やっぱり、もの凄く食いつきが悪いですね。
あれかな…
ものを見せたほうが、話に食いついてくるのかな~?

「大ちゃん見てー、まだ開けてないけど、これがそのファンレターだよ。」




「私も見てみたいから、その手紙ちょっと渡してもらってもいいかな?」

お!やっと食いついてきましたよ!!

「はい、大ちゃん。」

「ありがとう、ハニューちゃん…」




「あ!」



ちょっ!?

大ちゃんの手から、コンロにファンレターが落ちてしまいましたよ!?????
もの凄く燃えてる!!!!


「ごめんねハニューちゃん、私ってドジだねー。」

なんという展開…
まさか、大ちゃんが昔で言うところの、ドジッ娘系キャラだったとは…

「まさか、しっかりしたイメージの大ちゃんがこんなドジっ娘系キャラだったなんて驚いたよ。
 そんな大ちゃんだったら、プレゼントも間違えてコンロに落としちゃったりして。ハハハハハ…」



「そこまでドジじゃないよハニューちゃん。多分ゴミと間違えて燃やしちゃうぐらいだよー。」


それも酷いだろ…
あ、そうか。
なるほど、大ちゃんには意外とユーモアのセンスもあるようですね。






----------









えー現在朝帰り中です。
何で朝帰りかって、それは一晩中大ちゃんとプロレスをしていたからです。

プロレスと言っても、エッチなことを隠すためにプロレスと言っているんじゃないぞ。
本当にプロレスだぞ。

昨晩、ハンバーグを食べ終わったら、大ちゃんにベッドに誘われた。
性的な意味とは別に。

そしたら、何故かベッドの上に立ったまま大ちゃんに抱き締められました。
なんでも、色々お話を聞いてくれるとのこと。

有難かったので、色々と話していたのですが…


「そうかーハニューちゃんはアリスさんと友達になれて嬉しかったんだー、それは良かったね!!」

グギ!!

って感じで途中から、ギリギリと俺の体が締め上げられていったのですが…

「大ちゃん!?何で怒ってるの!?俺、何か悪いことした!?」

と言う俺に対して…

「私は怒ってないよハニューちゃん。なんだかよく分からないけど、突然こうしたくなったの。どうしてかな?」

と言う大ちゃん。

こんなやり取りが一晩中続きました。


本人は怒ってないと言ってたというか、怒っていることに気がついてないようだったけど…
怒ってただろ…



これはあれでしょうか。
大ちゃんを仲間はずれにして、色々と楽しそうなことをしたり、友達を作ったりしていると勘違いされたのでしょうか。

どちらかというと、事故なんですけど…


ちょっと、嫌われちゃったかも…
今度何かある時は、積極的に大ちゃんを誘って仲直りしよう…















さてと、紅魔館の俺の部屋に着いたし、一旦寝ようかな。


そういえば、この貰った紙袋には何が入っているんだ?
今朝、大ちゃんが間違えて他のゴミと一緒に燃やしかけたんだよなー。
冗談かと思ったら、本当に燃やしかけるなんて大ちゃんって本当にドジっ娘なんだなー
おかげて、ずいぶんグチャグチャになってしまいましたけど…
なんというか、何故かデザインが気になる紙袋なんだよなー







???




??????




そうか!これって俺の誕生日プレゼントの紙袋のデザインと凄く似ているんだ!!

「誕生日前に振られるとは哀れな奴め、そんな寂しいお前に俺の厳選したプレゼントをやろう!」

とか言って俺のオタクな悪友が渡してくれたプレゼント…
俺のゲンソウキョウに来る以前の記憶がある最後に日…
そういえば、あのプレゼントも開けずじまいだったな…


それはとにかく、本当に良く似たデザインの紙袋ですね。

因みに、中身は何だ???

東方紅魔郷???
何それ!?
他にも同じシリーズのようなゲームがいっぱい入ってるぞ!?

どことなーく博麗の巫女に似てキャラが描かれてますね~


他には???




( ゚Д゚)ポカーン



(; ・д・)えええ!?




メイド長とお嬢様にそっくりな二人が凄いことしている同人誌!?????

アリスさんと魔理沙さんにそっくりな二人が×××とか…

大ちゃんにそっくりな人が…とか…

他にもいっぱいあるよ!!

なんぞこれー????











これは不味いですね!!!!!


ゲームに関しては、下手に博麗の巫女に見つかれば肖像権とかで訴えられそうですし…

同人誌に関しては、発見された俺は終わりです。

というか、こんなものプレゼントされるなんてどういうことなの…




とりあえずは、俺の机の引き出しに隠しておこう。

本当はちょっと勿体無いから捨てられないとか、そんなことじゃないんだからね!!!

でも、いつか処分しないと駄目だよなー
もしも、見つかったら。
「ハニューってきんもーっ☆」とか言われるに違いありません。

これは嫌だw



しかし、俺の机の引き出しに、隠すというのはどうだろうか?

この部屋って結構人の出入りが多いんだよな。





俺の部屋だと偶然誰かが見つけるかもしれない…




「何を悩んでいるのかー?」



!!!
ビックリした、ルーミアか…


そうだ!
ルーミアの部屋に隠しておいてもらおう。

「ルーミアにお願いがあるんだけどさ、この紙袋をルーミアの部屋に隠しておいてくれないか?
 何度も取りに行くことになるかもしれないから、迷惑になるかもしれなけど頼むよ。」



「そうなのかー」




とりあえず、これで安心ですね。


でも、これだと一つ問題点がありますね。
いきなり、ゲンソウキョウ脱出の目処が立ったりしたら、処分できないままゲンソウキョウを離れることになるかもしれません。
俺の実力が高ければ、入念に準備してから脱出ということなので、処分する時間はありますが…
実際の俺の実力では、何らかの事故や他人の力(運営者側の都合で外に出る。)によって、ある日突然脱出に成功する可能性の方が高いといえます。

俺が突然ゲンソウキョウを脱出する→紙袋の所有権が曖昧に→誰かが中身を見てしまう→噂が広がってゲンソウキョウでの俺の評判が地に落ちる→俺の活躍によりゲンソウキョウが解放される→メディアがゲンソウキョウに殺到する→俺がエロ同人誌を隠し持っていたことがメディアを通して世界中に流される。

( ゚Д゚)…
これはまずい…
もの凄くまずい…
こういう事態にならないように、俺が居なくなったらルーミアに紙袋を処分してもらうようにお願いしないと駄目ですね。


「あのさ、ルーミアにもう一つお願いがあるんだけどさ、もしも俺が突然居なくなったらこの紙袋を処分してくれないか?」

とにかく、俺が居なくなったら、スパッと処分してください。
俺には必要無いものになりますから~




「そー…

なのかーって…あれ?
何で黙ってしまったんですかルーミアさん。




「何考えているのだー!!!!
 そんな馬鹿なお願い、聞けないのだー!!!!」



ちょ、いきなりルーミアが俺の襟首つかんで、ガクガク振るんですけど!?
なんでこんなに怒ってるの!?
ちょっと、紙袋一つ処分するだけじゃないか!?
俺が居なくなったときに処分してくれないと、本気で困るんですけど!?


「本気で言っているのかー!?」
「いつもの勘違いや冗談だったら許さないのだー!!」


本気も何も、そうしてほしいからお願いしてるだけなんですけど…
それに冗談なんかじゃないですし、いつもの勘違いってどういうことよ。
勘違いなんか俺はしてないぞ。


「必要だからお願いしてるんだ、分かってよルーミア!
 これは冗談でもないし、勘違いとかの話でもない。そうなる可能性が十分ありえるんだ!」









「…そうなのかー。」



「…それで、どう処分すればいいのかー?」

処分か…
そういえば具体的に考えてなかったな…


案1 ごみの日に出す
ごみの日ってあったっけ!?
それに丸見えだろう…

案2 適当に捨てる
一見良さそうだけど、ゲンソウキョウでは色んなところに妖精が居るから、捨てるところを誰かに見られる可能性が高いな。

案3 燃やしてしまう
でも、燃やすって結構危ないよな…

悲劇!紅魔館全焼、原因はハニューのエロ同人誌!!



ルーミアならやりかねん…



うーん…


案4 専門の所で売り飛ばす
買い取る側もそれなりに秘密を守ってくれそうだし…
お金になるよな。


よし、これが一番いい!

もし、どこで手に入れたのかと聞かれたら、知らない人から貰ったと言えばいいか。



でも、そんな所ゲンソウキョウにあるのか?

いや、そうでもないぞ。
よく考えれば、こんな同人誌みたいのがあるのなら、売っているところや買い取るところがある可能性は高いですね。


「一番いいのは、専門の所で売って欲しい。もしそれが無理なら、人に見つからないように処分して欲しい。」


「…そうなのかー
 この紙袋には何が入っているのかー?」



それは言えないw
でも、売るときとか処分するときにルーミアにはバレるよなw
これは、下手な言い訳をしても見苦しいですね。
しっかりと言っておかないと…

「中身が何なのかは、今は言えない。でも中身を見たとき、俺がこういうものを持っていたということは理解して欲しい。
 なかなか理解できないかもしれない、俺のイメージとあまりにも違うからな…」

見た目、女の子している俺が、こんなエロ同人誌持っていたことは理解し辛いと思う。

「なんというか、今すぐ自分で売ってしまいたい、という気持ちもあるんだ。
 そうすれば諦めもつくしな。でも恥ずかしいことに、その勇気が俺には無くて…」


なんというか、本当に恥ずかしい話だよなこれは…










「…わかったのだールーミアに任せるのだー」


「悪いなルーミア。」
「あとそれから、この件は大ちゃんだけには秘密にしておいてね。」

大ちゃんにバレたら、それこそ生きていけません。




「…そうなのかー」
バタン!



あれ?出ていっちゃった…
どうしたんだ?





side 河城 にとり

ハニュー氏にアリスさんと共に最近の成果を説明しに来たのですが、部屋の前で待っている間に、まさかこんな話を立ち聞きしてしまうことになるとは夢にも思いませんでした。
私達の来訪を知らせるために、先に部屋に入ったルーミアさんに、ハニュー氏が遺言を託すなんて…


「ねえルーミア、どういうことなの!説明して!」

「アリス…
 ルーミアはハニューの考えていることが良く分かるのだー
 だから、ハニューが本気で自分が突然居なくなるかもしれないって思っているって分かるのだー」

側近のルーミアさんがそう言うのなら、やはりハニュー氏の気持ちは本当なのですね。

「また、あいつ馬鹿なことを言って…!!!
 ルーミア、あなたどうして止めないの!?」


「今日のハニューは全部本気だったのだ…
 自分が突然居なくなることも、紙袋を処分して欲しという話も、紙袋の中身の説明も、大ちゃんには知られたくないという思いも、全部、全部本気で話していたのだー!!
 だから!だから!ルーミアはハニューのお願いを聞いてあげなくてはいけないと思ったのだ…」

ルーミアさん…
あなたは、ハニュー氏の気持ちが良く分かるからこそ、辛い立場に立たされてしまったのですね。


「だからって、死ぬつもりのハニューを放って置いて良い訳じゃないでしょ!私止めてくる!」


アリスさんは、本気でハニュー氏を止める気ですね。
アリスさんの言うことも一理ある。
しかし、それは正しいやり方ではない。


「待ってください。ハニューさんを止めないでください!!」






side アリス・マーガトロイド

納得いかないけど、確かにこれしか道はなさそうね。

確かに、にとりの言うとおり、ハニューが死ぬ可能性、私達の前から突然永遠に消えてしまう可能性は十分にある。
それぐらい危険なことを、ハニューはやろうとしている。
だから、ハニューの遺言を残すことはおかしな話ではない。

もし止めようとしても、幻想郷の救済とも噂さされる目的のために、八雲紫や博麗霊夢と激突までしてジオンという巨大組織を作りあげたハニューのことだから…
きっと、誰が止めようとしても止まらない。

だから、私達にできることはハニューの夢が適ったときに、そこにハニューも居られるようにすること。
つまり、より強い戦力をハニューに提供してあげることしかない。


あの紙袋の中身が何なのか分かれば、別の方法が見つかるかもしれないけど…
(俺がこういうものを持っていたということは理解して欲しい)
(でも恥ずかしいことに、その勇気が俺には無くて…)
あんなに葛藤するなんて、いったいあの紙袋の中身は何だっていうの??












あーーもう!
分からないことを考えても埒が明かないわ。もっと良い方法は無いの?

「シャンハーイ!」

ありがとう上海!
確かに、上海の言うとおり、ハニューが自分が死ぬ可能性がある事実を伝えないように頼んだ唯一の人物、大ちゃんならハニューを止められるかもしれない。
でも、大ちゃんにこの話を伝えたりしたら、ハニューは私を許してくれないだろうな…
どうしよう…




----------




side 森近 霖之助

今から思えば、去年の僕は酷い有様だったと思う。
あのハニューが僕の前に現れる度に、僕の体調は悪化していった。
そんな、僕の体調にとどめを刺したのはあの八雲紫の訪問だった。

「これは独り言だけど、この前紅魔館で霊夢がダイナマイトで殺されかけたわ…
 犯人は不明。でも、限りなく黒なのはハニューという妖精。
 決定的な証拠が無いの。
 どこかに有力な情報は無いかしら?」

あまりにも露骨だった。

僕はハニューの協力者として疑われていた。
全てぶちまけて楽になりたい。
そう思った。

でも僕は弱かった。

沈黙という回答しか僕にはできなかった。
八雲紫は「これも独り言なんだけど、協力者が居たとしても処分する気は今のところは無いわ。でも、それもハニューが幻想郷をどのような未来に導こうとするか次第よ。」と言ってスキマに消えていった。


その次の日の夕方だった、僕の胃が限界を迎えたのは。



血を吐き倒れる僕。
半人半妖として普通の人より体には自信があったけど、あまりの量の出血に僕は「これはもう駄目かもしれない。」等と思ってしまった。
もしそのまま放置されていたら、僕は本当に駄目だったかもしれない。

でも、幸運なことにその日の香霖堂にはお客が居た。
朱鷺子だ。

当時の朱鷺子への印象は、商品を一回も買ったことが無いくせに、いつも商品の本を読んでいるちょっと困ったお客というものだった。
そんな朱鷺子が、僕の異変に気がつくと単身永遠亭に飛び僕の命を救ってくれた。


朱鷺子が天使に見えた。


朱鷺子は僕が胃潰瘍で動けなくなってから、毎日のように香霖堂を訪れ僕の身の回りの世話をしてくれた。

「何故そこまでしてくれるのか?」そう聞く僕に朱鷺子は「これはいつも本を読ましてくれたお礼です。」と少しはにかみながら答えた。

その時、僕はそんな純粋で優しい彼女に初めて惹かれたのかもしれない。
自慢じゃないが、僕の周りには魔理沙を初めとして、決して少なくない女性が居る。
でも、皆個性や押しが強い子ばっかりで、いつも振り回されてしまっていてどうも…

話が逸れてしまった。

情けないことに、僕の胃は一端回復の傾向を見せても、ハニューの話題を聞くだけでまた悪化してしまう状況が繰り返されていた。
そんな僕を朱鷺子はいつも助けてくれた。
朱鷺子は僕の代わりに香霖堂の店番までしてくれるようになってくれたのだ。



気がついたら、朱鷺子が居ることが当たり前の日常が始まっていた。
そして自分の気持ちにもはっきりと気が付いた。

朱鷺子。
僕には君しか居ない。




朱鷺子。
この名前は名前が無い君にとってただの仇名だ。
でも僕はこの名前が好きだ。
だから、これを本当の君の名前にしたい。
森近朱鷺子になってくれ。




「うーん。プロポーズの言葉はこんな感じでいいのかな?」


おっといけない。
思わず声に出してしまった。
リハビリがてら、ここ一年のことを纏めてみたはいいが…
とてもこれは人には見せられないな。
途中から、朱鷺子の話ばっかりじゃないか。

特に最後のプロポーズ案の所なんて、他の人に見られたら…




でも、結婚のことで心配ができるなんて、僕はなんて幸せなんだ!






「おーい店主!!元気になったか?」






















なんでも、店主がやっとお店に顔を出せるぐらい元気になったそうです。
そんなことなので、今日は店主に会いに来ました!
実は本当の理由は別にあるんだけどね!


「いやー店主。思ったより良さそうだな!!もう殆んど大丈夫じゃないか!?」

「…また駄目に…い、いや、なんでも無い。もう大丈夫だよ。」

「体が第一だからな!しっかり直して店主にはもっと働いてもらわないといけないからな!!
 それがさ、例の爆竹なんだけどうまく使えなくてさ、もう一回買わなくちゃいけなくなったんだ。
 でも、聞いたところによると、もうストックが無いんだって?店主には早く元気になってまた仕入れてもらわないとな!」

「…そうだね。」

うーん?流石にまだ本調子じゃないのか?
まあ、仕方ないよね。




「霖之助さん、お客さんですか?」

!?

「朱鷺子!?こっちに来ては駄目だ!すぐに戻りなさい!!」

誰だ!?

「霖之助さん!?」

「早く!」

「は、はい…」

なぜ、裏の居間からエプロン付けた女の子が出てくるんだ!?
しかも霖之助さんだと!?
店主も何故か焦っているだと!?

そんな!!

店主に女ができただと!!!!!
ちょっと幼いけど!

こっちは、体が女になったせいで、恋愛なんてできないのに…
店主はやることやっていたと…
正直羨ましいのですが。

「店主?彼女は誰だい?」

「か、彼女は僕とは何も関係ない人だ。だ、だから君が知る必要は無いさ。」

何この嘘!
嘘をついているのがバレバレなのですが!?
店主なんて、いかにも嘘をついてますって感じで、手が震えているのですが…

理由は分かりませんが、どうやら店主はあの子が自分の彼女だって隠したいようですね!

何ですかそれは!?
水臭いぞ店主!

「ふーん、店主とは何の関係も無いと…
 では彼女に直接聞いてみよう、彼女のほうが正直かもしれないからね。」

それなら、直接本人に聞いちゃうもんね!!
それでは、裏の店主の家にレッツゴー

「やめろ!いや、やめてください!
 お願いです!彼女だけは!彼女だけは手を出さないでください!
 お願いします!」

ちょっ!?
店主どうしたの!?
いきなり土下座とか何かのギャグですか!?
しかも、手を出さないでくださいってどういう意味ですか!?

はーん…読めたぞ!
店主はヤバイ位に彼女に惚れているということなんですね。
だから、変な邪魔が入らないように彼女を隠そうとしたと…

しかし、体が女の俺が彼女に会おうとしただけで、俺が彼女に手を出して取られると心配するなんて、ちょっと異常だと思うけど…
一歩間違えると、ロリ好きのストーカーになってしまうぞw

まあでも、さっきの感じから見ていい感じで思い合っているみたいだから、ここは大人らしく彼女を隠しているところは水に流して真面目に話をするか。
それに、冗談っぽく茶化そうと思っていたのに、興も削がれてしまいましたし。

「勘違いするなよ店主、彼女には手を出さないさ。
 それにしても、本当に店主は彼女が大切なんだな。
 彼女とは結婚も考えているのか?」

「ええ…できたら今年中には…」

おおう、マジですか!?

しかも今年中なんて、もう間近と言ってもいいじゃないか!!


「そうか、まだ気が早いがおめでとう!」

「あ…ありがとうございます…」


もっと喜べばいいのに、やっぱり何だか店主の元気が無いな…
病気の影響かと思っていたが、何か違うなあ…
なんというか何か悩み事があるって感じだ…

「店主?元気が無いな?何か悩み事でもあるのか?」

「いや、な、何も無い、何も無いですよ…」

嘘だ!
明らかに動揺しているのですが!?
やっぱり何か悩み事があるようですね。

幸せいっぱいのはずのこの時期に悩み事って何だ?
何か、結婚する上で悩み事が!?

マリッジブルー?
店主があれだけ惚れているのにそれはないな…

他に店主が結婚で悩みそうなことって…




そうか!

お金か!

よく考えてみれば、店主は店を開けられない状態で、おまけに治療費も嵩んでいるはずだ。
なにかと結婚にはお金がかかるのに、お金が無いということですね。
お金が無ければ、結婚式もまともに挙げられませんよね!


店主は運がいいですね!
実は、お金が入る話をこの俺が持ってきてあげましたよ!



例の遠隔操作式発火装置を作ってくれている、にとりさんが先日俺の部屋に来たのですが、なんでもアリスさんが開発に参加してくれて問題が次々と解決しているとのことでした。
因みに、遠隔操作式発火装置の名前がザクになったようです。
いきなり「モビルスーツザクの開発状況は」とか言い出すので、一瞬何のことか分かりませんでしたよ。
考えてみればなるほどと思いました。瞬間移動できるメイド長が何処で聞いているか分からない状況では、モビルスーツザクという名前でカモフラージュするのは良い方法だと思います。
流石にとりさんは頭がいいですね!!!

といっても、正直言って内容は難しすぎるし、カモフラージュされた用語が多すぎるので俺は「反対すべき理由はない。やりたまえ、にとり博士」とか「問題無い…全てはシナリオ通りだ」とか色々適当に話を合わせて全部任せるって感じで喋ってただけなんですけどねー。

そんなこんなで、開発は順調かと思ったのですが、それでもまだまだ問題が山積みとのこと。
そんな問題の一つを解決する方法として頼まれたのが、店主からミニ八卦炉の設計図と製造法を入手して欲しいという話です。

ミニ八卦炉とはあの魔理沙さんが愛用している携帯用バーナーみたいな道具で、実は店主が作ったとのこと。
かなり高度な技術が収められているらしく、その技術を解析し遠隔操作式発火装置の開発に応用したいということだそうです。


設計図に製造法なんて、そんな簡単に渡してくれるのかと不安でしたが、お金に困っているのなら簡単かもしれません。
早速交渉です!


「ところで店主、今日はミニ八卦炉の設計図と製造法を売ってもらえないかと思ってきたんだ。」

「なんだって!?それは…流石に渡すわけには…」

「そうか、簡単には渡せないよな。
 とりあえず金はこれだけ用意した。これでも駄目か?」

ドン!



「い、いくら金を渡されようともこれは…」

ちょっ!?
結婚資金を手に入れるチャンスなのに、店主は何を馬鹿なことを言っているのですか!?
そりゃ、自分の作ったものの成果を簡単に人に渡せないのはわかりますよ、でもそんなこと言っている場合じゃないだろ!!
おまけに、俺のソウルブラザーである店主の結婚資金のために、予定よりかなり多めに出した俺の気持ちまで無駄にするとはどういうことなの!!

「おい店主!無事に結婚式を迎えたいとは思わないのか!?
 冷静になれ。馬鹿なことを言わずに黙って受け取れ!
 彼女が居なくなったら、もう結婚式はできないんだぞ?」
さっさと、このお金を受け取って結婚式をしたほうが本当にいいと思うぞ。
あんまり待たしたら、彼女の心が離れて行っても知らないぞ?


「そんな!さっき彼女には手を出さないと言ったじゃないか!!」


店主は何を言っているんだ?
それとこれとは別の話だろ?
話が繋がってないのですが?

「何を言っているのか俺にはわからないな。
 少し落ち着け、何が今の自分にとって大切なのかを良く考えろ。
 いつも言っているだろ、大人だったらわかるよな?」



side 森近 霖之助

昔、誰かから聞いたことがある。
幸せの絶頂に達した後は、落ちるだけだと…

幸せの絶頂にある僕に対して、彼女は不幸を運んできた。

彼女は、まるでごく普通の玩具をまた僕に調達して欲しいと言うかのように、気軽に僕に話しかけてきた。
その完璧な演技に僕の頭は騙されそうになったが、僕の胃は騙されなかった。
鈍い痛みを放つ僕の胃…

でもそれは不幸の始まりでしかなかった。
本当の不幸は、朱鷺子が彼女に見つかってしまったことだ。

危険な彼女から朱鷺子を引き離しておきたい、そう思って僕は僕と朱鷺子は無関係であると嘘をついた。

緊張で震える僕の手が彼女の加虐心を掻き立てたのか、それが朱鷺子に危険を招く結果になった。

彼女は突如朱鷺子に直接聞くと言い出したのだ。
言葉の上辺だけを見れば、何も問題が無い言葉だが、そうではない。

彼女は僕より朱鷺子の方が正直かもしれないと言ったのだ。

そう、僕はこれまで彼女に抵抗しながらも、脅されその都度屈服してきた。
それと同じだ。
今度は朱鷺子が脅される。

僕は恥も外聞も無く彼女に土下座し、朱鷺子の安全を懇願していた。
その行動を彼女は面白くなかったのだろう、彼女は明らかに興が削がれたといった感じで朱鷺子には手を出さないと言った。
僕は彼女から小さな勝利を勝ち得ることに成功したのだ。


しかし、そんな小さな勝利を得たがために、僕は更に大きな不幸を抱え込むことになった。


次に彼女は、ミニ八卦炉の設計図と製造法を入手するために、まさに大金と言える額の札束を僕の前に出してきた。
彼女が何の目的でミニ八卦炉を求めているのか分からない。
だが、何かまた危険な目的であることは間違いなかった。

ここ一年間の苦しみが、大金に目が眩み、危うく彼女のペースに飲まれそうになる僕を引き止めることに成功したのだ。

しかし、彼女は更に上手だった。
彼女は要求を呑まなければ、結婚式を一人で迎えなくてはいけないと強い口調で言ってきたのだ。


そう、要求を断れば朱鷺子を殺すと彼女は言っていた。



僕が共犯として八雲紫から目を付けられる事態はもうごめん被りたい。
だから、僕は今度こそ彼女の要望を突っぱねる気でいた。
そしてそれが、朱鷺子のためにもなると僕を奮い立たせていた。

だが、そんな僕の思いが朱鷺子をより危険な状態に追い込んでいた。

僕は、先ほどの手を出さないというのは嘘だったのかと「何を言っているのか分からない」と惚ける彼女に虚しく抗議の声を上げるしかできなかった。

もう僕には、彼女に白旗を上げるしか手段が残されていなかった。


















でも、僕は朱鷺子を守りきったぞ…

そうだ、これは紛れも無い勝利だ…


アハハハ…



アハハハハハハ!!



「霖之助さん!?気を確かにもって!!」



[6470] 第十二話 王道的でエロエロな話なのかー。(注意 15禁と感じる人もいるかも)
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2009/09/24 18:13
第十二話
王道的でエロエロな話なのかー。


「ムキューン、ムキューン。ムキュ、今日も疲れたわ。」

「パチュリー様お帰りなさいませ、お風呂にしますか?ご飯にしますか?それともわ・た・し?」

「ムキュ。今日は疲れたから、一人で寝るわ。」



「ちょっとハニューちゃん!それじゃ話が続かないじゃないですか!!」

えー。
リアリティある行動をお願いしますって言われたから、リアリティを追求したのにー。


「これは、私がパチュリー様の所に嫁ぐための花嫁修業なんですよ!!ちゃんと選択肢から選んでくれないと練習にならないから困ります!
 大体、パチュリー様のモノマネとはいえムキュムキュ言い過ぎです!」

そうかなのかー?
普通は選択肢から必ず選ぶとは限らないから、こっちの方が練習になると思うんだけどなー?
まあいいや、それならプランBだ!
ちょっとイジワルしてあげましょう!

「今日は疲れたから、早速コアとここで寝ようかしら?」

ガバ!!
さあ、この場で押し倒したら、どう出てきますか?

「ええ?ちょっとハニュ、いやパチュリー様こんな場所じゃ嫌です…」


「「「おおー!!」」」

これは、中々上手い返し方ですね。他の小悪魔さんの花嫁修業を手伝う会の会員達もどよめいてますよ!!

「なかなか今のは良かったと思いますよ。俺も一瞬ドキッとして、危なかったですよ~」


いやはや、小悪魔さんの飲み込みの早いこと早いこと…
皆が半分面白がって手伝っているせいで、それなんてエロゲ?って一昔前なら突っ込まれるような無茶なことばかり教えていたのですが…
完璧にマスターしちゃうどころか、自ら改良案を考え出してしまう状態になってます。
凄いな、これぞ天才という奴なのだろうか…


「駄目ですよハニューちゃん。そんなこと言って私を口説いたって、私の身も心もパチュリー様の物なんですからね~」

「そんなー。まったく、小悪魔さんのパチュリー様好きには参っちゃいますよ~」


「「ハハハハハ…












「ハア…あの頃が一番楽しかったですよねー
 本当に、私ってバカですよねー!
 一人でフラグが立った!とか有頂天になっていたなんて!!!」

「あはははははは!!」

小悪魔さん酔ってます!
部屋に閉じこもっていた小悪魔さんが久しぶりに部屋から出てきたので、何が原因だったのか聞きだすためにミスティアの屋台に連れてきました。

紅魔館の良心の一人である、小悪魔さんには何度か助けてもらったこともありますので、何か力になればいいかと思っていたのですが…

小悪魔さんがパチュリーさんとの結婚を念頭にして花嫁修行を行っていたのに…
まさか、そのパチュリーさんの気持を魔理沙さんが奪っていったという展開になっていたなんて…

「そんなにあの魔理沙が良いんですか?
 どうなんですハニューちゃん?私ってそんなに魔理沙に劣っていますか!?」

正直言うと、劣っているというより相性の問題かな?
内向的なパチュリー様と外向的な魔理沙さんって、意外と相性がいいかもしれない…
といっても、今日は正論言って小悪魔さんに説教するのが目的ではないからな~
「いやいや、小悪魔さんの方がいい女だと思いますよ。」

「そうですよ!私の方がいい女ですよ。あんなガサツなのの何処がいいのか…」

「確かに魔理沙さんはガサツというか、清潔感が無いですよね。
 俺なら、小悪魔さんを絶対選びますよ。」
こんな感じで、ずっと話を合わせて愚痴を聞いてあげています。


「流石ハニューちゃん!分かってる!
 熱燗もう一本ちょうだい!」

「チンチ●!もう用意してますよ。」

清純派って感じだったのですが、酔うとなんだか雰囲気が違います。
なんとういか完全に絡み酒です。
今日はとことん愚痴を聞いてあげようと思っていたのですが、正直に言うと結構辛いです。
実は、既に3時間ぐらいこの調子です…


割烹着姿の時のミスティアはこういう時、大人の雰囲気でうまく愚痴を受け流す力がありますが…
小悪魔さんに絡まれる俺までは守ってくれませんw


ちょっと酷いけど、小悪魔さんをもっと酔わして、帰る方向に持っていったほうがいいかもしれない。


「まったく、何でこんなにいい女が居るのに、誰も振り向いてくれないのよ~」


「分かるよ小悪魔さん、さあもっと飲んで、ここは俺の奢りだから。」




----------




「私ね、名前が無いでしょ。でも無いのは名前だけじゃないんですよ、両親の記憶も無いんです…
 捨て子なんです。だから私が何の悪魔なのかも自分でも分からないんです…」


これは失敗した。
もっと酔わしたら、絡み酒からしんみりした感じになってしまった…
ある意味楽ですけど、とても真面目に答えないと行けない雰囲気で余計に辛いです。

しかし、出生が分からないか…
となると、小悪魔さんは生物兵器としてプラントで培養生産されたタイプとか…?
いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。
とにかく、話を合わせて聞いてあげないと。
「自分が何の悪魔か確かめる方法は何か無いの?」

「実は、当ては付いていますけど…そんな血が入っているなんて認めたくなくて…」

なにやら、あまり小悪魔さん的にはよろしくない出自をイメージしているようですね…

でも正直、俺には考えすぎに思えるのだが…
いやね、元男で現女の子の俺はどうなるのかと…
それに、普通の人間から見れば、ゲンソウキョウの住人全部の出自が特殊で大抵の事では逆に驚かないのでは?

「もっと自分に自信を持てよ!
 俺は、そこまで気にする必要ないと思う。俺だったら小悪魔さんの出自がなんであっても受け入れる自信があるね。」


「そうなのかな……でもやっぱりだめ…
 こんな自分が何なのか分からないような変な女が、超一流の魔法使いであるパチュリー様の隣に立とうとするなんて、そもそも無理な話だったんですよ…
 本当に私って馬鹿、こんな馬鹿な勘違い女にはパチュリー様どころか、誰も振り向いてくれないはずよね…」


あわわわわ…今にも消えてしまいそうな感じで、そんなこと言わないで!!
これは重症だな…いくら酒の席でもちゃんと励ましてあげないとまずいぞ。
「そんなこと無いから!小悪魔さんは素敵な女性ですよ!誰も振り向かないなんて無いですよ!」



「誰も振り向きません!大ちゃんさんという彼女が居るハニューちゃんと私とは違うんですよ!!」

ちょ!?
何か誤解が…大ちゃんは彼女という訳ではないのですが…
ひょっとしたら、そんな未来もあるかも知れないけど…
いや、それ以前に怒らせちゃったというか…ちょっと嫌われてしまったというか…

…なんだか心が痛いよ!

「大ちゃんは今は彼女じゃないですよ。それどころか、嫌われちゃって…」

「チ●チン!?」



「ご、ごめんなさい私てっきり…
 …そう んだ、二 とも振られ 者同士だ たんだ…」
なにやら小悪魔さんがブツブツ言っていてよく聞こえませんが、なんとか誤解が解けたようです。

しかし、そろそろ飲みすぎなんじゃないでしょうか??
それに、自分の感覚が間違っていないなら、もう日付が替わっているはず…


「そろそろ帰りませんか?」


「嫌です。もっと飲みたい気分なんです!!
 今日は誰が何と言おうと!もっと飲みます!!!ハニューちゃんも明日の朝まで私に付き合ってください!!」

なんという強引な話!!
まったく、お酒が入るといつもの小悪魔さんでは想像もできない押しの強さになりますね!!
って!?
日本酒を瓶ごとラッパ飲みしちゃ駄目ーーーーーーーー!!!


ドタッ!



グゥー…


!?
「●ンチン!!!」

まずい!?飲みすぎで倒れちゃった!!




----------




重い。
やっと、俺の部屋に着いて小悪魔さんをベッドに寝かすことができました。

ミスティアが言うには、人間ではないのでこの程度なら寝かしておけば直るとのこと。
ミスティアの言うことだけではちょっと心配だったのですが、門番をしていた美鈴さんが小悪魔さんのために薬(漢方薬?)をくれたのでこれで大丈夫でしょう。

因みに、小悪魔さんの部屋の鍵が何処にあるのか分からないので、俺の部屋に連れてきました。

「あれ~?
 ハニューちゃん、ここは何処ですか?」

「何処って、俺のベッドですよ。」

「えへへ~なんでそんなところに~」
まだ完全に酔ってますね…
寝ぼけているのも入っているのか、今度はアホの子という感じになってますよ…

「そんなの決まっているじゃないですか。」
小悪魔さんを寝かすために決まっているじゃないですか。

「分かんないですよ~。何が何だかわからないですよー
 ウッ!ウゲェエエエ…

ちょっ!!
人のベッドで何吐いているの!????

「自分の体に聞いてみたらどうですか?こんなに汚しちゃって…」
自分の体がアルコールで酷い状況になっているのに気がついてください!
というか、俺のベッドに吐いたことに気がついてください!



「分からないですよ~あははは~!!!!!」
ぎゃああああ!子供みたいに暴れないで!!
駄目だ、会話が通じない!!
吐瀉物が小悪魔さんの服や俺のベッドに飛び散って、地獄絵巻に!!!!?????

とにかく暴れないように体を押さえ付けないと!
まったくこれじゃ子供ですね!
酔った原因は俺にありますが、酔い方にも節度が必要です。
これは後で、しっかり教育してあげる必要があります。

「小悪魔さんは子供ですね!しっかりと教育してあげますよ!」


「教育って何ですかぁ~………グゥ…




あーまた寝ちゃった。
薬もまだ飲ましてないのに…

この惨状どうしようか…





----------





とにかく、吐瀉物で酷い状態なので布団・シーツ・服の全てを洗濯に出すことにしました。
まあ、小悪魔さんの下着まで洗濯に出しちゃったので、小悪魔さんが裸なのはちょっと不味いですが。

幸いなことに、俺の体が女になっているので、服を脱がしたことは多分許してもらえるでしょう。
もちろん、下着を脱がすときは見てはいけないところを見ないように、新しい布団で小悪魔さんの体を隠しながら脱がしましたよ…
手探りかつ、変なところを触らないように脱がすのはもの凄く大変というか重労働でした。

おかげで、やたら時間がかかってしまって、全てが終わったら朝になっていました。

そして今、ちょうど部屋に備え付けたシャワーで、労働の汗を流し終えたところです。

「ハニューちゃん?」

おっと、小悪魔さんが起きたようですね。

「おはようございます小悪魔さん、ちょっと運動をしたので汗を流していたんですよ。小悪魔さんもどうですか?」

「はあ…」
あれ?なんか、腑に落ちない顔をしているな…
ああそうか、起きて俺の部屋だったら、何が何やら訳が分からないよな…
とりあえず、何か飲み物でも飲ましながら説明するか。












「はい、小悪魔さんコーヒーをどうぞ。」
寝ぼけているのか、小悪魔さんがベッドの中でボーっとしているので、目を覚ますようにコーヒーにしました。

「ありがとうございます。」

ハラリ…

あ…まずい…
小悪魔さんが起き上がったから布団がめくれて…

「キャッ!!????」

「ハニューちゃん!なんで私裸なんですか!?」


おや?
もしかして記憶が飛んでる?
でもこれはお互いにとって好都合かも…
「ちょっと色々あって服が汚れてしまったので、全部洗濯中です。あとシーツも。」

「え?汚れるって私は何を?」
やばい…思い出さないでください!!

「小悪魔さん昨晩の事はお酒の上での出来事です。忘れたままにしましょう。
 俺も調子に乗ってやりすぎました。俺も忘れるので、お互い忘れましょう。」
本当に、色々ありましたが、お酒の席の事ですし、あんな醜態は下手に思い出す必要も無いでしょう。
俺もあれだけお酒を飲ました責任がありますので、思い出してくれないほうが有難いです!

あれ?
小悪魔さんの顔が真っ青になったと思ったら、赤くなってきましたよ!?

まずい…これは…
思い出してしまったようです!!

「あの!?その、わ私は…」

「気にしないでください、最初はあの清楚な小悪魔さんが!?って驚きましたが今は気にしていませんから。
 まあ確かに、あの絡みかたとか凄くてもう…疲れちゃうぐらいでしたけど…」
ホントあの絡み酒っぶりには、ちょっと驚きました。

「あの、あの、あの…」
あー何だか顔を真っ赤にしてしまって…
なんというか、ちょっと悪いところばっかり言い過ぎたかもしれません。
何かフォローを入れるべきなのでしょうか。

「おかげで、俺もいい汗かけましたよ!
 それに、昨晩のような感じでパチュリー様に迫るのはいいと思いますよ。ああいう感じで迫っていったら、パチュリー様みたいに恋愛経験が少ない相手だったら上手くいくと思いますよ!!」

「えええええええええ!!!???そ、そういうものなのでしょうか…」

ちょっと強引なフォローだったか!?
でも、あのお酒の席ぐらいの押しの強さで迫っていけば、本当にパチュリー様を振り向かせることができるかもしれない。
なんといっても、あの魔理沙さんとパチュリー様がくっついたのは、魔理沙さんの押しの強さが原因だと思うんですよね。


「あの、ちなみに昨晩はどちらが誘ったんですか?私の記憶だとハニューちゃんのような気がするのですけど。」

どういうことだ?
最初にお酒に誘ったのは俺だろ?そのあとは、小悪魔さんが積極的に飲み続けてましたけど…
虫食い状態で記憶が抜けているのか??
「誘ったのは俺です、でもその後は小悪魔さんが積極的に…もう止まらないって感じで、明日の朝まで俺を帰さないってことまで言っちゃうぐらいでしたよ。」

「あうう…そう、そうなんだ…」


なんだか、小悪魔さんが考え込んじゃいました。
俺のフォローは、やっぱり無理があったのかなー?

「とにかく、もっと自分に自信を持ってください!みっともないって思っているのかも知れませんが、これも小悪魔さんを構成する一つなんですよ!
 昨晩の小悪魔さんも、今の小悪魔さんも俺は好きですよ。」


「昨晩の私も…本当の私…」

なんだか、ちょっと迷いが晴れたような顔をしてきましたよ!?
今度のフォローは上手く行きそうです!
「そうです!昨晩の姿も小悪魔さんの一面なんですよ!その一面を使ってパチュリー様を落とすべきです!!」


「でも、ハニューちゃんはそれでいいんですか!!!昨晩のことは忘れて、私がパチュリー様とくっつく事になってもいいのですか!!!!!」
おおう!?
いかにも、人への気遣いができる小悪魔さんらしい返し方だが、まさかこういう風に返してくるとは思わなかった。

まあ、彼女が居ない俺としては目の前でいちゃいちゃされるのは辛いですが…
店主の時みたいに応援してあげないとね。

「正直目の当たりにするのは辛いですけど、パチュリー様が好きなんですよね?応援しますよ。
 昨日の夜だって、俺に何度もパチュリー様パチュリー様って言っていたじゃないですか…」
本当に、昨日はパチュリー様の話ばっかりでしたよねー。


「!!私、そんなことを…ハニューさんに…
 私も馬鹿ですけど、ハニューちゃんも本当に馬鹿ですよ…」


ちょ!?
何でここで泣き出しちゃうの!?
さっきから、どうも小悪魔さんの行動が変だな??
まだお酒が抜けきってないのか!?




----------



さてと、この服でよかったようです。
小悪魔さんを部屋に返そうとしたのですが、服が無いので俺が小悪魔さんの部屋に行って服を取ってきました。

人の服って選ぶの苦手なんですよねー。



「それじゃあ、ハニューちゃん…私行きますね…
 このドアを潜ったら、昨日の夜のことは全て忘れて、またいつもの関係に戻りましょう…」

そんな、いくら吐いちゃってる所や泥酔した所といった恥ずかしい所を見られたからって、そんな大げさな。
別に、友人関係が壊れたわけでもないですし…
何だか妙に小悪魔さんが暗いので、ここはちょっと明るめに元気良く話しかけたほうがよさそうですね。
「そんな大げさにしなくてもいいよ、簡単に忘れることは出来ないけど、絶対に他言しないから。だからパチュリー様を絶対に落せよ!」


「馬鹿。それだけじゃ駄目です。私も幸せになってハニューちゃんも幸せにならなくちゃ駄目です!絶対ですよ!」

ええええ?
確かに、俺は幸せになりたいけど…
何で、小悪魔さんに抱き締められてるんだ!?

あれ?

何で顔を近づけてくるのですか????

このままではブチューっとしてしまいますよ!?
これは、うれ
じゃなくて、不味い!
小悪魔さん、キス魔になっちゃうなんて、これはやっぱりまだアルコールが残ってますね!

「駄目ですよ小悪魔さん。俺はパチュリー様じゃないんですから。大事なキスはパチュリー様にしてあげてください。」













小悪魔さん…
何も言わずに歩いていっちゃった…

うーん。
急にキスをしようとしたり、酔っている人の思考はわからないなー。














「「「ハニュー総帥おはようございます!」」」

お?
うちの班のメイド達が朝の挨拶に来ましたよ。
ハニュー総帥と呼ばれるのは、本来虐めの一環なので嫌だけど…
他のメイド達とは違い、少なくともこの子達は悪気が本当に無いみたいですから許してあげます。

「これは!?ハニュー総帥…こちらへ…」



「撃て!曲者だ!!」

ええ?
俺の部屋の出入り口のドアの影に弾幕を打ち込むってどういうこと!?

「痛っ!!ちょっと止めてください!!」

俺の部屋のドアの影から人が出てきたぞ???
あれ?美鈴さんじゃないですか。

「美鈴さん、どうしてそんな所に?」



「は、ハニューちゃん!ちょっと小悪魔さんの様子が気になって見に来ただけなんです!
 本当にそれだけなんです!私、何も見てませんから!」


(°д°)ハァ?
何を焦っているんだ??
私は何も見ていないって…

そうか!
小悪魔さんが泥酔したり、吐いちゃったりした話をしている所を見てしまったのですね!

「美鈴さん、このことは内密にお願いします。」

コクコク

何故無言で頷いているのか分かりませんが、美鈴さんは夜のお勤めのせいで居眠りが多い以外は真面目な人です。
だから、これで小悪魔さんのことをバラすことは多分無いでしょう。

「そ、それでは、私寝ますので~」

あれれ?
逃げるように、帰っちゃったぞ?
美鈴さん、そこまで気にしなくてもいいのに。





「ハニュー総帥?今のはいったい何のことでしょうか?」

確かに横で聞いていたら、気になる内容だよね。
でも、俺の班のメイドといえど、こればっかりは詳しく話せないな。
「ちょっと秘密を守ってもらう約束をしたんだ。」


「秘密ですか…。破ったときの罰の話をしていませんが、大丈夫なのですか?」


罰かぁ…
確かに、万が一喋っちゃったら、小悪魔さんが可哀相だなー。
でも、メイド長みたいにナイフを頭に突き刺すような、体罰的な感じのはやり過ぎだしな…
それに、罰って言葉がなんともトゲトゲしくて嫌だなあ、美鈴さんに嫌われちゃいそう…


そうだなぁ…
もし喋ったら、俺と小悪魔さんの飲みに美鈴さんは一晩付き合ってもらうってことにしましょうか。
美鈴さんにはガンガンお酒を飲んでもらって小悪魔さんの苦しみ(泥酔や、吐く恥ずかしさ)を身を持って知ってもらいましょう。
その姿を見たら、小悪魔さんもきっと美鈴さんを許してくれるでしょう。

俺がうまくコントロールしないと、小悪魔さんと美鈴さんがケンカになるリスクがありますが、これなら酷い罰って感じじゃないので美鈴さんを必要以上に怖がらせないでしょう。
まあ、美鈴さんみたいなタイプの人が「小悪魔さん吐いたんだってー汚いーキャハハハ」なんて言い触らすことは無いと思うので、ここまで考えなくても良いんですけどねー。

「わかった。美鈴さんに『もし喋ったら、オシオキとして美鈴さんを強制的に小悪魔さんと同じ状態にしちゃいますよー。』と伝えよう。」
これで、多分意味は通じるでしょう。
あんまり、詳しく喋ると、誰かに立ち聞きされていたら不味いですからね。


「ハニュー総帥。私が伝えにいきましょうか?」

簡単なお使いだから、お願いしようかな?
「それじゃ、お願い。」


「了解しました。」




side 小悪魔

眩しい…
朝?


あれ?私の部屋って地下にあるから、朝日なんて入ってこないはず…


この部屋…
私の部屋じゃない?


シャー…


この音…誰かがシャワーを浴びてる?




キュッ!キュッ!



トコトコ…



シャワーから出てきたのはハニューちゃん?
「ハニューちゃん?」

もしや、ここはハニューちゃんの部屋??


「おはようございます小悪魔さん、ちょっと運動をしたので汗を流していたんですよ。小悪魔さんもどうですか?」

????

「はあ…」
私は、何でこんな所にいるんでしょうか?


私は昨晩はハニューちゃんとお酒を飲んでいたはず…


その後は…


その後は?


何をしていたのでしょう?


ハニューちゃんは運動をしていたそうですけど…


運動?
こんな朝からする運動って???


「はい、小悪魔さんコーヒーをどうぞ。」


あ、良い匂い…
これで、少しは頭が働くかも…

「ありがとうございます。」



ハラリ…



え?



「キャッ!!!????
 ハニューちゃん!なんで私裸なんですか!?」

何で私、裸なの!?
何が起きてるの!?
私、まさか酔って自分で脱いじゃった!?


「ちょっと色々あって服が汚れてしまったので、全部洗濯中です。あとシーツも。」

「え?汚れるって私は何を?」
汚れた?
汚れたって何??
なんで汚れたの??
服や布団まで汚すなんて、私いったい何をしたの????


「小悪魔さん昨晩の事はお酒の上での出来事です。忘れたままにしましょう。
 俺も調子に乗ってやりすぎました。俺も忘れるので、お互い忘れましょう。」





振られた者同士の二人が酔いつぶれるまでお酒を飲んだ。
そして、忘れなくてはいけないような過ちをベッドの上で犯した。
その結果、服もシーツも洗わなくてはいけないぐらいに汚してしまった。

朝になり、私は裸で目を覚まし、ハニューさんは運動という何かの汗を流しにシャワーへ。
そして私達は、裸のまま二人でコーヒーを飲んでいる…












えええええええええ!?


これって、あれ?

私、ハニューちゃんと私が、エッチなことをしちゃったってこと!!!!????




体から、血が引いていくのが分かる…

でも、そんな記憶私には少しも…
だって、僅かに残っている記憶って…



・・・・・・・・・・

「あれ~?
 ハニューちゃん、ここは何処ですか?」

「何処って、俺のベッドですよ。」

「えへへ~なんでそんなところに~」

「そんなの決まっているじゃないですか。」

・・・・・・・・・・

「自分の体に聞いてみたらどうですか?こんなに汚しちゃって…」

・・・・・・・・・・

私の体を押さえつけるハニューちゃん。

「小悪魔さんは子供ですね!しっかりと教育してあげますよ!」

・・・・・・・・・・






やっぱり、私ハニューちゃんとやっちゃってる!?

そういえば、お酒を飲んでいる最中も、魔理沙より私の方を選ぶとか、私が素敵な女性だとか、私の出自がなんであっても受け入れる自信があるとか…
もしかして、私を口説いていたの!?

とにかく、詳細を聞き出さないと!!
「あの!?その、わ私は…」
駄目、緊張して上手く喋れない!?


「気にしないでください、最初はあの清楚な小悪魔さんが!?って驚きましたが今は気にしていませんから。
 まあ確かに、あの絡みかたとか凄くてもう…疲れちゃうぐらいでしたけど…」


「あの、あの、あの…」
そんな…気にしないって言われても、ハニューちゃんが驚くぐらい私は乱れていたの!?
しかも、ハニューちゃんが疲れぐらいって、私ってどれだけ激しくハニューちゃんを求めていたって言うの!?


「おかげで、俺もいい汗かけましたよ!
 それに、昨晩のような感じでパチュリー様に迫るのはいいと思いますよ。ああいう感じで迫っていったら、パチュリー様みたいに恋愛経験が少ない相手だったら上手くいくと思いますよ!!」


「えええええええええ!!!???そ、そういうものなのでしょうか…」

いきなり、何を言い出すんですか??
エッチなことを強引に迫れば、パチュリー様みたいな相手だったら簡単に落せるって????
しかも、それが可能なぐらい、私ってテクニックがあるっていうんですか!?

でも、そんなこと本当に私に可能なの??
話を聞く限りでは、私ではなくハニューちゃんが誘ったみたいだけど…
私からパチュリー様を誘って、パチュリー様を落すなんて、そんな積極的なこと私にできるとは思えない…
「あの、ちなみに昨晩はどちらが誘ったんですか?私の記憶だとハニューちゃんのような気がするのですけど。」


「誘ったのは俺です、でもその後は小悪魔さんが積極的に…もう止まらないって感じで、明日の朝まで俺を帰さないってことまで言っちゃうぐらいでしたよ。」


「あうう…そう、そうなんだ…」
私から積極的にハニューちゃんを求めて、朝までハニューちゃんを帰さないって言うなんて…
私ってそんなに淫乱だったんだ…

これってやっぱり…
認めたくないけど、私には淫魔の血が流れているってことなのね…

私の姿形から、私には淫魔の血が流れているとは想像していたけど、認めたくなかった。
認めてしまえば…
いや、正確には淫魔であることを知られたら、パチュリー様に嫌われると思ったから…


「とにかく、もっと自分に自信を持ってください!みっともないって思っているのかも知れませんが、これも小悪魔さんを構成する一つなんですよ!」
「昨晩の小悪魔さんも、今の小悪魔さんも俺は好きですよ。」

!!
自分に自信を持て?
淫魔の私を受け入れろって言うの?
そして、ハニューちゃんも淫魔の私も受け入れてくれるって言うの?

確かに、淫魔の私も私…
それが事実である以上、それを否定することなんて出来ない。
そして、隠していてもいずれバレるかもしれない…
だから、ハニューちゃんみたいに周りにそれを受け入れてもらうというのも、一つの解決策…
「昨晩の私も…本当の私…」


「そうです!昨晩の姿も小悪魔さんの一面なんですよ!その一面を使ってパチュリー様を堕とすべきです!!」
確かに…
私が淫魔としての力を受け入れ、それを最大限に発揮すれば…
ウブなパチュリー様なんて簡単に堕とすことができる…
魔理沙なんか、簡単に忘れさせることができる…

バレて嫌われるのを恐れるより、積極的にこの力を使ってパチュリー様を堕としてしまうほうが、うまくいく可能性がある。
どのみち、私が嫌われなくても、このままでは魔理沙にパチュリー様を完全に奪われてしまう…
ハニューちゃんは、一晩を共にして私が淫魔だって分かったから、それを受け入れてパチュリー様を堕としたほうが私のためになるとアドバイスしてくれているのね。

でも、それでハニューちゃんはいいの?
大ちゃんさんと別れたというのに、ハニューちゃんは一晩とはいえ体と心を一つにした私も失うことが辛くないの?
それとも、同情で私を抱いたの?
私と傷を嘗めあうのは嫌だというの??
教えて!
「でも、ハニューちゃんはそれでいいんですか!!!昨晩のことは忘れて、私がパチュリー様とくっつく事になってもいいのですか!!!!!」

なんで、そんなに困った顔をするんですか?
やっぱり、同情で私を?

「正直目の当たりにするのは辛いですけど、パチュリー様が好きなんですよね?応援しますよ。
 昨日の夜だって、俺に何度もパチュリー様パチュリー様って言っていたじゃないですか…」

!?
「!!私、そんなことを…ハニューちゃんに…」
ことの最中に、相手がハニューちゃんなのに、パチュリー様の名前を読んでいたなんて…
私、なんて残酷なことを…
だから、ハニューちゃんは私を諦めて、私とパチュリー様の関係を応援する気になったのですか…

なんで、そんな辛い道を選ぶんですか…私の思いより自分の思いを優先して強引に私を奪ったらいいじゃないですか…
なんで私も、そのハニューちゃんの思いやりを蹴って、ハニューちゃんを選ぶことが出来ないんですか…
「私も馬鹿ですけど、ハニューちゃんも本当に馬鹿ですよ…」

本当に、私もハニューちゃんも馬鹿ですよ…

なんで私達、すれ違ってしまったんでしょうね…
私達、出会う順番が違っていたら、もしかしたら…



----------



ハニューちゃんの部屋から出たくない…
そんな思いが私の気持ちを重くする。
「それじゃあ、ハニューちゃん…私行きますね…
 このドアを潜ったら、昨日の夜のことは全て忘れて、またいつもの関係に戻りましょう…」
そう、このドア潜ったら、私達の関係は無かったことになる。
それは、いつもの関係に戻るだけのこと…

それなのに、気が重い…

「そんな大げさにしなくてもいいよ、簡単に忘れることは出来ないけど、絶対に他言しないから。だからパチュリー様を絶対に落せよ!」

冗談めいた雰囲気で明るく私を送り出そうとするハニューちゃん。
演技めいているのは、ハニューちゃんも辛いと感じているからかな…

でも、それじゃ駄目。
私達は、本当に好きな人の所に向かわないといけない。

「馬鹿。それだけじゃ駄目です。私も幸せになってハニューさんも幸せにならなくちゃ駄目です!絶対ですよ!」

ハニューちゃんありがとう。
でも、私の事ばかり考えては駄目なの、ハニューちゃんも幸せにならなくてはいけないの。
私はパチュリー様を堕とすから、ハニューさんは絶対に大ちゃんさんとの関係を修復させて…


だから、これが最後…
私が一晩だけの恋人としてハニューちゃんにしてあげられる最後のこと。
これで、お互い全てを忘れよう、ね。

「駄目ですよ小悪魔さん。俺はパチュリー様じゃないんですから。大事なキスはパチュリー様にしてあげてください。」


!?


どこまで、バカ正直に私に優しいんですか!!
ここまで私のことを考えて、徹底して身を引くなんて…

はっきりいって、異常すぎますよ…

そんなに、一晩で私の事が好きになっちゃったんですか?

そんな姿を見せられたら…忘れられなくなっちゃうじゃないですか…




私決めました。
もし私がパチュリー様に飽きたら、その時は覚悟しておいてくださいね。

ハニューちゃんが嫌と言っても、絶対に私のものにしてあげますから!






side 紅 美鈴

ハニューちゃんが、ここまで大人な妖精だったなんて凄くショックです。
ジオンの総帥なので、普通の妖精より大人な妖精だって知っていましたけど…


まさか、小悪魔さんとハニューちゃんが一晩だけの関係を持ったなんて…



湖の上で、いつもの6人組で遊んでいる姿は、普通の子供という感じですから…
咲夜さんが言う「ハニューは何時も演技をしているわ、表面から見えるハニューを信じては駄目。」という話はデマだとばっかり…








「門番長。よろしいですか?」

ハニューちゃんの所のメイド…?

「ハニュー総帥から伝言です。もし喋ったら、オシオキとして美鈴さんを強制的に小悪魔さんと同じ状態にしちゃいますよー。とのことです。
 理解できましたか?」


な、なんですかそれは!?
私が喋ったら、小悪魔さんと同じ状態ってどういうオシオキなんですか??

まさか、小悪魔さんみたいに、ハニューちゃんとちょっといい感じになっちゃうとか!?
それとも、もっとストレートに、ハニューちゃんに無理やりされちゃうとか!?

そんな、そんな無茶苦茶なオシオキ、咲夜さんですら思いつきませんよ!?

「本当に、そんなことを言ったのですか!?」



「はい。これはハニュー総帥の意思です。何か問題が?」

本人が来ないってことは、異議は認めないってことですよね…
とんでもないことに巻き込まれてしまいましたよ!?




でも、本当にどんなオシオキになっちゃうのでしょうか?
最近、咲夜さんのオシオキにも飽きて来たのでちょっと期待 ゲフン! ゲフン!



私、いつからこんな馬鹿なことを考えるように!???




side ミスティア・ローレライ

これは一大事よ!
皆を集めて、大ちゃんとハニューちゃんの関係修復のための会議を開かないといけないわ!



[6470] 第十三話 死亡フラグが立った!立ったよ!
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2009/09/24 18:14
第十三話
死亡フラグが立った!立ったよ!


・モビルスーツザク開発記録 2ページ目 記録者 河城 にとり
本日より、ハニュー氏直属の妖精メイド達がモビルスーツザク開発の応援に来ることになった。
妖精がどれほど役に立つのか心配だったが、ハニュー氏直属の妖精メイド達は他の妖精とは違うようだ。

彼女達は規律が取れ、各個人の能力も通常の妖精を大きく超えていた。
そして何よりも、職務に対して高い意欲を持っていたのだ。

そう、彼女達はエリートだったのだ。
ハニュー氏やルーミア氏から戦闘の手解きを受け、「博麗霊夢迎撃戦」と呼ばれるあの戦闘でも、博麗霊夢の退路を断つ等、重要な役割を演じていたそうだ。
だから、有能であるのは当たり前だといえた。

しかし、なぜ妖精でありながら有能なのか?
更に言えば、なぜ妖精らしくないのか、私はそういった根源的な理由が知りたくなった。
これは私が技術者だからだろう。



なぜ妖精でありながら妖精らしくないのか?そう問いかける私に彼女達は次のように答えた。

「妖精という檻を自ら作り、それに入っていることが当たり前だと思っていた私達に、ハニュー総帥が自らの力でそんな檻など打ち壊せると見せてくれたからです。
 私達もやればできるんだって、希望を与えてくれたんです!だから私達はハニュー総帥と共に歩みたいと思い、そのためにも妖精らしさという固定概念を捨てたのです!」

奇しくも、ハニュー氏のカリスマとはどういうものなのか、何故多くの妖精達から支持を集めることができたのか、その一端を私は知ることができたのだろう。



・モビルスーツザク開発記録 25ページ目 記録者 河城 にとり
徐々に、動員される妖精メイド達の数が増えてきた。

私にこれほどの人員を捌くことができるか心配だったが、最初に派遣されてきた妖精メイド達が班長を務めてくれたため、問題は起きていないようだ。

そして、これら妖精メイド達のマネジメントで、予想以上の働きを示しているのがルーミア氏だ。
失礼ながら、当初彼女の能力には不安を感じていた。彼女は見た目も口調も、あまりこのような頭脳労働は向いていないように見受けられたからだ。
しかし、ハニュー氏の側近だけあって彼女も只者ではなかった。

彼女が非凡な妖怪であることに気が付いたのは、彼女に資金面での相談を持ちかけたときだった。
彼女は、紅魔館の主から各メイド達に供給されている小遣い及び一部のメイド達にのみ出されている給与を、そのままジオンの活動費に換えるシステムを作り出してしまったのである。

作り上げられたシステムは、お茶菓子代として一部のメイド達とお金をプールしていたシステムを、明確にジオンの活動費として規定し構成員から任意で金銭若しくは同等物(労働力を含む)を徴収するというものだった。
システム自体は簡単なものだったが、このシステムを相談を持ちかけたその日の間に構築してしまった所に、彼女の非凡さが現れていると言えるだろう。

元来妖精達はお金への執着が薄いため、このシステムによる資金調達は上手くいっているようである。
また、ハニュー氏への忠誠の高さを表すために、収める金額を競い合う狂信的な者もいるとのことで、既に想定していた徴収額を上回りつつあるそうだ。


これほど優秀な彼女が、これまで⑨扱いだったのは何故だろうか。










ルーミアが⑨に見えたとは失礼な話なのだー



・モビルスーツザク開発記録 26ページ目 記録者 河城 にとり
ルーミア氏に確認したところ、以前のルーミア氏は確かに⑨だったそうだが、今は⑨では無いとのことだった。
何故変わったのか、本人もその原因は分からないとのこと。
博麗霊夢迎撃戦の何十日か後に、突然頭の中の霧が晴れてきたが如く頭が回るようになってきたそうだ。

少なくとも何十年も⑨として扱われていたルーミア氏が、ハニュー氏と出会い僅か数ヶ月で⑨を脱した。
これは偶然なのだろうか?


・モビルスーツザク開発記録 85ページ目 記録者 河城 にとり
紅魔館以外の妖精達の間でも、ジオンへの加入を希望する者が増えているようだ。
これらの多くはジオンに加入することにより、自らの安全を確保しようとする者達である。

ジオンに加入することにより、提供されるジオン徽章。
これを着けた者はジオンに所属する者であることを示す。

誰の目にも分かる所にジオン徽章を着け、ジオンに所属することを示す。
そのことが、妖精達の安全を保障することになっている。
ジオンに所属する者を攻撃した場合、ジオンという組織を敵に回すだけではなく、博麗霊夢と八雲紫の二人を同時に撃退したハニュー氏を敵に回すことになるからだ。


組織が拡大することは歓迎すべきことだと考えていたが、そう思わない者達も居るようだ。

特に、ハニュー氏と共に博麗霊夢迎撃戦を体験した者達はこの事態を憂慮しているらしく、新人への研修の実施、親衛隊の発足等を行うといった行動を取っている。
どうやら彼女達は、ハニュー氏の掲げる崇高な理念が、自らの安全しか考えない者達によって汚され捻じ曲げられるのではないかと懸念しているようだ。


・モビルスーツザク開発記録 135ページ目 記録者 河城 にとり
本日、コンセプトシミュレーターが完成した。
これは、モビルスーツザクを開発するに当たり、何が必要で何が必要ではないかを調べるためのものである。
これまで、装甲の開発、センサーの開発など、パーツレベルでの研究用試作機の製作は着手されているが、具体的にどこまでの性能を求めるかという問題が抜けていた。

つまり、どの点に重点を置けば最も高い戦闘力を発揮するか、まったく分からない状態だった。

実の所、ここ数ヶ月この問題が最も大きな障害となっていたのである。
しかし、仮想空間上でモビルスーツザクを運用することにより、コンセプトを固めることが可能になったため、もはや解決されるのは時間の問題といえるだろう。

また、将来的にはコンセプトシミュレータを使った、パイロットの育成も開始する予定である。


・モビルスーツザク開発記録 179ページ目 記録者 河城 にとり
本日より、パイロットが搭乗してのコンセプトシミュレーターの運用を開始した。
パイロットは、親衛隊のメンバーが務めることになった。
これは、パイロットはモビルスーツザクの性能に直接アクセスできるため、機密保持を考慮した結果である。


・モビルスーツザク開発記録 187ページ目 記録者 河城 にとり
「状況 か-20」
本日終了した、コンセプトシミュレーターにおける、対人掃討戦を想定したシナリオである。
このシナリオは、ゲリラ化した敵兵を掃討することが目的で、掃討まで約26時間も掛かった。
しかし、彼女達はその戦闘を「楽しいから」「ハニュー総帥のために」という二つの理由で不眠不休で乗り切ってしまったのだ。

理想的な兵士とは何か?その答えの一つが妖精なのだと私は今、確信している。
本来、妖精は食事・睡眠を必要としない。
そして、死ぬことも無い。
つまり、武器が使用可能である限り、妖精は永遠に戦い続けることができるのだ。

もちろん、妖精にはデメリットもある。
弱さと、その気質だ。
しかし、モビルスーツザクとハニュー氏の力によってデメリットが解決されつつある今、妖精は最強の存在に変容しつつあるのだ。


私はハニュー氏が妖精を中心にジオンを結成したのは、自らが妖精であるからだと考えていた。
その考えは改めなくてはいけないだろう。
ハニュー氏は、妖精の兵士としての優秀さを理解していたから、妖精を中心にジオンを結成したのだろう。


・モビルスーツザク開発記録 290ページ目 記録者 河城 にとり
流石ハニュー氏と言った所だろう。ハニュー氏の考えたキャッチフレーズの効果はすばらしいものがある。
転生してしまえば、これまで蓄えた全ての知識を失ってしまう冥界の幽霊達。
そんな彼らにとって、その知識を活かし残せる最後のチャンスを与えられるというのは大変魅力的に写ったようだ。
そのためか、亡霊や悪霊、幽霊でも人格が壊れかけているものなど、組織に適応すること自体が困難に思える者達も応募してきているようである。

この事態を受け、ルーミア氏を中心として、専門部署である採用・組織改変検討委員会が設置された。
しかし、あまりの応募数のため、それでも人員の選定及び配置にかなり苦慮しているように見受けられた。
ルーミア氏には悪いが、人手不足で苦しんでいる我々としては嬉しい悲鳴といえるだろう。

人員の調達は、元技術者・元研究者・元軍人を中心に行われ、その他にも元経営者・元行政経験者等幅広く行われているようだ。
彼らは順次ジオンの各組織に配置されモビルスーツザクの開発に参加している。
彼らの力により、モビルスーツザクの開発計画は大きく前進することになるだろう。

そして、ジオンの組織力は幻想郷屈指のものとなるだろう。


・モビルスーツザク開発記録 292ページ目 記録者 河城 にとり
単純に数が多いため、人員の選定に苦慮しているという訳ではないようだ。

ルーミア氏によると、『ジオンが外の世界と戦争を起こす可能性がある組織であることを、明かしても問題ない人物か。』
『ジオンの実態を示したうえで協力が得られる人物であるか。』
という点を考慮しつつ選定を行うところに、最も苦労しているとのことだった。
確かに彼らの故郷は外の世界であり、場合によれば自分の成果が故郷に牙を剥くこともありえるのだ。


ジオンに入るためには、上記のような特殊な条件を潜り抜ける必要があるため、採用された幽霊達は何らかの強い動機がある者達が多いようだ。

・モビルスーツザク開発記録 298ページ目 記録者 河城 にとり
何故モビルスーツザクが人型兵器なのか。
その点について、本日は講義を行った。

これは外の世界出身である幽霊達から、人型兵器は非効率であるという意見が多発したからだ。

確かに、科学的見地だけで考えれば、人型兵器にはデメリットが多すぎる。
前投影面積が極めて大きい問題。
魔法の補助が無ければ、自重で自立することすら困難な問題など数多い。

ではなぜ、ハニュー氏が人型に拘り、私がそれを受け入れたのか。
それは、新たなドクトリンに最適化した結果であると同時に、人型であることに意味があるからだ。

前者は幽霊達にとっても理解しやすい内容だったが、後者を理解させることには苦労した。
前者は科学的な知識で理解できることであったが、後者は魔法技術に馴染が無い幽霊たちにはあまりにも突飛な内容だったからだ。

何故私達妖怪や、ハニュー氏妖精達が人型を取っているのか、それには意味があると言われている。
人型である理由については諸説あるが、その一つに魔力を使う場合において最も都合が良い(効率的)な姿が人型だからだという説がある。
この説が正しいかどうかは分からない。ただし、魔力という観点から見ると人型が極めて効率が良いといのは紛れも無い事実なのである。

つまり、魔力を使う前提なら人型兵器が効率的な兵器となり、モビルスーツザクも人型兵器となったのである。


・モビルスーツザク開発記録 303ページ目 記録者 河城 にとり
本日、モビルスーツザクの開発計画に、新たな仲間が加わった。アリス・マーガトロイド、魔界から来た魔法使いである。
彼女は、友人であるハニュー氏に自分が何かしてあげれることは無いか?と考えここに来たとのことである。
まさに、渡りに船とはこのことだろう。彼女は、魔法のエキスパートなのである。
彼女は人形遣いとして知られているが、その実態は汎用的な魔法使いだったのである。
彼女の登場で、モビルスーツザクの開発は大きな転機を迎えることになるだろう。


・モビルスーツザク開発記録 304ページ目 記録者 アリス・マーガトロイド
本日より、ジオン技術部に魔法課が設置され、責任者としてアリス・マーガトロイドが就任した。
以下に重点項目を書く。

① 本日の会議によって決定した今後の計画について
 
 1 魔法技術の全面導入による、モビルスーツザクの再設計を行う。
 
   上記を実現するため魔法課として以下の点を重点項目として設定する。
  A 小型化に難航している、核融合炉への魔法技術の導入。
  B 構想段階で開発が頓挫している、魔力トランスリューサーの開発。
  C ナノマシン制御とは別アプローチになる、魔法技術によるハニュー式ステルスシステム(対外向け欺瞞用名称ミノフスキー粒子)の開発。
  D AI制御型魔方陣起動システムの開発。

 2 魔法課の拡充を行う。

   魔法技術、人員共に不足しているため、以下の対策を採る。
  A 魔界への技術アドバイスの依頼。
  B 人員の採用。

② その他

 1 私の就任について、事後承諾になるがハニュー総帥へ河城にとり技術部長と共に報告に向かう予定。


・モビルスーツザク開発記録 305ページ目 記録者 河城 にとり
私が固い書き方をする癖があるため、アリスさんが真面目に書きすぎてしまいました。
アリスさん。こんなに真面目に書かなくてもいいんですよ。
思ったことを、思うままに書いていてもいいですよ。
私の文章をよく見てもらえれば分かると思いますけど、文法や文体がかなり統一性が無くて滅茶苦茶でしょ?
あと、量に関しても、毎日必ず書くと決まっているものでも無いですし、ページをどれだけ使うのかということも決まっているわけでは無いですから。

といっても、私がこんな固い書き方をしていると、書きにくいですよね。
それに、記録を取るために始めたものが、いつの間にか実質的に日記になってますよね、これ。
日記として見た場合、私一人で書いていた時は良かったのですが、二人で同じ所に日記を書くって変ですよね。


実は最近、後方部が大事な記録を残し始めているんです。
だから、この機会にこれは日記にしようかと思います。

ということで、アリスさんの分も用意しました。
これと一緒に入っている赤色のやつがアリスさんの分ですから、個人的に書き残したいことがあったらそちらを使ってください。
今後は皆に見せる必要がある記録があった場合は、後方部の書いている記録に残すようにしましょう。


ということでルーミアさん、今後はあまりこちらを覗き見しないでくださいね?


・モビルスーツザク開発記録 306ページ目 記録者 ルーミア
        ,. '"´ ̄ ̄`"'' ヽ、/ヽ、__
       /          //`ー∠
     /     ,      ヽ!_/ヽ>
      i / i !__ ハ ハ-‐i- 「__rイ´',  そーなのかー
      ! i  /.ゝ、 レ' /ハ |/   .i
     レヘ/ i (ヒ_]    ヒ_ン ) ! |   |
      | !7""  ,___,   "" | .|   |
       .| 人.   ヽ _ン   .|  |  i |
      レヘハ>.、.,___   ,.イヘ,/ヽ.ハ/





・モビルスーツザク開発記録 307ページ目 記録者 河城 にとり
               /   /
              <    <
             /  /  スルーします
             _/_  
        -=ニニi百i〈三ニニニ=
        -=ニニ 凵_〈三ニニニ=
             ///
             //〈_
            ,Ll/`ヽ
           /二|___|
       _,,....-'´─-<::::::::`゙':.、
      ,:'´:::::::::::::::::::::::::::::\:::::::::::\
    /!::::_;;:: -──-- 、:;_::ヽ;:::::::::;>- 、
   / ,rァ'´          `ヽ!:::ァ'    ,ハ
   | '7   / ナト /!   ハ  i `O      |
   ヽ|  ! /--  |_,/--ト/!  |     イ
    |__|,.イ(ヒ_]    ヒ_ン ) ト、_ハ、     \
     /`|/""  ,___,   "" | |  \ ヽ   ヽ
      !/i、   ヽ _ン    ,ハ/  ノ´`ヽ!   ノ
     〈 ,ハ,>、       ''/ 八 (   | /
     ∨´\/!`>‐rァ / _//`ヽ)  レ'´
      ノノ´  |/!/レ'´レ'´ヽ‐-、´   (|




・モビルスーツザク開発記録 310ページ目 記録者 河城 にとり
本日は、ジオンの組織の変化について、後方部を例にして書く。
現在ジオンは、技術部・作戦部・後方部・総帥部の四つの組織に分かれている。

技術部 モビルスーツザクを初めとする各種兵器の開発を行う部門。
作戦部 実動部隊。
後方部 技術部・作戦部の支援を行う部門。
総帥部 ハニュー氏をトップとする最高意思決定機関。

後方部は、当初私のお使いや食事の準備をしたりする、特に名も無い部門だった。
しかし、幽霊達を迎え入れたことにより、その役割を急速に変化させつつあった。

ことの始まりは、生前商取引に関わっていた幽霊達から、独自の収入源による資金調達の必要性と、各方面への積極的な懐柔工作を提案してきたことだった。
この提案に対し、私の一存では決められない案件だと私は判断した。

これは、幽霊達がジオンに参加して以後、その幽霊達の活躍により急激にジオンの組織としての性質が変化し始めていると感じていたからである。
トップダウンのみで動く組織から、ボトムアップでも動く組織へ。
ハニュー氏の介在無く、自らより強く大きな組織へ進化する組織に変化し始めていたのだ。

ハニュー氏に判断を仰がないまま、このような変化をこのまま放置していいものなのか私は迷ったのだ。
よって、私はアリス氏と共にハニュー氏の所に伺った際に、ハニュー氏にこの件について判断を仰いだ。

「問題無い…全てはシナリオ通りだ。」

これがハニュー氏の回答だった。

ハニュー氏はこの状況を全て予想していたのだった。
ハニュー氏は恐らく組織の強化には、このような状況が必要であると判断した上で、幽霊達を招き入れたのだろう。

早速、後方部に営業課が設置され、積極的な営業活動を行う予定である。
また、妖怪の山への懐柔工作が開始されることになるため、妖怪の山に秘匿されている外の世界との接点『穴』の使用許可が降りることが期待されるところである。




追記

ハニュー氏は、ジオンでの活動について、命を賭けていることが分かった。
いや、命を奪われるか、それと同等の状態になる可能性が高いと考えていることが分かった。



ハニュー氏は、ルーミア氏に自分が居なくなった時のために紙袋を預けた。
その時ハニュー氏の発言した内容は、明らかに遺言だった。

死なない妖精にとって、遺言など必要無いはずである。
しかし、ハニュー氏は自分が死ぬのではなく、居なくなるという表現を使っていた。
恐らくハニュー氏は将来、自分の身が死ぬことと同意義とも言える状態に陥る可能性が高いと考えているのだろう。


ハニュー氏が描こうとしている世界の未来がどのような姿なのか、その全てを知っている者はハニュー氏しかいない。
しかしこれまで発言や行動から、八雲紫と博麗の巫女による幻想郷の支配体制を覆す大変革を幻想郷に起こし、来るべき外の世界(もしくは別の何か)からの攻撃から幻想郷を守ろうとしているのは間違いない。

判明しているこの二点のみでも、彼女の身に何かが起こる可能性は十分であるといえるだろう。

アリス氏はそんなハニュー氏を止めたいと思っているようだ。
彼女の気持ちは分かる。
しかし、ハニュー氏の決意を変えることはできないだろう。
だから私と同じくアリス氏も、ハニュー氏のために自らの職務に全力を傾けるしかないのだ。



・モビルスーツザク開発記録 313ページ目 記録者 河城 にとり
ハニュー氏から、ミニ八卦炉の設計図等の情報が提供された。
先日の会見時にお願いしていたことだったが、これほど容易に入手できるとは驚きである。
ハニュー氏によると、深い友人関係により成し得た結果だとのこと。
ハニュー氏の幅広い人脈はどこまで広がっているのだろうか。

ミニ八卦炉、魔力を物理エネルギーに変換するシステム。
このシステムを解析し、核融合炉から魔力を生成するシステムを開発する。
このシステムが完成すれば、モビルスーツザクはあらゆる状況下で大出力の魔力を発揮することが可能になる。


モビルスーツザクが外の世界の軍事力を圧倒できる兵器となるか、その成否がこのシステムに懸かっているといえるだろう。






side 元研究者だったとある幽霊


私が生きていた世界に未練はあるか?
未練があるのなら、どういったものなのか?



延々と続く質問。

その質問の最後に出された一つの問い。




「私達は、幻想郷と私達の未来を守るための兵器を研究開発しています。そのために、あなたの知識を貸してください。」





その問いを受けたとき、私は少し考え、気が付いたら頷いていた。


私の身内と言える人達は全て、私と同じく生きた存在では無くなっていた。
私の生きた証と言える研究成果も私の死と同時に失われていた。

私には何も未練は残っていなかった。
何も残すことができなかった。

だから、何かを残したかったのだ。






もしかしたら、転生した自分に、自分が開発に関わった兵器が襲い掛かってくるかもしれない。
そんな心配が頭を過ぎったこともあった。
でも、そんなことは気にしないことにした。

昔の自分と今の自分が同じ自分であると認識できるのは、そこに連続する記憶があるからだ。
記憶を失ってしまう転生後の自分は今の自分と同じ自分ではない。

今の自分は、転生により完全なる死を迎えるのだ。




完全なる死を迎えるその日まで、私が生きた証を残していきたい。
そう願い、私は今ここに存在している。




side 元軍人だったとある亡霊

私の祖国には色々と問題があった。
だが、私にとってはそれでも守るべき祖国だった。

しかし私は戦死し、祖国は別のものになってしまった。

無念だった。

この身を亡霊と変えても、その無念さが日々私を苦しめていた。

そんな私に転機が訪れた。
ある日、無念さから気を紛らわそうとして、ジオンという組織の協力者を集める試験に参加したのだ。


多くの質問を受け、その最後に出てきた言葉に、私は失ったはずの心臓が高鳴るのを感じた。

「私達は、幻想郷と私達の未来を守るための兵器を研究開発しています。しかし、私達には軍隊を組織し運用するノウハウが足りません。
 あなたは亡霊で本来は採用したら不味いのですが…高官として実戦を経験したあなたの力が我々にはどうしても必要です。どうか私達に貸してください!」

武器など持ったことも無さそうな少女達が、侵略から故郷を守るために兵器を開発し、それを運用する軍隊を組織しようとしている。

私はその姿に、祖国の姿を重ねてしまったのかもしれない。

いや、それだけではない。

他国を侵略できる程の余力がある国は限られている。
だから、少女達の敵の中に私の祖国を奪った敵がいるかもしれないと思ったのだ。


私は同情と復讐、その二つの思いに突き動かされ、少女達を教育することにした。


しかし、私だけの知識・能力では不足していることは明らかだった。
冥界を回り、私の部下や同僚達。そして、同じような思いを持つ同業者達を探しに行く予定だ。
もっとも、信仰の問題があるため、どこまで協力を得られるかは分からないが。





----------





花見ですかー。
何やら博麗の巫女がお嬢様に会いに来たと思ったら、奴の家で第十回目の花見を行う予定だそうです。

なんでも、桜の花が咲いて以来、花見という名目で宴会しまくっているとのこと。

桜の花が咲いてからもうかなりの時間が経っているので、どう考えても葉桜になっていると思うのですが、そんなことは気にせずにお嬢様とメイド長を誘いに来たようです。
桜が散ってしまっているのに花見とは、それはちょっとおかしいだろ…

そんなに宴会がしたいとは、もしかしてアルコール中毒なのか?


それはともかく、博麗の巫女の家でお花見ですか…

これは行くべきでしょう!
ゲンソウキョウを管理する側である博麗の巫女の家なら、きっとゲンソウキョウ脱出のヒントが見つかるはずです。
ちょっと前にゲンソウキョウ脱出を諦めたような気がしますが、低リスクでヒントが見つかるならやるべきです。

といっても、どうやってお花見に行けばいいんだ?
勝手に行くと…
それを理由に殺されかねん。


ここは、真面目にお願いすべきなのかなあ?
博麗の巫女が帰る時に、お願いしてみるか。


----------


「あーすみません。ちょっといいですか?」

「なによ?まさかあなたも花見に行きたいって言うの?」

うわ、怖!
なんだか凄く睨まれてますよ。
まあ、凄く嫌われているから仕方が無いのですが…

「別に無理にというわけではないですよ。そんなに花見には興味ありませんし…でもちょっと行ってみたいかなーと思って。」

しまった!?
怖くて思わず本音が出てしまいましたよ!

「なによそれ…あなた、花見に行きたいとか言いながら、本当は何か企んでいるんじゃないの??怪しいわね?」

やばい。凄く怪しまれていますよ。

というか、本当に花見がしたいのか怪しいのはそっちだろ!?
花見を名目にして、宴会を企んでいるだろうに…

こういうときは、クレーム対策のテクニックその1。
相手に質問をして、会話の主導権を取り戻すのだ!
リスクがあるテクニックだけど、このままだと説得に失敗しそうなので、やってみる価値はありそうです。

「そっちこそ…花見がしたいという言葉…何か間違っているんじゃないですか?
 本当は、花見がしたい訳じゃ無いですよね?」


「!?」


あれ?
何だか困惑した感じの顔になってしまいましたよ?

これは上手く行ったということなのか??

とにかく、このまま会話を進めて、一気に話を決めてしまったほうが良さそうです。
下手に博麗の巫女に考える時間を与えてはこちらが不利です!

「とにかく、常識的な金額までですけど、ちゃんと会費は出します。もちろん連れて行く人数分です。ですから参加させてください。」


なにか考えている…

いや、何故か博麗の巫女がニヤニヤしだしたぞ?








「わかったわ。参加を許可するわ…何か書くもの持ってる?」

よかった、なんとか参加許可が貰えるみたいです。



----------



なんとかOKしてもらえたー。
この通り、殴り書きですが参加許可証(というより唯の案内状)もバッチリです!

ん?

ジオン御一行様!?

あれ?
一人で行くのが怖いから複数人で行くようなことを言ったけど、なんでジオン御一行様になってるの!?

そうか、そうか。
何人で行くか俺が言ってないからか。
こういう書き方だったら、ジオンという扱いになっているメンバーなら誰でも参加できるってわけね。
ルーミアとか大ちゃんとかも一応ジオンってことになってるみたいだし、これなら皆で参加できますね。

ジオンという何やら訳の分からない遊び上の組織が、初めて役に立ったような気がしますよ!

あれ?でもそれだったら、普通に『ハニュー御一行様 何名様でもOK』とか書けばいいんじゃないか??
もしかして、俺がジオンのことで虐められているのを知った、博麗の巫女からの嫌がらせってこと無いよね?

そうだよね!?








「そうだよねルーミア?これって嫌がらせじゃないよね??」


「is that so~?」


い?? ざっ…??????

お前は何を言っているんだ???
凄く馬鹿にされた気がするのは、気のせいか?


まあ、気を取り直してよく読んでみるか…

会費は、一人当たり…
全然大した金額じゃないね。

あとは…



注意事項?

『参加者は各自お酒や食べ物を持ってきてください。
 ジオン御一行様はこの紙を提示することにより参加が許可されます。
 なお、この紙を提示すると同時に参加料支払いの義務が発生します。
 守らなかった場合は夢想封印よ!!』


なんだか妙な注意事項だな。
随分と金に執着してるような…

でも、ゲンソウキョウを管理する側の博麗の巫女が、ゲンソウキョウ内の通貨を欲しがる理由が無いしなあ。
どういうことだ?

となるとこれには他の深い理由が…

駄目だ意味がまったく分からん。





あれ?
そういえば、文章以前に何だかこの展開って変だろ!?







よくよく考えてみたら、博麗の巫女が花見をするということ自体がありえないことじゃないのか?
ゲンソウキョウを力でコントロールする博麗の巫女が花見をして何か得があるのだろうか?


そんなものは無…
違う。
常識の囚われたら駄目だ、得があるからこそ博麗の巫女は花見をするのだろう。
となると…
花見をすることにより、そこで起きる何かが博麗の巫女の得に繋がると考えるべきだろう。



こういう場合は、博麗の巫女にとっての得とはどういう概念のものかを考えたほうがいい。

博麗の巫女の得とは何だ?

欲望を満たすこと?
いや違う、戦闘マシーンである博麗の巫女に欲望など本来無いはずだ。
あるとしたら、先日の虐殺のように強烈な破壊衝動ぐらいだろう。
しかし、破壊衝動を満たすためとしては…
あまりにも回りくどい…
となると、欲望ではない…

そうか、博麗の存在意義である、彼女の任務にとって得があるということか…


博麗の巫女の任務は何だ?

生物兵器の実験場であるゲンソウキョウを正常に管理運営するために、その障害となる生物兵器を抹殺すること。


花見をすることによって、その任務に何か進展があるか?


ゲンソウキョウの住人と親交を深めることにより、ゲンソウキョウを安定させる?

いや、これはおかしい。
生物兵器の実験場であるゲンソウキョウでは、適度の激突が必要だ。
酒を飲み交わすほどの親交が必要とは思えない。


では何か他にあるのか…
そうだ、一つある。
情報収集だ。

例えば、お酒と称して自白剤を少々混ぜたお酒を参加者に飲ませれば…
ゲンソウキョウに張り巡らされていると思われる監視センサーでは捕らえられない、心の内面まで知ることができる。
感情を持つ兵器である、ゲンソウキョウの住人達を心の内面を知ることは、兵器としての信頼性を確認するうえで大切だ。
しかも、ゲンソウキョウを運営する側としては、ゲンソウキョウの住人の心の内面を知ることは、無用な混乱を未然に防ぐ有益な情報を得ることに繋がるはずだ。


では、何故こんな面倒な方法を?
直接一人ひとり捕らえて自白剤を飲まるという方法もあるはず…


いや、そんな強引な方法では駄目だ。
最初は上手く行っても、騒ぎが大きくなりいずれ上手く行かなくなる。





くそ!

全ては博麗の巫女の手のひらの上って訳か!
花見という平和的な言葉を出しておきながら、その裏では冷徹な計算が働いていたなんて…
博麗の巫女め…やはり恐ろしい奴だ…




しかし、こんな怪しい花見によく皆平気で行けるよな。
そうか…

ゲンソウキョウの住人達は自分達が生物兵器であり、ここが生物兵器の実験場だとも知らないんだったな。
広い世界を知らないから、自分達がどれだけ異常な状態に居るか理解できないんだろう。

きっと、ゲンソウキョウのちょっと手荒でアル中な警察官の所で花見をするとしか思っていないんだろうな。
中には生物兵器のカテゴリー名を勘違いして、ゲンソウキョウは妖怪や妖精達の住まう秘境で、そこを管理する巫女の所でお花見だー、と斜め上なことを考えている奴もいるかもしれん。

かわいそうに…






こう考えると、先ほどの文章の意味がわかってきたぞ。
あれは、ただ単に普通の花見だと見せかけるだけに書かれたものなんだ。
だから、意味が微妙におかしいんだ!

でも、彼女が生物兵器の実験場であるゲンソウキョウを管理する側に居るという、予備知識なしにこれを読んだら…
貧乏な博麗の巫女が金をたかっているように読めてしまう…
いや、実際にそういう風にカモフラージュしているのかもしれない…

ゲンソウキョウの住人達は外の世界があることは知っているが、そこがどんな世界か知らない。
そして、その世界の常識も知らない。
そんな彼女達にとっては、貧乏で金に執着心が強い巫女という怪しげなカモフラージュでも説得力があるように見えるだろう。



となると、この文章には深い意味があるわけではなく、適当に書かれているわけなのか…
最後の、ゆめそうふういん?ってのも単語になってないから間違いないだろう。





やばいぞ!
死亡フラグが立った気がするぞ!!
万が一自白剤を飲んでしまったら、俺が記憶を取り戻していることがバレてしまい処分されるかもしれない…
それ以前に、博麗の巫女の直ぐ近くで酒を飲むこと自体が危ない。
下手に口を滑らして、それが博麗の巫女の耳に届いたりしたら…

それに、普通の花見ならちょっと席を外して、ゲンソウキョウ脱出の情報を探るためにあちこち調べてもあまり怪しまれないかもしれないが…
博麗の巫女が俺達から情報を集める目的で開催しているのなら…
席を外したら逆に監視が強まる可能性が…

どうすればいい?



今回は諦めて欠席しちゃおうか?

適当な理由をつけて…

チルノがナインボールに排除されそうなので、助けるためにイレギュラーを探しに行ったとか…
ミスティアが、バナナとチ●チンの見分けが付かなくなったので、病院に連れて行くとか…
ルーミアに性的な意味で食われて、ショックで部屋に閉じこもってますとか…
紅魔館でバルサン焚いていたら、リグルが巻き込まれて業務上過失致死で捕まりそうだとか…
何だか知らないけど、大ちゃんに監禁されて八宝菜を食わされているので、出席できなくなったとか…


いやいや、欠席するのは逆に不味い。

博麗の巫女は既に何度も宴会を行っていると聞いた。
何度も行っているということは、何らかの理由があると考えるべきだ。

博麗の巫女の目的は任務遂行のために有益な情報を得ること。
何度も行っているということは、有益な情報を得ることに失敗している可能性がある。
具体的には、これといってゲンソウキョウに悪影響を与えるような話や、内面を窺い知れるような情報が出てこないのだろう。

そうである場合、博麗の巫女は有益な情報が得られず焦っている可能性がある。

彼女にとって任務とは存在意義と同じだ。
つまり、その存在意義を現在進行形で否定されていることになる。
博麗の巫女の精神がそんな不安定な状態で俺が欠席したら…

この場合、俺がゲンソウキョウにとって危険であるかどうかなどの事実は関係ない
博麗の巫女の存在意義を強引に満たすのために、俺がターゲットとして狙われる可能性がある。
『ハニューが欠席したのは怪しい、ゲンソウキョウに悪影響を与えようとしているに違いない。』と強引に判断されて…

最悪俺は弁明の余地無く殺されるだろう。





ではどうすれば…

出席しても、博麗の巫女とあまり接触しなければ問題が無いのだが…
そんな方法って…




そうだ、一つだけ方法がある!!


俺はジオン御一行様として呼ばれているから、できるだけ多くの人々をを引き連れて参加すればいい。
いつも、ジオンとか言っている妖精メイド達も連れて行けば、人数が増えすぎて博麗の巫女も監視しきれないはず。
おまけに、俺も含めてゲンソウキョウを揺るがすような大それたことなど、とても出来ないような普通の奴らばっかりだからな。
上手く行けば俺達の集団を見ただけで、相手をするのは時間の無駄だと思ってくれるかもしれない。
そうなれば、俺がこっそりとゲンソウキョウ脱出の情報を集める機会もあるかもしれない。

木を隠すなら森の中というわけだ。


ついでに、食事もいっぱい持っていこう。
いっぱい持っていけば、自白剤の数も足りなくなるかもしれない。




よーし早速準備に入ろう。

「皆を花見に誘いに行こう!行くよルーミア!」



とにかくいっぱい人を集めよう。





side 博麗 霊夢

ハニューは何を目的に私達の花見に来るというの!?

花見のために花見に来る。
それにしては…
どこか妙なのよね

(別に無理にというわけではないですよ。そんなに花見には興味ありませんし…でもちょっと行ってみたいかなーと思って。)
花見には興味が無いのに、行きたいですって??
怪しすぎるわ…


それにあの言葉…
(そっちこそ…花見がしたいという言葉…何か間違っているんじゃないですか?)
(本当は、花見がしたい訳じゃ無いですよね?)

私は花見をしたい訳では無いのに花見をしている???
これってどういう意味なのかしら…何故かもの凄く引っかかるわ…
そりゃ、確かに最初は花見だったけど、今はもう宴会になってるから、宴会がしたいって言うべきなんだけどね。
そんな下らないことを、あのハニューが言うわけないし…

それに、最初は神社が何度も宴会場にされて大迷惑だったけど、食べ物持参を皆に義務付けてから食費が浮くようになったのよね。
だから、今は積極的に開催するために、幹事役を私が魔理沙から奪ったぐらいなんだけど…

やっぱり、私が花見をしたい訳じゃないっていうのはおかしいわ。
私は、私の意志で花見をしているはずよ。
どういう意図でハニューはこんなことを?
何を企んでいるの??


会費なんて元々無い花見なのに、参加人数分の会費を払うなんて好条件を出されたから、思わずハニューの参加を許可しちゃったけど、これは不味かったかしら?


「なあ霊夢?そんなに怪しいと思ってるのなら、参加を拒否すればいいんじゃないか?」

魔理沙はなに馬鹿なこと言ってるのよ?
もう!煎餅一枚半も食べたんだから、もうちょっとマシな考えを出しなさいよ!!

「魔理沙何言ってるのよ!あのジオンの総帥が参加人数分の会費を払うって言ってるのよ!!これって稼ぎどころなのよ!!
 もうとっくに、初詣のお賽銭なんて残ってないの!賽銭箱には何にも入ってないの!分かる!?」


「…それじゃあ、悩む必要なんて無いんじゃないか?」

魔理沙は分かってないわね!
お金は欲しい!
でも、巫女としての感が何か起きてると言ってるのよ!!



side 八雲 紫

小鬼が起こしている、宴会を何度も開いてしまうこの異変。
ハニューも気が付いたのかしら?

もしも、気が付いているのなら、今度の異変では何をしようとしているのかしら?
紅魔館の異変は、ジオンの設立のために利用した。
冥界の異変は、ジオンの人員補充に利用した。
そして今回は…





当日にならないと分からないわね。

本当は邪魔すべきなんだろうけど、面倒くさいわね。
まあ、今回は異変といっても小規模なものだし、子鬼一人倒した所で大勢に影響があるとも思えないから様子見かしら。
上手くことが進めば、異変は解決するが、ハニューは骨折り損のくたびれ儲けって展開もあるかもしれないし…


「藍ー?明日はハニューも来るみたいだから、あまりアルコールの強いお酒は持っていかないようにしておいてくれる?」

ガシャン!

がしゃん?藍ったら、台所で何か割ったわね?
しまった…
あの子はハニューの事になると、直ぐに正気を失うの忘れていたわ…


ドドドドド…


ガラ!


「紫様!!橙とハニューが結婚するなんて認めません!!」

……?

どうしてそういう答えになるの…


「一応聞くけど、何でそう思うの?」



「橙は可愛いです!」

そ、そうね。

「宴会では、お酒も出ます。ハニューがお酒の勢いで橙をにんっしんっさせるかもしれません!そうなれば悔しいですがハニューに責任を取らせないと!」

えーと…?????

確かスキマのここら辺に…

「そうだ!先に私が橙をにんっしんっさせれば ぴgy!

ふう、スタンガンって便利ね…
何でこんなに便利なものが幻想入りしたのかしら?



[6470] 第十四話 二人ばかしパターン入った?
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2009/09/24 18:15
第十四話
二人ばかしパターン入った?



さーてと。
まずは、比較的近くに住んでいるチルノの家からだな。

「おーいチルノ?いるー?」


「ハニュー!ルーミア!ちょうど、今 ウグググ…

「ハニューさん!?急に、どうしたんですか?」

おやおや??
チルノの家に来たら、チルノ以外にリグルも居ましたよ。おまけにミスティアまで…

ん?
なんでリグルはチルノの口を押さえているんだ?

これって、アメリカで流行っていたという窒息遊びという奴かな?
いや、単純にじゃれ合ってるだけか?
手で軽く押さえている程度だから大丈夫だと思うけど、ほどほどにしといたほうがいいと思うぞ。
まあ、子供の遊びに大人が茶々を入れるのは良くないか…

とにかく、手が空いてそうなミスティアに話をしてみましょう。

「実は、明日博麗の巫女が開催する花見に行こうと思うんだ。どう?一緒に行かない?集合は紅魔館で午後四時なんだけど。」



「それはちょうどいい、じゃなくていい話ね!是非行かせて貰うわ!ねえ、大ちゃんも呼んであげたの?」

もちろん、大ちゃんも呼ぶ予定です。

「これから家に行くつもりなんだ。」


「それなら、私が伝えておいてあげるわ!」

さすがミスティアは気が利くなあ。

「ありがとう。お願いするね。」


side ミスティア・ローレライ

まさか、『ハニューちゃんと大ちゃんを仲直りさせる会議』をしているときに本人が来るなんて思わなかったわ。

でも、これは好都合ね!

大ちゃんには、おめかしして来るように伝えてあげないといけないわ。
それと、腕によりをかけた料理も用意するように伝えないと。



私達の予想通り、ハニューちゃんが仕事ばかり大切にして、大ちゃんが蔑ろにされたように感じたことが不仲の原因なら…
明日の花見を最大限活用させてもらうわ。

私の感では、お互い本音では好いているのは間違いないのだから…
花見の場所で、お酒が入った状態で二人っきりにして愛を再確認させれば、きっと上手く行くわ!!


「うまく行くのかなー?」

なによ、リグルちゃんは心配性ね。

「とにかく、予定通りリグルちゃんは失敗した料理を持ってきて、大ちゃんの料理を引き立てるのよ!
 それから服装もあんまりカッコいいのを着てきちゃ駄目よ!私もチルノちゃんも可愛い格好はしないから!」

私達は引き立て役よ!

「わかったよ…でも何で僕だけ可愛い服装じゃなくてカッコいい服装をしてきちゃ駄目なの??」

さあ、明日は頑張るわよ!!












「ミスティア!ねえ聞いてる!!」



----------





「アーリースーさん!居ますかー?」








「ハニュー??」


そうです。ハニューです。
でも何故疑問系なんだ?????

「突然、どうしたの??」

何だか妙に動揺してますね。
おまけに、家の中から出てきてくれません。
どうしたんでしょうか?








…しまったあああ!
原因は、何も連絡していで来ちゃったからだ!

チルノ達ならとにかく、アリスさんぐらいの感じになると普段着じゃ人に会いたくないよなあ…

とりあえず、用件だけ家の外から伝えよう。

「明日、博麗神社で花見をしますので、アリスさんも来てください。明日午後四時頃に紅魔館に集合です。チラシは玄関のドアの隙間に挟んでおきますね?」
















何この妙な沈黙…


「シャンハーイ」

あれれれ?
どうして、人形達に囲まれてるの????

「何をするのかー?」

ルーミアも焦っているというか、臨戦態勢に入っちゃうし!?
俺、何か悪いことした???




ギイ…

「間違いない、本物のハニューだわ…」
あのー…なんで玄関のドアの隙間からこちらを覗いてるんですか???

「とにかく、来てくださいよ!他のジオンの皆も来るから楽しいですよ!」


「ありがとう…でもどうして私を誘おうと思ったの??」

えーと。

友達だからと、俺が博麗の巫女に殺されそうになったら助けて欲しいからなんだけど。

適当に嘘をつくか???
でも、何だかそれは気が引けるな…正直に話すか…


「友達だからです…。それ「ヘブン状態!!!!!!」」



Σ('A`)ビクッ



「そうだったわ!私達友達ですものね!!!!!!」


「このチラシの通り準備していくから!美味しいものもいっぱい持っていくから、楽しみにしててね!!」


バタン!





妙にテンション高いような…
こんな感じの人だったっけ???


side アリス・マーガトロイド

本物のハニュー。
幻術や誰かが化けているわけでもなかった。

誰かに操られているわけでもなかった。



それでも、私を誘う理由が分からなかったから信じられなかったのに…



私が友人だからという理由で花見に誘われるなんて…
いつもなら、花見が終わったあたりで「そういえばアリスはどうしたんだ?…やっべ!誘うの忘れてた…」とかばっかりだったのに…



こんなこと初めて…うれしい。


まずは、この喜びを母さんにも伝えて。

その後は、外に出かけての食材探しよ!!
明日は最高においしいもの作ってハニューに食べさせてあげよう!







side 夢子

「良かったわねアリスちゃん!お友達に花見に誘ってもらえて!」

神綺様が誰と話しているのかと思えば、アリスからの通信か。
今日は何の話だろうか。

「ねえ、アリスちゃん!お友達の契約はもうしたの?」

お友達の契約???
なんだそれは!?

「駄目じゃない!ちゃんと契約しないと!!お友達の契約さえ行えば、一生お友達で居られるのよ!!魔界に居たときは、母さんがアリスちゃんの代りに契約の手続きをしてあげたけど、幻想郷ではアリスちゃんが自分でしなくちゃいけないのよ!」

??????


----------

何だかもの凄く胸騒ぎがする。
先ほどの件について、神綺様に確認したほうが良さそうだ。

「あの…神綺様。先ほどアリスとの通信で言っていたお友達の契約とは何でしょうか?」


「アリスちゃんってお友達を作るのが昔から下手だったでしょ?おまけにアリスちゃんって、ちょっと扱いにくい所あるから、お友達ができても直ぐに上手く行かなくなることが多かったじゃない。」

まあ、確かにアリスの小さい頃は、そんなことが多かったな。

「だから、母さんが一肌脱いだの!アリスちゃんのお友達に書いてもらうための契約書を作ったの。ジャーン!!」

神綺様。契約書を取り出すのはいいのですが、自分で擬音を言わないでください。
内容は…

『この契約書にサインしたものは、一生アリスのお友達になります』か。

しかしこんな物に何の意味が。
「神綺様?失礼ですが、いくら契約書にサインしたからといって、こんなもの誰も守らないのではないですか?」



「ぶー。母さんだって馬鹿じゃないわ!ちゃんと破ったときのことも考えて罰則もついているのよ!!」

ゑ?

「この契約を破った者は、異界の魔物に襲われ、異界に引きずり込まれるわ。」





「あの…神綺様。もう一度、今の場所を喋ってもらえますか。」


「この契約を破った者は、異界の魔物に襲われ、異界に引きずり込まれるわ。」


………


「神綺様?その契約の罰則についての説明を、契約書をサインする者にしたのですか?」


「当たり前じゃない!母さんだって、何も罰則を教えないまま契約書を書かせるなんて酷いことはしないわ!!」


……………


「因みに、契約書にサインしてくれた人は誰かいましたか?」


「それが…誰もいなかったの。みんな酷いわ~。」




我が妹に、何故一人も友達が居ないのかヨクワカリマシタ。
いくらなんでも、友達が一人も居ないのはおかしいと思っていたのですが。
神綺様、あなたが元凶だったのですね。







アリスが幻想郷で友達に契約書を使おうとしないか少し心配だが、アリスは神綺様に比べれば常識人だから大丈夫だろう。
神綺様に言われたからと、こんな非常識な罰則がついた契約書を使うはずなど無い筈だからな。


side 神綺


そういえば罰則の件、アリスちゃんに話したかしら…



母さん神だから、それぐらいちゃんと出来てるはずね。
きっと話したのを忘れているだけだわ~。


----------


side レミリア・スカーレット

「あなたが花見に参加するのはまだ早いわ!」

部屋に飛び込んできたと思ったら、やっぱり花見のことね。

「なんで?なんで駄目なのお姉様!」

どうして私が、花見に参加してはいけないと言っているか理解できないようね…
やっぱり、フランを花見に参加させるわけには行かないわね。

「それが分からないあなたを参加させるわけには行かないわ。大体、あなたは霊夢から花見の誘いを受けていないわよね?」



「…!!でも、私も一度でいいから、皆と…」

少しは戸惑ったようだけど、理性的な答えがここで出てこないということは…
これ以上話しても無駄ね。
話を聞いてあげても、いつものと同じ、駄々をこねるだけね。

「パチュ!」


流石パチュの魔法ね。
私が指示した次の瞬間には、完全にフランを捉えていたわ。

「なにこれ!?転送魔法!??そんな…お姉様のバカーー!!!」


「フラン!ちゃんと花見の誘いが受けられるぐらいに一人前になるまで、あなたを花見に連れて行くわけにはいけないわ。」



パシュン!







転送は上手く行ったようね。
地下室で、自分の何処が問題なのかよく反省しなさい。










「これで本当によかったの?」

愚問よ。

「今のフランが花見に参加した所で、恥をかくだけだよ。唯でさえ私よりカリスマの少ないフランが、お酒に酔ったらどんな醜態を晒すか分かったものじゃないわ。」

これはあの子の為なのよ。

さあ、霊夢が私を待っているわ!




side パチュリー・ノーレッジ

ハァ…

私も共犯とはいえ…
地下室に閉じ込めるなんて、これが本当にフランのためになるとは思えないわ。



レミィ…
あなたは愛情だと思っているようだけど…
私には、フランを邪魔者にしているようにしか見えないわ。


あなたは、霊夢がフランを誘わなかったと言ってるけど、フランと霊夢が顔を合わすような話が出ると、途端にあなたが不機嫌になることが原因だって分かってるの?




----------





次は妹様です!

妹様は、かなりの戦闘能力を持ったバトルマニアです。怖くてたまらないのですが、今回の花見には声をかけようと思います。

なんといっても、強くてバトルマニアですから。
万が一博麗の巫女に殺されそうになっても、妹様に助けを求めれば俺の命は助かるかもしれないと思ったわけです。

え?助けてくれる保証が無い?
いやいや、まあ色々問題はあるみたいだけど、根はとてもいい子なのできっと助けてくれるはずです!!
一度拳を交わした仲なので分かりますったら分かります。



「そこの君?妹様は何処ー?」


「ハニュー総帥!?妹様は現在地下最深部にいらっしゃいます!」

地下最深部?
ああそうか、昔はずっとそこに居たって言っていたっけ。

お気に入りの場所でも在るのかなあ?




----------

妹様は何処にいるのかなー?

おっと。
妖精メイドが入り口を固めている部屋がありますね。
彼女達は確か、妹様の身の回りの世話をしているメイド達です。

ということは、どうやらあの部屋に居るようですね。

「な、何の用だ!?」

何の用と言われても困るのですが…

「妹様に会いに着ただけですよ?」






何故か驚いた顔をされました。
妹様に会いに来る人ってそんなに少ないのか???
やっぱり最深部となると、普通の人はあんまり近寄る機会なんて無いよなあ。
たどり着くだけで大変だし。


まあいいや、そんなことより部屋に入りましょう。



…っておっと。

何このドア??
何やら、お札みたいな紙や、魔方陣みたいな絵が描かれてますね。

デザイン系のセキュリティシステムか?


どうやって開ければいいの???


ちょっと、メイド達に開けて貰いましょう。

「このドアを開けてくれるかい?」





あれれれ?
何でそんなに遠くに居るの!?
さっきまで、直ぐ近くに居たような気がするんだが…


「私たちもここを開けることができればと思っています。でも、ここを開けることはできません。その気持ちを汲んでいただいて、お帰り願えませんか?」


どういうことだよ。

もしかして、鍵が壊れているのか?
いや、それとも中からじゃないと開かないとか?
もしや、妹様この部屋の中に引き篭もってるのか???

とにかく、メイド達はこの扉を開けようとしていたが、まだ開かないということのようだな。


今すぐ開かないとなると、案内状に『ジオンに入って一緒に花見に行こう』と書いて、メイド達に扉が開いたら渡して貰うしかないですね。
いや、それともこのドアの隙間から案内状を入れて、妹様に声をかければ…
えーと案内状は確かメイド服のポケットの中に…



「おやめください!ハニュー様!!!」

やめろって…何「ハニュー?ハニューそこに居るの!?」








この扉の向こうから聞こえる声は…
妹様ですね!
これは都合がいい。

「そうです、ハニューです!妹様、明日一緒に博麗神社の花見に行きませんか?」



「な なんだってー!!」
外野はちょっとお静かに願います。



「ありがとう…でも、私はお姉様に花身に行っちゃ駄目だって言われてるから…花見に呼ばれていない私は行っちゃ駄目だって…」



!!なるほど、これで全て状況が読めました。

妹様は花見に行きたいのに、花見に呼ばれなかったので拗ねてここに引き篭もってしまったんですね。
そして、メイド達はそれを助けようとしていたと。

でもそれなら大丈夫ですね、妹様もジオンになれば全て解決です!!

「それなら問題は無いですよ。俺はジオンの一員なら、誰でも花見に連れて行って良いと博麗の巫女から許可を受けています。
 妹様をジオンの一員として花見に連れて行きましょう。これで何も問題は無い筈です!!」








「そんな!?本当にいいの!?私は狂ってるのよ!?そんな私を簡単にジオンに入れていいの!?」

いやいやいや…
簡単も何も、入るのに条件なんて無いですが?
なんかルーミア達が入隊試験と称して、何か試験ゴッコしているみたいですが、遊びに加わるのに条件なんて無いに決まってるじゃないですか。

「何も問題は無いよ。今この瞬間から、妹様もジオンの一員さ、俺達の仲間だよ!」










グス…




「…ありがとうハニュー…」




あれ?何だか涙声!?

そんなに花見に行きたかったのか…
まあ、行けないショックで引篭もるぐらいだからな…

何だか、凄く善いことをしてしまったみたいです。



「妹様、明日二時頃に迎えに来ますから。」

喜んでくれたのはいいのですが、少し恥ずかしいので今日はこれにて撤収!
そうそう、妹様の面倒を見ているメイド達も連れて行きましょう。

「ねえ君達?君達も一緒に花見に来ないかい?」


あれ?
何だか皆、困惑した顔をしていますね。
喜ぶと思ったんですけど…


そうか、すぐ決められないよな。
休暇とか取らないといけないし…
「明日答えを聞くよ。花見に行くか行かないかよく考えておいてね。」







side 第四メイド隊所属のとあるメイド

紅魔館で四番目に歴史が長く、紅魔館の汚れ仕事を一手に引き受けてきた部隊。
紅魔館の裏の顔。第四メイド隊。

そこに所属する私達の任務は、妹様の封印の監視だった。

私達第四メイド隊は任務の性質上、心を殺して行動しなくてはいけないことが多い。
しかし、私達三人は少し毛色が違った。
私達は、監視対象である妹様に情が移っていたのだ。

理不尽な理由で封印される妹様。
妹様に色々と問題があるのは分かっているが、それでもこのやり方はどうか?
という思いが日に日に強くなっていったのだ。

例えば、妹様は善悪の判断能力に少々欠陥があるという理由で、封印されていたことがあった。
しかし私には、こうやって閉じ込め続けるのでは、善悪の判断を勉強する機会すら奪い、状況を悪化させているだけにしか見えなかったのだ。







そんな暗鬱とした日々に、本日大きな変化が訪れた。



ジオン総帥であり、最凶の妖精とも言われるハニュー様が、妹様のところを訪れたのだ。

私達はレミリア様より「フランを、補足事項のために地下室から脱走するのを阻止するように。」と以前より命令されていた。
そして、今回は補足事項として「招待されてもいないのに花見に行こうとしているから、それを止めるために閉じ込めたの。」と知らされていた。

命令されている内容はそれだけだったが、私達はこの命令の意図を汲み行動してきた。
つまり、これまでは妹様脱走に繋がるかもしれない要因(誰かとの会話や面会)までも全て排除してきたのだ。




だから、私が接近するハニュー様に何故ここに来たのか問いかけるのは当たり前の行動だった。
そんな私にハニュー様は、「妹様に会いに着ただけですよ?」と言い返してきたのだ。

私は驚いた。
ハニュー様はレミリア様の命令の盲点を突いてきたのだ、確かに私は妹様と誰かが会うことを邪魔しろとまで命令されてはいないのだ。











そして、それが大きな隙になった。
気がついたら、ハニュー様は私の横をすり抜けドアの前に立っていたのだ。





私は攻撃すべきだったのかもしれない。
しかし、私も含め誰もが攻撃しなかった。
今から思えば、私達は完全に怯えていたのだ。


私達は、妖精メイドと同じ格好をしているが、紅魔館では数少ないの妖怪のメイドである。

これは、妹様の封印という特殊な仕事を請け負うのには、妖精メイドの能天気な頭では不安だったからだ。
もちろんそれだけでは無い。
妹様が脱出した時のための、弾幕ごっこの強さという点も重視されていた。

私達は、妖精メイドより賢く強かった。
だからこそ、私達はハニュー様の強さが明確に理解できてしまい、恐れていたのだ。

ハニュー様は無防備だった。
何も予備知識が無い者が見れば、普通の妖精メイドが友人を花見に誘いに来たように見えるぐらいに無防備だった。
しかし、それぞれの立場を理解すれば、そうではないことなど明白だった。
場合によっては、私達とハニュー様が一戦交える可能性がある状況と言えるだろう。

繰り返すが、それでもハニュー様は何処から見ても無防備だったのだ。

この事実は、私達に恐ろしい結論を導きさせた。

ハニュー様にとって、私達の攻撃など防御を意識する必要も無い程度のものなのか、あまりのレベルの差に我々がハニュー様が密かに展開した防御を知覚することができないかの二つだった。



このどちらが事実であるか?ということはあまり重要ではなかった。

重要なのは、ハニュー様は噂どおりのバケモノであり、我々には勝ち目が無いということだ。
フラワーマスターのように、強力な妖怪ほど表面上は温和に見えるという。
ハニュー様もこれと同じだろう。

恐らくハニュー様が本気になれば、私達は博麗霊夢のようにたった一つの弾幕で消し飛ばされるのだろう。
いや、私など瞬き一つで十分だろうか…




とにかく、私達は勝利が絶望的な戦いを行うことだけは回避したかった。


だから、ハニュー様から「このドアを開けてくれるかい?」言われたとき、私は必死だった。
レミリア様の命令を無視して封印を解くわけには行かない。
だからといって、ハニュー様と戦いたくない。

私は自分の置かれた苦しい状況を必死に説明した。
妹様を外に出してあげたい。しかし、レミリア様の命令を無視して外に出すことはできないと。



しかし、この思いを汲んでくれと願う私を尻目に、ハニュー様はメイド服のポケットに手を入れ、何かを取り出そうとしたのだ。
ハニュー様の気配は何も変わらない。
だが、ポケットからかすかに聞こえた紙のようなものの音が私の注意を引いた。

レミリア様の命令に逆らえない私に業を煮やしたハニュー様が、何か武器を取り出そうとしているのかもしれない。
そう気がついた私は、必死になってハニュー様を説得しようとした。


運命がほんの少し狂えば、私の生涯はそこで終わっていただろう。









しかし、私は生き残った。
私を救ったのは妹様だった。



妹様とハニュー様の会話はもの凄いものだった。
妹様をジオンに入れることにより花見に連れて行く。

レミリア様の命令の盲点を見事に突いた方法だった。

レミリア様は建前とはいえ、招待を受けていないため妹様を花見に連れて行けないとしていた。
しかし、これなら問題は無い。
妹様は正式な招待を受けることが出来たのだ。

問題があるとすれば、このような理屈をレミリア様相手に堂々と言える者が居るのかという点だけだ。

理性的に考えれば、レミリア様は自分のカリスマ性を守るために、建前とはいえ一度口にしたことを翻し妹様の花見出席を認めないとは言わないだろう。
だが、レミリア様と敵対することなるのは間違いない。


強大な力を持つハニュー様だからこそ、取ることができる方法と言えるだろう。






ハニュー様が何を企んで妹様を助けたのかは分からないが、妹様が喜ぶ姿を見られるのなら私はそれで満足だ。
だから私は、妹様と共に行こうと思う。

ハニュー様の誘いに乗り、ジオンの一員となろう。




その先が、例え戦場であったとしてもだ。



side フランドール・スカーレット

私を花見に連れて行くという目的のために、私をジオンに入れてくれるなんて…
どうしてそこまでやってくれるの???

ハニュー… あなたは大切な目的があってジオンを立ち上げたのでしょ。

私をジオンに入れたら、大切なジオンがおかしくなるもしれないのに…
それなのに、私の為なんかに…


本当にどうして…


それとも、これが友達というものなの?
そうだ…
昔、利害を超えて助け合えるのが友達だとメーリンは教えてくれた…


これがそうなのね。





いつも私は一人だった、お姉様がいたけど…
そこには、血の繋がりしか無かった。

でも今日からは違う。

私はジオンの一員になった、初めて出来た他人との繋がり。

友達のハニューがくれた繋がり。
大切にしよう…



----------



「ルーミア、この部屋の名前は何?」

ジーク・ジオンと言っているメイド達に花見の事を伝えたいので、俺の部屋でどうすれば伝わるかルーミアに相談しました。
ルーミアはここに行けば良いと、紅魔館の案内図を出してくれたのですが…

ジオン部 部室 って案内図に書いてあるのですがどういうこと?

「紅魔館での活動を考慮すると、福利厚生のための部活として登録をするのが何かと便利なのだー」

は?

つまり、あれか。
いつの間にか、遊びだったはずのジオンが、規模が大きくなってアニメ研究部とかそういうノリの部活動になっていたと。

こやつめハハハ!

まったく最高の馬鹿者共ですねw
部活を造ってしまうほどガンダムが好きだとは。
ちょっと俺も入れてほしいのですけど!?

「因みに、ハニューは部長になってるのだー」


またまたご冗談を…






え?







マジ??




つまりだ、俺は自分の知らない間にジオン部の部長になっていたと…
紅魔館のガンオタのリーダー的な存在になっていたと…








なんでこういうことに!?
あの演説ネタが原因か!?




でもこうなると、ジーク・ジオンと言っていた奴らの中には、ジオン部の部員もいたってことか…

そう考えると、これはちょっと嬉しい話かもしれない。
俺と同じぐらいガンダムが好きな奴らが沢山居るってことですよね。

ジーク・ジオンと言う奴の中には、楽しんで言っている奴と、俺への虐めで言っている奴が居るとこれまで考えていたわけですが…
本当に楽しんで言っている奴らが居るのか、ちょっと不安だったんですよね。
いくらなんでも、いつまでもジーク・ジオンとしつこ過ぎるので、悪意がある奴らばっかりではと疑心暗鬼になっていたのです。

毎朝挨拶に来るメイド達とかは大丈夫だと思ってはいたんですけど、それでも具体的な証拠が無くて時々不安になってたんですよ。


でも、こういうカラクリだったわけですね。
本当に楽しんでいたか、ジオン部流の挨拶をしていた奴らもいっぱい居たというわけですか。




よし!
知らない間に乗っていたけど、乗りかかった船だ!
腹を括ってジオン部の部長として頑張ってみるか!




それじゃあ早速、挨拶も兼ねて部室に向かいましょう。


っとその前に。
いきなり部室に行ったけど、部員の名前も知らんということじゃ不味いぞ。
おまえは部長なのにふざけるな!と言われてしまうかもしれない。

「ねえルーミア、部員の名簿みたいなもの無いの?」

「わかったのだー、プロフィールがあるからそれを出すのだー」













あ、そうだ。妹様を部員への相談無しに、ジオン部に入れちゃったけど大丈夫かな?
「ねえルーミア。妹様の件、皆に相談してないけど大丈夫かな?」

「ハニューが決めたことを、断れる筈が無いのだー」

部長って凄いな。
あんまり部長を任されるとかって好きじゃないけど、こういうのを聞くと、好きな人も居るのが分かる気がするなあ。


----------


いやー、ルーミアGJです!危ない所でした。





どういうことかと言うと、凄いことになっているからです。
この部屋に居る人達というか、雰囲気そのものが。


例えば俺の目の前に座っているメイド。
彼女は、アイリスという名の妖精メイドで、俺が雑用班に入った当時から同僚です。
紅魔館で最も気心が知れているメイドの一人で、彼女の事は大抵知っているつもりになっていました。

例のギレンの演説ネタを披露して以後、毎朝ジーク・ジオン!と挨拶に来たり、俺の事をいつもハニュー総帥と呼ぶので相当なジオン好きだとは分かっていたのですが…
正直ここまでとは思っていませんでした。

ここに来る前に、ルーミアにプロフィールを見せてもらった訳なのですが、そこには…
『第十五メイド隊所属。ジオンでは作戦部モビルスーツザク隊に所属する一方、自ら組織した非公認組織ハニュー親衛隊の隊長を務める。常に冷静沈着であり、高い戦略眼を持っている。個人戦闘力・前線指揮能力も極めて高く、コンセプトシミュレータで彼女の指揮する第一中隊は常に最高の成績を叩き出している。理想主義者でありハニュー総帥の信奉者。役職は課長。階級は大佐。』
という凄まじい内容が書いてあったわけです。

あまりにも凄まじかったので、これははウケを狙ったものなんだなと解釈して、突込みを入れるつもりで部室に入ったのですが…


そこには…


「「「「ジーク・ジオン!!」」」」

「ハニュー総帥、ジオン本部へようこそいらっしゃいました!」


オリジナリティ溢れるジオン軍服?のコスプレをした妖精メイド達と、ナチス親衛隊の制服っぽいジオン軍服?のコスプレをしたアイリスが居たわけです。

つまりですね。
皆、完全になり切っていました。
怖いぐらい真剣に。

あのプロフィールはネタではなくて、ジオン部でなり切るために使う設定だったというわけです。



おまけに部室には赤い絨毯と、ジオンのマークが描かれた垂れ幕がいっぱいでして…
それらが、もの凄い重厚感で彼女達をバックアップするものですから…
もう、相乗効果で色々と大変な状態になっていました。






そんな状態だったので、本当にプロフィールを読んでいて良かったですよ。
読んでいなかったら、今頃空気が読めない奴として白い目で見られている所でした。
この飾りよく出来てるね。アイリス達が自分で作ったの?凄いねー 等と言ったらどうなっていたことやら…


そう…この状態を乗り切るために、俺もなり切っちゃいました。
かなり、綱渡りな状態でしたけど。

例えば…
「おお、これが…!素晴らしい…まるでジオンの精神が形となったようだ!」
とアイリスが案内してくれた、親衛隊本部という設定の場所でネタを披露したりしてしました。

ギレンの台詞ではないのですが、自分達の作った飾りつけを褒められ照れているのか、顔を赤くしながら喜んでくれたから良かったです。

ジオン軍の指揮を担当するという設定の、第二メイド隊の隊長であるシトリンとか他の皆にも、色んなアニメの台詞とか引用したり、それっぽく喋って対応しました。
ネタ切れでガンダム以外のネタまで使ってしまいましたが、どうやらギレンネタというよりアニメや漫画ネタである事や場所に合った雰囲気が大事みたいで、皆とても喜んでくれました。

なんといういか、ジオン部兼アニメ・漫画部という感じなのかな?




そして今。
作戦会議という名前の、明日の花見についての説明を開始した所です。
「明日午後四時、我々は博麗神社へ向かう。できる限り多くのジオンのメンバーを同行させたい。」


「それは!?ついに我々ジオンの力を博麗霊夢に見せ付ける時が来たということですか!?」

えーとアイリスは何を言っているんだ!?

なるほど、これは笑う所なのですね。
一見、博麗の巫女に喧嘩を売るような発言に聞こえるけど、本当は我々のオタクっぷりを博麗の巫女に見せ付ける時が来たと言っている訳ですね。

「フフフフフ…。その通りだ!我々は明日、花見を博麗神社で行う!!!!!」



「「花見????」」




「その通りである!花見以上でも花見以下でもない!」
とにかく一緒に花見に来てもらいたいんですよ!!


「…」

えええ??
そんな困った顔しないでよ!?

確かに今の時期で花見って変だと思うよ。
おまけに、いきなり明日だし、場所もあの恐ろしい博麗の巫女の家だから行きたくないのはわかるけどさ…
皆が来てくれないと俺の計画が色々とピンチです。

駄目なメイドが多い紅魔館でも、彼女達は例外的に出来るメイド達だから…
いきなり明日という急なスケジュールで、おまけに場所が博麗神社という恐ろしい場所でも、彼女達ならOKしてくれると期待していたのですけど!?

やっぱり甘かったか。

とにかく、彼女達のツボであるギレン風な言い回しで、『あなた達の力を見込んでお願いしてる』と持ち上げてみましょう。

「諸君!!日々鍛錬を欠かさない諸君にとって、スケジュールや場所等といった問題は障害となるのか??否!!!それは諸君等が一番良く知っているはずである!!この程度の障害など、我がジオンの進軍を阻むものでは無いということを!!!!立てよ諸君!!!!花見を完遂し、我がジオンが圧倒的であると証明する時が来たのである!!!!」

これでどうかなあ。
お願い!これだけ頑張って即興で演説を考えたのだから、そこに免じて協力してぇえええ!!


「「「「ジーク・ジオン!!!」」」」



----------



「ハニュー総帥の深遠なお考えに感服いたしました!この件は、私が責任を持って実施いたします!」

皆のジーク・ジオンの声が治まったら、アイリスがやってくれると言ってくれました。
アイリスったら、いつもながら役に嵌りすぎだなw
それはとにかく、ありがとう。助かったよ。
それでは、お言葉に甘えるとしましょう。

「うむ。全て任せる。」










今日は疲れたからもう寝ようかなあ。


「ハニュー?今日の仕事がまだ終わってないけどいいのかー?」



side 河城 にとり


このように、明日の博麗神社強襲を想定した演習は、花見に偽装して実施されるため注意すること。なお、本演習にはハニュー総帥も参加される、各自ハニュー総帥の期待を裏切らないよう奮闘努力せよ。   解散!」



いきなりジオン本部から親衛隊の隊長が全館放送を入れてくるから何事かと思いましたよ。
ハニュー氏も面白いことを考えますね。

急な花見の話は、有事の非常召集の訓練を意味し、博麗神社への移動は有事における部隊の戦術機動の訓練。
花見そのものは、敵地で花見を行うことそのものが精神的な訓練になり、博麗霊夢への示威行為にもなる…

なるほど。
これは明日が楽しみです。


side アイリス

(おお、これが…!素晴らしい…まるでジオンの精神が形となったようだ!)

私の行動は間違っていなかった。

親衛隊。
ハニュー総帥の命令無しに、私的に立ち上げた組織。
だから、ハニュー総帥に認められるか不安だったけど…

私のつくり上げた親衛隊のあり方を、ハニュー総帥が認めてくださった!!

私達こそ、ジオンの中のジオン。
ジオンの真髄であると認めてくださった!!


認めて頂いたからには、その恩に報いるような戦果を上げなくては!!!



----------


やっと仕事終わったー。
もう深夜だよ。

「お腹が空いたのだー」


さーてと…

後はいつも通り、食堂であまり物でも貰ってこようかな?
それとも同じメイド隊の皆に食事を分けてもらうか…

とにかく、地下にあるメイド用食堂に行くか。




そうだった。
地下で思い出した。

もう一人声をかける人が居た。
図書館に向かわないと。


深夜だけど、俺と小悪魔の仲だったら、まあ問題無いだろ。



side パチュリー・ノーレッジ


私どうしちゃったのかしら…




(パチュリー様、お疲れじゃないですか?私、パチュリー様のためにマッサージを覚えたんですよ!)

コアが私のために覚えてくれたマッサージは気持ちいい。

(体をくっつけてマッサージしますね。手馴れてないもので、出来るだけ近付かないと上手く力が入られないんですよ。)

コアは私に一生懸命マッサージをしてくれていただけなのに…
伝わってくる体温やコアの息。それに、コアの体の感触やコアの手触りが気になって恥ずかしくて仕方が無いわ…


「どうですか気持ちいいですか?こうされるの、パチュリー様好きですよね…」


でも本当に気持ちいい…
この気持ち良さのせいで、恥ずかしくても毎日コアにマッサージを頼んでしまうのよね。


「パチュリー様の肌いつ見ても綺麗…。」


「な、何を言うのよ。」

最近のコアは困るわ。
お世辞のつもりなんだろうけど、時々私が綺麗だとかい言い出すんだもの…
こんなに恥ずかしい気持ちになっている状態でそんなことを言われたら、思わず意識しちゃうじゃないの。


駄目、まだドキドキしてる…






side 小悪魔


パチュリー様は、私が普通にマッサージをしていると思っているみたいですけど。
普通のマッサージで、こんなに体をくっつけたりする筈が無いって分かりそうなものなんですけどねえ。



それにしても、今の反応いい感じでしたね~
ちょっと綺麗だと言っただけで顔が真っ赤ですよ、パチュリー様。


魔理沙がどこまで手を出しているか心配でしたけど…
どう考えても、パチュリー様がまだまだ初心なのは間違いないですね~






真正面から魅了の魔法をかけようとしたら、簡単に防がれてしまうので…
私のテクニックでパチュリー様の心に隙ができたら、いっきに魅了の魔法をかけて淫魔の魔力を注ぎ込んであげる作戦でしたけど…

この様子だったら、魅了の魔法を使わなくても完全に堕ちるかもしれませんね。

私としても、眷属にしてしまうより、今のままのパチュリー様が私のモノになるほうがいいですからね。


魔理沙というライバルがいるから、ちょっと強引な手法を使っているけど…

目指せパチュリー様との純愛!!



----------


…ふぅ















なんだかマッサージで盛り上がっていたので、声をかけずに食事を済まして帰ってきました。

「楽しく体を解している所に入っていくのは無粋だよねルーミア?」

「どう見てもコアがパチュリーを「仲いいって素晴らしいよね!!」いるのだー」

とにかく今日は明日に備えて寝ましょう!!

「今後の展開が気になるのだーもう少し覗いてきていい?」



「ささ、今日はもう遅いからルーミアも寝ようね!そうだ。偶には俺と一緒に寝ような?な?」

ほらほら、枕投げしよう枕投げ!
だから、小悪魔さんのことは忘れてよね?ね?



[6470] 第十五話 しまったビール瓶忘れた。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2009/09/27 02:15
第十五話
しまったビール瓶忘れた。




コンコン


はーい、こんな朝からどなたですか???


「ハニューちゃん、おはよう。今日は張り切って朝からきちゃ… ハニューちゃん、どうして裸なの??」

なに大ちゃん固まって…本当だ!俺裸だよ!

「朝から五月蝿いのだー」

しかも、ルーミアまで裸じゃないか。



「レイジングハート…エクセリオンモード」
『Excellion Mode』


え?え?え?え?え?え?
なにそれ??コス…プレ?

「…ハニューちゃん。ちょっとだけ痛いの我慢できる?」

ちょっと?
もの凄いエネルギーが集まっていて、とてもちょっとには見えないのですけど!?
なにやら良く分からないが、もの凄くまずい気がします。

「ルーミア!誤解を解いて!!!」




「じゃ、後は若い二人に任せて年寄りは退散するのだー」

そうですか。
だからルーミアは窓から外に出ようとしているのですか。

ちょ!
一人で逃げないでよ!

お、俺も逃げるから、ルーミアはちょっとそこで待ってて!




『しかしまわりこまれた!』


!?
俺もルーミアも、見えない壁に阻まれて逃げ出すことができない!?

「……知らなかったの…? 大魔王からは逃げられない…!!!」


「そ、そうなのかー!!」


感心してる場合じゃうぁぁああああああぁぁぁっぁああああaaawal










はっ!

いかんいかん。
飛びながら、寝てしまった。

厨二っぽい酷い夢だった…

「ハニュー総帥、起きましたか?随分とうなされていましたよ?」

おや?俺はにとりさんに背負われてる!?

「飛びながら寝るなんて、働き過ぎじゃないですか?健康管理も大切ですよ。」

あはははは…
実は昨晩あまり眠れなかったもので。

ルーミアと一緒に寝たのは問題なかったのですが…。
ルーミアは、何かを食べている夢を見ていたようで、寝ながら俺の手足を口に入れたりするので大変だったんですよ。

しかもですね。
なんだか去年より微妙にルーミアが成長してるのに気がついてしまいまして。
妙に意識してしまって居心地がちょっと…

「うなされていたのは、実は夢の中で殺されかけちゃいましてw。寝不足については気をつけますね。」
随分と、にとりさんに迷惑をかけちゃったみたいだなあ。

「ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫ですので降ろしてもらえますか?因みに伺いたいのですが、どうしてにとりさんが俺を?」
でも何故にとりさんなんだ?

「私はいつも色々な機材を背負う関係で、鍛えてますから。あとは…誰がハニュー総帥を背負うのか凄くもめまして、最後はじゃんけんになって私が勝っちゃったという状態です。」

がーん。
俺を背負いたくないから、皆で俺を押し付けあっていたのか…

そりゃ、疲れるから嫌だろうけど。
ちょっとショック…

「ハニュー総帥。本当に無理だけはしないでください。お願いします…」

うう…
分かってますよ…


----------


俺の視界には、見渡す限りの大編隊が続いています。


俺の左右にリュックを背負った大ちゃんと人形に何かを運ばしているアリスさん。
俺の直ぐ背後にルーミア。(なぜお前は、俺の背後に影のようにくっ付いてくるんだ!?)
大ちゃんの向こう側には…クルクル回転している女の人??

「厄い、厄いわ…。このリュックの中身凄く厄いわよ?」

「ちょっと何してるのよ!大ちゃんから離れなさいよ!!!」

えーと…何か妙な人が居ますが、説明を続けます。
大ちゃんの向こう側には鞄を持ったミスティア。

「食らえ!リグルキック!!」

で、同じく鞄を持ったリグルがいます。

「厄が簡単に吸引できると思ったのに散々だわ。もういいわ。」


そして、アリスさんの方には、いつも通りリュックを背負ったにとりさん。

「なかなか筋がいいぞ!あたいの弟子にしてやってもいいわよ!」

「どうしようかしら♪」

で、適当に飛び回っているのはチルノと、妹様。


最後に、その外周部を飛ぶアイリスを初めとする、ジオン部の部室で見かけた皆さん。

ここまでは想像通りだったのですが…

それ以外にも雁行する編隊が何十個も…
これが全員ジオン部員!?
こんなに居たのか。

ジオン部って、ただの遊びや趣味が部活動の形を取っただけだからなあ。
名前と部室は立派だけど、実態と目的は、そこらへんにあるアニメ部とかまんが部と言われる奴と同じで、大学のゆるいサークルに近い感じだから…
幽霊部員とか、今回の花見目的で急遽部員になった奴とかが、いっぱい居るってことなんだろうなあ。

知らなかったとはいえ、こんなに人数が多い部活の部長になってしまったのか。
しっかりと部長としての行動を取らないと。

頑張ろう。







それにしても、これだけの大編隊になると、見てるだけで圧倒されるなあ。
まるで、戦争が起きて、これからどこかに攻撃しに行くように見えます。

『こちらアエカ1、目標を肉眼で確認。博麗霊夢は既に花見を開始している模様。』

『本部了解。アエカ1は本部到着まで引き続き警戒を続行せよ。』

おまけに、さっきから聞こえてくる無線?みたいな奴の声を聞いていると、軍事用語っぽいのが飛び交っているので、ますますそんな感じがしてきます。
俺達が、爆撃機の群れのように見えてきたぞ。

『アエカ2より本部へ、探査魔法による境内への探査に失敗。強力な魔力が境内に充満しているため、魔法行使に悪影響が出ている。作戦を続行すべきか?』

「強力な魔力のため探査が出来ないだと?むしろ好都合だ、奴らの目と耳が塞がれている間に一気に接近するぞ。」

『本部より各偵察班へ、タイムスケジュールを5分繰り上げる。本体の突入に備えよ。アエカ2は引き続き作戦を続行せよ。』

魔法とか言っているので意味がよく分からないけど、やっぱりこの無線って何かの遊びじゃなくて、軍事系か何かの真面目な通信っぽい。
本職にならなかった俺でも、明らかに何かの作戦が遂行されているのが分かります。

どういうことだ?

「本部」側の声の主が、ジオン部のアイリスとかシトリンみたいだからちょっと聞いてみようか。

「対魔法中隊へ下令、MCM戦を開始せよ。」

『本部より全部隊へ、タイムスケジュールを5分繰り上げる。突入部隊はただちに匍匐飛行を開始。戦闘速度へ移行せよ。なお、妹様直援部隊のみ当初のタイムスケジュールで行動せよ。』

妹様直援部隊…?

そうか!

これって、妹様を護衛についての通信なのですね!
紅魔館視点で考えれば、超VIPの妹様が一戦交えたことがある博麗の巫女の所に行くわけだから、これぐらい体制で臨むことは紅魔館では日常茶飯事さ!ってことか。

なんだ、これならルーミアに言って全員分の休暇届を出しておいた意味が無かったな。
今日は通常業務ってことか。










あ!そうそう。
護衛で思い出したのですが、門番の美鈴さんは留守番になりました。
妹様を仲間として迎え入れたよ!ってことを皆に説明していたら、こちらをジッと美鈴さんが見ていました。
てっきり、一緒に花見に行きたいのかな?と思い声をかけてみたのですが…

「妹様をくれぐれもよろしくお願いします。」
と頼まれてしまいました。

妹様はジオン部の部員だから、部長である俺には監督責任があります。
だから「分かっています。」と承諾したのですが、美鈴さんを置いて行くのは気が引けたので、美鈴さんも誘ってあげることにしました。
ところが「心配なら美鈴さんも、ジオンに入って一緒に来ればどうですか?」という俺に対して「私は…行けません。本当に情けないですよねーアハハハハハはぁ…」と言って凹んでしまいました。



これって、美鈴さんは立場的に花見に行き難いってことなんだろうなあ。

門番という立場上、仕事を休んで花見に行くことなんてできないよな。
おまけに通常の業務だと、もの凄く美鈴さん冷遇されているからなあ。
多分、立場が低くてお嬢様と一緒の花見に出席するなんて、恐れ多くてできないのだろう。

だから花見に行けないし、そんな立場の自分が情けないということか。


といっても、夜の立場だと別だったりして。






side 紅 美鈴

私の望みは、妹様とレミリア様が、姉妹として仲良く暮らしてくれることだけです。
でも、これまでの私の消極的なやり方では、悪戯に時ばかり消費して、何も事態を改善させることはできませんでした。
どれだけ時が経とうとも、レミリア様は妹様を「妹」という枠に当てはめ、そこから出ようとする妹様を一方的に叱り付けるという構図が続きました。

それが原因だったのか、それともそれが状況を悪化させたのかは分かりません。
ただはっきり言えるのが、この偏った教育が狂った吸血鬼である今の妹様を作り出してしまったということです。
妹様には強い力があります。
そのため、その力に振り回され、多くの悲劇が起きたそうです。
その悲劇から守るために、レミリア様は妹様を枠に当てはめようとし、そして地下牢に閉じ込め、他者との接触を絶ったのでしょう。
それが、状況を悪化させているだけとは知らずに…


人間二人が乗り込んできたときは、この状況が改善されるかと期待していました。
しかし、彼女達は何も変えることができませんでした。

でも、その時希望が現れました。
ハニューさんあなたです。
あなたによって博麗霊夢が撃退されたことが、レミリア様を刺激し、妹様を地下牢から解放することになりました。
更には、体を張って妹様を教育してくれたおかげで、妹様は自らの力をコントロールすることを勉強し始めました。

そして今日、再び地下牢に閉じ込められた妹様を解放してくれました。



あなたは劇薬だと思います。
でも、このままでは近い将来、お二人の関係が修復不能までに破綻することは目に見えています。
それも、妹様が完全に壊れるという結果で…



だからハニューさん、妹様をお願いします。
私は、失敗することを恐れて、茨の道を歩むことができませんでした。
しかしあなたなら、茨の道を突き進み、妹様を正しい道へ進めることができると信じています。
そして、妹様を変えることにより、レミリア様にはこれまでやり方では駄目なんだと示してあげてください!



あなたはどうしようもない女好きですが、優しい妖精でもあると私は信じていますから。















怖くて見ていられないという理由で、花見には行きませんでしたが…
もしや、ハニューさんにオシオキされてしまうのでしょうか?


----------

side 伊吹 萃香

なんだこれ?
誰かに包囲されている??
どこかの武士団か!?


正体を暴いて…
!?

私の魔力に何かが干渉して正体が分からない!?
これは…

ジャミング!?



こんなことができる奴といえば紫しか…
でも、紫はもうそこに…












はーん。
となると、噂のハニューが来たってことか。
これは面白くなってきたぞ。



あいつは二つの顔があるからなあ。

革命家としての顔と、馬鹿なただの妖精の顔。
どっちが本当の顔なのか確かめてやるか!


side 博麗 霊夢

「れみ りあ うー☆」

「その手の動き!!憎たらしくも可愛い笑顔!!素敵ですおぜうさまああ!!」

まだ日が高いのに、できあがってる吸血鬼って…


「絶対に許さないよ!!」

「いいぞちぇええん!!最高に可愛いぞ!!!!」
「藍ったら橙ばっかり相手にして…私だってまだかわいいもん…」

……こいつらもか…




誰も狙わないだろうけど、万が一こんな所を誰かに狙われたらどうする気…な、の…!?


!?
殺気!?


キィィィィィィィィィン!!!!!!


危ない!!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


何よ!?いったい何が起こったの!?
妖精達がもの凄い速度で森から飛び出して来たと思ったら、そのまま私の頭の上を掠めて飛んで行くって何考えているのよ!?


何かの異変!?


「藍しゃまー!!!」
「また来た!?ちぇえええええん!!!!」


「落ち着きなさい橙!!藍!!ただのパフォーマンスよ!実際に攻撃してくる訳じゃないわ!!」


何が落ち着けよ!?
これが攻撃じゃない!?
殺気を向けられてるのよ!!


「霊夢。妖精達をよく見なさい!」

私の頭を掠め飛んだ妖精達が着陸して何かを始めだした!?

何やってるのよあいつら?

シートをひいて…

赤い絨毯もひいて…

お弁当を出して!?

何これ、もしかして花見の準備!?



「霊夢!絨毯の方を見なさい。真打が舞い降りてくるわ。」



こんな派手な登場をするなんて、いったい何なのよ!!






----------


ここがあの女のハウスね。


『第三次攻撃隊、目標への攻撃演習を終了。フェイズ2へ移行。花見会場の設営に参加します。』

「太陽を背にした急降下攻撃が項を奏したとはいえ、水平攻撃の部隊と合わせても推定命中率が9割を切らないとは…これでは強襲ではなく、奇襲だな。」



なにやら、怪しげな無線が入っていますな。
といっても、断片的にしか聞こえてこないし、妹様の護衛は俺の専門外だから無視しましょう。
とにかく俺は、自分の仕事をするために博麗の巫女へ一直線です。

何故かって?
それは、社会的儀礼という奴です。
代表者から主催者への挨拶は必要ですし、おまけにこんな人数になっちゃいましたし。

本来なら、代表者である俺が先頭に立って到着しないといけないのですが、皆飛ぶの速過ぎw
木の間をすり抜けながら、高速で飛ぶなんてことされたら、とてもじゃないけど追いつけません。

仕方ないので、普通に飛んでやっと追いついたと思ったら…
先に着いたメイド達が花見の準備を既に始めているじゃないですか。

ちゃんと皆ご挨拶したのかよ?

ということで、一応代表者である俺は博麗の巫女に挨拶です。
「本日は花見にご招待いただき、ありがとうございます。」


「あなた花見に来たの!?花見にしては随分と物々しいわね?」

まあ確かに物々しいが、これは超VIPである妹様を連れているから仕方ありません。
「妹様の護衛ですよ、これは。通常の職務なのでご安心ください。」

「っ通常の職務!?う、うまい言い「護衛だから通常の職務ですって!!??………まあいいわ!!でも、どうしてフランが来ているの!!!」


会話に割り込んできたのは…
お嬢様か。
そんなに怒鳴らなくても…って言いたいが、自分の妹を招待されていないという理由だけで連れてこなかった硬い所がある人だからなあ…
多分、妹様が招待状無しに来てしまったので、博麗の巫女を怒らせてしまうのではないかと、焦っているのでしょう。
ここは事情を話して安心させてあげないと。

「お嬢様。何も心配はありません。ジオンのメンバーは花見に来られることになっています。」

「それがどうしたって言うの?」
どうしたって、そこが大切なんですよお嬢様!

「お喜びください、妹様は昨日よりジオンの一員となったのです!!」







「そ、そ、そんな話は私は聞いていないわ。事実だとしても霊夢が認めるわけが無いわ!!!」

事後承諾になってしまったのは流石に不味かったか…
あと、博麗の巫女がこういうイレギュラーなケースを簡単に認めないのでは?というお嬢様の懸念は仰るとおりだなあ。

となると、しっかりとした証拠を見せて「博麗の巫女の許可をゲット&事後承諾でごめんなさい、でもしっかり対応したからお嬢様は安心して!」作戦しかありません。

「まったくおかしな点なんて無いですよ。ほらこの通り、参加費は妹様を含めて揃えてあります。
 ルーミア、アタッシュケースを開けて!」

ガチャ!!
「耳を揃えて持ってきたのだー」

「あと、これが招待状と…妹様?ちょっと来てもらえます?」

話して分かってもらうより、見てもらうのが一番早いです。

「どうしたのハニュー?」

「えーと。このように妹様はジオンの制服も着ていますし、ジオンのメンバーであるジオン徽章もつけています。
 つまり、完全に花見に参加する条件は満たしています!!そうですよね?博麗の巫女さん?」



「………」

「博麗の巫女さん?」
なにボーっとルーミアを見てるんですか?

「…………はっ!?…何も問題が無いから、別に参加していいんじゃない?」


「れ、霊夢!???????」









さてと、懸案だった博麗の巫女の許可もしっかりと出たので、他の皆様にもご挨拶して早速花見を始めましょうか。

すぐに大ちゃん達とお花見始めたいけど…
部活の部長とはいえ、ちゃんと社会的儀礼は最後まで済まさないと。

「大ちゃんごめん。ちょっと挨拶してから、そっち行くね。」

「う、うん…。」

あれ?
何だか大ちゃん凄く悲しそう…
そうだった。こうやって大ちゃんを連れて行かないことがあったから、この前みたいなことになったんだっけ。

「じゃあ一緒に挨拶して回ろうか?」

「うん!!」



side フランドール・スカーレット

「フラン!あなた何考えてるの!?私の言うことも聞かず、挙句の果てにはハニューの部下になるなんて!!」



「ちゃんと説明しなさい!姉である私の言うことが聞けないの!?」





どうしてお姉様は分かってくれないの…
「私のことを見ようとしなくなったお姉様と、ハニューを一緒にしないで!!」


「何を言ってるのよ!?何をハニューに吹き込まれたの!?」


お姉様なんて大っ嫌い!!!!


「ちょっと待ちなさい!?フラン!?フラン!?」


side 博麗 霊夢

ひい、ふう、みい…

凄い数だわ。
こんな大金がこの世に存在したなんて。

こ、これだけあれば夢のタンパク質に手が届くわ!!!

「霊夢!霊夢!どうしよう!私の可愛いフランが…あの子何も分からないから、騙されてるのに気がつかないんだわ!」

卵が…
念願の卵が毎日食べられるわ。

いや、でも卵なんて芸が無いわ。
それに卵は、写真撮影と引き換えだけど偶に文が持ってきてくれるから、何か他のものを買った方が。

「お願い霊夢!フランを捕まえるの手伝って!!」

豚肉に…

だ、駄目よ霊夢!!
そんな豚肉なんて高級食材に手を出したら、堕落してしまうかも知れないわ!



いや、違うわよ霊夢!!
豚肉のような高級食材を食べられるぐらい、博麗の巫女は凄いんだって示さないと、幻想郷中に嘗められてしまうかもしれないわ!

「ど、どうして何も答えてくれないの!?もしかして、私が何か間違ってるの!?」

ど・う・し・よ・う・か・な?



----------




お嬢様には挨拶したから、一応メイド長にも…



「妹様に逃げられて、霊夢に縋りつくお嬢様…どうして私に縋りついてくれないのですかぁ!?いや、逆に考えるんだ。霊夢に縋りつくお嬢様を見るほうが萌えると考えるんだ。」









メイド長はいつも会ってるからいいか。




えーと他には誰が…

あそこで音楽を鳴らしている三人組は、どこかで見たことがあるなあ。
でも、なんだか忙しそうだから挨拶はやめておくか。


もっと簡単に挨拶できそうな雰囲気の人たちは居ないかな?


                               「春ですよー」

                               「もうすぐ夏なのだー」

                               「ま、まだ春ですよー」




お!
橙発見!

橙と???

あのどことなく狐っぽい感じの人は…橙のお母さんの藍さんか。
噂には聞いていたが凄い美人じゃないか。
こんな人がアダルトな仕事をしてるとは…
ゲンソウキョウ恐るべし。

ちなみに、そのアダルトな仕事の成果はどこかで買えるのか?


ムギュ!

痛!!
ちょっと大ちゃん足踏んでるよ!?

「ごめんハニューちゃん!!うっかりだねー」


えーと…

あとは…


!?


誰がひっくり返っているのかと思えば…
ストーカーさん…
なんでここに居るんですか…

寝てるのか?起きてるのか?
どちらにしろ、あまり目を合わせないようにしよう。

「こんにちは!橙ちゃんのお母さんの藍さんですね?はじめまして。いつも橙ちゃんと遊んでいるハニューです。」

                                「ハニューちゃん!」

「ええよく知ってます。ジオン総帥のハニューさん。」

…そういう認識なのですね。
橙もジオン入団試験とか受けてたからなあ。
ジオンのみんなと遊びに行ってきまーす!という感じで出かけてるんだろうなあ。
とにかく、最初の挨拶ですので共通の話題である橙ちゃんのことからです。

「橙ちゃんはいい子ですね。とてもお行儀がいいですよ。藍さんの教育の賜物ですね。」

「そ、そうですか!偉いぞ橙!!」

おおう…
橙ちゃんをぐりぐりと撫で回して…
話に聞いたとおりの親バカっぷりだなあ。
当分橙ちゃんを中心に話をした方がよさそうですね。


----------


とまあこういう感じで、いつも橙ちゃんは藍さんのように成りたいといって、遊ぶときはみんなの中心になれるように努力していますよ。」

「そうかー。橙!私は凄く鼻が高いぞー!!!」

「えへへ…藍さまー。」

まったく、親バカなんだかここまで来ると清々しいな!
っと…
そういば、随分と時間が経ってしまったなあ。


次に行こうか…
ストーカーさんもいつ動き出すか分からないですし…

本当に何故ここに居るんだこの人?
博麗の巫女の所に行けばいいのに…

まさか、藍さんって美人だから…
今度はこっちにストーカーしているとか…

「他の方の所にも行かなくてはいけないので、これにて失礼させていただきます。あと、あの人には苦労させられていると思いますけど頑張ってください!!」


「へ?ま、まあ…」


side 八雲 藍

「私を無視するっていい度胸してるわね…」

紫様!????

「そうは仰いますが、ハニューに格の違いを見せ付けるために寝たふりをすると言い出したのは紫様ではないですか。」

ハニューが紫様に声をかけたら「あら居たの?あなた程度だから気がつかなかったわ。」なんてことを言う、子供っぽいこと考えるからこうなったんですよ!

「ま、まあそれはそうだけど…   藍だって私のことは言えないでしょ!ハニューに橙を褒められて喜んでどうするのよ!それに私に苦労させられていると同意するなんて…なんて悪い子なの!」

そんなこと言われても、本当に嬉しかったですし、紫様には苦労させられてばっかりですし…
そう、それに。

「ほ、ほら和平の使者なら槍は持たないって言うじゃないですか、そのつながりで特に武器も何も持ってないみたいですし、戦う気も感じられなかったから今回は問題ないかなと…」

あれ?
紫様?
そんなアホの子を見る目で私を見るなんて、どういうことですか!?

「まわりをよく見なさい。森の中に少なくとも20人は隠れてるわよ。そいつらは藍とハニューが話している間、ずっとあなたと私に狙いを定めていたわ。花見をしているジオンの連中も同じよ。」


----------



次は小悪魔さんの所にしましょう。

おや、これは修羅場ですね。
パチュリー様を挟んで、小悪魔さんと魔理沙さんですか。

「なにこれ、この魔理沙のお弁当のおかず。ちゃんと切れてないわよ。」

でかいキノコですね。
10cmぐらいのキノコの癖に、薄い切れ目が入っているだけで、全部繋がっています。

これは酷い。

かぶりついたパチュリー様が引き千切れずに困ってます。
箸だと滑ってうまく反対側から引っ張れないみたいだし、こりゃ行儀悪いが手で引っ張るしかないな。

「わりい、私不器用でさ!「パチュリー様、私がこちら側を引っ張りますから!」


パクッ!


                              「「「「おおおおおおーーーーーー!!」」」」


「ktkr!!!!小悪魔さんがまでキノコに食いついて、キノコを引き千切ろうとしてます!唇が触れ合ったように見えたのは気のせいでしょうか!!!!流石の幻想郷一のプレイガール、魔理沙さんもこの奇襲攻撃になす術無しかー!!!」

あの…
文さん何してるんですか?

「いやーハニューさんの近くに居ると、取材のネタが尽きなくていいですねー。」

いや、そうじゃなくて。

「これですか?見てくださいこれからは映像の時代です!文々。新聞は映画業界にも進出したのですよ!!!」

これ映画じゃなくて、ただのマスゴミ。

「真実はいつも一つです!行きますよ椛!!」

「ワオーン!!」






えーと次は誰の所に行こうかな?





                               「ちょっと!神である私達姉妹に挨拶に来ないってどういうことよ!!
                                あの博麗霊夢でさえ、私達を神社に招待したのに、あいつは何なのよ!」
                               「お姉ちゃん…あれって招待って言うのかな?
                                脅迫じゃ…だって蓄え全部取られて…おまけに、おし  何あなた!?」


                               「香ばしくて美味しそうな匂いなのだー、ちょっとかじっていい??」


                      
                               「お、おねえちゃー!!!???」
                               「や、やめろー!?」






おや?

キョロキョロして落ち着かない感じのあの子は、店主の奥さん(予定)じゃないですか!

「朱鷺子さん!朱鷺子さんも来てたんですか!!」

「こんにちは!」

先日と同じく、元気がよくて礼儀正しい感じの人ですねえ。
でも、今日は店主が居ないぞ?店主はどこだ?

「店主はどうしたんですか?」

なにやら俯いてしまいました。
何か不味いこと言っちゃったのか??

「それが…一緒に来るはずだったんですけど、急に靴紐が切れて転んでしまって。
 大したことはなかったんですけど、大事をとって家で休んでます。」

…なんじゃそりゃ??

「今日は縁起が良くないかもしれないとか言ってたんですけど、せっかくだから私だけでも行きなさいって…」

おいおいおい…
あまり面識のない所に奥さん一人で行かすなんて、それはちょっと可哀想だろう。

「それなら俺達と一緒にどうですか?どいつも気さくでいい奴らですよ?」

「いいんですか!?ありがとうございます!」

といっても、いきなり放り込んだら打ち解けないからなあ。

「アイリスー?」

「はい、ここに。」

いつの間に俺の背後に??
そこはルーミアの特等席のはず…

「こちら、店主の所に居る朱鷺子さん。今日は一人だそうなので、仲間に入れてやってくれないか?」

「仲間にですか…?。」

「そうだ、ちゃんと仲間に入れてあげろよ?わかってるよね?」
俺のソウルブラザーの奥さんになる人だからね、しっかりと接待を頼むよ!!

「わかりました、お任せください。」




----------




「よっ、久しぶり!!」

「よっ、こちらこそ!!」
って誰ですかあの女の子は?
すれ違いざまに声をかけてきたので、何気なく返してしまいましたが、知り合いにいたっけ?
追いかけて「誰ですか?」って聞くのもアレだしなあ…

「私への挨拶は無いのかしらー?」

!!
いきなり声をかけてきたのは?

ああ、サイギョウアヤカシ会の人達かあ。
ヤのつく職業の人たちとは、できたら話したくなかったんだけどなあ。

「こんにちは、先日は人員を貸していただきありがとうございました。」


「あらーこれはご丁寧に。そちらに行った人たちは役に立ってる?」

えーと…
実際の所どうなんだ。役に立ってるのか?
にとりさんに任せっきりだから分からないぞ。
でもここで分からないといったら…

(なあ、ネエちゃん。こっちが誠意を見せたちゅうのに、分からんとはどういうことや!?殺すぞ!!)

という展開も…

「いやー凄くに役に立ってますよ!!本当にありがとうございます。全てあなたのおかげです。」

「まあ!そう言ってもらえると嬉しいわー。」


「「ハハハハハ…」」








妙に空気が重い。
おかしいな?
ちゃんと友好的に話しているはずなんだけどな???

「そういえば、さっきの会話を聞いていたのだけど、橙が随分とジオンで活躍しているようね?でも橙を信用していいの?」

活躍というか、遊んでるだけなんだけど…
橙を信用していいのかってどういうことだろう。
実は橙は悪い子で、何か悪さをしようとしていると言いたいのか?

別に悪い子には見えないんだがなあ、それに子供のやることをまず信用してあげるのが大人のやるべきことだろう?

「別に問題ないですよー。橙はいい子ですし、俺は橙を信用していますから。
 それに、もしも悪さをしたら、その時は責任を持ってしっかりと俺が全て処理しますから。
 起きた問題も、橙についてもね。」

そして、イザというときは、しっかりと尻拭いしてあげないとね。
それと、ちゃんと橙も叱らないと。
ジオンとして遊んでいたら、部長の俺に監督責任があるものね。

「自らが処理ね…フフフ、容赦ないわね。」

容赦ないかあ。
まあ、悪いことをした子供はちゃんと叱らないといけないからな。
そんなに大したことじゃないですよ。

「なに、当たり前のことをするだけですよ。大したことではないです。」


「まあそうなの!大したことないのね!愛情を注いだ相手だというのに…フフフフフフフフフ…」

まあ、愛情を注いでいると叱れなくなるのは分かりますが…

「むしろ、愛情があるからですよ。」
愛情を注いでいるからこそ、しっかりと叱らなくてはいけないときもあるのです。


「「フフフフフ…」」


だ、駄目だ全然重い雰囲気が抜けない!?
何か上手くネタを拾って会話を明るい方向にしないと。




「そういえば、今日はメイド服じゃないのね?その服装はもしや…」

おお!?
これは突破口になるか!?

そうなんです。
俺は今日、アイリス達が作ってくれていた服(コスプレ)を着ているんです!!
これってあれ、ガンダムのギレンぽいでしょ?
もしかして、わかります!?

「フッ…冗談はよせ!」

ギレン最後の台詞です。

それ死亡フラグ!!
って突っ込みは期待しないけど、ギレンのコスプレだって意味分かりますよね?












ドサ!

ドサ?
何の音かと思ったら、妖夢さん、なに尻餅ついているんですか?
それに、随分顔が青いですよ。
汗も掻いていますし…体調が悪そうですよ?


「わはー」

あれ?ルーミア、妖夢さんを後ろから抱きかかえて…
なるほど、妖夢さん尻餅つこうとした時に、後ろから支えてあげたんだな。

「良くやった、ルーミア。」

「それほどでもないのだー」



「ハニューちゃん!!どこも怪我してない!?」



「ハニュー総帥ご無事ですか!!」
「ハニュー大丈夫!?」

「あらあらごめんなさい。うちの妖夢ったら、ちょっとあわてんぼうなのよー。」

えええ?
何この大騒ぎ!?
何か俺の身に危険が!?

えーと…

妖夢さんの脇に転がってるのは刀!?

あわてんぼうの妖夢さんが尻餅ついて青い顔している+堕ちている日本刀+皆が俺を心配=妖夢さんが転んで刀を落して、それが俺に当たりかけたと。

で、そのことにビビッて妖夢さんは青い顔をしていると…



ひょ、ひょえー???
危なかった。
刃物を扱うのなら、ちゃんと扱える人に持ってもらわないと困ります。

「あわてんぼうに刀を持たすなんて、今すぐ止めてください。彼女は明らかに修行が足りない。」

刀を落すなんて危険すぎます。
どう考えても修行不足です。
もっと修行させてから刀を持たしてください。
誰かを傷つけた後では遅いんですよ!

「返す言葉も無いわー。しっかりと躾けるから、今日はこれで許してくれないかしらー。妖夢も反省しているのよー。」

しかし、そんなこと言われても俺は怒って…

「わかりました、許しましょう。では今日はこれで。」

別に、この人たちの職業を思い出してビビッたんじゃないからね!




もう、あいさつ回りはやめた!
花見を開始しよう!


side 魂魄 妖夢

完全に敵に補足されていたのに気がつかないなんて、不覚!!

幽々子様と神経をすり減らす会話を続けるハニュー。
私には、ハニューの危険性というものをまざまざと見せつけれられた思いでした。

これだけでは前回と同じ。
震え、何もできなかった時と同じだ。

だから、会話に割って入り幽々子様を援護射撃したいと思いました。

しかし、ハニューと幽々子様の会話はレベルが高く、割って入る糸口が見つかりませんでした。
そんな時です、無防備なハニューの後姿が目に入ったのは。

ハニューは実力者で、正面から戦って勝てる相手ではない。
でも、無防備なハニューの後ろ姿に私は「今、この瞬間なら仕留めることができる」と思ってしまったのです。




気がついたら、私は刀を振り上げていました。


しかし…



「フッ…冗談はよせ!」

なにを言っているのか?
そう思い、その言葉の意味を冷静に捉えたとき、私は自分の失態に気がついたのです。


私の動きは完全にハニューに補足されていた。
そして追い詰められているのは自分だと。


奇襲に失敗した今、私の一撃が命中するかどうかも怪しい。
そして、冷静になった今なら分かる。
私が刀を降り下ろそうとしたら、私は蜂の巣になるか、首が飛ぶことになるということが。


私は数え切れないほどの殺気に囲まれていました。
森の中から私の急所を狙っている連中。
お弁当箱を開ける振りをしながら、私を狙っている連中。
花見のシートを広げるのを中断して、私に攻撃を仕掛けようとしている連中。
ジオンの全てが私を狙っていました。

「自殺志願者なのかー?この状況で、スペルカードルールを無視することの意味はわかってるのかー?」
そして、私の首筋にはいつの間にか闇の牙が突き刺さっていました。




私は武人なのに、完全に背後を取られていました。

ハニューから「修行が足りない。」と指摘されたが、本当にその通りだ。
感情に飲まれ、自分が狙われていることも気がつかないなんて…

私は本当に未熟だ…



side 西行寺 幽々子

怯むかと思って、挨拶代わりに幽霊の件について嫌味を言ったら「いやー凄くに役に立ってますよ!!本当にありがとうございます。全てあなたのおかげです。」なんて清清しい位の皮肉で言い返してくるなんてやっぱり凄いわー。

でも、一番凄いと思ったのは橙の件よね~
橙がジオンの敵に回ったら、自らの手で橙を殺すなんて回答が返ってくるとは思わなかったわ。
しかもそれが大したことではないなんて…

ジオンという組織の為とはいえ、同じ仲間として過ごした相手を殺すことにハニューは何も感じないのかしら?





いや、違うわ。
(むしろ、愛情があるからですよ。)

そういうこと…ね。

自分の手で殺すことが、彼女なりの愛情(責任の取り方)ってことなのね。




話術、実力共に優れているのは、過去二回の接触で分かっていたけど…
ここに、組織のために冷徹な判断を下せる決断力まで加わってくることになるのね~

あらあら、本当に困ったわ~






妖夢の暴走を止め損ねたとき、ハニューが始末されていればよかったんだけど…

妖夢によって、不死身のハニューが始末され、ジオンが瓦解する。
一人の凶行により、時代が動く…

フフフ…

物語じゃあるまいし、やっぱり世の中そんなに甘くないわね。



[6470] 第十六話 フラグ?そんなのフルボッコにしてやんよ。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2009/10/11 21:18
第十六話
フラグ?そんなのフルボッコにしてやんよ。




side 朱鷺子

興味本位で話を聞いていたんだけど…

ハニューさんって、幻想郷を救おうとしているんだ…

それにジオンもこんなに大きい組織だったなんて…

え?
ジオンに加入すると、こんなに沢山の特典がついてくるんですか!?

「そうです。特に大きいのが、ジオンの庇護が受けられるという点です。
 朱鷺子様がジオンに入れば、誰かに襲われそうになったとしても、ジオン全てが朱鷺子様を守るために戦います。」

ちょ、ちょっと入ってみようかな??
でも、なんだか難しそうだし、入会金とかも色々ありそうだし…

「どうぞ、こちらの契約書に名前を書いていただくだけで、今日から朱鷺子様も我々の仲間です。
 本来なら入団試験がありますが、今サインしていただけるのなら、入団試験無しで加入できます。お得ですよ。」

そっかぁ。
今なら入団試験無しだから、お得なんだ!!
よし、決めた。
「私もジオンに入るよ!!」

「「「ありがとうございます!!!!!!」」」

パチパチパチパチ…






『関わったら駄目だ!!』

そうだ…
霖之助さんがジオンとハニューさんには関わったら駄目だって言っていたんだった…


「あの、ごめんなさい。やっぱり入るの止めます!」






「…そんな!それは困ります!!」


「ごめんなさい、気が変わったんです!!」




「お願いします!!
 朱鷺子様にどうしてもジオンに入ってもらいたいのです!!」

どどど、どうしよう。
こんなに必死になってくるなんて思わなかったよ…
でも入るわけにはいかないし…














本当に、どうしよう…



「やあ皆、仲良くやってる??」


side アイリス

ここまで来て、ジオンに入らないと言われてしまうなんて!

ハニュー総帥から直接命令を頂いた任務。
しかも、妹様のようにハニュー総帥が直々に決めた人材登用。
これはかなり重大な任務のはず…

どうにかして、任務を成功させなければ。


罰を受けることは耐えられる。
しかし、ハニュー総帥に失望されたら…
捨てられてしまったら…



あの子のように、失望された目で…

嫌だ!



どうにかしないと…

何か手は…


「やあ皆、仲良くやってる??」




くっ…

----------


「やあ皆、仲良くやってる??」




大ちゃん達と一緒に、アリスさん達が陣取っている所に行って花見を開始しようと思ったのですが…
朱鷺子さんの姿が見えたので、少し寄り道してみました。

なにこの沈黙…
何だか雰囲気が悪いのですが?

どういうことだ、アイリスが盛り上げるのに失敗しちゃったのか?
盛り上げるのって意外と難しいからなあ。
「アイリス。うまくいかなかったみたいだね?」


「…!!!!」


アイリスどうしたのよ?
顔が青いし、汗でびっしょりだよ!?

酒を飲みすぎたのか!?
まさか、慣れてないのに無理に盛り上げようとして、酒をガンガン飲んだんじゃ…
こりゃ不味いな。
いつリバースしてもおかしくないかも…
「アイリス。気分はどうだ?」



「はい…とても情けなくて辛いです…」
あー
やっぱり飲みすぎで辛いようだね。
「経験を積めば、いずれ辛い思いをしなくて済むようになる。
 情けないと思う気持ちは分かるが、最初は誰でも失敗するものさ。
 俺だって失敗した。
 だから、次を頑張って経験を積んでいけばいい。」
俺も初めてお酒で潰れたときは情けないと思ったものです。
でも、潰れないように飲むのも経験が必要ですし、お酒の強さも経験次第で上がるものですからね。
こうなると次のお酒が怖くなるものですが、まあ経験を積むんだと思って頑張りましょう。

「ハニュー総帥…
 ありがとうございます!次は絶対に期待にそえるよう頑張ります!!!」









皆さんそんな真剣な顔して聞かないでください。
お酒の訓練の話なんて、真剣に聞く話じゃないですよ~

なんだか、妙な感じになってしまいました。
こういうときは、必殺「話題の転換」です。



「朱鷺子さん?最近のお店の様子はどうですか?」

「は、はい。
 えーと…霖之助さんも復帰したおかげで、それなりに順調です。
 でもなんだか、少しお客さんが昔より減っちゃったみたいです…」


お客が減った?


軽い話題のつもりだったのに、何やらヤバイネタが出てきましたよ。

これってまさか…
俺が以前より危惧していた事態が起き始めているのでは…


まず店主。眼鏡をかけた男で大学生っぽい見た目、というか大人。
次、朱鷺子さん。ロリ。

つまりですね、これが俺の元居た世界だったら…
(本日、未成年に淫行を働いたとして、自称古物商の男が逮捕されました。この男は真剣な交際だった、結婚する気でいたと語っており、犯意を否定しています。)
という展開になってしまうわけですよ…

流石にここは警察の居ないゲンソウキョウなので逮捕されることは無いでしょうが…
その代わりというか、結婚して、子供が産まれる所までいってしまうでしょう。

その結果…
店主は世間の冷たい目に晒されることになります。
そしてお店の売り上げは急落するでしょう。

更には、色々な嫌がらせを受けることになるでしょう。
最悪の場合『この変態め!ここから出て行け!』『このロリコンどもめ!』『ロリコン殺しビーム!』という事態になってしまう可能性もあります。


つまり、このままでは色々な攻撃を受けて、結婚生活が大変な事態になる可能性があります。


「朱鷺子さん、もしも何か困った事態が起きたら、頼ってください。力になります。」
世間の評判はとにかく、俺にとっては店主がロリコンであろうと、真剣に愛し合っているのなら友人として祝福してあげるつもりです。
だから、何かあったら力になるから頼ってください。

「え?どういう意味ですか???」

どういう意味って…
しまった、慌てていたせいで、何も考えずに直球で話してしまった。

うう、困ったぞ。あまりここで話す話題じゃなかったかもしれない。
結婚を控えて、将来に希望を描いている朱鷺子さんにどこまで話してもいいのやら。

適当に誤魔化そうか…
しかし、万が一ここで俺が誤魔化したせいで…
問題が起きたときに、助けられなかったら…

くそっ

「仮の話として聞いてください。
 もしも、お二人の結婚に反対する人たちや、お二人があそこで商売することに反対する人達が出てきたら、すぐに頼ってください。
 世の中全てが敵に回ろうとも、味方になってあげますから。」



「は、はい…???」

いまいち飲み込めていないようですけど、今回はこの程度でいいでしょう。

「ややこしい話はこれでおしまい。とにかく飲み食いして楽しんで!!」



それじゃあ、俺はアリスさん達と合流することにしましょう。


side アイリス

ハニュー総帥が直接乗り込んできたのに気がついたときは、全てが終わったと思った。
でも、終わってはいなかった。

ハニュー総帥は心が広く優しい方だ。
任務に失敗した私に優しい言葉をかけ、次のチャンスでまた頑張ればいいと励ましてくださった。


そうだった。
あの子とハニュー総帥はそっくりだが、その性格は全然違うものだということを忘れていた。
ハニュー総帥は、あの子のように簡単に壊れてしまう存在ではなく、太陽のように強く優しい大きな存在なのだ。

だが、ハニュー総帥の心の広さと優しさに甘えては駄目だ。
次こそは、期待以上の働きをしてみせる!


side 朱鷺子

どういうことなのかな。

ジオンへの加入を断ったら、ハニューさんが直接乗り込んできたよ。
それで、あの発言…

これって、ジオンに加入するのが一番いいけど、それが無理ならジオンを頼れってことだよね。

でも、ジオンに頼ったら何をしてくれるんだろう?

そういえばアイリスさんがジオンの特典の説明で…
(そうです。特に大きいのが、ジオンの庇護が受けられるという点です。
 朱鷺子様がジオンに入れば、誰かに襲われそうになったとしても、ジオン全てが朱鷺子様を守るために戦います。)
て説明していた…
もし、ジオンに私が入っていたら、この特典が受けられた。




私達が結婚することに反対したり、あそこでお店を開くことを反対する人達が現れたら、ジオンに頼れ。

つまり、ハニューさんは武力によって私達を守ろうとしているのかも。
そして、そういう武力が必要な事態に私達は陥ろうとしているのかなあ…



いったい何だろう…
私達の結婚がどうして攻撃を招いたり、お店が開けなくなっちゃうことになるんだろう。
霖之助さんに相談してみよう。





----------



豪華!そして美味すぎる!!!
凄いよねアリスさんの料理!!

重箱なんですよ、重箱。
タワーのように聳え立っています。
しかも、味も超一流。

ルーミアがあまりにも美味しそうに食べているので、俺も思わずアリスさんから貰ってしまいましたよ。
「凄いですよ!こんなにおいしい弁当はなかなか作れないですよ!」


「そ、そう?ありがとう…でも私なんてまだまだよ。もっと美味しいお弁当を作れる人はいっぱい居ると思うわよ?」

そんな照れながら謙遜しなくてもー
実際美味しいですし、なんというか美味しく食べて欲しいという気持ちが伝わってきます。

「今回の花見に参加したメンバーの中でも一番かもしれませんよ?な?ルーミア?お前もこの中で一番美味しいのはアリスさんのお弁当かもしれないって思うだろ?」

「んー?」
んーって、小首を傾げるってことは何か別にルーミア好みのものがあるのか?
「アレが一番美味しそうなのだー」

アレ?

ルーミアの指差す先は…

博麗の巫女?

えっと、ルーミアさんは何を言ってるんですか?
「あの腋とか、凄く美味しそうなのだー」

あのですね。
そういう下ネタは止めて下さい。
おまけに腋が好いって、常識的に考えてマニアック過ぎだろルーミアは…

アリスさんも苦笑いしているぞ!

「ねえルーミア。因みに、俺は美味そう?」

「うーん…ハニューは友達だから食べたくないのだー」

つまり俺は、性的な対象ではなく友達だと。
嬉しいんだが、元男としてはちょっと悲しいような…








「と、ところで、アリスさんってハニューさんと、どういう関係なんですか?」

どういう関係ってリグル…
そんな誤解されるような言い方するなよ。
一言で言うと。
「二人は友達です!」


「そ、そうなの!私達は友達なの!!」
とまあ、アリスさんも認めているお友達なわけです。



「ほ、本当にそうなんですか…」

いやいやいや…
妙に今日のリグルは食いつくな。
まさか、アリスさんに手を出そうとしているのか?
このイケメンめ!!!
お前はアーッって感じの兄貴が好きじゃなかったのかよ?

でもまあ、確かに見た目だと年齢差がかなりあるので、友達に見えないのは分かります。

「じゃあ、証拠を見せるわ!!!」

証拠!?
アリスさん何言ってるんですか!?
友達に証拠も何もないでしょう。

「ハニュー。このお友達の契約書にサインして!」

け、契約書!?



なんて書いてあるのか読めない…
それにですね、こんな契約書にサインしたからと言って、それで友達ってのも証拠にならないと思うぞ。
なんというか…そう、速さ、じゃなくてインパクトが足りない。

「リグル。証拠が見たいというのなら!ここで友達になるための儀式を見せてあげますよ!!」

は?何言ってるんだ?という顔を皆しています。
でも、これはインパクトがある儀式なので、証拠になると思います。

「アリスさん、俺の名前を読んでください。」

「は、ハニュー!?」


----------


あの後、俺とアリスさんが抱き合いながら名前を呼び合い、俺の髪に着いているリボンとアリスさんの服のリボンを交換しました。
友情の証として、大切な物を交換です。

え?某魔砲少女アニメに似たようなシーンがあったって?
そうです。パクリです。

さっき、夢で見たのも原因の一つですが、正直言って、女の子同士の友達のなり方なんて分かりません。
ということで、インパクトがあって部活のコンセプト的に受けるのを吟味しました。
今は反省している。


といってもですね、名前で呼び合う関係が、友達の第一歩だと俺も思うのですよ。

そういう意味では、調子に乗りましたが、今回の行動は何も間違っていないはず。


アリスさんも喜んでくれましたし、リグルも納得したのか何も言ってきません。
アニメのネタを使ったおかげで、他のジオン部員達からも注目を浴びていましたしね。

我ながら見事でした。





さてと、ひと段落着いたし、自分の弁当も開けようかな?

じゃじゃーん。
おにぎり、卵焼き、ウィンナー!

俺の渾身の一作!
「ハニュー総帥?これは随分とシンプルなお弁当ですね。」
すいません。本当は、俺の技量ではこれで精一杯なんです。

でも美味しいんだよこれ。
「シンプルイズベスト。このメニューは、徹夜で戦う男達の友として親しまれてきた立派なものなんだぞ?」
ネットを一晩中漁っている人たちの夜食としては最高です。

「常にその身は戦場にある、ということですか…」
いや、そんな大げさなものじゃないのですが。
ま、まあでもネットの世界は戦場と言えなくも無いかな?
これって、にとりさんなりのジョーク!?


「ねえ、ハニューちゃん?ちょっとその卵焼きをよく見せてくれる?」

うん?
ミスティアどうしたの?
俺の卵焼きをじっと見て何か分かるの?

「よかった。これは大丈夫な卵みたいね。」

大丈夫な卵?
ということは、大丈夫じゃない卵があるのか!?

「赤ちゃんが入っていた卵かと思っちゃった。私の友達のハニューちゃんがそんなことするわけ無いのにね。ごめんね。」

ええー
何それ。
そんなの分かるわけないじゃないか。

「大丈夫ですよ、ハニューさんがそんな残酷なことをするわけないじゃないですか。」

そんな。
リグルまで…
もしかして、ゲンソウキョウでは有精卵は食べないのが常識なのか?
今初めて知ったのですが…

どうしよう。
見分ける方法なんて、まったく知らないのですが。

こうなったら、卵料理は今後諦めるか?
いや、でもそれは辛い。
どうすればいいんだ?

そうだ。
それなら、見分けることができるミスティアから卵を貰えばいいわけですね。

「ちょっとちょっとミスティア。ちょっと離れた所で話できないかな?」

「どうしたの?」


----------



「あのさ、突然で驚くかもしれないけど、ミスティアの卵を俺にくれないか?」

「…い、いきなりそんなことを言われても困るの!?」

いきなりじゃ困る?
もしかして、卵を俺に渡すために、何か大変な作業でも必要なのか?

「そこをなんとか。俺も一緒に頑張るからさ。俺のために一緒に俺の卵を用意してよ。」

「い、一緒に頑張るって!?俺の卵って!?駄目よ!大ちゃんが泣くわよ!!!ハニューちゃん、突然こんなことを言うなんてどうしちゃったの!?」

だ、大ちゃんが泣く!?
ミスティアに卵を貰ったら大ちゃんが泣くとな。
意味が分からない。

「どうしちゃったも何も…俺も全然訳が分からないよ~!!」

「訳が分からないって…ハニューちゃん…そこまで…
 もう少しのはずだから、待っててね…」

待つ?待つってどうして…
あれ?
ミスティアどこいくの?


----------


なにやらミスティアがどこかに行ってしまいました。
いったい、なんなんだ?
とにかく、ゲンソウキョウの卵にはどうやら謎がいっぱいあるのは確かなようです。

仕切りなおしで他の人のお弁当もちょっと見せてもらおうかなあ?


まずルーミア。
「これ食べる?」

何これ?ブドウが着いた帽子!?
帽子なんて食べられないだろ。
「じゃ、食べちゃうのだー」



あまり見ないようにしよう。




にとりさんは…
うわーお。

きゅうりのお弁当ですか。
「美味しいですよこれ?」

ほほう、どれどれ…

シャクシャクシャク
シャクシャクシャク
シャクシャクシャク
シャクシャクシャク
シャクシャクシャク

!!
コーラ味のきゅうり!?
でもちょっとこれは…

「どうですか?」

「好きな人にはたまりませんなー」

「そうですか、よかったです!」

本当は、俺の口には合わないと言っているんです。
ごめんなさい。
味と食感の組み合わせがなんとも苦しい…



「ハニューさん、僕のも食べてください!!」
リグルか?
うう!?随分と可愛いお弁当箱じゃないか。

今日のリグルは気合の入った女装をしているので、凄く似合う光景です。
いつもより、可愛さをアピールした格好をしているんですよね。
思わずドッキッとしてしまいそうでしたよ。まったく困った子です。

さて、中身はどんなのかなー?
なんだ?
なにやらよく分からないものが詰まっている。
味は…

不味!!!

量はいっぱいあるのに、味は不味い!!
リグル飯、不味!!!

おまけに、しっかりと火が入っていない食材とかあるし…

「ハニューさん?どうかな僕のお弁当?」

そんな女の子っぽいポーズでモジモジ聞いても駄目!
正直不味いし、酷い。
でも本当の事は言えないし、まあ男の弁当と考えればそう変な話でもない。
因みに「ゴキブリだからこれで美味しい」ということは考えたくない。
「男の料理って感じだから、まあ好きな人にはこれでいいんじゃない?」

「え?それってどういう?「やっぱり、あたいのベントーがさいきょーよね!!」

「どんなお弁当なのかー?」
チルノも弁当持ってきたのかー



ぱかっ!










「あれ?……何も入ってない。」








チルノならやってくれると思いました。
入れてくるのを忘れたわけですね。

「ハニューさん、入れるのを忘れるなんて、いかにもって感じですね。」
本当にリグルの言うとおりだよ。

「やい!バカにするな!ちゃんと朝には中身を入れたんだぞ!!」

ええ!?
ということは…
どういうことだ?
誰かに弁当の中身を盗まれた!?

誰だよそんなことする奴は…

まさかルーミア??

「流石にそこまで飢えてないのだー
 多分…」

多分じゃ困るんですけどルーミアさん。

「ねえチルノちゃん?どんなお弁当だったか教えてくれる?」
どんなお弁当だったか?
アリスさん、そんなことを聞いてどうするんですか?








「カキ氷!!」


チルノおおおおお!?


それは駄目だろ。
どう見ても溶けています。本当にありがとうございました。

うーん。
前から思っていたが、チルノが一人暮らしってのはちょっと無理があるのではないか…
まあ、それはとにかく、アリスさんお見事でした。

「アリスさん凄いですね。もしやカキ氷を入れてきたのに気がついたのですか?」

「そうじゃないけど、小さい子の相手をするのが慣れているから、一つ一つ丁寧に聞いてあげるのがポイントってよくわかってるの。」

なるほど~それでも凄いなあ。

「チルノちゃん、ほら、私のがまだいっぱいあるから食べて?」

「ありがとうアリス!」

さすがアリスさん。
すばらしいフォローです。

「なんだか、アリスさんがチルノのお母さんみたいですね。」

うーん確かにリグルの言うとおり…
本当にお母さんみたいだ。

「そういえば、チルノのお母さんは今日は来ないのかー?」



「うう…」
ちょ!?
なんかルーミアが地雷を踏んだ気がするのですが!?

「ううう…うわああああああん!!!」

ば、馬鹿!
チルノが泣き出しちゃったじゃないか!?



----------


話をまとめると。

チルノのお母さんは家に帰ってしまった。
そしてその前に、チルノに「自分は母親ではない」と言った訳ですか。

つまり、認知しなかったということですね。


これは酷い。
自分の娘を認知しないとは。
何か事情があるのでしょうが、一人で置いていかれたチルノのことを考えると、ちょっとねえ。

「チルノ…なんて言ったらいいか分からないけど、俺達がいるから。な?」

「そうよチルノちゃん!寂しくなったら、いつでも私の家に来ていいわよ!」




「ありがとうハニュー、アリス。あたい頑張るよ!レティがあたいのお母さんになりたいって言うほどさいきょーになってやるんだ!!!」

ううう…
チルノ、おまえって奴は…
目から汗が…

本当にチルノは純粋ないい子だな。
大ちゃんもそう思うよね?





あれ?

…大ちゃんどこ?



side リグル・ナイトバグ

ミスティアの作戦通り進めたけど、アリスさんが伏兵じゃないのかなあ。
何度聞いてもアリスさんは友達だって言っているけど…
とても、それだけの関係に見えないんだけどなあ。

チルノの相手をしているアリスさんとハニューさんって、まるで子供の相手をしている夫婦に見えるんだよなあ。


side アリス・マーガトロイド

友達の儀式かあ。
まるで、何かの物語のワンシーンみたいだったわ。

あれは最高ね。
またヘブン状態になりかけたわ…

私も友達の儀式で、この幻想郷でいっぱい友達をつくってみようかしら。

「フフフフフ…」

「アリス?どうしたんだ?」

!!

「なんでもないのよチルノちゃん。」
今は、それよりチルノちゃんの面倒を見るのが先ね。
でも、妹達の面倒と違って、一人で面倒を見ることなんてできるかしら。
誰か一緒に面倒を見てくれる人がいるといんだけど…


side ミスティア・ローレライ

いきなり私に自分の子供(卵)を生んでくれとか言い出したと思ったら、次の瞬間には自分の心が分からないとか言い出すし…
ハニューちゃんって強そうに見えたけど、大ちゃんとの喧嘩であんなに酷い行動をするまで心に傷を負っていたのね。


早く作戦を最終段階に移行して、元の鞘に収めないと大変なことになるわ。


さーて。
その作戦の要となる、大ちゃんの料理は完成したかしら。
調理器具もハニューちゃんへの料理専用としていつも思いを込めていたもの(本人談)を持ち込んだから、失敗もしてないだろうし…



カラカラカラ…
何やってるの!このお鍋空じゃない!?

「ハニューちゃんが幸せなら私はそれでいいの…」

そんなハイライトの消えた目で言われても、全然よさそうには見えないわよ!!

「そんな消極的じゃ駄目よ!大ちゃんもハニューちゃんも幸せにならなくちゃ駄目なの!!」
私の感では、今のハニューちゃんの精神状態なら、ちょっと押せば簡単に落ちるはずよ。
だからチャンスなの。
それなのに、大ちゃんがこの有様ってどういうことなの。


その場で料理という奇策と、私達のバックアップの元で、改めてしっかりと告白する作戦を成功させるためには、一刻も早く大ちゃんの料理を完成させないと。
料理が出来上がるまでに、ハニューちゃんがこっちに来ちゃったり、お腹いっぱいになったら全ては終わりなんだから、とにかく早く準備を進めて…

「いいの!ミスティアちゃんもういいの!私はハニューちゃんの隣に立つ資格なんてないの…だからもういいの…」

何を訳の分からないことを言っているの!?

「ハニューちゃんはこれだけ多くの妖精達を従えて、あんなに強い妖怪達と渡り合ってるんだよ。それなのに私は唯の妖精なの!アリスさんみたいに、ハニューちゃんのやろうとしていることを手伝ってあげることなんてできないの!!!」

ど、どうしたらいいの~!!



「大ちゃんの言っていることは誤解だよ!!そんなことないよ!!!」



----------


何故か大ちゃんが見当たらないので、探しに行ったら…
大ちゃんは何を言っているんだ!?

なにか、とんでもない誤解をされているようです。

「大ちゃんの言っていることは誤解だよ!!そんなことないよ!!!」

俺は唯の部長だから妖精を従えている分けでもないし、花見の皆さんに友好的にあいさつ回りをしただけなんですが。
そりゃ殺しあったらヤバイ人たちばかりなんで、傍から見たらそう勘違いしてしまうのもわかりますけど。

「嘘だ!!私はアリスさんみたいにお手伝いもできない、何もできない妖精なのは事実だもん!!」

うう!?
確かに、メイド長への悪戯の手伝いをアリスさんはしてくれていて…
それがなにやら難しそうなのは事実なのですが…

正直、そんなことに大ちゃんは関わらないほうがいいと思う。

だって、大ちゃんはもの凄く善い子なんだよ!?
絶滅危惧種なぐらいの善い子なんだよ!?


それが、こんな悪戯に加担する必要なんてありません。
しかも、万が一悪戯がばれてメイド長に大ちゃんが攻撃されるような事態になったら…
俺は多分、怒りを抑えることが…

いやいやいや。

問題はそうではなくて、そんな危険なことに大ちゃんを巻き込むわけにはいかない。

だから。

「大ちゃんはこんなことに関わらなくていい!!大ちゃんはいつも通りでいいんだ!!こんなことに関わって、もし大ちゃんの身に何かが起きたらと思うと…だから大ちゃんは関わらなくていいんだ!!」

それに、大ちゃんが何もできない妖精ではありません。
メイド長の虐めに挫けそうになったり、ルーミアに自分のおやつを全部食べられたり、ちょっとしたホームシックになったり、そんな時にどこか家庭的で優しい大ちゃんの笑顔にどれだけ救われたことか。
「辛いときや、悲しいとき、大ちゃんの笑顔に俺がどれだけ救われたことか。俺の願いは、大ちゃんが笑顔でいつも傍に居てくれることそれだけだよ。それで俺は満足なんだ!!」
出会った当初、心の嫁なんて思っていましたが、まさにその通り。
「いつも笑顔で迎え入れて欲しい」大ちゃんは、そんな少女なのです。


「ハニューちゃん…そう言ってくれるのは凄く嬉しい…
 私もずっと傍にいたいよ…
 でも、本当はジオンのお手伝いができない私は邪魔な存在じゃないのかな…
 私、ハニューちゃんの傍に居られないのは辛いよ…
 それでもね、ハニューちゃんの邪魔をするのも凄く辛いんだ…」


大ちゃん…

グニュ!!

何これ!?
俺のほっぺたに何か突き刺さってる!?

「いまの感想を一言!!」

ちょ!?これってマイク!?

「それと、先ほどの発言の真意は何ですか!!いつも傍にということはどういう意味なんですか!?それから、インタヴューが終わったらキスをお願いします。ストーリー的に、それが一番いいと思いますので。」

は?

「何惚けてるんですか?もうカメラ回ってますよ!!」

なにこれ、うぜええええええええ!!


なんで文さん達がこっちに!?
小悪魔さんたちを撮ってたんじゃなかったの!?


あれ?


文さん達だけじゃない。
皆こっち見てるよ!?



居心地が悪いから、ちょっと逃げよう大ちゃん!!!



「ちょっと待ってください!!!!記者会見は!?           キャ!?虫????」



「ここは通しませんよ!!」

「そうなのだー!!ここは通さないのだー」

「さいきょーのあたいを抜くことができるかな?」


----------


いやーびっくりした。
神社の本殿まで逃げてきちゃったよ。

でもおかげで、大ちゃんの言っている意味を改めてまとめることができました。

どうやら大ちゃんは、ジオン部の部長やメイド長へ悪戯について俺がもの凄く力を注いでいると勘違いしているようです。
それこそ、そのためには役に立たない人を切り捨てるぐらいに…

そんなわけないです。
何故そういう誤解になったのか、色々と原因はあるのでしょうが、とにかく誤解です。
だから誤解は解かないと。

「大ちゃん、俺が大ちゃんよりジオンの方が大切だなんて思うわけ無いよ!嘘だと思うのだったら、今すぐ辞めてもいいよ。」

「ハニューちゃん!?辞めるって…ジオンのこと!?」

「そうだよ、大ちゃんのために辞めるよ。」
大ちゃんが凄く驚いてます。
でも、そんなに驚くことなのだろうか?
正直、部活を辞め、悪戯も止めるぐらいだから、あんまり大したこと無いと思うのだけど。




「駄目…駄目だよハニューちゃん。ハニューちゃんはジオンを辞めたら駄目だよ。
 でもありがとう。そこまで言ってくれて…私は凄く幸せだよ。
 ごめんねハニューちゃん。ハニューちゃんは全て終わったら必ず帰ってくるって、紅魔館に行くときに約束してくれていたのにね…
 アリスさんみたいな人とかが、ハニューちゃんの周りにどんどん集まってきて、もの凄く不安になってきちゃって…
 でももう大丈夫だよ!
 
 だけど…       一週間に一回は絶対に帰ってきてね!」


( ゚д゚)…


( ゚д゚ )


これって、もしかして大ちゃんは俺の事が好きなのに、色々な女性と俺が出会ってばかりいるから嫉妬してたってこと!?

「だ、大ちゃん!?もしかして、俺のこと好きなの!?」

「当たり前じゃない!!ハニューちゃんのことが私は好き!大好き!!」

な、なんだってー!?????

お、落ち着け俺。
まだ慌てるような時間じゃない。

「う、嬉しいよ。色々と店主と同じ状態になっちゃうけど、大ちゃんから付き合いたいって言われるなんて夢のようだよ…」
し、しかし。
これは色々と不味い事態に…
これじゃ店主と同じく俺の所にもベアード様が…

「ハニューちゃん。付き合うってどういう意味?」

!?

「あの…大ちゃん?変なことを聞くけど、LIKEとLOVEの違いってわかる?」

「わかんない。」

「じゃ、じゃあ第二問。チルノ達は大好き?」

「うん。大好き!」



orz

そういうことですか…
大ちゃんの好きってそういう意味ね…

つまり、LOVEじゃなくてLIKE。子供の好きってレベルの話だったのですね。
いやまあ、大ちゃんの見た目で気がつけよ俺…





side 大ちゃん

どうしたんだろうハニューちゃん?
なんだか落ち込んじゃった????

「突き合う」の意味とか「らいく」とか「らぶ」とかの違いが分からなかったのいけなかったのかな?
だって「突き合う」なんて、殺し合うって意味ぐらいしかわからないし。
「らいく」とか「らぶ」なんて単語聞いたことがないんだもん…



でも、やっと言いたいことが言えたよ。

私はハニューちゃんが好き。
凄く好き。
よくわからないけど、チルノちゃん達とは違う意味で好き。

だからずっとずっと永遠に一緒に居たい。
一緒に暮らして…
そう人間がよく言っている恋人というのになって、その後は夫婦というのになりたい…







ミスティアちゃんが言うには、そうすれば永遠に一緒に居れて、赤ちゃんも産まれるっていうんだけど…








----------





あうう…
さっきは久しぶりに凹んだ。

そんな俺に神様か誰か、手を差し伸べてください。











お!?
そういえば、俺は本殿まで来ているのに、周りの目が無くなっているじゃないか。
これは色々と調査するチャンスだ。

こちら、スネーク。
これより進入を開始する。



[6470] 第十七話 頭の中が春なのかー。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/03/03 20:36
第十七話
頭の中が春なのかー。


side アリス・マーガトロイド

「まあまあね…」

この子は、どうして勝手に私のお弁当を食べているのかしら?

「なによ?ここは私の神社よ?」

はあ…
全然理由になっていない気が…


「…ちょっと昨日から食料を切らしていたとか、紫に食べ物をたかろうとしたら橙から哀れんだ目で見られたから怯んだとか、ハニューから貰ったお金で買出しに行こうとしたけどお腹が空いて人間の里まで飛んでいく力が残ってないとか、困り果てた時に目に入ったこのお弁当がもの凄く美味しそうに見えたとか、そんなんじゃないわよ。」

グゥ~
「今のはちょっとお腹がなっただけよ。お腹が空きすぎて、これぐらいじゃ全然足りないとかそういうわけじゃないのよ!!」


……
橙ちゃんが哀れんだ目で見るって…
この子はいつもどんな食生活しているのよ?


「その目疑ってるわね!?博麗の巫女である私が、ハニュー一味のお弁当なんて好き好んで食べるわけないでしょ、これはそう、毒見よ毒見。あなた達がお弁当で何か悪さをしないか、私が確認しているのよ。」

これは博麗の巫女としての仕事だと言いたいのね。
でも、汗でびっしょりだし…冷汗?
それに毒見って…
本当に毒が入っていたらあなた死ぬわよ?

こんな下手な嘘しか出てこないなんて、ハニューとは違う意味で不器用な子ね。

「じゃあ、口をつけた後のこっちは食べていいのかー?いただきまーす。」


「ちょっとそこの闇夜の妖怪!食べるなー!!」


「どうしてなのかー?」


「ほ、ほら、えーと…もしかしたら、まだ食べていないところに毒が入っていたら大変でしょ!?だから、全部私が食べないと駄目よ!!!」

まったく困ったものね…
ちゃんと食べたいと一言、言えばいいのに。


「△□×!!○○□□□!!××△!!」


「アリスー、文が何か言ってるよ?」

やっと反省したのかしら?
さっき捕まえたときは、報道の自由があるから解放しろとか言って、全然自分の否を認めなかったから困ったのよね。

ちょっと猿轡を外してあげて…
「×××!ぶは!!
 アリスさん!私の秘蔵コレクションを少し分けてあげますから!解放してもらえませんか?」

は?

「どの写真も可愛い子ばっかりですよ!チルノちゃんとの会話を聞いてティン!と来たんですよ!!
 あなたは私の同類だって!!可愛いは正義ですよね…

 あれ?違いました!?じゃあ、椛を一日自由にできる権利をあげますから、ほら!モッフモッフですよ!!
 ちょっといらない所までモッフモフなのが欠フガ!?○□×△△!!!!」


チルノちゃんの教育に悪いから、当分このままの方が良さそうね。


side 西行寺 幽々子

「そんなに警戒しないでいいのよ~。さっきの妖夢の暴走は、ちょっとした事故なんだから~
 よく思い出して、私達は亡霊や幽霊をあなた達ジオンに提供しているのよ~
 つまり、私達は協力関係…いや、同盟に限りなく近い協力関係にあるのよ~」

「え!えええ?同盟に限りなく近い協力関係???た、確かに、そうなのかな???」
フフフ…
動揺しているわね~
流石に中枢付近の子達は一筋縄では行かないみたいだけど、こういう末端の子達は結構普通の妖精に近い感じね…
情報収集がやりやすいわ~

「そんなことより、さっきから盛り上がっていたハニュー総帥の体中の痣について教えてくれないかしら~」

「え…でも…」

「誰にも言わないから~。私も同盟に限りなく近い協力関係にある者としてハニュー総帥の体調が心配なのよ~」


今日、ハニューの着替えを見たこの子達によると、着替えたときのハニューの肌には、何か痣のような物が無数に残っていた。

そして、他のグループからの話では、側近のルーミアは昨晩部屋にいなかった。

さらに違うグループの所で聞いたところによると、今日は何故かルーミアが朝一番からハニューの部屋に居た。しかも、噂によると小悪魔が朝一番から部屋に居たときもあった。

これは面白い話ね~

side 魂魄 妖夢

幽々子様…
先ほどから、ハニューの部下達の所を積極的に周っていったい何を??

なにやらとても嫌な予感が…

----------


side ハニュー


さてと、早速ゲンソウキョウ脱出のための調査を開始しましょう。


うむむ。
こうやって見ると、どう見ても本物の神社に見えるな。
しかしその可能性は低い。

これは本物ではないはずだ。
これは『神社の巫女』という設定の博麗の巫女のために作られたものであり、神社の機能が求められて作られたものではないはず。

恐らく、外回りはダミーで中に本来の目的のためのハイテクな感じの施設があるか、全てがダミーのどちらかになっている可能性が高い。

この仮説が正しいかどうか確認するためには、神社としてはおかしな点を見つければよいわけですね。わかります。

では早速、目の前にある賽銭箱からチェックしてみましょう。





何も入ってない。



「こちらスネーク。大佐、どうも様子がおかしい。」
 
 (どうしたんだスネーク?何がおかしい?)
 
「賽銭箱が空になっている。蜘蛛の巣も張っていて、最近使われた様子が無い。」

 (なるほど…確かにおかしいな。調査を続行しろスネーク。さらに何か出てくるはずだ。)

気分はスネーク。
ということで、一人スネークごっこをやっていますが、本当に脳内大佐の言うように調査を続行すれば色々と出てきそうな気配です。

貧乏巫女ということですが、それにしてもここまで賽銭が入った気配がないというのは異常です。
蜘蛛の巣とか張ってるし、なんだか土ぼこりが底の方に溜まっています。
むしろ、貧乏巫女だからという理由より、ここは神社ではないからという理由の方がしっくりきます。

決定的な証拠ではないですが、当初の読みどおり、ここは神社とは別の目的の施設であることの証拠と言えるでしょう。
脳内の大佐も怪しいと言ってますしね。


よし内部に入って調査だ。



----------



ここは、博麗の巫女の居間?

おかしいぞ、生活観に溢れている。

神社に付属している居宅の居間に侵入したのですが…
どう見ても普通の居間に見えます。

そう、普通の居間。
戦闘マシーンである博麗の巫女が普通の居間に住んでいるだと!?
そんなバカな…

しかし、この生活観が感じられる居間はどういうことだ!?


例えば、室内に干されている肌着。
妙にゴムが伸び切っている…
いったい何年間使い続けたらこうなるんだ??

そして、文々。新聞。
何故かティッシュペーパーの箱の中に入っている。
まさか、ティッシュの代りに新聞を使っているのか!?


生活観溢れるどころじゃねーぞ。


いや、騙されたら駄目だ。
これは、ここに博麗の巫女が住んでいるように見せかける偽装に違いない。
俺の仮説が正しければ、ここには博麗の巫女は住んで居ないはずなんだ。



どこかにおかしな点があるはずだ…


例えば、このタンスとか!


!?

                                ブーン…
なんだこれは…

腋が開いた巫女服ばっかりじゃないか…
私服は…



一枚も無い?????




これはおかしい。

いくらなんでも服の種類が少なすぎる。

いや、しかし…
戦闘マシーンである博麗の巫女なら服の種類が少ないのも頷ける…
どっちなんだ!?

とにかくもう少し調査してみよう。




おや、ここは台所か。


「こちらスネーク。大佐、応答してくれ。」

(どうしたんだスネーク。)
 
「大佐、台所に侵入した。」

(よくやったスネーク、冷蔵庫等を調べてみろ何か重要な手がかりがあるかもしれない。)

なるほど、流石脳内大佐。
冷蔵庫を調べれば、食料の状況が分かります。そしてそこがポイントです。
例えば、長期間滞在する施設なら、生鮮食品などといった新鮮な食料があり、逆に短期滞在するだけの擬装用の施設なら、保存食ぐらいしか無いはず。
つまり、食料の状況から、ここが本当に博麗の巫女の家なのか、擬装用の住いなのかどうか判断することが可能です。

冷蔵庫、冷蔵庫…





??


冷蔵庫が無い。


じゃあ、食料はいったいどこに??








バカな!?
隅から隅まで探したのに、お茶以外何も無いだと…




この展開は予想しなかった。
でも、これで決まりだな。
冷蔵庫無しで食料がどこにも無い。
いくら彼女が戦闘マシーンであったとしても、人間ベースの体だと考えられるため、食料は必要だ。
つまり、ここには寝泊りすらしていない可能性が高い。

当初の仮説の片方が当たったようだな。
ここは寝泊りできるような施設ではない、よってここは博麗の巫女の家ではない。
そして、内部にハイテクな感じの施設も無かった。
つまりここは、全てがダミー。




本当の拠点は別にある。





しかし、そうなると、完全に糸が途切れてしまったな。
本当の拠点に繋がる何かがあればいいのだが…



とにかく、他の部屋も調べてみるか。




----------



ここは寝室か…
布団が出したままになっている。

パン!パン!

叩いてみた。少し湿っぽいがこれは本物の布団のようだ。


ここにも、タンス発見。

なかには、下着がいっぱい入っている。



古臭いデザインのが多いな…

「そういう趣味があるのですか?と、私は少々真剣に尋ねてみます。」

!?

「ハニューちゃん…これはどういうことなの…
 どうして、霊夢さんの下着を漁っているの??」


しまったあああ!
大ちゃんがついて来ているの忘れてた!!


勝手に女性の寝室に侵入して、下着を物色する俺。
どう見ても犯罪者です。

どどどどうするよ。

うまく逃げる方法は…


落ち着け俺。
俺の見た目は今、女の子だ。
女の子の俺が下着を物色しているのなら、まだ言い訳が立つかもしれない。
なんというか、女友達同士で、この下着カワイー、私も欲しいなー的な感じで。

「いやちょっとね。偶々タンスを開けたら下着が入っていてね。この下着、俺にも似合うかなーってね。
 どう?大ちゃんはどう思う?」

適当に下着を引き抜いて、俺の体につけるポーズ。
これなら、少なくとも変態的には見えません。



なんだこの下着!?
包帯???

さ、サラシって奴か。
なんでこんなもの入ってるんだよ。

「ワイルドな感じで、ハニューちゃんによく似合ってると思うよ…」

そ、そうですか。
サラシが似合う女の子なんですか俺は。
というか、先の事を考えていなかった。次は何を話そうか…
                               「ガラ!」

                               「お前がハニューか!私は…」
「そ、そう?じゃあ本当に似合うかどうか、着けて試してみようか?
 ここだと、俺達以外には他に誰も居ないからね…
 じっくり見せてあげるよ…」


「ハニューちゃん??????
 そんな言い逃れの仕方ずるいよ…」





「キャッキャウフフしてんじゃねえ!!!!」





誰だこの幼女?
角の生えた幼女が何故か赤い顔をして叫んできましたよ?



side リグル・ナイトバグ

いいのかなあ、こんなことをして。
ハニューさん達の様子を僕の眷属を使って覗き見るなんて…

「安全のためでもあるのだー」

そりゃ分かっているけどさあ。
あれ?
ルーミア、さっき僕の頭の中に突っ込みを入れなかった??

「ねえどうなの?二人の雰囲気はどう??」
そう焦らないでよミスティア。

「二人は今、博麗霊夢の寝室にいますね。」

「寝室!?」

『いやちょっとね。偶々タンスを開けたら下着が入っていてね。この下着、俺にも似合うかなーってね。
 どう?大ちゃんはどう思う?』

「それで、この下着が似合うかどうかってハニューさんが大ちゃんに聞いてるみたいだよ。」

「下着!?」

ミスティア?
あまり大声出さないでよ。
何故かさっきから映像が乱れて大変なんだから!

『ワイルドな感じで、ハニューちゃんによく似合ってると思うよ!』

「大ちゃんがよく似合っているって言ってる。」

「チンチン!?じゃ、じゃあもう下着しかつけてないのね!?」


『そ、そう?じゃあ本当に似合うかどうか、着けて試してみようか?
 ここだと、俺達以外には他に誰も居ないからね…
 じっくり見せてあげるよ…』


「ここじゃ誰も居ないから、試してみようだって。じっくり見せてあげるだって!」

「勝負下着を試すのね!?」
「そうなのか、そうなのか。」

!?
回線が切断しそう??

!!
眷属からの警報!?
魔力の異常増大!?
直ぐに対象の映像を送って!!!!

駄目だ、魔力の波動で回線が切れちゃう!?
                               
                             「チンチン…もしかしたら、私があの場所にいたのかも…
                              二人の仲が進むことは歓迎すべきことなんだけど、ちょっと複雑…」
行動をオートに設定。
魔力の発生源を追いかけて!!
                             「何か言ったかー?」
ハニューさんなら、これだけできっと分かってくれるはず。

                             「な、なんでもないわ!」

side 伊吹 萃香

ハニューは、どっちが本当の顔なんだ。
挨拶周りをしていたときは、間違いなく強者の顔だった。
でも、あの大ちゃんという奴と、好きだのどうだのという会話を聞いていると、まるで唯の恋に翻弄される子供そのものじゃないか。
そこだけを見れば、とても強者には見えない。

本当に何なんだこいつ…




そして今は神社の中…
奴は何をやっているんだ?何かを探している??
霊夢の家に何かが隠してある?
この貧乏な家には、そんなものは無いはず…



いやある。


私だ。


ここには私が隠れている。
私を探し出そうとしているのか?


…なるほど、そう考えるとやはり油断ならねえな。
まさか、あの大ちゃんとやらとの会話も、神社進入のための演技ってことか?

よし、そういうことならお望みどおり姿を現してやろう。



「ワイルドな感じで、ハニューちゃんによく似合ってると思うよ…」


ガラ!

「お前がハニューか!私は…」
                             

「そ、そう?じゃあ本当に似合うかどうか、着けて試してみようか?
 ここだと、俺達以外には他に誰も居ないからね…
 じっくり見せてあげるよ…」



「ハニューちゃん??????
 そんな言い逃れの仕方ずるいよ…」





ここには誰も居ないからと言って、下着を試そうとか言っている少女。

それを聞いて顔を真っ赤にする少女。

そしてこの二人は、先ほどまで好きだの何だの言っていた。

おまけに、床には布団。






そういうことなのか?
そういうことなんだな?

そういうことをする場所を探して神社に進入してたんだな??


ふ、ふざけるな!!!
「キャッキャウフフしてんじゃねえ!!!!」


side 博麗 霊夢

「霊夢!霊夢!ちょっといいか?」

「…ムゴ!ムゴゴゴ!!○△☆××□○△!!!!!」
なによ魔理沙!こっちは食べることで精一杯なのよ!もうちょっと後にしてちょうだい!


「お前の言いたいことはなんとなく分かったぜ。でもちょっと席を外して私の話を聞いてくれ。」

仕方ないわね。
いったい何なのよ。

----------

「ハニューの姿が消えている。」

え?
あいつは、神社の裏あたりでキャッキャウフフしているんじゃ。

「間違いなくどこにも居ない。それにさっきまで充満していた変な魔力が突然無くなった。」

変な魔力!?…あの妖気のこと?
…確かに無くなってる…
なによこれ…

「霊夢おかしいと思わないか?花見のたびに強くなる魔力。それにつられてか何故か終わらない花見。
 そして突然乗り込んできたハニューと突然消えた魔力。

 どう考えてもこれは異変だぜ。」

異変…?





「わ、私の神社で異変ですってーーーーーーーーーー!!!!!!!!」



「落ち着けよ霊夢。」

落ち着いていられるわけ、無いじゃない。
こうしちゃいられないわ、異変の元を早く断たないと。


「お、おい!ちょっと待てよ!!」














「紫!起きなさい!!」
まったく、このスキマ妖怪は、なに酔っ払って呑気に寝てるのよ!
ほら蹴っちゃうわよ!!

「キャ!!そんな!?寝ているときに襲ってくるなんて、これが世に聞く夜這いプレイという奴なの!?17歳の私にはハードすぎる「寝ぼけるなー!!!」

「霊夢?どうしたのよ?」
どうしたのですって、状況が見えたのよ!!

「異変解決よ!!!!!!!!状況を説明してあげるからよく聞きなさい!!
 今の私の脳みそには、糖分が満ち足りているのよ!!!!だから私は、今ここで起きている複雑な状況を解決する方法が分かるわ!
 ハニューは言っていたわ。『そっちこそ…花見がしたいという言葉…何か間違っているんじゃないですか?本当は、花見がしたい訳じゃ無いですよね?』
 ってね…
 つまり、この花見を裏から操っている奴がいる。そして、ハニューはそいつを退治するためにここにやってきた。」

「話が急でよくわからないけど…
 じゃ、じゃあ、これからその元凶を倒しに行くのね?」

そう、元凶を倒すわ…

「え?どうして私の方を向いて札を出してるの!?」

「今から異変を起こしている奴の所に行ったところで、ハニューの手助けになるだけだわ。でも、さらにその元凶を叩けば、私はハニューの上に立つことができる!!!!
 花見の度に感じる妖気。それはこれまで幻想郷では感じたことが無いタイプのものだったわ。つまり、この異変の元は幻想郷の外から来たもの。
 となるとおかしいわね?そんなものが入り込んできたら、真っ先に知っているはずの奴が目の前にいるわ…


 紫…あなた、全て知っていた上で放置していたわね!!!!それがこの異変の本当の元凶!!!!!!」


「えええ!?そこまで大層なことを考えてないわよ!!!!ちょっと昔の友人が尋ねて来ただけよ!!!」


「問答無用!!!」
とにかく紫を叩いて全て解決よ!


「なんだか凄い理論だぜ…とにかくパチュリーを逃がしたほうが良さそうだぜ…」




side レミリア・スカーレット

面白い展開になってきたわね。

「行くわよ、咲夜。霊夢を援護するわ。」

「わかりましたお嬢様。我らの力で、あのスキマ妖怪を倒しましょう。」
いい答えね、流石咲夜ね…

「クックックッ…ライバルだと思っていたスキマ妖怪が、霊夢と仲違いするなんてチャンスだわ…
 これで霊夢の心は私のモノよ!!」
これは本当にチャンスだわ…
スキマ妖怪の株を落とし、霊夢を私だけのものにしてみせる!!

「フラン!!!あなたは、これから起きる戦いをよく見て勉強しなさい!!!!!」
それに、フランに色々と勉強させるには良い機会ね。



「嫌よ!」

フラン!?何を言い出すのよ!?

「よく分からないけど、霊夢がスキマ妖怪に勝ったら、ハニューが困るんでしょ?
 霊夢は違うけどハニューはお友達だもん。お友達が困ることをするのは嫌!!」

まったくこの子は…
「お姉ちゃんの言うことを聞きなさい!!!」

「嫌よ嫌よ!お姉様こそ、ハニューを困らすことをしないで!!!!!!
 絶対に霊夢を助けちゃ駄目!!!!!」

「フラン!退きなさい!!」

「嫌!」

「お仕置きするわよ!!」

「それでも嫌!!」

バカなことを…

これは仕方ないわね…



「パチェ!!!!」

「お嬢様。パチュリー様は、つい先ほど屋敷に戻られました。」

な!?
まあいいわ。
フランなんて、咲夜と私のコンビで十分よ。


共に戦ってくれる優秀な従者を持てるか持てないか、それが戦力にどれだけ大きな影響を与えるか、フランに教育してあげるわ…
敗北から、何故一人で戦うことになったのか、何が自分に足りなかったのかを勉強しなさい!!



side 小悪魔

「魔理沙に何も言わずに帰っちゃったけど、大丈夫なのかしら…」
魔理沙さん。大切な人を落したい時は、絶対にその人から目を離してはいけないのですよ。
こうやって、ライバルが大切な人を連れ去ってしまうかもしれませんからねw

「多分大丈夫ですよ。魔理沙さんはパチュリー様の相手をするより、大事な用事ができたから居なくなったんですからね!
 そんなことより、お屋敷に戻ったらまずはお風呂にしませんか?今は人が少ないですから大浴場を二人だけの貸切に出来ると思いますよ!!!」

「二人っきりでお風呂…?何を言うのよ…」

「あれ~?お風呂嫌いですか?」

「そ、そういうわけじゃ…」

「じゃ、決まりですね!隅々まで洗ってあげますから…」

魔理沙さんには悪いですけど、別に嘘は言ってませんからね。
お酒が入ったパチュリー様と二人でお風呂。
これは関係をぐっと近づけるビッグイベントの予感です。

ついに来た!私の時代が!!!

『以後はXXX板、外伝 小悪魔とお風呂 に続きます』

























はっ!?

変なフラグを立てかけましたか!?
駄目駄目!!
ここで一気にパチュリー様を襲ってチャームの魔法をかけたら駄目なの!!
それじゃ普通の淫魔と同じじゃない!!

本当に好きだからこそ、パチュリー様はちゃんと、テクニックで落さないと…


side 霧雨 魔理沙

パチュリー?
パチュリーはどこにいったんだぜ???

えーとそこの河童?
「パチュリーはどこに行ったんだぜ??」

「パチュリーさんは、さっき帰りましたよ。」

そんな…パチュリー酷いぜ…


side ミスティア・ローレライ

「おい!ハニュー総帥の救出はどうなってる!!」

「既に、親衛隊とルーミア副指令が向かっています。」

「よし!各隊に繋げ!
 作戦指揮はシトリン指令代行が取る。
 各隊は、訓練どおりに行動することのみを希望する。以上。」

「戦闘空域拡大。博麗霊夢 八雲紫 八雲藍 橙 レミリア・スカーレット 十六夜咲夜 フランドール・スカーレット の7名が戦闘を開始しています。」

「各隊に通達。奇数番の小隊より乱数加速により後退開始。再集結点まで後退せよ!」


『シトリン指令代行。そこまで細かい指示を出さなくても、各小隊長は自らの判断で行動できるはず。肩から力を抜いた方がいい。』

「!!アイリス…。実戦での初指揮で舞い上がっていた…。助かった、ありがとう。」

『貸し一つ。通信終わり。』






「アリス様、戦闘部隊の指揮系統に入っていない、技術畑のあなたに頼むことではないが…
 戦闘の影響で一部の部隊との通信が困難になっています。
 そのため、アリス様の人形を通信機代わりに使わせていただきたい。」

「でも!!チルノが一人で飛び出しちゃったの!!!できたら私も追いかけて…」

「分かりました。妹様直援部隊と高練度の一個小隊をチルノの支援に投入します。
 これで了承してもらえないだろうか?」

「う…うん…」

「このまま司令部は、再集結点に後退する!我々の後退を敵に悟らせるなよ!!
 マリーダ! チルノとの合同訓練を重ねた部隊の中で、高錬度の小隊はどこになる?
 
 !!
 左翼の部隊!弾幕薄いぞ!なにやってんの!!」


チンチン、なんだか大変なことになってきたわ…
突然戦闘が始まるし、ハニューちゃんは今何をしているか分からないし…
どうなっちゃうのかしら…



それにチルノちゃん、突然「助けに行かなくちゃ!」とか言って飛び出しちゃったよ、戦闘に巻き込まれてなければいいんだけど。

「大丈夫だよ、ここ一年近くずっとジオンの一員として戦闘訓練をしてきたから、チルノだって簡単にやられたりしないよ。」

リグルちゃん…


そう、そうだよね!




「プリズムリバー三姉妹、完全に沈黙。」






----------










side ハニュー



なるほど、幼女の癖に大酒豪なわけですね。
だから赤い顔をしていたわけですか。

なにこれ、新ジャンル?



この幼女、名前はスイカというそうです。

突然部屋に入ってきた時は俺達を捕まえて、順番がおかしいだの、もう少し場所を選べとか訳の分からないことを言ってきて「なぜ突然酔っ払いに絡まれるの!?そんなに興奮せずにゆっくりしていってね!!」って感じで困りましたが…
話してみると、居酒屋かどこかで話しているみたいな雰囲気を持った、話しやすい相手でした。

気がつけば意気投合して、一緒にお酒を飲んでいます。
そこまでは良かったのですが、現在困っております。


まず、このスイカちゃんが持っているひょうたん。
美味しい日本酒が、もの凄く沢山入っています。

ところが、どうやら俺の体、相当な下戸のようです。

日本酒をひと舐めしただけで酔っ払うってどういうことなの…

あれ、おかしいな?
普段お酒は飲まないけど、妹様のお披露目のパーティとかで大ちゃんと一緒にお酒を飲んでいたと思ったんだけど…
小悪魔さんとミスティアの屋台で飲んだときみたいに、話をしっかり聞くために、自分のグラスだけお酒に見せかけた水に入れ替えていたわけではないし…
どうなっているんだ?

「ねえ大ちゃん。去年の妹様お披露目パーティで俺はお酒飲んでいたよね?」

「うん飲んでたよ。『シャン○リー』というお酒。」

!?
シャ○メリーはお酒じゃないよ…
ノンアルコール飲料、アルコール度数1%未満だよ…

あれ?俺ってアルコール度数1%未満で酔っ払っていたわけ!?

「あれ私も大好き。でも、年末になるといつも見当たらなくなっちゃうのが不思議だよねー」

嫌な予感がしてきました。

「あのさ、大ちゃん…正月に紅魔館に集まって大騒ぎしたじゃない。
 その時、メイド長がお嬢様や俺達に配ってくれた日本酒があったよね。
 確かあの時、大ちゃんがお酒の名前をメイド長に聞いていたよね?
 名前覚えてる?」


「えーと。『純○元気水 呑んだ気分』という名前だったと思うけど…」
聞いたこと無いけど、元気水、呑んだ気分という名前なので、どう考えてもアルコール度数1%未満です。
本当にありがとうございました。

まさか、紅魔館にはお酒が殆んど無いんじゃ…
トップがお子様だからなあ…

それはともかく、俺は間違いなく下戸ということですね!!!

なんか、景色がぐるぐるーってなってきましたよ。

まあ、さっきから外の方が妙に騒がしいので、静かに飲めるという点ではもの凄くいいんですけどね。


「ところで、さっきからこういう奴だとは思わなかったとか何度も言っていますけど、俺のことを知っていたのですか?」
そうなんです、何故か俺のことを知っていたような口ぶりなんですよね。

「私は昔から、ジオンの活動とその総帥であるお前の行動に注目していたんだ。」
なんと!
まさかスイカちゃんも俺達の同類なのですか!?

「だから、一度話してみたいと思っていたんだ。」
そうなのですか。
俺も、同じ趣味を持つ仲間は大好きです。
「俺もですよ。」
俺もスイカちゃんといっぱい話したいです。

「なんだって!?」

「そうだ!突然ですけど、ジオンの仲間になりませんか?」
そうです。いっそのこと、スイカちゃんも同じジオンの仲間に迎えてしまいましょう。
紅魔館で働いていないスイカちゃんを入れることはできるのか?という疑問もありますが、大ちゃん達も入っているみたいですし何か方法があるのでしょう。




「…ちょっと考えさえてくれ。」
といっても、いきなりそんなこと言われても困りますよね~
スイカちゃん、腕を組んで考え中です。




あ…
スイカちゃんの答えを待っていたら、ちょっとトイレに行きたくなってきた…

「ちょっとトイレに行ってきますね。」
「え!?私も着いていっていい?」
大ちゃんもですか?

「オウ。」


----------


ふぅー
すっきりー

「ハニュー総帥!ご無事でしたか!!!!」
「無事なのかー?」
あれ?
アイリス達とルーミアがどうしてここに!?
というか無事ってどういうことよ?



ドドドドドド…


「落ちろ!!!!!」
ドーーーーン!!!!


えーと…
外を見たら、そこは戦場でした。
どうなっているのよこれ。

「ハニュー総帥…この状況をどう思われますか?」
う…
何だか、何か俺に言ってくれという雰囲気がものすごーくアイリス達から出ています。

どう思うって、喧嘩は駄目よって感じだけど…

ジオン部の部長だから、やっぱりネタに走らないといけないのかな…

うん。ハニュー「総帥」と言われているから、やっぱりこれはネタ振りだな。

えーと。
ネタ…ネタ…

(そんなこと僕は知らないね!殺らなきゃ殺られる、そんだけだろうがぁぁぁぁぁ!!!)

とガンダムSEEDのクロトみたいに言ってみたい気もするが、まったく俺の感想に合っていないから没。

なんというか、こういう感情丸出しの喧嘩は駄目よ。
ちゃんと、こういう喧嘩が起きないように管理しなきゃ駄目よっていう俺の気持ちを表しているような台詞は…


あった!!

原作と同じ様に、高慢かつ天才っぽい感じの演技をしながら…
「…ん!…不愉快だな、この感覚は…生の感情を丸出しで戦うなど、これでは人に品性を求めるなど、絶望的だ。やはり人は、よりよく導かれねばならん。指導する絶対者が必要だ。」
Zガンダムのラスボス的存在、シロッコの台詞をシロッコのモノマネをしながら言ってみました。
原作では、ラスト付近で戦いを見ながら、人類の導き方ついて語っている所です。

こちらでは、そんな大層なレベルではなく、主に博麗の巫女とストーカーさん(あとお嬢様と妹様の姿もチラホラ…)が喧嘩しているレベルなんですけどね。
結構正直な気持ちです、あんなウオオオオという感じで暴れまくってる博麗の巫女はちょっとよくないと思います。
一応美少女の枠に入る顔を持っている博麗の巫女ですが、なんというか色々と残念な状況に…

それに、博麗の巫女は一応はここの責任者なんだから、率先して戦闘の中心に居ちゃ駄目ですよ。

「は、ハニュー総帥…あの…」

あれ?
何だか皆さん驚いたような、興奮したような表情をしてますよ?
ネタ的には当たったけど、そういうことを聞くために来たわけじゃないって感じ?


あ、そうか。
俺は、ジオン部の部長だから、この状況に対して部長としての指示が欲しいというわけですね。
しまった、しまった。
そりゃそうだよな、こんな戦闘状態になったら、部活の責任者である俺の所に慌てて指示を仰ぎに来るに決まっているよな。

なぜ意見を求められたのか?って少しでも考えたら分かるだろ俺…
ちょっと酔っ払いすぎだな、もう今日は一滴もお酒を飲まない方が良さそうだな…
といっても、これまで数滴しか飲んでないけどw

とにかく、あんな危ない場所に部員を置いておくわけにはいかないな。
いつ巻き込まれるか…
あれは…妹様とお嬢様に…ありゃーこりゃ不味いな…もう巻き込まれてるよ…

「モビルスーツ隊を撤退させる。ドゴス・ギア、全速後退。


 ハハハハハ…時の運はまだ動いていないということか…」

「は!?失礼ですが、モビ「了解なのだー」
勢いでまたアクシズと初接触した時の、シロッコの台詞からパクッてしまいました、でもかなり真剣だったりします。
既に一部が巻き込まれているので、とにかくここから早く離れたほうが良さそうです。

「ハニューはどうするのかー?」

「俺は、まだやることがある。」
撤退するとはいえ、萃香ちゃんに何も言わずに帰るのは酷いですからね。


                         「アイリス。リアリティは大切なのだー」

                         「!!!!そういうことでしたか…浅はかでした…」

ルーミアとアイリスが何やら話し込んでますが、とにかく大ちゃんだけを連れて萃香ちゃんの所に急ぎましょう。

side 伊吹 萃香
まったく…

どんなにヤバイ奴かと思ったら、こいつは中々面白くていい奴じゃないか。
冗談好きで、話も合うしな。

二つの顔を持っているから、以前から色々警戒していたんだけどな。
この感じだと、バカな妖精の顔が本当の顔みたいだなー。







「俺もですよ。」

!?
警戒を解いて、私がジオンに注目していた話しをしていたら…
ハニューも私と会いたがっていたとか言って来たぞ。
「なんだって!?」
これってどういうことだ?

「そうだ!突然ですけど、ジオンの仲間になりませんか?」
!!!
私をジオンに引き入れたいだって!?

まさかこいつ、それが目的でここに来たというのか?

女を口説くために宴会に参加したわけじゃないのか?
キャッキャウフフするために神社に侵入したわけじゃないのか?
「…ちょっと考えさえてくれ。」
これは、即答しないほうが良さそうだな…


「ちょっとトイレに行ってきますね。」
「え!?私も着いていっていい?」

「オウ。」
トイレか…
その間によく考えて待つとするか…
































ん?

この感じ…
誰かが神社にまた侵入してきた???
こいつはいったい…

確かめてみるか。















あれは…
ハニューとハニューの親衛隊!?侵入してきたのはあいつらか。
となると、ハニューと合流が目的か!!!!
まさか、トイレに行くというのも嘘で…

「…ん!…不愉快だな、この感覚は…生の感情を丸出しで戦うなど、これでは人に品性を求めるなど、絶望的だ。やはり人は、よりよく導かれねばならん。指導する絶対者が必要だ。」
あいつ…何を言ってやがる…
さっきとまるで別人じゃないか…

さっきまで感じていた「面白くていい奴」な雰囲気が完全に消えて、今のハニューからは高慢さや冷酷さしか感じられない…
どういうことだよこれ!!!!!!!

しかも、霊夢の戦いを見て出た答えがこれだって!?
感情を丸出しで戦うのが不愉快だって!?
人に品性を求めるのが絶望的だって!?

人は絶対者によって導かれねばならないだって!?




ハニューは…



いったいどこから世界を見ているんだ!?

これが絶対者の視点という奴なのか!?





確かめなくてはいけない。
本当の顔がどちらなのかを。




----------



side ハニュー

「どうですか?結論派出ましたか?」

「もう少し考えさせてくれ。」
がーん…
どうしたんでしょうか…なにやら微妙に萃香ちゃんの様子が変です。


おまけに空気が重い感じが…
こういう時は、何か話題を積極的に振らないと…


「突然だけど、スイカって随分と美味しそうな名前ですね。」

「そうそう…
 ってふざけるな!カタカナじゃない漢字だ!!」

漢字?

「西瓜ですね。わかります。」

「そうそう、西に瓜で…
 って違うだろ!!食べ物じゃない!!」

いやー酔っ払っているだけあって、ノリがいいw
まだ、空気重いけど…

でも、本当にどういう字を書くか分からないのですけど。

何か書いてもらえると分かるのですが…

お?

そういえば、アリスさんのお友達の契約書がまだ手元にありました。
「悪乗りしました、でも本当に漢字がわからないので、この紙に名前書いてもらえませんか?」

「…漢字ぐらい分かれよ、まったく…いったいお前はどういう奴なんだよ…よし書けたぞ…」

伊吹 萃香
なるほど、これでイブキ スイカと読むわけですね。
フムフム…


「ハニュー。お前に聞きたいことがある。さっき、他の妖精達と一緒に人の品性がどうのこうのと言っていたな。あれはどういう意味だ?」

ええ!?どこからか、さっきの話を聞いていたのか…
…でも、ネタが通じてない??
「理解できないのか?萃香ちゃんなら分かってくれると…俺の仲間だと思ったんだがな…」



反応なし。


本当は分かっているのですよね?という期待を込めて、ちょっとガッカリした暗い雰囲気で話してみましたが…
反応してくれませんでした。
どうやら本当にネタが通じていないようです。
俺達ジオン部の活動に興味のあるオタクさん相手といっても、ちょっと台詞選びがマイナー過ぎたようですね。
もう少し、有名な台詞を使ってみるか?

えーと。
有名な台詞…台詞…


ブーン…
ブーン…

さっきから五月蝿いなあ。
この虫は、なんで萃香ちゃんの周りをぐるぐる回っているんだよ…
凄く考えるのに邪魔です。

人が頑張って考えているのに…

そうだそうだ、一ついい台詞があったぞ。
「分からないのか、ならば…」


この虫に向かって狙いをつけて…
「落ちろ蚊トンボ…」
シロッコがMSを打ち落とす時の有名な台詞です。
同じく古い台詞だけど、ガンダムが出てくるゲームとかでよく使われているから、知っているかもしれません。




ダンッ!!






「ハアッ…ハアッ…ハアッ…

 …
 
 突然豹変しやがって…何のつもりだ…」

「何のつもりだって?遊んでいるだけさ。さっきの弾幕も同じ、萃香ちゃんを攻撃したわけじゃない…ただ遊んでいるだけだよ?それに、俺は昔からこのとおり、何も変わらないさ…」
何のつもりって、いつも通り遊んでいるだけですし、さっきの弾幕も虫を狙って攻撃した、ガンダムごっこですし…
昔から、こういう冗談が適度に好きな普通の性格をしていますけど何か?
変な誤解したら駄目ですよ。


「ククク…アハハハハハハ!!!!確かに、そうだな!!」
あれ?
何故かウケてる???
もしかして、どういうネタをしたか、わかったりしました?

「だがな、お前はいつもいつも、脇から見ているだけで、人を弄んで!!」
おお?
この台詞はZガンダムのラストで主人公のカミーユがシロッコに言う台詞とそっくりじゃないか。
これは本当にネタが分かってくれたようですね。

おまけに、何やら俺に攻撃しようとしている雰囲気まで出ているのですが??
もの凄く原作準拠ですね。
そこまでリアリティを出してくれるのですか?

というか、お酒が入っている状態でガンダムネタをやったから、気分が高ぶっちゃって、子供のようにガンダムごっこ的なノリなんですね、そうですね!!
どっちにしろ、これは楽しそうですね!


いやいや…一つ不味いことがあるぞ。
そういえば萃香ちゃんは酔っ払っているのだった…
これって、一歩間違えれば危ないのではないか??


酔っ払った幼女の攻撃力なんて大したことが無いだろうけど…
あの手についている鎖とその錘?はシャレにならない。
ヒートアップして振り回されたりしたら…
当たって大怪我をしちゃうかも。


となると、俺もネタで返しつつ、何かでけん制して萃香ちゃんが下手に近付いたり、攻撃してきても防御できるようにしておかないと。
名付けて「ガンダムごっこがヒートアップして喧嘩になっても、ちゃんと準備しておけば大丈夫作戦」です。


となると、何か武器と防具の変わりになるようなものを探さないと。

えーと…
これにしよう、ハニューはお鍋の蓋・お鍋・お玉を装備した!!
全部大ちゃんの荷物です。
頭にお鍋を被り、右手にお玉、左手にお鍋を持ちました。

おお…何となくガンダムっぽい…
あと、GUNDAMと書かれた段ボール箱があれば「俺がガンダムだ!」という感じで完璧なのですけどね!
「ハニューちゃん!????」

さてと…

side 伊吹 萃香

女と遊ぶことしか考えていない色ボケ妖精。
漢字も書けないバカな妖精。

この全てが偽りの姿だったのか!?

ハニューの奴。
私があの発言の意味を理解できないと言った瞬間、明るい雰囲気が吹き飛び、急に重苦しい雰囲気に変わりやがった…


「理解できないのか?萃香ちゃんなら分かってくれると…俺の仲間だと思ったんだがな…」

私がお前の仲間になれるというのか!?
お前の考えに共感できるというのか??


なにを言ってやがる!

鬼と人は古い付き合いで、殺し合いもした!!

でも、鬼は人の良いところ悪いところを含めて、これまでの人のあり方が間違っているとは思っていない!!
だから人を支配し、導こうなどと思っていない!!!!

拳と拳をぶつけた鬼だからこそ、人のことが理解でき…





最後に人と鬼が拳を交えたのはいつだ?





何故鬼は人との接触を絶った?





何故私はあそこから飛び出てきた?


違う…
私達鬼は、今の人を理解していない。
私達の中での人のイメージは、昔のまま…何も変わっていない…
幻想郷の中の人なら理解できるかもしれない。

でも、外の世界の人々を私達は理解しているのか…?



こいつは…
ハニューは…
いったいどこの人を導かなくてはならないと言っていたんだ????


わからない。

ハニューがわからない。


「分からないのか、ならば…」

ならば?

「落ちろ蚊トンボ…」

あぶねえ!!!

「ハアッ…ハアッ…ハアッ…

 …
 
 突然豹変しやがって…何のつもりだ…」
奇襲をかけてくるなんて…全力で回避しちまったじゃないか…
やっぱりこっちが本性か!!
くそ!鬼の私を蚊トンボ扱いだなんて!


「何のつもりだって?遊んでいるだけさ。さっきの弾幕も同じ、萃香ちゃんを攻撃したわけじゃない…ただ遊んでいるだけだよ?それに、俺は昔からこのとおり、何も変わらないさ…」

な!?

「ククク…アハハハハハハ!!!!確かに、そうだな!!」
こんな大規模な活動をしていて、それが遊びだって!?
遊びだから私を攻撃したわけじゃないだって!?
いかにも妖精らしい発言だな!!!!!!
ある意味、ハニューほど妖精らしい妖精はいないだろうな…

妖精としては間違った解答ではないが…
まったく、こんな酷い冗談は初めてだ。


おまけに、自分は何も変わっていないだって??

まったく人を馬鹿にして!!逆に笑えてくる…

!!!!!
そういうことか。

ハニューにとって、今の革命家としての顔も馬鹿なただの妖精の顔も、同じ妖精としてあたりまえの遊びという行動をしているだけ。
どちらも、存在してあたりまえの顔であり、それを私達が嘘と本当の姿と勝手に分けているだけだと言いたいんだな。

まったくとんでもない奴だよお前は。

「だがな、お前はいつもいつも、脇から見ているだけで、人を弄んで!!」
だがな、私はそんな、人を惑わす陰謀家のようなようなやり方認めないぞ!

本当に私を仲間に欲しいのなら、私を納得させる力を見せてみろ!!!






そうだ、これでいいんだ。
悩んでも答えは出ない。

古より、人と争っていたときと同じ、力により白黒はっきりさせればいい!




side 十六夜 咲夜

姉妹喧嘩ゆえに許された、2対1の弾幕ごっこ。
火力にものを言わせた妹様の攻撃を、私のけん制で狂わせ、お嬢様が有効打を打ち込む。

あと一歩で勝負が決まろうとしたとき、妹様の増援が現れた。
私は素早く、その増援に立ち向かった。

「フランを助けるのを邪魔するな!」


「関係の無い妖精は引っ込んでいなさい!!!」



「あたいはフランの友達だぞ!!!関係あるに決まっているじゃないか!!!!」

妹様のお友達!?

ついに妹様にお友達が!?
そんなお友達が敵!?私はどうすれば…
「咲夜!何をしているの!早く援護に来なさい!!」

!!

「お嬢様のお言葉は全てに優先する。ごめんなさい。これからも妹様の友達で居てあげて…
 『幻世 ザ・ワールド』!!!!!」









くらえ!!!


そして時は動き出す…

「うああああああああ!?ま、負けないぞ!!!!」
もうあなたはボロボロよ…
諦めて引きなさい。

「チルノさん!支援します!!」
また増援!?この子達…ジオン!?
しかも、ただのジオンの妖精じゃない、妹様の部屋の入り口を固めていた子達も居るじゃない!

「あたいに考えがある!!お願い時間を稼いで!!!」

「あの構えは!!…了解!」

妹様…
いつの間にか、あなたを慕う子がこんなに増えていたのですね…
フフ…


でも、今日は全員倒させてもらうわ。
『幻世 ザ・ワー…これは!?

あの子達、考えたわね。
弾幕が相互干渉して、私を囲う弾幕の檻が形成されてる。
こうなると、直撃コースの弾幕が来た場合、時間を止めて攻撃を避けようとしても、簡単には攻撃を避けることが出来ない。

でも、まだ甘い。

それなら、直撃コースの弾幕が来る前に、弾幕を撃っているあなた達を落としてしまえばいいだけのこと!!
『幻世 ザ・ワールド』!!!!!






















「!?」
ピチューン



「!!」
ピチューン


こうやってね…


ドン!!!


う!?

背後から一発喰らった!?
しまった!今の二人は背後から攻撃を悟らせないための囮か!!


この子達…かなり厄介な相手ね…
特に前方を固めている、妹様の部屋の入り口を固めていた子達とは別の子達。
練度が異常に高い…

二人落とされたのに動揺一つしないわ。
おまけに、たまに手信号を使うぐらいで、殆んど喋りもしない。

これは…ますます短期決戦に持ち込んだほうがいいわね。


「よし…できた!!」
あの氷精、何かやる気ね。でももう遅いわ。
一回や二回のスペカ程度で私は落ちないわよ!!

次の時間停止で、いっきに全員にナイフを一本ずつ投擲して…終わりにしてあげる!!


「フリーズタッチミーるなてぃっく!!!!」


なにこのスペルカード!?

これは…

ゴフッ!!!

な!?

なに!?
この異常な気温低下は!?
空気が凍ってる?????

あの氷精を中心に、どんどん気温が下がっていく!?

まずい…
呼吸すらまともに…

下手に呼吸をしたら肺が凍る!!



う…



く…





!!






「やった!あたいったら最強ね!」



「メイド長。最早勝負は明白です、引いてください。我々妖精や妖怪ならとにかく、人間のあなたがこの寒さの中に居続ければ命に関わります。」


くっ…
お嬢様申し訳ありません…



side レミリア・スカーレット

「咲夜!?咲夜が妖精風情にやられた!?いったい何なのあいつ!」

「やい!だからあたいは、フランの友達だって言ってるだろ!!
 友達を助けるのは当たり前だって、ハニューも言ってるぞ!!」

この妖精…本当にフランの友達なの!?
「いつあなたがフランの友達になったというの!?あなたみたいな友達が居るなんて、私は知らないわよ!」


「さっき友達になったんだ!ハニューが教えてくれたんだ、名前を呼び合ったら、それだけで友達だって!!!」
なんですって!?

「お姉様!チルノは私のお友達よ!!」
フラン!?

そう、この妖精はフランの友達なのね…
フランのために一緒に戦ってくれる友達ができたなんて、フランも少しはまともになったということかしら?
でもフラン?あなたが過去に壊してしまった者たちの中にも、あなたが友達と呼んでいた存在が居たことを、私は覚えているわよ…


「さあ、続きをやるわよ!!『紅符 スカーレットマイスタ』」

「ええ!」


side フランドール・スカーレット

やっぱりお姉様は強い…
力だけなら私が上だけど、戦い方が上手い。

何か一瞬でも隙があれば…

よし!
「くらえ!『禁忌 レーヴァテイン』」


隙が出来ないのなら、隙を作るまで!!!!





「やい!だからフランを虐めるな!!!!」



チルノちゃん!?
チルノちゃんがお姉様にしがみ付いてる!?

「まずい!?この妖精!手を離しなさい!!!」

うそ!?
このままだと、チルノちゃんごと当たっちゃう!?

でもチャンス!
きゅっとしてドカーンだよ!!!


駄目!!

それじゃ、昔のままじゃない!
私の攻撃を受けても、ハニューが私と遊んでくれると言ってくれたあの日から…
もう二度と過ちを繰り返さないように、めーりんに力の加減の仕方を教わってきたじゃない!


でも、ここで発動を止めたら、私は隙だらけに…




それでも…

それでも、友達を攻撃することはできない!
もう私は昔の私じゃないの!!!
お姉様の攻撃に当たっても、友達のチルノちゃんは攻撃できない!












「うそ!?フランが攻撃を止めた!?





 …フラン、どうして攻撃を止めたの!!!!!」






「だってお姉様!友達まで一緒に攻撃できないわ!!!」


「フランあなた…!!」

side レミリア・スカーレット


フランは霊夢から花見出席の招待を受けた。友達もできた、そして友達を守るために自らの危険を顧みず力のコントロールもできた。
こんなに成長したのに…

どうして私は、素直にそのことが喜べないのよ…


「さっき、霊夢が何も答えてくれなかったはずだわ…私、何か変よ。どうして、素直にフランの事を認めてあげられないの…」



「恐れながら、申し上げます。お嬢様、それはお嬢様が、妹様に霊夢を取られるのではないか?と思っているからではないでしょうか。」

え?
何を言っているの咲夜?
「出すぎた真似だとは分かっています。でも、ここ最近お嬢様が妹様に辛く当たるときは、いつも霊夢が関わっています!」

そんな。
でも…それなら私はどうすれば…

「お嬢様、大丈夫です。妹様は霊夢に興味はありませんよ。妹様の興味は、ハニューに向いていますから。」

な!?
それは駄目よ!
「万が一、フランとハニューが付き合ったりしたら、大変じゃない!!」

「あの大ちゃんとか言う妖精がいるので、あの二人の関係を誰かが邪魔しない限り大丈夫かと思います。」
まあ、確かにどう見てもあれって恋人よね…

「そ、そうね!フランを褒めてくるわ!!」

「お嬢様。少しやり過ぎたと思わないのですか?」
う…
確かに…
今から思うと、結構酷いことをしてるかも…

「分かったわよ、ついでに謝ってくるわよ!」


「フフフ…お嬢様。憑き物が落ちたような、いいお顔になりましたよ。」

…フン!
従者の癖に生意気よ!


でも…
ありがとう咲夜。


side 十六夜 咲夜

お嬢様は気がついていないようでしたが、危ない所だったわ。

妹様に接近したジオン。

お嬢様の味方は私のみ。
対妹様戦で頼みのパチュリー様は、ハニューと接触しているとの噂もある小悪魔さんに連れられて戦線離脱。

そんな状態で、発生した戦闘。
私達の相手は、これまでとは比べ物にならないほど強くなった妖精達だった。

あのチルノという妖精が、お嬢様に抱きつくというアクシデントが無ければ、妹様のパワーと、ジオンの巧みな戦術の前にお嬢様がやられていた。
そうなれば、お嬢様の評判は地に落ち、紅魔館で妹様を当主に担ぎ出したクーデターが起きていたに違いない。
もちろん、担ぎ出された妹様は傀儡、紅魔館の実質的な当主はハニューの手に落ちるという最悪の結果で…


あまりにも出来すぎた話。
間違いなく、今回の件もハニューの陰謀ね。

今回は雨降って地固まるという結果だったけど…
自分の計画が狂ったことに対してハニューは次の手を打ってくるはず…

でも今この時だけは、妹様とお嬢様の確執が一つ無くなったことを喜ぶべきなのかしら。


----------


side ハニュー

うおお!?

いきなり、パンチが来た!?
でも、なぜか命中直前で、左にそれました。
かなり重い感じがしたパンチだったので、あのまま防御した左手ごと吹っ飛ばせそうだったのになあ。


また来た!!








またそれました。



!なるほど、ちゃんと当てないように気をつけてくれているわけですね。
そうだった!これはガンダムごっこですもんね。
じゃあ俺も調子にシロッコの台詞で戦っちゃうよ?
おりゃ!!

「勝てると思うな?小僧おおおおお!!」






簡単に避けられました。


「逃げられはせん!」
とりあえず、台詞を吐いて強がってみました。
当たらなくてよかったのですが、ちょっとショック。


「この私を見くびるな!食らえ厭霧!!」
あれ?
萃香ちゃんの姿が霧のようになって消えた???
メイド長と同じ瞬間移動能力か!?

となると、どこから攻撃してくるか分からないぞ。



「とりゃ!!」
うぼぉあ!?

今のは、かなりビックリした。

飛んでいる虫をなんとなく目で追っていたら、急接近する萃香ちゃんを見つけました。
俺の目の前で。
思わず、大ちゃん達との弾幕ごっこの成果を使って、全力で回避してしまいましたよ。


「流石だなハニュー。しかしいつまで避けられる?」
あ、また萃香ちゃんが消えた…

こういうときは、ニュータイプ能力を最大限につかって…

※もちろん、そんな能力はありません。

でも俺は空気の読める女(?)、形だけもで合わせないと。

「う!?いい気になるな!!萃香ちゃん!!!


 



 見えた!!!!」
見えてないけど、シロッコがファンネルを叩き落したシーンを真似しながら、適当に弾幕を打ちまくりです。


「どこを狙っている!ハニュー!!」


ぐへ!!!

「ハニューちゃん!!!!!」



は、腹に入った…
痛い、痛すぎる!!!

遊びなのに、酷いよ…
「遊びはここまでにしよう。」
ここら辺で遊びを止めないとやばそうです。
おまけに、腹に入ったせいで、アルコールと胃への衝撃が合わさって、今にも吐きそうです。



「そうか…
 では、全力でいくぞ!!ミッシングパープルパワー!!!!!」

side 伊吹 萃香

なんだ?

お玉とお鍋の蓋を手に持って、鍋を頭から被っただと!?
馬鹿にしやがって、そんなふざけた格好で私に勝てると思うな?

まずは一発ぶち込んでやる。



ドウシテ?ドウシテ、ハニューチャンハ、カエッテコナイノ?


!?


い、今のは何だ!?


仕切り直しだ!!
もう一発!



ハヤクカエッテキテ、マッテイルンダヨ?シチューガカタマッチャタヨ



!!


ほんの僅かだが…ハニューの装備しているお玉や鍋から、何かの思念波が放出されている…
これは、誰かがあのお玉や鍋に込めた想いか???

いや、これはただの想いではない。ただの想いにしてはこの思念波は負に向かいすぎている…
となるとこの思念波は…呪詛の一種か!

つまりハニューが身に着けているのは…
呪いの装備!?

なるほど。
鬼は力任せの方法では簡単に退治することができない。
だが、絡め手に対しては、他の妖怪と同じく弱点が存在する。
このタイミングでハニューが持ち出してきた、ということはこの装備は私に対抗するための切り札ということか。

ではどう戦うべきだ?

まず、呪いの発動条件を考えるべきだ。
接触直前に呪詛が聞こえてきた。

ということは、接触したことをキーとして発動するタイプだと考えるべきだ。


危なかった…
あのまま、ハニューのお鍋の蓋による防御ごと打ち抜いていたら、呪いが発動していたということか。

「勝てると思うな?小僧おおおおお!!」

うあ!?
お玉による攻撃か!?
だが甘い!!
その程度の攻撃なんて当たらないぞ!!

「逃げられはせん!」
くそ!?
追撃か!?




追撃してこないだと!?



ハニューの攻撃…
まるで、遊びだ…
お玉による攻撃も、まったく力が入っていない。
そして、追撃するような言葉を発しながら追撃してこない。

こいつ…


「この私を見くびるな!食らえ厭霧!!」
私を見くびったことを後悔させてやる!!
呪いの装備をつけているのなら、呪いの装備に接触しないようにして攻撃を食らわせればいいだけのこと。

体を霧にして、ハニューの死角へ移動…
そこで実体化して…


よし!
ハニューの後ろを取ったぞ、私の勝ちだ!!
「とりゃ!!」

くそ!?
ギリギリでかわされた!!

呪いの装備さえなければ、あの程度の回避など、無理な体勢をしてでも追撃したのに…
くそ、ハニューの奴に私の動きが完全に読まれてやがるってことか。

「流石だなハニュー。しかしいつまで避けられる?」
しかし、攻撃はまだまだ続くぞ!!



「う!?いい気になるな!!萃香ちゃん!!!


 



 見えた!!!!」



この戦闘中に目を閉じやがった!?
まさか!!
こちらの出現点を読んだのか!?


まずい!!!!




…!?
どこを狙っている!?

まったく見当違いの方向に弾幕が飛んで行ってるぞ。
どの弾も、部屋をただ破壊するばっかりだ。
しかし、これはチャンスだ!
「どこを狙っている!ハニュー!!」


よし!
かなり浅いが一発入った!!


「ハニューちゃん!!!!!」


さあどうするハニュー。
まだこれでも、本気を出さない気か?

「遊びはここまでにしよう。」
そうか!
やっと本気を出すか!!!
「そうか…
 では、全力でいくぞ!!ミッシングパープルパワー!!!!!」
よーし、じゃあ私も切り札を出すぞー!!!

フフフ…
楽しくなってきやがった!!!


side 大ちゃん

凄い…

これがハニューちゃんの力…

私も少しは戦闘の心得があるから分かる…
あの鬼はもの凄く強い…

でもハニューちゃんにはまだ余裕がある。

ハニューちゃんは鬼の攻撃を、どれもギリギリのところでかわしている。
押されているのかと思ったけど…
戦闘中に平然とおしゃべりするなんて、まだまだ余裕があるみたい…

本当に凄い。

私だったら、とても喋っている余裕なんて無いのに…
あえてギリギリでかわす余裕なんて無いのに…


初めて出会った時のハニューちゃんは、人化もできない雑魚妖怪にも食べられちゃいそうなほど弱かった。
でも、今は違う。

もしかして…
記憶が戻っている!?

そうだ…
記憶が戻っているんだ…

だからあんな、さっきのように難しいことも言えるように…

私、まだハニューちゃんについて知らないことが多すぎる…
さっきハニューちゃんと念話で話していた『たいさ』って人の事も知らない…

「どこを狙っている!ハニュー!!」


バタン!


「ハニューちゃん!!!!!」
鬼の攻撃がハニューちゃんに当たっちゃった!!

大丈夫なの、ハニューちゃん!!!

「遊びはここまでにしよう。」

遊びはここまで!?

----------



side ハニュー




ミッシングパープルパワー??
おおお!?
どんどん幼女がでかくなっていくぞ?
幼女が大酒豪で巨人だと!?また新ジャンルですか???

これは、随分とマニア向けの設定ですね。
ハアハア…

そんなこと考えている場合じゃなかった。

て、撤退だ。
もうそろそろ限界です。

とにかく、どこかで吐くしかない。
しかし、どこで吐くんだ。
外に出たら戦闘に巻き込まれるし…
床に吐いたら、博麗の巫女に殺される理由になるかもしれない。

なにかいいものは…



最悪の場合、この大ちゃんのお鍋に…
「ごめんね大ちゃん…先に謝っておくよ。本当にごめんね…戻ってきたら俺を怒っていいから…」



この部屋から出て、どこか人気の無い所で大ちゃんのお鍋に吐こう。
全速力です。

「や、やめて!?い、いやあああああああああああ!!!」

大ちゃんの悲鳴が…
ごめんよ、大ちゃん。
すっきり吐いた後は、いっぱい俺の事を怒っていいから。

「さあこい!!!
 

 ってこら!?どっちに行くんだ!?」

なにやら、ビッグな幼女が後ろから手を広げて追いかけてきますが、とりあえず無視ですよ。


「ま、まて!!」


 ガコン!!!!!

「しまった?角が!??????でもこれぐらいで…」


ガダン!!!!!!
ガラガラガラガラ!!!!!!!!

「な!?こんな簡単に崩れるなんて!!!!!!?」

な、なにこれ!?
部屋が崩れる!?


うぁああああああああ!?
















羽が生えていてよかった…
なんとか、神社の外に逃げられました。
どうして突然崩れたんだ!?

そうだ!!
大ちゃんは???

まさか、あの下敷きに!?



ガラガラ…




何かが瓦礫の中で動いてる!?

大ちゃん!今助けに行くよ!!
「僕も手伝います!!!」
「上海!瓦礫の中に入って生存者を探して!!!」

リグル!アリスさん!お願いします!!

















瓦礫の中に埋まっていたのは萃香ちゃんでした。

だからといって、見捨てるてるわけには…


瓦礫が重い…

人手が足りないよ。

「ハニューちゃん無事だったんだ!よかった!!
 死んじゃうつもりなのかと思ったよ…馬鹿!!」

なんとか無事だったよ大ちゃ 大ちゃん!?
「よかった!大ちゃん無事だったんだ!!」

「私は瞬間移動ができるから…」
何気に、凄い言葉が混じっていたような気がするのですが、とにかく無事でよかったです。


「萃香ちゃん大丈夫?」
すぐに助け出してあげるからね!

side アイリス

「ごめんね大ちゃん…先に謝っておくよ。本当にごめんね…戻ってきたら俺を怒っていいから…」

「や、やめて!?い、いやあああああああああああ!!!」

愛する人が決死の覚悟を決めて行動する。
悲鳴を上げるのは気持ちはよく分かります。

でも…
うらやましい…

ああやって、心の思うまま、ハニュー総帥の事だけを思える立場のあなたがうらやましい。

ハニュー総帥はやるべきことがあると言った。
そして、ハニュー総帥は、我々親衛隊が直ぐに介入できるように配置されていることも気がついているはずだ…

でも我々に指示が来ないということは、あの鬼に独力で勝てる算段が立っていると言うこと。
そして、大ちゃん様とのやり取りも、計算の内だということ。

だから我々は、動くことが出来ない。
泣き叫ぶことが出来ない。

なぜ私は、この立場なのだ…




ハニュー総帥の隣に立つ者は、共に戦える者ではいけないのか!?


side 伊吹 萃香

あの連れている恋人の様子…
ハニューの奴、相当危険な攻撃をしてくる気か!

さあ。
これが私の100%中の100%ぉ!!!
その攻撃、真正面から受け止めてやる!!!!

「さあこい!!!
 

 ってこら!?どっちに行くんだ!?」
おい!!何だよそれは!私を避けて、他の部屋に向かって行くなんて聞いてないぞ!

ま、まて!!

ガコン!!!!!

「しまった?角が!??????でもこれぐらいで…」
しまった、室内で巨大化したから角が引っかかった!?
だが、これぐらい外せば…

ガダン!!!!!!
ガラガラガラガラ!!!!!!!!

「な!?こんな簡単に崩れるなんて!!!!!!?」
何でこんなに簡単に天井が崩れるんだ!?

そうか!!
ハニューの奴が部屋中に弾幕を打ちまくったのはこれを狙って!?

うああああ!?












くぅ…

天井が崩れたショックでミッシングパープルパワーが切れちまった…

でも、これぐらいの瓦礫、私の力なら簡単に…



ガラガラ…

うん?
誰かが私の上の瓦礫を…






!!
ハニュー!!!!


チェックメイトという奴か…
瓦礫を抜け出そうとすれば、その隙にあの呪いのお玉の一撃を喰らうなこれは…

おまけに、周りはハニューの部下達で溢れかえってる。



私は詰め将棋のように、最初から完全に追い込まれていたのか…


ハニューの遊んでいるような行動は、不真面目なのではなく、戦闘経験値の違いから来たものだったのか…


私の負けだ!煮るなり焼くなり好きにしてくれー


「萃香ちゃん大丈夫?」

!?


side 博麗 霊夢

「こう神社が近くては、大技が使えないでしょ?」

なかなかやるわね紫…

「まだまだ修行不足ね。いつもゴロゴロしているのがいけないのよ…」

「私は博麗の巫女!!どんな状態でも戦い続ける義務があるのよ!!
 だからゴロゴロして、いざという時の為に体力を温存するのも仕事の内!!!!!」
あんたみたいに、年中ゴロゴロしている奴に言われたくないわ!!

ガダン!!!!!!
ガラガラガラガラ!!!!!!!!


え?


「わ…





 私の神社がああああああああああああああああああああああ!?????????????????」



side 八雲 紫


霊夢!?霊夢!?

大変!!霊夢が気を失ったわ!?


「紫様!!!どうしますか????」
とにかく藍、そこをどきなさい。

「私が人工呼吸をするわ。」
まずは人工呼吸よ。
これはあくまで、霊夢のためよ。

「ちょっと待ちなさいスキマ妖怪!!!それは私の役割よ!!!!」
この吸血鬼!邪魔をしないで!!
「藍!!橙!!お客様がお帰りよ。」

「分かりました紫様。さあ、紅魔館の皆様はお帰りください。」

「この狐!」

さあ、霊夢のファーストキス、合法的にいただきよ!





「あのさ、心臓は止まっていないし、呼吸もしている相手に人工呼吸しても意味が無いと思うんだけど。」


----------


side ハニュー


なんとか、萃香ちゃんを無事に助け出しました。
因みに、何故か博麗の巫女が倒れていました。


「ハニュー、いったい何のつもりだ??チャンスだっただろ??」

「チャンス?チャンスって何の???」
チャンスって何だ??
瓦礫に挟まった萃香ちゃんを見てチャンス??
あの状態で、ガンダムごっこ継続とか!?

それは色々と不味いだろ。

「友達にそんなこと酷いことはしないよ。」


「うっ!?仲間どころか、もう私は友達なのかよ…」

「そういうことよ。これがハニューのいいところなのよね。
 どうせ、とどめを刺されなくても勝負がついていたんでしょ?」

「わかったよ!私の負けだよ!素直に仲間になればいいんだろ!!!」

なんだか、妹様が萃香ちゃんに話しかけてます。

それはとにかく、あたり一面滅茶苦茶だな。
神社は半壊するし、境内は穴だらけ。


肝心の博麗の巫女は気絶中。



酷いなこれは…
ま、まあ俺達は、直接には何もしてないから帰ってもいいよね?



それじゃあ、さっさと帰ろう!!!
そして帰って、自室でさっさと吐こう。
神社半壊の衝撃で気が紛れて吐き気が治まったけど、また吐きたくなるといけないからね!!


「ハニュー、ちょっと待ちなさい。」
ストーカーさん!?

「なんでしょうか。」

「あなた、この有様を見て、何も思わないの!?」
そう言われても、俺がやったわけじゃないし…
外の悲惨な有様は、博麗の巫女が自分でやったことだし、神社も何故か突然崩れたんだよな。
「なんというかご愁傷様ですよね。特に神社が突然崩れるなんて、相当老朽化していたのでしょうか…」

「老朽化!?老朽化ですって!?何を言ってるの!?」

「なんですか?それとも、ここにいる誰かのせいで、この神社が崩れたといいたいのですか?」
え?老朽化以外にどういった原因があるというんだ?

「何言ってるのよハニュー!原因はどう考えてもそこの鬼でしょ!!」
いきなり、お嬢様が乱入してきました。
原因は、萃香ちゃんとのこと。
え?そうなの!?

ということは…
あの巨体のせいで、神社をぶち壊したということか!?

まずい…
それが原因なら、俺にも責任があるじゃないかー!!!!!
「お嬢様。萃香ちゃんが原因だと本当に思っているのですか?萃香ちゃん以外にも原因となる者が居たとは考えていないのですか?お嬢様は、その現場を見たのですか??見てないですよね??」
お嬢様は現場見ていないですよね!?俺が萃香ちゃんと一緒に遊んでいて、それが遠因になったとは気がついてないですよね!?
萃香ちゃんだけが犯人だと思っているのですよね!?

「ハニュー!?いったいどういうことよ!?」
どういうことよと、言われても…

「フフフ…アハハハハハハ!!!!!!」
ストーカーさんが突然笑い出しました。

「なるほど、そういうことね。この神社半壊は萃香一人の犯行ではなく複数犯による犯行…。そして、決定的な証拠を見た者は極僅かということね…」
げ!?
なんで、このストーカーさんは、萃香ちゃんの単独犯行じゃなくて、俺も遠因になっていると分かったんだ!?
どうしてこうなった!?

「このままじゃ、関係者全員霊夢に嫌われるわね。でも、霊夢は今は夢の中。真実から最も遠い所にいるわ。」
え?え?
どういうこと!?

「ちょっと待ちなさい!ハニューやあんたは兎に角、私は今回の件には一切関わっていないわよ。」
お嬢様が何故か怒ってます。

「これだから幼い吸血鬼は…
 よく聞きなさい。ここにいる私達全員、異変が起きていることをとっくの昔に知っていたわよね?
 でも霊夢にそのことを一切伝えなかった。
 だから状況は悪化して、神社半壊なんて最悪の事態になってしまったわ。」

「それは論理の飛躍よ!」

「そうでしょうね。でもそれを決めるのは霊夢よ。今日霊夢はね、萃香を幻想郷に招き入れた私が元凶とか言って、私に攻撃してきたの。
 あの子の理論から言ったら、ここの全員が犯人ってことになるわね。
 もちろん、犯人扱いされない可能性だってある。でも、そんなリスクは負う必要は無いわ。
 幸いにして、霊夢はこの有様。決定的な証拠である萃香の犯行現場を見ていた者は極僅か。
 口裏を合わせれば、真実を変えることなんて簡単よ。

 神社は老朽化によって半壊した。これが真実でいいのよ。」

「そういうことね…



 …わかったわ。その話に乗るわ。」


…?

まったく意味がわからない…
でも、皆が少しずつ神社半壊の責任があるので、口裏を合わせて神社が老朽化で半壊したという結論になったことだけは分かった。
流石ストーカーさん、こんな方法を考え出すなんて日頃の経験の賜物ですか。

となると、後は博麗の巫女の住処をどうするかだよな。
さっきの調査から見て、ここは名目上の住処のようだから、ここを失っても住処がなくなって困るという事態はなさそうだけど。
俺がそれを知ってること自体がおかしい話だからな。
とりあえず、心配しているふりだけでもしておかないと。

「あの、神社が使えるようになるまで、博麗の巫女を誰かが泊めてあげないといけないのではないですか?」


「「!!!!!」」


「紅魔館には部屋が余っているから、私が霊夢を預かるわ。あなたの家じゃ、狭すぎて霊夢が可哀想だわ。」

「何を言ってるのよ!!霊夢はお布団じゃないと眠れないの!!洋館じゃ、まともに眠ることもできなくて可哀想だわ!!ここはこの『ゆかりん』が預かるわ。」

「この妖怪は空気を読むということができないのかしら?ここは若い者に任せて、年寄りは家でお茶でもすすってなさい!!!」

「恋愛のれの字も知らないお子様が出る幕じゃないでしょ?お子様はこれだから困ったものね!!!」


これは酷い…


「行くわよフラン!」
「はい!お姉様!」

「一人ひとりなら単なる火だが、二人合わせれば炎となる、炎となったスカーレット姉妹は無敵よ!!!!!」



「なんですってー!?こうなったら…
 藍!橙!トライアングルアタックよ!!!」

「はい!」
「紫様!?それって何ですか!?思いつきで言わないでください!!」






…帰ろう。




side 西行寺 幽々子

なかなか面白い情報が取れたわね~

どうやらハニューには、皆が本命と思っている大ちゃんより先に、もっと深い関係を持った子達がいるのようね~
そして、その関係を誰にも伝えていないみたい。
さらに今日、ハニューはあの大ちゃんを上手く使って神社に潜入した。

ここから導き出される答えは一つ。
あの大ちゃんという子は、ハニューに都合よく利用されているだけっていうことね~

でも、深い関係を持っているルーミアや小悪魔とは、話を総合すると恋人とはちょっと違うみたいなのよね。



つまり、ハニューと本当の意味で心も体も通わした恋人は居ないということ。



これはいい情報だわ~


「ねえ妖夢?あなた恋人って居ないわよね?」

「いきなり何を言い出すんですか!!
 そんな人…居るわけないじゃないですか!!」

ふふふそうよね~

「いったい何だって言うんですか??」

「古来からよくある同盟の仕方について考えていただけよ~」

「は、はあ????」

あのレミリア・スカーレットと鬼を追い込んだジオンの戦闘力。
戦って倒せないなら、取り込んでコントロールしてしまうのも手段の一つとして考えておかないといけないわね~

でも、これって紫に対しての背信行為かしら…






「幽々子様!あそこ!!ハニューがいます!」



----------


side ハニュー




駄目だ。
紅魔館まで持ちそうにない。

そこらへんの森の中で吐こう。


「ハニュー総帥!?先ほどから、どうしたのですか!?」
アイリス…
いやねちょっと吐きそうなんだけど…
でも、そんなこと恥ずかしくてここでは言えないよ!!

「アイリス、ちょっと森の中に行きたいので、皆には俺は後から追いかけると言っておいてもらえない?」

「どうされたのですか、その顔色!?真っ青ですよ!直ぐに皆さんに伝えないと!!」
ちょ!?やめて!!
「これぐらい大丈夫だから、直ぐに治るからさ。お願いだから皆には伝えないで!!特に大ちゃんだけはお願い!!!」
特に、大ちゃんに…「うわ吐いている…気持ち悪い…」とか言われたら死ねる。

「また…大ちゃん様ですか……

 わかりました。しかし、ルーミア副指令、アリス様、にとり様だけにはこのことを伝えておきますからね。
 この三人は、伝えなくても自分で気がついてしまうでしょうから、伝えないほうが混乱の元になります。
 
 では、行きましょう。」




----------



うげええ…
吐くの辛い…
もう二度とお酒なんて飲まないよ!!

「ハニュー総帥大丈夫ですか?」
なんとか…

「まったく、今の体は弱いな…
 昔ならこの数十倍…いや、数百倍でも十分大丈夫だったんだが…
 こんなに簡単に限界に達するとは…」
まったく、どちらかというと普通の人より飲めるほうだったんだけどな。
ひと舐めで限界なんてねえ…

「!?ハニュー総帥…それはいったい!?」

あ…やば…
こういう昔の記憶があるような発言は不味かった。
「アイリス…今のは忘れてくれ。」

「はい…分かりました…」











「大丈夫!?」
「大丈夫なのかー?」
あれ?アリスさんにルーミア??
もう俺のことが伝わったのか…

「また、無茶をして!!!」
いや、またって…

「それは違う。無茶なんてしていないから。ちょっと失敗しただけだよ。」
またって言ってますけど、こういうお酒の失敗は今回が初めてですよ。
それに無茶なんてしてないです、このぐらいのお酒で限界だと思わなかっただけで。



パアアアアアアアン!!!

!?


ええ?
アリスさんにビンタされた!????

「バカなことを言わないで!どうしてもっと自分の事を大事にしないの!!!
 にとりから聞いたわよ!
 心も体もボロボロにしながら、どうして…どうして…う、ううう…」

えええええええ!?
そんなちょっと吐いたぐらいで大げさな…

これは明らかにおかしい…
なんというか、まるで重症の人を相手にしているような発言です。
心や体がボロボロとか言ってるし…

もしや、アリスさん達に情報が間違って伝わっているのではないだろうか…
例えば、俺が急性アルコール中毒になったとか。
そして、「そんな状況になった」=「何か精神的な理由でお酒に逃げた」ということに勘違いされているのでは…
『にとりから聞いた』と言っているから、伝言ゲームみたいに、どんどん情報が歪んで伝わっているのかもしれない…

とにかく、しっかりと謝ってだね、もう大丈夫だとアピールしないと。

「アリスさんごめんね心配させて。でももう大丈夫だから。」


「…うん…」


「ハニューどうしたんだ?」
ちょ!?チルノ!?どうして居るの!?

「すいません。勝手についてきちゃったみたいです。でも、他の皆は間違いなく先に帰りましたので、そこだけは安心してください。」
あ、にとりさんも来ていたのですか。

「大丈夫だよチルノ、ちょっとお酒で酔っ払っただけだからな?
 な、皆!ちょっと酔っ払っただけで、今はこの通りもう元気だよな?」

「なんだ!そうか!!」



「う……」
う?

にとりさん…?
なに目を押さえて俯いているんですか?
あれ!?アイリスも!?

しまった!!
俺の顔とかに、まだゲロの残滓が…
そりゃ、見るに耐えないですよね!
ごめんなさい!!




side 西行寺 幽々子

さっきの話が本当なら、恐ろしいことね~
私も紫も、ハニューの力の天井がまったく見えないことが、安易に手出し出来ない理由の一つになっていたのに…

現状の力で、少なくとも昔の数百分の一しか無いとは困ったわね~

何かの拍子で昔の力を取り戻されたら、どんなことになるのかしら…


でも、そんなに力がある妖精なんて聞いたことが無いわ~
紫との話し合いによると、私より長生きの紫も心当たりが無いみたいだったし…


となると、ハニューの言う昔というのは…

神話あたりを調べなおしたほうがいいのかしら…



「幽々子様。ハニューは弱っているみたいですが…」

「今日はもう帰りましょう。」

「よろしいのですか!?」
どうせ下手に手を出しても返り討ち…
万が一うまく痛めつけても、何か特別な方法を使わない限り妖精は簡単に復活してしまうのよね~

それに…
「嫁入り前の妖夢に、傷をつけるわけにはいかないのよ、フフフ~」

「は、はあ…」

さあ、帰って紫と連絡を取らないと。
あと、あの子鬼とも一度話しをしておいたほうがよさそうね…



side アリス・マーガトロイド

鬼に対するハニューの華麗な勝利を聞いたときは、自分の事のように喜んだ。

でも…
親衛隊の子から、ハニューが正体不明の体調悪化に襲われていると聞いたときは自分の読みの甘さに腹が立った。

いくら他の妖精より強い力を持っているハニューとはいえ、本来のスペックが低い妖精が強力な鬼と戦うためには、何らかの代償が必要になるのはちょっと考えればわかることだった。
この体調悪化は多分その代償によるもの。
そして、愛する大ちゃんにあえて伝えないということは、この体調悪化は相当根が深いもののはず…


私は、こういった無理をさせないために、ジオンの組織を強化しようと頑張ってきた。
それはにとりも同じ。
ハニューを少しでも無理をさせないために頑張っていたのに…

それなのにこの子は…
「それは違う。無茶なんてしていないから。ちょっと失敗しただけだよ。」
ちょっと失敗しただけなんて…
そのちょっとした失敗で、大変なことになったらどうする気なの!!!
そんなに無理をしないで、お願いだから!
夢の中では殺される夢ばかり見て、夢から覚めたら身を削って戦い続けて…
ハニューには安息の時はあるの?

私は、心が滅茶苦茶になって泣き出してしまった。

ハニューは「アリスさんごめんね心配させて。でももう大丈夫だから。」
と私を必死で宥めていたけど…
私が聞きたかった、『もう二度と無茶をしない』という言葉はついに出てくることはなかった。


side 河城 にとり

チルノちゃんに、自らの体調悪化を隠すために、お酒による吐き気だと弁明するハニュー氏。

演習を目的に来た我々が、建前である花見を楽しんで、本物のお酒に口をつけるなんてあるはずが無いのに…
まったく…不器用というか…嘘が下手な人ですね。

そんな姿を見せないでください、目から汗が出てしまうじゃないですか…



やはり、私の第一印象は間違っていないのだろう。
ハニュー氏は、色々な面で無理をしているのだ。
兵器開発、組織拡大、双方共にもっともっと急ぐ必要があるようです。

あの表情、アリスさんも同じ様な結論に至ったようですし、アイリスさんも何やら考えがあるようです。

「ねえ、にとり。一度ハニューを病院に連れて行くべきだと思うのだけど…」

病院ですか?
ああ、あの薬を売っている連中ですね。

本来、妖精は弱ったり死んだりしないものなのですが、何事にも例外というものはありますからね…
確かに、アリスさんの言うとおりなのかもしれませんね。



side 朱鷺子

ジオンの人達に助けてもらえなかったら、死んじゃう所だったよ~
さっさとこの森を抜けて、家に帰ろう…





しくしくしくしく…




だ、誰かが泣いている!?
こんな森の中で泣いているなんて…
ぼ、亡霊!?



い、い、い、いい度胸ね…
わ、わた、私はこれでも妖怪よ、か、かかってこいや~




「助けて~」

で、でたー!?

足首掴まないで!?
私なんて美味しくないから!!


「お姉ちゃーん、やっと見つけてもらったよー」


亡霊じゃなくて二人組みの少女…

で、裸!?


これって、世に聞くレ○プという奴じゃ…

ま、まさかこの近くに犯人もいたりして…
や、やだ!早く逃げないと!!



「ちょっと!?そこの人!!どこ行っちゃうの!!お願いだから戻ってきてよ!!!!
 服がないから、どこにもいけないの、助けてーーーーーー!!!!!」


side 秋姉妹

「お姉ちゃん。どうして私達裸なのかな。」

「あのルーミアとかいう妖怪に服を食べられたからでしょ。」

「どうしても、誰も助けに来てくれないのかな。」

「多分忘れられているから…」





「私達って神だよね。」

「うん…」


side 犬走 椛

文先輩はもの凄く仕事熱心です。
他の妖怪達なら、怖く手も出せない取材先でも飛び込んでいきます。

例えば、相手が神様であってもです。


「ま、私の好みよりちょっと上ですが、マニアには需要がありそうな映像と写真が撮れましたね。
 取材途中でアリスさんに、す巻きにされた時はどうしようと思いましたが、こんな森の中でスクープに出会えるとは…日頃の行いがいいからですね。」

でも時々、文先輩の行動の意味が分かりません。
「文先輩。こんな写真を撮ってどうするんですか?」
こんな裸の写真を新聞に載せたら、大天狗様から発売禁止の処分を受けそうなものなんですが…


「椛!?えっと…これは…芸術です!大地に豊作を齎す女神が、裸で大地の上で嘆き悲しむ。何とも考えさせられるシーンですよね?」

文先輩凄いです!
まさか文先輩が、芸術にまで造詣が深いとは思いませんでした!!

文先輩!一生ついていきます!!!

「春ですよー」

「新しい盗撮対…じゃなかった取材対象が!
 椛!行きますよ!!」

わんわんお♪











side ルーミア

外伝 小悪魔とお風呂 は今のところ書く予定は無いのだー
ワッフルワッフルと書いても効果は無いのだー

どうしても読みたい人は自分で書いて楽しむか、無限の想像力に身をゆだねるのだー

どちらも出来ない人は、幻想郷入りするのもいいかもしれないのだー



[6470] 第十八話 なぜハニューがエロイ目に?フラグの関係で仕方がないのだー。(注意、多分15禁)
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/02/06 09:27
第十八話
なぜハニューがエロイ目に?フラグの関係で仕方がないのだー。(注意、多分15禁)


「痛!?」

「大丈夫ですか!?」
大変!?姫様が包丁で指を…
インスタント焼きそばの湯きりに失敗するぐらい料理が下手なのに…
料理を手伝うなんて言い出すから。

「大丈夫よこれぐらい、勝手に治るから。」



…いつもの事ながら、不老不死というのは凄いですよね。









不老不死かぁ…
あんなに素晴らしい能力なのに…
あの子はどうして、それを否定するようなことを…









「鈴仙?どうしたの?」


姫様!?顔が近いです!

「またあの子のことを考えていたの?そんなに気になるなら、ハニューに直接聞きに行けば?悩んでも答えは出ないわよ?」

それもそうですけど…
他人の空似とか、実は気持ちを入れ替えてハニューとして新たな人生を歩みだした、とか言われたら気持ちの整理がつきますけど。
もしも、あの子は望みを叶えたと言われたら…私は…「たっだいまー!」  !!!


「てゐ!遅かったじゃないの!心配したのよ!」

「いやー戦闘に巻き込まれちゃってさー」

!?
「何があったの!?」

「それがさ、ハニューと鬼が戦ったり、八雲紫と博麗霊夢が戦ったりして滅茶苦茶になって…
 最後には神社が崩壊して…」

なにそれ…

「それでさ、ハニューの奴に声をかけたんだけど、久しぶり!だってさ…
 あいつ…私達こと…もしかして覚えているんじゃないのかな?」

え!?
じゃあ、ハニューはやっぱりあの子なの!?

「でもそれだと変じゃない?香霖堂で鈴仙と出会った時は、まるで他人みたいに接してきたのよね?何か秘密があるのかしら?」
確かに、姫様の言うとおり…
あの時は、私の事なんてまったく知らないって感じで…

「うどんげが驚いて固まったぐらいだから、ハニューも驚いて固まってたんじゃないの?」

てゐの言うとおり、そういうことならいいんだけど…って「だから、うどんげって言うな~!!!」


----------


side 博麗 霊夢


うートイレトイレ…



神社が直るまで、紫が家に泊めてくれることになったのはいいけど…
この家は妙に外の世界チックで、どこに何があるか分かりづらいのよね。


あった!ここがトイレね。





これは確か紅魔館にもある洋式トイレという奴かしら?

まずは、蓋を開けて座ればいいはず…よね。



ウィイィィィィン!


!?
勝手に蓋が開いた!?


「誰なの!!!出てきなさい!!!」









だんまりか…

そっちがその気なら!!

勝手に蓋が開いたということは、この便器のどこかに隠れているはず。
人が入れるスペースが無いように見えるけど、妖怪ならこのぐらい簡単なはず。


まずは、この便器をぶっ叩いてやる。
驚いて出てきたら、そこを一気に叩く!




バシ!



ドガ!!




まだまだ!!


ガン!!


バキ!!              ピ!



ピ?
何の音!?




ウィィィィン…




プシャアアアアアアアアアアア!!!!





「キャ、キャアアアアアアアアア!?」

お湯が!?
便器からお湯が!?










ば、ば、ば、ばば馬鹿にして!!!


も、もう手加減はしないわ!!!




「夢想封印!!!!!」










ドドドドドドドド!!!!




























は、ははは!

や、やったわ!!

この妖怪め!博麗霊夢に戦いを挑んだことを後悔するといいわ!!!


「霊夢さん!!どうしたんですか!?」


「あ、橙。いい所に来たわね、トイレに妖怪が住み着いていたから、退治してあげたわ!」





「お、おトイレが……………
 霊夢さんがおトイレ壊しちゃったああああああああああ!?藍さまああああああああ!!!」


は?

あ、ちょっと待ちなさい!!
そんな様子で藍を呼びに言ったら、勘違いされるじゃない!!



「ちょ、ちょっと待って!!




 だから!待ちなさいって!!」




ムンズ!



あ、尻尾掴んじゃった…

「ごめん橙!尻尾は猫の急所だったわよね!?ワザとじゃないの、だから怒らないでよね、ね?」











「ひ、向日葵の悪魔…




 い、いやあああああああああああああああああああああアああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
 尻尾引っこ抜かないでええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」




あれ?あれえええええええええええええええええ!?



「橙に何をしたんだーーーー!!!!!」


「藍!?これは不可抗力!話せば分かる!!!」


「問答無用!!!!」


side 八雲 紫

霊夢との新婚生活に向けて、ウォシュレット付きトイレや床暖房といった、外の世界の先端機器の取り寄せも完璧。
あまりの快適さに霊夢は、私のお嫁さんになることが人生最良の道だといずれ気がつくはず。


この完璧な計画。
流石、妖怪の賢者と言われる私ね…
我ながら、恐ろしいわ…


でも、そんな完璧な私であっても、読みきれなかったものがあるわ!



それは私の霊夢への愛!!!!





もう我慢できないのよ!!!!!




深夜3時…
そろそろ頃合ね。
今日はこの時間に起きるために早く寝たから、私の英気はタップリ。
そして、霊夢はグッスリ。
霊夢を影から見守り十数年。
ついにこの日が来たわ。

前回のチャンスは、あの忌々しい偽サンタクロースに邪魔されたけど…
今晩は来ないはず。
そして最大の敵、レミリア・スカーレットも、妹に「お姉さまと一緒に寝たーい。」と言われて動けないようだし…



さあ、開けスキマ!!
天国への道を開くのよ!!


「霊夢~あなたのために、ずっと綺麗な体…あら?」

霊夢はどこ??????????



----------



「藍様ー!!死なないで!!」

「橙ごめんよ…もう私は助からないかもしれない…
 思い返すと、私の人生は遣り残したことだらけだ…


 紫様の式として、もっと活躍したかった…


 橙に私の技をもっと伝授したかった…

 
 幻想郷中に、私の尻尾が油揚げではないことを知らしめたかった…


 もっと多くの人の前でスッパテンコーしたかった…


 ニ●ニ●動画で工作を繰り返して、橙の動画をランキング一位にしたかった…


 

 でも一番の心残りは橙…お前のウェディングドレス姿を見ることができなかったことだよ…」




「ら、藍さまあああ!!!」



「ということで橙。ここにウェディングドレスがあるのだが…
 おっといけない、新郎役がいなかった…
 仕方ない、では私が新郎をブベラッ「藍。ちょっと邪魔だから死んでて。」 いきなり踏まないでください~」




まったくこの子は飽きもせず…

「藍は全然平気だから気にしないで。
 で、何があったの?見た目だけだけど、どうして藍は死にかかっているの!?」

                                     「紫様の足が臭くて本当に死にそうです…」

「霊夢さんがおトイレを壊して、藍さまを攻撃して、どこか行っちゃいました…」

えっと…?

「霊夢さんは、『色々とごめんなさい。お願いだから追ってこないで。』って紫様に伝えてくれって言ってました。」


色々とごめんなさい!?

お願いだから追ってこないで!?




そ、そんな!?

ふ…フラれたーーーーー!?
まだ告白もしてないのにーーーーーーー!?


----------

side ハニュー

うー吐いた吐いた…
でも、頭がまだ痛いですよー
瀕死の状態で紅魔館に帰ってきて、存分に吐いて二日酔いとなったのですが…

何やら早朝から、騒がしいので部屋から出てみることにしました。
いったい何なんだ…こっちは二日酔いで静かに寝ていたのに!!

「お願いだから、紅魔館に泊めて~!!!
 というより、まずはトイレを貸して!!!漏れちゃう!!!!!」
メイド長に泊めてと頼み込んでいるのは、博麗の巫女!?

はて?
寝る前にルーミアから聞いた話だと、ストーカーさんがスキマとかいう力を使ったおかげで、博麗の巫女はストーカーさんの家に居候することになったはず…

何故ここにいるんだ?

「霊夢さん…いったい何があったのですか?」

「紫の家のトイレに、妖怪が住み着いていたの…」

「妖怪…ですか?」

「とにかく、いろいろあって、紫の家に居辛くなって…そんなことより、早くトイレを貸して!!」


「はあ…わかりました。お嬢様は、きっと喜ばれるでしょうから泊めてあげましょう。
 ただし、この紅魔館では、働かざるもの食うべからずという言葉があります。
 霊夢さんには…そうですね…今日一日は休んで、明日からメイドとして働いてもらいましょうか?」

「わかったから早く!!」

なんですと!?
明日から、博麗の巫女が同僚だと!?


えー
大丈夫なのかよ…

しかし、決まってしまったことは仕方がない。
文句を言うのもいいが、与えられた状況を最大限活かすことの方が大切だからな。




といっても、どうしようか?

うーん…


ここは先輩として色々と気を回してあげよう。
そうすれば、俺への好感度も多少上がるはず。


となると、俺でもできることといえば…
何があるかなぁ?







そうだ!
メイド服を、博麗の巫女が好きな腋が開いているデザインにしてあげよう!!
きっと喜ぶぞ!!

そして、それを機に仲良くなれば、後々色々と効いてくるかも知れない…

例えば…


『色々あって幻想郷脱出の目処が立った俺達。
 しかし、俺達の前に強化されすぎ、人格が崩壊しかけた博麗霊夢が立ち塞がる。』
  
ハニュー「霊夢、もう一度、もう一度だけ!!あの時の霊夢に戻れ!」
博麗霊夢「お姉ちゃん?」
ハニュー「そうだ、お姉ちゃんだよ。もう一度、一緒に紅魔館で働こう!!」.
博麗霊夢「違う!」
ハニュー「やめろおぉー!!」

サイコ陰陽弾mk2に乗ったまま、紅魔館へと突っ込んで行く博麗霊夢。

ハニュー「…霊夢……可哀想だけど… ちょ…直撃させる!」
博麗霊夢「元気でー、お姉ちゃん。」
ハニュー「うあああああああああああああ!!」

なんて感じで、Zガンダムのロザミア・バダム並みの悲劇になってしまう場面でも…
腋が開いたメイド服さえあれば、こうなる前に人格が戻るかもしれません。


まあ、この展開だと俺と霊夢がスールな感じになってしまってアレですし…
ちょっと、ご都合主義過ぎるというか、こんな展開なんてありえない気もするけど…
真面目に考えて、少しでも博麗の巫女に気に入ってもらえれば、いざという時の運命を分けるかもしれない…

こういった、日々の小さな積み重ねが、最後に効いてくるんだよね!!


それじゃあ、早速部屋に篭って博麗の巫女専用メイド服作成だ!!

side 十六夜 咲夜

「明日から霊夢がメイド!?客人でいいじゃないの!!
 どうして、働かないと紅魔館に泊まれないなんて嘘をついたのよ!?」



「これは、お嬢様を思ってのことです。
 考えてみてください…霊夢がメイドとなるのですよ?
 霊夢をメイドとして調教すれば、霊夢の身も心もお嬢様の思いのまま…」




「す、すばらしいわ…
 流石咲夜ね。

 紅魔館の主として命令するわ!!ビシバシ調教するのよ!!!」

フフフ…
元よりそのつもり…

霊夢…ビシバシ調教してあげるわ…







お嬢様のお気に入りは私一人で十分なのよ…


----------

side ハニュー

できたっ!!!!


昔の俺なら、こんなことは絶対に無理だったな。
でも、一年近くもメイドを続けている今の俺にとって、この程度の改造なんて一日かければこんなもんよ。

ゲンソウキョウに居る人達は、誰もが何かの○○程度の能力を持っているということらしいが…
俺は、家事一般が上手に出来る程度の能力だったりしてw
これならいつでも、お嫁にいけるぜ!!!




いかんいかん…
男としての自覚をしっかり持たないと…



さて、博麗の巫女が使うクローゼットに、博麗の巫女専用メイド服を入れてあげたし…

明日が楽しみだ…

フフフ…博麗の巫女の奴、きっと驚くだろうなあ♪







しかし、今晩の紅魔館はなにやら騒がしいが、廊下が閑散としている…
どいうことだ?

あっ…このパターンは…何かのパーティを開いている予感!!


メイドの詰め所のスケジュールボードには…

『ダブルスカーレット祭り』
なんだこれは…
えっと…
お嬢様と妹様の仲直り記念と、博麗霊夢の紅魔館入り記念ですか…


やっちゃった…
完全にすっぽかした…

そういえば、何人か部屋をノックしてきたけど、博麗の巫女専用メイド服を作っているのを秘密にしたいから、適当に返事して追い返しちゃったような…


今更、出て行っても仕方ないし、部屋に戻って寝るか。




----------




あれ?
廊下の横に座り込んでいるのは、うちの部員じゃないか…
真っ赤な顔をしながら、ボーっとしているそ??どうしたんだ?
これは酔っ払っているのか??


「どこに行っていたのですか?
 もう…心配して見に来てあげたのに…」
!!

誰かと思ったら小悪魔さん。

小悪魔さんが俺の部屋の前に立っていた。
しかし、随分と色っぽいドレスだな…目のやりどころに困る…

「ごめんなさい、ちょっと野暮用があって…」


「まあいいですよ。お酒も何本か拝借してきましたから、ハニューちゃんの部屋で一緒に飲も!」





----------









部屋の中で小悪魔さんと二人で飲むのも辛気臭いので、テラスにテーブルとソファーを出してそこで飲んだのが失敗の原因でした。



満天の星空の下、パーティの喧騒をBGMにしながら、ドレスを着た小悪魔さんとグラスを傾ける…

雰囲気が雰囲気だけに、自分が下戸だと、かっこ悪くてなかなか言い出せませんでした。
おまけに小悪魔さんは「とっておきのお酒を持ってきたから、好きなだけ飲んで!」とか言い出してくるし…

なんでも、俺のおかげでパチュリー様と凄く上手く行っているからそのお礼だとのこと。
正直、お酒の席で愚痴を聞いたぐらいしか覚えが無いのですが、喜んでもらえているので良かったです。


しかしですね「喜んでもらえて俺も嬉しいよ。それじゃ、俺も遠慮なく小悪魔さんの持ってきたお酒を飲もう!」なんてことをしたら、
完全に酔っ払う→倒れる→二日酔いとなるのは分かっているわけです。
ですので、小悪魔さんに注ぎまくって、どうにかお酒を飲まないで済むようにしてきたのですが…
このテクニックもそろそろ限界ですね。

飲みすぎたのか、小悪魔さんのペースが目に見えて落ちてきました。

うーむ。次の方法を考える必要があるぞ…


よし、今度は「実はもうかなり酔ってるので、これ以上飲めません。」作戦だ。

この作戦のポイントは、さりげなく言うこと。
あまり飲んでいないくせに、あからさまに酔っているとアピールすると、相手に不信感や不快感を与えてしまう可能性があります。

「小悪魔さんの綺麗な姿を見るだけで、酔っ払ってきちゃいましたよ。」

お世辞で機嫌を取りつつ、酔っているとアピールできる。
空気を読んだ、素晴らしい会話のテクニックだと自分を褒めてあげたいw
しかし作戦とはいえ、こんな歯の浮くような台詞を言うなんて、恥ずかしいなあ。


ありゃ?
小悪魔さん?
なに舌舐めずりしているのですか?


うむ~
これはこちらの意図が伝わったのか…
伝わってないのか…


「さっきから全然飲んでいないじゃないですか…まだまだこんなにあるから遠慮しないでください!」

ぎゃああ!!
全然伝わっていなかった!!
わ!わ!!そんなにお酒を注がないで!!


----------


流石にこれは不味い。
酔っていると伝える作戦が駄目なら、次はこういう作戦でどうだ!
「これ以上出さないで…もうお腹がパンパンです…」
食べ疲れたように、ソファーにもたれかかる演技つき!

さあ、これならどうだ。









「どうして飲まないのですか?」

気がついたら、小悪魔さんが隣に座ってました。
そのまま、上半身だけこっちに向いて、詰め寄ってきます。

やばい…
怒らせちゃった!?
(((;゚Д゚)))


あ、この可愛く怒った感じの表情…もしかして、怒ったフリ!?


って、小悪魔さん!?
詰め寄ったまま、俺の足とか、首筋とかをどうして触ってくるのですか!?

く、くすぐったい!!


あ!


ちょ!!


くすぐったくて死ぬ!!

こ、これは拷問だ!!!
ど、どうしてこんなことを!!

も、もしかして、やっぱり本当に怒ってる!?


どうすればいいんだー!?

1 逃げようとする。
  ↓
  捕まったら、もっと酷い目に合わされる。

2 止めてくださいと怒る。
  ↓
  お酒を飲まないハニューが悪いと逆ギレされる。

3 我慢する。
  ↓
  飽きたら解放してもらえる(多分)

これは3しか無いのか…

し、しかし辛いぞこれは!!
くすぐったくて、声が出そうになるが…
下手に笑い声をあげたら、加虐心に火をつける可能性があります。

ここは我慢のしどころだ!!


う!?


脇腹を攻めてきた!?
ちょ!?太ももまで!?


こ、これはマズイ!?
特に脇腹がヤヴァいぐらいにくすぐったい!!



で、でも…
が、我慢だ…



ううう…











や、やっと終わった。
なぜか、小悪魔さんが呆然としているのが気になりますが、これはチャンスです。
もうこんな目に会いたくないので、さっさと正直に話しましょう。

「小悪魔さん、折角だけどこれ以上飲んだら完全に酔っ払っちゃうよ…そして酔っ払ったら、俺はこの前の夜の小悪魔さんと同じ状態に…」
本当に、これ以上飲んだらリバースしまくる状態になって、ヤバイのですよ!!


クスリ…


あれ、小悪魔さん??
そこは笑うところでは…
いや、情けない俺を笑いたくなる気分も分かりますが…

「フフフ…つまり、私に手を出しちゃうから駄目ってこと?」

手を出す?
まあ、確かに酔っ払ったら何かの間違いで小悪魔さんを殴ったりと手を出してしまう可能性もあるなー。
あれ?俺って、小悪魔さんに殴られたりしたっけ?
うーん…
妙な質問ですが、今はそこを気にする時ではありません。
「そういうこともあります…」
とにかく正直に答えて、今日の飲みを切り上げましょう。

「また私のことばかり考えてる…もう…本当に馬鹿ね…でもそういうところ、大好きですよ…」
??????
ええええええ!?
どうして、小悪魔さんが抱きついてくるの!?

ちょっとこれはオイシイ展開だが…
小悪魔さんのほうが体格が上だから、小悪魔さんにしっかり捕まらないとひっくり返っちゃう!?
つ、疲れるぞこの体勢!?

「今晩だけは、一緒に過ごしたあの夜に戻りませんか?」
いや、そんなことを耳元で言われてもねえ…
あの夜に戻るって…小悪魔さんが酔っ払って吐きまくる展開に戻ってどうしろと…


あ!そうか!

この支離滅裂な展開。
小悪魔さんがヤバイ位に酔っているってことですね!!

これは早く飲むのを止めて引き上げないと…
また、大変なことに…
「飲みすぎだ、もう帰ったほうがいい…」


ドサ…


あ…
小悪魔さんに抱きつかれたまま、ソファーの上に押し倒されちゃった…


小悪魔さん…
やっぱり、かなり酔っ払ってますね…

バランスを崩して俺を押し倒すなんて、お酒で運動神経が麻痺している証拠です。
おまけに、小悪魔さんと密着している今ならわかります。
顔の赤さ、上気した表情。
明らかに、お酒が回っています。

ヤバイ…
これは本当にヤバイ…

はやく対処しないとゲロが…
もし、この体勢で吐かれたりしたら俺は…

「パチュリー様はお嬢様とパジャマパーティの予定なんですよ…だから大丈夫です…」
今晩はまだまだ飲むぞ宣言キター!!!

ちょっと勘弁してくれ!!!




「一人分だけですが、食事を持ってまいりました。」

!?


----------



まったく、今回も酔っ払った小悪魔さんには苦労させられました。

アイリスが「一人分だけですが、食事を持ってまいりました。」と、偶然食事を持って来てくれなかったら、また小悪魔さんのリバースに襲われるか、
完全に酔っ払っうまで飲まされてしまうところでしたよ。




しかし、あの時のアイリスは何故か異常に怖かった…
「お帰りください。」と迫られた小悪魔さんはとにかく、俺まで震え上がってしまいましたよ。
おまけに、怖いのでさっさと帰って欲しかったのだが…
「よかった今度は守ることができた…」とか言って小悪魔さんみたいに抱き締めてきて帰ってくれないし。

そりゃ、偶然とはいえ前回の宴会とは違って、俺が強引に飲まされる展開から守ってくれたけど…
既に手遅れなんですよ。

だって…





まさかの二日連続の二日酔いになるとは。
うまく、小悪魔さんのお酒を抑えていたつもりだったのですが、十分に致死量に達していたようですw
まあ、それだけなら、まだ良かったんだけどね…

「ハニューちゃん、辛いなら吐いた方がいいよ?」

どうして大ちゃんにバレてるのよ。
大ちゃんは、昨日の小悪魔さんとの飲みなんて知るはずがないし、お花見の件はアイリスに口止めしていたはずだし…

「ねえ大ちゃん?誰に呼ばれてここに来たの?」

「アイリスさんからハニューちゃんが二日酔いだって聞いて…」
アイリス~俺は大ちゃんには言わないでって言ったよなあ?
そりゃ、二日目の二日酔いの件じゃないけど…

これって虐め?それともアイリスって意外とアホの子なのか?
まあ、さっきから塩水を持ってきてもらったりして、ずいぶんと助かっているのは事実だけど…

ウェップ…
うう…やばい…

とにかくトイレで吐こう。

「ちょっとトイレで吐いてくる…」

「じゃあ、掴まって。連れて行ってあげるね。」

「え…は?「掴まって」ちょっとま「掴まって!」いやあの「掴まりなさい!!」はい…」




少女嘔吐中…




美少女にガン見されながら吐く俺。
ロリコンでMの俺は興奮してきたぜ!

ってことは無いです。




俺のプライドがフルボッコ…
少し楽になってベッドに戻ったのはいいけど、俺の心は逆にボロボロさ…
もうこんな思いしたくないよー
「あのさ、大ちゃんも疲れるだろうから、次からは俺一人でいく「遠慮なんかしないでいいんだよ?どうしても気になるなら、ここで吐いていいんだよ。
 はい、エチケット袋。」…オワタ。」

墓穴を掘った。
まだこれなら、トイレで吐いた方がマシだyo!
トイレで吐くより丸見えじゃないかyo!
でも、天才的な俺にはこの困難な事態を回避する方法が思いついたのsa!

「大ちゃん、随分と用意がいいね。でもさ、用を足しにトイレに行きたくなる場合もあるから、やっぱり大ちゃんに甘えることにするよ。多分それは使わないと思うよ~」
そういうことなら、用を足しにトイレに行くという理由でトイレに行って吐けばいいのです。
流石にこれなら、大ちゃんも中を覗けないでしょう。

「はいこれ。」

ドン!

( ゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシ
  _, ._
(;゚ Д゚)


si☆bi☆nn!?



尿瓶だと!????


「え…こんなの、使えって…「大丈夫だよ、私が使い方を教えてあげるから、全部私に任せてね!!」


だ、誰かボスケテ!!!!



----------


【マリーダの私的議事録より抜粋】
この議事録は、幻宴作戦終了後に行われた幹部会議について、まとめたものである。

・今後のモビルスーツザクの開発方針について
これまでのモビルスーツザクの開発は、核兵器の運用に制限がかかる等、自然環境保護及び幻想郷的倫理観に縛られて行われてきた。
しかし、本会議によりこの方針の破棄を検討することが決定された。
この変化は、にとり技術部長及びアリス技術副部長といった穏健派筆頭が、強硬派筆頭のアイリス親衛隊長の
「決戦兵器であるモビルスーツザクには、考えうる最強の力を求めるべき。」という意見に同調したためである。
穏健派筆頭の突然の変心に対して、穏健派は一時動揺したが「破滅的な力をコントロールできるのか?そのことについて心配している者も多いと思う。
しかし、我々が信じたハニュー総帥は力に溺れるような愚か者ではないはずだ!我々は恐れなくてはいけないことはただ一つ。
力を出し惜しみすることにより、力が必要なときに力が出せないこと。そう!力が無い故に、失ってはいけないものを失うことだけだ!」という演説により動揺は収まることになった。
この事態が発生した背後関係については不明であるが、ハニュー総帥が本会議を欠席したことと何らかの因果関係があるとの意見もある。

→開発体制の変更について
アリス技術副部長の提案により、魔界からの技術支援を模索することになった。
これは、「現在のジオンのままでは100年経っても完成しない!」との辛らつな意見が出るほど、新たなモビルスーツザクの技術ハードルが高いためである。
この提案の是非については、高度に政治的な判断が求められるため、総帥の判断を仰ぐことになった。
また、開発方針変更に対応するためには、更なる技術者の確保、魔界以外との技術交流も必要であるとの意見も多数上がった。
これにより、人間の里など、他の勢力との接触及び、冥界からの更なる人員登用を検討していくことになった。
 
→地下図書館の使用について
モビルスーツザクの開発方針変更にあたり、地下図書館の使用を可能にするよう何らかの手を打つべきとの意見が技術部より提案された。
しかし、地下図書館の主であるパチュリー・ノーレッジの存在が障害となり、本会議においても有効な解決案が提案されることはなかった。
よって、この提案は継続審議となったが、ハニュー総帥の意見も伺うことになった。

・第一次戦力整備計画について
作戦部に対して、個人携帯武器及び、個人用新型指揮通信システムの配備が決定された。
これは、先の軍事演習「幻宴作戦」において、指揮通信能力及び火力の不足が露呈したからである。
大変興味深かったのは、これまでこの手の問題において繰り返されてきた、
強硬派である作戦部から提案された案件が、穏健派の技術部によって否決されるという固定された図式が崩されたことである。
驚くべきことに、これらの提案は技術部及び作戦部からの共同提案だったのである。
そのため、これらの提案は即座に可決されることになった。
これらの配備による戦力増強は第一次戦力整備計画という名称が与えられ、今年中に配備が完了する予定である。
なお、これにより本来第一次戦力整備計画の名が与えられる予定だった、モビルスーツザクの配備は第二次戦力整備計画に名称が変更されることになった。

→個人携帯武器について
モビルスーツザクの研究用として開発された縮小モデルをベースに量産する予定。
純粋な火器の量産も検討されたが「スペルカードルールを無視したことにより、戦力が整う前に決戦に追い込まれる事態は避けるべき。」との意見から、
魔法技術を前面に押し出した武器が配備されることになった。

→個人用新型指揮通信システムについて
アリス技術副部長から供与された、魔界製の通信システム及び人形のコントロールシステムを元に開発される予定。
極めて高い秘匿性を持ち、思考レベルでの情報共有が可能になる予定。
本来は、モビルスーツザクへの搭載を想定して開発されていたが、個人向けに機能限定版を先行して装備することになった。

・紅魔館内での活動について
フランドール・スカーレット氏とレミリア・スカーレット氏の和解により、紅魔館内の組織改変が実施されることになった。
これまで紅魔館内の組織は、レミリア・スカーレット氏を頂点としたピラミッド構造が形成されていたが、
今後はフランドール・スカーレット氏の下にも同様の組織が形成されることになった。
これは、レミリア・スカーレット氏による、フランドール・スカーレット氏への教育の一環として行われるものである。
この事態に対し、フランドール・スカーレット氏配下の組織がジオンによって構成されるよう、政治工作を行うことで決定した。

・ハニュー総帥のご友人の扱いについて
これまでハニュー総帥のご友人方は、組織には所属するが役職には就かないという特殊な状態が続いていた。
しかし、先の軍事演習「幻宴作戦」でのチルノ氏の行動に対して「越権行為になり好ましくない、何らかの対策が必要。」との提案が作戦部より提出される事態が発生した。
このため、ご友人方のために新たな役職を設ける案が検討されることになった。
この提案はご友人方からも賛同を得たため、速やかに実施されることになった。

・記録映画の撮影について
射命丸文氏より、ジオンの活動について記録映画を撮りたいとの提案があった。
この提案に対し、一部強硬派より「射命丸文がこれ以上おかしな行動に出る前に暗殺すべき。」との意見も出たが、
全体としては「マスメディアを味方に引き込むために積極的に協力すべき。」との意見が大半を占めたため、許可を出すことになった。




・メモ
ハニュー総帥は、今回の会議にも出席しなかった。
アイリスは何か知っているようだったが、教えてはくれなかった。
シトリンは独自の情報源より、ハニュー総帥の体調悪化を知ったアイリス達が強引に会議を欠席させたという情報を掴んだようだが、
それではこれまで会議に欠席し続けている理由にはならない。

恐らくハニュー総帥は、この程度の内容は我々の力だけで解決すべきだと考えているのだろう。
我々ができる仕事は、我々が行わなくてはならない。
ハニュー総帥は忙しい身なのだ。
私がメモを残している今この瞬間も、ハニュー総帥は栄光あるジオンの未来のために身を粉にして働いているだろう。











side ハニュー

(´・ω・`)

(´・ω:;.:...

(´:;....::;.:. :::;.. .....


side 大ちゃん

こんなの別に全然大変じゃないし…
やっと見つかった、私でもできるハニューちゃんへのお手伝いなんだから、遠慮する必要なんてないのに…

ハニューちゃんが変に遠慮するから大変だったよ…
最初から、今みたいに静かにしていてくれれば簡単だったのにな…



そうだ!
今度は、遠慮する気も起きないように、包帯とかでグルグル巻きにしたらいいんだ!

side アイリス

昨晩の小悪魔がハニュー総帥を襲った事件…
私は、状況を見守っていた。

ハニュー総帥の留守を守っていた妖精が、小悪魔の淫魔の力によって無力化されたと緊急の報告が上がってきたからだ。
(といっても、耳を噛む程度のものだったが、ウブな妖精には致命傷だったようだ…この点も改善しなくては)

私が現場に駆けつけたとき、既にハニュー総帥と小悪魔はグラスを傾けていた。
庭からテラスを覗いていたため会話の多くは聞こえなかったが…
当初から不穏な空気が流れていた…

小悪魔はその服装・雰囲気共にハニュー総帥を誘っているようにしか見えなかった。
ハニュー総帥は、あえてそれに気がつかないフリをして、会話を楽しんでいるようだったが、いつ事態が急展開してもおかしくない状態だった。


案の定、事態は急展開を見せた。
小悪魔は、自然な行動を装ってハニュー総帥の横に座り、体を密着し始めたのだ。
もちろん、ただ密着してきたわけではない。
ハニュー総帥の首筋や足ををべたべたと触り始め、挙句の果てには服の中に手を入れ始めたのだ。


私は、その光景を目にした瞬間、その場を飛び出しハニュー総帥のいるテラスに向かった。


ハニュー総帥が小悪魔に押し倒され、まさに襲われようとしたとき、私はテラスに飛び込むことに成功した。


小悪魔は唖然とした表情でこちらを見ていた。
私は監視の合間に食べるために持ってきていた携帯食を取り出し「一人分だけですが、食事を持ってまいりました。」と体裁を整えると共に、小悪魔に暗に帰れと伝えた。

小悪魔は顔に怒りを表し、こちらを睨みつけて来たがその程度で怯む私でない。
弱かったあの時の恐怖、そして力をつけ復讐に走り、それが原因で何代か前の博麗の巫女やその他大勢に狩り立てられたあの時に比べれば、こんなもの春風のようなものだ。

私はスペルカードを懐に用意し、殺意を向け小悪魔に「お帰りください。」と迫った。
小悪魔は淫魔の魔力を直接私にぶつけて対抗してきたが、他の妖精のように簡単な相手ではないと気がついたのか「もう、雰囲気が台無しですよ。」と捨て台詞を吐いて去っていった。


小悪魔が完全に去ったことを確認し、ハニュー総帥に目を向けると…
そこには、あの子とそっくりの少女がいた。
目に涙を溜め、怯えた表情。そして、強張った体。
あまりにも弱弱しい姿…


ハニュー総帥は、服装や髪型、そしてその性格から来る雰囲気により、日頃はあの子とまったく別人に見える。
しかし、この時のハニュー総帥はあの子にしか見えなかった。

私は気がつくとハニュー総帥を抱き締め「よかった今度は守ることができた…」と言っていた。
まるで、あの時に戻ったような気がした。



風変わりな妖精のあの子と出会い、共に暮らし、あの子の悩みを解決しようと二人で努力し…
失敗し、また努力する日々…
そんな日々が永遠に続くと思っていた。

だが、あの事件が起き、私達はバラバラになってしまった。
ずっと私を苦しめてきた、悲しい思い出…



だから私は、ハニュー総帥が途中で吐き気を伴う体調不良を訴え出すまで、抱き締めた手を離すことができなかった。
手を離せば、また悲しい思い出の世界に戻り、あの子が消えてしまうような気がしたからだ。











だからといって、いつまでも感傷に浸ってはいられない…
理性的にならなければ、悲劇しか生まないと私は学んだのだ。


私は日が昇ると同時に、新たな決意を胸に行動を開始した。


まず初めに私は、親衛隊を集め、ハニュー総帥の部屋に不審人物を一歩も近づけるなと厳命した。
鬼を撃退したハニュー総帥が、小悪魔程度に抵抗できなかったという事実は、ハニュー総帥の体調不良は予想を超えるレベルであることを示していたからだ。

次に、(残念なことに相応しくないと思っているが)ハニュー総帥と親密な関係にある『大ちゃん』を呼びに行き、ハニュー総帥が体調を崩したことを伝え、今日の看病を頼んだ。
まったく困ったことに、彼女は力の面ではハニュー総帥に依存する傾向があるが、メンタル面では極めて好ましい影響を与えているからだ。
体調不良に苦しむハニュー総帥には、きっと大きな支えになるだろう。
もちろん、ハニュー総帥のお心を汲み取り、原因不明の体調不良ではなく二日酔いと嘘の情報を渡しておいたが…

最後に、私は本日の会議に出席するため紅魔館を訪れた、にとり技術部長とアリス技術副部長に面談し、私の思いの全てをぶちまけた。
これ以上、ハニュー総帥を苦しめたくない。
そのためには、我々がもっと力をつかなくてはならない。
興奮覚めやらぬ状況で話したため、支離滅裂だったが、二人とも私の話を真剣に聞き、私の思いに同調してくれた。

どうやら、私ほどではなかったが、この二人も同じ様な思いを持っていたようだった。

おかげで、その後の会議はこれまでに無いほどの大胆で攻撃的な行動が決定されることになった。



ハニュー総帥。
あなたは、あの子ではない。

だが私にとっては、あなたはもう一人のあの子だ。

だから、今度こそは絶対に守って見せる。
絶対にだ。


side ハニュー

ルーミアに預けていた謎の同人誌…その謎にこれから迫まろうと思います。

二日酔いで酷い有様なので、誰にも会いたくないけど暇を持て余している。
そんな今日みたいな日には、うってつけの暇つぶしです。

初めて見たときは、驚きの連続で動揺してしっかりと読めなかったからな。

大ちゃんも泊まりの準備のために一旦家に帰ったし、腰を据えて読むぞ!











「ねえ、ルーミア?もう帰っていいよ?」
ルーミアには、同人誌を入れた箱を持ってきてもらい、何故か大ちゃんに包帯でグルグル巻きにされた俺を助けてもらいました。


「今回は、ここしか出番が無いはずだから、帰りたくないのだー」

!?また訳の分からないことを…

「そんなことを言わずに帰りなさい!」

そこにルーミアがいたら、同人誌をこっそり取り出して見ることができないじゃないか!!

「分かったのだー、これで二行喋れたから、よしとするのだー」

はあ…
さてと、読むぞー















この同人誌の変な所は、ゲンソウキョウの住人とそっくりの人たちが対象になっているということなんですよね。
元居た所では、ゲンソウキョウなんて名前は聞いたことが無かった。
ということは、普通に考えれば同人誌なんて作られるはずがない…
なのに、ここには同人誌がある…
この答えが示す所は…

この同人誌は、ゲンソウキョウを知っている人達の間でのみ流通しているもの。
例えば、このゲンソウキョウを管理している人達が描いているというのはどうだろうか?

兵器開発となれば、女性より男性の方が多いだろう。
そして、ゲンソウキョウの性質上、恐らく人里離れた場所にあるはずだ。

ということは、開発者達は女性が居ない環境の中、職務に励むことになる。
しかし、目の前には手に出せないが女性(しかも美女や美少女や美幼女ばかり。)がいっぱい。

恐らく、相当な欲求不満に襲われているだろう。
だから「せめて絵の中でも」と考えるのではないだろうか?

うん。この仮説はありえる。


となると、ここに書いてあることはある程度事実に沿っている可能性があるな…


事実に沿っている…!?

さっき、店主が博麗の巫女と魔理沙さん二人に迫られてって話が…



絶対に許さんぞ店主!!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!





いかん…発作が!!


冷静に…
冷静になって読むんだ…

あ、よく読むとヤンデレっぽい展開…




げ、げえええええ!?

つ、次に行こう…











な、なにーこのベアード様をつかって相手の心が読めるから、相手が望むエロイことが何でも分かるだとー!?
となると…
(*'Д`*)ハアハア










いかん。
妄想で思考力が落ちる。
次だ!









こ、小悪魔さんが二人???
でゅ、デュアルコア…
これもエロ過ぎる!?
恥ずかしくて、見ていられないよ!
もっと、エロくなさそうな可愛い絵の奴を…









何者だこのお兄さんはー!?。
同じ作者の本と思われるものには、大抵出てくるがやっていることは同じ。
見たことあるような女の子達を次から次へと…凄すぎる。
こいつは恋愛原子核なのか!?









しかし、こいつもまさか実在の人物なのか…
そうだとしたら、もしも俺の前に現れたら…
(((;・Д・)))ヒイイイイイイ


だが、このシリーズ…
色々な人物が出てくるから、ゲンソウキョウを知る手がかりになるぞ。
それに、考えようによっては普通の男と、女性の話ばかりだから…
さっきの店主の奴ほど、危険なネタにぶつかる心配は無いはず…







   。 。
  / / ポーン!
( Д )


だだだだだ…
大ちゃんとチルノが巨大な蛙に!!!!!!!!


かかか蛙め…
今すぐ見つけ出して17分割にしてやる!!!!!







しまった、また発作が!?
駄目だ、もう心臓がどうにかなりそうだああああ!!


















俺のHPはもうゼロよ。
正直、精神的に疲れきったよ…
俺が出てくる同人誌が無いのが救いだが…
さっきの大ちゃんの奴は効いた。

まだまだいっぱいあるけど、今日はここまで。
当分の間、同人誌は封印しよう…





コンコン!


あ、誰か来た。
さっきまでは、誰にも会いたくないと思っていたけど、今は同人誌の内容を忘れるために、誰かとお話したいです。

「ハニュー総帥。にとりとアリスです。大切なお話が…」

なんだろう?

「ちょっと部屋を片付けるから、少し待ってて!!」


----------


えーとなになに…
なんだこれは?
ロボットの絵とスペック!?

この書類名は…『試作案 さ-84 モビルスーツザク 概要書  決定稿』

!?
ザクってメイド長への悪戯のための機械の名前の隠語じゃ…
でもこれって、明らかにロボットの概要書っぽいんですが…
しかも、本物のザク並みの…
これはまさか…オラザク!?

なるほど。これは、にとりさんが考えたオリジナルモビルスーツですね分かります。

いやはや…この資料凄いわ…
本当に魔法と科学を融合して作ったモビルスーツの概要書を読んでいるみたいです。
自分の妄想でこんな設定集まで作ってしまうとは、中々のものですね。
にとりさんが東京にいれば、きっと年末とお盆のあたりは大活躍でしょう。


これは元気が出てきましたよ。
興味も出てきたので色々と聞いてみましょう。

「にとりさん、これのコンセプトはどういうものなのかな?」

「コンセプトは『最強の兵器』です。考えうる限りの技術がここに詰まっています。」

おお…
なんという厨二…じゃなくて素晴らしさ。
ここまで明確だと、これはこれでよし!

となると、色々な兵器を積んで…いるようですね。

ほほう…
主兵装は…
何やらいっぱいあるな、まず一つ目は…

ジオン にとり・アリス工廠製 41型電磁レールスマートガン!?

ザクマシンガンじゃないのか?
ああ、愛称ザクマシンガンって書いてあるw
しかし、レールガンと来たか、となると弾もザクマシンガンとは違いそうだな。

ジオン にとり・アリス工廠製 22型超小型純粋水爆弾
ジオン にとり・アリス工廠製 11型生物兵器弾
ジオン にとり・アリス工廠製 11型通常弾
ジオン にとり・アリス工廠製 38型魔法弾
ジオン にとり・アリス工廠製 05型呪弾
その他、鋭意開発中。


最後とその前はよく分からないが、いきなり南極条約違反かよw
こんなザクマシンガンを持ったザクが第一話で出てきたら、ア●ロ死亡だろ!!
まあ、純粋水爆が3F弾に比べてどれほどの威力で、南極条約に引っかかるかのかどうか分からないけど…

他の武装は…

ジオン にとり・アリス工廠製 55型攻撃型魔法生成システム
ジオン にとり・アリス工廠製 38型レーザーマシンガン
ジオン にとり・アリス工廠製 15型規格型ミサイルランチャー
ジオン にとり・アリス工廠製 59型汎用型無人機動兵器
ジオン にとり・アリス工廠製 36型ビームソードアックス
ジオン にとり・アリス工廠製 10型のびーるアーム
その他、鋭意開発中。

これらが標準装備武装で、ミッションにあわせて自由に武装が換装できると…

ほう…武器どころか、機体構造そのものがモジュール化されているので、機体は各パーツレベルで換装可能か…

どれだけ厨二病設定なんだよこれ!!
これって、ザクよりザクⅢとか、ギラズールとか…
いや、そういったレベルじゃない何かだぞ?
うーん。モビルスーツに何かが混ざっているような気がするのだが…
まあそれはとにかく、ここまでぶっ飛んでると、変な意味で素晴らしすぎる…

え?
防御用の装備も充実しています!?

ジオン にとり・アリス工廠製 56型ガンダリウム合金
ジオン にとり・アリス工廠製 62型防御型魔法生成システム
ジオン にとり・アリス工廠製 41型統合型ステルスシステム
ジオン にとり・アリス工廠製 47型ビームシールド
ジオン にとり・アリス工廠製 21型近接迎撃システム
その他、鋭意開発中。

62型防御型魔法生成システムは愛称がIフィールドですか…
へえ、ガンダリウム合金もあるのですか。
おまけに、統合型ステルスシステムの内訳には、ミノフスキー粒子とか、光学迷彩とか、ルーミア式ジャマーシステム(!?)とか…


「よろしければ、詳細についてご説明いたしますが?」
ありがとう。
よろしく頼むよ!


----------


うむ。
まったくわからん!




なんという難しさ。
俺の頭じゃ、ついていけないw

しかし、自分の考えた設定をこうも熱心に説明されているのに、分からないと言うのもなー
せめて絵だけでも見て、しっかり聞いているフリをしないと…




「…とこのようなコンセプトになっており、想定されるあらゆる作戦に対応することができます。
 しかし、この機体には欠点があります。
 それは、ハニュー総裁より見せてもらったモビルスーツザクの模型と、かけ離れたデザインになってしまったことです…」


確かにパッと見た感じ、どう見てもザクに見えない…




あ!

こんなタイミングだけど、分かった!!

にとりさんのザクってモビルスーツにアーマードコアのネクストが混じっているんだ!
パーツの交換が可能な所とか、色々な所に武器が搭載されているデザインとか…


「大変申し訳ありません。」

ちょ!?
そこは謝る所じゃないだろ!
オラザクのいい所は、自分の妄想を他人に遠慮せずに出せるところだろ?
ここには、にとりさんのザクが「こんなのザクじゃない!!」って非難するような人はいないよ。


「気にしていないよ。俺は素晴らしい機体だと思うよ。」


「!!ありがとうございます。完成に向けて鋭意努力します!!」

おいおい…
これを作る気なのかよ。
図面とか見る限り、これをフルスクラッチするのは大変だろ。
そりゃ、自分の妄想した機体を模型にしたいという気持ちは分かる。
だが、この図面どおりに作ったら、普通に売っているプラモの何十倍も細かい模型になっちゃうぞ…
相当大変なことになるだろうなあ…




しかし、さっきはデザインを気にしないと言ったものの、この機体がフルスクラッチされたとして…
普通のザクのプラモの横に置いたら…

違和感がありまくる。
機体本体には、よく見るとまだ微かにザクの面影があるのだが…
この全身ハリネズミ的なデザインのおかげで、まったく分からない…


むしろ、この武装の多さといい、アーマードコア系と一緒に並べたほうがまだ違和感が無いか?

といっても、こんな危険な武装ばっかりの機体がアーマードコアに出てきたらバランスブレイカーだな。


うーん。
本編では語られるのみでプレイできない、企業と国家が戦い、国家が消滅した、国家解体戦争ならそれでもゲームとして成り立つか???


「ハニュー総帥、いかがなされましたか?」


「いや、ちょっとね…。国家解体戦争には使えそうだと思って…」




といっても…
やっぱりゲームとしては成り立たないか!

この機体って魔法が使えるからな…

エイッ!と魔法一発で、敵が蛙になったり…



なんだこのバカゲーw

いい意味で笑えてくるw

って、いかんいかん、馬鹿にしていると誤解を与えちゃうから笑っちゃ駄目だよね。
でも、顔がにやけてしまう。


頭から早くこの話題を追い出さないと!


「まさに最強の兵器ですね…でも、最強を目指すなら一つ足りないものがある。」

そう、ここまで厨二病的設定なら、あれがあってもいいはず。
とさっきからずっと思っていました!

「足りないものですか!?」


そうそれは…
「月光蝶である!!」

最強といったらこれだよね。
異論は認める。

----------


side 博麗 霊夢

「霊夢!あなたやる気はあるの!?いきなりメイド服の私的改造だなんて…」

なに言っているのよ…

「これは最初から置いてあったの!!だいたい、この腋が開いているデザインがイリーガルっぽくて素晴らしい!!ということが分からないなんて遅れてるわよ!!!」

「遅れているとか、そんなことはどうでもいい話よ。メイドはお嬢様を誘惑するのが仕事じゃないわ!!!」

ゆ、誘惑ですって!?
「咲夜!!そんな酷いことを言わなくてもいいじゃない!!私は、誰にでも腋を許すようなビッチじゃないわよ!!!!」

「意味が分からないわ!?それより、周りを見てみなさい!他のメイド達もおかしな格好だって言っているわよ!!」




「本当に腋巫女なんだーすごーい!他の皆にも教えよーっと!」
「いくらなんでもメイド服まで腋を空けなくても…」
「あれって、お嬢様を誘惑するのが目的だったんだ!「「キャー♪」」」




(*゚Д゚*)カアアアアアアアアアアアアアア
あ、あれ?
なんだかもの凄く恥ずかしい!?

----------




「第十問 お嬢様が嫌いな魚が出たため、ご夕食はいらないと駄々をこねました。どのように対処すべきでしょうか。
 1 お体の事を考え強引に食べさせる。
 2 その日のご夕食は抜きにして諦める。」

咲夜にメイドの訓練とか言われたけど、いきなり座学…

えっと…2番のような気がするけど、やっぱりここはレミリアのことを考えて1番かしら。

「1番!!」

「ハズレです。答えは、『魚を使っていると分からないような調理方法に変更し、料理を再提出する』です。」

なんですって!?
1番でも2番でもないじゃない!!

「ちょっと!なんなのよそれは!!そんな回答なんて無かったじゃない!!」

「だれが、1と2の二つから選べといいましたか?最良の回答が目の前に無ければ、最良の回答を自ら作り出すのが大切です。」


(#^ω^)ピキピキ

----------






「はい失格。」

「何が「はい失格」なのよ!?ちゃんと掃除できているじゃない!!」

「これを見なさい。このあなたが捨てようとしたゴミの中、この青く高貴な雰囲気の細長い物体は何?」

何言っているのよ…
これは…髪の毛??

「こんな髪の毛がどうしたっていうのよ?」

「これはお嬢様の髪の毛よ!!それを他のゴミと一緒に捨てようとするなんて!!なんて恐れ多い!!
 本来なら、一生の宝として取っておくものよ!!!」


(#^ω^)ピキピキピキピキ



----------






side 夢子


このレポートは!?
まさか、これが神綺様をジオン総帥ハニューと会談させることになった原因か!?

神綺様は会談の準備でお留守だし、掃除をしていたという理由なら…
少し覗いてみるか…




『ジオン設立に関する考察  情報省・外務省・国防省 合同調査委員会』

・ジオン設立目的

ジオンの設立目的はハニュー総帥自身が明言していないため、明確ではない。
分析の結果、当面の間は以下の二点が目的として考えられる。
1 幻想郷をジオンによって統治することによる、新体制の確立。
2 軍事力の強化。

問題は2の軍事力の強化。何を目的として、軍事力を強化しているかにある。
この点について、複数のシナリオが考えられる。

① 幻想郷統治のための、軍事力の強化。
② 対外勢力からの侵攻に対応するための、軍事力の強化。
③ 対外侵攻のための、軍事力の強化。

①のシナリオの場合、ジオンが整備する軍事力は小規模になる。新体制確立後も魔界に対する脅威度の上昇は三つのシナリオの中で最も低い。
②のシナリオの場合、ジオンが整備する軍事力は中規模になる。このシナリオの場合、対外勢力からの侵攻が発生するため、ジオンの敗北は魔界の危機に直結する。
③のシナリオの場合、ジオンが整備する軍事力は大規模になる。このシナリオの場合、魔界がジオンと良好な関係であるか否かが重要になる。
 最悪の場合、魔界はジオンから侵略される可能性がある。


これらのシナリオのうち、現在の情報では②の可能性が最も高いと分析する。
ただし、未確認情報ながらハニュー総帥自身が幻想郷が外の世界に受け入れられることを望んでいるとの情報がある。
この場合、外の世界に幻想郷が受け入れられるために、積極的な介入を外の世界に行うと考えられる。
よって、③のシナリオが発生する可能性が大となる。
 

・ジオン支援のメリット・デメリット

ジオン支援のメリット
A ジオンが開発に乗り出した、魔法技術と科学技術を融合させた新兵器に関する情報が入手可能になる。
B ジオンを通して、最新の戦闘データを収集可能になる。
C A、Bのフィードバックによる、魔界の技術・軍事力の向上。
D ジオンの幻想郷統一後、ジオンとの良好な関係を築く礎となる。

ジオン支援のデメリット
a ジオンが敵対勢力になった場合、支援しなかった場合に比べ、ジオンの脅威度が増大する。
b ジオンが他勢力と紛争状態になった場合、魔界が巻き込まれる可能性が増大する。


・結論
ジオン設立目的が①のシナリオの場合
→ジオンに対する支援は必要なし。

ジオン設立目的が②のシナリオの場合
→水面下での支援を実施。

ジオン設立目的が③のシナリオの場合
→積極的な支援、若しくはジオンへの先制攻撃。当委員会としては、ジオンへの先制攻撃を推奨する。







なんだこれは…
役人達め…久しぶりに仕事が回ってきたから調子に乗ってこんなものを…

アリスから送られてくる情報だけで、ここまで纏め上げたのは大したものだが。
それゆえに、かなり荒いレポートだ…

こんないい加減なレポートで、神綺様が動くとは到底思えないが…
現に神綺様は動いている…




やはり、何かが始まろうとしているのか?




side ハニュー

流石に、飲んでから三日目になると、二日酔いも全快するなあ~
今日は良い天気だし、仕事日和だな。
さてと、今日は色々と持ってこられた案件を処理しましょう。


「う、ううん…      ハニューちゃん…もう大丈夫なの??」

ありゃりゃ、起こさないように気をつけていたのに…
大ちゃんが起きちゃった。

「もう大丈夫さ!!俺はちょっとやることあるから、大ちゃんはゆっくりしていってね!!」

「う、うん…お仕事…頑張ってね…」

お仕事…
というより、部活だけど。
頑張ってくるよ!!

「じゃあ、いってきます。」

「うん。いってらっしゃい。ハニューちゃん…」

----------



まずは、アリスさんの実家から支援を受ける話です。
まさか、部活動でアリスさんの実家を巻き込むことになるとは…

アリスさんが事前に話をした様子によると、支援してもいいが俺と話しをしてから決めたいとのこと…

これほど大事になってまで、部活を支援してもらわなくても…と思ってしまうのですが、ここまで話が進んでいると逆に引き下がることができない。
それに、オタク活動に理解のある親というのも案外少ないものですし…
是非ともここは、我々の活動を理解していただき、支援してもらいましょう。

しかし、もう回線が繋がる時間なのだが…
全然繋がらないな。
なんでも、原因不明の通信障害で実家側と協力して対処中とのこと。

ずっと待たされたせいで、なんだか緊張してきたよ…
こういう時は人の字を手に描いて…
なんて、古典的なことをしても意味が無い。

どうすれば…
そうだ、こういう時こそ、いつもの様に過去の偉人に学びましょう。

女性との交渉をした過去の偉人といえば…

『お茶の用意を。』『私はダージリンがいいな。』

!!

そうですよね!グリーン・ワイアット大将!!
あなたはガンダム0083世界の人ですけど 、シーマ・ガラハウとの交渉の前であっても、自らのペースを崩さないその姿勢は大切だと思います。

「お茶の用意を。」

「ハニュー総帥!?」

「俺はダージリンがいいな。」

「は、はい!!」


----------


紅茶が美味い。

よく考えてみたら、所詮は親御さんとの会話だからな…
肩から力を抜いて、普通に会話すればいいか~

「ハニュー?やっと、回線が繋がったわ。映像も送れるようにしてあるから。アホ毛の生えているほうが私の母さんだからね…」


『初めまして。私が魔界の神でありアリスの母である神綺です。
 あらかわいい。あなたがハニューなの?思っていたより、随分と可愛い子なのね?』

いきなりこの人、魔界の神とか言っちゃってるよ!?
アリスさんと同じネタかよ。
見た目が全然似てないが、やっぱり親子だな…

「…フッ、レディは人を待たせるものと思ったがな。フッフッフ…自らを魔界の神と称するのか…これは面白い冗談だ…」
しまったああ!!
ワイアット気分のままで喋ってしまった!!
しかし、ちゃんと冗談を褒めたのでOKですよね!

『フウン…それではあなたは何なの?』

「“ハニュー”ですよ。『はじめまして』」
ワイアット気分が悪かったのか、ちょっと怒った感じの雰囲気で「あなたは何なの?」
って聞いてきたので、笑いを取るためにネタで返しました。
しかし、突然キャラを変えたので、なぜか泉水さんになっちゃったけど。

あ、神綺さんちょっと驚いた顔をしてる…

どんな会話にもネタで返すことができる。
どうだ、これがオタクの会話のテクニックという奴だ!
さあ!さあ!存分に驚くがいい!!

『へえ、楽園の革命家とか、遙かなる蒼とか二つ名をつけて来るかと思ったけど…』

スルーですか('・ω・`)

でもその二つ名…
カッコいいじゃないか、いや…だからといって、俺に名付けた所で名前負けだろ。
「俺にはそんなもの必要ない。」

『先ほどは失礼したわ。それでは交渉を始めましょう。可愛いお嬢さん。』

矛を収めてくれたみたいだし、これからが本番か。
しかし、また可愛いお嬢さんと言われた。
そんなに褒められたら、嬉しくなっちゃうじゃないか。
別に男に興味は無いが、せっかく女になったからには不細工より、可愛いほうがいいですからね!

「お世辞とはいえ、あなたのように綺麗な方に可愛いと言っていただけるとは光栄です。」

『…まあそう…』

さて、まずはこちらからお礼を言って、会話を始めるのが常識だよね。
もちろん、相手を思いっきり持ち上げる方向で…

「今回は、俺達の活動を支援していただくことになり、ありがとうございます。
 文化活動が乏しい中、私達の文化活動をあなたのような立場の方に理解して頂けるとは感激の極みです。」
部活動を文化活動というのはちょっとあれだけど、ジャンル的には文化部系だからねぇ。
それに、オタク活動の支援ありがとうございマースじゃ、ちょっとかっこ悪いし。

『文化活動…面白い言い方をするわね…』

まあ確かに、ちょっと無理がありますか、でも…

「どこで誰が聞いているかわかりませんから。文化活動としておいた方がいいかと。
 それに、支援していただくときも、文化活動の支援ということなら、何かとやりやすいでしょう。」

ただ、なんというかオタク活動の支援って人に聞かれると恥ずかしいし…
こういう名前の方が絶対にカッコいいって!

『…それもそうね。では私達の文化活動について話を始めましょうか。

 今回の文化活動の支援を行うに当たり、あなたにいくつか質問があるの?いいかしら?』

質問?なんだ?
気になるな…
「構いません。」

『あなたは、何のためにジオンを作ったの??』

なるほど、部活動を支援するにあたり、どんな目的の部活かが知りたいのですね。
確かに、反社会的な目的の部活を支援するわけにはいかないからな。
というより、そんな部活だったらアリスさんを即刻辞めさせるよな…

えーと…
困ったな…
実は、知らない間に勝手にできてました!とか言えないし…
何かそれっぽいことを言って誤魔化そう。

「虐げられた者達が、本来の姿でいられる場所を確保するため。」
うん。
なかなかいい言葉だ、厨二っぽくて。
おまけに、この厨二っぽさが逆にリアリティを出しているしw

まあ実際にも、オタクが自分を曝け出せる場所ってあまり無いからな。
社会的にも、未だに虐げられてるし。

『それは…今の幻想郷で十分じゃないの?』

いや、全然十分じゃないと思います。
オタクの集まりなんて、うち以外にはどこにも無いだろ。

「十分じゃない。」

『そう…十分じゃないの…ではどうする気なの?』
え…
そりゃ布教活動するしかないだろう。

「このまま仲間を取り込み、組織を拡大する。」

『武力を使って?』

「そんなことはしない。あくまで本人の意思によって、入ってもらう。」
いや、力ずくで部活に入れるって、そんなの無いだろ。
どこのジャイアンだよ。
ゲンソウキョウ的発想としては間違ってないけど…

しかし、この重苦しい雰囲気は何だ!?
画面を通してビシバシ圧力がかかって来ている気がします。
アリスのお母さん、さっきから全然笑わないし…

『でも、あなた達の考えを理解せず、力を持って邪魔する奴らも出てくると思うけど?ただの理想論に聞こえるわよ?』

「あんた馬鹿ぁ?ワケわかんない連中が攻めてきてんのよ?降りかかる火の粉は払いのけるのが当たり前じゃない!」
なんだか厳しいこといわれるし、シリアルで辛いのでネタを入れて返答してみました。

でも、やっぱり笑ってくれないのね('・ω・`)


『フフフ…愚問だったわね。そのあたりはちゃんと分かっているようね。馬鹿にしたわけじゃないの、ただの年寄りの説教よ、ごめんなさい。』

いや、ネタに対してそんな真面目に返されると、こちらも困るというかなんというか…
確かに、ゲンソウキョウ的常識だと、部活動を力ずくで邪魔してくる奴らがいそうで怖いのは事実だが…

『もう一ついいかしら?組織を拡大させるそうだけど…もしも、幻想郷をジオンが支配したらジオンを使って次は何をする気かしら?』


なんだその質問は…
ゲンソウキョウをジオンが支配だと!?
つまり、ゲンソウキョウがジオン部化ということか!!
色々ありえない仮定だが、そんな事態になったら…





いいかも…

ゲンソウキョウを生物兵器の実験場から解放するために、その状況は役立つかもしれない。
普通の人間だったら、俺達が生物兵器だっていうだけで嫌悪感を持ったり、何か異質なものとして差別してくる可能性があります。
まあ、容姿の恩恵をかなり受けられそうな子達ばっかりなのが不幸中の幸いですが、それでも普通の人々に…
いや、世界に受け入れてもらうためには、もっと色々な工夫が必要になるはずです。

そんなときに、ゲンソウキョウの生物兵器達が実はオタクだったということだったら、かなりの親近感を得られるかもしれない。
共通の話題というの物は、時には見た目といったものを超越する力を発揮するからな。

しかも、ゲンソウキョウの住人達は某極東にある国のオタクにはかなり受けそうな気がする。
なんというか、コスプレとかさせたら大人気になりそうなルックスの子達ばっかりだし…

腐っても鯛な某国の世論を同情的なものにするだけでも、俺の計画には相当なプラスになるかもしれない…
それを考えると、ジオン部を拡大させて普通の人間(オタク)とゲンソウキョウの住人(オタク)の交流の窓口にできれば…


所詮、都合のいい妄想だが…
何も無い現状よりは、よっぽど良さそうだ。





『言えないようね…』

なんというか、こんな計画を現時点では話せないというか…
答えようが無いというか…
「時が来たらお話しすることができるでしょう。現時点で言えることは…ゲンソウキョウの住人達を救うために使うということだけです。」


『そう…トップシークレットという訳ね。』




そうです。
トップシークレットです…
こんなので、納得してもらえるのか??



『…では支援の具体的な話に入りましょう。さて、あなた方への支援ですが、これによって双方に多大なメリットがあるのは、お互い分っている通りです。
しかし、この支援を実現するためには三つの条件があります。』

よかった、とりあえず納得してくれたみたい。

えっと。
具体的にどういった支援をしてくれるのか、俺は知らないのですが…
今更、支援って何ですか?って聞いたら、俺もアリスさんも恥を書くからなあ、ここは黙って話を進めよう。

「条件とは?」

『一つ、どのような支援をどのような条件で供与するか、我々の主導で決定する事。一つ、我々の関与は一切公開しないこと。一つ、アリスを、即刻引き渡すこと。』

!?

『アリスはジオンの活動のために魔界の技術を流出させました、これは重罪に当たります。』

…え!?
どういうこと…?
これって、魔界ってゲンソウキョウのどこかにある本当の場所ってことで、ジオン部のためにアリスさんが技術を流出させたので、それが魔界のルールに触れたってこと!?

「ちょっと待ってください!!アリスさんは、魔界に連れて行かれたらどうなるのですか!?」

『それはまだ分かりません。しかし、ただでは済まないでしょう。』

そんな…どういうことだよこれ…
いや、おかしいだろ、たかが部活動のためにアリスさんが「ただでは済まない」事態に!?
さすがに、それは認められないよ!!
それに、あなたはアリスさんのお母さんだろ!!それでいいのかよ!!

「そんな…母さん?いつもの冗談よね?」

『今の私は、母として話しをしている訳ではありません。』


「そ、そんな…う、ううううう…」



なんだよこれは!!!
とにかく、支援してくれる話を即刻断らないと。

「アリスさんを犠牲にしてまで、支援してもらう必要はありません!」

『若いわね…組織の長として間違った決断だと思わないの?あなたの目的のためには、我々の技術が絶対に必要じゃないの?
 アリス一人の犠牲で多くのものを得ることができるのよ?簡単な算数のはずよ?』

目的!?
ジオン部を作った目的は、後付だけど、オタクが自分をさらけ出せる場所をつくり、幸せにしてあげることだ!
その目的のために、部員であるアリスさんを不幸にしたら本末転倒だろ!
それに、部長として部員を守るのは当たり前だろ!!
「それは違う!!!!俺は…俺達は…仲間を犠牲にすることなんて絶対にしない!!」



『私の提案を無下に断るなんて…あなた?覚悟は出来てるわね?』
いや、だって間違ってるし!話がおかしいし!!

「絶対に、アリスさんは犠牲にしない!アリスさんは絶対に守ってみせる。」
泣き崩れるアリスさんを抱き寄せる。
ああー!!もう話が滅茶苦茶になってきたし、アリスさんのお母さんって怖そうだけど…
だからって、俺のためにアリスさんを犠牲にするわけには絶対にいかないよ!!

『では、これからそちらに行って、あなたを殺しアリスを連れ帰りましょう。』

こ、怖いいいいいい!!
決意が鈍るーーーーー!!
でも、多分大丈夫さ、こっちに来たらルーミアとか、お嬢様とか、妹様とか、博麗の巫女が代わりに戦ってくれるさ!
「やれるものならやってみなさい!!!ハニューは、母さんなんかに負けたりしないわ!!!」

ちょ、アリスさん!?

「ハニュー…二人で母さんを…倒しましょう!!」

げ、げえええええ!?
ちょっと、なに暴走しているんですか!?
お、俺が戦ったら駄目だって!?

これって、アニメとかでよく見る勝利フラグかもしれないけど、主人公補正が無い奴が言うと完全に死亡フラグですよ!?






『あらー、生死を賭けてアリスちゃんを守るのね~。それじゃあ、アリスちゃんを一生守ってもらおうかしらー。』



!?


『試させてもらったわ~。ハニューさん。ごめんなさい。

 あなた方への支援、正式に受けさせてもらうわ。
 細かい点の交渉については、後日、夢子という者に当たらせるわ。
 日程についてはアリスと調整するから、よろしくお願いするわね。
 

 この支援によって、魔界とジオンの双方が繁栄することを、切に願っているわよ。




 有意義な時間だったわ、あなたと肩を並べる日を楽しみにしているわ。
 さよなら…あ、そうそう…今度は個人的にお話ししましょう。』




( ゚д゚)( ゚д゚)ダブルポカーン





side 神綺

『ハニュー?回線が繋がったわ。映像も送れるようにしてあるから。アホ毛の生えているほうが私の母さんだからね…』

アリスちゃん酷いわー
昔は「母さんの髪型可愛くていいな~」って言ってくれたのに…
それをアホだなんて…

育て方を間違えたのかしら?
母さん泣いちゃう…


なーんてことを言っている場合じゃないわね。
今日は真面目にお仕事しないといけないわ。

「初めまして。私が魔界の神でありアリスの母である神綺です。
 あらかわいい。あなたがハニューなの?思っていたより、随分と可愛い子なのね?」

偽の通信障害を演出し、わざと会談時間を遅らせ、相手を焦らした上で、まずは一発。

焦らされ、精神的に圧迫されている状態で、上から物を言われることの無い立場の者が、頭ごなしに可愛いといわれる。
相手を動揺させ、交渉の主導権をこちらに奪うテクニック…

さあ、どんな反応をしてくれるかしら?

『…フッ、レディは人を待たせるものと思ったがな。フッフッフ…自らを魔界の神と称するのか…これは面白い冗談だ…』

!?
紅茶を飲みながら、待っていたですって!?
なにこの子、随分と余裕じゃない…
おまけに、散々待たされたはずなのに、待たせていないと皮肉を言ってくるなんて。
しかも、私が神であることを冗談とまで言う!?

この子、思った以上にできる!?
そういえば、何処となく、政治の世界の闇を歩き…そしてのし上がってきたような雰囲気を感じる…

しかし、それなら尚の事、あなたはいったい何なの?
「フウン…それではあなたは何なの?」


『“ハニュー”ですよ。「はじめまして」』
そんな当たり前のことを、底知れない雰囲気で言ってくるなんて、本当にいったい何なのこの子!?


まずいわ…
相手のペースに飲まれている。
皮肉の一つでも言って、相手のペースを乱さないと。

「へえ、楽園の革命家とか、遙かなる蒼とか二つ名をつけて来るかと思ったけど…」

『俺にはそんなもの必要ない。』

なるほど、ただの三下ではない様ね…

自分は、こんな二つ名や肩書きなど、必要も無いほどの実力者だというのね。
そして、魔界の神という肩書きを言った私をあざ笑ったと。
確かに、二つ名や肩書きをつけて喜んでいるのは、ただの三下だったわね。

私も、長い魔界生活でちっちゃくなったものね…

「先ほどは失礼したわ。それでは交渉を始めましょう。可愛いお嬢さん。」

と、油断させてもう一発。

『お世辞とはいえ、あなたのように綺麗な方に可愛いと言っていただけるとは光栄です。』

「…まあそう…」
フフフ…不意打ちにも一切動揺無し。
これは、準備していたというより、本当に肝が据わっているようね。


『今回は、俺達の活動を支援していただくことになり、ありがとうございます。
 文化活動が乏しい中、私達の文化活動をあなたのような立場の方に理解して頂けるとは感激の極みです。』

「文化活動…面白い言い方をするわね…」
文化活動?ジオンの活動が文化活動?

『どこで誰が聞いているかわかりませんから。文化活動としておいた方がいいかと。
 それに、支援していただくときも、文化活動の支援ということなら、何かとやりやすいでしょう。』

なるほど。
慎重ってだけじゃない。
これは、我々がジオンとの接触を隠したがっていることも、既に読まれていると考えるべきね。

これまでの情報で判明したジオンの力。
そして、先ほどまでの会話から見て…
魔界の交渉相手として、不足は無い。
これは本当に交渉へと進むべきね。

「…それもそうね。では私達の文化活動について話を始めましょうか。

 今回の文化活動の支援を行うに当たり、あなたにいくつか質問があるの?いいかしら?」

『構いません。』

「あなたは、何のためにジオンを作ったの??」

ジオンとの交渉を進めるにあたり、最大の問題。
それはジオンの目的が不明確なこと。
これが解決しない限り、我々のジオンへの態度は決められない。

本来なら、もっと変化球で攻めるべきでしょうけど。
この子相手に下手な変化球は危険。

『虐げられた者達が、本来の姿でいられる場所を確保するため。』

虐げられた者?
それは妖精のこと?
いや、そうじゃない。
アリスちゃんの話では、ジオンには妖精以外も多数参加している…
だからこれは、幻想郷の住人全てを指している言葉。
しかしそれなら、今の幻想郷で十分じゃないかしら?
幻想郷のあり方そのものが、外の世界に虐げられた存在が集まる場所…

「それは…今の幻想郷で十分じゃないの?」

『十分じゃない。』

「そう…十分じゃないの…ではどうする気なの?」
今の幻想郷が彼女にとって不十分なら、いったい何をする気なの?

『このまま仲間を取り込み、組織を拡大する。』

「武力を使って?」
なるほど…
組織を拡大し、幻想郷を乗っ取り、自らの考えた新体制を作るのね。
それなら、ジオンの武力はそのためかしら?

『そんなことはしない。あくまで本人の意思によって、入ってもらう。』



「でも、あなた達の考えを理解せず、力を持って邪魔する奴らも出てくると思うけど?ただの理想論に聞こえるわよ?」
そんな理想論じゃ上手く行かないと思うけど、まさか本気で思っていないわよね?
そんな青い理想論じゃ話にならないわよ?

『あんた馬鹿ぁ?ワケわかんない連中が攻めてきてんのよ?降りかかる火の粉は払いのけるのが当たり前じゃない!』

「フフフ…愚問だったわね。そのあたりはちゃんと分かっているようね。馬鹿にしたわけじゃないの、ただの年寄りの説教よ、ごめんなさい。」
青い理想論者でもない…
ここまでは完璧ね…
それにしても、馬鹿か…フフフ…久しぶりに言われたわね…対等に話せる相手なんて、本当に久しぶりだわ。
このまま、ずっとお話していたいわね。

でも、今は交渉中。

そして、この子は最も危惧すべき点には何も答えていない。

「もう一ついいかしら?組織を拡大させるそうだけど…もしも、幻想郷をジオンが支配したらジオンを使って次は何をする気かしら?」












急に黙り込んだ。
やはりこれは、簡単には言えない内容のようね。
「言えないようね…」



『時が来たらお話しすることができるでしょう。現時点で言えることは…ゲンソウキョウの住人達を救うために使うということだけです。』
時が来たらとはね…
やはり、ジオンの設立にとって幻想郷の支配は通過点でしかない。
さらにその先があるのは間違いないようね。

しかし、こういう言われ方をすると判断に困るわ。
「そう…トップシークレットという訳ね。」

殲滅すべきか、手を結ぶべきか。
彼女が高い手腕を持っていることはわかった。
敵にすると厄介な相手。

それだけなら、手を結ぶべき。
しかし、組織の真の目的が見えない状況では…
態度を決めることが難しい。

ジオンを完全に無視するという手もある。
しかし、実際に話してみて分かった。
例え魔界が手を貸さなくとも、間違いなくこの組織は幻想郷を統一する勢力になる。
そして、魔界は否が応でもその歴史のうねりに巻き込まれる。
無視すれば、魔界にとって重大な損失になる。

こうなってくると、個人として信用できるかどうかを判断基準とするしかない…
少し揺さぶりをかけて見ようかしら…


「そうなの…では支援の具体的な話に入りましょう。さて、あなた方への支援ですが、これによって双方に多大なメリットがあるのは、お互い分っている通りです。
しかし、この支援を実現するためには三つの条件があります。」


『条件とは?』

「一つ、どのような支援をどのような条件で供与するか、我々の主導で決定する事。一つ、我々の関与は一切公開しないこと。一つ、アリスを、即刻引き渡すこと。」

驚いているわね。

「アリスはジオンの活動のために魔界の技術を流出させました、これは重罪に当たります。」

アリスちゃんに偽の罪を被せ、交渉条件に入れる。
さて、アリスちゃんと個人的な友好関係にあるあなたは、どのようにしてこのピンチを切り抜けるのかしら?

『ちょっと待ってください!!アリスさんは、魔界に連れて行かれたらどうなるのですか!?』

「それはまだ分かりません。しかし、ただでは済まないでしょう。」

思った以上に動揺しているわね!?

『そんな…母さん?いつもの冗談よね?』

『今の私は、母として話しをしている訳ではありません。』


「そ、そんな…う、ううううう…」

ごめんなさいアリスちゃん。
あとでいっぱい慰めてあげるから、今は我慢してね。




さあ、ハニュー。
あなたの本性を見せてもらうわ。


『アリスさんを犠牲にしてまで、支援してもらう必要はありません!』

!!
交渉内容の変更ではなく、交渉そのものを断ってきた!?


「若いわね…組織の長として間違った決断だと思わないの?あなたの目的のためには、我々の技術が絶対に必要じゃないの?
 アリス一人の犠牲で多くのものを得ることができるのよ?簡単な算数のはずよ?」

組織の長なら…
目的があって戦争をする準備をしているのなら、どうにかして妥協点を探ると思ったのに…
まさか魔界との交渉を捨て、アリスを取るとは思わなかったわ。

『それは違う!!!!俺は…俺達は…仲間を犠牲にすることなんて絶対にしない!!』


仲間を犠牲にしない…
まさか、組織としてまとまりの無い者達ばかりの幻想郷の住人から、こんな言葉を聞くことになるなんて!!

しかしこの突然の豹変、本気なの?演技なの?

「私の提案を無下に断るなんて…あなた?覚悟は出来てるわね?」


『絶対に、アリスさんは犠牲にしない!アリスさんは絶対に守ってみせる。』

この表情…本気のようね…

しかしこの子、危うい…
あれほどの交渉力を持った人物だったのに…
近しい者が犠牲になることを知った瞬間、ここまで脆く崩れるなんて…

やはり、アリスちゃんからの話にあったように、無理をしているというのは本当のようね。


でも…
だからこそ、もの凄くいいわこの子。

「では、これからそちらに行って、あなたを殺しアリスを連れ帰りましょう。」


『やれるものならやってみなさい!!!ハニューは、母さんなんかに負けたりしないわ!!!』

フフフ…

『ハニュー…二人で母さんを…倒しましょう!!』




まったく…この子最高ね。

今ま出会った高い交渉力を持った奴等は、心の中まで計算高くて、人として信用できない奴らばっかりだけど…
この子は違う。
この子は、個人として信用に値する。

欠点を晒した情の強さ…
しかしこれは強みでもある。

仲間になれば、これほど信頼できる相手はいない。

そしてこの欠点も…
逆に言えば、周りがそれを補ってあげればいいだけ。
例えば、指導者として長い経験を持つ者が助言してあげるとかね…

そうすれば、間違いなくジオンは幻想郷に統一し、新体制を作り出すことができる。
そしてそれは、組織力というこれまでの幻想郷の住人にとって最大の欠点を補い…
外の世界に対抗しうる力へと成長するはず…



私が危惧する世界情勢へと進んだ場合、魔界にとって欠かせない同盟相手となる。




これは決まったわね…



「あらー、生死を賭けてアリスちゃんを守るのね~。それじゃあ、アリスちゃんを一生守ってもらおうかしらー。」

大ちゃんという恋人がいなければ、同盟締結の証としてアリスちゃんを一生お願いしたかったわ、なんてね。
フフフ…
道化を演じるのがこんなに楽しいなんて久しぶりね。


『試させてもらったわ~。ハニューさん。ごめんなさい。

 あなた方への支援、正式に受けさせてもらうわ。
 細かい点の交渉については、後日、夢子という者に当たらせるわ。
 日程についてはアリスと調整するから、よろしくお願いするわね。
 

 この支援によって、魔界とジオンの双方が繁栄することを、切に願っているわよ。




 有意義な時間だったわ、あなたと肩を並べる日を楽しみにしているわ。
 さよなら…あ、そうそう…今度は個人的にお話ししましょう。』


これで魔界の未来も安泰…
とは行かないわね。

これで保険はできた。
しかし、その保険を効かすには、忙しくなるわね。


あーあ。
でも、冗談ではなく、アリスちゃんの相手にちょうど良さそうなのにー
恋人がいるなんてー

政略結婚もありだけど、アリスちゃんの性格なら、きっと負い目を感じちゃうだろうし…



----------


「神綺様!これでよろしかったのですか!?」

夢子ちゃん…

「よかったのよ。ハニューは、予想以上にいい子だったわ。
 ただの冷酷で計算高い指導者だから、魔界の脅威になる前に潰そうと思ったけど………やめたわ。
 アリスちゃんへの対応を見る限り、アリスちゃんが話していた通り、心身を削って幻想郷の平和と安定のために戦っている心優しい指導者というのが真の姿みたいだから、ね。」

「はあ…しかしそれでは指導者としては危ういのでは?優しい心は必要ですが、冷酷な計算が必要なときもあります。
 それに、そのようなタイプは逆に行動が読めないので、突然我々に牙を剥く恐れも捨てきれないのでは?そのような相手の支援をする必要など…」

「そのあたりの危うさは、私がしっかりと支援してあげればいいのよ。そうなれば情に弱いハニューは、簡単に魔界に牙を剥くことはできないでしょう。
 それに、アリスちゃんが予想以上にハニューへの牽制になるから大丈夫だわー」

「つまり、神綺様が指導者としてのハニューの先生になる…いや、まさかハニューを神輿として担ぎ上げ、裏で神綺様が実質的に全てをコントロールする気ですか?」

「私はそこまで悪人じゃないわよ…。さあ、夢子ちゃん。おしゃべりは終わりにして、細かい交渉の準備をお願い。
 盗み聞きしていたのだから、ちゃんと交渉の焦点は分かっているわよね?」

「あ…はい、神綺様。お任せください!
 ①魔界からの支援は全て水面下で行う。また、その支援方法も文化的協力とし、神綺様とアリスとの家族関係でのやり取りという建前をとる。
これにより、支援関係が発覚した場合においても、政治的な逃げ道を確保する。
 ②ジオン側からの技術流出の危険性を鑑み、提供技術においては魔界の主導によって決定する。
 ③技術提供の見返りとして、技術を使用した際のデータ提供を求める。これにより、魔界社会の進歩の促進と、他の世界の情報収集を行う。
 あとは…神綺様がハニューの先生になるという話ですが…」

「建前としてはそれでOKよ。最後のは、特に何かしなくていいわ。あくまで、アリスちゃんを出汁にしたお話という形で当分は進めるわ。
 それと、もっとジオンに協力的な態度で望んでくれて構わないわ。建前が許す限り、協力してあげなさい。」

「は、はあ。」

夢子は納得行かないみたいだけど、それも仕方ないわね。
だって私、二人のあんな姿を見せられたせいで、魔界の神としてではなく、母としてアリスちゃんのためにジオンを支援してあげたくなっちゃったんだもん。
それにハニューの事が、気に入ってしまったのよねー

私も指導者失格ねー



----------

side 小悪魔

「小悪魔さんの綺麗な姿を見るだけで、酔っ払ってきちゃいましたよ。」

ゾクリ…

そんなに照れた顔で、そんなことを言わないでくださいよ。
興奮してきちゃうじゃないですか…
綺麗だなんて…そんなに私が欲しいんですか?

あ、まずい…
淫魔としての本性が出かけてる…
抑えないと…

「さっきから全然飲んでいないじゃないですか…まだまだこんなにあるから遠慮しないでください!」
今日は淫魔としてではなく、友人としてハニューへのお礼のために来たのよ!!
さあ、さあ!!もっといっぱい飲んで!!



----------



…イマイチ飲みっぷりが悪いですね…


「これ以上出さないで…もうお腹がパンパンです…」

ええ!?
まだ全然飲んでいないじゃないですか!?
それなのに、ソファーにもたれかかるなんて、逆に怪しすぎですよ!!



「どうして飲まないのですか?」
もう、私のお酒が飲めないって、どういうことですか!?

ぷーって
怒っちゃいますよ?

って…
そんなに、怯えた顔をしないでくださいよ。
あくまで、怒ったふりですよー?



ほら、いつまでもそんな怯えた顔をするのなら、こうやってくすぐって…
強引に笑わせちゃいますよ!


こちょこちょ~




あ…



流石、妖精の肌だけあって…
もの凄くいい触り心地…














ゴクリ…




ハッ!?



あ、あれ?
くすぐっていたはずなのに…
いつの間にか、明らかにアレの時の手の動きになってますよーーーーー!?
ま、まずいですよ。段々、淫魔の本性を抑えきれなくなってますよ!?

だいたい、どうしてハニューちゃんも、服の中まで手を入れられているのに抵抗しないのですか!!


「小悪魔さん、折角だけどこれ以上飲んだら完全に酔っ払っちゃうよ…そして酔っ払ったら、俺はこの前の夜の小悪魔さんと同じ状態に…」
ちょっといきなり何を…ってあの日の夜の私と同じ状態にハニューが!?
あの日の夜は、結局最後は私がハニューを求め続ける展開になって…


ああそうか、今のハニューちゃんはギリギリなんだ…
必死に耐える表情をして、私に警告を出すぐらい、心は抵抗しているのに…
こんなに危険な所まで触られているのに…顔を真っ赤にする以外、抵抗しない体…

心は折れていないけど、体は完全に折れちゃったんだ…






あ、駄目…完全にスイッチが入っちゃった…



クスリ…



「フフフ…つまり、私に手を出しちゃうから駄目ってこと?」

ほらほら、もっと正直に言ったらどうなんですか?

「そういうこともあります…」

フフフ…
まったく可愛いですね。
私とパチュリー様の関係を考えて、我慢するなんて…
「また私のことばかり考えてる…もう…本当に馬鹿ね…でもそういうところ、大好きですよ…」
馬鹿な考えですけど、そういういじらしい所、大好きですよ。

だから…
ほら、捕まえた…
今晩はもう離しませんよ…

「今晩だけは、一緒に過ごしたあの夜に戻りませんか?」
さあ、今晩だけ恋人に戻って楽しみましょう?
何も遠慮は要らないですよ。

「飲みすぎだ、もう帰ったほうがいい…」
うそつき…
それなら、どうして私を放さないのですか?



えい!



さあ、押し倒しちゃいましたよ…

「パチュリー様はお嬢様とパジャマパーティの予定なんですよ…だから大丈夫です…」
今晩は誰も邪魔してこない…
二人だけの世界…


さあ、どこから攻めてほしいですか…



「一人分だけですが、食事を持ってまいりました。」



なんて空気を読めない妖精…








「お帰りください。」

!?
違う、『一人分だけですが』ですって!?おまけにこの殺気。こいつ、分かっていて邪魔してきた!
そんな無粋な妖精は…

淫魔の魔力で、ヘロヘロにしちゃいますよー。






!!

まったく効いていない。
この妖精…
実力、精神のあり方ともに、普通の妖精とは全然違う…


間違いなく強い…



はぁ…
「もう、雰囲気が台無しですよ。」

雰囲気もぶち壊れてしまいましたし…
下手に戦って肌が傷ついたりしたら、パチュリー様や「ハニュー」に嫌われてしまいますから。
今日の所は、撤退するしかないようですね。



----------



あーあ…
この前は、据え膳を食べ損ねちゃったなあ…
今から思い出すと、もっと押しを強くして、早めに進めていけば良かった…

!!

って最近、気を抜くと淫魔の思考に流されてばっかり…

そりゃ、淫魔としての自分を受け入れたけど、年がら年中、頭の中が春になったら、常識が吹き飛んで馬鹿になってしまいますよ~




よし、今日は自分が淫魔であることを忘れて、図書館の司書としてのお仕事に没頭しますよ!
















あら珍しい。
こんな図書館の奥で誰が本を読んでいるのかと思ったら。
大ちゃんが本を読んでいるなんて。

「こんな所に一人でいるなんて珍しいですね。いったいどうしたんですか?」

あらら?
ずいぶんと不安そうな顔をしていますが、どうしたんでしょうか?

「実は…ハニューちゃんの体調が悪いみたいだから、何か参考になる本がないかと思って…」

ハニューちゃんの調子が悪い??だから外の世界の医学書『家庭の医学』を読んでいたのですか。
しかし、あのハニューが調子を崩すなんて、ただの病気とは思えないですね…

「…それで、何かわかりましたか?」

「似たような症状のが、さっき見つかったけど、たぶんこれは違うと思うの。」

似たような症状…?

『悪阻(つわり) 妊娠初期に見られる嘔吐や、食欲不振等の不調のこと。またこの時期、酸っぱいものや塩辛いものを好んで食べるようになる者も多い。』

ゑ?

「ハニューちゃん、ここ数日吐いてばっかりだし…ご飯も全然食べたがらないの。それに私に、何度も塩水を持ってきてくれって…
 だからこれかなって思ったんだけど…これって妊娠したときに起きる症状だって書いてあるから、ちょっと違うなって思って…
 赤ちゃんってどうやったら出来るかよく分からないけど、ハニューちゃんはまだ結婚してないから関係ないはずだし…」







えっと…
ハニューちゃんとヤッちゃったのは何日前だったっけ…



な、何かの間違いですよね???

「…どうしたんですか小悪魔さん?顔が青いですよ?」

!!

「イ、イヤ、ナンデモナイデスヨ。」



side 大ちゃん

なんだかアリスさんや周りの人たちが、ハニューちゃんの体調をもの凄く心配しているみたいだから…
二日酔いだっていうのは嘘なのかと思って、ハニューちゃんがお仕事の間にこっそり調べに来たけど…
やっぱり、二日酔いなのかな?

どれだけ調べても、いつもたどり着く先は、二日酔いになっちゃう…



side ハニュー

さて、アリスさんのお母さんとの話が終わったので、次のお仕事?に移ってます。
なんでも、アリスさんと、にとりさんは、紅魔館の図書館を使いたいとのこと。
でも、それが不可能なので、盗み出すとか物騒なことを言っていました。

アリスさんとにとりさんは、紅魔館の人間じゃないから使えないのかなあ…
正直分からないのですが、図書館で司書をしている小悪魔さんに頼みに行くことにしました。
まあ、ちょこっと本を借りるぐらい大丈夫でしょう。








「ア、アラ、ハニューチャンジャナイデスカ?ど、どうしたんですか?」

あれ?小悪魔さんの様子が変ですね。

「小悪魔さんどうしたんですか?様子が変ですよ?」


「あの…何かの間違いだと思いますけど、最近調子が悪いのって…私は何も関係ないですよね?よね?」

いや、思いっきり関係ありますよ。
二回目の二日酔いの原因は、小悪魔さんが俺が嫌だと言っているのに、次々とお酒を出すからじゃないですか!

「何を言っているんですか!俺が嫌だって言ってるのに、小悪魔さんが話を聞かないでお腹がパンパンになるまで次々と出すからこんなことに!!
 本当は、責任とって欲しいぐらいなんですよ!!!!!」

「お…」

お?

「オワタ!!!!アハハハハオーワター!!!淫魔の体ってすごーい、生えるんだ~アハハハハ~」

こ、小悪魔さん!?

小悪魔さんが壊れた!!!
変なことを口走りながら、走り回ってる!?

???俺って何か変なこと言ったりした!?
「小悪魔さん!?しっかりしてください!!どうしたのですか!?
 俺は、別に変なことを言っているのではなくて、まずはちゃんと認知してほしいと言っているだけなんですよ!?」
ちゃんと俺にお酒を飲ましまくったことを認知してくれれば、それでいいと言っているだけですよ!?

「なんの解決にもなってなくてワロタwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

小悪魔さん!?どちらへ!?

















                                             「ディバインバスター!!!」
                                              
                                              ジュ!


ちょ!?
極太ビームが図書館内に走った!?

いったい何なんだ…

そ、そんなことより、早く小悪魔さんを探さないと…







!!

こ、これは!?


小悪魔さんが消し炭に!?
だ、誰がこんなことを…









「モードリリース…」

誰!?






大ちゃん!?
どうしてこんな所に?
あ、その服装可愛いね、まるで『リリカルなの●』のな●はみたいだよ。



「ねえ、小悪魔さん。ちょっと…お話しようか?」


あ、あれ?

何故だか分からないけど、このまま小悪魔さんを放置したら、二度と小悪魔さんに会えないような気がするよ!
「小悪魔さん気をしっかり!!はやく気が付いて!!」




「ハニューちゃん…」

は、はい!?

「小悪魔さんと何があったの…?何故だかわからないけど、返答次第では使い切れなかった魔力をかき集めて…それから収束させて放つか…
 お腹の中に誰かいるか確認しなくちゃいけない気がするの!!」

あひゃ!?

「い、いや…ただお酒を一緒に飲んだんだけど、小悪魔さんが俺を嫌がるのにお酒をどんどん出して…それで二日酔いになって…」


「なんだ!やっぱり二日酔いなんだ!ビックリした…」



は、はあ…




----------


10分ぐらい小悪魔さんが気を失ってしまいましたが、やっと気を取り戻したようです。

「あれ、ハニューちゃん…あれ?私どうして寝ているんですか!?
 何か記憶が曖昧になっていて…私は何を話していたのでしたっけ?」

あれ?もしかして記憶がトンでる!?

「えっと、小悪魔さんが無理に俺にお酒を飲ましたので、俺が二日酔いになったという話をしてて…」

「へ?」

へ?

「そういう話でしたっけ!?」

?そういう話のはずだけど。
「そうですよ、ずっとそういう話をしてましたよ?どうしたんですか?何か夢でも見てたのですか?」

「ア、アハハハは!!なんだ、夢だったんだ!!ビックリした!!!大ちゃんが変なことを言うから、あんな変な夢を見るんだ~アハハ~。」

夢?
ま、まあいいか。
とにかく例の件をお願いをしないと。

「それで、お願いがあるのですが…」

「お願い?」

そうです。お願いです。

「俺達ジオンが自由に図書館を使えるように、なんとかしてくれないかな?」

「えっとそれは…パチュリー様の許可は取れると思います…
 ハニューのおかげで、パチュリー様はもはや私無しでは生きていけない状態ですから…
 でも、下手をするとお嬢様を敵に回しかねないので…」

私無しでは生きていけないって…
随分と進んでいるんだな…
しかし、お嬢様を敵に回すってどういうことだ?



ああなるほど。
確かに図書館はパチュリー様の管轄だが、広い意味では紅魔館を管轄するお嬢様の管轄とも言えるから、お嬢様がNOでパチュリー様がOKと言うような事案が起きたら…
お嬢様とパチュリー様が対立したりと色々とややこしい責任問題になりそうだなあ。
二人に明確な上下関係があれば問題ないのだが…二人は友人だからなあ…揉めそう。例えば、誰が責任を取るんだ?とか…
「確かに、責任を取るのが難しいことになるよね?」

「せ、責任を取る!?」



「どうかしましたか?」

「い、いや何でもないです。」


トコトコ…

うん?大ちゃんどうしたの?
小悪魔さんに近付いて。

「ねえ?どうしてハニューちゃんのお願い、聞いてあげないの?
 ちゃんとお話…聞かせてくれるかな?」


「ひ、ひいいい!?分かりました!やります!やらせてくださいい!!」

何が起きたんだ!?


side 小悪魔


あれ…
私どうして…


確か、私がハニューちゃんに●●●●して妊娠させて…
ハニューちゃんから、本当は責任をとって結婚してほしいと言われて…
その後は、まずは認知してくれという話になって…


私の淫魔ライフが終わったというか、ジオン総帥を妊娠させて無事に済むのかというか…
ハニューちゃんと突然結婚しなくてはいけない事態に、パニックになって…あれ?

「あれ、ハニューちゃん…あれ?私どうして寝ているんですか!?
 何か記憶が曖昧になっていて…私は何を話していたのでしたっけ?」

何かとんでもないことが、あった様な????


「えっと、小悪魔さんが無理に俺にお酒を飲ましたので、俺が二日酔いになったという話をしてて…」

「へ?」

あれれ?
何か話が違う…

「そういう話でしたっけ!?」

「そうですよ、ずっとそういう話をしてましたよ?どうしたんですか?何か夢でも見てたのですか?」

「ア、アハハハは!!なんだ、夢だったんだ!!ビックリした!!!大ちゃんが変なことを言うから、あんな変な夢を見るんだ~アハハ~。」
な、なんだ良かった!!!!!!
そうですよね、そんなに簡単には、妊娠したりしないですよね!!!!




夢で、よかった…

「それで、お願いがあるのですが…」



「お願い?」


「俺達ジオンが自由に図書館を使えるように、なんとかしてくれないかな?」

「えっとそれは…パチュリー様の許可は取れると思います…
 ハニューちゃんのおかげで、パチュリー様はもはや私無しでは生きていけない状態ですから…
 でも、下手をするとお嬢様を敵に回しかねないので…」
それは可能ですし、他ならぬハニューちゃんの頼みなら聞いてあげたいですけど…
使うのがジオンとなると…
お嬢様を敵に回すかもしれない事態はちょっと…


「確かに、責任を取るのが難しいことになるよね?」

Σ(・ω・`)ビクッ

「せ、責任を取る!?」
そ、そんな心臓に悪いこと言わないでください!!

「どうかしましたか?」

「い、いや何でもないです。」
アハハハは…
なんだか、自分でもおかしいと思うぐらいに動揺してしまいますよ!?



「ねえ?どうしてハニューちゃんのお願い、聞いてあげないの?
 ちゃんとお話…聞かせてくれるかな?」

あれ…この笑顔…どこかで……

!!!!!!!

「ひ、ひいいい!?分かりました!やります!やらせてくださいい!!」
どうして私、震えが止まらないの!?
どうして、反論できないの!?
どうして、金色の杖を持って、怖い笑顔でビームを撃ってくる大ちゃんの姿が思い浮かぶのー!?


side 河城 にとり

文明を破壊するナノマシン『月光蝶』…
恐ろしい…兵器だ。



しかし、最も恐ろしかったのは、また語られたハニュー氏の物語だ…

ハニュー氏は私と出会った当初から、モビルスーツザクについてまるで物語りを語るような口調で説明していた。
当初は、一見すると複雑怪奇なモビルスーツザクのコンセプトを私に説明するために、即席で作られた架空の物語だと思っていた。

だが、ハニュー氏の話を聞けば聞くほど、即席にしてはあまりにも細かく、そして長い物語であることに違和感が強くなっていった。
そう、まるで本当に起きた出来事のように思えてきたのだ…

一度違和感を持った後は、その違和感は強くなる一方だった。

なぜ、語られるモビルスーツザクの開発の物語は、整合性ある一方で、混乱があるのか?
それは、実際に開発が行われていたから。そして、実際に起きた混乱も全て語られているからではないのか?

なぜ、開発に無用な人物や、物語があるのか?
それは、実在した人物や事件だからではないのか?

私の頭の中では、違和感を埋める為の仮説が生まれ、そして消えていった。


だが、重大な問題が一つあった。

もしも、モビルスーツザクが実際に開発された兵器だったのなら、それを造った文明はどこにいったのか?
語られる物語は、地球全土…そして宇宙にまで広がった話。
決して、幻想郷のように隠され、現在も存在するが見つけることができない世界の話ではない。
だから、可能性があるのは過去のみ…
しかし、これほどの文明を持った存在が、何も痕跡を残さずに消え去るなんてありえない。

私はこの疑問のために、モビルスーツザクが過去に実在したという仮説は間違いであると考えていた。



しかし、今日語られた物語はその考えを覆す力があった。

文明は月光蝶により消滅し、黒歴史と呼ばれる封印された時代となった…





モビルスーツザクは、本当に過去の文明によって作られた兵器だったのだろうか?
そして、月光蝶は本当に文明を消滅させたのだろうか?

もしこれが事実なら、それを知るハニュー氏はいったい何者なのだ…



side アリス・マーガトロイド

ハニューが私を抱き締めてくれたとき…
もの凄く嬉しかった…

ハニューが頼もしくて…優しくて…



だから、あの時のことが一層不安になる…

「国家解体戦争には使えそうだと思って…」と語った後のあの微笑…

あれはいったい何に対する微笑なの?

国家解体戦争とはいったい何なの?



にとりさんは「ハニュー総帥を信じると決めました。」と言って、聞く気も無いようだけど…


私はとても不安…



side ルーミア

「この話の中で出てくる同人誌は全て架空のものなのだー。これで三行目げっとなのかー。え?空気読めてないのかー?そんこと知らないのだー。」





[6470] 第十九話 かなり真面目に仕事しました。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/03/10 20:37
第十九話
かなり真面目に仕事しました。

side 十六夜 咲夜

「もう我慢できない!!!!!!!
 いったい何よこれ!!!!!!!!!!
 本当に、こんなことが一流メイドの英才教育なの!?
 絶対に間違っているわよ!!!!!!!!」


「お嬢様に喜ばれるメイドになる為には、絶対に必要なことです!!!」


「こんなことでレミリアが喜ぶとは思えないわよ!!!!!!!
 それに、こんな単純作業なんてもう嫌!!
 気が狂いそうよ!!!」

霊夢に、一流メイドの英才教育と偽って、作業に当たらせていたけど…

「出てくる、刺身に延々とタンポポを乗せる仕事なんて嫌ーーーーー!!」

根を上げるなんて、困ったわね。
どうしようかしら?

「もういやーーーーお家に帰るーーーーー!!」
昨日みたいに虐めて、辞められたりでもしたら、お嬢様の怒りを買うから困るのよね。
だから間違った知識を教えて、お嬢様から嫌われるようにしてやろうと思ったのに…
まさか、ここまで根性が無いなんて。

伊達に、得意なことは『掃除をしているフリ』と言っているわけじゃないようね。




「霊夢には帰る家が無いはずよね?」


妹様!?
まずい、霊夢への虐めが、ばれてしまうわ。

「こ、これは、あくまで「こんな奴がハニューの敵ねえ…。ここは私に任せなさい。」

妹様??


----------


流石、お嬢様と血を分かち合った妹様。
面白ことをお考えになられます。

妹様が提案されたのは接客合戦。

来週の月曜日、紅魔館に訪れるお客様に接客を行い、接客態度が良かった者の名前を書くアンケートに答えてもらう。
そして、そのアンケートで最も名前が多かった者が、接客合戦の勝者となる。

勝者には、妹様が何か一つだけ願いを叶えるという賞品と、勝者が敗者に一つだけ命令できる権利が与えられる。



妹様のお考えでは、接客合戦は霊夢にやる気を出させることが目的だけど…
面白いことになったわ…


霊夢が勝てば、どんな無茶を要求してくるか分からない。
しかし、常識的に考えて私の勝利は間違いない。
だからこそ、妹様は私が勝つと見込んで、こんなに大きな餌を霊夢の前にぶら下げた。

この勝負により、霊夢はやる気を出し。
接客合戦には、私が勝利することにより、無難な願いが望まれることになる。
全てが終わった時、最大の勝利者は妹様。
それは、管理者として、このイベントを楽しめる立場にあるから。

そう妹様は考えているはず。





でも、妹様…
私が無茶な要求をしないと思っているのは大間違いですよ…


霊夢への命令は、既に決まっているわ。
問題は、妹様の賞品の方。


フフフ…
妹様って、顔のつくりが姉妹だけあってお嬢様にそっくり…
毎晩、妹様にお嬢様のコスプレをさせて、瀟洒に愛でるとか…


いや、この際だからもっと欲を出してもいいわね…


side フランドール・スカーレット

一週間後の勝負で、霊夢がどんな力を隠しているか上手く暴けるかしら。

暴けなかったら暴けなかったで、面白い見世物になるから楽しみね。



あ、そうだ。
お姉様には、負けた相手に命令できる件は隠しておかないといけないわ。
お姉様の事だから、それを知ったら咲夜にどんな命令を言わせようとするか…



side 博麗 霊夢

「ほらほら!お客様が来ているのだから、ちゃんと相手してよー」





「いい加減に帰って。」


「もう霊夢のい・け・ずー。せっかく霊夢があの白髪頭に勝てるように、私が練習相手に来てあげているのに~」

(#^ω^)ピキピキピキピキピキピキ
紫…あんたがずっと私の部屋に入り浸ってたら、練習が何も出来ないじゃないの!!!!!


「喉が渇いたー。霊夢が入れたお茶が飲みたーい。おー茶!おー茶!おー茶!おー茶!おー茶!おー茶!おー茶!おー茶!!!」







衝━━━(#゚Д゚)=○)`Д)、;'.・━━━夢!!


side ハニュー

さてと。
ゲンソウキョウ中に、ジオン部を流行らすという新目標もできたし。
今日から、ジオン部の発展に向けて頑張るぞ!!

だから心機一転。
ちゃんと化粧をしたりと、ちょっと大人っぽくしてみました。
これからは、部活だからと手を抜いたりせず、しっかりと取り組まないといけない。

そのために、心だけではなく、外見までも出来る限り大人の女性にして気合を入れました。

本当は、男らしくスーツ姿になりたかった…
でも、この容姿でスーツを着たら、出来の悪いタカラズカになってしまう。





「ご迷惑をおかけしました。」

「やだ~。私のメイド霊夢が、私のメイドさんが~」

ありゃ?
藍さんとストーカーさん!?

どうして紅魔館に?


                                     「やだー帰りたくないーーーーー!!」

                                     「いい加減にしてください!!!」
                 
                                      ズルズルズル…

どうしてこうなった!?
なにやら良く分からないが、ストーカーさんが藍さんに引きずられて行っちゃった…

「ハア…五月蝿いのが帰ったのはいいけど、流石にまずいわね…」

そして博麗の巫女は、いったい何を困っているんだ??


!!


そうだ、こういった困っている時にこそ、助けあげれば俺の点数が大幅にアップです。

「どうしたのですか?助けてあげましょうか?」

「う、は、ハニュー…誰があんたの手助けなんか…」

うわ…
相変わらずの嫌われよう。


「あの~頼まれていた、お風呂用品シャンプーハット(紫色)を納品に来たのですが…」

おっと業者の人が来たぞ!?

「なにこれ…どうすればいいのかしら…
 適当に置いていっていいんじゃない?」


「え?あの…代金は…」

ちょ!?
これは酷い。


「ようこそ紅魔館へ!こんなに遠くまで態々ありがとうございます。私が承りますので、こちらの部屋でお座りになってお待ちくださいね!」ニコッ

「は、ハイ!ありがとうございます。」


バタン…



フウ…
なんとか、営業スマイルで誤魔化せた。




「ちょっと博麗の巫女!!仕事がわからないのは仕方がないけど、適当にやるなんてダメ!!!俺がお手本を見せるから、ちゃんと見て覚えて!!」
まったく。
博麗の巫女は、お客様に溜め口と来たもんだ、どう考えてもお客様を持て成す気持ちが無い。
しかも、仕事が分からないのに、誰にも聞かずに適当にやろうとするし…
おまけに、業者の人も明らかに親の手伝いで初めて紅魔館に来ましたって感じの少年。
危なっかしくて、見てられない。

「今のがそんなにおかしいの!?」

「全然ダメ。まずは、お茶を持っていってあげて。俺は支払い用の書類取ってくるから。」


「わ、わかったよ。                どうして私が、あんたなんかの…」



----------


「お待たせいたしました。」


!!


ボソ…「ちょっと、博麗の巫女!何をやっているんだ!どうして熱いお茶を出しているんだよ!」

「?何を言っているのよ、お茶といえば熱いものでしょ?」

あちゃー。
こりゃ、本当にまだまだ駄目だな。

普通の会社で言う所の、新人研修抜きでいきなり最前線送りみたいなものだから、この展開は予想できたはずなのに。
それに気がつかずに、曖昧な指示を出した俺もまだまだだな。

ボソ…「ごめん、俺の指示が悪かった。俺がお茶を出し直してくるから、博麗の巫女は話し相手でもしてあげて。」


「むーーーーー。仕方ないわね…」


----------


スッ
「はい、どうぞ。」


「あ、ありがとうございます!急いで来たので、喉が渇いてました…」

礼を言い終わると、俺の出したお茶を美味しそうに飲む少年。
やっぱりな。

「申し訳ありません、この子はまだ新人で至らぬ所が多くて…
 さ、遠慮せずにこちらのケーキもどうぞ。」

まったく、明らかに熱そうにしている人に、熱いお茶を出しちゃうなんて。
しかし、この少年…
随分と緊張しているような…
やっぱり、初めて紅魔館に来たという俺の読みは間違い無さそうだな。

となると、世間話から入ったほうがいいかな?

「紅魔館までの道中。大変だったでしょう?」

「は、はい!実は…途中で傘の妖怪に驚かされて…足を擦りむいたりしてしまいました。
 あ、だからといって商品は大丈夫です!傷をつけないようにしっかりと抱えていましたから!」

足を擦りむいた!?
ちょっと俺に見せてみろ。
化膿したりしたら、大変だぞ。

「ちょっと見せてください!」

おいおい。
結構な怪我じゃないか。
この少年…
商品を守ろうとして、逆に派手に転んだな。

若いが、商売人としては、素晴らしい心意気だ。
元社会人として感動したぜ。


----------


結局あの後治療を施して、思い出したように少年と二人でケーキを食べて。
最後に商品と代金のやり取りを済ましました。
ちなみに、怪我は大したことがなったのですが、少年の心意気に感動したのと、博麗の巫女の応対が悪かったので、かなり丁寧に治療してあげました。


何とか無事終わってよかった。
応対ミスがあったから、少年の心証が悪くなければいいのだが。
ちょっと、聞いてみるか。

「初めての紅魔館はどうでしたか?」

「悪魔の館と聞いていたから、どんなに恐ろしい場所かと…
 で、でも…あなたのような…あの、その!」

あの?その?
言葉が不明瞭な奴だな。 ハッキリしない奴は死ぬぞ?
じゃなくてw
それじゃ、何を言っているか分からないぞ?
だいたい、俺はあなたじゃなくて、ハニューという名前が…
ってまだ名乗ってなかったな。

「申し遅れました、わたくしはハニューと申します。
 今後紅魔館で分からないことがあれば、私をお呼びください。
 紅魔館は素晴らしい所ですよ、今後も紅魔館をよろしくお願いしますね。」

「は、ハニューーーーーーーー!?




 あ…        こちらこそ、是非ご贔屓に!
 
 こ、今度納品に来たら、絶対に呼びますから!!!」

タッタッタッタッ…


おいおい、俺の名前ってそんなに驚くほど予想外か!?
やっぱり、適当につけた名前だからなー雰囲気に合わないのかなー







「あんた…凄いわね。ちょっと見直したわ。」

えっ…見直した?

「悔しいけど、超一流じゃないの。まるで、あんたが落ち着いた大人のベテランメイドに見えたわ。」

おおう。
俺もこの一年で成長したのかな?


「それで、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど。」





----------



なるほど、来週月曜日、メイド長と博麗の巫女で、どちらがどれだけ多くのお客様を満足させるか争うのか。

ルールは簡単。
紅魔館に入る時点で、お客様に記名式のアンケートを渡し、応対が良かったメイドの名前を書いてもらうというもの。
そして、勝者には妹様が願いを叶えてくれるという賞品と、敗者に一つだけ命令ができる権利が与えられるらしい。

因みに、博麗の巫女は勝利したら神社修復を妹様に願い、メイド長には紅魔館の食事を博麗神社に毎日持ってこいと命令する気らしい。


本当は、そんなことを願ってはいないのだろうけど…
博麗の巫女という設定上、そういうことを願わないといけないよな。

しかし、ここで協力的だったという事実が、後々心証を良くすることに繋がることもあるでしょう。
だから、手助けすべきです。



「じゃあ、こっちは作戦を練るから、作戦が決まったら連絡するよ。」

「作戦ですって?そんなことより、まずはしっかりとしたメイドとしての訓練がしたいの!!」

う…
確かに、それは言えているな…

「じゃあ、ルーミアに訓練を手伝うように頼んでみるよ。」


----------





一人になっていろいろと作戦を考えましたが…
これは、予想以上にまずい状態だぞ。
この勝負、完全に出来レースじゃないか。

紅魔館を訪れる人の大半は、日頃出入りしている業者だ。
となると、その人達は何もしなくても、取引の窓口としてメイド長の所に行ってしまう。
もちろん、最近は以前とは違い、各メイド達がかなりの業務をメイド長から委任されている。
しかし、業務を終えた後、挨拶のためにメイド長の所に顔を出す業者はまだまだ多い。


つまり、何もしなかったら博麗の巫女は完全にスルーされてしまうわけだ。
これはひどい。


門の所で業者の人に話しかけるという手もあるが…
すぐにばれて、メイド長まで門に出てきてしまう事態になるだろう。






来るお客さんが、業者じゃなければいいんだが…









そうだ!!

いい方法があった。
しかもこの方法なら俺の新目標。
ゲンソウキョウ中にジオン部を流行らせることにも、プラスになります。

そう考えたら、このタイミングでこの話が出てくるなんて、なんて運が良いんだ。





よし、この勝負。全力で勝ちに行くぞ。







----------







「「「「「お帰りなさいませご主人様!!」」」」」


いい滑り出しでスタートしたぞ!
今日の接客勝負!勝ちに行くぜ!!








思えば、大変な一週間だったなあ…





-----回想-----


そうだ!業者がスルーするなら、こちらを目的に来るお客様を連れてくればいいんだ!


問題は、どうやってお客様を連れてくるかだ。

もちろん、強引に連れてくるなんてダメだ。
さっきの少年が言っていたように、紅魔館は悪魔の住む館と言われ、恐れられているようなので、そんなことをしたら大変な誤解を生んでしまう。

だから、紅魔館にはあくまで自主的に来てもらう。
自主的に来てもらうなら、そこに来るメリットが無ければならない。
例えば、何かのお楽しみが必要だ。

一方で、俺達が提供できるものと言ったら、紅魔館の仕事で使っているスキルなどだ。
事務仕事・掃除・洗濯・食事・催し物とかだ。


こうやって並べると…
後ろ二つが使えるのが分かる。
古代ローマのパンとサーカスのように、これは古典的だが誰にでも通用しやすい手だ。




よし、これで骨子は決まった。
次はこのアイデアを部員に知らせないと。

「ルーミアが近くにいれば、話が早いのだが…」

「何を考えていたのかー?」

本当にいたよ。
何時もの如く、まるで俺の近くに潜んで俺の行動を見張っていたのでは?と思いたくなるぐらいのタイミングだぜ。
まあ、そんなことある訳無いけどw

「一旦部屋に戻ってから部室に行くから、部室に幹部を集めておいて。」


----------


幹部に説明したのは、名付けて、『紅魔館メイドカフェ化作戦』。

俺たちは本物のメイド。
だから、メイドとしての仕事が得意。
つまり、我々の経営資源を有効活用し、最大限の成果を上げるとしたら、メイドカフェが一番良いということです。

交流会と銘打って、俺達がお客様に対してメイドとしてご奉仕する。

そのことにより、次の二つの目標が達成されるはず。
1 ジオン部への理解と評判が向上。
2 新たな部員の確保。

因みに、博麗の巫女の手伝いのことはあえて話さなかった。
ジオン部員には直接関係の無い、俺個人の願望だからね。

博麗の巫女には悪いが、このチャンス。
部長として最大限活かさせてもらいます。





といっても、ここに来て大問題が発生したぞ。
俺って、メイドカフェに行ったことが無かった…

テレビで見た記憶を頼りに、男の人が来たら「お帰りなさいませご主人様。」女の人が来たら「お帰りなさいませお嬢様。」と言うように指示したが…
断片的な記憶しか覚えてない。


適当にやってもいいが、素人の俺が適当に考えたネタだとうまくお客様の心を掴むことができないからな。
頑張って思い出すんだ。
そして分からないところは、しっかりと推理して対応するんだ。
多くの物事は、すべてその背景にある何かによって引き起こされている。
つまり物事には他の何かとの因果関係があり、一部からもその全体を窺い知るヒントが必ずあるものなんだ。



やっていることは、名探偵コ●ンとかと同じことだから大丈夫w

というわけではなく、実際に学問の多くがこんな感じだから、真面目にやればきっと上手く行くはず。





えーと。
確か、俺が見たテレビ番組では、メイドさんとお客さんが会話していたな。
それと、料理とドリンクが楽しめて、時間制になっていたはず…



そういえば、なぜ時間制なんだ?

時間を区切らないと、なんらかの経営上の問題があると考えるべきだな。

時間を区切らないと、ずっと居座る人が出てくるからか?
いや、しかしそれは普通の喫茶店でも起こりえる問題だ。
となると別の問題。
そこに居座ること以外の問題があると考えるべきだ。

そうか、席ではなくメイドさんを拘束し続けるのが問題なんだ。
メイドさんという存在が、メイドカフェの最大の特徴。
それを、ずっと一人のお客に拘束し続けられたら困る。

メイドさんとお話しするのがタダで、料理代だけ取っていたら、料理を注文せずにメイドさんを拘束するお客さんが現れたら、お店は大赤字だし他のお客様から文句が出るだろう。
だから時間制にし、メイドさんとの会話のために居座ってもお金を取るようにしたんだ。

ということは、ここから一つ見えたことがあるぞ。

メイドカフェは、メイドさんとの会話を楽しむ所でもあるわけだ。
そして、一つの席か、一人にメイドさんがそれぞれ張り付いて応対してくれるスタイルになっているのだろう。
時間制で。


うーむ…


あ、そういえばオムライスにケチャップでLOVEとか書いていたな…
しかも、フーフーと息を吹きかけて食べさせてくれるシーンも写っていたような…


なるほど、ここでもう一つの事実と繋がったぞ。


お店の中ではメイドさんが、まるで恋人のようにご主人様にご奉仕してくれるわけか。
ということは、一つの席というより、一人にメイドさんが一人つくスタイルの可能性が高いな。



しかしこれでは一つ問題があるぞ。
恋人のように接してくれるのは嬉しいが、それが好みのメイドさんじゃなかったら…
この経営スタイルだと、どんなメイドさんが相手をしてくれるか大切になる。



ああそうか、それなら指名性にすればいいんだ。
入り口で手の空いているメイドさんが顔を見せて自己紹介したり、プロフィール入りの写真を見てもらったりして、自分の好みのメイドさんを選んでもらえばいいんだ。





なにやら微妙にキャバクラっぽい?
いや、実の事を言うと、キャバクラにも行ったことが無いのでハッキリしないけど…



うん!?

そういえば、俺が考えているのと、そっくりのをどこかで見たことがあるぞ???


遠い昔、友人がやっていたゲームに…



ああそうだ。
夢のクラブ?いや『ド●ームクラブ』というゲームに出てきた光景に近いような…
なんだか、キャバクラっぽいので「このドリームク●ブってキャバクラに行くゲーム?」と聞いたら「これはキャバクラじゃない!」ってもの凄く怒られたよな。


ということは、俺の考えているのもキャバクラとは程遠いということで間違いないだろう。
よかった。

となると、あのドリー●クラブってゲームも、メイドカフェを体験できるゲームなのか????
ああ、そういえば、オムライスに何か絵を書いているシーンがあったな…


あと歌っているシーンもあったような…

うーむ。
メイドカフェで、メイドさんが歌うのは今や当たり前なのか??

でも、このサービスは行けそうな気がする。
歌うのが得意な子がいるし、マク●スとかでも、歌は異なる人々を繋げる力があると言っているからなw


あと他には…

そうだそうだ。
他にも、ポッキーゲームとかやっていたっけ…


って、もの凄く過激なサービスだな。
こんなこともメイドカフェではやっているのか…
しかし、ポッキーゲームはちょっと…








とにかく、こういう所だったのか…
なんというか凄い所だな、確かにブームになったのも分かるな。




「メイドカフェという定義から、既に外れている気がするのだー」
ルーミア、独り言を言わずに、ちょっと静かにしていてね。




あれ?
こうなると、女の人が来たとき、話が変にならね?

そのあたりはどうしていたんだ?

あーそういえば、男の店員もテレビに映っていたような…

そういえば、執事カフェという言葉も聞いたような気がする…
なるほど、男性版もあるわけか。
そうなると、うちに一人エースがいるから大丈夫だな。








とにかく、基本サービスはこの方向で行こう。
指名制度、食事補助(メイドさんの手作り料理・時間制)、会話(時間制)。

他にも、いろいろサービスがあったな…
それも思い出せる限り取り込もう。

そして足りない部分は、俺達が考えたオリジナルで行くしかないな。






次に内装だが…
紅魔館だから、このままでいいか…
ただ、場所は広い方がいいな。
おまけに、厨房があったほうが…

入り口から遠いが、妹様のスペースになる予定のエリアなら使いやすいかもしれない…
あそこは、今は空きスペースだし。
妹様が管理しているのなら、同じジオン部として交渉しやすい。

妹様に場所を貸してもらえるよう話をするか。








では最後に広報戦略だな。
ここが一番大事。

チラシ配りは基本だな。

メイドとして対応する子達に、事前にチラシを配らせよう。
顔が見えたほうが、来る人も安心できるだろう。
重点的に配る場所としては、人口密度が高い人間の里が効率的だな。
行ったこと無いが…

そしてチラシの内容だが…
少年が言っていた様に悪魔の館と言われている場所から、いきなり食事と催し物を行うから来てくださいチラシが来たら怪しすぎる。
だから、名目上は「交流会」ということにしておこう。
交流会に皆様をご招待。
これは俺のゲンソウキョウジオン化の願望も入っているから、事実だしな。これなら怪しくない。
それに、実際にこれで仲良くなったら、その人をジオンに誘ったりするのも良いからな。


あ、そうだ。
あと注意書きを入れておかないと。
聞いた話だと、メイドカフェならぬ、メイド風俗というものもあるらしいから、そういったものと勘違いされると困るからな。
注意書きとして『本店のサービスは、性的サービスを提供するものではありません。』と書いておかないと。


----------


会議で方向性とそれぞれの役割も決まりました。
しかし、アイリスの奴が随分と俺が接客することに反対してきたが、どういうことなんだ?
「ご自分のお立場をお考えになられ「立場を考えればこそ、この提案をしたのです!」
あまりに強硬に反対するので、途中でガンダムUCのオードリー的にネタを入れて沈静化を目論んだのですが…
言ってから、気がついた。
この雰囲気でネタを使うなんて、どう考えても喧嘩売ってます。

案の定、シーンと静まり返ってしまいました。

びびった俺は、俺の指名料を高く設定することと、ポッキーゲームは原則全員禁止(これは妥当か…)等、アイリスの意見を汲んだ提案をして妥協しました。
俺弱すぎw
(因みに、ネタだと思うけど、どさくさに紛れて小悪魔さんが床の全面鏡張りを提案してきましたが、反対大多数で否決されました。)

理由を話してくれたのなら、もう少し対応のやりようがあるのだが…
何故か理由は話してくれないし…

言い難いということは…
やっぱり、俺に問題の原因があるのかなあ。


俺が原因ねえ…


そういえば、俺はあまり周りから好かれて無いよなあ…
同じオタク仲間なら俺のことをキモイとか言わないと思ったけど…
先日の、花見の時に俺を誰が運ぶか押し付けあっていたみたいだし…
やっぱり俺って、見た目がよくないのかなあ。

悲しいことに、それなりに可愛いと思ったんだが…
センスとかが悪いのかなあ…


見た目の悪い俺がトップになる。→普通の指名料で接客すると人の目に晒される機会アップ。→見た目が悪い俺がトップだということで店の評判ダウン。

っていうことをアイリスは言いたかったのか!?


心は男だけど、これはショックだな。

「どーしたのかー?」

ルーミアが心配げに俺を見ている。
あ、そうだった。

「なあルーミア?みんなの期待に応えられるように俺を改造してくれ!!」

密かに男漁りが好きなルーミアなら、魅力的な髪型とかを知っていそうです。

----------

結局、ルーミアに髪と服装を弄ってもらっていたら、途中からアリスさんやら大ちゃんが参加してきて、玩具にされてしまいました。
でも、色々な案を見ることができて勉強になったので、センスがかなり良くなったと思います。

ということで、ルーミアに恒例のお返し♪


何がいいかなー?


せっかくだから、ルーミアも綺麗(可愛く)してあげよう。
さて、どうしてあげようかな?

やっぱり、ルーミアのシンボルともいえる、このリボンを何とかしないとな。

ルーミアのリボン、昔から気になっていたんですよね。
以前、ルーミアの髪の毛を切ったときに、妙にボロボロのリボンだったので変えるように勧めたら「取れないのだー」とのこと。
あまりに可哀想だったので、ハサミで切り落とそうとしたらまったく切れない…
色々試したが、メイド長がストックしているナイフを使って初めて、ほつれがなんとか切れる程度でした。
本当にどうなっているんだこれ。


因みにこの物体の正体だが、この超技術から見て、ゲンソウキョウの管理者がルーミアを使って何かするためのものなんだろうな。



とにかく、ルーミアにとって迷惑な存在であることは間違いない。

ということで、機会があるたびにほつれを切ったりと色々してあげています。
しかし根本的にどうにかしないと、どうにもならないよな。

「ねえルーミア?いつか絶対に、リボンを取ってあげるからね?」

「ハニュー……」

どうした、そんなに複雑な表情をして…
遠慮しなくていいんだぞ?




まあそれはとにかく、あとはひたすら練習して頑張るだけだな!!





っとそうだ。
練習で思い出した…
「博麗の巫女の訓練って上手くいきそう?
 これから準備で時間が足りないぐらい忙しくなると思うけど…」

「任せるのだー。博麗の巫女の最大の欠点は、メイドっぽくない所なのだー
 だから、それを重点的に直す予定なのだー」

ほう…
何か策があるようだな。
流石ルーミア!!
ぼーっとしているように見えて、実はその通りだったということが多いけど、期待しているよ!!



-----回想終わり-----

「「「お帰りなさいませ、ご主人様!!!」」」

いいぞ!いいぞ!
かなりお客が増えてきたぞ!!
外に列も出来はじめたし…これはかなりいけそうな感じです。





「ご主人様!?他のご主人様のご迷惑になります!!順番を守ってください!!」

「僕はハニューに用事があるんだ!お願いだから通してくれ!!」

なにやってるんだ店主!
列に割り込むなよ!!!




「ジャッジメントですの!」
とやりたいところだが、下手にフルボッコにすると悪い噂が立ちかねない。
やっと軌道に乗ったのにその展開はまずい。
よし、ここは一芝居打つか。


side 森近 霖之助

まさか、本当にハニューに助けを求めることになるとは。
情け無い。


ハニューは僕達の結婚に反対する人達がいて、その人達から危害を加えられそうになったらジオンが助けるから頼れと言っていたそうだ。

確かに僕は、半妖で朱鷺子は妖怪。
人間との溝がまったく無いという訳ではない。
時代が時代なら、僕達は人間から退治されていただろう。

だが、今は違う。
僕のお店には人間のお客も来るし、人間の里の中にも妖怪相手に商売をする所まである。

だから、朱鷺子から聞いたハニューの話なんて、僕にはとても信じられなかった。
昨晩までは。


昨晩、僕は朱鷺子がまた「ジオンの人達やハニューが悪そうには見えなかった…」「やっぱりジオンに入ったほうが…」と言い出したので喧嘩をしてしまった。
そして、その喧嘩の反動で逆に朱鷺子が愛おしくなり、二人で寄り添っていた時、それは突然起こった。

誰かの気配がしたかと思うと、強力なビームが僕の家を吹き飛ばしたのだ。

まるで魔理沙のマスタースパークのようなそれは、僕の家を完膚なきまでに叩き壊し、僕と朱鷺子の意識を刈り取った。


二人とも幸いにして無傷だったが。
僕たちは、一晩にして住む家を失ったのだ。

最初は魔理沙が犯人かと思ったが、魔理沙がこんなことをする筈が無い。
いや、する理由が無い。



となると、ハニューの言葉が予言のように思えてくる。
僕達が妖怪でありながら、人間の勢力が強いところで家を構え、そこで夫婦として定住することに反対する者達が実在するのだろう。
そしてその一端が、初めて顕在化したのだ。

今の時代は人と妖の関係が良好。
しかし、歴史的に見た場合、極めて稀な時代だといえる。
僕と朱鷺子の子供は、妖怪の血が濃くなるため、寿命が僕より長くなるだろう。
純粋な妖怪の朱鷺子の方も、僕より長く生きるだろう。
そして、寿命の無いハニュー達妖精は、ずっと生き続けるだろう。

考えすぎだと僕自身も分かっている。
ただ、家を失った今は…
朱鷺子と将来生まれる子供が、僕の死後、人間から狩り立てられる…
それが、避け難い事実のように思えた。


だがそれでも、ジオンに頼るのは気が引ける。
僕は、当座の生活と、未来のためにハニューと交渉することにした。
都合のよい話だが、適度な距離を置いて彼女達の庇護を受けることができれば…



















紅魔館にたどり着いたら、すぐにハニューへの面会を申し込むつもりだったが…
なんだこの人だかりは!?

「朱鷺子、少し待っていてくれないか、ハニューを呼びに言ってくる。」



----------



「ご主人様!?他のご主人様のご迷惑になります!!順番を守ってください!!」
こっちは緊急事態なんだ。
「僕はハニューに用事があるんだ!お願いだから通してくれ!!」


                                 「ハニューちゃんを指名だって!?やっぱり割り込みじゃないか!!」


                                 「ルールは守れ!!!」


何が起きているんだ!?
ハニューに会いにこれだけの人が!?
もしや、本当にハニューは朱鷺子の言ったとおり、善い行いをしている妖精なのか!?


「こちらはご予約のご主人様です~」
ハニュー!?
ご予約!?

「ほら、店主も合わせろ。ジャッジメントですの!ってしちゃうことになるぞ?」

!!

「実はそうなんだ、慌ててごめんなさい!はははは…」

じゃっじめんとですの?????
いったい何が起きているんだ??

----------


「はいご主人様。これから紅茶にミルクを入れますので、止めて欲しい所でジークジオンと言ってくださいね?」

あ、あのハニュー…
僕は君に話が…
それに、どうしていきなりジオンを称えさせられるんだい??

って、そんなにミルクを入れないでくれーーー!!
溢れているじゃないかーーーー!?
「じ、ジーク!ジークジオンだ!!!!」

「もう!ご主人様ったら、もっと元気良くジークジオンって言わなきゃ駄目ですよ?
 貴様!それでもジオンの兵か!?
 なーんて、怒られちゃいますよ?
 じゃ、お食事を作ってきますね!」

「あ、ちょっと待ってくれ!!」
確かに、今は空きっ腹で食事が欲しいが、大事な話が!!
それに、君はいったいどうしちゃったんだ??
口調や雰囲気がいつもと全然違うじゃないか???
変なものでも食べたのかい!?

「どうしました?「ハニューちゃん、7番テーブルのご主人様からご指名です~!」ごめんなさいご主人様。また今度!!」

指名!?
指名って何だ!?
ハニューと話すためには指名しなくてはいけないのか!?

「あのちょっと君?」

「どうしました、ご主人様?」

「ハニューと話がしたいのだが?」

「あ、ご指名ですね。ハニューちゃんはAランクなのでご主人様が10分間独り占めするには、こちらの料金がかかりますがよろしいでしょうか?」

た、高い…

「ちょっと、考えさせてくれ。」







                                      「お帰りなさいませ。お嬢様!!」
                                      「僕は、執事のリグルと申します。どうぞお嬢様…こちらへ「キャー!カッコいい!!」」





リグル君!?どうして男の格好なんかを!?






                                      「ご主人様~。記念撮影の準備が整いました~。文ちゃーん、写真お願いしまーす。」
                                      「あや~、まったく今日は大変ですね~。これじゃ、椛のメイド服だけじゃ割に合いませんね~。」




メイド達と一緒に記念撮影!?



                                       ガシャーン!!
                                      「お兄ちゃんごめん!!!」



チルノ君までメイド姿に!?



                                      「ジークジオン…です…」
                                      「やだ、ご主人様ったら…こんなにミルクが出ちゃいましたよ…」



…あれは…確かこあ君…
ぼ、煩悩退散!!!!



いったい、何が起きているんだ!?
しかし、もの凄い状況だが、皆楽しそうだ…


でも、僕は…


「ご主人様お待たせなのかー」

君はルーミア!

「オムライスなのかー。ハニューからフルコースと聞いているから、楽しむのだー
 でも、膝枕で耳掃除のようないくつかの特殊オプションは、フルコースにはついてないから気をつけるのだー」

フ、フルコース!?

「まず絵を描いてあげるのだー何か好きな絵ある??」


絵?
「特に希望は無いのだが…」



「じゃあ、ルーミアが書きたいも書くのだー。


 はい、こーりんlove。」

る、ルーミア!?
「いきなり好きだなんて!?き、君は自分が何をやっているのか分かっているのかい?」


「フーフー…
 さあ、ルーミアがフーフーして食べさせてあげるのだー」


な、なんだとーー!?
こ、ここは天国か!?
と喜んでいる場合じゃない、僕には朱鷺子が…

「僕には心に決めた相手が…」

「あんまり、お姉さんを困らせるものじゃないのだー。さ、食べなさい。」

い、いや、でも…










「私の歌を聞け!!」


「ミスティアのステージが始まったのだー」

な、なんだこの演出は!?

初めて聞く曲だが、気分が高まってきたぞ!!


side アイリス

誰もが気力・体力・実力共に充実している。

流石に皆の前で「立場を考えればこそ、この提案をしたのです!」と私を一喝することにより、
自らが最前線に出る必要があるほど、この作戦が重大であるとハニュー総帥が示しただけのことはある。

それでも、このようなことをして欲しくなかった。
どうしてもあの時のことを思い出してしまう…



side 稗田 阿求

「しっかりとご奉仕しますから、ぜひ遊びに来てくださいねお嬢様。」

『メイドカフェ@fairyジオン 紅魔館にて一日限りの限定オープン 紅魔館のベテランメイド「ハニュー」が監修した、紅魔館での優雅なひと時をあなたにも!!!
 メイド一同、ご主人様のお帰りをお待ちしております!!!※本店のサービスは、性的サービスを提供するものではありません。』

ハニューに手当てを受けたという少年の話が広まった矢先に、ジオンと人間の里の交流会を謳ったイベントが開催ですか。

先日の異変解決。
そして少年への手当て。
今日のイベント。

偶然を装っていますが、歴史家の私から見れば、巧妙な広報戦略であることは明白です。
現に、例の少年の話が広まっている若い世代は、先を争って紅魔館に向かう有様。

ジオンの広報戦略の目指す方向はまだ分かりませんが、何か悪いことが起きそうですね。

----------

side ハニュー

お客の入りはかなり順調♪
といっても、うまくいっていない所もあって、店長として一人ひとりの状況をチェックしています。
実は、さっきからそればっかりですけど。
最初は俺もお客様の応対をしていたが、やっぱりメイド達にとって初めての経験ばかりのため、小さなトラブルが続出です。
おかげで、さっきから指名をお断りする事態になってばかりです。


まずはアリスさん…
ここはまったく問題ないな。
元々美人だし、優しい性格だから、指名、再指名共に順調だな。
それに、人形を使っているためか、女性客からの指名も来てオールマイティに大人気で素晴らしい。


次はリグル。
こちらも問題なし。
執事という役回りで、女性客が来たら率先して対応してもらっています。
唯一の男性だから、回転率が凄いことに。

うん?

お客から離れたときに、何故か随分と影が入った顔をしているな…
ちょっと疲れているのか?
こまめに休憩を取るように指示しておこう。


しかし、根本的に執事が足りない…
そうだ!さっき店主がいたな…
使ってみるか…
ロリロリで甘甘な子が大好きな(推定)店主のために、無料でルーミアを提供したのだから、これぐらいは手伝ってもらわないと。


そしてチルノは…
意外と好成績!?
練習の時からミスを連発してたので、出すかどうか悩んでいたのだが…
何故か妙に指名が多い…特にリピーターが…
「しかしお兄ちゃんか…」
これは妖しい雰囲気だな、誰がこんな言葉を覚えさせたんだ?

「私が覚えさせました。アハ♪」


っと小悪魔さん。
これは小悪魔さんが原因ですか…
小悪魔さんって名前の如く小悪魔ですね…ここ一週間で思い知りましたよ…なんといっても、男性の扱いが上手過ぎる。
実は男性相手の接客がミソとなるので、男性の扱いが上手い人がいないかと聞いて回ったら、めーりんさんから小悪魔さんが推薦されました。
流石お嬢様の夜の相手をしているめーりんさんです。
そういう方面の情報収集力が高いこと高いこと。

小悪魔さんが次々と出すテクニックは、元男性の俺から見て恐ろしいレベルのものでした。
どこで手に入れたのかと聞いたら「これは本能なんです。」とのこと。

多分工作員か何かの目的で、小悪魔さんは製造されたということなのでしょう。
ますます恐ろしい。

「ハニューちゃん?どうかしましたか?」

「男性の扱い上手い小悪魔さんがいて、本当に助かるなと…」
敵に回すと怖いということもありますが…
実は縦横無尽の大活躍です。
先ほどから、俺と一緒にクレーム対応をしてくれていたりします。
相手が男の場合、小悪魔さんが対応すると、上手く相手を転がして有耶無耶にしてくれるのでとても楽です。

「またまた~ハニューちゃんだって、私達の仲間になれるぐらい上手いくせに…」

「いや、俺って全然上手く無いから。」
いやね、男の俺が、男性を上手く扱えるわけないから。

「ふーん…。「小悪魔ちゃん、25番テーブルのご主人様から指名が入りました。」もう…また指名?」

頑張ってね(・A・)ノ








他に好成績といえば…

ルーミアと橙ちゃんだな。
橙ちゃんは、メイドとしてのスキルが素人同然だったので心配だったけど、天然ネコ耳というチートを使っているためか、何度も指名するリピーターが続出して凄い指名率だ。
一時期、お母さんの藍さんが錯乱状態で乱入してきて、大変なことになりかけたが、スキマとやらに落ちて今は静かにしています。

ルーミアについては、色々な意味で安定しているので問題なし。
特徴をあえて挙げると、時々頭の中は大人なのでは?と疑いたくなるような表情や仕草を見せるので、そこが人気になっているみたいです。





その他妖精メイド達も順調。
小悪魔さんの熱血指導と、色々なタイプの子を選抜した甲斐があってか、お客さんの受けも最高にいいな。





あと、妙なことになっているのもあるな…
まずは大ちゃん。



「恥ずかしいけど、ハニューちゃんのために頑張る!!」と意気込んでいた大ちゃん。
どうやら、恥ずかしがりながらも健気に頑張る姿勢が受けたらしく、どんどん指名が入ってきました。

ところが、いつの間にか演出用のプロジェクターの一つを使って、『魔法少女リリカル●のは 劇場版』の上映会になっていました。

「レイジングハートキター!」

「淫獣キターwww」

「ユーノ!!俺だー!!代わってくれー!!!」

冥界から来たご主人様の何人かが『魔法少女●リカルなのは』を知っていたらしく、成仏する前にもう一度だけ見たいと大ちゃんに頼んだようです。

予想外の展開に、大ちゃん自身も困惑していますが…
正直なことを言うと、こっちの方が俺の気分は楽です。
大ちゃんが接客しているのを見ると、何故か異様に気になってしまって…




次に博麗の巫女。
ルーミアが考えたメイドの訓練法は、なんとメイド漫画を読ませるという方法でした。
ルーミア曰く「今度のイベントで必要なスキルが凝縮されているのだー」とのこと。

プロのメイドさんと、メイド喫茶のメイドさんはちょっと方向性が違いますからね。
この短期間で育成することを考えると、ルーミアの着眼点はかなりいいと思います。
因みに、メイド漫画は小悪魔さんに頼んで、パチュリー様に取り寄せてもらったそうです。
取り寄せた漫画は多種多様で、通常のコミックではありえない厚さとサイズの本もあったような気もするが…


っと…そんなことはどうでもいい。
問題は、博麗の巫女の行動を読みきれなかったことでしょうかw
本人が「素のままで済むから楽でいいわ。」と言って、ツンデレメイドキャラを採用したのはいいですが…
本当に素のまま過ぎて、クレームばっかりなのですが。
あれはツンデレじゃなくて、ただのツンだと思うが…


仕方ないので、一旦裏に引っ込めました。
博麗の巫女の人気が無いのはあまりよろしくないが…
お客の入りから考えて、メイド長に勝てるのは間違いないから大きな問題じゃないな。







「ハニュー総帥。お客様方が、場の雰囲気に乗りきれていないようなので、予定通り作戦を開始します。」


「よし、開始して。」

そうそう、裏方も頑張ってるな。

裏方といえば、今話しかけてきたアイリス。
個人向け通信と、館内放送を使って指示を飛ばしています。

『全員、二曲目が始まる前に接客相手と共にミスティアの歌を盛り上げろ。』

例えば、いきなり歌を歌われても、なかなか盛り上がれないもの。
でも、一緒に付き添っているメイド達が盛り上がったら…


                                      「ほら一緒にミスチーって!声を掛けてあげて」
                                      「あ…うん…」


                                      「「ミスチー!!!」」


盛り上がりやすいですよね。

他にも、ステージの特殊効果はにとりさん。
そして、ミスティアと一緒にステージに立つのは、プリズムリバー三姉妹。

シトリン他、人間の里でビラ配りと街道警備をしている皆さんも、お疲れ様です。

さらには、忘れてはいけない防音とかステージの光の演出とか道に迷った人を探す担当の三人娘さん。
ご協力ありがとう。

-----回想------

へえ、この三人が俺達に協力したいと言ってやって来た子達ねえ。
どこかで見たような…
そうか、同人誌で見た子達と似ているな。
試してみるか。
                                      ヒソヒソ「こいつ、私達を嵌めた奴じゃないの!?」

「君たちの名前は、サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアでいいよね?」

「…どうして名前を知ってるの!?」

当たった!!
サニーミルクとやらが驚いているが、それを無視してもっと聞いてみたいです!

「サニーミルクの能力は、光の屈折を操る程度の能力。ルナチャイルドの能力は、音を消す程度の能力。スターサファイアの能力は、動くものの気配を探る程度の能力。
 そして、家は大きな木の中。三人暮らしで、毎日悪戯をして過ごしてる。それとスターサファイアはキノコの盆栽を育てている。間違いないよね?」

「「「ひいいい!?当たってる!?」」」

やったぜ当たったぜ!!!
って三人が固まって震えているじゃないか…
そりゃ、初対面の相手にいきなり、自分の事をペラペラ喋られたら怖いよな。

冗談冗談。
と言いたいが、ここまで当たる冗談は逆に怖い。

「実は、君たちがこちらに来ると聞いて事前に調べておいたんだ。驚かせてごめんね。
 じゃ、俺達の活動のお手伝い、お願いね?」

実は知っていたんだよ。
っていうことにしておけば、あまり怖がらせることも無いでしょう。


-----回想終わり-----

いやー思った以上にしっかりと働いてくれて、助かりました。
因みに、この子達のおかげで、同人誌が結構正しい情報を持っているということが分かりました。


あ、そうだ。
ついでにあの言葉も使ってみるか。

「なあルナチャイルド?」

「な、なによ…」




「しゃぶれよ。」



ぽかんとした顔をしている。
うーむ。

「なあ、おまえのオ●ッコを他の二人が飲みたがったりしたことは無いか?」

「はあ?そんなことあるわけ無いじゃない!!」

「ごめん、冗談だから気にしないで。」

前言撤回、あんまり同人誌の情報も当てになら無いな。
同人誌では、この三人はエロイ関係で、他の二人がルナチャイルドのオシッ●を飲みたがる話だったが…
そんなことは現実には起きていないみたい。
それと、意味が分からないが同人誌で見かけた「しゃぶれよ」という言葉は、何かこの子に関係があるかと思ったんだがなあ。




おっと。
そんな会話をしている間に、二曲目突入か。
よし、俺も最前線に行って盛り上げるか。


side ルナチャイルド

サニーの馬鹿~
何が「ハニューを丸め込んで、幻想郷を揺るがす異変を起こして、私達妖精の地位を最高のものにするのよ」よ。
逆に、ハニューにいいように使われているじゃない。

おまけに、私達の名前、能力、住みか、全て調べつくされてるから逃げることもできないじゃない。

私達が来るのを知ったから、事前に調べておいた?
サニーが思いついたのは、その日の朝なのに…
そんな短期間で私たちの事を調べたの???
それに、どうやってサニーが思いついたことを知ったっていうの???

考えれば考えるほど怖いわよ。

もう、本当にサニーの馬鹿~

「なあルナチャイルド?」

ひ!?ハニュー??
「な、なによ…」

「しゃぶれよ。」

しゃぶれ???
何を?????

「なあ、おまえのオ●ッコを他の二人が飲みたがったりしたことは無いか?」

「はあ?そんなことあるわけ無いじゃない!!」
そんな汚い話、聞いたこと無いわよ。
「ごめん、冗談だから気にしないで。」

いったい何の話よ。
ハニューは私達のことを調べ尽くしているのに、どうしてこんなに変なことを聞いてくるのよ。


!?

まさか、私が知らない事実ってことは…




----------





side 十六夜 昨夜

「今日は、何だか大変なことになってるね。まったく若い奴らにはついていけないよ。」

大変なこと?

「十六夜さんは知らないのかい?おたくの所のメイド達が、紅魔館の端の方で、何か変なお店を開いているみたいだが…」

はあ???





----------

「間もなく、本日限定ユニット『バカルテット』の公演が始まりまーす。立見席をご用意していますので、並んでいるご主人様もお急ぎくださーい。」

ちょっと、なにこの人だかり!?何なのよこれは!??????





「ちょっと、あなた!?何してるの???」


「あ、メイド長!本日こちらは、ジオンの交流会が行われています!」

交流会?
そんなことをやるなんて聞いて無いわよ!?
「誰の許可を得てやってるの?私は聞いて無いわよ?」


「ここは私の専用スペースだって、この前決まったはずだけど?」

!!!妹様!?

「ハニューが私にジオンのために使わせてくれって言ってきたの。そして私は許可をあげた…何も問題ないでしょ?」

くっ…

「せっかくだから、咲夜も楽しんできたら?ほら、次の公演が始まるみたいよ?」



『いち、にー、さん、しー』


----------


「「「「「「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」」」」」」


この盛り上がりに、いったい何の意味があるというの??
何が目的で、こんなことをしているのよ???




「ご機嫌はいかが?メ・イ・ド・長・様?」

霊夢?
どうしてあなたがここに?
あなたは今日、私と接客の勝負をしているはずじゃ!?

「流石、メイド長様ね。私と勝負をしているはずなのに、こんなところで油を売っているなんて…ずいぶんと余裕よね?」


「そういうあなたこそ、どうなのよ?」


「あらあら、いくら白髪頭とはいえ、ボケるにはまだ早いわよ?この数を見てなんとも思わないの?」



ま、まさか!!!

「ここに居る奴らは全員アンケートを持っているわ…




 私の勝ちね!」




「ルール違反よ!!!!」



「いや、違うな。」
この声は…
ハニュー!!


----------

side ハニュー

どんどん盛り上がっていくな。
午前中の、ミスティアがソロで行った公演は、はしゃぐメイド達に釣られて…という感じのご主人様が多かったが…
午後に入ってから、ご主人様達が率先して動くようになったな。
午前中で雰囲気に慣れたご主人様が、後から来たご主人様を引っ張ってくれている。
おまけに、噂が広がり始めたのか、午後になって来店するご主人様がまた一段と増えた。

いい傾向だ。

そして、この段階で限定という心を惹くイベント。
ミスティア、ルーミア、チルノ、リグルによる公演で一気に火がついた感じだな。

まったく、ミスティアの歌唱力には驚かされたよ。
これだけ長時間歌っているのに、全然疲れないみたいだし。明らかに上手い。
しかも、先ほどから歌っている曲。
俺が覚えているアニソンとかを覚えている範囲で教えただけなのに、うまくアレンジして歌っちゃうのだから凄い。
もちろん、それを一緒に仕上げることができるプリズムリバー三姉妹も凄い。
生物兵器としてそういった能力が与えられているのだろうが、それを差し引いても『ゲンソウキョウの歌姫』と言ってもいいぐらいに凄い。

でも、もっと驚かされたのは、他の三人もさまになっている点だよな。

ルーミアは、どういう理由か分からないが、何故かギターが上手く弾けている。
リハーサルの時に驚いて聞いてみたら「長く生きているから、どうにかなるのだー」とのこと。
ルーミアの年齢は知らないが、過去に色々なことをルーミアは経験しているようだ。

リグルは、最初はドラムなんてまったくできそうに無かったが、なんとか見た目だけはそれっぽくなっていた。
なんでも、かなり練習したそうだ。
まったく、お前は真面目でいい奴だな。

でも、周りに合わせるために、女装なんて止めてくれ。
妙に似合っているというか…汗をかきながらドラムを叩く姿が艶めかしいというか…気の迷いが起きそうで困る。


そして最も予想外なのはチルノ。
リハーサルの時は本当に驚いた。
ルーミアは、何故か「ああ、ルーミアなら上手く演奏できるという展開もあるよね。」と納得してしまうが、チルノは違う。
どう考えても、キーボードを上手に演奏するチルノは違和感がありすぎる。

何か種があると思ったら…



ありました。




アリスさんご苦労様です。


アリスさんが、チルノを人形のように操っていました。
チルノ、もの凄く得意げな表情でステージに立っているけど、凄いのはお前じゃないぞ、アリスさんだ。
アリスさんに感謝しなさい。



とまあ、色々あったが大成功でよかった。
最初は、いくらミスティアの歌が上手いといっても、ずっとミスティアだと飽きられるし、限定イベントを午後に行えば、午前の客の一部がリピーターになってくれるかも…
という軽い気持ちで始めたのだが、ここまで人気が出るとは…
四人の役割を見て、某アニメに似ているんじゃね?
と思って某アニメの曲を教えたのも勝因の一つかもしれないが、そもそも四人とも人として魅力があるんだろうなあ。

まったく…
集客数だけを考えるのなら、アイドルマスターのアイドルランクで言う所のランクFぐらいだけど…
お客様の喜び方を見れば、間違いなくお前たちはランクS級だよ。
本当に凄いよ。


















さて、最も懸案事項だった、バカルテットの公演もうまく行きつつあるし…
これなら、俺が楽をしても、お店の運営はきっとうまくいくだろう。
ふう…
休憩に入ろうかな?
 





「ここに居る奴らは全員アンケートを持っているわ…




 私の勝ちね!」





「ルール違反よ!!!!」

と思ったら、危惧していた自体が発生したよ。
もう!

「いや、違うな。」


「ハニュー!?」

メイド長がこの事態に気が付いたら、絶対に文句を言ってくると思っていました。
だから、準備は万全です。
それに、疲れたし、お腹も空いているので、ちゃっちゃと済ましましょう。

「お客を招いてはいけない、誰かの協力を得てはいけない。そんなルールはありませんよね、妹様?」

「そうよ!」

既に、ルールについては妹様に確認済み。
というより、妹様はそこまでルールを考えていなかったわけだが…
そして、場所についても妹様が自由に使えるスペースを同じジオン部のよしみとして使わせてもらっているのだ!!

メイド長、申し訳ないが今日は真面目に勝たせもらうよ?

「待って!お嬢様はこのことを知っているの!?」

「もちろん、お嬢様ならあそこにいますよ。」

                                    「次は私が霊夢を指名す番よ!」
                                    
                                    「ここは、私の紅魔館よ。だから次も私が指名する番よ!!」
                                    
                                    「紫お嬢様!レミリアお嬢様!他のご主人様方にご迷惑なるのでお静かに…」

「お、おぜうさまああああ!?」

自由に妹様が使っていいスペースとはいえ、紅魔館の主であるお嬢様に話を通さないのは流石にまずいと思ったので、事前に話をしておきました。
当初は、口頭で説明しようと思ったのですが、説明し難いので博麗の巫女の接客練習を見せながら説明したことが良かったようです。

最初は乗り気では無い様子のお嬢様でしたが、接客練習を見せるという分かりやすい説明のためか、すぐに許可を出してくれました。
よかったです。

しかしお嬢様…
楽しむのはいいが、朝から入り浸ってずっと博麗の巫女を指名し続けるのは、周りに迷惑がかかるからやめて欲しいなあ…
まあ、お嬢様が来る前は、博麗の巫女はツンデレメイドキャラが失敗して、クレームばっかりで裏に引っ込めていたから…
これはこれでいいか。


って、あれ?
メイド長、なに青い顔をしているんですか?

ああ、そりゃ負けが見えたら辛いよな…
しかも、これじゃお嬢様がメイド長が負ける引き金を引いたように見えるからな。

最高の笑顔で励ましてあげよう。

「メイド長、気にしないでください。お嬢様は、メイド長を負けさせようとして、俺達に許可を出した訳ではありません。
 ただ単に、メイド長のことが眼中に無かっただけですよ。」

メイド長と博麗の巫女の勝負を知らないお嬢様は、ただ単に面白そうなイベントということだけで飛びついたのだと思う。
多分…


「まあ、勝負の事を知っていたら、もう少し対応が…」


 あれ?メイド長!?どこに言ったのですか???


side 十六夜 咲夜

私の事なんて眼中に無い?
お嬢様にとって、私が負けることなんてどうてもいいこと??
私が、霊夢に紅魔館を去れと命令されてもいいと思っているのですか??


そんな私を笑っているのか、笑顔で毒を吐くハニュー…
ムカつく…


でも、お嬢様…
本当に楽しそう…

ハニューの言うことは真実なのかもしれない。






でも、私はここで終われない。
私にとって、お嬢様は人生の全て。

お嬢様が居ない人生なんて考えられない。

だから、私はここに居ると力の限り示す!!
例え、それが醜い足掻きであったとしても!!!

「お立ちのお客様方?こちらが空くまで、あちらでお休みになられたらどうですか?」

ハニューの店に集まったお客であったとしても、私の部屋に招き入れ接待する。

簡単に負けるつもりは無いわ!!


----------

side ハニュー

バカルテットの公演が終わり、再び始まったミスティアのソロもそろそろ終わりだな。
そして、このメイドカフェの終わりも間もなくか…

「短かったけど次で最後の曲になります。こんなに大勢の人達の前で歌えるのが初めてで…凄く嬉しくて楽しくて…
 なのにこんな機会がこれっきりだなんて、皆にこうして会えるのが最後だって思うと、とても悲しくて…」

「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」
「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」
「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「チンチン」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」
「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」
「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」

「ありがとう…私達ジオンはいつまでも皆と仲良くしていきたいと思っているの。
 だから…次の曲で最後だけど…曲は終わってしまうけど、ジオンと皆の関係はこれから始まるの!!
 これからもジオンをよろしくね!
 最後の曲は…」



最後の曲は、どうして争いは続くのか?という問いかけをしてくる、某ガンダムゲーのOPに使われている曲を歌ってくれます。
ミスティアが俺のリクエストを聞いてくれるというので、古いですが個人的に気に入っていた曲をお願いしました。
といっても、細かい所が覚えていないので、かなりオリジナルに近いですけど…




----------







「皆様!お待たせしました!!集計結果を発表いたします!!!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」

最後の曲は何故か大合唱となり、その影響からかご主人様方が全然帰ってくれないので、そのまま勝負の結果発表になってしまいました。
ちなみに、メイド長は最後の最後でかなり追い上げたようです。

メイド長…
何かをやりきったような清々しい顔をしているな…


「中国!勝者は誰なのか明らかよ!!私の票数を言いなさい!!!!」

って!?
博麗の巫女さん、気持ちは分かりますが、自重してください。

「あんなこと言ってますけど、いいですか妹様?」

「いいわよ。」


「それでは、博麗霊夢さんの得票数を発表します。

















 -3票です。」



(・Д・)ハア?

「ちょっと待ちなさい!!!!なんなのよそれは!!!!!」


「ここからは、私が説明するわ。」

妹様!?

「当初は対応の良かったメイドの名前だけを書いてもらう予定だったのよね…
 でも、対応が悪かったメイドを書いている人も出てきたの。
 だから、そういうのはマイナスでカウントさせてもらうことにしたわ。
 因みに霊夢は、+2票と-5票で、合計-3票ね。」

なんだと!?
これは予想外!?


「じゃあ、私の票数は!???」

「咲夜の票数は+29票よ。-票は無し。あの状況でここまで票を伸ばすなんて、流石お姉様自慢のメイドなだけあるわね。
 頑張った咲夜に、労いの言葉でもかけてあげていいんじゃない?お姉様。」

「な、なによフラン。そのぐらい分かってるわよ。

 よくやったわ咲夜。」


「あ、ありがとうございます!!!!
 その言葉だけで…私は…私は…!!!!!!!」

赤い顔をして、そっぽを向きながらメイド長を褒めるお嬢様と、それに感極まるメイド長…
なんだか、何か胸に来る光景だなあ。


ということで、この勝負はメイド長の勝利か。
負けて残念だけど、あの喜びようを見ると、これでもよかったと思えてくるなあ。
しかし、メイド長は何を妹様に願うのかな?


「そうだ!願い!願いよ!!
 妹様、私が勝ったということは、私の願いを聞いてくれるのですよね!!!」









「なに言っているのよ、優勝はあなたじゃないわよ。
 優勝は…






 ミスティア・ローレライ!!!!+223票!!!!!!」


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」

なにいいいい!?


「みんなーありがとうー!!!!!!!!」

「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」
「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」
「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ペニスー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」
「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」
「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」「ミスチー」

ありがとうと言いながら、舞台に飛び乗るミスティア。
うわ…会場全体が凄いことに!?


----------


あれから、数分間騒ぎが止まりませんでした。
結局、一曲歌ってなんとか騒ぎが止まった所で、結果発表が再開されました。


「やっと収まったわね。
 それじゃあ、優勝者が負けた子、今回の場合は最下位の子に何でも命令できるという話だけど…」

ミスティアは、博麗の巫女に、どんな命令する気だろう。


「ちょっと待ちなさい!!!
 優勝者が負けた子に、何でも命令できるですって!?
 そんな話聞いて無いわよ!!!!





 何でも命令できる!?




 咲夜!!どうして負けたの!!!!!!!!!」

と思ったら、いきなりお嬢様が割り込んできました。

実のことを言うとですね。
お嬢様に勝負の件そのものが知られると、何らかの介入が行われそうなので隠していたんですよね~

「も、申し訳ありませんお嬢様!!」


「まったくもう、大事なときなのに~。
 ここで咲夜が勝ったら、霊夢を一生私のメイド奴隷にするとか…
 一生私のペットになるとか…
 色々命令できたのに~」

おいおい。
博麗の巫女をペットにするとか…










背徳的でエロイ…

まさか、お嬢様もストーカーさんと同類だったとは…


「レミリア!?あんたそんなことを考えてたの!?
 友人の私に同情して、紅魔館に泊めてくれたっていうのは嘘だったの!?」


「うー!?霊夢…これは…冗談よ!!!」

お嬢様…墓穴掘ったな…
あの慌てよう、どう見ても冗談には見えないだろ。

しかし、お嬢様があんなことを考えているとなると、博麗の巫女はもうここにはいられないな。
博麗の巫女はどうなるんだ?

あれ?
ストーカーさんが、優しい笑顔で博麗の巫女に近寄ってきた。

「騙されちゃダメよ。あれがあの吸血鬼の本性よ。霊夢、何があったのか知らないけど、もう一度私の家に来なさい。
 何も遠慮することは無いわ、二人のことを気にしているのかもしれないけど、本心では新しい家族が増えたみたいだとあなたを歓迎しているのよ。
 
 そして私もそう、あなたを本当の家族のように思っているのよ?」
  
「紫…でも私…あなたの家のトイレは壊すし、色々酷いこともしちゃったし…」

「気にしなくていいのよ。家族だって、たまには喧嘩をするものでしょ?
 それに、喧嘩をするほど仲がいいって言うわよね?」

「紫…


 私、あなた達のことを少し誤解していたみたいだわ…」


俺もだよ…
ストーカーさんって、ずっとただの変態淑女だと思っていたけど、結構まともな人じゃないか。
詳しい事情はわからないが、博麗の巫女が仕出かした何かを水に流して、家族として住まないかと言えるなんて、なんて優しい人なんだ!!!
感動した!!!!!!

「ストーカーさん。俺からも、博麗の巫女をお願いします。」

「え?ハニュー!?」
「ストーカーさん???なにそれ…」

「私とあなたが始めて出会ったとき、あなたは博麗の巫女をストーキングしていましたよね。
 だから、あなたは博麗の巫女をストーキングすることが大好きな変態淑女だと思っていました。
 ですので、先日博麗の巫女が気絶した際も、唇を奪う目的で人工呼吸をしようとしているのかと思っていましたが…
 違ったのですね…

 あなたの博麗の巫女への愛がここまで清く、高潔なものだったとは…
 
 まったく、すばらしい!!!
 感動しました!!!!!!!」





「そんな…!?」
あれ?
博麗の巫女が絶句しています。
そうかそうか。
これは、今までストーカーだと思っていた相手が、実は人工呼吸で自分の命を救おうとしていたことに驚いているのですね。







…?

おかしいな、喜ぶべき話なのに、なにやら博麗の巫女が青い顔になってきています。
しまった…
それはとにかく、博麗の巫女は勝負で負けてしまったのだった。
ショックで落ち込んでいるか、変な命令をされないか怯えているのですよね?

これは博麗の巫女の、俺に対する評判をアップするチャンス!
救いの手を差し伸べてあげましょう。
博麗の巫女の耳に口を寄せて…

「これはオフレコですが、勝ったミスティアですけどね…俺はあいつに命令できる立場なんです。つまりですね、あんまり変なことしようとしたら、分かりますよね?
 因みに、ここには人がいっぱい居ますよね?…そんな場所で命令を断る事態になったら、博麗の巫女の信頼も失墜してしまうこともお忘れなく。」

ミスティアが変なことを命令しようとしたら、俺が部長特権でミスティアを説得してあげましょう。
博麗の巫女が変な命令を断ることもできるでしょうが、そんなことをするより俺が命令を変えさせたほうが、博麗の巫女の信用が失墜することもないですからね。

「霊夢どこに行くのよ!?」「霊夢!?」

って博麗の巫女が…


逃亡した!?

「咲夜!!追うわよ!!」「霊夢、まって!!」


そんなに負けて命令されることが嫌だったとは…
いや、でも気持ちは分かるな。

しかし、博麗の巫女が負けるという結果は、俺の責任だな。
謝りたいが、どこに行ってしまったのか…

「最下位の霊夢が逃亡するなんて…どうしようかしら?」

「妹様、妹様。最下位は霊夢さんじゃないですよ。」

「え、じゃあ誰なの?」




「ハニューさんです。」

……………………………………………………………………………………え?

「ハニューさんの得票は、かなりの数でしたが、中盤あたりからマイナス票が続出。結果、-4票で最下位です。」

俺の不人気っぷりヒドスw
ってちょっと待ってーーーー!?
そもそも、俺が対象になってるなんて聞いて無いよーーー!?

「それでは、命令をどうぞ!!」

待って待ってーー!!
まだ心の準備が!!!

「チ●チン…どうしようかなー?




 決めた!!ハニューちゃんはサービスが悪かったのよね?だから何でも良いから皆にサービスしてあげて!!」


サービスとな??
サービスって何をすればいいんだ??




うーん…



「あや~ハニューさんの写真を撮って、それを皆さんに差し上げるというのはどうですか?」

なんだってーー?
サービスとして写真を差し上げるだと!?

サービスで写真ということは、サービスカットということだよな!?
確かに文さんの言うとおり漫画やアニメでは、サービスカットであるヌードシーンは健全な男子へのプレゼントとしては、基本中の基本だが…
いきなり、そんなことを言われも…

「結構いいアイデアだと思ったんですけどねー皆さん喜ぶと思いますよー」

そ、そうだったのか??
いや、俺の裸なんて見て誰が喜ぶのかと…

う…

確かに、文さんの言葉を聞いて、皆さんが期待した目を向けてきています。
し、しかしヌードは…

「それなら、皆さんの希望するサービスをしてあげたらどうですか?」

希望するサービス??

ヌード写真は嫌なので、皆さんの希望するサービスを行います。

それじゃあ、俺達のココにサービスしてもらおうか。全員満足させるまで帰れると思うなよ!

ネチョ



それは、もっとやばいことになる気がする…



「それじゃあ、ハニューが考えている間に、私への願いを聞きましょうか?
 でも、あんまり無茶な要求はダメよ?」

おっと、俺が考えている間に、妹様とミスティアは式典を進めるようですね。

「私、もっと多くの人の前で歌いたい!!だから、こんなお店を人間の里にも作りたいの!!
 妹様お願い!手伝って!!!!」

「わかったわ、その願い叶えてあげる。手助けできることがあったら、何でもいいなさい!!」

なんだと!?
でも、俺にとっては好都合か。

しかし、こうなると俺も気合を入れてサービスしないと…
俺がここで失敗したら、ミスティアの願いに悪影響が出ちゃうからな。


side 紅 美鈴

ハニューさんって結構な得票数でしたね。
でも意見が真っ二つでした。
『接客が最高に良かった。』
『高貴な姿を眺めることができただけでも良かった。』

『せっかく指名しに来たのに、指名キャンセルなんて残念です。』
『トラブル対処で指名お断りなんて…少しでも話がしたかったです。』

どもれこれも、本質的にはハニューさんに対して好意的な票ばかり。
でも、今回はサービスが良くなければならないので、後半のような票はマイナスになっちゃったのですよね~。

店長という立場上、後半はトラブル対処に追われて接客できなかったようですが、接客していたらどういう票になったか見ものでしたね。


本当に、人気者は羨ましいですね。
私なんか、中国と書かれて無効票ばっかりになる自信がありますよ!!!!


あははははははは!!!!!



はあ…




グス…

----------

side ハニュー

この程度で勘弁してください!!!
という気持ちでいっぱいです。


結局、普通の写真で我慢してもらうことにしました。
といっても、ヌード写真がただの写真に変わってしまったのはちょっと可哀想なので、それぞれの好みに合わせたオーダーメードの写真にしました。
具体的には、ご主人様の好みを、応対したメイドからの情報を基に推理して、好みに合うと思われるガンダムキャラの真似をして写真に写ってあげました。
例えば、幼くも凛々しい感じの女性が好きだというご主人様(何故か、異常に多かった。)が撮影室に来たときには、ガンダムUCのオードリーバーンの真似をしました。
自らの信念のために大胆な行動を取りつつ、高貴で品のある姿勢を崩さない彼女を真似るのは大変でしたが…
俺がオードリーを演じていることに気がつき、まるで俺が『やんごとなきお方』であるかのように接してくれるご主人様が多かったので、上手く演じることができたようです。

ちょっと恥ずかしかったですが、ヌード写真に比べれば可愛いものです。

それと、お金払ったのに、俺にキャンセルされて、それのお詫びが写真一枚じゃ納得できない!
という人が後々出てくることもあると思うので、そういう人のために写真に俺の名前を書いておきました。
こうしておけば、この写真が間違いなく今日のイベントに来たという証拠であり、それを部長の俺が承認したということになりますからね。

つまりレシート代わりとして、後ほど返金に応じられるということです。
いくら払ったのか記録に全然無いので正確な額は返金できませんが、少なくとも入場料ぐらいは返金してあげるべきでしょう。

「はい。
 この写真は今日ここに来たという大切な証拠だから、大事にしてくださいね。」


「た、大切にします!!」

さっきから、一生の宝物だとか言う奴がいるが、ちょっと大げさすぎw
きっと俺の哀れっぷり(不人気っぷり)に同情してくれているのでしょう。
いい人達だ…





ふう…
やっと終わった。

今のお客さんで最後かな??

そういえば、お客といえば、手伝いに参加してくれた店主はどうなったんだ?



あ…

あれは店主と…



----------



side 森近 霖之助

やっと終わりか。
しかし、僕にこんな才能があったとは…驚きだよ。
僕の力があれば、幻想郷の女性を全て虜にすることなんて簡単なこと。
と思わず増長しそうだよ。

「こーりんさん、もうお店は終わりなのに、どうしてもこーりんさんを呼べって言うお嬢様が…」

ふむ…
まったく困ったお嬢様だね。
魅力があるというのも困ったものだよ。



「お嬢様。僕を呼んでくれて嬉しいよ、でももうお別れの時間なんだよ…」








「霖之助さん??それは、私と別れるということ????


 グスン…」






























「朱鷺子!!!!これは誤解だ!!!!!
 違うんだ!!!決して朱鷺子のことを忘れていたとかそういうのじゃ無いんだ!!!!!
 そうだ、これはハニューの陰謀なんだ!!!!本当だ!!!!!」

嵌められたーーーーーーーーーー!?
ハニューって本当によい妖精なのかもしれないと思った僕はなんて馬鹿だったんだ!!!!


「ほう…?誰の陰謀だと??」


終わった…

----------

side ハニュー

まったく、店主には手を焼かされる。
店を手伝ってくれたのはいいが、今度は奥さんに誤解されているじゃないか。

「店主、ちょっと代われ。


 朱鷺子さん、安心してください。
 あくまで店主は「食事分を働いて返せ」という俺のお願いを受けて、あのような行動をしていただけなのです。
 本当は、あなた以外の女性の相手をすることを嫌がっていたのですよ。」


「ほ、本当ですか…??
 でも…それなら、ずっとあんなに楽しそうに働かなくてもいいじゃないですか!!」

う…
店主の働きっぷりを見ていたのか…
確かに店主の奴…途中から楽しくて仕方ないって感じだったからなあ…
悲しいかな、男の性か…

確かに、さっき伝えた理由なら、俺が監視していた時は一生懸命働いていてもおかしくないが…
俺が目の前からいなくなったら、やる気が削がれるのが普通だよな。

えーと…
あ、そうだ。
また一芝居打つか。
「店主には手を抜けない理由があったのです。
 実は、店主は手伝うにあたり、諸事情でジオンに入ったのです。
 そのため、他の先輩達から後輩として常に厳しい目が向けられている状態でして…
 もしも、今日限りの手伝いだったら、多少の事は目をつぶるのですが…」

「「えっ!?」」

ちょっと、店主まで驚いたらダメだよ!
ボソ…「朱鷺子さんのために、しっかりと合わせろよ、店主。」


「そ、そうなんだ。本当は嫌だったんだが、立場上、手が抜けなくて…ハハハハハ…」


「本当?本当に本当???」

「そ、そうだよ朱鷺子。本当に本当だ。」











「うん…今回だけは許してあげる…でも次は無いからね!」


ふぅー
何とかなったか。

まったく世話を焼かせるなよ。

「悪かったよ朱鷺子。僕の軽率な行動で心配させてしまったね。」

しかも見せ付けてくれて。
こんな所で抱き合うなよ。
こんな可愛い奥さん(予定)がいるのに、まったく何しに来たんだか…

「もう!本当に心配したんだから。でも、私の勧めたとおり、ジオンに入ってくれたことは嬉しかったな…」

!!
そうかジオンに入りに来たのか。
なんだ、そうならそうと、早く言ってくれよ。
これは、ひょうたんから駒という奴ですか!?


「まったく、店主には勿体無いぐらい可愛い奥さんだな。大切にしてやれよ。
 店主、これからよろしくな!!」



いやーそれにしても、いい感じで終えることができたなあ。
これで明日から、人間の里ではジオンの評判が鰻上りでしょう。
多分「オタク向けの部活だけど、凄く楽しそうだったよ!!」という感じで、無害で楽しい奴等といういい評判が広まっていくんだろうな~


side 森近 霖之助

「まったく、店主には勿体無いぐらい可愛い奥さんだな。大切にしてやれよ。
 店主、これからよろしくな!!」

し、しまったあああああ!?

成り行きでジオンに入ったことになってしまったああああああ???
毒を喰らうなら皿までというが…

し、しかし…
僕をジオンに入れてハニューは何を狙っているんだ!?

「霖之助さん…今日はちゃんとした所で寝られるんですね。うれしい…」


う…

朱鷺子…




朱鷺子のことを考えたら、ハニューに何を要求されても、断るわけにはいかない…
朱鷺子の命も、僕達の生活もハニューの手中…






僕は…
もはやここで頑張るしかないのか…


(大切にしてやれよ。)
そうだ…悔しいがハニューの言うとおり、朱鷺子は大切だ!!
腹を括れ!!そもそも、本気で朱鷺子を守りたいなら、ジオンに入るほうがいいというのは分かりきっていたことじゃないか!

それなのに、僕はハニューが怖いとか、悪いことには手を貸したくないとか、自分のことばっかり考えて…

僕は…

僕は!

僕は!!

----------

side 小悪魔

「チンチン!今更だけど、ハニューちゃんって急に幼く見えたり、急に大人びて見えたりするから面白いわね!」

本当にその通り。
撮影会の時のハニューちゃんは、クルクルとキャラクターが変わるので驚きましたよ…

例えるなら若くして国を率いることになったお姫様のような雰囲気だったのに、次の瞬間にはまるで女王様のような雰囲気に変化したりしていたり…
ハニューちゃんは相手の望む女性像に、自らを合わせているみたいね。

本当に面白いですよ。
だって、これって私達淫魔と同じですもの。

私達淫魔が、男性を虜にできるのは、美貌の力だけではないのですよ。
もう一つの重要な力…
男性が求める女性像を形に出来る力があるからなのよね。

女性が考える可愛いさや美しさは、男性が求めるそれとは違う。
つまり、男性が求める可愛いさや美しさを形にできるのが私達淫魔の特徴であり、武器…


なのに、ハニューちゃんは淫魔でも無いのに、まるで男性が求める可愛いさや美しさを分かっているかのような行動が目立つ…
ハニューちゃんの服装、髪型、仕草…
どれも、男性から見た女性像を形にしたものです。
(だから私も、先日は思わずハニューちゃんを抱きたいと思ってしまったのですけど。)

写真撮影を通して、男性達を魅了しようとする姿は、まるで私達の仲魔の姿を見ているようでした。
以前から気がついていましたけど、目の前でここまでハッキリと見せ付けられると、不思議で仕方ありませんよ。


----------

side 霧雨 魔理沙

気分が沈む…
どうして私は、誰の心も…

私の事を見てくれていると思ったパチュリーの目には、いつの間にか小悪魔しか写らなくなっていた。
そんな私の心を癒してくれると思った、兄のようなあの人の隣にも…

いやもう止めよう。
こーりんを探すしてどうする。

全てを吹き飛ばしたことを謝る。それで?

私は、本気で慰めてもらえるとでも思っているのか?

…今日は帰って寝よう。


----------





私の家の前に立っているメイドは誰だ…??




霊夢!?
どうしてこんな所に…!?
それにその格好はいったい!?


ボロボロのメイド服!?

逃げてきた!?

何かを見てしまった!?

汚された!?



…考えすぎだ…
とにかく、助けてあげないと。


「霊夢?おまえ人の家の前で、なにしてるんだ?

 立ち話もなんだからさ、とりあえず中に入ろうぜ。」


ギィ…









「ま、魔理沙ああああああ!!!!」


「霊夢!?おいどうしたんだ、落ち着けって!!!
 
 おい!?馬鹿!!



 そんなに抱きつくなよ!?」



side 八雲 紫

「ハアハア…橙!もう一度、私に向かってご主人様と言うんだ!!」

「はい、ご主人様!!」


「も、萌え死ぬ!!」
ゴロゴロゴロゴロ…


「ちょっと藍、考え事しているから静かにして頂戴。」
さっきから、藍が騒いだり、床を転がったりして、五月蝿くて仕方ないわ。

「紫様。私が五月蝿いのなら、どこか別の場所で考え事してください。」

この子は……
はぁ…

「あなたが、橙の服を脱がしたりしないか、監視するためにもここにいるのよ!!」


「何を言っているんですか紫様!!メイド服を脱がしたら、メイドの橙がただの橙になってしまうじゃないですか!!!」






クパア…

「ちょ、紫様!?何でもかんでもスキマで解決しようとしないでくださーーーーーい…」



はあ、霊夢をどうやって振り向かせようかしら…
恋愛って難しいわね…



あっいけない。
もうこんな時間。



side 西行寺 幽々子

「へえ、ハニューは少なく見積もっても、実力の数百分の一も出してないだって?

 私はそれなのに負けたって言うのかい?」


「ええ、それでも負けたのよ~」


「ハハハハッ!!いいねえ。もの凄くいい!!」

鬼というのは、どうしてこうバトルマニアなのかしら~

「それで、ハニューの正体はいったい何だって言うんだ?」

「残念だけど、皆目検討がつかないのよ。神話にまで遡って調べたのに、まったく手掛かり無し。本当困ったわ~
 それに、一緒に調べようって紫に連絡しようとしても、全然連絡がつかなくて困っているのよ~」

本当に紫は何をしているのかしら。

「それじゃあ、迂闊に手が出せないな。」

「鬼のあなたに言われる台詞じゃないわね。」

「となると、アレは何か絡め手の準備かい?」

この鬼、案外鋭いわね。

「さあ、何のことかしら~??」

「私が知っている範囲でも、お宅の庭師はあまり色気づくタイプには見えなかったが?」

「年頃になれば、色気づくこともあるわよ。女の子ですもの~」



「ま、そういうことにしておくかな?
私は一応ジオンの一員になっているから、今日はこれぐらいにさせてもらうよ。」





一応ね…
あの子鬼…
獅子身中の虫になるつもりかしら?
危ないことをするわね~

----------


呪いの装備に、豊富な戦闘経験。
そして、『人はよりよく導かれねばならん。指導する絶対者が必要だ』ね…

面白い話が聞けたわね。

ハニューの目的…
もしかしたら、紫が想定したシナリオのうち、最悪のシナリオと同じなのかも…

でも、最悪のシナリオ…
外の世界を征服し、支配下に置くつもりなのかしら…



ますます彼女の正体が分からなくなる。




ハニューに秘められた力。
そして、その目的。

現存する、幻想的な存在が忘れてしまった発想と力。
そう、神話級の神々ではないと釣り合わない程の内容…

でも、神話にも彼女の姿はなかった。
似て非なる者達しかいなかった。


となると、彼女の存在は高度に秘匿されて来たのか…

それとも…








「幽々子様。お夕飯の準備が整いました。」

「妖夢、もう少し可愛げのある表情を出さなきゃダメよ。」


「よ、妖夢が愛情を籠めてお夕飯を作りました~」


恥じらいながらその台詞…
妖夢…恐ろしい子ね~
「ハイ合格。」


----------


料理の腕は文句なし、器量も良いいし、ちょっと薄めの胸も、まだまだこれからだから問題ないわね~


「あの、幽々子様?伺ってもよろしいですか?」

「どうしたの妖夢?そんなに改まって?」

「そろそろ、私の嫁ぎ先を教えてくれませんか…」


あら?まだひと言もそんなことを言っていないのに、気がついちゃったようね~。

「突然花嫁修業を始めさせられたら、嫌でも私の縁談が進んでいるのはわかります!!」

「あら?やっぱり縁談はいやかしら?」

「このままずっと、幽々子様の元で働きたいという気持ちはあります。
 ですが、幽々子様のためというのなら…」

本当に妖夢はいい子ね。
泣けてくるわ~。

「しかし幽々子様。私が居なくなった後。お食事とか…御一人で大丈夫ですか?」











えっ




「幽々子様?もしや、私が嫁いだ後の自分の生活を考えていなかったのでは…」



ギクッ

「考えていたに決まっているじゃない。そうね~あなたの縁談先はメイドがいっぱい居るから、何人か派遣してもらおうかしら~オホホホ~」


「メイドがいっぱい居る??紅魔館ですか???
 となると、私の縁談の相手は…
 吸血鬼姉妹!?


 あんなお子様の妻に…これでは愛し合うことなんて…」


あら~?さっきまで威勢が良かったのに~??
どんな相手でも私のために愛する覚悟だったようだけど、愛が理解できない精神年齢が相手だと、どうしようも無いから辛いってことかしら?
でも、相手はスカーレット姉妹じゃないのよ~。

「安心しなさい。あなたの縁談の相手は、もっと大人の精神を持っているわよ~
 メイド服姿も凜としているし、素敵な人よ~」

「凛としたメイド服!!
 じ、実は私、以前戦ったときから、あの人の事がずっと気になっていました!」

まあ!なんて素晴らしい偶然!!
妖夢が、嫌いな相手なら可哀想だったけど、気になっている相手だったら話が早いわ~

「そうなの!それなら安心して縁談を進められるわ!!!まさか、妖夢がハニューのことをそんなに気になっていたなんて~」












「短い間でしたがありがとうございました。幽々子様さようなら。」

ちょっと妖夢!?
話が違うわよ!?
どうして荷物をまとめているの~!?

「嫌です!!あんなに腹黒い奴の所にお嫁に行くなんて嫌です!!
 絶対に弄ばれた挙句に殺されます!!!!!!
 それに、あの人の敵になってしまうなんて!!!!」

「あらあら……妖夢…あなた紅魔館のメイド長が好きだったの…うふふふふふ~
 へえ~ああいうのが好みだったんだ~
 そうならそうと、言ってくれればいいのに~」

「みょん!?なんですかその笑顔は!!!!
 誤解しないでください!!これは好きではなく、憧れというか…その!!
 とにかく違います!!!!!」


まったく分かりやすいわねえ。

と何時もの様にからかうだけなら楽でいいけど…
そんな妖夢の気持ちも、今回ばかりは…

「あなたの気持ちはわかりました。
 ですが、この縁談には冥界の運命が掛かっているといっても過言ではありません。
 妖夢…覚悟を決めなさい。」

厳しく接しないといけない。

「…………………わかりました。」
妖夢の顔に明らかな葛藤が見えるわね。


「でも安心しなさい。この縁談はまだ相手に伝えていないの、実は本当に実行に移すかどうかも決まっていないのよ。」

「え!?それは本当ですか!?もう、驚かさないでくださいよ!!!」


ごめんね妖夢。
確かに縁談の話が実行に移すかどうか決まっていないのも事実、でもそれはあなたを安心させる程度の力しかないのも事実なのよ。
状況が悪くなれば、私は間違い無くあなたをハニューに差し出すわ。
そして紫が頼りにならない今、状況は間違いなく悪化しているわ~。


妖夢は、ハニューを腹黒いと言ったけど、組織の上に立つものはすべからず腹黒いものなのよ。
私も含めてね。




!!

この気配…
やっと来たようね。

----------

side 魂魄 妖夢

「ハニュー対策をしないで、霊夢ばっかり追いかけていたから、今日は来ないと思っていたわ~」

「あら?私は何も考えずに遊んでいたわけじゃないのよ?」

八雲紫。
幽々子様の親友にて、対ハニュー同盟(仮)のもう一つの柱。
ただし、最近は博麗霊夢への求愛行動を優先しているため、ハニュー対策がおざなりになっている。

だったはず…

「博麗の巫女と八雲紫は二つで一つ。この二つが正常に機能しない限り、幻想郷は維持できない。
 そしてこの二つの力が親密なら…幻想郷でこの力に抗うことは不可能。
 ハニューが霊夢へ接近する可能性があったから、予防線を張っていただけよ。」

!!!
なるほど、流石幽々子様の親友だけのことはある。
馬鹿になったように見えて、実はしっかりとハニュー対策を進めていたとは。

「あら~?幻想郷に放ったスパイ幽霊の話だと、博麗霊夢は魔理沙の家に転がり込んだようだけど~??」

「う…


 さっき計画を修正したわ。すぐに取り戻すわ。」


急に歯切れが悪くなりましたね。

「ねえ紫?あなた、昔言っていたわよね。幻想郷の男なんて、全部食ったことがあるって…
 そんな紫にお願いがあるんだけど~」

「ギク…な、なにかしら…?」

全部の男を食った??
しかし、幻想郷内の人間を食べることは、禁じられているはず…

「恋愛経験がない妖夢を教育してあげて欲しいのよ~。特に実技面で。
 私はこっちの方は経験不足…というより覚えてないから、教えるのには限界があるのよ~
 でも、紫なら簡単でしょ?」


「え?


 むむむ、無理よ!!!」


「あら~おかしいわね~
 ねえ紫。もしかしてあなた…」



「…………………………………………
 …………………………………………
 …………………………………………
 …………………………………………
 …………………………………………
 …………………………………………
 …………………………………………
 …………………………………………
 …………………………………………
 …………………………………………」


真っ赤な顔で俯く紫様。
お二人は、いったい何の話をしているのでしょうか?


「妖夢、席を外しなさい。」



----------

side 西行寺 幽々子



「はあ~。まさか紫にこんな弱点が存在したなんて~。」

「べ、別に恋愛が私の弱点じゃないわよ!!!!」

「うふふ~別に恋愛が弱点なんて言っていないわよ?」

真っ赤な顔で、慌てて否定する紫。
やっぱりそうなのね。
昔から「恋愛なんて経験し過ぎてもうウンザリだわ!!」って紫は言っていたのに、入ってくる情報と合わないから、話を振って見たけど。
まさか、ここまでウブだったとは驚いたわ~

こんな状況じゃなければ、こんなに可愛い紫を見れたことに喜ぶべきなんだけど…

「これから事実だけを言うわ~
 あなたが霊夢に必死になっている隙に、ハニューは勢力拡大。
 あなたが霊夢と距離を一定以上に詰めようとすると、何故か霊夢との関係が悪化する。

 原因や黒幕はとにかく、恋愛というあなたの弱点が、ハニューの有利に繋がっているのは間違いないわ~
 とてもまずい状況よ~」


「大丈夫よ。すでに計算のうちよ。
 ハニューは劇薬だけど、幻想郷を永遠のものにするためには、必要なの。
 私たちは、然るべき時に果実を収穫するだけでいいのよ。」

紫…
あなたは、その高い計算力で先を読むことにより、ごく一部の例外を除いて最後はいつも勝利を掴んできたわ。
だから今回も、あなたには勝利の道が見えているのね…

でも、一つの計算の狂いが、全てを壊すことだってあるのは紫も知っているでしょ?

----------

side 霧雨 魔理沙


もうとっくに日が昇ってる…
霊夢の奇行に付き合わされてせいで、もうこんな時間か…

「魔理沙…優しいのね…」








「当たり前のことを言うなよ。」

「何も聞かずに、泊めてくれてありがとう。私…何も信じられなくなっちゃった…
 親友だと思っていたレミリアは、メイドを囲って喜んでいるただの変態だったし…
 ちょっとだけ、お母さんみたいだと思った紫も、私の体が目的の変態だったし…
 もしかしたら、仲良くなれるかもって思ったハニューも、実は私を虐めたり、罠に嵌めたりして楽しんでいたなんて…」

何があったのかもっと詳しく聞いてみたいが、こんなに弱気な霊夢を見ると、とても聞けないぜ。
それに、下手なことを言って霊夢に嫌われたくなかったんだろうな。
私も寂がってるってことか…

「なあ霊夢…
 神社が直るまで私の所で暮さないか…」

「…魔理沙!!!!」


side 稗田 阿求

歴史を書き残すものとしては、昨日今日の出来事は大変面白いですね。
不謹慎ですが、喜劇的な展開ともいえます。


ハニューは当初、ジオンという秘密結社を率いて、博麗霊夢と戦った悪人として、名が広まりました。
しかし最近は、異変を解決したことにより、ハニューは実は善人ではないかという異論が出始めていました。
そして、つい一週間ほど前に広まった、ハニューに怪我の手当てをしてもらった少年の話。
その熱っぽく語る少年の様子と相まって、人間の里のハニューへの興味は、過去に無いほど大きくなっていました。

そんな所に転がり込んできたのが、紅魔館でジオンのメイド達が、訪れた者をご主人様として接待してくれる交流会の情報。
この情報は、瞬く間に里を駆け巡っていきました。

まったく、あまりにも基本に忠実かつ、確実な効果が見込める広報戦略で嫌になります。

おっと話が逸れました。

その情報に対する反応は真っ二つに割れました。

紅魔館へと急ぐもの。
警戒し、行動を起こさないものです。

前者は、里の若者。特に若い男が中心になりました。
これは、メイド達の容姿と、そんなメイド達に奉仕されたいという、男の性に負けたのが原因でしょう。

妖精や妖怪は、悔しいことに普通の人間より美人揃いです。
ただ、妖精は幼稚で恋愛に疎く、妖怪は危険が伴うため、普通の人間は人間以外に誘惑されることは、珍しいことでした。

しかし、ジオンの妖精や妖怪は、それらの常識を裏切るような者達ばかりでした。
若い男たちは、ビラを配っていた妖精メイドや妖怪メイド達に簡単に誘惑されてしまったようです。

実際にビラを配っていた妖精メイドや妖怪メイド達は、10代後半から20代前半に見える容姿とスタイルを持ったものが中心(10代前半もいた)でした。
もちろん見た目だけではなく、友好的で大人びた会話をするなど、そこら辺にいる妖精や妖怪とはまったく違う印象を受ける者達ばかりでした。

もちろん、最初は紅魔館に足を運ぶかどうか、迷っている者が多かったようです。
ただし、昼前あたりから紅魔館での状況が伝えられ始めると、それらの者も雪崩を打って紅魔館へと向かいました。

自らの好みのメイドを選ぶことができ、そのメイドが恋人のように接してくれる。
しかもそのサービスの中には、進んでいる外の世界ならいざ知らず、人間の里の女性達では恥ずかしがってあまりしてくれないサービスまであるという。
「性的サービスを提供するものではありません。」という謳い文句が、逆にそう勘違いされるほどのサービスとは何なのか?
という好奇心を掻き立て、噂の流れを加速させたとも聞いています。


外の世界にハニートラップという、女性を使って男を篭絡し、情報を集めるスパイ技術があるそうですが、ジオンの行動も同じ様なものなのでしょうか。


とにかく、多くの若者が骨抜きにされ、ジオンシンパとなってしまいました。



これだけならまだマシだったのですが、問題はこれだけではありませんでした。


紅魔館で酷い目に会わされなかったか?
ジオンシンパになったのは、洗脳された為ではないか?
ジオンシンパとなった者達を心配して行ったそれらの行動は、ジオンシンパとそうで無い者との間に深刻な亀裂を次々と生んでいくことになりました。

特に酷いのは、男女間の関係でした。
ジオンは、ご丁寧に彼女達の写真(彼女達と一緒に撮影した写真)。なかにはサイン入りのハニューの写真を、交流会に参加した者達にお土産として渡していきました。
ジオンシンパにとって、大切な宝物。
しかし、それを大切にする姿を見た彼ら(彼女ら)のパートナーの心境はあえて語る必要は無いでしょう。


何組かの男女が、破局を迎えたと聞いています。


人間の里は滅茶苦茶になってしまいました。
人間の里が繁栄してきた理由、その一つは八雲紫に影から守られていたこと。
そしてもう一つが、問題に対し団結して対処してきたこと。

しかし、昨年の年末に向日葵が空から降り、人間の里が破壊された異変が示すように、一つ目は崩れつつあります。
そして、二つ目もハニューによって亀裂を入れられた。


もしもこの状況でジオンに攻め込まれたら…
人間の里は終わりかもしれませんね。


side 上白沢 慧音

ジオンで出会った少女(少年)達と、人間の里の少女(少年)達を見比べ、人間の里の少女(少年)達に何の魅力も感じなくなったという若者達。
幻想郷の歌姫という少女や、バカルテットという少女達の話題ばかりを話す若者達。
そして、サイン入りのハニューの写真を宝物のように大切にし、それを非難されると激怒する若者達。
ジオンは人間達と仲良くすることを望んでいる、それが分からない大人たちはおかしいと怒る若者達。

こういった若者達に対して大人たちは『油断させた所で、食べる気じゃないか。』『若者を洗脳して、人間の里を内側から壊すつもりだ。』
と考えますます溝を深くしている。

しかし、私はそんな問題はささいなことだと思う。

半妖の私だから気がついた。
本当の人間の里の危機は、ボディーブローのように後から効いてくる。

もしも、ハニューがジオンの少女達を使って、若者達を本気で篭絡したら…
数十年後には人間の里に純粋な人間などほとんど居なくなってしまう。

妖精の数に比べたら、人間の里の人口など微々たるもの。
あっという間に、私のようなハーフか、若しくは子の居ない家庭が溢れかえる。


人間の里は緩やかに、そして確実に消滅する。
恐ろしい陰謀だ…



side 人間の里 長老会議を傍聴していたとある中年


「まったくどうなっとるんじゃ、妖精や妖怪に誑かされたような若者が里に溢れとるぞ。」


「妖怪や妖精は人の敵。それは真理の筈。騒がなくとも、恋破れいずれ元に戻るじゃろ。」


「ことはそう簡単じゃないワイ。ミスティーとか言ったかのう?そいつのファンとか自称している奴らは、恋愛感情とは別で動いているみたいじゃ。」


「というと?」
「ほう…」


「これは勘だが、あれは神仏に対する信仰に似ていると思うんじゃ。」


「信仰か。それなら面白い話がある。ジオン総帥ハニューの写真を神棚に飾ったり、お守りに入れたりする若者が現れたそうだ。」


「既にそこまで…」
「なんと…」


「妖怪の賢者の動向は?」


「いつもと同じく、音信不通じゃよ。」


「博麗の巫女はどうしている?」


「既に使いを出しとるよ。もうすぐ戻るじゃろ。」


タッタッタッタッタッ…
足音!?噂をすれば早速か。


「大変です!!!!!博麗神社が!博麗神社が!!!!」


「どうした!落ち着け!!!」








「博麗神社は崩壊!!博麗の巫女は行方不明!!!!」


「「「「!!!!!!」」」」

な…
人間の里はいったいどうなるんだ…



[6470] 第二十話 気がついたら妖精はあくまでギャグSSです。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/04/22 19:10
第二十話
気がついたら妖精はあくまでギャグSSです。

side ハニュー

紅魔館にあるジオン本部、そこで書類に埋もれながら、ハニューは混乱していた。

えーと…なになに。
『新型核融合炉開発に関する報告 その5』
『妖怪の山に対する接待用物品の上乗せの上申書』
『新人メイドへの教育プランの決裁書』
etc…
etc…



なんなんだこれは…
ルーミアと遊ぼうとしても、ここ最近はいつも忙しく書類に判子を押していたりしているみたいなので、俺も手伝おうと作業に参加したのだが…


ルーミア達が処理している、この書類の内容はいったい何なんだ?
てっきり部活関連の書類かと思ったが、どう読んでも、部活動の内容とは思えないのですが、どういうことなんだ?



なんというか、会社組織のような書類や軍隊のような書類ばっかりです。
例えば…
「接待への物品が不足しているため、大天狗への工作活動に悪影響が発生している、至急物品の補充を要請する。」
とか
「即戦力化を目指し、新人メイドへの実弾を使用した戦闘訓練の実施を提案するものである。」
のような文章がいっぱいです。

どこの組織の書類か分かればいいのですが、どこの組織の書類か意図的に分からないように調整されているみたいなんですよね。
うちの部活は、こんな悪の秘密結社っぽいことはしてないから、この書類は…



あ、わかったぞ。
これは紅魔館の書類なのか。
俺達、部員である前に、紅魔館のメイドだもんね。


最近の紅魔館は何かと物騒だなあ。
まるで、世界征服とまではいかないものの、ゲンソウキョウの征服を目指しているように読めるのだが…
まあ、生物兵器である以上、仕方がないこととも言えるのだが…


うーん、うーんと唸るハニューに、ジオン徽章を身に着けた妖精メイドが恐るおそる訊ねる。

「ハニュー総帥、先ほどから決裁が進んでいないようですが、何かおかしいところがありましたか??」

「いや、しっかりと考えているだけだから安心して。」


しかし、こんな重要そうな書類を俺達メイドが決裁をしてしまっていいのだろうか?
最近は、メイド長の仕事をかなりメイド達に振り分けているみたいだし、少し前には俺もメイド長から直々に色々と教わったのだが…

うーん。
不安だなあ。
しかも、明らかに陰謀臭いものとかいっぱいあるから、やりたくないなあ。



でも…
だからといって、手を抜いたらお仕置きが怖いし(特にこんな重要そうな書類だし)。
ルーミア達だけに任せて、俺だけ遠くから見ているというのも気が引けるからなあ。





仕方ない。
こうなったら、かなり本気を出して頑張るか。
これだけの量の事務仕事をこなすなんて、仕事をしていたとき以来だなあ。


side アイリス

「やっぱり、ハニュー総帥がいるといないとでは大違いね。」

「まったくそうよねー。」

ハニューの働きぶりに、喜びの声を上げるジオンの面々。
その中でひとり、アイリスだけは渋い顔をしていた。

確かに早い。
トップが書類に目を通し、即座に決裁する。

一般的な視点で見れば、本来組織はこうあるべきだ。

これまでのジオンは紅魔館と同じく、トップは戦略的な指示を出すだけで細かい決裁には関わらなかった。

紅魔館の場合は、単にそのトップであるレミリアが幼いことが原因だ。
だがジオンは違った、ハニュー総帥の負担を減らし、戦略的な立場での考えを邪魔しないことが目的だった。

だから、今回のハニュー総帥の行動は手放しでは喜べない。
これは、我々の不甲斐なさに、ハニュー総帥が業を煮やした結果だからだ。
情けない。


side ハニュー

いやあ、良く考えられた内容ばっかりで、反対する所なんてほとんど無かったですよ~
あるとしたら、ちょこっと意見を言うぐらいでしょうか。


自分の意見を言うため、顔を上げるハニュー。
以心伝心。その言葉を体現したがごとく、ルーミアがハニューに寄り添ってくる。

「ルーミア。この大天狗への工作だが、物品の支援は要望通りに実施してやれ。ただ気になったのだが…
 この研究成果とやらを妖怪の山に一部提供する見返りとして、妖怪の山でのある程度の自由な行動を認めるよう説得中とあるが…
 これ、足元見られてないか?」

「そうなのだー困っているのだー」

ああやっぱり。
そうだよなあ、この書類からも足元を見られて、困っていますという感じがものすごーくします。
後ろに引いたほうがいい状態だが、現場にその権限が与えられていないため、交渉もへったくれも無い状態に追い詰められていますね。

「じゃあ説得なんて、止めてもいいって指示してあげよう。」

「いいのかー!?」

ハニューの発言に驚きの声をあげるルーミア。
しかし、ハニューはお構い無しに持論を展開する。

「最悪の場合はね。現場にある程度の裁量を与えて任せるべきだ。」

押したり引いたりしないと、交渉なんて成り立ちませんからね。
ま、どうせ紅魔館が自由に妖怪の山で行動できるようになっても、そんなに得があるとは思わないから、最悪損切りだと思えばいいでしょう。


----------

粗方指示が終わったし、あとは…

あ…
店主の配属先に関する書類が…
店主は研究関連部門か…

朱鷺子さんとは…違う部署じゃないか!
となると、大丈夫か?浮気的な意味で。






ここは、ちょっと職権乱用してしまうか。

店主が浮気しないような場所に配属。
つまり、店主の好みの女性がいない部署に入れてしまいましょう。


----------

ハニューの部屋。そこはジオン総帥の部屋でもある。
巨大な部屋の奥にはプライベートスペースがあるが、その最大の特徴は謁見の間と非公式に呼ばれている部屋にある。
ハニューの部屋の扉を開けると、まずは扉からまっすぐ奥まで続く絨毯が目に飛び込んでくる。
そして、その絨毯を目で追っていくと、部屋の奥の一段高くなった所に、巨大なハニューの机がある。
部屋に入った者は、まるで王に謁見するかのような状態になる。
これが謁見の間と非公式に呼ばれる理由だった。




人払いはOK。
後は店主を待つだけだな。

現在俺は、自分の部屋で店主を待っています。






「失礼します…うわ…」

店主登場ですね。
なにやら、驚いた顔をしていますが、まあ…この部屋は女の子の部屋というより、ギレン総帥の部屋って感じだから仕方が無いと思います。

「良く来てくれた店主。今日は店主に聞きたいことがあったんだ。」
机に頬杖をつきながら話し始めるハニュー。

「は、はあ…」










「なあ店主?お前はどんなタイプの女性が好みだ?」










何故黙る店主?
そんなに恥ずかしいのか?
態々店主のために、人払いまでしたんだぞ?

「恥ずかしがるな。今ここには、店主と俺しか居ない。」
少しイラついた感じで話すハニュー。

ちょ!?
何故うろたえる店主??

まったくもう。
手の掛かる奴だな。

「朱鷺子さんが好みだということは分かってる。
 では、単刀直入に聞こう。俺のようなタイプは好みか?」
顔を赤くし、恥ずかしがる仕草を見せながら、大声で霖之助に問いただすハニュー。
回答が気になるあるハニューは、無意識に頬杖を止め、身を乗り出す姿勢になっている。


「はひいいいい!?」


はひいいいいってなんだw
何故そんなにアホみたいな顔をする。

おかしいなあ。
朱鷺子さんが好み+そして俺のようなタイプも好み=店主は100パーセントロリ。

ということで、店主の性癖が完璧に分かると思ったんだが。

そうなったら、ロリがいない部署に店主を入れたら、後は何もしなくても大丈夫だと思っていたのに…

まったくもう!

「もういい!帰れ!!」
せっかく準備したのに、要領を得ない反応ばかりするから、何だか腹が立ってしまった。
それに、俺のようなタイプは好みか?って聞くのだって、結構恥ずかしかったんだぞ!

バン!と机を叩き、そっぽを向いてハニューは叫んでしまった。

side 森近 霖之助


いきなり、ハニューから呼び出された…
いったい何なんだ。

「失礼します…うわ…」

これは…凄いな…
赤い絨毯に、ジオンのマークを付けた垂れ幕。
まさに、権力者のために用意された部屋…



その部屋に一人たたずむハニュー。
これを見せられると、朱鷺子が言った内容が真実味を帯びてくる。





霖之助の中では、長らくハニューは自分を脅かす悪党だった。
しかし、愛する朱鷺子からハニューの活躍や思いを聞いて以来、迷いが生まれていた。
そして、ハニューの部屋を見て、霖之助はある意味納得していた。
少なくとも、これほどの部屋で仕事をする彼女は、ただの小悪党ではないと。
もしかしたら、とんでもない悪党かもしれないが。



「良く来てくれた店主。今日は店主に聞きたいことがあったんだ。」
部屋の雰囲気からか、妙に大人びた印象を受けるハニューが、机に頬杖をつきながら話し始める。

「は、はあ…」

こんな部屋にいる人物が僕に何かを尋ねる。
いったい、どんなことを聞いてくるつもりなんだ!?

思わず身構えてしまったよ。

「なあ店主?お前はどんなタイプの女性が好みだ?」





霖之助は、時が止まった気がした。
そして、言葉の意味がすぐには理解できなかった。




え…?
何故そんなことを聞いて来るんだ??

いや、どうしてそんなことが気になるんだい??

「恥ずかしがるな。今ここには、店主と俺しか居ない。」
少しイラついた感じで話すハニュー。

二人しかいない所で、僕の好みを聞くなんて…
こ、これじゃまるで。

「朱鷺子さんが好みだということは分かってる。
 では、単刀直入に聞こう。俺のようなタイプは好みか?」
顔を赤くし、恥ずかしがる仕草を見せながら、大声で霖之助に問いただすハニュー。
頬杖を止め、身を乗り出す姿勢になったハニューは、見た目相応の少女の様相を呈していたが、その様子が発言の内容と相まって霖之助を追い詰める。

「はひいいいい!?」
やっぱりー!?
どどどどど、どういうことなんだ。

ハニューはぼぼぼ、僕の事なんて嫌いじゃなかったのか??

そ、それがいきなりあんなことを言うなんて…


まさか、やっぱり僕にはそういう才能があるのか!?
フフフ…


「もういい!帰れ!!」
バン!と机を叩き、そっぽを向いてハニューは叫んでいた。
その表情は、顔を真っ赤にし、怒ったような恥ずかしがるような、複雑なものだった。

な、突然怒られた!?

混乱しながら、霖之助はハニューの部屋を去っていった。

----------


ハニューとの会話から一時間後、霖之助は廊下を歩きながら先ほどの会話の意味を考えていた。


さっきは追い出されてしまったが。
あれはまさか、照れてるいるのを隠そうとしていたり、素直になれなかっただけなのかもしれない。
あのハニューが…





そう考えると…意外と可愛いところがあるじゃないか…



「霖之助さん…浮気は許しませんよ。」
ニヤリと笑った霖之助の横に朱鷺子が突然表れ、霖之助に声をかける。

「朱鷺子??いきなり何を言い出すんだい!?」

「だって、ジオンって女の人ばっかりなんだもん。霖之助さんが浮気しそうでちょっと心配。
 それにさっきから、霖之助さんってどこか上の空。他の女の人のことを考えているみたい。」
少し怒ったフリをして話す朱鷺子。

「だ、大丈夫さ。僕はいつも朱鷺子一筋だよ。」



「霖之助さん…」
愛の力というべきか、朱鷺子は霖之助のしどろもどろの返事を信じてしまったようだった。

あああ、危なかった。
おのれハニューめ!まさか、これが狙いだったのか!?


----------


side ハニュー

夕食の片付けが始まっている紅魔館の厨房。
その端っこに、厨房用のメイド服を来たハニューの姿があった。


さてと。明日は、人間の里に行くことになりました。
目的はミスティアの願いを叶える為です。
そして、ジオンを知ってもらい、ゲンソウキョウ中にジオンを流行らせる為です。

そのためには、ちゃんと準備をしないといけません。

まず、お店を出すためには、色々と誠心誠意対応する必要があると思うのです。
ここが日本だったら、空き店舗を探してオーナーさんと交渉して、関係機関に届出を出して…
となるのですが、ここは法律が無いゲンソウキョウです。

恐らく、人間の里の人達に色々と気に入ってもらわないと、村八分的な扱いを受けたり…
もっと酷いことをされる可能性があります。


ということで、気に入ってもらう準備です。
まずは、手土産。

やっぱりですね、どこかを訪問するなら手土産は大切だと思うのです。
ゲンソウキョウにそういう習慣があるのか分かりませんが、手土産を貰って嫌な気持ちにはならないはずです。
ということで、現在クッキーを作っています。
クッキーなら、保存も利きますしね。
何とかを支配すなら胃袋から、という話も聞いたことがありますし。


よーし焼けたっと。




うん、いい香り。
デザインの方も…
いい感じ。


デザインなのですが、人間の里と俺達の友好を考えて、俺達や先日来てくれた人達を模ったクッキーにしました。

例えばこれ、リグルそっくりです。


こんな感じなら、喜んでもらえそう。



クッキーの見た目の完成度に大満足のハニュー。
しかし、味の確認はまだできない。
焼きたてのクッキーは、あまり美味しくないことをハニューは思い出していた。
味の確認のためには、クッキーが冷えて本来の味になるまで待たなくてはならない。
ハニューは他の点についての考察をしながら、待つことにした。



あとは、しっかりとした、身だしなみだよな。
メイド喫茶だから、勝負メイド服で行くべきなのかな?
っと思ったが、本来俺達は生物兵器…正装っていうと軍服だと思います。
でも、軍服なんて無いし。




いや、あるぞ。
部活のコスプレが、ジオンをイメージしているから、かなり軍服っぽいのでそれで行きましょう。
この前お店に来た若い連中は、コスプレだと分かるかもしれませんが…
人間の里の偉い人達は、多分コスプレだと分からないはず…多分…


でも、危ないよなあ。

漫画やアニメがゲンソウキョウで広まった理由は、俺達は兵器とはいえ、人間のような感情を持っているからだと思う。
つまり、娯楽を欲しているので、漫画やアニメに興味を持つのだと思います。
でも、そもそも何処から漫画やアニメがゲンソウキョウに入ってきているのか分からない状態だからなあ…
大ちゃんは、にとりさんが見つけたリリカルな●はのDVDを持っているが、それもどこから来たのか分からないんだよな。
常識的に考えたら、管理者側ということなのだが…
何故そんなことを…

おっと、思考が逸れた。
問題は、娯楽ということで漫画やアニメが広く受け入れられていると、人間の里とやらの上層部もコスプレだと見抜く可能性があるんだよなあ。




ダメだ、思考がループに入った。

こんなことを悩んでも、しっかりとした軍服が無いから仕方ない。
何か言われたり、変な目で見られても、堂々としていよう。
ジオン部だから、これが俺達の正装です!!って感じで。

だって、俺達はこういう部活やっている以上、いずれはコスプレだとバレてしまうからな、堂々と行こう!




あと他に印象を良くする行動といえば…

そうだ、行儀正しい行動をしよう。
例えば、里の中ではしっかりと行列をつくって歩いたりして…
そうすれば、行儀正しい連中として、好感度アップだからな。


後は…


                       「あーん。」

そういえば、文さんが…

                       「むぐむぐむぐ」


「美味しいのだー」

えーっと。
いつの間にか、俺の目の前にクッキーを頬張るルーミアがいるのですが…

「お前は何をしているんだ?」

「ハニューのクッキーを食べているのだー むぐむぐむぐ」
あああ…
リグルがルーミアに…


リグル型クッキーの半ズボン部分をサクサクと食べるルーミア。
グルメというより、大食いという感じのルーミアだが、表情を見るに美味しくできたのは間違いないようだな。


「食べた分、ルーミアもクッキー作れよ。」

「作り方が分からないから、ハニューに、一からお手本を見せて欲しいのだー」


それじゃ俺が作ったのと何ら変わりが無いw
もう!仕方がない奴だなw
まったく…とんだ災難だよ。




あ、そうか。
人間の里に行ったら、いきなり酷いことをされる可能性があるのを忘れていた。
これはしっかりと身を守れるようにしないといけないぞ。

とにかく、ルーミアとアイリスとシトリンに相談だ。


人間の里へ向かう危険性に気がついたハニュー。
新たなクッキーをオーブンに入れると、シトリンとアイリスを厨房に呼ぶようルーミアに頼むのだった。




----------


妖怪達の時間である夜が終わりを告げ、人間の時間である朝が訪れる。
そんな幻想郷の空を、コンバットボックスと呼ばれる陣形で整然と飛ぶ一団があった。





時刻は早朝。
世界はまだ薄暗く、眼下には朝靄も広がっています。

最初は、お昼頃に伺う予定だったんですけどね。
人間の里の人たちは、農作業をしている人が多いとの話を聞きました。
だから、早朝の方が捉まりやすいだろうということで、こんな時間に人間の里に向かうことになりました。
因みに、時間が早すぎて交渉できないようだったら、人間の里で遊んで時間を潰す予定です。


おっと。
人間の里が見えてきたぞ。
初めて見るな~

なんというか、時代劇のセットっぽい?
道もあんまり広くないみたいだし、こりゃ当初の予定通りしっかりと行列を作らせないとダメだな。
そうしなければ、人間の里の人達にかなりの迷惑をかけてしまいそうです。



人間の里を確認し、次に共に飛ぶ皆を眺めるハニュー。



皆には昨日、今日の予定を伝えたのですが…
人間の里に向かう人数は、花見の時以上の大人数になってしまいました。
ミスティアの願いがどうなるか、皆が気になるのは分かりますけどね。
ちょっと多すぎw
責任者の俺としては、管理が大変で非常に困るのですが。


ただ、皆ジオン風のコスプレをしているのですが、これだけの人数が集まると、コスプレというより本物っぽく見えるのでそこは良い誤算でした。
特に、アイリスとか何十人かがいかにもSFって感じのモデルガンを小道具として持っているのがなかなか似合って、更に雰囲気を良くしています。

本当の銃だったら笑い事じゃないのですが、さっきアイリスから借りたモデルガンを、誰も居ない方向に向けて撃って何も出ないのを確認済みです。
ノーマルモードとかいうのに設定すると、うすーく光線のようなものが見えましたけどね。



因みに、俺の格好ですが…
普通のジオンの風のコスプレをしようとしていたら、部屋に入ってきた同行予定のアリスさんとルーミアとミスティアとリグルに…
「あ、こっちの服の方が似合っているわよ!」
「そーなのだー。」
「チンチ●!凄く格好いいわ!」
「ちょっと派手だけど、ハニューさんなら着こなせると思います。」
と言われて、ZZのハマーンカーン風のコスプレ(自作)を強引に着せられました。
似合っていると言っているが、本当に似合っているのか??
特に、アリスさん。
「リボンが足りないわね…」とかさっきからブツブツ言ってますけど、ハマーンカーンの格好にリボンだなんて…
それっておかしいw

あ、そうそう。
チルノは俺の着替えを待っている間に寝てしまったので、めーりんさんに任せてきました。
ちなみに、大ちゃんは危ない目にあうかもしれないので、呼んでません。


----------

順調に人間の里へと進むジオン。
人間の里は、もはや目と鼻の先まで迫ってきていた。


よし、全員着地して。
行列を作らせよう。
遠足の引率と同じで、しっかりと行列を作らせて人間の里の皆さんに迷惑をかけないようにするつもりです。

「ねえルーミア。着陸して全員で行列を作らせて、人間の里に入ったほうがいいと思うのだけど。」
未だに高所恐怖症という事情により、ルーミアの裾をひっそりと掴んでいるハニューが、ルーミアへと話しかける。


あれ?
ルーミアが、俺の顔をじっと見ている。
「このまま、人間の里の交渉相手の所まで飛んではいかないのかー?」

うーん。
確かにその方が楽なのだが…
俺としては、ここでしっかりと行列を作って歩いている所を見せて、行儀正しい連中だという好印象を持たせたいのです。
「今後の交渉のために必要だからお願い。」



あ、ルーミアが心なしか、きりっとした顔になった。

「分かったのだー。シトリン、ジオンの練度の高さを証明するのだー。」

「了解。各中隊毎に四列縦隊を組ませろ。3分以内だ!」



----------



ザッザッザッザッザッザッ
ザッザッザッザッザッザッ
ザッザッザッザッザッザッ
ザッザッザッザッザッザッ
ザッザッザッザッザッザッ


静粛に包まれた人間の里。
だが、それを破る存在が朝靄の中を突き進んでいた。




ちょっと思っていたのと違うのですが、とりあえずしっかりとした行列ができました。
全員四列に並んで、歩くタイミングまでぴったり合っています。
おまけに、ジオンの旗っぽい奴やらも掲げていて…

なんだか、こんなのどこかで見たことあるな…
そうか軍隊っぽいんだ。
こんなことになるなんて…と思うが、彼女達は生物兵器だから、行列を作ると軍隊の行進みたいになるのは性で、仕方が無いものなのでしょう。

それに、問題は無いはずだから、まあいいか。
これを普通の人間が見たら、怯えてしまう所ですが。
人間の里の人達も多分生物兵器ですので、軍隊っぽく行進していても、見慣れているので怯えることは無いでしょう。



それはとにかく、作戦は成功しているようです。
人間の里の住人と思われる人達が、みんな目を丸くしてこちらを見ています。

早朝にこんな大人数で押しかけたせいで、今は驚きが大きいと思いますが、まずは注目を集めないと始まりません。

誰も見ていないところで行儀良く行列を作って歩いていても、噂にはならないですからね。




「「ハニューさーん!」」

誰かと思ったら、先日シャンプーハッ●を納品に来た少年や、メイドカフェに来た若者達が集まっている一角があるではないか。

ここは営業スマイルで行きましょう。
彼らは大切なお客様ですからね。


----------

side 上白沢 慧音


「慧音先生~!!!!大変だ~!!!!!」

「コラ!!!いきなり女性の家に乱入してくる馬鹿がどこにいますか!昔みたいに頭突きを喰らわしますよ!!!!!」

家に誰かが突然乱入してきたと思ったら、又吉朗じゃないか。
お前は、私の生徒だった時代から落ち着きの無い奴だったが、こんな年になっても…まったく。

突然自分の家に乱入してきた元生徒を昔のように叱りつける慧音。
しかし、元生徒はその慧音の剣幕を気にする余裕がないらしく、大声で叫んだ。
「ジオンの奴らが里にやってきた!!!」


!!


「今日の授業は一日自習だな…。」
今すぐ里に行きたいが、まずは自習の準備をして…



「又吉朗、自習の準備を手伝え!


 さあ早く!!!先生の言うことを聞け!!」


「はい!!」


非常事態と言えるこの状況でも、子供達の事を考え自習の準備を進める慧音。
しかし、この非常事態時に子供達が寺子屋に登校してくるのか?という問題点に気がつき、自分が冷静さを失っていたことを理解するのはもう少し後のことだった。


side とある人間の里青年会の男

一糸乱れぬ行進。
そして、統一された服装に、武器のようなもの…

それを見ているだけなのに、何故か心が高揚してくる。

これはいったい…


ジオンの行進を目の当たりにし、興奮するとある人間の里青年会の男。
そんな彼に、緊張感の抜けた声が聞こえてきた。


「幻想郷にちゃんとした軍隊がいたなんて…知らなかったっす。」
あいつは確か外来人の…

軍隊か…
外の世界にあるという軍隊と彼女達はそれほどまでに似ているのだろうか?

「君、彼女達ジオンが軍隊に見えるのか?」

「え?軍隊じゃ無いっすか?テレビやゲームで見ただけっすけど、軍事パレードっていう奴にそっくりっすよ?」

軍事パレード?
「軍事パレードとはいったい何だ?」

「ゲームでの知識っすけど、軍事パレードって言うのは、軍隊がこうやって行進したりして、その国の軍事力を国民や外国に見せるためにやっているとか…
 俺達の国の軍隊は、こんなにしっかりしていて、武器もこれだけ持っていて、強いんだぞーって示すためだって聞いたことがあるっす。」

なるほど。
となると、彼女達ジオンはその力を我々人間の里に見せ付けられ、私はそこにある強さに心を高揚させられと言うことか。


このような見事な行進を見せられると、私のような反応は仕方の無いことだな、周りを見渡せば私と同じ様な者達が…

「なんだこれは…」
                          「大変だ…   馬鹿!外に出たら危険だ!」
  「早くどこかに隠れなさい!」
                    「ジオンだ!ジオンが来た!来てくれたんだ!」
      「凄いことになってるぞ!!おい!ちょっと外を見てみろ!!」
          「す、凄い!」
                  「あんなに強そうな妖精を見たことあるか?」
                                                  「お揃いの服を着て、ちょっと可愛いかな?」
                               「あれが…ハニュー…」
                    「妖精の侵攻だ!!どうすればいいんだ!?」
                                                        「な、生リグルたん…写真集より色っぽいハアハア…」  

    
「見てお母さん!カッコいいね!」
                               「ミスチーだ!!おい!ミスチーが来てるぞ!!」
            「ハニューさんだ!神棚から写真を持ってこないと!」
                                         「もうダメだ…」
                                                        「興奮してきた…」 「どっちの意味で?」 「…」
…何人かはいるようだな。

だが、間違いなく彼女達は強そうだ。
妖怪の賢者と博麗の巫女に見捨てられた我々にとっては、敵に回ったら脅威だが、もし味方になれば…

どちらに転ぶにしろ、大事になりそうだな。


side 稗田 阿求

ジオンの里進入の知らせによって眠りから覚めた阿求は、着替えを済まし後、部屋の中で静かに座っていた。
たたき起こされた当初は、自分の知識を里のために活用するよう言われるかと思ったが、家の者達はどうやら阿求の身の安全を優先したようだった。
そのため、阿求は知的好奇心が赴くまま、状況を冷静に分析していた。


早朝。
それは、妖怪に対する夜の見張りが、里の入り口を引き上げた直後。
そして、里の大半はまだ眠りにつき、起きている者も朝食の準備を行っている時間。
里が最も無防備になる時間。

完全に隙を突かれましたね。

只でさえ、ジオンシンパの影響でジオンへの迎撃が難しい状態での奇襲。
お見事です。

こうなってくると、不謹慎ですがどのように人間の里を滅ぼす気なのか、興味が出てきました。


side ハニュー

整然とした行列で、人間の里を行進するジオン。
そんな行列の周りを走り回る少年達の姿があった。



少年達に頼んで、人間の里の偉い人達がいる所に案内してもらいました。
なんでも、皆さん里の中心にある広場に集まっているようです。
いきなり来たので、有無も言わさず追い出されるのではないかと心配でしたが、少しでも話ができそうなので安心しました。

「ジオンが僕たちの里に来てくれて、とても嬉しいです!」

「そうか、ありがとう。こらからも人間の里に来られるために、偉い人達のところまでしっかり案内してね。」
にっこりと微笑むハニュー。

「「「はい!」」」

よし、いい子だ。
本当にいい子ばっかりですね。
たった一日の付き合いしかない俺達のために、こんなに動いてくれるなんて。
俺が魅力溢れる存在なら、営業スマイル一つで誑かしているのではと、心配になってしまうところですが…
そんなことは無いので、本心から人助けのために動いてくれているのでしょう。

でも、悪いが君達も利用させてもらうよ。
子供達と仲良く歩く俺達。
いかにも、警戒心を解きたくなる光景ですからね。


「ハニュー総帥!」
考えに耽っていたハニューに、部隊を実質的に指揮するシトリンが声をかけてくる。


ん?シトリンどうした?

「隊列の解除を進言します。」

隊列の解除?
いや、そんなのダメだろ。
これから、偉い人達に会うというのに、ここで隊列を解除して我々の行儀正しさを見てもらえなかったら意味が無いだろ。

「いや、ダメだ。この先の広場まで隊列を維持。そして、広場に出たら隊列を崩して皆を横に広がせて、見栄えのいいように整列させてくれ。」

シトリンは、敵の攻撃を恐れて隊列の解除を求めていた。
しかし、ハニューの発言に(ハニュー総帥には何か考えがある)と納得し、各隊に命令を飛ばすのだった。

「はっ!    マリーダ、各隊に通達。広場到着後、小隊単位にて整列。」

「了解。小隊集合地点及び経路を共有マップに転送します。アリスさんバックアップを。」

「うん。任せて。」

このまま行列を維持し広場に入る。
そこで、行列を崩して広場一杯に広がり整列させる。
それを見た、人間の里の偉い人達は、俺達の行儀正しい行動にかなりの好感を持ってくれる筈です。


お。

見えてきた。

真ん中にお年寄り達、その周りには…
なにやら、男の人たちが集まっています。
しかも手に武器っぽいものを持っているし。

あーこれは…

もの凄く、警戒されていますね。
行儀よく列を作って歩いてきたのに、こんなに警戒されるとは。
ここが、一歩間違えればリアル北斗の拳であるゲンソウキョウである限り、このような反応は仕方が無いでしょうか。


うーむ。
こりゃ、このまま進んでいのか?
という疑問が湧きますが、既に先頭の方が広場に入ってしまっているので、どうしようもありません。
早くこちらに戦意が無いことを伝えないとまずそうです。

といっても、俺がいるのは行列の真ん中より少し後ろだからなあ。






ここから、人間の里の偉い人達と思われるお年寄り達の所まで、いきなり飛んでいったりしたら、それこそ驚かせて打ち落とされそうだし…






うむむ。









って悩んでいたら、いつの間にか俺の前の方は、既に広場で整列しちゃっているよ!?


こりゃ仕方ない。

整列している皆の間を通って、偉い人達の所にまっすぐ向かいましょう。
そして、こちらから握手を求めて、戦いに来たのではないと知らせて安心させましょう。





ザザザザザザ…



おっと。
皆ありがとう、俺が皆の間を抜けようとしたら、皆が動いて道を開けてくれましたよ。


side 長老会のとある長老

ジオンを迎撃するために、広場に集まった男達。
その中心に、長老と呼ばれる、里の指導者達がいた。



ジオン現る。
その一報を受けて、わしは今ここにおる。

時間なんぞ殆んど無かったが、できることはやった。

集められるだけの男達を集め、武器も持たした。
そして何人かは、広場の出口を塞ぐように配置した。

奴らがここに来た理由は分からんが、強硬手段に出るのならそう簡単にやらわせん!

そう思っていたんじゃが…
甘かったようじゃの。






圧倒された。
その言葉に尽きるわい。

整然と四列で行進し、広場に入ると同時に、流れるような動きで、わし等の前に整列するジオンの奴ら。
これを見ただけで、ジオンの奴らがどれほどの訓練を受けているかがわかる。

それに比べてわし等はどうじゃ。
ジオンの奴らを見るまでは、周りの男達が屈強で頼りがいのある者たちに見えたが…
今は只の、子供のごっこ遊びにしか見えんわい。



どいつもこいつも、さっきまでの勢いが無くなって、青い顔をしておる。


さて、どうするかの…
出口を塞いでいる者達による奇襲という手もあるが、ジオンの奴らの周りには里の若者達で溢れておる。
こんな状態で戦端を開けば、若者達の命は…

里への進入時間・進入方法・練度、どれもこれも気味が悪いほど計算され尽くされとる。


「あ、あれを!」
武器を持った男の一人が妖精達を指差し、驚きの声を上げる。


これは…

side 武器を持ったとある男

整然と並んだ妖精によってできた壁が、突然二つに割れた。
その亀裂に目をやると、一人の少女が目に入った。

金色の頭冠を被った青髪の少女が、黒い服とマントをはためかしながら、こちらへゆっくりと歩いてくる。


周りから、どよめきが起きていた。

誰も彼も浮き足立っていた。

だがそれは仕方が無かった。

ハニューが只者ではないというのは知識として知っていたが…
知識として知るのと、現実に目の当たりにするのでは大違いだ。


私は彼女の存在感を上手く言葉にすることができなかった。

ただ、誰が発したその言葉が、最もこの状況に相応しいように思われた。









「魔王降臨…」



side ハニュー


見た目少女の俺は、オロオロしていたら交渉に入る前から舐められてしまいます。
しかも、こんな危険な状況なので、下手するともっと不味いことになりそうです。
ですので、はったりをかまして胸を張ってゆっくりと皆の間を抜けてきましたが…

ここから先、俺と偉い人達の間には屈強な男達が立ち並んでいます。



どいてくれないかな?かな?







屈強な男達がこっちを見ていて、怖い…



こういう時は笑顔!
ラブ&ピース、友愛ですよ!


に、ニゴ!


ダメだ、怖くて口だけ歪んだ、変な笑顔しかできない。



こんな笑顔じゃ、とても道を開けてくれるなんて…



あれ?

なにやら、俺が進むと同時に、目の前の屈強な男達が後ずさりしていきますよ。

どういうことだ。





少女思考中…







変な笑顔+コスプレ=キモイ=近付きたくない


あ、なんだ~
orz



って、逃げちゃダメだ!

これはチャンスだ。
一気に、偉い人達の所まで行くぜ。




意を決し、長老達に向けて進むハニュー。
そして、蜘蛛の子が散る光景をゆっくりとしたように、ハニューの前から退いていく男達。
ハニューが長老達の前にたどり着いたとき、男達は遠巻きにその様子を伺うだけになっていた。




「初めまして、ジオン総帥ハニューと申します。本日はお会いできて光栄です。」

「はあ…」

「我々との交渉のために、このような場を用意していただきありがとうございます!」

「はあ?」

驚いていますが、こういうのは先手必勝です。
多分、驚いて集まってきただけなのでしょうが、こうやってこちらから礼を述べられたら悪い気はしないはず。

さあ、交渉を開始しましょう。


side 長老会のとある長老

ハニューが迫ってくる。
口元には笑みを浮かべているが、目がまったく笑っていないわい。
あんな笑みを見せられたら、どいつもこいつも怯えてハニューに道を譲ってしまうのは仕方ないかの。
しかも、相手は博麗の巫女ですら仕留め損ねた妖精じゃからな。
スペルカードルールでの決闘という手もあるが、噂が本当ならスペルカードルールを無視して博麗の巫女を殺そうとした相手じゃからの。


これは年貢の納め時かも知れんな。



この老いぼれの命、人間の里のために、せいぜい高く売りつけてやるわい。
まったく…
妖精だからと高をくくらず、噂にもっと耳を傾ければよかったわい。

「初めまして、ジオン総帥ハニューと申します。本日はお会いできて光栄です。」
目が笑っていない笑顔のまま、言葉だけは友好的なハニュー。
それが、逆に不気味に感じられた。

「はあ…」

「我々との交渉のために、このような場を用意していただきありがとうございます!」

「はあ?」

交渉じゃと?
これほど圧倒的な力を見せつけておいて…
交渉という名の脅迫をするつもりか。

断りたいが、断って戦ったら、どう転んでも負ける。
ここは交渉に賭けるしかないようじゃの。





----------


ハニューと長老達の交渉は、長老会の会議室で行われていた。
人間の里側は長老達の中から3名が参加し、ジオン側はハニューとルーミアとアイリスの3名が出席していた。








なるほど、メイドカフェとやらを人間の里に出店する許可を貰いたい。
ということじゃな。

てっきり、人間の里を明け渡せとか、とんでもない要求を突きつけてくるかと思ったが…

どういうことじゃ?
そんなことをして、ジオンにいったい何の得があるのか皆目見当がつかないわい。

「そんなことをして、何の得があるんじゃ?」

「人間の里の人々と親しくなれます。友好ですよ友好。」
長老の質問に対し、友好を強調するハニュー。

人間の里とジオンが親しくなるのが目的じゃと…
この話、どこかで…


そうか、慧音先生の危惧が当たったようじゃな。

ジオンの奴らは、人間の里を異変を起こさずに滅ぼそうとしている!
じゃったな…
だが、そんなことをしたら、妖怪達が黙っていないはず…

いったい、こいつは何を考えているんじゃ!?




錆びきった、わしの頭じゃまったく分からん。

この要求を呑むわけにはいかないが…
拒否するという選択肢は、ワシ等の立場には残っていないわい。

「わかった。出店を認めよう。」

「ありがとうございます!!」
まるで、なんの邪心もないような表情で喜びはしゃぐハニュー。

まったく、こうやってはしゃぐ姿を見ると、ただの美しい少女に見えるのじゃがなあ。

いかん、いかん。
こんな姿に、里の若者どもは騙されたのじゃろう。


さてと、反撃開始といくかの。

「ただし、情報の公開はおぬし達が帰った後じゃ。今すぐ公開したら、混乱の原因になるからの。」

「混乱??別に構いませんよ。」
混乱という言葉に引っかかったようだが、ハニューは二つ返事で返した。

油断したようじゃの…詰めが甘い。
親ジオン派が勢いづいている今に、友好のために出店を認める情報が里中に流れたら、最早親ジオン派の勢いをとめることができなくなる。
しかし、わし等だけが独占的に今回の交渉の情報を里に流せる状況なら、いかようにも話を作り替えることができる。
例えば、ジオンは武力を背景とした高圧的な態度で迫ってきたため、仕方なく出店を認めたとすれば…

少なくとも、奴らの目指す人間の里の滅ぼし方は不可能になる。


勝ったな。

「あ、そうだ。これ、つまらないものですが…」
突然思い出したようにハニューが紙袋を開け始める。
その中には、赤色の綺麗な包装に、金色のリボンをつけた小包を何個も入っていた。

なんじゃこの小包は?


手土産のようじゃの。
下手に金品などが入っていたら、まずいの…
だが断るわけには…いかんようじゃな。




「遅くなりました!」
突然襖が開き、一人の女性が部屋に入ってくる。


これは、これは、慧音先生。


side 上白沢 慧音

里にジオンが侵入したとの知らせを受けて、駆けつけたが、なんとか間に合った。

「始めまして、ハニューといいます。本日は、メイドカフェの出店と、友好促進のために人間の里へ伺いました。あなたは?」
肩で息をする慧音に、ハニューが笑顔で挨拶をする。

彼女がハニュー。
こうやって改めて見ると、確かに顔のつくりが似ているが雰囲気が別人だ。
あの忌まわしい出来事の時のあの子は、もっと弱々しく儚い感じだったが…

ん!?
後ろにいるのは、アイリス!!

「アイリス。復讐に来たのか?」
目の前にいるハニューを無視してアイリスと慧音は話し始めた。

「違う。今の私はハニュー親衛隊の隊長だからな。それに、私もあのようなことが無ければ、無闇に人を襲うなど…」

なるほど、昔とは違うということか。
時共に、怒りが風化したのか…
それとも、真贋はともかくハニューをあの子の代わりとしているのか…

「あの…」

ん。しまった、教鞭を持つものが名を聞かれてこの態度は無いな。

「私は、上白沢慧音。教師をやっている。」



「そうですか教師の方ですか!!これ、つまらないものですが、いっぱいありますので子供達と一緒に食べてください。」

「ありがとう。」

まるで、花開くような笑顔で小包を渡すハニュー。
慧音は、その笑顔を複雑な表情で見つめていた。


人間の里との友好か…
それを推し進めるのが、あの子とそっくりのハニューと、あのアイリス…
まるであの時のようじゃないか。

だが、もしもハニューがあの子なら、友好ではなく…




-----------




やっと帰ったか。
ここにいた全員に手土産を渡すとは、ずいぶんと律儀な奴だが…



この箱の中身はいったい…
食べ物のようだが、まさか山吹色の菓子ということは無いだろうな。


包装を開く慧音。
そこには、ハニュー渾身の一品である、友好のクッキーが入っていた。


ん。なんだこれは、人の形をした焼き菓子だと…












なんと悪辣な手を!!!!!!



やはり私の考えは間違っていなかった、奴は里の人間を全て妖精化・妖怪化させる気だ。

妖精はとにかく、妖怪との婚姻で最も障害となるのが、人食の習慣だ。
ジオンによって、人間の里に妖怪との夫婦や、半妖の子が溢れた場合、夫婦間や親子間等で絶対に問題になる習慣。

きっとこの人の形をした焼き菓子は、それを見越したこと。
こうやって、人の形をした食べ物を食べることで、少しでも人食に対する抵抗を無くそうとしているに違いない。

だから未来を担う私の生徒達にも…

「随分可愛らしい姿のお菓子じゃの?」

まずい、ここにいる全員がこの焼き菓子に籠められたハニューの狙いに気がついていない。

「このお菓子は、形も分からないほど破壊した上で、破棄すべきです。」


side ハニュー

さて、考えすぎだと思いますが…
混乱が起きないように、会談が終わった後すぐに、人間の里を飛び出しました。

そして紅魔館に戻った俺は、早速記者会見を開始しました。

これは、人間の里好感度アップ作戦の最終段階です。
先日、文さんがジオンの取材に来たいと言っていたので、それを逆手に取りました。
「取材させてあげるけど、知り合いの記者の人達をいっぱい連れて来てね。それが条件だから。」
と言ったら、大喜びで連れて来てくれました。

こうやって、メディアも使って友好をアピールすれば、俺の目標に更に近付きます。

人間の里の偉い人達も、こうやって側面支援してあげれば、人間の里の人達を説得するのが楽になると思うので一石二鳥です。

それに新聞なら、パニックになることもないですからね。
我ながら、素晴らしい展開だと思います。
でも、この記者の数は予想してなかった。
紅魔館以外で開いていたら、今頃外で記者会見を開くことになっていたぞ。






記者会見は紅魔館の一室を使って行われていた。
部屋の奥の壁にはジオンの垂れ幕が壁一面に広がり、その少し前に立ったまま使う背の高い机が置かれていた。
ハニューはその背の高い机に資料をおき、何列も続く椅子に座る記者達と、正対する形で質疑応答を繰り返していた。





「となると、人間の里側がジオン進出によって過剰反応したことにより、ジオン側としてはかなり不愉快な目に会ったということになりますが…
 その点について、人間の里側に何らかの謝罪を要求したりしないのでしょうか?」

「追加の質問は受け付けないのだー」
追加の質問がしたいのなら、もう一度手を上げてもらうルールにしていましたが…
「いやルーミアいいよ。
 この問題ですが、大局的な見地…つまり、人間の里とジオンとの友好促進が大切であるということを鑑み、不問とする予定です。」
人数が多すぎて、そんなことをしていると、誰が何の質問をしたか忘れてしまう有様です。

「ありがとうございました。」

よし、では次の人は…

「はい、では次の方。」

ハニューが次の方というと、何人もの記者達が我先にと手を上げる。

「はい、そちらの灰色の服を着た女性の方。」

そしてその中の一人を選ぶハニュー。

「時事天狗新聞の石山吹雪と申します。先ほどハニュー総帥はジオンと人間の里の友好促進が大切であると仰いましたが、今回のジオンの人間の里への進出によって、
 友好推進どころか幻想郷のパワーバランスが崩れるのではという懸念が広がっていますが、そのあたりはどのようにお考えなのでしょうか?
 そしてもう一点。人間の里を訪問する際に、何か手土産のようなものを持っていましたがあの中身は何でしょうか?」

まずは、パワーバランスかあ、確かに紅魔館の一員である俺達が人間の里に肩入れしたらそうなる可能性はあるな。
ただし、今回のようにお店を出すだけだから、そんなことは関係ないと思うのですが。

「今回はあくまで、人間の里への出店とそれによる友好促進のみが目的であり、それ以上を目指すものではありません。
 よってパワーバランスにはなんら影響を与えるもではないと考えています。」

「あくまで、政治的な意図は無いとのお考えなのですね?」

「その通りです。」

いまいち納得していない表情をしていますが、そんな顔をされてもこっちも困るよ。
事実なんだから。

次は、手土産の事だな。
これなら、簡単に答えられます。

「あれは確かに手土産です。あの中には、俺が作ったクッキーが入っています。
 クッキーは人間の里の人達や俺達の姿が模ってあって、それぞれが手を繋いでいるデザインになってます。
 友好を表した会心の出来だと自負しています。実は教師の人に子供達の分も手渡したので、子供達が喜んでくれただろうなと、想像して楽しんでます。」

「それは素敵ですね!子供達もきっと喜んでいると思います!」

本当に、あれを見て喜んでくれたらいいな…


「では次は…
 はいそこの胸の大きいあなた。」
別に、胸に目が行って指した訳じゃないですよ。ホントデスヨ。

「スポーツ弾幕新聞の紅角比奈野です。先日文々。新聞の報道でハニュー総帥と、とある大妖精との熱愛報道がありましたが、その後の進展はどうでしょうか。」

とある大妖精って多分大ちゃんのことだよな…
本当にそうだったら、相手がロリでも大喜びして自慢しているのだろうけど…
大ちゃんは、子供の好きしか理解していなかった、というオチだったからなあ。

「あれは誤報ですので、特に進展も何もありません。彼女とは親密な仲ですが、特別な関係になっているわけではありません。」

                                              「チンチ●!?」

微妙な言い回しだが、何となく意味は伝わると思う。

「本当ですか?何か隠しているんじゃないですか「お願いですから、そういうプライベートな質問は止めてください!!」あ、ちょ、ちょっと!?」

げ、リグルやら何人かが止めに入って、揉めだしたよ。

「記者会見はこれにて終了なのだー」


なんとか日没前に終わった、これで明日の朝刊には間に合うかな?

-----------

予想以上の長時間に亘った記者会見に疲れたハニューは、シャワーを浴び、着慣れたメイド服に着替えると、自分の部屋のプライベートスペースにある椅子にもたれ掛かっていた。

あー疲れた。

「ハニュー総帥。記者会見お疲れ様です。
 紅茶です、どうぞ。」

「アイリスありがとう、嘘を言うのは疲れるな…
 友好だなんて…本当はそんな目的じゃないのに…」

何より、嘘をつかなくてはいけないのが疲れた。
まるで、ただ単に人間の里の人達と仲良くしたいがために、出店したように話したが…
本当は、その先の俺の計画のためなんだよね。

「友好は嘘ということですか。」
安心したような表情で確認するアイリス。

おっとしまった。
ダメだなー、どうにもアイリスにはガードが弱くなる傾向があるな。
今や俺が部長でアイリスはただの部員という立場だけど、アイリスは俺が新人の時に仕事を教えてくれた人だからな。
気を抜くと、こういう泣き言的なことをつい漏らしてしまう。

「本当の目的は別にあるってこと。これ秘密だからね。」


side 射命丸 文

あやー嬉しいですね~
誰に取材しても大抵迷惑がられるのに、まさかハニューさんからの直々の依頼で取材できるとは思いませんでしたよ~

し・か・も

記者会見。
ああ記者会見。
記者会見。


なんといい響きなのでしょうか。

新聞発行に関わる天狗達が、夢にまで見た記者会見だなんて!!
只でさえ迷惑がられているので、記者会見を開いてもらおうと集団で押し寄せると、いっつも逃げられてしまうんですよね~
誰かに聞かれたら自慢に聞こえますけど、それがついに私の力で実現したのですから、新聞仲間達にも鼻が高いですよ!」

「文先輩、声に出てます。それに、皆さん文先輩じゃなくて、ハニューさんに感謝しているみたいですけど…」

「あやー!?椛、どうして私が声に出していることを早く注意しないのですか!!
 そんな意地悪をするのなら『もみもみ椛』のコーナーを復活させますよ!!」

「あんな恥ずかしいコーナーを復活させるなんて、止めてください!」

side アイリス

紅魔館の妹様用のスペースに新設された、新たなメイド専用食堂。
夕食時が終わり、閑散とし始めたメイド専用食堂のテーブルの一つ。
そこで、アイリスは抹茶と羊羹を楽しみながら、ハニューとの会話を思い出していた。


ハニュー総帥が、本気で人間との友好を推し進めるのではないかと心配したが、杞憂だったようだな。

「アイリス、どうかしたのか?嬉しそうじゃないか。」

ん、シトリンか。

「まあな。」

「ふうん。さっきまで、人間の里を制圧しないことが不満だの、人間にご主人様と言って媚を売りたくないだの不満ばっかりだったじゃないか。」

妙に機嫌のいいアイリスに、あえて追求してくるシトリン。
これは彼女なりの気配りだった。

「まあな。ただ、それが誤解だとわかっただけさ。」

「へえ…面白そうな話じゃないか。」

情報漏えいを考えて、ハニュー総帥は真相を言わないようだが…
幹部には『人間を利用しているだけ』と、本当の事をそれとなく伝えておいたほうがいいな。
妖精の地位向上の星であるハニュー総帥が、ここ数日間、人間になびいていることに不満を持っている者もいるはずだが…
ハニュー総帥のような高い位置だとそれが見え難い。

情報漏えいを防ぎつつ、不満を抑える。
難しいが、ここは我々の力の見せ所、といったところか。







----------







『メイドカフェ@fairyジオン 人間の里に進出』
人間の里の若者達を魅了したメイドカフェ@fairyジオンが、人間の里に出店することが正式に決定した。
これは昨日、ジオン総帥ハニュー氏と人間の里、長老会議とのトップ会談により決定したもの。
妖精運営の店舗が人間の里に出店するのは幻想郷初。
この出店に対してハニュー氏は「人間の里とジオンの友好促進が目的であり、それ以外の意図は無い。」とあくまで友好促進が目的であると強調している。

『夢の実現となるか?ジオンの挑戦』
このたび、メイドカフェ@fairyジオン人間の里店が開店することが決まった。
メイドカフェ@fairyジオンは、妖精メイド達が来店した顧客を『ご主人様』として奉仕する特殊な営業形態の飲食店である。
先日、一日限定でオープンした際には、多くの人間達が訪れ盛況を極めた。
しかし、メイドカフェ@fairyジオンを運営するジオン総帥ハニュー氏は、人間の里への出店は金銭的な利益が目的では無いという。
「我々ジオンの事を人間の里の人々に理解してもらいたい。友好的な関係を作りたい。そういった思いを籠めての出店です。」
人間と妖精・妖怪の友好を熱く語るハニュー氏。だが、その道のりは困難なものとなりそうだ。
昨日、ハニュー氏が出店のために人間の里を訪問したが、人間の里側の対応は非常に冷たいものだった。
人間の里側は、友好のために里を訪れたハニュー氏達を武器を持って出迎えたのである。
一触即発の事態だったが、ハニュー氏自らが人間達の中に飛び込み、長老達へ握手を求めたことによって事なきを得た。
この時の心境をハニュー氏は次のように語っている。
「武器を持って出迎えられ、非常に怖かったですね。ですが、夢の実現のためには頑張らなくてはいけないと腹を括りました。」
自らの危険を顧みないハニュー氏の勇気ある行動によって、人間と妖精・妖怪の友好、そしてその先にある共存共栄の道に向けて、第一歩を踏み出したジオン。
彼女達の歩みは、夢が実現するその時まで止まることは無いだろう。
だが、この度の人間の里側の対応を見る限り、人間の妖精・妖怪への偏見はまだまだ根深いものがあり、厳しい戦いが続くことになるだろう。

『意外な趣味』
謎の妖精として恐れられるハニュー氏ですが、意外な趣味を持っていることわかりました。
それはなんとお菓子作り。
人間の里訪問時に、ハニュー氏手作りクッキーが手土産として手渡されたというのだから驚きです。
ハニュー氏によると、このクッキーは人や妖精や妖怪の姿を模った可愛らしいデザインで、人間の里との友好を表しているそうです。
寺子屋の子供達にも教師を通して配られるとのことで、子供達に喜んでもらえるのではないかとハニュー氏はご満悦な様子でした。

ハニュー氏の作ったクッキーがどんな味なのか、読者の皆さんも気になっていると思います。
もちろん私も。
この原稿を書き終わったら、早速その味の調査のために寺子屋に向かう予定です。
明日の新聞をお楽しみに!

『ハニューと大ちゃん 破局か』
ハニューの内縁の妻との噂があった大ちゃんとの関係が、既に破局している可能性があることが判明した。
これは、昨日の記者会見においてハニューが、大ちゃんとの熱愛報道は誤報であり、大ちゃんとは特別な関係になったことは無いと発言したためである。
周知の通り、ハニューと大ちゃんの関係は誤報を出す余地が無いほど有名な話であり、何故ここで誤報であるという発言が出たのか理解に苦しむ所である。
この事態に対し事情通のジャーナリストのS・A氏に伺ったところ「あやーこれは二つの可能性が考えられますね。一つは関係が終わってしまったため、
無かったことにしたいという心理が働いたという可能性。もう一つは、何らかの事情があって大ちゃんさんとの関係を表沙汰にできなくなったんだと思います。」
とのこと。結局、この発言の真意はS・A氏を持っても不明とのことだがS・A氏によると真実を知る方法があるという。
「ハニューさんに猛アタックしてみるのが一番手っ取り早いですね。
大ちゃんさんとの関係が終わっているのなら、優しい言葉をかけて猛アタックすれば、きっと成功すると思いますよ。
でも、大ちゃんさんとの関係を表沙汰にしたくないだけなら、猛アタックを何度繰り返しても絶対に断られるはずです。」
精度に問題がある方法ではあるが、幻想郷でもトップクラスの玉の輿に挙げられるハニューの恋人になれるかも知れないこの方法、読者も一度試してみてはどうだろうか?

side 稗田 阿求

憂いだ表情で庭を見つめる阿求。
その手元には、いくつもの新聞があった。



変なのがいくつか混ざっていますが、どの新聞もハニューの行動を賞賛したり、ジオンが人間の里との友好を求めているとするものばかりですね。
長老達は、ジオンの出店を許可したのはジオンの武力によって脅されたからだと発言し、親ジオン派の力を削ごうとしていたのですが、これでは完全に逆効果ですね。

ジオンが去った翌日の朝、そのような説明をしたまではよかったのですが。
その直後に号外も含め、人間の里の家という家に何通もの新聞が配られ…
その内容が全てハニューの行動を賞賛したり、ジオンが人間の里との友好を求めているとするものばかりという有様でした。

そのため、長老達の話が本当なのか、誰もが疑心暗鬼になってしまいました。

特に、親ジオン派の古参と言われる人達は、春が来なかった異変の際に報道された、儚いハニューの印象が強いので…
これらの記事を見たら、人間との友好を一生懸命になって進めるハニューを、長老会が虐めているようにしか見えないでしょうね。


そして、とどめを刺すように届いた先ほどの夕刊。
これは本格的にまずい状況になってきましたね。

『大ショック』
読者の皆さんに悲しいお知らせがあります。
ハニュー氏の手作りクッキーを探して寺子屋に向かった私ですが、子供達の手にクッキーは渡っていませんでした。
もちろん、そんなことで諦めるわけには行きません。

里中を探し回って5時間。
ついに見つけました。



ゴミの山の上で。

ハニュー氏の手作りクッキーは、何故か全て捨てられてしまっていました。
おまけに、形が分からないように滅茶苦茶に踏み潰されたものが大半でした。
誰がこんなに酷いことをしたのでしょうか。

勇気を出して、食べてみましたがとても美味しく、こんな酷い扱いを受けなくてはいけないお菓子だとはとても思えませんでした。
読者の皆さんにお願いです、もしも犯人を見つけたら。こんな悲しいことは二度としないようにきつく言ってください。

『既得権益を守ろうとする者たちの陰謀か!?』
ハニュー氏が手土産として渡した手作りクッキーが、無残に破壊され打ち捨てられるという事件が発生した。
この事件に対し人間の里側は一切の関与を否定しているが、人間の里内で発生した事件のため、犯人が人間の里の関係者であるとの疑いが濃厚である。
また有識者によると、ジオンの人間の里進出によって、既得権益を犯されることを恐れた者による犯行ではないかとも指摘されている。


side ミスティア・ローレライ


「大ちゃん!!」




夜になっているにもかかわらず、大ちゃんの家は真っ暗だった。
大ちゃんは留守なの?
ミスティアは一瞬そう思ったが、暗闇の中から大ちゃんの声が聞こえてきた。


「私は…私は…私は…私は…」

大ちゃんは、リビングの机に伏せっていた。
そしてその傍らには『ハニューと大ちゃん 破局か』との見出しが目立つ新聞が置かれていた。


チンチン!
あんな記事が出るから、大ちゃんの家に来て正解だったわ!

大ちゃん…思ったとおり、ショックで寝込んじゃってるじゃない!



「しっかりするのだー」

「…ルーミアちゃん?ミスティアちゃん??」

よかった。私達の事が分からないぐらい壊れてしまっていたら、どうしようかと思ったわ。



「ルーミアちゃん…ハニューちゃんにとって、私は特別な存在じゃないんだって!!!
 私はハニューちゃんの事、こんなに!こんなに!!!」


「落ち着くのだー」

まずいわ。取り乱して暴れ始めたわ!!
取り押さえたほうがいいわ!

「止めて!どうして邪魔するの!





 まさか、ルーミアちゃんとミスティアちゃんがハニューちゃんを取ったの!?

 返して!ハニューちゃんを返して!!」



パン!


ちょっとルーミアちゃん!?
どうして、大ちゃんを叩いちゃうの!!

「大ちゃん。もっと大人にならないと駄目なのだー
 今やハニューは、幻想郷の最重要人物の一人なのだー
 だから、大ちゃんとの関係も表沙汰にできないのだー」
ルーミアは淡々とした口調で話し始めた。

「どうしてそんなことが分かるの!!」

「これはハニューから口止めされているのだけどー
 ハニューはジオンの活動で自分が消えてしまうことを覚悟しているのだー
 大ちゃんにはそんな覚悟ある?」

え…
ハニューちゃんが消えてしまう可能性!?
そこまでのことを覚悟して…
いえ、ハニューちゃんのやっていることを考えたら、確かにそれぐらいの覚悟は普通だわ。

「…そんなこと…考えたこと無かった…」
目に見えて落ち込む大ちゃん。

「覚悟が無いことをよく理解して聞いて欲しいのだー。
 いつもハニューは大ちゃんをジオンの活動に関わらせないようにしているのだー。
 ここからはルーミアの考えだけど、大ちゃんには危ない目にあって欲しくないと、ハニューはいつも思っているみたいなのだー。
 でも、ハニュー自身が今や自分の身が常に危険に晒されるぐらいの重要人物なのだー。
 だから、関わった回りの人達にまで、おのずと危険が及んでしまうのだー
 特に恋人だったらー
 

 わかるー?」

「じゃあ、この発言は…私のため…??」
混乱しつつも、大ちゃんの顔に希望の色が見え始めた。

よかった、そういうことだったのねー

「そうなのだー。
 でも、それに満足しちゃいけないと思うのだー」

チンチン!?


まるで母親のような優しい口調に代わったルーミアが、大ちゃんの横に座って話し始める。
「ハニューはこれからもっともっと、重要人物になるのだー。
 その隣に立つ人物が、危険や精神的な面でハニューにおんぶに抱っこ状態だと不味いのだー。
 それだと、どんどんハニューの負担が増えてしまうのだー。


 だからルーミアからお願い。
 大ちゃんには大人になって欲しいのだー
具体的にはー

----------

大ちゃんの家を、ミスティアとルーミアが訪れてから数時間後。
月夜の空を紅魔館へとゆっくりと進む二人の影があった。

「ねえルーミアちゃん…大ちゃんをあのままにしてよかったの?」

「大丈夫なのだー。これでもルーミアは人を見る目があるのだー。
 大ちゃんはきっと立ち直って、大人への階段を上り始めるのだー。」

ルーミアちゃんが言い切ると、本当にそうなりそうと思うから不思議なのねー。



side とある人間の里青年会の男

人間の里は混乱していた。
里を指導してきた長老会への不審が広がったからだ。
そんな中、新たな時代の流れを感じ取った男がいた。


妖怪の賢者は不干渉。
博麗の巫女は行方不明。
人間の里の現状を考えれば、ジオンとの関係を友好程度で抑えるわけにはいかない。
だが、ジオン軍の力を目の当たりにして、長老会の連中は腰が引けたらしい。

そこにこの記事か。
ふむ。苦しくなったな長老会。

だが、攻め時の親ジオン派も統制が取れてない。
我々の出番というわけか。


side 稗田 阿求

大結界の力で外の世界の価値観から決別し、優れた精神的な世界を幻想郷に花開かせた妖怪達。
そして、そんな妖怪達の順応力のお陰で、安定した世界を保ってきた幻想郷。
ハニューは、なぜそこに波風を立てるのでしょうか。
人間の里が崩壊の危機に立っているというのに、興味が引き立てられます。


幻想郷は、何もしなければ、ずっと安定したままのはず…
この幻想郷が崩壊する原因とすれば、外の世界が崩壊するぐらいしか思えないのですが。
本当に、どういうことなのでしょうか。


----------


side ハニュー

うー気分転換気分転換。
今、気分転換を求めて、全力疾走している俺は、紅魔館で働く一般的な女の子。
強いて違うところをあげるとすれば、ゲームやアニメに興味があるってとこかナー。
名前はハニュー。

そんなわけで、紅魔館にある地下室にやって来たのだ。

ふと見ると。
部屋に巨大な機械がいくつも鎮座していた。

ウホ!いいゲーム機…




今更ながら、人間の里で、沢山の人にドン引きされたのが恥ずかしくなって来たので。
気分転換のために紅魔館の地下を一人で散歩していました。
紅魔館の地下って複雑怪奇で、人気も少ないので、一人になりたい時にはちょうどいいんですよね。
まあ、部屋に閉じこもってもいいけど、なんだか今は体を動かして色々と忘れたい気分ですし。

ということで、適当に歩いていたのだが…

馴染のある言葉で言えばゲーム機。
馴染の無い言葉で言えば、シミュレーターのようなものがいくつも置いてあるではないか。
ファンタジー世界っぽい景色の中にいきなりSFっぽい景色が…明らかに場違いです。
しかも、人気が少ないはずの地下なのに、ここにはいっぱいメイド達が…





巨大な空間には、何人ものメイド達が世話しなく動き回っていた。
そしてハニューは気がつく。
全員、ジオン部の徽章を着けているのだ。
ハニューはよく知っている者がいないか、部屋を見渡した。

部屋の中心には、何かのアニメで見たようなシミュレーターが何台も並んでいる。
そこには、ピッチリと体にフィットし、目のやりどころに困る服を来た者達がいた。
何人かは、同じ雑用班の一員として過ごした者達だと気がついたが、活発に議論する姿を見てハニューは声をかけるのを止めた。
さらに、その奥に目をやるが、そこには巨大なモニターが何台も並んでいるだけだった。

困ったな…
と思うハニューに「わかりました。ジオン以外がこの部屋に気がつかないように結界を張るということですね。」と聞き慣れた声が聞こえてきた。
聞こえてきた場所は、部屋の入り口近くに一段高くなった場所があるが、その上からのようだった。


あ、やっぱりいたいた!
書類仕事と冷静さに定評がある、うちの部員のマリーダじゃないか。
っとおまけに小悪魔さんもいるじゃないか。

「マリーダ。これは何だ?」

「ハニュー総帥!?これはモビルスーツザクのシミュレーターです。」
突然表れたハニューに驚いたマリーダだったが、冷静沈着の彼女らしく、すぐに落ち着きを取り戻していた。

確かにこれはシミュレーターだ。
兵器にはシミュレーターはつき物だから、ゲンソウキョウにあるのはおかしい話じゃない。
問題は…
どうしてザクなんだ??
まさか…

「なあマリーダ。これって、誰が作ったんだ?」

「にとりさんです。」

にとりさん、ゲンソウキョウに元からあったシミュレーターを勝手に改造したな。
まさかとは思ったが、このマニアめ。

「ちょっと乗ってみていい??」

                        ザワ…



「分かりました。では私がオペレーターを務めますので、早速乗り込んでください。」

ん?
何だか騒がしいな?
皆俺の方を見ていてザワザワしている。

あ、ハニューってドン臭いから、絶対まともにスコアとれないよねーキャハハ!
とか言っているのですね分かります。
悔しいけど、俺がドン臭いのは事実です。
人間時代は結構自信があったのだが、ゲンソウキョウ基準で言ったらゴミ同然です。

でも、男の子だから、どうしてもシミュレーターがやりたいのだ!!



ハニューが立っていた場所、そこはシミュレータを管理するオペレータールーム。
一段高い所にあるそこは、目立つだけではなく声が良く通る場所だった。
ハニューが視察に訪れ、シミュレーターを体験する。
その事実に、シミュレータールームは騒然となった。
多く者達はハニュー総帥の強さが間近で見られる幸運に喜んだ。
そして何人かは、その幸運を他の者にも分け与えるため、シミュレータールームを飛び出していった。

-----------

シミュレーターに乗り込んだハニューは、各種準備が終わるまで、操縦の復習を繰り返していた。

マリーダによると、操縦系統はマニュアルと思考操縦があるとのこと。
思考操縦最強のように思えるが、雑念に影響されたり、人間の動きと明らかに違う動きをするので上手くイメージできなかったりと問題多発なんだと。
それを克服するために、マニュアル操作によるバックアップがあるとか…
なんというエヴァ…
因みに、思考操縦とか凄すぎとか、これって普通のザクじゃなくて、にとりさんのオラザクじゃねーか。という突っ込みはもうしない。ゲンソウキョウでは常識に囚われ(ry
「ハニュー、もう終わるからね。」

因みに、思考操縦は設定そのものも難しく、開発者のアリスさんが丁寧に設定してくれています。

「はい終わり。頑張ってね。」

「ありがとう。」

何だか凄いなあ。
俺達ガンオタの夢。オールビューモニター。
そして至れり尽くせりの武装。

しかし、この操縦服は…
柔軟性と思考操縦への影響を考え、肌に密着するデザインを採用したとマニュアルにあったが…
実はそれは嘘で、誰かの趣味ではないかと考えてしまう俺は、心が汚れているのだろうか?

『ハニュー総帥~。本日は私、クラン・シーが教導させていただきますわ~。』
モニターの一部に、クラン・シーの姿が浮かび上がる。
彼女は、ハニューと雑用班以来の付き合いであり、見知った者の一人だった。


ピッチリとして、体のラインが浮かび上がる操縦服。
俺の薄い胸がはっきりと分かるぜ。
それに比べて、バストアップが投影されているクラン・シーは…
相変わらず胸があるな…
頭に行く栄養が胸に行っていると噂されるだけのことはあるな…

むう。

これが巨乳の魔力なのか、敗北感なのかは分からないが…
思わず、クラン・シーを睨み付けてしまったぜ。


「よろしく頼む。習うより慣れろが俺は好きなので、クラン・シー…さっそく戦おう。」
さも当たり前に、クラン・シーとの対戦を望むハニュー。

『私と戦うのですか~!?』

「そうだ、何か問題があるか??」

二機揃ったら、戦うのは当たり前だろ?
それに、同じ雑用班出身で、ルーミアと並んで不思議なキャラのクラン・シー。
おっとりとして、あんまり強そうじゃないから最初の相手には丁度いいのだ。
ん?マリーダから通信が入ってる。

『クラン・シー側のオペレーターにはシトリンがつきます。
 対戦フィールド、仮想空間B-5に設定されました。
 通信は、完全解放に設定。

 ハニュー総帥。機体設定及び、武装設定はどうされますか?』


どうしようかなあ?
いくつか機体があるが…
俺は量産型が好きな性質だから、この一番オーソドックスな奴を。
装備は、魔法なんとかと書いてある意味がよく分からないものは止めて。
オーソドックスなキャノン砲とかミサイルとか実体弾系を沢山積んでいるパッケージにしましょう。

「これで。」

『…えっ…



 了解しました。

 5秒後に開始します。敵機は前方200キロに配置されます。
 後武運を。』


4


3


2


1


おお…
青い空そしてコンクリートジャングル。
もの凄くリアル。
まるで、本当にそこにいるみたいだ。


さてと。
どうやって動かせばいいんだ。

イメージすれば機体が動くというが…

まずは歩くことだけを考えて。ってエヴァンゲリオンでも言っていたので、そうしてみよう。

歩く。


ズシン


おお…
歩いた。


右手を上げる。


ウィイイン


左手を上げる。


ウィイイイン


おお…感動。凄くリアルだ…まるで自分の体のように巨大ロボットが動く。
ゲームだけど。



よし、これなら。



飛ぶ。



おお!飛んだ飛んだ!


これなら…






これなら…






高くても怖くない!!





いやー人類の夢とも言える、空が自由に飛べる生活を始めて早一年。
未だに、高い所は怖くて飛べないし、超低空飛行とか、パワーダイブとか怖くてまったくできません。
だから、いっつも低い所を飛んだり、高い所を飛ぶ時は何かと理由をつけて、大ちゃんやルーミアにくっついています。



でも、これなら超リアルなのに、ゲームだと分かっているので怖くは無いです。
それに、仮に本当だとしても、こういうコックピット中なら生身で飛ぶのと違って怖くは無いですね~


《警告 前方にモビルスーツザク級の反応を感知》

うお!?いきなり、頭の中に色々と映像や音声が入っていた!?
この音声は??
頭の中に浮かんだ、上海っぽいキャラが喋ってる!?
これが説明にあった、戦術AIというやつか。
凄いな、まるで攻殻機動隊みたいじゃないか。

『前方のモビルスーツザクを敵機と認定。マーキングします。』
マリーダから通信が入る。それと前後して、未確認機表示だったクラン・シーの機体が敵機と表示される。

《警告 敵機から分裂する熱源を感知。ファンネルの可能盛大。》

へーふぁんねるね…


ってファンネルかよ。
まずい、このままここに留まっては、一方的にフルボッコにされてしまう。

こうなったら、一気に接近するのみ。


機体を前方のクラン・シーに向けて接近させようとするハニュー。
しかし、機体は予想外の動きを見せる。

ってあれ…??
思いっきりスピードを出そうとしただけなのに、どうしてこんなに機体がふらつくの!?
まずい!?ブレーキ!地面にぶつかっちゃう!?
マニュアル操作!!

って、ボタンが多すぎて上手く動かないよ!

ああもう。
ゲームみたいに動かせれば、ここでバックブースターをふかして、機体を止めて…
サイドスラスタを、左右逆方向に吹かして、機体を捻って。

コマンドで言えば、スティックを手前に引いて、L2ボタンを…





ってええ?




思ったとおりに動いてる…

なんだー
下手にマニュアル操作にするより、頭の中でコントローラーとゲーム映像をイメージしたら簡単に動くじゃないか~
軽く数千時間ロボットゲーをプレイした俺にとっては、イメージすることなど簡単です。













よし、全速前進DA!!

しかし、相手はファンネル搭載機、こっちは通常武装てんこ盛りの機体。
このままでは、距離を縮める前に、フルボッコにされてしまう…

でも、こんな光景…どっかで見たな。

あ、ガンダムUCの冒頭のスタークジェガンとクシャトリアの戦闘シーンか。
スタークジェガンはファンネル搭載機のクシャトリアに対し、ハイパーバズーカやミサイルの弾幕でファンネルの動きを邪魔し、接近戦に持ち込むという戦いを見せた。
確か、スタークジェガンのパイロットは、アムロの戦いを見ていたので、対ファンネル戦術を知っているという設定だったな。

よし、どうせ楽しむのなら、このシーンの再現でいこう。
なんというか、燃えて来た。


最大加速でクラン・シーの機体へ向かっていくハニュー。
しかし、クラン・シーとの距離が縮まる前に、ファンネルが殺到してくる。
ハニューは、頭の中にコントローラーをイメージし、全ての武装を展開していく。

両肩部のミサイルのウェポンベイが開き、次々と大型ミサイルが発射される。
そして、背部の兵装格納システムに搭載されたキャノン砲が肩の上にせり上がり、安全値ギリギリの速度で砲弾を連続投射された。

次々と弾幕に捕らわれ、爆散するファンネル。
しかし、全てを捕らえたわけではなかった。

《高脅威警報 方位12-9》

クラン・シーからの長距離射撃。
これによってミサイル群が破壊され、弾幕に回廊を形成する。
すかさず、そこを突破してくるファンネル。

ハニューはクラン・シーの技量に舌を巻いたが、ミサイルやファンネルといった飛び道具の迎撃が難しいのは、ゲームではよくあることだったと気を取り直した。
両手に装備したレールガンを脚部の兵装格納システムに格納し、代わりに予備武装の突撃銃を装備する。

レールガンは初速が速いが、発射時に機体のEN(エネルギー)を消費するため連続射撃に問題がある。
ファンネルだけなら問題がないが、センサーにファンネルに続くミサイル群が表示されている状態では心もとなかった。
さらに、レールガンでは発射時に機体のENを消費することから、結果として機動力が落ちてしまうという問題点がある。
クラン・シーとの接近戦に持ち込むのが主目的の現状では、本末転倒だとハニューは考えた。




よし、ゲームと同じく上手く行った。
マーキングされたターゲット(ファンネル)がどんどん数を減らしてる。





『ハニュー総帥、撃ちすぎです。それでは、弾が無くなります。』
《左肩部武装残弾ゼロ》


マリーダが色々言っているが、そんなは無視さ。
俺は、スタークジェガンのパイロットになりきっているのだ。
本物のエースというのは、必要な時以外は無言で戦うものなのさw

「残弾の無くなった武装からパージ!」
《左肩部武装パージ》



バン!バン!

うお!?
何発か当たっている…

《自動防御システムON 余剰EN 防御フィールドへ》


被弾するなんて、益々ガンダムUC冒頭シーンのスタークジェガンっぽくなってきた!
テンション上がってきた!
思わず、笑みがこぼれてしまうw



無駄な武装を次々とパージし、余ったENを全て防御フィールドに回していくハニュー。
そんな中、更に何発かが被弾するが、ハニューはまったく怯まなかった。
なぜなら、ハニューは完全にスタークジェガンのパイロットになりきっていたからだ。
ハニューの頭の中には、ファンネル群を強行突破するスタークジェガンのイメージが何度も繰り返され、それと自分の機体のイメージが完全に重なっていた。





『有視界戦闘距離まで後三秒。』







よし、敵が視界に入った。
このまま、ファンネルが使えない格闘戦に入る。
これなら、まだチャンスはある。


ビームソードアックスを展開するため、突撃銃を格納しようとするハニュー。
しかし…


ボシュン!!!


突然目の前に散弾が広がり、その行動を阻害する。



ってここで散弾バズーカをばら撒きながら後退するだとぉ!?
賢い選択だが…
そんなことされたら、スタークジェガンのパイロットを止めて、あの人になるしかない。
というか、ここであの人にならなければ、ジオン部の部長の名が泣く。
「俺の目から逃げられるかぁ!」

俺の頭の中には、Zガンダムのあのシーンが何度も映し出されていた。

さあやるぞ。










「散弾ではなあ!!!!!!!!!」
あえて散弾バズーカが形成した弾幕を強行突破!








ブラン少佐、天国で見てますか!
《警告 防御フィールド消滅 再展開まで5秒》
《自動修復システムON》《ダメージコントロールシステムON》
なにやら、ヤバイ気な警報が出まくってますけど、俺はお腹一杯です!

って喜んでいる場合じゃない。
相手が明らかに怯んだ気配がある。
今がチャンス。


一気に接近して…
本当はここでビームソードアックスを選択するべきなのだが。
自重できなくなった俺は、ここはあえてブラン少佐に肖って、ブラン少佐のアッシマーが百式にやったように、パンチを敵に食らわせることにしたのさw


突撃銃をぶっ放しつつ接近。
そして、敵の間合いのすぐ外で突撃銃を格納して…
って、間に合わない!?
調子に乗って、加速しすぎた/(^o^)\
仕方ない、このまま突撃銃で殴ってしまえ!



突撃銃を槍のように、クラン・シーの機体に突き立てるハニュー。

こんな攻撃では、あまり効かないだろうけど。


…いや、何故か予想以上の大ダメージを与えたみたい。
こちらの攻撃をモロに喰らって、姿勢を崩してる。

流石に、こんなチャンスを見逃すわけには行かない。
ここは一つ決め台詞を…
ブラン少佐の決め台詞といえば…


『アッシマーがぁぁぁ!!』

…これ決め台詞じゃない。
ブラン少佐ってエースパイロット(多分)なのに、決め台詞が無いじゃないか。



「落ちろぉッ!」
結局、決め台詞が見つからないので、急に冷めてしまって素の表情に戻って止めを刺しました。




『敵機撃墜!』




最後は冷めちゃったけど、楽しかった。
久しぶりに夢中になっちゃったよ。
いい気分転換になったなー





って喜んでシミュレーターから出た俺を待っていたのは、皆の視線だったのさ。
あるぇー(・3・)



『負けちゃいましたわ~』

俺と戦ったクラン・シーの映像と声が室内に設置された大型モニターに流れている…
そして、その隣には俺が座っていたと思われる席が…



\(^o^)/



ブラン・ブルタークごっこを全員に見られた…




部屋に戻って、鍵をかけて、布団を被って、目と耳を塞ごう。
そうしよう。
俺は恥ずかしくなって、さっさとその場を後にしたのだ。


・モビルスーツザク開発記録 653ページ目 記録者 紅魔館の愛の伝道師

東京をイメージして作られた仮想空間。
そこには二機のモビルスーツザクがいた。
片方は、モビルスーツザク基本型。
そしてもう一方が、モビルスーツザク重装強化型。

基本型はその名の通り、派生型の基本となる機体。
扱いやすく、汎用性も高いが、性能は最も低い。
対する、重装強化型は基本型に外部追加ユニットを中心とした追加装備を行ったスペシャル仕様。
将来的には、モビルスーツ●●といったように、新たな名前が与えられるかもしれない高性能機。

その性能差に、集まってきた観客達は注目したが、最も注目を集めた点はそれぞれのパイロットだった。

重装強化型を操るのは、クラン・シー。
彼女は、半妖精・半妖怪で高い魔力を持ち、その纏う雰囲気に反し抜群の戦闘センスを持つトップクラスのパイロット。

そして、基本型を操るのは、ハニュー総帥。
モビルスーツザクの操縦はまったくの素人だが、天井知らずの戦闘力とモビルスーツザクの発案者としての顔を併せ持つ、ジオン総帥。


どちらが勝利を収めるのか、誰もが固唾を呑んで見守る中、最初に動いたのはハニュー総帥だった。

ハニュー総帥は、思考操縦での機体の動きを確かめるためか、静かに機体を動かしていた。
だがそれは、長続きしなかった。
ハニュー総帥の機体は、加速したかと思うと、突然バランスを崩し地面へと落ちていく。

観客からは失望の呻きが上がった。

『モビルスーツザクの操縦、しかも思考操縦で墜落を経験しなかったものはいない。』
そのように語られるほど、初飛行で墜落することは当たり前のことだった。
しかし、ハニュー総帥だけは違うのではないか?そんな期待があったからだ。

クラン・シーも、そう考えていた一人だった。
基本動作訓練無しで自分との模擬戦を望んだハニュー総帥。
モニター越しに自分を睨み付けて来るほどの気迫を持っていたハニュー総帥。
何故か、基本型という最も弱い機体を選んだハニュー総帥。
その理由は、それでも勝てるという自信がハニュー総帥にあるからではと思えたからだ。

ズーム映像の中で、墜落しようとするハニュー総帥の機体。
全ては勘違いだったのか…


そう思った瞬間、ハニュー総帥の機体は安定し、クラン・シーの方向へと突き進んできた。
モニターに映し出されるハニュー総帥は余裕の笑みを浮かべていた。


模擬戦の知らせを聞いて、駆けつけたアイリスは驚いていた。
モビルスーツザクの思考操縦は明確で精度の高いイメージ力が必要だ。
その力を持たぬまま思考操縦を行うと、雑念のため、コントロールに失敗することになる。
だから、パイロット達は訓練によって高いイメージ力を養っている。
思考操縦においては天才的と称されるクラン・シーでさえ、既に百時間を越えるイメージ強化訓練を行っている。
イメージ力を養う訓練は、思考操縦には必須のはずだった。

だが、まるで訓練をしていないハニュー総帥は、思考操縦のみによって機体を完全にコントロールしている。
ありえないことだった。
ハニュー総帥の高い精神力によって、イメージ力を補っている。
その回答に行き着いたとき、アイリスの驚きは畏怖へと変わっていた。







「ファンネル!」

突然の状況の変化に驚くクラン・シー。
しかし、訓練の成果が表れていた。

クラン・シーの下を飛び立ったファンネルは、ハニュー総帥が操る機体へと殺到していった。
急速に距離を詰めるファンネル。
しかし、ファンネルは突然表れた弾幕によって動きが封じられた。


全ての弾薬を使い切る勢いで、武器を乱射するハニュー総帥。
実体弾ゆえの、エネルギーチャージを無視した連続射撃。
あるファンネルは打ち落とされ、またあるファンネルは弾幕の前に立ち往生した。
クラン・シーが放ったメガ粒子砲によって、何機ものファンネルが弾幕を突破するが、いつの間にか突撃銃に武器を切り替えたハニュー総帥によって叩き落されていく。

突然の行動に驚いたマリーダは、オペレーターとして弾薬の消費について警告を入れていた。
マリーダは、ハニュー総帥がファンネルをただ迎撃することだけを考えているのだと思ったからである。
ファンネルを迎撃するのは決して悪い作戦ではない。
ただし、ファンネル抜きであったとしても、基本型と重装強化型の性能には、まだ開きがある。
しかも、実体弾中心のハニュー総帥の機体は、弾の補充が利かないのだ。
このままでは、ファンネルを潰した代わりに、ハニュー総帥が大半の武器を失うのは明白だった。

クラン・シーもまた、マリーダと同じことを考えていた。
《敵機 左肩部武装パージ》
だが、状況が変化した。
ハニュー総帥は弾薬が切れた装備を次々とパージし、機体をさらに加速させてきたのだ。

この期に及んで、クラン・シーを始め、その場にいた全員がハニュー総帥の狙いに気がついた。
ハニュー接近戦に全てを賭けているのだと。
上手く行けば、ハニュー総帥がクラン・シーに一撃を打ち込むチャンスがある。

「いくらなんでも無茶よ。」
「実体弾装備機の特性を活かした、高速機動戦に持ち込んだ方が勝ち目があるわ。」

モビルスーツザクに詳しくない者達は、ハニュー総帥の行動を無謀と捉えた。

「これは…確かにこの手が最良の手段ですね。」
「まるで対ファンネル戦術を最初から知っていたかのような動きだ…これを瞬時に思いつかれるとは…恐ろしい人ね。」

しかし、パイロット等、モビルスーツザクに詳しい者達は、ハニュー総帥の行動が双方の性能差を鑑み、最良の行動であると見抜いていた。
そして、クラン・シーも同じ結論にたどりつき、ハニュー総帥の戦闘センスの高さに驚いていた。
このような対ファンネル戦術を訓練によって知っていたのなら、まだ分かる。
だが、ハニュー総帥は初めてシミュレーターに乗ったのだ。
対ファンネル戦術の訓練など受けているはずがない。
つまり、この対ファンネル戦術は、今ココでハニュー総帥によって考え出されたものなのだ。


ハニュー総帥の機体は、余剰エネルギー全てを防御フィールドに回し、最短距離でクラン・シーの機体へ迫っていった。
ニヤリとした笑顔を浮かべるハニュー総帥。
その笑顔は、勝利を確信しているようだった。




約一分後、重量が減ったハニュー総帥の機体は圧倒的な機動性を見せつけ、既に有視界戦闘距離にまで接近していた。
だが、クラン・シーは大人しく接近戦に入るつもりなど無かった。
背部の兵装格納システムから散弾バズーカを取り出し、ハニュー総帥の接近を妨害しつつ後退する。

「俺の目から逃げられるかぁ!」

『大半の武装を失い、接近を阻まれたハニュー総帥に勝ち目は無い。』
クラン・シーはそう自分に言い聞かし、ハニュー総帥の気迫に耐えようとしたが、無駄な努力だった。


「散弾ではなあ!!!!!!!!!」

散弾バズーカの弾幕の中心を強引に突破するハニュー総帥に、誰もが驚いていた。
多くの観客は、弾幕ごっこという本来の戦いとは違う戦い方が、戦いの固定概念となっていたため、ハニュー総帥の行動と発想に驚いていた。
そして頭の回転の早い者達は「散弾ではなあ!!!!!!!!!」というハニュー総帥の咆哮が、固定概念に捕らわれている自分達へのメッセージなのだと感づいていた。

そして、パイロット達やマリーダやアイリスは、また別の意味で驚いていた。
思考操縦では、恐れまでもが機体のコントロールに影響する。
少しの恐れでも、機体の動きが鈍ることになる。
だが、ハニュー総帥の機体には動揺がまったく感じられなかったのだ。
クラン・シーの機体へ接近する際に、既にハニュー総帥は何発も被弾していた。
これだけでも、並みのパイロットだったら被弾に動揺し動きが鈍ってもおかしくない。
だが、ハニュー総帥の機体はまったく動揺しない。
散弾の雨を突破したときでさえ、まったく動揺を見せないのだ。
「散弾ではなあ!!!!!!!!!」という言葉はただの強がりではない。
自分の精神力を信じ、そしてモビルスーツザクの限界性能を信じての発言だったのだ。
彼女達は、ここまで自分とモビルスーツザクを信じられるハニュー総帥に、驚きと同時に羨望を覚えるのだった。

クラン・シーも驚いていた、散弾とはいえ、強引に突破すれば機体のダメージは相当なものになるからだ。
事実、ハニュー総帥の機体は、脚部の一部が欠落するなど、酷い有様だった。
驚きに機体の動きが一瞬鈍る。

その隙を狙ったかのように、突撃銃を打ち鳴らしながら接近してくるハニュー総帥。

我に返ったクラン・シーは反撃の計画を練る。
ファンネルの大半は喪失、僅かに残ったファンネルも遥か彼方。却下。
メガ粒子砲は…チャージが完了する前に、接近されてしまう。却下。
ミサイルや散弾バズーカは…ダメ。下手すると発射直後にハニュー総帥の突撃銃によって迎撃され、こちらがダメージを食らってしまう。

もはや接近戦回避は不可能。
ならば、ハニュー総帥がビームソードアックスを展開しようとするその一瞬の隙に、反撃の糸口を掴む。
突撃銃を格納するか捨てるか。
とにかく、一旦突撃銃の使用を止めないとビームソードアックスは展開できない。
ビームソードアックスの展開に最適な場所は、こちらの間合いのすぐ外!
そこなら、こちらからの攻撃を受ける確率が最も低く、突撃銃をギリギリまで使用できるから最良の位置。と思うはず。

そこが狙い目。
こちらも、ビームソードアックスを展開し、その最良の筈の位置にハニュー総帥がたどり着く直前にハニュー総帥に向けて急加速する。
そうすれば、無防備なハニュー総帥を間合いに入れることができる。


相対距離が急速に近付く中、その一瞬を見極めることにクランー・シーは全神経を集中させていた。

目と鼻の先まで接近した二機。
まだハニュー総帥はビームソードアックスを展開させない。

いつになったら、展開させるのか?
そう疑問を思ったときには、既に手遅れだった。

ハニュー総帥は、そのまま流れるような動きで突撃銃を槍のように使ってきたのだ。
あまりのことに、虚を突かれたクラン・シーの機体は、攻撃の直撃を受け完全にバランスを崩していた。


そして次の瞬間「落ちろぉッ!」という言葉とは裏腹に、どこか冷めた表情のハニュー総帥が、ビームソードアックス振り下ろしてきた。
戦闘不能の四文字が頭の中に投影されていた。




観客達は声も出なかった。
性能の劣る機体が、一瞬の隙を突いて勝利を収める。
その過程で見せられたこれまでの常識では考えられない戦い方。
そして、シミュレーターとはいえ、多くの者にとって初めて目の当たりにするハニュー総帥の強さ。
誰もが魅入っていた。

静まり返った室内。

その静粛は、ハニュー総帥がシミュレータールームを去るまで続き、去ると同時に打ち破られた。


我らの総帥はどんな戦いであっても強い!ジオン万歳!ハニュー万歳!
次々と先ほどの戦いを賞賛する声が上がり、シミュレータールームは熱狂の渦に巻き込まれた。



そんな中、何人かはまったく違う感想を持っていた。

アリスは、ハニュー総帥が危険な目に会わないために作り上げているモビルスーツザクが、逆にハニュー総帥を最前線に送り出すことになるのではないかと危惧していた。

アイリス・シトリン・マリーダのジオン三人娘もまったく違う感想を持っていた。
ハニュー総帥は勝利を収める直前に冷めた表情をし、勝利を収めた後も何も語らず去って行ったからだ。
三人は思った「ハニュー総帥は我々の弱さに怒りを覚えている。」と。
その日のうちに新たな訓練プログラム組まれることになった。

パイロット達も同じ様な感想を持っていた。
守るべき対象であるハニュー総帥に、我々パイロットが負けた。
これでは、我々は足を引っ張るだけの存在になってしまう。
パイロット達もまた、ジオン三人娘と共に厳しい訓練に身を投じることになった。

そして、クラン・シーは一見陽気だが、少し陰のある表情を見せていた。
彼女は、ハニューの総帥戦いっぷりに魅入られ興奮したが、負けたことに悔しさも感じていた。
彼女の頬は濡れた後があった。
興奮しハニューの戦いに魅入られた彼女は、もしかしたら下の方も====以下削除====
==========================================
====================================

私こと小悪魔もハニューの戦いに興奮して==========以下削除=========
==========================================
==========================================
============

----------

細かく聞き取りを行って、小説調になっているのは評価します。
だがこれは、私やアリスさん達共同で使っている記録なんです。
下ネタを書く小悪魔さんは、オシオキ決定です。

河城 にとり

下ネタというより事実でして、私の淫魔としての見立てでは====以下削除=======
==========================================

===

side リグル・ナイトバグ

ジオン本部にある会議室、そこでリグルとマリーダが話し合っていた。
リグルはハニューの模擬戦を観戦出来なかっため、その内容を教えてもらいにきていた。

「マリーダさん。その話は…本当ですか!?」

「本当です。ハニュー総帥は先の模擬戦で増幅装置をほとんど使っていません。
 増幅装置は自動的に機能するものですが、一般的な妖精未満の魔力しか検出できなかったとログにも残ってます。」

そんな…モビルスーツザクには、自分の魔力を入れることによって、機体に色々な能力を付加する装置があるのに…態々魔力を抑えてまでして使わなかったなんて。

「でも、ハニューさんはどうしてそんなことを。」

「あの模擬戦について『ハニュー総帥は凄い』という感想を持った者が最も多かったのですが、その次に多かったのが…
『これまでの戦い方は弾幕ごっこの固定概念に捕らわれていた。』
『戦い方次第で、格上の相手にも勝つことができる。』
 というものでした。恐らく、ハニュー総帥は後者の二つのために、あのような模擬戦を行って見せたのだと思います。」

ということは…増幅装置を使わなかったのは、格上の相手にも勝てるということを皆に分からす為!?
凄い、ハニューさんはそこまで考えて…



[6470] 第二十一話 そんなことよりおうどん食べたい。(注意 少し15禁
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/07/29 06:39
第二十一話
そんなことよりおうどん食べたい。(注意 少し15禁)

side 博麗 霊夢

「どう霊夢?綺麗に直っているでしょ。」

確かに。
レミリアのことだから、紅魔館みたいに真っ赤な本堂を作るんじゃないかと心配したけど、意外とまともね。

「ありがとうレミリア。思ったよりしっかり直っているじゃない。」


「結構大変だったのよ。設計図とか無いから…特に御神体とか全然資料が残っていなかったから、完全に一から作り直しだったわ。」

は?御神体!?

「御神体って何のことよ???」

「咲夜、霊夢に御神体を見せてあげて。」

レミリアの命令で、本堂の扉を開ける咲夜。



「え…私!?」

「そうよ!これぞ、紅魔館の技術力を結集して開発した1/1霊夢 御神体verよ!」

は、何これ!?私そっくりの人形!?


そこには、霊夢そっくりの人形が飾ってあった。


「な、な、な、何なのこれは!!!」

「霊夢!?どこか気に入らないの!?胸以外は、あなたとそっくりのはずよ。」

気に入らないも何も、こんなもの作られたって嬉しくないわよ!


ん?

胸以外!?



確かに、私より胸が大きいわね。
気に入らないぐらいに。

「ど、どう?そっくりに仕上がっているでしょ。胸は…霊夢って胸が少し小さいのを悩んでいたみたいだから、大きめにしておいたわ。」




「余計なお世話だ!!!」

「うー!?ごめんなさい!!」

カリスマガードを展開するレミリア。
それを見て、霊夢は少し冷静さを取り戻した。


確かによくできているわ。
服も、本物と同じ素材ね。
脇の穴から見えるさらしも、私が使っているのと同じサラシのようだし…


同じサラシ!?


まさか…


霊夢人形のスカートをめくる霊夢。








「ほー………。この人形が履いているドロワーズ。私のとそっくりよね。」

「ちゃんと本物をコピーさせて作ったから、そっくりで当たり前よ。」

「ヒップのサイズも同じようだけど…」

「当たり前よ。胸以外は、ほくろの位置まで本物を完全に再現しているわ!!私の名前で仕事をさせている以上、完璧でなくてはいけないの!!」











「レミリア…どこで私のドロワーズと体の情報を知ったの…」






「そんなことより、ほ、ほら、神秘性を演出するために、目から光線が出る機能もあるのよ…」





「誤魔化すな!!」


紅魔館の手によって再建された本堂が『レミリア スカーレット』諸共崩壊したのは、その一分後の事だった。


-----------


「こっちの住居の方は、私達八雲家が担当したの。」

あー……    やっちゃった。

せっかく、作り直してもらったのに頭に血が上って壊しちゃった。
レミリアも悪気があってやった訳じゃ無いのに、どうして私ってこうも血の気が多いのかしら…

「疲れているみたいだから、早速上がって休憩したらどうかしら?」

そうね。
そうさせて貰おうかしら。














意外とまともね。



霊夢の目の前には多少記憶とは違うが、以前と同じ様な、普通の和風の居間が広がっていた。

「結構まともじゃない。」

「凝る所は凝る、凝らない所は凝らない。それが出来る妖怪というものよ。」

凝る所は凝る?
でも、この普通な感じの居間は…どういうことかしら?

「へえ…じゃあ、この家の凝っている所を見せてもらいましょうか?」

「勿論!

 藍!見せてあげて!」


ウィイイイイイイン…
次々と床の畳が動き、その下に隠された収納が現れる。

「どう?隙間の魔術師との異名を持つ八雲紫のリフォームは!!」

また胡散臭い異名を考えて…でもこれは凄いわね。

「これだけの収納があれば、どんな大荷物でも簡単に収めることが出来るわ。
 例えば、食料。

 霊夢はいつもご飯に困っているけど、これなら買いだめしておくこともできるわ。」

そうね、これだけの収納に食料を詰め込めば…


詰め込めば…







「紫、私ここに詰め込めるような食料が無いんだけど。」


ちょっと泣きたくなってきたわ。

「そ、それはとにかく、収納が多いことに越したことが無いわ。


 次は寝室を見ましょうか。」

明らかな話題転換だけど、そこを突いたら紫も可哀想だから、気がつかないフリをしてあげようかしら。


----------

ふーん…
ここも普通の寝室ね。
少し心配だっけど、これは紫に家の修理を任せて正解だったかもしれないわね。

「この寝室にも隙間の魔術師としての仕掛けがあるわ!

 霊夢~♪

 霊夢だって、寂しくて眠れなくなるときが偶にはあるでしょ?」

う…
そんなの、あるけど…言えるわけ無いじゃない。

「無い「そんな寂しい夜を明るい夜に変えてくれる機能がこれよ!!」

聞いてよ!


突然巨大なスキマが部屋に現れる。


「このスキマを使って、いつでも私の寝室に「すぐに取り外して!」

「無理よ。このスキマ、家の大黒柱になっているの。取り外したら、家が崩れるわ。


 だから、取り外したくても、取り外せないのよ~これは仕方が無いわよね。」




そうね、それなら確かに仕方ないわ…


「こんな欠陥があるのなら、全部壊しても仕方が無いわよね!!!」

「ちょっと!?霊夢!?まだ見せていない機能があるの!このボタンを押せば外の世界のラブホテルと同じ機能が!まるでディズni「それ以上喋るな!!」

八雲家の手によって再建された住居が『八雲藍』諸共崩壊したのは、その一秒後の事だった。


----------


side 妖怪の山 大天狗の家

「貢物を打ち切るだと!?」

妙齢の女性が、スーツ姿の亡霊を怒鳴りつける。

「その通りです。」

涼しい顔で言い切るスーツ姿の亡霊。

「そんなことをして…あんた…我々との交渉がうまく行くと思っているのかい?」
スーツ姿の亡霊を脅す大天狗。

「ええ、うまく行かないでしょうね。」

しかし、なおも涼しい顔で言い切るスーツ姿の亡霊に、大天狗は言い知れない不安に襲われた。

「ですがこれは、ハニュー総帥による決定事項です。」

「なんだと!?」
驚きの声を上げる大天狗。
このスーツ姿の亡霊の後ろには、ハニューがいることは承知の上だ。
だが、ハニューによって、こうも簡単に交渉を打ち切られるとは思っていなかった。
当初のスーツ姿の亡霊の様子から、この交渉はジオンにとって必要不可欠なものだと感じていたからだ。
それを裏付けるように、彼らが使用を望んでいた外界との『門』は八雲紫の能力以外では、ここにしか無いものだからだ。

「ハニュー総帥からは、最悪の場合、交渉を打ち切っても構わないと言われています。
 なんでも、この交渉が駄目になっても、それ程の問題はないとか…」

「そんな、馬鹿な!!」
思わず、声を荒げる大天狗。
一方、スーツ姿の亡霊は、まったく調子を崩さず話を続ける。
「私のような末端の人間には詳しいことは分かりませんが…最近は色々と見知らぬ顔の者を見るようになりましてね…
 
 もしかして、妖怪の山の重要度が下がり始めたということと、何か関係があるかもしれませんね。」

大天狗は、欲張りすぎてしまったと感じた。
自分達を高く売りつけようとして、売り時を間違えたのだ。
自分が中々首を縦に振らないことに業を煮やしたジオンは、妖怪の山とは別の仲間を引き入れたのだろう。

まずい…
大天狗は、焦り始めていた。
そんな、大天狗に意外な所から助け舟が出された。

「だが、まだ妖怪の山には『門』があります。それを手土産にすれば、遅れを取り戻すことは十分に可能だと思いますよ。」
そう提案してきたのは、スーツ姿の亡霊だった。

悔しいが確かにそうだ。
そう大天狗は考えたが、すぐにその考えを打ち消す。
「何も、そこまで我々がジオンに肩入れする必要は無い。我々はこれまで通り、妖怪の山で暮していくだけだ。

 ジオンは勝手にやるがよい。」
回りくどい言い方だが、何のことは無い。
妖怪の山は中立を貫くと大天狗は言っているのだ。

それを聞いたスーツ姿の亡霊は、口を三日月のような形に歪めた。
大天狗が発した言葉こそ、スーツ姿の亡霊が待ち望んだものだったからだ。

「では、勝手にやらせてもらいましょう。次に会うときはお互い敵同士ですね。
 あなたのような綺麗な女性が死ぬのは忍びない。
 無事な姿のまま、生き残ってくださいね?」

突然の宣戦布告に大天狗は驚いたが、すぐに冷静になって考えをめぐらす。
そして、自分達が完全に追い込まれていることに気がついた。

自分達にはジオンが欲する『門』がある。
そしてジオンには、謎の勢力がバックに付き、武力を蓄えつつある。
そう遠くないうちに、ジオンが妖怪の山へと侵攻してくるのは火を見るより明らかだ。

それなら、力をつける前にジオンを攻めるべきなのか?
そんな黒い考えが大天狗の心を染めようとした。

「そうでした。聡明な大天狗さんには不要なことかと思いますが、我々と戦うなんて馬鹿なことは考えないでくださいね。
 妖怪の山が強いのは私も知っていますが、我々も十分に強いということをお忘れなく。
 ご存知の通り、ハニュー総帥は博麗の巫女を倒し、あの鬼を手玉に取ったお方。
 そして、ジオンの中核戦力である妖精兵はハニュー総帥に忠誠を誓った不死の兵。

 いやー、身内のことながら恐ろしい。
 私なら、例え勝てそうな戦力を持っていたとしても、これほど利益が少なそうな戦いは遠慮したいですね。
 大天狗さんもそう思うでしょ?」

あからさまな恫喝に大天狗は顔をしかめるが、最後のひと言に、スーツ姿の亡霊が『まだ交渉の余地がある』というサインを出していることに気がついた。

「分かった、今日は実りのある交渉にしたい。
 まだ時間はあるか?」

スーツ姿の亡霊に問いかける大天狗。

戦ったところで、損失ばかりで得るものは少ない。
だから、交渉を締結させ、ジオンと良好な関係を作るしかない。
大天狗はついに腹を括ったのだった。

「もちろんです。タイムイズマネーですが、実りのある交渉は全てに優先しますから。」

スーツ姿の亡霊は、久しく感じていなかった喜びをかみ締めていた。
生前、商社の人間として世界中を飛び回り、ありとあらゆる手段をもって、会社のため、国のために力を尽くしていった。
その彼や同業者達の手法は欧米人には評判の悪いものだった。
だが、当時の会社や国はそんな彼や同業者達の活躍を評価しており、彼自身も異例とも言える速さで出世していった。

しかし、それも長くは続かなかった。
気がついたら、自分が得意とする手段を選ばない強引な手法は、新興国が行う下品なやり方として、会社や国にも嫌われるようになっていた。
そして、彼は過去の人となり、出張先で交通事故に遭い死んだ。

死んだ後も、彼はもう一度自分のやり方で勝負したいという思いを持ち続け、それが彼を亡霊に変えた。
だから彼は、呑気な冥界を飛び出し、ジオンの一員となった。

死して新たな機会を与えてくれたジオンに彼は感謝し、ジオンのために力を尽くした。
だが、長らく彼は力を発揮できなかった。

あまりにも、自分の行動が制限されていたためだ。
これは仕方が無いことだが、彼をコントロールする少女達が、どの程度彼に裁量を与えれば良いか分かっていないためだった。

自分に任された仕事が完遂できないことに、彼は自らに憤りを感じ、辞表を出すべきではないか…と考えるようになっていた。
そして明日にも辞表を書こうと決意したその時、転機が訪れた。

ハニュー総帥直筆の指示が来たのだ。
その中身は、大幅な権限の委譲と、望みどおりの物品の支給。
そして、最悪の場合は撤退してもよいとの指示がだった。

彼は、直筆の指示というハニュー総帥からの期待の高さと、自らの力が発揮される場を提供されたこと知り、喜んだ。
そして、ジオンへの忠誠心を新たにし、自らの全てを賭けた交渉に乗り出したのだった。








そして、一週間後『ジオン・妖怪の山修好条約』が締結され、彼の思いは成就した。
だが、彼が成仏することも転生することも無かった。

この成功が、ジオンの中でまだまだ活躍していきたいという思いに繋がり、彼をジオンに強く縛り付けたからだった。


----------

side ハニュー


「ハニューお姉さま!私の愛を受け取ってくださいまし~」
「わーい、ハニュー待ってー♪」
「ハニューさん待ってくださいw」
「妹様!!止めて下さい!!」

「バッカジャネーノ」

現在俺は、四人と一匹に追いかけられています。
上から…
ジオン部員の妖精。
妹様。
めーりんさん。
メイド長。
そして、上海です。









へいよーぐっつすっす。
お久しぶりです、ハニューです。
皆さん、ご謙遜でいらっしゃいますでしょうか?
ハニューは何人もの人に、告白される日々が続いております。


最初は、これがモテ期とか言う奴なのか!?
と興奮しました。

ところが、まわりをよーく見てみたら…皆がこっそりこちらに注目しているので、これが虐めの一環であることはすぐに分かりました。
調子に乗った俺を見て、影で「釣られてるwwww」という感じで笑うんですね分かります。

その想像はとにかく、こんな異常な事態、真面目な告白ではないことは一目瞭然です。
今日なんかは、追いかけている妹様とめーりんさんを見れば分かるように、明らかにこの状況を楽しんでいますし。

因みに俺もただ逃げているだけではありません。
どうにか対策を取ろうと、沢山の人に告白されていることを大ちゃんに相談したりもしました。
でも…
『ハニューちゃんの人生だから、ハニューちゃんが誰と一緒になるか自分で決めていいんだよ。でもちょっと寂しいかな…』
とか、真面目に勘違いした回答をされてしまいました。
大ちゃんは笑顔なのに、何故か悲しんでいるように見えてたような…


回想終了。

よし、もうすぐ図書館です。
図書館は、図書館救助隊や図書館探検隊という非公認組織が結成されるほど広大で入り組んだ空間です。
ここなら、流石の妹様たちも俺を探すのは困難でしょう。



バン!!

勢いよく、ドアを開けるハニュー。


「図書館では静かにして。」
あ、パチュリー様に注意された。
でも、そんなことを気にしている場合ではない。

「お願い!匿って!」

「いきなり、何をいうのよ。」

「そこを何とか!」


困った顔をする、パチュリー。



ドタドタドタドタ…

やばい、すぐそこまで追っ手が迫っている。
どうにかパチュリー様を説得しないと…
そうだ、パチュリー様の横にいる小悪魔さんに、アイコンタクトでお願いしましょう。

ジー…
(俺を匿うように説得して!)


「パチュリー様…  イジワルな子は、私…嫌いですよ?」

「! 小悪魔、すぐにハニューを匿ってあげて。」

助かった!小悪魔さんが何やらパチュリー様の耳元で囁いたらOKしてくれた。
やっぱり持つべきものは友ですね。


「じゃあハニューちゃん、あそこに隠れたら?」

なるほど。
これはいい隠れ場だと思います。
これで何とかなりそうです。

まったく、なんでこんなことになったんだろうか…



最初は、今追いかけている子も含む、うちの部員の何人かがいきなり告白してきたんだよなあ。
しかも内容は、結婚してくださいだの、側室で我慢するだの、自分なら大ちゃんと違って満足させてあげられるだの…
あまりにも、ぶっとんだ内容だったから、困惑してしまって「気持ちは嬉しいが、今はそんな余裕は無い。」とやんわりと断ったんだよな。
今から思えば、こんな変な告白ってありえないから、これも冗談か今の虐めの一環だったんだろうなあ。

とにかく、その時はそれで収まったのだが。

次の日に、ドリキャ じゃなかった。幽々子さんが来て、一気におかしくなったんだよなあ。

いきなり、部室にやってきて。
「知ってるでしょうけど、うちに妖夢っていう気立てのいい子いるのよね~
 でも、全然浮いた話が無くて困っているのよ~」
という言葉から始まった、妖夢さんの自慢話。
正直言って面白い話ではないので、聞きたくなかったのですが、聞くことにしました。
どのような相手にも礼を尽くす、これが大人の対応というものなのだ。


別に、ヤ●ザの人を下手に刺激するのが怖かったとか。
怖いので、どんな内容でもとにかく話をあわせることにしたとか、そんなことは無いですよ!!










すみません、嘘です。
怖かったです。




とにかく、幽々子さんを刺激しないように、話を合わせまくりました。
妖夢さんは料理が旨いだの、掃除が上手だの、その刀はこんにゃくですらも綺麗に切れるだの、だからどこにでも自信を持ってお嫁に出せだのと言われたときは…
「素敵なお嬢さんですね。俺もお嫁さんに貰いたいぐらいですよ」と答えたり。
顔とか可愛いいと思うでしょ?あなたの眼から見てもそう思うでしょ?と言われた時には「ええ。凄く可愛いですね。」相槌を打っていたのですが…


墓穴を掘りました。

「どう?今度妖夢とデートにでもいかない?」
といきなり言われてしまいました。
そういう話だったのかよ!?
確かに妖夢さんは、なかなかいい子です。
+100ポイントぐらいの。
ですが、ヤクザの女なので、それだけで-1000ポイントぐらいです。
間違って手を出したらどんな事態になるか…

しかもです、これが罠の可能性もあります。
例えば、俺が妖夢さんとデートをしたとしましょう。
すると、突然妖夢さんが俺を「今日ね…家には誰もいないの…」と自分の部屋に誘って、ホイホイついていったいすると…
いきなり怖いお兄さんが出てきて「俺の女になに手え出しとるんじゃ!!」という感じで凄まれ、多額の慰謝料を払うという結果に…
いわゆる、美人局(つつもたせ)という奴です。

というか、こっちの可能性の方が高いです。
どう考えても、俺と妖夢さんをいい関係にしたところで、幽々子さんにメリットなんて無いだろ。
俺なんて、ただのオタクな妖精メイドだし…
オタクはオタク狩り等があるように、金があると思われているからな…



………………………………
………………………………
………………………………
やっぱり、どう考えても俺の金を狙っていますね!!
ここはうまく断らないと…

ということで、まず考えたのは、好きな人がいるからダメ。というものだったのですが…本当に好きな人なんていないし…
こんなに沢山の人がいるところで、例え嘘でもそんなことを言ったら、後からそれは誰だと追及されて困る。

なので、好みじゃないという話をしました。
恋愛は気持ちが大切だからね、どうしても好きになれないという話なら、仕方が無いという話になるかもしれません。

「すみません。素敵な女性なのですが、実は俺の好みではなくて…」



「…おかしいわね~さっきからお嫁さんに貰いたいぐらいだとか、凄く可愛いとか言っていたじゃないの~」
何だか、明らかに目が笑っていない笑顔で迫ってくる幽々子さん。
しまった、完全に墓穴掘っている。


やばい、どうしよう…
困ったことに、ヤクザの女であること以外は否の打ち所が無い子なんだよなあ…
ずっと一緒にいたら、本当に好きになりそうなぐらいに…
確かに、気立ては良さそうだし、一見まだまだなスタイルも、発展途上で将来は期待できそうだし…って今のスタイルも、これはこれでいいか…

顔の方も髪型のせいで多少ガンダムのキャラを思い出す以外は可愛い     ってコレダ!!


「確かに妖夢さんは凄く可愛くて、お嫁さんに貰いたいぐらいなのですが…
 先ほど妖夢さんとイザークが似ていると気がついてから、妖夢さんの顔を思い出す度にイザークの顔も思い出すようになってしまって…
 どうしても、イザークのイメージが、妖夢さんのイメージと被ってしまって…妖夢さんが可愛い!という気持ちを邪魔してしまうのです。
 イザークのことが、俺の記憶の中にここまで鮮明に残っていなければ…こんなことにはならないのですが…

 幽々子さんには理解し難い感情でしょうから、好みではないという言葉を使わせてもらいました…
 すみません、誤解を招く発言をしてしまって…」

現実の人間がとあるアニメのキャラと似た感じの顔や雰囲気をしていると、その人のイメージにアニメのキャラのイメージが被ってしまうことがあります。
これなら、病気みたいなものなので『妖夢さんを好き』という気持ちが事実だとしても、それが邪魔をして『やっぱりどうしても駄目』だという理由は成り立つ。
実際に、妖夢さんがイザークのモノマネをしている所を想像したら、面白すぎて可愛いとかいう気持ちが吹き飛んでしまいました。

ちなみに、二次元にどっぷり浸かった人なら、一度ぐらいは経験したことがあるはず。
え?そんな俺は、現実と二次元の境目が曖昧になっている、ただの危ない人だと!?またまたご冗談を…








で、こんないい訳でどうでしょうか?ビクビク…


「は?」

あ、幽々子さんが、意味が分からないという顔をしている。
知らないのねイザークの事。
ガンダムSEEDのキャラで、ザフト軍で、妖夢さんみたいな髪型している人。
リボンは無いけど…





イザークにリボンだと!?


危険なものをイメージしてしまった。
俺の頭の中に浮かんだ、リボン付きイザークのイメージ、怖すぎるのですが。

「その…えっと…今のは忘れてください。」

色々な意味で、詰んでしまいました。
嫌なイメージは頭から離れないし、もうネタも無い。





ということで、うおお、っと頭を抱えていたら「ごめんなさい。嫌なことを思い出させてしまって~」
と言って幽々子さんは帰ってしまいました。

俺が妖夢さんを好きだけど、一緒にはなれないという設定を伝えられたかどうかは分かりませんが、幽々子さんの考えを挫くことには成功したようです。
正直、今から思い出してみると、相当てんぱってたようだな。あまりにも酷すぎる対応です。
まあ、結果よければ全てよしですけど…


それはとにかく、当時はこれで一安心、よかったよかった…
と安心していたのですが…


その次の日から、もの凄い人数が告白してくるようになったんですよね。
その中には、以前シャンプーハッ●を持ってきてくれた少年まで混ざっているし…

確かあの少年が来たときはこんな感じだったなあ。

----------

「ハニューさーん!!」
おや、あれは以前シャン●ーハットを納品に来た少年ではないか…
「どうしたの?今日は納品じゃないみたいだけど?」

「あ、あの、は、ハニューさんはどういう人がタイプなんですか!?」
なぜそんなことを俺に聞く。
まるで俺の事が好きだと言っているみたいだぞ。

さては…

お前も、虐めに参加しているんだな、そうだな?そうなんだな?

よく見れば、明らかに俺たちは周囲からジロジロと見られているのでこれは間違いないです。


くそっ!
どいつもこいつも、俺がうろたえるのを期待しているんだな?

でも、そうはいかないね。

「ひと言では語れない。」

「え?」
何だか、少年が変な顔をしていますが、無視して進めます。

「例えば紅魔館なら、お嬢様や妹様、メイド長にパチュリー様。小悪魔さんにめーりんさん。
 同じジオン部のアイリスやマリーダやシトリンとか、皆タイプが違うけど、それぞれいい所がある。
 だから、どんな人がタイプかと聞かれたら、紅魔館の女の子全員が当てはまると答えるだろうな。」

いやね。
例えば、見た目だけだったらメイド長みたいなタイプが好みです。
とか仮に(あくまで仮に)具体的に話したりしたら、それはそれで虐めのネタにされてしまいそうなので…
こうやって、質問の真意には答えず、さらにボカした回答をすることによって、煙に巻いてしまうことにしました。

「え!?あれ?女の子??






 女の子が好きなんですか!!」

少年は意味が理解できないような顔をしています。
あれ?俺って何かおかしなこと言ってるっけ?

女の子が好きなのかと驚く少年…。

あ、そうか。
少年は、BBA【※ババ(ry 熟女】がジャスティスなんですね。

まあ、そっちの趣味もわからないではない。
ストーカーさんとか、女の子という年ではないが、綺麗な人だったしなあ。
あれで、ストーカーじゃなければと思うぐらいの…

「女の子だけしか愛せない、というわけじゃないけど、やっぱり女の子が一番好きかな?」

でもやっぱり俺は、どちらかというと熟女より女の子の方が好きですね。


ピシ!

あれ、どこかで空気が凍ったような音がしたような…


空耳か?
「なあ少年。何か聞こえなかったか?


 ん?」


少年どうした!?
なんだか、真っ白というか…なんというか…まるで、片思いの相手に振られたみたいに、雰囲気が暗いぞ!?


----------

で、あの後少年は、走り去ってしまったんだよな。
多分、俺が熟女より女の子が好きだと言ったから、自分の考えを否定されたと思っちまったんだろうなあ。
違う考えだったからといって、そこまで真剣に落ち込まなくてもいいんだが、思春期だから仕方ないか。


それは置いておいて、何故かその直後から告白される回数が更に増えたんだっけか…


そして、そんな感じが今日まで続いてきたと…
流石に最近は、告白される回数は減っては来たよなあ。
でも、虐めにあっている俺の心がそろそろ限界です。

「大丈夫?もうここには来ないわ。」

あ、パチュリー様。

「図書館で遭難する覚悟があるなら、勝手に探せば?って言ったら、皆勝手に図書館の奥に入っていったわ。」

なるほど。
皆図書館の奥を探しにいったのか。

パチュリー様が使っている巨大な机、引き出しがいっぱい付いていて、一箇所しかない足を入れるための穴(凹み)以外は、全て引き出しで埋まっています。
だから、その穴に俺が入った状態で、通常使っているようにパチュリー様が座って足を穴に入れると、俺は完全に隠れてしまうわけです。
まさか、こんな入り口近くに潜んでいたとは、誰も思うまい。

しかし、この穴は何か変だな。
こういう構造の机は結構あるけど、人一人がちょうど入れるぐらいのスペースがあるなんて珍しいな…?


「どうしたんですか?そんなにこの机を見つめて…もしかして気に入りました?」

「ちょっとね…気に入ったというか、欲しいかな?」
うん。確かにちょっと欲しいなあ。

このスペースには色々な使い道がありそうです。
例えば、ルーミアに預けている同人誌を隠すとか…
今日みたいな事態が発生したときに隠れるとか…

うん。色々使えそうだ。

「実はこれ、私が考案して造ったんですよ。だから、ハニューちゃんのために、試作品の机を一つ譲ってあげますね。
 やっぱり私の見立ての通り、ハニューちゃんも私と同じで好きですねー。
 いっぱい使ってあげてくださいね。」

へえ…
小悪魔さんが考案したのか。
こういう少し変わった家具を造るのが趣味なのかな。
俺はそういう趣味は無いのだが、同好の士を見つけたと喜んでいる小悪魔さんに水を差すのは何だし、そのままにしておきましょう。

さてと、落ち着いたところで、この状況をもう一度整理してみるか。
やっぱりこれって、俺に告白して虐めるという行動が、ある種のブームになっている感じがするよな。
妹様みたいに楽しんでもらえるのは嬉しいが、それでもやっぱり俺のSAN値が削られていくのですが…
些細な虐めだが、流石に毎日続くと精神が磨り減ってどうにかなりそうになる。

「何か止めさせるいい方法無いかな…」

「それなら、誰かと付き合っているから、止めてくれというのは?」

俺のぼやきに、答えてくれる小悪魔さん。

「でもなあ、相手がいないからなあ。」




「じゃあ、私が協力してあげましょうか?ハニューさんは私のモノだと皆に言いふらせばいいんですよね?」


口元だけ少し笑った、色気のある笑顔でそう提案する小悪魔さん。

なぜか、オロオロしだすパチュリー様。

あ、そうか。
パチュリー様と小悪魔さんって、そういう関係だもんな。
いくら友人の俺のためとはいえ、これはパチュリー様が可哀想だろ。

「こうすると、本当の恋人同士みたいね。」

ハニューの腕に抱きつく小悪魔。

おいおい。
そんなに抱きついたら…
ってやっぱり、パチュリー様が今にも首を吊りそうな顔をしているぞ!!

「こ、こあ…」

「冗談ですよ、パチュリー様!」


まったく、冗談が過ぎるぞ。
でも一つわかったことがある。
以前考えたように、このやり方は変な誤解を生み過ぎて絶対に使えない。

                                     
                              「それとも…私の愛を信じられないのですか?パチュリー様…」       

こうなると残った方法は一つ。
ブームの最大の敵。
時間だな。
                              「そんなことないわ!信じているわよ!」


がんばって、皆が飽きるまで我慢するしかないか。
俺の精神が持つまで、頑張るぜ!



                              「へえ…今晩はこの机を使って、愛を伝えようと思っていたのに…既に十分伝わっているみたいですね…
                               これなら、当分の間は伝える必要はありませんね?パチュリー さ ま?」

                              「まだ足りないわ、お願い…こあ…」

                              「もうーだから冗談ですよ。必死なパチュリー様が見れて、嬉しかったですよ。
                               今晩は覚悟してくださいね?」
  

                              「こあ…」ポッ

…因みに二人は何を話しているんだ?
内容はよく聞こえないが、恋人同士の会話を邪魔するものじゃないな。
邪魔者は去るとしますか。

まあ、パチュリー様は身持ちが固いタイプだと思われるので、俺に聞かれても困るようなことは言っていないでしょうけどね。


side 西行寺 幽々子

イザークって何者かしら?
イザークの名前を出した後のハニューは、どこか怯えたような表情で…しかも、頭を抱えて何か嫌なことが頭から離れない、という様子だったわよね~。
本人も言っていたように、妖夢とそっくりのイザークという子は、何かハニューにとってトラウマになる存在なのかしら~。

例えば、昔の恋人で何か不幸な出来事で失ってしまったとか~。
ハニューにとって恐ろしい存在だとか~。

新聞で、あんな記事が出たから、出遅れないように妖夢を売り込みに行ったのに、こんな結果だと困るわ~。

でも変よね~
あのハニューが、人前でこんなに自分の弱点になるようなことを晒すなんて~


あ。




もしかしてこれって、一杯喰わされたのかしら~フフフ~

side 十六夜 咲夜

メイド長室。
そこに、直属の妖精メイドから報告を受ける咲夜の姿があった。

で、この騒動は鴉天狗の記事で始まり、西行寺幽々子の接触が妖精メイド達を焦らせ、
ハニューが発言した『どんなタイプの女性でも好み』発言が躊躇していた者達の背中を押したということね。

まったく、先日の記者会見といい、厄介な騒ぎを起こしてくれて…

記者会見の時は、お嬢様は霊夢を追いかけていて紅魔館にいなかったし、妹様公認だったから許したものも…

この騒ぎは、例えお嬢様や妹様が公認しても、私は見逃すことはできないわ!

妖精メイド同士で騒いでいるならまだしも、私やお嬢様が好みのタイプですって!?

前から、ハニューが紅魔館に留まっているのが不思議で仕方なかったけど。
まさか、この紅魔館でハーレムを作ってお嬢様や私をその一員に入れるのが紅魔館に留まる目的じゃ…










こんなこと、絶対にお嬢様の耳に入れるわけにはいかない…


お嬢様は、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるか、キャベツ畑で見つけてくるものだと信じているのよ!
そんなお嬢様だから、実はハニューにとってお嬢様が好みのタイプだなんて知ったら…




か、簡単に落とされてしまう…

そんなこと、この十六夜咲夜が絶対にさせないわ。
噛み付いてでも、防いで見せる!












…それとも、これを理由に、お嬢様にちゃんとした性教育をした方がいいかしら?
でも、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるのではないと知ったとき、お嬢様はどんな顔をするのかしら?
心配でもあるわね。


《こ、このぐらいで、動揺する分けないじゃない、ば、馬鹿犬》真っ赤になって強がるお嬢様。

《え、ええええ!?うそ、そんなことに使うための穴だったなんて、知らないわよ…》ショックを受けて、真っ青になるお嬢様。

《さ、咲夜、怖いよーーーーー》ついに、耐えられずに泣き出すお嬢様。



………………………………………
………………………………………
………………………………………
…………………いいかもしれない。


side 小悪魔

「ねえ、こあ?こあとハニューってどういう関係なの?」

オドオドした表情で小悪魔に訊ねるパチュリー。

「ただの友人ですよ。どうしてそんなことが気になるんですか?」



「さっき、ハニューが、こあをずっと見つめていたから…」
不安そうな表情で、小悪魔を見つめながら話すパチュリー。


フウ…
大げさに、ため息をつく小悪魔。
「ばれてしまったみたいですね。私とハニューちゃんは、過去に何度も体を重ねあった関係なんですよ。
 さっきのアイコンタクトは『ねえ、久しぶりにヤルっ?』って意味だったんですよ。」


ガタンっ!
よろめくパチュリー。

「冗談ですよパチュリー様。もーパチュリー様ったら、簡単に騙されるんだから。」


「こあ、心臓に悪いから、そういう冗談は止めて。」
まるで、縋りつくかのように小悪魔に話しかけるパチュリー。

「ごめんなさい、パチュリー様。
 魔理沙さんは霊夢さんと同棲しているそうですし、お嬢様は霊夢さんを諦めきれない。
 そんな状態で、私がハニューちゃんと浮気し出したら、パチュリー様…一人になっちゃいますからね。」
イジワルな表情でパチュリーに話しかける小悪魔。

「お願いだから、こあ…ずっと一緒にいて…」
青い顔をして、小悪魔に縋りつくパチュリー。


もう、パチュリー様ったら可愛いくて可愛くて、虐めてしまいますよー。
私がパチュリー様を捨てるわけが無いじゃないですかー。
もしハニューちゃんに手を出しても、パチュリー様はパチュリー様で大切にしてあげますよ。

ハニューちゃんは、どことなく淫魔に近いみたいですから、そういう複数人が絡む関係への理解もありそうですし。

そういえば淫魔っぽいといえば、私のエッチな発明品を一目で気に入ったのは流石ですね。
大切に使ってくださいね。

----------

side ハニュー

欝だ氏のう。

限界が来てしまいました。




段々、告白虐めも落ち着いて、俺のSAN値の減少も止まりつつあったのですが…

部室でふと見かけた新聞の切り抜き。


『ハニューの手土産捨てられる!?』

で心が折れた。

見つけたのが夜だったので、そのまま部屋に戻って、布団に包まってボロボロと泣いてしまいました。

「…あんなに一生懸命作ったのに、どうして…ウッグ…どうして捨てちゃうの…」

思い出すのも恥ずかしい醜態で…

「凄くかわいい笑顔で焼きあがって…ううう…大好きなクッキーだったのに……」

気がついたら、蓬莱とザク(1/60 にとり製)を胸に抱いたまま、泣き疲れて寝てしまっていました。

散々泣き続けたので、気分的には少しすっきりして、事件そのものについては心の整理ができたのですが…

なんだか、仕事したくないです。
そして、ちょっと死にたい気分です。



これって欝病という奴なのでしょうか。




もうすぐ、アイリスが起こしに来る時間です。


なので、メイドが毎朝起こしてくれるなんて俺ってリア充wwww俺爆発しろwww
と自分に喝を入れているのですが、いまいちテンションが上がってきません。




今日は仮病でも使ってズル休みしよう。








コン コン コン コン
控えめなノックが四回響く。



ガチャ

静かに俺の部屋に入り、俺を優しく揺すりながら「ハニュー総帥。お時間です。今日はいい天気ですよ。」といつも通り声をかけてくるアイリス。
ここでいつも通りなら、アイリスのパーフェクトメイドな仕事っぷりに敬意を払い、できる限り優雅に起きて「おはようアイリス。(居る時はシトリン・マリーダ)」と声をかけます。
そして、アイリスはその返事に優しく「おはようございます。」と微笑んで、俺の朝の準備を手伝ったりするという展開なのですが…
今日は違います。



「ゲホッゲホッ、う…ごめん…
 実は今日はちょっと調子が悪いんだ…だから今日は休むから。」







「た、大変だ…」

アイリスが飛び出して行っちゃった…
なんか、こんな反応するなんて新鮮。

あ、そういえば…
体調悪化で仕事休むとか自分で言い出したの、今回が始めてだったような…















「ハニューしっかりするのだーーーー!!!!」
「大丈夫なの!?しっかりしなさいよ!!!!」

る、ルーミアと妹様が飛び込んできた!?


ってルーミア何するの!?

どうして俺の服を脱がそうとするのおおおお???

皆見てるよ!!ほら、部屋の入り口からアイリス達とかが、何人も部屋に入ってきているんですよ!!
これなんて虐め!?
俺は、見られているほうが興奮するとか、そういう性癖は無いですよ!?



って、メイド服を着せようとしている!?

あ、ルーミアさん。
俺が仮病だって気がついたのですね、なま言ってすいません!!
ちゃんと働きますから!?


「ハニュー、暴れるのはダメなのだー」
「動いちゃダメよ!」

妹様に布団で拘束され、ルーミアに強引に背負わせられる俺。



あれ?なぜ俺を背負って紅魔館から飛び出すのよ。

まさかこれは…俺をどこか人目のつかない所に連れて行って制裁するのですね。
ルーミアさん本当にごめんなさい。
勘弁してください。


----------



…竹林ですか。

ここが俺の処刑場ですね、わかります。


「病人を連れてきたのだー案内をお願いするのだー」








いや…ルーミアと妹様が部屋に飛び込んできた時点で、わかっていましたよ。
俺が仮病を使ったせいで、本当に病院に連れて行かれる事態になったこと…

ホントデスヨ、ホント。
ルーミアの迫力に驚いて、こっちもてんぱって、完全に頭が回らなかったとかソンナコトナイデスヨ。





…どうするよこれ。








「案内するよ。着いてきな。



 ただし、後ろの奴らは帰ってもらうウサ。
 付き添いは二人までだからね。」


後ろの奴ら??

あ、アイリス達も着いてきていたのかよ。

心配してくれるのはありがたいが、病院に大勢で押し寄せたら迷惑だからな。

「すぐに戻ってくるから、安心して待ってて。」


「わかりました。
 ただし…そこの兎妖怪。何かあったら、命だけで償えるなどと甘い考えは持たないことだな。」

いくらなんでも、そこまで警戒しなくても。
噂では、誰が行っても丁寧に対応してくれる、良いお医者さんだという評判じゃないか。

「心配無用ウサ。」

「安心するのだーハニューはルーミアが絶対守るからー」
「ちょっと無視しないでよ!私だっているのよ!!」

ゲンソウキョウって危険な所だけど、ここまで警戒しちゃったら、何も出来ないだろ。
常識的に考えて。

----------

どこかで見た、小さなウサ耳少女に連れられ、病院に着いたと思ったら。
赤と青の服を着た人と、これまたどこかで見たような…って思い出した。店主のお店の前で以前出会った、大きなウサ耳女子高生がいる診察室に入りました。
因みに小さなウサ耳少女は、俺を送り届けると、どこかに行ってしまいました。

「初めましてハニューです。そちらのウサ耳の人は、以前一度だけお話しましたね。」

「こちらこそ、初めまして。」
ちゃんと返事をしてくれる、赤と青の服を着た人と対象に、なぜか肩を落として返事をしてくれないウサ耳女子高生。

ところで、この二人のどちらかがお医者さんなのか?
それとも、どちらもお医者さんじゃないとか…
一般的な医者の格好をしていないから、不安なのですが…
「あの、失礼は承知してますが、本当にお医者さんですか?」


赤と青の服を着た人が、ポカンとした顔をしたあと、すぐに鋭い目つきになった。
「私は医者よ。本業じゃないけど。腕は確かだから安心して頂戴。」

なるほど、本業の医者じゃないのか。
だから、こんな奇抜な格好なのか?
ちなみに、ウサ耳女子高生が医者ということは…
「ちなみに、そちらのウサ耳の人は?」

「私の助手よ。看護婦と思ってくれればいいわ。」

看護婦ね。
ウサ耳で、女子高生で、看護婦と…
なんという萌えキャラ。
助手にこんな服装させるとは…このお医者さんの趣味か。


なんと素晴らしい趣味だ。

いや、お医者様の趣味より、こんな服装をしてくれるこのウサ耳女子高生の存在が素晴らしいというべきかな。

「どうしたのかしら?そんなに私の助手が気になるのかしら?」

あ、ジロジロ見ていたら、不審に思われてしまった…
えっと、ここは何でも無いですというか、素直に話すべきか…

「いや、素晴らしい助手を持っていられるようなので、思わず見てしまいました。」

素直が一番ということで、素直に話してみました。

「あら?分かるのかしら?」

「そりゃ、見りゃ分かります。勿論、あなたの自慢の助手だということも。
 彼女の力なら、そこらへんの男だったら、簡単に惑わせられるでしょうね。
 
 こんな素晴らしい助手をコーディネートしたあなたとは、旨い酒が飲めそうです。」

自分でも驚くほどすらすらと褒める台詞が出てしまう。
まあ俺は、変態には寛容というか、実は単純にこのエロい状況が羨ましいだけで、褒めちぎることでこんなエロイ人たちお近付きにな(ry

ゲフンゲフン



「まあ、お上手ね。掛け値なしで喜びたい所だけど…何の見返りもなしに、褒め称えられたら不気味で仕方が無いわ。
 
 あなた、何を考えているの?
 



 私は月の頭脳と言われた女よ。下手な嘘は通じないわ。」

少し嬉しそうな顔をした後、固い表情に戻すお医者さん。
俺の心の中、完全に読まれてるw
それにしても、月の頭脳ですか…
なんという厨二病。

正直に話すべきか、どうすべきか…
いや、ここはそれっぽい嘘を言って…

ゾクッ




うん、それ無理。

何故か、この人の頭脳の前には下手な嘘が通じない気がする。

本当に何故だ!?

まるで昔から嘘が通用しないと知っていたような…


ま、まあ…相手も変態さんだし…

正直に言ってもいいよね?

「なるほど。正直に話しますと、性的な意味であなた方が欲しいという欲望が出てしまったということです。」

やっぱり、自分の台詞だとしても、これは酷い。

でも、健全な男(精神だけでも)だったらさ、あんなあからさまにエロイ感じのキャラが、
ちょっと年増だけど美人さんの手によって作り出されているというシチュエーションを目の当たりにしたら…
こういう欲が心の奥底に溜まるのは仕方が無い(断定)。



「まったく…突然すぎるわね。







 あなたは、他の諸勢力のトップと同じく知っているでしょうけど、私達は元々月に住んでいたわ。

 そして月の追っ手から逃れるために、ここに隠れ住んでいた。



 だから、簡単に人を信じるというのは私達の過去からしてありえないのよ。」

簡単にふられてしまいました。
いや、その、当たり前なんだけどね!

正直に言って「分かったわ、あなたの恋人になるわ。自由にして。」と言われても常識人である俺は、大いに困るわけなのです。

しかし、月に住んでいて、月の追っ手から逃れるためにここに隠れ住んでいただと。
それだと、この人達は宇宙人に…

またまたご冗談を。

いや、しかし…



でも…









あ、ひたすら考えていたら、何だか皆の注目を浴びちゃってる。
えっと…
とりあえず、この話は終わり!って感じでお医者さんを見る。

「この話は、これで終わりでいいかしら。




 ところで、あなたは何らかの病で来たと聞いているけど、どこが悪いのかしら?体はどこも悪そうじゃないけど??」


なんだと…



いかにもできそうな感じの見た目だけど、やっぱりこの人すげえ。
一目で俺の体は万全なのが分かっちゃったよ。

「妹様、ルーミア、悪いけどちょっと席を外してくれる?」


「分かったわ。でもそこのヤブ医者!ハニューに変なことをしたら壊すわよ?いいわね!」
「…分かったのだー。」


妹様とルーミアには席を外してもらってっと…

「どこも悪くないように見えますか?」

「そうね…今のあなたの体が正常だとしたら、どこも悪いところは無いわね。」

はあ…
まずいなあ。

仮病だからなあ…
直ぐに帰ってもいいけど、それだと外で待っている皆に嘘のつきようがないよなあ。




ああ、でも…
今の俺の状況って、決して仮病というわけではないか。

日本人は、軽い欝病を病気じゃない!という感じで扱うことが多いが、それって精神論とも言えるからな。
精神論には精神論なりのいい所があるが、こういのは早めにカウンセリングを受けて、治療するほうがいいな。

「そうですね…実は精神的な病気…軽い鬱病でして…」




「「ッツ」」



あれ、皆さんが何だか息を呑むような雰囲気を出したのですが!?

特に、ウサ耳女子高生なんか明らかに動揺しているし!?
って俺の肩を掴んで来た!?

「やっぱりそうなんでしょ!!!」

そうなんでしょ!ってどういうことなの!!


「止めなさい!!!!」


「師匠!?」


お医者さんの一喝で、急に静かになるウサ耳女子高生。
いったい何なんだ…

「どんなに落ち込んだ気分でも、ヘブン状態にしてくれる薬ならあるけど…どうする?」

なにそのやばそうな薬…
効果もそうですし、青白く光っているなんて、色が明らかにヤバイのですが…

「いや、いいです。」

流石にそんなの飲めないだろ。

「そうね…なら困ったわね…」

いや、医者が困ったとか…
そんなこと言わないでください。
あの…カウンセリングとかそういうのは…


「師匠!それなら私が治療します!!
 お願いです!今度こそ上手くやりますから、やらせてください!!」

なんだ?
ウサ耳女子高生が俺の治療をしたいとお医者さんに言い寄ってるぞ。
しかし、今度こそって…
以前は、失敗した事があるってことか!?

「わかったわ。思う存分やりなさい。」

どうやら、俺の治療はウサ耳女子高生が行う予定になったようです。
うむ、大丈夫なのか?
いやね、米国では失敗した事業家の方が、失敗を経験しているからと、その経験を評価されて沢山出資して貰える所が日本とは大きな違いで…

いや、そういう話じゃなくて、この子が失敗した経験を元に治療してくれるなら大歓迎です。

特に薬とか持っていないみたいだし、俺の目の前に椅子を持ってきて座ったから…
これって、カウンセリングかな?





手を握られた。




「ジー」

更に、何故かウサ耳女子高生に見つめられる俺。
しかも妙に近い。
ちょっと、こんな高校時代のクラスメイトにいたら好きになってしまいそうな可愛い子に見つめられたら。
まずい、顔が真っ赤になる。

「え!?何これ!?」

何驚いているんだ!?って何故かどんどん顔が近付いてくるし。
え…あれ?これって目を閉じたほうがいいのかな!?



その発想はおかしい。
でも、この距離は恥ずかしい。

あ、雰囲気が伝わったのか、ウサ耳女子高生も顔が真っ赤になった。

唇が触れ合いそうな距離で、見詰め合う俺達。
やっぱり、目を閉じ「ちょっと、こんなところで発情しないで!」

「わわ!?すみません師匠!」

いきなり、肩をお医者さんに掴まれて、俺から離されるウサ耳女子高生。

「師匠、なんだか変です。波長の構造が一人分にしては複雑で、深層部分がよく見えません。
 強引にダイブして、深層部分の波長へ介入を試みたのですが、あの子と同じぐらいに異常なバックアップが入って能力が打ち消されてしまいます。
 それなのに、表層部分の波長の歪みは簡単に直ってしまいま「よく分かったわレイセン。それじゃあなたは、ハニューさんと今日一日遊んであげなさい。」あ、はい。」


ウサ耳女子高生の言葉を遮って話し始めるお医者さん。
あんな、よく意味のわからない言葉で、俺の治療方法がわかったのか?
まあ、カルテを見たり、医者同士の会話を聞いても、俺達一般人には分からないからな。

「説明しましょう。
 欝病は心の病。
 人間なら投薬治療という手もあるけど、精神的存在であるあなた達を強制的に薬で治すのはよくないことなの。
 だから、何もかも忘れて遊んだり休んだりするのが一番の治療方法なのよ。
 でもあなた。
 ジオンの事で何時も忙しいでしょ?
 だから、今日一日は治療という名目で遊んで楽しんでいきなさい。」

なるほど。
途中の俺達が精神的存在というのがイマイチ分からないが、兎に角遊べということですか。
でも、俺が仕事のせいで欝病になるなら兎に角、今の俺の治療法としては少し間違っているような…

因みに、レイセンとウサ耳女子高生を呼んでいたが、それが名前か?
「あの、レイセンさんってお名前でよかったのですか?」

また悲しそうな顔をする、ウサ耳女子高生。
「うん。でも…うどんげって呼んでくれたほうが…」
うどん毛?
なにその変な名前。
「ハニューさん、レイセンがうどんげと呼んでくれと言うなんて滅多に無いことよ。」

ああ。
つまり、親しい仲にだけ許しているあだ名ということか。
でも、見た感じ髪の毛がうどんっぽいようには見えないのだが…謎だ。

「じゃあ、うどんげ。今日はよろしく!」
治療のために友人になってくれるというのは、何だか悲しいものがあるが…
うどんげって呼んだら嬉しそうな顔をしてくれたし。

「じゃあ、最初に永遠亭の案内から!!!さあ!早く!」


何より、うどんげは凄く可愛いから、役得だと思いましょう。



side 八意 永琳

突然永遠亭を訪問してきたハニュー。
そして私が本来は医者ではないことを瞬時に見破るだけではなく、レイセンが波長を使い人の心を惑わすことができること。
そして、レイセンを密かに良い弟子だと思っていることまで見抜いてしまった。

そんなハニューが、私達を褒め称えた理由は「政敵な意味であなた方がほしいという欲望が出てしまった」ということらしい。

政敵。
政治上の対立する相手のこと。

誰の政敵なのかという言葉かハニューからは抜けていた。
単純に、幻想郷でのハニューの政敵として、我々の力を認め仲間として引き込みたいのかと思ったけど…

何か引っかかるわ。

----------

side ハニュー

「待つのだーハニューをどこに連れていくのだー」

「この子はハニューじゃなくて「え?ハニューですけど。」あ、えっと…
 とにかく、遊びに行くだけなので関係ない人は手を離して。」

「関係ありまくりなのだー」

診察室を出たら、ルーミアとうどんげがそれぞれ俺の手を持って引っ張りあい始めたのですが…

「痛い痛い!!二人ともちょっと離して!!」

ほら良く言うじゃない、母親が分からない子供に対して二人の母親候補がいた場合、
子供の右の手と左の手をそれぞれ引っ張って、自分の下に引き寄せたほうが母親になれると事前に知らせておきながら、
実は子供が痛いと言うのを聞いて手放したほうが、本当の母親だと認められる話!
慌てて説明する俺。

「妖精だから、腕の1本や2本どうってことないのだー」
「あ、そうか。じゃあ遠慮なく…」

「ニヨニヨ」

なにその超理論!?
ぎやああああ、本当に腕が抜ける~
それに妹様!?そんないい笑顔で見ていないで、助けてください!!

「このままじゃ埒が明かないわ、狂ってしまいなさい!!!」

「魔眼の一種なのかー!?そうはさせないのだー闇で頭を覆ってやるのだー」


「うわ!?真っ暗で何も見えない!?」


説明的な会話、ありがとうございます。
ルーミアがうどんげの頭を闇で覆ったので、うどんげは驚いて俺を手放してしまいました。
ふう、助かったぜ。

「ところで、治療はどうなったのだー?」

                               「目が~目がああ~!!」

「実は、これから治療で…」

「どういうことなのかー?」

小首を傾げるルーミア。

「床をゴロゴロと転がっている、うどんげが俺の治療をしてくれるそうです。」


「…大丈夫なのかー」

そんな胡散臭そうな目で見ちゃダメですよ!
いや、俺もこんな感じの人が俺の精神をまっとうに治せるかどうか、ほんの少しだけど心配なのですが…

あれ?
そういえば、何故か心がもの凄く楽になっているぞ!?




早速、治療の効果が現れているのか!?

----------

「じゃーん!この部屋どう?なかなかいいでしょ?」

あらま、和室がいかにも女の子の部屋という感じになってます。

「どう?ここを見て何か感じない??」

なんだか、テンションの高い子だな。
因みに、ブレザーっぽい服装なのに女子高生ではないそうです。
JKだと思ったのに、女子校生だったとは…

何か感じないか、か…
さっき、あんなに顔を近付けた相手の部屋と思われる場所に入ったらねえ、そりゃ感じることと言えば…

でも、そんなこと言えるわけが無い。

「どうしたの?何かこう例えば、懐かしいなーとか、あ!ここ見たことあるかもーって感じしない?」
モジモジしていたら勝手に話し出すうどんげ。

いや、どう見ても初めて来た場所だし。
うーん。
部屋の中は、ベッドが二つある以外は、いたって普通の部屋だよな。

「あ!」

「どうしたの!」

いやね、机の上に…
ウサ耳が置いてあるのですが…

「ああこれ、スペアなの。」

スペア?

突然自分のウサ耳を取ってスペアと取り替えるうどんげ。
って、そのウサ耳はつけ耳かよ!

ウサ耳はつけ耳で、女子高生ではなく女子校生。
こんなこと考えたら失礼だが、イメクラっぽい感じだな。

「やっぱり耳が気になる?そうだよね、うんうん、そうだよね。やっぱり気になるよね!」

そりゃ、女子校生がウサ耳をつけるなんて、気になるといえば凄く気になる展開だが…
何故か妙にテンションが高いうどんげ。

「実はこの耳、超空間アンテナになっていて、なんとここから月まで交信可能なのです!」

「凄いのだー パチパチ」 「ふーん…」

絶対に凄いと思っていないだろという表情で手を叩くルーミアに、興味が無さそうな妹様。

「あ、ちょっと!外で待っていてって言ったじゃないですか!はいはい、外に出てください!」

「仕方が無いのだー」 「何なのよ!もう!」

あ、二人とも追い出された。

「月までって、月に交信しても仕方ないだろ。誰かいるわけじゃないし。」

「え?月の都があるじゃないですか?」

月の都??なんだそれは。

「月の裏側にある、私の故郷。月の都よ。」

さっきの話といい。
本当に、月に誰か住んでいるのか!?

「月に誰か住んでいるなんて聞いたこと無いよ!!」






スパーン!

ちょ、ルーミアが突然部屋に入ってきて、俺に突っ込みを入れた!?
そして、妹様も入ってきた。

「なにボケているのよ。月の都の話は人間の里でも知られているぐらい有名な話よ。」

なんだって!?

「そうなのだー皆が月の都に攻め込んだこともあるのだー 懐かしいのだー

 まったく。ハニューは真顔でボケるから突っ込みを入れるのが大変なのだー。」

まじかよ。
月に攻め込んだうんぬんは、ルーミアが言っていることだから、話半分に聞いたとしても、少なくとも妹様の話は信用できる。
しかし、うどんげとかも宇宙人ということになるが、妹様より普通の人間っぽいが…
実は、おもいっきり宇宙人という感じの所が、体のどこかにあるのか??



例えば古典的宇宙人想像図のように、触手が生えているとか…


うん?
そういえば…
まさか、本当に『うどん』みたいな髪の毛がある=触手のようなものがあるとか…


「うどんげ、ちょっといい?」
とりあえず、身長差があるから、うどんげをベッドに座らして…

俺も横に座って、髪の毛をもう一度見る。
「え、あれ?どうしたの?」

こう見ても、触手らしきものは見当たらない。
こうなったら、髪の毛を触ってみた方が早いか。

サワサワ…

「あう…」
思わず声を出てしまう、うどんげ。しかし、髪の毛に集中しているハニューにはその声は届かなかった。

特に変な所は無い。
普通の髪の毛の触り心地だなあ。
いや、むしろ絹のようで、普通より柔らかいかも…

ん?
この固いものは!?
「うっ…はぁっ…」

あ、耳か。ウサ耳は付け耳だから、ちゃんと普通の耳もあるんだな。

「あっ」
耳を弄ばれ、甘い声が出てしまううどんげ。しかし、耳に集中し(ry

ガシッ!



あ、ちょっと、妹様!?
「どうして、俺の事を羽交締めしているの!?」

「きゅっとしてドカーンってしてあげようかしら?」

え、なにそれ!?

「あんまり、フラグを乱立させるのは、どうかと思うのだー」

ルーミアも言っている意味がわからないんですが!?

「べ、別にフラグなんか関係ないわよ!!」
妹様も、何だか妙に焦っていますが、意味がわかりません。



----------

結局、キャーキャー騒いで、落ち着くのに何分も時間がかかってしまった。



「どう?色々聞いたから、何か感じる所があるんじゃない??」
                                   「感じていたのはお前の方なのだー」
何故か満足そうなうどんげ。

「あの、これって遊んでいるって感じがしないような気が…」
でも、結果としては騒げたので楽しかったのですが…
部屋を見せられても、遊んでいる感じがしないのですが。

「ほ、ほら。ハニューが遊びに来たっていうシチュエーションだったら、まず部屋を見せる所から始まるかなーって。」

まるで焦ったように、早口で話すうどんげ。

うーん。
女の子同士の友人関係って、そういうものなのかな?
俺はよくわからないから、納得しておこう。

「じゃ、じゃあ、次は姫様の所に行きましょ。」


----------

襖を開けたら、ジャージを来た黒髪の女の人が、ゲームをやっていました。
えーっと。
ツインファミコン
FC X2
PCエンジンスーパーグラフィックス
PC-FX
3DO
プレイディア
スーパー32X
etc…
なぜにこんなにマイナーなゲーム機ばっかりが…
いや、分かる俺も俺だが…

「あの、姫様…ハニューをつれてきましたので、一緒に遊びませんか?」

「えっ、なにその超展開?」

画面を向いたまま、話し始める姫様と呼ばれる人。

「ちょっと待ってて、まだパスワードを控えてないから。」



この人が姫様ね…
どうみても、ただのNEETなのですが…
そんな人を姫様と呼ぶなんて、これってまさか虐めなのでは。



「あの、いつもここでゲームをして暮しているのですか?」

「そうだけど。」

当たり前のように、話す姫様。

「外は気持ちいいですよ。」

「ここも暗くて、お菓子があって、ゲームがあって、適度に湿っていて、気持ちいいわよ。」

…重症だ。
昔の俺を思い出す。

俺も一時期、猿みたいにゲーム三昧の日々が続いて。
気がついたら、色々と危険な領域まで進んでいた。
個人の自由だから、別にこういう生活をしていてもいいのだが、どうしてもこういう生活を止めなくてはいけなくなったときに困ります。
特にゲンソウキョウのように不安定な社会では、今の生活がいつ破綻してもおかしくありません。

助けないのと。


だが、外でいきなり遊ぶといっても、この人はダメな気がする。

「例えば、弾間ごっことか興味あります?」

「痛いし疲れるからいや。
 それにあなたの容姿は…ちょっと攻撃し難いわ。」

俺の容姿は攻撃し難いとな。
俺みたいな子供とは戦わない主義なのかなあ?




これは困ったぞ。
俺は姫様を外に出してあげたい、でも姫様はゲームがしたい。

そうだ、まずは外で携帯ゲーム機を使って遊べばいいんだ。

「じゃあ、適当な携帯ゲーム機を使って外で遊びましょう。」

「でも、今やりたいのはこのハードのゲームなのよね。」
と姫様が指差すのはFC X2。
ファミコンとスーパーファミコンの互換機で、ソフトは…●ンバーマンですか。

これでエロゲーやギャルゲーにはまっているということなら、二次元から出てきたような美少女だらけのゲンソウキョウなのでいろいろと対策のやりようがあるのですが…
例えば、リアルの恋愛を勉強させるとか…


ボンバーマ●を真似た遊びを安全に用意するとなると…
困った。
どうすればいいんだ。

「いっそのこと、ゲーム機もテレビも全部外に出して外で遊べば?」

っと、いつの間にか部屋に入ってきていたウサ耳の女の子。

「てゐ!無茶言わないで!」

てゐちゃんというのか。
でもこれは名案だと思うぞ。

「よし!それでいこう!」

----------

「この私が!悪戯では幻想郷最強のこの私がこんな罠にーー」

ドーン!

結局、時間がかかりましたが、ゲーム機を全部外に出してボン●ーマンで遊んでいます。
因みに、ボ●バーマンとは爆弾で他のプレーヤーを爆殺するゲームで、五人プレイが可能なPCエンジン版に切り替えています。
そして、俺達が今いる場所は屋根の上です。

てゐちゃんが外で遊ぶ準備を始めたら、いっそのこと屋根の方が景色がよくていいんじゃないか?
と言ってきたので、そのアイデアも採用しました。

かなり変わったアイデアですが、ゲンソウキョウでは常識に捕らわれてはいけないのです。

しかし、さっきから妙にてゐちゃんの動かすキャラが俺を追い掛け回してきます。
だから簡単に罠にはめられるのですけどねー

なんだか、さっきから俺への視線もキツイ感じだし。
おかしいな、嫌われることしたかな?

「うー。いっつも、こっちの調子を狂わしやがって~」

いや、いっつもって、まともに話すのは今日が始めてだろうに。

「てゐ!止めなさい!」

突っかかってくるてゐちゃんを、止めるうどんげ。

「レイセンの馬鹿!!」

「何よそれ!」

そして、逆切れされるうどんげ。
そんなパターンがさっきから続いています。

因みに、見学うどんげ。
最下位「てゐ」第四位「俺」第三位「姫様」第二位or第一位「ルーミア」と「妹様」です。
俺とてゐちゃんが序盤で潰しあって、姫様が勝ち残るかと思いきや、ルーミア・妹様同盟に叩き潰されるという状況が続いています。

ドーン!

あ、そうこう考えている間に、姫様が倒されて、ルーミアと妹様の一騎打ちになった。
「流石姉妹だけあって、息がぴったりね。」

え、姉妹?誰が?
「あれ?ルーミアちゃんと、妹ちゃんって、よく似ているから姉妹だと思っていたんだけど。
 紅魔館の吸血鬼は姉妹だって聞いたから、妹ちゃんとルーミアちゃんだとばっかり…」

確かに、言われて見ればこの二人似てる…

「違うわよ。私のお姉様はレミリア・スカーレットよ。
 紅魔館の主で、メイドをいっぱい従えていて、紅魔館の仕事も…えっと…咲夜とかハニューとかに任せるぐらい凄くて。
 少食で血が飲めないけど、代わりにワインの味が幻想郷一分かる淑女で、強さも………紅魔館では三本の指に入るぐらい強いという噂なんだからね。」

「へ、へえ…なんだか凄いのね…。」
                                         「ぷぷっ。一番強くないかもしれないうえに、仕事もできない主って。」

                                         「てゐ!声が大きい!失礼じゃないの!」

どう聞いても、貶しているようにしか聞こえないのですが…
褒めているつもりなんだろうなあ。

でも、お嬢様って紅魔館最強かと思っていたけど、そうじゃなかったのか。
お嬢様、妹様、あとは…
メイド長かパチュリー様ってことかな?
                                         「あいつの知り合いなんて、どうでもいいだろ!」

                                         「どうでもいいわけないわよ!」

って、うどんげとてゐちゃんは何を言い争っているんだ?


「なんだよ!いっつもレイセンはそいつのことばっかり!!!」

「そんなことないわよ!」

なんなんだいったい。
てゐちゃんのアイデアは全部採用してあげたし、特に何かをしたわけじゃないのになー
何が気に入らないんだまったく。
あのぐらいの年頃の子はよくわからないなあ。

だがはっきりしていることは、てゐちゃんが負け続けている今の状況は、良くない状況だということだな。

「よし、じゃあ別のゲームにしよう。」


----------


「お願い早く…早くして…」
うどんげが俺に必死に迫ってきます。

「早く入れて!!」
我慢できなくなったのか、更に迫るうどんげ。
でも、俺はその言葉に焦ってしまい、頭が真っ白です。

「こ、ここでいいのかな?」
何を隠そう、恥ずかしいことに初めてなのです。
だから、入れてといわれても、どこにどう入れればいいのか…
知識だけでは、なかなかうまくいきません。

「違う!そっちの穴じゃない!!こっちよ!」
怒ったように、声をあげるうどんげ。
違う穴に入れようとしてしまったみたいです。

っておお!?

伸びてくるうどんげの手。

どうやら不甲斐ない俺に業を煮やしたようです。
うどんげの手によって穴へと導かれていく棒。

そうなのです。
実はうどんげは経験豊富なのです。

「ご、ごめん!


 あ

 入った!!入ったよ!!」

うどんげの手に導かれ、するりと入っていく棒。

意外と簡単に入っちゃった…
こんなに狭いから、簡単には入らないと思ったのに…


「もっと奥まで突っ込んで!ほら、頑張って!」
俺の耳元で、笑顔でそう語りかけるうどんげ。
ここからは、自分の力で頑張れ、ということのようです。



うどんげの笑顔に答えたいという気持ちはあるが…
とてもじゃないですが、一番奥まで辿りつく自信がありません。
だって、俺は初めてなのに、中がこんなに入り組んでいて…

「ご、ごめん!そんなの無理だよ!!」

「ええ!?もうちょっと頑張ってよ!」





「あっ」

「あーーーーーーーーー!!!」















「馬鹿!何してるのよ!!!」

「そ、そんなこと言われても…」








GAME OVER


あーあ。
負けちゃった。


結局、どのゲームをするか考えた結果、テト●スをやることになりました。
テ●リスのゲーム内容については…ぐぐること。
因みにうどんげも入れた六人でのトーナメント方式で、俺の最初の対戦相手はてゐちゃんでした。

「ここで会ったら百年目!!」

なんだか、もの凄く気合が入っている、てゐちゃん。
一方俺は、あまりテンションがあがりませんでした。
だって俺…
テトリ●なんてやったことがないからです。

なので、かなりプレイ経験があるという、うどんげの指導の下、プレイすることになりました。

ところが、全然うまく行きませんでした。。
うどんげの助言で、積み上げるブロックに縦の隙間(穴)を細く空けて、棒状のブロックが流れてきたら、そこに挿入するばいいと言われたのですが…

いきなり、間違えた穴の所にブロックを入れそうになるわ。
うどんげがゲームパッドの操作に割り込んできて何とか正しい穴に入れても…
一番下の目的の場所までブロックを進める前に、積むときのミスで出来た隙間の出っ張りに引っかかったりとうまく行きませんでした。

そしてその後は、あれよあれよという間に、ブロックがうず高く積みあがっていって、あっという間にGAMEOVERです。


負けちゃったから、後は観戦だな。














ってあれ?勝ってる…



タッチの差で勝ってました。

どうやら、てゐちゃんが自爆したようです。
最後の方で、明らかに積むのをミスったような場所がいっぱいありますね。
どうしちゃったのでしょうか。



「てゐちゃん、どうしたの?」


あれ?てゐちゃんが顔が真っ赤にして、床に倒れこんでいる…

まさか体調不良?





「レイセンとハニューの馬鹿ー!!



 ハニューなんてパイ●カッ●されろ!!!!!」




「てゐ!?どこ行くの!!私何かした!?」

森へ飛び込んでいくてゐ。
と、それを追いかけるうどんげ。


いったい何なんだ??

ゲームに負けて悔しいのは分かるが、その発言は無いだろ、常識的に考えて。


「ルーミア、どうしようか!?追いかけようか!?」



「あいつ怖いのだー。完全に天然なのだー。」
「うどんげ…恐ろしい子……これは強敵になるかもしれないわね。」

何だか、二人ともヒソヒソ話していて、全然動いてくれないのですが??

side 因幡てゐ

レイセンが拾ってきて…
そのままレイセンを独り占めして…
突然いなくなってレイセンを悲しませて…
記憶喪失なのか嘘ついているのか別人なのか知らないけど、また突然現れてレイセンを独り占めして…

あいつみたいに、私の冗談を、冗談と受け止めないで私の調子を狂わせる。

外で、しかも屋根の上でゲームをするなんて、ありえない提案をしたのに、それを受け入れるなんて。
私の嘘や冗談を全部潰しちゃうなんて、何なんだよあいつは~


それに何だよ、レイセンと一緒になって、あんな…
あんな卑猥なことを話して、私の調子を崩させるなんて~
悪戯好きの私が、あんな悪戯に~


ああーもう!
どうして、こんなに私の心をかき乱すんだ、あいつは~


side 八意 永琳

拡大されたハニューの映像を眺めなら、彼女は考えていた。

一時期、この永遠亭に住んでいたあの子とそっくりのハニュー。
あの子との関係を問いただしたい欲求に駆られるが、相手が我々を知らないという態度を取る以上、下手に動けば相手に主導権を握られる。
それだけではない、ハニューの発生が私があの子を導いた結果なら、それこそ迂闊に動くことができない。
歯がゆいわね。

レイセンのリーディングでは彼女の波長は異常なものだったらしい、一人分にしては複雑すぎる波長があり深層部分はよく見えない…
そして、深層部分の特性はあの子と同じく、異常な速さでレイセンの力で変わった部分を復元し、その力を受け付けない。
しかし、表層部分は簡単にレイセンの力の影響を受けた。
解剖でもして、調べたくなるような症状ね。

いけない。
そんなことを考えている場合じゃない。

ハニューの正体が分かれば、あの子との関連性が見えてるはずだ。
ハニューとあの子が無関係なのか、それとも同一人物なのか?
何らかの関係がある存在なのか…

だが彼女の行動は、一見まったく要領を得ないため、彼女の正体を知るのは雲を掴むような話だ。
今日もそう。
突然現れ、私達を仲間に勧誘しに来たかと思えば、今度は欝病だと言い出す始末。
そして今は、欝病だと感じさせないぐらいに、元気に遊んでいる。

まったく意味が分からない。
考えれば考えるほど、相手の行動が分からなくなる。


このままでは、ハニューの正体を知ろうとすればするほど、思考の迷路に迷い込んでしまう。



彼女の不可思議な行動は、それが目的なのだろう。
だが、彼女には本当の目的があるはずだ。
そうまでして隠すほどの目的が。

現時点でハニューについて分かっていることは…

手元の端末を操作する永琳。
マスメディアの情報、レイセンやてゐが集めてきた情報が表示される。
それを見た永琳は、足りないと感じた。

ハニューの目的や正体を知るために、特に重要な、ハニューの戦闘能力を含む各種能力、そして発言内容について曖昧なものが多すぎる。
打開策としては、他の勢力からクリティカルな情報を集めるか、広く浅い情報を集めそこから推理するしかない。
前者は…難しいかもしれない。
特に、今年の秋に月からの通路を閉鎖し、月からの追っ手がこの幻想郷にたどり着けないようにする準備を勧めている状況では…
不必要な接触は止めたほうがいい。

そういえば、これもあの子の影響だったわね。
あの子のおかげで、幻想郷の結界の存在を知ることができ、一時期だったが安息の日々が私達に訪れた。
だた、結果としてはその結界は頼りないもので、私達は新たな手段を模索することになった…

また思考が外れた。
あの子が関わると、考えることが際限なく広がっていって困るわね。




となると、残りは後者。
恐らく、他の勢力も行っているやり方と同じ。
月の頭脳とあろう者が情けない。


広く浅い情報といえば…
周辺人物のデータベースがあったわね。



端末を操作する永琳。
程なくして、カテゴリー分けされたデータベースが表示された。


『大妖精』レイセンの依頼で、兎達が調べているわね。データを見る限り、どう見ても普通の妖精。
ハニューの恋人のようだけど、あの子の趣味とは違うわね。あの子はレイセンみたいのが好みだったはず…
ハニューとあの子が別人の証拠ともいえるけど、これ以上調べる必要は…無いわね。

『アリス・マーガトロイド』人間出身の魔法使い種族と人間の里では言われているけど、レイセンのレポートによるとそれは嘘。
人間の里で、人間時代の彼女に対する記録が何も無いこと、所有物のいくつかが高い魔法技術力によって開発された工業製品であることから、人間以外の出身の可能性が高い。
ハニューの出現と何らかの関連性がある可能性も無いとは言えない為、追加調査の希望がレイセンから来ているけど…何とも言えないわね。
保留かしら。

『ルーミア』てゐのレポートだと、落とし穴には落ちない癖に木にぶつかる、人間を襲った記録はあるが撃退された話ばかり。
本人も人間を食べた記憶が無い、多分ただの馬鹿妖怪、警戒する必要なし。
レイセンのレポートだと、ジオン内での事務仕事はかなりできるらしく、ただの馬鹿ではない。事務面などでハニューを支える、ハニューの右腕。
闇の妖怪だが、戦闘ではあまり役に立っていない、か…

そういえば、彼女は永遠亭に来ているという話だったわね…
少し見てみようかしら。
ハニュー以外のジオンの隊員を、新聞やレポートの写真以外で見るのは初めてね。

ハニューを映し出していた映像が、ルーミアへと切り替わる。
資料に添付されている隠し撮りの写真とは、比べ物にならないクリアな映像が映し出される。
どうやら、ゲームで遊んでいるようだ。

                            『やっと勝てた…俺大勝利!ルーミアに勝った!』

                            『たまには勝たせてあげないと可哀想なのだー。
                             ルーミアは大人なのだー。』

                            『ちょ!?だ、だが…勝ちは勝ちだ!
                             約束通り、罰ゲームは勝った俺が考えるね…




                             罰ゲームは…何か一つボケて!』


「空亡…?」
                            『わかったのだー』
!?

私はなぜ彼女の事を思い出したの!?
あの彼女を…


彼女とルーミアは違う…
                            『毎月7日はルーミアの日!』

そう、彼女はこんなに小さくなかった。

いや…でも、私の感が似ていると言っている…



                            『えっと…俺には意味が分からないんだけど…』



もしも、ルーミアが空亡で、ハニューがあの子なら…
あの子はいったいアレに何を願ったの??





『そうなのかー(そう七日)』


『『『『『……』』』』』


…やっぱり空亡じゃないかも。





----------







ダメだわ。
まだまだ足りない。
ハニューの正体を探るには、今日一日では全然時間が足りないわ。

画面の中のハニュー達は帰り支度を始めている。



再度彼女達を誘う…べきね。


ハニューは私達を仲間に引き込むことを願っている。
そして私は、ハニューの正体が知りたい。

お互いにとって悪い話じゃない。


side ハニュー

帰ろう。楽しかったけど、あんまり長居したら迷惑だしね。

「…もう帰っちゃうの?」

ウルウルした目でこちらを見つめる。うどんげ。
凄い戦闘力です。

「さっさと帰れ!」

で、プイっとそっぽを向く、てゐちゃん。
そんなに嫌わなくても。
実はツンデレだったとか、そういうオチということはないですよね?


「もう帰るのね、少しいいかしら?」
お医者さんが部屋に入ってきたと思ったら、呼び出されました。
そうだった、これは治療だったのを忘れていた。

----------

「結論から言うと、欝病というのはすぐに直るものではないわ。
 だから、今後も定期的に通院して頂戴。
 治療はいつもと同じ、レイセンたちと遊んでくれればいいわ。」

結局、通院かあ。
なんだか、嘘から出た誠みたいな感じになってしまったが、ちゃんと治療を受けるのは大切だと思います。

「分かりました。今後もよろしくお願いします。」

「ええ、お大事に。」

----------

布団に入って、今日一日を振り返ってみると…
いやー誤解が色々と産んで大変な一日だったけど、楽しい一日だった。























そんなわけがないだろ。


俺は今まで何を考えていたんだ!?

俺は、ゲンソウキョウを生物兵器の実験場だと思っている。
それは今も正しいと思っている。
最初は仮説だったが、その後目にしてきたもの、経験したもの全てが、その考えが正しいと示しているからだ。

だが、一つ。
おかしな点がある。

ではその生物兵器を造っている、企業や国家はどこなのかという点だ。
一企業や国家が隠し持つにしてはあまりにも技術が進みすぎているのだ。
技術というのは、その下地となる技術があって初めて成り立つ。
だが、このゲンソウキョウにある技術はあまりにも隔絶しすぎている。
悪の秘密結社という場合も、同じ問題にぶつかる。

いったいこれはどういうことなのか?


あまりにも、お粗末な穴があった俺の理論。
こんな穴に俺はなぜ気がつかなかった???
いや違う。
なぜ、気にもしなかった??

気がついたら、この異常事態をまるで、昔から知っていた当たり前のことが如く受け入れていた。
どういうことなんだ?

俺自身の精神を持たせるための、自己防衛策だろうか?

それとも、俺たちはそのように調整されているのか!?
この異常な状況を、当たり前のものとして受け入れられるように。



ダメだ。結論は出ない。

一旦纏めよう。
① ゲンソウキョウは生物兵器の実験場
② 俺たちは、ゲンソウキョウの状況を異常と感じないように、洗脳されている可能性がある
③ ゲンソウキョウの技術は現在の人類では不可能な技術

①は、この考えで正解だろう。
しかし、一つ考えが至らなかった点と言えば、これほど高性能な生物兵器を使って何をしようとしているかだ。
例えばメイド長。
彼女は瞬間移動する能力を持っている。
これは考えようによっては、単独で国家をひっくり返す能力がある。
仮に、彼女が某超大国の白い家に住んでいる人たちを皆殺しにしようとしたら…
簡単に実行できてしまうだろう。
そしてそれを、どこか適当な国が行ったかのような証拠をわざと残すのも、簡単なことだろう。
他にも、リグルのように虫を自由に操作する能力も使い方次第では大変なことになる。
例えば、黒鉛型原子炉のように、意図的に暴走させることが可能な原子炉に虫を送り込んで、制御システムに介入できれば…
チェルノブイリの再来、いやそれ以上の事だって実現できる。

こう考えると、ゲンソウキョウの生物兵器の製造目的は、世界征服レベルの内容だと考えていいのではないだろうか?
例えば、これほどの性能の生物兵器をどこかの軍事企業が各国に売り渡すと想定してみよう。
どの生物兵器も、使い方次第で世界のミリタリーバランスを崩壊させる能力がある。
核兵器並みの力があると言っても過言ではない存在だ。
つまり、それを導入した国家は、世界を制するほどの力を持つことになる。
そしてもっと恐ろしいのは、それだけの力を持った兵器を一企業が世界に供給できる状態だということだ。

これは大変な事態だ、その企業の考え一つで、世界の力関係が一夜にして変わりかねないのだ。
もし、企業がその気になったら、その企業の考え一つで世界を動かすことができるだろう。
そして、それらの兵器を世界中にばら撒いたら、それこそテロリスト等にも渡すような事態になれば…
世界は崩壊するかもしれない。

話が変に拡散してしまったが、俺が言いたいことは簡単だ。
あまりにも力が強すぎるゲンソウキョウの生物兵器は、本質的に世界征服レベルの事態を引き起こす存在だということだ。

②は、俺の状況からしてありえる。
そもそも、俺が過去の記憶を消されていたことからも、このような処置は十分考えられる。
しかし、何故俺は今頃になって気が付いた?
今日、遊んでいる途中で何となく違和感に気がつき、そしてその違和感を辿っていったら、はっきりと気がついたというのが現状だ。
今日行ったことといえば、俺が記憶を取り戻してから初めて、医者に診察されたということだ。
まさか、あのお医者さんが俺の洗脳に対して何かしてくれたとか!?
うーん…
とりあえず、次かな。

③は、確かにそうだ。
メイド長や大ちゃん瞬間移動能力もそうだが、俺がこんな体で空を飛んでいること事態、いろいろとありえない。
揚力とか、どう考えてもおかしいのですが…
昔、涼宮ハルヒ●憂鬱というアニメがあったが、アレには宇宙人、未来人、超能力者が出てくるということだったが、そんな存在じゃないと不可能な事態だ。
とてもじゃないが、我々普通の人類では不可能な水準だ。

となると、本当に宇宙人、未来人、超能力者とかなのか?
そういえば、あのお医者さんは「私達は元々月に住んでいたわ。そして月の追っ手から逃れるために、ここに隠れ住んでいた。」と言っていた。
ルーミア達も月に誰か住んでいると言っていた。
その事実だけを見ると、あの人達は何らかの理由で月の宇宙人と仲違いした宇宙人で、月の宇宙人の存在をゲンソウキョウの生物兵器達は知っている。
そして、月の宇宙人が月から逃れ、態々ゲンソウキョウに逃げ込んだことから見ても、ゲンソウキョウと月の宇宙人には何らかの関係がある。
しかもだ、その逃れてきた宇宙人の医者に診察されたら俺の洗脳が解けた。

どう考えても、関連性ありまくりだろう。




まさか、そういうことなのか???
ゲンソウキョウの生物兵器は、月の宇宙人が作り出したものなのか??
技術的に見た場合、今まで話に上がった存在で、ゲンソウキョウの生物兵器が作れそうな存在は、月の宇宙人のみだ…
しかもその目的は…世界征服レベルの何か…
あまりにも荒唐無稽。
まるで三流SF。
だが、恐ろしいほどに、パズルのピースが合うのは気のせいだろうか。

いや…
でもこの説だと、お医者さん達が態々見つかりやすいゲンソウキョウに隠れているというのが変だな…
これには何か深い理由があるのかもしれないが、その深い理由が分からない限りは、そこが矛盾点だといえるな。
例えばお医者さん達が、月からの追っ手から攻撃を受けたりしたら、もはやその矛盾点も意味が無くなるが…


うーん…












とにかく新仮説の実証は置いておくとして、仮に俺の新仮説通りだったら、不味いことになるな。

俺が当初想定していたように、俺達が一企業が誰かに売るために作り出した生物兵器なら、俺達は被害者として世界に受け入れられ、ことを荒立てずに収められると考えていた。
あくまで俺達を金儲けの道具と考えている企業だったら、俺達を製造した企業のことを公開しても、自暴自棄になって俺達を使って世界を相手に戦争を起こす可能性は低いからだ。
もちろん、暴発する可能性はある。
しかし、甘いといわれればそれまでなのだが、人間VS人間である以上、うまく動けば暴発させずに軟着陸させる方法があると信じていた。
だが俺達が宇宙人によって、世界征服レベルの何かのために作り出された生物兵器なら、そんな甘いことには絶対にならないだろう。

人類に敵対的な宇宙人の存在を世界が知ったら、世界は俺達を拒絶するだろう。

これは、敵である宇宙人が倒されない限り、俺達が敵として見なされるからだ。
俺が洗脳されていたように、洗脳されている俺達は、宇宙人の思惑一つで人類の敵になるかもしれないからだ。
というか、世界征服レベル…例えば地球侵略を目的にしている宇宙人なら、確実に人類との戦争で俺達を投入するだろう。


だから、下手に俺が世界中に救援を求めたりしたら。


大ちゃん達は…

寝返りを打ち、視界に大ちゃんを収める。


俺の隣で…俺が病院に行ったことを心配して、一緒に寝てくれている大ちゃんは…

世界の敵として死ぬか、その手を血に染めて世界を蹂躙するかの二つの運命しかない。






ギュっ
突然、大ちゃんの胸に引き寄せられる俺。

!?

「ハニューちゃんどうしたの?凄く怖い顔をしているよ?」
大ちゃん…起きてたのか。
「やっぱり、まだ調子が悪いの?」

ギュっ

無言で、大ちゃんを抱き締め返す俺。
「ちょっと悪い夢を見ただけだから、だから…


 だから……
 もう少し、このままで…」


「………うん。」



そうだ、これは悪い夢のようなもの、俺の考えすぎだという可能性も十分にある。
結論を出すのはまだ早い。













だが、作戦を考え直す必要があるかもしれない。



----------







「おはようございますハニュー総帥。今日も良い天気ですよ。」

あ、夜通し考えていたら、いつもの如くアイリス達が起こしに来る時間になっちゃったよ。

「起きてくださいハニュー総…。ん?なんだこの膨らみは?」








「これは…」
ブルッ!?


あれ、何だか急に部屋の温度が低くなったような…
これって、布団を頭まで被っていたのに、アイリスがちょうど頭まで布団を取っちゃったからだよね!?
ホカノリユウジャナイヨネ?



俺と、俺に抱きついて寝ている大ちゃんを交互に見るアイリス。

あ…
まずい、大ちゃんが来ていることを伝えるの忘れていた。
しかも、この姿勢はちょっと恥ずかしい。
布団のせいで、俺達の顔しか見えていないアイリスにはバレていないでしょうけど…
大ちゃんを抱いた状態で寝ちゃったせいで、俺の下腹部にカニバサミにするような感じで、大ちゃんが股間をくっつけきているので…
とても、人様に見せられる状態じゃありません。

「昨晩大ちゃんを抱いたまま寝ちゃって…伝えなくてごめんね。
 布団の中は、ちょっと恥ずかしくて見せられないから、これ以上布団は捲らないでもらえるかな?」

「だ、抱いた!?


 ど、どうして大ちゃんさん、なんでしょうか…」

なぜか顔を赤くして聞いてくるアイリス。
あ、後ろのミスティアとリグルも顔を赤くしている…

ってミスティアとリグル!?

「あの、ハニュー総帥?」

「あ、ごめん。理由という理由は無くて、たまたまそこにいたからというか、成り行きというか…」
何故かと聞かれれば、正直に言って偶々そこに大ちゃんがいたから、としか言い様がありません。

「な、成り行き…



 あ、あの…
 もしも、今後も同じことを望まれるなら、私に声をかけてください。
 すぐに、ご希望に沿う子を親衛隊より選抜します。                 もしお望みなら私でも…」


                                            「チンチ●!大胆ね!!」


                                            「わっ!?わっ!?研修生の僕達の目の前でこんなことを言うなんて!?
                                             ま、まさかこれも研修の一環!?」

                                            「そんなこと、あるわけ無いじゃない!」


                                            「だ、だよね。   じゃあ、僕達は席を外した方が…」

俺が、精神的にキタ時に、抱きつく相手を選抜するとかw
それなんて虐め!?
「選抜なんていいよ!!アイリスか…後ろの二人にお願いするから!!」

恥ずかしいから、お願いするとしたら、知ってしまった三人だけだと思います。
まあ、色々と俺のことを既に知っているミスティアとリグルなら、こういう情けない所を見せても、それほど恥ずかしくないですし。

「え…」

「チン●ッポ!?」

「僕まで!?」


何故か三人とも顔を赤くしています。
まあ、何かをするわけではないのですが、同性でも抱きついて寝るというのは確かに恥ずかしいことだよなあ。

あ、そうか。
俺と二人っきりだから、俺が暴走して何か間違いを起こされそうだと思っている可能性もありますね。
ミスティアを襲う俺とか、アイリスを襲う俺とか、リグルを襲う…………!!


リグルは男の子だった。

この提案だと、俺の貞操がマッハです。

「いや、無理にとは言わないし。一人で不安だったら、三人一緒でもいいから!」
合計四人なら、お互いの監視が行き届いて間違いが起こらないから完璧です。

「「「!?」」」


何故か三人ともオロオロしている!?




あれ?何か間違えたかな??

side 大ちゃん

朝起きたら皆が騒いでいたけど、どうしたのかな?

リグルちゃんとミスティアちゃんと一緒に朝ごはんを食べている時も騒がしかったし…
リグルちゃんとか「ハニューさんが僕達も抱きたいなんて言ってましたけど、僕達の友情は不滅ですよね?」なんて言ってくるし…
ミスティアちゃんとか「具体的にどういう感じで抱いてもらったの?」とか興味津々って感じで聞いてくるし何なんだろう?

リグルちゃんには「そんなの当たり前じゃない。だから、別にリグルちゃんがハニューちゃんに抱かれても大丈夫だよ…ちょっと嫉妬しちゃうけど。」って言ってあげて…
ミスティアちゃんには、夜中にハニューちゃんがモゾモゾしていて、辛そうだったから楽にしてあげるために、自分から抱いたんだよって教えてあげたんだけど…

リグルちゃんとミスティアちゃん…どうしてそこで、吹いちゃうのかな?
別に私、面白いこと言っている訳じゃないのだけど…

それから…
「大ちゃん、いつの間にそんなに大人になったの!?」
ってミスティアちゃんが問い詰めてきて…

「ルーミアちゃんに諭されたから、そうなろうって努力しているの。」
って伝えてあげたの。

そう、私はハニューちゃんのために大人になるの。
今までみたいに、ハニューちゃんが本当に望んでいることを考えずに、一方的に支えたり、一方的に頼ったりするんじゃない。
お互いが望んでいることを、お互いが分かり合える、そんな存在になるの。
だから、昨日はハニューちゃんが一番して欲しいと思ったことをよく考えた上で、してあげたんだ…




「ルーミアちゃんー!!どこー!?違った意味で大人になっちゃったー!!」
ミスティアちゃん、どうしたの?

----------

side 紅魔館のとある部屋

紅魔館の一室、そこには覆面をつけた謎の人物達が集まっていた。

「なかなか面白そうな話ではあるわね。ミスパープルもそう思うでしょ?」
妖しげな蝙蝠のマスクで顔を隠した幼女が布マスクで口元を隠した少女に話しかける。

「そうね。でも…」

「何か気になることがあるの?」

「何で無いわ、レ    ミスレッド」
ミスパープルと呼ばれた少女は、躊躇ったようなそぶりを一瞬見せたが、すぐに何でも無いと発言を取り消した。


「遠慮しなくてもいいのに…ミスパープルが疑問に思った点と、私が疑問に思った点は多分一緒よ。
 面白そうな話だけど、こんな回りくどい方法をとらなくても、魔理沙を直接排除すればいいんじゃない?
 ねえ?ミスホワイトもそう思うでしょ?」
ミスレッドは、ミスホワイトと呼んだ買い物袋を頭から被ったメイドに話しかける。

「私と、お嬢 じゃなかった。ミスレッド、そしてそのご親友であるミスパープルの力があれば、魔理沙など敵ではないかと。」
見た目はアレな人であるが、その言葉には驕りではない十分な実力に裏付けられた自信が感じられた。


しかし、それに異を唱える発言が出される。
「だめよ。そんなやり方じゃ、霊夢の心を取り戻すことはできないわ。」
発言したのは『しっと』と額に書かれたプロレスラーのようなマスクで顔を隠した女性。

「ミセスパープル。説明してもらえるかしら?」
ミスレッドが、問いただす。

「ちょっといいかしら?どうして私がミセスなの!!私はまだ未婚よ!!!」

「あなたまでミスパープルだったら、ミスパープルと見分けがつかないじゃない!!
 大体、結婚していてもおかしくない見た目なんだから、それで我慢しなさいよ!!!」

「そうよ、この行き遅れ!」
ミスホワイトが続く。

「…」
無言で肯定するミスパープル。

「酷い酷すぎるわ!ミスゴールドも黙ってないで何か反論しなさい!」
隣に座るミスゴールドに命令するミセスパープル。
彼女の反論は静かに、そして力強く始まった。

「ミセスパープルもその他の皆さんも、このような本筋と関係の無いことに時間を割いている場合ですか?
 我々は、博麗霊夢の心を取り戻したいと願う、ミセスパープルと、ミスレッド。そしてその成就を願う者達の集まりのはずでしたよね?
 こうやっている間にも、博麗霊夢と霧雨魔理沙の仲は深まっています。
 時間は無駄にはできません。」

『ちぇん』と書かれたドロワーズをマスクとして使っているミスゴールドの言うことは正論だった。
だが「せっかくネタを振ったのに、空気読めよ、この狐」という言葉が聞こえてきそうな微妙な雰囲気だったと、ミスパープルは後に語っている。



「じゃ、じゃあ説明するわね。」
その空気に耐えかねたのか、何事も無かったように取り繕って、話を再開するミセスパープル。
「残念ながら、霊夢は魔理沙にべったりよ。そんな状態で魔理沙を暗殺でもしたら…
 霊夢は壊れるかもしれないわ。
 それに、万が一魔理沙の暗殺に失敗したり、霊夢に情報が漏れたりしたら…
 私達は一生霊夢を失うことになるわ。

 もちろん、これらの問題は我々が一丸となって当たれば解決できるかもしれない。
 でも、ハニューという不確定要素が取り除けない現状では、我々全員の力を持ってしても危険よ。」

ハニューという言葉を聞いて、部屋の空気が変わる。
彼女達は、大なり小なりハニューによって影響を受けた者達なのだ。
ハニューという不確定要素がある限り、暗殺というオプションは想像以上にハイリスクになるかもしれない。
そういった認識が、共通のものとして彼女達に定着していった。

そして同時に彼女達は、冒頭にミセスパープルが提案した方法が、それらのリスクを鑑みると、最善の方法であると気がつかされた。

彼女達を代表したかのようにミスレッドが話し始める。
「だから、迷いの竹林の宇宙人たちが起こすであろう異変を、私達の手で解決しようというのね。」

胡散臭い笑顔を浮かべて、ミセスパープルがミスレッドに続く。
「霊夢は…残念だけど、魔理沙をパートナーとして異変解決に乗り出すと思うわ。
 でも、今度の異変は霊夢も魔理沙も大した活躍をすることなく終わる。

 それは、私達が全力を持って異変を解決するから。
 そうすれば、霊夢はきっと、魔理沙より私達の方がパートナーとして相応しいと思うはずだわ。」


「素晴らしい、素晴らしいわミセスパープル!」
どこか嘘っぽい笑顔でミセスパープルを絶賛するミスレッド。
「分かってもらえて嬉しいわ!」
どこか胡散臭い笑顔で受けるミセスパープル。

どこか、芝居めいたやり取りが続いたが「幻想郷最強タッグの誕生を祝って、別室にささやかですがお食事を用意しております。」
というミスホワイトの言葉をきっかけにして、二人は部屋を後にした。














従者達もそれに続き、部屋にはミスチャイナだけが残されていた。
「あんな格好のままで食事なんて無理なんじゃ…
 あれ?結局私の出番は無しですか!?」
別にミスチャイナが虐めを受けていたわけではなかった。
単純に、存在を忘れられていただけだったと、フォローしておきたいと思う。

----------

side 稗田 阿求


クーデターのようなものが起きた。
ようなものというのは、別に長老会が全滅したわけじゃないから。

長老会は『博麗の巫女が頼りにならない状況で、ジオンとの関係悪化を招きかねない状況をつくり、いたずらに里を危険に晒した。』
として、青年会から里の安全に関する活動を青年会へと委譲するように迫られ、認めてしまいました。
長老会はかなり抵抗したようですが、青年会が「善意の第三者」より入手したという、長老会の怠慢を示す資料に折れざるをえない状況に追い込まれたようですね。

人間の里は、長老会の長老達によって指導運営されてきました。
一方、青年会というのは、あくまで若者達の互助組織であり、何の権限も無い組織のはずだったのですが…

ここに至って、例え一部とはいえその力が委譲されたことにより、突如公式な組織として成り上がってきましたね。

ジオンの店が営業を開始し、そのジオンとの同盟の下地となる組織もできつつある。



親ジオン派の力は、人間の里の一部を抑えているに過ぎませんが、ここで昨年末の異変のような出来事が起きれば、一挙に変化しえる状況が整ったといえますね。





この状況、どうしてもあの悲劇を思い出してしまいますね。
妖怪の力の前に、人間の里と妖精の間に結ばれた一時の同盟と崩壊。
対等な友人関係を望んだ妖精と、ただの奴隷としてしか妖精を見なかった人間。
『捕まえることに成功したら、日頃の鬱憤を晴らすと良い。』と、私が幻想郷縁起に書いてしまう程、人間に傲慢さを植えつけた事件。

妖精達は蹂躙され、中心となった二人の妖精も悲劇に襲われ、二人の仲は引き裂かれた。
一人は、復讐に走り、一人は自らを責め何処かへと消えたそうですが…



アイリスは、間違いなく復讐に走った妖精の方。
そして、ハニューは…同一人物なのでしょうか。







…このことを、私は青年会に伝えるべきなのでしょうか。
いや、私は歴史を綴る者。
それは私の役目ではない。

そうだ、これからのことは、これから生きるもの達に決めさせるべきです。
ジオンに滅ぼされるのか、それとも本当に人と妖精・妖怪が共存できる未来が訪れるのか。
決めるのは私ではない。


ジオンとこれから生きる者達の努力次第です。




…多分聞かないでしょうけど、慧音にも釘を刺しておくべきね。

----------

side 鈴仙・優曇華院・イナバ

じゃあ、今日の治療を始めようか。

「ありがとう、うどんげ。でも、もう大丈夫だよ。」

大丈夫って…
まさか、直ったとでも言うの!?

「うん。それはこれからかな?


 私ね、やっと解放されるのよ。」


解放って!?


「今までありがとう、うどんげ。








 世界が…私の願いを叶えてくれるわ…」



待って!





世界って何なの!!







ちゃんと説明してよ!?









師匠!あの子を止めて! 









師匠!!









師匠!!!!!















「起きなさいレイセン!」

!?

----------

「なにうなされているの。早く起きなさい。てゐは、もう持ち場に向かっているわよ?」

あれ…師匠…?
どうして、完全武装で…

あ、さっきのは夢か…


「レイセン!しっかりしなさい!既に八雲紫とレミリア・スカーレットが動き出したという情報が入っているのよ。」

!!
しまった、今晩は作戦を決行する大切な日。
月からの道を閉ざし、この地上を私達の安息の地とする日。
そして、それを妨害するために、幻想郷の各勢力が私達を攻撃してくる日だ。
仮眠を取る気が、完全に寝ちゃうなんて…!!

「あの、師匠…ハニューは動き出したのですか?」

「何らかの動きがある、との報告は来ているわ。
 


 レイセン、ハニューはハニューよ。少なくとも、そう名乗っている限りは、あの子じゃないわ。迷ったらダメよ。」

鈴仙の肩に手を置き、鋭い目つきで鈴仙を見つめる永琳。

「といっても相手は妖精、それに月の頭脳である私もいるわ。全力で倒しても問題は絶対に起きないから、安心して戦いなさい。」

優しい顔をしてそう語りかける永琳。
鈴仙の心配はまた別のものだったが、永琳の言葉が自分を気遣っての言葉だと分かったため嬉しかった。


「はい!相手が誰だろうと、迷いの竹林は絶対に突破させません!」
そう、私達がこれからもハニュー達と会えるためにも、今晩ばっかりは全力で戦わないと。






長い夜になりそう…



[6470] 第二十一.五話 おうどんの裏を見ようとしたら、汁がこぼれてきた。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/06/16 19:58
第二十一.五話
おうどんの裏を見ようとしたら、汁がこぼれてきた。

-----異変の三ヶ月前-----

side 八雲 藍
~スキマ内~

紫の力によって形成されたスキマの中、そこには紫と藍の姿があった。

「これまで博麗神社が行っていたような、妖怪との大規模な激突について、ジオンが調停を行い始めました。
 これは、人間の里の依頼によるものですが、人間・妖怪双方に人脈があるためか、既にかなりの成果をあげています。」

「ジオンは、調停者としての、博麗の巫女の代役を立派に務めている。
 そういうことでいいかしら?」

「はい…紫様。
 

 よろしいのですか?幻想郷本来の姿から見れば、異常な事態になっていますが…」

「問題ないわ。藍、続けなさい。」

幻想郷は紫様と博麗の巫女によって成り立つ世界。
だから、博麗の巫女の役割の一部をジオンが担っている現状は…
容認できないはずだ。
なのに、何故…紫様はこの事態を黙認されるのだ…

「次の、博麗神社崩壊による結界の状況ですが…
 例の、紅魔館が作り、即日崩壊した神社ですが、再調査しましたが結界システムとしての機能が考慮されていませんでした。
 また、博麗神社崩壊により幻想郷の結界に異常が生じていますが、各勢力共に結界維持を目的とした動きはありません。
 唯一、ジオンが情報を集めているようですが、具体的な行動には出ていません。」

「そう…
 これは予想以上に重症ね…」

憂いだ表情を見せる紫。
その表情を見て、藍はますます自分の主が何を考えているか分からなくなってきた。

「藍。続き!」

「はい。紫様の行動に対してですが、紫様の行動を酒の肴にしている例は見受けられますが、それ以上の行動は見つかりませんでした。
 ジオンについては、ハニューの行動がいつも通り不可解のため分析不能です。」


「…そう。


 私を倒すチャンスだとか、言い出すかと思ったのに…」


「紫様!?馬鹿なことは言わないでください!!」


「馬鹿はあなたよ。ただの、冗談に決まっているじゃない。こんなに自分の思いに正直に生きたことは、今まで無かったのよ、それを今すぐ手放す気なんてないわー。」

冗談ですか…


ですが紫様…どうして、そんなに残念そうなお顔をしているのですか…

紫様はいったい何を考えておられるのですか…
これじゃまるで…


-----異変の二ヶ月前-----

side ハニュー
~紅魔館~

「つまり、ルーミアは月の宇宙人達と戦ったことがあるってこと!?」

「そうなのだー皆と一緒に月に攻め込んだのだー」

これは運がいいというべきかな。

大ちゃんと一緒に寝た夜。
いろいろと新仮説が出てきたので、それらの実証も含め情報収集を開始しました。
そのため、まずは身近な所から月について情報を集めようとしたのですが…
ルーミアが月の宇宙人と戦ったことがあるとは…

しかし、月に攻め込んだだと…
ということは、このルーミアは月まで行ったことがあるということになるが…

「どうやって月まで行ったの?」

「んー…あんまり覚えてないけど、幻想郷と月の都を直接繋げて攻め込んだのだー
 月の都の結界を突破するのが大変だったような気がするのだー」

直接繋げるって…なんだその方法は…いったい誰がそんなことをしたの!?

「誰がそんな凄いことをしたの!?」

「忘れちゃったのだー」

ちょっ、そこ大事な所!

「思い出してよ!!」


「んー









 やっぱり忘れたのだー」

…ルーミアらしいといえばルーミアらしいなあ。

仕方が無い。
他の事を聞こう。

「因みに、勝ったの?負けたの?」

「滅茶苦茶に負けたのだー
 ウサ耳の兵士達とか、全然戦い慣れてないくせに、反則みたいな武器を使ってきたのだー」

「反則みたいな武器?」

「弾がいっぱい出てくる銃とかー
 扇ぐだけで、体がバラバラに分解される扇とかあったのだー」

なんと。
銃は兎に角、扇の方は…凄いな。
そんな武器があるのか!?と疑ってしまうが、相手は宇宙人だ…

あるんだろうなあ。

しかし、ウサ耳の兵士か…

「敵はウサ耳だったの?」

「そうなのだーうどんげの奴は、多分兵士なのだー」

マジか…

「他に何か覚えていない?例えば、攻め込んだ理由とか!!」

「んーーーー?



 これも忘れたのだー」

ちょっ!?
何これ…ルーミアって大事な所を全然覚えていないのですけど!?

「ダメなのだー実は細かい所が全然覚えていないのだー」

なんというアホの子…

「他に誰か一緒に行った人とかいない?」

「それもあんまり…確か…ほとんど殺されちゃったのだー」

…ほとんど殺されちゃっただと!?
そんなに熾烈な戦いだったのか…。

結局、もの凄い当たりだと思ったら、あんまり当たりじゃなかったなあ。

もっと他の人にも当たってみるか。

----------

大ちゃんは…
「月?月ってウサギがいるんだってねー。ハニューちゃんと一緒に月でウサギ狩りができたらいいなー」
っと、まったく月とのことは知りませんでした。
因みに、うどんげの大集団を殲滅する大ちゃんが思い浮かんだのは何故だろう。

ミスティアは…
「いつか月にも出店したいわね…」
って感じで、大したことは知りませんでした。
月の都は凄い技術で作られていて、場所は月の裏にあるとか、せいぜいその程度でした。
因みに、この程度のことは多くの人が知っているそうです。

リグルは…
「凄く恐ろしい所だと聞いています…」
という感じで、月とゲンソウキョウの間で戦争が起きたことは知っているとのこと。
なんでも、ゲンソウキョウ側の死亡率が9割を軽く超える戦いだったとか…
因みに、リグルにその話を教えてくれた人は、その戦争で受けた古傷が原因で亡くなったそうです。
最後の言葉は「月は地獄だ…」だったそうです。

チルノは…
「月??ハニューも月に行きたいの?あたいも、月まで行きたい!」

「いや、そんな簡単に行けないから落ち着いて。」

「馬鹿にするな!何日も飛ばないと着かないってことぐらい知ってるよ!」
駄目だこいつ…早くなんとかしないと…てな感じで、話がまとまらないし…



という感じで、それになりに、色々な情報が集まってきたな。
次は誰に聞こうかなあ?


おっと。
いつも通り、立ったまま寝ているめーりんさんを発見。
ちょっと聞いてみようか。
めーりんさんは、紅魔館に来た人とよく立ち話しているから、いろいろ知っていそうです。


「めーりんさん!起きてください!」

「起きてます!寝ているフリだけですよ!咲夜さん!!」


いや、寝ているフリだったら、明らかにメイド長と俺の声が違うのに気がつくだろ。

「あ、なんだ…ハニューさんだったのですかー驚かさないでくださいよー

 で、何か用ですか?」

明らかに安堵しているあたり、本当に寝ていたかもしれない。
ま、それはいいとして。

「あのー実は月について何か知らないかと思って…」

「月ですか…

----------

めーりんさん。
色々と話してくれましたが、どれもこれもあまり役に立たなさそうです。
月の影は、日本ではウサギだけど、中国では蟹に見立てている。といったような…
所謂、豆知識は多いのですが、それ以外はこれまでに聞いた話と同じでした。
唯一の収穫と言えば、博麗の巫女は月への攻撃に参加しなかったそうです。
なんでも、その当時は博麗の巫女は存在していなかったとか…


「ところでハニューさん。月の都のことを知りたがるなんて…月に何か用でもあるんですか?」

「い、いや…そんなこと  ないよ?只の興味本位ですよ…」

「…くれぐれも、妹様を悲しませるようなことは、しないでくださいね?」

なんだか、もの凄く真剣な顔で忠告してくるめーりんさん。
思ったより、勘が鋭い人のようですね。
これ以上、話しているとボロが出てしまうかもしれません。

「あ!ごめん!仕事があったの忘れてた!そ、それじゃ行くね!」

とにかく、こういう時は下手に追求される前に、逃げるに限る。

----------
~永遠亭~

さて、今日の最後はうどんげです。
調子が悪くなったら、すぐに検査を受けるようにと言われたので、それを逆手に取って会いに来ました。

そして、遊んでいるフリをしながら色々と情報を引き出しています。
例えば…

「ふーん…地上を穢れた土地だって言っているんだ…」

「うん…だからってハニューが穢れているとか、そういうことは全然思っていないから!」

という感じで…何だか凄い話がどんどん出てきます。
地上は穢れた土地で、地上人は野蛮な生き物だ!という感じで、月の宇宙人達は差別意識丸出しだの…
月の宇宙人は、実は元々地上に住んでいただの…
地上の歴史に影から影響を与えてきただの…
地上を自分達の庭だと思っているだの…
人類(地上人)による月への侵攻が行われて、戦争に駆り出されることを恐れて逃げ出した脱走兵が、うどんげだの…
うどんげは元々ペットだっただの…

いやはや。
凄いぞこれは…


 それで、この服を着せられて…ねえ、話聞いてる??」

しまった。
考えに耽ってしまった。

「聞いてる!聞いてるよ!その服の話だよね!似合っているよ!」

「聞いてないじゃない!もう!


 師匠がプレゼントをくれるって言うから喜んだのに…


 こんな…


 こんな…



 師匠とお揃いの、ダサい服なんて嫌ー」

あ、うどんげが今着ているお医者さんとお揃いの赤と青の服ってやっぱりダサい格好なんだ…
てっきり、月の宇宙人的にはダサくない格好なのかと…

「『日頃頑張っているあなたに、特別にこの八意スーツを着る権利を与えるわ。嬉しいのは分かるけど、半人前のあなたは、治療の時だけしか着ちゃダ・メ・よ(ハート)』
 って師匠は言うんですよー
 これって、一人前になったら、一日中こんなダサい服を着ろってことだよね!?


 嫌ーーーーーーーー!!」



ご愁傷様です。

----------
~紅魔館 ハニューの部屋~

ガチャ!


トコトコトコトコ…


バタン!


自室のプライベートスペースに戻るなり、ハニューは扉の鍵を閉め、ベッドに倒れこんだ。
ハニューの顔には明らかに疲労の色が浮かんでいたが、ハニューはそのまま寝ようとはしなかった。


フウ…
やっぱり自分のベッドが一番居心地がいい。

さてと、今日は色々な情報を集めることができた。

記憶が風化する前に、話を整理するか。


まず、月の裏側に月の都という都市がある。
多分、ガンダムのグラナダ市みたいなものなのだろう。
そこには、純粋な宇宙人ではなく、元地球人(恐らく超古代文明人)が住んでいるようだ。
ん?そうなると、∀ガンダムのムーンレイスみたいなものか…

それは兎に角、彼らは、地上を自分達の庭のように考え、人類の歴史に何かと影響を与えてきた存在のようだ。
また、非常に進んだ技術を持っており、そのため、現在は精神的方向に文明を進歩させているそうだ。
精神的方向に文明を進歩させていると言っているが、彼らは人類を差別しており、穢れた人として扱っているという矛盾を抱えている。
地上そのものも穢れた土地として扱い、地上に関わるもの全てに対して差別意識を剥き出しにしているようだ。
しかも、月の宇宙人同士でも、強烈な差別意識が蔓延していると考えられる。
なんでも、うどんげはペットとして飼われていた時もあるそうだ。なんとうらや…酷い奴らだ!

まったく、どこが精神的に文明を進歩させているというのか。
あまりにも酷すぎる、としか言いようがない。



いけない。
考えを戻そう。

そしてうどんげは、月の都の兵士でもあったそうだ。
ところが、地上からの侵攻が始まり、うどんげは怖くなって逃げ出したそうだ、
その後、脱走兵となったため、月の都に戻れなくなったうどんげは、お医者さんに匿われる結果になったらしい。

この地上からの侵攻というのは、ルーミアやリグルから聞いたゲンソウキョウからの侵攻かと思ったが、どうやら違うようだ。
これは、アメリカやソ連といった、普通の人類によるものだったそうだ。
この侵攻の詳細をうどんげは知らなかったが、宇宙船でやってきた人類は、月の都の結界に阻まれ何もできなかったようだ。
そして、現在もその状況はあまり変わっていないらしい。

戦争が発生した理由だが、人類からの侵攻はその意図が依然として不明らしい。
だけど、ろくなことじゃないだろう。
それは、この侵攻が極秘に行われているからだ。
どうやら、冷戦時代からこの侵攻が行われていたそうだが、俺が人間だったときにそのような話は聞いたことが無い。
こうなると、やはり世界に助けを求めるのは危険だな。
極秘の侵攻の証拠となる俺達を、野放しにするなんてありえない。
洗脳による人類への攻撃というリスクを除いても、良くて保護という名の監禁。
悪くて、人体実験か、殺されるという結末だろう。

まあそれに、月の宇宙人にまったく歯が立たない程度の技術力の人類では、助けを求めた所で無駄かもしれないな。

大変残念なことに。


しまった…また考えが逸れた。

ゲンソウキョウからの侵攻も、その意図は分からなかった。
月の都を制圧しようとしたようだが、なぜそのような行動に出たのか、ルーミア、リグル、うどんげに聞いたが彼女達は何も知らなかった。
だが、被造物主が造物主を攻撃するという状況から、恐らくこれはクーデターなのだろう。
そう考えると、リグルから聞いた、戦死率9割越えという話と繋がってくる。
只でさえ、差別意識が強い月の宇宙人達だ、クーデターなんて起こされたら、徹底的に殺さないと気が済まないだろう。
恐らく、クーデターの首謀者達も皆殺しにされたと考えるべきなんだろうな。

よくこんな状況で、ルーミアは五体満足で帰ってこれたな。


大事な所を忘れているので、五体満足とは言えないかも…し…
















そうか。
そういうことだったのか。

ルーミアは五体満足じゃない。
恐らく、洗脳されているか、PTSDになっているんだ。

あまりにも悲惨な戦いで、ルーミアの精神が持たなくなり、PTSDとなって意図的に自分の記憶を封印したか…
それとも、偶然生き残ったルーミアを月の宇宙人が洗脳して、大事な部分を思い出せないようにしたのだろう。




酷い…


酷すぎる!!!


月の宇宙人共め!
よくも俺の友達を!絶対に許さない!!!










しまった。
落ち着け俺。



考えを戻そう。

月の宇宙人に惨敗した理由は、やはりその技術力らしい。
仰ぐだけで、対象物をバラバラに消し飛ばしてしまう扇。
もの凄い技術力だ。

だが、ルーミアによると、これを扱っていた兵士は戦い慣れていなかったらしい。
うどんげからも、月の宇宙人の兵士は絶対数が少なく、戦い慣れていないと聞いている。

月と戦う場合、ここが唯一のつけいる隙となるだろう。

いや、もう一つあるな。

うどんげの様な、被支配階級の者達が末端の兵士を構成しているなら、そこを刺激すれば…


うん。
やりようはあるかもしれない。










はあ…




しかしなあ…


とんでもないことになったぞ…

世界に助けを求めるのは色々な理由があって×
たとえ俺だけゲンソウキョウを脱走して静かに生活するという選択をしても、黒服を着た男達が現れて拉致されるのが関の山だろう。
でも、このまま放置すれば、いずれ月の宇宙人による地球侵攻が始まって×
月の宇宙人達が地球侵攻なんて考えていない可能性もあるが、ここまで差別意識を持っている奴らだし…
人類側から戦争を仕掛けている現状では…いつ何時攻撃命令が来るかも知れない。


となるとだ。


俺達を救えるのは、俺達だけだということになる。


つまりだ、俺達の力で、俺達の居場所を月の宇宙人から奪い取る。
それしか俺達が生き残る方法は無い。



しかもだ、現在のゲンソウキョウはクーデターの首謀者が全滅したせいで、そんなことを考える奴なんて誰もいない状況だ。
月に対する反感のようなものは、リグルとの会話を考える限りまだ残っているみたいだが、実際に月と渡り合うしか未来を切り開く方法が無いと気がついているのは…





俺が知っている範囲では一人しかいない。






そう、俺自身しかいない。











はあ…




なんてこったい。





いやね…







世界を救うヒーローになりたい!!


とか、子供の頃に思ったことはあります。
でもね…




本当に、そんな展開になるなんて聞いてナイデスヨ!?





俺がヒーローになって世界を救うなんて、そんなの無理だーーーーー!?





----------



コンコン!


「どうしたのハニューちゃん?」

「ハニューどうしたんだ?」


コンコンコンコン!!

「ねえ、ハニュー!!どうして、部屋から出てこないの!!!」


ん…

あれ??


もう朝…

ん?午前10時だと!?

えっと…確か昨日部屋に入ったのが、午後5時ぐらいで…

あ…

晩御飯も、朝御飯も食べそびれた。


「ハニュー総帥!申し訳ありません!鍵を壊します!」


えっ!?何事!?

「待って!鍵を開けるから!ちょっと待って!!」


----------


「もう!ずっと部屋に篭っているから、心配したのよ!」
アリスさんごめんなさい。

「そうですよハニューさん。アリスさんと大ちゃんが凄く心配してましたよ、勿論僕だって。二人に謝ったほうがいいです。」
リグル…そうなのか…

「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて…気がついたらこんな時間でした。」

「もう、仕方ないわね。」
「あんまり、心配させないでね?ハニューちゃん。」

うう、この二人に心配されると、罪悪感で心が苦しいです。

「そうだぞハニュー!ハニューの体は、ハニューだけのものじゃ無いからな!」

「チンチ●!それはちょっと違うわね!」

「チルノ、後で言葉の使い方教えてあげるわね。」
チルノを勉強に誘うアリス。

「えー勉強やだー!」

「そうなの?せっかくお菓子も用意していたのに、残念ねー」

「アリスごめん!あたい頑張る!」

まったく、チルノは相変わらず面白いな。

「もう!何の騒ぎかと思ったら、騒いでいるだけなのかしら?」

あっ妹様。

「ま、ハニューの周りはいつもこんな感じなのだー」

確かに、いつもこんな感じかもしれない。

いつも騒がしくて、だけどみんなの笑顔があって…

それに俺は救われていた。

ゲンソウキョウで気がつき、大ちゃんに救われ、そしていろんな人たちに救われて、今の俺がある。



でも、そんな笑顔も…


俺が頑張らなければ、全て消えてしまう。












そうだ、俺のせいで…
皆の笑顔が消えてしまう。







そんなの嫌だ。




戦うのは怖い。
でも、みんなの笑顔が消えるのも怖い      か…。






どっちに進んでも地獄か……。






















































































































なんだ。







答えは簡単じゃないか。





それなら、地獄は地獄でも、よりよい未来が掴めるかもしれない、希望がある地獄に進むしかない。

















俺に残された道はそれしかない。


戦おう。


せめて、俺が失いたくない人達だけでも助けられるように…

-----------

side レミリア・スカーレット
~紅魔館 正門~

「めーりんーーーーー?」

「ハニューさん、また脅かさないでくださいよー ムニャムニャ…」


「誰がハニューよ!!起きなさい!!」

「咲夜さん!?ごめんなさい!」

また始まった。
まったく、美鈴には困ったものね。

「一応、言い訳は聞いてあげるわ。」


「いやー。寝る子は育つと聞きましてー、もっと育ってお嬢様のお役に立ちたい!と、努力した結果といいますかー」

「ふーん…その胸はまだ育っている途中なの…。」

「ち、違っ ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアー」

毎度毎度のやり取りのおかげで、私の作戦には困らないけど…
これはこれで困ったものね。


「ダメよ咲夜ー。あまり手荒なことをしちゃ。」

「お嬢様!?申し訳ありません!少々躾が過ぎました!」

突然現れたレミリアに驚き、頭を下げる咲夜。

「これは思ったより、傷が深そうね…

 美鈴。治療費はこちらで出してあげるから、迷いの竹林にある病院で怪我を治してきなさい。」

「「お嬢様!?」」

驚く咲夜と美鈴。
それもそのはず、レミリアが美鈴にやさしい言葉をかけるなど、滅多に無いことだからだ。
特に、治療を勧めるなど、紅魔館始まって以来のことだった。

「よろしいのですか?」

「いいのよ。はいこれ、この封筒の中に治療費と、医者への『紹介状』が入っているわ。
 封筒は開けちゃダメよ?下手に開けて治療費を無くしたりしたら、許さないわよ?」

封筒を美鈴に渡すお嬢様。

「あ、ありがとうございます!この美鈴。一生このご恩は忘れません!!

 では、早速行ってきます!!」


この程度で一生って…
咲夜に、もう少し美鈴の待遇を改善するように言ったほうがいいかしら?





「あの…お嬢様?一つ伺っていいですか?」

「ん?咲夜、何?」

「美鈴に突然優しくするのは、先日のミセスパープル…八雲紫が共闘を申し込んできた、例の異変を見越してのことですか?」

流石咲夜。鋭いわね。

「そうよ。美鈴には悪いけど、お使いをお願いしたわ。」

「はあ…?」

さあ、八雲紫を出し抜くために、美鈴…頼んだわよ。


-----------

side 八意 永琳
~永遠亭 診察室~

「はい、お大事にー」

「ありがとうございましたー!」

なるほどね。
再生力の高い妖怪の傷を態々治せだなんて、何事かと思ったら、そういうことね。


美鈴が持ってきた封筒に入っていた『紹介状』をまじまじと見つめる永琳。


『あなた達の計画を八雲紫は知っている。
 彼女は、攻撃の準備を進めている。十分に注意しろ。』か…
八雲紫…
やはり出てきたわね。

「師匠…これって…」

不安そうな表情で『紹介状』を覗き込むレイセン。

「妨害されるのは、想定のうちよ。計画は予定通り行うわ。」

既に計画は始まっている。
この計画が完成を向かえるまで後二ヵ月…
もはや止まることはできないわ。

-----異変の一ヶ月と四週間前-----

side ハニュー
~紅魔館 花畑~

紅魔館の花畑の一角に、ハニューの姿があった。
そこには、ハニューが去年のクリスマスに貰った向日葵《短編外伝第一話参照》が植えてあった。
この向日葵に水をあげる。
それはハニューの大切な日課だった。




この向日葵もかなり大きくなったなあ。
サンタの人から貰った、真冬の向日葵だから、ちょっと普通とは違うと思ったが…
まさか、ずっと大きくなり続けるとは…
もはや、向日葵のお化けだな。






ねえ聞いてくれないか、向日葵さん。
水をいつもあげているから、たまには俺の愚痴に付き合ってくれ。

「俺さ、戦うことに決めたんだ。」

向日葵は何も答えない。
当たり前だけど。

「凄く怖いけどさ、決めたんだ…




 でも、困ったことがあってね…」

向日葵が風を受けて揺れ始めた。
まるで話を聞いてくれているみたいだ。


「戦うと決めたけど、力の弱い俺は、どうやったら強くなれるんだろう?」

「がむしゃらに頑張れば?」

向日葵が喋った!?

「久しぶりね。元気にしていた?」






ああ!


向日葵の真上に浮かんでいる人は!
向日葵をくれた、サンタの人!!

「お久しぶりです!元気といえば、元気ですけど…」
言いよどむハニュー。

「私だって昔は弱かったわ、でもがむしゃらに頑張っているうちに強くなったの。
 強くなるには、がむしゃらに頑張るしかないわ。」

子供に言い聞かせるように、ハニューの悩みに答える幽香。


何故そこまで言い切るのか、何度考えてもハニューにはまったく分からなかった。
そのため、ハニューは別のことが気になりだした。


ところで、サンタの人は何の用で紅魔館に来たんだろう?

「ところで、どうして紅魔館に?」

「ああそれね…
 久しぶりに人間の里に足を伸ばしたら、ジオン総帥ハニューという奴の噂で持ちきりでね。
 
 なので、ちょっとそいつと戦おうと思って紅魔館に来たら…向日葵があなたの存在を知らせて来たのよ。」

えっと。
前半と後半がまったく繋がっていないような気がするのは、気のせいでしょうか。

「あの、俺は戦いたくないです。俺は弱いですし、無益な戦いは好みません。」

「はあ?」

「俺が、ジオン総帥ハニューです。」



「「……」」








「よくも騙してくれたわね…」

何だか凄く怖い顔で、日傘の先端を俺に向けてきます。
いや、騙すも何も…

((((;・Д・)))ガクブル


















「アーハッツハッツハッツハー!!



 冗談よ!冗談!
 噂の真相は知らないけど、私が求める種類の強さを、あなたが持っていないことは一目で分かったわ。



 それに、この子達が『やめて』と必死に懇願しているわ。」

この子?
サンタの人が指差す先は…向日葵と花畑?

「植物に好かれているのね…妖精とはいえ、これほど好かれているのは珍しいわ。まるで特別な妖精みたいね。」

はあ…
何だかよく分からないが、俺は助かったのか?
「あの、結局俺と戦うのは無し、ということでいいのですか?」

「そうよ。それとも、いたぶられたい?
 私としては、あなたのような子供を無理にいたぶるのは趣味じゃないの。
 ハニューがMなら…相手してあげてもいいわよ?」

なんだか、いい笑顔のサンタの人。
こういうときは…

「お断りします。」

としっかり断るのが鉄則です。

「でしょ。それじゃ、また会いましょ。」


飛び去っていく幽香。



いったい、なんだったんだろうか。

「ハニュー総帥!大丈夫でしたか!?」

あ、アイリス。どうしたの、そんなに慌てて。

「幽香の姿が見えましたので…」

幽香…?
ああ、サンタの人は幽香さんというのか。
でも、幽香さんが出てきただけで、そんなに慌てるなんて…

「幽香さんってそんなに凄い人なの?」

「当たり前です!あの幽香ですよ!?幻想郷のパワーバランスの一角。単独で妖怪の山と戦争が起こせる。と言われるほどの妖怪ですよ!!」

なにそのチート。
でも、悪い人には見えなかったけどなあ。
向日葵もくれたし。
ちょっと、ドスが効いていたけど、冗談も言っていたし。

「まあまあ落ち着いて。全然問題ないからさ。」

「問題ない…さ、流石ですハニュー総帥。」


しかし、がむしゃらに頑張ったか…
チート級の力を持つ幽香さんの実体験に基づいた答えだと知った上で、幽香さんの話を思い出してみると…
簡潔かつ、取り付く島の無い幽香さんの答えは、説得力があったなあ。

今やチート級の凄い人になった幽香さんでも、昔は弱くて、がむしゃらに頑張ったことによって強くなったのか…


よし!
俺も、がむしゃらに頑張ってみるか。

----------
~紅魔館 ハニューの部屋~

「お願いします!武器を作ってださい!!」

「ハニュー総帥!?頭を上げてください!?」
「ハニュー!?いきなりどうしたの!?」

俺は今、にとりさんとアリスさんに土下座をしています。

「武器を作るのは了解しましたから!お願いですから、頭を上げてください。」


「あ、ありがとう!!」

土下座なんて、ちょっと恥ずかしいですが、がむしゃらに頑張ると決めた俺の前では大したことは、ありません。

「それで、どのような武器を作ればいいんですか?」

「えーとそれは……」

「それは?」

「月の宇宙人達と戦えるぐらいの武器ならいいなーって…」



「ハニュー、それは本気!?」

「うん本気…あと、これは秘密でお願いします。」

にとりさんやアリスさんが、月の宇宙人に情報を漏らしたら…
という懸念がありますが、にとりさんとアリスさん以外に頼れる人がいません。
それに、俺が知っている中では、月の宇宙人に対抗できそうな武器は、にとりさんとアリスさんしか作っていません。

紅魔館での書類仕事を手伝った際(第二十話参照)に、新型核融合炉開発に関する書類と、それに接続するビーム兵器の書類があったのですが…
そこに、にとりさんとアリスさんの名前が出ていたのです。
ビーム兵器が月の宇宙人に通用するか分かりませんが、少なくとも小銃とミサイルで戦うより勝率は高そうです。
ということで、無理を承知でお願いしたわけだったのですが…

「わかりました。では早速その方向で開発を始めましょう。」

「にとり!?」

よかった…
お願いを聞いてくれるようです。

「ただし、教えられる範囲で構わないので、今何が起きているのか教えてください。」

う…
やはりそうなるか。
流石に、何も聞かないで、お願いを聞いてくれるほど甘くは無いか。

「月の宇宙人と、人類が戦争をしていることを二人は知っている?」

「その話…聞いたことあるわ。
 母さんが、情報省に月の王兎達の通信を傍受させて知ったとか…
 
 ハニュー…どうしてトップシークレットを…」

「情報源は言えないけど…それに俺達が巻き込まれる可能性があるということです。」





「つまり、それを乗り越えるためには、力が必要だということですか…」

「…」
無言で返すハニュー。

「わかりました。全力で当たらせてもらいます。

 アリスさんもいいですね。」

「ええ。」


ありがとう、本当だったら、我々が生物兵器であり、洗脳されているということ等、全てを教えてあげたいのですが…
これは俺の戦い。
にとりさんやアリスさんを必要以上に巻き込むわけにはいきません。



とりあえず、当面の武器は確保した。
よし、次は…

----------
~紅魔館周辺~

訓練あるのみ。

といっても、どのように訓練すればいいのか分からないので…
紅魔館での例の書類仕事を手伝った際に見かけた、メイドの戦闘訓練とやらに参加しましょう。


お!やってるやってる。
しかも教官は…マリーダか!
4人ほど教官がいますが、彼女達を統括しているのは顔見知りのマリーダです。
これは運がいい。

「マリーダ!俺も訓練兵として訓練に参加させてくれ!!」

                                         「総帥だ!?」
                                            「どうしてこんな所に!」
                                        「あれ本物?」

「この訓練は、新兵の即戦力化を目的にした、実弾を使用する危険な訓練。
 危険が伴う訓練に、ハニュー総帥を参加させることは容認できません。」

「そんなの分かっているさ!でも、こういった訓練を俺は受けていないから、どうしても参加したい!
 まずは、今日一日だけの体験入隊でもいいから!お願い!!」

「…………わかりました。でも他の訓練兵がいるから、特別扱いは無理です。
 それでもいいですか?」

「問題ないよ。それでお願い。」

自分でもかなり迷惑なお願いだとは分かっていますが、俺はがむしゃらに頑張ると決めたのです。

◇◇◇◇◇

装備を担いで、紅魔館の周辺を周回かあ。
この程度ならなんとか…
「ハニュー訓練兵!まだ余裕があるようだな。一周追加。」

マリーダが教えてくれると思ったら、別の教官の人が俺達の担当だった…
マリーダだったら、もう少し優しく教えてくれそうなのにー。

◇◇◇◇◇

「これより、スペルカードルールを無視した攻撃を開始する。
 訓練のため、当たらないようには気をつけているが、お前達が気を抜けば当たる!
 死ぬなよ?」


なんだこの弾幕の迫力は!?
大ちゃん達と遊んでいた時とは、比べ物にならないぞ!?


怖い…



でも…

こんなことで怯えていたら、月の宇宙人と戦うことなんて…
それに、こんなの…博麗の巫女の迫力に比べれば…きっと大したことない…はず…

そうだ、俺は一応ではあるが、博麗の巫女との戦いに生き残ったんだ!
自信を持て!


行くぞ!!



                          「お前達!何を怯えている!ハニュー訓練兵を見習え!」

                          「し、しかし、我々はハニュー総帥ほど強くありません!」

                          「馬鹿者!ハニュー訓練兵の魔力と動きを見ろ!
                           リミッターを掛けて、お前達と同じ所まで力を落として参加しているのが分からないのか!!
                           今のハニュー訓練兵が、あの弾幕に当たったら致命傷になるぞ。」

                          「!!


                           い、102訓練小隊突撃!ハニュー訓練兵に遅れを取るな!!」

                          「「「「「「「「「ハイ!」」」」」」」」」

◇◇◇◇◇

「ハニュー訓練兵!命中率は高いが、射撃までに時間がかかり過ぎる!敵は待ってはくれんぞ!」

「はい!」

◇◇◇◇◇

「どうしてハニュー総帥は、訓練を受けるつもりになったの。」

「…それは、俺はしっかりとした訓練を受けていないからな。」

「凄いですね…。私達訓練兵なんて、訓練なんてやりたくない!っていうのが大半なんだけどなー」

「いや、別に凄いとは思わないけど…」



「凄い。」
ん!?マリーダか…

「教官長!? 全員敬「敬礼はいいです。今は訓練時間外。」」

「私達も正規の訓練は受けていない。これは大きな課題だといえます。」

そういうものなのかー?


◇◇◇◇◇

「訓練小隊同士の対抗戦、勝てるかなあ…」

そうか、明日は訓練兵同士の対抗戦かあ。

「とにかく、負けないように頑張る!って感じで。」

「うん、そうだね!負けないように頑張る!」

「よし!皆で負けないように頑張ろうー!!」

「「おー!!」」

負けないように頑張る…ねえ。
なんだか、もの凄く負けてしまいそうな感じの掛け声なのですが…

ほら、実際に「おー!」って掛け声を入れたの二人だけだし…
俺を入れてここには11人居るのだが…

「なんだか、気合が入らないなー
 もっと、気合が入る掛け声というか、標語というか、そういうのがいいなー」

俺もそう思う。

「じゃあ、誰かもっといいのを考えてよ。」

もっといいのか…
そういえば、ゲームか何かで、ちょうどいいのがあったような…

あっ
こういう女ばかりの部隊で使っている隊規があったなー。

「その顔…何か思いついたのですか!」

「あ、ああ。こんなのどうだろう?
『死力を尽くして任務にあたれ』
『生ある限り最善を尽くせ』
『決して犬死にするな』
 中々いいだろ?」

マブラブオルタネイティヴのA-01の隊規。
ちょっとカッコいい感じだし、俺達の部隊もA-01と同じで女性ばっかりの部隊だから似合いそうだ。

突然訓練に参加して迷惑をかけているのに、こういったちょっとした恩返ししかできなくて、ごめんね。

◇◇◇◇◇

「たった一日でしたが、訓練に参加させていただき、ありがとうございました!」

「「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」」

本当にありがとう。
たった一日だったけど、本格的な訓練が受けられて、もの凄く勉強になったよ。

「ハニュー総帥!」

ん?教官に呼び止められた。

「見学だけでも構いませんので、またいらして下さい。」

見学?
いや、そんなことより俺の希望としては…

「どうせなら、また訓練兵達と一緒に訓練に参加したいのですが…」


「ハッ!いつでも歓迎します!」

迷惑がられるかと思ったけど、笑顔で歓迎すると言ってくれた…
所謂リップサービスかもしれないけど、背に腹は変えられない状況なので、その言葉に今後も甘えることにしましょう。


-----異変の一ヶ月と三週間前-----

side 紅魔館地下図書館
~紅魔館 地下図書館 パチュリーの机周辺~

パチュリーの机周辺に、レミリア、パチュリー、小悪魔の姿があった。

 と、いうことだから、異変については私と咲夜で何とかするわ。パチェは留守番をお願いね。」

「わかったわ。でも大丈夫?」

「大丈夫よ。紫が言っていた程度の異変なんて、私一人でも大丈夫なぐらいよ。」

そこでは、紫が共闘を申し込んできた異変解決は、レミリアと咲夜で行い、パチュリーは留守番するという話が行われていた。
このような話になったのは、レミリアが友人であるパチュリーの体を気遣ったためだった。

-----------

「お疲れ様でした。お嬢様と一緒に異変解決に向かうと言い出さなくて、安心しましたよ。」

コーヒーを置き、パチュリーに悪戯っぽい笑顔を向ける小悪魔。

「だって『例の異変でお嬢様が出かければ、一晩中水入らずになるから、凄く楽しみですね。』ってこあが言うから…」

「パチュリー様…お嬢様より私を大切にしてくれて、私は嬉しいですよ。」

「こあ…」

小悪魔の行動は、元々レミリアへの嫉妬やパチュリーへの独占欲、そしてほんの少しのハニューへの恩返しから出たものだった。
このような行動は、これまでに何度も行われており、その都度、パチュリーの行動に影響を与えてきた。

自分の心の内(嫉妬、独占欲)を知ったら、パチュリーは喜ぶだろうか?それとも怒るだろうか?
小悪魔は、そのような『来るかもしれない未来』への悩みを常に持っていた。
だが後の世に、それらとはまったく別の解釈がつけられることによって、彼女の行動が分析されるようになるとは、この時の小悪魔は知る由が無かった。


-----異変の一ヶ月と二週間前-----

side ジオン幹部会議
~紅魔館 ジオン第一会議室~

「ザンジバル級機動巡洋艦の開発スケジュール繰上げですか…
 しかし、現状の技術力と工業力ではスケジュールの繰上げなど、難しいと言わざるえませんがねえ…」
白衣を着た亡霊が、しかめっ面で答える。

「それなら問題ありません。アリス副局長、説明を。」

「今回の開発スケジュール繰上げにあたり、魔界より技術顧問団が追加派遣されることが決定しました。
 また、国防省兵器開発局による全面的なバックアップが行われる予定です。」

ざわめきが沸き起こる室内。それは仕方が無いことだった。
突然の開発スケジュール繰上げ。
そして、『文化活動の支援』という名目を掲げ、大規模な支援を行わないはずの魔界が、突如始めた大規模な支援。

何かが起きている。

誰もがそう気がつくには、十分な内容だった。

「いったい、何が起きているのですか?」
白衣を着た亡霊が、にとりに問いかける。

「機密のため教えられません。ただし、幻想郷の命運が掛かっています。」

大気圏外へモビルスーツザクを運搬することが可能な、ザンジバル級機動巡洋艦。
その完成に、幻想郷の命運が掛かっている。
それだけで、聡明なジオン幹部達は、仮想敵国が月であることに気がついた。

「ハニュー総帥より、いずれはっきりとした形で公開されるでしょう。
 それまでは、これ以上のことは言えません。」

ハニュー総帥は多くを語らない。
しかし、ジオン幹部達は知っていた。

近い将来、世界が変わり、そのことにより幻想郷に脅威が迫ってくることを。
ジオンはその脅威を力によって防ぎ、幻想郷に住まう者達の居場所を確保し。
さらには、幻想郷という特殊な存在を世界に認めさせ、幻想郷を発展解消させるための組織だということを。

だが、世界を変え、幻想郷に脅威をもたらす者は誰なのか?
そのことについて、ハニュー総帥は固く口を閉ざしていた。

しかし、ついにその敵の正体が、おぼろげながら明かされたのだ。



この事実に、ジオン幹部達の士気は鰻上りとなった。
月の技術力の高さは、ジオン幹部の誰もが知っていた。
そして、月と戦うことの困難さも知っていた。
だがこのときは、その高い目標が、逆に彼らの士気を高める結果となっていた。

一方、安堵する者達もいた。冥界組みの面々である。
彼らは、ジオンの当面の敵が、祖国ではないことに安堵したのだった。


そんな中アリスは、神綺が突然積極的な支援に乗り出してきた理由を考えていた。

(ハニューが月との戦争を想定していたと伝えたら、母さんは突然積極的な支援に乗り出してきた。
 突然の話なのに、月との和解や、ハニューの行動を母さんは止めようとしなかった。
 それに、供与される予定の技術は、魔界とは一見関係の無い宇宙戦を想定しているくせに、どう見ても長年研究を続けてきたとしか思えないものばかり…
 
 魔界は、かねてより月を仮想敵国として見ていたってことかしら…)

アリスの思考は、神綺の狙いに迫っていた。
だが、その思考は答えに結びつく前に中断された。

「そろそろ静かにするのだー。まだまだ議題はいっぱいあるのだー」

議長を務めるルーミアの言葉によって再開したジオン幹部会議は、その後6時間に亘って続けられた。
長い会議となったが、そのことに不平を言うものは一人もいなかった。
それは、ハニューが広めた標語を知ることになったからだ。

時間は、にとりの発表の10分後に移る。

「ハニュー総帥が訓練兵に混じって、訓練を受けているだって!?」

「ええ。既にこの二週間、ハニュー総帥は何度も訓練に参加しています。」

マリーダの報告に、驚きの声をあげるシトリン。
彼女が驚くには理由があった。

第一に、ハニューが訓練を受ける理由が無いこと。
そして第二に、訓練が危険なものであるからだ。
ハニューが参加している訓練は、冥界組みの戦争経験者が実体験から提案した、スペルカードルールを無視した、『実弾』を使った訓練だった。
この訓練は、ハニューによって採用されたものの、危険度の高さ故に訓練兵の評判が悪い訓練だった。

「ハニュー総帥は、訓練兵と同じ程度まで力を下げ、訓練兵に混じって訓練に励んでいます。」

困惑した空気が広がる室内。
それは、ハニューの目的がまったく見えないからだった。

その空気を感じたのか、マリーダは話を続けた。

「そのおかげで、訓練兵の訓練効率が向上しています。」



「なんだって!?」


「実弾を使った訓練は、本質的には訓練効率は高いと言えます。
 訓練効率が落ちていたのは、訓練兵が敬遠していたためです。
 しかし、ハニュー総帥が、総帥という立場にありながら危険な訓練に参加したことから、訓練兵の意識改革が発生しました。」



「つまり…
 トップが率先して危険な訓練に挑む姿を見て、訓練兵達がやる気を出したということか!?」

「端的に言えばそうです。
 そして我々はこの行動から学ばなくてはなりません。
 ハニュー総帥は訓練兵に、しっかりとした訓練を受けていないから、訓練に参加していると語りました。
 この中で、正規の訓練を受けた者が何名いるか考えて欲しい。
 ジオンが軍組織として成長を続けている以上、我々幹部も軍人としての訓練が必要。
 そうしなければ、いずれ組織内で歪みが発生します。」

マリーダの発言に、ハニュー総帥の狙いと、その行動が示す問題点に驚くジオン幹部達。
しかし、彼女達はマリーダの次の発言に更に驚くことになる。

「もう一つ報告事項があります。ハニュー総帥が訓練兵達に広めた標語です。
『死力を尽くして任務にあたれ』
『生ある限り最善を尽くせ』
『決して犬死にするな』
 この標語は当初、ハニュー総帥が所属していた訓練小隊だけで使われていました。
 ですが、その小隊が訓練兵対抗戦に優勝したため、現在では全訓練兵が使うようになっています。」

いくつもの唸り声が部屋に響き渡った。
誰もが、この標語に籠められた厳しさというものに気が付いたからだ。

ある幹部が全員の気持ちを代弁するかのように呟いた。
「任務の成否が我々の存亡に繋がっている。そういった背景で考えられた言葉のようですね。」

まさにその幹部の呟きの通りだった、ハニューの標語は『生き残る』ではなく、『任務達成』を最優先したものだった。
それもそのはず、ハニューの標語の元ネタ(マブラブ オルタネイティヴ)は、地球外生命によって人類は滅亡寸前に追いやられており、
そこで人類存亡に関わる任務を帯びたA-01部隊が使っていた隊規だったからだ。

「この標語や行動の影響について、どこまでがハニュー総帥の想定範囲内かは分かりません。
 ですが、これらから透けて見えるハニュー総帥の思いや意思というものを、我々は大切にする必要があります。
 だからあえて発表しました。」

月という仮想敵国の明確化。
そして、それに呼応して活発になった魔界の支援。
大きな流れの変化を読み取ったマリーダは、あえてハニュー総帥の『自分や他者への厳しい内心』を示すことにより、組織の引き締めを図ろうとしたのだった。

ハニューの過激と言っていい標語を知ったジオン幹部達は、自らの任務がどれほどジオンの存亡に掛かっているかを再認識し、会議に挑むことになったのだった。
そしてその姿勢は、会議からジオン全体へと広がっていったのである。

-----異変二週間前-----

side 八意 永琳
~永遠亭 研究室~

「気に入らないわね。」

永琳は、状況が気に入らなかった。

ハニューの行動は相変わらず不可解で、まったく正体が掴めない。
ルーミアの行動も同じく不可解で、正体が掴めない。

そして最大の問題。
自分達への攻撃が準備されている。
しかし、どの勢力がどのタイミングで攻撃を起こすつもりなのか、明確には分からないという事態になっていたからだ。

レミリアからの警告を受け取った永琳は、幻想郷内に諜報網を構築していた。
それは、妖怪兎によるヒューミント(人的諜報)だった。

効果は微妙なものだった。
霊夢と魔理沙のプライベートは丸裸にされ、彼女達は永琳の行動に気がついていないことが判明した。
妖怪の山、人間の里も同じく、永琳の行動に何も気がついていないことが判明した。
だが、全てがうまく行ったわけではなかった。

紫は「乙女を覗き見るなんて、エッチなウサギね。」と、永琳の所に妖怪兎を返しに来たため、諜報活動には失敗した。
そして、レミリア及びジオンに対する諜報も失敗した。
紅魔館への進入そのものに失敗したからだった。

紅魔館への諜報活動に送り出した妖怪兎は、無残な姿になって帰ってきた。
門番によって、即座に掴まった妖怪兎達。
彼女達は、ウサギ狩りが好きだという三人組の妖精に引き渡され、遊び相手にされたようだった。
三人組の妖精と三日に亘って鬼ごっこを強要された彼女達は、疲労困憊し全身が筋肉痛になっていた。


この結果を受け、永琳は自ら情報を集めることも検討したが、不在の永遠亭を狙われる可能性も無視できないため、断念した。

結局、永琳の取った策は、てゐを使った情報収集だった。
これは、以前よりてゐと多少繋がりのあった、橙とチルノを使った情報収集である。
てゐが橙とチルノと遊ぶ際に、二人を言葉巧みに誘導し、情報を集めさせたのだった。

これは、ハニューがレイセンに行っていたものを真似したものだ。
なぜ、ハニューが冗談とも取れるぐらい酷い諜報活動をあえて行ったのか、結局その真意を探ることはできなかった。
だが、ハニューのおかげで思いついたこの方法は、ジオンと八雲家からの情報収集に初めて成功した事例となった。

集められた情報は、チルノからはジオンの中が騒がしくなっていること、橙からは次の満月の夜は家から出ないよう八雲藍から注意されているということ。
つまり、ジオンが計画に対して何らかの動きを示しており、八雲家が計画が完遂する日を知っていることが判明したのである。




情報は徐々に集まりつつあるが、どのような攻撃が意図されているのか、依然としてはっきりとしない。
だが、次の満月の日こそ、我々の行動が完遂する日、そしてその成功に最も大切な日であることは変わらない。
守りをさらに固めるしかない。

そう永琳は結論付けた。


-----異変一日前-----

side 白玉楼
~白玉楼 縁側~

「明日、何かあるのですか?」

「どうかしらー」

「八雲紫といったい何をお話されていたのですか?」

「何かしらー」


「真面目に答えてください!」
明らかに、真面目な回答をしない幽々子。
その様子に妖夢はついに怒鳴ってしまう。

しかし…

「私はいつも真面目よー


 今この瞬間もね…」

妖夢に怒鳴られても、不可解な答えしか返さない幽々子。
その行動に、妖夢はただ混乱するばかりだった。

side ハニュー
~紅魔館 ハニューの部屋~

訓練も、もうすぐ大詰めかあ。
この訓練が終わったら次は…

『明日の満月の夜、迷いの竹林の宇宙人達の異変が完成する。
 異変が完成すれば、月が満ちることは無くなり、月からの道は閉ざされる。』

なんだこれは…
寝ようと思って部屋に戻ったら、小悪魔さんから貰った机に変な手紙が置いてあった。

迷いの竹林の宇宙人たち(うどんげ達)によって月からの道は閉ざされる(月から来るための道がなくなる)?



つまり、うどんげ達によって、月の宇宙人がゲンソウキョウに来るための道が閉じられるということか!?


とんでもない情報だが、いったい誰が何の目的で…

こういった手紙を書くということは、俺に正体を知られたくないということ。
そして目的は、俺にこれから起きることを知らせること。

俺がこんな手紙を見たら、どのように行動すると思って、手紙を用意したのだろうか?

異変と書いてあるということは、博麗の巫女が動くということだ。
そして、博麗の巫女の思い通りに進めば、月と戦うために大切な情報源を失ってしまう。
俺なら、うどんげ達を助ける方向に動くに決まっている。



そういうことか。

この手紙を置いた人物は、俺にうどんげ達を助けてほしいと言っているのだな。
月の宇宙人に対立する彼女達を…

まさか、クーデターを起こした奴らの生き残りがこの手紙を…

それは分からないが、この状況…


クソッ
時間も実力も足りない。
だが…




指を咥えて見ているわけにはいかない。


side 八雲 紫
~紅魔館 レミリアの部屋~


スキマを開き、スキマから飛び出す紫。
飛び出した先には、まるで最初から椅子に座っていたような演技をしているレミリアの姿があった。


「ミスレッド、お邪魔するわね?」

「また、いきなり私の部屋に入ってきたわね。相変わらず、品が無いわね。」

何が品が無いわね、よ。
そっちこそ、頭に寝癖が残っているわよ?
慌ててベッドから飛び出したのが隠せないようでは、まだまだね。

「でも、私は紅魔館の主。

 そんな品が無い客でも歓迎してあげるわ。
 

 咲夜!」

突然の侵入者に対して、精神的に負けないよに、余裕があるように振舞う行動はいい。
だけど、これもまだまだ修行不足ね。

「ここに。
 お茶も既に用意しております。」

「流石咲夜ね。完璧よ。」

確かに、完璧なメイドっぷりだけど…
一言ですぐに現れるなんて、どこかで覗き見してるってこと、この子は理解して「で、今日は何のようなの?ミセスパープル。」

無いでしょうね…

でも、今はそんなことを心配してあげる時期じゃないわ。

「明日の夜。ついに始まるわ。



 ミスレッド?準備はいいかしら?」



「もちろん。最高の夜にしてみせるわ。」


「そうね!最高の夜しましょう!


 霊夢を我らの手に!!」


満月が無くなる。それは夜を主な生活の場としている妖怪にとっては一大事。
そうなれば、幻想郷のバランスが崩れることは目に見えている。
そんなことは、ハニューも望んではいないはず。

ハニューに異変を伝えた今、レミリアや霊夢達と一緒に、ハニューも異変を止めに動くことになるわね。
いくら霊夢のやる気が落ちている状況でも、レミリアとハニューが手を貸すのなら、異変は確実に止まるわね。

舞台は完成し、役者も揃ったわ。
後は…



[6470] 第二十二話 月は、出ているか?
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/07/15 22:08
第二十二話
月は、出ているか?

side 八意 永琳
異変当日午前8時30分
~永遠亭 地下研究室~

妖精は、幻想郷で最も人口が多い種族の一つだと言われている。
だが、妖精については分からないことが多い。
それは、彼女達は弱く虐げられる立場の存在であり、『生存競争』という目的のために研究対象にされることが多い妖怪とは真逆の立場にあったからだ。
しかし、何事にも例外はある。
そんな例外の一人が永琳だった。


妖精と聞くと、誰もがわざわざ気に留める対象では無いと言う。
なぜかと聞くと、彼女達は力も頭も弱く、人間でもその気になれば簡単に取り押さえられる程度の存在だからだと言う。

毛玉と並んでヒエラルキーの最下層。
それが、幻想郷における妖精の評価だった。

私も、少し前まではそう思っていた。
いや、厳密に言うとここ千年は思考の対象になった試しなどなかった。

だが、あの子との出会いがその考えを変えた。


ある日の事、レイセンが迷いの竹林から一人の妖精を連れ帰った。
それがあの子だった。
レイセンによると、あの子は、ずっと迷いの竹林で自殺を繰り返していたというのだ。
何十年と続くその哀れな光景に、レイセンはついに耐えられなくなったのだという。

レイセンは私に断られると思っていたようだが、私はあの子を永遠亭に置いてもいいと思った。
蓬莱人と同じ永遠の命を持つ妖精が自殺を繰り返す。
そのことに、ほんの少しの同情と哀れみを持ったからだ。

あの子が自殺を繰り返す動機は簡単だった。
あの子は長い人生の思い出を全て記憶していた。

嫌な思い出や悲しい思い出も。

それがあの子の精神を蝕んでいた。
特に、何十年前か何百年前かは分からないが、あの子や、あの子を助けようとした友人が人間の里で受けたある出来事が大きいようだった。

だが、私はそんな動機には興味は無かった。
それは、動機を探る際に発覚した、ある異常性に興味を引かれたからだ。
私が興味を引かれたのは、なぜあの子は記憶を完全に引き継いでいるのか?ということだ。

記憶というものは、風化するものだ。
それは、必要なものの取捨選択するという意味もあるが、脳や魂の損傷という意味もある。
私達蓬莱人も、取捨選択による記憶の風化や、魂の損傷による記憶の風化というものはある。
しかし、あの子にはそれが無かった。

あの子の体に興味を持った私は、あの子の欝病治療とレイセンに嘘をつき、あの子を調べ始めた。


そして一つの発見があった。
それは、あの子が異常と言えるほどのバックアップを世界から受けているということだ。


あの子を構成する要素が欠損すると、即座に世界からバックアップが入り、復元してしまう。
それは、体のみならず、彼女の記憶にまで及んでいた。

世界からのバックアップ。
それは妖精全てが受けていることだ。

一般的には、妖精は自然現象が個体として具現化しがものだといわれている。
だがその表現は、正しいものではない。
これは、私がまだ若かった時代に研究したことなのだが、妖精は『世界』の一部が個体として具現化したものだと表現したほうが正しい。

そうなのだ、あの弱い妖精一人ひとりが、『世界』と繋がっているのだ。
だから、その体が壊れたとしても、人体の一部が再生するように、『世界』の一部として復元される。
『世界』の一部であり、『世界』そのもの。

それが妖精の正体。


そのメカニズムを紐解いたとき、あの子の異常性が差異だって来る。
妖精の不死性、それは妖精が『世界』からバックアップを受けることによって成り立っている。
だがこの不死性は、個体としてみた場合、完全なものではない。
意識が完全に破壊されるほどのダメージを負った妖精は、バックアップを受けた結果、記憶の一部が欠落し、個体としての連続性を失っていることがあるのだ。
妖精の性格ゆえに、その点に気がつく者や、それを問題と捉える者は少ない。
だが、調査の結果、この事態は相当数発生しているようである。

これは『世界の一部である妖精』として必要だと『世界』が認めた情報はバックアップされているが、
それから外れた『個体としての情報』はバックアップされていない部分が多いという事情から発生している。

だが、あの子は、個体としての情報も完全にバックアップされていた。
何度バックアップを受けるほどのダメージを受けても、常に完全なあの子として蘇る。
それは妖精としてはありえないことだ。

そんなことが可能なのは「師匠ー対八雲紫用の薬持ってきましたー」

「あら、思ったより早かったわね。」

「そんなことないですよー。いつもと同じぐらいです。」

…あ、もうこんな時間だったのね。
少し考えに没頭しすぎたようね。

今はあの子の考察をしている時じゃ………無かったわね。

----------

side ハニュー
異変当日午前10時00分
~ジオン軍訓練学校~

永遠亭が侵入者に対する準備を進めているまさにその時、ハニューは永遠亭に向かう準備を進めていた。


ガサゴソ…

えーと、銃のエナジーパックは確かここら辺に…

「ハニュー総帥?今日は訓練なんてありませんよ?」
!!!

同じ訓練小隊の一人が声をかけて来ましたが、今日は色々とまずいです。
だから、誤魔化します。

「ちょっと自主練を…。」

「!!

 私もお供させてください!」

目を輝かせて、ハニューと一緒に訓練したいという訓練兵。

ちょっ、それは、困る!?
こんな所で時間を費やす余裕は無いのです。

「いや、大したことなんてしないから…」

「お願いです!」

「いや…その…」

まずい、まずいぞおおお…
なんとかお引取り願わないと。

----------

















無理でした。
だって、どんどん人数が増えていくんだもん…
最初にしっかりと断れば、こんなことには…自分の押しの弱さに泣きたくなる。

「あ、もうこんな時間ですね。」

「そだね…そろそろ止めようか。」

「はい!今日もありがとうございました!」

「「「「「「「ありがとうございました!!!!」」」」」」」

…結局訓練を続けること…何時間だ?
なんだか、微妙に夕方っぽい…

護身用に武器を手に入れてから出発しようと思っただけなのに、どうしてこんなことになっちゃうのー!?

やばい…
このままじゃ、完全に出遅れる。


急いで、部屋に戻って準備を整えよう。

----------
異変当日午後17時00分
~紅魔館の庭~

俺の部屋に戻るなら、廊下を突っ走るより、飛んで庭を突っ切ったほうが早く着くな。
うん、そうしよう。
廊下を通ったほうが距離は近いが、人が多くて危ないからな。
庭だったら、人は疎らだし…見えるのも…



チルノと橙ちゃんとリグルぐらいか…
なんだか、楽しそうに遊んでいるな。

「帰ったよ。」

「お帰りなさいあなた!今日の晩御飯はお魚祭りですよ。」

「お、お魚祭り…?  す、凄いね。」

なるほど、ママゴトをして遊んでいたのか。

「橙!帰ったぞー」

「チルノお帰り。」

「こらチルノ。名前じゃなくてお母さんと呼ばなきゃ駄目だぞ。」

橙ちゃんがお母さん、リグルがお父さん、チルノは娘役か…
そして、三人を遠くからニコニコと見ているのは、橙ちゃんのお母さんの藍さんか。

リグルは妖怪、チルノは妖精、橙ちゃんは…………えっと幼獣だったっけ??
とにかく、名前と光景だけを見ると、ここがファンタジー世界のユートピアに見えてくる。
そう、ここが生物兵器の実験場だと忘れてしまいそうな平和的な光景だ。

「あ!ハニュー、そんな所でどうしたんだ??」

あ、チルノに見つかっちゃった。

「ハニューさん!何か用ですか??」


「用なんて無いよ。」






「本当ですか?遠慮しなくていいですよ?」

う…
そんなこと言われると甘えたくなってしまう。

これから、うどんげ達を救いに行くのだが、はっきり言って作戦らしい作戦も無いですし、自信もありません。
俺より強力な生物兵器である三人の力を借りれれば、それだけでも心強いのですが…



……………やっぱり、巻き込むわけにはいかないな。
こんな光景を守るために俺は頑張ると決めたんだ。
守る対象を戦闘に巻き込んだら意味が無いじゃないか。

「本当だよ。三人のママゴトを見ているのが楽しいから、ちょっと見ていただけさ。」

「そうですか…」

納得の行かない目でハニューを見るリグル。
しかし、そんなリグルとハニューにチルノが突然割り込んできた。

「ねえリグル~、やっぱりあたいもお母さんやりたいなー」


「ええ!?えーと…



 じゃあ、橙もチルノもお母さん役にしようか。」

お母さんが二人か、こういう展開ってママゴトにはよくあるよな。
微笑ましい話です。
さてと、時間が無いから俺はそろそろ行くとするかな。


「わかった!



 リグル!!あの泥棒猫といつになったら別れるの!?
 あたいの体が溶けそうなぐらい、愛しているって言ったのは嘘だったの!?」
橙を指差しながら、リグルに抱きつくチルノ。

「え?チルノ!?」



「ちょっと待ってよ!あなた!どういうことなの!浮気してたの!?」
チルノの行動を冗談ととったのか、悪戯っぽい顔をして、リグルに迫る橙。


「違うよ!?浮気なんてしてないよ!!僕が言いたいのは、二人で仲良くお母さんをやればいいってことだけで…」



「わかった。リグルはハーレムを作りたいって言っているんだな!!あたいったら天才ね!!」

「………………………………………実家に帰らせていただきます。」



「橙!?だからそういう意味じゃなくて…」

「いしゃりょうをせいきゅうする!」

「チルノ!?意味分かってないで、言ってるでしょ!」




……………なかなか、ギスギスしたママゴトで…
でもまあ、子供のやることだから、これはこれで微笑ましいとも「よくも橙の心を弄んだなー!!たとえ遊びでも、この展開は許せん!!」

ちょっ!?親が子供の遊びに乱入しちゃ駄目ーーーー!?

----------
異変当日午後18時00分
~ハニューの部屋~

藍さんを止めていたら、また道草を食ってしまった。
もう殆んど夜だよ。

あの後、ストーカーさんが現れて藍さんを落ち着かせてくれました。
二人はその後、お嬢様の所に向かったようです。
因みに、橙ちゃんは「そろそろ家に帰るように」と言われていました。

それはとにかく、時間が無いから早速出かけよう。
正直、うどんげ達に逃げるように伝えるか、うどんげ達の命乞いをするぐらいしか方法が思いつかないが…

ガチャ!

「ハニュー総帥、お出かけですか?」

「な、なんでもないよ!」

「出かけられるのでしたら、お供しますが?」

「だから、どこにも出かけないから!」

「わかりました…」

バタン…

危なかった、部屋を出たら、いきなり部員と鉢合わせした。
出かけるのが誰かに見られていると、後ほど「私が抹殺しようとした、うどんげを逃がしたのはハニューだって噂を聞いたわよ…とりあえず死ね!!」
という感じで、博麗の巫女に腹いせで殺されるかもしれない。

あ…

そうだった…よく考えれば、それ以前に、このままの格好じゃ不味い。
今回の行動では博麗の巫女と鉢合わせになる可能性が大きい。
だから、悪あがきかもしれないが、変装して正体が分からないようにしないと、確実に殺されるじゃないか\(^o^)/

----------

side レミリア・スカーレット
異変当日午後18時10分
~紅魔館 レミリア・スカーレットの部屋~

ハニューが、クローゼットをひっくり返して、変装に四苦八苦していたとき。
レミリアの部屋には、仮面で変装した怪しい人物達が集まっていた。

「咲夜?準備はいい?」

「はい、大丈夫です。」

こっちは準備完了、後は…

「こっちも、大丈夫よ。藍もいいわね?」

「問題ありません。」
あちらも準備はできたようね。



「それじゃあ、異変を解決して霊夢の心をゲットする大作戦、開始よ!!!
 頑張ろうーー!!えいえいおーーーー!!!」

笑顔で拳を突き上げる紫。
だが、それに続くものは誰もいなかった。

side フランドール・スカーレット
~紅魔館 別館 フランドール・スカーレットの部屋~

「お姉さま!馬鹿な真似はやめて!!!!!



 レミリアちゃんウフフなんて絶対に流行らないわ、ムニャムニャ…」

side 霧雨 魔理沙
~霧雨魔理沙の家~

異変に向けて各勢力が動く中、異変解決の先頭を切らなくてはいけないはずの二人は…



まだ家の中にいた。

「霊夢!やっぱりおかしいぜ!今日も月が満月にならないなんて、絶対異変だぜ!」

「異変ねえ…
 最近、ハニューとかが頑張っているみたいだから、何もしなくていいんじゃない…

 それにだるいし…」

流石に、それは不味いんじゃ…

でも、霊夢はこう見えても頑固な所があるからな。
こうなったら仕方ないぜ。


「分かったよ…。

 私は紅魔館かどこかでパートナーを見つけて異変を解決してくるぜ!」



「……………………行く!

 やっぱり私も行く!行って異変を解決する!!!」

いきなり、急にやる気を出すなんて、どうしたんだぜ???

----------

side ハニュー
異変当日午後19時00分
~紅魔館 ハニューの部屋~

霊夢が慌てて異変解決に向かったとき、ハニューの部屋には霊夢より赤い人物が現れた。


「戦いとは、いつも二手三手先を考えて行うものだ。」

うん。こんなこともあろうかと(嘘)、シャアのコスプレを用意しておいてよかった。
これなら、仮面を被っているので誰だか分かりません。
あ、でも顔の下半分が隠れていないな、スカーフでも巻いて隠すか。




うん。完璧!


















…自分でも、流石にこれは無いわ、と思う…
が、これしか顔を隠せるものが無い。

今回はうどんげ達と俺の命がかかった非常事態だ。
ありえないとか、我がままを言っている場合じゃない。

よし、行くぞ!




ガチャ!


「だ、誰ですか!?」

あ、ドアを開けたら、今度はリグルと鉢合わせになった…
いや、あの…これはだね…


「曲者!!」


ちょっ!?


「食らえ!!」


おま!?


まずい、言い訳を言う間もなく、リグルが攻撃をしかけてきた。

どうする!?


 攻撃
 魔法
 防御
→逃げる


『ハニューは逃げ出した!』



『しかし回り込まれた!』

「逃がしませんよ!」

逃げようとしたら、虫が逃げ道を塞いでいるじゃないか。
これがリグルの能力という奴か。

ええい、こうなったら戦うしかない。
だが、まともに戦ったら『………ええい!ヤツめ………バケモノか! 』
という展開になるのは火を見るより明らかです。
こうなったら、この前からの訓練で習ってきたこと全てを投入して、一瞬の隙を突くしかない。



まずは、銃を構える。

「!?」

よし思い通り、リグルは防御の体制をとった。
その隙に、弾幕を前方に集中展開。
そして、俺もその弾幕を追いかけ、一気にリグルに接近する。

本当なら、銃で仕留めるのが一番効率がいいのですが、そんなことをしたらリグルに怪我をさせてしまいます。
そこで思いついたのがこの方法、俺の弾幕は自慢じゃないですが、スピードも威力もありません。
おまけに数もありません。

ですが、そのおかげで俺が全力で飛べば追いつくことが可能です。

つまり。

          壁
-----------------------

虫  弾幕 進行方向→
虫 俺弾幕          リグル   
虫  弾幕

-----------------------
          壁

図にすればこんな感じ。

慌てたリグルは、壁際に回避していきます。
でも、それも狙いのうちです。

俺は、弾幕と一緒にリグルの脇をすり抜けるように見せかけて、方向転換。
リグルの、真横から飛び掛り、いっきに格闘戦に。

          壁
-----------------------
  虫             リグル
  虫              俺 弾幕
  虫                弾幕
  虫                弾幕
  虫
-----------------------
          壁

「しまった!ううっ…くそっ動けない!?」

よし、隙を突いたおかげで、一発で間接が決まった。
訓練で教えられた通り、関節を使った拘束術は格上の相手と戦う時に有効だな。
しかし、そう教えられていたとはいえ、俺より高性能の生物兵器であるリグルを押さえられるとは…
ゲンソウキョウは弾幕ごっこのために、格闘戦が軽視されていると教官が言っていたが、本当なんだな。


「僕をどうする気だ!」

とにかく、アリスさんが開発した、この軍用呪い人形とやらで、動きを封じてから話をするか。




フニ!

「キャ!?」


ご、ごめんなさい!?
ああああああれ?
なんで、リグルの胸が女の子のような感触になっているのですか!?というより、この声の出方とかまるっきり女の子に悪戯しているみたいなのですけど。
そうか、これはシリコンのPAD…こんなものに驚かされるとは冗談ではない!!!

ドン!!!

ってしまった。
慌てて力を緩めてしまったせいで、リグルに弾き飛ばされた。

しかし、まだ俺が有利な状況だ。
リグルは、まだ起き上がっていない。

この状況なら、振り切って逃げられる!!




「そうはさせないわ!」

ん!?
背後にいるのはミスティアか。

「チンチ●!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

キーーーーーーーーーーーーーーン

なんだこの高周波は!?
頭が痛い!!!
気が狂いそうなぐらいの、もの凄い高周波がミスティアの口から出されている!!

ええい、なんということだ、ダメージは無いがまともに動くことができない。
まずいぞ、このままじゃ復活したリグルに捕まってしまう。


「や、やめてミスティアーーーーー!?」

あ、リグルも巻き込まれてた…

しかしこのままじゃ、頭がどうにかなりそうだ。
クソッこうなったら、窓を壊してそこから逃げるしかない。
銃を、レーザーモード…いや、ビームモードに切り替えて…

ビシューン!!!!        ガシャン!


銃を打ち込み、窓を壊すハニュー。
そこから、ハニューが脱出しようとしたとき、ハニューの頭に金色の杖が突きつけられた。

!?

「動くと撃ちます。」
今度は大ちゃんか。

「ヘルメットを取ってください。そして後ろを向いてください。」
有無を言わさない雰囲気で命令してくる大ちゃん。

大ちゃん、ずいぶんと勇ましくなって…


大ちゃんに言われるまま、ヘルメットとマスク、そしてスカーフを取るハニュー。

「!?」

不審人物の正体がハニューで驚く大ちゃん。

あ、この光景、シャアとセイラさんがサイド7で出会うファーストガンダム第二話のシーンとそっくりじゃね!?
ということで、思わず勢いでヘルメットとマスクを取ってしまいました。


というのは嘘で、大ちゃんの目が『不審な行動をしたら、頭に風穴を開けると』と言っていたので、怖くて言うことを聞きました。
でも、これはこれで正解だったかもしれない。
なんといっても、大ちゃんに正体を知られたおかげで、もう攻撃を受ける心配はないですからね。
だが、このまま下手に事情を話してしまうと、大ちゃんを巻き込んでしまう。
ここは、逃げるに限る。

ガシン!

大ちゃんの杖を、サマーソルトキックで蹴り飛ばすハニュー。

見たか!この体ならではの重力を無視した動き。

これで大ちゃんの杖は遥か彼方に…




うん、杖は手元にあるね。
大ちゃん自身も、少しバランスを崩した程度ですか、そうですか。
相変わらずだが、絶望的なスペックの差に泣いた。


「この異変から身をひいてくれないか、大ちゃん。」

とにかく、気を取り直して、ジャブローでのシャア風に捨て台詞を吐いて逃げてしまおう。

「ハニューちゃん!?どこに行くの!?」

ハニューの前に瞬時に回りこむ大ちゃん。

っつ!
シャアのようには行かないか。

「それは言えない!」

「それなら、私…ハニューちゃんの傍を離れない!!」

必死な表情で、ハニューを見つめる大ちゃん。

……それは余計にまずい。
よし、何時も使っている手だが、上手く嘘をついて逃れよう。

「俺は、これから異変に介入して、うどんげ達を博麗の巫女から救いに行く。
 簡単で直ぐに終わることだから、大ちゃんは紅魔館で待ってて!!」











「簡単で直ぐ終わるなら、着いていってもいいよね。」





……………し…失敗した…。

「いや、あの…その…簡単だけど、場合によっては危ないというか…何と言うか…


 その…分かってよ。」

「わからないよ!危険なら、どうして一人で行こうとするの!」

「そうですよ!危険ならジオン全員で対応すべきです!」 「そうよ!」

っつ、まずい、大ちゃんを説得する前にリグルとミスティアが話に入ってきた。

「駄目だ!これは俺の個人的な欲から出ていること!そんなことで大ちゃん達やジオンの皆を危険に晒すわけにはいかない!」

「でも!!」

ハニューにしがみ付こうとする大ちゃん。

「これは総帥命令だ!」

「え!?」

よし!隙が出来た!

「ごめん!」

《バン!!!!!!!》
「キャッ!?」「うわ!!」「チン!?」


スタングレネードを床で破裂させたハニューは、夜の闇に姿を眩ますのだった。
(注釈 スタングレネード 閃光と爆発により、相手の聴力と視力を奪う非殺傷兵器)





危なかった…
生物兵器というか…軍人にとって階級は絶対だからな、ただの部活の部長が「これは総帥命令だ!」というだけで、条件反射で命令を聞いてしまって隙ができるのではないか?
という賭けだったが…うまく行ったみたいだな。

ありがとう皆。
そしてごめん。

いくら、うどんげ達を見捨てられないからと言っても、俺の行動はあまりにも向こう見ずで、滅茶苦茶だというのは分かっている。
それを見て、友人として危険を承知で俺を放っておけないという皆の気持ちも、もの凄く分かるし…嬉しい。
でもな、だからこそ、そんな優しい大ちゃん達を巻き込むわけにはいかないんだよ!!






………しかし不味いことになったぞ、成り行きとはいえ、俺の目的を大ちゃん達が知ってしまった。
俺が悠長なことをしていると、大ちゃん達が俺を追ってきて、最悪の場合、俺より先に博麗の巫女と鉢合わせになるかもしれない。
急がないと。

side ミスティア・ローレライ
~紅魔館 ハニューの部屋近くの廊下~

ハニューが飛び去った後、それを追いかけようとする大ちゃんをリグルが引き止めていた。


チンチン…
どうしたらいいのかしら…
ハニューちゃんを助けたい…、でも助けるなと命令されちゃった…

「私!ハニューちゃんを追いかける!」

「でも、それじゃ命令違反ですよ!
 それに、ハニューさんの大ちゃんを巻き込みたくないという思いに反することになりますよ!


 ………………………ねえ大ちゃん…本当にそれでいいの?」

「本当にそれでいいの!」

!?

「私は、ジオンの大妖精としてではない、私個人としてハニューちゃんを助けたいの!」

「!?で、でも、ハニューさんの思いはどうなるんですか!」

大ちゃんの理屈に驚きながらも、反論するリグル。

「ハニューちゃんの思いは間違っているの。だから、直接会って説得する。」

「間違ってる!?」

チンチン!?どういうことかしら…

「さっきのハニューちゃん、リグルちゃんを完全に押さえ込めたのに、リグルちゃんの嫌がる素振りを見て、力を緩めたの気がついた?」

そういえば、さっきのハニューちゃん、リグルちゃんを押さえ込んだとき、リグルちゃんが悲鳴を上げたら急に動きが鈍くなったわ。

「ハニューちゃんはね。もの凄く優しい人なの、だから友達のリグルちゃんには冷徹になり切れなかったと思うの…」

なるほど、さっきのは、そういうことだったのね…

「そんなハニューちゃんが、レイセンさん達を助けに行ったらどうなると思う?」

「え?ええっと…」

「絶対に失敗すると思うの。
 さっきハニューちゃんは異変って言ったよね。つまり、霊夢さん達が出てくるってこと。
 なのにハニューちゃんは、攻撃してくる霊夢さん達と仲良くしていた時期もあったのよ。
 やさしいハニューちゃんだったら、さっきみたいに隙ができて絶対に失敗しちゃう。
 だから、私達がハニューちゃんを助けてあげないと!!」

確かに、大ちゃんの言う可能性はあるわね。

「でも待ってよ!
 例えそうだとしても、僕達が出て行った時点で、ハニューさんの気持ちに反したことには変わらないよ!」

「心配してくれてありがとう。
 でも、別にそれでもいいの。
 ハニューちゃんと私は、お互いが望んでいることを、お互いが分かり合える、そんな関係になりたいって私は言ったよね…


 でもそのためには、まずは間違っていることを間違ってるって、教えてあげられるような対等な関係にならないといけないと思うの。
 
 それにね、私だっていつも遊んでいた訳じゃないんだよ?
 自分の身は自分で守れるぐらいにはなったんだよ?」

金色の杖を見て微笑む大ちゃん。


大ちゃん…ここまで考えていたなんて…成長したわね。

「み、ミスティア~」

見るからに「困っています」という表情で、ミスティアに助けを求めるリグル。

「リグルちゃんの負けよ。本当はリグルちゃんだって、助けに行きたいのよね?」

「そ、そうだけど…」

「じゃあ決まり!大ちゃん、リグルちゃん、すぐに出発するわよ!
 それからリグルちゃん、蛍を司令部に飛ばして!」


side シトリン
異変当日午後19時20分
~紅魔館地下 ジオン中央総合司令部~

突如、司令部に飛び込んできた蛍の集団。
司令部に詰めていた者達は、冥界組みの一人が「これは、モールス信号じゃ!」と声を上げるまで、蛍の集団の目的がわからず殺虫剤を探して右往左往するばかりだった。

だがその混乱は、その後の混乱に比べれば小さなものだった。

混乱の原因は、親衛隊だった。
親衛隊が、蛍から伝えられたハニュー総帥の命令を無視して、出撃準備に入ったからである。
その動きを司令部は止めようとしたが、親衛隊のアイリス隊長は
「親衛隊は、総帥の身に危険が迫っている場合、総帥の命令を無視して行動できると規則で決まっている。何も問題は無い。」
と異変が起きている=ハニュー総帥の身が危険。
という意見を主張し、待機命令を出す司令部を無視したのである。

これを受け、司令部を率いるシトリン指令代行は苦渋の決断を迫られることになった。
親衛隊の主張は拡大解釈ではあるが、規則に則った行動である。
しかし、アイリスの行動が大妖精の行動に触発されているのは、火を見るより明らかだった。
アイリスと大妖精。
ハニュー総帥を巡っての、この二人の確執はジオン内では有名な話だった。
噂好きの者達の間では、アイリス派と大妖精派の全面抗争はいつになるのか?
正妻の座を射止めるのはどちらになるのか?
などと噂が絶えなかった。
派閥争いが原因でハニュー総帥の命令を無視し、軍事行動を起こす。
そのように考えた場合、アイリスの行動は、組織として許されるものではなかった。
だが、シトリンにはアイリスの行動を容認したいという思いもあった。
それは、親友としてアイリスの気持ちが痛いほど分かったためであり、自分自身も今回ばかりはハニュー総帥の行動に問題があると感じていたからだ。

アイリスの行動を司令部として追認すべきか、追認しないべきか。
追認すれば、拡大解釈という悪しき前例が生まれ、追認しなければ、司令部と親衛隊が対立したという事実が残る。
それは組織を分裂させ、アイリスとの友情に亀裂が入れることになる。
そう悩むシトリンにそっと近付く人物がいた。

ルーミアである。

「今回の件は、ハニューに問題があるのだー。後でしっかりとルーミアがお灸を据えておくから、ここはルーミアに任せるのだ。


 ルーミア副指令より発令。
 親衛隊が根拠としている命令は、不正規の方法で伝達された、出所不明のものである。
 よって、正式な命令を受領するため、親衛隊にはハニュー総帥との接触を命じる。
 なお、異変が発生しているため、全軍に召集命令を発令。出撃準備が整い次第、中隊単位で順次出撃。
 部隊集結地点は、追って指示する。

 とまあ、こんな感じなのだー」
ルーミアの機転の利いた行動にシトリンは救われた。
ルーミアが出した命令、それは親衛隊の行動を追認しつつ、その行動の問題点を指摘することにより、司令部による全軍のコントロールを復活させるものだった。
バランスに配慮した、全てをまるく収めるような命令だったが、これには一つだけ問題があった。
それは、このような命令は、暗にハニューの命令の出し方に問題があると言っているに等しいものだったからだ。
つまり、そのことがハニューの逆鱗に触れた場合、ルーミアの立場は非常に厳しい状態になってしまうのだった。

しかし、ルーミアはその危険性について気にした様子は見せていなかった。
シトリンは、格の違いを見せ付けられたような思いがした。

side アイリス
異変当日午後19時30分
~紅魔館中庭~

紅魔館の中庭。
そこには、親衛隊の出撃準備の指揮をするアイリスの姿があった。

「ハニュー総帥との接触命令だと?」

「ハッ、司令部からの正式な命令です。」

命令は…ルーミア副指令からか。
あの方は大妖精に近い立場ゆえ、最悪の場合、妨害してくるかと思ったが…流石ハニュー総帥の右腕、そんなに小さい人ではなかったか。
嬉しい誤算というべきかな。
いや、猜疑心に苛まれていた自らを恥じるべき話というべきか…

「隊長?いかがしますか?」

「命令に従うだけさ。さあ、急げ!」

「「「ハッ!」」」

各々の中隊へ飛んでいく中隊長達。
その向かう先では、妖精・妖怪・亡霊・幽霊で溢れかえっていた。
親衛隊の全戦力、約一個大隊と支援部隊が集結した中庭は、足の踏み場も無い状態だった。

そんな中、まるで迷いを断ち切るかのような大声で指示を出す男の姿があった。

side 森近 霖之助
~紅魔館中庭~

「おい!こいつは結構デリケートな機械なんだ!もっと丁寧に扱ってくれ!」

「そんなこと言っても、これから実戦ですよ?丁寧に扱う余裕なんてないですよ。」

「そりゃそうだが…」

霖之助は苦しんでいた。
それは、ジオンに入隊し、そこで開発した武器が実戦に投入されることになったからだ。
自分の技術が使われた機械に出番が回ってくる。
技術者としては喜ぶべきことだったが、それが霊夢達へ使われるかもしれないという事実に霖之助は苦しんでいた。

ジオンに入ることを決意したとき、いずれはこういう日が来ることを霖之助は分かっていた。
だが、ここまで早い時期に来るとは思っていなかったのだ。

そんな霖之助の葛藤を見透かしたような声が、霖之助にかけられる。

「あなたの手がけたミニ八卦炉は、あれだけ手荒に扱われているのに、今もなお無事に動いていますよね?
 その威力は妖精や妖怪の間でも有名なぐらいです。
 だからあの兵器も無事に動くはずです、自信を持ってください。」

霖之助に声をかけたのは『にとり』だった。
にとりの言葉は霖之助を気遣ってのものだったが、霖之助はその言葉から、ある事に気が付いてしまった。

僕の作った武器は、既に多くの妖精や妖怪を倒している。
その矛先が変わっただけで、良心に苛まされるなんて偽善もいいところだ。

「そうですよ!霖之助さんは自信を持ってください!
 私の婚約者はジオンでナンバーワンの技術者でしょ!!」

霖之助を励ます朱鷺子。

朱鷺子…
そうだ、僕は朱鷺子の幸せのためにここにいる。
…………それが一番大切なことじゃないか。



二人ともごめん。
僕はもう、そちら側の人間では無くなってしまったんだよ。

「機器の最終調整を行う!特科小隊の出撃はあと10分待ってくれ!」


霖之助はもう大丈夫だと感じたにとりは、自らの仕事に戻っていった。
霖之助と同じ様に、にとりにも、にとり自身の調整を待っている装備があった。

side 河城 にとり
異変当日午後19時40分
~紅魔館中庭~

「光学迷彩の調整は完璧です。
 武運を祈ります。」

「河城局長に敬礼!」

にとりに一斉に敬礼を行う少女達。
その少女達の装備は、周りの親衛隊とは異なっていた。

特殊作戦小隊…
冥界組みと魔界の教導のもと、腕利きの妖精とほんの少しの妖怪を集めた特殊部隊。
名前だけは立派ですが、たった三ヶ月の練兵でどこまで実戦に耐えられるかどうか…

やはり、彼女達が無事に帰ってこられるかどうかは、私の光学迷彩にかかっていますね。

side パチュリー・ノーレッジ
異変当日午後19時50分
~紅魔館 中庭を見下ろすテラス~

まるで戦争のような騒ぎになっている中庭を見下ろす位置に、パチュリーと小悪魔はいた。


出撃管制をしているのだろう。
赤と白のライトを持った妖精と亡霊が飛び回る中、次々と妖精達が中庭を飛び立ち、紅魔館上空で陣形を組んでいく。

飛び立つ彼女達の姿は三つに分けられた。
筒状のものを持った妖精達。
直径二メートル以上もある八角形の物体を数人掛りで運ぶ妖精達。
箒のようなものに跨る妖精達。

筒状のものは、外の世界の銃によくにている。
八角形の物体は、魔理沙のミニ八卦炉にそっくり。
箒のようなものは…確か『こあ』に相談を持ちかけられた「そろそろ部屋に戻りませんか?パチュリー様?」

小悪魔に後ろから抱き締められるパチュリー。

「で、でも気にならない?」
そう口では答えるが、小悪魔の甘い囁きに耐えられる訳が無いとパチュリーは感じた。

「私はパチュリー様しか、気になりません。」

もう、どうでもいいわ…

そう感じる自分は、完全に堕ちている。
パチュリーはそう自覚したが、それだけだった。




いくつもの閃光が瞬く迷いの竹林上空。
そこに向けて、親衛隊が次々と出撃していく。

それを尻目に、パチュリーと小悪魔は図書館へと消えていった。

side 紅 美鈴
~紅魔館 門前~

レミリアと紫の秘密会議に出席したはずなのに、なぜか存在を忘れられている人物がいた。


さっきから、紅魔館が騒がしいなあ。
何かお祭りでもやっているのかな。
私も、参加したいなあ…

「門番さんこんばんは!」

ん?
せ、セトルンさん…
まさか、またおっぱいがどうのこうのって用事で…

「セトルンさんどうしました?」

少し引きながら、話しかける美鈴。

「これから、いっぱい妖精や妖怪が紅魔館に来ると思いますが、ジオンの徽章をつけていたら通してあげてください。
 全員妹様のお招きです。」

妹様が招いた??
やっぱり、お祭りでもしているのかなあ。

はあ…私も参加したい。

ルーミアが出した非常召集は、紅魔館の妖精メイド以外の妖精・妖怪達への発信されていた。
召集を受けた彼女達は、紅魔館に集まることになっていた。
しかし一つ問題がある、彼女達は紅魔館の関係者ではないのに、紅魔館に集まらなくてはいけないのである。
少人数なら、にとりやアリスがやっているように、ハニュー個人への訪問だという理由で問題ないが、それが何百人以上となると無理がある。
よって、そのような場合はフランドールが招いたことにするよう、事前にフランドールから承諾を得ていたのだった。

----------
side ハニュー
異変当日午後20時00分
~幻想郷上空~

紅魔館を全速力で飛び出したハニューだったが、ここにいたって立ち往生していた。


さて、飛び出したのはいいが、どうやって病院に行けばいいのか…
別にまったく位置が分からないというわけではない。
だが夜に、しかも一人で向かうのは初めてなので、少し自信が無いなあ。

さらに厄介なのが、先ほどからもの凄い量の弾幕が空を飛び交っているのが遠くの方に見えるんですよね…
特に弾幕の量が多い所が二箇所。
この二つのうちの片方が、多分病院なんでしょうけど…間違って顔を突っ込んだら、色々と終わりになりかねないぐらい激しい戦闘です。

どっちなんだろう…
多分、少し右寄りの方向で、もの凄く派手に弾幕が飛び交っているのが病院で、それより規模が小さい左寄りのが人間の里辺りだと思うのだが…
イマイチ確証が持てない。




こうなったら…





誰か見つけて、道を聞こう。

うん、シンプルだがそれがいい。



お!
早速一人発見。

古めかしい傘と、オッドアイが特徴的な美少女が空をフヨフヨと飛んでる。
顔をチラッと見た感じでは、悪い人では無さそうに見えるから、話しかけてみよう。


side 多々良 小傘

う~せっかく、うらめしやーって人を驚かそうと思ったのに~
今日は強い妖怪達が暴れているせいで、危なくて外に出てられないよう。
早く家に帰ろう…

「そこの君?」

え、わちきを呼ぶのは誰!?

ゆっくりと、振り返る小傘。
そこには、目と鼻の先に赤い服にマスクとヘルメットとスカーフをつけた謎の人物が、格好つけたポーズ浮かんでいた。

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

へ、変態だーーーー!?





変態!?怪しい人!?ナンパ!?
何なのこの人ー!?

side ハニュー

「こ、こないでー」

いったいなんなんだ!?
シャアのコスプレだと分かり易いように、片手を腰に持ってきた、いかにもシャアって感じの格好をつけたポーズで声をかけたのに!
いきなり傘をぶんぶん振り回してきたぞ!?

この子は美少女系で大人しそうに見えたのに、こんな乱暴なことをするなんて。
予想外だ。

とにかく、こんな状態じゃ会話もできません。

彼女には悪いですが、この傘を取り上げてしまいましょう。
びろーんと傘から伸びた舌(?)が、傘を捕まえるのにちょうど良さそうです。


よし!今だ!!


傘から伸びた舌を右手でしっかり握るハニュー。


あれ?


ちょっつ!?
どうして俺も、傘と一緒に振り回されるのー!?


傘と一緒にぶんぶんと振り回されるハニュー。
それもそのはず、小傘は霊夢や紫から見たら下級クラスの妖怪と判断する程度の存在だが、幻想郷全体から見た場合は雲の上の存在と言えた。
つまり、その力は並みの妖精の何十倍にも達しているのだった。

「離してー離してー」
パニックになりながら、傘とハニューを振り回し続ける小傘。

小傘がこの程度でパニックになるには理由があった。
ハニューは、小傘の傘はただの傘だと思っていたが、小傘の傘は小傘そのものである。
つまり、小傘から見れば、怪しい格好をした謎の人物に自分の舌を握られているのと同じ状態だった。
セクハラもいいところである。



ま、まずい。
この体になって、こういうGがかかる激しい動きには慣れていたはずなのですが…
流石にこれは耐えられない。
しかも、なにやら弾幕らしきもまで打ち出され始めたし…


もっと、しっかりしがみ付かないと。


舌をよじ登り、体全体を使って傘にしがみ付くハニュー。

「この距離ではその武器はつかえまい!!」
思わず、こんな台詞が出るなんて俺って思ったより余裕だ「嫌ああああ!?」

あ、ちょっ!?

悲鳴と共に、思わず傘を手放す小傘。
ハニューと傘は遠心力に任されるまま、暗い森に落ちていった。


「か、傘ーーーー!?」


side 多々良 小傘

小傘は愕然としていた。
それは、言葉通り、半身である傘を誘拐されたこと。
そして、冷静になって初めて気がついたことだったが、人を驚かすことを生業としている自分が、逆にパニックになるほど驚かされたからだった。

傘を取り戻すために、あの人を追いかけなくてはいけない。
だったら、あの人を見つけたら、驚かすことについて何か教えを請うのもいいかもしれない。

小傘は、弱い妖怪であり、どちらかというと⑨な妖怪だと言われている。
だが、そんな彼女は実は勉強家であり努力家であることは意外と知られていなかった。

「赤い人!!どこですか~」


side 博麗 霊夢
異変当日午後20時10分
~人間の里上空~

暗い森に消えたハニューを小傘が探していた頃、人間の里上空には三つの影があった。

そのうち二つは、霊夢と魔理沙。
そしてもう一つは、慧音だった。

「なんだか、一面と二面をすっ飛ばして、いきなり三面に来たような雰囲気ね…」

「何言ってるんだ霊夢?」

「なんでもない、独り言よ。それよりこの妖怪を退治しないと。」


「お前達か。こんな真夜中に里を襲おうとする奴は!」

「うにゃ。通りがかっただけだ。気にするな。「この惨状はあんたの仕業ね? 人間と人間の里を何処にやったの?」って霊夢!話をややこしくするな!」

ややこしくないわよ。
ここにあったはずの、人間の里が消えているじゃない!
こんな異変、博麗の巫女として見逃すわけには行かないわ!

霊夢と魔理沙の真下。
そこには本来、人間の里があるはずだった。
しかし、そこには森が広がっているだけだった。
これは慧音が異変を察知し、能力を使って人間の里を歴史から隠してしまったためだ。
里を守るための行動だったが、霊夢には慧音が人間の里を消すという重罪を犯したようにしか見えなかった。

side 多々良 小傘
~森の中~

人間の里上空で火蓋が切って落とされたとき、小傘は森の一角で、大の字になってひっくり返っているハニューと傘を見つけることができた。

小傘がハニューを見つけるのは簡単だった。
それは、傘が小傘の一部だからであり、その位置を小傘は感じることができるからだ。

ハニューの傍に、フワリと降り立つ小傘。

直ぐに見つかってよかった。
「赤い人ー?大丈夫ですか?」


「ううう…お願いだ…俺を病院に連れて行ってくれ…」

「怪我をさせちゃってごめんなさい!」

「俺の怪我なんてどうでもいい!!!」

!!!!????

「そうじゃないんだ…やらないといけないことがあるんだ、多くの人の命がかかっている…

 お願いだ…

 グフ…」

そんな大事なこと、出会ったばかりの私に頼むことなのー!?

突然のハニューの申し出に驚かされる小傘。
だが、小傘はその事実に喜んでいた。


本当にこの人凄い、また驚かされた!!!!!

やっぱり、この人から色々と人を驚かすテクニックを学ぶべきだね。















変態かもしれないけど。


side 八意 永琳
異変当日午後21時00分
~永遠亭 地下研究室~

作戦成功に向けて邁進する、作戦参加者達。
永琳は研究室から、それら全てを見ていた。
永琳の周りには幾つものモニターが浮揚し、永琳に必要な情報を瞬時に映し出していた。

姫様の方は、順調に準備を進めている。
妨害が無ければ、予定通り今夜中には計画が完了するわね。

となると問題は、やはりこっちのほうね。

永琳の目の前に移動してきたモニター、そこには野良妖精や兎妖怪を蹴り散らしながら進む覆面姿の四人組がいた。



この四人か…想定していたとはいえ、厄介な相手ね。

「レイセン?準備はいい?」

モニター越しに、レイセンに話しかける永琳。

「はい…大丈夫です。」

その言葉とは裏腹に、レイセンの表情は優れなかった。

「薬は飲んだ?」

「飲みました…でも、本当に勝てるのでしょうか?」

「勝てないわ。」

モニターの向こうのレイセンの顔が青くなる。

「相手は、八雲紫、八雲藍、レミリア・スカーレット、十六夜咲夜の四人。
 流石に強化したあなたでも一人では勝てないわ。
 でも、勝つ必要なんて無い。
 説明したでしょ?時間を稼げばそれでいいのよ、思いっきり混乱させてやりなさい。

 私の弟子のあなたならできるわ。自信を持ちなさい。」

「はいっ!」

レイセンの表情が明るくなったのを確認すると、永琳は次のモニターに視線を移す。
そこには『てゐ』の姿があった。

「どう?部隊は予定通り動いてる?」

「集団戦は私達兎妖怪の十八番だからね。」

そう胸を張るてゐ。
てゐの写った横にあるモニターを覗くと、例の四人が侵攻してくる方向に部隊が集結しつつあることが分かった。

「他の戦線全ての予備兵力を抽出し、レイセンと連携させるように動かしてる。」

永琳の見ているモニターを補足するてゐ。

大胆な指揮を執っていると永琳は思った。
四人に対しては効果的な部隊配置だが、これでは別働隊が現れたら簡単に戦線を突破されてしまうからだ。

永琳の疑問を感じ取ったのか、てゐはさらに補足する。
「ここを抑えなければ、どのみち私達の負けさ。
 それに、どいつもこいつも半端な戦力で止められるような相手じゃないからね。」

「だからって、永遠亭の守りが結界とこれだけの兎妖怪じゃ、ちょっと少なすぎるように感じるけど。」

「ちゃんと手は打ってる。防衛線の連中とは連絡を密にしているから、いざとなったら私自身が足止めにいくさ。」

すらすらと答えるてゐ。
だが、永琳はてゐの性格からして、作戦内容がそれだけとは思えなかった。

「それが作戦の骨子かしら?まだ他に何かあるんじゃないの?」

「流石、賢い月の御仁は鋭いね。
 幻想郷の奴らは派手な戦いが好きだからな、派手に戦って敵の目をレイセンの方に引き付ければ引き付けるほど、永遠亭は安全になるっていう裏の狙いがあるわけさ。
 それとついでに話しておくけど、結界も防衛線も通用しない妖怪は、そちらで対策済みだと思って無視することにしたからね。」
 
なるほど、流石ね。

てゐは見た目が幼く、妖精や妖怪の子供と一緒に遊んでいる姿は子供そのものに見える。
しかしその正体は、千年もの時を生きた妖怪であり、妖怪兎の実質的なリーダーだった。
そんな彼女の行動は、長年の経験と感によって裏付けられていたのである。


side 十六夜 咲夜
異変当日午後21時10分
~迷いの竹林上空~

「甘い!甘い!甘すぎるわーーーー!こんな雑兵では足止めにもならないわよ!


 霊夢ー私が全部異変を解決してあげるから、シャワーを浴びて待っててねーーー!!」

八雲紫…
どうみても、ただの馬鹿ね…


でも強い。

迷いの竹林上空を進撃する四人。
その先頭を進む紫は、目の前に現れる者達を片っ端からスキマ送りにしていた。


「あら?変ね…」

「紫様?どうされました?」

急に八雲紫の動きが止まった?
どうしたのかしら。

「咲夜、警戒しなさい!何か妙よ。」

お嬢様?

「藍、三匹片付けなさい。10秒以内。」

「はい、紫様。」

正確な射撃で、三匹の妖怪兎に攻撃を加える藍。
しかし、命中するかと思った弾幕は、全て妖怪兎をすり抜けていった。

!?

幻!?

瞬時に、敵の正体にあたりをつける咲夜。
が、次の瞬間、幻のはずの妖怪兎達が弾幕を打ち出す。


この弾幕も幻?
なら当たっても「避けなさい咲夜!!!!」お嬢様!?

弾幕が咲夜に命中するかと思った瞬間、突然スキマから巨石が現れ、咲夜の盾になる。

次々と巨石に命中する弾幕。
巨石はいくつもの穴を開けられながら、竹林の中へと落下していった。

「藍。何発命中したかしら?」

「25発です。」

「命中痕は何個?」

「12個です。」

「ふうん…フェイクと本物が混ざっているみたいね。面白いわね。」

幻の中に、本物が混ざっていたということなのかしら。
これが敵の能力だというの?

「面白いだなんて、随分と余裕のある話ね。もしかして、敵のあたりがついているのかしら?」

紫に問うレミリア。

「これは多分、波長を操る程度の能力を持っている、月の兎のせいね。」

「波長を操る程度の能力?」

「万物に存在する波長、それを操ることにより、いろいろなことができるらしいのよ。
 なんでも、気を狂わせたり、迷いの竹林を迷路に見せかけたり、かなり応用が利く能力らしいわ。
 だから、恐らくさっきのもそれの応用よ。
 弾幕やそれを撃った妖怪兎の波長をいじって、こちらの探知を逃れたり、位置を錯覚させたりしていたのだと思うわ。」

なるほど、となるとかなり厄介な能力ね。
相手がその気になったら、私達を永遠に迷わせることも…
「お嬢様、いかがいたしますか?」

「ふん!

 咲夜、私を誰だと思っているの?
 どこにいるのか分からないなら、全て吹き飛ばせばいいわ。


 『幼きデーモンロード』!!!!!」

レーザーのような弾幕を滅茶苦茶に打ち込むレミリア。

驚く咲夜に、レミリアから命令が飛ぶ。

「咲夜!あなたも合わせなさい!」

「! はい、お嬢様!



 『デフレーションワールド』!!!」


レミリアと咲夜、二人の無差別な弾幕が、辺り一面に降り注ぐ。


《ピチューン!》



「お嬢様!!」

「咲夜。捕まえて。」




「既に。」
時間を止め、レミリアの命令を実行した咲夜の腕の中には、真っ白なワンピースを着た兎妖怪の少女が一人捕まっていた。

「あらあら。美味しそうな兎さんだこと。」

笑顔で腕の中を覗き込む紫。
その腹黒そうな笑顔に、兎妖怪の少女は震えあがった。

「でも、こんなに薬漬けじゃ、食べたら体に悪そうね。」

薬漬け?
どういう意味なの?

「どういうことよ、ミセスパープル。」

「ミスレッド、血を飲めば分かるわ。
 血の味が変わるぐらいに、薬が打たれているわよ。」

薬が打たれている?
八意永琳は、薬の作成に長けていると聞くけど…


まさか!

「血を飲まなくても分かるわ…これはドーピングという奴ね。」

「ご明察!」

胡散臭い笑顔で、レミリアを褒める紫。

「ふん!
 この子、兎妖怪のくせに妖力が大きすぎるし、掛け値なしで幼いから直ぐに変だと分かったわ。
 あなた、年はいくつ?」


「よ、四十四歳です…」

「そう…あなたのような子供には、過ぎた力ね。」

………………あの容姿で四十四歳………。
当たり前のことだけど、お嬢様といい、この兎妖怪といい、私が体の時間を止めるという血の滲む努力をしているのに「咲夜!!!!」


突如、何百という弾幕が、四人に向けて殺到してきた。

まずい!
攻撃が止まっているのが変だと思っていたけど、体制を立て直すためだったのね!?

「咲夜!もう一度やるわよ!!」

「し、しかし、お嬢様!」

「力には力でねじ伏せてやればいいわ!
 このレミリア・スカーレットがドーピングした程度の雑魚共に競り負けると思って?」


流石ですお嬢様!!!

「はい、お供します!


 ミセスパープル!手出し無用よ、私とお嬢様の力、そこで見ておきなさい!」



















「あー頑張ってね。それじゃ、私は面倒くさいから先に行っているわね。」


!?


突然、スキマを広げて中に飛び込む紫と、強引にスキマに引っ張り込まれる藍。


あまりの自体に、開いた口がふさがらない咲夜。
だが、持ち前の瀟洒さか、直ぐに咲夜は打開策を模索し始めた。

やられた!!
やっぱり、あんな奴と共闘だなんて無理だったのよ。
こうなったら、私を囮にしてでも、お嬢様には先に進んでもらうしかない。

「お嬢様!私が囮になるので、すぐにあの裏切り者を追ってください!」

必死にレミリアに進言する咲夜。

だがレミリアは、慌てていなかった。

「大丈夫よ咲夜。多分こうなるだろうと分かっていたわ。
 私達は、ここの敵と戦うことに専念しましょ。」

どのような状態でも慌てない。
流石お嬢様です。


でも、その笑みはいったい??

side 八意 永琳
異変当日午後21時15分
~永遠亭 地下研究室~

鳴り響く警報。
モニターには既に、侵入者の情報が表示されていた。

永琳は、落ち着いた表情で弓を持つと、矢を壁に向けて次々と撃ち放った。

予め強度を落としておいた壁を破壊し、そのまま突き進む矢。
その先には、スキマから飛び出した紫の姿があった。

矢に気がついた紫は、慌ててスキマに戻ろうとするが、矢の方が僅かに早かった。
矢は紫の両手、両足に突き刺ささり、そのまま紫を壁に縫い付けたのだった。

「うそぉ…何かの冗談でしょ…」

「冗談じゃないわ、事実よ。」

紫にゆっくりと近付く永琳。

八雲紫…必ず今日この場所に来ると思ったわ。

「あなたはこれで、ゲームオーバーね。全てが終わるまで、そこで拘束されているといいわ。」

「誰が、ゲームオーバーよ。
 こんなのは簡単に抜けられるわよ。






 あら?」

「八雲紫の力を封じる薬が、矢に塗りつけてあったの。
 あなたの為だけに作った薬よ、喜んで頂戴。」

「そ、そんなーゆかりん嬉しくて泣いちゃうーーー。」

嘘泣きを始める紫。
だが、永琳にはそんな紫の姿をまったく見ていなかった。


レミリア・スカーレットの手紙を読んで以来、この瞬間のために準備を整えてきたけど、こうもうまく行くと拍子抜けね。
式の姿が見えないのも妙だわ。
念のため、何か裏があると考えるべきね。


八雲紫専用の自白剤が間に合えば簡単だったけど…無いものは仕方ない。

永琳は『八雲紫の力を封じる薬』が入った注射を紫に打つと、監視のために何匹かの妖怪兎を呼び、元居た部屋へと戻っていった。


side とある 平々凡々でやる気の無い妖怪兎
異変当日午後21時45分
~迷いの竹林~

妖怪兎の大半は、レミリア達との戦闘に駆り出されていた。
これは、妖怪兎の実質的リーダーであり、前線司令官として任命された『てゐ』が、防衛線を守る各部隊を次々とレイセンの支援に向かわせたからだ。
その結果、戦い慣れている妖怪兎はレイセンの支援に、戦い慣れていない妖怪兎は防衛線に残されることになった。
これは、レミリアを始めとした強力な敵が、レイセンを強引に突破しようとしている現状では最も合理的な方法だったが、防衛線側に不安を残す配置でもあった。
よって、てゐは防衛線に残った妖怪兎達でも簡単に使える音声通話式の無線機を用意し、新たな敵の兆候を察知した場合、即座に応援に向かえる準備をしていた。
これはてゐにとって重い負担となる方法だったが、他に良い方法が無かったのである。

迷いの竹林のとある一角。
そこには、実力が伴わない戦闘凶な妖怪兎と、平々凡々でやる気の無い妖怪兎という、二匹の妖怪兎が防衛線の警備に当たっていた。
彼らは、兎本来の姿をしていた。
それもそのはず、彼らは人化ができない程度の妖力しかなく、戦闘力も低かったのだ。
故に、防衛線の警備という仕事を与えられていた。

午前中に配備されて以来、まったく敵に出会わなかった二人は、激戦区で瞬く戦闘の光を眺めていた。

「凄いなありゃ、くそう…俺も戦いたかったぜー」

「俺は遠慮しておく…紅魔館の主が相手だぞ?負けたら、血を全部吸われて干物にされるかもしれないぞ?」

「激闘の末に、敵の血肉となるか…それはそれで、心惹かれるものがあるぞ!」

「おいおい、お前は凄いドMだな。「おい!話を止めろ!」

ん?俺の軽口をそんなに必死に止めようとするなんて…「まさか本当にそういう趣味なのか?」

「違う俺はノーマルだ!そうじゃない!誰かがこっちに来る!」

なんだって!?
まさか…敵じゃないだろうな…



ん?

あれは、水色の髪の毛の妖怪の女の子と…
赤い服を着た………何者だ??

竹林の間をフヨフヨと飛んできたのは、小傘と、小傘が背負ったハニューだった。


「おい!止まれ!ここに何のようだ!」
戦闘凶な妖怪兎が警告を発する。

「病院に用があるの。道を教えて。」
それに対し、小傘は道を教えてと言いながら、どんどん妖怪兎達に接近していった。

戦闘中に病院に用があるだと…
まさか、戦いに来たとかいうことは無いよな。
この妖怪の女の子、見た目は随分と可愛いが、明らかに俺達より格上だ…間違っても戦いたくはない…

「おまえ、どこも悪そうに見えないが、何の目的だ!?」

ば、馬鹿!下手に刺激してどうする!?

「わちきは、どこも悪くないの。でも、この赤い人を助けて欲しいの。」

赤い人か…確かに、意識を失っているらしく、病院に連れて行く必要があると見える。

「その赤い奴は何者だ?」
戦闘凶な妖怪兎が問いかける。

「私の師匠になるかも知れない人かなー?」

何故に疑問系。
とにかく、ここはてゐさんに連絡を入れるべきだ。
俺達だけでは判断ができないし、下手に判断して怒られたくも無い。

「怪しい奴め!俺がその仮面を取ってやるから、そこに大人しくしていろ!」

「ごちゃごちゃ五月蝿い!!早く道を教えなさいよ。わちきだって怒ると怖いんだぞ!」

「何が怖いだ!こんな変な傘を持ちやがって!」

傘に手を伸ばす戦闘凶な妖怪兎。

彼にとって不運だったのは、ハニューに散々セクハラされた小傘は、体を触れられることに異様に敏感になっていたということだ。
そして、さらに不運だったのが、小傘は驚かすことを生業としているため、戦い慣れておらず、自分の力が普通の妖怪にとってどれだけ危険なものか、知らなかったということだった。

「何するの!」

バシっ!!!!!!!

小傘の傘で弾き飛ばされ、竹にぶち当たる戦闘凶な妖怪兎。
彼は四回もピチュッた後に、血塗れになって気絶してしまった。

「あれー??????????????????だ、大丈夫!!!!!!!!!!!」

慌てた様子で、傘の舌で戦闘凶な妖怪兎の傷口を舐め回す小傘。
これは小傘にとって非常に恥ずかしい行為であり、治療法として効果があるのか疑問に思う行動だったが、慌てた小傘にはそんなことを気にする余裕は無くなっていた。

それを見た、やる気の無い妖怪兎は、顔を真っ青にして無線機を取り出した。
小傘はただ単に、怪我をさせてしまったので傷口を舐めてあげているのだけだった。
だが、他の妖怪の餌になりやすい妖怪兎の目から見れば、それはディナーの前菜として血を啜っているようにしか見えなかった。

「てゐさん応答してください!!!病院に患者を連れて行きたいという傘の妖怪の女の子が現れました!!!通していいですか!!!」

『妖怪の女の子?そんなに病状が悪いの?』

「いえ、患者はその女の子が背負いっている人物でして…なんというか赤い服を着た、仮面の人物で、気絶しています。」

『おいおい…そんなに怪しい人物を入れるわけにはいかないだろ。』

「で、ですが、この妖怪の女の子を怒らせると、とてもじゃないですが俺達だけでは食い止められませんよ!
 既に相方が少し怒らせてしまって、ぶん殴られて、気絶して!!!
 今も血を啜られていて!!

 このままじゃ相方も俺も喰われちまう!!!!!!!!」

半狂乱になって無線機に叫ぶやる気の無い妖怪兎。

『だからといって…ちょっと待て。






 すまない、ジオンが現れた。もうそちらに構っている時間が無い。』

「そ、そんな!!助けてくださいよ!!!!!見捨てないでください!!!!!!!!!!!
 あ!もしかして、俺がてゐさんに隠れて、てゐさんのことロリババアって言っていたから怒っているんですね!!!
 謝りますから、助けてください!!!!!!!!!!」

やる気の無い妖怪兎は涙声になっていた。

『あー五月蝿い!!分かった、五秒頂戴。少し考えるから。








 その赤い服の奴は、男か?女か?』

男?女?
そんなの、顔は仮面とスカーフのようなもので隠されているから、分かるわけないだろ!!!
体型も、細身といった以外はこれといった特徴が無くて…


特徴が無い体型?


あ…胸がまっ平ら…






「お、お、男です。」

『男か。それなら、ジオンの幹部やハニューじゃないな。よし、通してやれ。
 ただし、戦闘が終わるまで、ベッドに寝かしておけ。治療は戦闘が終わってからだ。


 あーそれから…



 今晩の仕事が終わったら永遠亭の屋根に来い。』



[6470] 第二十三話 ファンネルやスーパーイナズマキックを切り払うってチートすぎる。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/08/14 23:38
第二十三話
ファンネルやスーパーイナズマキックを切り払うってチートすぎる。

side レミリア・スカーレット
異変当日22時00分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

迷いの竹林上空で、激しい戦闘を繰り広げるレミリアとレイセン。
その戦闘は、ややレイセン有利に進んでいた。
地力ではレミリア有利だったが、永琳の薬によって底上げされた能力、そして共に戦う妖怪兎の数が地力の差をひっくり返していた。

なるほど、これが月の技術力というものなのかしら?
あの兎の弾幕、なかなかの威力だわ。

「お嬢様!!」
咲夜が慌てた様子で、レミリアに近寄る。
それもそのはず、レミリアの右足、その膝から下が消し飛んでいた。

しかし、レミリアはまったく慌てていなかった。

「この程度、慌てる程じゃないわ。」
レイセンから目を離さずに、咲夜に言い放つレミリア。

「ですが!せめて治療を!」

「私は吸血鬼よ?」
レミリアが咲夜に説明すると同時に、まるで時間が巻き戻されるようにレミリアの足が復元していく。
吸血鬼であるレミリアにとって、体の一部が欠損することなど、気に留めることではなかったのだった。
だが、レイセンの弾幕が持っていた威力に対しては別だった。

この威力…
スペルカードルールなんて、ほとんど無視しているわね。
こんなもの、人間である霊夢に打ち込んでいたら、足が無くなったことを見て、良くて錯乱…悪くて失血死ね…

こんな無茶をしてくるなんて、相手も本気ということ…ね。


レミリアは、レイセンの弾幕が霊夢に当たった場合のダメージについて考えていた。
レミリアの予想によると、スペルカードという遊びをかなぐり捨てた本気の攻撃は、霊夢の心身に深刻なダメージを与えると想定された。









でもこれは、私にとって都合がいいわ。

このまま戦闘を長引かせて、霊夢が来るのを待てば…

「お嬢様!後方より何者かが接近してきます!」

来たわ!

「霊夢!!遅かった…






 何よあんた達…」


side 大ちゃん
異変当日22時01分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

レミリアとレイセンの戦闘が繰り広げられる空域に侵入してきたのは、大ちゃん達だった。

「あの!ここにハニューちゃんが、来ませんでした?」

大声でレミリアに問う大ちゃん。
「ハニュー!?知らないわよ!そんなことより、あなた達邪魔よ!」

大ちゃん達を冷たくあしらうレミリア。


ハニューちゃんはここに来ていない??

「お嬢様!第二百十三波来ます!!」

え…何!?

「死にたくなければ、さっさと逃げることね!!」
大ちゃんに向かって警告するレミリア。

「大ちゃん!!」「ま、まずいよ!!」

ミスティアちゃん?リグルちゃん?………………………!!!!!!



何も無かったはずの空間から、数千という数の弾幕が表れレミリア達と大ちゃん達を包囲する。

「何度来ても同じよ!全て打ち落としてあげるわ!    咲夜!!」
「はい、お嬢様!!!」

弾幕に向けて、次々と弾幕を発射し、相殺していくレミリアと咲夜。
この技は、これまで何百回と続くレイセンの攻撃を凌いで来た技だったが、大ちゃん達にとっては最悪の技だった。


「大ちゃん!逃げるわよ!!」

「ミスティア!?そんな強引な!!」
強引に大ちゃんの襟を掴んで引っ張り、戦闘空域から離脱しようとするミスティア。

それもそのはず、大ちゃん達のいた場所はレイセン達とレミリア達の間、レイセン達の弾幕とレミリア達の弾幕、その双方から襲われ場所だったからである。


しかし、大ちゃん達が脱出しようとするルートにも、レミリア達に向けて打ち出された弾幕の流れ弾が殺到していた。

「リグル!大ちゃん!一緒に弾幕を撃って!一人じゃ相殺しきれない!!!!」

「シュート!!」

「このッ!!」


----------


ミスティアちゃんの機転で、なんとか逃げられたけど…
これからどうしたら…

ミスティアの機転で脱出を図った大ちゃん達は、レイセン達とレミリア達の弾幕から逃げることに成功した。
だが、レイセン達を助ける為に出かけたハニューは戦闘に介入している、という仮説を立てていた大ちゃん達にとって、戦場にハニューがいなかったという状況は想定外だった。

「チンチン…ここにいないってことは、なにか理由があるのかしら…??」

ハニューちゃんがここにいない理由かあ。

「もっと他に大事な用があるとか…」

他に大事な用…??そうか!

「ハニューちゃんは、きっと姫様さんか永琳さんの所だよ!!」
突然、大声を出す大ちゃん。

「チンチン!大ちゃんの言うとおりだと思うわ!」
「あっそうか!既に戦闘が始まってしまった現状では特にそうですよね!」

大ちゃんが気がついたこと、それは組織であるレイセン達を救うためには、最も偉い人達と話をするのが一番話が早いということだった。

「うん、ハニューちゃんを助けるために、永遠亭に行こ!」

永遠亭に行く事を決めた大ちゃん達。
しかし、それは簡単なことではなかった。


-----------

「み、ミスティア!!!あれ!!」

リグルちゃん、なに慌ててるの?

!!

あれって…

「チンチン??どうして、レミリアさん達の戦闘が目の前で起こっているの!?」

「ね!おかしいよね!僕達は、あの戦闘空域を避けるように飛んでいたはずなのに…
 さっきまで、あの戦闘空域は左手に見えていたはずだよ!
 なのに、いつの間にか目の前に動いている…」

永遠亭を目指すことにした大ちゃん達は、レミリアとレイセンが戦う戦闘空域を避けて進んでいたはずだった。
ところが、いつの間にか戦闘空域が進行方向に現れたのだった。

「リグルちゃん…まさかこれは敵の能力なのかな!?」

「多分そうだよミスティア!どうしよう!」

このとき大ちゃん達は、レイセンが姿を隠して攻撃していたため、敵が誰なのか分かっていなかった。
だが、無益な殺生を好まない大ちゃん達は、レイセン達との戦闘を望んだわけではなかった。
しかし戦闘空域に進入し、しかもレイセン達の弾幕から身を守るためとはいえ、弾幕を撃ってしまったことにより、既にレイセン達から敵だと認識されてしまっていたのだった。


このままじゃ、ハニューちゃんに追いつけない…
こうなったら…

「ミスティアちゃん、リグルちゃん、こうなったら全力全開でお話を聞いてもらうしかないよ!!」

「だ、大ちゃん!?そんなアニメみたいなことを本気でする気!?」

「本気!まずは永遠亭側の人達を倒して、次にレミリアさん達をどうにかして黙らせる!そしてお話を聞いてもらうの!!」

とんでもないことを言い出す大ちゃん。

「じょ、冗談よね!?」

ミスティアは悲鳴を上げるが、大ちゃんの顔はどこまでも本気だった。

side 八雲 紫
異変当日22時15分
~永遠亭地下 メイン通路~

紫が貼り付けにされているメイン通路から、永琳のいる研究室は約20メートル離れており、直接お互いの姿を見ることはできなかった。
しかし、妖怪の賢者と自称する紫にとっては永琳が何をしているかは、十分に分かる距離だといえた。

「ジオンが出てくるとは…流石のレイセンも荷が重いわね…



 私も出るわ。」

研究室にて戦況を確認していた永琳は、助手の妖怪兎にそう言い残すと、風のような速さで地上へと駆け上がっていった。












気配を探り、周辺に助手の妖怪兎しかいないことを感じ取った紫が口を開く。

「藍…」

藍を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、紫のスカート中より藍が姿を現した。

「こんな所にスキマを作るなんて…紫様のエッチ。」

「な、も、元はと言えば、藍が決めたことでしょ!」

永遠亭進入早々に掴まることを予見した紫は、予め出入りするためのスキマをスカートの中に作っておいたのだった。



「はいはい紫様。じゃあ、ちゃっちゃと、この縄を解いてあげますからねー」

縄を解く準備に入る紫達。
紫の目論見は完全に成功するかに思われた。










だが。


「それは困るわね…」

!!


side 八意 永琳
異変当日22時20分
~永遠亭地下 メイン通路~

次々と矢を放ち、紫と同じく藍を壁に縫い付ける永琳。
その矢には『注意 八雲藍用薬つき』と書かれてあった。
「あ!?クソ!?」

「こんな子供だましに引っかかるわけ無いでしょ。馬鹿にしないでくれる?」

「そんな…確かに出て行ったはずなのに…監視システムに警報が流れないようにしたのに…」
困惑した顔で呟く紫。

「ええ、確かに私は一旦ここから出て行ったわ。
 でもあなた達の行動パターンを計算済みだったのよ。
 もう一つ監視システムを用意していた私は、永遠亭の直ぐ近くであなた達の行動を監視していたのよ。」

一瞬目を瞑る永琳。

「なるほど、スキマを使って監視システムの一部をブロックして、警報が鳴らないようにしていたのね…
 私の矢を喰らうまでの短時間に、ここまで実行したのは大したものだけど、こういう手を使うことは予想の範囲内よ。
 残念だったわね。」

決まりきった文章を読むように、感情の無い声で答える永琳。
それは、永琳にとって現状は完全に予想された未来であり、確定事項だったからだ。

永琳は、紫が永遠亭に進入してくることを予想していた、そしてこれまでの行動パターンから掴まった後に藍を使った救出作戦が用意されていると予想し、対策を進めていたのだった。

うな垂れる紫と、これといった表情を見せない永琳。
永遠亭の地下を沈黙が支配するが、そんな中、藍だけが口元に人知れず笑みを作っていた。

side 西行寺 幽々子
異変当日22時25分
~迷いの竹林 外縁部~

紫がうな垂れていた頃、迷いの竹林外縁部に紫の友人である幽々子の姿があった。
幽々子は迷いの竹林で繰り広げられる戦闘には見向きもせず、何かを探しているようだった。

「幽々子様ー、どうしてこんな所を歩き回るのですか?」

その行動を不審に思った妖夢が幽々子に問う。

「うふふースキマを探しているだけよー」

口元を袖口で隠しながら笑う幽々子。

「スキマを見つけたらどうするのですか?」

「中に入るだけよー。」

「入ってどこに行くのですか???」

幽々子の問いに更に質問する妖夢。

「それはどこかしらー?」

それに、曖昧な表現で返す幽々子。
妖夢は、幽々子がはぐらしていると思い、それ以後何も言わなくなった。

side レミリア・スカーレット
異変当日22時30分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

幽々子がこれといった動きを見せない中、ついに大ちゃん達が戦闘に介入し始めた。

「お嬢様!先ほどの大妖精達が、敵に攻撃を開始しました。よろしいのですか??」

「次こそは霊夢が来るはずよ、そっちの方が大事よ。だから無視よ。」

しかし、そんな大ちゃん達を無視すると宣言するレミリア。

「あの、お嬢様?差し出がましいのですが、よろしいでしょうか?」

「いいわよ。」

「異変をお嬢様の力で解決して、霊夢を惚れ直させるのが目的なのでしたら…
 大妖精達と連携することにより、ここの敵を素早く片付け、敵の首謀者撃破に専念された方がよろしいかと…」

ふうん…
咲夜は恋愛とはどうあるべきか、分かっていないようね。

「咲夜もここら辺の経験はまだまだお子様ね。ハニューでも恋人にして勉強したほうがいいわよ。」

「なんてことを仰るんですか!!!!冗談でも酷すぎます!!」
咲夜をお子様と言い切るレミリア(幼女)。

しかしレミリアも、何の考えもなしに咲夜を否定したわけではなかった。
レミリアは、咲夜や紫が提案してきたような、霊夢が異変にたどり着く前に異変を勝手に解決するやり方では、霊夢を振り向かせることはできないと考えていた。
そのためレミリアは、紫とは別のシナリオを用意していたのだった。


紫とレミリア、魔理沙というライバルを前に手を取り合ったように見えた二人だったが、その協力は当初より同床異夢であった。


side 因幡 てゐ
異変当日22時33分
~迷いの竹林 前線司令部(仮称)~

大ちゃん達が、レイセンとの戦闘に突入した頃…

てゐは、手元に残った最後の予備兵力の召集と編成を終え、いつでも戦える状態になっていた。
これは、『ジオン現る』という一報を22時02分の段階で受けていたからである。
だが、てゐがレイセンの元へ向かうことは無かった。

それは22時台に入ったあたりから、ジオンと各部隊との接触を示す報告が次々と入ってきたからだ。
ジオンはレイセンが守る迷いの竹林正面へ、妖怪二名を要する少数部隊を送り込み、その他の防衛線に対しては六名程度の小規模な部隊を十二個も送り込んできていた。
この情報を鑑み、てゐは正面の妖怪二名は囮であると判断した。

それは次のように考えたからだった。

迷いの竹林という結界によって守られている永遠亭に進入するためには、その結界の中枢となっているレイセンを倒すか、何らかの方法で結界を突破する必要がある。
常識的に考えれば、レイセンを倒す方法が最も分かりやすい。
だが、レイセンへの攻撃に投入した戦力は極少数であり、リアルタイムで入ってきている情報も、レイセン優位の大勢に影響を与えるほどとは思えない。
このように考えると、ジオンの本命は防衛線に接触してきた小規模な部隊だと考えることができるが、それも違うと思われる。
それは、小規模な部隊と戦端を開いている防衛線もあるが、どこも一進一退の情勢であり、とても永遠亭にたどり着ける戦力だとは思えないこと。
そして、報告内容には結界を突破できるような特殊な何かを持っているという情報が無かったためである。


このようなことから、本命は別にあり、これらの行動は全て囮である。

そう判断したてゐは、その考えを永琳に報告すると、最後の予備兵力である妖怪兎達と共に各戦線からの報告に耳を傾け始めた。




そして22時38分、ついに本命と思われる報告が入ってきた。

『ザザザじ、ジオン出現!!!戦力が違いすザザザザザザけて!!』

「数と敵の装備は?」

『゙ザザサ百人はいま゙ザザザザ大型の変な機械を持ち込んでザザザザザ』

「変な機械だと?何だそれは?」

『ザザザザまずい!全員伏せザザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』

突然、てゐの居る場所でも分かるほどの眩い閃光が迷いの竹林上空に走った。
そして、腹に響くような衝撃波が遅れて襲ってくる。

無線機は完全に沈黙していた。


唖然とする周りの妖怪兎を見回すとてゐは「何をボケッとしているんだ!出発!」と声を上げるのだった。

side 人間の里
異変当日22時38分
~人間の里 上空~

迷いの竹林上空の戦いがターニングポイントを迎えた頃、人間の里上空の戦いは終焉を迎えた。
慧音は、霊夢と魔理沙の強力なコンビネーションの前に破れ、人間の里はその姿を二人の前に現すことになった。

だが、姿を現した人間の里には人々の姿が無かった。
それは、人々が家に閉じこもっていたからだった。

人間の里の人々は、なぜ博麗の巫女が人間の里を襲撃してきたのか?
なぜ、寺小屋の先生を博麗の巫女が攻撃したのか?
それが分からなかったため、怯え、動揺し、混乱していた。

それは人間の里の上層部も同じだった。
人間の里の最高意思決定機関である長老会は、慧音という後ろ盾が倒されたことに動揺し、有効な策を打ち出すことが出来なかった。
そして、長老会より人間の里防衛に関する権限を一部委譲された青年会もまた、霊夢と魔理沙が見せた圧倒的な戦闘力を前に、完全に怖気づいてしまっていた。

そんな中、唯一動き出す者達がいた。
それはメイドカフェ@fairyジオン人間の里店の従業員達だった。

「私達のお店は、私達で守るぞー!!!」

「「「「おーーーー!」」」」

メイドカフェ@fairyジオンには、常に二十人弱の妖精メイド達が従業員として常駐していた。
彼女達は『メイド』としてそこに勤めており、異変が起きたその日も営業を行っていた。
霊夢や魔理沙は強敵だったが、彼女達にはハニューが態々人間の里に出向いてまで作ったメイドカフェを任されているという自負。
そして、自分達の店を守りたいという単純で強い思いがあった。

だが、彼女達はメイドカフェの店員としての適性によって選抜された者達だったため、後方部に所属する非戦闘部隊だった。
しかしそのことが、彼女達の命を救うことになる。

「待てーーーーー!!」

霊夢と魔理沙に接近しようとする妖精メイド達。
彼女達の姿は、お店で着ている名札付きのフリフリのメイド服のままだった。
そして武器らしい武器も持っておらず、その手にはトレイやフォークが握られているだけだった。

それを見た霊夢と魔理沙はウンザリとした顔をして…
「悪いけど、私達はこれから迷いの竹林に行くの、邪魔しないでくれる?」
「また今度遊んでやるぜ。」
と言い放つと、妖精メイド達に威嚇の弾幕を撃って飛び去ったのだった。

霊夢と魔理沙にとって、人間の里を訪れたことは完全に無駄足だった。
そのため、どう見ても異変の原因には見えない彼女達を相手にして、時間を浪費したくなかったのだ。

それは数ある戦闘の一幕だったが、妖精メイド達の行動は、後に大きな波紋となって人間の里に全体に広がっていくことになった。


side 因幡 てゐ
異変当日22時47分
~迷いの竹林 西エリア(謎の閃光に襲われた一帯)~

てゐが救援に駆けつけたとき、現場は地獄のような状況になっていた。
竹林は燃え上がり、何人もの妖精兎達がピチュッたらしく、誰も彼も浮き足立っていた。

「状況はどうなっている?」

大声で辺り一帯に問いかけるてゐ。

「てゐさん!」
てゐの声に答えたのは、先ほど無線で報告を入れてきた妙齢の妖怪兎だった。

「部隊の三分の一が負傷しました。」

「死者は?」
てゐが地獄のような状況を見て真っ先に気になったのは、死者数だった。

「死者はゼロです。」

「ゼロ!?これで?」

てゐは驚いた、状況だけ見るに死者が出てもおかしくない状況だったからだ。

「敵の広域破壊兵器ですが、何故か竹林を焼くばかりで…
 負傷者は全員、敵との直接戦闘で負傷しています。


 …スペルカードルールを守っているのでしょうか?」

竹林を焼くばかり???
スペルカードルールを守っている??

だったら、こんな兵器を持ち込むわけが…


まさか!!

この竹林を焼けば、竹林で迷わすことを前提に作られている今の結界は…
効果が薄まってしまう。

そうなれば、結界を突破して永遠亭にたどり着くのも不可能じゃなくなる。


あいつら…竹林を焼きながら進むつもりじゃ…

「ねえ、敵はどこに行ったの?」

「広域破壊兵器を発射した後に、後退しました。
 斥候によると、広域破壊兵器に魔力を詰めているようです。」

敵は再チャージ中…となると、またここに来るね。
そして今度は、焼いた竹林の上空からあの閃光を打ち出して、更に奥まで焼くつもりと見て間違いないね。

「再侵攻の気配は?」

「ありますが、斥候の報告によると、まだ少し時間があるかと…」

それじゃあ、皆に気合を入れる時間はありそうね。
今の雰囲気じゃ、とても戦えないからね。

「今の間に部隊の様子を把握したい。案内して。」

----------

てゐは各部隊を訪問し、妖怪兎達に声をかけていった。

最前線で歩哨に立っている妖怪兎達の所では…
「『兎美』敵の様子はどうだ?」

「てゐさん!まだ動きはありません!!」

「どうだい、勤まりそうかい?」

「何か音がする度に、攻撃が再開したのかと思って、怖くて怖くて…とても勤まりそうにありません…」

「いいよいいよ!歩哨はそれぐらい警戒心が強い方がいい!それなら敵の侵攻を真っ先に敵を見つけられるさ!!!」

「そ、そういうものですか!?」

「ハッハッハッハッ!!そういうものさ!!!千年以上生きている私が言っているんだ、自信を持って!!」

「そ、そうですか!!」

と、大げさに振舞って妖怪兎達を勇気付け、怪我を負った妖怪兎達の所では…

「『尾白』!その程度の怪我で、戦わないなんてどうしたんだい?」

「だって怖いじゃないですか!妖精の娘っ子達、可愛い顔してどいつもこいつも…」

「情けない…そんなことだから、百年も彼女が出来ないんだよ!」

「そんなこと言わないでくださいよー、これでも百一年前には彼女がいたんですよ!」

「馬鹿だね、ここは株を上げるチャンスだって言っているんだよ!
 ここで活躍すれば、女達からの人気は鰻上りだよ!
 それに戦場で芽生える恋とか、つり橋効果って言葉があってね…」

と、言葉巧みに士気を煽り、戦いに向けて装備を整えている妖怪兎達のところでは…

「私達兎の足が幸福のお守りに使われているのは、知ってるよね?」

「「「「はい!」」」」

「じゃあ、皆に幸運を与えるために踏んであげるから、並んで並んでー」


「「は、はい!!」」              「ハアハア…」









「って本当に並ぶ奴がいるかー!!誰か突っ込めよ!!!」

          「ってそんな真剣な顔でやられたら、突っ込み切れませんよw」 
「こんな時でも、てゐさんはてゐさんだなww」
                                      「ガーン…」


と、いつものように冗談を飛ばして妖怪兎達を和ませたりした。

そしててゐは最後に、妖怪兎達を集め演説を始めた。

「皆!私達は何だ!!!」

「妖怪兎です…」
戸惑いながら、答える一人の妖怪兎。

「違う!!」
それを否定するてゐ。

「私達は、悪戯をさせたら幻想郷一の妖怪兎だ!!!

 悪戯なら誰にも負けない!!!」

てゐの発言に?マークを頭に浮かべる妖怪兎達。

「もう一つ聞く、私達はジオンと戦って勝てるか?」

「か、勝てます!!」
威勢よく先程の妖怪兎が答える。

「勝てない!!」
またしても、否定するてゐ。
混乱する妖怪兎達を放って、てゐの演説は続く。

「だけど、私達は勝てる!!!



 私達は戦って勝つんじゃない!
 悪戯で勝つんだ!!!」

ここに到って、妖怪兎達はてゐが何を言っているのか分かりだした。

「何も相手の得意分野で勝負してやる必要は無い!!

 いつも通りでいいんだ!!

 いつも通り、相手を騙し驚かせてやればいい!!

 そうすれば絶対にーーーーー???」

妖怪兎達に耳を傾け問いかけるポーズをとるてゐ。

「勝てる!!」
先程、二回もてゐに否定された妖怪兎が大声で答える。


「そうだ!勝てる!!!!」
腕組みをして、満足そうな顔で頷くてゐ。


「そうだ!勝てる!」      




    「そうだよ!勝てるはずだよ!!」


 「やってやる!!」
                                          「これでかつる!」
    「今度は勝つぞ!!!!!」
                           「そうだ、次は勝つぞ!!!」
               「てゐちゃん素敵…」
     「勝つぞーーー!!!!!」
                          「てゐさんあんた最高だーーーーー!」
「悪戯なら…妖精共見ていろーーーーーーーーーー!!」 
                                                「勝つために、まずは踏んでください。」
てゐの演説で大騒ぎになる妖怪兎達。
その様子を満足そうに眺めたてゐは、戦いの準備を始めるのだった。





その後も、てゐは戦いの準備をしながらも、冗談を飛ばし、大いに笑い、そして堂々としていた。

そんなてゐの行動は、妖怪兎達の士気を大いに高めた。
戦術指揮官として、てゐはまさに完璧だった。


side 大ちゃん
異変当日23時18分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

「皆!鳥目になっちゃえ!!!」
ミスティアの能力が発現し、敵がいる思われる場所にいる者達を無差別に鳥目にする。

「行け!虫達!!!」
そしてそこに、リグルの放った虫達が殺到する。

「虫達、一番熱量の高い所だ。探せっ。」
目を閉じ、虫から送られてくる情報に集中するリグル。



「そこだっ!」
リグルが目を開け叫ぶと、リグルが戦闘区域の一角を指差す。


「バスター!!!」
すかさず、弾幕をチャージしていた大ちゃんがそこに特大の弾幕を打ち込む。

すると、何も無いはずの空間で大ちゃんの弾幕が爆発し、ボロボロになった妖怪兎の姿が現れる。
「キャアああああ!?」
攻撃を受け、真っ逆さまに落ちる妖怪兎。




五十人目!

それを見た大ちゃんは、心の中で数を数える。



順調に敵を倒しているかに見える大ちゃんだったが、その肩は大きく上下していた。
敵の攻撃を凌ぎつつ、一撃必殺の攻撃を打ち込むことは、大ちゃんにとって初めてのことであり、予想以上に体力を消耗してしまったからだ。


「大ちゃん、大丈夫?」
大ちゃんの様子を見て、心配するリグル。

「まだいける!」
だが大ちゃんは、それを振り払って弾幕のチャージを開始するのだった。



ミスティアが敵の動きを封じ、その隙にリグルの虫がレイセンの能力によって隠れている敵を見つけ出し、見つけた敵を大ちゃんによって攻撃する。
ミスティアやリグルの能力が必ずしも効果を現すとは限らない不確実な方法だったが、その攻撃は妖怪兎の数を減らすことに成功していた。
だがそれでも、千羽を超える妖怪ウサギを要するレイセンが相手では、レイセン有利の戦況をほんの少しレミリア側に戻す効果しかなかった。

side 因幡 てゐ
異変当日23時20分
~迷いの竹林 西エリア(謎の閃光に襲われた一帯)~

大ちゃんが五十一人目の妖怪兎を打ち落とした頃、てゐの下にジオンが再侵攻を開始したとの報告が入ってきた。

「ジオン、動き始めました!!」

「陣形は?」

「先程お伝えした、前回と同じ陣形です。」

となると…

遊撃部隊 箒に乗った妖精
主力部隊 銃を持った妖精
の二つが先頭に立ち、その後方に八角形の物体を持った砲撃部隊の妖精が続くという陣形だね…

前回と同じ陣形だなんて…
こちらを舐めているね。
前回と違って、今度は私が指揮しているんだ、簡単にはいかないよ!

「妖怪兎の力、妖精共に見せ付けてやるぞ!!!」

「「「「「おーーーー!!!」」」」」

「私に続け!!!」

妖怪兎の先頭に立って、飛び出すてゐ。

親衛隊第三中隊と、てゐ直轄部隊の戦闘は、激突当初より最高潮を迎えようとしていた。

----------

猛烈な空中戦が発生した、迷いの竹林上空。
その戦いは、てゐ達の奇襲によりてゐ直轄部隊優勢で始まった。


親衛隊第三中隊の陣形は上空から見下ろすと、以下のようになっていた。
これは、前方の敵に対しては火力で圧倒し、側面から突破しようとする敵に対しては遊撃部隊で拘束し、主力部隊が来るまで持たせるという陣形だった。

遊撃部隊  遊
主力部隊  主
砲撃部隊  砲


← 親衛隊第三中隊 進軍方向

         遊遊遊
         遊遊遊

     主主主 主主主
     主主主 主主主
     主主主 主主主    遊
     主主主 主主主
     主主主 主主主    砲
     主主主 主主主    砲
     主主主 主主主    砲
     主主主 主主主    砲
     主主主 主主主
     主主主 主主主    遊
     主主主 主主主
     主主主 主主主
 
         遊遊遊
         遊遊遊


これに対し、てゐ達は竹林を使って姿を隠し、親衛隊第三中隊を奇襲するという、この陣形の弱点を突く行動に出た。

← 親衛隊第三中隊 進軍方向

         遊遊遊
         遊遊遊

     主主主 主主主
     主主主 主主主
     主主主 主主主    遊
     主主主 主主主
     主主主 主主主    砲
     主主主 主主主    砲
     主主主 主主主    砲
  兎兎兎主主主 主主主    砲
  兎兎兎主主主 主主主
  兎兎兎主主主 主主主    遊
  兎兎兎主主主 主主主
  兎兎兎主主主 主主主
  兎兎兎
  兎兎兎    遊遊遊
         遊遊遊

↑てゐ直轄部隊進軍方向


てゐ達は、側面より親衛隊第三中隊の前方を掠めるように進軍、まるで引ったくりを行うかのような、一撃離脱による攻撃を行い始めたのだった。
真正面からてゐ達と撃ち合う準備を進めていた親衛隊第三中隊は、てゐ達の攻撃で混乱し、てゐ直轄部隊優勢の状況が作り出された。
だが、てゐ達が優位に立った理由はそれだけではなかった。

妖怪兎達攻撃が、親衛隊第三中隊の混乱に拍車をかけたからだった。

妖怪兎達の攻撃は非常識なものだった。
ある時は…

「靴には、こういう使い方もあるんだー!!!」

「弾幕!? じゃない!?」
靴をハニュー親衛隊兵に向けて飛ばす妖怪兎、それに驚き隙を見せるハニュー親衛隊兵。

「貰った!!」

「キャア!?」
と自らの靴を牽制に使い…




またある時は…

「レイセンってパンツ穿いてない!!!」

「え!?え!?え!?ええええ!?」

「隙あり!! バーカ レイセンはドロワ派なのさ!!」
と訳のわからない言葉をあげることによって隙を作るなど、次々と非常識な攻撃を繰り出していった。

亡霊や幽霊の協力によって、外の世界の軍隊を参考に訓練された親衛隊第三中隊にとって、それは想定外の攻撃だった。
そのため、親衛隊第三中隊の前列はますます混乱し、その混乱が全軍に広がるのも時間の問題かに思われた。





よし、いい感じだ、このまま混乱を拡大させ、一気にあの広域破壊兵器を壊してやる。
当初は、敵の前方を掠めてそのまま離脱する予定だったけど、この状況なら方向転換して敵の後方に回り込めるかも。

「皆!敵後列に一斉射撃!一気に前列と後列を突破するよ!




 ってあんた!フライングだよ!! 」


「やってやる!やってやるぞ!」
テンションが上がったのか、てゐの静止を振り切って、最前列に飛び出す一人の妖怪兎。
命令違反だが、彼の放った弾幕は混乱する前列のハニュー親衛隊兵を通り越し、その後ろにいる後列のハニュー親衛隊兵を打ち倒すかに思われた。




「踏み込みが足りん!」
しかし、その弾幕は中隊長の階級章を付けたハニュー親衛隊兵が持つ、ビームサーベルによって切り払われたのだった。

そして…

「落ちろっ!!」
流れるような動作で、反撃の弾幕を打ち出すハニュー親衛隊兵。

「しまった!?う、うわあああああ!!」
その見事な反撃に、一撃でその妖怪兎は打ち落とされてしまった。

そして、まるでそれが合図だったように、親衛隊第三中隊の猛反撃が始まった。

「さあ、楽しませてくれよ!」

「狙いが甘い!」

妖怪兎の攻撃を次々とかわし、適確に妖怪兎を打ち落とし始めた後列のハニュー親衛隊兵。

ちょっと!?なんだこいつら!?
見た目も強さも、本当に妖精かい!?
妖怪が変装しているって言われたほうが、納得するような奴等ばっかりじゃないか!

てゐは相手の技量が突然上がったことに驚いた。
てゐが驚くのも仕方が無かった、親衛隊第三中隊の前列は訓練上がりの新兵によって構成された名ばかりの親衛隊だったのだ。
そして、その後方に配置されていた彼女達こそ、エリート兵によって構成された正真正銘の親衛隊だった。


ここに至り、てゐ達の勢いは完全に止められてしまった。
そのことを感じたてゐは、ある指示を出すと即座に敵へと突撃していった。

「一斉射撃!」
敵へ突撃しながら、大声で指示を出すてゐ。

その指示を受けた妖怪兎達は、親衛隊第三中隊に向けて一斉射撃を行う。
「間合いが遠いわっ!!」
だが、それをもかわす後列のハニュー親衛隊兵達。
しかし、てゐの指示は続いた。

「突撃!!」
てゐの指示によって、一斉に敵とは…










逆方向に突撃する妖怪兎達。
敵へ突撃していたてゐも、突撃の掛け声と共に、敵とは逆方向に走り出した。

しかも、妖怪兎達の背中にはハニュー親衛隊兵(訓練上がりの新兵達)が捕虜として背負われていたのだった。


そうそう簡単に勝たせてくれる相手とは思っていなかったけど…
これほどとは…参ったね。

敵を混乱させ、叩くだけ叩いたら、敵が立ち直る前に逃げる。
そして次は、逃げたと思わせて、また襲撃する。
それを繰り返して、疲労した所を一気に強襲する。

最初から、こういう戦い方を予定していて正解だったね。
ガチンコ勝負だったら、叩き潰されていたよ。

さあ、本当の戦いはここからだよ。

「悪いね。
 ちょっと人質になってもらうよ!

 すぐに開放してやるから安心しな!」
そう、捕まえたハニュー親衛隊兵に語りかけながら、てゐ達妖怪兎は文字通り脱兎の如く逃げ出したのだった。


親衛隊第三中隊とてゐ直轄部隊との対決は、てゐ直轄部隊の判定勝ちといえる状況となった。

だがそれは戦術的なものだったと、後にてゐは気がつくことになる。















「死力を尽くして任務にあたれ、生ある限り最善を尽くせ、決して犬死にするな、死力を尽くして任務にあたれ、生ある限り最善を尽くせ、決して犬死にするな…」

何をブツブツ言っているんだい、この妖精は?


side アイリス
異変当日23時25分
~迷いの竹林 東エリア~

てゐが戦術指揮官として戦っていた頃、それと対峙する立場にあったアイリスは、戦略的な立場で戦場を見ていた。

「アイリス隊長、第三中隊がてゐ率いる敵予備兵力主力と交戦したと報告が入りました。敵は囮にかかったようです。
 派手に竹林を焼いた効果がありましたね。」
そんなアイリスに、オブザーバー件副官の亡霊よりてゐが囮である第三中隊の迎撃に現れたと報告が入った。

すかさず、端末に示された戦闘報告を読むアイリス。
戦闘報告という形を取ったのは、てゐの奇襲により始まった戦闘は、二分以内という短時間で終了したためである。
つまり、戦闘開始の報告がアイリスに届く前に戦闘が終わってしまったからだった。



敵は、各防衛線に接触してきた小規模な部隊が囮であることは見抜いたようだが、装備が充実している第三中隊までも囮だとは気がつかなかったようだな…


アイリスは、状況が思い通りに進んでいることに満足した。

そして続いて第三中隊長より直接連絡が入る。
『アイリス隊長、申し訳ありません。敵を逃がしました。敵の動きが素早く…』
映像には武人という言葉が良く似合う、妖精の姿があった。

「油断したのではないか?」

『いえ、決してそのようなことは…』

「さあ、楽しませてくれよ。等と言っていたようだが?」

『それはっ…   申し訳ありません。』

武人という感じの固い表情の顔を、さらに固くする第三中隊長。



「ハッハッハッハッ!冗談だ。ハニュー総帥がにとり技術局長に話したと噂される謎の戦争、それに出てくるエリート兵に肖ったのだろう?」

『ハッ、その通りです。スーパー何とか大戦という戦争で、ハニュー総帥が率いたと言われる部隊を苦しめたという、名も無きエリート兵達に肖りました。』

「それなら構わん。
 相手は統率が取れた状態で逃亡している、偵察部隊を残している点から見ても、間違いなくまた仕掛けてくるだろう。
 第三中隊という餌に敵が喰らいついたままなら何も問題はない。
 次は注意してかかれ。」

『ハッ、次は吉報を届けます!!』

敬礼をした第三中隊長の映像が消えると、オブザーバー件副官の亡霊が第一中隊長からの連絡が入っていると告げる。

「アイリス隊長、第一中隊偵察分隊が先の選別で選定していた敵一個分隊と再接触、第一中隊長が作戦開始の最終確認をしています。」

その報告を受け、手元の端末を操作するアイリス、端末は即座に偵察部隊からの映像に切り替わった。

『あなた方は永遠亭の主権領域を侵犯しています、直ちに退去しない場合、実力にて排除します。』
そこには、二十人程の妖怪兎が偵察部隊へ警告を発している姿が映し出されていた。

なるほど…
言葉だけは威勢が良いが、映像を通しても分かるほどの怯えが見える。
明らかに練度不足だ、作戦にはちょうどいい。

「聞こえるか?作戦に変更は無い。直ちに状況を開始せよ。
 繰り返しになるが…間違って殺すなよ。」

『了解。』

威勢の良い返事が帰ってきた直後、偵察部隊からの映像に変化が現れた。

『ちょ、ちょっと!聞こえていないのですか!?退去しないと実力にて排除するって言っているんですよ!?
 こっちの方が数が多いのよ!?』

明らかに動揺した様子で、退去するように言う妖怪兎達。

ビシューン
       ビシューン 
   ビシューン
              ビシューン
しかし、偵察部隊はそんな彼女達に容赦無くビームライフルを撃ち放った。

数人の妖怪兎がビームライフルの直撃を受けてピチュり、バタバタと倒れる。
『キャー!?          反撃!!反撃!!』
混乱しながらも、反撃を始める妖怪兎達。

反撃の弾幕を受け、偵察部隊の何人かがダメージを受ける。
しかし、混乱する妖怪兎とは対照的に偵察部隊は落ち着いていた。
それは、練度の差もあったが、バックアップ体制と装備に大きな違いがあったからだ。
この偵察部隊には、偵察部隊一人に対し、最低一名以上のオペレーター。
そして親衛隊司令部による戦闘管制が行われていた。
さらに装備については、ジオンの中でも最新鋭のものが供給されていたのだった。

それらによって生じた差は、戦闘開始直後より現れていた。

戦闘を開始した偵察部隊と妖怪兎は、激しいドッグファイトに入った。
しかし、偵察部隊六名に対して、妖怪兎は十六名(四名は初弾で脱落)。
必然的に、偵察部隊一名に対して二名以上の妖怪兎が追いかける構図となった。

妖怪兎の圧倒的な優位を暗示する状況だったが、優位に立ったのは偵察部隊だった。

《楓2、そちらを追尾する敵を楓6のFCSが捉えました!FCS同調確認!3…2…1…今!》

楓2とコードを与えられた妖精が、前を向いたまま後方に向けてビームライフルを撃つ。
一見出鱈目に撃った様に見えた攻撃だったが、その攻撃は楓2を追尾していた妖怪兎三名を次々と打ち抜いていった。

これは、楓2の能力でも、運が良かったわけでもなかった。
司令部が、楓6のFCS(火器管制装置)が捉えた敵情報を元に、楓2のビームライフルを使って敵を打ち落としたのである。
言葉にすれば簡単なことだが、ハニューのアイデアと冥界組みの知識、そしてジオンの技術力によって作られた、C4Iシステム無しでは実現しえないことだった。

このような戦闘が他の交戦でも次々と発生し、妖怪兎の頭数が十人を切ったのは、戦闘開始より僅か1分後のことだった。

妖怪兎達は明らかに恐慌の様相を呈していた。
集音マイクが混乱する妖怪兎の声を拾っていた。
『隊長!もう駄目です!永遠亭に撤退しましょう!』
『駄目だよ!そんなこと!!増援が来るまで持たせるんだ!』
『でも!てゐさんも戦闘中で、助けにこれないって!』
『きっとてゐさんなら、敵を駆逐して応援に来てくれる!!』
隊長の激が飛ぶ様子が聞こえる。
妖怪兎の戦意は、隊長によって辛うじて保たれているようだった。

アイリスは、敵の様子を満足気に見ると、端末で第一中隊長を呼び出す。
「羊の選定は済んだか?」

『はい、羊の選定は終了。狼のマーキングも完了しています。』

「よし、やれ。」

《全楓へ、これよりこちらの指示で敵を撃破してください。》

《ターゲット・マージ、コピー…
 全FCS同調を確認!3…2…1…今!》

六つのビームライフルから発射された、光弾が隊長と呼ばれていた妖怪兎に殺到する。

お腹に直撃を受け、吹き飛ばされる隊長と呼ばれていた妖怪兎。
人間なら即死するほどのダメージだが、妖怪ゆえの頑丈さで辛うじて持ちこたえる。
しかし、彼女はもはや戦闘に耐えられる状況ではなかった。

『隊長!?』
動揺する、妖怪兎達。

『慌てるな!!』
古参だと思われる、妖怪兎が必死に動揺を抑えようとする。

しかし…
《第二目標、3…2…1…今!》

次の瞬間、古参の妖怪兎もビームライフルの直撃を受け、戦闘不能に陥る。


『に、逃げろ!!』
指揮する者が全滅した妖怪兎はついに壊走し始めた。

《第三目標、3…2…1…今!》
その妖怪兎に追撃を加える偵察部隊。
偵察部隊は、練度及び階級が高いと推定された者から順に、攻撃を加えていった。

そして一分後、迷いの竹林を逃げ惑う三人の妖怪兎が残された。
彼女達の戦意は崩壊し、装備のほぼ全て失っていた。

その様子を見て、アイリスは作戦を次の段階に移す。

「特殊作戦小隊を出せ。」

『了解、追尾を開始します。』

光学迷彩で姿を消した特殊作戦小隊の面々が、分隊毎に妖怪兎の追尾を開始する。

永遠亭の位置は、レイセン達の力によって巧妙に隠されており、案内役無しではその位置を知ることはできない。
よって、アイリス達は案内役を調達する必要に迫られた。

そこで目を着けたのは、練度の低い妖怪兎だった。
上位者を失い、通信機器を失い、戦意をも失った妖怪兎達は、永遠亭に逃げ込むはずである。
つまり、アイリス達は練度の低い妖怪兎を追い込み永遠亭に逃亡させることにより、案内役に仕立てたのだった。


すべてはこのために行われたことだった。
最初に防衛線に接触した十二個の部隊は、この真の目的を隠すための囮であると同時に、練度が低い部隊を探すためのものだった。
そして、てゐと戦っている第三中隊は敵の予備兵力を釘付けにするための囮であり、そのためのいかにも怪しく、威力の高い各種兵器を持ち込んだのだった。


よし、これで当分は吉報を待つのみか…

敵の死者数の方も…推定ゼロか…
こちらの方も、何とか上手くできたようだな。


side フランドール・スカーレット
異変当日23時45分
~紅魔館 大広間~

殺伐とした戦いが繰り広げられる迷いの竹林と同じく、紅魔館でも一つの戦いが繰り広げられていた。



その戦いの主役はフランと美鈴であり、フランは美鈴から逃げ回っていた。


めーりん、あなたを信じていたのに…
なのに、こんなことをするなんて…

「めーりん!!どういうことなの!!!」


「妹様…
 お嬢様も咲夜さんもいない今、私がルールです。
 観念してください…」


張り付いたような笑顔のまま、フランを追いかける美鈴。
フランは天井近くまで飛ぶことによって美鈴を引き離そうとするが、屋内での機動性は美鈴が一枚上手だった。

床を蹴り、一気にフランに追いつく美鈴。
美鈴は、フランを捕まえると、懐より真っ黒の物体を取り出す。

「いや!?やめて!?
 お姉さま!ハニュー!誰か助けて!!」

「誰も助けに来ませんよ。」
無慈悲に言い放つ美鈴。
美鈴は、そのまま真っ黒の物体をフランの口に押し込む。

「むぐーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」



こ、こんなモノを口に…



も、もうだめ…








あれ?以外に美味しい!?

「どうですか妹様?見た目によらずピータンって美味しいでしょ?」
御飯を作れる人が誰もいないから、美鈴に御飯を作るように言ったら、変な黒い卵を出すから…
どうなることかと思ったけど、意外とまともかも…


それにしても、こんなに一斉に皆がいなくなるなんて珍しいわね。
咲夜はお姉さまと真夜中のデートに出かけたらしいし、
小悪魔とパチュリーは…探したらとんでもない光景を見てしまうような予感がするし…
ハニューは行方不明で、メイドの大半は探しに出かけた…ってそれって一大事じゃないのかしら!?

「どんどん食べてくださいねー、今晩は味だけではなく妹様の体のことを考えた最高の料理を取り揃えましたよー
 次はなんと、燕の巣です!
 この燕の巣は、アナツバメが唾液で作った鳥の巣でとても貴重なんですよー、幻想郷で手に入れるのは…って妹様!?」

慌てて逃げ始めるフラン。

燕の唾液で作った、燕の巣!?
そんな気持ち悪いもの食べられないわよ!!
こんなゲテモノばっかり食べさせれるんだったら「妹様!好き嫌いは駄目ですよー」妖精達の食堂で御飯食べればよかったーーー!!!


side ハニュー
異変二日目0時00分
~永遠亭 入院病室~

誰もが必死になって永遠亭に進入しようとしている中、永遠亭へ易々と浸入したものがいた。
永遠亭の入院病室のベッドに、シャアのコスプレをして横たわる人物…


そう、ハニューである。


ん?

ああ…







あれ?


「あ!気がついた!!」
ハニューのベッドの横に立つ少女が嬉しそうな声を上げる。

あれこの子は??

「新しいメイド?」



「ち、違います!!って、また驚かされた!!」

えーっと…
この傘を持った女の子は…


あ、そうか。
俺は気を失って…ってここは…まさか永遠亭か!!

「ここは、もしかして永遠亭なのか!!」
ベッド脇に立つ小傘の胸元を掴んでガクガクと前後に振るハニュー。

「は、はい!!永遠亭です!!連れてきて、ごめんなさい!」
気が小さい小傘は、ハニューに頼まれてハニューを永遠亭に連れて来たのに、条件反射で土下座して謝ってしまう。

「謝ることじゃないから!許すから、頭を上げて!」

それに慌てるハニュー。

「あれ?わちき許されたん!?」

「そうそう、許すから頭を上げて!」

「わちき許された!!」

何が嬉しいのか、両手を上げて、妙なテンションで喜ぶ小傘。
何故だか許してはいけない気がしたが、疲れているのだろうと結論付けたハニューは次の作戦を考え始めた。

何だかよく分からないが、永遠亭についたみたいだな…
さて、これからどうすべきか…

一応は考えてきているが、それで本当にいいのか…



ああ…


何だか考えがまとまらない。




覚悟を決めて永遠亭に突入してきたハニューだったが、いざとなると緊張し、考えがまとまらなくなっていた。


ん?

あれは?兎??


そんなハニューの視界に、たれ耳の真っ白な兎の姿が目に入った。

あ、この兎、プルプル震えていて可愛い。
そういえば、動物とスキンシップをすると、心が落ち着くというよな。
心を落ち着かせて、考えをまとめるにはいいかもしれない。


でも…確か永遠亭には妖怪兎という見た目が普通の兎なのに、人語を話す人間並みの知能がある奴等がいっぱいいたよな…
こいつも、実は凄いオッサンだったりしたら嫌だなー

「なあお前…もしかして喋れたりする??」


「キューキュー!!」
何だ、喋れないのか。
でも、兎ってこんなユ●ノ君みたいな声をしていただろうか?
うーん。

兎の鳴き声なんて、記憶に無いな。
とにかく、こいつは普通の兎のようだ。

「兎さーん。ちょっと俺を癒させてくれ。」


兎を撫で回し堪能するハニュー。
「温かいなー
 お、この耳…
 ハロ!ハロ!なーんて…

 ……………凄く可愛いい!!!!!」
兎の耳を掴んで、パタパタと動かして遊ぶハニュー。
それがツボにはまったらしく、ハニューは兎を抱き上げ、抱き締め始めた。

ところが、ハニューが抱き締め始めて十数秒後、兎は突然泡を吹いて気絶してしまった。

「あれ??どうしたの!!兎さん!?」

side やる気の無い妖怪兎
異変二日目0時00分
~永遠亭 入院病室~

この仮面の奴の声、どこかで聞いたことあるな…
誰だったっけ…
それは兎に角、見るからに怪しい奴だな。
おまけに、あの傘の妖怪までいるし…
まさか腹が減ったから、二人で俺を夜食にしようとか言い出したりしないよな…








震えてきた…考えるのを止めよう。

とにかく、必要以上にこいつと関わらないほうがいい気がする。
面倒臭いことになっても嫌だし。

「なあお前…もしかして喋れたりする??」

ブッ!!

人が関わらないと決めたばっかりに、いきなり何話しかけてきているんだ!
ちょっとは空気読めよ。

兎に角ここは、普通の兎のフリをして…





「キューキュー!!」
普通の兎の泣き声ってこんな感じだったっか?
俺自身も忘れてしまった…が…

「兎さーん。ちょっと俺を癒させてくれ。」
上手く騙せたみたいだな。
俺には演技の才能があるのかもしれない。

兎を撫で回し堪能するハニュー。

!!こいつ意外と撫でるのが上手いじゃないか!!!!
よし、特別にもっと撫でていいぞ。

「温かいなー
 お、この耳…
 ハロ!ハロ!なーんて…

 ……………凄く可愛いい!!!!!」
兎の耳を掴んで、パタパタと動かして遊ぶハニュー。
それがツボにはまったらしく、ハニューは兎を抱き上げ、抱き締め始めた。

ちょっとお前!?耳は敏感なんだやめてー。
って今度は抱き締めるのか!?
そんなにきつく抱き締めるな!頬ずりするなヘルメットが当たって痛い!!…………ん???


この微かな感触は…







こいつ、僅かだけど胸がある!!!

なんだ、お前女だったのか。
いや、声からして女じゃないかと思っていたが、仮面だったので確証が無かったんだ。
許してくれ。
よし、女ならもっと撫でてもいいぞ。
もし仮面の下が可愛ければ、特別に俺を飼ってもいいぞ。

しかし、もう少し胸があれば女だと分かったのに、こんなてゐさんやハニュー並みに胸が無いなんて…
















あれ?こいつの声、誰かに似ていると思ったら、ハニューにそっくりじゃないか?



というか幻想郷危険度ランキング(稗田 阿求・姫海棠 はたて 共著)、危険度『極高』のハニューそのものじゃ!?

は、は、ハニューを永遠亭に入れたとばれたら…






永琳『今すぐ死ぬ薬と、飲んで一年後にあの時死ねばよかったと後悔するぐらい苦しんで死ぬ薬があるけど、どちらを飲みたい?』
てゐ『実はお前はホモで男が大好きだと、幻想郷中に言いふらしてあげておいたよ。善いことをすると気持ちいいウサ。』
姫様『役に立たないお前は明日から非常食ね。名前は…おいしそうだからメンチにしましょう。』
鈴仙『ただの兎のフリをして、ハニューの胸を弄んだの?最低…』
…………
………
……



「あれ??どうしたの!!兎さん!?」



[6470] 第二十四話 主人に愛でてもらうだけの簡単なお仕事です。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/10/22 21:42
第二十四話
主人に愛でてもらうだけの簡単なお仕事です。

side レミリア・スカーレット
異変二日目0時00分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

颯爽と戦場に舞い降りる魔理沙。
「魔理沙様登場だぜ!!」

魔理沙に猛攻撃が集まる。
「は、話が違うんだぜー!!」

耐え切れずに逃げ出す魔理沙。
「これは堪んないぜ、さっさと逃げるに限るぜ!」

慌てる霊夢。
「ちょっと待ってよ!!私は博麗の巫女として引くわけにはいかないのよ!!」

霊夢の訴えを無視する魔理沙。
「普通の魔法使いである魔理沙様には関係ないぜ!スタコラサッサだぜ!!」

愕然とする霊夢。
「魔理沙の馬鹿ーー!もう魔理沙なんて知らない!」

颯爽と現れる、お嬢様。
「やっぱり人間は使えないわね。霊夢、私がパートナーを組んで上げる。」

喜ぶ霊夢。
「そ、その小鳥の囀りの様な素敵な声は!!レミリア!!」

一緒に戦う二人。レミリアとの息の合い具合に驚く霊夢。
「す、凄い!!こんなの初めて!!」

レミリアが咲夜ごと敵を蹴り落とし、霊夢が地上から陰陽弾で敵を迎撃する。
レミリア・霊夢「「ダブル少女 オプション落とし!!」」

敵「ぐあああああ!!ヤラレタ!!」

隣接すると、霊夢とレミリアの間にハートのマークが現れるようになる。

「どう?咲夜??」
これが私の考案した、霊夢を落す作戦よ!

「凄いですねお嬢様!」
笑顔でレミリアを褒め、拍手をする咲夜。


え…
どうして、そんなにいつも通りの笑顔で、手を叩いているのよ…
突っ込み所満載だったでしょ!?

「な、なにか他に言うことは??」
咲夜に聞くレミリア。

「お嬢様の知謀を示した、素晴らしい作戦だと思います。」
だが、咲夜はいつも通りの笑顔でレミリアを褒めた。


orz
こ、こんなおかしな作戦を私の知謀を示すと言われても、馬鹿にされているようにしか聞こえないわよ。
どうしてボケてると気がついてくれないのかしら…
私って、そんなにお馬鹿に見えているのかしら…

「じょ、冗談も入っているけど、じ、実はこれは筋が通っているのよ。
 本来なら、異変の解決には、魔理沙程度の力じゃ不足なのよ。
 だから、霊夢と魔理沙が組んで戦うようなやり方じゃ、霊夢の異変解決は上手くいくはずが無いのよ!

 それに恋愛は隣接が基本だし、危険を二人で乗り越えると、上手くいくものなのよ!!!」
気を取り直して、説明するレミリア。

「分かりました。何か本でも読んで研究されたのですか??」

来た!ボケるチャンスよ!!
「…パチェから借りたファイアーエム●レムとか、小悪魔から借りた百合●とか百●姫Sとか読んで勉強したのよ。」


「流石お嬢様です。」
笑顔の咲夜。








「…………………………



 
 もういいわ、とにかく私を信じて状況が動くのを待つのよ。
 私はこれでも500歳を超え「お嬢様ああ!!お嬢様は永遠の十代前半です!!!」

そこは突っ込むの!?




最前線で戦っていたはずの、レミリアと咲夜。
その二人が下らない話をするほど余裕が出来た理由。
それは、魔理沙と霊夢が最前線に飛び込んできたからだった。


side 博麗 霊夢
異変二日目0時10分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

「マスタースパーク!!」
魔理沙から極太レーザーが打ち出され、夜空をなぎ払う。

「流石魔理沙ね、凄いじゃない。」
異変解決なんてちょっと面倒くさいけど、魔理沙と一緒なら楽しいものね。


まるで、デート感覚の霊夢、だが魔理沙の顔は優れなかった。
「あ、ああ…」
魔理沙は何かがおかしいと感じていた、だがそれが何なのかまったく分からなかったのだ。


魔理沙どうしたのよ?
「どうしたの魔理沙?魔理沙らしくないわね。」

「そうかな?」

「もう!」
イマイチ覇気の無い魔理沙を置いて、飛び出す霊夢。

「先に行っちゃうわよ?追いかけてこないと…私が逃げちゃうわよ。」
悪戯っぽい笑みを見せる霊夢。

「なんの真似だよそれ。」
頭をかき、魔理沙は霊夢を追いかけ始めた。



霊夢と魔理沙の攻撃。
それは、一見成功を収めているように見えた。
二人の攻撃が打ち出される度に、妖怪兎達は打ち落とされていったからだ。

だが彼女達二人の目には、大ちゃん達の姿も、二人を眺めているはずのレミリア達の姿も見えていなかった。


side 鈴仙 優曇華院 イナバ
異変二日目0時13分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

「レイセンさん、来ました!」

レイセンの目には、霊夢と魔理沙、そしてそれを球状に取り囲んだ妖怪兎達の姿が写っていた。
しかし、レイセンの能力により、偽りの敵と戦場を見ている霊夢と魔理沙には、彼女達を取り囲む妖怪兎達の姿は見えていなかった。

こちらにまったく気がついていない。
これなら殺れる…でも…
「お師匠様?本当にいいのですか?」

『大丈夫よ、月からの道が閉ざされれば、幻想郷のあり方も変わるわ。
 そうなれば、どのみちスペルカードルールなんて過去のものになる。

 存分にやりなさい。』
永遠亭より、モニター越しに答える永琳。


そうだ、幻想郷のルールなんて関係ない。
私は、私達の未来のために戦っているんだ。

「みんな!攻撃して!!!」


side リグル・ナイトバグ
異変二日目0時14分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

どうして、霊夢さんや魔理沙さんはこっちを無視す「チンチン!!危ないわ!!」

ミスティアが指差すその先、そこには今、正に霊夢と魔理沙を攻撃しようとする妖怪兎達の姿があった。
「まずいよ、きっと周りが見えていないんだよ!!」

ど、どうしよう…
助けたいけど、二人はハニューさんの敵だし…




ああ!もう間に合わない!

side 霧雨 魔理沙
異変二日目0時14分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~


この首の後ろがチリチリするような感覚は…


!?

「霊夢!逃げろ!!!」

「どうしたのよ、いきな…!!」

霊夢と魔理沙、二人が気がついた時には全てが手遅れだった。
二人を取り囲むように、弾幕の雨が二人に降り注いでいた。

この弾幕…
本気でこっちを狙っている!?


弾幕ごっことは違う、戦う為の弾幕。
その弾幕の前に、二人は瞬く間に追い込まれる。

くそっこうなったら…
「ファイナルスパーク!!」
滅茶苦茶に攻撃を行い、妖怪兎達を怯ます魔理沙。


今の間に霊夢を回収して…
こんな場所は逃げるに限るぜ。

明らかに、敵の攻撃が普通じゃないぜ!!!


「霊夢!!!!」
すれ違いざまに霊夢を片腕で抱え込み、強引に戦域を離脱しようとする魔理沙。

「魔理沙!?どうなっているの、いったい何なのよこれ!?」
事態の急変についていけないのか、慌てる霊夢。

「霊夢、今はそんなことを行っている場合じゃ、  霊夢!!」
魔理沙が、霊夢に覆いかぶさるような姿勢になった直後…




数発の弾幕が魔理沙を打ち抜いた。


「魔理沙ーーーー!?」

side 八意 永琳
異変二日目0時16分
~永遠亭 地下研究室~

『魔理沙お願い!!目を開けて魔理沙ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!』
脆いわね。

『霊夢!!しっかりしなさい!!咲夜が魔理沙の時間を止めたから動かないだけよ!!咲夜!私が援護するから、このまま後退するわよ!!』

『どうして!?どうしてこんなことに!!!』

どうして?
それは、堕落した…いえ…弾幕ごっこという擬似戦闘しか知らない者に、私達を止めることなんて出来ないからよ。





博麗霊夢…戦意喪失。

八雲紫…撃破。

ジオン…レイセン、てゐにより足止め。

紅魔館戦力…レイセン、てゐにより足止め。



全ては予想通り…。

私達の勝ちね。


side レミリア・スカーレット
異変二日目0時20分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~


「魔理沙…ごめんね…魔理沙…こめんね…ごめんね…」
魔理沙の手を取り、謝り続ける霊夢。

「霊夢…、悪いのはあなたじゃないわ。この異変が悪いのよ!!」
レミリアが、そんな霊夢を励ます。

「だけど…私だって馬鹿じゃないわよ…私が博麗の巫女としてもっとしっかりしていれば、こんなことには…」
だが、レミリアのそんな励ましも、霊夢には届かなかった。
霊夢は、腐っても博麗の巫女としての自覚があり、聡明な少女だったからだ。

霊夢は、部外者である魔理沙が博麗の巫女の真似事という大変危険なことをしているということ…
そして、スペルカードルールというものが『ジオンの台頭によって絶対に守られるものではなくなっている』というものだと、分かっていた。
だが、何とかなるだろうという根拠の無い自信に任せ、その問題を放置していたのだった。

自責の念に駆られ、霊夢は今にも泣きそうだった。

「霊夢…、泣きたければ泣いてもいいのよ…
 そっちの方が、すっきりするわよ。」
そんな霊夢に優しい声をかけるレミリア。

「レミリア…」

「こう見えても、私はあなたの母親よりずっと年上なのよ。」
霊夢をぎゅっと抱き寄せるレミリア。


「う、うわあああああああああん…」




----------





「霊夢?すこしはスッキリしたかしら?」

「う、うん。ありがとうレミリア…」
正気に戻ったのか、耳まで真っ赤にして礼を言う霊夢。

「フフフ…元気になったようなね。さあ、魔理沙を助けに行くわよ。」

「でも…こんなに酷い傷…綺麗に治せる医者なんて…人間の里には一人も…」
魔理沙の傷を心配する霊夢。
被弾した直後に咲夜が魔理沙の時間を止めたため、魔理沙はまるで眠っているようだった。
しかし、その実態は重症であり、魔理沙の時間を動かすためには、医療設備が整った場所と優秀な医師が必要だった。

「人間の里にはいないけど、一人だけいるわ…この異変の元凶…永琳よ。」
そんな霊夢の問いに答えるレミリア。

「永琳……その手があったわね。」


「気がついたようね。
 永琳を倒して言うことを聞かせればいいのよ。
 博麗の巫女として、この異変を起こした償いをさせればいいわ。」


「でも…今の私の力じゃ…」
俯く霊夢。

「私と霊夢の二人で戦えば、倒せない相手なんていないわ。」
霊夢の正面に立つレミリア。

「レミリア!?」


「私の大好きな霊夢がこんなに悲しんでいるのに、助けないわけないでしょ?」
霊夢の頬に両手を当てながら話すレミリアの表情は、真摯で優しい笑顔だった。

「レミリア…」








第一段階成功。
魔理沙がここまでの怪我をするのは予想外だったけど、それでも十分シナリオ通り。

八雲 紫…分かってないわね。
恋愛は異変を解決したとか、そんな成果を示すようなやり方じゃ駄目なのよ。
悲しいとき、寂しいとき、励まして欲しいとき、そんな必要とされるときに近くにいること…
それが一番大切なのよ。


side 多々良 小傘
異変二日目0時02分
~永遠亭 入院病室~

霊夢がレミリアに抱きついて泣いていた約20分前、永遠亭の入院病室では兎に抱きつくような姿勢をしている者がいた。
ハニューである。

ハニューは小傘の目の前で、妖怪兎をベッドに押し倒し、その口にキスをしようとしていた。
少なくとも、小傘にはそう見えていた。

「わ、わっちは席を外した方がいいかな?」
顔を真っ赤にしながらハニューに聞く小傘。

「初めてで不安だから、そこで見ていて!
 変なところがあったら指摘して!」

は、初めてのキスで不安だから見ていて!?


えええええ!?
それって、変じゃない!?

それに…
「わっちだって経験が無いから、変なところなんて分からないよ!!」



また驚かされた…

のは凄いけど、恥ずかしくて見てられないよー。

side ハニュー
異変二日目0時03分
~永遠亭 入院病室~

「わっちだって経験が無いから、変なところなんて分からないよ!!」

う…
そう言われて見ればそうだな。
こんなこと、経験したことないのが普通だからな。

まったく、兎に人工呼吸って難しすぎるぞ!?

人間相手でさえ、上級救命士の資格取るための簡単な訓練を受けた程度だっていうのに…
兎の小さな口に息を入れるなんて難しすぎる。
人間相手のようにすると、口どころか顔の半分が俺の口の中に入っちゃうし…


あ、それでいいのか。
体が小さい子供相手では、鼻まで覆ってもいいとか言っていたような気がする。

えい!

カポッ!

「えええええー!?」
なんだ!?
俺を病院に連れてきてくれた女の子が何か言っているが、今は無視だ。


フーフー



次は心臓を…


心臓……!?




…心臓はどこか分からないが、胸全体を押して…

1・2・3・4・5


次に、耳を兎さんの口元と胸につけ、呼吸を確認。
ついでに声もかける。
「大丈夫ですか!?聞こえますか?」
駄目か………


もう一度だ。


カポッ!!

フーフー

「それ!間違ってます!!!」

                                      

なんだと!?
                                      「あれ?俺はいったい…」


ん?何か声が聞こえたような…

いや、そんなことより、この人工呼吸のやり方は間違っていたのか!?

「じゃあ、どうすればいいんだ!時間が無いから、ここで実践して見せてくれ!!」

小傘を引き寄せるハニュー。

「む、無理ー!!わっち無理!!」

いやいやと首を振る小傘。

「じゃあ、俺がもう一度やるから細かく教えてくれ!!」

「もっと優しく、唇と唇をくっつけたり、舌を入れたりするって聞いたことがあります…」
顔を真っ赤にして、モジモジしながら話す小傘。

なんだと、そんなやり方なのか!?
舌を入れるって…

なるほど、舌で口をこじ開けて、息が通る道を確保するということか!
そして、相手の体が小さいからもっと優しくする必要があるわけですね、分かります。






では早速。


カポッ!











「…えーと…次は舌を入れるって言ってるけど、口が小さくて舌なんて入りそうに無いけど…」

「そんなこと、わっちに言われても…」

って、あれ??
この兎、なんか目が開いてね?
というより、手足がバタバタ動いてね??


side やる気の無い妖怪兎
異変二日目0時04分
~永遠亭 入院病室~

「あれ?俺はいったい…」

俺の隣で何やら言いあっているのは、ハニューと傘の妖怪か…


どうすればいいんだ。


ん?
ハニューの顔が近付いてくる。

なんだ?



おい、ちょっと待て!!
そんな!?心の準備が!!!

カポッ!

おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいお!?


いきなり俺の初めてが!?!?!?!?

レイセンちゃんに捧げようと、ずっと守り続けていた俺のファーストキスがあああああああ!?
※別に守っていません。機会が無かっただけです。


「…えーと…次は舌を入れるって言ってるけど、口が小さくて舌なんて入りそうに無いけど…」

「そんなこと、わっちに言われても…」

しししししし舌を入れるって!?
勘弁してくれ!!!!!!!!!!!




ガクッ!

「え、あれ!?兎さん!?」


side ハニュー
異変二日目0時06分
~永遠亭 入院病室~

うん、心臓は動いているし、自律呼吸は出来ている。

兎さんが復活したと思ったら、今度は気絶した。
どうなってるのこれ。

やっぱりしっかりとした治療をしないと駄目だ。

「俺の人工呼吸じゃ色々と無理があるみたいだから、ちゃんとした医者に見せに行こうと思う。
 いいよね?」

「人工呼吸!?」
両手を上げて固まる小傘。

「どうしたの??」


「な!なんでもないです!!」
顔を真っ赤にして明後日の方向を向く小傘。

??
何なんだ!?
とにかく、それは置いておいてお医者様(永琳さん)を探して出発!


ってそういえば、この子の名前はなんだっけ?
「あの、因みに君の名前は??」

「多々良小傘、わっちのことは小傘って呼んで。」

「そうか、俺は…ハニューだけど…えっと…
 ここではシャア・アズナブルって呼んでくれ。」

ところで、永琳さんのいる場所、小傘は知ってる?


side レミリア・スカーレット
異変二日目0時31分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

霊夢と共に戦うレミリア、レミリアが火力で敵を圧倒し、霊夢が卓越したセンスでレミリアが炙り出した敵を打ち落とす。
そして、二人に被弾しそうな弾幕が迫った時は、咲夜が時間を止めることにより、咲夜の手により緊急回避を行う。
三人の連携攻撃は、レイセン達の攻撃に十分対抗しえるものであり、レイセン達とレミリア達の戦闘はレミリア達がやや優位に立ち始めた。

だが、このままではレイセン達の勝利は揺るがない状況だとも言えた。
それは、月からの道が閉じるまで時間を稼げばいいレイセン達と、
レイセン達を倒し、更には月からの道を閉ざすシステムを破壊しなくてはいけないレミリア達では時間の余裕に違いがあったからだ。




やはり、霊夢を戦力に入れたぐらいじゃ勝てそうに無いわね。
それに…
「チンチン!!大ちゃん!狙って!!」
「うん!!」
ジオンの連中が敵の目を引き付けている今なら頃合ね。

大ちゃん達とレミリア達、この二勢力は共闘のための打ち合わせを行っていなかったが、自然と交互に攻勢をかける形となっていた。
つまり、交互に攻撃を行うことにより、体力の消耗を抑えていたのだった。

咲夜、始めなさい。

咲夜に目を合わせるレミリア。
それを見た咲夜は、そっと頷いた。

「お嬢様、先程倒した敵が偶然にも、陣形を示した部隊配置図を持っていました。」

先程といっても、霊夢が来る前に、咲夜に見つけさせておいたものだけどね。

「まあ!運がいいわね。で、何か分かった?」

「はい、敵はいくつかの陣形を予め決めているようです。
 それを通信により、指示しているようです。」
このあたりは、戦う前から予想できたことなのよね。

「咲夜、その部隊配置図をちょっと見せて。」

咲夜より部隊配置図を受け取るレミリア。
するとレミリアは少し考えたような表情を見せた後、大げさに驚いた。
「霊夢!咲夜!これで月の兎の位置が分かるかもしれないわ!!」

「どういうこと!?」「流石お嬢様です。」

「残念ながらこの部隊配置図には月の兎の位置は乗っていないけど…
 これで敵のおおよその位置が分かるわ。」

「だから、どういうことよそれ?」「流石お嬢様です。」

「竹林やその上空が迷路状(迷路状に錯覚させられている)になっているのは、月の兎の能力。
 そして、敵の姿や弾が見えなかったり、偽の敵や弾が見えたりするのも同じ。
 でも、両者には決定的な違いがある。

 竹林全体を迷路状にするのは簡単よ。
 味方に何らかの対策を施しているというのなら、竹林にいる者達を無差別に迷わる…つまり、適当に能力を広げても問題ないわ。
 だけど、後者のように戦闘状況によって姿を消したり、偽の兎を見せるなんて細かい指示を出すためには、そうはいかない。
 状況を直接目にする必要があるわ。
 それに、そういった細かい芸当は遠距離では能力を発揮し難いものよ。

 そしてもう一つ、事前の調査で分かっていたのだけど、月の兎の能力を最大限発揮するためには、月の兎の目で直接相手を見る必要があるらしいわ。」

「…ちょっと、頭がこんがらがってきた…」「流石お嬢様です。」

「そういった前提でこの部隊配置図を見ると、見えてくるものがあるわ。
 どの部隊も、扇状…それもある地点を基点とした左右200度・上方60度・下方70度以内に納まる配置になっているわ。」

「えっと…つまり???」「流石お嬢様れす。」

「この角度は人間や人型妖怪の視野よ。
 つまり、月の兎はこの場所にいる!!」
部隊配置図に爪でスジを四本引き、その交点を指差すレミリア。

「なるほど!それならこの基点に攻撃を集中すれば、敵を炙り出すことができるということね!!」
明るい顔をする霊夢。

「でも、これには一つ問題があるわ。
 基点を見つけるためには、敵の陣形がどこにどういう形になっているか、正確に把握しなくてはいけない。
 だけど、偽の弾や偽の兎が混ざっているから、攻撃を見ただけではそれは分からない。」

「それじゃ駄目じゃない!!」「お嬢様駄目駄目です。」


「落ち着きなさい。
 見ただけなら駄目だけど、敵や弾に当たってしまえば偽者か本物かわかるわ。



 次の攻撃のタイミングで、私が敵や弾幕にわざと突っ込んで敵の陣形を把握するわ。
 陣形が分かったら合図を送るから、咲夜…時間を止めて私に聞きに来て。」

「な、なに馬鹿なことを言っているのよおおお!?」「流石で…それは台本にはありませんよおおおおお!?」
絶叫する、霊夢と咲夜。

「何度も考えたけど、これしか方法がないのよ!!」

「馬鹿なことは止めて!!!魔理沙に続いて、レミリアまで…そんなの嫌よ!!!!!」
霊夢はレミリアの肩を掴んで止めようとする。

「女わね…好きな女のためには命を張れるものなのよ!!!
 霊夢…いい女になるのよ!!!!」

だがレミリアは、そんな霊夢を引き離し、敵に突っ込んでいった。

「や、やめてーーーーーーーーーーーー!!!」

side 八意 永琳
異変二日目0時35分
~永遠亭 地下研究室~

『お師匠様!!敵に見つかってしまいました!!』

『よくもレミリアを!!落ちちゃえ!!!!!』



『フォーメーションが崩れて…『チンチン!!私達も忘れてもらっちゃ困るわね!』ジオンまで来た!?』

戦場の状況は一変していた。
姿を錯覚させることによって、圧倒的優位に立っていたはずのレイセン達は、その優位性を突き崩されていた。

レミリアの犠牲と引き換えに、レイセンの位置を知った霊夢は、レイセンが能力を使う隙を与えないほどの猛攻撃を行っていた。
そのため、部隊の要であるレイセンを動きを封じられたレイセン配下の部隊達は、組織的な動きができなくなっていた。




レイセンで対応できるのはここまでね。

「私の弓の準備はいいかしら?」

「いつでも出せます。」

「八意永琳出る!」

「「いってらっしゃいませ!」」

八雲 紫
異変二日目0時35分
~永遠亭地下 メイン通路~

「私の弓の準備はいいかしら?」

「いつでも出せます。」

「八意永琳出る!」

「「いってらっしゃいませ!」」


妖怪兎にその場を任せ、レイセンの元へ向かう永琳。
その様子は、紫にもはっきりと分かった。


霊夢…やっと来たわね…


さて、永琳の様子は…





んーーーー…



本当に霊夢と戦いに行ったみたいね。
今度は、さっきのように途中で気配を消したりしていないみたいだし…









行動開始ね。

「どっこいしょっと!」
年寄り臭い動きで、自らに刺さった矢を抜く藍。
「貼り付けの紫様って背徳的で可愛いー、いたずらしていいですか?」

「ば、馬鹿なことを行っていないで、これを外してくださいゆか…藍!!」


「はいはーい♪」

----------

「紫様ーお体の様子はどうですかーちょっと触って調べてあげましょうか??」

「結構です藍。」

「紫様ーどうして、そんなにしかめっ面なんですかー。
 さっきから面白いことばっかりじゃないですかー。

『こんな子供だましに引っかかるわけ無いでしょ。馬鹿にしないでくれる?』
 とか…
『八雲藍出る!!』
 とか…
 最高に笑えませんかーアハハハハ!!!!」

「…藍、ふざけ過ぎです。」
馬鹿笑いを始める藍。
その笑い声は、研究室にいる妖怪兎達まで聞こえる程だった。

「いいのよ、凄く悪役っぽいでしょ?」







「こら!お前達!!!!なに騒いでいるんだ…
 …
 …
 …
 だ、だ、脱走だー!!!」



「はい、お口チャック!」
胡散臭い笑顔で、妖怪兎の口に張り付くようにスキマを作り、声が出ないようにする藍。

「むぐー?むぐぐぐぐ、ぐぐぐ!?」

「なになに、私は藍なのに、どうしてスキマを使えるのかですって?
 素敵なお姉さんが、や・さ・し・く教えてあげるわね。」

ニコニコした顔で妖怪兎を捕まえると、スキマを使い研究室に直接進入する藍。
突然現れた藍に、驚いた表情を見せる妖怪兎達。
藍は妖怪兎達を見渡すと「トランスフォーム!!!」と突然叫んだ。

その声と同時に、紫の姿になる藍。
そして、その後ろに隠れていた紫は、藍の姿になっていた。


「「「八雲紫ーーーー!?」」」

驚く、妖怪兎達。

しかし、紫はお構い無しに力を行使する。

スキマに次々と落とされる妖怪兎達。
「どんどんしまっちゃうわよ~ 。」

「紫様、殺してしまったのですか!?」
妖怪兎達の様子を見て、紫に問う藍。
「まさか、しまっちゃっただけよ。」


「そうですか…

 しかし、ここまで上手くいくとは思いませんでしたね。
 流石変化の術に定評のある狸の妖怪ですね。」

「そうよ!狸の妖怪である私にとって、この程度の変化なんてお茶の子さいさいよ!!オホホホ!!」
手の甲を口に当てて笑う紫。

「やっぱり狸の妖怪だったんですか…」
ジト目で紫を見る藍。

「って違うわよ!?変化じゃなくて、藍の姿を模した式を自分に打っただけよ!?」

「はいはい、分かりましたから。さっさと作戦を進めましょう。
 
 紫様がさっきからふざけ過ぎだから、仕返ししただけですよ。」

もう!藍ったら、さっきまでのお返しってことね。
本当に、私が狸妖怪だって噂が流れているのかと思ったじゃない!
昔はあんなに素直でいい子だったのに、こんな捻くれた大人になっちゃうなんて。
誰に似たのかしら!

頬っぺたを膨らませて、プイッと藍から顔を背ける紫。
しかし、藍はそんな紫を無視して、懐から次々と人型の紙を取り出した。

「では始めます。いいですか紫様?」

いいけど良くないわよ。
「………」

「紫様!あんな仕返しでへそを曲げないでください。」

「昔みたいに『紫様だーい好き!私も紫様みたいな立派なスキマ妖怪になる!!』って言って抱きついてくれなきゃ許さない。」

「ゆ、紫様!?ふざけないでください!」

慌てる藍。
だが、紫は頬っぺたを膨らましたままだった。

「…本気ですか…


 ゆ、ゆ、紫様だーい好き好き!私も紫様みたいな立派なスキマ妖怪になりゅー!!」
紫の胸に飛び込みながら恥ずかしい台詞を喋る藍。
ZUN帽に隠れて見えなかったが、藍は耳の先まで真っ赤だった。


キタコレ…
ここまで破壊力があるとは思わなかったわ。
「ら、藍!!!」

「ちょ、ちょっと紫様!?そんなに強く抱き締めないでください!!痛いです!!」


----------

side ハニュー
異変二日目0時40分
~永遠亭 入院病室~

結局、永琳さんは見つからないし、他のお医者様も見つからなかったよう。

やっとたどり着いた診察室真っ暗だし、道に迷うし…
迷った挙句に気がついたら、元の病室に戻って来ているし。

これは酷い。


「小傘ー、兎さんの様子は大丈夫?」

「まだ気を失っているけど、多分大丈夫ー」

それは良かったが…どうしようか。




あうあうあうあうー

うどんげ達のためにも、こんなことしている場合じゃないのにーーーー

まさかこんな所で時間を浪費してしまうとは…

「誰かーーーー誰かいませんかーーーーーーーーーー!!!」

誰でもいいから出てきてくれ、このままじゃ誰も助けられないじゃないか!!





「五月蝿いぞーーー!!病室では静かに!!これ幻想郷の常識!!!!


 もしかしたら隣の病室に、可愛い女の子にボコボコにされて、体も心も折れまくった可哀想な妖怪兎が寝ているかもしれないだろ!!」

本当に誰か来た…。
扉を開けて怒鳴り込んできたのは、包帯だらけの…喋る兎さん!?

「ちょっと君!お医者様を探しているのだが、居場所を知らないかい?」

「お医者様?」

「お医者様では通じないか、永琳さんのこと「あ!さっきの変態兎!!また悪戯しにきたの!!」

包帯だらけの喋る兎を指差す小傘。
包帯だらけの喋る兎は小傘に一撃で落とされた、戦闘凶な妖怪兎だった。

「ひ、ひいいいいいいい!!もう許してください!!」

土下座する戦闘凶な妖怪兎。
彼はバトルマニアだったが、実は耳年増で戦闘経験の殆んど無かったのだった。
そんな彼にとって、小傘の一撃はその夢と彼の根性をへし折るのに十分なものだった。

なんだ、小傘の知り合いというか、転校生が出てくる漫画でありそうな展開の会話をしているが…
一刻を争う事態になっているから、ちょっと話に割って入らせてもらおう。

「永琳さんの居場所をしっているなら、案内して欲しい…」

「い、いや…でも、案内したら… こんな怪しい奴等を永琳様に会わせて…」

なんだ?
俺達が怪しいだと!?
いや、喋る兎の方が怪しいだろ。
俺はシャアの格好をしているだけの、健全なレイヤーですよ!

いやいや、そんなことで怒っている場合じゃなかった。
今は兎さんの命やレイセン達を助けるために永琳さんに会う方が大切だ。

「これを見ろ!!」
ベッドに寝かしていた、やる気の無い妖怪兎を抱き、戦闘凶な妖怪兎に見せるハニュー。

「っておおおお!!!そ、そいつは…」
前足をハニューの胸元に向けて指差す戦闘凶な妖怪兎。

ん?
この兎さんの知り合いなのか??
それなら話が早い!!
「知っているなら早くしろ!この兎さんの命がどうなってもいいというのか!!!」

「わ、わかった!!わかったから!!」

人間素直が一番。
さあ早く案内してくれ、兎さんを一刻も早く永琳さんに診せてあげないといけないし、うどんげ達を助ける為にも急がないといけないからね。

side 戦闘凶な妖怪兎
異変二日目0時42分
~永遠亭 入院病室~

ま、まさかあいつが人質に取られているとは…これはなんて燃える展開……………………じゃねえよ!




一人はさっき俺をボコボコニした女の子。




そしてもう一人は、その少女より偉そうな仮面の女。




逆らったら…







死亡確定。


足が震えてきた…




……友よ。
俺達はこれでも大人だから、自分のことは自分でどうにかするべきだと思うんだ。
うん、そうだよな。元々俺なんかに期待しちゃ駄目だよな。

うんうん。

----------

side 八雲 紫
異変二日目0時45分
~永遠亭 地下研究室~

「ハア…ハア…ハア…」


「紫様~




 紫様が頬ずりしたり、頭を撫で回したりするから、髪の毛がぐちゃぐちゃですよー。」

「藍が可愛いからいけないのよ!それに今日は橙もいないし…」


久しぶりに、主従のスキンシップ(頬ずり&頭ナデナデ)を堪能した二人。

二人は身嗜みを整えると、藍が先程取り出した人型の紙に息を吹きかけた。
すると、人型の紙は先程紫がスキマに『しまった』妖怪兎そっくりの姿になった。

「はい、じゃああなた達は、永琳から通信が入ったら『異常なし』と伝えるのよ。」

「「「「わかりました。」」」」

うん、これで準備は完了ね。




!!


この足音…誰かが地下に降りてきた!?

「藍!急いで次の目的地に向かうわよ。」


side ハニュー
異変二日目0時50分
~永遠亭 地下研究室~

永琳さんがいるという地下に来たのですが…
ウサ耳少女達しかいないぞ??

永琳さんはどこだ??

あたりを見回すハニュー。

それにしても、この部屋は凄いな。
まるで、軍艦のCICというか、ガンダムとかのアニメの司令部といった感じの部屋だな。

あっ

映像の一つに、博麗の巫女と戦う永琳さんの映像が写ってる。
ということは、永琳さんは出撃しちゃったのか…

まさかここに至って行き違いとは。
これは戻るしかないのか…
いや…それとも、ここから永琳さんに連絡を繋いで…

うーん。
でもそれって難しそうだなあ。

なぜかって?
それは、ウサ耳少女達が協力してくれそうにないからです。

でも、俺達を攻撃してきて、とてもお願いなんて聞いてもらえそうに無い!
って訳じゃないです。

それは、何故か俺達をほとんど無視しているからです。

「木馬の動きはどうだ?」
妖怪兎の一人に話しかけるハニュー。

「不明です。」

……なんだろうね、この淡白な反応。

木馬ってなんですか?

とか

今はそんなふざけている場合じゃないでしょ!

とか

不審人物は出て行ってください。

という感じの反応がありそうなのだが。

おまけに部屋に入ったときの反応も…
「任務中です。入らないでください。永琳様の命令です。」って言われただけなんだよなあ。

その後、強引に部屋に入ったのだが…
俺達が部屋にいるのに、みんなコンソールに顔を向けたまま無視するし、話しかけてもさっきみたいにコレといった反応を返してこない。

明らかに変だよなあ。
部屋全体が異常な雰囲気というか、まるでロボットと話しているような雰囲気というか…

「何かおかしくないか?」
戦闘凶な妖怪兎に話しかけるハニュー。

「明らかにこいつ等変だ…事件の匂いがするぜ…」

事件の匂いねえ。
「ねえ、小傘。事件の匂いなんてするか?」

「匂い……そういえば、微かに妖気が匂うかも…」
なにそれ!?

「それはどういうこと??」

「うん。何かこの病院の気配とは異質な感じの妖気を少し感じるかも…」
イマイチ意味が分からないが、これは何かの大ヒントかもしれない。

「お願い!!小傘様!!その妖気とやらを調べて!!
 今は小傘様しか頼れる人がいないんだ!!

 小傘様の能力を俺に使わせてくれ!!」
小傘に頭を下げるハニュー。

「わ、わっち…使ってもらえるの!?」

「お願い!小傘様を使わせて!!」

「わっち分かった!!頑張る!!」

「ありがとう!!」

ん?喜ぶのは俺のはずなのに、どうして小傘までこんなに喜んでいるんだ???

side 多々良 小傘
異変二日目0時51分
~永遠亭 地下研究室~

凄い!わっち使ってもらえる!!
捨てられたわっちが使ってもらえる!!



嬉しい!!!!




小傘はハニューの小傘を使いたいという頼みに大喜びだった。
それもそのはず、ハニューは知らなかったが、捨てられた傘が九十九神となった小傘にとって、「あなたを使いたい」という言葉ほど嬉しい言葉は無かったからだ。


----------

side ハニュー
異変二日目0時56分
~永遠亭 地下研究室~

「あっコレ見て!!」
ん?小傘が何か見つけたか!?

小傘の手には、金色の髪の毛のようなものが何本も握られていた。
「狐臭い…

 これから狐の妖気がプンプンするよ!」

「狐妖怪だって??そんなの永遠亭にはいないぞ…



 …侵入者だ!!!!!!」
大声を上げる戦闘凶な妖怪兎。

なんだと…
この永遠亭の中枢部的な場所に侵入者…

ということは、この異常な状態と関係があるのでは??


「おい!お前達!!狐妖怪に何かされたのか?大丈夫なのか!?」
ウサ耳少女の一人にしがみ付いて心配する戦闘凶な妖怪兎。

「私は問題ありません。」
だが、まったくそれを相手にしない妖怪兎(ウサ耳少女)。

いや、その返答が明らかに問題ありだよ。


「あっ他にもある!!この金髪…さっきの狐臭い奴よりもっと凄い妖力だ!!!」
なんだと!?

「凄いってどれぐらい凄いんだ!?MSに例えて教えてくれ!!」

「もびるすーつってのは分からないけど、狐くさいのは紅魔館の主クラス、こっちの凄い妖力の奴は…博麗の巫女よりずっと強力というか…幻想郷最強クラスかも…。」


一人がお嬢様クラス!?もう一人がゲンソウキョウ最強クラス!?明らかにまずいだろ…これ…
そんな奴が、密かに進入して、ここのウサ耳少女達に何かしたってことは…明らかに敵だよな。

早く永琳さんを説得して戦闘を止めないと、大変なことになるぞ。
永琳さんが知らない間にこんな強力な奴が内部に潜入してるなんて、どう考えても永琳さん側に負けフラグが立ったようなものだろ。
負けがほぼ確定した以上、戦闘力を維持した状態…交渉の余地がある状態で負けを認めないと…

内側から滅茶苦茶に破壊され、ボロボロになった状態で白旗上げても、「このまま捻り潰したほうが簡単だ」って判断されて酷いことをされるかもしれないぞ!!
ゲンソウキョウにはそういった危険な考えを持っている奴等が多いからな。
特に、博麗の巫女とか博麗の巫女とか博麗の巫女とか…

まずい、急がないと事態は悪化するばかりだ。

「直ぐに永琳さんと連絡が取りたい、できるか?」
戦闘凶な妖怪兎に話しかけるハニュー。

「ま、まってくれ!!」

待ってくれじゃない!!

「早くしろ!死にたいのか!!」

急がないと、俺達も巻き込まれて死ぬかもしれないんだぞ!!

「ヒイイイイ!!ごめんなさい!!でも、永琳様がどこにいるか分からないから、無理なんです!!」

ええい、そうなったら手段は選んでいられない。

「じゃあ、全回線をオープンにしてもかまわん!!」

「そ、それなら!!」

-----------

side 八意 永琳 
異変二日目1時00分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

「よくも、魔理沙やレミリアをーー。」
弾幕を避けながら、永琳に接近する霊夢。

「戦場に出るなら、倒されるぐらいの覚悟はあってしかるべきじゃない?」
接近する霊夢に矢を放つ永琳。

打ち放たれた矢が霊夢に命中するかと思った瞬間、霊夢は陰陽弾を空中で蹴りその攻撃をかわす。

「戦場?ここは幻想郷よ!」
攻撃をかわした姿勢のまま、永琳に向かって弾幕を放つ霊夢。




「フン!」
この程度の攻撃読めているわよ。

攻撃後の隙を狙われた永琳だったが、必要最低限の動作でそれをかわすと、更に接近する霊夢を弓本体で殴りつける。

「そんな攻撃!!」
だが、霊夢は札を連続投射し、その反動で強引に体を捻る。
攻撃をかわした霊夢は、そのまま永琳の懐に飛び込んだ。


懐に入ってきた!?
「もらったわ!!これで終わりよ!!」
至近距離で夢想天生を放つ霊夢。


「手応えあり!!



 やった…やったわ。
 レミリア…あなたの敵は討ったわよ。」


side 十六夜 咲夜
異変二日目1時01分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

「お嬢様…こんな無残な姿に……ううう…」


千切れたレミリアの下半身を抱いて地面にへたりこむ咲夜。
その傍らには、レミリアの上半身が横たえられていた。










「このぐらい問題ないわよ。それより咲夜、普通こういう場合って上半身を抱くものだと思うけど…。」

「………………別にそんなこと…決まっていないと思いますよ。」
レミリアから目を逸らす咲夜。

「もういいわ。それより、いい加減に下半身を返しなさい。復元できないじゃないの!」

「……………………………もう少しこのままで…」

「咲夜!?」

お嬢様…
復元したら、また無茶をするのはわかっています。
そんな無茶に協力する気になんて、私にはありません。
これは、私に秘密で特攻するなんて決めていた罰です。

side 博麗 霊夢
異変二日目1時01分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

「フフフ…あーーーははははははははははははは…」
響き渡る笑い声。

!?

どういうことなのこれ…

「これで終わり?終わりなんて言葉、最後に言われたのは何時以来だったかしら…」

どうしてこいつ…無傷なの…

夢想天生直撃によって発生した爆発の中から現れた永琳は、まったくの無傷だった。

「あら?ごめんなさい。気を悪くしちゃったかしら?」


「別にいいわよ。それよりあなた…どうして無傷なの?」
永琳を睨みながら問う霊夢。

「無傷?それは無傷というものをどう定義するかによるわね。」

なに言っているのこいつ。

「私は蓬莱の薬によって、不老不死なのよ。」

なんですって!?

「スペルカードルールではなく、戦争である以上、初めから私の勝ちは決まっているのよ。
 私が戦争を始めると決めた以上、あなたの負けという未来は確定したのよ。」


そんな…不老不死の相手に、スペルカードルールも無視されるなんて…
どうやって勝てばいいのよ…

レミリア…魔理沙…ごめん…私負けちゃった…


霊夢が諦めようとしたその時、突如、戦闘空域全体に大小様々のモニターのようなものが浮かび上がった。


side 八意 永琳
異変二日目1時02分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

突然、中空に現れたモニター、その大きさは掌サイズのものから、一辺あたり100メートルを越える大きさのものまで様々だった。

通信用の仮想モニターが全て立ち上がっている!?
何が起きているの!?

それは、永琳が今回の異変にあたり、通信用に用意したシステムだった。

誰が使っているの??
そう疑問に思う永琳だったが、そのモニターには砂嵐の映像が映し出され、誰の姿も映されてはいなかった。
しかし、戦闘空域全体に無数に現れた仮想モニターに誰もが驚き、辺りの戦闘は全て中断されていた。



そして、まるでその注目に答えるかのように、そのモニターに一人の人物の映像が映し出される。
そこに映ったのは仮面を被った赤い服の人物だった。

「なんなのこれ!直ぐに映像を止めなさい!!」
研究室へ指令を飛ばす永琳。
しかし、その指令の返事は要領を得ないものだった。

『異常ありません。』



『映像をとめるな!この席を借りたい!
 永遠亭の方と、この映像を見ているゲンソウキョウの方には、突然の無礼を許して頂きたい。』

side ハニュー
異変二日目1時03分
~永遠亭 地下研究室~

クワトロさんに肖って喋ったら思ったより落ち着いて喋れた…
落ち着け俺、ここで落ち着かないと、説得できるものも説得できなくなってしまう。
謎の人物からの助言として、永琳さんを上手く説得するんだ俺!

『その声は!!ハニュー!!』

…いきなり、仮面を被っていた意味が無くなった。
やばい…正体がばれたぞおお!?

もの凄く緊張してきた。

落ち着くんだ!それでも俺はCCAの時に連邦高官と交渉した時のシャアやダカールで演説したときのクワトロさんのように上手く喋るんだ。
彼等に肖って喋ればきっと上手く喋れるはずだ!

「私はシャア・アズナブルであります。
 話の前に、もう一つ知っておいてもらいたいことがあります。
 私はハニューという名で呼ばれたこともある女だ。」

仮面を取り、素顔を見せるハニュー。

「私はこの場を借りて、ジオンの遺志を継ぐものとして語りたい。
 もちろん、ジオン公国のシャアとしてではなく、ジオン総帥ハニューとしてである。
 我々ジオンの遺志は、月の様に欲望に根差したものではない。
 現在月の者達がゲンソウキョウを我が物にしている事実は、博麗の巫女のやり方より悪質であると気付く。
 人が宇宙(※そら)に出たのは、地球が人の重みで沈むのを避ける為だ!
 そして、宇宙に出た人は、その生活圏を拡大したことによって、人そのものの力を身に付けたと誤解をして、月の者達のような勢力をのさばらせてしまった歴史を持つ。
 それは不幸だ。

 もうその歴史を繰り返してはならない!」

もっと普通に喋れよ!

とか

何あれ?モノマネ?

とか

シャアって何だよw

って感じで後から突っ込まれそうだが…
緊張で頭が真っ白な状態の今では、クワトロさんのダカールの演説を下敷きにしてメッセージを伝えるのが精一杯です。

ふう…

だけど、これは中々のファインプレーだったかもしれない。

元々は、俺が永琳さんと同じく、月の宇宙人をあまりよく思っていないという気持ちを示すことによって、俺の説得を受け入れやすい気分にするのが狙いだったが…

なんというか、兎に角喋り始めてしまったおかげで、この雰囲気に少し慣れた気がする。
それに、クワトロさんの演説を真似して喋ったから、後で博麗の巫女とかに「お前は月に反逆する気か!!」って追求されても…
「あれは冗談ですよ!気がつきませんでした?Zガンダムネタですよ。」と言い逃れすることが出来る!

よし、中々良い流れじゃないか。
気持ちもかなり落ち着いてきたし、次からは自分の言葉で喋るぞ。

「だから永琳さんあなたの気持ちも分かる。
 だが…私はあなたを止めなくてはいけない。


 即刻戦闘を中止し、降伏してください。
 この戦いは、もはやあなた方の負けです。」

『あなた達!何してるの!早くそいつを捕まえなさい!!』
ハニューを捕まえろと、研究室にいる妖怪兎達に指示を出す永琳。

「異常ありません。」
しかし、妖怪兎達は的外れな返事をするばっかりだった。

永琳さんの顔に動揺のようなものが少し見えるぞ。
やはり、永遠亭のこの異常な光景を見てもらうのが、永遠亭が攻撃を受けているという事実を一番理解しやすいよな。
『あなた…その子達にいったい何をしたの!!!!』

何を、と言われても困る。
俺は何もしてないですよ。
そんなことより、永琳さんも状況がわかったようですね。

「何も…
 それより、状況が分かっていただけたようですね。
 既に永遠亭中枢部の一つは敵の手に落ち、永遠亭内部には博麗の巫女より強力なゲンソウキョウ最強の敵と、お嬢様…レミリア・スカーレットクラスの敵が進入しているわけです。」

ん?
なんだか、慌てた様子で永琳さんがモニターを弄っているな…
永琳さんが事の重大さを認識した様子が伝わってきます。

ドーン!!

なんだ!?爆発!?

『クッ…結界が…』
渋い顔をする永琳。

『まだよ、まだ負けたわけじゃないわ。』
何故か先程より、落ち着いた表情で答える永琳。

ちょっと…
この人何いってんだ。
気持ちは分かるが、ここは認めないと。

「ここで負けを認めなければ、犠牲が増えるだけですよ。」

『まだ決まったわけじゃないわ。時間は私達の味方よ。』



駄目だこの人。
この人をいくら説得しても、無理そうだ。
時間は味方とか訳の分からないことを言い出すし…
いくら、月からの道とやらを閉ざしたって、その後に負けたら意味無いだろ。
こりゃ、イグルーのカスペン大佐より遥かに堅物だぞ。

「これ以上の議論は無駄のようだ、姫様に『お願い』してみるとしましょう。

 回線を切断しろ。」

こうなったらもう一人の偉い人、姫様を説得して、そこから永琳さんを説得してもらうしかない!!

side 八意 永琳
異変二日目1時03分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

「その声は…ハニュー!!」
いったいどうやって進入したというの!?
ハニューにはレイセンの能力が通用しないとでもいうの!?

『私はシャア・アズナブルであります。
 話の前に、もう一つ知っておいてもらいたいことがあります。
 私はハニューという名で呼ばれたこともある女だ。』

仮面を取り、素顔を見せるハニュー。

『私はこの場を借りて、ジオンの遺志を継ぐものとして語りたい。
 もちろん、ジオン公国のシャアとしてではなく、ジオン総帥ハニューとしてである。
 我々ジオンの遺志は、月の様に欲望に根差したものではない。
 現在月の者達がゲンソウキョウを我が物にしている事実は、博麗の巫女のやり方より悪質であると気付く。
 人が宇宙(※そら)に出たのは、地球が人の重みで沈むのを避ける為だ!
 そして、宇宙に出た人は、その生活圏を拡大したことによって、人そのものの力を身に付けたと誤解をして、月の者達のような勢力をのさばらせてしまった歴史を持つ。
 それは不幸だ。

 もうその歴史を繰り返してはならない!』

!!

私が作った月の都が、命を永らえるという欲望に根ざしたものであったこと…
幻想郷が月の都の監視下にあり、その気になれば管理できるということ…
そして、いつの間にか月の都の人々が増長しているということ…

どれも当たっている…
その上で、月の都の存在を否定するなんて…
狙いは何なの!?

「だから永琳さんあなたの気持ちも分かる。
 だが…私はあなたを止めなくてはいけない。


 即刻戦闘を中止し、降伏してください。
 この戦いは、もはやあなた方の負けです。」

私の気持ちが分かるが、私を止めなくてはならない!?
ということは、月の都と対立する気持ちは分かるが、月からの道を閉じられると困るということね…

!!

まさか、さっきの月の都の全否定といい、ジオンが月へ侵攻するためのルートを確保するために、私達の妨害を!?








だけど、それはあなた達側の勝手な理由よ!!!!

「あなた達!何してるの!早くそいつを捕まえなさい!!」

『異常ありません。』
なっ…
おかしい、研究所に置いた因幡達は頭が切れる者達を優先して配置したのに。
こんな的外れの返答…
「あなた…その子達にいったい何をしたの!!!!」

やられた。
妖怪の自我を奪うような能力も持っていたなんて!!
ハニューの能力はいったいどれほどの数があるというの!!

『何も…
 それより、状況が分かっていただけたようですね。
 既に永遠亭中枢部の一つは敵の手に落ち、永遠亭内部には博麗の巫女より強力なゲンソウキョウ最強の敵と、お嬢様…レミリア・スカーレットクラスの敵が進入しているわけです。』

モニターの向こうのハニューの姿は堂々としており、紳士的とも言える物腰だった。
しかし、因幡には何も手を出していないと平然と建前を述べ、自らが追い込んでいる永琳達の窮地を、まるで第三者からの立場のように説明するその姿は、
紳士と言うより冷血で面の皮の厚い政治家のようだと永琳は思った。

自らを幻想郷最強と言うとは…
未知の能力と、政治家としてのセンス…

悔しいけど、簡単には否定できないわね。


《該当なし》

その仲間…オッドアイの少女は…てゐにジオンを偵察させた時のデータに無いわね。
紅魔館の主クラスの隠し玉を連れて、こうも易々と永遠亭に進入されるなんて…とんだ計算違いだわ!!



今の永遠亭の制圧状況は…

っつ…異常無し!?
そんな馬鹿な…

!!
ダミーデータが流されてる!?



ダミーデータをオミットして…





永遠亭の半分以上が観測不能!?
ここまでシステムが破壊されているなんて…
生き残ったシステムで永遠亭の内部をスキャン…


侵入者警報!?

『サニー!もうすぐ爆発するって!』

!!

これはジオン兵…
ハニュー以外のジオン兵まで侵入している!
この様子だと、観測不能になっている永遠亭の半分は、既にジオンによって制圧されていると考えるべきね。


『ドーン!!』


「クッ…結界が…」
今の爆破で、レイセンの能力を補完している、永遠亭側の結界システムが破壊された!?
永遠亭近傍の迷いの結界…消滅…、敵が永遠亭に流れ込むのも時間の問題だわ!!

だけど、私達の悲願をこんなことで諦めるわけにはいかないわ!

きっとまだ勝機が……










あるわね。

「まだよ、まだ負けたわけじゃないわ。」

『ここで負けを認めなければ、犠牲が増えるだけですよ。』

恫喝されても、まだ勝機は私たちにあるわ。
そうよ、まだ私達の勝ちは揺らいでいない。
動揺して、こんな簡単なことを忘れるなんて、博麗の巫女との戦闘で童心に戻りすぎたわね。

「まだ決まったわけじゃないわ。時間は私達の味方よ。」
予定通りなら、姫様がコントロールしている月からの道の閉鎖は間もなく完了するはず…
このままハニューとの通信を引き延ばして…

『これ以上の議論は無駄のようだ、姫様に『お願い』してみるとしましょう。

 回線を切断しろ。』

突如回線を切断するハニュー。


姫様が月の道を閉ざす役割を持っていることがバレていたのね。
ハニューは姫様を倒す気ね。

通信を再接続…















《反応なし》
向こうのシステムが反応しない…?
破壊されたのかしら?

これじゃ、ハニューの引き止め工作は無理ね。

でも、問題無いわね。
タイムスケジュールから考えて、ハニューの居る部屋から姫様の所に向かうようじゃ…

タッチの差で間に合わないわ。




といっても、姫様がハニューに攻撃されるのを、みすみす見過ごすのも嫌ね。


永遠亭に向かって飛ぼうとする永琳。
だが、そこに邪魔が入った。


「あたい、惨状!」
「漢字が間違ってるのかー」

『お師匠様!!大変です!!もの凄い数の敵が!!』

ジオン主力部隊…出て来たわね…


side ハニュー
異変二日目1時04分
~永遠亭 地下研究室~

ドーン!!!

おわ!?壁が爆発した!?


痛っ!   《ガシャン!》
爆発の衝撃で、目の前のコンソールに突っ込むハニュー

イタタタ………

「ハニュー総帥!!無事ですか!!」
って、誰かが俺の名前を読んでいるけど!?
姿が見えないですよ???

「だ、誰??」
ハニューが辺りをキョロキョロすると、誰もいないように見えた空間から十人以上の妖精メイド達が現れる。

すげえ…光学迷彩じゃないか…アニメ以外で見たの初めてだ…
って、うちの部員じゃないか!!

「ハニュー総帥!助けに来ました!!」
なんだと…
俺を助けるために、皆ここまで来たのか…

どうしてそんなことを…












今はそれを考えるのは、後回しにしよう。

それより、彼女達には悪いが、今の状況に活用させてもらおう。

「姫様の所に行きたいのだが、だれか位置が分かる人はいる??」





なぜか、黒髪の女の子に視線が集まっているが…
「す、スターなら、分かると思うわ。」

「ちょ、ちょっと!!私に振らないでよ!」

この子達は確か…


ああ、同人誌に載っていたり、メイドカフェの時に手伝ってくれたりした、サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアの三人か。

「確かスターは、生き物の位置がわかる能力を持っていたよな。分かりそう?」
スターに問いかけるハニュー。

「確かに屋敷の奥の方に誰かがいるの分かるけど、それがその姫様という人かどうかは…」

それは困ったな…
そうだ、こういう時はここの住人に聞けばいいんだ。

「なあ君。姫様がいる位置を教えてくれないか?
 何か大掛かりな作業をしていたとか、ヒントになるようなことだけでもいいから…」
戦闘凶な妖怪兎に近付いて聞くハニュー。
ところが、戦闘凶な妖怪兎は後ずさりをして、ハニューから距離を開け始めた。

「な、なあ…あんたって、ハニューだったのか?」


ああそういえば、自己紹介はまだだったな…

「そうだよ。」






「人生ってこんなことじゃなかったって思うことばっかりだ!!!!
 俺はヒーローにはなりたかったけど、悲劇のヒーローは嫌だああああ!!!」
突然喚きながら走り回る戦闘凶な妖怪兎。

どうした!?何故発狂する!?
「落ち着け!!誰か!捕まえるのを手伝ってくれ!!」


「兎狩りは得意!!」

サニー達と共に戦闘凶な妖怪兎を追いかけるハニュー。
戦闘凶な妖怪兎の運命は、取り押さえられるしかないと思われた。
だが、意外な所から助け舟が出されることになる。



「あのーお取り込み中に申し訳ないけど…、わっちが思うに、この部屋の機械に情報が入っているんじゃないかな?」


あ。


----------

side 因幡 てゐ
異変二日目1時06分
~迷いの竹林 西エリア~

ハニューの演説と永琳とのやり取りは、多くの者達に目撃されていた。
そしてその中には、ジオン親衛隊と死闘を繰り広げていた『てゐ』の姿もあった。

「皆!これから『てゐ直轄部隊』は命令を無視して永遠亭に戻るよ!!
 姫様を助けるんだ!
 これは月の御仁に高い貸しを作るチャンスだよ!!」

「はい!!」
             「高い貸しだって!!」
                      「おおーーー!!」
   「レイセンちゃんとデート、レイセンちゃんとデート、レイセンちゃんとデート…」
       「レイセンちゃんの手料理希望!!!」
               「姫様とデート、姫様とデート、姫様とデート…」
                              「永琳様とデート、永琳様とデート、永琳様とデート…」
     「永琳様は無いだろJK」
                              「今永琳を馬鹿にした奴、表に出ろおおおおお!」


                                                         「よーし全員に踏んでもらうぞー」
全域無差別に発せられたハニューと永琳のやり取りを見た『てゐ』は、即座に部隊を永遠亭に転進させることを決めた。
これは迅速かつ正確な判断だったが、一点だけ見落としがあった。

それはハニューと永琳のやり取りを見たのは、てゐ達だけではなかったという点である。
 
「よし、私達と追いかけっこしているジオンの部隊に見つかる前に出発するよ!!!!」

さっき、一撃を加えたから、敵が再侵攻してくるまで…
これまでの経験上、あと四分はある。
今すぐ永遠亭に向かえば、敵に補足される心配は無いウサ。


ビシューン!
     ビシェーン!!

  ピチューン!!

!?


「てゐさん!!大変です!!!捕虜にしていた妖精達が突然暴れ始めました!!!」

「何だって!!
 ちゃんと縄で縛っておいたはずでしょ!?何やってんの!!」


「それが、仲間同士でお互いの縄に弾幕を打ち込んだみたいで…」
なっ…
それは理屈の上では縄は切れるけど、そんなことをしたら縄だけじゃなくて、下手すると腕まで…

「あいつら、腕が切れるのも覚悟の上だったみたいで…いくら直ぐに再生する妖精だからってあんな無茶をするなんて!!」

くそっ、ここまで根性が座っているなんて…奴等を舐めていたよ…

「敵接近します!!この騒ぎで位置がばれたようです!!」
斥候に出ていた妖怪兎が慌てた様子で走ってくる。

「捕虜は放置しろ!!敵の迎撃体制に移れ!!」
姫様ごめん!

side 蓬莱山 輝夜
異変二日目1時07分
~永遠亭最深部~

あと一息で完了。
コレが完了すれば、月からの追っ手に怯える日々もついに終わりね。

コツ…コツ…コツ…


足音…誰??

「調子はどうですか?」

輝夜の元にやってきたのは永琳だった。
「永琳!あともうちょっとよ!

 でも、どうしたの永琳?
 いつもグウタラ寝ている私がちゃんと仕事しているか、心配になって見に来たの?」

「いえ、そういうわけじゃありません。
 少し問題が発生しましたので…」

そう言って輝夜に近付いていく永琳。

「さっき、博麗の巫女の迎撃に出て行ったみたいだけど、それと何か関係あるの??」

「はいそうです。
 かなり不味いことになったので、こういう時のために用意していた裏道を通ってきました。
 
 誰かに聞かれると不味いので…念のため耳をこちらに向けてもらってもいいですか。」

「な、何があったのよ…」
心配そうな表情で近付いてきた永琳に耳を向ける輝夜。

「実は……………

 私達の悲願は失敗です。」

「えっ」

ズシャ!!








あれ?


何これ…


どうして私の胸から腕が生えているの??


どうして、永琳の腕が私の胸を貫いているの!?
いったい何が…



[6470] 第二十四.五話 知らない間に、テレビに出ていることってあるよね?
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/10/24 11:22
第二十四.五話
知らない間に、テレビに出ていることってあるよね?



ハニューの演説と永琳とのやり取り、無差別に流されたその映像は、多くの人々に目撃されていた。
そして様々な影響を与えていった。

side シトリン
異変二日目1時15分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

ハニューの映像の影響を語る上で、その反応を二つに分けることが出来る。
それはハニューの映像を、冷静に受け止めた者、そして冷静に受け止められなかった者だ。
冷静に受け止めた者の代表と言える人物はシトリンだった。

『第三戦闘団、敵部隊と会敵しました。』

『第二戦闘団、戦域より離脱。敵部隊の一部、第二戦闘団を追撃しています。』

戦域近くに設置されたジオン軍司令部では、実質的に部隊を指揮しているシトリンの元に次々と戦況を示す情報が上がって来ていた。

敵の一部が陣形を崩した…
ついに、堪え切れなくなったか!?


戦闘状況図
---------------------

敵=敵勢力
永=永琳

霊=霊夢
紅=レミリア及び咲夜

一=第一戦闘団
二=第二戦闘団
三=第三戦闘団
四=第四戦闘団(予備)
司=ジオン軍司令部
魔=在ジオン魔界軍事顧問団
人=ジオン義勇軍
大=仮称ジオン独立部隊(大ちゃん達)

記=記者(鴉天狗)

矢印=戦闘団の動き

---------------------

      
               
        永霊
       大

 紅       
 
         敵敵 
           敵
      三三     敵  二
        三  →  二二
         三    二
                  
        ↑     ↓

         一一一一       


           四四
           四四

          司記
         人 魔 
          
            
---------------------

ジオン主力部隊は、部隊を四つの戦闘団に分け、絶え間の無い攻撃をレイセン達の部隊に行っていた。
四つの戦闘団のうち三つの戦闘団は、上空から見ると車輪のように動き、それぞれの部隊に疲労が堪らないように戦闘を展開していた。
一方、攻撃を受けるレイセン達の部隊は、それとは逆の状態に陥っていた。
絶え間の無い攻撃にさらされたレイセン達の部隊は、部隊を疲労から回復させることもできず、じりじりと部隊を消耗させていった。


包囲殲滅したい欲望に駆られるが…
もう少し我慢だ。
まだ敵の右翼は完全に崩れていない!


シトリンは、敵を包囲殲滅したい欲求に駆られたが、それを押さえ込んだ。
一見、数の力でレイセン達の部隊を包囲すれば、容易に勝てるように見えるが、そこまで簡単な相手ではなかった。
現在の戦力差では、レイセン達の部隊を包囲すること自体は可能だったが、包囲しようとすれば必ず手薄な場所が生じてしまうのもまた事実だった。
手薄な場所が生じれば、レイセン達の部隊はその場所に戦力を集中しそこの突破を図ってくる。
そして、ほぼ間違いなくその突破に永琳も呼応してくると考えられた。

そのような状況を招けば、レイセン達の部隊に脱出機会を与えるだけだ。
シトリンはそう判断し、敵が瓦解しない限り、現在の攻撃を続行することに決定した。

もちろん、多少の敵を逃しても、包囲し叩くべきだという考えもシトリンにはあった。
だがシトリンにとっては、敵を永遠亭に撤退させ、ハニューの敵を増やすことが最悪の事態であり、避けなければならない事態だった。
そのような結論に到ったのは、先程のハニューと永琳の会話を聞く限り、ハニューが何らかの作戦行動を行っており、
それが周到な準備の元に行われているとシトリンは考えたからだった。



ハニュー総帥は、単独で敵地に侵入してしまった。
しかも、幹部である私達にも知られていない仲間を連れて…
私達へ情報を秘匿しつつ、レミリア・スカーレットクラスの仲間を密かに用意するなんて、一朝一夕にできる話ではない。
となると、相当前からこのために準備を進めていた?
我々を使わずに異変を解決しようとしたのは、我々の力が無くとも解決できるという絶対的な自信があったから?
それとも、少数精鋭で事に当たるべき事情があった?

本来なら、我々が取るべき最善の道は、撤退なのかもしれない。
だが、我々にも総帥と共に戦いたいという思いがある、撤退など誰も納得しない。
ならば……少しでもハニュー総帥の計画が崩れないよう、雑兵達を拘束しハニュー総帥の邪魔をしないようにすることが次善の策。




そう自問自答したシトリンは、敵部隊の拘束のために動き始めた。
そして採用したのが、レイセン達の部隊への絶え間ない攻撃という手法だった。
これは、決定的な損害は受けないが、ジリジリと損害が蓄積する程度の攻撃を続けている限り、
『現状の損害程度なら、反撃には出れないものの、なんとか持ちこたえることができる。
 損害は徐々に増えているが、敵の攻撃に晒されている状態で、下手に撤退を行えばさらに損害が増えてしまう。』
という心理的な圧力により、レイセンが一か八かの撤退戦を選択する可能性が低く、敵を拘束できると考えらたからだった。



「こりゃ、勝負ありですな。」

「こうも簡単に進むと、少々拍子抜けしますな。」

部隊の運用についてシトリンが悩む傍らで、まるで今日の天気の話をしているかのように、戦況について談笑している者達がいた。
彼らは、参謀本部付きの将校として、作戦に参加していた元軍人の冥界組(幽霊・亡霊)の面々である。

そこに、ジオン軍の軍服とは違う軍服を着た女性が現れる。

「わざわざ魔界から来たのに、無駄だったようですわね。」
彼女は、魔界から派遣された軍事顧問団の団長、ルイズだった。
近所の綺麗なお姉さんという風貌の彼女だったが、彼女の高速レーザーの命中率は魔界軍の中でも有名であり、その実力は折り紙つきだった。
魔界軍を退役し、一般人として趣味の旅行に興じていた彼女だったが、軍事顧問団の編成に当たり、軍に呼び戻されてしまった。
幻想郷にお忍び旅行をしていたことが発覚し、現地の地理・風習に最も明るい部隊指揮官という評判が軍内部に広がってしまったからだ。

「これはこれは、ルイズ様。
 何を仰いますか、あなた方の知恵が無ければ、戦闘団をこうも上手く組むことが出来ませんでしたよ。」

「そう謙遜されないでください、死ぬまで戦った皆様方なら、私達の力が無くとも大丈夫だったはずですわ。」

ジオン(冥界組を含む)と、在ジオン魔界軍事顧問団は、積極的に軍事交流を行っていた。
ジオンからは科学を拠り所として発展した外の世界の戦闘ノウハウを、在ジオン魔界軍事顧問団は魔力を拠り所にして発展した魔界の戦闘ノウハウが提供された。
これらの交流は、冥界組が直面していた問題を解決し、ジオン軍の戦闘力を大幅に向上させることに成功していた。

冥界組が直面していた問題はいくつかあるが、その一つを例に挙げると『妖精達を組織化しようにも、どのような能力の妖精をどのような兵科※に当てはめれば最も効率的か?』
※軍隊における職種。自衛隊では普通科(歩兵)や機甲科(戦車)等がある。
という事についてまったくノウハウが無いという問題があった。
幻想郷に軍隊が存在し、そこに兵科というものが存在していれば、その兵科の特徴と、そこに配属されている者達の特徴を調べれば、形だけでもノウハウを手に入れることができる。
しかし、幻想郷には軍隊も兵科も存在せず、あるのはせいぜい古代ローマ時代のガリア軍のような『軍隊のような集団』でしかなかった。

つまり、冥界組の面々は、どのような小銃を持たし、どれほどの弾薬を持たせれば、どの様な武器を持った敵とどの程度戦えるということは分かるが…
虫を操るリグルを機甲科のような運用を行えばどの程度の敵と戦えるのか?
そのようなリグルと共同して戦わせるためには、どのような特徴の妖精を、どのような兵科として運用すればよいのか?
ということが、まったく分からなかったのだ。

冥界組の面々は、この問題を解決するために、多く演習を行い、そのデータから最適な答えを導き出そうとした。
しかし、それは人類が数千年かけて積み重ねてきたものをなぞり直す行為と等しいものであり、その成果が現れるまで数年はかかるだろうと考えられていた。

ところが、在ジオン魔界軍事顧問団がジオンに派遣されることにより、この問題は劇的に改善した。
魔界には魔界軍という魔力によって戦力を構成する正規軍が存在し、そこには兵科が存在したからである。
そのことを知った冥界組の面々は、その情報を元にジオン軍の編成を推し進め、今異変時には例外を除き※兵科を基本とした部隊編成をするに至っていたのだった。
※てゐが足止めしている、囮役の親衛隊等。

その効果は、今異変において存分に発揮されているようだった。
ジオン軍は普通科によって編成された部隊を基幹に、偵察科・情報科・特科等の部隊を増強した戦闘団※を組みレイセン達の部隊を圧倒したのだった。
※諸兵科連合。複数の科を単一部隊として運用するもの。

このような改革により、軍事的には優位に立ったジオンだったが、それを指揮するシトリンの顔は優れなかった。


彼女には、三つの悩みの種があったからである。


「シトリン司令代行!我々も作戦に参加させてください!」

…また来たか。

「駄目だ、これ以上の戦力集中は混乱の原因になる。君達は、このまま待機してもらう。」

「ですが!ハニューさんが一人で戦っているのですよ!!目の前の敵など蹴散らし、直ぐに馳せ参じるべきです!」
威勢よく、語る少年。

「それでも駄目だ!敵を蹴散らすために、最善の方法が現状の攻撃手段だ。
 きつい事を言う様だが、それが分からない程度の指揮能力では、前線に出すわけにはいかない!」


「…!!!わかりました…

 ハニューさんに、女より男の方が強くて素晴らしいということ教えてあげないといけないのに…」
シトリンの厳しい言い様にショックを受けたのか、気勢を削がれボソボソと独り言を言いながら帰っていく少年。


まったく…ハニュー総帥を信奉するのはいいが、自らの立場と力量を弁えてもらわなければ困る。
人間の里から集まった義勇軍か…厄介な連中だ。


彼女の一つ目の悩みの種は、ジオン義勇軍を名乗り、進軍するジオンに強引に参加してきた人間の里の少年・青年達である。
彼等を率いているのは、人間の里でも有名なハニュー信奉者である少年。
以前、シャンプーハッ●の納品のために紅魔館を訪れ、ハニューに恋心を抱いた、あの純粋な少年だった。



彼の一途な思いは、ハニューの『女の子だけしか愛せない、というわけじゃないけど、やっぱり女の子が一番好きかな?』という衝撃的な発言の後も、消えることは無かった。
彼はハニューを振り向かせるため、多くの人に助言を求め、努力を続けた。





そして、もう二度とシャンプーハッ●を納品できなくてもいいという程の覚悟で、家を飛び出し努力した彼は…










ムキムキのマッスルボディになった。
少年の服はもはや、パッツンパッツンである。
                                            「少年でマッスル化とか、何の罰ゲームなのかー?」
彼に何があったのか、それはここで語るべき物語ではない。



「シトリン。はっきりと理由を言うべきです。
 このままでは、暴発する可能性があります。」

「マリーダ……

 そうだな、マリーダの言う通りだ。
 彼らは自らの意思で来たとはいえ、人間の里でコンセンサスを取って参加していないということが、どれだけ我等にとって厄介な存在か教えてやるか。」

「そうです。
 子供である彼等が戦死すれば、彼等の親の対ジオン感情が悪化する。
 それなれば、人間の里の対ジオン感情が悪化し、ハニュー総帥が人間の里に行ってきた懐柔策が全て無駄になる。
 
 つまり彼らは『馬鹿ばっかり』だと言ってあげるべきです。」

…マリーダ…随分とキツイことを言うんだな…

「マリーダ、馬鹿ばっかりだなんてキツイことを言わなくても…」

う?
どうしたマリーダ??
どうしてそんなに残念そうな顔をするんだ??

「シトリンも『馬鹿ばっかり』です。」

????

プイッと踵を返して立ち去るマリーダ。
急に不機嫌になったように見えるマリーダの姿に、シトリンは困惑してしまった。


「何か面白そうな話をしていますね?
 少しお話を聞かせてもらって良いですか?」

そんなシトリンの元に、どこと無く女子高生を思わせる雰囲気の少女が舞い降りる。

「悪いですが、ホタテさんに話すような話ではありません。」

「『はたて』です!姫海棠 は た て です!!」

「すまない、記者の方の名前まで覚える余裕が無くてね。」

姫海棠 はたて。
射命丸 文のライバルにて、妖怪の山に住む文屋の一人だが、シトリンにとって、実は彼女が二つ目の悩みの種だった。

「はたて!引きこもってばっかりのあなたが出てくるなんて、変だと思っていた矢先にこれですか!
 抜け駆けで取材をするなんて、いったい何を企んでいるんですか?」

「な、何馬鹿なこと言ってるのよ!ジオンの最新スクープを取材するように大天狗様から言われただけよ!
 だからこうやって、取材しているだけじゃない!!」

「大天狗様から!?私はそんな話、聞いてませんよ…

 さては、いつも妄想で記事を書いてるから、ついに妄想と現実の見分けがつかなくなったんじゃ…
 可哀想な は た て ……ううっ」

文はハンカチを取り出し、嘘泣きを始める。
そんな文とはたてを見て、シトリンは頭が少し痛くなったような気がした。

「妄想ばかりなのはあなた方でしょ!
 大天狗様の命令で取材に来ているのは私だけじゃないのよ。
 むしろ、大天狗様からの命令を知らないあなたの方が変じゃないの?」

「私は『幻想郷最速っ!!』ですから、大天狗様の命令が届く前にジオンの取材にたどり着いてしまっただけです。」

「幻想郷最速ねえ…どうせ自称でしょ…」

「自称と言えば自称ですが、少なくとも運動会で一度も私の記録を超えられなかったあなたより…速いと思いますけど?」

「そ、そんなの何百年も前の話じゃない!!!今なら分からないわよ!」

はたての反論を聞き、ニヤニヤした表情で数枚の写真を取り出す文。

「そうですかねー。写真を見る限りだと、昔より体が少し弛んでいるいるように見えますけどねー」

それは、まるで『はたて』の成長記録を残しているかのような、年齢毎のはたての裸の写真だった。

幼い頃のはたての写真をみた後、今のはたてを見た文は、軽くため息をつく。

「ちょ、ちょっと文!?どうして私の裸の写真を持ってるのよ!?」

「はたてって、結構人気あるんですよー、知ってました?」

「な、なんてことしてくれたのよ!!お嫁にいけないじゃない!!」

顔を真っ赤にしながら、文をガクガクと前後に揺するはたて。
そのあまりの勢いに、流石の文も焦りだす。
「じょ、冗談です。冗談ですよー!」

「そんなの信用ならないわよ!」

更に、激しく文を揺するはたて。

「信用してくださいよー。これはあくまで自分用。売ったのはちゃんと服を着ている奴ですからー!!」

懐から、はたての寝顔を隠し撮りしたと思われる写真を取り出す文。
その写真に写るはたての顔は、なんとも間抜けな表情だった。

「やっぱり売ってるじゃない!!
 って もうちょっとマシな顔した写真を売りなさいよ!!」



「文先輩も、はたてさんも止めて下さい、皆こっちを見てますよ。」

「「椛は黙ってて!」」

「ワフウぅぅぅ…」

…喧嘩をするなら別の所でしてくれ…
キャーキャと騒ぐ二人に頭を抱えるシトリン。

だが、シトリンの悩みの種は二人が巻き起こす痴話喧嘩ではなく、はたて達が派遣されてきた背景だった。
今回の異変に当たり、妖怪の山からはたてを含めた複数の記者達が派遣されていた。
彼女達は名目上記者となっているが、シトリン達ジオン上層部はそれは表向きの理由だと考えていた。

つまり、彼女達は記者という立場でジオンの戦闘力・戦術を調べるだけではなく、異変の行方次第ではジオン若しくは永遠亭側に加担し妖怪の山の発言力を強化する。
そのような、政治的理由により派遣されていると、ジオン上層部は分析していたのだった。


今直ぐ追い出してしまいたいが、記者である以上、無闇に追い出すわけにはいかない。
それに、彼女等、現場の記者との良好な関係は、ハニュー総帥が態々記者会見を開くなどして築いたものだ…
せめて、射命丸文のように『自己の欲望だけを満たすために記事を書いているため、最も信頼できる新聞記者。ただし、記事の質についてはこの限りではない。』
と情報が調べ終わっている連中ばかりなら良かったのだが…


「お困りのようですな、シトリン司令代行。」
困った表情をしていたシトリンに、冥界組みの何人かが声をかけてくる。
その声を聞いて、シトリンは心の中でため息をついた。
声をかけて来たのは冥界組の中でも、軍政派と呼ばれる面々だった。

「お困りでしたら、何人かを捕まえ、情報を吐かせましょうか。」

「そんな手荒なことをしたら、妖怪の山との関係が悪化するぞ。」

「悪化して構わないではありませんか!!我等には強力な軍事力と魔界との同盟。
 そして今まさに、未知の技術を持つ永遠亭を手中に収めようとしているのですぞ!
 もはや、妖怪の山の軍事力を上回るのは時間の問題です!!


 来たるべき、妖怪の山侵攻に向けた地ならしとして、敵スパイ網の拘束に動くべきです!!」

芝居がかった喋り方でシトリンに進言する軍政派。

「…そのような命令、ハニュー総帥からは受けていない。」

「何を仰いますか!ハニュー総帥の幻想郷平定という崇高な意思を汲み取り、それに到る道を切り開く!
 それこそが、臣民たる我等の義務ではありませんか!!!

 それが、ハニュー総帥の命令が無いからと、行動を起こさないとは…嘆かわしい。」

嘘泣き(だと思われる)を始める軍政派の面々。

勘弁してくれ…
シトリンは、ますます頭が痛くなった。

「いいかげんにするのだー!!!」

そんなシトリンの周りに突然、怒声が響く。
怒声を上げ、割り込んできたのはルーミアだった。

「司令代行の任命権者は誰なのかー?」
軍政派の一人に、問うルーミア。

「ハニュー総帥であります!」
ルーミアのあまりの剣幕に、背筋を伸ばし答える軍政派。
その答えを聞き、ルーミアは頷く。

「お前は、ハニュー総帥が任命したシトリン司令代行の言葉が信じられないというのかー。」
任命を強調して喋るルーミア。

「いえ、決してそのようなことは…」
しどろもどろになる軍政派。
シトリンをハニューが任命したということは、シトリンを非難することは、それを任命したハニューそのものを非難していることに等しいからだった。

「なら、問題は無いのだー、さっさと自分の仕事に戻るのだー。」
渋々引き下がる軍政派の面々。



「ルーミア副指令。ありがとうございました。」

「どういたしましてなのだー。
 あいつらが言っていることは、ハニューの威を借りて自分の欲を実現したいと言っているだけなのだー
 もっとビシッと言ってやっていいのだー。
 
 じゃ、また前線に戻るのだー」

前線から戻ってきたばかりのルーミア副指令に頼ることになるとは…情けない。
シトリンは情けなさで、頭痛が一段と酷くなった。


だが、自らの立場とハニューの作戦を思い出したシトリンは、頭痛に悩まされながらも指揮を執り続けたのだった。


side アイリス
異変二日目1時15分
~迷いの竹林 永遠亭近傍~

シトリンのようにハニューの映像に冷静に受け止めた者がいる一方、冷静に受け止められなかった代表がアイリスだった。

ハニュー総帥に近付く者達は、一人残らず調べつくしていたはずだ…
昼の時間にハニュー総帥と接触した者達の中にあのような者はいなかった。
もちろん、夜の時間にハニュー総帥の部屋に出入りしていた者達の中にもいなかった。


やっぱり…私の知らない女だ…

どうして、私を同行させずに、あのような者を…
(レミリア・スカーレットクラスの敵が進入しているわけです。)
私では力不足だというのか…器量も実力も…
(ジオン公国のシャアとしてではなく、)
いや、それとも私より信頼されているのか?
ジオン公国のシャア…ハニュー総帥のもう一つの名前…私が知らない名前…あの女が当たり前のような顔をして聞き流した名前…

無言で、地面を殴りつけるアイリス。
自分が知らない、ハニューのもう一つの名前を知っているだけではなく、レミリアクラスの力と可愛らしい容姿を持った小傘のことを思うと、アイリスは行き場の無い怒りを覚えた。
もちろん、小傘はハニューの演説の意味が分からず、ただ何も考えずに突っ立っていただけであり、その力はレミリアに遠く及ばなかった。
そして、小傘のようなカワイイ系ではないとはいえ、アイリスも美人であることに変わりは無かった。
だがこの時のアイリスは、当たり前のようにハニューの横に立つ小傘の姿に、自分の立場を奪われたように感じ、完全に動揺してしまっていた。


「アイリス隊長…いつでも永遠亭に突入できる準備はできています。
 我等親衛隊こそが、究極にして至高の存在であるとハニュー総帥に見せつけてやりましょう!!」

「お前達…」

そうだ…あのような女など…ただ可愛いだけしか能のない存在だと見せ付けてやればいい。

「全軍突撃!蹂躙せよ!!!!!!!!」

そして、私の居場所を取り戻した後は、ジオン公国のシャアとは一体何なのか…問い詰めよう。

アイリスの行動は、ハニューの映像の裏にある意味を読まずに行動したものだった。
もちろん、ハニューの映像にまともな裏など無く、それを読むこと自体に意味が無いのだが、冷静さを失ったアイリスが自分よがりな行動をしたのは事実だった。

side 河城 にとり
異変二日目1時15分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

ハニューの映像にシトリンのように冷静に受け止めた者の中には、シトリンとはまた違う視点で映像を見ていた者達がいた。
それは、映像そのものより、特にハニューの演説内容に注目し、その内容を分析しようとした者達だった。
その代表ともいえる人物は、ジオン技術部隊のトップ、にとりだった。

ジオン公国…

シャア…

ジオンの意思…

どれも、私がハニュー氏と始めて出会った時に聞いた言葉だ。
妙なところはそれだけじゃない。

『月の者達のような』という言葉も妙だ。
この『ような』は月の都そのものを指しているように見える。
だが、『歴史を持つ。』『もうその歴史を繰り返してはならない!』と続くことから考えると…
月の都のような勢力が過去に存在したと読み取ることができてしまう。
勿論そのような記録は無い。


そして最も妙なのが…
ハニュー氏自身が、シャアと名乗ったことだ。
シャアとは、モビルスーツザクの概念を説明する時に出てきた人物の名前だ。
そんな物語の人物の名を、永遠の時を生きているといわれている八意永琳に対して使った。

やはり…
ハニュー氏は…

side 魂魄 妖夢
異変二日目1時25分
~迷いの竹林 外縁部~

ハニューの演説に対して、親衛隊等の例外を除き、ジオンの多くの部隊は冷静に受け止めることができた。
それは、前線の部隊は戦闘中であり、冷静さを失っている暇が無かったためであり、後方の部隊はにとりのように技術肌が多く、
ハニューの映像の意味を考察することそのものに、興味を引かれてしまったからだった。

一方、ジオン以外の者達は、冷静には受け止められなかった者達が大半だった。
それには戦闘中ではなかった等、色々な理由があるが、突然何かと話題のハニューの映像が空中に表れ、演説を始めたら、冷静に受け止める方が難しいのは想像に難くなかった。

「幽々子様!!急ぎましょう!!我々が迷っている間に、戦が大変なことに!!」

「じー…」

幽々子様??
私の話、聞いてますか?
どうして私の方をじっと見ているのですか??

「幽々子様??どうされたのですか?」


「あっ…おほほほ…


 疲れたから、ここら辺で休憩にしましょうか?」

え…この状況で、ですか!?

「あの…幽々子様。ここまで状況が動いているのでは、休憩している場合ではないのでは…」

「でも疲れたのー



 ねえ妖夢。

 さっきから気になっていたんだけど、あなたの半霊にお砂糖つけたら美味しいかしら?
 ほら、今日って綺麗なお月様が見えるから、お団子が必要だと思うのよね。」

「幽々子様…半霊は冷たいですから、むしろアイスクリームのような感じかと…って何を言わせるのですか!!」

「あらあら、妖夢も疲れているみたいね。
 ほら、あなたの後ろにお弁当があるわ、これでも食べて休みましょ。」
妖夢の後ろの方を指差す幽々子。

お弁当??

妖夢が振り返ると、扇子の模様が描かれた漆塗りの箱が、茣蓙の上に置いてあった。

いや、これはお弁当というより、重箱…
こんな竹しか無いようなところに、重箱が置いてあるなんて…怪しすぎる。
しかも、行灯まで用意されているなんて…

「さあ、食べましょう。」

「幽々子様!?怪しすぎます!!こんなの食べたらお腹壊しますよ!?」

「大丈夫よ、この香りと模様はよく知っているわ。」

????

「わあー、私が好きなものばっかり入ってるー♪」

動かない妖夢を尻目に、重箱を開け始める幽々子。
妖夢には、なぜ幽々子がそこに重箱があることを不審に思わないのか、まったく意味が分からなかった。

「本当に食べちゃうんですか!?」

「そりゃ食べるに決まっているじゃない、もう直ぐ出番かもしれないから腹ごしらえよ。」

「幽々子様!?さっきの映像を思い出してください!食べてる場合じゃないですって!!!!!!」

side 風見 幽香
異変二日目1時15分
~太陽の畑~

妖夢等、多くのジオン以外の者達が、ハニューの映像に驚き冷静さを失う一方。
数が少ないながらも、ハニューの映像を冷静に受け止め分析する者もいた。
その大半は大妖と呼ばれる大妖怪や、永い時を生き、多くの経験を積んだ者達だった。
太陽の畑にも、そんな大妖の一人がいた。

あの演説は自らの立ち位置の宣言と事実上の月への宣戦布告…
あの子…本気なのね…

「おい!そこのお前!あれはなんだったの!!意味を説明しなさい!!」

…この人形の妖怪…誰??

「あれはハニュー。そして、遠まわしに第二次月面戦争を将来起こすと言っているのよ。」

「ハニューって誰!?月面戦争って何よ…月で誰と戦うの!?」

この子…異常に無知ね…なんなの?

「あなた、年はいくつ?もしかして、もの凄く若い?」

「…そんなに若くないわよ、生まれて数年以上は経ってるわよ。
 結構長生きでしょ。
 どのスーさん達よりも、長生きなんだから!!」

「……幻想郷で大妖と言われる存在は、大抵は千歳以上よ。私を含めてね。」

「ええ!?
 そ、そんな馬鹿な!?」

「あなたはまだ、赤ん坊なのよ。もう少し世の中のことを知らないと、他の妖怪や人間に殺されるわよ?」

「そんなこと無い!私は鈴蘭畑最強なんだ!スーさん達も私は強いって言ってくれているんだ!!」

「スーさん?」

「鈴蘭達よ!!コンパロー」

幽香の答えに納得できないのか、幽香に襲い掛かるメディスン。
鈴蘭畑にも流れたハニューの演説と永琳とのやり取り。
それ見て驚いたメディスンが、生まれて初めて鈴蘭畑を飛び出し、最初に出会ったのが幽香だった。





つまり、メディスンはどうしようもないぐらい無知で、不幸で、ある意味幸運だった。

~1分後~

1分後、そこには花畑に横たわるメディスンと、それを上から覗き込む幽香の姿があった。

「間違ったことをしたときは、どうするの?」

「え、えっと…」

「ごめんなさいでしょ?」

ゲシッ!!

「う、ごめんなさい…」

この子、生まれて数年であそこまで戦えたのは、中々の才能ね。
それに、花達との相性もいいみたいだし…





面倒を見てあげようかしら。

「あなた、私の所で世の中の勉強をする気はあるかしら?」

「ええ!?」

幽香の一撃で打ち落とされたメディスンだったが、そんなメディスンに幽香は才能の片鱗を見出していた。
メディスンは、妖怪としては赤子と言えるほどの年の割には、十分すぎる戦闘センスを持っていた。
そして、幽香と同じく花との相性も抜群だった。
そんなメディスンは、幽香にとって放って置けない存在だった。

それは、教育次第では花達を守る存在となりえるからだ。
そして、第二次月面戦争という戦争が見え始めた状況では、自分が留守の間に代理として花達を守ってくれる存在が欲しかったからだった。


そう、幽香は月との戦争に参加する気でいた。
幽香は月の都に住む者達を気に入らなかった。

花が生まれ、その身を成長させる。
成長したある花は、その体を虫達の餌にし、またある花は枯れた後に新たな花の養分となる。
花が命を繋いでいく。
幽香は花が枯れること自体は好きではなかったが、花が繋ぐ命のバトンを誇りに思っていた。

だから、死という概念を否定し、もはや生きているかも怪しい形だけの花を作り出す月の都の者達の行いを、幽香は気に入らなかったのだ。




あの胡散臭いスキマ女以外、誰も月に行けなくて棚上げだったけど、やっとツキがまわってきたわね。

幽香は静かに笑っていた。

side メディスン・メランコリー
異変二日目2時00分
~異変二日目1時15分
~太陽の畑~

「ここまでは分かった?」

空に写っていた人物はハニュー。
ジオンという反月・反体制勢力の首領。
幽香さんと戦ったことは無いけど、実力は聞く所によると上の上クラス。
私なんか、一撃で落せるほど強いらしい。
でも意外と子供っぽいところがあって、幽香さんはそこが可愛いと言って気に入っている。
幽香さんがプレゼントした花を育て上げたりと、花を大切にする妖精で、そこも気に入っている。

月には月人が住んでいて、妖怪達が攻め込んだことあるけど、ズタボロに負けた。
月人は地上にあるもの全てを見下していて、生と死という考え方を否定する生活をしているらしい。
幽香さんは、そこが気に入らない。

うーん。
勉強になるなあ。


この日より始まった幽香学校は、後に妖精や妖怪が次々と参加し、慧音の寺子屋と交流を持つまでに発展するが、それはまた別のお話。


side 紅 美鈴
異変二日目1時15分
~紅魔館 テラス~

ところ変わって紅魔館。
そこには、夜のテラスで、偉そうな態度を取る人物と、その傍に従者のように佇む人物がいた。
幻想郷の多くの者達が、ハニューの映像を真面目に受け止め、分析やそれに対する考えを巡らせていた一方、ハニューの映像を話のネタにする者達も僅かながらいた。


「クックックックッ…
 
 美鈴…このミルクなかなかだわ…」

「ありがとうございます。妹さ「お嬢様!」お嬢様。」

「うー♪うー♪」

「は、はあ…」

「ちょっと美鈴、そこは『お嬢様の歌声と、夜景が合わさって、鼻血が出そうですー』でしょ。」

「妹様…お嬢様の服はもの凄く似合っておられますよ。
 ですが、お嬢様はそんなに『クックックッ』とか『うー♪うー♪』とかばっかり言っているわけじゃ…」

「えっ嘘!?」

椅子から飛び起きるフラン。

「あれーおかしいな??てっきりカリスマと可愛さのアピール狙って、連発していると思ったんだけどなー


 じゃあ次はハニューの真似するから、さっきのハニューの服持ってきて、めーりん。」

「妹様…先程のハニューの映像の服ですけど、あんなものハニューしか持っていませんよ。」

「えー メイドに支給されているメイド服じゃなかったのー」

「あんな不気味なメイド服なんて勘弁してください!」

「めーりん、今の突っ込みよかったわ。
 冗談は兎に角、やっぱりあんな不気味な服はそうそう手に入らないわよね。
 ハニューが帰ってきたら、貸して貰おうかなー」

「不気味な服ですが、あのハニューさんが戦いに出るために着た服ですから、強力な魔法が付与された魔法衣でしょう…
 下手に触ると灰にされちゃうかもしれませんよ…」

「えっマジ!?」

「あくまで推測です。」

「でも、ありえるわね。
 さっきの演説といい、ハニューは月の都を敵視しているみたいだし、博麗と八雲による幻想郷の支配にも否定的みたいだし…
 
 強力な防具ぐらい用意していて当たり前よね。












 …お姉さま大丈夫かしら。」

お嬢様が大丈夫…?

「お姉さまって、ずっと組織のトップにいて、色々と思い通りにしてきたから、昔からいろんな意味で甘いところがあるのよ。
 ハニューのことだって『ジオンが紅魔館に依存している現状で、組織を拡大するように仕向ければ、ジオンは紅魔館から抜けるに抜けれなくなる。
 そうなれば、ジオンの拡大と共に紅魔館の力も相対的に強くなり、ハニューの雇用主である私の力も増大する。だから、ハニューが力をつけても抑えられる。』って言ってたのよ。
 本人は『咲夜がハニューを抑えられなくなったから、自分が新しい策を考えてハニューを抑え付けているのよ。』って自慢げに語っていたけど…

 これって、ハニューがクーデターを起こす可能性を全然考慮してないのよ。

 もしも、ハニューがお姉さまを倒したり、私を紅魔館の当主に据えようとしたら…どうするのかしら?」

「妹様!?まさか、妹様は…お嬢様を倒すためにハニューと手を取ったのですか!?」

「そうよ!
 ハニューの後押しを受けて、私は紅魔館の当主になるの!
 私が紅魔館の当主となった暁には、お姉さまなんてプリン作り係にしてやるわ!!
 プリン好きなお姉さまにはお似合いの仕事よね!






 ってなんでそうなるのよ!

 私がジオンの要職にいれば、お姉さまとハニューの仲を取り持つことだってできるでしょ。
 最初はそんなこと考えもしなかったんだけど、お姉さまのためにもハニューのためにも、それが一番いいんじゃないかって最近思うのよ…」

「妹様…いつの間にそこまで考えられるように…」
目頭を押さえる美鈴。

「失礼ね!!私だって、あんなに真面目にヤバイ事考えているジオンと四六時中いっしょだったら、昔の自分がどれだけ子供だったかって分かるわよ!!

 だから、色々と甘いお姉さまじゃ心配なのよね…」

………お嬢様が背伸びをしているのは事実ですが、それでも、これまで立派に紅魔館を運営してきたのも事実ですよ。

「それなら、ジオンを手元に置いているお嬢様も、ジオンから色々と学んでいますよ。
 ご自身に甘いところがあるのも、きっと分かっていらっしゃいますよ。」

「それならいいんだけど…
 私って、こう見えても幽閉中はすることがなくて、色々な本を読んでいたのよね、だからジオンで色々な刺激を受けたことが「本で読んだことだ」って分かることが多くて…
 上手く言えないけど、最近の私って理論と実践がどんどん組み合わさっている感じなのよ。 
 
 でも、お姉さまってあの年で紅魔館のトップになっちゃったからこそ、理論をすっ飛ばして実践に入っちゃったから…
 変なところで知識が抜けているのよね。
 例えば、赤ちゃんはコウノトリが運んでくると信じていたり…
 

 だから判断が狂って、私を幽閉するといったように、もの凄く厳しくて偏った判断をしたり、ハニューを自由にするなんて異常に甘い判断をしちゃったりするのよ。
 せめて下積み時代があれば、こんなことにはならなかったと思うんだけど…」


「…そう言われると、心配ですね…」

「でしょ?根本的な知識が色々抜けてるから、ジオンから色々学んでいたとしても、予想の斜め上に行ってしまうような気がするのよ。」

レミリアの事が心配になった二人は、遠くで瞬く戦闘の光を無言で見つめるのだった。

side レミリア・スカーレット
異変二日目1時05分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

フラン達が心配したレミリアの行動。
だが、フラン達の心配は無意味なものだった。
話は約十分前に遡る。


突然空に浮かび上がったハニューの演説を、ポカンとした顔をで見るレミリアと咲夜。
そんな二人のうち、再起動が早かったのは咲夜だった。

「お嬢様…あのハニューの演説にはいったい何の意味が!?」

ちょ、ちょっといきなりそんなこと聞かないでよ。

「…流石のお嬢様でも分からないのですか…」

!!

「そ、そんなこと無いじゃない、分かってるわよ!!」


「!!流石お嬢様です!!で、ハニューの先程の演説の意味は何なのでしょうか??」



…不味いことになったわ。
従者に聞かれて『分からない』なんて恥ずかしくて言えなかったから、思わず分かるって答えちゃったじゃない…

「あ、あれは…」

「あれは?」

ハニューの言葉を思い出して、よく考えるのよ私…

(私はこの場を借りて、ジオンの遺志を継ぐものとして語りたい。
 もちろん、ジオン公国のシャアとしてではなく、ジオン総帥ハニューとしてである。
 我々ジオンの遺志は、月の様に欲望に根差したものではない。
 現在月の者達がゲンソウキョウを我が物にしている事実は、博麗の巫女のやり方より悪質であると気付く。
 人が宇宙(※そら)に出たのは、地球が人の重みで沈むのを避ける為だ!
 そして、宇宙に出た人は、その生活圏を拡大したことによって、人そのものの力を身に付けたと誤解をして、月の者達のような勢力をのさばらせてしまった歴史を持つ。
 それは不幸だ。

 もうその歴史を繰り返してはならない!)

つまり、ハニューはジオンというところの意思を継いで異変に介入してきた。
そしてそれは、ジオン総帥の意思であり、ジオン公国のシャアとしてではないと断りを入れている。
…ジオン公国のシャアって誰よって問題はあるけど、ハニューの行動は月の都の連中とは違うと主張しているわけね。
それで、霊夢が悪質かどうかは別として、月の都の連中が幻想郷を我が物にしているって…聞いたことが無いわね。
でもハニューはそう主張している。
次に月の都の連中が空に出た?のは地球が人の重みで沈むのを避けるため。
っていうのは、地球に人が乗りすぎて、紅魔館のボートみたいに重くなりすぎると沈んじゃうてことね。
地球って大地のことよね。
確か、大地は巨大な亀とか象が支えていたはずだから…




地球が沈むということは、そいつ等が重みに耐えられなくなること。
そんなことになれば、大地はテーブルから落ちた食器のように…





大変じゃない…

世界が滅びそうになっていたことがあったなんて…初めて知ったわ。


って話の流れを見るに、それが本題じゃないのよね。
で、月の都の連中が私達を見下している(これは聞いたことがあるわね。)のは、空に出たことが原因で、そんなことは繰り返したくないから永遠亭の連中の気持ちは分かる。
だけど、降伏しろというのがハニューの主張ね。


って…


つまり、永遠亭の連中は降伏しろって言っていたのね!!

「お嬢様??」

「あれは、他に色々とごちゃごちゃ言っていたけど、永遠亭に対して降伏勧告をしていただけよ。」

「なるほど!でもそれなら、どうして私達にまであの映像を…」

…………確かにそうね。
「私達に伝えたいことがあったとか…ほら、地球が滅びそうになっていたとか凄いこと言っていたじゃない。」

「そんなこと言っていたのですか!?」

咲夜が気がついていない…!?








…それも仕方が無いわね。
幻想郷という狭い場所しか知らない、世界の仕組み(大地を亀や象が支えている)など知らない咲夜にとっては、想像すらできないことだわ。


「ハニューの映像で話していた内容の中には、とんでもない情報が入っていたのよ。
 咲夜、あなたが意味が分からないというのなら、それはまだあなたが知るべきことじゃないとも言えるわ。

 あなたには、この事実は重過ぎるかもしれないわ。」






「……まさか、そこまで重い話だったなんて…
 お嬢様、出しゃばった真似をして申し訳ありませんでした。」

「分かればいいのよ。いずれ咲夜にも話してあげるわ。」

ふう……なんとか私の威厳は保てたかしら。
でも、咲夜はハニューが幻想郷最強だとか、あの見たこと無い妖怪が私と同程度とか言っていたことは気にならなかったのかしら…



「ところで咲夜?
 そろそろ、私の下半身を堪能しきったんじゃないかしら?」

「いえ、まだまだです。」

「……あんまり馬鹿なことをやってると、私が咲夜の下半身を堪能するわよ?」




「望む所です!」

自分のスカートをたくし上げ始める咲夜。

「ごめん、私が悪かったからやめてーーーーーーーーーー!!」






フラン達の心配は見事に的中していた、だが既にそれは手遅れのため、無意味なものになっていたのだった。

side 大ちゃん
異変二日目1時20分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

ハニューの映像は、幻想郷中に流され、それを見た者に様々な影響を与えていった。
これまで、ハニューに比較的近しい者達の状況を見てきたが、最も近しい者…
大ちゃん達にもハニューの映像は影響を与えていた。

彼女達が冷静に受け止めることができたかと、問われればイエスと言える。
だが、彼女達の心は決して落ち着いてはいなかった。

なぜなら、彼女達にとってハニューは総帥である前に友人であり、友人が単独で敵地にいるということ自体が、彼女達を心配させたからだ。







ハニューちゃんの言っていること…
半分も分からなかったよ…

「でも、やらなくてはいけないことが、一つだけはっきり分かるの。
 

 それは。


 ハニューちゃんの横に立っている子を■さないといけないってこと♪


 なにあの子。
 ちょっと左右の目の色が違って珍しいから、ハニューちゃんに連れられてるだけだよね。

 うん、きっとそう。
 
 それなのに、なに?
 ハニューちゃん横に当たり前のように立ってるなんて、恋人気取り?


 うわー、こわーい。


 ちょっとこの勘違いってストーカーチックだよね。 
 やっぱり、こんな危ない奴はさっさと、■すしかないよね☆」


……??

「ルーミアちゃん?何変なことを言ってるの?????
 いきなり殺すとか、どうしちゃったの??」

「ただの冗談なのだー。ルーミアはその反応を見て安心したのだー。」

???

「じゃ、皆で永琳を倒そうなのだー。」



ハニューちゃんの言っていたこと、ほとんど意味が分からなかった…
分かったことはほんの少し。
ハニューちゃんのやろうとしていることは、私達じゃ手に負えないぐらい大きくて大変な事だってこと。

でも…敵を倒して、ハニューちゃんの傍に行きたい!!
私はハニューちゃんを助け、一緒に困難を乗り越えたい!!!


その気持ちは…



揺るがなかった……!!


「霊夢さん!!ミスティアちゃん!!リグルちゃん!!チルノちゃん!!ルーミアちゃん!!全力全開の一斉攻撃で一気に決めるよ!!!」


「全力の一撃を打ち込むという意見には賛成だけど、簡単に当たる相手じゃないわよ?」
お札を連射しながら、霊夢が大ちゃんの提案に釘を刺す。

「私が夢想封印を全力で打つ。今日はもう戦えなくなるほどの全力をね。

 あなた達が動きを止めてくれる?

 そうしてくれれば、あなたたちの分も私が打ち込んでやるわ!!!!!」
霊夢は、強い意志の籠った言葉で大ちゃん達に提案した。

霊夢さん…
あ、そうか…
霊夢さんにとっては仇なんだ。

霊夢の言い方は一方的だったが、仇を取りたいという思いが伝わった大ちゃん達は、霊夢の言葉に従うことにした。




「動きを止めればいいんだな!!任せろ!!」

最初に飛び出したのはチルノだった。
その腕と足の先には、氷で出来た剣が伸びていた。

「ていっやーー!!」
クルクルと体を空中で回転させながら、まるで四つの剣を操るかのように、永琳に攻撃を仕掛けるチルノ。

「どんどん凍れぜったいれいどまでー凍れば動けなくなる!!あたいって天才よね!!」
永琳はその攻撃を弓で防ごうとするが、チルノの氷の剣に触れた瞬間、弓が凍り始めたのを見て弓を持つ力が緩んだ。

「いっけー!!」
その瞬間、黒い津波が永琳の手を襲い、弓を弾き飛ばす。
黒い津波の正体は、リグルが操る虫達だった、虫程度では永琳クラスの敵に効果的なダメージを与えることができなかったが、弓を弾き飛ばすには十分だった。

「せんにひゃくまんぱわーだー!」
弓を弾き飛ばされ、一瞬棒立ちになる永琳、チルノはその隙を逃さなかった。
氷の剣を持ったまま両手を頭の上で合わせたチルノは、体をドリルのように回転させながら永琳の胴体めがけて頭から突っ込んでいった。
勝負が決まったかに見えた攻撃だったが、永琳も負けてはいなかった。
「天網蜘網捕蝶の法」
チルノの周りに蜘蛛の巣のような弾幕が展開し、チルノの動きを封じる。
チルノは、進みが僅かに遅くなりながらも突き進むが、永琳にとっては僅かな遅さでも十分だった。
ヒラリとチルノをかわした永琳は、すれ違いざまにチルノに弾幕を打ち込む。

バキン!!

チルノの羽が、音を立てて割れる。
「チルノ!!」
悲鳴を上げるリグル。

「大丈夫!!このぐらい!!」
だが、チルノの闘志はまだ衰えていなかった。
それは、攻撃が外れるかもしれない、ということをチルノも予想していたからであり、チルノが攻撃を受けること自体が次の一手になると知っていたからだった。

チルノへの追撃を行おうとする、永琳。
その永琳に、闇と大音量の声が殺到する。
ルーミアと、ミスティアだった。

「こんなもの足止めにも…」
永琳は、それはチルノへの追撃を断念させるための牽制だと考えたが、本当の目的は別にあった。

「ならないのは分かってる!!!」
永琳が、ルーミアとミスティアの牽制から逃れようとした瞬間、永琳に金色の杖が突きたてられる。

「しまった!?」


私達でも、ちゃんと連携を訓練すればどんな敵とも戦えるんだって…
そう信じて訓練してきた成果の全て、受けてみて!!!!
「エクセリオンバスターA.C.S!!!」

最も隙が出来る瞬間は、敵を攻撃するとき。
そのセオリーに従い、チルノを攻撃しようした永琳に対し、大ちゃんは全力全開の一撃を打ち込んだ。

爆発と閃光の中、永琳の影が『ぐらり』とよろめく。

「霊夢さん!!!!!!!!!!!」


「分かってるわよ!!!

 夢想封印!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




強烈な光が永琳を飲み込んだ。




















す、すごい…
    「決まったのかー?」
「やりました!!」
           「凄いわね!!」



「レミリア……仇は討ったわよ。」



side レミリア・スカーレット
異変二日目1時25分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

「ありがとう、まだ兎の女が残っているけど、あなた達のおかげで仇はとれたわ。」

「霊夢さん…こちらこそありがとうございました。」

霊夢と大ちゃんが、お互いの健闘を称え合い握手をする。


「やっぱりあたいの活躍が一番だね!」

「チンチン!サポート役の活躍も忘れないでね!」

「そうですよ!僕の活躍は!?」

「チンチン…リグルちゃんって何かしたっけ?」

「ひどっ!」

「冗談よー」


「皆ー喜ぶのはまだ早いのだー」



戦勝に沸き、喜び合う霊夢と大ちゃん達の所に、レミリアが姿を現す。

「霊夢、おめでとうと言いたいけど、まだ終わっていないみたいね…」

レミリアを凝視し、固まる霊夢と大ちゃん達。

「れ、レミリア!!まだ冥界に行ってなかったの!?」
                                      「あたい知ってるよ!あれはじおんぐって言うんだ!」
                                      「そーなのかー?」
                                      「うん!ハニューが言ってた!」
…え?

「お嬢様はまだ死んでいません。」






……


………


「で、終わっていないって、どういうことかしら。
 奴は完全に消し飛んだはずよ。」

顔を真っ赤にしながら、露骨に話題を逸らす霊夢。
レミリアは、ZU-Nと暗い表情になったが、なんとか持ち直し話を再開する。

「奴は蓬莱人よ、だから死なないはずなのに、体が跡形も残ってないじゃない。
 完全に消し飛ぶなんて、おかしいわ。」

「…そういえばそうね。でも逃げる隙なんて無かったはず。体が消し飛ぶ所だってはっきり見てるのよ!」

                                      「封印なのに、消し飛ぶとはこれいかにー?」
                                      「チンチン!?た、多分霊夢さんが全力全開を出したからよ。霊夢さん凄いわね。」
                                      「じゃあ、永琳が消し飛んでいたら魔理沙の治療はどうする気なのだー?」
                                      「「「……」」」
                                      「…ルーミアちゃん…その突っ込みは、黙っておいてあげたほうがいいと思うの。」
                                      「そーなのかー?」
                                      「そうですよ、霊夢さんの間抜けって言っているみたいなものですからね。」
                                      「チンチン!大人の対応が必要ね!」
                                      「わかったのだー、霊夢が可哀想だから黙っておいてあげるのだー」

聞こえているわよあんた達!!!

ルーミアのツッコミが聞こえたのか、更に顔を真っ赤にする霊夢。
レミリアは、それを見なかったことにして、話を続ける。

「…倒したのが確実だったのなら、それは本物じゃなかったと見るべきね。」

レミリアの指摘に一気に静かになる霊夢と大ちゃん達。




残念だけど、戦いはまだ続くわね。

side ハニュー
異変二日目1時25分
~永遠亭 地下研究室~

ハニューの映像は、多くの人々の頭を悩まし、多くの行動の引き金となった。
では、張本人であるハニューはその時いったい何をしていたのか。
実はハニューも、頭を悩ましていたのだった。









暗記で。





輝夜さんの位置は…ここ。

輝夜さんの位置は…ここ。

輝夜さんの位置は…ここ。



ハニュー覚えた。


小傘の提案は見事に的中した。
端末から輝夜の位置を取り出すことに成功したハニュー達は、早速輝夜の元へ向かうことにした。

よし、輝夜さんの所に向かうとするか。

おっと、忘れちゃいけない。
兎さんも連れて行かないとな。

ここから先で戦闘に巻き込まれる可能性があるけど、どこに敵がいるか分からない状態では、ここにいても変わらないしな。


って、兎さんはどこだ?


「兎さんーどこー」



助けてくれ!!」

これは、兎さん二号(戦闘凶な妖怪兎)の声!!

side 戦闘凶な妖怪兎
異変二日目1時26分
~永遠亭 地下研究室前の廊下~

ハニューが戦闘凶な妖怪兎の声を聞くほんの少し前、戦闘凶な妖怪兎は、やる気の無い妖怪兎を担ぎ、廊下を歩いていた。
ハニュー達が輝夜様の居場所を探している今が、最後の脱出のチャンスだと考えた戦闘凶な妖怪兎は、やる気の無い妖怪兎を担ぎ、こっそりとハニューの元を逃げ出したのだった。

気絶した仲間を背負って、敵から逃げる。
俺って、ヒーローみたいでなかなかカッコいいじゃねえか。

だけど、そろそろ気がついてくれよ。
流石に、お前を背負うのが辛くなってきたぞ。

「大丈夫!?」



戦闘凶な妖怪兎に声をかけてきたのは、永遠亭の妖怪兎の一人だった。
しかも運が良いことに、彼女は人化することができる妖怪兎だった。

やった!これで逃げ切れる!!
「あなたは女神だ!!お願いだ…


 
 助けてくれ!!」

人化できる妖怪兎なら、自分達を運んで逃げることは簡単。
そう考えた戦闘凶な妖怪兎は、声をかけてきた妖怪兎に助けを求めた。
それは、理屈が通った判断だったが、結果から言えば正しい判断ではなかった。

side ハニュー
異変二日目1時27分
~永遠亭 地下研究室前の廊下~

兎さん二号(戦闘凶な妖怪兎)が兎さん一号(やる気の無い妖怪兎)を背負っていて…。
そして、その目の前にウサ耳の少女を発見。

状況確認…

助けてくれ!と声をあげた兎さん二号。
目の前に、見知らぬウサ耳少女。

答え。
ウサ耳少女に兎さん二号が襲われ、助けを求めている!!


「兎さん達!!今行くぞ!!」

「く、来るな!!!!」

俺の身を案じて、自分を助けに来るなと言うとは、何て善い兎さんなんだ。
だからこそ、助けてやるぞ!!

くらえ!!ハニューキック!!!!!
シャアキックのように蹴りを繰り出すハニュー。

「ひ、ひいいいいいいい!?」

ハニューの蹴りは威力が無かったものの、『ハニューが襲ってきた』という事実に恐怖を感じたウサ耳少女は、脱兎の如く逃げ出していった。

「大丈夫だったかい?兎さん達、もう悪い奴はいないよ。」



「女神がああああああああ!!!」
四つん這いになりながら、バンバンと床を前足で叩き、絶叫する戦闘凶な妖怪兎。

「俺の事を女神だなんて…恥ずかしいなあ。」
クネクネと照れながら、ひょいっと二羽の妖怪兎を抱っこするハニュー。

「外は危ないからね、安全な俺の腕の中にいた方がいいよ。」

「やめろ!!離してくれーーーー!!」

「遠慮しなくていいよ、兎さん達。
 女神の俺が、しっかり守ってあげるよ!」

side 火焔 猫燐
異変二日目1時15分
~旧都から地上へ抜ける道~

「お空ーどこに行ったのーお空ー??



 本当に、どこ行ったのよーーーーーーーーーーーーーー!!」

旧都から地上へと抜ける道で、ニャーンという擬音が聞こえてきそうな雰囲気で、大声を張り上げる少女の姿があった。
彼女は火焔猫燐。
地霊殿の主、古明地さとりのペットであり…
「お燐どうしたの?」
同じく、古明地さとりのペットである霊烏路空(お空)の親友である。

「お空が帰ってこないのよ…きっとまた地霊殿の位置を忘れたんだわ…
 早く見つけてあげないと…
 良くない輩に絡まれたりしたら、大変だわ…」

「ふーん。」



……

………!?

「い、いたーーーーーーーー!!」

「ねえ、どうしてそんなに嬉しそうなの?」

喜んで、お空に飛びつくお燐と、首を傾げるお空。

「お空のお馬鹿!!さとり様や私を何度心配させたら気が済むのよ!!!」
あまりにも呑気なお空の発言に、お燐はポコンと猫パンチをお空の頭に叩き込む。
「痛!?お燐酷いよー」

「酷いよーじゃないわよ!!
 いつまで経っても帰ってこないから、どこかで迷子になったり、悪い奴等に誘拐されたんじゃないかって、
 私もさとり様も、もの凄く心配していたのよ!!」

「ご、ごめん…また地霊殿の場所忘れちゃった…えへへ…」
 
「もう…迷って地霊殿からこんなに離れた所までくるなんて…このまま進んだら地上に出ちゃうわよ!!




 はぁ…こんなに地霊殿から遠いと、今晩中に地霊殿に帰り着くのは無理そう…寝れるのはいつになることやら…」

「大丈夫だよお燐、そうなったら鬼のお兄さんが、家に泊めてくれるから。」

「は?」

「さっき親切なお兄さんが家に泊まってもいいって「駄目ーーーーーーーーーーーー!!」うにゅう!?」

「絶対駄目!!」

「どうしてそんなこと言うの?お金が無くても、一晩言うこと聞いてあげれば、泊めてくれるって言ってくれるぐらい善い人だよ!!
 毎晩言うことを聞けば、何泊でも泊めてくれるって言ってくれたんだよ!!」

「全然善い人じゃない!!どう考えても、下心ありじゃない!!あんた騙されてるのよ!」

「うにゅう…」

「はぁ…さとり様に『黒歴史を暴露する刑』でそいつを懲らしめてもらうようにお願いしないと…。」

額に手を当てるお燐。
お燐がお空の心配をするのは、お空は地獄鴉という特段強いわけでもなんでもない妖怪である一方、お馬鹿で可愛い子でもあったからだ。

お空…もうちょっと、自分がどう見られているか考えてくれればいいのに…
親友の私が言うのもなんだけど、お空は表情や顔が可愛いし、頭に栄養が行っていない分、胸とかに栄養が行っていてドキドキだし…

せめて、鬼も逃げ出すような、もの凄いパワーをお空が持っていたら、こんな心配しなくて済むのに…


「はあ…こんなに心配させること、もうこれ以上繰り返さないでね。」


「それは不幸だ! もうその歴史を繰り返してはならない!!!」

ビクッ!!!!!!




?????

「お空、なにそれ…」


「えへへ…枠の中の人に似てた?」


「わ、枠??????????????


 お空…意味わかんない…」

「枠の中の人は、枠の中の人だよ。」

…さとり様。お空がまたおかしいです。



[6470] 第二十五話 ヘルメットがあっても即死だった。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/01/08 20:08
第二十五話
ヘルメットがあっても即死だった。


side 蓬莱山 輝夜
異変二日目1時10分
~永遠亭最深部~


「私の裏切りによって、私達の悲願は失敗に終わりました。
 残念ですね、ひ め さ ま?」
輝夜を貫いたまま、笑顔で話しかけてくる永琳。

「えーりん…どうしてこんなことを…」

「姫様、私が蓬莱の薬を使って最も後悔したことは何だと思いますか?」

「ゴホっ…罪人として追われることになったこと?」
血を吐きながら答える輝夜。

「違います。



 それは『暇』です。
 
 私の天才的な頭脳を持てば、遥か未来まで予想することは容易い事。
 もしも私の寿命が有限で、どう足掻いても見ることができない未来を予想できるなら、それは価値ある能力。

 だけど、私は永遠に生きることができる。
 だから、私にとって未来とは全て既に経験しているものであり、ひいては私の人生そのものが既に経験済みのものだと言えるのです。」


「永琳…言っている意味が分からないわ。」


「はあ…

 姫様にも分かるように言うと。
 私の人生は結末の分かっているTVゲームを永遠に続けているようなものです。」

「それは面白くないわね…」
少し理解したような顔をする輝夜。

「そう!面白くない!!

 だから、せめて好きなことをして、暇つぶしをしようとしたのです。
 
 でもそれもいつかは終わる。
 どんなに好きなものでも、いつかは飽きる…」


「永琳…やっぱり、あなたの言っている意味が分からないわ。」


「…………………………………………………………………………………………………………
 月の追っ手から姫様を匿い、匿った姫様を愛でる日々。
 姫様の馬鹿っぷりも昔は可愛く感じましたが、流石にこうもマンネリ化が進むとねえ…」

「えっ?」

「こういうシチュエーションはもう…




 飽きたのですよ。」

「え、飽きたっ!?」






「姫様。あなたには飽きました。」
永琳は冷たく輝夜に言い放つと、輝夜を貫いた腕を振るい、輝夜を地面に叩きつけた。


「あ、あなたには飽きました……








 『姫様。あなたには飽きました。』

 だっておwwwwwwwwwwwww
 それで似せてるつもりwwwwwwwwwwwwwワwwwロwwwスwwwwwwww」
倒れたまま、両手でバンバンと床を叩いて笑う輝夜。

「は!?」


「えい☆」
永琳が驚くのを確認すると、輝夜は突然起き上がり、永琳の首を刈り取ろうとした。




「ねえあなた、永琳じゃないでしょ。」

「な、何を…
 ショックで気でも触れたのですか?」
後ずさる永琳。

「正気よ正気!
 永琳ならこういう行動はありえないのよ。
 昔、これとまったく同じシチュエーションでベコベコにされたことがあるのよねー」

「べ、ベコベコ!?」

「あれは確か、人間は連続何年寝続けることができるか!?
 っていうことに挑戦して10年目ぐらいで、永琳から働けって言われ始めて100年目ぐらいだったっけ?
 ちょうど今と同じ様な感じで飽きただの暇だのって言ってベコベコにされたのよね。
 
 それも結局、所謂暇つぶしのシチュエーションみたいだったんだけど。
 わりと本気っぽい永琳の姿を見て、流石に私も反省して、もう少し有益な挑戦をするようになったのよね。
 あ、勿論働いてはいないからね。
 働いたら負けだしー。」

「は、はあ…」

「そしてあなたに言うことは一つ。

 永琳は同じシチュエーションは二度と使わない。
 私達は永遠の時を生きる蓬莱人だからこそ、そういうところは趣向を凝らすのよ。
 それなのに、暇だからって同じ方法で私を攻撃するってありえないのよ。
 永琳が本気で私を殺す気なら、もっと趣向を凝らしてくれるわ。
 あの月の頭脳と言われた脳味噌をフル回転させてね。」
そう言い終わると、輝夜はニヤリと笑って自分の頭を突っついた。

パチパチパチパチパチ

すると、どこからとも無く拍手が聞こえてきた。
「こうも簡単に見破るなんて、深い愛情のなせる業ね。
 藍、もういいわ、式を外しなさい。」
永琳を模した式を外し、正体を現した藍の影から這い出て来たのは、紫だった。
「蓬莱人を倒す方法の一つが、心を壊すという方法。
 あなたの日々のニートっぷりから、永琳に捨てられたら心が壊れるかと思ったけど。
 思った以上に強い心を持っていたみたいね。

 流石は『腐っても姫』ということかしら?」

「そうよ。
 蓬莱人であり、姫である私を倒すことなんて、あなたには不可能よ。
 私の心を折れるものなら折ってみなさい!!!」
胸を張る輝夜。

だが、紫は…
「私は倒す方法の一つと言ったのよ。」
不適に笑っていた。

side ハニュー
異変二日目1時39分
~永遠亭 最深部へ続く廊下~


右…

いや、ここは左だったかな?



…まずい…早速、道を忘れたw


分かれ道で左右をキョロキョロとするハニュー。

「ねえ、シャア?どうしたの?」
ハニューに聞く小傘。
どうやら、ハニューの不審な行動が気になったようだ。


「え、えーと…それはだなあ…」
小傘の質問に言いよどむハニュー。

ジー

う、どうしてそんなに真剣に俺の顔を見るんだこの子は!?
そんなに真剣な目で見られると、下手な嘘がつけないじゃないか。

小傘の真剣な眼差しに観念したハニューが、正直に話そうとしたその時、特殊作戦小隊の小隊長が割り込んできた。

「申し訳ありません!!
 スターサファイア、どうだ?」

「目的地方向…右の通路だけど、50mぐらい先の物陰に誰かいるみたい。」

スターは『レーダーの能力』を使い、敵の様子を探り、伝えてきた。

スターの報告に無言で頷き、周りの特殊作戦小隊の隊員に手信号を送る小隊長。
すると、バズーカのような武器を担いだ隊員が現れ、そのまま右の通路にバズーカのような武器を打ち込んだ。


ドーーン!!
「ヒャアアアアア!?」
ピチューン!!

「制圧完了。
 ハニュー総帥、次は如何いたしますか?」
ハニュー敬礼をしながら、報告する小隊長。


…どうしてこうなった。

皆さん、もの凄く頼りがいがあります。
訓練を受けたとはいえ、俺のような新兵程度の者にとっては、とても助かります…

でもですね。

さっきから…どうして俺が、隊長のような扱いを受けているの!?
そりゃ部長だから、部長=偉い という図式があるので…
生物兵器である幻想郷の住人にとっては、偉い=軍隊の上官という図式は分かるよ。
だけど、部活の部長に兵隊の指揮をやらせるなんて、無茶振りもいいところだと思うよ…
俺のようなド素人が、指揮をしたら絶対に上手く行かないよ。
正直言って、今のだってさ…敵が潜んでいるなんて、まったく気がつかなかったし。
そういう可能性すら忘れていたw




そうだよ、何も俺が指揮をする必要は、無いじゃないか!
「なあ?嫌じゃなかったらでいいんだが…指揮をやってもらえないかい?」
小隊長に、恐る恐る聞くハニュー。

「そんな!私がハニュー総帥に命令を出すなんて、恐れ多い!!」

色々と突っ込みを入れたい台詞だが、今はそんなことをしている場合じゃない。
次の作戦、これならどうだ!
「今の私はクワトロ・バジーナ大尉だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

実はこの小隊長。
小隊長の癖に、少佐の階級章を着けているのです。
訓練の時に、座学もしっかり勉強しておいてよかった。
因みに、この俺の階級は何かというと……なんと!






無かったりします。

訓練での卒業の時に、もしかして俺も任官されるかなーとwktkしていたのですが、名前も呼ばれないどころか…
何故かマリーダ達といった、教官と同じ場所に座らされて同期達が任官されていくのを見ているだけという展開に…

いやね、途中から勝手に入った訳ですし、任官されないのは分かるのですが。

何と言うかこう、サプライズ的な感じで『よく頑張りましたで賞』見たいなものがあるかなー。
なんて期待したのですか…


そんなものは ま っ た く 無かった。


むしろ何も無いより悪い事態に…
一緒に訓練を頑張った同期の皆からは、訓練中にハニューと呼び捨てにしてくれるようにお願いしていたのに…
任官した途端に『ハニュー総帥』としか呼んでくれないわけですよ。
しかも、任官式(卒業式)が終わった途端に、皆が態々俺の所に駆け寄ってきて『ハニュー総帥!私はこれから少尉として精一杯頑張ります!!』
って感じで俺に話しかけてくる有様だし。



やっぱりこれって…



ソコハカトナクバカニシテナイ?

俺は少尉。そしてお前は総帥…自称だけどな!m9(^Д^)プギャー
みたいな…

あまりにも悲しくて、マリーダとアリスさんに抱きついて泣いてしまったのですが…
周りの奴等が、ハニュー泣いてるwwという感じで、バカにして笑ってくれるのなら、まだ良かったのに…
何故か同期全員が、泣き出したりして…
これって明らかに、任官されず自称総帥なんて言われている俺を笑おうとしたのに「冷静に考えたら哀れすぎて笑えん」という感じで、
俺を哀れんで泣いてますよね。

正直言って、余計に惨めですw

因みに何か知らないけど、マリーダもアリスさんも、まるで美談を見るかのような顔をして俺達を見ていて助けてくれないし。
ああ…あの時はいろんな意味で泣きたかったなー。


遠い目になるハニュー。


おっといけない。
ということで、俺には階級が無いのを逆手にとって、俺は少佐の一つ下の階級である大尉だと言ってやりました。
もちろん、調べられたら階級が無いのでアウトですけど、それはそれで俺に指揮を任せるのはおかしいと気がつくでしょう。
ちなみに「階級が無いのに大尉と名乗るな」と、キレられたら。
伝家の宝刀「クワトロさんの真似をしただけですよ。俺がシャアだからネタとしては、こういう展開もありですよね。」という感じで逃げる予定です。

この完璧な作戦なら、どう転ぼうとも軍人思考の小隊長は自分が上の階級だと知って、自分で部隊の指揮を取ってくれるはずです。


あ、なんだか小隊長がポカーンとしている…外したか!?

「は…、は!!
 僭越ながら私が指揮を執らせていただきます!!」


あ…
何だか、見てはいけないものを見てしまったような雰囲気が、そこはかとなく感じられるのですが…
多分………クワトロだって!!痛いよこの人!!!
とか思っているんだろうなあ。

あーしまった。
小隊長がZガンダムネタを知っていたら、お前はクワトロ大尉じゃないだろ!!って突っ込みを受けかねない事態だった…

…………とにかく、指揮を執ってもらえるようなので、よかったです。
作戦成功。うん、作戦成功。

side 三妖精
異変二日目1時45分
~永遠亭 最深部へ続く廊下~

「どうして引き受けたのかな!?」
サニーが不思議そうな顔をする。

「サニーはどこ見てたのよ、あの顔見たでしょ。
 クワトロ・バジーナ大尉って名乗った後の、まるで悲しい過去を思い出しているような目。
 あんな顔をしてまで、今の自分は総帥じゃなくて大尉だからお前が指揮を執れってあの小隊長に言ったのよ、普通断れないわよ。」
不思議そうな顔をしたサニーに対して、スターが呆れた顔をして言う。

「なるほど…」
スターの説明に納得するサニー。
ところが、ルナが横から口を挟んできた。
「それだけじゃないと思うわよ。」

「どういうことルナ?」

「今回のハニュー総帥って、シャア・アズナブルやクワトロ・バジーナって名乗ったりしているじゃない。
 つまり、今回の自分はジオン総帥ハニューとしてここに来た訳じゃない。
 ジオンとは別の立場…例えば私人としてきた、だから部隊を指揮する資格はないって言ってるのじゃない?


 ハニュー総帥の過去って謎だらけだから、その一端に触れたって感じよね。」
顎に手を当て、難しい顔で話すルナ。

「る、ルナ?何か変なもの食べた?
 熱とか出てない!?」

慌ててルナに駆け寄り、オデコ同士をくっつけ熱を測りだすサニー。
「ちょっと!?恥ずかしいから止めてよ。
 光学迷彩の説明してくれた河童が色々とハニュー総帥の過去の謎について教えてくれたのよ。」

「びっくりさせないでよー。
 ルナが別の何かになっちゃたのかと思ったじゃない!」


「なによそれは、そんなことあるわけ無いでしょ。」

                                「二人とも仲がよろしい事で…」

キャッキャウフフするサニーとルナ。
バカ騒ぎに巻き込まれたくないスターは、距離を置いていたが、そんな二人が羨ましそうだった。

side ハニュー
異変二日目1時52分
~永遠亭 最深部へ続く廊下~

小隊長の適切な指揮により、道を塞ごうとする兎さん達をバッタバッタと倒していく皆さん。
こりゃ楽できますなー

と思っていたら、そうでもなかった。

今俺の目の前には、もの凄く可愛い子狐の大群と皆さんが戦っています。
しかも…
「これでは埒があかん!」
小隊長が言っているように、足止めされています。
一匹一匹はとても弱く、こちらが怪我をするといった事態になっていないのですが…
廊下を埋め尽くすほどの数の前に困っています。

因みに俺は…
後ろで大人しくしています。


だって、こんなに可愛い子狐さんを殺すなんて俺にはできないいいいいい!!
なんでも、式神という小狐さんを似せた別のもので、その正体は紙だということですが、抵抗感ありまくりです。
だが、このままでは姫様に会えないし…
どうしよう…

そうだ、こんな奴等いちいち相手にしているからいけないんだ。
俺達は飛べるんだから、さっさと飛び越してしまおう。

「ねえ小傘。このままではいつまで経っても前に進めないから、飛び越して行けないかな??」

「それは我々も考えていました。
 我々が持ち込んだマジックアイテム『強化型魔法の箒』があれば、突破に必要な速度は得られます。」
小傘に話しかけたハニューだったが、横から小隊長が割り込んできた。
小隊長達は小傘にライバル心を燃やしていたのだったが、ハニューはそのことに、まったく気がついていなかった。

「じゃあ、それで行こうよ。」

「で、ですが…」

ん?
何か言いよどんでいる?
何か問題があるのかな?

「何か問題があるのか?」

「先程も『突破に必要な速度』と説明したように、突破には速度が一番大切です。
 少しでも速度が落ちれば、圧倒的な数を誇る奴等が津波のように押し寄せ、飲み込まれてしまうでしょう。
 そして、最も効率よく我々の速度を落すためには、突破しようとする我々の先頭に攻撃を集中するのが一番です。」

「つまり、先頭に立つ者はもの凄い被害を受ける。ということ?」

「はい、そうなります。」

「じゃあ、一番強い奴が先頭に立てばいいんじゃね?
 よし、それで決まり!
 頑張ろう!!!!」
そう、具体的には小隊長とか、小隊長とか、小隊長とか!!


----------



「シャア!わっちも頑張るよ!!」


あるぇー?(・3・)
おかしいな?

どうして俺が先頭になっているのかな??
ちょっと、小隊長!?

「ハニュー総帥に敬礼!!!」
一斉にハニューに敬礼する妖精達。

って、こんな状況じゃ「お腹痛いからさっきの無し!」
とか適当なことを言える雰囲気じゃねええええ!!

やっぱりこれって、言いだしっぺが責任取れっていうことですか!?
小隊長を犠牲にしようとしたことが、バレたということですか!?



ってバレるよなそりゃ…
もうこうなったら、潔くフルボッコにされるしか…

じゃないだろ!

諦めちゃ駄目だ!
今からでも遅くないから、小隊長に謝ってもう少し現実的なプランに変えてもらおう。



「小傘!」
小傘に声をかけるハニュー。
因みに、小傘はハニューと同じ箒に二人乗りをしており、小傘が前、ハニューが後ろに座っていた。
それは、初めて乗る箒と敵防衛線の突破という事態を目の前にして、ビビリ出したハニューが小傘に箒の操縦を頼んだ結果だった。

「了解!!」
え?

「小傘、シャア、兎さん一号・二号、出ます!!!」
出るってどこに!?

バシューン!!

小傘の妖力を推力に変換し、鋭い音を出して飛び出すハニューの箒。



ちょっと待てええええええええええええ!?
俺が言いたいのは、一旦降りるぞということ「シャア来たよ!!!」


来た来た来た来たーーーーー!!
子狐さん達の大群が俺に向かって飛んでくる!?
一番後ろで安全に行きたいと思っていたのに、どうしてこんな事にー!?
ええい。
これでは道化ではないか!!!

「全速!!全速だ小傘!!!!
 これでもかって言うぐらい全速だ!!!」

「分かった!!!」

side 三妖精
異変二日目1時59分
~永遠亭 最深部へ続く廊下~

「ますい!アレでは、速過ぎる!!」
もの凄い速度を出し始めたハニューの箒に、小隊長が焦った声を出す。

「な、何が不味いの!?」

「相対速度よ!!あんなに速いと、式神と衝突しただけで怪我するわよ!!」
ハニューの行動は見事に敵の目を引きつけ、その後ろに続く特殊作戦小隊の突破を楽にしていた。
だが、ハニューのそのあまりの速さは、両者の距離をどんどん広げていった。

side ハニュー
異変二日目2時02分
~永遠亭 最深部へ続く廊下~

まるでシューティングゲームのように、式神の大軍の中を突き進むハニューの箒。
そして、もの凄い速度で突っ込んでくる式神達。
流石のハニューも、減速の必要性に気がついたが、時既に遅しだった。

なんじゃこりゃ!?
後ろは追いかけてくる子狐さんの大群以外、何も見えないじゃないか!!
これじゃ減速もできない!!

本来なら後続する部隊も弾幕を張っている為、このような事態にはならない筈だった。
だが、ハニューの箒だけ突出してしまったため、敵中に孤立する事態となったのだった。

どうすればいいんだ!?

最早、可愛いから無理!等と言えなくなったのか、銃を撃ちながら必死に考えるハニュー。

だが、ハニューはいい方法が何も思いつかなかった。
「だめだ、このまま速度を維持して突破するしか方法が思いつかない…
 でもそれじゃ、いずれは…まるで雨のように降って来る子狐さんに激突して…」

「雨………!!
 シャア!!わっちの傘を使って!!」

「小傘?」
突然、進行方向に向けて傘を広げる小傘。
妖力で補助されているとはいえ、風圧で傘は今にも折れそうだった。

「シャア、わっちを使いたい!そう心から願って!!そうしてくれれば、きっと上手く行く気がするの!!」

「分かった!!小傘を使いたい!!小傘を使いたい!!小傘を使いたい!!!!」
もはや、小傘ぐらいしか頼るものが無くなっていたハニューは、無意識だったが小傘の申し出に必死に答えていた。


そして…




「行ける!!」

「行けるって何………………凄い!!!」
小傘の言葉と共に、まるでビームシールドのような光が小傘の傘を覆いだす。
その光の大きさは小傘の傘の四倍以上あり、飛びかかってくる式神を弾き飛ばし始めた。

「このまま一気に突破するから、しっかり捕まってって!!」


小傘は、打ち捨てられた古傘が妖怪化した付喪神だった。
そのため、ハニューの小傘を使いたいという必死の思いは、小傘の心を震えさせるだけではなく、『その思いそのもの』が小傘の妖力に変換されたのだった。
それは小傘にとって、人を驚かすという遠まわしな意味で『使われている』時より、遥かに純粋で大きな力だった。

「何だこの速さは、トランザムってレベルじゃねーぞ!?」

side 八雲 紫
異変二日目2時04分
~永遠亭最深部~

永遠亭の最深部、そこには先程まで紫と藍と輝夜がいた筈だったが、今は何故か、輝夜の姿はどこにも無かった。
「ちょっとばかり時間がかかったけど、やっぱりあの手は有効だったわね。
 さーて、システムも完全に破壊したし…
 そろそろ宇宙人の親玉も来るでしょうから、同じ手で適当にボコって…



 藍どうしたの??」
その表情、式から何か受信しているわね。

「高速移動物体、急速に近付く。
 数は約四十。
 入り口方向より接近してきます!!」


「永琳が来たの!?」


「いえ…この反応は…妖精のようですが…




 …式神の中を……










 ありえない!!




 先頭の妖精は後続の…  三倍の速度で接近中!!!」



「三倍の速度…?
 妖精の速度の三倍だなんて、たいしたこと無いわね。」
馬鹿にした表情をする紫。

「紫様!!!」

side ハニュー
異変二日目2時05分
~永遠亭最深部の少し手前~

うおおああああああ!!
凄い速度!!!

これならあっという間に、姫様の所にたどり着きそうって…!!不味い!!!
廊下の出口っぽい所にいるのは、ストーカーさん!?
「小傘前!!!」

「了解!!!」

って、どうしてストーカーさんの方向に向かって  ズゴン!!!!!!!
「キャアアアアア!?」
「紫様ーーーーーーーーーーーー!?」
紫を轢くハニューの箒。
紫はクルクル回転しながら、放物線を描いて空中を飛んでいく。



ズシャ!!

そして、紫は頭から地面に落ちた。



「やったあ、わっち凄い!!」
急ブレーキをかけながら、喜びの声を上げる小傘。


( ゚д゚)ポカーン



「小傘…どうして撥ねたのかな?」

「シャアが撥ねろって言ったからだけど?」


(゚Д゚)


ゲンソウキョウが生物兵器の実験場だと知った時以来、いつかは人を殺めるのではないかと思っていたが…
まさか、知り合いを殺すことになるなんて…

「これは酷い、衝突の衝撃で額はパックリと割れているし、首は変な方向に曲がっているし、顔はアへ顔になっているし…
 碌な死に方をしないとは思っていましたが、まさかこんな死に方だなんてーーーーーーーーー!!!」
オイオイと泣く藍。




ボコン!!

「…勝手に殺さないで。」
藍を殴った紫が、ゆらりと立ち上がる。
「フフフ…本気の一撃、なかなか良かったわ。

 …あなた…私を倒しにきたのかしら?」

良かった、どうしてかは分からないが、ピンピンしている。
第一印象が最悪な展開だけど、ここは何とか上手く凌いで姫様に会わないと!

「姫様に会いに来たのです。あなたを倒しにきたわけではありません。
 ごめんなさい、今のは不可抗力というか…不幸な事故なんです!!」

「そう…ではお帰り頂くしかないわね。
 私たちは蓬莱山輝夜を捕まえ、スキマに閉じ込めているわ。」

なんだと…
ストーカーさんと藍さんが、姫様と戦っていたのか!?
まずい所に立ち会ってしまったのかもしれない。
ストーカーさんと藍さんは博麗の巫女側だったのか…

確かに、博麗の巫女にご執心だと噂のストーカーさんだったら、十分にありえるよな。
そして藍さんは…
ストーカーさんと藍さんって、意外と一緒にいることが多いんだよな。
花見の時の様子から見て、ストーカーさんに狙われていたみたいだから…今はストーカーさんと大人な関係なのか…
ってそれだと、ストーカーさんが最近、博麗の巫女を追いかけているという話と矛盾するし…
だいたい、藍さんは橙ちゃんから聞くにしっかりした大人の女性で、ストーカーさんなんかとくっ付くとは思えないし、
そういう話があったら橙ちゃんが泣いて相談に来そうなものだし…
もしかして…藍さんは、ストーカーさんに脅されて手伝っているんじゃ…

ストーカーさんは、ストーカーだから十分に、ありえる…
本人は普通に頼んでいるつもりでも、周りから見たら十分に脅しているって事態は、ストーカーをするようなタイプの人には結構あるからな。

「蓬莱山輝夜は私達の捕虜よ。直ぐに帰らないと、蓬莱人であっても耐えることのできない、私特製のスキマツアーに蓬莱山輝夜を送るわよ。」

…意味がイマイチ分からないが、姫様を人質に取られたというのか!?
なんとうことだ…
知り合いが知り合いを人質に取るなんて…!?


落ち着け俺。
簡単に諦めてしまっては、うどんげ達と博麗の巫女達との戦争を止めることなんてできない。
何のためにここに来たのか思い出せ。

だが、人質解放の交渉だなんて俺にできるのか?
下手に弱みを見せて、相手のペースに乗ったら駄目だということは分かるが…
人質解放の交渉なんて経験したこと無いし、精々テレビで見たことぐらいしか…

そういえば…これとよく似た場面、どこかで見たような。
はて?

「黙り込んじゃって、どうしたのかしら?こっちは本気よ。」

このままだと、確実に方法が思いつかないまま、逃げ帰る展開になる…
それにもし上手く行かなくても、俺がさっさと逃げ帰れば、少なくともこれ以上悪い方向には転ばないだろう。
駄目元でも、交渉に持ち込むよう努力すべきだ。
しかもだ、俺は正体不明の人物…
交渉に持ち込めば、多少のハッタリは効くかもしれない。


やってみるか。

「なるほど、状況は確認した。
 私はジオンのシャア・アズナブル大佐だ。要求を聞こう。」

「要求はさっき言ったでしょ、それ以外は何も無いわ!それに何よその格好と名前は、あなたハニューでしょ!?とっくに分かってるわよ!!」
俺の正体バレテルーーーー!!
でも駄目だ、相手のペースに乗っちゃ駄目だ。

「姫様を帰しては貰えないのかな?」

「そうよ!」

やっぱり駄目だ、全然交渉に入れそうに無い。
もう一度状況を整理しろ俺。

何故相手が交渉を持ち出したのか。
普通に考えると、まともに戦えない理由があるからだよな。

1 姫様との戦いでストーカーさんもかなりのダメージを負っている。
2 実は小傘が超強い。
3 俺が強くて、ストーカーさん如きでは勝つことなんてできないぜ!!

といことになるが…
やっぱりそうだよな、3はありえないが、何らかの理由によりこちらの戦力がストーカーさんを上回っているからと考えるべきだよな。

となると、この状況…
どこかで見たことがあるかと思ったら、ガンダムUCのフル・フロンタルに対して、ミネバ様を人質に取っている状況と同じじゃないか。
ネオジオンのフル・フロンタルが連邦のネェルアーガマに攻撃を仕掛け、その圧倒的な強さにどうにもならなくなった連邦が取った手段。
ザビ家の遺児、ミネバ・ザビを人質に取って、フル・フロンタルと交渉に入ったあのシーン。
俺達の方がフル・フロンタルで、ストーカーさんがネェルアーガマ。
で、姫様がミネバ様…姫様だけに。ミネバ様は、ジャージ着てTVゲームしないけど…

えっと…確かあのシーンでは…
フル・フロンタル…赤い彗星の再来とも言える男は、交渉の最中、逆に要求を突きつけ、交渉の主導権を奪った。
そしてそれは、彼が強かったから出来たことだ。
つまり今の状況同じ……使える!!

よし、フル・フロンタルをイメージして交渉再開だ。
俺はフル・フロンタル。
俺はフル・フロンタル。
俺はフル・フロンタル。



よし!!


「では、今度はこちらの要求を言う。」

「「!?」」

「戦闘を中止し、博麗の巫女に対しても即時戦闘の中止を申し入れてもらいたい。」

「な、なんだそれは!!」
藍が驚いた声を上げる。
「要求を言っているのはこっちよ。それに見返りが無いわ。」
それに紫も続く。

「あなた達が家に帰るまでの安全ということでは不服かな?」


「だから、要求を言っているのはこっちだ!」
藍が怒りの声を上げる。

「それは我々が判断する。要求が受け入れられない場合は、あなた達を撃墜する。」

「「……」」
顔を青くする藍。
そして何故か紫はもの凄く嬉しそうな顔をしていた。

「ハニュー…いや、シャア・アズナブルと言ったかしら、人質の命はいいの?」

「人質が本物の姫様と確認できない。不確定要素に基づいた交渉は応じかねる。
 三分待とう、それを過ぎて有益な返答が無い場合、当方はあなた達を撃墜する。賢明な判断を期待する。」


身を翻し、通路に戻っていくハニュー。
それを紫は、異様なほどの笑顔で見つめていた。


side 八雲 紫
異変二日目2時10分
~永遠亭最深部~

予想以上に良い答えが得られたわ。
無理して人質作戦を取って正解だったわね。
交渉のあの迫力…
我々幻想側の住人が久しく忘れていたもの…ゾクゾクしちゃう…

「紫様!ハニューに蓬莱山輝夜の姿を見せるべきです、そうすれば交渉の主導権を取り戻せます。」

「無駄よ。」

「えっ!?」

「ハニューだって私が能力を使えば、直ぐに蓬莱山輝夜の姿を見せることができるのを分かっていて言っているのよ。」

「それじゃ…!?」

「つまり、元から蓬莱山輝夜の命なんてどうでもいいのよ、ハニューは。
 さっきの八意永琳との交渉を見たでしょ?
 目的は私達や霊夢達とも違う理由で、この戦闘を止めること。
 そのために蓬莱山輝夜を使おうとしたみたいだけど、私達に捕まっていることを知って使えないのが分かったから、私達に交渉を持ち込んできたのよ。」

「そんな…事前の調べでは、一緒にTVゲームをするほど仲が良かった筈なのに…」

「大局のためには個を殺すことができる。
 目的のためなら手段を選ばない。
 そういう奴だって藍も分かっていたはずでしょ?」

だからこそ、彼女には期待しているのだけど…
でも…藍の案は、反応を見るにはいいかもしれないわね。

side ハニュー
異変二日目2時10分
~永遠亭最深部の少し手前~

緊張したー。
慣れないことは、あまりやるべきじゃないな。
ストーカーさんから博麗の巫女に戦闘の中止を申し入れてもらえれば、結果として姫様も戻ってくると期待したが…
よくよく考えれば、ストーカーさんにそんな力はあるかどうか分からないし。
「人質が本物の姫様と確認できない。不確定要素に基づいた交渉は応じかねる。」
なんて言ったけど、こういう場合、映画だと「これが証拠だ!!」って感じで悲鳴を上げる人質の映像が出てくるのが多い状態だから…
一歩間違えば、逆に追い詰められていた場面だったし…

……そういえば、どうしてストーカーさんは人質の姿を俺に見せなかったんだ??
よく分からない人だ…
はぁ、そんな人に賢明な判断を求めることになるとは…賢明な判断…してくれるのかなあ?

「ところで、小傘はあの人達相手に勝てると思う?」

「…シャアってハニューなんでしょ?」

「そうだけど?」

「わっちは勝てると思うな。」
自信満々で答える小傘。

そうかそうか、小傘は二人相手でも圧倒できるぐらい強いんだな。
それなら、ちょっと安心だ。

「あれ?」
小傘が何かに向かって目を凝らす。

ん?どうした小傘…
あれは…誰か来る…
他の皆が追いついてきたのか…
でも、様子が変だぞ!?

「ハニュー総帥!!八意永琳が!!くっ!?」
矢に打ち落とされそうになる小隊長。
辛うじて矢を回避した小隊長だったが、姿勢を崩したその先にも矢が飛んでくる。
小隊長は咄嗟にエネルギーCAPでその矢を防ぎ、煙を上げるエネルギーCAPを彼女達が元来た方向に投げつける。

な、なんだ!?


「ハニュー!!!見つけたわ!!」

って何だあの速度!?

冗談のような速度で廊下を走りながら突っ込んでくる永琳。
そんな永琳が20m程にまで近づいたその時「伏せてください!」ハニューにそう言い放つと、小隊長はエネルギーCAPに向けてビームピストルを打ち込んだ。
ビームライフル数十発分のエネルギーを溜め込んだエネルギーCAPが永琳の足元で大爆発を起こす。



永琳の姿が爆炎の中に消える。
だが、その爆炎の中から永琳は無傷のまま飛び出してきた。
そのまま、あっという間にハニューを押し倒し馬乗りになった永琳は、馬乗りの姿勢のままハニューに矢を突きつける。

「姫様は!?」
鬼気迫る表情の永琳。

…何故俺が怒られているんだ???
「人質に取られてます。」

「!!!返しなさい!!」
…いや、俺に言われても???

「だから、ストーカーさんや藍さんに人質に取られているから、返すように交渉中です。」
いきなり怒られ混乱するハニューだったが、混乱しているからこそ正直に状況を話すことができた。
そして、そのハニューの冷静な反応を見て、小傘や特殊作戦小隊の面々も、武器を下ろし始める。

「…ストーカーさんや藍さん…交渉中?」

「姫様に会いに来たら人質に取られていたので、返すように交渉してきたところです。
 これで駄目なら、姫様の身の安全を考え、作戦を立て直す予定です。」

「あなた、姫様を捕まえに行ったんじゃなかったの!?」

どうしてあの会話でそういう結論になる。
この人、もの凄い天才だとうどんげ達から聞いていたが、本当なのか!?

「違いますよ!俺はあなた達が博麗の巫女達に殺されないように…戦いを止めさせるために来ただけです!!」

「なんですって!?」

ちょっと待て!
俺は勘違いで矢を突きつけられているのか!?
(#^ω^)ピキピキ
何だか腹が立ってきたよ。

「だから言ったでしょ!ここで負けを認めなければ、犠牲が増えるだけですよと!!!!!!」

「そんな…それじゃ私の判断が間違ってた…!?」

「あなたはいったい何をやっているんだ!!理由があるのは分かるけど、こんな犠牲を出してまでやることだったのか!!!」


「姫様…!!」
永琳は、突然ハニューから離れ、走り出した。

あっ、ちょっと待って永琳さん!!

「永琳さんを追いかけるぞ!」

「わかった!」
「了解!!」


----------


「誰かと思えば宇宙人の親玉じゃないの。
 ハニューに見せるためにあなたの『姫様』を用意していたのに、まさかここであなたが来るとはねぇ…
 随分遅かったじゃない。
 遅くて遅くて…あなたの大事な姫様はこんなになっちゃったわ。」

紫の前には、血塗れでスキマに捉えられた輝夜と、その前で呆然と立ちすくむ永琳の姿があった。

「永琳さん!」
そこに駆け寄るハニュー。


「なんて事…」
顔面蒼白で、ガタガタと手を震わす永琳。

まずい、自分を見失いかけている。

「過ちを気に病むことは無い。ただ認めて、次の糧にすれば良い。それが大人の特権だ。」
どう声をかければいいか分からなかったので、フル・フロンタル風に慰めてみた。

ってうあぁぁぁぁ……こ れ は 酷い。
頭を抱えるハニュー。

何をやっているんだ俺は、もう少し気の利いたことを言ってあ「…そうね、今はこんなことしている場合じゃなかったわね。」

なんですと!?何故か上手く行った!?

side 八意永琳
異変二日目2時14分
~永遠亭最深部~

…まるで何かの台詞を読み上げているような、感情の感じられない言い回しで私を慰めてきた…?
つまり…私を慰めたのは本心ではない。
となると、私を立ち直せる必要があった…?

あまりにも異様なハニューの雰囲気と台詞。
その異様さが永琳の警戒感を呼び起こし、永琳を正気に戻した。


現状、敵は二人。
八雲紫と八雲藍の二人を私一人で相手しつつ、姫様を救出するのは難しい。

それはハニューも同じ。
妖精兵がいるが、対等に戦えると思われる戦力はハニューともう一人の子。
だが、私とハニューが共同戦線を張れば、戦力はこっちが上回り、姫様を救出するチャンスも生まれる。

ハニューの真意は不明だけど、計算上ここでハニューと私が組むのが最も得策。
ハニューもそれを読んだからこそ、私に慰めの声をかけた。
いえ、ハニューの考えを私が読んだと考えるところまで計算済み…かもしれない。

「…そうね、今はこんなことしている場合じゃなかったわね。」
ハニューの方を向く永琳。

「ハニュー、一時休戦よ。姫様を助けるわ。」

side ハニュー
異変二日目2時15分
~永遠亭最深部~

永琳さんからの協力要請か…
でも、その前にやることがある。
「ところで、既に三分経っている。
 返事を聞こう。」

「そちらの要求は呑めない。これが返事よ。」

…そうか…残念だ。
こうなったら、実力で姫様を助け出すしかない。
「了解した。あなた達を撃墜する。」
ハニューは紫に宣戦布告を叩きつけた後、永琳に向き直りコクリと頷いた。

といっても、俺は積極的に戦うつもりは無いけどね。
というか、むしろ積極的に戦ったら邪魔になると思う。

・ストーカーさん
博麗の巫女を愛しているから戦いに参加したのだろうが、何らかの理由で人質を取るぐらいに弱っている。若しくは、小傘より弱い。

・藍さん
藍さんは、良い人だったはずだし。さっきストーカーさんに殴られていたから、恐らく凶行に走ったストーカーさんに嫌々連れてこられた被害者。
多分あまり積極的に戦わないはず。

・永琳さん
めちゃくちゃ強い。姫様が人質に取られてNT-D発動中ぐらいに強い。

・小傘
強いみたい。ストーカーさんより強いみたい。

・小隊長とか
銃持ってる。少なくとも俺より遥かに強い。

という状況だと見た。
つまり楽勝ですし、俺はこの中で最弱。
ですので、俺は後ろでコソコソしながら、俺のできることをやろう。

例えば…
「見せてもらおうか、ストーカーさんの実力とやらを!!」
という感じで、皆の気合を入れるとか!!

----------


まずは、手始めに数発打ち込んでやるか。
俺の出来ることをやる予定ですが、だからと言ってまったく攻撃しないと、それはそれでいかにも何かやっていると言っているみたいで怪しいからな。
といっても、ストーカーさんや、藍さんを殺したくないから、攻撃を皆に適当に任せて隙を突いて姫様を俺が救出。
そして戦闘を止めさせる。

これが俺の出来ること。
俺や速く姫様を助ければ、一人の犠牲も出ないかもしれない。

「行くぞ!!」
気合の雄叫びと共に、紫に向けてビームライフルを撃つハニュー。
それが戦いの狼煙となり、一斉に弾幕が飛び交い始める。

ビシューン!
ビシューン!
続けざまにビームライフルを撃つハニュー。
その反撃とばかりに、紫が弾幕をハニューに向かって撃って来る。

ひ!?

危ない!?

バカな!?思った以上にストーカーさんの攻撃が鋭い!?
少なくとも、リグルやミスティア以上の鋭さだぞ!?
全反射神経を使って回避したのに、それでもギリギリだったじゃないか!!
「この状況でグレイズだなんて、流石にやるわね。」
嬉しそうな紫。

ぐれいず?
ストーカーさんは一体何を言っているんだ!?
まさか、変な事を言って、俺の集中力を削ぐ気か!?
「でも、まだまだ弾幕は激しくなるわよ!!」
って考える暇も与えてくれないのか!?
くそっ、凄い弾幕だ…
こんなのかわせるのか!?
クソ重いヘルメットと、動き難い服装をしていなければ、まだマシなのだが…

………………あれ!?
もう正体がバレているのに、こんなに戦闘向きじゃない格好で戦っている意味…無いよね。

ええい、こんなの着ている場合じゃないだろ。
「小傘!この服を脱ぐから、少し後ろに下がるよ!!」


「ハニューが裸になろうとしています!!本気を出す気です!!!!!」

ら、藍さん?

別に俺は裸になるつもりなんてナイデスヨ!?
裸になると本気になるって、いったいどこの痴女ですか「紫奥義『弾幕結界』!!!」ってストーカーさんが俺の方に向けて必殺技みたいのを出してきた!?
ちょっと待ってくれ!?順番がおかしいだろ!?
どう考えても、最も強そうな永琳さんに必殺技を出すべきじゃないのか!?
どうしてこの中で最弱の俺が最初のターゲットに!?ってやばい!本当に当た「シャアには指一本触れさせない!!」

弾幕が当たるかと思ったその時、小傘が横から乱入し、傘で弾幕を弾き飛ばした。
その傘は、先程と同じ光に包まれていた。
「ちょっと!?そんなのアリなのー!?」
抗議の声を上げる紫。

やばかった、今のは死んだと思った。
ヤバイ…手が震えている…
いざとなると恐いものです、手の震えが止まりません。
って言うぐらいに震えている。
でも当たらなかったのだから、大丈夫。

俺の体は落ち着け!

そう…「当たらなければどうという事はない。」筈だよな、俺の体!
シャアの台詞を喋って自分に言い聞かせるハニュー。

「そうだけど、弾幕をシールドで防ぐなんてインチキよ!!」
紫は、ハニューの言葉を自分への反論と勘違いし抗議するが、その言葉は続かなかった。
「存在自体がインチキな分際で、よく言うわね。」
ハニューと小傘の行動にペースを乱され隙を作ってしまった紫。
それを見逃す永琳では無かった。
永琳が一気に距離を詰め、紫に肉薄する。

「今度こそ、確実に力を奪ってあげる。」
懐から『八雲紫の力を封じる薬』が入った注射を取り出す永琳。

「きゃー怖いーーーーーーーー!


 なんてね。」

「うっ!?」
突然意識を失い、ばたりと倒れる永琳。


!?いったい何が起きた。
どうして永琳さんは突然倒れたんだ!?

「危機一髪だったかしら~?」

「そんなこと無いわよ、ちょうどいいタイミングだったわよ。」

あれは…幽々子さん。
幽々子さんがスキマから出てきた!?

「じゃ、復活する前に、さっさと動きを封じさせてもらうわ。」
永琳の体中にスキマが取り付き、永琳の自由を奪う。
永琳が意識を取り戻すのと、永琳の自由が完全に奪われるのは、ほぼ同時だった。

「これは…しまった…」

「流石月の頭脳、自分の置かれた状況が分かったみたいね。
 あなた達は不死。
 だけど、あなた達を封じることならできる。
 そして私のスキマは、この世界と別の世界にも繋げることができる。
 そんな所に閉じ込められたら、私達の主観で見た世界ではあなたは?」
まるで先生のように永琳に指差しながら、質問する紫。
「死んだことと同じね。」

「ご明察!
 私の力を使えば、あなたは事実上の死を迎えることもできるのよ。」

「……」

「もうー。準備をするのが大変だったんだから、少しは喜びなさいな。
 捕まえるといっても、あなたみたいな相手だったら、捕まえることすら普通の方法では不可能だわ。
 だ か ら、幽々子の『死を操る程度の能力』を使ってあなたを殺してもらったの。
 といっても、あなたは死なないから精々仮死状態が限界だったけど、捕まえるには十分なのよね。


 ということでハニュー。」

俺!?

「あなた達妖精でも、同じことが言えるということは分かるわよね。



 武器を下ろして、テーブルについてくれないかしら?」

いつの間にか紫の周りには、円卓のテーブルといくつもの椅子が現れていた。
紫は、そこに永琳を座らせる。

「紫様…??いったい何のつもりですか!?」

「話 し 合 い♪」

「はあ?」

side 八雲 藍
異変二日目2時19分
~永遠亭最深部~

「紫様。今更話し合ってどうするのですか。今の勢いのまま、ハニューも倒すべきです。」
紫の言葉に驚いた藍は、紫にハニューを倒すべきだと主張する。

「いいから、私に任せておきなさい。全員集めてのお説教タイム…楽しみだわ。」

「話し合いでは、なかったのですか!?」

「ちゃんと話し合うわよ。
 話し合って、しっかりと問題点を自覚してもらうお説教タイムなのよ。
 やっとここまで来たわー疲れたー。」

「は、はあ…」

紫様が戦いをけしかけ、紫様主催で話し合いの場所を設け、その戦いにけりをつける。
そして、話し合いのはずの場所で、紫様が全員にお説教をする。
そんなことをして、紫様に一体何の得があるのだというのだ。
…やはり紫様の行動は何かおかしい。



紫様は私に何かを隠している。

side 魂魄 妖夢
異変二日目2時19分
~永遠亭最深部~

「あの…幽々子様。
 紫と事前に打ち合わせをしておられたのでしょうか?」

「フフフ~もしかして妖夢…まだ気がついていないのねー?」

「気がついていないって何を!?」

「背中!」

え、背中!?
私の背中に何か…何も無いじゃないですか。

「そっちじゃなくて、あなたの背中はもう一つあるでしょ~。」

ま、まさか。

慌てて自分の半霊の背中?を調べ始める妖夢。
そこには、デカデカと『スキマから八意永琳が見えたら、八意永琳を殺してね(ハアト)貴方のゆかりんより』と書かれた紙が張ってあり、
その下には『スキマから蓬莱山輝夜が見えたら、蓬莱山輝夜を殺してね。だけどまだこちらには来ないでね(ハアト)皆のアイドルゆかりんより』
『今日のお仕事分だから、ゆっかり食べていってね!!!』
といった感じに、何枚もの紙が貼られていた。

「な、なんですかこれはーーーー!?」

side ハニュー
異変二日目2時20分
~永遠亭最深部~

「じゃあ、話し合いを始めましょうか。
 そこに突っ立っているジオンも、いい加減に座りなさい。
 あなた達が座らないと、霊夢達を呼べないでしょ。」

と言われても、あまりにも急な展開で頭が追いつかなくて困っているのですが…

悩むハニュー。すると、ハニューの傍に小隊長がそっと近付いてくる。
「ハニュー総帥、間に合いました。5秒後です。」


え?間に合ったって何が!?

「別に悪い話じゃないはずでしょ。」
混乱するハニューに紫が速く座れと催促してくる。

いや、そういう問題じゃなくて、問題は意味が分からないということで。
でも、話さないと分からないままだからなあ。
兎に角テーブルに座って話を聞くか…








ドドーーーーーーーーーーーーン

今度は何だ!?
いきなり、入り口から沢山の弾幕が!?
「ハニュー総帥を守れ!!!射撃体勢!!!」
アイリス!?

突然現れたのはアイリス率いる親衛隊だった。
彼女達は、ハニューと紫の間に滑り込み、身を挺してハニューを守ろうとし始めた。

「ちょっと!!
 警戒するのは結構だけど、話が進まないでしょ。
 
 ハニュー!
 こいつらを下がらせなさいよ!!」

「貴様!なんだその態度は!!」
ハニューを呼び捨てにする紫の口調に、激高するアイリス。

あばばばば。
何だか、話がややこしくなって来たぞ!?
これは部長の俺が止めないといけないのか!?

「皆ちょっと落ち着け!」

「し、しかし。
 この期に及んで、いきなり話し合いをする等と怪しいことを言われては…落ち着いてなどいられません!!

 これは何かの罠です!!」

「ふーん…。
 あなた…私とハニューとの会話を、そいつ等を通して聞いていたのね?
 その会話を冷静に分析する頭脳があれば、これが貴方達にとって悪い話じゃないと分かるでしょ。」
特殊作戦小隊を指差しながら紫は話す。

「……貴方は信用できない!」
それに対して、吐き捨てるように答えるアイリス。

アイリスの言葉を聞いて、紫はもの凄く面倒くさい顔をするが、次の瞬間には真剣な顔になって説明を始めた。
どうやら紫にとっても、ここは引くことはできない場面のようだった。
「もうー面倒くさい子ばっかりねー。
 私と幽々子の力を使えば、あなた達を倒すことはできる。
 だけど、長年戦っていなかったせいで勘が鈍った間抜けな宇宙人ならとにかく…ハニューを簡単に倒せるとは思っていないわ。
 私達は双方共に相手を倒す力を持っているけど、だからと言ってどちらかが一方的に相手を倒せるほどの力も持っていないのよ。」

紫は喋りつつ、スキマに向かって一発の弾幕を投げ込んだ。


side 八雲 紫
異変二日目2時22分
~永遠亭最深部~

「ほら見てみなさい、私は今さっきスキマを通して貴方にとって命より大切なハニューの体内に直接攻撃したけど、この程度の攻撃なんてまったく通用して無いでしょ。
 これなら、双方共に話し合いのメリットを得られつつ、貴方の恐れる罠でハニューが苦しむことも無い『バタリ…』

突如、うつ伏せに倒れるハニュー。

「ハニュー総帥!?」
慌ててハニューに駆け寄り、抱き上げるアイリス。
しかし、抱き上げられたハニューはまるで人形のようだった。
ハニューの手足はだらりと力なく垂れ下がり、倒れた衝撃でマスクが取れたその顔からは、生気がまったく感じられなかった。

「そ、そんな…ハニュー総帥…何かの冗談ですよね…ハニュー総帥!?」


え?え?え?え?え?え?
どどどどどどどどどどどどどういうことなのーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?

「ちょっと見せてくれる~!!」
混乱する紫を置いて、幽々子がハニューの元に駆け寄る。

「…………あらら~!?








 これって、死んでるんじゃないかしら~!?」

「「「「「「「「「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」」」」」」」」」」」」」


気がついたら妖精 【完】?



[6470] 第二十六話 厨二病全開!!!!!
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/01/08 20:04
第二十六話
厨二病全開!!!!!

「ご覧ください、この光景!!
 式典会場は臣民によって溢れかえっています!」

リポートを行うのは、黒い犬耳とツインテールが特徴的な女性。
テロップには射命丸 伝と書かれている。
その後ろでは、広大な敷地で何かの式典が行われようとしている。
現在は余興の最中なのだろう、歌手が式典会場で歌い続けている。
歌手は、小さな羽根と触覚が特徴的な少女で、会場からはミスチーと呼ばれていた。

『凄い数ですね!どれ程の臣民が集まっているのですか!?』
リポーターに対して、興奮した声でスタジオから質問が入る。

「最新の情報によると、式典会場周辺だけで数百万人以上の臣民が集結しているとのことです。」
カメラが、周囲をぐるりと映す。
どうやら式典会場は巨大な都市の中央に作られているらしく、周囲にはいくつものビルが林立していた。
それらのビルには全て、ジオンの紋章が描かれた巨大な旗が吊るされており、よく見るとビルの屋上や窓は人々によって溢れかえっていた。

『それは凄い!臣民誰もが、まさに歴史的瞬間を目の当たりにしようとしているわけですねー』

「はい、実は私も先程から緊張してしまいまして…」
震える真似をして、愛嬌を振り撒く伝リポーター。

『ははははっ、しっかりしてくださいよー
 ところで、生で感じる会場の様子はどのようなものでしょうか?』

「はい、熱気の坩堝といった感じです。
 ここから会場に集まっている人々の顔を見ますと、これからどんなに凄いことが起こるのだろうか?と誰もが興奮しているように見えます。」

会場に集まった人々をアップで映すカメラ。
すると、紅葉色の服を着た二人組の女性が警備員とケンカをしているのが映し出された。
二人組は招待客席に強引に入ろうとしているようだった。

『ここまで人が多いと、トラブルの数も相当なものになりそうですね。』

「そうですね。
 しかし、警備にもかなり力を入れているようで…あ、見てください。」

件の女性達は、突如現れた二人組の金髪の妖精にあっという間に取り押さえられてしまった。

『なるほど、親衛隊が警備に投入されているのなら安心ですね。
 あっ伝リポーターちょっと待ってください。


 はい、はい…』

突然真剣な声色に変わるスタジオ。

『式典の開始時間について情報が入りました。
 主賓と招待客の到着が遅れているということで、式典の開始が延期になっているようです。


 繰り返します。
 式典の開始時間について情報が入りました。
 主賓と招待客の到着が遅れているということで、式典の開始が延期になっているようです。



 伝リポーター、主賓と招待客の到着が遅れているため、式典がの開始が延期という情報がスタジオに入ってきましたが…
 そちらには何か情報が入っていますか?』

「いえ、こちらにはまだ情報が入ってきていません。
 カメラによりますと…」
カメラが式典会場のステージ近くに設けられた招待客席を映し出す。
そこには、ジオンの紋章をあしらった軍服やドレスを着た人々がいた。
「今このカメラに写っている範囲だけでも…
 現総帥代行 鍵山雛様、第四代総帥代行 チルノ様、魔界自治区代表 アリス・マーガトロイド様、
 ジオン連邦軍統合参謀総長 風見シトリン様、ジオン連邦研究所長 河城あいら様、連邦中央銀行総裁 寅丸星様、
 紅魔館主 エイダ・スカーレット様、人類代表弁護官 東風谷樹茶様、淫魔協会長 マリオン・リトル・ノーリッジ様、
 因幡コンツェルン会長 因幡てゐ様、メイド協会名誉会長 魂魄ちぬ様、おりんりんランド社長 火焔猫燐様などなど…
 錚々たるメンバーが集まっていますが…

 これほど、メンバーを待たせる程の招待客とは…」

「「「うおおおおおおおお!!」」」
会場がどよめく。伝リポーターは驚いて会場を見渡し、一点を指差す。

「あっ!!

 二世様です!!
 初代総帥代行ルーミア様の娘、ルーミア二世様がお見えになりました!!
 先の大戦でルーミア様がお隠れになられた後に、存在が公表されたルーミア様の遺児、二世様。
 これまでお写真のみでの公開でしたが、ついにそのお姿を臣民の前に現しました。」

カメラがルーミアに寄り、その足元から頭までをしっかりと映し出す。
赤いリボンに漆黒の服。
その姿は昔のルーミアに瓜二つだった。

「ジオン黎明期のルーミア様にそっくりなお姿です!」

『伝リポーター!?二世様の隣にいるのはもしや…!?』

ルーミア二世を映していた映像に、古風な日傘と九つの尻尾を持った美しい女性の姿が映り込む。

「!!


 八雲橙です!
 二世様が八雲橙をエスコートして、会場を進んでいます。

 今回の式典を境に、ジオン連邦と八雲家の歴史的和解があるのではないという噂が各メディアによって流されていましたが、
 どうやらその噂は真実だったようです!!」

ルーミア二世が橙の手を引き、会場に設置された花道をゆっくりと歩く。
そして、報道陣の前まで来ると、足を止め橙とガッチリと抱き合った。
「「「おおおおおおお…」」」
どよめきと、フラッシュの嵐を浴びる二人。
二人は、それらに笑顔で答えると、招待客席に設けられた自分達の席に向かっていた。

二人の到着を持って、招待客席は全て埋まったが、何故か式典が始まる様子は無かった。
そして突然、招待客席を映していた映像がスタジオに切り替わる。

『えー。式典開始まであと15分と公式に発表がありました。
 繰り返します、式典開始まであと15分と公式に発表がありました。
 式典開始までまだ少し時間がありますので、ここで再度VTRを流したいと思います。』

スタジオの映像が消え、VTRが始まる。
そこには宇宙に浮かぶ地球を背景に、伝リポーターがリポートをする映像が流れていた。

「ジオンに伝わる箱の噂。
 視聴者の皆様も、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

 強力な力を封印したもの。
 人間の神話に記されたパンドラの箱と同じもの。
 ジオンの支配体制を覆す何かが封印されたもの。
 ハニュー総帥の愛が封印されたもの。
 などと、箱に関してはいろいろな噂がありましたが、大半の視聴者の皆様は箱の存在そのものを疑っていたのではないでしょうか。
 ですが、箱は常に歴史の節目節目でその姿を現し、ジオンの歴史――そう、戦争の歴史の目撃者となってきたのです。
 私どもSNNは、今回事前公開された機密情報及び、独自の情報収集により、箱が歴史の目撃者となってきた場面の再現に、世界で始めて成功しました。」

場面が切り替わり、伝リポーターがどこかの中庭を歩いている映像が映し出される。

「箱の存在が初めて歴史に残されたのは、ハニュー総帥がお隠れになられた直後の事でした。

 ハニュー総帥死す。
 その凶報を受け取ったジオン首脳部は、歴史の教科書にもあるようにハニュー総帥の復活に全力を傾けることになります。
 それは、永遠亭を攻撃していた部隊を形振り構わず撤退させ、当時敵対していた八意永琳に協力を依頼するなど、
 当時考えられる限りの全ての手段を講じたものとなりましたが――
 ハニュー総帥は復活しませんでした。

 その事実は、瞬く間に全幻想郷に広まっていき、ジオンの求心力を奪っていくことになります。」

画面の一部に、当時を映した記録映像が流れ始める。
そこには、うつろな目をした大ちゃんが、動かなくなったハニューに食事を食べさせようとして、ベッドから引き離される映像や、
人間の里の若者達が武器を持って八雲紫を探している映像。
そして、小悪魔想像妊娠事件により、ハニューの元に女性が送り込んでいた虫妖怪会等の各勢力が騒然となる映像や、
ジオンを去っていく者達の映像など、動揺する人々の姿が映し出されていた。

「当時の新聞記者、姫海棠はたての記事にはこうあります。
『ハニューという神を失ったジオン教には、崩壊以外の道は残されていない。』

 ですが、ジオンは崩壊の一歩手前で踏みとどまります。
 それは、ジオンを接点として構築された妖精・妖怪・人のネットワークが、幻想郷の経済サイクルの中枢となっていたため。
 つまり、ジオンの消滅そのものが幻想郷の経済崩壊に繋がってしまうため、幻想郷の住人達がジオンの存続を望んだということ――

 そして、ジオンの存続を保証する新たなカリスマが登場したからです。

 ハニュー総帥がお隠れになった一週間後。
 ここ、紅魔館にて全ジオン隊員が集められました。」

カメラが引かれ、紅魔館中庭の全景が映し出される。

「その集会を召集したのは、ハニュー総帥の側近中の側近であるルーミア様。
 誰もが、ルーミア様直々によるジオンの解散宣言といった暗鬱な未来を予想し、集会場所となった紅魔館中庭には重い空気が流れていました。
 だがその直後、重い空気は禍々しい魔力に吹き飛ばされ、辺りは騒然となったのです。

 禍々しい魔力の発信源は、黒いドレスに漆黒の羽、そして天使の輪のようなものを頭に浮かべた女性―――
 少女から女性へと美しく成長したルーミア様の姿でした。
『その姿はいったいどうしたというのか!?』
 誰もが唖然とするなか、ルーミア様は壇上に上がり演説を始めたのです―――」

伝リポーターの映像が途切れ、ルーミアの演説を記録した映像が流れ始める。
撮影者 犬走 椛とテロップには書かれている。

「ここ幻想郷は、小さな世界に妖精・妖怪・人間等がひしめく極めて不安定なものである。
 しかし、八雲紫が行ったことは、一方的なルールを作るばかりで、幻想郷が抱える問題を根本から解決しようとしなかったのである。
 我々の母、ハニュー総帥がこの問題の解決に乗り出したとき、ハニュー総帥は八雲紫より卑劣な騙し討ちを受けた!!!!
 そして、八雲紫はジオン解体を要求してきたのである!
 ここに至って私は、ハニュー総帥の遺志を継ぐべきだと確信したのである!!!
 これが、かつて常闇ノ皇と恐れられた、この忌むべき力を解放した理由である!!!
 この力によって、ハニュー総帥の目指した世界を阻むものを粛清する!!!!!
 諸君!!!
 自らの未来を切り開くため、ハニュー総帥の目指した世界を手に入れるために!
 あと一息!諸君らの力を私に貸していただきたい!!

 ジオンの戦士達よ!!!
 我に続け!!!


 ジークジオン!!!!!!!!!」





「ジークジオン!!!」

映像がルーミアからアイリスに変わり、アイリスがジークジオン!!と叫んでいる様子が映し出される。

「「ジークジオン!!!!」」
「「「ジークジオン!!!!」」」

そして、全ジオン隊員がジークジオンと叫び出す映像が映し出されたところで、紅魔館中庭のVTRに映像が切り替わる。

「このように、親衛隊長の「ジークジオン」という声を皮切りに辺りは熱狂の渦に飲み込まれていきました。
 後に、『初代ジオン総帥代行就任式』と歴史に残されることになるこの演説を境に、ジオンはその求心力を回復させていきます。
 ですが、何故ハニュー総帥しか認めないはずの親衛隊が、総帥代行とはいえルーミア様を認めたのか。

 それは長年歴史の謎とされてきました。

 そうです、この謎を紐解く鍵こそ、箱だったのです。」

再現VTRが始まる。
下のほうには、※必ずしも事実と完全に一致するものではありません。と書かれている。

「ハニュー総帥の代わりに指揮を取るだと!?」
机を叩きながら怒るアイリス。
「これはジオンのためなのだー、ルーミアを信じてほしいのだー!!」

「ハニュー総帥は少し眠っているだけだ!!
 それなのに、後継者を決めるなんて私は認められない!!!
 後継者を仰ぐぐらいなら、私はジオンを抜ける…
 私一人でも、復讐を成し遂げてみせる!!


 ハニュー総帥を仰がないジオンなど、八雲紫が言うように無くなってしまえばいい!!」
怒声を上げ、感情的に捲くし立てるアイリス。

「これを見るのだー!」
キラキラと宝石が散りばめられた箱をテーブルに出すルーミア。
そして、それを囲むアイリス、アリス、シトリン、にとり。

「これは、ハニューがいなくなった時のためにルーミアに託した箱なのだー」

「「「「な、なんだってーーーー!!!」」」」

「そ、そんな重要なものを預けられていたなんて…これって事実上の後継者指名!?」
難しい顔で、呟くアリス。

「ハニューは自分がいなくなった後のジオンのためにこれを託した。
 それは、ハニューはジオンに存続させたいと思っていたからなのだー。」

「つまり、ハニュー総帥の意思はジオン存続。
 そしてそれを託したのはルーミアさん…

 つまり、ルーミアさんが代理としてジオンの指揮を執ることが正当であると主張するわけですね。」
ルーミアの言葉ににとりが付け加える。

「まて!!これがハニュー総帥が残したものだという証拠はどこにもない!!
 中身を検めさせてもらう。」
箱を開けようとするが、そのまま固まるアイリス。

「どうした?」
シトリンが、不思議そうな顔をしてアイリスに聞く。
すると、アリスがその理由に気がついた。

「この箱から漂う気配は…開けて欲しくないという思い!?
 それにこれは…ハニューの思い!!」

「自分の身に何かあったときのために箱を残したが、本心では開けて欲しくない箱。
 これはいったいどういうことでしょうか!?」
九十九神が生まれそうなほど、強く残された思いに驚くアリスと、混乱するにとり。
そこに、ルーミアが近付いてくる。

「外の世界では血を流さずに、革命を成し得る事を無血革命というのだー。」

「え?」
ルーミアの言葉の意味を理解できないアリス。
そんなアリスを無視して、ルーミアの言葉は続く。

「つまり、革命と名のつく世の中の変革には、血が流れるものなのだー。」

「何が言いたいの??」
混乱した顔をするアリス。
しかし、またしてもアリスを無視したルーミアは、言葉は続ける。

「実はハニューから、箱の中にはハニューのイメージに会わないものが入っていて、自分がいなくなったら箱の中身を処分してほしいと言われていたのだー。
 そしてハニューは、今すぐ箱の中身を処分する勇気が無いとも言っていたのだー。」

「どういうこと?箱の中身を本当に処分したいのか、疑いたくなる行動よね…」
考え込むアリス。

「ハニュー総帥のイメージに合わない??革命のために戦う、野心的な革命家に合わないもの??」
続いてシトリンが呟く。
アリスとシトリンの呟きを聞いて、ルーミアは笑顔になる。

「革命には血が流れる、だから一般的なイメージでは、ハニューは野心的な革命家なのだー。
 でもルーミア達は、本当のハニューは優しくて、血が流れる革命を嫌っていると知っているのじゃないのかー?」

「確かに…
 ハニューと一緒にいると分かるけど、何だかんだで甘い所がいっぱいあるわよね。」
ウンウンと頷くアリス。

「つまり、そういうことなのだー。
 ハニューは、ハニューのイメージに合わないぐらい危険なものをこの中に残したのだー。
 それを直ぐに処分せずに、自分がいなくなった後にルーミアに処分を託したのは…
 それがルーミア達の役立つかもしれないと、ハニューが考えたからなのだー。」

「なるほど!!」
合点がいったという表情をするにとり。

「ルーミアの考えでは、箱の中にはハニューの目指した世の中の変革を、成就させる力を持った何かが入っていると思うのだー。
 だけどそれは、革命のように大勢の犠牲の上に変革を成就させるような危険な力なのだー。
 ハニューは、ハニューという力を失ったルーミア達のために、その強大な力を残した方がいいと理屈では理解していたのだー。
 だけど本音では、そんな手段で変革を成就させることは望んでいなかったのだー。

 だから、開けて欲しくないという強い思いが箱に残ったのだー。」





「そんな…じゃあ私達はどうすれば…」



「ルーミアは、箱を閉じたままにするべきだと思うのだー。
 ルーミア達はいつもハニューに頼りっきりで、ハニューがなんとかしてくれると、いつも心のどこかで思っていたのだー。
 その結果が、今回の顛末なのだ…。 

 だから、これからはハニューに頼らないでハニューの思い…
 ハニューが目指した世界を私達が叶えるべきだと思うのだー!!!」


再現VTRが終わり、紅魔館内部を映したVTRに映像が切り替わる。


「この直後、ルーミア様はフランドール・スカーレット様に自分の封印を破壊させ、ハニュー総帥に愛された自分を捨てる代わりに――
 真の姿と力を取り戻します。
 そして箱は厳重に封印され、ルーミア様の総帥代行就任を認める代わりに、親衛隊によって管理されることになりました。

 このように、箱の存在がルーミア様の総帥代行就任を決定付けることになりました。
 つまり、箱はジオンの継承権争いが未然に防がれるという、歴史的瞬間の目撃者となったのでした。
 しかし、箱はそのことにより、二つの戦争の始まりの目撃者となってしまいます。


 ルーミア様の総帥代行就任後、ジオン首脳部は犠牲を抑えた変革を目指そうとします。
 しかしそれは、結果から見れば失敗に終わり、多大な犠牲が発生することになります。
 この失敗の原因を、箱は目撃していました。

 ジオン首脳部は箱の前での誓いを守り、必要最小限の犠牲で幻想郷を平定しようと、選び抜かれた部隊による八雲紫への奇襲攻撃を行います。
 この八雲紫の暗殺を狙った奇襲攻撃は軍事的に理に適った行動であり、八雲紫をあと一歩という所まで追い詰めます。
 しかし、妖怪の山が行った八雲紫救出作戦により、この目論みは失敗に終わります。
 そしてこの暗殺失敗により、時間を得ることに成功した八雲紫は、対ジオン同盟である幻想郷協力機構(GCO)を設立。
 これに対抗するため、ジオンもまた、ジオン紅魔館条約機構(ZISTO)を設立し、幻想郷は二大勢力が激突する全面戦争へと突入していくことになります。
 この幻想郷戦争は、天界・地霊殿・守屋のZISTOへの加入、博麗の巫女の普通の女の子になる宣言、モビルスーツザクの実戦投入によりZISTOの優勢で推移。
 そして、冥界のGCO脱退及び、八雲紫とルーミア総帥代行との一騎打ちが決定打となり、GCOの無条件降伏という形で幕を降ろします。
 しかし、この戦いの主戦場となった冥界や妖怪の山の被害は甚大なものとなり、それらの栄華は永遠に過去のものになってしまったのでした。

 もしも、奇襲攻撃ではなくジオンの総力を上げた総攻撃だったのなら、多少の被害を出したとしても、妖怪の山の妨害を排除し、
 幻想郷戦争程の被害が出る前に戦いの決着をつけることが出来ただろうと、後の専門家の間では指摘されています。
 つまり、箱の前での誓いが、皮肉にも幻想郷戦争という悲劇を招いてしまったのです。
 そして箱は、更なる戦争の目撃者となります。

 幻想郷を平定したZISTOですが、それはジオンの思想から外れた者達すらも、その配下に従えるということを意味していました。
 そのため、ZISTOは叛乱分子を抱えたまま戦後復興を行うこととなります。
 そしてそれは、アイリス紛争と呼ばれるジオン最大の内紛へと発展していったのでした。

 事の始まりは、戦後復興が進み始めたある年、箱に関する次のような噂が流れたことがきっかけでした。
『総帥代行の継承権はアイリス親衛隊長にある、その証拠にハニュー総帥が後継者を指名するために残した箱がアイリス隊長の手元にある。』
 八雲紫が流したこの噂により、アイリス親衛隊長は『正当なる総帥代行』として叛乱分子達に担ぎ上げられることになります。

 そして、アイリスの蜂起が起きる前日、ここ紅魔館鮮血の間で行われたアイリス親衛隊長とルーミア様との極秘会談。
 あの有名な『10ヶ条の覚書』の会談の際に、箱がルーミア様に渡されていたことが判明しました。」

再現VTRが始まる。
そこには、テーブルを挟んで食事を取る、ルーミアとアイリスの姿が映し出されていた。

「あなた、叛乱分子をあぶり出す為に、わざと担ぎ上げられたわね…
 そんなバカなことは止めなさい。
 これはどう考えても、八雲紫の罠よ!

 あの下郎が!ハニュー総帥が殺生を嫌っていたからこそ、生きて償う機会を与えてやったというのに!」
音を立てて、ワイングラスをテーブルに置くルーミア。
 
「あなたに総帥代行命令を出します、叛乱分子を逮捕するまでの間、この部屋にて待機しなさい。」
アイリスに命令するルーミア。

「忘れたのですか、我々親衛隊はハニュー総帥の命を守るためには、命令を破ることも可能だ。
 ハニュー総帥の命と同義のジオンを守るための行動だ、何も問題ない。」
少し寂しそうな表情でワイングラスを玩ぶアイリス。

「そういう問題じゃないわ!!」
ガタンと椅子を立ち、アイリスに詰め寄るルーミア。

「これでも私は、あなたを掛け替えの無い……………………友…人だと思っていたのよ…」
ルーミアが怒りを表しながら、アイリスを胸に飛び込む。

「私を置いて後継者に選ばれたあなたと戦いたい、そして本当の後継者はどっちなのかはっきりさせたい。
 そういう思いが私にはあります。

 私はいつもあなたに嫉妬していました。」
アイリスは、ルーミアの耳元でそう呟くと、両手でルーミアを突き放した。

「な!」

「あなたの気持ち…とても嬉しかったです。


 でも、もう遅すぎる。
 それでは、覚書の件よろしくお願いします!」
掻き消えるように、その場から姿を消すアイリス。
そしてその場に、装飾が施された箱と紙が現れる。
紙には『大切な箱が壊れてしまわないよう、あなたに預けます。アイリス』と書かれている。

「これはハニュー総帥の箱…!!


 あのバカ…」
ルーミアの頬に一筋の涙が流れる。


再現VTRが終わり、パーフェクトジオングとテロップに表示された機体と、クィン・マンサとテロップに表示された機体が激戦を繰り広げる映像が始まる。
映像は実際の記録映像のようだった。

「この会談の後、アイリス紛争が発生します。
 クーデター軍は敗北を重ねながらも、軍規を維持し続け、ジオン連邦軍の教本に残るような戦いを続けます。
 しかし、突如クーデター軍の一部部隊がアイリス親衛隊長を暗殺。」

パーフェクトジオングが仲間のモビルスーツに背中から撃たれる映像が映し出される。

「クーデター軍は政府軍に対して大量破壊兵器を使用し、幻想郷は大量破壊兵器が飛び交う未曾有の大惨事に見舞われます。

 アイリス親衛隊長を暗殺した部隊、彼らは自らの利のためにジオンを私物化しようとする欲を持ち、そこを八雲紫につけ込まれた者達でした。
 そのため、クーデターが上手く行かないと察するや否や、アイリス親衛隊長から箱を奪い、
 それをルーミア総帥代行へ引き渡すことにより保身に走ろうとしたのでした。
 しかし、箱は既にルーミア総帥代行へ引き渡されていたため、彼等の計画は失敗に終わり、そのことが彼等の暴発へと繋がったのでした。」

映像は進み、ルーミアにアイリスの遺体を差し出し自らの助命を請うた者達が「ジオンに卑怯者は不用よ。」とルーミアが作り出した闇に飲み込まれる映像、
いくつものきのこ雲に覆われる幻想郷の映像、
そして、捕らえられ、ルーミアが裁判官を務める裁判にかけられる紫の姿等が次々と映し出される。

「これらの反省から、アイリス紛争以後、箱は新たな総帥代行が就任した際に、密かに手渡されることになります。
 そして、箱の所在を原因とした継承権の争いが発生することはなくなりました。
 しかし、箱が戦争の歴史の目撃者となる図式は、その後も変わることはなかったのです。」

ジオン戦争博物館という場所に場面が切り替わる。
ジオン戦争博物館は永遠亭を増改築したもののようだった。

「当時地上の支配者を自負し、地上に存在する者達を弄んでいた月は、アイリス紛争によりジオンの存在を知ることになります。
 そして、ジオンの戦闘力の高さと、ハニュー総帥が夢見た世界が、自らの地位を脅かす可能性があると月の首脳部は気が付くことになります。
 そのため、ジオンへの懲罰を目的とした、幻想郷への降下作戦の是非が月の首脳部によって議論されました。
 当初、降下作戦は即座に実行に移されると思われていました。
 それは、ジオンを叩くなら内戦で疲弊した今だと月の首脳部が判断したためでした。
 ところが―――

 箱の存在を月が掴んだことにより、月の態度は一変します。
 箱を月にも手が届くほどの戦略兵器と推察した月は、ジオンへの攻撃を躊躇うことになります。
 月が躊躇った貴重な時間、それがジオンを救うことに」

突然VTRが終わる。


「早く映像を回して!!」


「「「「ジークジオン!!!」」」」


伝リポーターの興奮した声が響く。
そしてその後ろでは、ジークジオンとまるで地鳴りのような声が響いている。


「映ってますか!?

 はい、はい!

 わかりました!」

「「「「ジークジオン!!!」」」」

「ごらんください!」


映像にはクリスタルに封印された青い髪の妖精と、そのクリスタルを挟んで歩く緑の髪の妖精とピンクの髪の妖精が映し出されていた。


「ハニュー総帥です!!
 ハニュー総帥です!!!!」


「「「「ジークジオン!!!」」」」

映像がクリスタルに封印されたハニューのアップになる。
ハニューはジオンの紋章をあしらったドレスに身を包み、まるで眠っているかのようだった。
そしてその横には、淑女という言葉がよく似合う姿に成長した、大ちゃんとマリーダが寄り添っていた。

「これほど多くの臣民の前にお姿を見せられるのは、八雲紫の騙し討ちにより、お隠れになって以来初めてではないでしょうか!?
 ハニュー総帥の神々しいお姿を目の当たりにして、会場は異様な興奮に包まれています!!!!

 私も、先程から感激の涙が溢れ…うっ…」

その後、テレビクルーも含めた式典出席者全員がジークジオンと声を上げ始め、式典の進行も放送もまともにできない状態になった。
雛が式典の演説を始め、臣民の注目を引くことにより騒ぎを落ち着かせようとしたが、誰も雛の演説を聴いてはいなかった。
結局、騒ぎが収まり始めたのは雛の演説が終盤を迎えた頃だった。

「我々ジオンの歴史は戦いの歴史と言われてきました。
 八雲紫と戦い、月と戦い、外の世界と戦い、他の神々とも戦い続け、そして勝利を得ました。
 我々ジオンの平和は、戦いによって作り上げられてきたといっても、過言ではないでしょう。
 しかし、その歴史にそろそろ終止符を打つべきだと、我々ジオン連邦首脳部は決定いたしました。 

 最後の平和条約より今年でちょうど100年。
 世界は平和を謳歌しています。
 しかし、『箱』があるかぎり、いずれ人々は『箱』を巡って争うことになるでしょう!


 『箱』の中には巨大な力がある!
 そして巨大な力は、人々を争いに駆り立てる!!!
 我々は『箱』の問題を放置したまま、戦いの歴史に別れを告げることはできないのです!!!!!!」

美しい装飾が施された箱が、雛の頭上に突如現れる。
その箱には、何十ものプロテクトが施されているようだった。

「そして、箱の呪縛から世界を開放するためには、『箱』の中身を白日の下に晒すしかないのです!!!!!!」

来賓客がステージに上がり始め、一人ひとりが空中の箱に手をかざし、呪文を唱えていく。
すると、箱に施された何十ものプロテクトが一つ一つ外れ始めた。
そして、最後に雛が箱に手をかざすと、全てのプロテクトが外され、強烈な光と共に箱がゆっくりとステージに下りてくる。

「は、箱が解放されようとしています!!
 もしも、箱の中身が強力な爆弾だったら私達はどうなるのでしょうか!?」


「少し厄いわね…」
雛の様子が大型スクリーンに映し出され、雛周辺の音も会場に流され始める。
固唾を呑んで見守る臣民達。
会場周辺は異常な静粛に包まれた。

「ま、まさか本当に爆弾じゃ…」

「でも、呪いとは違うわね。」
少し不思議そうな顔をする雛。

雛が箱に触れると、箱は勝手にパタパタと外側に倒れ、その中から新たな箱が姿を現す。


「箱の中から、箱が出てきました!?

 箱に何か文字が書いてあるようです…
 カメラさん!!もっと寄って下さい!!!!!




 み





 か





 ん




 !!


 みかんです!
 箱にはみかんと書かれています!!
 これは、何か呪術的なものなのでしょうか!?」

『こちらで専門家に問い合わせますので!伝リポーターはそのまま実況を続けてください!!』

「箱は、まるで段ボールのような素材で出来ているようです。

 あ!


 箱の中から、紙袋のようなものが出てきました!!
 一見すると、どこにでもありそうな紙袋ですが…見た目どおりのものでは無いと思われます!!

「これは…」
紙袋から何か薄い本のようなものを取り出す雛。

「何か本のような物が出てきました。
 強力な魔法が記された魔法書でしょうか!?
 カメラさん、もっともっと寄って下さい!!



 表紙の部分には、女性の絵とタイトルと思われる文字が…」







突然固まる伝リポーター。

『伝リポーター!?どうしました!?』

固まった伝リポーターに慌てるスタジオ、カメラの映像がその原因を映し出す。
そこには『トリプルニュポイラー』というタイトルと、取材道具を使って文と椛とはたてがお互いに、性的に攻め立てあう絵が描かれていた。

『つ、伝リポーター!?これってあなたのご親族じゃ!?』

「おばあちゃん達にお母さん!?    うーん…」
バタンと倒れる伝リポーター。
しかし、中継は続く。
映像の中ではひとしきり中身を読み終わった後、ギギギギギという音が聞こえそうなほど、ぎこちない動きで会場を見渡す雛が映し出されていた。
雛は口元をヒクヒクとさせ、その表情は半笑いの状態で固まっていた。

そして次の瞬間、まさに神速という速さで回転し始め、そのまま本?と紙袋を持ってステージから逃げ出そうとした。
しかし、ステージから脱出しようとしたその時…


「私達もステージに上がる権利があるのよー」

と叫びながら飛び込んできた紅葉色の服を着た姉妹に激突し、袋の中身が床に散りばめられる。

『淑女の中の淑女』『妖精の女王』と呼ばれる大妖精が、
ガラス玉のような目をしながら両手でピースしている絵(裸)や、マージャンの罰ゲームで性的なサービスを求められる絵。
『第四代総帥代行』を勤めたチルノが蛙にれいぽぅされている絵。
『第二代総帥代行』『賢王』と呼ばれたフランドール・スカーレットが姉妹丼にされている絵。
『エースオブエース』の東風谷早苗がアヘ顔を晒している絵。
『魔界自治区代表』『ジオンの良心』であるアリス・マーガトロイドがお兄さんというキャラに妊娠させられている絵。
『地底のおしどり夫婦』である霊烏路空と火焔猫燐が愛を確かめ合っている絵。

などなど、映像にいっぱいに広がる世界的に有名な女性達の卑猥な絵。
会場からは一切の音が無くなり、世界中のお茶の間の時間が止まった。


「うにゅう…私とお燐ってハニュー総帥のオカズだったんだーおそろだねー♪」
「ば、バカ!!ハニュー総帥が私達を性欲の捌け口にしていて、そのオカズを宝物と勘違いして保管してきたなんて不敬な考え、口が裂けても言っちゃ駄目よ!!!!」
会場が静まり返っていたためか、お空とお燐の声はマイクに捉えられ会場全体に響き渡っていた。



【カットカットカットカットカットォオオオオ!!!!!!!!!】


side ???

なんなのこれは…
ちゃんと紙袋の中身は売ってね!って言ったでしょ!!馬鹿なの!?死ぬの!?


スクリーンに向かって憤慨する少女。
その少女の姿は、何故かぼんやりとしていた。


今すぐ、あそこに行って、責任者に土下座させて…
いや、それよりどこかに身を隠したほうが…











えーと…
といってもだ、あそこに行くにも、隠れるにも、そもそもここはいったいどこだ………………草原?
いや、草原はほんの少しだ、その先は…何も無い…

辺りを見渡す少女。
少女の周りは草原となっていたが、その草原は僅かであり、その先はどこまでも真っ白だった。

真っ白な世界を眺める少女。

これは…夢なのか?
もしも本当に夢なのなら、ここまで何も無い夢を見るなんて、俺の人生って空っぽって言われているみたいで嫌だな…











………そういえば俺って誰だったっけ??



えーっと…えーっと…

腕を組み、悩む少女。
すると、真っ白な空間に幾つもの光が差し込んだ。


な、なんだ!?
光の中に見えるのは…


人影…


だ、誰だそこにいるのは!?


青い髪に赤い目にメイド服…この少女は…


おお!
そうだ、思い出した!
俺はハニューだ。

ぼんやりとした少女の姿がメイド服を着たハニューの姿になる。
だが、やはりその姿はぼんやりとしていた。

光が収まると、そこには幻想郷で活躍(?)するハニューの姿があった。
メイド喫茶を開いたり、博麗神社で花見をしたり、妹様に振り回されたり、大ちゃんに焦げたハンバーグを食べさせられたり…
その姿は、まるでそこに実在するかのようにリアルだった。


■■■■から約一年半でありながら、見事に代役をこなしているなあ…


って■■■■一年半????
あれ?なんだこれ、自分の考えの一部が認識できない??
なんだこれ??

えっと…えーーーーーーーーーっと…

訳がわからない状態に困惑するハニュー。

すると、真っ白な空間に映画のスクリーンのようなものが表れる。
手を引く親を見上げている映像、学校でバカ騒ぎをする友人を眺めている映像、初めての仕事で慌てる俺を困った顔をして見る先輩の顔を映した映像…
それは、誰かの人生を映画にしたようなものだった。


そうだったそうだった。
俺は元人間だ!
そんな俺がこんな体になったのは…
確か…

えーっと…

ハニューが悩むと同時に、また幾つもの光が差し込み、リアルな光景が目の前に現れる。
そこには、ベッドから飛び起き、驚き慌てる男がいた。

『うわ!?なんだ!?幽霊か!?宇宙人か!?それとも、巷で噂の二次元への入り口か!?』

このあたりだっけか、俺がこの体になったのは…

『悪霊退散!!!!』

なにやってんだ俺…
誕生日に貰ったプレゼントを、紙袋ごと俺に投げつけてどうするのかと…




あれ?



なにか変だな??
何が変なのか分からないけど、何かもの凄く違和感を感じるぞ……
だけど、やっぱり何が変なのか分からない。

!!
■■■■■■■■している!?

ん?
あれ、何だ!?
俺は何に違和感を感じていたんだ???

再び悩み始めるハニュー。
もっと深く思い出さないと…そうすればきっとこの違和感の正体も分かるはず…


《ガクン!!》


え…


あれ??


目の前が…真っ暗…



----------


『まさか、ロード中に勝手に起動するなんて…
 エラーもこんなに…論理矛盾で自己崩壊を起こす一歩手前じゃない…
 やっぱり、死んだのと関係があるのかしら…』


う!?


なんだ!?


あれ?俺はいったい??


『ん…ロードが終わったみたいね。』


あれ、そこにいるのは■■■■?

『おはよう。体は大丈夫?』
ハニューの横に、ハニューと瓜二つな妖精の少女が座っていた。

なんだか、頭の中がすっきりしているというか…
あるべきものが無いというか…

『そう、それは良かったわね。今直してるから、もう少し大人しくしていて。』


わかった、■■■■。















暇だな…


そういえば、俺は何していたんだっけか…


ストーカーさんと戦っていて…


それで…


あれ?


今の状況って…


『!!

 また崩壊が始まった!?』

■■■■。
変だよ!
俺どうしちゃったの!?



《ガクン!!》


あ…






『ごめんなさい、坊や。』




----------



















『まさかアーキタイプまで壊れていたなんて…
 やっぱり、こんな仮初じゃ…      始めから無理だったというの…』






































うん…?


よく寝た…


ここは…家か。


辺りを見回すと。
そこは一般的な日本の洋間。
ハニューはその洋間に置かれたソファーの上にいた。


今は何時だろう。


今何時??


『さ、さあ。何時だっていいんじゃない??
 それより疲れているんでしょ?

 ここならゆっくり休めるわ。
 ゆっくり…
 ずっと、ゆっくり休むといいわ。』
何かの作業を止め、ハニューに優しく接する少女。


そうか…


久しぶりの家だから、ゆっくりしようかな。





でも…


勝手に■■■■に会いに行っちゃって、大ちゃんとかルーミアとかは心配してないかな…



大ちゃんとか、「勝手にいなくなったら心配したんだからね!!」とか言って可愛く怒ってきそうだなw
帰る前に、お土産に駅前のケーキでも買って行くか。


ルーミアは…
オレオマエマルカジリ




………って感じじゃないな、ルーミアも「心配したのだー」って感じで怒らなさそう。


あ…


でも、ルーミアには箱に入れた紙袋…同人誌の処分を任せていたんだった…
まずい、俺が勝手に帰ってきちゃったから、俺がいなくなったと思って同人誌を売ってしまうかも…


…あの同人誌には、お世話になってるから、売られちゃうのは嫌だ!




って違うよ!?
お世話になっていると言っても、別に毎日見ているわけじゃないよ!
友達や知り合いが出ていて、見ていると心臓がどうにかなりそうだからね…
たまに…
そう、リハビリとして、本当にたまに見ているだけなんだかね!!



って俺は誰にいい訳しているんだ…




しかし、まずい。


まずいぞおお。


本当に売られてしまうかも…


あ!そうだった!!
大丈夫だ、さっき見たじゃないか。
俺の同人誌が大切に保管されて…


保管されて…


されて…





!?


全世界に公開!?


な、なんだこの記憶は…




ちょ、ちょっと!!
直ぐに帰りたいんだけど!!!!!!!!!!!!!


『いきなりどうしたの!?』

どこで見たのか分からないけど、さっき見たんだよ!!
俺の同人誌が式典会場で大公開!!

『このログは…

 接続していた!? あれを見たのね…』

なんだよあの悲劇は!!
あんなの、認める訳にはいかないよ!!

『そう、認める訳にはいかないわ。
 本来よりも、かなり善戦したけど…それでも、運命を変えることは出来なかった。
 だけど貴方じゃもう…』

なに訳の分からないことを言っているんだよ!
そうじゃなくて、俺の同人誌が!!!
俺のオカズが全世界に公開されちゃう!!!!

『は??



 あれ…このログ…
 まさか、直前までしか見ていない!?』

とにかく、俺の公開処刑(社会的に)なんて、絶対に許さないよ!!

ということで、■■■■、俺帰るから!!
部屋の扉を開け、部屋から飛び出すハニュー。

しかし、扉を開けたらそこは真っ白な世界だった。

なんなのこれ。
どういうことなの?
どこまでも真っ白なんですがが…

『当たり前でしょ…
 
 もういいの…今まで私のためにありがとう。

 もうゆっくり休んで…』

なにそれ!?
こっちはそれどころじゃ無いんですけど!?
俺が社会的に抹殺されそうになっているんだぞ!!
大体だな、休めとか言われても、こんな気持ちで休めるかよ!!

くそっ!!どんな手段を使っても、どんな力を使っても、あんな悲劇だけは絶対に防がなければ!
速く帰ってあの式典会場に乗り込まないと、状況がどんどん悪化していってしまう!!


俺に、UCガンダムのデストロイモードとか、00ガンダムシリーズのトランザムとか、∀ガンダム並みのスピードとか…
そういった感じの機動力が俺に秘められていたら…一瞬の間に帰れるのにいい…
くっそおおおおおおおおおおおおおお!!

駄々っ子のようにジタバタするハニュー。

『や、やめて!落ち着いて!!』

だから、落ち着けないって!!
人生最大の危機なんだって!!

俺に早く帰るための力を!!
誰でもいい、俺に力を貸してくれ!!!


ん?



んんん!?



なんだこれ!?



力だ!いや…それだけじゃない…情報の嵐!?







心が…!!!!




ハニューが見えない手で押し付けられたようになり、その姿が急激に薄くなる。
そして、ハニューの周りにスクリーンのようなものが何千何万と無差別に現れ始める。

『う、うそ!?世界に繋がった!?
 そうか…無意識にさっきの経路を辿ったのね!?

 
 !!
 私を通さず、直接繋がってるじゃない!!
 なんて無茶を!!!
 止めて!!そんなことをしたら、世界に押しつぶされちゃう!!!』

何だかよく分からないが、凄く…やばい…
だけど頑張るんだ、そうと決めたんだ!

そうだ…
こういう時のための格言があった…



退かぬ!媚びぬ!省みぬ!




ですよね、サウザー様!!!!!

『う、嘘でしょ…
 た、耐えてる…』
薄くなっていたハニューの姿が、段々くっきりとしてくる。

でもサウザー様、この攻撃(?)
もの凄く辛いです!!!
UCガンダムのサイコフィールドや∀ガンダムのIフィールドやエヴァンゲリオンのATフィールドとか、
その他もろもろのアニメの存在並みの防御力があれば!!!!

数々の名ロボット達の姿を走馬灯のように思い浮かべるハニュー。
すると、強力な力場がハニューを取り囲み始め、圧力を跳ね返し始めた。

『何これ!?』


圧力が緩和された…
よし、今ならいける!!






気がする。


《バシュン!》

光の柱と共に消え去るハニュー。
その場には、唖然とする少女だけが取り残された。

数秒すると、少女は慌てて何かの作業を開始する。
そして…
『こんな理由で世界に直接繋がって、アニメを手本にした想像力で力を定義化…!?
 おまけに、自己の補完まで…
 
 あ、あははははは…






 理屈としてはおかしくないわよ。
 だけど、こんな方法で抗うなんて…
 笑わずにはいられないわ。』

笑い転げる少女。
そして一頻り笑った少女は――

『こんなに笑ったのは、アイリスと一緒にいた時以来だったかしら…

 
 頑張って…私の可愛い坊や。



 ありがとう…』

と言い残すと、溶ける様に地面へと消えていった。


side 八雲 紫
異変二日目2時23分
~永遠亭最深部~


「八雲紫!!八雲紫!!八雲紫!!八雲紫!!八雲紫!!!!!!!!!!
 私の可愛いこの子に何をしたああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
バトルアックスを振り回し、紫の首を刈り取ろうとするアイリス。

「ちょっと!?何もしてないわよ!?
 あんな攻撃で死ぬわけないじゃない!?」
スキマを使いそれを回避した紫は、慌てて弁明する。

「妖精を殺せる秘策を確実に命中させるために騙し討ち。
 古典的だけど、効果的な策ね…フフ…」
だが、永琳の言葉が表すように、誰も紫の言葉を信じていなかった。

どうして、こうなっちゃうのよ!?
妖精が、ましてやハニューが死ぬなんてありえないわよ!
「アイリス隊長に続け!!!」
アイリスに続き、次々と紫に襲い掛かる親衛隊員達。

そうよ!
死ぬなんてありえないわ!
「幽々子!!どういうことなのよ!!」

「まるで人間のように肉体の活動が、完全に停止しているのよ~。
 妖精がこういう状態になるのって見たことないわ~。」

まるで人間のように肉体活動が完全に停止!?
妖精は自然が気まぐれであの姿形を取っていると言ってもいいもの。
だから、心が死ねば、活動が止まるだけではなくあの形を維持できないはず…
つまりこれは…ハニューによる擬死じゃないのかしら!?
「ちょっと待って!!ハニューはまだ生きているわ!!!」

「なるほど、確かめさせてもらおう。



 お前を殺した後でな!!」

「人の話を聞きなさい!!」
アイリスに対して叫んだ紫は、スキマで空間に断裂を作り、バトルアックスを受け止める。
そして次の瞬間、スキマを使いアイリスの背後に瞬間移動した紫は、そのままアイリスを羽交締めにし、バトルアックスを弾き飛ばす。

「グッ!動けん…


 とでも言うと思ったか!!」
アイリスの背中の羽が鞭の様にしなり、紫を切り裂こうとする。
だが、紫も負けてはいなかった。

ガキン!!

紫は、先程のバトルアックスと同じく、スキマで空間に断裂を作り、アイリスの羽を受け止めたのだった。

「さあ、これで大人しく話を聞く気になったかしら?
 そうそう、親衛隊員の皆さん、私をこの隊長ごと倒そうとしても無駄よ。
 その鉄砲程度の攻撃じゃ、私のスキマがすべて防いでくれるわ。」

「確かに、ビームライフルの攻撃程度が通用する相手ではないな。

 だが、これならどうだ?」
アイリスが両手を後ろに向けたかと思うと、突然その両手の指を紫に突き指した。

「痛っ!?何するのよ!?」
慌てて、アイリスの指を抜こうとする紫。

「ぬ、抜けない!?」

何なのよこれ!?
たかが妖精の指なのにどうして抜けないのよ!?

「当たり前だ…この指には私の全魔力が詰まっている。」

!?

「この距離なら、絶対に外さん!!」

アイリスの魔力が、爆発するように膨れ上がり始める。

これは…自爆する気!?
流石にこれは不味いわ!?

「幽々子!!!」

紫が助けを求める声を上げた瞬間、力の波動が辺りを突き抜けた。


side 八意 永琳
異変二日目2時25分
~永遠亭最深部~

ドクンと、まるで鼓動のような波動がそこにいる者達の体を突き抜けて行った。
そして誰もが、時が止まったようにハニューの亡骸を凝視していた。


この異常な力の波動は………ハニューから出ているのか!?




………何らかの巨大な力がハニューの亡骸より溢れ出して来ている…

この力…大妖クラス…いえ、まだ上昇している!?

ハニューから溢れる力を必死に分析する永琳。
だが、それをあざ笑うかのように、ハニューから溢れ出る力の量が急増していく。

この力は魔力…ではない…
これは…妖精の根源…世界に満ちる力そのもの…


この現象…あの子の異常なバックアップと同じ。
体を修復するための世界からの力の流入。
だけど、力の量がそんなレベルじゃない…
体の修復なんてレベルじゃない…





その力…何に使う気だというの…!!







「八雲紫!!!!私達を解放して逃げることを提案するわ。どうなっても知らないわよ!!!!!!!」

次の瞬間、ハニューから巨大な光の柱が立ち上がった。
そして、その光の柱の中で…





ハニューの影がムクリと起き上がっていた。



[6470] 第二十七話 ずっと昔から貴方を愛していました!?
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/04/20 18:48
第二十七話
ずっと昔から貴方を愛していました!?


side out
異変二日目2時27分
~永遠亭最深部~

光の柱が立ち昇る。
その光の中でハニューがムクリと起き上がった。


そして…

ハニューが両手を天に向けて突き出した瞬間、光の柱が広がり辺り一帯を飲み込み始めた!


「助けてえーりん!?」

「永遠亭を破壊する気なのね…姫様、本気で離脱します!」

「総帥!!」

「退避!退避だ!!」

「こんな光り一つ!私の力で押し返して見せる!!」

「サニーの力じゃ無理だから、絶対に押し返せないから!」

「幽々子様、脱出を!!」

「分かってるわよ。」

「紫様!!一人でスキマに逃げるなんて酷いです!!」

「わっちは?ねえ、わっちは????」

「不幸だ!こんな所で焼きウサギになりたくないい!!」




「あー五月蝿い!全員私のスキマで送ってあげるわよ!!」


瞬く間に、部屋全体を埋め尽くす光の柱。
しかし、光の柱の勢いは止まらなかった、光の柱は猛烈な勢いで広がり、爆発のような現象を起こしたのだった。


side 博麗 霊夢
異変二日目2時29分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

迷いの竹林上空、つい数刻前まで激戦地となっていたそこは、一分ほど前から戦闘が中断されていた。
それは、霊夢の脳波やルーミアの妖力に波長を合わせた鈴仙から、休戦の提案が行われたからだった。

「休戦したいですって!?」

『はい、休戦です。』

「ふざけんじゃないわよ!!こっちはレミリアが半分になっちゃって、魔理沙は今も生死の境をさまよってるのよ!!」

『魔理沙の治療をしてくれるなら、休戦してやってもいいのだー』

「ちょっとあんた!なに、勝手に人の話しに割り込んで来てるのよ!」
霊夢は、提案を拒否しようとしたが、それにルーミアが待ったをかける。

『何が大事か、優先順位をしっかりつけないとダメなのだー。』

うっ…確かにそうね…
こいつらを凹るより、魔理沙の怪我の方が心配だわ。

「分かったわ。受け入れる。
 これからそっちに魔理沙を連れて行くから、最優先で治療しなさいよね。」

『交渉成立ですね。』

直ぐに魔理沙を連れて行かないと…
咲夜!咲夜はどこ!?

咲夜を探す霊夢。
重傷を負った魔理沙の体は、咲夜によって時間が止められているからだった。

「私を探しているの?」
時間を止めたのか、突然霊夢の横に現れる咲夜。

「そうよ!魔理沙は…うげぇ!」

「どうしたの?」

咲夜を見て驚く霊夢。
それもそのはず、咲夜の手には血塗れの下半身が握られていたからだ。

「そ、それどうしたのよ!」

「あ、これはお嬢様です。
 お嬢様を見て驚くなんて、失礼な奴ですね。」
いつも通りの調子で、話す咲夜。

「さ、咲夜??それはレミリアの下半身なのよね?」

「そうですよ。」
こいつ何言ってんだ?という表情の咲夜。

しまった…
レミリアに依存している咲夜のことだから、レミリアが大怪我をした時点で、少しおかしくなることは予想しておくべきだったわ。

「わかったわ。悪いけど、魔理沙を連れて来てくれない?
 一時休戦になったから、魔理沙をあいつらの手で治療してもらうわよ。
 あなたも、レミリアを連れてきて。」

「嫌です。下半身は手放しません!」

「…あなたも治療してもらったほうがいいわ。」
…はぁ…咲夜も永遠亭の連中に診て貰わないと駄目ね。




魔理沙とレミリアは大怪我を負うし、咲夜はおかしくなるし。
こんな異変…もう二度とごめんだわ。

side 鈴仙・優曇華院・イナバ
異変二日目2時30分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

「一時休戦ですよ。」
鈴仙は前を向いたまま、背後で剣を構えていた相手に声をかける。

「あたいに狙われて、ここまで粘った奴は初めてだよ。」

「私もこんなに強い妖精が…ハニュー以外にいるなんて知りませんでしたよ。」

「ここまで戦えたのは、あたいだけの力じゃないけどね…

 あたいはチルノ。おまえは?」

「鈴仙・優曇華院・イナバよ…」




「れいせんうどんげ………いなばよ?

 …

 …

 …
 勝負は預けておくからな!!
 さらばだ、いなばよ!」
チルノが、氷の剣を消しながら飛び去る。
そして、それを見送るレイセン。

「もう、これっきりにしてほしいなーなんて。

 あー疲れた。

 で、お師匠様?
 一時休戦にしましたけど、何があったんです?
 今さっきの爆発や、今も感じているこの異常な力と何か関係が!?」
通信を介して、永琳に話しかけるレイセン。

『システムが完全消滅して、後は一から作り直すしか出来ない状況よ。
 残念ながら、私達の悲願は完全に失敗よ。』

そんなことが!?

『八雲紫が徹底的にシステムを破壊して、ハニューがシステムの本体ごと消し飛ばしちゃったのよ。』

え!?

「ちょっと待ってください!となると姫様は!姫様は無事なんですか!?」

『姫様は無事よ…ハニューのおかげで救出に成功したわ。
 ま、ハニューが来なくても、あの程度自力でどうにかしたけどね。』

??姫様が守っていたシステムを、ハニューが消し飛ばして、そのおかげで姫様が救出できた!?

「意味が分からないのですが??」

『この後、ハニューと八雲紫が交戦に入ると思われるわ。あなたはてゐと合流。
 部隊を再編成し、最悪の事態に備えて。』

「最悪の事態?」

『ハニューが暴走した時のために、逃げる準備よ。』

「あの、師匠!?全ーーー然、意味が分かりません!」
永琳に向かって、叫ぶ鈴仙。

『レイセンが悪戯するために、てゐに力を借りたら、滅茶苦茶になっちゃうかもしれないでしょー
 それと同じ様なものよ。

 それじゃあ、任せたわよ。
 こっちは、私の研究結果の観測で忙しいの。』

「あ、師匠!?師匠!?」
切れちゃった…
もう!

「てゐ!聞こえる?」

訳がわかんないけど、師匠の命令はちゃんと聞かないと。

side 因幡 てゐ
異変二日目2時32分
~迷いの竹林 西エリア~

「わかった、わかった、大丈夫だって!
 流石の私も疲れたからね、さっさと鈴仙に合流するよ。」
鈴仙の通信に答えるてゐ。
そこに、斥候に出したイナバが報告にやってくる。

「てゐさん!ジオンの奴ら、一個歩兵小隊を基幹にした偵察部隊を残して、撤退しましたぜ!」

「あそこまで軍隊化した奴らさ、そのあたりもしっかりしているだろうよ。
 よし、負傷者を収容後、鈴仙の所まで移動すよ!」

「マジですか、皆ヘトヘトです、少し休ませたほうが…」

「分かっているけど、さっきからビシビシ感じるあの力、あれに襲われたら私達じゃどうにもならないよ!
 ほら!もうひと頑張りすれば、程よく疲れて色っぽくなった鈴仙が拝めるよ!!」

「へへっ、そりゃあいい。」

「だろ?そう思うなら、駆け足!急げ!」

鈴仙達を含む永遠亭軍は、各地でジオン軍に圧倒され、いくつもの部隊が壊滅する事態になっていた。
その中でも、捕虜だった妖精達の命を捨てた猛攻を受けた、てゐ達の部隊の損害は特に大きかった。
その損害は、てゐによる統率力を持ってしても、既に組織的な抵抗がほぼ不可能なレベルにまで達していた。

少し遅いぐらいの停戦だったね…
でも、停戦は停戦。
永遠亭の方向で何か凄い爆発があったみたいだけど、これでみんな家に帰れる。

こんなに滅茶苦茶にされちまって…もう戦争なんて、こりごりだよ。

ん?
そういえば、鈴仙はジオン・博麗・永遠亭で一時休戦といったね。
レミリア・スカーレットとその従者がいたはずだけど、あの二人は博麗でいいのかな?


side レミリア・スカーレット
異変二日目2時32分
~迷いの竹林上空 レイセン防衛エリア~

月が元に戻った。
だけど、この力は何?
強力な力が湧き上がってきている!?

いったい何が起こっているの!?

あーもう!
下半身が無いから、なかなか進まないじゃないの!!

「咲夜!!咲夜はどこ!!!!」

「ここにいます。」
レミリアが叫ぶと、レミリアの下半身を持った咲夜が姿を現す。

「咲夜、何がいったいどうなってるの??」

「ジオン、霊夢、永遠亭間で一時休戦が合意されました。」

「何それ、それじゃあこの異常な力はなんなの?」

「調べた所によると、どうやらハニューが紫と本気で事を構えようとしているようです。」

「何ですって!?」






「咲夜、命令よ。
 即刻、私の下半身を返しなさい。」

仮にも、私の部下であるハニューが世界を救うためにあの紫と本気で戦うというのよ、主人である私がこんなところで傍観しているわけにはいかないわ。

「嫌です。」

「咲夜!いいかげんにしなさい!」

「それでも、嫌です。
 お嬢様がどちらの味方をする気か分かりませんが、あの二人の戦いに巻き込まれるのは危険です。
 例え下半身がくっ付こうとも、今のように力が大幅に下がっている状態のお嬢様なら!!」

うーーーーーーーーーーーーー。
悔しいけど、咲夜の言うことは間違っていないわ。
それに、ビシビシ感じるこの力の強さ…紫もハニューも、周りの事なんてお構い無しだわ!

せめて、せめてフランがここにいてくれたら…
私達、姉妹が力を合わせたら、介入できるのに!!


side フランドール・スカーレット
異変二日目2時32分
~紅魔館 レミリアの私室前~

「紅魔館乗っ取り中なう。」


「妹様?こんなことしていいんですか?」

「お姉様は死にかけているみたいだから、大丈夫だ、問題ない。」

「あ、そうですか、それなら安心ですね。


 ええ!?」

主が留守の紅魔館。
そこには、紅魔館の模様替えの指示を出す、フランの姿があった。

「お嬢様は大丈夫なのですか!?」

「当分ダメなんじゃない?」

「ええ!?」
あっさりと姉がダメだと答えるフランに驚く美鈴。
だが、フランはそんな美鈴の反応を気にも留めていないようだった。

「妹様、お嬢様の私物全部、部屋から出しちゃっていいんですか?」
「あ、中国さん!今日も素敵なスタイルですね。えへへ。」

「おkおk。」
美鈴の驚きには答えず、フランは指示を仰ぎにきた姉妹の妖精メイドに軽く指示を出す。


「妹様、お嬢様の救援に行ったほうがいいのでは…」
自分の姉が死に掛けているというのに、あまりにも軽い感じのフランに、美鈴が苦言を呈す。

「大丈夫よ。
 ハニューが凄いことになってるから。
 あなただったら、私よりよく分かるんじゃないの?」
だが、フランは既に問題は解決した、とでも言いたげな余裕のある表情だった。



side ハニュー
異変二日目2時30分
~永遠亭最深部跡地~

ううーん…


あー…


朝起きての、背伸びは気持ち良かったなあ。
なんというか、凄い開放感で、ボーとしちゃったよ。














あれ?

どうして俺はこんな荒野で立ち尽くしているんだ??
俺って、こんな荒野にいたっけ??



俺は、こんな所ではなく…




もっと人がいっぱいいたような…





人がいっぱい…




いっぱい…





































そうだ、同人誌だ!
いっぱいの人に俺の同人誌が…
同人誌を処分するために、俺は帰って来たんだ!!





ってどこだ!?




同人誌はどこだ!





「どこだ!!!どこに隠れているううううう!!!!!!!!!!!」




早く例の会場を見つけ出して、同人誌を破棄して、何とか弁明して…
それから…

それから!!


辺りをキョロキョロと見回すハニュー。
ところが、周りには剥き出しになった地面以外、何も無かった。


……何も無いし、誰もいない…
ここは明らかに、俺の同人紙の公開が行われていた場所とは違う…
公開処刑の場所はどこなんだ!?

くそう、俺の知識じゃ、あそこがどこか分からない。
誰かいれば、色々と相談に乗ってもらえるのに…

相談する人すら見つからないとは、どういうことなの…
こういう時に、ニュータイプのように『見える、私にも敵が見えるぞ!』って感じで、ピキーン!と相談する人の気配を探れたらいいのに…


ああ、もう!!


『ピキーン!!』


んん?
なんだこれ…
何故だか分からないが、あっちの方向に人がいる気がするよ?

夜空の一点をじっと見つめるハニュー。
すると、米粒のように小さいが、そこに何人もの人達がいるのが見えた。
そして、ハニューはふと気がつく。


しかし待てよ。
よくよく考えれば、俺の同人誌が公開された場所はどこですか?なんて聞けない。
例えばだ、ルーミアに聞いてみたとしよう。
「さすがの私もそれには引くわー」
という感じで、俺に対してドン引きだろう。
そして大ちゃんの場合は…
①正直にオカズだと話す。
大「ごめんなさい。私、あなたとは今後お付き合いできません、もう紅魔館でも話しかけないでくださいね。」
②適当な言い訳をする。
大「何か隠しているよね?」
俺「ち、違うよ大ちゃん、これは、違うんだ…」
大「ハニューちゃんは知ってるはずだよね。私が嘘つかれるのダイッキライダッテ!!!」
③逃げる
→しかし、回り込まれる。
大「待って!ハニューちゃん、どうして逃げるの?」
俺「逃げたわけじゃ…」
大「嘘…それは嘘。嘘嘘嘘嘘嘘、嘘つかないでよ!だって逃げたじゃない、逃げたでしょ!逃げたよね!!!」
→そして、①か②に進む。

…………もう、これ以上考えたくない。
って大ちゃんってこんな性格だっけ??

逆に、それほどお互いを知らない…
例えば妖夢さんとかだったら…
「だって女の子だもん!●●●●に興味あって当然でしょ!」
………。
いやいやいや。
そんな理解のある言葉なんて出てくるわけがない。
どう考えても、ドン引きだろう。


誰か、俺に理解を示してくれる人はいないのかあああ?


!!


そうだストーカーさん、あの人なら…
自分より年下というか…どう控えめに見ても10歳以上年下の同性の少女にストーキングしているあの人なら…
同人誌ぐらいなら動じずに話を聞いてくれるかもしれない。
そうだよ、聞いた話だが、同人誌と言えば『心の中の妄想を思いの限り形にしたもの!』らしい。
そしてストーカーさんは、その妄想を現実での行動として行っていると言えるだろう。
とうことはだ、整理すると…ストーカーさんと同人誌は、実際に行動しているか、同人誌にしているかという違いがあるだけということになる。

つまり、ストーカーさんは同人誌の中身に耐性があるなんてレベルではなく。
同人誌を大切に持っている俺と、ストーカーさんは、本質的には同じと言えるのだ!

だから、俺の相談に動じずに乗ってくれるどころか、快く俺を受け入れてくれるはずだ!
そうに違いない!!!


……自分で言っていて、ちょっと悲しくなったが、道が開けたぞ。




さて、ストーカーさんはと…



更によく目を凝らすハニュー。
すると、米粒のように小さい姿が、何故かはっきりと紫の姿として捉えることができた。

ストーカーさん発見!!!



ニコリと笑うハニュー。


すると、紫に藍が近付いてきたかと思うと、藍が紫をスキマに押し込み始めた。
何故か紫は藍の行動に抵抗しており、紫の体はスキマの入り口を出たり入ったりしている。

あれれ?
藍さん、ストーカーさんをどこに連れて行く気ですか!?

やばいぞこの状況…
俺の速度だと、たどり着く前にストーカーさんが藍さんに連れて行かれてしまうかもしれない!!
なんとか追いつかないと!
コスプレをしている赤い彗星の人のように、三倍の速度で出発だ!!なんてね。


気合を入れて空を飛ぶハニュー。
すると、ハニューの体は、自称貧弱少女という言葉からは想像できない程の加速をし始めた。


ほわっ!?


なんだこの加速は!?
なんというか、いつもより…そうだな、いつもの三倍ぐらいの速度が出ている気がするぞ!?







………こんなに速度が出たり、ニュータイプのような勘の良さといい……どうしちゃったんだ俺…
まさか、生物兵器としての隠された能力に目覚めて!

俺最強!!

つえええええええ!!!
って展開になったのか!?































………ってそれは無い無い。
よく考えたら、身近にいる人を見る限り(メイド長や大ちゃんの瞬間移動とか、文さんの機動性とか)この程度の速度って…多分平均以下なんだろうなあ。
さっきの勘の良さだって、めーりんさんが急にいなくなって「めーりんさんが行方不明なんですけど、どこにいるか知ってますか?」とかメイド長に聞いたら…
「私の勘なら、めーりんは紅魔館の天辺に落ちてると思うわよ。」とか言われて探しに行ったら…
実際に、時計塔の天辺に血塗れのめーりんさんが串刺しになっていたこともあったし。


うん。
俺が今発揮した能力って、どう控えめに見ても平均以下だな。
となるとこれは隠された能力に目覚めたというより…


いつもより、ちょっと調子がいいという感じだろうなあ。
つまりあれだ、好きなアニメの事をイメージしたから、ちょっとリラックスできたというか…テンション高くなって調子がいいんだ。


原因はとにかく、調子がいいのは助かる!

スピードを上げ、一気に距離を詰め始めるハニュー。
だが、信じられないほどの数のスキマが突然表れ、嵐のような弾幕を打ち出し始めた。



ほうわっ!?

これは…ストーカーさんの攻撃!?
どうして、俺を攻撃して来るんだ!?

って今はそんな場合じゃない。
まるでファンネルのように、突然現れて攻撃してくるなんて…
ヤバイ、こんなの避けきれない!!
調子がいいと思った矢先にこれだよ!!


こ、こんな所で死ぬわけには!!

ここで死んだら、俺の同人誌が!!

必死に回避するハニューだったが、さらに何十個ものスキマが現れ、弾幕でハニューを完全に包囲する。

なんて数だ…とてもじゃないが避けるのは無理だ。
となると、魔法障壁でガードするしかない。
でも、並みの魔法障壁じゃとても防げるとは思えない。

こういう時は、訓練を思い出すんだ。
訓練では…
そうだ、魔力、技術、そしてイメージが大切だと言っていた。

魔力、技術は…今更どうにもならない。
となると、イメージだ。
強力な防御力をイメージすることが、魔力を安定させ、実際の防御力アップに繋がると言っていた。

防御と言えば、ATフィー…
はダメだ、アレは意外と簡単にぶち抜かれるイメージがある。
4000前後のダメージまでしか防げないというか、何と言うか…
じゃあ、Iフィールド…はもっとダメだ。
実体弾は防げないから、もっと簡単にぶち抜かれるイメージが…

ってヤバイ。
もう、弾が目の前に…

あとは、えーと…えーと…

そうだ、Iフィールドで思い出した。
サイコフィールドだ!!

ファンネルの攻撃も弾き、最後にはコロニーレーザーも弾いたサイコフィールド。
あれなら、イメージにはもってこいだ。


俺の防御はサイコフィールド。
俺の防御はサイコフィールド。
俺の防御はサイコフィールド。
俺の防御はサイコフィールド。

目を閉じながら、必死にガンダムUCのサイコフィールドをイメージしながら防御に徹するハニュー。
そして、紫の弾幕がハニューに殺到した。


side 西行寺 幽々子
異変二日目2時33分
~永遠亭周辺~

「やった!!」
弾幕がハニューに殺到する様子を見て、喜びの声を上げる妖夢。


完全に避けられない弾幕を用意して攻撃するなんて~。
紫~あなた…本気なのね~。

永琳が展開したスクリーンを覗き込んでいる妖夢に近付く幽々子。
「落ち着きなさい。あの程度じゃハニューは仕留め………………この展開は予想外だわ~」


…流石に、弾幕ごっこに喧嘩売っているだけのことはあるわね~。

ニヤリと笑った幽々子の視線の先には、全身に淡い光りのスジを浮かび上がらせたハニューの姿があった。
弾幕が殺到したはずのハニューには、何故か一発も弾幕が命中していなかった。

「幽々子様!?
 弾幕が、まるで見えない壁に弾かれたようにハニューの体を避けていきました!!!」

「そのぐらい見れば分かるわよ~弾幕避けの能力でもあるのかしら~」

「幽々子様!!ハニューが変身しています!!」

「そのぐらい見れば…ええ~!?」

何これ…
額に鬼のような光りの一本角??

「変な光りのスジが動いています!!!!」

光りのスジを基点が、ガチャンガチャンと展開し、どこかロボットのような雰囲気を感じさせる姿に変身するハニュー。
そして最後に額の角が二つに割れると、ハニューはゆっくりと目を開け、背中に装備された光りの剣を掴み、引き抜いたのだった。

「つ、角が二つに分かれました!!

 幽々子様!!



 とりあえず斬ってみていいですか!!」


side アリス・マーガトロイド
異変二日目2時33分
~永遠亭周辺~

幽々子達がハニューの変身に驚いていたとき、ジオン司令部でも驚いていた者達がいた。
ジオン司令部で、親衛隊が送ってくる映像を覗きこむアリスとにとり。
そこには、ハニューの変身が詳細に映し出されていた。

ハニューが変形、いや…変身したわ!!
あれはいったい!?


「ガンダム…」
アリスの横にいた、にとりが呆然とした表情で呟く。


「ガンダム!?それって確か…」

ハッとした表情の後、コクリと頷くにとり。
「ハニュー総帥が話していた、あのガンダムです。あの特徴的な二本の角…間違いありません。」

ガンダムは、ハニューの例え話の敵。
そして、最強の兵器にて、ジオンの敵。
世界を救ったとも、世界の文明を滅ぼしたとも言われた存在。
恐らく、その力は旧神に匹敵する。
それが、ハニューの正体!?
どうしてそんな結論に!?

「やはり…ハニュー氏の例え話は事実…そしてその最強の兵器がハニュー総帥自身だったとは…
 となると、先程攻撃を防いだのは、Iフィールド?いや、それともサイコフィールドか!?」

にとりは腕を組み、アリスの知らない言葉をブツブツと言い始める。

「しかしまてよ、そうなるとハニュー氏がガンダムと戦い続けたシャアと名乗ったことと矛盾が…
 そうか、ハニュー総帥の話では、シャアはガンダムに負け続けた。
 そんなシャアが、ガンダムの力を欲したのは間違いない…なるほど…」

そして、一人でなにやら納得してしまった。

「ねえ、ちょっと説明してよ!」
そんな、一人で納得してしまった友人を見て、アリスは怒り出すのだった。


side 八雲 藍
異変二日目2時34分
~永遠亭周辺~

ハニューの力に驚き、必死に紫を逃がそうとする藍だったが、紫は藍の言うことをまったく聞き入れなかった。
しかし、そこに協力な援軍が現れた。

「紫…私がハニューの気を引くから、その間に逃げて~。
 あれは、相当ヤバイわよ~!!」

「幽々子…ありがとう。
 だけど、幻想郷は私の子供なの。」

「紫~??」

「ここで逃げたら、全ての計画はパア。引くわけにはいかないのよ!!」


幽々子の言うことなら、素直に聞く紫だったが、今日だけは違っていた。
スキマの中に押し込もうとする、藍と幽々子を跳ね除け、紫は外に飛び出してしまう。

「幽々子、ここからは私達だけで十分。離れていて。」

「藍、ごめんね。」
藍の頭を撫でる紫。

え…紫…様??
これは、まさか…!!


side ハニュー
異変二日目2時33分
~永遠亭周辺~

ゆっくりと目を開けるハニュー。
すると…


目の前に弾幕が!?








あれ?


ハニューの目に飛び込んできたのは、勝手に自分を避けていく弾幕の群れだった。

…死んだと思ったら、弾幕が勝手に俺を避けて行った。
俺のサイコフィールドの



ってことは流石にないから……





























本気の攻撃じゃなかったということか。

なぜだ?


そうか!
よくよく考えたら、俺はストーカーさんに攻撃される理由がない。
しかしだ、世間の目を考えると、少し違う答えが見えてくる。
同人誌が公開された俺の立場は今…もの凄くヤバイ。
この後俺は、どうにかして俺の同人誌を破棄して、どうにかして俺の評判をUPさせる予定だが…
それまでの間は、誰もが俺を避けようとするわけだ。
世間体的な意味で。


それを前提に考えると、ストーカーさんは俺に対して理解があり、多分同じ穴のムジナとして協力してあげたいと考えているはずだ。
だから、俺を怪我させるような、容赦ない攻撃をする気は無い。
だけど、世間体的に大手を振って俺に協力できないので…俺を攻撃したフリをしているわけだ。


ということは…世間体的に言い訳がつく状況なら、俺に協力してくれるのではないだろうか!?
例えば、俺が強引にストーカーさんを脅したと見える状況なら…


もしかしたら、ストーカーさんはそこまで読んでこういう攻撃をしているのかもしれない。


紫に向けて、ニヤリと笑いかけるハニュー。
すると、紫もハニューに向けてニヤリと笑った。


この笑いは…
本当にストーカーさんも、そう思っているようですね!!
心の友の間では、以心伝心なんてあたりまえと漫画では見かけるが、それを実体験するとは!

うん、なんというか希望が見えてきた!!!







これなら!



《バシュン!!》
手に持ったビームサーベルのようなもので、スキマの一つを叩き切るハニュー。



いけるぞ!!


凄い!
まるでデストロイモードみたいだ!!弾幕の動きがゆっくりに見えるぞ。
これは明らかに、ストーカーさんが手加減してくれている証拠ですね!!

しかもだ、デストロイモードをイメージして動くと、もの凄く動きやすい!
さっきまでの勘の良さとか、三倍の速度とかの時も、いつもに比べて万能感というのがあったけど…
なんというか、今はもっと凄い。
テンションが上がっているせいか、本当に俺がデストロイモードになっているような気になってきたぜ!!!

テンションの上がったハニューを、これまでに無い程の万能感が包んでいた。
そしてその万能感が、ハニューの心を震わせ、その心がが更に万能感を高め始めた。
万能感が高まるほど、ハニューの力は上がっていき、その更なる力の上昇は紫達にもはっきりと分かるほどだった。

ハニューは赤い閃光を残しつつ、猛烈な勢いでスキマを破壊しながら紫に迫る。
だが、後一歩で紫にたどり着こうとしたとき、藍がハニューの前に立ち塞がった。


「藍さん!どいてください!!」

「ハニューは…




 敵!!!」
藍さん??どうしちゃったんだ?
まるで人が変わったようじゃないか!?

鬼のような形相のまま、ハニューに攻撃を繰り出す藍。
ハニューはその圧倒的な機動力を使って攻撃をかわすが、まるでコンピュータのような適確な機動と、
九つの尻尾を巧みに使った攻防一体の攻撃を繰り出す藍を突破できないでいた。

駄目だ、時間ばっかりが過ぎていく。
こうなったら、威嚇攻撃しかない。
藍さんの近くを、このビームサーベル的な奴でぶった斬って、藍さんが怯んだ隙に突破するしかない。





《ズバ!!》



ズバ?


あ…藍さんの尻尾が飛んでいく…

し、しまった。
勢いあまって、本当に切っちゃったよ。


予想外の事態に、無言で藍と見詰め合うハニュー。
すると…


「藍、下がりなさい。」
!!ストーカーさんが出てきた。
藍さんが…ストーカーさんの言うことを聞いて下がっていく?
なるほど、藍さんの俺への攻撃は、ストーカーさんの演出の一環だということですか。
ということは、尻尾が切れたのも多分演出だな。
なんといっても、橙ちゃんの足元にも及ばない俺の実力で、橙ちゃんのお母さんに一撃を入れるわけがないからな!!

はははは!





(´・ω・`)
って安心したけど、自分で言っていて悲しくなってきた。


「流石ね、藍が手も足も出ないなんて。」

いや、これはあなたのおかげ…
って、会話を合わせないといけないよな。
具体的には…圧倒的な強者っぽくて、悪役で…

えーと…

あれ?

イザとなるとあまりいい感じの台詞が…
(私の勝ちだな。いま計算してみたがアクシズの後部は地球の引力に引かれて落ちる。貴様等の頑張り過ぎだ!)
うん、全然合わないね。
漫画からも探しているが、さっきまでコスプレをしていたシャアって、あまり強者っぽい台詞が無いぞ!?
困ったな…

俯き、いかにも困ったという顔をするハニュー。

「返事はなし…

 藍なんて、感想を述べるほども無いってことね?
 あ、そうか、ごめんなさい。
 貴方みたいな革命家には良くあることね、貴方の革命のために誰が何人犠牲になったかわからないなんて。フフ…」
ハニューが回答に窮するのを見て、まるで笑いを抑えるかの如く口元を抑えつつ、ハニューをバカにしたように話す紫。
しかし、何故か手の下の口は忙しく動き、反対の手はスキマに入れられ何やらスキマを操作していた。

「聞きたいかね?昨日までの時点では、99822人だ。」

「へ?」
突然、返事を返したハニューに驚き、口をあんぐり開ける紫。
「アイリス、本日の戦死者は?」

「現在集計中、後で伝える。だけど、精々重傷者止まり。」
通信ウィンドウが開き、アイリスではなくマリーダが現れハニューに報告する。
「そうか…後で名前を教えてくれ…」

「ちょ、ちょっと!」

「戦いの為に犠牲となった人々は、全て記憶している…ノベンタ、セプテン、ベンティ、ドーリアン、ワーカー、オットー、ブントー、皆、忘れられぬ人々だ。」

「ハニュー…貴方は…」

「私は死者に対し、哀悼の意を表することしか出来ない。
 だが、君もこれだけは知っていてほしい。
 彼等は決して無駄死になどしていない。そして…!」

紫に切りかかるハニュー。
あっけに取られていた紫は、ハニューのビームサーベルをまともに受けてしまう。
そして二人は……


巨大なスキマに飲み込まれた。



side 八雲 紫
異変二日目2時27分
~永遠亭周辺~

光りの柱の中で、ハニューが腕を空に向けて突き上げる。
爆発的に広がるハニューの力が、永遠亭の一部を破壊し、巨大なクレーターへと変えていく。
その様子を、紫はスキマを通して見ていた。

永遠亭を破壊した!?
これで、異変も終了と言いたいところだけど、これからが本番だわ。
裸にはなっていないから、本気中の本気という訳じゃないみたいだけど、ハニューがここまでの力を出したのは、私が知る限り初めて。
私の攻撃をきっかけにして、かなり本気になったのは間違いないわね。
ボタンの掛け違いとはいえ、こうなってしまった以上、私も計画のため…幻想郷のために本気にならないといけないわね…

紫は、ハニューと初接触して以後、常にその動向を追っていた。
そして、紫の『計画』の節目である今日の異変に備えて、ハニューの力の限界について見込みを立てていた。
紫は、それを基準にハニュー対策を準備していた。
永琳と輝夜を捕獲した方法、それこそがハニュー対策として準備されていたものだった。
しかし、ハニューの力は、紫の予想を超えてしまっていた。

これほどの力じゃ、幽々子の能力で一時的に殺して隙を作ろうとしても、逆に幽々子を危険に晒すだけ。
…幽々子抜きでハニューに勝利し、ハニューを説得する。
そして…場合によっては消滅させる。
大丈夫、ハニュー対策を修正すれば、十分やれるはずよ。

体中から妖気が溢れるほど、気合を入れる紫。
「どこだ!!!どこに隠れているううううう!!!!!!!!!!!」
すると、まるでそれに呼応するかのように、嵐のような『力』に乗った咆哮が紫達の周囲を突き抜けていった。


!!
まるで血に飢えた魔物のようなハニューの雄叫びに驚く紫。
隣にいた藍にいたっては、尻尾と耳を丸め、完全に怯えてしまっていた。

藍が怯えるのは仕方ないわ。
あれは…自然を具現化した妖精を突き詰めた姿。
自然の驚異そのもの。
元々動物である藍にとっては、本能が訴えているのね…
あれは危険だと。
実際あれは危険だわ、あんなに無差別に力を撒き散らしていたら、弱い存在は近くにいるだけで消し飛んでしまう。

ハニューを観察しながら、ハニューの周囲も観察する紫。
すると、アイリスの指示の元、ジオン兵達がハニューと一定の距離を取るのが見えた。


…ハニューの部下達も、あれの危険性に気がついたみたいね。
味方を巻き込みかけるなんて、まさか力の制御が出来ていない!?

…これなら、勝機は十分すぎるほどあるわ。




《ズシン…》









なにこれ…




いったい、なんなの今のは!?


突然、不可視の強大な存在に睨まれたような恐ろしい錯覚に陥った紫。
紫は、反射的にハニューのいる方向に目を向けた。
すると、ハニューも紫のいる方向に目をむけ、ニコリと微笑んでいた。
その微笑みは、肉食獣が獲物を見つけ喜んでいるような、そんな恐ろしい微笑みだった。

今のアレはハニューがやったというの!?

ハニューの恐ろしい笑みに、一瞬呆然とする紫。
そんな紫をグイグイと押す存在がいた。
「紫様早く…早く逃げてください。」
紫を押していたのは藍だった。
青い顔で歯をガチガチと鳴らしながら、藍は紫をスキマに押し込もうとする。

「ちょっと、やめなさい!!」

「逃げないと殺されます!逃げないと殺されます!!逃げないと殺されます!!!」

「駄目よ、逃げてどうすると言うの!!
 今は逃げるときじゃないのよ!戦うときなのよ!」

紫と藍が押し問答している間に、ハニューは空に飛び上がり、紫に迫ってくる。
藍の行動は、式としては正しい行動だった。
しかし、ハニューと戦うことを決心していた紫にとって、それは邪魔以外の何物でもなかった。

「き、来た!!!」

「藍、どきなさい!」

近付くハニューに藍が怯んだ隙に、ハニューを囲むように、次々とスキマを展開する紫。
その配置は、この攻撃が最早弾幕ごっこではないことを意味していた。


弾幕の威力、数、配置。
どれをとっても、手加減無しの攻撃…並みの妖怪なら、数回蒸発する程度の力よ!

紫の展開した弾幕は、形こそいつもと同じものだったが、幻想郷の住人がこれまで経験したことが無い程の威力を秘めていた。
しかし…

!?
力の流れが変わった!?
まさか…力を願望機として使用しているの!?

これまで、外に垂れ流されていた力の大半がハニューの内面に向かい、その力がハニュー自身の姿を変化させていく。
更に、姿を変化させつつあるハニューからこれまでとは少し違う力が噴出したかと思うと、その力が周囲に謎の力場を展開された。

その力場に紫の弾幕が殺到する。
すると、殺到した弾幕の弾道は全て狂い、ハニューを避けるように飛び散った。

!!
ハニューが新たに手に入れた姿…まるで何かの兵器だわ…
自然現象が具現化しているはずの妖精が、その力を行使しようとしたら兵器化した。
どういうことなの…これじゃまるで…

「紫…私がハニューの気を引くから、その間に逃げて~。
 あれは、相当ヤバイわよ~!!」
ハニューの正体について、思考の渦に飲み込まれかけた紫だったが、少し慌てた様子の幽々子に現実に引き戻された。

「幽々子…ありがとう。
 だけど、幻想郷は私の子供なの。」

「紫~??」

「ここで逃げたら、全てはパア。引くわけにはいかないのよ!!」

そう言うと、紫は引く気がないと行動で示すかのように、藍と幽々子を跳ね除け外に飛び出した。

「幽々子、ここからは私達だけで十分。離れていて。」

幽々子の気持ちは素直に嬉しいわ。
だけど、私は幻想郷の管理人であり母なのよ。
私は幻想郷のために、必要とあれば全てを捧げる覚悟があるわ。

だから「藍、ごめんね。」
藍の頭を撫でる紫。

藍の感情回路を閉鎖…戦闘モードに。
藍…私のため、幻想郷のために時間を稼いで。
ハニュー、あなたは今、勝利を確信しているでしょうね。
だけど、それがあなたの命取りよ!

紫に向けて、ニヤリと笑いかけるハニュー。
それを見て、紫もニヤリと笑った。


次々と打ち込まれる紫の本気の攻撃を、力をブースターのように噴出し、簡単に回避するハニュー。
更には、手に持った剣状の光で、攻撃元のスキマを次々に破壊していく。
パワー、スピード共に驚異的な戦闘力だったが、これが戦闘力の上限という訳ではないようだった。
時間が経つにつれ、ハニューから感じ取れる力がどんどん強くなって行く。
驚きを通り越し、呆れるほどの事態だが、直接的な戦闘力のみに特化している姿を見て紫は勝機を確信した。

そして、藍が時間稼ぎのためにハニューへ攻撃を開始する。

「藍さん!どいてください!!」

「ハニューは…




 敵!!!」
戦闘マシーンと化した藍がハニューを攻撃する。
だが、あっさりと武器である尻尾を切られ、追い詰められる。

橙の情報から、藍に対しては悪い感情を持っていないようだから…
藍との戦いを拒否するような先程の言葉通り、動揺してくれるかと少しは期待したけど、やはり先程の蓬莱山輝夜と同じく効果がなかったようね。

無言で藍を見つめるハニューからは、殺気の様なものは何も感じられなかった。
それもそのはず、ハニューは殺気をほとんど出さずに、紫の攻撃に反撃し、藍の尻尾を切り取っていた。
恐らく、殺気を隠す術を習得しているのだろう。
つまり、今この瞬間にも、藍の命がハニューに刈り取られてもおかしくない状況だった。

幻想郷の管理者として正しい行動をとるのなら、藍が殺されるまでの時間を使って、ハニューへの攻撃の準備を進めるべきだと紫は分かっていた。
そうすれば、攻撃の準備により多くの時間が取れるだけではなく、ハニューの戦闘力のデータが少しでも取れるからだ。
藍はそのための道具だ。
いつか来るだろう『こういう時』のために用意しておいた道具だ。
役目を果たした道具が壊れる。
そのことに、何も問題はない。

そう自分に言い聞かせていた紫だったが。
「藍、下がりなさい。」
気がついたら、藍に撤退命令を出していた。

紫は自分の取った行動に動揺を一瞬示すが、直ぐに再起動を果たす。
紫の取るべき行動は、確実にハニューの動きを止めることだからだ。

紫はハニューを、幻想郷から異世界へ跳ばそうとしていた。
しかも跳ばす先は、永琳や輝夜を捉える際に用意した、この世界と重なり合った近しい世界ではなく…
遠い世界。
物理法則も全て違う正真正銘の異世界だった。


妖精は自然現象が具現化したものだわ。
自然現象を光と見なした場合、影に当たる存在、それが妖精と言えるわね。
外の世界に妖精が存在しない理由、それは外の世界では妖精が具現化できないほど自然の力が弱まっているから。
つまり、光が弱いため、影もまた存在できないという理由。
それじゃあ、自然現象がまったく存在しない世界に、妖精を送り込んだらどうなるのか?

結果は、妖精は依って立つ力を失い―――消えた。

ハニューのように力のある存在なら、その体に残留した力を使って、世界を超えて幻想郷に逃げ変えることができるかもしれない。
だけど、それにも限界があるはず。
簡単にこの世界に逃げ帰れない程の遠い世界に跳べば、自ら力を生成できない妖精であるハニューは、いずれ全ての力を使い果たし消える。
もちろんこれは、私にとっても危険な手段だわ。
抵抗する敵を伴い、遠い異世界に跳ぶ。
それは私の妖力にかなりの負担を与えるわね。
しかも、たどり着いた先では妖力が減った私と、力の供給を絶たれたハニューとの我慢比べが待っている…

だけど、この方法なら例え私が死んだとしても、確実に勝つことができる。

紫の考えは、以上のようなものだった。
幽々子や藍が聞けば『ハニューだけを異世界に跳ばす訳にはいかないのか?』『あまりにも無謀だから他の方法を考えろ』等と止めるような手段だったが…
この方法は、ハニューが幽々子の異変を解決した直後に考え出した方法であり、紫はその後これ以上に確実な方法をついに見つけることができなかった。

「流石ね、藍が手も足も出ないなんて。」

「返事はなし…

 藍なんて、感想を述べるほども無いってことね?
 あ、そうか、ごめんなさい。
 貴方みたいな革命家には良くあることね、貴方の革命のために誰が何人犠牲になったかわからないなんて。フフ…」

ハニューと同じ様なタイプの者達が、最も抉られたくない部分を抉ろうとする紫。
ただの革命家崩れなら、激昂して攻撃してくるけど…
ハニューなら、恐らくこんな安い挑発には乗らず、自説を正当化する演説を行ってくるはず。
でも、それでいいわ。
その時間を使って、私は準備を進めるだけよ。

「聞きたいかね?昨日までの時点では、99822人だ。」

「へ?」

なんですって???
まさか、この質問にまともに答えてくるなんて!?

「アイリス、本日の戦死者は?」

「現在集計中、後で伝える。だけど、精々重傷者止まり。」

「そうか…後で名前を教えてくれ…」

「ちょ、ちょっと!」
予想外の事態に、ハニュー攻撃の準備を忘れ、ハニューに声をかけてしまう紫。

「戦いの為に犠牲となった人々は、全て記憶している…ノベンタ、セプテン、ベンティ、ドーリアン、ワーカー、オットー、ブントー、皆、忘れられぬ人々だ。」

「ハニュー…貴方は…」

革命家というのは、犠牲者など意にも介さないか、見て見ぬふりをしているような奴が大半なのに…
自分のために、犠牲となった者達の名前を覚えているですって!?

犠牲者とまともに向き合いつつも、革命を推し進めるなんて。
強靭な精神力だけじゃない…それだけ、革命に対する思いが強いと言うことなのね…

そこまでして、革命が必要だなんて…
ジオンの一部で、幻想郷に危機が迫っているからハニューが立ち上がったという噂が出ているけど…
もしかして、私はハニューを少し誤解しているのかもしれない。
でも、私は引かない。

「私は死者に対し、哀悼の意を表することしか出来ない。
 だが、君もこれだけは知っていてほしい。
 彼等は決して無駄死になどしていない。そして…!」

演説の途中に、突然ハニューが跳びかかってくる。

しまった完全にスキを突かれた!?
!!!
力場の中に数億度のプラズマが封印された剣!?冗談でしょ!?

だけど、この状態なら私から逃れることはできないわよ!

紫の懐に飛び込んだハニューを両手で捕まえる紫。

ハニュー!
私と一緒に、世界を跳びましょう!!


side ハニュー
異変二日目2時40分
~遠い異世界に作られた場~

ストーカーさんがあんなことを言うから、思わずトレーズ様の真似になっちゃったじゃないかw
いやー、しかしストーカーさんの演技も中々だな。
俺の貧弱な攻撃を受けただけなのに、さっきまで本当に辛そうというか…死にそうな演技をしてくれたしな。
会心の一撃!!というぐらい自分でも決まったという一撃だったけど。そんなのストーカーさんに効くわけがないし。

ちなみに、ここはどこだ??
予定では、ストーカーさんに攻撃したふりをしたまま、森の中に落っこちて、二人っきりになる計画だったのだが…
どうやら、ストーカーさんが俺をここに連れてきたみたいだな。
何と言うか、生命が感じられないところだな。
だけど、体に異常は感じないから、とりあえずは問題ないだろう。
ちなみに、俺とストーカーさんしかいないな……これはストーカーさんと話をするには持って来いの場所ですね。

「あなた…どうしてなんとも無いの!?」

「どうしてって言われてもな??」
ストーカーさんに体を心配された…
確かに、結構無茶な動きをしたからなあ。
だけど、どこも変なところは無いぞ。


あれ?ストーカーさん?
何だか、もの凄く顔が青いですよ。
…演技といえでも、攻撃されるのは確かに怖いよな。
俺の配慮が足りなかったか。
「すみません、怖がらせてしまいましたね。」



「どうして殺さなかったの!!」


え、えーと…
いきなり、そんな剣幕で言われても…
あ、そうだ!!

「律儀な女だよ、君は。だからこそ私も信用が置けるというものだ。

 だが…」

「え?」

「よく覚えておきたまえ。礼節を忘れた戦争は殺戮しか産まないのだ。」

決まったー!!!

ってキョトンとしていますね、ストーカーさん。
もしかして、ネタの意味が分かってない??
いやこれはですね、前半でしっかり演技をしてくれるストーカーさんは信頼できると言いつつ、演技でもあんまり殺せ殺せと言うのは良くないですよ、と言っているのです。
トレーズ様の台詞を使って…



ごめんなさい…何だか本当に伝わっていないようですね。
ま、滑ったネタに拘らず、話を進めたほうが良さそうだな。
事は全てエレガントに運べって言うもんね。

「さあ、始めようか。」

「始めるって何を??」
動揺する紫。

「貴方が演技をしていることぐらい、俺は分かっていますよ。
 だから、始めるのです。」
さあ、さあ、早く同人誌のある場所の話を始めましょう。

「!!!全てお見通しだったのね…」

「ええ、直ぐに分かりましたよ。」
あなたが博麗の巫女にストーキングしていたのも見ましたからね。
それでピンっと来ましたよ。

「私の行動はやっぱり異常に見えたかしら?」

…?
そりゃ、ストーキングの常習とか、どう考えても異常に見えるだろう。
「それは勿論、これは異常な行動だし、不味いと思いましたね。」

「はあ…庇護者が狂うということの意味を理解し、行動を起こす者がいたのは喜ばしいことだったけど。
 それが劇薬として残したあなただけだったとは…
 いえ、流石というべきかしら。私の真意に気がつくなんて。」

…何をストーカーさんは言っているんだ?
とにかく…分かった部分…真意に気がついた(攻撃しているふり。つまり八百長)部分だけが分かったので、その続きで話を進めさせてもらおう。

「ええ、ですので利用させてもらいました。」

ハニューの返答を聞き、紫の目が鋭くなる。

「私の真意を知った上で、私を利用したというの?あなたの目的のために?」

?そりゃそうだろ、ストーカーさんが『世間体的な問題で攻撃してきている』という真意を知った上じゃないと話がおかしいだろ。

「その通りです。」
当たり前だという感じで即答するハニュー。
ハニューの返答を聞き、更に紫の目が鋭くなる。

「それで、いつから私を利用していたの?」

そりゃ、さっきの八百長は、直ぐに気がついたから、最初からだろう。

「最初から。

 俺のためによく動いてくれたので、大助かりでしたよ。」
紫に対して、ニコリと笑いながら答えるハニュー。

「さ、最初から??私の計画が最初からハニューの掌の上だった????」
先程まで、多少の余裕を感じさせる程、堂々としていた紫だったが、ハニューの答えを聞いた瞬間、真っ青な表情となり…
まるで足元が崩れ落ちるが如く、へたり込んでしまった。

「掌とは大げさな…
 だけど、俺が最善と思う行動を取るために、
 結果として大ちゃんやルーミアも含めて全員を『騙して悪いが』という感じにしてしまったので、そういう言い方もあるかな??」
俺とストーカーさんの八百長を大ちゃん達に見抜かれる訳にはいかないからね。
だけど『騙して悪いが』かー、このネタとかルーミアとかに通じるのかなーw
ルーミアに冗談を言った場合を考え、クスリと笑うハニュー。

紫は、そんなハニューを何か恐ろしいモノを見るかのような目で見上げた。
そんな紫に気がついていないハニューは、そのまま話を続ける。

「それは兎に角、俺があなたのことをよく観察していたというのもありますが…
 ここまで来れたのはあなたの『協力』のおかげです。

 お礼を言わせてください。
 

 ありがとうございます。」
丁寧な態度で、右手を差し出すハニュー。

「どういたしまして…」
ハニューの手を取る紫。
しかし、その表情はZU-Nと暗くなっていた。

しかも…
「幻想郷のために、霊夢達までも巻き込んで、大騒ぎして…

 その結果がこんな有様だなんて…私は酷い女よ…」
まるで、今にも泣きだしそうな感じの紫。

お礼を言ったら、もの凄く暗くなってしまった…どうすればいいんだこれ。
紫の様子に慌てるハニュー。

男性(心は)であるハニューは、女性、しかも美人が落ち込む様子を見て、どうすればいいのか分からなくなってしまった。
だからハニューは、過去の似たような状況から答えを探すことにした。

ええーと…
あ、そういえば、こういうことって昔に何度かあったな。




よしよし。
いーこいーこ。
「別にあなたは酷い女性じゃないですよ、そんなに自分を卑下しないでください。」
紫に近付き、頭を撫でながら、紫を慰めるハニュー。


頭を撫で始めてから、そういえば橙ちゃん相手ならとにかく、大人にこんなことするなんて怒られるんじゃないか!?
っと気がつきビクビクしたハニューだったが、不思議なことに紫はされるがままだった。















「聞いていいかしら。」
頭を撫で始めて数分後、紫がハニューに突然話しかけてきた。


どうぞ?

「あなたが幻想郷でやろうとしていること。
 それは幻想郷の住人にとって望ましいことなの??
 そしてあなたは、幻想卿を救えるの?」

!!
ストーカーさんは、俺がやろうとしていることを、何か知っているのか!?
そうか…博麗の巫女とよく一緒にいるからな…俺の行動が怪しいと考えていてもおかしくないか。

「詳細は言えない。
 だけど、その通りです。誓ってもいい。」

「それが聞ければ十分だわ。
 私じゃ貴方を止められない、それを嫌という程、見せ付けられたんだもの。」

????
えーと…話が見えないのだが…そんなこと無いと思うぞ。
ストーカーさんが俺の邪魔をしに来たら、絶対に困ると思うけど。

「そんなこと無いですよ、あなたに邪魔されたらきっと困ります。
 だから、邪魔しないでくださいね?」

「こんな状態でお世辞を言われても、嬉しくもなんとも無いわ。」


再び沈黙が辺りを支配する。


うー気まずい。
こんな状態じゃ、同人誌のことを聞き出すなんて、とてもじゃないけどできないぞ。
おまけに、さっきから全然間が持たない。

「そろそろ、ここから出ませんか?」

「…止めを刺さないの?」

え…どうしてストーカーさんはそんなことを言うの!?
………そうだった、ストーカーさんは、ストーカーだから偶に思考パターンが常人の斜め上に行く可能性があるのを忘れていた。

「刺しませんよ。」

…………あれ?
ストーカーさんがこちらを睨んでいる!?

「あなたにとって、私は何なの!!」
ええと…ストーカーさんは…
ある意味友だが…まだ、正式に友になっているわけではない。
じゃあ、ストーキングをしている変態かと言うと、そんなこと言える訳がない。
理由がさっぱり分からないが、何だか怒っているみたいだし、変なことは言えないよな。

「美人で素敵な女性です。」
ということで、当たり障りの無い答えを言ってみた。

「敵ともライバルとも言わずに、素敵な女性!?何よそれは、いきなりナンパ???」
怒った表情で捲くし立てる紫。

た、確かになんだこりゃ??
これじゃあ、ただのナンパじゃないか…
俺ってどれだけチャライの!?

あー恥ずかしくなって来た!!
顔を赤くするハニュー。

「え、え、え…??何その反応!?」
ハニューの反応を見て動揺する紫。


異常な沈黙が空間を包み込んだ。


「とりあえず帰りましょう。
 皆心配していると思いますし。」

「え、ええ。そうね…」

まるで人形のようにギクシャクしながら動く二人は、そう話し合うと、幻想郷に戻っていった。


----------

「そ、それじゃあ、私は行くわ。」
余所余所しい態度で、そそくさと逃げ出そうとする紫…
しかし、それをハニューが呼び止める。

「待ってください!」

「な、何!?」

や、やばい。
このまま変な勘違いされたまま、帰られちゃ困る。
誤解を解かないと。

「さっきのは、本当に、本当に、ほんとーーーーーに、ナンパじゃないんです、わかりましたね!!」
顔を真っ赤にして言うハニュー。

それを見た紫は、あっけに取られた顔をするが、その後にハッとした顔をすると…
直ぐにいつもの胡散臭い笑顔に変わった。
「そうね、そうね。
 あれはナンパじゃなくて、愛の告白だもんねーーーーww」

「ち、違います!!そうじゃなくて、本当に誤解なんです!!!」
ちょ、ちょっと何てこと言いだすんだ、このストーカーは!!
さてはアレだな、ストーカーだから、思い込みが激しいんだな!
そうだな!!!

紫に対して、必死に言い訳をするハニュー。
すると、紫は更に胡散臭い笑顔に変わって行き…

「へーえ?それなら、どうして私を殺さないの??
 誤解だったら、私を殺したほうがいいでしょ??

 ほらほら?殺しなさいよ!!」
ハニューの前で、更に挑発を繰り返したのだった。

動揺しつつも、必死で言い訳を言っていたハニューだったが。
流石に、殺せという挑発は、冗談と言えでも聞き逃せなかった。
「な、なに馬鹿なこと言っているんですか!!!
 俺が貴方を殺せるわけ無いでしょ!!!」
真剣な顔で、紫に言うハニュー。
すると、紫は少し動揺し…
「わかった、わかったわー。今度デートしましょうねーww
 バイバイーマイダーリーン(はぁと」
といい残し、スキマへと入っていった。
 







…やべえ。



……とにかく、ルーミア達と合流するか。


《ガクン!!》

え、あれ…??
何だこれ、急に力が入らなくなったぞ…??
まるで、ユニコーンガンダムのNT-Dが切れた時みたい!?

ハニューの体全体に広がっていた光のスジが消え。
ガンダムのように頭から生えていた光りの角が、ユニコーン状を経て消えていった。
そして、全ての光りが消えると同時にハニューの意識もまた、途切れてしまった。



side 八雲 紫
異変二日目2時40分
~遠い異世界に作られた場~

………危なかったわ。
ハニューの攻撃で受けた傷が予想以上に深い。
私が無防備になっていた『跳んでいる』時に、ハニューが追撃してきていたら、殺されていたかもしれない…
でも、私を殺せるチャンスなのにどうして殺さなかったの…
…………私なんて何時でも殺せる思っているのね、こいつは。

だけど、その油断が命取りになったわね。

ここは、私達の世界とは切り離された所。
もうあなたは、まともに戦うことができないはず。

勝利を確信してハニューの方を見る紫。
ところが、そこにはピンピンしているハニューの姿があった。

ど、どういうことなのこれ…
力も全然落ちていないじゃない。

「あなた…どうしてなんとも無いの!?」

「どうしてって言われてもな??」

小首を傾げるハニュー。
紫には、その行為が自分をあざ笑っているようにしか見えなかった。

何か…何か原因が…
必死にハニューの力を調べる紫。
すると、ハニューの体の中から力が生成されていることに気がついた。

もの凄い量の力を自分で作り出している…!?
しかもこれは…魔力炉のようなものが体に出来ている!!
これじゃ、まるで妖怪じゃない!!
こんなもの、つい数日前まで存在していなかったはず。
いったい何時の間に…

そうか、あの時…
ハニューが体が今の姿に変化した時、微妙に力の雰囲気が変化したわね。
あれは、力場の影響ではなく、魔力炉の影響だったのね。

まさか『スキマを使う相手と戦う』という状況に合わせて、
妖精というカテゴリーから外れるほど体を変化させることができるなんて。









こんなの…か、勝てるわけが…

ハニューの状況を見て、紫は直接的な戦闘の敗北を悟った。
ハニューは力で現在の紫を上回っており、奇策を使おうにもその圧倒的な適応能力で対処されてしまうからだ。

「すみません、怖がらせてしまいましたね。」

「どうして殺さなかったの!!」

まるで、敗北を悟り感情的に叫んだように、叫ぶ紫。
だが、紫は直接的な戦闘の敗北は悟ったが、まだ希望は捨ててはいなかった。
ハニューから情報を引き出し、そこから事態の打開策を見出そうとしていたのだ。

「律儀な女だよ、君は。だからこそ私も信用が置けるというものだ。

 だが…」

「え?」

「よく覚えておきたまえ。礼節を忘れた戦争は殺戮しか産まないのだ。」

感情に任せたような声を上げた紫に対して、ハニューはだからこそ信頼が置けるといい。
一方で、殺せという紫の行為を、礼節を忘れた愚かな行為だと非難した。

後半は戦争をしている当事者として、私の行為を非難した言葉として納得行くけど。
前半の意味が分からない??
何が言いたいの?

ハニューの言葉に混乱する紫。

しかし、その疑問にハニューは答えず更に紫を混乱させる。
「さあ、始めようか。」

「始めるって何を??」
戦いを再開する気??
でも、それなら戦いを止めた理由が??
「貴方が演技をしていることぐらい、俺は分かっていますよ。
 だから、始めるのです。」
!!!
私が計画のために行っていた演技が見抜かれていた!?
「!!!全てお見通しだったのね…」
いや、でもそれはハニューなら十分にありえる。
問題はどこまで見破られているか…
「ええ、直ぐに分かりましたよ。」
直ぐに分かった!?
となると、霊夢達の行動を促すため、大々的に行い始めた数ヶ月前からかしら。

紫は、ハニューとの会話で、徐々に情報が集まっていくことに満足を覚えた。
情報が集まれば、紫お得意の搦め手によって、ハニューを自分の計画に沿うように少しでも動かすことができるからだ。

「私の行動はやっぱり異常に見えたかしら?」

「それは勿論、これは異常な行動だし、不味いと思いましたね。」

…幻想郷の管理人であり、庇護者である私が、まるでその職務を無視したような行動を取り…
ハニューという存在が現れたのにも関わらず、それを排除しようとしなかった。

「はあ…庇護者が狂うということの意味を理解し、行動を起こす者がいたのは喜ばしいことだったけど。
 それが劇薬として残したあなただけだったとは…
 いえ、流石というべきかしら。私の真意に気がつくなんて。」

紫は、それがおかしい事と気がつき、行動する者達が現れることを期待していた。
紫は霊夢やレミリア達…普通の住人達が中心となって行動を起こすことを望んでいた。
だが、紫の変化に最も反応したのは、住人達を奮い立たせるという役目と…
『いざという時』のための保険として用意したハニューだった。
もちろん、紫はハニュー自身にも期待していた。
ハニューは今の幻想郷を否定し、紫の持つ『危機感』を唯一共有している相手だと考えていたからだ。
そのため、紫はハニューの行動に対して、敵として外から影響を与え、それが望ましい形へ進むよう陰謀を張り巡らせていた。



ところが…
ハニューの行動は想像を絶する速さ…そして紫の予想を超える方向へ動き続けた。
そのため、異変を利用し、計画の修正とハニューの行動へのより直接的な対応へ動き出したのだった。

「ええ、ですので利用させてもらいました。」



「私の真意を知った上で、私を利用したというの?あなたの目的のために?」

私の真意を知って私を利用した!?
私が貴方にも期待しているということを知った上で、私を利用したというの…

半ば予想していたことだったが、紫にとっては少しショックな言葉だった。

「その通りです。」
ほんの少し怒りを籠めた紫の発言に、あっさりと応えるハニュー。

「それで、いつから私を利用していたの?」
それでも紫は、活路を見出すために、ハニューが自分を利用し始めた時期を聞き出そうとする。

「最初から。

 俺のためによく動いてくれたので、大助かりでしたよ。」

「さ、最初から??私の計画が最初からハニューの掌の上だった????」

さ、最初からですって!?
最初…つまり私がこの計画を発動した、ハニューと出会った直後から…
ハニューは私の行動を利用していた!?
そんな馬鹿な………


…っ!!
私の計画は私の計画の促進ではなく、ハニューの勢力の強化ばかりに…
まさか、ハニューは私の掌の上にいたのではなく、私がハニューの掌の上にいた。

なんてこと…

直接的な戦いに負けたと言うわけではなく、最後の拠り所である、お得意の搦め手までハニューに負けていた。
更には、ここ一年の努力が全て無駄だったという事実まで重なり、ショックを受ける紫。
紫の顔は真っ青となり、崩れ落ちるが如く、へたり込んでしまった。


「掌とは大げさな…
 だけど、俺が最善と思う行動を取るために、
 結果として大ちゃんやルーミアも含めて全員を『騙して悪いが』という感じにしてしまったので、そういう言い方もあるかな??」
クスリと笑うハニュー。

大ちゃんやルーミア??
ハニューが一番執心している者達ですら、自分の目的なら騙せるというのね。
そういう奴だというのは分かっていたけど…。

自分が土壇場で藍を切り捨てられなかったことを思い出し、改めてハニューの冷酷さがどれだけ異常か再認識する紫。

「それは兎に角、俺があなたのことをよく観察していたのもありますが…
 ここまで来れたのはあなたの『協力』のおかげです。

 お礼を言わせてください。
 

 ありがとうございます。」
右手を差し出すハニュー。

紫が自らの陰謀として働いていたことが、全てハニューを利することになっていた。
そう、ジオンがここまで強大になれたのは、全て紫の協力のおかげ。
そう皮肉るハニューに対して、『完敗』を悟った紫は反論する気力を失ってしまっていた。

「どういたしまして…」
ハニューの手を取る紫。
紫の表情はZU-Nと暗くなっていた。

「幻想郷のために、霊夢達までも巻き込んで大騒ぎして…

 その結果がこんな有様だなんて…私は酷い女よ…」
自分の計画に巻き込んだ霊夢や幽々子、そしてそんな自分のために働いてくれた藍や橙の姿が、紫の脳裏に次々と現れては消える。
その度に、自分の不甲斐なさに紫の気持ちは更に落ち込んでいった。

すると、紫は突然ハニューに抱き寄せられ、頭を撫でられ始めた。
「別にあなたは酷い女性じゃないですよ、そんなに自分を卑下しないでください。」

な!誰のせいでこうなったと思っているのよ!!

あまりの事に、暗くなった気持ちが怒りに変わり、大声を上げそうになる紫。
ところが。
ハニューの手があまりに心地よく、紫は反論する気力を失ってしまう。

なんなのこれ…
不思議…まるで、存在するはずも無い『親』に慰められているみたいだわ…











頭を撫でられ始めて数分後。
気がついたら、紫は心の整理ができていた。

私は負けたわ…
だけど、幻想郷の親として、どうしてもこれだけは聞いておきたい。

「聞いていいかしら。」

コクリと頷くハニュー。

「あなたが幻想郷でやろうとしていること。
 それは幻想郷の住人にとって望ましいことなの??
 そしてあなたは、幻想卿を救えるの?」

「詳細は言えない。
 だけど、その通りです。誓ってもいい。」
真摯な顔で応えるハニュー。

「それが聞ければ十分だわ。
 私じゃ貴方を止められない、それを嫌という程、見せ付けられたんだもの。」

何の保証もない約束。
だが、もうハニューを止める事ができない紫にとっては、そんな言葉に縋るしかなかった。

「そんなこと無いですよ、あなたに邪魔されたらきっと困ります。
 だから、邪魔しないでくださいね?」

「こんな状態でお世辞を言われても、嬉しくもなんとも無いわ。」

…急に頭を撫でたり、お世辞を言ったり…変なところで優しい奴ね…調子が狂うわ。

ハニューの見せる厳しさと優しさ、そのチグハグさに紫はどう話をすればいいか分からなくなってしまった。


再び沈黙が辺りを支配する。
その沈黙を破ったのはハニューだった。

「そろそろ、ここから出ませんか?」

「…止めを刺さないの?」
ハニューの言葉は紫にとって意外だった。
ハニューにとって邪魔な自分を殺す絶好のチャンスだからだ。

「刺しませんよ。」
立ち上がり、紫を見下ろしながら言うハニュー。

さっきと同じ。
私を倒さないですって??
私なんて何時でも倒せるから、倒さないと言うの!?
私はあなたにとってその程度の敵なの!?
ライバルじゃ無かったの!?

既に覚悟を決めていた紫にとって、止めを刺さないというハニューの言葉は、安堵ではなく自分への侮辱に聞こえた。

「あなたにとって、私は何なの!!」

「美人で素敵な女性です。」
何故かハニューは紫に背中を向けて言う。

な!?
私は敵ですらもなかったってこと!?

「敵ともライバルとも言わずに、素敵な女性!?何よそれは、いきなりナンパ???」

ライバルと思っていた相手に敵ですらないと言われた紫は怒り、怒りに任せるまま喚き散らす。

ところが…


紫に反撃されたハニューは、『ボッ』と音が聞こえそうなほど真っ赤になり、モジモジし始めた。

「え、え、え…??何その反応!?」

え、あらららら!?
これって、どういうことなの。
これじゃまるで、ハニューが私の事…






好きみたいじゃない…!?!?!?
ゆ、ゆかりんどうしよう!?


あまりにも、何の脈絡も無いハニューの反応を見て動揺する紫。
異常な空気が辺りを包み込む。


「とりあえず帰りましょう。
 皆心配していると思いますし。」

「え、ええ。そうね…」

まるで人形のようにギクシャクしながら動く二人。
そして二人は、幻想郷に戻った。

----------

「そ、それじゃあ、私は行くわ。」

だ、駄目だわ。
ハニュー変なことを言うから、どう対応すればいいか分からなくなったじゃない。
こう言うときは、一度帰って体制を立て直すべきだわ。
それに、ナンパなんてされたの初めてだから、どういう顔をしてハニューを見ればいいか分からないわ…

そそくさと逃げ出そうとする紫…
しかし、それをハニューが呼び止める。

「待ってください!」
!!!!!!!!!!!!!!!

「な、何!?」


「さっきのは、本当に、本当に、ほんとーーーーーに、ナンパじゃないんです、わかりましたね!!」
顔を真っ赤にして言うハニュー。

…こ、これってどう見ても、さっきのはナンパだって言っているようにしかみえないわよ!?
これじゃあ、テレビとかでよく見る、敵同士の恋って奴みたいじゃない!?
私には霊夢がいるのよ!?

!!
って、驚いている場合じゃないわ。
こんなチャンス滅多にないんだからね!

さっきからの様子を見る限り、演技の可能性もあるけど、ハニューの奴が本当に私を好きな可能性も十分にある。
しかも、相当好きだという可能性が…
それは、目的のためなら他を犠牲にすることを当たり前とするハニューが、私を殺せなかったから。


もう駄目かと思っていたけど。
もしかしたら、首の皮一枚で繋がったかもしれないわ。

「そうね、そうね。
 あれはナンパじゃなくて、愛の告白だもんねーーーーww」

「ち、違います!!そうじゃなくて、本当に誤解なんです!!!」

信じられないぐらい動揺するハニュー。

これは…見た所、完全に脈アリに見えるわ。
それじゃあ、これならどう?

「へーえ?それなら、どうして私を殺さないの??
 誤解だったら、私を殺したほうがいいでしょ??

 ほらほら?殺しなさいよ!!」
ハニューの前で挑発を繰り返す紫。

「な、なに馬鹿なこと言っているんですか!!!
 俺が貴方を殺せるわけ無いでしょ!!!」

紫を捕まえ、真剣な顔で紫を殺せないと言うハニュー。
紫とハニューの顔の距離は、10センチ程しかなかった。
ハニューの真剣な顔に、一瞬顔が熱くなる紫。

「わかった、わかったわー。今度デートしましょうねーww
 バイバイーマイダーリーン(はぁと」

まるで、真剣に愛していると言われたようで、紫は一瞬固まってしまう。
しかし、直ぐにいつもの調子を取り戻し、その場を離れていった。







私の美貌でハニューを支配下に!
まさかまさかの。
ゆかりん 大 逆 転 !!!!!!!!!!!!!
やったわーーーーーーーーーーーーこれでかつる!!!!!!!!!!!!!!

って展開になれば最高だけど…
やっぱり、罠の可能性もあるわ。
だけどこの状況、無視するわけにはいかないわ。

side 八意 永琳
異変二日目3時12分
~永遠亭周辺~


私は誰よりも長寿を誇る。
だが、私が生まれる前から世界は存在した。
私がそんな世界に興味を持ったのは、随分と昔の事だった。

私は世界の仕組みを調べた。
世界の仕組みは、隠された階層がいくつも存在するビルのようなものだった。
「完結した世界」を見つけたと思っても、更に調べるとその上に新たな「完結した世界」が見えてくる。
ちょうど外の世界の人類の世界観と我々の世界観の関係がそれだ。
外の世界の人類は、自らの科学技術により立った世界観で、世界を見ている。
彼らは世界はそれで完結していると考えているが、その上には魔力や霊力という概念を追加した、彼等には知覚できない世界がある。
外の世界の人類が見ている世界を仮に『一階の世界』とした場合、幻想郷の住人の見ている世界はその一つ上『二階の世界』に当たると言えるだろう。

そして、世界にはこの更に上『三階の世界』が存在する。
それを教えてくれたのが妖精達。

「お師匠様!間違いありません!ハニューです!!」

竹林の中へ急降下する永琳と鈴仙。
急降下した先には、生命反応が最低レベルまで落ちたハニューの姿があった。

「永遠亭に運ぶわ。」

「あなたは、ハニューを永遠亭で保護したことを伝えて。」

「はい!!」

妖精達の存在から、私は『三階の世界』があることを確信した。
そして私は研究を重ね、ついに『三階の世界』に足をかけることができた。

ハニューをお姫様抱っこしながら、顔を覗き込む永琳。

でもまだこれじゃ足りない。
まだまだ『三階の世界』には分からないことが多すぎる。
こんな形で私の実験結果が手に入るなんてね。
これで私は『三階の世界』に上ることができるかもしれない。

「フフフ…数百年分のデータが取れるかもしれないわね。」


side ?????

何も無い真っ白な空間。
そこに、ハニューと、ハニューの胸に手を付き、ジッと目を瞑るハニューそっくりの少女がいた。

妄想力で力に方向性を与え、コントロールする。
考え方としては間違っていないけど、やはり心にムラがある分、力が暴走し、体を蝕んでいる。
やはり、世界の力をあそこまで引き出すなんて、無理があったみたいね。
自律停止が行われるような力にしてくれたのは、僥倖だったわ。

それに、これほど深い介入をこんなに短時間に繰り返すのは、もう限界だわ。
いくら気がつくことを防ぐためとはいえ、これ以上介入を繰り返せば、精神を破壊してしまう。



非常制動……成功。


接続点再封印……………成功。


肉体の再構成…………………成功。


今回はこれまでに無い程の無茶をしたわ…
恐らく、目覚めたときに「何かがおかしい」ということに気がついてしまうはず。
でも、きっと坊やなら、自分で魔法が解けるのを防いでくれると信じているわよ。

まだまだ戦いは続くけど、頑張って。


ハニューそっくりの少女の目の前に、紫や今の幻想郷では見覚えの無い者達の姿が陽炎のように浮かび上がる。
彼女は、厳しい目つきでそれらをじっと見つめていた。

side 八雲 藍
異変二日目3時13分
~八雲家~

「お客様!ようこそいらっしゃいました!紫様!藍様!お帰りなさいませ!!」
エプロン姿の橙が、紫、藍、幽々子、妖夢を出迎える。

「橙、お客様の準備は大丈夫かい?」

「大丈夫です!紫様から連絡を受けていました!
 今日はお魚祭りですよ!」
橙が襖を開けると、そこには既に料理が並び始めていた。

うん、流石橙だ。
だけど、この程度の量では…満足するお客様ではないな。
「橙、料理はまだ途中なんだろう?私も手伝おう。」

橙の料理を手伝おうとする藍。
ところが、それを幽々子が止める。

「お構いなく~。
 それに、あなたも同席した方がいいと思うわ。」

!?
驚く藍を尻目に、紫の方を向き、話を続ける幽々子。

「で、紫?ハニューにはどうやって勝ったというの?
 とてもじゃないけど、勝てる相手に見えなかったわよ???」

幽々子の質問を受けた紫は、全員を見渡せる位置に移動して、座りこむ。
「そうね、家に着いたからそろそろ話してもいいわね。
 でも、その前に座って、さあ食べて食べて。」
そして全員が座り、食事に手をつけた時点で胡散臭い笑顔を浮かべて話し始めた。

「フフフ…私がハニューに勝った理由…
 それは何を隠そう…



 私の美しさによってよ!!!!!!!!!!!!!」



「紫様凄いです!」パチパチパチパチ
「あらあら、それは良かったわね~」
「幽々子様 モグモグ とりあえず斬ってみましょうか? モグモグ」

紫様の美しさ????
紫様が美しさで定評があるといえば…


土下座の美しさ!!

そうですか…紫様はハニューに土下座して勝ちを譲ってもらったのですね。

少し可哀想な子を見る目で紫を見ながらウンウンと頷く藍。

「ちょっと!失礼なことを考えているでしょ!!!

 ハニューが私を好きだと言ったのよ!!!本当よ!!!」

∧ ∧            ∧ ∧
( ゚ω゚)・∵ブー( ゚ω゚)・∵ブー(゚Д゚)ハァ?( ゚ω゚)・∵ブー



[6470] 第二十八話 色々考察してるけど、ことごとく間違っています。(誤字の指摘を受け修正11/7)
Name: pzg◆1036bac0 ID:ecd9cefe
Date: 2011/11/07 23:02
第二十八話
色々考察してるけど、ことごとく間違っています。


side ハニュー


「これはすばらしい!!ジオンの精神が形となったようだ!!!」
巨大な地下ハンガーに、少女の興奮した声が木霊する。

皆さんこんにちは。
にとりさんとアリスさんに連れられ、妖怪の山の麓にある洞窟に入っていたら…
とんでもないものが出てきました。

そこにあったものは…
ドーム球場のような巨大な空間。
数百人の技術者や研究者っぽい人々。

そして…

モノアイと緑色に塗装されたスマートなボディ…
ガンダムのモビルスーツとマブラヴの戦術機に似た雰囲気を持った巨人がいました!!
【pixivの フードプロセッサ夢美 様の方で絵が公開されています】

「凄いでしょ。
 これが、開発番号YMS-01A…モビルスーツザクの計画実証機よ。
 私達の間では、ザクという愛称で呼ばれているわ。」
誇らしげな表情でハニューに説明するアリス。

ほ、ほほう…これはモビルスーツザクと言うのか。
ん?モビルスーツのザクじゃなくて?
あ、そうかこれって版権対策だな、デザインもザクとはかなり違うし、名前も違うから、版権には引っかかりません!
って主張することができるからな。

それはとにかく、これは凄いな。

「うむ、なかなか良くできているな。まるで本物みたいだ。」
機体の回りをぐるりと飛び、アリスの場所に戻ってきたハニューが、アリスに向かって褒める。

「これから中身について説明しようと思っていたのに…
 一回りしただけでそこまで見抜くとは…流石ね。」
しかし、ハニューに言葉をかけられたアリスは少し驚いた顔をした後、渋い顔になった。
ハニューがあたりを見回すと、周りの技術者・研究者風の人々も同じような顔をしている。

あれ?
褒めたのに、どうしてそんな顔をするんだ?
表情を変えないのは、にとりさんぐらいか。

突然の変化に何が起こったか分からないハニュー。
そんなハニューを無視してアリスが話し始める。

「計画実証機は、ハニューが求めているものと比べたら、外見だけ似せた贋物というべき程度のものであることは事実だわ。
 残念ながら、この機体によって実証される部分はごく僅かしかないの…
 量産機への道はまだまだ遠いわ……


 でもね、私達は絶対に量産までたどり着いて見せる!!」

「その意気です。
 ハニュー総帥、必ずやあなたが『玩具』だと言えなくなるぐらい凄い機体を作って見せます!」
ハニューに量産機の完成を約束するアリスとにとり。

なるほど。
アリスさんは、これはまだまだ未完成品だけど、絶対に量産化までたどり着きたいと思っている。
そして、にとりさんは俺が玩具だといえないぐらいに凄い機体を作ると決意表明をしたと。

そうなのかー…


って、これって『俺が求めた』って言ったよね!?
ということは、これは俺が作れと言ったのか…

…記憶に無いぞ。


まずい、結局これが何で、何の目的で俺が作れといったのか、まったく意味が分からない…
こんな状況で、アリスさんとにとりさんの言葉にどう答えろって言うんだよ。


まったく身に覚えの無い状況に直面し混乱し、何も喋れないハニュー。
その結果、あたりを奇妙な沈黙が支配する。


まずい、まずいぞおおお。
どうすればいいんだ!?

あまりにも気まずい沈黙に、完全にパニックになったハニューは「二人の言いたいことは分かった。だが、これだけの情報じゃ、俺は判断することができない。」と思わず本音を喋ってしまう。
ハニューの言葉に困惑が広がる。
その様子を見たハニューは、まともにアリス達を見ることもできなくなり、アリス達に背を向けてしまう。

あうあうあう…
なんで本音を漏らしているんだ俺は…
どうしよう、本当にどうしよう。

自分の失態に『はぁ…っ』とため息を出して落ち込むハニュー。
ハニューは、もはやこれまでだと思った。



しかし…
「申し訳ありません、詳細を別室にて説明させていただきます!
 タイムスケジュールや、技術的課題等はそこで…
 
 君!
 すぐにプレゼンの準備を!!」
「はいっ」
「急いで急いで!ここがプロジェクトの正念場よ!!」
「これは急に騒がしくなりましたな。」
「意気込みだけではなく、しっかりとしたデータを示して説明しろとは…ハニュー総帥も酷な事を言われる。」
「大事なことですよ。『頑張る』『できる』なんて言葉に出すのは、誰にでも出来ますからな。
 言葉だけを信じて進めていいようなプロジェクトじゃないでしょ…これは。」
「確かに。」
「そこのお二方!!無駄話をする暇があったら、手伝ってください!」
「これはこれは、申し訳ないにとり様。死んでからというもの、どうものんびりとした性格になってしまいまして…」

「ハニューごめんね。
 私もまだまだ駄目ね。
 じゃあ、あちらの会議室で説明するから着いて来て。」
アリスに頭を下げられ、別室に連れて行かれるハニュー。
先ほどまでの困惑した空気はなくなり、あたりは騒然とした空気に包まれている。
意味が分からないと思ったハニューは、隣に立っているルーミアにアイコンタクトで何が起こっているのかと問う。

「仕事については、ハニューは本当に厳しいのだー」
だが、ルーミアは意味の分からない言葉を発するだけだった。

----------

なるほど、プレゼンによるとモビルスーツザクは…

曰く、俺が発案し、アリスさんとにとりさんに開発を指示した。
曰く、開発目的は月の宇宙人との戦争及び、外の世界の国家との戦争に勝つための兵器。
曰く、しかし現状の性能では月の宇宙人に勝てないため、計画実証機をベースに更なる開発を進めている。
曰く、来年中により性能をより強化した次期計画実証機が完成する予定。
曰く、現状の計画実証機でも戦闘は可能。
曰く、月侵攻作戦の立案は計画実証機による実証実験を経て行われる予定。

なるほどなるほど、ハニューよく分かったよ!





って分かるか!!!

確かに、俺は月の宇宙人と戦えるぐらいの兵器を作ってくれとお願いした。
だけど、こっちから攻めることを前提とした月侵攻作戦とか、そのために人型兵器を作れとか言ってないぞ!?
それに、そもそも兵器開発は、こっそりお願いしたつもりだったんだが…
なのに、どうしてこんなに巨大な研究所と数百人(実は数千人らしい)の人達が集まって開発してるの!?


これも『アレ』のせいだな\(^o^)/
うう、パニックになりそうだ。



というように、異常な状態に巻き込まれたハニューです。
では何故異常な事態に陥ったかというと、それを説明するためには、俺が知らない天井の下で目を覚ましたあの日に遡る必要があります。


~数週間前~

「俺のお宝同人誌が、全世界に大公開だと?ありえん……」
と永遠亭の病室で目を覚ましました。
ええそうなのです。
今の現状に、違和感ありまくりです。

俺の記憶の中では、同人誌が全世界に大公開され、それをどうにかするために戦いました。
そして、うまくストーカーさんと歩調を合わせたのですが…気がついたら知らない天井を見ていました。


うん、この展開って、完全におかしいよね!!
俺の同人誌が全世界に大公開!?
それって、いつ、どこで!?
というか、そもそもその情報を俺はどこで知った!?

いろいろと変すぎるのだが…
夢のことのように、はっきりと思い出せない…
ということで、考察してみました。

その結果、全て事実なら色々とおかしすぎる。
だから、そもそもストーカーさんと戦ったことも全て、夢なんだ!!

という結論を一度は出したのですが、それは違うと否定された。
誰に否定されたかというと…

「人の話を聞いているのかー?」

《グギギギギギ》

す、すみませんルーミアさん、聞いていませんでした!
謝りますから!だから、関節技は止めて下さい!!


俺は今、ルーミアに今回発生した戦闘について説明を受けています。
しかも、色んな写真つきで。
写真にはストーカーさんと漫画やアニメのような感じで戦っている俺の姿や、兎達と戦う皆の姿が映し出されています。
何なのでしょうかこの写真は。
最初、手の込んだ合成かと思いましたが、見れば見るほどそうには見えないな。

「冗談はここまでにしてー。
 さあ、次はこの写真を見るのだー。ここからが本番なのだー。」
次は何が出てくるんだ??


ベッドの上に正座して、 (`・ω・´)シャキーンとした顔で『本番』の話を待つハニュー。
そんなハニューの目の前で、ルーミアはポケットの中から、新たに一枚の写真を取り出した。
写真の裏面には射命丸文とサインが入れてあり、表面には…


これは、野戦病院か?
野戦病院のような所に、ジオン部の妖精メイドがいっぱいいて、怪我の治療を受けているぞ!?

「これはさっき無断撮影していた文を締め上げて手に入れた写真なのだー。
 現時点での集計で、ジオン側の重軽傷者108人、永遠亭側は数千人に上っているのだー。」

え…

「彼女達の怪我はハニューに原因があるのだー。」

な、なにそれ…
訳が分からないよ!?

ルーミアの言葉の意味が分からないハニュー。
もちろん、ハニューも馬鹿ではないので、ルーミアの言う重軽傷者が今回の戦闘で発生した数だということは分かった。
だが、何故その原因が自分にあるのか、ハニューには分からなかった。

「ハニューを救いたい、ハニューを助けたいと行動した結果がこうなのだー。
 ハニューはどうして、一人で永遠亭に向かったのだー?
 ルーミア達を頼ろうとは思わなかったのかー?」

いや、だってそれは…
「そんな、俺がやろうとしていることに、巻き込むわけにはいかないし…」
ハニューは、月の宇宙人の脅威から友人である大ちゃん達や慕ってくれるジオン部員を救うためにここ数ヶ月間行動してきた。
その一環として永遠亭に乗り込んできたため、守るべき対象であるジオン部員達に伝えずに行動したことは、ハニューにとっては当たり前の行為だった。
しかし、その行為が逆に大ちゃん達やジオン部員を巻き込むことになってしまっていた。

「それは、シャアアズナブルが犯した失敗と、本質的に同じじゃないのかー?
 ハニュー自身がにとりに言っていたのだ『シャアアズナブルは組織に一人で対抗しようとして敗れたバカな人』だと後世に酷評されたと。
 そしてたくさんの部下を私情のために犠牲にしたと。
 今のハニューも似たようなものじゃないのかー?
 一人で解決しようとしなかったら、始めからルーミア達に相談してくれれば、もっと被害が少ない状態で解決できたとは思わないのかー?」

ルーミアはそんなハニューの行動を独断専行だと追及する。
ハニューの思いはどうであれ、傍から見ればハニューの行為は独断専行以外の何者でもなかった。
ルーミアの表情はいつものホンワリとしたものではなく、固いものになっていた。



俺がシャアと似たような間違いをしているだって…
確かに、途中の過程やら色んなものが分からないが、俺が勝手な行動をして、それが原因で皆大怪我したということなら…
ファーストで、シャアがザビ家の暗殺のために一人で行動して……自分の復讐以外何も手に入れられなかったこと…
そして、Z時代に活躍したと思ったら、逆シャアで、シャアがアムロと同じ条件で決着をつけたいという私情で技術を渡して…
その結果自分は負けるわ…ネオジオンは負けるわ…
ネオジオンに思いを託した人々の思いや、Z時代にシャアに託された思いまで一緒にぶち壊してしまうわ…
ダカールの思い出の場所はジャンブロに吹き飛ばされるわ…
そんなシャアと同レベルかもしれない。
って最後は違うか。
とにかく、スタンドプレーで周りに迷惑をかけたという意味では、俺はシャアと同じ間違いを犯している。








いや、違う。
同レベル以下だよ。

シャアには少なくとも信念があったはずだ。
視聴者からは色々と言われるが、周りを巻き込んでも実行に移すほどの信念が。

だが、俺はどうだ?
俺は皆を月の脅威から救うために行動している。
そしてその結果、救おうとした人々を傷つけてしまうこともある、ということを知っている。
アニメとか漫画では『たった一人を救えないのに世界を救うだなんて!』『大事の前の少事だと?あいつらの死が!?この外道が!!』なんて台詞がよくあるが…
そんなのはフィクションを盛り上げる演出であって、現実世界では少数が救えなくても、多数を救えたという話がごろごろしているのを知っている。
民主主義制度を始め、社会の大半は少数の犠牲で多数が生かされ、成り立っているのを知っている。
そして、大小の違いはあるが、そういったものを社会の中で誰もが普通に経験してきていることを知っている。
俺は、そういう年齢の人間だ。


なのにさ…



動揺して、挫けそうになっているんだよ。
月との戦いなんて止めて、部屋でベッドに潜り込んでしまいたいぐらいに。

本当になんて情けないんだな、俺は。
月と戦うと決めた以上、少なくともシャアと同レベル…いや、欲を言うならさっき真似をしたトレーズ様と同レベルにならなくてはいけないのに…
「反論の余地も無いよ。
 俺は被害を広げるだけ広げてしまった。
 俺が、トレーズ様のような凄い人間ならこんなことにはならなかったのに…本当に最低だ…」


「ハニュー…」
落ち込むハニューにルーミアがすっと近づいてくる。

ルーミア?
ルーミアが俺の肩を持って、一瞬悲しそうな顔をして、その後きりっとした顔になったぞ?

「戦争に犠牲はつきもので、ハニューが犠牲となった者達の名前を覚えると言ったのは、立派な覚悟だと思うのだー。
 でもそれは、本当にハニューの思いなのかー?
 それは、ハニューが『トレーズ様』の影を追いかけているだけじゃないのかー?」

え?は?

「そんなことないよ!!」
俺を慰めてくれるかと思ったら「トレーズ様の影を追いかける」って、いきなり意味が分からないこと言わないでよ!?
俺ってそんなにトレーズ様ファンじゃないよ!?

「シャアと同じ過ちを繰り替えさないように、より優秀な指導者だった『トレーズ様』のようになろうとした努力は分かるのだー。
 だけど、ハニューが紅魔館に入る前から知っているルーミアから言わせてもらうと、ハニューはそういう戦い方は向いていないのだー。
 ハニューは優しくて、脆い所があるのだー。
 だから『トレーズ様』のように振舞えば、いつか心が壊れてしまうとルーミアは思うのだー。
 ハニューは、もっとルーミア達と一緒になって戦い抜くスタイルが絶対にいいと思うのだー。
 ハニューもきっと無意識下では分かっているのだー、だからこうやってルーミア達を傍に置いているんじゃないのかー?」

何だか凄く良さそうなことをルーミアが言っているのは分かるが…
俺の頭の中に全然入ってきません。
だって、そもそも最初からおかしいし。
俺はトレーズ様のようになろうと努力なんて、してないよ!?

「ちょっとルーミア待て!!俺はトレーズ様のようになろうとはしていない!!」

「それじゃあ、どうして『トレーズ様』と同じようなことを言ったのだー?
 ハニューがトレーズ様と同じようなことを言っていたと、にとりが証言していたのだー…





 それにどうして、トレーズ『様』なのかー?」

『ガノタ(ガンオタ)』なら疑問に思わないところに突っ込んでくるルーミア。

いや、だってそれは…
ネタだったと言うか…なんというか…
それに、トレーズ様はトレーズ様だし。
それより、アレをにとりさんに見られた上に、ルーミア達に話されたのか!?

「ハニューがトレーズ様のモノマネをしていました!」

「ハニューはあたいよりバカだなー!!」
「チンチ●!?これが世に言う厨二病!?」
「うわぁ…」
「ハニューちゃん…私はハニューちゃんが厨二病でも友達だよ……」
「そーwなのwwかーwwww」




………(*ノ∀ノ)イヤン
か、顔が熱い!!

あまりの恥ずかしさに、顔が真っ赤になり、傍目からも動揺した様子になるハニュー。
それを見て、ルーミアが物凄く真面目な顔になる。

「ハニュー…ハニューは『トレーズ様』が好きだったのかー?」
って、そんなに真面目な顔で聞かないでよルーミア!!
何だかどんどん話が脱線してきている気がするが、まずは誤解を一つ一つ解かないと。
「好き…ではあるが…俺にそんなことを言う資格は無い。」
好きと言えば好きだったが、だからと言って、ガンダムキャラで一番と言うわけではないです。
そんな半端な俺が、トレーズ様が好きだと言ったら、ファンの人に失礼です!


という感じで、トレーズ様と距離を置いた大人な態度を取ってみました。
こういった態度を取る事によって、俺は厨二じゃないとアピールです。

「ハニュー…そうなのかー、そうなのかー、そうなのかー。」

恥ずかしさを隠しつつ、計算した言葉を喋ったためか、ハニュー言葉は妙に台詞っぽかった。
それを受けたルーミアは、可哀想な目をして、自分に言い聞かせるように何度も『そうなのかー』とつぶやきながら頷いた。

ルーミアの奴…
うんうんと頷いているが…
うまく意味が伝わったのか!?
なんか、凄く可哀想な人を見る目になっているんですけど!?

「ハニューと愛するトレーズ様の間に何があったかは…いつか教えてほしいのだー。
 でも、これだけは約束して欲しいのだー。
 これからは、絶対にハニュー一人で無茶をせずに、ルーミア達と相談して欲しいのだー。」

いや、トレーズ様との間に何かあったって、何もないですよ!?
というか、アニメのキャラですよ!?
俺の妄想の中では、トレーズ様×俺なBL的な関係とかになってないですよ!?

「ハニュー!!約束するのだー!!」
混乱し沈黙するハニューに態度を保留されたと思ったルーミアが、語気を強めて言う。

ってルーミアさん、何もルーミアさんを無視したわけじゃないですよ!?
「分かった!!分かったよ!!」
だから許してください!!
「良かったのだー。
 それじゃ、ルーミアは用事を済ませてくるから、ハニューはゆっくり休むのだー。」

ゆっくり休めという言葉を残し、ルーミアは部屋を出て行った。
ルーミアの話はいったい何なのか、そもそもどうしてこんな話をされたのか。
ハニューには意味が分からなかった。

何故ルーミアがこのような話をしたのか、それは更に数時間前…
ハニューが目覚める少し前まで遡る必要がある。

side ジオン幹部会議(三人称)

ハニューが目覚める数時間前、永遠亭の近くではルーミア召集によるジオン幹部会議が開催されていた。
会議の議題は永遠亭への対応など多岐にわたったが、会議の本当の目的は一つ。
なぜハニューはジオン幹部に一言もなく行動を起こしたかのかという点だった。

「チンチ●、あなたは本当に何も知らないの?」

「わちきは…わちきは…ごめんなさいいいいい!!」

「「「はあ…」」」

その結果、ジオンの幹部達がその答えを知っていると思われた人物…
ハニューの隠し玉である大妖、小傘なる人物に質問が集中した。
いや、何人もの幹部が取り囲み、執拗に質問する姿は尋問と表現したほうが正しい状況だった。
しかし、ただの弱小妖怪であり、たまたまハニューに拾われただけの小傘がハニューの事情を知っているはずもなく…

オロオロとした後、半泣きになってしまった。

「チン●ン…演技上手ってことはないわよね?」

「どう見ても、あたいより弱そうだよ。」

「チルノがそういうのなら、多分正しいわよ。」
チルノが自分より弱いといった判断を肯定するアリス。
チルノは⑨と言われているが、最近の戦闘能力の高さは目を瞠るものがあり、こと戦闘に関する判断は正しいという認識が広まりつつあるからだった。

「じゃ、じゃあ、あなたはハニュー総帥の何なのですか?ハニュー総帥が育てた工作員なのですか!?」
チルノの判断を受け、それでは戦闘力が弱くても役立つような、何か特殊な能力を持っているのかとリグルが小傘に聞こうとするが…
それが悲劇を呼んだ。

「工作員?わちきはそんなのじゃなくて、ハニューの物だよ。」

「ハニュー総帥のモノ?」

「ハニューはわちきをいっぱい使ってくれたの、それが凄くよかったの!一緒に空を飛んだの!!だからわちきはハニューのものだよ!!」

小傘の発言に、凍りつく面々。
九十九神である小傘にとって、誰かに使われたということは、幸福なことだった。
そのため、彼女の発言は何ら間違っていなかったが…どう考えても誤解を呼ぶ発言だった。

「チンチ●いっぱい使われて?」←ミスティア

「それが凄く良くて?」←アリス

「空を飛んだわけですか」←リグル

「そうなのかー」←ルーミア






「あれ?わちき許されない?」

その後、アイリスが「おおおお、お前の粗末なものでハニュー総帥と●●●●して、それで意識が空に飛ぶほど良かっただと!?」と爆発し、
それをアリスが止め、小傘に色々と厳しい取調べが行われ…
結局、小傘はハニューが今回の異変を解決するに当たって、何らかの能力をかって急遽スカウトした『だけ』の妖怪だということが判明したが…
議論は振り出しに戻ってしまった。


悩む面々。
そんな中、会議が始まって以来沈黙を続けていたにとりが「うまくまとまっていませんが…」と前置きをして話し始める。

「ハニュー総帥は永琳への通信でシャア・アズナブルと名乗りました。
 そして、私はシャア・アズナブルという人物を知っています。」

「どういことですかそれ!?」
リグルが驚いた表情でにとりに問いただす。

「ハニュー総帥によると、シャア・アズナブルという人物は仮面と赤い服がトレードマークの人物で、スペースノイドという虐げられた人々の希望の星だったそうです。
 彼は、環境破壊が進んだ地球とスペースノイドを救うために戦い、戦いに勝利する一歩手前でライバルに破れ行方不明になったそうです。

 そしてここからが問題なのですが…
 彼は、組織に一人で抵抗しようとした馬鹿な人とも言われ、彼がライバルとの戦いに敗れたのは、彼が敵に塩を送ったから…つまり私闘だったからだそうです。」

にとりの発言に沈黙する面々。
彼女達は、にとりが何が言いたいのか、直ぐに理解することができた。

シャアアズナブルの問題、それは組織の長であり、そして多くの者の希望を背負うものとしてはあまりにも軽率な行動。
公私を分けられなかった行動にある。
そして、今回のハニューの行動もそれに通じるところがある。
しかも、ハニュー自身がシャア・アズナブルと名乗っていたのだ。

つまり、今回のハニューの行動は、ハニュー自身の性格に起因する問題だとにとりは言ったのである。
それに対し、アリスがすかさず反論する。
にとりの話には、ある前提条件が必要だったからだ。

「ちょっと待って。そもそもシャア・アズナブルって、にとりがハニューから聞いたモビルスーツザクのコンセプトを説明する物語の登場人物じゃなかったの!?
 ハニューがシャア・アズナブルだなんて、聞いてないわよ!?」

「ですが、これまでの情報、そしてハニュー総帥が自らシャア・アズナブルと呼ばれていたと宣言した事実から、ハニュー総帥の物語は過去の事実だと考えるべきです!」

「あの物語に出てくるような高度文明が存在したというの…そんな記録、魔界には…!?」

「月の民という前例がある以上、記録が無いほど昔に存在していたとしてもおかしくありません。
 だいたい、我々の発祥。
 そして我々を生み出した者達自身がどのように生まれたか、未解明なことなどいくらでも「そろそろストップなのだー」」

言い合いが始まるアリスとにとり、それをルーミアが止める。

「ハニューと、シャア・アズナブルが同一人物かということは、本人が発言した以上、少なくともハニュー自身はそう思っている可能性が高いと思うのだー。
 それよりルーミアは、ハニューの軽率な行動は、ハニューの性格に起因するのではないかという仮説はについて検討したいのだー。
 にとり、一つ質問があるがいいかー?」

ルーミアの質問に頷くにとり。

「ハニューは自分のために犠牲になった者達の名前を覚えていると言っていたのだー。シャア・アズナブルもそうなのかー?」

「いえ…ちがいますね…確かそれをしていたのは別の人物で、トレーズという男性の名前だったはず…」

「トレーズのことをハニューは何か言っていたのかー?」

「トレーズと言う人物は、最後には戦死したそうですが…非常に優秀な人物だったそうです。
 そして、それを語るハニュー総帥は…
 随分と上機嫌でした。

 それ以外には…そうだ!ハニュー総帥はトレーズ『様』と言っていました!!
 原因は分かりませんが、トレーズなる人物を随分と好き、尊敬していたのだと思います。」

「トレーズという男性を好いている!?」
アイリスが驚いたような声をあげる。

「そうなのかー。
 みんなご苦労だったのだー、この後はルーミアに一任してほしいのだー。
 みんなの不安や意見はルーミアが責任を持って伝えておくのだー。
 では、これにて会議を閉会するのだー。」

「「「!?」」」

突然告げられた閉会に、面々は驚くが、何か結論を出したような表情のルーミアに、それ以上追求することはできなかった。
そして、場面はその十数時間後に飛ぶ。

----------

会議から十数時間後、永遠亭周辺に建てられたテント群の一つ。
その中で、大ちゃん、ミスティア、リグル、チルノ、アリス、にとりが肩を寄せ合ってモニターを覗き込んでいた。
そのモニターには、ハニューとルーミアが映し出されていた。
にとりが趣味で作成した隠しカメラを、蓬莱がこっそりハニューの病室に持ち込んだのである。
ハニューとルーミアの対談は、本来は完全非公開で行われる予定だった。
しかし、総帥ではなく友人としてハニューを心配する彼女達は、独断で行動したのだった。

そして映像の中では、ルーミアが野戦病院の写真とシャア・アズナブルの事例を使って、ハニューを追及していた。
明らかにルーミアは、ハニュー=シャアを前提として追及していた。
その様子に「確証も無いのに大丈夫なの?」とアリスは心配する。
しかし、ルーミアの追及を受けどんどん顔色を悪くしていくハニューを見て「これは本当にシャアなのかしら?」という思いも強くなっていった。

そして…
「反論の余地も無いよ。
 俺は被害を広げるだけ広げてしまった。
 俺が、トレーズ様のような凄い人間ならこんなことにはならなかったのに…本当に最低だ…」
という発言に、大ちゃん達に動揺が走る。
通常のジオン隊員だったら、ハニューが今回の作戦の失敗を認めたこと、落ち込んだということに対して動揺する。
だが、彼女達はハニューの弱い姿をこれまで何度か見てきた。
そのため、ハニューに同情する気持ちはあったが、ハニューが落ち込んでいることに対して動揺するということは無かった。
では何に動揺したのか。
それは『トレーズ様というのは本当に何者なのだろうか?』そして『トレーズ様とハニューの関係は?』という点である。

大ちゃん達が動揺している間も、ハニューとルーミアの会話は進んでいく。
ルーミアはトレーズ様はハニューが目標とするに値する指導者かもしれない。
しかし、ハニューは無理にトレーズ様のようになる必要は無い。
ルーミアを始めとしたジオン幹部達を頼った、ハニューらしい指導者のあり方を模索すべきだと説得する。

その説得に対して、大ちゃん達、そして当事者であるハニューやルーミアでさえも予想できなかった展開が発生する。

「ちょっとルーミア待て!!俺はトレーズ様のようになろうとはしていない!!」

「それじゃあ、どうして『トレーズ様』と同じようなことを言ったのだー?
 ハニューがトレーズ様と同じようなことを言っていたとにとりが証言していたのだー…





 それにどうして、トレーズ『様』なのかー?」

なぜか、トレーズ様との関係を必死になって否定するハニュー。
しかも、何故トレーズ『様』と呼んでいるのかとルーミアが問うと…
ハニューは初心な乙女のように顔を真っ赤にし、これまでに無いほどの動揺を示した。

初心なところがある大ちゃんやチルノはハニューの反応の意味が直ぐには分からなかったが、その他の者達、特にミスティアとアリスは直ぐにハニューの反応の意味が分かった。
「ハニュー…ハニューは『トレーズ様』が好きだったのかー?」
ルーミアがミスティア達の疑問を代弁するかの如く、ハニューに質問する。
ハニューはトレーズ様を、男女的な意味で愛していたのかと。

「好き…ではあるが…俺にそんなことを言う資格は無い。」
それに対して硬い表情で、まるで何か決まりきった台詞を…
感情を隠すような台詞で答えるハニュー。

愛しているのに、それを言う資格が自分には無い。
重い言葉だった。
ハニューが愛する人、トレーズ様に顔向けできないような何かをしてしまったことは容易に想像できた。

「ハニュー…そうなのかー、そうなのかー、そうなのかー。」
ルーミアは、その言葉の裏にあるものに思いを巡らせているようだった。
それは、ミスティアやアリスも同じだった。
ミスティアは思った。
昔、自分はハニューに子供を生んでくれと言われた。
何故あのような突飛な行動に出たのか未だに不思議だったが、それは過去の悲劇…そこに原因があるのではないのかと。
もしかして、トレーズ様なる人を未だに忘れられず、お酒の勢いを借りてその思いを断ち切ろうとしたのではないのかと。
そしてその思いを断ち切るためには、ハニューと大妖精をくっつけるしかないと。

アリスは思った。
何万年、何億年前の出来事をハニューは未だに引きずっている。
いつまでも冷めない愛というのは、言葉だけ見ればすばらしい。
だが、それが何万年何億年と続いていたら、それはただの呪いだと。

友達として、ハニューのこの呪いを解いてあげることができないだろうかと。


----------

side ハニュー

ルーミアとの話をまとめると。
俺がルーミア達と相談せずに無茶なことをしたせいで、ジオン部の皆が怪我をした。
だから、そんな軽率な行動を繰り返さないでくれと、何故かシャアの事例を出しながら説得された。
あとトレーズ様の話もされた。

さっきまではルーミアの勢いに負けて、話を信じて一人で凹んだり自己嫌悪したが…
こうやって、ルーミアが出て行った後に、冷静になって考えると、そもそもルーミアの話は色々とおかしい。
俺を助けるために集まってきて、その結果大戦争になるなんて…
普通に考えたらありえない。
ゲンソウキョウの住人が生物兵器である以上、ある程度軍隊っぽい展開になるのは仕方ないが…

俺は、ヘタレで、試作品で、女の子が好きなのに、体が女の子でしかもロリという絶望的な人物。
うん、どう控えめに考えても俺は犠牲を払ってまで助けるに値しない人物だ。
そうだ、落ち着いて考えれば、ルーミアの話はありえない。
簡単に人の話を信じちゃ駄目だ、騙されてダム板の住人になった屈辱を思い出せ!

「アリスさん、俺を助けるために大怪我した人がいっぱい出たって本当?」
だから、看病に来ていたアリスさんに、ルーミアの話は間違いじゃないかと聞いてみた。

「え、ええ。本当よ。」

…いきなり、否定されてしまった。
でも、納得できません。
「そんな…どうして俺なんかのために…
 俺みたいな価値の無い人間のために、皆戦うなんておかしいですよ、アリスさん!」
普段なら信じるアリスさんの言葉でも、今回ばっかりは納得できる説明が欲しいですよ!

「何もおかしくないわ。
 ハニュー総帥。
 あなたは、私達の希望の星なのよ?」

え…アリスさん?
今、俺が希望の星って言った…!?

「ジオンという旗の下に、妖精や人間や妖怪達が平等に暮らせる世界を作ろうとしている、幻想郷の革命家。
 現幻想郷で、ヒエラルキーの底辺にいた者たち、幻想郷という楽園からこぼれた者達の希望の星。
 
 そして、来るべき災い、月人の幻想郷侵攻から、ジオン軍を率いて幻想郷を守る救世主。

 あなたへの認識は?と問えば、一般的には前者、そしてジオン上層部や、魔界では後者まで含めて応えるわよ。」

俺が革命家で救世主…?
それに月人の幻想郷侵攻って、俺が以前立てたゲンソウキョウに関する仮説と同じ状況じゃないか!

「ふふふ…随分と驚くのね。
 私達だって馬鹿じゃないのよ?
 意図的に断片化しているみたいだけど、あなた指示の内容や行動で、何が目的で動いているかぐらい十分に分かっているわ。」

いや、そういう問題じゃなくて、俺は確かにゲンソウキョウを月から救おうと考えたけど…
革命家や救世主が持っているような理念とか無いし、そもそも大々的に行動もしてないし、行動内容も全然しょぼいし…
どう考えても、アリスさんの言っているハニュー総帥って俺とは別人なのですが…

「話がそれたわね。
 私が言いたいのは、これほどのことを成そうとしているのだから、あなた自身を見ず、自らの利害関係だけで寄ってくる者達が凄く多いという悩みは分かるわ。
 誰も信用できなくなって人間関係を持つ気が無くなったり、皆が欲しいのは自分の地位だけで、本当は自分自身には価値なんて無いんだ。
 だからほっといてくれ。
 って、いじける気持ちもよーく分かるわ。

 実はね、私も同じなの。
 魔界神である母が私に随分と入れ込んでいることを知った人達が、何人も寄ってきたときがあってね…同じような気持ちになったことがあるの。
 だけどね、あなた自身を見てくれている人達、あたた自身を大切に思っていてくれる人達も絶対にいるの。
 だから、自分に価値が無いとか絶対に言っちゃ駄目よ。」

アリスさん…
凄くいいこと言ってくれたけど、俺の聞きたいのはそういう話じゃなくて、今何が起きているのか、ということなんです。
俺は希望の星で革命家で救世主らしいけど、そんな覚えが全然無いんです。
しかも、ジオン軍を率いてとか言っているし…
ルーミアが今回の戦闘の説明をしてくれた時から分かっていたが、ジオンが部活じゃなくて軍隊なんだよなあ…
でも、アリスさんの話は本当のような雰囲気が…あって、嘘とは思えません。

いったい、どうなっているんでしょうか。


----------

「それじゃあ、安静にしててね。
 何かあったら、上海に言って頂戴。」

「シャンハーイ」

………
ルーミアとアリスさんの話をまとめると俺は『歴史上の人物とか、アニメか何かの主人公』みたいな存在だ。

ありえん。
そうだ、これは『どっきり』でしたーって展開だ!
いくらなんでも、俺が救世主とか希望の星とか、ジオン軍を率いているとか、ありえないだろ!
俺を騙すために、あんな怪我を治療している映像までつくるなんて、手の込んだことをして!
アハハハハハハ!!!!






なんて言いたいところだが…
ルーミアはボケってしているところがあるし、PTSDの疑いがあるから、間違いでしたーなんて展開も十分にありえるが…
あのアリスさんが俺のことを希望の星や革命家や救世主と言うなんて…
信じたくないし、ありえない話だが…
真実の可能性が極めて高い。


はぁ…














「ねえ上海?アリスさんは革命家とか救世主とか言っていたけど、上海にとっては俺って何なのかな?」



「ペドフィリア!!」

…しまった、上海はロボットだから、会話が出来ないのを忘れてた。
だけど、こうやっていろんな人に聞いて回るしかないな。
「君にって俺って何なのか?」っていう感じで。
そうやれば、今何が起きているのか確認することができるだろう。
多分、アリスさんの言葉を肯定するような内容ばっかり出てくるだろうけど…
でも、やっぱり心が納得できません。
だから、納得するまで聞いて回るしかない。


うん、それしかない。










では…気合を入れて、出発するか!


《ガラ!!》


「総帥!?」「「「!!」」」
あ、襖を空けたら、アイリス達がいた。
最初はアイリス達からか…。

「なあアイリス。アイリスにとって俺って何?」

「えっ!?はいっ!?
 私の大切ないも…

 あ、いえ…

 全妖精の支配者にして全幻想郷の統治者、世界を統べる秩序と法則の保護者、神聖にして不可侵なるジオン総帥です!」

…一瞬、芋とか言ったような…。
でも、問題なのはその後だ、はっきり言おう、アイリスの言っている意味が分からない。
「すまないが、もう一度言ってくれないか?」
ですので、もう一度確認です。

「全妖精の支配者にして全幻想郷の統治者、世界を統べる秩序と法則の保護者、神聖にして不可侵なるジオン総帥です!」
…………やっぱり意味が分からない。

「なるほど。
 因みに、他に何か無いかな?」


「我等が総帥閣下!!」
「ジーク・カイザー・ハニュー!!」
「オール・ハイル・ハニュー!!」
…………アイリス以外が応えてくれたが、同じく全然意味が分からない。

「あの…ハニュー総帥?いきなりどうなされたのですか?」

う…しまった、確かにこういうことを聞かれたら、気になるよな。

えーと…


こういう時は…
「どうして、そんなことを気にするんだい?」
質問を質問で返して、時間稼ぎです。
今の間に何かいい言い訳を…
「も、申し訳ありません!!」
ってそんなことを考えていたら、理由が分からないがアイリスが謝ってきたぞ。
でも、この隙に逃げちゃいましょう。

「気にするな。
 じゃ、俺は行くから。





 って何で付いてくるの!?」

「ハニュー総帥!
 停戦したとはいえここは敵地です!
 親衛隊として、お傍を離れるわけには行きません。」




アイリス達の行動、ルーミアやアリスさんが話したような人物相手なら当たり前だが…
相手は俺なんだが…
というか、この行動から考えるに、アイリス達が言っている親衛隊って、本物の親衛隊なのか!?

それはとにかく、こんなにゾロゾロと大名行列のようについてこられると…やりにくい。
嫌な顔をされるかもしれないが、流石にこのまま連れて行くというわけにはいきません。
「すまないが、せめて数を減らしてくれないか。
 例えば…アイリスだけとか。」

「はっ!」
あ、二つ返事で言うことを聞いてくれたよ。
アイリス以外の子はちょっと不満そうだけど、アイリスは随分と嬉しそうだな??


----------

・チルノ

「あたいにとってハニューは何かって?
 ……そうだなーあたいの目標かな!!
 あたいは、ハニューに勝ってさいきょーの妖精になるんだ!!」

「さいきょーだなんて…俺ってそんなに強くないよ…」

「本気の藍も紫も圧倒したんだろ?
 それでさいきょうーじゃないってどういうことだ?」

本気の藍ってまさか…
橙ちゃんのお母さんと…話の展開からしてストーカーさんを俺が倒した??
確かに倒したが、あの二人が…本気だった??
そんな馬鹿な。

「ねえ、あれって…演技なんじゃないかな?」

「??????
 いちからか?いちからせつめいしないとだめか?」

……(#^ω^)ピキピキ


腹が立つが、少なくともチルノ視点では俺は物凄く強いということが分かった。

リグル
「『僕にとって、ハニュー総帥とは何なのか』ですか?どうしてそんなことを……ヒッ!!」
ん?
なんか、アイリスみたいに俺の質問に対して疑問を言うかと思ったが、何だか俺の後ろに視線が行ったと思ったら、急にヒッとか言ったぞ!?
俺の後ろには、なんか凄っい笑顔のアイリスいるだけだし、何なんだ?
「えっと、質問ですよね。
 友達であり、幻想郷の体制をひっくり返そうとしている革命家というところでしょうか…」

革命家。
リグル、お前もアリスさんと同じか。
となると、俺のリグルは友達でもあり、革命の同士ということになるが…。
これは聞きようによっては、俺達の行動の目的がより明確に分かるかも。

「体制をひっくり返すかぁ…ねえリグル、となると君は俺の同士となるわけだが…
 ということは、リグルもそれを望んでいるということだよね?
 どうしてリグルは革命なんて望んでいるのかな?

 いや、あの、ちょっと確認のためにね、あはははは…」

「え、あ、はい…それは幻想郷の未来のためです。」

ゲンソウキョウの未来のためか。
立派な話だが…そうだとすると、俺もゲンソウキョウの未来のために、戦っていることになる。

「なあリグル…
 その発言は、嘘偽りの無いものか?
 本当にそうなのか?
 すまないが、確認させてくれ。」

だから、もう一度再確認してみる。
リグルには悪いが、大事なことだから。

「う…




 そうですね…僕は…僕の周りの人達が…革命による、現体制の崩壊を望んでいるから…革命を望んでいます。」

…?
あれ、確認したら話が変わったぞ。
それに、なにやらリグルの顔が、少し影がある感じになった。
どういうことだ?

「やっぱりハニュー総帥はすべてお見通しなんですね…


 僕達、昆虫妖怪一派はハニュー総帥による現体制の転覆と、それに伴う一派の復興を望んでいます。
 それが一派がハニュー総帥に力を貸す理由であり、追認とはいえ、一派が僕をここに送り込んだ理由です。

 だけど、これだけは信じてください。
 一派の思惑はどうであれ、僕は僕の意思でここに来ています!」

一派の復興のためか。
ということは、俺はそれを託すに値する人物と思われているわけか。
この俺がか…。
信じたくない内容だが、リグルの表情…本当なんだろうなこれも。

ミスティア
「それって、自分の気持ちを言えってこと!?」

「まあそういうことになるかな?ミスティアの俺に対する気持ち、ミスティアにとって俺は何なのか正直に答えてもらいたい…」
ミスティアが目をパチパチさせながら、俺を見ているが…
少し直球過ぎて、疑われたか?

「わ…」
















わ?

ミスティア、どうしたんだ?
なんか、急に言葉に詰まって…

「私達は、お友達であるべきだと思うの…」
物凄く普通の台詞が返って来た。
何だか俯いているし、顔は笑顔だけど、目だけ泣いているように見えるのが、ホンの少し気になるけど、とりあえずよかった。

「ごめんなさい、何度言い寄られても、私はハニューちゃんとは付き合えないわ!」

はえ?
な、なんでそういう展開に!?
しかも『何度言い寄られても』って…まるで今まで何度もミスティアに言い寄っているような感じだし…
どういうことなの。

「ミスティア!?嘘だろ!?」
それは何かの嘘だよね、俺が言い寄ったって嘘だよね!?

「嘘じゃないわ!!」

「ど…どうしてそんな嘘をつくんだよ!!
 俺はミスティアと…」
俺はミスティアとずっと仲のいい友達でいたいんだよ、それなのにどうしてそんな嘘をつくんだよ!

「だから駄目なの!!私は大ちゃんを応援するって決めたの!!ハニューちゃんは友達なの!!」
あ、ミスティア!?
どこ行くのミスティア!?

なんなんだ…
ミスティアに言い寄った記憶なんて…俺には無いのだが…

「ハニュー総帥。」
あ、アイリス?いきなりなんだい??
「こんなのを私に見せ付けるなんて、これはそういうプレイだと思っていいんですよね?そうですよね!!」
ええ!?何それ!?

・ルイズ
「私にとってハニュー総帥とは何なのかですって?

 そうですわね…
 魔界での一般的な評判とほぼ同じじゃないかしら。」

「魔界での一般的な評判?」
一般的な評判ってことは、一般的な評判があるほど、俺の名前が知られているってことだよね。

「幻想郷初の統一政府の首脳候補として、魔界でも期待されているっていう評判のことですわよ。」

「と…統一政府の首脳候補??
 本当に、そう言われているの!?」

「随分と納得いかない顔をしますのね?」

あ、まずい。
あまりにも凄い評判だったので、顔に出ちゃったか。

「ちょっと、思っていたのと違っただけだよ、気にしないで…」

「ああ、なるほど。
 それなら、幻想郷の旧態依然とした体制を破壊し、新秩序に基づく体制を確立、そして来るべき脅威…月との戦争に勝利するために幻想教に舞い降りた、妖精の女王!!!
 という表現の方がいいかしら?
 
 最初は、ゴシップ誌が書き立てた飛ばし記事でしたけど、当たってしまったって魔界では話題になってますわよ。」

「そ、そうかありがとう。」

なんか、物凄い言われ方なんですが…これじゃまるでどこかの教祖じゃないか。
「ハニュー総帥。」
あ、アイリス!?
またどうかしたの?
「魔界政府に対して、ジオンに関する報道規制を行うような要請は出されていません。
 ゴシップ誌にあのような内容を掲載させてしまい、申し訳ありませんでした。」
謝られても、どうして謝られたのか意味が分からないし…
そんなことより、今入ってきた情報の方が大切だ。
魔界の国民の間では、俺はゲンソウキョウ初の統一政府を作るだろうと期待されている。
しかも、統一政府を作った後には月という敵対国?と戦争する予定であると考えられている。

なるほど。

駄目だ、まとめたのはいいが、魔界とジオンと月の関係とか、更に気になることが出てきたぞ。

こういう時は…
「なあアイリス。変なこと聞くけどジオンと魔界と月の関係ってアイリスはどう思う。
 あくまで、俺が状況が分かっていないとかではなく、アイリスの意見を参考までに聞きたいだけだから、そこは間違えないように。」
アイリスにそれとなく聞いて、内容を再確認です。
「はっ…
 幻想郷統一の後ろ盾として、魔界は必要な存在です。
 そして、月は魔界の仮想敵国ですので…月との戦争が終わるまでは、現在の同盟関係は継続させるべきかと。

 ただし…魔界が上、ジオンが下という関係が構築されつつある現状は、好ましくないかと…」

意味は分かった。
だけど、物凄く重い内容が出てきて、軽いパニックですよ。

・にとり
「私にとってのハニュー総帥ですか?
 それは、モビルスーツザクの提案者です。」

俺がザクを提案した?
いや、俺はザクに対する権利とか提案とか何もしてないぞ。
もしそんな仕事をしているのなら、そりゃ最高なんだけど。
「間もなく、実証機がいくつか組みあがります、是非視察にいらして下さい。」

実証機?????
新しいプラモが出来たってことか??
でも、玩具のことを言っているにはしては、何だか変だぞ。
「それって、玩具のこと…だよねアハハハ…」

「ハニュー総帥の提案されたものと比べたら玩具であることは否定できません…

 ですが、是非一度視察にいらして下さい!!
 玩具であると、その場で発言されても構いません!!
 一度も視察されないより、その方が部下達も励みになるでしょう!!」

……えっと…俺はにとりさんにかなり凄めのプラモデルを発注したと。
ところが、俺が頼んだのがちょっと凄すぎると。
で、それを一度の見に来てくれと。
そうすれば、一緒にプラモデルを作っている仲間も励みになると。
にとりさんって言葉が硬いから意味が分かりにくいが、意訳すればこういう感じか。
なるほど、なるほど。







どういうこと?
これは、誘われたとおり、見に行かないと駄目か…

・小傘
「わちきの所有者だよ!!
 これから一生よろしくお願いします、ご主人様!!」

えっ…………はえ!?
「あ、あの…俺って何かした!?
 というか、俺が所有者でご主人様!?
 どうしてそんなこと言うのー!?」

「ハニューに求められたとき、この人しかいないって思ったの!!」

…もももももも、求めた!?
俺は知らない間に、この子にエッチなことをしようとしたってことか!?
しかも、所有者でご主人様だなんて…愛人兼メイドにしたのか!?

「絶対に、わちきを捨てたり置き忘れたりしないでね?」

「ぜ、善処するよ…」

訳が分からないし、何だかアイリスから殺気が飛んでいる気がするし、誰か助けて…


こういう時は、逃げるに限る!

「わきちまた捨てられたー!?」

・光の三妖精

改めてみると、髪の黒い子は姫様の妹っぽい感じだな。
「…今、失礼なこと考えたでしょ!!」
いや、あのえっと…
「貴様ら!それが総帥に対する態度か!!」

「「「あ…」」」
あ、アイリス…
怒りすぎじゃないの!?
なんか三人とも、物凄く顔が青くなってきているよ!?

「「「ごめんなさーい!!
   何でもするから許して!!」」」
あの、アイリス?
ど、土下座しているんですけど、この子達…
「ハニュー総帥、いかがいたしますか?」

「許すに決まっているじゃないか!!」
アイリス、なんか凄く顔が怖いよ!!
まるで、殺せって言ったらやっちゃいそうなぐらい!

「よかったー!もう駄目かと思ったー!」
「ぐすっ………(半泣きになっている)」
「……(凄く疲れた顔をしている)」

「ハニュー総帥の慈悲深さに感謝するがいい!」
…いったい俺って、どういう扱いなんだよ、これ…
まさか、独裁者とかそんな感じなのか!?

・マリーダ&シトリン
「ハニュー総帥は私の大切な…」

「大切な?」







「総帥です…」

なんか、もっと他のことを言ってくれそうな雰囲気があったんだが…
マリーダも総帥かぁ…

「はぁ~こりゃ先は長いね…
 そろそろいけるかと思ったんだけど…
 まだもう少し時間が必要みたいだね。」

シトリン?

「今のこの子じゃ、これが精一杯ってことよ。」

はあ…

「で、シトリンは俺のことをどう思っているの?」

「ハニュー総帥は、我等妖精の希望、そして幻想郷の新たなる王となられるお方です!
 我々が絶対にあなたをその地位につけて見せます。
 だから、我らのこと、幻想郷のこと、よろしくお願いします。」

「ああ。ありがとう。」
真面目なシトリンもアリスさんと同じか。

「失礼します。ほら、マリーダ、いくぞ…」

「ん。」

妖精の希望に、王ね…………
とても俺に似合う言葉じゃないが、シトリンは嘘をつくタイプじゃないしな。
やっぱり、そうなのかー。

・人間の里の少年達

「「「上 上 下 下 左 右 左 右 B A B A!!」」」

…どうして筋肉ムキムキな少年達が、コナ●コマンドを叫んでいるんだ!?

「「「上 上 下 下 左 右 左 右 B A B A!!」」」

しかも、言葉に合わせて胸板の筋肉が上や下や左右に動いているんですけど!?

「こんなことで、本当に最強になれるのですか!?」

「馬鹿やろう!!外の世界の文献に最強になれる裏技だと書いてあっただろう!!
 現に、俺たちの肉体は、強化されているじゃないか!!」

「そうだ!!みんな気合が足りねえぞ!!
 ハニュー総帥と共に戦うためにもっと、もっと……


 おい!!
 ハニュー総帥が、視察にこられているぞ!!!!
 もっと声を上げろ!!」

「「「上 上 下 下 左 右 左 右 B A B A!!!!」」」

なにこれ、キモイよおおお!?
しかも、俺と共に戦うためとか言っているし。

で、でも聞かないと!?

「あのちょっといいかな?
 皆にとって俺って何なのかな?」








あれ、直ぐに答えが返ってくると思ったら…
…なんか、みんな動きを止めて話し合いを始めましたよ。
「そりゃ神だろ!」
「それはおかしい、常識的に考えて総帥だろ。」
「でも、ゴッドにした方が、聞こえがいいんじゃないか?」
「まてまて、俺的には仏だぞ。」
「いやいや、嫁にきまってるだろ!」
「なぜメイドが出ない、解せぬ…」
「違う!妹だ!」
「おまえ、リアル妹いるだろ!」
「うるせえ、リアル妹と『妹』は別物なんだよ!」
「それよりさっき、嫁って言ったやつ表に出ろ!あれは俺の嫁だ!」
「ふざけるな!独り占めとか何考えてるんだ!!」
「そうだよ、独り占めは良くないよ!全員で共有すべきだよ。」
「誰が貴様らと兄弟になるか!」
「何訳が分からないことを言っているんだい!?」
「オマエラ落ち着け!」
「落ち着けるか!俺はジオンの総帥になってハニュー総帥を自分のメイドにするのが夢なんだ!妹や嫁にされてたまるか!!」
「お前不敬過ぎるだろ!?制裁だ!!」
「ぬわーーっっ!!」

な、なんかケンカが始まったのですが…
「アイリス…どうしようアレ…」

「粛清しましょう☆」
や、止めてー!!!!

椛&文&はたて
「あれ?文さんは?」
何やら色々と取材用の機材を抱えた椛さんがいたから、文さんもいるかと思ったのに。

「文先輩なら、ちょっと取材に…。」

「そうか…あの…椛さんにとって俺って何?
 俺のこと、どう思ってる?」

なので、とりあえず椛さんに質問してみましょう。

「キャイン!?わ、私には文先輩がいます!!からかわないでください!!!」
???なんだか急に真っ赤になったぞ??


「人の助手を勝手に口説かないでください。」
あ、文さん。

「口説くなんて、失礼な。
 俺はそんな女たらしじゃないですよ。」

「あや~そんな説得力の無いことを言われても~
 女性関係が派手だという噂じゃないですか~」

じょ、女性関係が派手…
この女の子の体で、どうしてそんな話が…
いや、そういえば、小傘とかで変なことがあったな。

「ところで、今回の永遠亭侵攻について取材させてもらいませんか?」

永遠亭侵攻だと!?
俺は、そんなつもりは…

「あれ?ノーコメントですか?
 取材した情報を統合すると、ハニュー総帥は永遠亭に侵攻した一方で、黒幕である八雲紫から永遠亭を救ったとか…
 所謂高度な政治的判断「また抜け駆け!?」

「あや!?なんだ、はたてですか。」

「なんだとは何よ!!こんな重要人物との取材をセットしていたなんて、一言教えてくれたっていいじゃない!!」

「私の努力の成果を、無償で渡すわけが無いでしょう。」

「文先輩…これはただの偶然じゃ…」
重要人物…
重要人物と取材かぁ…

「…椛は悪い子ですねー。罰として今晩は寝かしませんよー!(新聞発行作業的な意味で)」

「キャン!?…わかりました、頑張って作りましょう!(新聞的な意味で)」



「あ、あんた達…やっぱりそういう関係だったんだ…」

「あやっ!?これは言葉のあやですよ!?」

「最低!冗談で誤魔化そうとしてんじゃないわよ!!」

「はたてさん!!文先輩と私はまだそういう関係じゃ!!」

やっぱりこの三人も、他の皆と同じく俺を革命家や救世主として見ているのだろうか?
そうだ、この三人は記者だった。

「ねえ、お願いがあるんだけど!!!」



「いきなり、何よ!!」

「あや!何だか仕事の予感ですよ、はたて!!」

「そうですよ、だからはたてさんも落ち着きましょう!」

----------

「博麗霊夢敗北!謎の人物ハニューに迫る!」
博麗霊夢が敗北するという事件が発生した、敗北した相手は紅魔館の妖精メイド「ハニュー」という人物で~
「博麗の巫女爆殺事件」
博麗の巫女が爆破され、現在も生死不明という驚きの情報が入ってきた。その主犯と目されるのがハニューなる~
「秘密結社ジオンの正体」
幻想郷征服をたくらむ秘密結社ジオン。決死の取材班が見たその真相とは~
「ジオン、八雲家、同盟発表か!?」
八雲橙が、ジオンに入隊したという事実がこの度明らかになった~
「小●魔氏が語る、ハニ●ー総帥夜の采配」
ハニ●ー総帥が手を出した数、テクニック共に幻想郷トップクラスですね。そう自慢げに語るのは、ハニ●ー総帥の第一愛人を自称する小●魔氏~
「ジオンの歌姫へハニュー総帥がプロポーズ!?」
ハニュー総帥とジオンの歌姫ミスティアローレライとの熱愛が~


………△…×■!?

文さんとはたてさんに最近の二人の新聞を読みたいとお願いしました。
多少ごたごたがありましたが、何とか二人からここ一年分の新聞を入手することができました。

だけど……予想以上の内容だった。
あまりに凄い内容なので「あら?もう元気になったの、意識不明だって聞いたけど、妖精の体は便利なものね。」って声を掛けてきた、お嬢様に記事を見せたら…
やれやれといった感じの表情をして…
「少々脚色されているとはいえ、こういったプライベートなことまで書かれるのは、気分がいいものじゃないわね…
 あの三人を血祭りに上げるのを邪魔したりしないけど、近くで霊夢も治療を受けているってことを忘れないで欲しいわ。
 もし霊夢に被害が及んだら…わかっているわよね?」
って言われた。

因みに、博麗の巫女が治療を受けているってことなら、攻撃される心配も無いので、安心して質問できると思ったので…
「なるほど、博麗の巫女は治療中か…それは都合がいい。」ってお嬢様に言って向かおうとしたら…
「聞こえなかったの?それ以上進んだら、首を飛ばすわよ?」ってお嬢様に凄まれた。
普通に質問に行くだけで殺されかけるなんて…
なんか、凄く理不尽な話で腹が立ちましたが、お嬢様はお嬢様ですし、俺はお嬢様のメイドなので言うことを聞きました。
「何を言いますか、俺はお嬢様のメイドですよ、お嬢様の命令に背くわけ無いじゃないですか。
 それともなんですか?
 お嬢様は、自分の部下が言うことを聞かなくなるかもって心配になるほど、カリスマが下がってしまったのですか?そんなこと無いですよね?」
でも、腹が立ったので、去り際に一言多めに言ってしまいましたが、元はといえばお嬢様に原因があるので許されるでしょう。
お嬢様も「う~」とか言ってたけど、それ以外は何も言ってこなかったし。


それはとにかく、お嬢様は新聞の内容を脚色って言っていたが…
こんなに凄い内容なのに脚色程度なのか。
こんなの絶対におかしいよ!
って思ったけど、間違いないんだろうな。
完全に空想の記事では、流石に売れないだろうし。

「ハニュー総帥。顔色が…大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ…ちょっと驚いただけだから。」

・大ちゃん
そして最後は大ちゃんです。
え?どうして大ちゃんが最後なんだって?
そりゃ、大ちゃんにとって俺は何なのかって聞くのが怖かったからです。
大ちゃんに…
「ハニューちゃんは総帥で凄いんだよ!


 え、ハニューちゃん総帥じゃないの!?
 本当は、何の変哲も無いただの人なの!?


 …それじゃハニューちゃんは、ただの痛い人!?


 あ!!なんでもないんだよハニューちゃん!
 ただの独り言だから、本当だから!

 …どんなに痛…じゃなくて、どんなにハニューちゃんが個性的な人でも私達は友達だよ(愛想笑い)」
なんて言われるような展開になったら、100%吊る自信があります。


あっ、大ちゃん発見。

----------

「私にとってのハニューちゃん…?
 えっと…それは…」

それは?

「大好きな人かな…


 えへへこんな感じで良いかな?」

「それは、総帥的な意味で?」

「んーん。
 総帥なんてどうでもいいの、私はハニューちゃんだから大好きなんだよ?」

…なんだこの可愛い生き物。

全然目的と違う答えだけど、これはこれでよし!!!


side アイリス

ハニュー総帥の行動の意味を図り知ることは難しい。
それは私達とは違う、ずば抜けた頭脳を持つためだ。
しかし、今回は違った。
私にはハニュー総帥の永遠亭行脚の目的が分かってしまった。

ハニュー総帥の質問は極めてシンプル。
ハニュー総帥は自分にとって何なのか?ということ。
だが…
これほど危険な質問は無い。
いきなり、組織の最上位者に声をかけられ最上位者自身について聞かれる。
これは相当なプレッシャーになる。
そんな状態で質問に答えたら、態度や言葉など、何らかの形で本音を出してしまう可能性が高い。
つまり、ハニュー総帥への偽り無い本音をハニュー総帥は聞き出し、幹部達の忠誠心がどこにあるのか確認しようとしているのだ。
そして、その行動の裏にはハニュー総帥の幹部達への不信がある。
間違いない。


何故アイリスがハニューの狙いをそう読み取ったのか、その理由は数時間前にあった。
ジオン幹部会議では、ハニューの単独行動への不安や不満が寄せられた。
議論の結果、この案件に関する対応は半ば強引にルーミアに一任されることになった。
つまり、ルーミアから皆の不安や不満をハニューへ伝え、ハニューに自重を促すという結論になった。
これにより、各幹部の不安や不満は解決されるだろうと考えれた。
しかし、アイリスは依然として不満だった。
それは、アイリスにとってはこのような幹部会議が開かれること自体が不満だったからだ。
アイリスにとってハニューこそがジオンであり、ハニューの行動に不満や不安を漏らすものは、むしろジオンから排除すべきだと考えていたからだ。
そう、アイリスにとってジオンとはハニュー総帥を信奉する者によって構成されるべき組織であり、このような会議が開かれること自体がナンセンスなことだったのだ。

しかも、アイリスの考えが正しいことを裏付ける出来事がその直後に発生した。
「なあアイリス。アイリスにとって俺って何?」
その言葉から始まったハニューの質問。
それに対し、アイリスは何故そのような質問をするのかと疑問を口にした。
いつものハニューなら、その疑問に答えてくれただろう。
ところが…
「どうして、そんなことを気にするんだい?」
とハニューはアイリスの質問に答えなかった。

アイリスは衝撃を受けた。
なぜ、そのような質問をするのだ?
親衛隊であるお前も私に異を唱えるのか?
異を唱えた他の部下達と同じなのか?

そうハニューが言っているのは明白だった。

その後のハニューの行動も同じだった、同様の質問をジオン幹部達にぶつけ反応を見続けた。
そしてその様子も様々だった、にとりのような者には部下への命令のように、チルノのような者には友人に聞くように、
そしてミスティアのような者には…愛を語るように。
一見何も考えずに、話しやすいように相手の態度に合わせているように見えるが、それに狙いがあるのが明白だった。
ハニューは、相手が最も無防備になるように、最も本音を漏らしやすいように、あえて雰囲気や会話内容を相手に合わせているのだった。
流石だとアイリスは思った。





永遠亭行脚を通してハニューがそれぞれの幹部にどういった結論を出したのか、アイリスには分からなかった。
だが、一人だけ分かった人物がいた。
それは大妖精である。

幹部達との会話が終わると、常に何か考えるような表情か、納得しないような表情をしていたハニューだったが…
大妖精との会話が終わった後だけは、笑顔だったからだ。


羨ましい…
大妖精にだけは全幅の信頼…いや愛情を向けている。
…まだ私には、その領域に達することは…叶わないか。
だが、絶対に…


アイリスは大妖精とハニューの関係を羨ましく思った。
そして、いつか大妖精の位置に自分が立ってみせる。
そう心に誓ったのだった。

----------

side ハニュー

信じられるか?
ある日気がついたら、「総帥」なんて地位になって、ジオンという軍事組織を動かしてゲンソウキョウのトップに立とうとしていたんだぞ?
それでさ、皆俺の知らないことを、俺がやったって言っているんだぞ。
こんなのってないよ、こんなの絶対におかしいよ!!
「ゲンジツデス!!コレガゲンジツ!!」
あ、上海いたんだ、そうだよね、おかしいけどこれが現実だよね。
「( ゚д゚ )彡」
わかっているよ。
わかっているんだよ。
皆の話はとても嘘には見えなかった。
そして、新聞にも同じように載っていた。

俺には覚えが無いが、皆から見れば、間違いなく俺は皆が言うような人物なのだろう。
それは認めざるえない。

こう見えても、結構ショック受けてます。
だって、皆が俺の知らない俺を見ているって状況が、なんか凄く寂しくて。
最後に、大ちゃんからパワーを貰わなかったら危なかった。


さて、それでは考察の時間です
俺は本物の総帥ということが分かった。
だが、それだと俺に覚えが無いということがおかしくなる。
それを満たすためには幾つかの仮説が上げられるが…
可能性があるのはほぼ一つだけということだろう。





まったく、どうして俺はこんなことに気がつかなかったのか…





俺の秘密…





俺が気がつかなかった秘密…





それは…










『俺やジオンを影から操っている謎の黒幕がいるということだ!!!』



そう、何者か俺の名を騙って指示や情報を流している。
例えば、俺の指示と称して、ジオン部はゲンソウキョウ革命組織ジオンになる!!
って文章を流したりして…

ん?なんかどこかで俺とそっくりの少女が転んだような気がしたが…
気のせいか…


それはとにかく、どうしてそういう結論に至ったのか。
1 現状は事実である。
2 俺は何もしていない。
3 これほどの規模となると、何らかのメリット無しに行動するとは考えられない。
そう考えれば、必然的に選択肢は狭まってくる。
何者かが自らのメリットのために、こういう事態を引き起こしたということだ。
もちろん、何かの偶然の連続で、こういう事態になってしまったという可能性もある。
しかし、そんなものは可能性があるだけで、現実味などありもしない。
可能性の低さなど、計算できないぐらい低いだろう。


それにだ、謎の黒幕がいるという決定的な証拠を、実は見つけてしまったのだ。
一つ目は、小悪魔さんからもらった机の上に置いてあった変な手紙だ。
あれには…
『明日の満月の夜、迷いの竹林の宇宙人達の異変が完成する。
 異変が完成すれば、月が満ちることは無くなり、月からの道は閉ざされる。』
と書いてあった。
今から思えば、どう考えても謎の黒幕の仕業です。
きっと、ああいう感じで、部活の書類を勝手に都合の良いものに差し替えたりしていたのでしょう。
小傘が俺をご主人様と言ったり、女たらしというデマも、多分俺が書いたように見せかけたラブレターを捏造したに違いない。

そして二つ目は、俺がストーカーさんと藍さんを圧倒したということです。
ルーミアの写真を見る限り、明らかに俺じゃ不可能な攻撃が俺から出ています。
つまり、俺の攻撃に何者かが介入して、さらに攻撃を派手にしているという証拠です。
ちなみに、アイリスと分かれた後こっそりとカメハメ●とかサテライトキャノンとかマクロスキャノンとか色々な必殺技をやってみましたが…
いつもと変わらないレベルのヘロヘロっとした攻撃しか出ないので、俺がパワーアップしたとかいうことは無いです。


さて、問題は謎の黒幕が何者かということだ。


正直、姿形がさっぱり分からない相手だ。
だから、その行動から想像するしかない。
そう、ジオンや俺の行動からその姿が想像できる。

黒幕は俺を使いジオンを設立し、ゲンソウキョウ統一を目的に動き出している。
そして、その仮想敵には月がいる。

うん、俺が以前立てた仮説と繋がるところがあるね。
俺の仮説では、ゲンソウキョウの生物兵器を作り出したのが月の宇宙人だ。
そしてクーデターが起きて、たくさんの人が殺されたと思う。

これが正しいとして、クーデターの首謀者に生き残りがいたら、どう考えるだろうか。
出来る限り戦力を集め、月への復讐は果たしたい。
しかし、自分はマークされている可能性があるため、派手に動けない。
おまけに、一度酷い目にあったから、怖くて表に出て来れない。
だったら、別の誰かにクーデターを起こさせればいい!

そう考えるだろう。
そして選ばれたのが俺というわけだ。

理屈だけで考えれば、月と戦うことを考えている現状では、渡りに船と言えるか…
これってかなり不味い状況かもしれない。
謎の黒幕のこれまでの行動を分析してみると…
何も知らない俺をここまでの地位に押し上げたという点では、かなり優秀な存在だと言えるが…
危険な行動…つまり、リスクがある行動を平然と使うという問題がある。

まず、謎の黒幕が行っている手法。
裏方から軍事組織をコントロールするってこと自体が、かなりリスクがある。
軍事組織を裏から動かすのはかなり難しい、それは戦争と言う極限状態に置かれることにより、常に暴走のリスクを背負っているからだ。
つまり、ただでさえ暴走しやすい軍事組織を、更にリスクが高まる裏から動かそうとしているわけだ。
もちろん、俺が独裁者的な立場にされているように、それなりに対策を取っているみたいだが、それでもリスクは残る。

他にも、今回の戦闘を色々と思い出してみたが、かなり綱渡りだった気がする。
さっきのルーミアの説教にもつながるが、俺への指示を手紙ではなく、ルーミア経由にするなど、もう少し謎の黒幕が慎重な行動を取れば…
もっと事を荒立てずに解決したのではないだろうか。


うーん。
もしかしたら、リスクも計算した上で、危険な行動だったのかもしれないが…
全てが全て、謎の黒幕の行動に任せるというのは、やっぱり危険な気がする。






しかし、なぜに謎の黒幕は俺を選んだんだ…
俺みたいなヘタレで無能な人物が総帥だなんて…
そうか、ヘタレで無能だからか。
裏からコントロールされていることに気がついても、それを逆に利用することも、それに真っ向から反逆することも出来ない小物だと俺を評価したから、俺を選んだわけか!
って自分で言っていて空しくなってきた。゜。゜(ノД`)゜。 ゜。

それはとにかくだ…俺の正体が、こんなに情けない奴だと知ったら皆びっくりするだろうな…
『絶望した!のかー』ってルーミアに絶望されたり…
『あたいってほんと、バカ』ってチルノに俺を信じていたことを後悔されたりとか…
『貴方を、偽者です!!』ってマリーダに偽者扱いされたり…







偽者?




…そうだよ。
これって不味くね?
皆から見たら「演出された俺」が本物で、本当の俺のほうが…偽者だ。

『俺って本当はこんな性格で、全然大したこと無いんだ!!』なんて公表したら、不味いことになる。
『要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんでしょう?』って感じで真偽を確かめる的な意味で妹様に攻撃されて殺されたり、
『私の戦場はここじゃない。』って感じで俺に見切りをつけたアイリスが去っていったり、
『殺り方さえ分かっちゃえば簡単なもんだね。あたいってさいきょーね!』って感じでチルノに俺が殺されるという下克上状態発生とか、
『ハニューちゃんが総帥じゃないなら、みんな死ぬしかないじゃない!』って感じで大ちゃんに無理心中させられたりとか、
もの凄く碌な展開にならない気がします。
あ、因みに台詞とキャラは適当だからね!

『ジオンの皆には内緒だよ!』って秘密にして誰かに相談することも危ない。
万が一にも、漏れるかもしれないリスクがあるからなあ。


ということはだ…



何とかばれない様に行動するしかないな。
これまで俺が総帥になっているって気がつかないで行動してきたのに、ばれていないから…
何も考えずに行動しても、どうにかなる可能性は結構ある。
というか、謎の黒幕のサポート能力はそれぐらいに高いと見て問題ない。
だけど、これからはそうはいかない。

何故なら、俺は謎の黒幕の行動を利用し、介入すると決めたからです。
どうして介入するのか、それは俺と謎の黒幕の目的がほぼ間違いなく別だからだ。
謎の黒幕は月への復讐のため、俺は俺自身の命と皆の幸せのため。
世界的な視点から見れば結果は同じかもしれないが、俺達的には全然違います。

では、具体的にはどのように利用し介入するのか。
それは、端的に言えば決定的な場所以外大人しくするということです。
理屈で考えると、大ちゃん達の命を守るために月と戦うならば、総帥という立場は凄く便利です。
だけど、とても俺じゃ総帥という立場を使いこなせません。
だから、俺は謎の黒幕を利用しようと思います。
謎の黒幕の存在に対して気づいていないふりをしたまま、総帥っぽく行動するつもりです。

もちろん、謎の黒幕と接触を試みるという手段もあります。
ですが、これは危険が伴う可能性があるので止めました。
謎の黒幕がこれまで俺にはっきりと接触してこない以上、接触できない理由や最悪の場合接触したくない理由があると見るべきです。
それに、謎の黒幕に気づいていないふり(ジオンが凄いことになっているのは分かっているが、どうしてこうなっているか気がついていないふり)をしていた方が、
謎の黒幕も俺に対して油断してくれるので、自分のシナリオを進める上で有利です。

俺は、エヴァンゲリオンの碇指令のように、完全に警戒されている中、自分のシナリオを進めるほどの胆力も能力も無いのですよ。


とにかく、もしも指を少しだけ動かす程度の能力っていうショボイ能力持ちであっても、銃の引き金を引くという決定的瞬間に使えば絶大な効果を発揮するように…
決定的な瞬間に介入するつもりです。

そうすれば、皆を救いたいという俺の思いを成就させることができるはずです。


----------

総帥になってしまっていた以上、早速動く必要があります。
それは、ジオン側、永遠亭側双方に顔を出し、今回の件について謝罪することです。

俺のせいで、怪我人を出してしまいましたし、組織の長としても何もしないという選択肢はありません。
まずは、写真で見た野戦病院のような場所から。

ハニューは、永遠亭の兎を一羽捕まえると、ジオンの負傷者が集められている場所を聞く。
兎が示したのは、永遠亭の隣に立つテントだった。
テントの中に入ると、薬品の匂いと共に、目を覆わんばかりの光景が飛び込んできた。


「速く治らないかなー」「むぐぐ…」

!!
……素人目にもわかるぐらいに重症な子が何人も…
包帯でぐるぐる巻きとか、骨折なんてまだマシなほうだぞ…
中にはもっと酷い状態になっている子まで…

「ハニュー総帥!!??」


「け、敬礼!!」
ハニューに気がついた妖精の一人が、ベッドから立ち上がり敬礼の号令をかける。
しかし、彼女はそのままバランスを崩し、そのままベッドに倒れこんでしまう。


お、おい!!大丈夫か!!
って右脚が…、こんな状態で立ち上がって敬礼をしようとするなんて!?
しかも君は、俺と一緒に訓練した子じゃないか!!

----------

聞いたとおりと言うか、なんと言うか…
俺を助けるために戦って…そして怪我したらしい。
それなのに、どいつもこいつも俺に対して恨み言の一つもない。
それどころか「力不足で申し訳ありません。」って逆に謝ってくる奴等ばかりで…。
なのに…
俺は「ごめんなさい」と言うことが出来なかった。
だって、俺と一緒に訓練した子が無邪気な顔で言ったんだ…
「右脚がこんな状態になっちゃいましたけど、明日には新しい脚ができて退院できるから心配しないでください!」
はっきり言って、嗚咽しそうになるのを止めるだけで精一杯で、わんわんと泣いてしまいそうで…
だってさ、新しい脚ができて退院できるって言うけど、それは違う。
別に脚が勝手に生えてくるとか、超医学で簡単に再生できるとかではなくて、それって義足のことだよ。
それなのに…それに気がつかない無邪気な顔が…辛くて…

入院しているほぼ全員が、同じような感じでした…
「羽が無い?大丈夫です、明日には勝手に生えてきますから!」
「体全部が燃えちゃって、下着まで燃えちゃいました!だから明日休暇を取って、下着を買いに行く予定です!!」
「手の骨が粉々になっちゃって、ちょっと不便ですね。でも、あと数時間の我慢だからいいかー。」
皆、一生ものの大怪我なのに、明日には直るとかそんな悲壮感の無いことばかり言って…
だから、一人ひとり話をしっかりと聞いて、ギュッと抱きしめてあげることしか出来ませんでした。
目的の謝ることはできませんでしたが、正直よく耐えられた方だと思います。


総帥として自覚した初仕事だったのに、たったこれだけしかできないなんて…情けない!!
だけど、生で見た皆の怪我、俺は絶対に忘れない。
皆の怪我を無駄にはしない!

次こそは、もっと上手くやってみせる!!

衝撃的な光景を胸に、決意を固めるハニュー。
そんなハニューの次の目的地は、永遠亭の主の下だった。

side 怪我をした妖精メイド&妖怪達

ハニューが去った後、妖精メイド達は騒然となっていた。
「ハニュー総帥ってもっと怖い人だと思っていたけど、違ったんだね。
 全身が燃えちゃっただけだって言っているのに、凄く真剣に話を聞いてくれて…」
「ほんとほんと!ちょっと腕がなくなっただけで、あんなに優しく抱きしめてくれるし!」
「戦闘後って物凄く忙しいんでしょ?それなのに、こんなかすり傷のことを気にしてくれるなんて…」

「「「ハニュー総帥って優しいねー」」」

「当たり前だ!ハニュー総帥だぞ!」

話題の内容は、戦闘後という忙しい状況の中「かすり傷程度」である彼女達を、ハニューが見舞いに来たことだった。
妖精は不死であり、体をばらばらにされても直ぐに元通りになってしまう。
そして不死ではないが妖怪も極めて頑丈であり、同じく体をばらばらにされても簡単に元に戻ってしまうのだった。
しかも、ここは医療技術において地球上最高レベルの永遠亭である。

つまり、彼女達がハニューに伝えた、明日にも治るというのは事実であり、人間の基準で言えばかすり傷以下というのは事実なのである。
しかも、幻想郷に暮らしていれば、この程度の怪我など日常茶飯事であり、ハニューを恨んだりする者もいなかった。

では何故、怪我人の数がルーミアの話に上がっていたのか、それはルーミア達ジオン幹部は、ハニューの行動が今後に及ぼす影響を危惧していたからだ。
現在のところは、大きな問題にはならなかったが、今後はそうとは限らない。
そのため、たとえ小さくとも、被害が発生したことがはっきりと分かる、怪我人の数をハニューに示したのだった。
しかし、計算外だったのは、人間の怪我と妖精や妖怪の怪我の違いをハニューが知らなかったということだった。


side ハニュー


「不幸な行き違いにより、永遠亭に損害を与えたことに関して謝罪する。
 そして、その上で友好的な関係を築きたい。ね…
 
 なるほど。
 つまり、ジオンは永遠亭を救うために行動したのであり、侵攻の意図は無かった。
 永遠亭とジオンの戦争は偶発的なものであり、不幸な事故だったと。
 あなたはそう言うのね。」

「その通りです。」

僅かな笑みを浮かべて応えるハニュー。
それに対峙する永琳は無表情だった。

おかしいな、しっかりと事情を説明したのに、永琳さんの反応が薄い。
やっぱり攻撃したことを、怒っているのかな?
だけど、逃げ帰るわけにはいかない!!

ハニューとしては、永琳の無表情を見て逃げ帰りたい気分だったが、使命感がギリギリのところで折れそうな心を支えていた。

ここで、逃げ帰ってしまったら、永遠亭の人達の心象が悪化して、皆の治療に悪影響が出てしまいます。
それに永遠亭の人達には事故とはいえ被害を与えてしまったんだ…それをしっかりと謝らないというのは人としておかしいです。
それだけじゃないです。
もしもこの後にする提案を、永琳さんに呑んでもらえなければ、永遠亭の安全が保障できません。
どういう事かと言うと、今回の永遠亭のように、兵力が一方的に減ってミリタリーバランスが崩れた状態というのは、安全が保障できない状況といえます。
ですので、そういった状況に陥った場合、何とかしてミリタリーバランスを取ろうと永遠亭は動くことになります。
ところが、その際に色々な理由で手詰まりになってしまうと、通常時では考えられないような危険かつ非人道的な方法でミリタリーバランスを取ろうと動く傾向があります。
これが最も危惧する事態です。
例えば、某極東の島国の専守防衛を基本方針とした軍隊のような組織で、専守防衛を守りつつ圧倒的に強大な敵に勝つためにはどうすればいい?
なんて条件で作戦を研究した結果、敵が上陸してきたら上陸地点の町ごと核兵器で吹き飛ばせば、専守防衛の範囲で戦争に勝てるんじゃね?
なんて、おまえはどこのベルカ軍だ!と言いたくなるようなヤバイ作戦が考え出されたことがありました…結局あれは核武装できなくなってそれ以前の問題となりましたが…

多少話がそれましたが、こういった感じでミリタリーバランスが崩れたまま放置すると危険なので、そんな永遠亭を助けるための提案を持ってきました。


って俺は誰に真面目に説明してるんだか…

「この不幸な事故を越えて友好的な関係を作るため、この度私は永遠亭との友好の架け橋となる提案を持参いたしました。」

「あら?それは何かしら?」

「永遠亭の防衛のために、ジオンの部隊を永遠亭に駐留させます。
 当面の間は永遠亭の防衛は全て我々が引き受けますので、ご安心ください。」

「それが友好の架け橋…」

あれ?
全然反応が良くないぞ!?
なんでだ!?

自信満々に語ったハニューだが、永琳は無表情のままだった。
よって、ハニューは更に話を進める。

ここに来る前にルーミア達に即席の打ち合わせをして、危険なゲンソウキョウで戦力を失った永遠亭のために部隊を工面したのに…
ということで、ジオンの部隊を駐留させることを提案したのに、どうして反応が悪いんだ?
そうか、言葉で言われてもピンと来ないんだ!

「言葉で言っても意味が分かりにくいでしょう。
 アレをご覧ください。」

襖を開け、隣に見える建物の屋根の上を指すハニュー。
そこには、巨大なジオンの旗がはためいていた。
そして、永遠亭のありとあらゆる場所に、ジオンの紋章が張られていた。
因みに、何羽かの妖怪兎が、ジオンの旗を指差し涙を流していた。

「アレを見たら、誰でもわかるでしょう。」
あの兎達が安堵の涙を流しているように、アレを見れば誰でも永遠亭をジオンが守っていることが分かります。

「ええ、これほど派手にやられたら、月から追っ手が来てもはっきりと分かるわね。」

呆れたような顔をする永琳。
それに気がつかないハニューは満足した顔で応える。

「そうです。
 月からの侵略が発生した場合には、我々が責任を持って迎撃します。」

「ふうん。」

「ああ、もちろん遠慮なんてしないでいいですよ。
 これはあくまで友好のためですし…
 もしも、遠慮すると言っても、俺は永琳さんが納得するまで、どんなことだってする覚悟ですから。」

そう、例えば裸踊りだってやる覚悟です。
何故なら…
一つは月の宇宙人に関する情報がほしいため、そして次がとても大切なのですが、皆の怪我の治療を診てもらうためです。
特に、先ほどの野戦病院の状況を見た後としては、後者の目的のために絶対に友好的な関係を築く必要があります。
ちなみに、上に示した以上のことは期待していません。
月の頭脳と言われた凄い人らしいのですが、所詮はお医者様です。
出来ることは限られています。
月の宇宙人について、知っている知識も一般人レベルでしょうし、月の頭脳と言われた知力も、医学分野に偏っているでしょう。
ですので、実は月の宇宙人の詳細について月の宇宙人の中枢(政府?)に精通しているとか、
どこぞの真田さんのように凄すぎる兵器や発明を簡単にしてしまうようなことは期待できないでしょう。
それに、同胞と戦うのは永琳さんにとっても辛いでしょうからね。
こういった間接的な協力のほうが受け入れやすいでしょう。

「友好ね…そういうのは恫喝と言うんじゃないの?」
永琳は、口元に笑みを浮かべて言う。
しかし目はまったく笑っていなかった。

「ハッハッハッ、永琳さんも冗談を言うんですね。
 あくまで、これは友好ですよ!」
なんだ、永琳さんって冗談を言う雰囲気じゃなかったけど、冗談を言うんだな。
確かに、見方を変えれば恫喝に見えなくも無い。

と、ひざを叩いて笑うハニュー。 

「喰えないわね。
 そこまでして、私に何を求めているのかしら?」
そんなハニューに、永琳が問う。

おっと、ついに本題に来たか。
そりゃそうだよな、ここまで一方的に好意を寄せられたら、誰でも怪しむものです。

「あなたの力を使って俺達を助けてほしい。
 それだけが望みです。」
真剣な顔で永琳に頭を下げるハニュー。

永琳さんの医療技術で俺達を助けてください!
今はそれだけで十分ですから!
このとーり!

「呆れた、ずいぶんとストレートに言うわね。」

「ええ、永琳さんの力が我々には絶対に必要ですから。」
頼むから、皆の怪我だけでも何とかしてあげてください!







「…分かったわ、あなたの言う友好を飲みましょう。」

「ありがとうございます!」
やった!これでお医者様ゲットだぜ!!

ハニューの言葉を聞き、一瞬考えるような仕草を見せた永琳だったが…
すぐにハニューの提案を受けた。

それを受けてハニューは喜び、永琳も笑みを浮かべていた。
しかし、同席していた鈴仙は、信じられないような顔をして、ハニューと永琳を呆然と見ているのだった。



side  八意 永琳


「不幸な行き違いにより、永遠亭に損害を与えたことに関して謝罪する。
 そして、その上で友好的な関係を築きたい。ね…
 
 なるほど。
 つまり、ジオンは永遠亭を救うために行動したのであり、侵攻の意図は無かった。
 永遠亭とジオンの戦争は偶発的なものであり、不幸な事故だったと。
 あなたはそう言うのね。」

「その通りです。」

妖精が嘘を言う、それ自体は珍しい話ではない。
しかし、それが相手を騙すための嘘ではなく、建前として言う嘘であるなら別だ。
永遠亭を壊滅させ、何も言えない状態にしたうえで、あれは事故だったとあからさまな嘘(建前)を平然と言うハニュー。

「この不幸な事故を越えて友好的な関係を作るため、この度私は永遠亭との友好の架け橋となる提案を持参いたしました。」

「あら?それは何かしら?」

「永遠亭の防衛のために、ジオンの部隊を永遠亭に駐留させます。
 当面の間は永遠亭の防衛は全て我々が引き受けますので、ご安心ください。」

「それが友好の架け橋…」

しかも、友好と称して軍の駐留。
事実上の占領軍を配置するという提案まで行ってきた。
人類の行動から学習したかのようなハニューの行動に、ハニューの正体は見抜いたとおりのものだと永琳は感じた。

「言葉で言っても意味が分かりにくいでしょう。
 アレをご覧ください。」
ハニューの正体について考えながら、表面上はハニューとの会話を続ける永琳。
そんな永琳に、ハニューは永遠亭の屋根に突き刺さったジオンの旗を誇らしげに示した。
「アレを見たら、誰でもわかるでしょう。」
旗を立てることにより、内外に対して永遠亭の実質的な支配権がどこにあるのかをアピールしているのだろう。
現に、永遠亭が制圧された実感が沸いたのだろう「俺達の永遠亭がー」と因幡達が涙を流していた。
しかし、永琳にとってはそんな因幡達の姿はどうでもよかった。
永琳の目は徹底的な砲艦外交を行うハニューの顔、そこに何の罪の意識も見られないことに注目していた。

「ええ、これほど派手にやられたら、月から追っ手が来てもはっきりと分かるわね。」

「そうです。
 月からの侵略が発生した場合には、我々が責任を持って迎撃します。」

泣いている因幡達を見て悲しむことも、皮肉を言われて苛立つことも無いか。
集合体である彼女はこの程度でいちいち揺らいでいられないのか、それとも擬似的な感情しか搭載されていないのか…

ハニューの精神構造に触れた永琳は、新たな考察に入り始める。
永琳にとっては今回の会談は、ハニューの正体と目的、その確認と知的好奇心のためのものだった。

「ああ、もちろん遠慮なんてしないでいいですよ。
 これはあくまで友好のためですし…
 もしも、遠慮すると言っても、俺は永琳さんが納得するまで、どんなことだってする覚悟ですから。」

だが、会談は相手がいることによって成り立つ。
永琳の事情を無視して、ハニューからボールが投げられた。
ジオンによる永遠亭の支配という提案を断れば、永琳が永遠亭の支配を受け入れるまで、どのような非道なことにも手を染める覚悟がある。
ハニューはそのように永琳を恫喝してきた。
ハニューの恫喝を受けて、永琳の後ろに控えていた鈴仙がヒャッと、か細い悲鳴を上げる。

ブラフ…じゃ無いでしょうね。
ハニューが生み出されたということは、月の都と月の民を放置する段階を超えたということ。
つまり、生易しい判断を期待できる段階では無くなったということ。
「友好ね…そういうのは恫喝と言うんじゃないの?」
冷静にハニューを分析する永琳。
しかし、本人は意識していないようだったが、鈴仙を脅され腹が立ったのだろう。
あくまで、相手に不信感を与えないという目的のために皮肉ったつもりだったが、その目には怒りがこもっていた。

「ハッハッハッ、永琳さんも冗談を言うんですね。
 あくまで、これは友好ですよ!」

そんな永琳の怒りを、軽くいなすハニュー。

「喰えないわね。
 そこまでして、私に何を求めているのかしら?」

ハニューの態度に業を煮やしたようなふりをして、永琳は目的を問う。
実は、永琳はハニューの目的を既に知っていた。
そして、ハニューの提案を断ることが、ほぼ不可能なことも理解していた。
だが、事が事だけに永琳は自分の目と耳で確認したかったのだ。

「あなたの力を使って俺達を助けてほしい。
 それだけが望みです。」
月の頭脳の力、月の都の建設に関わり、月の文明のテクノロジーの一角を担った永琳の力を、ハニューの目的のために使ってほしい。
つまり、月の都の破壊、そして月の文明の消滅という残酷な行為に永琳の知識と力を貸せとハニューは言っていた。
ハニューは、永琳がキーマンであることを知っているようだった。

これらのハニューの望みは、永琳にとって予想通りだった。
月の民が地上で文明を築いた時代から、いずれこのような存在が作り出され、襲い掛かってくることは予想されていたからだ。

世界は常にバランスを取ろうとするものなのである。

しかし、予想されたこととはいえ、自分が実験に使ったあの子と同じ存在から言われたことは、永琳にとっても辛いことだった。
それは『月の都の建設により我々の文明の延命を図ったのに、その幕引きに関わってしまっていたなんて。』と己の罪を改めて感じるからだった。

「呆れた、ずいぶんとストレートに言うわね。」
「ええ、永琳さんの力が我々には必要ですから。」

永琳が自らの罪に意識を向けている間も、ハニューに気取られないよう会話は進む。
そして、永琳に決断の時が訪れた。




「…分かったわ、あなたの言う友好を飲みましょう。」

「ありがとうございます!」

月の頭脳はハニューの軍門に下ることを決断した。
それは、自らの知的好奇心を満たしつつ、自らの行ったことに対する後始末をつけるためには、それが最も良い判断だったからだ。
しかし事情を知らない第三者から見れば、永琳の行動は同族への復讐のために侵略者と手を結んだように見えた。


side 鈴仙・優曇華院・イナバ

「師匠はやっぱり月の都が憎いんですか!!
 月の都なんて滅んでしまったほうがいい、そう思っているんですか!?」

ハニューが去った後、必死の表情で永琳に問う鈴仙。
逃げ出したとはいえ、鈴仙にとって月の都は故郷であり、大切な場所だった。
その大切な場所を、自分の恩人である永琳が破壊する。
鈴仙には、とても冷静ではいられない状況だった。

「私の手で滅ぼした方がいいわ。」

「そ、そんな…」

永琳の言葉に、がっくりと力を落とす鈴仙。
しかし、続いて鈴仙に言葉がかけられる。

「あくまで、このままではね。


 このまま放置すれば、月の民は月の文明と共にハニューに滅ぼされるわ。
 慈悲もなく。私が滅ぼすより残酷に。

 だから、落とし所を見つける必要がある。」

「師匠?」

「この話をするには…まずあなたには私が見抜いたハニューの正体について話しておく必要があるわね。」

「師匠が見抜いた…ハニューの正体!?」

「ええ、ハニューが寝ている間に、確認は取れたわ。
 ハニューの体はあの子と同じものだったわ。」

永琳の言葉に鈴仙は驚く。
永琳は治療と称してハニューを永遠亭に入院させていた。
その行動にジオンも鈴仙も警戒したが、行われていることは気を失ったハニューの簡単な身体検査のみであり、ジオン監視下のため何も問題がないように見えたが…
どうやらそれは違ったということに、鈴仙は気がついたからだ。
そして、ハニューとあの子…鈴仙が見つけ、一時期共に過ごした妖精とハニューの体が同じだということに驚いていた。

師匠は私にも秘密にして実験を…
となると、他のジオンの兵士達へ治療や、あの大妖精への少し変な対応も全て実験のため?
それで分かったのが、あの子とハニューが同じ体…
どういうことなの。


鈴仙は記憶をたどり、永琳が見抜いたハニューの正体を自分も見抜こうとする。
しかし、鈴仙にはさっぱり分からなかった。

天才の師匠だから見抜けたわけであって、師匠以外は誰も見抜けていないのだから、凡人の自分が見抜けないのは仕方ないか。

鈴仙はそう考え、見抜けないのは仕方ないと諦めるが…
彼女の考えは一つだけ間違っていた。

幻想郷にはもう数人だけ、ハニューの正体を見抜いた者達がいた。
それは、鈴仙がそう考える十数時間前のことだった。

side 八雲 紫

なによこれ…橙以外が全員ご飯を口から噴出させるなんて…そんなに私の言ったことは驚くことかしら!?
「橙…私が言ったことってそんなに驚くことじゃないわよね?」

「えーと…ハニューちゃんが紫様を好きだといったことですよね…
 あっそうか!!

 紫様!おめでとうございます!!」

おめでとうございます??

「大好きな紫様と、お友達のハニューちゃんがお付き合いを始めるなんて、すっごくうれしいです!!」

そんなキラキラした目で期待させたのは悪いけど、そういうことじゃないのよ。
流石にまだわからないか…
「藍?橙が私の言った意味を分かっていないみたいだから、ちゃんと説明してあげなさい。」

「よ、よろしいのですか?」

「?別にいいわよ???」

「いいかい橙。
 妄想と言うのは、精神的なダメージを回避するため…一種の安全装置で誰にでも備わっているものなんだ。
 紫様はハニューに情けをかけられたショックで、ちょっと現実から心が乖離しただけなんだ。
 これは誰にでも起こりえることなんだ、特に紫様のような精神に依って存在する妖怪では。
 だから、決して紫様を馬鹿にしたり《ドギャ!!!》じょ、冗談です「余計に性質が悪いわよ!!」

《BBA暴走中&説明中…》

「つまり紫は、ハニューがあなたを殺さなかったこと、そして美人で素敵な女性だと言ったことの真意に気がついた、ということなのね~
 てっきり、本気で浮かれているのかと思いそうになったわ…うふふふ~」

う…流石に幽々子を完全にごまかすことは無理だった見たいね…
仕方ないでしょ、だって私…本気でちょっと嬉しかったのよ!!
今までこういうこと言われたの、ほとんど無かったし…

「幽々子降参するわ。
 ちょっと嬉しかったのは事実よ。
 でもそれより、今回判明したことの方が大切よ。
 今回はっきりしたハニューの力とその源が問題だわ。

 あれは、一妖精が持つには、あまりにも規格外すぎる。
 つまり、あれは端末じゃないということよ。
 
 端末じゃないということは、世界の意思の表れである可能性があるということよ。」

「そして世界の意思が、あなたを素敵な女性だといい、あなたを愛するような行動を取った。
 そして紫を殺し、幻想郷を奪い取ることができる力があるのに、それをしないことが判明した。
 こんな事実が掴めるなんて、確かにゆかりん大勝利かも知れないわね~。」 

「えっと…どういうことなんですか?」

紫と幽々子の会話に、橙が割り込む。
紫達の会話は橙には難しすぎるようだった。

「藍、今度は失望させないでね。」

「分かってますよ紫様。

 橙、妖精はね、自然…つまり世界そのものなんだ。
 だから、妖精同志はそれぞれ独立しているように見えて、世界の一部なんだ。
 つまり、世界の末端…紫様に言わせれば世界の端末なんだよ。」

「???」

「問題は、ハニューが普通の端末じゃないかも知れないってことなんだ。
 妖精は世界からバックアップを受けて存在している。
 世界はどこにでも存在し、この世界に広く偏在している。
 逆に言えば、一部分だけ密度が高いなんて通常ならあり得ないんだ。」

「??????」

「つまりそこには、何者かの意思が介在していると考えるべきだろう?
 そしてそんなことができるのは、世界そのものでしかないということなんだよ。

 世界に意思なんてものがあるかどうかは、正直紫様でも分からないことだけど…
 逆に意思が無いという証明もされたことがない。

 つまり、ハニューの行動や発言は、世界の意思の表れかもしれない、ということなんだよ。
 ここまではいいかい?」

「????????????」

「そんなハニューが幻想郷の管理人である紫様を愛していると言ったわけだ。
 それは紫様の誇張表現の可能性があるけど、少なくとも紫様を大切にしているということは間違いない。
 そしてそんな紫様を強引に排除して、幻想郷を乗っ取ろうということもしなかった。
 つまりそれが世界の意思である可能性が高いということなんだよ。

 ここまで言えば、後は分かるだろ?」



           ∧  ∧
「三行でお願いします(`・ω・´)キリッ」



[6470] 短編外伝第一話 ゆうかりんサンタが殺ってくる。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/19 21:20
短編外伝第一話
ゆうかりんサンタが殺ってくる。

side ルーミア

「この話は外伝なのだー、第十七話まで読み終わった後ぐらいに読むといいのだー
 この時点でこのキャラを知っているのはおかしくね?とか壊れすぎじゃね?という所もあるかもしれないけど、外伝だから許して欲しいのだー
 後で辻褄合わせするかもしれなけいどー
 それと、展開がいつも通りのベタなパターンだけど、大目に見て欲しいのだー」

「チンチン!?ルーミアちゃん突然どうしたの!?目の焦点が合ってないわよ!?」

side リグル・ナイトバグ

ご存知の通り、人間の里は幻想郷のバランスを保つために、八雲紫によって密かに守られています。

しかし、あの異変は、博麗霊夢、八雲紫共に未然に防ぐことができず、大きな被害を人間の里に与えました。

依然として犯人が見つからず、人間の里の人々を疑心暗鬼の渦に落とし込んだ、あの恐ろしい異変の真相をお話させていただきます。


時は去年の12月。
幻想郷にも年の瀬が押し迫って来ていた時の話です。

誰もがお正月に向けて慌しかったその日、僕は太陽の畑にいました。
そしてそこには、密かな野望を胸に秘めた、一人のクリーチャー…
じゃなくて、風見幽香さんがいたのです。

「リグル準備はいい?」

「あの幽香さん?「ゆうかりんサンタ!」あの、ゆうかりんサンタっていったい何なんですか?」

「外の世界には、12月24日か25日あたりをクリスマスと言って、その時に子供達の所にプレゼントを配るサンタクロースという怪人が現れるのよ。
 でも幻想郷にはそんな怪人は居ないわ。だから私がプレゼントを子供達に配るのよ。」

「どうして、幽香さんが「ゆうかりんサンタ!!」ゆうかりんサンタがそれをする必要があるのか分からないのですが…」

「これを見なさい!」

幽香さんが出したのは『文々。新聞冬の増刊号 特集 子供に人気のある妖怪トップ10』という記事でした。
ええ、それがあの異変の元凶だったのです。

「えーと何々。1位 射命丸 文!? 子供達のコメント お菓子を何時もくれるのでアタイは文が大好き「そこじゃない!もっと下!!!」は、はい!!」


「番外編 最も人気の無い妖怪
 1位 風見 幽香
 子供達のコメント
 怖いウサ。
 目が合ったら死ぬって聞いたことがあります…ハニューちゃん助けて…。
 サディストとは遊んだら駄目って藍様が…。
 2位 八雲 紫
 子供達のコメント
 なんか臭いのだー。
 リリカの体を、嘗め回すようにジロジロ見るのは止めてください!
 藍様のお母さんだから大好きです。」


「このように、私の素晴らしさがまったく子供達に伝わってないの。
私は子供が大好きで、優しくて強い、素晴らしい妖怪なのよ!だから子供達に私がプレゼントを配って、私の素晴らしさ伝えるのよ!!!
 なんでも、サンタクロースという奴は、子供達に大人気らしいのよ。だから私が幻想郷のサンタクロースになって、子供達から大人気になるのよ!」

本人も少し隠しているので知られていないのですが、実は幽香さんは子供とか可愛いものとかが大好きなのです。
ですので、この結果には納得できなかったらしく、ああいう行動に出たのだと思います。

あ、この子供が好きという所はオフレコでお願いします。


正直に言うと僕は乗り気ではなかったので、発想はとにかく、日々の行いを改めたほうがいいと思いましたね。
でもそんなことは言えるはずも無く…

「そんなことをするより、この記事を書いた文さんをどうにかした方がいいんじゃ…」

と文さんに矛先を向けてしまいました。

「そっちはもう済んでいるわ。」

矛先を向けてしまって、ごめんなさい文さん。
と思っていたら、どうやら文さんは、既に亡き者にされてしまっていたようです。
これには驚きました。


え?じゃあ、僕と話している私は何なんだって!?
あははははは…そうですよね、文さんは生きてました。
でも、この時は本当に幽香さんに殺されたのだと思いましたよ!!

だいたい、どうして文さんは生きているんですか!?


コレクションを分けた!?


え?それってどういう意味ですか???


何でもないです。今話したことは忘れてください。ですか!?



はあ…まあいいです。

とにかく、幽香さんの人気アップのために、僕達は幻想郷の夜を飛び回ったんです。


最初に出会ったのは…
そう、魔理沙さんでした。

魔理沙さんは大きな袋を担いで、箒で飛んでいました。
多分、どこかに盗みに入った帰りだと思います。

「見つけたわ!!さあプレゼントを渡すわよ!!!」

「ゆうかりんサンタ!?プレゼットって何を渡すんですか!?」

「これよ!!」

幽香さんが出したのは大きな向日葵でした…

え?どうして向日葵がプレゼントなのか?ですか?
幽香さん曰く「寒い冬に向日葵だなんて洒落てるから、喜ばれるに決まっている。だいたい、フラワーマスターである私が断腸の思いで刈り取った向日葵を喜ばない筈が無い。」とのことだそうで…

ええ、文さんの言うとおり、かなり無理がある発想だと思いましたよ。
でも、そんなこと言える訳無いじゃないですか!!


ごめんなさい…怒鳴ってしまって…
では、続きを話しますね。
それでですね、気がついたら魔理沙さんに向日葵が刺さっていました。


「ゆ、ゆうかりんだ!?逃げるぜ!!!!!スピード勝負なら負けないぜ!!!!!!」

「甘い…プレゼントを受け取れ!」

という感じで、向日葵を幽香さんが投げまして…
こう、ブスッといってしまいました…


ええそうです。
お尻に刺さってました。


はい?
魔理沙さんが新年早々に痔になった記事を書いた?
ああそうですか…
間違いなく、幽香さんが原因ですね。
ご愁傷様です。




それで次に向かったのがアリスさんの家です。
といっても、当時は面識が無かったので誰の家か知りませんでしたが…

「なかなか幸先のいいスタートね…次はあの家にしましょう。ねえリグル。ちょっと様子を見てきてくれる?」

「はい…」

という感じで、僕はアリスさんの家を覗きに行くことになりました。





「シングルベールシングルベール鈴が鳴る~今日は楽しいクリスマス~」
そこで目にしたのは、友達と書いた張り紙を着けた人形達と一緒に、ケーキに向かって歌っているアリスさんの姿でした。

おまけに…
「こんなことをしていても楽しくないわ…
 そうだ…
 聖夜の意味を性夜と取り違えている馬鹿共を呪えば、きっと楽しいわ!!!!!
 来たれ嫉妬の神よ!バカなカップル共に制裁を!!!バカなカップル共に地獄の苦しみを!!!!」

と、突然言い出して、なにやら怪しいマスクとワラ人形を取り出し始めたので…


「ゆうかりんサンタ。あそこには子供はいませんでした!」
思わず、全て無かったことにしてしまいました。

止めるべきだったのでは?ですか。
確かに、止めるべきだったのかもしれませんが、幻想郷でクリスマスを知っていて、尚且つカップルでクリスマスを楽しんでいる人なんて居ないと思いますよ~。


あ、このことはお願いですから記事にしないでくださいね!!
こんなことを記事にされたら、冗談抜きでアリスさんは首を吊ってしまいますよ!

面白そう!?

バカなことを言わないでください。
アリスさんはずっと友達がいなかったけど、勇気を出したおかげで、ついに友達を手に入れることができたんです!
それを、滅茶苦茶にするなんて、僕だって絶対に許しませんよ!!
今の僕とアリスさんは友達ですからね!!


それに、そんなことになったらハニューさんが文さんを許すと思っているのですか?











分かってもらえてよかったです。

アリスさんの次ですが、一回空振りになってしまったので、次は「確実に子供が居る所にしよう。」ということで八雲家に向かうことにしました。
あそこには、橙ちゃんが居ますから。

ところが、橙ちゃんの部屋に入ったところで、藍さんに見つかってしまいました。

「いったい何者だ!?危なかった…橙の寝顔を撮影していなかったら気がつかないところだった…」


「そこの狐さん?クリスマスプレゼントを持ってきただけだから、退いてもらえるかしら?」


「クリスマスプレゼント!?どうせ橙を襲って、橙を大人の女にしてあげるのがクリスマスプレゼントだよ。とか言うのは分かってるんだ!!!氏ね!!!」

という感じで、まったく会話が噛み合わない状態でして。

気がついたら、藍さんの尻尾を幽香さんが三本ほど引っこ抜いてしまっていました。
それはもう…地獄絵図でしたよ…部屋が血で染まり、幽香さんも真っ赤に染まっていましたからね。
幽香さんは「まあ!服が赤くなって、サンタクロースっぽくなったわ!」って喜んでましたけど…


とにかく、その後、泣き叫ぶ橙ちゃんに向日葵を渡して退散しました。
おかげで、一ヶ月近く橙ちゃんとまともに会話ができなくなってしまいましたよ。
ハニューさんに仲を取り持ってもらえなかったら、今頃どうなっていたか…
















あっ!ごめんなさい。
物思いに耽ってしまって…
次ですよね。
次は紅魔館に向かいました。

「ここは当主以下、子供がいっぱい居るから、ボーナスステージね!」と幽香さんは張り切っていましたが、嫌な予感しか、しませんでした。


「ここを勝手に通すわけにはいきません!」

その日は、ハニューさんが企画したパーティのためか警備が手薄だったので、いきなりめーりんさんに鉢合わせしてしまいました。

はい。
そうです。ハニューさんも何故かクリスマスを知っていて、あの日はハニューさん主催でクリスマスパーティという何かの催しを行っていました。
そのため、ジオン所属の妖精メイド達は全員そちらに向かっていてかなり手薄でしたね。
もちろん、何人か門番隊の妖精達も居たのですが、血に染まった幽香さんを見るなり逃げ出してしまっていまして…

そうなんですよ。
あの時の幽香さんの見た目は、そりゃ恐ろしいものでしたよ。
話は戻りますが、紅魔館に着く前に三人組の妖精に出会ったのですが、幽香さんに出会うなり三人とも失神してしまう程でした。

とにかく、まともに会話ができたのは、めーりんさんが最初でした。

「メリークリスマース。かわいい子供に、ゆうかりんサンタからプレゼントよ!」

さすが幽香さんと言うべきなのでしょうか。
めーりんさんにプレゼント(向日葵)を渡してしまいました。
これで、無事に紅魔館に入れるかと思ったのですが…

「わあ、ありがとうございます!でも私が子供って…幽香さんってやっぱり私よりかなり年上なんです ドゴォ!!!!!

めーりんさんが門に突き刺ささるという結末になってしまいました。

ええ…
文さんが呆れるのは分かります。
この人は、血に染まらないと前に進めない呪いがかかっているのかと思いましたよ。

本人は「えへ、変なことを言うから手が滑っちゃったわ!!ごめんね、向日葵をもう一本あげるから許してね!」と可愛いく誤魔化してましたけど、まったく誤魔化せていませんでした。

そして紅魔館の中に入ったのですが…
紅魔館に入って最初に出会ったのが、咲夜さんでした。
強敵ですが、幽香さんなら、なんとかなるかな?と思ったのですが…
咲夜さんに、紅魔館を追い出される結果になってしまいました。

どうしてか?ですか…
確かに、幽香さんの方が実力は上です。
しかし…

「あなたはPADが欲しいと事前のリサーチで分かっているけど、生憎PADは無いからこの向日葵をブラジャーに詰めて我慢してくれる?」

と幽香さんが言った後の咲夜さんの攻撃は凄まじかったのです。
幽香さんの名誉のために言っておきますが、これは喧嘩を売ったのではなくて、本当に咲夜さんに申し訳なくて言ったんですからね。
え?弁護になってない?

確かにそうですね…

とにかく、咲夜さんは変なポーズを取りながら「無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァァ!」とか言って、幽香さん相手に肉弾戦を挑んできたりして…
もの凄い攻撃の嵐でした。
あまりの勢いに僕も幽香さんも圧倒されてしまって、あっという間に紅魔館から追い出されてしまいました。


え?
幽香さんの様子はどうだったって?
そりゃ、憤慨していましたよ。
でも、咲夜さんとの弾幕ごっこ(?)で時間をかなり浪費したことに気がついて、最後は紅魔館に入るのを諦めました。

幽香さんは、ああ見えてちゃんと頭を使う人なんですよ。
ちょっと頭の使い方が間違っていることが多いですけど…



ということで結局、紅魔館でプレゼントを渡せたのはめーりんさんとハニューさんだけでした。


ハニューさんの話なんて聞いていないですよ!?ですか!?

ハニューさんの話は、どうせ記事にできないので、話さなくていいかなと…
わ、分かりました!ハニューさんについては、これからお話しますから落ち着いてください。


幽香さんが、紅魔館に再度突入すべきかどうか思い悩んでいたとき、紅魔館の門を潜って外に出てくる人影が一人。
それは一見すると、クリスマスパーティでほろ酔い加減になった状態で、幽香さんと咲夜さん戦闘の様子を窺いに来たように見えるハニューさんでした。


はい?

そうです。文さんの言うとおりです。
『一見すると』とは、あくまで演技だということです。

まずは、話を全部聞いた方が意味が分かると思いますので、続きを話しますね。


フリフリのドレスで着飾ったハニューさんが、まるで酔っ払ったような千鳥足で危なっかしく歩く姿が幽香さんのツボにはまったようで…
幽香さんは、ハニューさんに駆け寄ると「まあ可愛いわね!可愛くて良い子のあなたに、ゆうかりんサンタからクリスマスプレゼントよ!!」と向日葵を渡しながら大喜びでした。
それに対して、ハニューさんは「わあ!!真冬に向日葵!?…こんな貴重なものをありがとうございます!!!」と、まるでプレゼントを喜んでいるかのように、目をキラキラさせて…
「サンタさ「ゆうかりんサンタ!」ゆうかりんサンタ!!ありがとう!!大好き!!」と言って幽香さんに抱きついてしまいました。

流石ハニューさんだと思いましたね。

え?話を全部聞いたのに、全然意味が分からないですって!?

うーん。
では、少し補足しますね。

先ほど、幽香さんは頭を使う人だと言いましたが、だからといって紅魔館を諦めることに抵抗が無かったわけでは無いのです。
幽香さん曰く「あの子がプレゼントを喜んでくれたおかげで、紅魔館を訪れたことは無駄では無かったんだと気持ちの整理がついたわ。あれが無かったら、無念さで後からもう一度紅魔館に向かっていたかも…」とのことでした。

一方、ハニューさんはクリスマスパーティを主催していました。
しかし、参加者は紅魔館のメイド達なので、何か万が一のことがあればパーティを止めて出撃しなくてはならないという問題がありました。

つまり幽香さんは、ハニューさんにとってクリスマスパーティの障害だったわけです。
だから、ハニューさんは幽香さんを喜ばして、二度と紅魔館に来ないように仕向けたのだと思います。



それは考えすぎですって!?

考えすぎじゃないです!
確かに、ハニューさんが出てきた後、僕はハニューさんに見つからないように隠れていたので、想像力頼りの部分があるのは事実ですけど…
ハニューさんのことは、僕の方が文さんよりよっぽど詳しいです!!

よく考えてください。
ハニューさんが現れたとき、幽香さんは戦闘の直後で気が立っていて、殺気立った妖気が駄々漏れだったんですよ。
それこそ、ハニューさんの後を追いかけてきた妖精の足が竦んでしまう程です。
おまけに、辺りが暗いとはいえ、血塗れですよ!?

こんな状況で、平然と貰ったプレゼントに喜んでいられるなんて、ありえないですよ。
大体、そんな状態の幽香さんがサンタだと名乗っても、素直に信じる人がいると思いますか?いるわけ無いですよ!!


そう考えると、明らかにハニューさんの行動って不自然ですよね?

そりゃ、幽香さんの殺気立った妖気も、血塗れであることにも気がつかないぐらい『無知・無力な存在』で、まるでお酒で酔っ払っているときのように『無邪気で無防備な存在』だったら自然な行動だといえますけど…
あのハニューさんですからね…それはありえないです。


あ、分かっているでしょうけど、ハニューさんに関することもオフレコでお願いします。
幽香さんって結構繊細な所があるので、あの時のハニューさんの行動が演技だと知ったらショックを受けてしまいますからね。



でも、これも面白そうだから記事にしたいですって!?


止めた方がいいですよ…
万が一、幽香さんがガセネタだと思って逆上したら…僕も文さんも多分…

僕が記事にできないって言った理由、わかりますよね?



この話題はここまでにしましょう。






紅魔館の次は、幽香さん曰く「紅魔館での失敗から学んだ。」ということで「量より質よ。」とか言い出して、博麗神社に向かうことになったんです。
幽香さん曰く「博麗霊夢に好かれたら、幻想郷中の子供に好かれたも同然。」だそうです。
正直、イマイチ意味が分かりませんでした。


そんなこんなで、博麗神社に着いたのですが…
何故か八雲紫さんが博麗霊夢の寝室にいて、鉢合わせしてしまったんです。
「霊夢を大人の女にしてあげるわ。これが私からの、愛のクリスマスプレゼントよ~!!!」

ああ、式と主人とはいえ親子なんだなと、その時思いましたね。
何故冬眠中のはずのこの人がここにいるのか?とか、色々と疑問に思いましたが、幽香さんとの壮絶な弾幕ごっこが開始されたので、僕は逃げました。

勝敗ですか?

つかなかったです。

途中で博麗霊夢が起きてしまいまして…
幽香さんが置いた向日葵に、大喜びで食いついたからです。


ええ、文字通り。
口に入れる方の、食いついたです。

冬場だったので、かなり食べ物に困っていたようですね。
それを見て、幽香さんは満足して引き上げたという訳です。


その後の、博麗霊夢の貞操の行方ですか?
さあ?それは分からないですね。




え?そのまま家に帰ったのか?ですか…
もちろん、そのまま家に帰った訳ではないです。


ことの始まりは、香霖堂の近くを通った時に聞こえてきた願い事です。
朱鷺子さんが、流れ星に願い事をしていました。
それを偶然を聞いてしまいまして…

内容ですか?「香霖堂が繁盛しますように。」と祈っていましたよ。
あとは…「来年はもっと美味しいケーキが作れるように。」とも祈っていた気がしますね。


とにかく、最初の「香霖堂が繁盛しますように。」という願いを聞いて、幽香さんは思い付いてしまったのです。
実はちょうどその時、大量に向日葵が余ってしまいましたので、それを人間の里の子供達に配ろうということで、人間の里に向かっている途中でした。

朱鷺子さんの願い事を聞いた幽香さんは、ただ配るだけではなく、朱鷺子さんの願いも叶えてあげようと考えたのです。
幽香さんは、向日葵一つひとつに「香霖堂をよろしく」と書き込んでいきました。

あんな芸当を器用にこなすなんて、流石フラワーマスターだと思いましたね。

そこまでは良かったのですが、もう夜明けが近付いていたので「一軒ずつ配っている時間が無い」とか言い出して向日葵をばら撒いてしまったんです。

そうです。
人間の里の上空、数千mからです。
おまけに、風に流されずに人間の里にちゃんと落ちるようにと、弾幕のように妖力を籠めた奴をです。




はい、そうです。
これがあの異変の真相です。
異変を未然に防げなかったのは、八雲紫が博麗霊夢を襲おうと必死になっていなかったため…
そして異変そのものである、真冬の夜に人間の里を襲った向日葵の雨の真相は、幽香さんからのクリスマスプレゼントだったんです。
大穴が開いた家とかが続出して大惨事になったようですが、奇跡的に死人は出なくて本当によかったですよ。

ええ。
ですので、犯人と疑われたこーりんさんは、まったくの無実です。
朱鷺子さんとの絆が一層深まって、婚約の直接的な原因になった事件でしたけど…
ちょっと可哀想でしたね。


え?
謝りには行かないのかって?


実は、こーりんさんにこんな芸当が出来るはずが無いってことで、疑いが晴れた後に一度謝りに行ったのですが…
家の中を覗いたらこーりんさん達、幸せそうにベタベタしていて…もの凄く声をかけ難くて…そのままです。



事実をすぐに公開すれば早かったのでは?ですって!?

そんなこと言われても…
あの状況で真実を明かす勇気なんて、僕にはありませんよ。

それに、こうやって今、真実を話しているじゃないですか!!




あの…
因みに、誰が喋ったか、本当に分からないように記事にしてくれますよね!?

もし、僕が喋ったと分かったら…

い、嫌だ…僕はまだ死にたくないーー!!





そ、そうだ、ハニューさんなら、ハニューさんなら、きっと幽香さん相手でもどうにかしてくれる…


え?
ハニューさんのクリスマスパーティーに参加せずに、悪事を働いていた僕をハニューさんが許す筈が無いですって!?

そんなこと言わないでくださいよ!!

何でもしますから、絶対に僕が喋ったと誰にも言わないでくださいね!!!


はい?
写真を撮らせてくれたら、絶対に喋らない!????
それぐらい、いくらでも撮らせてあげますから、お願いします!!!


あれ?
その怪しい笑顔はなんですか!?

駄目ですよ!!!
男の子の格好なんてしませんよ!僕は女の子なんですよ!


え?

スカートを穿けばいいんですか?

まさか、僕のスカートの中を撮影させろとか言う気じゃ!?



はい…そんなことはしない…?

ただ立っていればいい、ですか…

随分と普通の撮影ですね。
ちょっと予想外です。




うう…
でも、久しぶりにスカートなんて穿くと、ちょっと恥ずかしいなあ…






え?
その恥らう姿がたまらない!?
な、何を言っているのですか!?




side 風見 幽香

フフフ…まだ秋にもなっていないのに…
今年の『文々。新聞冬の増刊号 特集 子供に人気のある妖怪トップ10』が楽しみで仕方がないわ…
ゆうかりんサンタ効果のおかげで、結果が分かっているというのが少し面白くない所だけど…

これぞ王者の悩みというものね、フフフ…!!


さて、今日の文々。新聞はと…

あら?
チラシが入っているなんて珍しいわね…

『待望の女装少年シリーズついに発売!モデルはデビュー前ながら、幻想郷ナンバーワンの女装少年との声も上がっているR・N君!ご注文及び詳細は、文々。新聞社(裏)まで直接お問い合わせください。なお、この広告は裏会員様にのみ配布しております。』








子供好きの私としては、子供の研究のために資料として必要ね…
これは研究のため、これは研究のため、これは研究のため…



ふう…



さて、気を取り直して、今日のニュースはと…
うん?なにこの記事…

『大変申し訳ありませんが、毎年恒例の特集となっておりました、子供に人気のある妖怪トップ10は諸事情により今後休載することが決定いたしました。』

な、なによこれは…
私がランキング一位を独占し続ける夢が…

こんな…

こんなことって…


これから何を楽しみにして生きていけばいいの…ゆうかりん泣いちゃう…











いや、泣いている場合じゃないわ、行動あるのみよ!ランキングが無くなろうとも、子供達の人気者と言えば、『ゆうかりん』となるその日まで私は走り続けるのよ!!


といっても、何から手をつけようかしら…










そうだわ…
私は『ゆうかりんサンタ』…幻想郷のサンタクロース!
もしも、外の世界のサンタクロースが消えれば、私が唯一絶対のサンタクロースになることができる…

そうなれば、子供達の人気も…私一人のモノ!!!!!!





サンタクロース…あなたが幻想郷を訪れたその日が、あなたの命日よ…フフフ…


side 光の三妖精

「この向日葵、絶対に凄い向日葵だって!!」

「確かにサニーの言うとおり、あの怖い妖怪に出会ったけど、私達は無事でこの向日葵が手元にあって…この向日葵が守ってくれたのかなあ?」

「とりあえず、私達の力で枯れないようにして早数ヶ月…何度見直しても普通の向日葵なのよね。」

「「「うーん…」」」


side ルーミア

「文が一番悪いのだー、文みたいに悪いことをしていると、サンタは来ないから注意するのだー
               _,.  -‐ '"`'"´‐- .,_ l::::!::::://::,.:::::::::::j
           ,. '´            ヽ:i::::7-‐'´::::::::::/
        ,._                   ヾ/ー-<`"´
       /´      、     i      、   ヾ  , ハ
      /.  /     ハ1     l    、 ,}    i  i  ,
    〃   / /   / i ! ト、   l1     ヽ i     l  !  l
    /7  / /    j! lハ,1 ,     lヽ      ゞ、  i !  |  !
    //  / {    ハ i l ! ヾ    ヽミ    リ!   リ1ハi   l
    / /7  / ,   / 1 ! l|  ヽ  _,.」L ‐- 、 l| !   リj1}!  i
  〃イ/  /! ト、 l! 」_ l ヾ   ヾ   ヽ ヽ `メ、   /イリj   !
  レ / !  l| ! l i ,升 ヽj   ヽ  ヽ,ィf斤汽ミ、 l|!  /ィ1 |!  l
  l| i {i  ハ1 ン1 l}ィfチ㍉  `   ! トr丐イネ}|l!  /´l | j   l!
   ! l , ! 从 ! ヽ l{ マr外       、うェ外j! ノ   j1!  l  l|
     V1リヘ l卞ゝ弋rり        `ー‐'´ /1  l !l  !j'1l
      ヽ1/ ヽlヽヘ xxx  、      xxx/7!  // j   j/7!
      /7,ヘ、1j ヾ、 .     、 ‐v   ノ /≠ //i/   // j!
       Y/ , ヽ____ >、- .,_ `ー'    /7´ ノ //  // /
      ノ '´ -‐ / ,イj ll!_,≧ーr‐ '´ /"´ノ^ヽ、 ノ/
     /    / /〉'´7:::::::/ j!  / /'゙´:::::::::::::::\
    ./      .//  j::::::/  /_/  /::,. -‐'"'ー-、 ヽ
 r- マ,__     イ'゙´ , ! /::::/`r‐≠ヘ //,          i::!
./    ヽ /   j .lノ::γヽY: : : : Y:/z          !:l
`' ヽ、  ヽj  __,」/:::: - ー'夂⌒f-'´          Yリ
    ヽ、 ル'"´: : : : : : : :__∠'"´_  _ _          /
     ヽj: : : : : : : : : : ノ´                   /

             メリークリスマス                       」


「-‐ '"`'"´‐- .,_ l::::!::::://::,.:::::::::::j!?チンチン!?ルーミアちゃん!?言葉になってないわよ!?何を喋ってるの!?
 
 ルーミアちゃん疲れているのね…ハニューちゃんと一緒に病院にでも連れて行ったほうが…」



[6470] 短編外伝第二話 夢を、夢を見ていました。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/10/24 10:58
短編外伝第二話
夢を、夢を見ていました。

side ルーミア
「この外伝は、第十九話の後に投稿したのだー
 時系列的には、第七話のちょっと前ぐらいなのだー


 それと、この話は元々18禁用として作ろうとして挫折したものなのだー
 どこに18禁部分が入るかは読むと分かるから、個人で勝手に妄想して補完するのはOKなのだー」


side ハニュー

夢を、夢を見ていました。
その夢の中で俺は、エイプリルフールで皆を騙していました。





ということで、突然ですがエイプリルフールを楽しみたいと思いまふ。
ネタはこちら…


『お嬢様変装セット~』


ふふふ~

これはね、こうやって着るだけでお嬢様そっくりに変身できる道具なんだ。


なーんてね、お嬢様とそっくりな服に黒い蝙蝠の羽がついているだけですけどねー。

このお嬢様変装セット(自主制作)で、お嬢様に変装して皆を騙してやりましょう。

といっても、青い髪と胸が無い…………以外は俺とお嬢様はそんなに似ていないのですけどね。
まあ、このぐらい簡単にバレるほうが、笑えるネタになっていいでしょう。


さてと、まずは性能試験だ。
今日のためにチルノを俺の部屋に呼んでいます。
そして、そのチルノをお嬢様のコスプレをした俺が出迎えて、反応を見るわけです。
(屮 ・Д ・)屮 チルノカモーン


                       「ハニュー来たぞ~!」

お、来た来た。
遠くから声が聞こえてきます。

             「あたいに用って何だー?」


 「最強のあたいだから、どんな用でもぱーぺきだけどね!」

近付いてきたな!
さあ、俺の部屋の扉を開けるんだ!

             「あれ?ハニューの部屋って何処だったっけ?」

       
       
                       「ハニューの住んでいる場所…ハニューの住んでいる場所…」



                                  「あ、そうだ。ハニューは大ちゃんの家に住んでいるんだっけ!あたいって最強よね!」






さてと、部屋から出てターゲットを探しましょう。

え?性能試験?
ナンノコトデスカ?





お、廊下をフヨフヨと飛ぶ、ルーミアを発見!!
このルートは俺の部屋に向かっているようですね。
よし、先回りしましょう。


----------


ルーミアに先回りして俺の部屋に着きました。
さてと、ドアの方向に背中を向けて、ルーミアから俺の背中しか見えないようにしてと。

うん。ちょっと身長が違うけど、後姿だけ見るとお嬢様そっくりだと思う。


だから、多分こんな感じになるはず。

ルーミア「ハニュー遊びに来たのだー」

ルーミア「はわわ!ハニューかと思ったら、お嬢様だったのだー、溜め口でごめんなさいなのだー」

俺「本当にダメなメイドね!!」

ルーミア「なんだ、ハニューだったのか、騙されたのだー」

AHAHAHAHA!!!



いい感じだなw






ガチャ!

「ハニュー、いつまで経っても来ないので迎えに来たのだー」

そうだった、今日はルーミアやアイリスと会う予定だった。
でも、ルーミアを騙すために、ここは我慢だ。






「お嬢様なのかー?それともハニューなのかー?いったいどっちなのだー???」


ちょ!後姿しか見えていないはずなのに、俺じゃないかと疑ってるよ!?
「わわわ、私は、ハニューじゃないわよ!レミリアよ!!主人の顔も忘れるなんて、ダメなメイドね!」


「やっぱり、ハニューなのだー。声を聞いたから間違いないのだー」


嵌められたー!?

「ハニューがコスプレするほどお嬢様が好きだと思わなかったのだー。ニヨニヨ。」
ルーミアがニヨニヨした顔をして俺の肩を叩いているがな。



----------



ルーミア曰く、気配が俺だったから、鎌をかけたとのこと。
そんなニュータイプみたいなことを言わなくても…



くそう。

もっと、お嬢様らしい気配を出さないとダメなのか…






うーん…
お嬢様らしい気配ねえ。




----------



ということで、今度はお嬢様らしく、ワイングラスにトマトジュースを入れて飲んでいます。
お嬢様が大好きなトマトジュース。
何故か、お嬢様は血を垂らした紅茶が飲みたいとか、血を入れたジュースやお酒が飲みたいとよく言うので、トマトジュースは紅魔館にいっぱいあります。
え?
話が合わない。

いやね、去年の博麗の巫女の襲撃で一時期財政が苦しい時期がありまして、メイド長から経費削減を指示されたので血の代わりにトマトジュースを入れて出したら…

「これ美味しいわ!この高貴な味に香り、私にぴったりだわ!」

とお嬢様が喜んでくれたので、それ以後はいつもトマトジュースを出しています。
トマトジュースだと伝えていないことが少し心配ですが…
血の味を語らせたらゲンソウキョウ一と豪語するお嬢様なので、これが血ではなくトマトジュースだと、とっくに気がついているはずなので問題ないでしょう。


という話はおいて…
トマトジュースを飲んでも、いまいち違うんだよなあ。

なんかこう、もっとカリスマって感じで、他者を足蹴にしてもまたそれが似合うって感じがあるんだよなあ。


「ちょっとルーミア、床に寝転んでくれる?」

「分かったのだー」

とりあえず、ルーミアのお腹の上に足を乗せてみた。






うん。お腹がプニプニしている。

ではなくて、いまいち雰囲気が出ない。
「なあルーミア。何でも良いから何か俺のカリスマが大幅UPな感じの台詞言ってみて?」

「不夜城レッド…全世界ナイトメア…凄い技だったのだー自分では使いたくないけどー ガク!!」

うーん。
さっきより少しマシだが、やっぱり違うなあ。




ガチャ!

「ハニュー総帥!どうされたのですか!いつまで経っても…
 
 レミリア・スカーレット…」

ちょ!?
予想外のターゲット。
アイリスが来たー!!

しかも、俺の背中しか見えていないためか、俺をお嬢様と勘違いしているし…これはいけるかも。

アイリス「レミリアお嬢様。どうしてこのようなお部屋に。」

俺(無言で、背中にいるアイリスにグラスを差し出す。)

アイリス「お注ぎいたします。」

グラスにジュースが注がれる。

俺 ジュースを飲み干し「不味い!            もう一杯!!」

アイリス「ハニュー総帥だったのですか!!それに、いつの時代のネタを言っているんですか!?古すぎますよ!」

AHAHAHAHA!!



よし、今度こそいける!!





近付いてきた、近付いてきた…
「ハニュー総帥はどこですか?」

俺の居場所を聞いてきているが、それは無視してグラスを突き出して…











ん?何も言ってこないぞ?







ドン!!






衝撃!?

あれ!?
景色が突然ひっくり返って!?
天井が見えて!?








うわ!?

今度は目が手で塞がれた!!!

「正直に話せば命        

 も、申し訳ありません!!!!!!」


















えっと…


視界が開けたら、俺に馬乗りになりながら必死に謝るアイリスがいました。
どうしてこうなった??

「レミリアとハニュー総帥を間違えるなんて…
 どのような罰でも受けるつもりです!!!」

はあ?
これは何か勘違いしたようですね。


----------


つまり要約すると、お嬢様がルーミアと俺を攻撃したと思ったから、お嬢様(俺)を攻撃したとな!?

俺達は、仮にもお嬢様の従者だよ!?

それなのに、友達のためにお嬢様に手をあげるとは…
アイリスはいい奴だな。

「アイリス。そこまで俺のことを思ってくれてありがとう、うれしいよ。
 だから、この件はこれでおしまい。何も気にすることは無いよ。」

「は、はい!!
 あの、ところでハニュー総帥はいったい何をしていたのですか?」

うーん…
ここで言ってもいいけど、あんまり知っている人が増えると情報が漏れると困るからなー

「それは俺とルーミア、二人だけの秘密なんだ、ごめんね。」

「そうですか…秘密ですか…」

何だか残念そう…

「秘密の遊びなんだよ、このことは他の人に知られたくないんだ…だからごめんね。」

「い、いえそんな!」



----------

アイリスには帰ってもらったが、結局イマイチな成功ばっかりだよな。


なんかこう、もう少し面白く騙せないものかな。
やっぱり演技力に問題アリだな。


よし、こうなったらお嬢様に直接アドバイスを貰いに行こう。


side アイリス

ハニュー総帥がいつまで経っても、姿を現さない。
ルーミア副指令も迎えに行ったが、帰ってこない。

私は何か良くないことがあったと思い、ハニュー総帥の部屋へ向かった。

ハニュー総帥の部屋で見たものは、倒れこんだルーミア副指令と、それを踏むレミリア・スカーレットの姿だった。

私は怒りを抑え、ハニュー総帥の居場所をレミリア・スカーレットに聞いたが、答えは返ってこなかった。


状況を思い出すと、本当に危なかった。
危うく、ハニュー総帥の心臓に手を突き刺すところだった。

怒りに身を任せ、吸血鬼の急所を攻撃すべきか、冷静になりハニュー総帥の居場所を聞き出すべきか私は迷い、辛うじて後者を選ぶことができた。
結果として、ハニュー総帥に忠誠心を見せることができたのは良かったが、前者を選んでいたらと思うと、寒気が走る。




しかし、ハニュー総帥はいったい何をしていたんだ?

ハニュー総帥とルーミア副指令の二人っきりで、秘密の遊び????
そして、ルーミア副指令をレミリアの格好をしたハニュー総帥が踏んで…

ま、ま、ま、まさか、そういうシチュエーションのSMプレ(ry








い、いやそんなこと無いはず。
きっとあれは、レミリアとの戦闘を想定した訓練だったはずだ、そうであってほしい!
いや、そうに違いない!!
うん!うん!

----------

side ハニュー


「ハニューです。失礼します。」


…あれ?



返事が無い、とりあえず中に入ってみるか。






なんだ、お嬢様の部屋に入ってみたが、誰もいないではないか。


「どうするのかー?」

どうしようか、困ったよね。





ガチャ!
「スーパーくんかくんかタイムスタート(ハート)。
 今日もお嬢様の乳臭い匂いを堪能…」



あ、メイド長。





「…」





「…」




なにやら、もの凄くまずいものを見てしまったような気がします。
「お、お嬢様はいなかったから、そろそろ帰ろうかな…」
こういう時は、さっさと帰る方がいいです。


「ハニュー待ちなさい。お前、見ていたな?」

「な、何も見てないですよ?別にメイド長がだらしない顔で変なことを口走っている所なんて見てないですよ??」





「…」





「た、例え見ていたとしても、別にメイド長がベッドの匂いを嗅ぎながら、色々とエロイことをする予定なんだなーとは、これっぽっちも思ってないですよ!?」



ジャキン!

げ、ナイフが出てきましたよ!?

「二人とも、私の部屋に来てもらえるかしら?」


「俺、頭悪いから、直ぐ忘れますから!あばばばばばば!!!って感じですから!ほらルーミア。お前も頭悪いよな?メイド長に頭が悪い所見せてあげて!」









「ルーミアが!やんやんおにいたんダンスおどりまーしゅ♪
 ドゥクドゥク♪ やんやんやんやん♪おにーいたん!(お尻を右斜め75℃あげてポーズ!
 やんやんあんあん♪おにーたまぁ!(うるんだ瞳で左に小首をかしげるの・・・ 「スターップ!!!!!!」

スターップだルーミア!
その台詞は色々とヤバイ気がする、例えば壷や双葉の深遠を見たようなヤバさというか何というか…
初めて世に出た時に、絶対許早苗的な扱いを受けてそのまま黒歴史化したというか…
って俺はいったい何を言っているんだ…

とにかく、冗談抜きで頭がおかしくなった様に見えるぞ…
流石のメイド長もドン引きしています。
頭が悪くなった作戦は失敗だな。


こうなったら、何かでメイド長の気を逸らして逃げるしかありません。

「窓の外を見るのだ~お嬢様が、ブリとハマチを持って踊っているのだー!!!!」

なんだと!?
お嬢様が窓の外にいるだと??

「なんですって!?おぜうさまの貴重なダンスシーンを見逃すわけにはいかないわ!!!!」

よし、お嬢様に助けてもらおう!!








あれ?いない…
「ルーミア、お嬢様なんてどこにもいないけど…




 ルーミア???」













ルーミアもいないのですが??






「ルーミアはもういいわ。ハニューだけ、私の部屋に来なさい。」

どうしてそんなこと言うのおおおお!?




----------




ガチャリ!


げ、メイド長。
今、鍵をかけましたね。

しかも、カーテンも閉めているし…

やばい…
どう考えても、俺に私的制裁をしようとしていますね!

「あの、メイド長??気に入らないからと、私的制裁をするのは、ただの虐めですよ??よくないですよ??」

「ハニュー。お嬢様と同じ様な服装を勝手にするなんて、お嬢様を貶める行為だわ。だからお仕置きよ!」

そうきたかー!!
貶める行為かどうかはわからないが、確かに勝手にお嬢様の格好をしたのは、あまりよくない行為だったかも。

「こう暗闇で見ると、お嬢様そっくりね…フフフフ…ちょっと、お姉さんに色々と触らせなさい。」

ニヤニヤしながら、メイド長が俺の体を触りまくってる!?
いったい何を???


ってこれは何か凄くヤバイ予感がしますよ。
性的な意味で。

これは、さっさとお嬢様のコスプレを止めて、メイド長に謝ったほうがいいですね。
メイド長がこのコスプレに興奮しているのなら、お嬢様のコスプレをしたハニューから、ただのハニューになれば問題なしです!


よし、こんなコスプレなんて、さっさと脱ぐぞ。

俺は、コスプレを辞めるぞ!メイド長ーッ!!











ビリ!

あ、慌てて脱ごうとうしたら、破れた…






「半裸のお嬢様だとぉおおおおおおお!?そんな大胆な!!




 ば…ばかなッ!………こ…この咲夜が…………………
 この咲夜がァァァァァァ~~~~~~~~~~~~ッ!!!
 

 ハニューにトキメクだとおぉぉぉぉぉ!?







 



 いただきます。」



え、ちょっとメイド長???




あ…



あーーーーーーーーーーーー!!!





----------







シクシクシク…昨日は酷い目に会った。
XXX的な意味で。
もうお嫁にいけない。




嫌な人ではあったけど、メイド長があんなことをする人とは夢にも思わなかった…
こうやって寝顔を見ると、瀟洒って感じで、あんな変態的なプレイが好きそうには…
















ってあれ?
隣には、メイド長じゃなくてルーミアが寝てるぞ????
しかも、ここは俺の部屋だし。
まさか、夢だったのか!?


「ルーミア起きて、ルーミア!!」

「う~ん…どうしたのか~?」

「昨日の4月1日は、俺と一緒にお嬢様の格好をして、皆を騙したよね??4月1日はエイプリルフールだから!人を騙していい日だから!!」

「何を言っているのか~??今日が4月1日なのだー」





な、なんだ…
本当に、夢だったのか。


「よかった、安心したよ。」







「なーんて、嘘なのだー。今日は4月2日。確かに、昨日は一緒に皆を騙したのだー」





なんてこったい/(^o^)\






うわああああん!
こうなったら、メイド長に絶対に責任取らせてやる~

「一生呪われろー!!メイド長には一生迷惑な妖精がつきまとう呪いをかけてやるー!!」









side ルーミア

「なーんて、そっちが嘘なのだー。今日は4月1日なのだーあれ?ハニュー、どこいったのだー??」

ハニューはせっかちさんだから、困るのだー





パリン!!



ハニューのマグカップが突然割れたのだー、でもそんなことどうでもいいのだー










「というのも全部嘘で、本当はけーねに歴史を隠してもらっただけなのだー





 って言ったらどうする?」



[6470] 短編外伝第三話 外伝という名のオリキャラ説明。(11/1イラスト追加)
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/11/01 01:05
短編外伝第三話
外伝という名のオリキャラ説明。
(※22/10/31 pixivでイラスト公開の試行中
現在、セルトン、セトルン、アイリス、シトリン、マリーダ、クラン・シーを公開中)

side ルーミア
20話を読んだ後から読むのがいいのだー
その前に読んでも致命的なほどは問題は無いけどー

オリキャラの設定が欲しいという話があったから、ルーミアの力でジオンの新人妖精メイド、セトルンの手記を召喚しておいたのだー






ついに、あのジオンに入ることが出来ました!!
そこで、憧れのジオンの先輩方と仲良くするために、先輩方のプロフィールを纏めてみました。

          『お姉ちゃんと私 ジオン入隊記念』
             ~紅魔館近くにて~
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14092847)
※左セルトン、右セトルン

PS
冥界組みの皆さん、あまり役に立たなかったけど、手伝ってくれてありがとう。



アイリスさん
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14262374)
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14262673)
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14262991)
・外見
身長 160cmちょっと
体重 不明。
スリーサイズ 不明。全体的にバランスが取れています。
黒い髪のロングヘアを纏めた髪型で、瞳も黒いです。
何故か刀を持たしたら似合いそうな雰囲気がある人です。
羽は三対あり、どれも黒くて大きくて変に目立つ人です。
いつも固い表情で、あまり笑ったところを見たことがありません。
それに、何故か一切装飾品をつけないらしいです。
綺麗な顔をしているから、勿体無いと思う。
冥界組みの人によると、いかにも『戦闘メイド』という容姿だそうです。
言葉の意味が分かりません。

・性格
初めて出会った人は、怖い人との印象を持つことが多いそうです。
私も怖い人だと思いました。
でも、ハニュー総帥の世話をしているときは、たまに母親のような表情をしたりするらしいです。
それと、失敗をした妖精メイドをこっそりと助けたりしているので、本当はいい人だと思う。
因みにハニュー総帥LOVE。
もの凄くハニュー総帥が好き。
いつか襲っちゃうのじゃないかと皆が噂しています。
何故か人間をもの凄く毛嫌いしています。
最近はマシになっているけど、紅魔館に来た当初はもっと酷かったそうです。
そのせいで、実力的にはどこかのメイド隊の隊長になれたのに、なれなかったと噂されてます。
紅魔館に来る前に何かあったのかな?

・能力
隠しているらしく、一切不明です。
スペルカードを持っているらしいけど、使っているところを誰も見たことが無いです。
もの凄く強いという噂があるけど、本当かどうか確かめる方法がありません。
ハニュー総帥なら何か知っているのかな?

・ジオンでの地位
親衛隊の隊長をしています。
親衛隊はハニュー総帥直属の部隊で、他の部隊から独立して動ける権限があるそうです。
そんなことでは混乱するのじゃないかと心配ですけど、上層部の他の人達と古い付き合いなので今のところは問題ないそうです。
最近は、特殊部隊っていうのに近い運用になっているそうです。

・紅魔館での地位
昨年新編された第十五メイド隊に所属しています。
博麗の巫女の襲撃の影響で「性格に難があるけど、遊ばせておく余裕は無いわ。」とメイド長の鶴の一声で、メイド隊の隊長にされかけたそうです。
でも、ハニュー総帥が隊長を務める第十五メイド隊から離れるぐらいなら、紅魔館のメイドを辞めるとか言い出して取りやめになったとか。

・その他
和菓子が好きで、食堂で偶に和菓子を食べているらしい。
美味しい和菓子をご馳走したら、仲良くなれるかな?
因みに洋菓子は軟弱だから食べないって言っているらしいけど、洋菓子を眺めているところを時々目撃されているとか。



シトリンさん
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14216625)
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14216886)
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14217110)
・外見
身長 160cm後半ぐらい?
体重 不明。女の人にしては体が大きいから、ちょっと重いかも…
スリーサイズ 不明。胸が大きい。
金髪のツインテールの人で赤い瞳を持っています。
冥界組みの人に言わせると、無言でいると『大人のフェイトそん』に似ているそうですが、意味が分かりません。
胸がかなり大きいので、昔はメイド服がきつくて仕方が無かったそうです。
最近、ハニュー総帥が新しいメイド服を縫ってくれたせいで、かなり楽になったそうです。
でも、冥界組みの人たちからは不評だそうです。
冥界組みの人曰く、貧乳による陰謀だそうです。
意味が分からないです。
大きな茶色の羽を持っています。
(蛾の羽と言ったら怒るそうです。)
本人曰く、竜巻を表現しているとのこと。
どこら辺が竜巻なのかは全然分かりません。

・性格
話してみると男の人っぽい雰囲気があって、見た目とのギャップが面白い人です。
ムードメーカーな所があって、シトリンさんが居るだけで周りが明るくなります。
そして、仕事の時、特にジオンの活動の時には、もの凄く頼りがいがある感じになります。
落ち着いた感じで適確な指示を出すシトリンさんは、格好良くて密かに憧れている人がいっぱいいるそうです。

・能力
竜巻の妖精だそうです。
かなり強いらしく、偶に中国さんの訓練に付き合っているみたいです。

・ジオンでの地位
作戦部の部長で、戦闘部隊の実質的なトップです。
建前上は、ハニュー総帥とルーミア副指令が部隊を指揮することになっているそうですけど、実質的にはシトリンさんが指揮しているのだそうです。

・紅魔館での地位
第五メイド隊の隊長さんです。
第五メイド隊はシトリンさんの影響で、全員ジオンに入ったそうです。
凄いです。
シトリンさんは、ハニュー総帥と一緒に戦ったのが縁で、ジオンに入ったそうです。

・その他
アイリスさんとは、紅魔館に入る前からの古い付き合いだそうです。
お酒が大好きらしいけど、持ち合わせが無いなあ。


マリーダさん
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14089917)
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14090290)
・外見
身長 140cm前半ぐらい?
体重 不明。かなり軽そう。
スリーサイズ 不明。
つるぺた、という言葉が一番特徴を表しています。
ピンクの髪と瞳を持っていて、髪型はショートボブの人です。
見た目が幼く、無表情なことが多いです。
モルフォチョウという蝶々に似た羽を持っています。
あまり目立たない外見で、他の妖精メイドに混ざってしまうとすぐに見失ってしまいます。

・性格
物静かで冷静沈着な人です。
自分から話しかけてくることはあまり無いそうですけど、話し始めると結構喋ってくれるそうです。
噂ですが、偶に冗談を言うそうです。
でも、その冗談の内容を誰に聞いても、話したがらないのはどういうことなのでしょう。

・能力
何の妖精なのか、直接聞きに行きましたが「電子の妖精」と言われました。
でも、どんな妖精なのか全然わかりません。
シトリンさんにも聞いてみたのですが「あまり気にするな」と言われてしまいました。
因みに、ハニュー総帥からも「すまん、俺の責任だ。忘れてくれ。」と言われてしまいました。
相変わらず意味がわかりませんが、いきなりハニュー総帥に声をかけられ、とても緊張しました。

・ジオンでの地位
色々な所に応援に出ている人ですが、本当は後方部の部長で、庶務的なお仕事の統括をしているそうです。
でも一度戦闘になれば、シトリンさんの直属の部下として作戦に参加するとのことです。
縁の下の力持ちなんですね。

・紅魔館での地位
第十四メイド隊の隊長さんだそうです。この話を初めて聞いたときは、ビックリしました。
でも、第十四メイド隊は総務とかの仕事を主に行っていると聞いて、ちょっと納得しました。

・その他
小食な人で、あまり食事を食べたがらないそうです。
でも最近は、ハニュー総帥に強引に食べさせらているとのこと。
食べ物でお近付きになるのは難しそうです。


クラン・シーさん
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14090106)
(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14090458)
・外見
身長 150後半cmぐらい?
体重 不明。
スリーサイズ 不明。シトリンさんに負けず劣らずの巨乳。
単純な大きさだったらシトリンさんといい勝負だけど、シトリンさんより背が低いので目立ちます。
出る所が出て、引っ込む所が引っ込んでいるのに、全体的に華奢な体つきをしています。
シトリンさんが「いかにも女の子っていう体型だな…」って羨ましがってました。
灰色の髪をコロネのようにまとめていて、一対だけトンボのような羽を持っています。
ぽやんとした空気を持った人で、顔の見た目もそんな感じです。
妖怪とのハーフなので、どこかに妖精とは違う所があるそうですが、隠しているので分かりません。
噂では、犬耳があるとネコ耳があるとか、妖精の羽とは別の羽があるとか、尻尾があるとか…

・性格
どこかを漂っているような、ぽやんとした不思議な感じの人です。
冥界組みの人曰く『一見アホの子』だそうです。
でもそれは、そのように見えてしまうだけで、本当はもの凄く優秀な人です。
天才肌な人と思われることが多いらしいですど、影ではしっかり努力している努力型の人で、実は負けず嫌いな人らしいです。
優秀さと見た目にギャップがあるので、相手を油断させるために演技していると勘繰られたこともあるそうです。
でもこれはそういう能力らしく『ぽやんとした空気をまとう程度の能力』らしいです。

・能力
『ぽやんとした空気をまとう程度の能力』で、これは妖精の方の親から受け継いだそうです。
正直言って、もの凄くジオンに向かない能力だと思う。
妖怪としての能力も受けついているそうですが、話したがらないので誰も知らないそうです。
それでも、クラン・シーさんは強いそうです。
特に、何かに乗ったときは、もの凄く強いそうです。
何に乗っているのかは機密らしく、一部の人しか知らないとか。

・ジオンでの地位
何かに乗るのが仕事らしいです。
アイリスさんが親衛隊を作り上げたとばっちりで、何かに乗る部隊の前線指揮官候補だそうです。

・紅魔館での地位
どういうことかよく分かりませんが、行く所が無くて紅魔館に来たそうです。
元第十五メイド隊で、今は門番隊だそうです。
門番隊に移った理由はよく分かりません。

・その他
縫い物が得意で、メイド服は自分で縫ったそうです。
雑用班時代にはハニュー総帥に色々と教えたそうです。
凄いなあ。



[6470] 短編外伝第三.五話 外伝という名のオリキャラ説明 その2。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/02/24 20:51
短編外伝第三.五話
外伝という名のオリキャラ説明 その2。
(※23/2/13 pixivでイラスト公開の試行中
現在第三話で、セルトン、セトルン、アイリス、シトリン、マリーダ、クラン・シーを公開中。
第三.五話で、孤狐、シャンキニー、ユウを公開中。)

side ルーミア
第三話は二十話、第三.五話は二十七話を読んだ後から読むのがいいのだー
その前に読んでも致命的なほどは問題は無いけどー

オリキャラの設定が欲しいという話があったから、ルーミアの力でジオンの新人妖精メイド、セトルンの手記を召喚しておいたのだー
因みに、アルカディアの設定が変わってURLを本文に入れられなくなったから、第三話を更新することができなくなったのだー。
だから、以後の更新は第三.五話でやることになったのだー。






先輩方のプロフィールをまたまた纏めてみました。
これからも、どんどん書くぞー


孤狐(ここ)さん
(pixivでイラストを公開中。気がついたら妖精 or 孤狐 で検索してください。)
・外見
身長 150cm後半ぐらい?
体重 不明。
スリーサイズ 普通。
狐の尻尾に、ちょっと犬っぽい狐の耳を持った、狐の妖怪さんです。
ちょっと見ただけだと普通の体系に見えるけど、とても引き締まった体をしています。
因みに、尻尾が一本だけで、モフモフ度は低めです。

・性格
大人の人って感じで、凄くしっかりした人です。
ジオンの妖精達の間では、頼りになるお姉さんとして信頼されています。
だけど、私がジオンに入ったばかりの頃は、孤狐さんとまともに話すことができませんでした。
それは、孤狐さんについて、色々と怖い噂が流れていたからです。

「こぎつね」さんと名前を間違えて呼んだ妖精が、ドラム缶に詰められて湖に沈んでいる。
尻尾を撫でられるのが大好きで、偶然尻尾を撫でてしまった妖精が、そのまま私室にお持ち帰りされた。
憧れの八雲藍を超えるためにジオンに入ったのではなく、憧れの八雲藍を捕虜にして手篭めにするためにジオンに入った。
自分の尻尾が一本しかないので、他人の尻尾を盗もうとしている。
等など…

結局、この噂は全部シャンキニーさんが流した冗談だと分かったので、その後は普通に話せるようになりました。
因みに、孤狐さんは基本的には優しい人だけど、仕事とか、必要があればしっかりと怒ることが出来る人です。
なので、シャンキニーさんは孤狐さんに朝までタップリと怒られたようです。
何故か、孤狐さんの方が疲れた顔をしていたという噂がありますけど。

・能力
本人曰く『狐火を操る程度の能力』だそうです。
でも、周りの人達はそれを信じていないそうです。
周りの人達は、孤狐さんの能力は『どんな逆境でも冷静に判断できる程度の能力』だと言っています。

・ジオンでの地位
孤狐さんがジオンに入った時には、ジオンにはまだ殆んど妖怪がいなかったので、色々と誤解されて苦労したそうです。
だけど、そのしっかりした性格とどんな逆境でも冷静に判断できる程度の能力が評価されて、今ではジオン初の特殊部隊、特殊作戦小隊の初代隊長さんです。

・紅魔館での地位
孤狐さんは紅魔館の近くに住んでいるだけで、紅魔館では働いていませんでした。
ジオンに入ってばっかりの頃は、山菜を届けるという名目で紅魔館に出入りしていたそうですが、色々と無理があって上手くいかなかったそうです。
今は、図書館でメイドのアルバイトをしています。
困っている孤狐さんのために、シャンキニーさんが小悪魔さんに頼んでくれたそうです。

・その他
最近、特殊作戦小隊の愛称を募集しているんだそうです。
私も何か応募しようかなあ。

シャンキニーさん
(pixivでイラストを公開中。気がついたら妖精 or シャンキニー で検索してください。)
・外見
身長 150cm後半ぐらい?
体重 不明。
スリーサイズ 出るところは出て、引っ込むべき所は引っ込んでます。
緑の髪と瞳、そして蝙蝠のような羽を持った悪魔のお姉さんで、正確には淫魔という種族なんだそうです。
色っぽいというより、若々しい女子高生的なエロさがあると、冥界組みの人達はいつも言っています。
相変わらず、冥界組みの人達の言うことは、イマイチ意味が分かりません。
ハニュー総帥にミクという歌手に似ていると言われたことがあるそうです、だけどそれがどういう人かはシャンキニーさんも知らないそうです。

・性格
人当りはとてもいいけど、冗談大好き、下ネタ大好き、エッチなこと大好きな困った感じの人です。
それなのに、仕事はしっかり成果を残して、その他のところも優秀だから、余計に性質が悪いと特殊作戦小隊では笑い話になっているそうです。
因みに、孤狐さんをからかうのが大好きなんだそうです。

・能力
能力は48個もあるらしいのですが、どれもこれも謎に包まれています。
本人に全部見てみたいとお願いしたら「それなら、今晩私の部屋で特別に見せてあげようか?」と言ってくれました。
だけど、シャンキニーさんの部屋で栄養ドリンクをご馳走になっていたら、孤狐さん達が部屋に押し入ってきてそのままシャンキニーさんを連れ去ってしまいました。
なんでも、シャンキニーさんの能力は私には早すぎるんだそうです。
うーん?

・ジオンでの地位
特殊作戦小隊の分隊長の一人です。
CQBという戦いでは、シャンキニーさんはとても強いそうです。
どう強いのか分かりませんが、冥界組みの人達が「健全な紳士なら、負けて当たり前。」と言っていました。

・紅魔館での地位
小悪魔さんの友人で、昔からちょくちょく紅魔館に出入りしていたそうです。
小悪魔さんと一緒にジオンに入って以後は、司書見習いとして図書館で働いているそうです。

・その他
いつも孤狐さんをからかっているので、孤狐さんのことをどう思っているのか聞いてみました。
すると、友人としても女としても大好きだし、上官としてもとても信頼できる。
だけど、時々自分を犯罪者扱いするので、そこは大っ嫌いなんだそうです。
最近では、噂で怒らせたお詫びに特製の尻尾を孤狐さんに挿してあげようとしたら、朝まで逃げ回られた挙句、性犯罪者扱いされたそうです。

ユウさん
(pixivでイラストを公開中。気がついたら妖精 or ユウ で検索してください。)
・外見
身長 160cm前半ぐらい?
体重 不明
スリーサイズ 凄く普通。
オレンジに近い金髪をショートに揃えた妖精さんです。

・性格
凄く無口な人で、戦闘の時ですらも何も喋らないまま敵をバタバタと倒しているそうです。
だからもの凄く怖がられていて、お友達は特殊作戦小隊に入ってから出来た、シャンキニーさんと孤狐さんだけなんだそうです。

・能力
詳しく知らないです。
食堂で、無口になる程度の能力とシャンキニーさんがよくからかっているのを見るけど、流石にそんな能力は無いと思う。
訓練を見た人によると、相手の死角からそっと近付き、一撃必殺の攻撃をしかけるのが得意らしいけど、能力と関係あるのかなあ。

・ジオンでの地位
特殊作戦小隊の副隊長です。
孤狐さんによると、いつも孤狐さんや小隊全体を陰で支えてくれていて、ユウさん無しではとても戦えないそうです。

・紅魔館での地位
紅魔館では普通のメイドです。
能力はあるのに、無口で他と連携がとれないから、ハニュー総帥と同じ雑用班にいたそうです。
なんだか可哀想。

・その他
実は、ユウさんは名前を持っていなかったそうで、今の名前はハニュー総帥がつけてくれたんだそうです。
自分で考えようと思ったこともあるそうですが、友達がいない自分が名前を持っても意味が無いと気がついて、止めたそうです。
ところが、ハニュー総帥が雑用班に入ってきた時に、自己紹介をしても名前を名乗らないユウさんに、ユウという名前を名付けてくれたそうです。
ユウという名前は、ユウ・カジ何とか?という凄腕の戦士の名前から考えてくれたらしく、今はその名前に負けないように頑張っているんだそうです。
まるであだ名を決めるように、人の名前を決めてしまうなんて、ハニュー総帥は流石大物です。



[6470] 短編外伝第四話 新人妖精メイド セルトンの日記
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/10/24 11:05
短編外伝第四話
新人妖精メイド セルトンの日記

side ルーミア
「この外伝は、第二十二話の後に投稿したのだー
 時系列的には、第六.五話のあたりなのだー」

9月30日
今日から日記をつけることにしました。
それは明日から、紅魔館での生活が始まるからです。
明日はどんな一日になるかな。

10月1日
第九メイド隊という所に配属になりました。
私のお仕事は、食堂で妖精メイド向けのお料理を作るお仕事だそうです。
お菓子作りにはちょっとだけ自信があるけど、お料理作りは自信がありません。
今日は、簡単な新人研修のみでした、明日から本番だそうです。
それと、私達妖精メイドの上司となる咲夜メイド長との顔合わせをしました。
瀟洒な感じの綺麗な人で、同期の何人かは頬を赤くしてしまっていました。
なのに、私は全然興味が湧きませんでした。
どうしてだろう。

10月2日
私の仕事は、当分の間は雑用とお料理の練習だそうです。
ジャガイモの皮を剥くのが、思ったより難しかった。
とても疲れたけど、錯覚させる程度の能力を使って妖怪から逃げ回っていた日々を考えると、こんなのへっちゃらです。

10月3日
新人メイドということで、色々な人に紹介されました。
最初は紅魔館の主のお嬢様に紹介されました。
あまり私には興味が無いって感じで、ちょっと近寄りがたかったです。
次に図書館のパチュリー様に紹介されました。
パチュリー様はお嬢様のご友人で、魔法使いだそうです。
パチュリー様も私に興味が無いらしく、本を読んだまま私の紹介を聞いていました。
最後は、門番の中国さんを紹介されました。
中国さんは、凄く優しくて明るい感じの人でした。
しかも、スタイルが抜群によくて、おっぱいも大きかったです。
私も、あれぐらいおっぱいが大きければいいのにと思いました。

10月6日
紅魔館の中で誰が素敵かという話で同期達と盛り上がりました。
でも、私がおっぱいが大きいから中国さんが素敵だと言ったら、欲望に忠実すぎると笑われました。
皆酷いです。
私のことを誤解しています。
私は、おっぱいが好きなのではなく、大きなおっぱいに憧れているだけです。

10月7日
昨日の日記に書いたことを同期に言ったら「大して変わらない」と笑われました。
もう同期の奴らなんて知らない!

10月15日
今日は、ジオン入隊説明会というのを受けてきました。
説明会によると、ジオンは妖精の地位向上や幻想郷の変革、そして迫り来る危機に立ち向かうために作られたそうです。
とても難しくて、分からないことが多いけど、凄そうなので早速入隊届けを出して面接を受けてきました。
ジオンのトップは、博麗霊夢と八雲紫を撃退した幻想郷最強の妖精、ハニュー総帥という方だそうです。
噂には聞いていたけど、本当に凄い人のようです。

10月17日
私の馬鹿ーーーーー。
食材倉庫の位置が分からないので、通りがかったツインテールの女の子に案内してもらったら、その女の子がハニュー総帥でした。
しかも、ハニュー総帥だと気がつかずに、食材を一緒に運んでもらってしまいました。
すれ違うメイド達が「ジークジオン!」とか言っていたのに、気がつかない私って…


穴があったら入りたい…

10月18日
アイリスさんという妖精に注意されました。
ハニュー総帥に謝りたくて、仕事で走り回るハニュー総帥を眺めていたら「ピョコピョコ動くアホ毛とツインテールに萌える気持ちは分かるが仕事をしろ!」と怒られました。
真っ黒な羽を持った、怖い感じの人だったから、慌てて謝ったのですが…
訳が分からないことで怒られた気がします。

10月20日
やっとハニュー総帥に謝ることができました。
ハニュー総帥は気にしていないと言ってくれました。
強いのに、優しくて素敵な人だと思いました。
これでおっぱいが大きければ、もっと素敵なのに。
残念です。

10月29日
紅魔館での仕事に少し慣れてきた気がします。
私の作ったお料理も、そろそろ食堂に出されるようです。
この調子でこれからも頑張ろう。

11月1日
ジオンから合格通知が来ました。
これで私もジオンの一員です。
でも、まだ配属先やお仕事は決まっていないそうです。

11月2日
ついに、私の手がけたお料理(オムレツ)が食堂に出ました。
記念すべきお料理の注文第一号は、マリーダちゃんという子でした。
オムレツをゆっくりと食べる姿とか、行儀よく「ご馳走様でした」と言う姿とかが凄く可愛いと思いました。
思わず、マリーダちゃんの頭を撫で回してしまいました。

11月4日
ジオンでの配属先の希望を聞かれたので、作戦部と書きました。
理由は、面接を担当していた、作戦部のシトリンさんが素敵な人だったらです。

11月6日
ジオンでの配属先が決まりました。配属先は後方部でした。
私の錯覚させる程度の能力は応用が利くので、色々な部署の応援に駆けつけることが多い後方部の方が、活躍できる場があるからだそうです。

11月7日
後方部の人達と顔合わせをしてきました、後方部のトップはなんとマリーダさんでした。
そんなに偉い人だなんて聞いてないよー。

穴に入って埋まってしまいたいです。

11月8日
マリーダさんから、私のジオンでのお仕事を教えられました。
私のお仕事は、錯覚させる程度の能力を使った雑用と、お菓子作りだそうです。
どうしてお菓子作り?と思いましたが、なんでもジオンでは、隊員それぞれの特技を活かして色々なものを作ったり売ったりして活動資金にしているそうです。
そこで、私のお菓子を人間の里のお菓子屋さんに卸すことを計画しているそうです。
私のお菓子を売り物にするなんて、光栄だけどとても不安です。
だから、いっぱい練習しようと思います。

11月18日
金髪の女の子が一人で寂しそうにしているのを見かけました。
先輩に聞いてみたら、妹様というお嬢様の妹さんだそうです。
妹様は狂っていて、突然メイドを攻撃したりするという噂があるらしく、誰も近付かないそうです。
ちょっと可哀想だと思いました。

11月22日
食堂が騒がしいと思ったら、スプーンを持ったハニュー総帥がマリーダさんに『アーン』させて御飯を食べさせていました。
マリーダさんとハニュー総帥って、そういう関係なのでしょうか。

11月23日
二人の関係がどうしても気になったので、思い切って食事中の二人に話を聞いてみました。
ハニュー総帥によると、マリーダさんが少食なのを心配しての強引に食べさせようとした結果だそうです。
ハニュー総帥って優しいだけではなく、気配りもできる人のようです。

12月8日
今日はお昼になっても仕事が無くて暇でした。
最初に野菜炒め定食が二つ入ったきり、オーダーがピタリと止まってしまいました。
変だなと思って食堂を覗いたらハニュー総帥を挟んで、マリーダさんと緑色の髪をサイドテールにまとめた妖精が座っている以外、食堂には誰もいませんでした。
お昼にお客さんが三人だけだなんて、珍しいこともあるものです。
ちなみに、マリーダさんはいつも通りでしたが、何故かハニュー総帥の動きが悪かったです。
いつも通りマリーダさんが『アーン』しても、ハニュー総帥は食事をテーブルに落としてばっかりでした。
どうしたんだろう。

12月10日
なぜか、ハニュー総帥とマリーダさんの『アーン』を見なくなりました。
微笑ましい光景で、好きだったから残念です。
表情が乏しいマリーダさんも、少し寂しそうにしていたような気がします。

12月11日
アイリスさんと仲良くするために、食堂に来たアイリスさんに自家製の羊羹をプレゼントしてみました。
羊羹を食べ終わったアイリスさんは「まだまだ修行が足りない。修行の成果を見てやるから、偶に注文する。」とソッポを向きながら言ってくれました。
これは脈ありなのでしょうか。

12月12日
お菓子作りのレベルアップのために、図書館で外の世界のお菓子作りの本を借りてきました。
本を一緒に探してくれた、司書の小悪魔さんありがとうございました。
これで完璧です。

12月20日
吸血鬼は流水に弱いので、万が一が無いように湯浴みではメイドが補佐することになっています。
でも、妹様は気が狂っているという評判なので、間違って流水を妹様に当てたら殺されるのじゃないか?
という噂が広まってしまって、妹様が湯浴みの補佐を呼んでも、誰も彼も仮病を使って逃げてしまっています。

それなのに、ハニュー総帥が、妹様に頼まれて妹様の湯浴みの補佐をしたそうです。
もの凄くビックリしたので、食堂に来たハニュー総帥に、妹様と二人っきりで大丈夫だったのかと聞いてみました。
ハニュー総帥によると、賢者モードだから大丈夫だったそうです。
賢者モードの詳しい意味は教えて貰えませんでしたが、賢者と名前が付くぐらいなので、妹様の攻撃も防げる凄い状態なんだと思います。

12月24日
今日はクリスマスパーティというものに参加しました。
ハニュー総帥が、パーティー会場でミニスカート型の赤と白の服を着て、お菓子を配って歩くというちょっと変なパーティでした。
お酒をいっぱい飲んだので、今すぐ眠りたいけど、まだ寝ていません。
最近知り合ったチルノちゃんによると、クリスマスの夜には怪人が現れるそうです。
その怪人は、人知れず家に進入し、寝ている人の頭の中を読み取って、その子供の望むものを置いて立ち去るそうです。
勝手に部屋に入ってきて頭の中を読み取られるなんて、とても怖いです。
だから今晩は、徹夜です。
そうだ、怪人が入ってこれないようにドアと窓を打ち付けちゃえ。

12月25日
ドアと窓をしっかり打ち付けすぎて、出れなくなりました。
ちょっとした騒ぎになってしまいました。
しかも、マリーダさんによると、怪人は昨日の夜のうちにハニュー総帥が追い返したとか。

まだ日が出てるけど、今日はもう寝ます。
不貞寝です。

12月31日
今日は大晦日、皆は年越し蕎麦を食べています。
なのに、私はまだ食べていません。
食事を作るお仕事って、こういう時はちょっと辛いです。

1月1日
お嬢様がハニュー総帥のクリスマスパーティに対抗して企画した、お正月パーティでお酒を飲みすぎてしまいました。
頭が痛くて辛いです。
誰か助けて。

1月3日
お客様が新年の挨拶にいっぱい来て大変です。あの八雲一家も挨拶に来ました。
八雲一家をあんなに近くで見たのは初めてです。
八雲紫と八雲藍のおっぱいは凄く大きくて羨ましかったです。
猫の女の子も、将来はああなるのかな。
羨ましいです。

1月10日
なんと私に、ジオンのお仕事で部下ができました。
ジオンは今、もの凄い勢いで妖精達が加入しています。
だから、私のような新参者でもベテランとして働かなくてはいけないそうです。
大丈夫かなあ。

1月13日
ハニュー総帥とマリーダさんの『アーン』がいつの間にか復活していました。
でもどうして、部屋の端っこで隠れるようにして『アーン』をしているのでしょうか。

1月17日
お風呂に入っていたら、中国さんがお風呂に入ってきました。
あまりにも、立派なおっぱいだったので、どうすれば私もそうなれるか思わず聞いてしまいました。
なんでも、適切な運動と適切な食べ物、そして自分で揉むのが効果があるとか。
揉み方がよく分からないので、中国さんにお願いして自分のを揉んで貰いました。
イマイチ感覚がつかめませんでしたが、これでおっぱいが大きくなるかと思うと、ちょっと興奮してしまいました。

1月18日
中国さんが咲夜メイド長から、キツイお仕置きを受けたそうです。
噂によると、お風呂場で妖精メイドの胸を揉みしだくというセクハラを働いていたとか。
どこかで聞いたことがあるような気がしますが、気のせいだと思いたいです。

1月21日
今日は、私の錯覚させる程度の能力で訓練支援を行いました。
ルーミアさんの姿を、八雲紫に錯覚させて訓練するという内容でしたけど、あまりの迫力に腰が抜けそうになってしまいました。

1月30日
今日は、私が作ったお菓子を、妖怪の山から来た河童さん達に振舞いました。
私のお菓子が気に入ったらしく、色々と仕事について教えてくれました。
そーらしすてむがどうとか、ごーれむ技術の応用がどうとか言っていましたけど、難しくてよく分かりませんでした。

1月31日
昨日河童さん達から聞いたことは忘れるように、にとりさんからお願いされました。
だから、意味が分からなかったと正直に伝えておきました。
それを聞いたにとりさんは、間抜けな顔をしていました。
ちょっと落ち込みました。

2月1日
今日もにとりさんを見かけました。
新しい仲間をジオンに登録しに来たそうです。
なんでも、にとりさんがしている仕事は技術者にとって、とても面白い仕事なんだそうです。
だから、噂を聞いた沢山の人達が無償で手伝いに来てくれてとても助かっているそうです。
お菓子作りも面白い仕事だから、もっと人が集まってもいいのに。

2月9日
実はまだ秘密なのですが、ジオン主導でバレンタインデーという外の世界の風習を幻想郷で広める計画が進んでいます。
そのために、私が作るチョコを人間の里に卸す計画です。
うまく行けばいいな。

2月13日
チョコレートは完売しました。
うまくいってよかったです。
今日は一日中、人間の里でチョコレート売っていたので疲れました。
もう寝ます。おやすみなさい。

2月14日
ハニュー総帥からチョコレートを貰ってしまいました。
まさか、ハニュー総帥が私のことを好きだったなんて。
私、どうしたらいいんだろう。
ハニュー総帥をそんな対象として見た事無かったから、いきなり好きだなんて言われても。





頭が沸騰しそう。









2月15日
バレンタインデーには義理チョコという、友達や職場の仲間に配るチョコレートがあるそうです。
以上。

2月16日
今日は、咲夜メイド長が異常に不機嫌でした。
ちょっとしたことで、何度も怒られてしまいました。
ハニュー総帥にも、乙女の純情がどうとか言いながら、怒っていました。
どうしたんだろう。

2月24日
今日は雪が降っていました。
外を見ると、チルノちゃんと太めの女の人が楽しそうに遊んでいました。
私も寒さに強い妖精だったらよかったのに。

3月3日
ジオンの戦闘訓練に参加しました。
私達妖精以外に、ハニュー総帥のお友達のリグルさんやミスティアさんも参加していました。
お二人はもの凄く強かったです。
こんな強い妖怪を従えられるハニュー総帥ってどれだけの強さがあるのでしょうか。
今更ですが、気になってしまいました。

3月8日
外の世界の本を参考にして作ったプリンを、お嬢様に食べてもらいました。
咲夜メイド長の作るプリンとは、また違った揺れ具合で悪くないと言われました。
これって、褒められたのでしょうか。

3月17日
お風呂でまた中国さんと出会いました。
だけど、中国さんは慌ててお風呂から出て行ってしまいました。
一月の件についてしっかりと謝ったほうがいいと思いました。

中国さんと喧嘩したみたいで、とても辛いです。

3月18日
今日は、食堂の皆でにとりさんの研究所にお弁当を届けに行ってきました。
にとりさんの研究所は妖怪の山にある秘密の入り口の奥にありました。
ルーミアさんの案内が無ければ、絶対に迷っていたと思う。
研究所には、見たことも無い機械がいっぱいあって、大勢の人たちが働いてしました。
なんだかとても格好よかったです。

3月21日
いつもならそろそろ暖かくなり始めるのに、今年はいつまで経っても暖かくなりません。
何だか変だと思います。

3月29日
大ニュースです。
私の妹、セトルンが紅魔館メイドの採用試験を受けたそうです。
セトルンは幻を投影する程度の能力を持っているので、きっと合格すると思います。
でも、おっぱいが大好きだったりと、ちょっと変わった所があるので少し心配です。

3月30日
中国さんと仲直りできました。
勝因は夜中に中国さんの部屋に押しかけて、謝ったからです。
中国さんは快く許してくれました。
仲直りできたのが嬉しくて、帰り道に思わず泣いてしまいました。
これで、心のもやもやが無くなりました。
今晩は、とてもよく眠れそうです。

3月31日
中国さんが咲夜メイド長に地獄のようなお仕置きを受けていました。
咲夜メイド長によると、嫌がる女の子を手篭めにしようとした中国さんの手癖の悪さを矯正しているのだそうです。
なんでも、夜中に中国さんの部屋から妖精メイドが泣きながら出てきたのが目撃されたとか…

中国さんごめんなさい。



[6470] 短編外伝第五話 一二八事件  通称マリーダ「アーン」事件に関する考察
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/10/24 11:06
短編外伝第五話
一二八事件  通称マリーダ「アーン」事件に関する考察


side ハニュー
12月8日11時45分
~紅魔館 庭園のとある端っこ~

紅魔館の庭園の端っこ、そこには紅魔館で使う薪を整理している妖精メイドの一団がいた。


『グー…』

ん?もうすぐ12時か…
ちょっと早いけど、きりがいいから、ここで御飯にしよう。

「みんな!午前の作業はここまで。御飯にしよう!」

「「「はーい。」」」

さてと、今日もマリーダに声をかけて一緒に御飯を食べるとするかな。

ここ数週間、ハニューはマリーダの少食を心配し、マリーダに『アーン』をして食事を食べさせていた。
※短編外伝第四話参照
そのためハニューは、この日もいつもと同じくマリーダと昼食を取るつもりでいた。
しかし、その日はいつもとは違う展開になった。

「ハニューちゃーん!!」
手を振りながら、飛んでくる大ちゃん。

「大ちゃん!」















「えへへ…急にきてビックリした?」
ハニカミながら、ハニューに話しかける大ちゃん。

「うん、ビックリしたよ。どうしたの??」


「実はね…」
バスケットの蓋を開け、ハニューに見せる大ちゃん。
そのバスケットの中には、にとり印の保温容器が入っていた。

「??これって、もしかして…」

「うん!」
笑顔でその容器を開ける大ちゃん。
すると、その容器から白い湯気が立ち上がった。

「シチューを作ったの。

 もの凄く会心の出来だったから、ハニューちゃんにも食べてもらいたいなーと思って…」
顔を少し赤くしながら、もじもじとする大ちゃん。


お、俺のために美少女がシチューを作ってくれて、それを職場に持ってきてくれるだと…????
優しい大ちゃんらしい、友人に対する『好意』から出たものなのだろうけど、これは最高に嬉しいです。
まさか、これまで不運続きで消化しきれていなかった幸運が、ここに来て年末在庫一掃セールに入ったのか!?
いや、でもこの仮説だと年末までに幸運を使い切ってクリスマ「どうしたのハニューちゃん?冷めちゃうよ?」

「ありがとう!じゃあ早速…                 俺の部屋で食べようか。」




「密室で食事なのかー」 

                                「密室だって!」
                                       「そうか、二人っきりの食事なんだ。」
                                   「あの子が噂の…普通の妖精にしか見えないけど…」

ルーミア、確かに俺の部屋は鍵が掛かるので、密室ではあるが、表現が変だな。
「もう少し言葉を勉強しような。」

「そうなのかー」
まったくルーミアはもう少し言葉を勉強したほうがいいな…


「じゃ、部屋に行こうか。」

「うん。」

…あれ?
みんな、どうして食事に行かずに、ここに留まっているんだ??
おかしいな、解散を命じたはずだが…
しかも、数人毎に固まって、ヒソヒソと何かを話してるし…

あれれ?
俺、何かミスったか!?

「みんなどうしたの??」

「「な、なんでもありません!!」」


いったい何なんだ…

side ルーミア
12月8日11時50分
~紅魔館 庭園のとある端っこ~

ハニューが去った後、あたりは黄色い悲鳴で大騒ぎになっていた。
そんな中、いかにもキャッキャウフフな話が好き!という感じの妖精メイドが楽しそうに喋りだす。

「これは面白そう!私は後を追いかけるわ!
 皆は他の人たちにも伝えて!」

彼女は、誰かに答えてもらうためではなく、ただ喋りたいから喋った、というようだったが、それに答える者がいた。
キャッキャウフフな話が好きなのは、何も彼女一人ではなかったからだ。

「もう既にやってまーす。
 このにとりさん製のトランシーバーってやつ凄いんですよ。

 あ、マリーダちゃ、さん?
 
 え、非常回線を勝手に使っちゃ駄目??

 ごめんなさい。
 でも、ハニュー総帥が例の大ちゃんという子と一緒に、これから総帥の部屋で二人っきりで食事するらしくてー
 
 え、どうしてだって??

 あのー大ちゃんという子がシチューを作ってきたんですよー

 それでですね、我々としてはこんな面白 じゃなかった 二人っきりという警護に不安がある状況を見逃せないというかー
 あ、でもアイリスさんには伝えちゃ駄目ですよ。絶対にややこしくなりますから。
 
 ですので、この情報を他の皆に伝えてくれませんか?





 あれ、マリーダさん聞いてます?



 マリーダさん??




 おーい?












 回線が切れちゃってる…?」

「…あなた、ワザとマリーダさんに繋いだの??」
トランシーバーを持った妖精メイドに話しかける、キャッキャウフフな話が好きな妖精メイド。

「え?どういうことですか???」
その質問の意味がまったく分からないという様子の、トランシーバーを持った妖精メイド。


「「「ハアーー」」」
一斉に、ため息をつく妖精メイド達。

トランシーバを持った妖精メイドは完全に忘れていたが、ここ数週間ハニューがマリーダに『アーン』させて食事を食べさせているという事実は、
常に妖精メイド達の話題の中心だった。

彼女達の間では…
「マリーダとハニュ総帥は付き合っているのではないか?」

「マリーダはハニュー総帥の愛人になったのか?」

「あれは餌つけだ。」

「妹同然と思っていたマリーダにハニュー総帥を取られたアイリスが、色々と精神的にキて悶死しかけている。」

「待て、慌てるな、これはルーミアの罠だ!」

という怪しげな情報が飛び交っていた。
つまり、その渦中のマリーダにこんな情報を渡したら…

「これは面白くなってきたわ!!」

碌なことにならないのだった。



「そうなのか、そうなのかー」
いつもの表情のままウンウンと頷いたルーミアの声は、周りの妖精メイド達の喧騒に飲み込まれていった。

----------

side ハニュー
12月8日11時55分
~紅魔館 ハニューの部屋に繋がる廊下~

「美味しそうだなー楽しみだなー」
バスケットを覗きこみながら、楽しそうにするハニュー。

「もう、ハニューちゃん、そんなには興奮しないでよ…」
言葉ではハニューを非難する大ちゃんだったが、そんな彼女も楽しそうだった。


美味しそうだから本当に楽しみだなあ。


あ…


そういえばマリーダは、ちゃんと一人で御飯食べれてるかな?
特に約束しているわけじゃないから、約束を破ったことにはならないが…
心配だな…


一言マリーダに断っておいたほうがいいか…


そう思った矢先に、小柄な妖精メイドの姿がハニューの目に飛び込んできた。
ハニューの部屋の前で、静かに佇んでいる少女はマリーダだった。

「あ、マリーダ!」
マリーダに気がつくハニュー。
ハニューが、手を振るとマリーダはハニューの元に駆け寄ってきた。

「ハニュー総帥…『今日も』一緒に食堂で御飯を食べたいです。」
今日も、をほんの少し強調して言うマリーダ。
マリーダの拳は、固く握られていた。


「ハニューちゃん…この子………………誰??」
マリーダを指刺しながら、ハニューに問う大ちゃん。


あれ??なんだ…この異様な寒気は…

「この子は、俺の同僚だよ。同僚。 本当に同僚。」

















「……………ふーん…」
マリーダの頭から爪先まで見る大ちゃん。


あれ?いつもの笑顔のはずなのに、なんだか大ちゃんの笑顔が凄く怖いよ???
変だな…き、気のせいかな??

そ、それはとにかく、今日はお断りしないと。
「マリーダ。悪いけど、今日は一人で食べてくれないかな??」

静かに首を振るマリーダ。

「ハニュー総帥が食べさせてくれない食事は、美味しくありません。だから、一人だったら食事は取りません。」

囁くような小さな声だが、はっきりと一人では食べたくないと言うマリーダ。


まるで、母猫に見捨てられた子猫のような雰囲気がしてきて…
ちょっとこれは断り難い、マリーダ…いつの間にこんなテクニックを…

そんな物思いに耽るハニューの肩に、大ちゃんの手が置かれる。
「ねえハニューちゃん…私耳が悪くなっちゃたのかな?
 まるでハニューちゃんがこの子に御飯を食べさせているように聞こえるけど??」

な、なんだか今日は妙に冷えるな…
おかしいな、エアコンが壊れたのか!?

「そ、そうだけど…」




「ねえどうして??」
笑顔でハニューに迫る大ちゃん。
そんな二人の間にマリーダが滑り込む。

「別におかしい話じゃないです。
 食事を通じて、同僚であり、部下でもある私の健康をハニュー総帥が管理することは真っ当な行動。
 誰からも非難されるものじゃない。」

大ちゃんに反論し終わると、意を決した表情でハニューの袖を引っ張り始めるマリーダ。


「私は部下や同僚じゃないから、そんな理由関係ないもん!!」
慌てて、マリーダの反対側の袖を引っ張り始める大ちゃん。

「今は休憩時間とはいえ勤務時間中。
 私情より仕事が優先される。」

「そんなの、あなたが一人でお昼御飯食べれば済む話でしょ!」

ど、どうしたんだ二人とも!?
大ちゃんはいつもと同じ感じなのに、なぜか妙に怖いし…
マリーダは、なんだか某情報思念体の人みたいな口調だし…




二人とも、俺と一緒に食事がしたいのに、それが無くなりそうで怒っているんだな!?
こんな俺が相手だとしても、友達との食事は、一人での食事より楽しいからだな!?


でも俺は一人しかいないし…
こ、こんな時は…




そうだ!


二人一緒に食事をすればいいんだな!!

「じゃ、じゃあ三人で食堂で食事しよう!!!」

----------
12月8日12時00分
~紅魔館 メイド用食堂~

あれ??
変だな…

さっきから、食堂に入ってくる妖精メイド達の大半が、そのまま何も注文せずに帰っていくぞ????

何なんだ??
今日の日替わりランチが『お嬢様も絶賛!紅魔館お子様ランチセット(おもちゃのパーツ付き)』だからか???
あれは、ちょっと甘すぎるという評判だし…
おもちゃのパーツを十個を集めると、お嬢様のフィギュアになるらしいが…
ダブらなくてもあの甘いお子様ランチを最低十回食べるとか罰ゲーム過ぎるw

「はい、ハニューちゃんのシチューだよ。
 冷めちゃうから『他の事』に気を取られないで、早く食べてね。」

なんだか、他の事をしたら凄いことになりそうな雰囲気がががが、気のせいだよな!?

「野菜炒め定食二つ。」
そんな大ちゃんの圧力が無いかのように、しれっとハニューの分まで定食を頼むマリーダ。

ちょっ!?

「マリーダ、勝手に俺の分まで頼まないでよ!」

「そうよ、ハニューちゃんは私のシチューを食べるの!」


「ハニュー総帥。11月22日に私に言ったことを覚えていますか?」
大ちゃんの質問を無視し、突然ハニューに問いかけるマリーダ。

え…なんだったっけ??
えーと…たしか栄養バランスについてだったかな?

「ハニュー総帥は、まともな食事を取らない私に、栄養バランスを考えた食事をしっかりと取ることが、何よりも大切だと教えてくれました。
 














 シチューだけでは、栄養バランスが崩れます。」


ボキ!!

あれ??
大ちゃん…持ってるスプーン折れてるよ…

そんな折れたスプーン持ってくるなんて、大ちゃんって面白いなあアハハハ…

「栄養バランス考えてるもん!!
 力がつくようにお肉をいっぱい入れてきたもん!」

「いえ『毎日』食べているものから考えると、ハニュー総帥に不足しているのは95%以上の確立で野菜です。
 ハニュー総帥は野菜を食べるべきです。」

ハニューを挟んで意見をぶつける二人。

                                             「あー私用事があったんだー」
                                             「とととと、トイレ!!」

                                             「ちょ、ちょっと二人とも待って!!!!」
そんな二人を見てか、食堂からは次々と妖精メイド達が逃げ出し始めた。

ふ、二人とも落ち着いて!?

どうしてこうなった!
どうしてこうなった!


----------

side ルーミア
12月8日12時10分
~紅魔館 メイド用食堂前の廊下~

「ハニューちゃん!食べて!!」
ハニューにシチューが入った、折れたスプーンを突き出す大ちゃん。

「アーン」
いつも通り表情が乏しい顔をしながらも、ハニューが野菜炒めを食べさせるまで、『アーン』を頑として止めようとしないマリーダ。

食堂内は正に修羅場だった。
そして、食堂前の廊下はラッシュ時の通勤列車のようになっていた。

「さあ、順当に行くと次はマリーダ選手にあーんする番ですが…おっとここで大ちゃん選手、強引にスプーンをハニュー選手の口に入れたー!!」

キャァ━(艸゚Д゚*)(艸゚Д゚*)(艸゚Д゚*)━ァァ★


         「門番はこういう仕事もするのですか?」

                      「いえ…ちょっと面白そうなネタだったのでつい…」

  「まさか、あの大人しそうなマリーダちゃんがここまでやるとは…意外よねー」

           「ホントホント、この勝負どっちが勝つのかなー」

他人の不幸は蜜の味なのか、単に色恋沙汰に興味を示しているだけなのか、多くの妖精メイド達がその光景に釘付けになっていた。
そして、どこからその話を嗅ぎつけたのか、美鈴までもそこに加わり、状況はカオスになっていた。



そんな様子を見ながら、ルーミアはあることを考えていた。
彼女は彼女なりに、ハニューの状況を分析し、誰もが気がついていない問題を見つけ出していたのだった!


マリーダの野菜炒めは、マリーダの箸を使ってハニューが食べさせているのだー。
大ちゃんのシチューは、ハニューのスプーンを使って大ちゃんがハニューに食べさせているのだー。
でもこれだと、ハニューの野菜炒めがさっきからほったらかしなのだー。


side ハニュー
12月8日12時10分
~紅魔館 メイド用食堂~

あっ

マリーダに食べさせようとした、野菜炒めを落すハニュー。

だ、駄目だ。
手が震えて、さっきからまともにマリーダに食事を食べさせられない。

二人とも、どうして仲良く一緒に食事を取ることができないんだ??

「はい、ハニューちゃん、あーんして!!」

「う、うん…」

だ、誰か助けて…





あ、


厨房からこっちを覗いているのは、確かセルトンとか言う子。


『助けて!』

必死にアイコンタクトでセルトンに助けてと伝えるハニュー。
ところがセルトンは、不思議そうな顔をすると、そのまま厨房の奥に戻ってしまった。





orz


他に誰か…
誰かーーーーーーー






!!


入り口から、こちらを覗いているのは…
ルーミアじゃないか!!

しかも、いかにも「助けてやるぞ兄弟!私を呼べ!!」
って感じの(`・ω・') シャキーン とした表情をしている!!

「ルーミア!!ルーミア!!ちょっとこっちに来て!!!!」

これで勝つる!

----------

12月8日12時25分
~紅魔館 メイド用食堂~





勝てませんでした。

ルーミアが来ても状況が変わらない可能性は考えていた。
ルーミアに助けてとアイコンタクトを送っても、うまく伝わらない可能性も考えいた。

でも…

この状況は考えていないよ!?

「あーん、なのだー。」

どうしてルーミアが、俺の野菜炒めを俺に食べさせているのよ!?
おまけに、なんだか大ちゃんもマリーダも機嫌が更に悪化してきた気がするし!?

「あの、ルーミアさん、どうしてこんなことを…」

「ハニューが可哀想だからー」

ルーミア、おまえは何を言ってるんだ??




こうなったら、自棄食いだ!!
「ルーミア、もっと食わせろ!!」


----------

12月8日12時30分
~紅魔館 メイド用食堂~

や、自棄食いなんてするんじゃなかった…
もとからストレスで胃がどうにかなりそうだのに、いきなり腹にいっぱい入れたからムカムカして吐きそうなんですけど!?

このままではリバースして…
大ちゃんのシチューが野菜タップリシチューになったよ!
これで栄養バランスは完璧だ、よかったね、テヘッ☆


なんてことになったら、流石の大ちゃんもキレるしれない…
まずい、まずいぞおおおおお。


こうなったら…

「あーん、なのだー。」

「悪い、マリーダ、ルーミア…
 俺もう食べられないから、これ全部マリーダが食べて。」

ハニューが野菜炒めを食べるために使っていた箸を、ルーミアからもぎ取るハニュー。
ハニューは、その箸を使って自分の野菜炒めをマリーダの口に放り込んだ。

「★■●×■●★!?」
すると突然、手をバタバタさせながら、顔を真っ赤にするマリーダ。

どうして顔が真っ赤になるんだ??

「ズキューン!なのかー」

                                                 「「「キャーーーーー!!!」」」
                                                 「さすがハニュー総帥!私達にできない事を平然とやってのけるッ。」
                                                 「そこにシビれる!あこがれるゥ!」
                              
それに、廊下の方が何だか騒がしいな???

「ちょ、ちょっとハニューちゃん!?」
マリーダと同じく、真っ赤な顔をしてハニューに詰め寄る大ちゃん。

「大ちゃんごめん。シチューももう食べられないよ。
 大ちゃんってさっきから、俺にシチューを食べさえてばっかりで自分は一口も食べてないだろ?
 食べなくちゃ駄目だよ。」
大ちゃんの持っている、ハニュー用のスプーンを大ちゃんの手からもぎ取り、そのまま大ちゃんの口にスプーンを入れるハニュー。

「★×■●■●★!?」

更に真っ赤になり、テーブルに倒れこむ大ちゃん。

「だ、大ちゃん!?どうしたの!?」

「そんな…大胆すぎだよハニューちゃん…ガクッ…」

だ、大ちゃん!?

って気を失ってる!?
本当にいったいどうしたの!?

社会人でもあったハニューにとっては、なんのこともない行動だったが…
だが、純情な二人にとっては、あまりにも刺激的な初間接キスだった。



「る留みるるる戸さらら瑠るルーミア!!どうしよう!!」

「落ち着くのだー!!!!!」

『ボコ!!』
ハニューを落ち着かせようと、ハニューに突っ込みを入れるルーミア。

は、腹に入った…


タダでさえ、ムカムカしているのに…

| ̄ ̄ ̄ ̄|
|見せられ|
|ないよ!|
|____|


side 大ちゃん
12月8日13時00分
~紅魔館 保健室~

うう…
私、気を失って…

気を失う前は…

!!

「ハニューちゃん!私が怒ってるからって、そうやってキスで口を塞ぐなんて…ずるいよ…」

枕元にいる人物に話しかける大ちゃん。

「私はハニュー総帥ではありません。」
だがそれは、マリーダだった。

う、あなたは…
誰か看病してくれているみたいだから、ハニューちゃんかと思ったのに…

「どうしてあなたが私の看病を…」

「ハニュー総帥は、あなたが気を失った後に嘔吐しました。」

え…
ハニューちゃんが吐いた!?
ま、まさか私の作った料理が失敗して!?

「あなたの料理が原因ではありません。
 診察によると心労が原因のようです。」

ハニューちゃんが嘔吐するほど弱っていた!?
そんなにお仕事が大変なんだ…
それなのに私の相手をしてくれて…

なのに私ったら…久しぶりにハニューちゃんに会いにきたのを邪魔されたと感じて、一人でイライラして…
あんな強引なことばっかりして…
私って…いやな子…

「大妖精さん、申し訳ありませんでした。」

突然大ちゃんに頭を下げるマリーダ。

「ええ!?どうしたの!?」

「ここまで事態を悪化させたのは私の責任です。
 私がハニュー総帥と食事を取りたいと我がままを言わなければ…」

この目…本気で責任を感じている目だ…

「私に謝るぐらいなら、ハニューちゃんに謝ってあげて…
 私もハニューちゃんに謝らないといけないから…そしてあなたにも…」

「いえ、私の偏食がそもそもの原因です。
 あなたは謝る必要は無い。」

偏食??

「何か事情があるの?話してくれないかな?」

side ハニュー
12月8日13時10分
~紅魔館 保健室(別室)~

ルーミアに一発貰ったおかげで、吐いたら。
ルーミアが騒ぎ出して、大騒ぎになって、気がついたら保健室に担ぎ込まれていた。

因みに、原因を色々と調べられたが、女の子に殴られて嘔吐したって広まったらかっこ悪いので、
ルーミアに殴られたことは喋りませんでした。
幸い「ルーミアの一撃程度では俺にダメージは無いはず」という訳の分からない理由で話が勝手にまとめられていましたし…



そして、今は大ちゃんとマリーダが謝りに来ています。
なんでも、二人ともお互いに負けないという気持ちのせいで、俺を蔑ろにしてごめんなさいということらしい。
そして、お互いの事情を知らずに暴走して、お互いにごめんなさいということらしい。

だから俺はお前の全てを許す!もう一度這い上がれ!って感じで熱く二人に説教してやるぞ!
と思ったが、まるで俺を入院させてしまった!とでも言いそうな勢いで謝る美少女二人に説教だなんて、俺ってどれだけ悪人だよw

ということで二人の謝罪を受け入れ、二人には帰ってもらいました。

はあー
ところで俺は、いつになったら保健室から出られるんだ??


side マリーダ
12月8日18時00分
~紅魔館 メイド待機室~
私…どうしてあそこまで、あの大ちゃんって子に敵意を剥き出しにしたんだろう?

「何をそんなに、深刻な顔をしている?」


シトリン…

実は…


----------

「そうか、それはいずれ分かる時が来るから、それまではあまり深く考えるな。」
マリーダの話を聞いたシトリンは優しい顔をしていた。

「???
 わかりました。」

「それから、絶対にアイリスには話しちゃ駄目だからな。」

どうして?

「あいつは、お前もハニュー総帥も大好きだからさ。」
少し遠くを見るような表情になるシトリン。

どういうことでしょうか。
よく分かりません。

こういう時は…

「私、少女ですからわかりません…。」

「プッなんだそれ?」

「ハニュー総帥から教えてもらいました。」

ハニュー総帥は、私には無かったいろんな物を与えてくれる。
あの人は、私達妖精に新しい風を送り込んでくれる人だ、でも私がハニュー総帥を気にするのは…
本当にそれだけなのでしょうか。

side ルーミア
12月8日19時00分
~紅魔館 保健室(別室)~

大ちゃんとマリーダの間では、今日の事件は水に流すことになったみたいなのだー
だけど、ハニューの行動のせいで「ハニューは自分の体より女の子のことを大切にする」とか「女好き」とかあちこちで変な噂が立ってしまったのだー

噂を聞いて、ハニューの行動を変に意識する子が増えてきそうで困ったのだー



言いふらしていためーりんは「ハニューみたいに、咲夜の口を塞いだら大人しくなるかも」って軽口を叩いていたから、
このまま放っておいても勝手に処分されるから大丈夫なのだー
でも、その他の子達の口を塞ぐことが無理そうなのだー
アイリスが提案していた、親衛隊の正式部隊化が必要かもしれないのだー


え?
ルーミアが困るのはどうして?なのかー?



それは、秘密なのだー

「ルーミア、また電波を受信しているのか!?」

side ハニュー
12月8日19時00分
~紅魔館 保健室(別室)~

いやー疲れた。主に精神的に。
でもルーミアがいて助かった。

「ルーミア、ありがとう。本当に助かったよ。」

「どういたしまして、なのだー」

ルーミアが俺の代わりに仕事をしてくれなかったら、本当に困る所だったからな。
「いやー、でも今回の騒動は、疲れただけだったなあ。
 俺は危うく仕事に穴を開けかけるし、大ちゃんは気を失うし、マリーダは大ちゃんと一時険悪になっちゃって疲れたみたいだし…

 それはとにかく、本当にルーミアのおかげで助かったよ。
 このごたごたで俺の仕事が滞って、俺のクビが飛んだらシャレにならないからな。
 やっぱり持つべきものは、友だよな。

 ルーミア、今後もよろしく頼むよ。」

「そうなのかー」

ん?なんだかルーミア、妙に嬉しそうだな??

「どうしたルーミア??」

「うーん。疲れるだけじゃない人も、いるのが分かったからなのだー」




----------

side とある時代のとある本『一二八事件  通称マリーダ「アーン」事件に関する考察』の項

このように一二八事件は、ハニュー総帥が入院するという記録と共に、今日までジオンの歴史に残されることになった。
一般的には、痴話喧嘩が発端で総帥が入院したという事実ばかりが取りざたされるが、親衛隊・ルーミアとハニュー総帥の関係に与えた影響から、
偶然起きた痴話喧嘩ではなく、ハニュー総帥若しくは別のジオン幹部によって巧妙に演出された事件だったとの説も近年では唱えられている。



[6470] 短編外伝第六話 ハニューの演説ってそんな所からも見れたの!?
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2010/10/25 23:13
短編外伝第六話
ハニューの演説ってそんな所からも見れたの!?

side ルーミア
~虚数空間!?~
この話は、第二十四.五話の直後に読んでほしいのだー。
え?
ルーミアがどこにいるかって、そんなの作者に聞いてくれなのだー。

side 神綺
~魔神城~

ハニューの演説が終わった少し後、魔界の魔神城では、幻想郷に派遣した軍事顧問団の長、ルイズと通信を行う神綺の姿があった。

「それじゃ、永遠亭を戦場にするのは難しそうなのねー?」

『そうですわ。永遠亭にはハニューが単独で進入、我々の戦場は目下の所、迷いの竹林に限定されていますわ。』

ハニューがジオン軍を指揮して、永遠亭と戦闘開始。

私がハニューに提案して、魔界軍を最前線に送り出し、永遠亭に突入する。

全面戦争の混乱の中で、永遠亭から月の技術を奪取。

という予定だったのに、ハニューが一人で永遠亭相手に戦い始めたせいで、予定が全部パアになったわ。
ハニューには連絡つかないし、ジオン軍の出撃そのものが非公式だし、こんな状態で勝手に永遠亭まで部隊を進出させたら、最悪の場合、外交問題になるから永遠亭まで行けないじゃない~

やっぱり、私達の考えていることが読まれたのかしら。

となると…

「ルイズちゃん…
 神綺ママのお願い、聞いてくれる?

 正当防衛ということで、戦闘に介入。
 レイセン達を相手に思いっきり暴れてほしいの~」

お願い(ハート)っと可愛いポーズをとって、お願いする神綺。

『当初の予定には無い行動ですわね?
 理由を聞いてもよろしいかしら?』

神綺のポーズを完全にスルーしながら、ルイズは真面目に返答する。
…神綺はほんの少し頬を膨らませるが、直ぐに真面目な顔に戻って理由を説明しだす。

「ハニューの演説、聞いたでしょ?
 ここまで準備をした相手が、そう簡単に降伏勧告なんて受け入れるはず無いのに、態々降伏勧告を行って、その様子を全幻想卿に流した。
 つまり、これは政治的メッセージなの。

 永遠亭が壊滅した後に「我々は、歩み寄るための最大限の努力はした」という言い訳をするための。」

『永遠亭が壊滅?』

「ええ、そうなるとハニューは見ているようね~。
 そうじゃなければ、態々こんな政治的メッセージなんて出さないわよ。

 
 はいここで、神綺ちゃんクイーズ!!!!
 そうなったら、幻想郷の妖怪達はどうなると思う~?」

『ハニューを恐れ、ジオンと戦うために立ち上がる者と、ジオンの庇護下に入る者に分かれますわね。
 となると、神綺様は、肥大するジオンの中でより高い地位を得るために戦果を欲している、ということですわね。』

少し考えた表情をしながら、答えるルイズ。

「神綺ママは頭がいい子は好きよ~。」
ルイズを褒める神綺だが、なぜかその顔はもの凄く悔しそうだった。

「本質的に幻想郷の妖怪達は、自由奔放だから、弱いものが集まって強い力に対抗するっていう奴は少ないのよね~。
 だけど、強い力やカリスマ性がある者の元に集まるという習性はあるのよね~。」

『つまり、ジオンへの攻撃は小勢力による散発的な攻撃になる。
 そして、敵が小勢力ゆえに、それら撃退し続け名を上げ続けるジオンには、妖怪達が集まり続けるということですわね。』

「そういうことよ~
 今日のハニューの行動で、その流れが決定付けられたと思うの。
 八雲紫は止めようとするでしょうけど、『まとまりの無い』幻想郷を作ったのは彼女自身だから、簡単にはこの流れを止められないと思うの。」

『神綺様の読みの深さには驚かされますわ。では早速、士官を集めて詳細を詰めますわ。』

通信を切ろうとするルイズ。
だがそれを、神綺は止める。

「ちょっと待ってほしいの~」

『どうしましたの?』

「くれぐれもレイセンは殺しちゃ駄目よ?可能なら捕虜にしてほしいの?いい?」

『それは、ハニューの想い人という噂があるからかしら?』

「詳細はまだ言えないけど、それはハニューのカモフラージュだと思うの~」

情報局によると、レイセンはどうやら月と交信ができるみたいなのよね~
ハニューがレイセンと親密な関係を作ろうとしたのは、多分その能力が欲しいからだと思うのよね。

『ハニューはそっち関係は派手だという噂がありましたのから、そうとは思いませんでしたわ。』

「あんまり噂を信じると、本質を見誤るから気をつけたほうが良いわよ。
 レイセン捕縛は、月の情報収集だと思ってあたりなさい。」

『分かりました。』

ハニューの交友関係を調べる途中で分かったのよね~。
ハニューと親密な関係だと噂がある相手は、ジオンの発展にとってキーとなる人物が多いのよね~。
これって、どう見ても戦略的に相手を選んでいるしか思えないのよね。

「夢子ちゃーん。お茶ー。」

私達の存在もバレたことだし、これからが大変ね。
アリスちゃんの彼氏に関する報告の件についても、どうにかしないといけないし…

神綺ちゃん、公私共に大変だわ~

通信を切った神綺は、今後の方針について深く考えるのだった。

side 上白沢 慧音
~慧音の家 寝室~

「あいつが、竹林を焼いた奴等の親玉か!」

慧音の家では、傷を癒す慧音と、慧音の看病をする妹紅の姿があった。

「妹紅 、危ないことはしないでくれ…」

威勢よくハニューの映像に叫ぶ妹紅に対し、慧音は心配そうな声を出す。
竹林の一部が燃え上がる様子は、慧音の家からも見えており、その戦いの激しさを伝えていた。

「…ん?

 ハハッ、そういうわけじゃないさ。

 あのバカ輝夜の竹林を燃やすなんて、あの親玉とは気が合いそうだって言ってるのさ!」

豪快に笑いながら話す妹紅。
だが慧音には、その表情に影があることが分かった。

妹紅…それならなぜ…



そんなに心配した顔をして、ソワソワと永遠亭の方を見ているんだ…
やっぱり…本当は…








「そうか…私が言うのは何だけど、輝夜のことはいいのか?」

ギクッとした顔をする妹紅。

やっぱり…
と思う慧音。

「…いいんだよ、あいつには良い薬だ!
 ほらっ慧音はそんなこと気にせずに、体を治す!!」

明らかな話題逸らしをする妹紅。
だが慧音はそれを見て…

妹紅がそう言うのなら、今晩は妹紅を独り占めしてやる。
と、欲が強くなってしまった。

「妹紅…すまない、この異変のせいで、実は晩御飯を食べ損ねたんだ、何か作ってくれないか?」

「えっ!?ろくな物を作れないぞ?」

「それでもいいから、妹紅の料理が…食べたいな…」

「わ、わかった。直ぐに作ってやるから、そのまま寝とけよ。」

珍しく甘えてきた慧音に驚き、いそいそと台所に向かう妹紅。
そんな妹紅を見ながら、慧音は永遠亭の方角に向けてこっそりと謝るのだった。


side 比那名居 天子
~天界~
天界の端っこ、そこには幻想郷の様子を伺う青い髪の少女の姿があった。
彼女の名は天子。
天界の生活に退屈した天人の一人で、退屈しのぎに幻想郷の様子を見るのが彼女のライフワークとなっていた。
因みに、彼女はとある筋の人達の間では超有名人である。


『だから永琳さんあなたの気持ちも分かる。
 だが…私はあなたを止めなくてはいけない。


 即刻戦闘を中止し、降伏してください。
 この戦いは、もはやあなた方の負けです。』


凄い凄い!!

今晩の地上は凄いわ!!

いきなり出てきて降伏しろって、シャアって奴は絶対にSね!


『あなた…その子達にいったい何をしたの!!!!』


『何も…』

まるで『おまえ下らないことで、何ムキになっているんだ、バカじゃないの?死ねば?』
って感じの表情キター!!

こ、これは、久しぶりの当たりだわ。
ハアハア…

『ここで負けを認めなければ、犠牲が増えるだけですよ。』
今度は脅し文句キター!!!
優しい表情をしていくるせに、腹の中では見下しているのは分かっているのよ!!!
ハアハアハア!!

『回線を切断しろ。』
ここまで興奮させておいて、ここで放置プレイだなんて、どれだけドSなのよ!!!


ゴロゴロと悶絶する天子。


凄い、こんなに凄いドSは久しぶりだわ!!
「ちょっと衣玖!こっちきて!!凄いわよ!!」


大声で、衣玖を呼ぶ天子。
どうやら、衣玖に今しがた味わった感動?をおすそ分けしたいと考えているようだった。

「衣玖?」



「衣玖?」




「早く来てよ衣玖?」




「どこいったのよ衣玖?」






「衣玖?衣玖!衣玖!衣玖!?」




「衣玖!!衣玖!!!はやくきて衣玖!!衣玖!!!衣玖っ!!!!衣玖ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ「ピシャーン!!!!!!」い、イイ!?」


side 永江 衣玖
~天界~

黒焦げになった天子の横に何者かが姿を現す。
彼女名は衣玖。
空気を読む程度の能力を持ち、傍若無人な天子を抑える部下のようなものであり、ドMとして有名な天子をどうにかしたいと思う友人でもあった。


私は空気を読む女…

「別に、●●●ーするなとは言いません、ですがこんな外でするのは止めて下さい。」

「はひいいいい…」
雷に痺れ、まともに返事ができない天子。

「しかも、イ●とか●クッとか、態々実況しないでください。」

「はへえええええ…い、衣玖、それはちが」
ビクンビクンしている天子。

これだけオシオキされたのに、また…イ●ですって?…まだ懲りないようですね。

ピシャーン!!!
また、雷を天子に落す衣玖。

「衣玖!!ちょっと、やめて衣玖!!!そうじゃなくて!!」

…まだ足りませんか。
ピシャーン!!

「や、やめて逝っちゃう!!死神の奴等が様子を伺ってる!!」

…私が総領娘様のドMっぷりを治そうと決意して早数百年。
総領娘様がバカなことをするために、それを矯正しようとオシオキとして雷を落し続けたのに、どうして悪化するばっかりなのですか!!

ピシャーン!!!

「や、やばい…また気持ちよくなってきた!!」

私は空気を読む女…
総領娘様の悪い性癖を何百年かかっても、直してみせましょう!!



[6470] 短編外伝第七話 霖之助編完結!?
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/05/08 12:16
短編外伝第七話
霖之助編完結!?

side ルーミア
この話は、永夜抄の少し前のお話なのだー。
本編の方を永夜抄まで読んでいなくても…読めないことはないのだー。
今回は独自設定、TS分が強めなので注意なのだー。

side ハニュー

なるほど、まとめると、こういうことだな。

初めに、ルイズさん達が、何か怪しい動きをしていることが分かった。
で、リグルが筆頭になって、ルイズさん達の宿舎に忍び込んだりと、色々な方法で何をしているのか調べた。
その結果、ルイズさん達はアリスさんのお母さんの命令で、アリスさんに手を出している(男女の仲的な意味で)相手を探していることが分かった。
そして、現在その容疑者の筆頭として名前が挙がっているのは店主だということも分かった。
なので、店主達についてもリグル達が独自に内偵を進めたら…
店主と朱鷺子さんの関係は、独り身には正視できない程盛り上がっていると思ったら、最近はそうでもないことが分かった。
どうやら、仕事の時間の関係で二人の生活がかなりすれ違っているらしい。
アリスさんと朱鷺子さんと店主、この三人の関係次第では大事になるかもしれないので、俺に報告に来た。←今ココ!!


…………そもそも、どうしてこんなスパイ紛いのことをしているのかと突っ込みたくなるが、出てきた情報は無視できないな。
俺の知る限りでは、店主はアリスさんと同じ仕事をしていて…朱鷺子さんは店主とは別のところで働いているらしい。
職場が別で疎遠になるということが原因で、二人の関係が冷え始めた…
つまり、仕事のシフトの関係で家であまり顔を合わさない朱鷺子さんより、仕事でいつも顔を合わすアリスさんの方を好きに…
これは職場不倫という奴か!?
そんなことを店主がしていると思いたくないが…
アリスさんは美人だし、状況証拠だけを見ると…うむむ。


うん。



決めた!



こうなったら、『友人』である俺が直接動いて調べるしかない。
「わかった、この件は俺が預かる!」
店主、俺が動くからには、絶対に濡れ衣を着せられるようなことにはしないからな!
もちろん、本当に不倫しているのなら、どうしようもないけど…友人として忠告ぐらいはしてやるぞっ。

----------

ということで、現在俺は紅魔館近くの森の中に潜んでいます。
ここら辺は、紅魔館と店主の住むアパートの間にある場所で、店主が帰り道に使っているところです。
情報によると、もうすぐ店主がここを通る筈だが…なかなか来ないな。








まだかな…





ぐうー


……………お腹空いた。


…こういう時は…じゃじゃーん!『はちみつラスク!!』
こういう時のために、おやつの『はちみつラスク』を持ってきていてよかった。


ぱりぱり…


うん、美味しい!!


もう一つ食べ…店主来たーーーー!!!
店主タイミング悪すぎ!と言いたいが、そんなことを言っている場合ではない。
まずは店主に警戒されないよう笑顔をつくってと…
そして、手を振りながら、友好的な雰囲気で駆け寄る。

ん?
すでに店主がこっちをジッと見ているぞ!
夕日も沈んでかなり薄暗くなってきているので、直ぐには俺だと分からないと思ったのに…
流石親友!友情パワーで直ぐに俺だとわかったのですね!

「なあ店主?明日二人で、ちょっとそこまで出かけない?」

「ぼ、僕と!?」

「うんそう、店主と。」
よくよく考えれば、これって親友と遊びに行けるってことじゃないか、嬉しい!!

ギュ!

あ…思わず力が入っちゃって、店主の手を掴んじゃったよ。
男の手をがっしり掴む…あまり嬉しくないシチュエーションだけど、最近同性と遊ぶ機会がなかったからな、自然と顔が綻ぶのが分かるぜ。

「明日は朱鷺子と…「先に調べたんだが、朱鷺子さんは仕事のシフトの関係で、明日は一日居ないらしいじゃないか。問題ないだろ?」
そう、俺が明日を選んだのは、ルーミアに調べてもらったところ、朱鷺子さんが仕事で家に居ないと分かったからです。
流石に、朱鷺子さんと休みが被る日を選んで、店主と朱鷺子さんの関係をさらに悪化させるなんて酷いことはできないからね。
しかし、さっきの様子から見ると、店主は朱鷺子さんが明日休みだと思っていたのか……朱鷺子さんのシフトも正確に把握できていないとは…
こりゃ…二人の関係は予想以上に不味い状態になっているのかもしれないな。

「うぐ…」
あ…店主の顔が歪んだ…
これは不味かったかな、俺の発言は、店主が朱鷺子さんのシフトを把握していないことを指摘したようなものだからな。
ショックを与えてしまったみたいですね。

それにしてもだ、手を掴んだあたりで一瞬嬉しそうな顔をしたくせに、イマイチ店主のノリが悪いな。
朱鷺子さんのシフトを把握していなかったことがショックだというより、何となく俺と出かけるのを嫌がっているような…

そうか…
朱鷺子さんが働いているのに、自分だけが遊んでいることに罪悪感があるのですね。
「朱鷺子さんには『友達に誘われた。』と言えばいいじゃないか。な?お願い!」
それなら、俺が店主を強引に誘ったと言い訳すればいいじゃないか。


う~ん。
せっかく言い訳まで考えてあげたのに、店主の反応がまだ弱いなあ。
こうなったら、もう一押しだ。
店主の右手を両手で握り『お兄ちゃん、お願い!』って感じのポーズだ。
聞いた話では、店主は小さい頃の魔理沙さんと兄妹のように仲が良かったらしいからな、多分子供が相手だと「仕方ないな~」という感じで、
甘いところがあるに違いないという想像から立てた作戦です!

「そ、それはそうだが…」
おっと!?
これは作戦成功か!!というぐらい、店主の心と体がよろめいたのが分かったが…
何故かその後、急に態度が逃げ腰になったぞ!?

うむむ。
しかしこういう状況にも対応できるように、二の矢三の矢となる作戦をしっかり練ってきました。
なんといっても、店主への疑惑が濡れ衣だったとしても、浮気だの二股だのと噂が立ったら、店主が社会的に抹殺されてしまうかもしれませんからね。
そうならないためにも、絶対に作戦は成功させなくてはいけません。
もちろん、本当に浮気していたら…骨は拾ってやるよ…

それじゃ、プランB発動!
「なんだよ、この俺が誘っているというのに、ノリが悪いな。
 そんな調子だと、店主と、朱鷺子さんの結婚式の時に~ハニューはぁ『あのときのこと』喋っちゃうかも~。」
小悪魔さんっぽい笑顔で店主の耳に顔を近付けて囁いてやりました。
実はこのプランB、小悪魔さんが良くやっていることなのです。
『そんなつれない態度だと、あのときのこと、喋っちゃおうかな~?』
って感じで、パチュリー様に…
ちなみに俺も一回やられたことがあるのですが、何もしてないのに、こういう態度取られると気になってしまうものです。
俺自身、もの凄く気になって、ルーミアの飛び蹴りが小悪魔さんに命中しなかったら、誘われるままに小悪魔さんについていってしまうところでした。
因みに、俺の言っている『あのときのこと』とは店主がメイド喫茶を手伝ってくれたときの、店主の執事っぷりについてです。
実は友人である俺と店主ですが、結婚式でネタに出来るような、一緒に何かを成し遂げたっていうエピソードはアレぐらいしか無いんですよね…
ですので、恐らく店主も直ぐに俺が何を言っているか気がつくと思いますが…
コスプレをして執事になりきっている状況は…メイド喫茶なら恥ずかしくはないのですが、結婚式で話されたらちょっと恥ずかしいと思うはず…
「行く!行かせてもらいます!!」
おおう…そんなに必死になるほど、執事の格好をしたのが恥ずかしかったのか!?
店主…必死になりすぎだよ、俺なんか年がら年中メイド服だぞ!

「それじゃ、明日十時過ぎに紅魔館の前で!」
でも『プランD、所謂ピンチですね。』という展開にならなかったし、まあいいか。
それにこれは、店主のためでもあるし。
さーて、明日が楽しみだ!


----------


それでは早速、明日の準備となるわけですが…
まずは服装だな。
メイド服で行くと、仕事を思い出させてしまって、店主の口が堅くなるかもしれない。
なんといっても、今回は店主をリラックスさせて『ぽろっ』という感じで情報を取るのが目的だからな。

ということは、私服がいいな。



えーと…私服私服…



私服…



私服!?




俺、まともな私服持ってない、というか、殆んど私服を持ってなかったorz


やばい、今から買いに行くか!
…って服なんてどこに売ってるんだよ。
人間の里で売っていたような気がするけど、今の時間から向かってお店を見つけて服を選んで…無理だろ。
じゃあ作るか…ってそれも無理だろ、常識的に考えて。

となると、俺と似た背丈の人から借りるしかない…
大ちゃんは…似ているが…今から家に向かったら、遅くなりすぎる。
それに、何故か解らないが、大ちゃんの家に向かうとBADENDになる気がする。

じゃあすぐ近くに居るとなるとルーミアとなるが…

………

…ルーミアっていつも同じデザインの服を着ているような気がするのだが…


ルーミアは駄目だ、じゃあ意外におしゃれと言うと…リグル!


は、論外じゃないか。

リグルじゃなくてミスティアだ!
ミスティアは、仕事では割烹着を着ていたり、ステージ衣装を持っていたりと、色々な服を持っている。
きっと私服もいっぱい持っているに違いない!

ミスティア!
助けて!!


----------

紅魔館近くのミスティアの家に行って来ましたが、屋台&ソロ活動で、今晩は帰ってこないそうですorz
(ご近所談)

どうしたらいいんだーー!?
「ハニュー総帥!先程から見ていましたが、どうなされたのですか!?」
あ、アイリス…


アイリスの胸を見る…巨乳だ。


俺の胸を見る…貧乳だ。




「アイリス…お前じゃ俺を助けられない。」
あ、アイリスが固まった。
でも仕方ないじゃない、どう考えてもアイリスの服を借りてもダブダブになりそうなんだけど…
『霖之助お兄ちゃん…このワイシャツ大きすぎるよ…』
キモっ!!アイリスの服を着て男の俺がこんな台詞吐いたら、キモ過ぎて店主ドン引き間違いなしだろ。

くそっ!!
アイリスが、マリーダぐらいの背丈なら、色々と借りられそうなの………そうだ、マリーダだ!!
マリーダも、俺と同じくメイド服姿しか見たことがないが…少なくとも俺よりマシな状況のはず…

マリーダ!
服を貸して!!

----------

マリーダ凄いです。
マリーダ自身は、それほど多くの服を持っていなかったのですが、俺と背丈が近い妖精メイドに声をかけて、みんなの私服を集めてくれました。
よくできたいい子だな~。
「これぐらい…大したことないです…」
いやいや、大したことあるよ。

ということで、マリーダの部屋いっぱいに集まった私服だけど…
この中からどうやって選ぶかという問題だが…選ぶにあたってクリアする必要がある問題が二つ存在する。

1-俺のセンスの問題。
2-店主から情報を引き出しやすい服装とは何か?という問題。

1に関しては…マリーダとかに手伝ってもらえれば楽なのだが…実はちょっとしたトラブルがあって出来なくなってしまいました。
みんなが私服を持ってくるに当たって、結構大きな騒ぎになったらしく、小悪魔さんやメイド長が様子を見に来る事態になったのですが…

それが、あんな大変なことに…


まず、小悪魔さんは『ここあ』ちゃん(という妹的存在がいると小悪魔さんから今日初めて聞きました。)の服、というものを持ってきて俺に着せようとしたのですが…
例えばリボン一つ緩めるだけで、一瞬でキャストオフするワンピースとか、何故か胸の部分の生地が無いドレスとか…
とても着れる代物じゃないものばかりでした。
というか、こんな服を着ている妹がいるなんて冗談だよね!?

そしてメイド長が持ってきたものは…ご丁寧に羽まで着いたお嬢様コスプレセットというべきものでした。
サイズが何故か俺にピッタリだったのは良かったのですが、これはこれでどう考えても明日着ていくには不適切です!
お嬢様のコスプレして会いに来られても、店主は絶対にドン引きするに決まってます!!
おまけに、お嬢様のモノマネをやってよ!的な期待の眼差しで皆から見られて、即興でお嬢様のモノマネをすることに…
しかも「転ぶときの仕草が違う!」といった感じの、メイド長の熱血指導つきで。
メイド長はニヤニヤしているし、どう考えてもこれって嫌がらせだよね!

ということなので、二人とも断ろうとしたら…
小悪魔さんも、メイド長も、双方の持ってきた服を非難し始めて…
脱いだはずなのに、一瞬の間にお嬢様コスをさせられたり、小悪魔さんが強引にお嬢様コスを脱がそうとしたり…
それを止めようと、マリーダが割り込んできたりと…他のメイド達を巻き込んでの大騒動になってしまいました。
二人とも目がギラギラしていて怖いわ、メイド達は吹っ飛ぶわで、騒ぎを聞いて駆けつけた妹様がメイド長と小悪魔さんを吹っ飛ばすまで収拾がつきませんでした。
なので、最後は俺自身の判断だけで選ぶということで、まとまりました。
というか、そうしなさいと妹様が決めてしまいました。


そして、2の方だけど、やっぱり店主から情報を引き出し易い、つまりリラックスさせる服装となると…
朱鷺子さんをイメージした服装がいいか…
でも問題は、朱鷺子さんのコスプレをすればいいという訳ではないことだ。
そんなことをしたら、店主はきっと変に気分になって、俺の話どころじゃなくなるだろう。
ということで、求められるのは朱鷺子さんとは違うが、朱鷺子さん的な感じのする服装を選ばなくてはならない。

朱鷺子さんと言えば…
時には清楚、時には元気な少女…

つまり…普通の少女ってことだな。

となるとだ、普通の少女をイメージする必要があるが…


普通の少女???


????


----------

色々と悩んだ結果、マリーダの持っていた、白いワンピースと麦わら帽子になりました。
普通の少女の格好どころか、そもそも女の子の格好がよく分からない俺ですが、友人との思い出が俺を助けてくれました。
俺の友人に凄くオタクな奴がいて、そいつの家にはエロゲやら、女の子の絵のポスターやらなんやらが散乱していて、そこで色々と彼の語りを聞いたものですが…
そいつがよく言っていました、女の子の夏の定番と言えば麦わら帽子に白いワンピースだと!
定番ということは普通ということなので、これでOKだと思います。
俺が見た所、活発な感じだし、清楚な感じもするので、店主に悪い印象を与えることはないと思います。

ということで、さっそく試着したのですが…

メイド長は、この服を選んだら急に興味を失ったみたいに帰ってしまったので、反応を見ることはできませんでしたが…
小悪魔さんは親指を立てて「淫魔協会の名誉会員に推薦します!」って訳の分からないことを言っていたけど、とても似合っていると言ってくれたし。
マリーダは「おそろい…」って言いながら、なんだか凄くうれしそうな顔をしているし。
他のメイド達も顔を赤くしたりと訳が分からない反応が多かったのですが、悪い反応は出ていないので、変な格好ではないのでしょう。

じゃあ、後はしっかり寝て、明日は早起きして、身嗜みとか、お昼の準備をしないとね!

----------

やばいな…思ったよりサンドイッチを作るのに時間がかかったうえに、何故か小悪魔さんとかアイリスとかルーミアとかがついて来ようとして、撒くのに時間がかかった。
全速力で飛んできたけど…少し遅刻だろうなあ。

あーあ…やっぱり遅刻だ。
あの背格好は店主。
店主を待たせちゃったか。
上から舞い降りつつ挨拶だなんて、見下ろして挨拶しているのと同じでちょっと失礼だけど…。
態々遠くに降りるなんてしたら、ただでさえ遅れているのに、更に時間がかかっちゃうからな、仕方がない。

「お待たせ!早く行こう!」

「ああ…」

…?
店主の反応がなんか変だな。
落ち着かない感じというか、顔をどうして背けるのかというか…

「どうした?俺の私服(借り物)なんだが、何か変か?」
もしかして、俺の服装ってやっぱり変なのか?
ほらほら、全身を見せるから、感想を聞かせてくれ。

「そ、そんなことは無いと思う…」


服装は変じゃないのか?
じゃあ店主のギクシャクした反応は俺の勘違いか?
それなら、まあいいか。

----------

男揃って森を散策だなんて…
昔なら、どう考えても罰ゲームだろこれ…って思っていただろうけど…今は楽しいなあ。
女の子に囲まれて、これなんてエロゲ?という生活も楽しいが、なんというか気が休まらない。
やっぱり同性と遊ぶのは、これはこれで楽しいな。
「こうやって遊ぶのは楽しいな。」

「こういうのは多いのかい?やっぱり、ルーミア君達と遊びに出ることが多いのかい?」

いやいや…店主。俺が言っているのは…

「ルーミア達と遊ぶのは多いけど、俺が言っているのはこうやって男と遊ぶのは楽しいってことだよ。」

「なんだって!?あ、いや…すまない。男と遊ぶことは多いのかい?」

多いと言えば多いけど…

「紅魔館に来てからというか…最近は遊ぶ相手がいなくて遊んでなかったけど、昔は男と遊んでばっかりだったよ。」

それは昔の話なんだよね。
紅魔館というかゲンソウキョウに来る前の人間だった時代には、友達と言えば男ばっかりだったしなあ。
『男女を集めて旅行にいくよ!!みんな友達に声をかけてね!!』→当日→『何故だ!?人類の半分は女性のはずなのに!?何故男性しか集まらない!?わけがわからないよ!』
といことばっかりだったからなあ…だけど今や男友達と言えば、店主とリグルぐらいしかいない…

「そ、そうなのかい。あんまりそういうことは良くないと思うよ…」

え?
なんだよそれ。
確かに、毎日毎日遊びのことばっかり考えて過ごすのは不味いかもしれないが…。
「説教かよ、おっさんくさいぞ。大丈夫だって、大抵は遊んであげただけだから。」
どちらかと言うと、俺は友人達の間で大人気で、誘われたから仕方なく遊んであげただけだから、そんなに遊びのことばっかり考えているわけじゃないぞ。
恐れ入ったか!
と格好をつけて横髪をかき上げてみる。

…嘘です。
遊んであげたなんて、強がってるだけです。
本当は、遊びに誘ってくれて嬉しかったです…だけど遊び回っていたという訳じゃないのは本当だぞ。


ん?
店主、どうした急に立ち止まって。
なんだか、妙に挙動不審だぞ!?

「となると、やっぱり色々と恋愛経験豊富なのかい?」

「恋愛経験豊富?」
恋愛経験豊富?
はあ?
何のことだ?

「いや…それだけ男と遊んでいたのなら、沢山の彼氏がいたってことだろ、それなら恋愛経験豊富じゃないかなって思ってね…」

!?!?!?!?

「へ、変なこと言うな!!!だから遊んでいるだけだって!!誰が彼氏なんか作るか!!!!!」

な、何を訳の分からないことを言っているんだ!?

「へぇあ!?
 じゃ、じゃあ本当に遊んでいるだけなのかい?変なこととかしてないのかい?」

変なことって何だ!?

「当たり前だ!パンツレスリングじゃねーぞ!!食事に行ったりして、本当に遊ぶだけだ!!彼氏なんか一人たりとも作るわけが無いだろ!!!!!
 みんな本当の本当にただの友達だよ!!店主はいったい俺を何だと思っているんだ!!!」

店主はあれか!?
まさか俺が「あぁん?あんかけチャーハン?」という感じで兄貴的な意味で、皆と遊んでいたとか思っているのか!?
どう解釈したら、俺がGAY道に走っていたという展開になるんだよ!!!
流石にこれは笑えないぞ。プンプン!!


----------

という感じで、ちょっと居心地が悪い状態が続いて…
目的と真逆のことをしているじゃないか!!俺の馬鹿馬鹿!!
って感じで俺もどうしようかと思ったけど…

ちょうどお腹が空いてきたので、それをきっかけにして雰囲気を戻し始めることに成功しました。

やっぱり、お腹が満たされると機嫌が良くなって、店主の口も軽くなると思うんだ。
敵を制するなら、胃袋からってね!!
ということで、今日はサンドイッチを作ってきたんだよね。
まともな弁当作るより手軽だし~

「はい、どうぞ。」
まずは、定番とも言えるタマゴサンドから。
さあさあ、お腹いっぱいになって、いっぱい喋ってくれたまえ。

「あ、ああ…。」

あれれ?
店主の視線が、俺とタマゴサンドを行ったり来たりするばかりで、どうして全然食べ始めてくれないんだ?

「どうしたんだ?」

「いや、意外と家庭的だなって…」

ああなるほど。
俺のような男がこんなもの作るのは意外だということですか。
だけど、今の時代は別におかしい事じゃないぞ。

「そうでしょ、これならいつ結婚しても大丈夫でしょ?」

今の時代、男だからと料理の一つ出来ないようだったら、結婚してから大変だからな!

「へ、変なこと言ってすまない、いただくよ。」

うん、頂いてくれたまえ。



うん?
店主の顔が固まって、顔が少し青くなってきたぞ??
「どうした店主?」
まさか…
店主!!そいつを(食べさし)を寄越せぇぇーーー!

パクッ!



口の中で砂糖の塊のように甘い卵が…


こ、これは!!


「まじゅい…」
うへぇあまりの不味さに、涙が出てきた。
これはどう考えても…
「塩と砂糖を間違えた…」
どうしてこんなミスを…
やっぱりあれか、料理一つ出来ないと!なんて心の中で豪語していたが…
実は元々あんまり料理をしていなかったのが不味かったか!
しかしおかしいよな…料理が下手だからアイリスに手伝ってもらったのだが…どうしてお互いにこんな初歩的なミスを見逃したのか。
さては…アイリスも実は俺と同じで料理の経験が少ないな!
「はははははは!!」
ちょ店主!?
「わ、笑うな!!
 これでも、店主のために朝から頑張ったんだぞ!!!」
笑いを取るために朝から頑張ったんじゃないんだぞ!!
や・め・ろ!!

----------

う~店主の奴~。
俺が笑うのを止めろと言っているのに、逆にどんどん激しく笑いやがって~。


でも、結果オーライだな。
結局さんざん笑った後は、普通に喋れるようになって会話が弾んでいます。

それにしても、勢いで俺の話とか店主の話をしたけど…やっぱり楽しいな。
女の子相手だと、どうしても気疲れしちゃう面が、多少なりともあるんだなあ。

こんな楽しい時間がずっと続けばいいのに…




ドサ!!




なんだ!?
「うまそうな匂いがすると思ったら、半妖…か?」
「半妖といえば、半分人間か!!こりゃ旨そうだ!!」
「ひひひひひ!!」
「ヒャッハー!!」

ちょっとこれは…やばくない!?
いかにも、モンスターという感じの奴等が出てきましたよ!!
しかも一人は大きな蜘蛛の姿をして…


アレ…この蜘蛛…


まさか…


こいつって…



俺を食べようとした蜘蛛じゃないか!!
こ、こんな所で男二人で蜘蛛に喰われて死ぬなんて!
そんな虚しい死に方嫌だ!
せめて死ぬなら、メイド長に「せめてもの情よ、私の手で殺してあげる。」って感じで、いじめ殺される方がまだよかった!
だなんて、現実逃避している場合じゃない。

さっさと逃げ…………
げぇ!?
店主が取り囲まれてる!?

店主が喰われている間に逃げる!
なんて真似は出来る筈がない。
店主を助けてあげたいと思うが…

俺があの蜘蛛と戦って、店主が逃げる隙を作るなんて不可能だ。
どう考えても一撃で食い殺されてしまう。
となると、ゲームとかでよくある挑発的な台詞で俺への興味を引くというのはどうだろうか。
例えば…「貴様らには水底が似合いだ。」とか「目標を駆逐する。」とか「悲鳴をあげろ 豚の様な。」みたいな感じの台詞を使って…

ってそれは駄目だ。
相手にはあの蜘蛛がいる、俺がそんな台詞を言っても、俺が弱いことを知っている蜘蛛にとっては、ただ強がっているようにしか見えない。
つまり、俺が興味を引こうとしていることが、簡単にばれてしまう。

そうだ…



どうせ、ばれてしまうのなら、完全に突き抜けてしまえばいい。
幸いにして、恐怖で手が震えてしまっていて、準備は完璧だ!

「っぐわ!…くそ!…また暴れ出しやがった…」
まずは、息を荒げながら、必死になって自分の腕を押さえるようなポーズを取って。

「ハニュー!?」
店主が驚いている、敵を騙すならまず味方からと言うから…これは成功しそうですね!
嘘がばれてしまうのなら、最初から思いっきり嘘の行動(痛い行動)を取ればいいのです。
流石に、ここまで突き抜ければ、敵も馬鹿らしく感じてしまって、そこが隙になるはず!
よし、もっと派手に邪気眼を発動させるぜ!!

「っは…し、静まれ…俺の腕よ…怒りを静めろ!!」
周りの視線が集まってくるのを感じます、もう一押しだ!

「が…あ…離れろ…死にたくなかったら早く俺から離れろ!!」




「「「待ってくださいリーダー!!」」」

うん?


あれ?


隙が出来るどころか…どうしてあいつら、いなくなったんだ!?

これは…

まさか…



あまりにも痛すぎて、俺を正視することができなくなったのですね!!!












俺は勝ったんだよ…な?






…とりあえずよかった、ことにしよう。






ドサリ


あれ?
どうして尻餅ついたんだ、俺。


ガタガタガタ…
うわ…さっきの手の震えの比じゃねーぞ!?
安心したら、今頃怖さが湧いてきた。
涙も出てきたよ!?



まずい、心が抑えられない!?



あ、もう駄目だ。


「怖かった!!!怖かったよーーー!!!」
うう、店主なんかに泣きつくなんて…でも、心と体が言うことを聞いてくれないよ~。


----------

うー。
あの後無事に紅魔館にたどり着いたのだが…
結局、全然目的の件を聞き出すことができなかった。
おまけに、かっこ悪いところを見られまくってしまったよ。
とりあえず、店主には「ありがと…店主を助けてあげたから、あいこってことでいいよな?」という感じで、うまく動揺した俺の気持ちを隠すことができたが…

本題の情報聞き出しに再チャレンジしないと。
とにかくあれ以後、店主を見つけたら積極的に話しかけたり、笑顔を見せたりして、再度店主を誘う土壌を整えているが…
やっぱり、朱鷺子さんのスケジュールを考えると次は前回からちょうど一週間後になるな。

しかし最近困ったな。
ここ数日、いっつもアイリス達が俺の周りにいて落ち着かない。
以前から周りにいたけど、ここ数日は数も時間も異常に増えてる。
食事とかも、まるで監視されているみたいで、全然落ち着かないのですが。
おまけに、目的の件のために店主と話しているときまで、近くでジッとこっちを見ているので落ち着かないw


----------

で、今日は前回から一週間後、店主と新たに出かけることを約束した日です。
現在俺達は、人間の里に来ています。
時間は、ちょうど夕飯時。
そう、今日は二人で夕食です。
前回は、俺の料理が失敗しちゃったからなあ。
また失敗したら店主が可哀想なので、ちゃんとしたお店に行くことにしました。

お目当てのお店は、俺達が経営しているメイド喫茶。
ここなら、味も金額もよく分かっているから失敗はありえません。
因みに、今日の俺の服装はいつものメイド服ですが…
お店に入ったら、店主に好きなメイド服を選ばせてあげる予定です。
何故かというと、今日は店主がご主人様で俺が店主の『専属』メイドとしてご奉仕する予定なのです。
前回のお詫びも籠めてね。
俺のご奉仕で店主にはリラックスしてもらって、色々と喋って貰いましょう。

さてと、店主はどこのお店に行こうか迷っているな…
今がメイド喫茶へ誘うチャンス。
気を引くように袖を引っ張って、安心させるようにちょっと笑顔をつくってと…
「ねえ店主…お店はメイド喫茶にしようか。」

あれ?店主の反応が無い??

「ぼ、僕はああいう所はに、にに、苦手でね。」

店主は何を遠慮しているんだ??

「まあまあ、遠慮するなって~。あそこなら特別に安くなるし~。」

そうそう、所謂、社割というものが効くのです!
しかも、俺がメイドとしてご奉仕するから、メイドさんに払うお金もゼロ!
俺の懐にもとても優しいのです。
だから遠慮無用です。

「いや、だ、駄目なんだ、あそこだけは不味いんだ!!」

あれれ?
何だか本当に嫌そうだぞ??
これはどういうことだ??
は、はーん…
朱鷺子さんに誤解されるのが嫌なんだな。
でも大丈夫、『友達』の俺が店主をご主人様としてご奉仕するから、誤解される心配は絶対に無いよ!!

「大丈夫だから、俺がメイドとしてご奉仕するから!場所も個室のVIPルームで俺と店主の二人っきりだから!」

しかもだ、色々と聞かれたら不味いの内容の会話もありそうだから…VIPルームを先に押さえているのですよ!!
因みにVIPルームとは、お店の奥に設置されている個室で、紅魔館の倉庫からパクッ…ゲフンゲフン…
紅魔館の倉庫から借りて来た調度品を設置した豪華な部屋のことです。
周りを気にせず指名したメイドさんとゆっくり話をしたいとか、VIPな雰囲気を楽しみたいというご主人様方のために設置した特別な部屋。
ちょっとお値段が高いのですが、中々の人気なのです。
VIPルームの設置を提案してくれた、小悪魔さんとそのお友達ありがとう。

「そ、それより、僕がいい店を知っているから、僕が奢るからそこにしてくれ!!」

何だと!?店主が奢ってくれるだと!?
どうして声が裏返っているのか分からないが…

「ホント!?店主最高!!愛してるぜ!!」
やった、これは嬉しい!!
流石持つべきものは友だな!
思わず抱きついちゃったぜ。

どんなお店かな?
楽しみだなー。






ってしまった。
店主に奢らせてどうする。
しかし、もうお店に向かい始めちゃったし…

うん、決まってしまったのは仕方がない。
ここはご馳走になるか。

----------

ほぇ~。
入り口やエントランスは紅魔館より小さいが…その造りの豪華さはいい勝負だぞ…
間違いなくここは高級店だ。
「店主、なんだか立派なお店だな。」
壁の飾りとかは、一見するとあまりのゴージャスさに逆に映画のセットのようなハリボテかと思うが…
よく見ると一つ一つしっかりとデザインされた一品物じゃないか…
おっ、あの壁にかかっている人物画は、ストーカーさんに似ているな。本人より、かなりカッコいいけど。
うーん。
紅魔館に就職したばかりの頃にも感じたが、まるで世界遺産とかになっている建物を観光しているみたいだ!

「いらっしゃいませ、森近…………!!」
うん?
お店の人っぽいおっさんが出てきたが…何故俺を見つめる。

ああそうか、俺がメイド服だったから驚いているわけですね。
そりゃ、高級レストランに例え本物とはいえメイド服のお客が来たら困るでしょう。
ドレスコード的な意味で。

「失礼いたしました、本店のオーナーを務める者でございます。ハニュー様森近様ようこそいらっしゃいました。
 ささ、奥のお部屋へ。」
おお!
オーナー直々にOKが出たよ。
素材の感じとか細工の丁寧さとかから、凄くいい物だとは前々から思っていたけど…
ドレスコードも問題ないとは、流石紅魔館のメイド服といったところか。

うん?
そういえばどうして俺の名前を知っていたんだ?
このお店は、紅魔館に食料関係で出入りしていて、そこで俺と面識があったりしたのかな?
…俺の記憶力じゃ、出入りしていた業者の顔を全員思い出せないが…多分そんなところだろうか?

----------

へぇ~。
おじさんに誘われるまま、奥の部屋に入ったら、そこもまた立派な部屋じゃないか。
ソファの座り心地も、なかなかだ。

「本日はどのような趣向がよろしいでしょうか?」

「彼女に合わせてくれ。それとすまない、実は以前の『貸しの分』を使って食事をさせて貰いたいのだが…。」

「畏まりました。森近様へはまだまだ返しきれておりませんでの、お連れ様の格に合うものを十分にご用意できます。」

「そうか、安心したよ。ありがとう。」


店主とオーナーは何の話をしているんだ?
「店主、何の話だ?」

「実はこの店には貸しがあってね、それで食事を取らせてもらうように頼んだんだよ。」

「食事が取れるほど貸しがあるのか!?」

「まあね。」

ほほう…
いいこと聞いたぞ。
店主に奢ってもらうことになってしまったとはいえ、色々と心配だったのだが…。
今の会話で分かったことがあるぞ。
一つは、店主の懐は心配しなくていいということ。
そしてもう一つは、懐を心配しなくてはいいとはいえ、高級店だからとんでもない額を奢る気じゃないかと心配したのだが…
俺の格、つまり一般人の格に合ったものを用意すると言っているので、お店の料理が全体的に高いのは間違いないが…
とりあえずは、常識的な金額に収まりそうだということだ。


つ・ま・り!!
遠慮無用!!!!
食うぞーーーーーー!!!


----------

ハフハフ!

「おいしー!」
おおー…
これは思わず笑みが出るほど美味しい。

パクパク!


「紅魔館はお嬢様好みの味ばかりだからなー、こういうのは久しぶりー!」
しかもだ、紅魔館の料理は全体的に、お嬢様好み(子供っぽい)味で、メイド用の食堂もそれの影響を受けていたからな。
こういう大人向けの味が、ぐっとおいしく感じるな!

モグモグ!

「景色もいいなー!」
更にだ、この景色がすばらしい。
魔法の力(科学の力だと思うが…)とやらで、部屋の中なのに満点の星空と海が見えていて…
星空が見えているのに、店主の顔や料理は普通に見えているという不思議。
まあ、海が見えるぐらいじゃ、それ程感動しないが、偽者とは思えないほど美しい光景にはちょっと感動です。

これで相手が店主じゃなくて、うどんげやメイド長(性格は別)みたいに可愛い女の子なら最高なのだが…そこだけが残念!

「ふふふふふ…」
って店主キモ!

「どうした店主?」
店主は、何を笑っているんだ!?

「いや、まるで朱鷺子のようにはしゃいでか…!?」
あー。
確かに、俺テンション上がりまくりで、はしゃいでしまった。
店主は笑っているけど、ちょっと食べ方が下品すぎたから、本当は不愉快に思っているかもしれない。

「嬉しくてさ……、店主ごめんな、不愉快にさせちゃって…」
でもさ、凄く嬉しくてさ。
だってさ、紅魔館って女の子ばっかりじゃん。
右見ても、左見ても、凄くお上品に食べていてさ、それがさ、たまーに息苦しく感じることがあるんだよね。
あのルーミアでさえ、人前ではテーブルマナーとか凄くしっかりしているんだよ。
だから、こういった感じで自分の好きなものが出てきたからって、がっついて食べようとすると凄く目立つわけ。
でも今日は、男同士だから…その…

う~。
だけど、高級店だとそれでも流石にまずいよな。
ごめんな、店主。

「……そんなこと…ないかな。
 そうだな…普通っぽくていいと思う…かな?」

!!

「そっか、よかった。大好きな店主に嫌われたらどうしようかと思った。」

よかった!
大好きな友人に、食べ方汚すぎ!お前最悪!とか言われて嫌われたらどうしようかと思ったぜ!!


----------


いや…食った食った!!


やっぱり友人との食事は楽しいな。











しまった、また目的の件について聞くの忘れてた。
ちょっと俺って、どんだけ間抜けなんだよ。
(//∇//)カァー
自分の間抜けさに、恥ずかしくなってきた!
ってまずい、なんだかこのまま解散って感じの雰囲気になってるよ!
聞き出したいことがあるから、帰りたくないと言いたいが、流石に本当のことは言えない。
「店主帰らないで…今日は帰りたくない。」
だから、今日は家に帰らずに、友人と朝まで語り合いたい!!という感じの台詞にしました。
うう…だけど嘘を付くのはつらいな、店主の目を見れないよ…


店主?


どうして、俺の肩を両手で掴んだと思ったら、手放したり、手放したらと思ったら、また掴んだりしているんだ??


こっちは、何故か段々気持ち悪く???


あれ?



コチン!


「あれ??おかしいな俺酔っ払っているみたい??お酒は飲んでいなかったのにな…」
おかしいな?お酒は飲まないようにしていたのに、酔っ払っているぞ??
もしや、料理にアルコールが使われていたのか!?

「やっぱり帰ったほうがいい。」
うう…店主の言うとおりだが情けない。

「ごめんね、そうするよ。
 ねえ、店主…悪いけど肩を貸して。」
男友達に肩を貸してもらいながらの帰宅か…
情けないが、大学時代を思い出すなあ。

はぁ…
例の件にとっては、何の進展も無い一日だったが、俺としては楽しい一日だったかな?
な、店主もそう思うだろ?

店主どうした?酔っ払ったか?
聞こえてくる心音が、妙に激しいぞ?


----------


酔っ払った数日後…
俺はなんとも残念な気分を味わっています。
でもそれは、店主の事ではなく…訓練生達のことです。
実は少し前から、俺は訓練生(新入生)と一緒になって訓練を受けていたのですが…
訓練生とは少しの間、お別れになってしまいました。
なんでも今日から試験を含めた合宿があるらしく、一週間ちょっとは帰ってこれないそうです。
合宿では、俺達訓練生がいくつかのチームになって、ミッションをクリアするのが目的だそうで、俺も出たかったのですが、マリーダに頼んだら…
「チーム毎の戦力差が出過ぎる、訓練を預かるものとして容認できない。」と長門風にバッサリと言われてしまいました。
いや待てよ、店主へのミッションが進んでいない状況では、むしろラッキーだったかも、みんな頑張ってね「ハニュー総帥!出発の準備が整いました!!」
あれ?アイリス…?どうして訓練生用のメイド服と背嚢を持ってきているの!?
「さあ総帥、合宿に行ってらっしゃいませ!」
ええ???俺は行っちゃ駄目だったんじゃないの!?
「合宿に行っていいの??でも、マリーダが駄目だって!」

「マリーダは説得したから大丈夫です。」
マジで!流石アイリスだ!!
だけど…
「やっぱり邪魔になるんじゃ…」

「何を仰いますか!!ハニュー総帥と供に訓練を積んできた仲間達の気持ちが分からないのですか!!」
うむむ。
そうかあ、そうだよな…
だけど、マリーダは戦力差が出過ぎると言っていたんだよなあ。
つまり、俺が足を引っ張るということだよなあ、そう考えるとやっぱり彼女達のためには出ないほうが…
それに、店主が気になるし…

やっぱり、店主>合宿かなあ…

「ハニュー総帥…ここだけの話ですが、合宿の後には二日間のキャンプがついていまして…全員水着持参です。」

なんだと…

「ちなみに、先程までマリーダの荷造りを手伝っていたのですが、マリーダはどんな水着を持っていこうか、ずっと悩んでいましたよ。」

ゴクリ…

「もちろん、ハニュー総帥に見せるためにです。」

……

「これは補足情報ですが、キャンプ期間中は無礼講でして、しかも共同で事を成し遂げた後ですから、色々と親密になる者達が多いとか…」

店主<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<合宿
さよなら、店主…

「行く!行くよ!!あ、そうだ店主に伝言があるから、ちょっと待っててね!!」
先日の件と合宿の件、そして今度の夏祭りまで会うのは延期ということを伝えよう。
実はもう少し経つと、人間の里で夏祭りが行われる予定なのです。
店主と出かける口実としては凄くいいので、狙っていたんですよね。



「…小悪魔の言う通りに言ったら本当に上手くいくなんて…
 小悪魔の言っていた様に、ハニュー総帥があの眼鏡男と逢引をするのは…ハニュー総帥の欲求不満が原因なのか!?」

ん?
アイリス、何か言った??


----------

俺達のチームは見事に試験をクリアしました。
試験は対抗部隊が守るターゲット三つを破壊し、期日までに脱出ポイントにたどり着くというもの。
サバイバルが上手で、森の食材だけで皆のお腹を満足させちゃう子とか、小鳥達と会話?をして敵の位置を調べちゃう子とか、
やたら格闘技が強い子とか、ターゲットを1kmオーバーで狙撃しちゃう子など、皆の特徴を上手に使っての勝利でした。
因みに俺は何をしたかというと…



囮です。


いやね、試験だ演習だ!って気合を入れていたら、俺だけ、マリーダや他の教官達から武器以外の自分の能力は使っちゃ駄目とか言われたわけですよ。
そりゃさ、俺だって馬鹿じゃないから、本来居ないはずのメンバーの俺は純粋に戦力の上乗せだから、そういうハンデが入るのは分かる。
だけど、貧弱な少女である俺が、たった二つしか持っていない能力。
『空を飛ぶ程度の能力』と『手からビームが出る程度の能力』を封じられて、空を飛ぶ他のメンバーを自分の足だけで追いかけるなんて拷問過ぎる。
(因みに、足を引っ張って戦力がマイナスになるから、ハンデで武器をもっと持っていっていいよと言われなくて、ちょっと安心したのは秘密w)
俺が走って空飛ぶ連中についていけるという前提で話していることから考えるに、ゲンソウキョウの生物兵器的にはそのぐらいのスペックは常識的なものみたいだけど…
俺って多分かなりの欠陥品だから!!
だから、どう考えても無理だけど!!!

ということで、俺が一人で行動できるように、俺が囮になるという作戦を提案し、採用してもらいました。
因みに、何故か俺が敵に警戒されまくっているので、囮には相応しいというのが皆の意見でしたが…
確かに博麗の巫女との戦争に参加したりと実戦経験はあるけど、俺が警戒されているなんて絶対にありえないから。
実際に、俺は演習の終わりまで、たった一回しか戦わなかったし。

一回しか戦わなかった理由は、多分俺があまりにも戦力にならないと分かったからだと思います。
初日で、対抗部隊に発見されて、武器を落としてしまう大失態をしたあげく…
どうしようもなくなった俺は…
「俺は能力(空を飛ぶことと、手からビームを出すこと)の使用を禁止されている。
 だが、お前達は俺がスペルキャスターでもあることを知らなかったようだな!!
 魔法は能力ではない!!技術だ!!!!!!」

「えええ!?話が違う!」

「ザムディン!!!」ドオオオオオン!!!←心の中の効果音

「助けてええええ!!」

とか言って、はったりを言ったら、それ以後、誰も俺の所に来なくなった。
対抗部隊の女の子はその場の勢いで逃げていったけど、常識的に考えて直ぐにハッタリだとバレて、戦力的に態々倒しに行く価値なしということで、無視されたのだと思う。


そんなこんなで、無事に演習が終わって、キャンプとなったのですが…
そこで事件は起こってしまいました。

今俺の前には、俺の荷物があります。
そして、その中身はアイリスが用意してくれました。
俺の下着とかまでしっかり入っていたのは、有難さを通り過ぎて、恥ずかしかったが…まあ事件という程でもなかった。
だけど、問題は水着。


俺って水着を持っていなかったんだよね。
だから、この水着の持ち主は誰なのかということなのですが…
入っていたアイリスの手紙によると、リグルの水着だというのです。
使用済みだけど、しっかり洗っているから大丈夫だとのこと。


男のリグルが女性物の水着を持っていて『使用済み』だと!?





着れないだろ、常識的に考えて。


どうしよう、川の方からは楽しそうなキャッキャウフフな声が聞こえてくるのにいいギギギギ…


「水着を忘れたの?」

!!
…俺に話しかけてきた、白スクール水着っぽい格好をしている少女はマリーダ!!

「実はそうなんだよ…」

「じゃあ、私と一緒に川辺で遊ぶ?」

おお!
なんていい子なんだー!!

----------

結局その後は、マリーダとキャッキャウフフと遊びました。
どうやら俺が水着を持っていないため絡みにくかったらしく、他の皆は遠巻きに俺達を見るだけで全然近付いてくれなかったですけど。
でもその後、カレーを作っていた時に、訓練生のヒソヒソ声が聞こえたのですが…
「いつも無表情なマリーダ教官があんな笑顔になる初めて見た。」
「やっぱり噂は本当だったのよ!」
とか言っていたので、少なくとも俺を誘ってくれたマリーダは、本当に俺との遊びを楽しんでくれたようなので、よかったです。

そして、夜は、好きな子は誰なのか?どうとかという、会話を楽しみました。
因みに、何故かマリーダが、誰が好きなのか?それをこの場で公表しちゃえと執拗に集中砲火を浴びていたので可哀想でした。
ですので、止めさせましたけど、何故かキャーーと皆大喜びという感じで騒いでしまって、困ってしまいました。
うーん、年頃の女の子の行動はよく分からない…
因みに、俺が店主を好きなのかというお馬鹿なことを聞いてくる奴がいたので、店主は友達以外の何者でもないと言っておきました。
どうしてそんな勘違いが出来るのか不思議です。


という感じで、振り返ってみれば楽しい合宿でした。
そして、次はいよいよ夏祭りです。

今回は、過去の失敗を繰り返さないよう、事前に夏祭りのことをしっかり調べ、作戦もしっかり立てました。
最大のポイントは夏祭りに行われる演劇です。
その内容は一人の男性(主人公)と幼馴染の女性の間にお姫様が割って入り三角関係になる話で、最後はお姫様が身を引き元の鞘に収まる話…
どうよこれ。
店主=主人公
朱鷺子さん=幼馴染
アリスさん=お姫様
って感じでそっくりでしょ。
俺はこれを見た後に、店主に感想を聞きつつ、店主に探りを入れる予定です。
そして、それでも分からないようなら、覚悟を決めて直接聞き出すつもりです。
こういう演劇を見た後では、例え店主が嘘をつこうとしても、どこかしら行動がおかしくなるでしょうし。

そして毎度同じく服装も、ちゃんとシチュエーションに合ったものにしています。
夏祭りで変に店主に警戒されない服装と言えば、浴衣です。
リグルが持ってきた浴衣を華麗にスルーし、ミスティアが人間の里で買ってきてくれたやつにしました。
因みに、団扇も買ってきてくれたので装備は完璧です。
と、言いたい所だが、浴衣の着方はこれであっているのか??

誰かに確認してみたいが、あまり時間がないぞ、確実に知っている人を探さないとまずいな。
ミスティアが一番知ってそうだけど、夏祭りのイベントに呼ばれて、もうここにはいないし…
ルーミアはいかにも知らなさそうだし…メイド長は知っていても、相手にしてくれない可能性が大。
アイリスは全然見かけないし、マリーダもシトリンも…というか俺がよく知っている妖精メイドが全然いないぞ。
なんというか、確実に出会うことができて、浴衣の着方をしっかり知っていそうな知り合いって、思った以上にいないぞ!?

うーん…

そうだ、一人いるぞ!

いつも同じ場所にいて、何でも知っていそうな…図書館の主!

----------

「浴衣の着方…?」

「そうです、浴衣の着方、これで合ってますか!?」

「本で読んだことがあるから、知っているわ。」

やった、流石パチュリー様!

「特に間違っているようなところは…」

ん?どうしたんですか、急に黙ってしまって。

「確か本では、浴衣の下には下着をつけないのが、正しい着方だと書いてあったわ。」

え…つまり…『はいてない』のが正しいだと!?
し、知らなかった…

俺が知らないだけで、夏祭りでは『はいていない』人達であふれかえっていたのか。
可愛い女の子も『はいていない』その弟の少年も『はいていない』もちろんお父さんもお母さんも『はいていない』…


日本って恐ろしい…

----------

うう…
おまたがスースーするよう…

落ち着かないし、なんか恥ずかしいし…うう…
「待ったかい?」
あ…
店主が来たよ。


待ってないけど、恥ずかしくて上手く会話ができない。
でも、今日は例の件を絶対に完遂するぞ!

----------

出店を楽しんで、その後に演劇を楽しみました。
といっても、緊張とスースーするなか、強引にテンション上げて店主を祭りの雰囲気に呑ませようとしたので、何だか全然上手くいきませんでしたけどw
ですが作戦は続行です。
他の人に邪魔されずに花火が観れる場所があると言って、人気の少ない場所に店主を誘い出しました。

さてと。
ミッションスタート。
「店主、今日の演劇を見てどう思った?」

「いい終わり方だったと思う…そういう君はどう思うんだい?」
ほ、ほう…
いい終わり方だったと、つまり浮気ENDな展開は駄目だと。
だけど、本当にそう思っているのか?という感じで畳みかけます。
これで少しでも「浮気、いいよね。」的な感じの事を言ったら、いっきに追求してやるつもりです。
「俺は、あの結末は納得できない…店主もそう思わないか?」

「あれで…あれでいいんだ。
 人にはそれぞれ分相応というものがある、あの結末でいいんだ。」

…そんなばっさり否定しなくても…
いや、店主の疑いが無くなるという意味ではいい答えだよ。
だけどさ…

「それは分かっているさ…だけど…せめて作り話の中だけでも…そう思っちゃいけないのかな?」
なんていうか、男としては憧れない?
幼馴染とお姫様、両方とも自分のものにしてしまう、ハーレム的展開。
せめて作り話の中だけでも、夢を見ちゃだめなのかな?
いやね、店主的には否定したほうがいい質問なんですけどね…
独り身の俺としては、馬鹿な夢だと分かっていても、否定されたくない夢というか…
うう…
リア充相手にこんな馬鹿な妄想を語っているという事実に悲しくなってきたぞ。
おっといけない。
笑顔をつくらないと。

「僕は朱鷺子を愛している………」
ぎゃああああああ、ストレートな答え来た!!
俺には彼女が居るから、そんな妄想なんて必要ないぜ!!
ということですね!!
これがリア充という奴なのか…。
こうも残酷な台詞を真顔で吐けるとは…
しかもそれを発したのが男友達というのが、凄くショックだ。

「俺は馬鹿だよね、店主の答えが分かっていたはずなのに…」
『僕は朱鷺子を愛している………』という言葉を発した時の店主の真剣さから、店主が浮気疑惑はやっぱり何かの間違いみたいですね!!
やった!!
と言いたいが…
リア充め、く、悔しい…
くそっ、こういう展開になって、惨めな気持ちになると分かっていたのに…俺の馬鹿!!

「ハニュー…」
そ、そんな哀れんだ顔で見るなリア充!!

「…あれ…涙が…おかしいな…どうしてかな…?」
あれ?涙が??
どうしてこうなる!?
俺はリア充を羨ましくて、涙が出るほど悔しいなんて思っていないぞ!
本当だぞ!!!

ギュ!

ちょっ店主に抱き締められた!?
!!
リア充が俺を哀れんでいるんだな!!

ふざけるな!!



「■■■■■■■!」
リア充爆発しろ!



って花火のせいで声がかなり、かき消されたけど…
とんでもない暴言を吐いてしまった。
店主も、ちょっと傷ついた顔をしている…

うう…これは、気まずい…
「店主…朱鷺子さんと幸せになってね!!」
くそっ、月並みな台詞だけど、友人として祝福してやるよ!!店主、俺はもう帰るからな!!

因みに、リア充っぷり対して、べ、べつに悔しくないからね!!って強がるために言ったんじゃないんだからね!!
涙も出ているけど、これも朱鷺子さんみたいな素敵なお嫁さんが自分にはいなくて悔しい!!って訳じゃなくて、目にごみが入ったんだからね!!

本当だよ!?

うわわわわわああああああん!!
もうゴールしてもいいよね!!

----------


もうやだやだやだやだ!
お家に帰る!

「チンチ●…」

!?

林の中を走っていたら、いきなり誰かに受け止められた!?
俺を受け止めたのは…ミスティア…?

「大丈夫ですか…」
それに、リグルまで。

「今晩は、うちの屋台を貸切にしてあげるから、朝まで飲もうね。」
ふぇ?

「さあ、飲みましょう。」
って、黒い霧のようなものが晴れたと思ったら、ミスティアの屋台が現れたぞ!?

どういうことなんだ??
ん?黒い霧??
まさか…
「ルーミアもいるのか?」
「もう終わりなのかーぽりぽり」
やっぱり居たか、しかし何故に煎餅を食べているルーミアの居る所には、ござの上にちゃぶ台(煎餅+お茶つき)とテレビがあるんだろうか…あれ?
ルーミアの横で倒れているのは…アイリスと妹様!?
今日は姿を見ないと思っていたら、どうしてこんな所で寝ているんだ!?
「そして、現実を否定したいと思っても否定できないので…そのうちアイリスは、考えるのをやめた。という状態なのだー。」
はあ?なんだそれは、じゃあ妹様は…
「暇だから寝てただけ、そろそろ回答編?それともまさかアレが全てなの!?そうだったらハニューの趣味悪すぎ。」
これはまさか…全員で俺の行動を見ていましたね!!どうしてそんなことを???


ツンツン

んん誰だ?
「森近さんと何をしていたのか教えて欲しい…です。」
振り返ったら、マリーダが不安そうな顔で、俺に店主と何をしていたか聞いてきたぞ!?
「森近さんが、ただの友達という話と今日の行動は矛盾していると…思います。」

                      「修羅場なのかーぽりぽり。」
                      「大妖精だっけ?その子を呼んだら、もっと凄いことになりそうじゃない?」
                      「流石、あらゆるものを破壊する程度の能力なのだー。」
                      「なにそれ?」
                      「ルーミアの苦労を完全破壊する気なのかー?それは止めてほしいのだー。」
                      「……………………………??」
                      「大ちゃんとチルノを修行の旅に出したり、人間の里に来ているハニューは影武者で、あくまで訓練だと宣伝したりー。
                       大変だったのだー。」
                      「………ごめん、軽率な発言だったわ。」

……確かに、俺の迫真の演技で情報を聞き出すという行動は、友達にする行為じゃないな。
だけど、友達を思うからこそ、こういうことをしたんだ。
「あのような演技を行ったから、マリーダが誤解するのは分かる、だけど間違いなく店主は友達なんだ。」

「演技!?それは本当ですか!!」
なんだ、突然アイリスが起き上がってきたぞ!?
「演技だよ、正直上手には出来なかったけど…これで、店主の浮気の疑いは晴れたな。」
結果よければ全てよし、ということで、いいよね?
というか、そう思わないと俺の心の傷が…


「まさか!これって!?そうか分かったぞ!」
リグル、どうした急に大声をあげて。

「チン●ッポ!?リグルちゃん、どういうことなの!?」

「森近さんの浮気疑惑があって…その調査をハニュー総帥にお願いしていたんです!!
 だから、さっきのは全部そのためじゃないかと…」

「その通り!さっきのどころか、ここ数週間の間ずっとそうだったよ!」

リグル…気がつくの遅すぎ。
お前が最初に話を持ってきたんじゃないか…

「信じてました!ハニュー総帥があんな冴えない男を相手にするわけがないと!!」
「チンチ●あの演技力で演技が下手だなんて、謙遜すぎるわよ!」
「よかった…」
「そういうことだったんだ!それ面白い!!ねえねえ!お姉さまを卒倒させるために、今度は私に浮気調査してよ!!」
「やっとこれで休めるのだー。」

って、なんだなんだ?
突然皆集まってきたぞ!?
おまけに、わいわい騒ぎすぎて、何が何だか分からないぞ??


----------


あの後、林の中や夏祭り会場に隠れていたのかと、思わずありえない想像をしてしまうぐらい、シトリン達ジオン部員があちらこちから集まってきて、
そのままなし崩し的にお祭り騒ぎになり…
最後は夏祭りに参加していた知らない人達まで混じって、夏祭り二次会的な展開になってしまいました。

そして次の日、アリスさんのお母さんに「私が調べたところ、森近霖之助はアリスさんに手を出していません。」と言っておきました。
アリスさんのお母さんは、最初は凄く驚いた顔をしたけど「申し訳なかったわ、アリスの親として出すぎた真似をしてしまったわ、親として謝罪するわ。」と謝ってきました。
親として、そういう気持ちになるのは分かるので「わかりました、今度は私に聞いてください、力になりますよ。」と言っておきました。
その後は少し雑談をして、アリスさんのお母さんの「寛大な処置に感謝するわ。」という言葉を最後に通信を切りました。
アリスさんのお母さんともめないか心配でしたが、無事に全て終わって安心しました。




と思っていたら。
仕事中に、店主が俺に会いに来たのですが…
しかも、朱鷺子さんを連れて…
ルーミアによると、アポを取ってきているので、会わないと不味いとのこと。

何これ、凄く嫌な予感がするのですが。

「ハニュー総帥、大切な報告があります。」

「大切な報告?」

「僕達は、今年の十二月に結婚式を挙げることにしました。」

……やっぱりそういうことかよ。
どうしてそんなに残酷なことを言いに来たんだ!!
独り身の俺にそんなことを言うなんて、俺の心にナイフを突きつけたようなものだよ!?



…そうか、自分達の世界に入っていて周りが見えていないな!!
文句を言ってやりたいが…流石にそこまで俺は子供じゃない。
「今年の十二月に結婚式か…わかった。」
少し固いけど、何とかいつも通りの態度で話すことが出来たぞ。
だけど、これ以上話すのは正直キツイ。
店主達、帰っていいよ。

「ハニュー総帥!!」

な、何だ!?
店主が大声を上げたぞ!?

「僕達を祝福してくれますか?」

り、リア充恐るべし…本当に自分達しか見えていないんだな。
そりゃさ、友達だからさ祝福するよ。
だけどね、どれだけ俺の心にダメージを与えれば気が済むのかと。
独り身には、見ているだけで辛いんだよ~

「店主は友達だからな、祝福するよ。」
だから、少し笑った顔を作るので精一杯だったよ…
俺、頑張ったよ。

「ありがとう」
さあ、店主は帰った帰った。

お、アイリス達が空気を読んだのか、少し引きずる感じで店主達を連れ出し始めたぞ。

って店主はどうして引きずられながらも、こっちをずっと見ているんだ。
よく分からないが、バイバイ店主。


ん?
朱鷺子さんがこっちに走ってきたぞ!?
あ、アイリス、別に止めなくていいよ。
朱鷺子さんにリア充爆発しろ!という気持ちは起きないから。女だけに。

「本当にごめんなさい。霖之助さんをあなたから奪って。」

な、なんだ、もの凄く頭を下げてきたよ!?
しかも奪ってとか…
確かに、朱鷺子さんに友達を奪われた気分というのはあるが…
そこまで気にする必要はないよ。

「気にしないで。」

「それでも、謝らせてください。」

なんという律儀な子。

「しっかりした人だな朱鷺子さんは…
 朱鷺子さんみたいな人だったら、安心して店主を任せられるよ。
 俺が言うのは変だけど、店主をしっかり支えてね。
 それと…もっと自分に自信を持って。」

俺って、店主の親かよw
って自分でも思うが、小市民である俺は、こういった当たり障りの無い言葉を並べて…
それだけでは物足りないので…
お嫁さんという、友達である俺の方が遠慮しないといけない状態なのに、ちょっと謙遜しすぎる悪い点を、
ちょこっとアドバイスするという、善い人っぽいことを言ってみたのさ!

「はいっ!
 ありがとうございます!!」
うん、いい返事だ。




あれ?

あれれ??

朱鷺子さん、ちょっと涙が出てるよ!?
何なのこれ!?
俺が泣かしたの!?
でも朱鷺子さん笑顔だし、どうなってるの!?
ちょっとルーミア、アイリス、妹様、どういうことなのこれ!?

「わお、流石ハニューね、うまくまとめたじゃない。」

「本気で言ってないですよね!?本気で言ってないですよね!?」

「ぷーくすくす、なのだー。」

うわあああん!
こいつら役に立たねえ!!!!


side 森近 霖之助&その他

紅魔館近くの森の中。
そこには、まるで森に隠れるようにひっそりと立つ建物群があった。
それは、紅魔館に所属していないジオン隊員達のために作られた宿舎だった。
これらの宿舎はどれもそこそこの大きさがあり、友人同士で暮すものや、恋人や家族と暮す者もいた。

霖之助もそんな中の一人だった。
霖之助は朱鷺子と共に一つ屋根の下で暮らしていた。
しかし、二人っきりの甘い生活を過ごしているかと思いきや、最近二人の関係は微妙にすれ違い始めていた。
それは、ジオンの技術者である霖之助と、ジオンで雑務をこなしている朱鷺子では、生活リズムに大きなずれが出来ていたからだ。
幻想郷やハニューの状況によって刻々と活動が移り変わるジオンにおいて、所属する部署が別ということは、生活リズムが別になるということを意味していた。
もちろん、ジオンの優秀な人事部隊は二人の関係を考え、出来る限りの調整を行っていたが、
それまで一時も離れず生活していた二人にとっては、共に生活する時間が大きく減少したのは間違いなかった。

今日も朱鷺子が帰ってくるのは僕が寝た後かな…
そう寂しい想像をする霖之助に突然悪寒が走る。

反射的に辺りを確認する霖之助の目が、一人の少女を捉える。
メイド服を着た青い髪の少女が満開の笑顔で走ってくる。
朱鷺子に似た身長と年齢(見た目)に、薄暗い中でも一瞬興味が引かれるが、直ぐに後悔する。

ん?こっちに手を振りながら走ってくるのは…
!!ハニュー!?
い、いったい何なんだ!?

霖之助に向かって走ってきたのは、霖之助の天敵ハニューだった。

「なあ店主?明日二人で、ちょっとそこまで出かけない?」
霖之助に駆け寄り、手を掴みながら言うハニュー。
「ぼ、僕と!?」

「うんそう、店主と。」
まったく邪気が無い笑顔で、逆ナンパのようにデートに誘うハニュー。
これが、ハニューじゃなければ、と霖之助は一瞬思うが、直ぐにそういう邪な考えを頭から追い出す。

一見すると、まるで何も邪気が無いように見える笑顔だが…僕は騙されないぞ!
それに僕はこれでも朱鷺子という将来を誓い合った彼女がいるんだ、例え相手があのハニューであったとしても、女性と二人っきりで出かけるなんて…
「明日は朱鷺子と…「先に調べたんだが、朱鷺子さんは仕事のシフトの関係で、明日は一日居ないらしいじゃないか。問題ないだろ?」

「うぐ…」

嘘をついて上手く断ろうと思ったのに、ど、どうして僕のシフトを知っているんだ!!
職権で調べたのか!?

「朱鷺子さんには『友達に誘われた。』と言えばいいじゃないか。な?お願い!」
言葉巧みに霖之助を連れ出そうとするハニューに対して、霖之助は必死にハニューへの反論を考える。
しかし、ハニューの方が上手だった。
突然、霖之助の右手を両手で握って、上目遣いで霖之助を見上げ始めた。
ハニューの柔らかい手の感触…
まるで蜂蜜のようなハニューの甘い香り…
そして、直ぐ近くに迫った、美少女という言葉がよく似合う美しくも愛らしい顔。
味覚以外の五感をすべて使った攻撃は、朱鷺子と共に暮す霖之助にとって、抗えないものではなかったが…
あまりにも不意打ち過ぎた。

「そ、それはそうだが…」
霖之助の胸は高鳴り、相手がハニューであるということを忘れそうになる。

…確かにそれなら、朱鷺子への言い訳になるが…


そういう問題じゃない!
一瞬、ハニューの言葉に従いそうになるが、自分がハニューのペースに乗りかけていたことに気がつき、全身で拒絶を示す霖之助。
しかし、繰り返すがハニューの方が上手だった。
「なんだよ、この俺が誘っているというのに、ノリが悪いな。
 そんな調子だと、店主と、朱鷺子さんの結婚式の時に~ハニューはぁ『あのときのこと』喋っちゃうかも~。」
小悪魔っぽい笑顔で霖之助の耳に顔を近づけ、囁くハニュー。

!!
その小悪魔っぽい笑顔…いったい何を喋ろうとしているんだ!?
あのことって一体…

ま、まさか…
初めて出会った時のことを喋ろうとしているんじゃ…
結婚式の時に、僕がハニューを押し倒したなんて話をされたら…

僕は社会的に抹殺される!!


霖之助が思い出したのは、ハニューと初めて出会った日、メイド服を試着するハニューを、ちょっとしたトラブルで押し倒すような格好になってしまったシーンだった。
ハニューが結婚式の席で自分が押し倒されたことを、あること無いこと含めて話す。
その想像にたどり着いた霖之助の心には、ハニューの誘いに乗る以外の選択肢はなくなっていた。

「行く!行かせてもらいます!!」

「それじゃ、明日十時過ぎに紅魔館の前で!」
くそっ、嬉しそうな顔をしやがって、僕を苦しめてそんなに楽しいのか!?

喜ぶハニューとは対照的に、霖之助は暗鬱な気分になった。

----------

次の日、幻想郷は晴れ渡り、暑い一日となっていた。
霖之助は炎天下の中、ハニューを待たされていた。

待ち合わせ場所に女の子が遅刻する。
そして、思いっきりオメカシした女の子が「お待たせ」と現れる。
待たされた男は、いつもよりずっと綺麗な女の子に目を奪われ、オメカシが遅れた理由だと気がつき、遅刻したことなんて気にならなくなる。

外の世界から流れてきた漫画ならそういう展開になるような場面だが…
僕にこれから降りかかる展開は、そんな展開など1パーセントも入っていないものだ…
はぁ…

ため息を吐いた霖之助が、暗い雰囲気を醸し出していると…
上から何者かが舞い降りてくる音が聞こえた。
霖之助が上を見上げると…

霖之助の目は釘付けになった。

「お待たせ!早く行こう!」
舞い降りてきたのはハニュー。
その姿は、純白のワンピースに麦わら帽子というものだった。

ハニューの姿に霖之助は衝撃を受ける。
それは、女王や悪女という言葉が似合うハニューというイメージからかけ離れた『清楚』な姿であり。
賭け根無しに、最高に可愛らしい姿だったからだ。

しかも、ハニューが霖之助の直ぐ近くに舞い降りて来たため、スカートの中が丸見えだった。

「ああ…」

「どうした?俺の私服なんだが、何か変か?」
ワンピースのスカート部分を掴み、上品なお辞儀をするような格好で、クルリと回転するハニュー。

「そ、そんなことは無いと思う…」

霖之助はハニューの言葉にそう応えるのが精一杯だった。
それは、霖之助にとってハニューを清楚で最高に可愛い女性として意識したことは、自分にとっても衝撃的なことであり、予想外の感情だった。
そして、そのような感情は昨日の手を握られた時のように、ショックによる一過性のものだと自分に必死に言い聞かせていたからだった。

だが、霖之助の頭の中には、しっかりとハニューのパンモロが『名前を付けて画像を保存』されてしまっていた。

----------

結局、霖之助が再起動したのは、ハニューと共に森を散策しはじめて暫くたってからだった。
ハニューは終始楽しそうにしていたが、霖之助はまな板の鯉状態だった。
それは、なぜハニューが自分を連れ出したのか、霖之助にはその目的が『虐めて楽しむ』という理由以外皆目検討がつかなかったからだ。
だが、思考停止していた時間も含め既に相当の時間が経っているが、これといって状況が変化しないことに、ついに霖之助は耐えられなくなり行動を起こした。
霖之助はハニューの「こうやって遊ぶのは楽しいな。」という言葉を拾い、ハニューの目的をそれとなく聞き出そうとする。

「こういうのは多いのかい?やっぱり、ルーミア君達と遊びに出ることが多いのかい?」

「ルーミア達と遊ぶのは多いけど、俺が言っているのはこうやって男と遊ぶのは楽しいってことだよ。」

「なんだって!?あ、いや…すまない。男と遊ぶことは多いのかい?」
男と遊んでいただって!?
それってつまり、普通の意味での遊びとは違う意味…

霖之助は遊ぶという言葉に反応した。
同性同士で遊ぶなら、その言葉に言葉以上の意味はない。
しかし、相手が異性となると言葉以上の意味があると考えるのが、霖之助等、人間の血を引く人々にとっては普通だった。

「紅魔館に来てからというか…最近は遊ぶ相手がいなくて遊んでなかったけど、昔は男と遊んでばっかりだったよ。」

「そ、そうなのかい。あんまりそういうことは良くないと思うよ…」

「説教かよ、おっさんくさいぞ。大丈夫だって、大抵は遊んであげただけだから。」
まるで失恋した時のように、一連のハニューの言葉にショックを受ける霖之助。
それは、清楚で最高に可愛いと感じてしまったハニューが、複数の男性と交際をしており…
しかも『遊んであげただけ』という、まるで男を手玉に取っていたような発言をしたからである。
『ハニューわぁ、アレが欲しいな~(ハート)』おじさんに腕を絡ませながら鞄をねだるハニュー。
『ハニューの言うこと聞いてくれたら、ハニューね、お兄ちゃんの言うことひ・と・つ・だ・け聞いてあげるよ(ハート)』
胸元のリボンを緩めながら、霖之助ぐらいの青年に囁くハニュー。
『はぁ?遊んであげただけで、なに本気になってんだよ。キモっ』告白してきた青年を、キモイの一言で切り捨てるハニュー。
『ハニューの好きなタイプ?ハニューはぁ、なんでも言うことを聞いてくれる人が好きだな~。』中年から、好みのタイプを聞かれ、流し目をしながら答えるハニュー。
『ハニューが遊んでやんよ。』小悪魔的表情で、少年に囁くハニュー。
色々と衝撃的なイメージが霖之助の頭に浮かび、霖之助のショックを大きくする。
だが、『遊んであげただけ』という発言時に、横髪をかき上げて、妖艶な雰囲気を出していたことを思い出し、直ぐに思い直す。

ハニューは見た目通りの存在ではない。
ハニュー程の存在なら、何人もの男を囲っていてもおかしくないと。
最初から、そういう女性だと僕は思っていたはずじゃなかったのかと。

そう思い直した霖之助は少しだけ冷静さを取り戻し、ハニューへの質問を再開する。

「となると、やっぱり色々と恋愛経験豊富なのかい?」

「恋愛経験豊富?」
不思議そうな顔をして聞き返すハニュー。

「いや…それだけ男と遊んでいたのなら、沢山の彼氏がいたってことだろ、それなら恋愛経験豊富じゃないかなって思ってね…」
少しばつの悪そうな顔をして応える霖之助だったが、それに対するハニューの反応は予想外のものだった。

「へ、変なこと言うな!!!だから遊んでいるだけだって!!誰が彼氏なんか作るか!!!!!」

「へぇあ!?
 じゃ、じゃあ本当に遊んでいるだけなのかい?変なこととかしてないのかい?」
あまりの剣幕に、思わず霖之助の心の中、ハニューがそうであって欲しいと霖之助が願った内容を正直に喋ってしまう。

「当たり前だ!パンツレスリングじゃねーぞ!!食事に行ったりして、本当に遊ぶだけだ!!彼氏なんか一人たりとも作るわけが無いだろ!!!!!
 みんな本当の本当にただの友達だよ!!店主はいったい俺を何だと思っているんだ!!!」
そう言い放つと、驚き、あっけにとられる霖之助を置いて、ずんずんと先に進んでいってしまうハニュー。

……男と遊んでいるといっても、それは友達の話であって、所謂男女の仲は一度も無かった??
どういうことだ!?
ハニューの発言に驚かされハニューに置いていかれる霖之助だったが、驚くと同時に少し安堵していたことに、霖之助自身はまだ気がついていなかった。


----------

その後しばらくの間、居心地の悪い雰囲気が続いた二人だったが、森の中の泉の近くでハニューがお昼にしようと切り出し、雰囲気が元に戻り始めた。

手に持ったバスケットを開けるハニュー。
するとその中には、いくつものサンドイッチが入っていた。

「はい、どうぞ。」
タマゴサンドを霖之助に渡すハニュー。

「あ、ああ…。」
霖之助は視線をハニューとタマゴサンドの間を何度も往復させる。

「どうしたんだ?」

「いや、意外と家庭的だなって…」
霖之助が手に取ったサンドイッチは、三角形の形が少し歪んでいた。
紅魔館で調理を担当するメイド達の腕は昔は酷いものだったが、近年はそれなりに熟練していた。
よって、このような形の歪んだ物を、しかもジオントップに渡すものとして用意することはありえない。
つまり、これはハニュー自身が作ったものだと直ぐに霖之助は気がついた。

霖之助は、発言した後、直ぐにしまったと思う。
それは、ハニューが先程のように怒ってしまうと思ったからだ。
ハニューのように組織の高い地位に立つ者は、自ら食事を作らないことが多いため、霖之助の感想は特段おかしい発言ではない。
ただし『意外と家庭的』という言葉は女の子に発言する内容としては落第点だった。

しかし、ハニューの行動はまたも予想外だった。

「そうでしょ、これならいつ結婚しても大丈夫でしょ?」

結婚…
その意外な言葉に霖之助は驚き、ハニューの花嫁姿を思わず思い浮かべてしまう。
しかし、ハニューの相手の姿を思い浮かべようとしたところで、あることに気がつき、霖之助は少しハニューが可哀想になる。
ハニューの立場から考えれば、家庭的な力を意中の男性にPRするような、普通の恋愛と結婚など望んでも手に入れられないからだ。
ハニューの結婚は、私人ではなく公人としてのハニューの判断により、政治の道具となってしまうのだ。
そこでは『家庭的なことができる』ということなど、ただの政治的な材料でしかないのである。

「へ、変なこと言ってすまない、いただくよ。」
そこまで考えが至った霖之助は、誤魔化すためにタマゴサンドを口に放り込む。
しかし、妙な甘ったるさが口いっぱいに広がり、霖之助はタマゴサンドを吐き出しそうになる。

「どうした店主?」
慌てて、霖之助のタマゴサンドを奪い取り、口に入れるハニュー。
『間接キス』そういう言葉が脳裏をよぎるが、ハニューの表情の変化にそんな言葉は吹き飛んでしまう。

「まじゅい…」
少し目に涙を溜めたハニューが、情けない顔をして霖之助の顔を見る。
そして…
「塩と砂糖を間違えた…」
更に情けない顔をして、失敗の原因を語った。

「はははははは!!」
それを見て、霖之助は思わず大笑いをしてしまう。
今のハニューの姿は、ジオン総帥として姿とあまりにもギャップがあったからだ。

「わ、笑うな!!
 これでも、店主のために朝から頑張ったんだぞ!!!」

必死に、笑うなと言うハニューだったが…
頬っぺたを膨らまし、霖之助の胸にポカポカと叩きながら怒る姿があまりにも子供っぽく、それが更に霖之助の笑いを誘っていった。


結局その後、二人はサンドイッチを食べながら話を続けた。
まるでじゃれ合うような結果になったサンドイッチの一件により、霖之助自身は自覚していなかったが、ハニューへの苦手意識が激減していたからだ。
おしゃべりの内容は、霖之助は、朱鷺子や仕事の話。
ハニューは、ルーミアや大ちゃんとの話といった、本当に他愛も無い話だった。
だが、霖之助から見てハニューは霖之助との話を、純粋に楽しんでいるように見えた。

そしてそのまま、その楽しい時間が続いていくかと思われたが…
突然茂みの中から黒い影がいくつも飛び出し、その楽しい時間を叩き壊した。
黒い影の正体は、いかにも妖怪という風貌をした妖怪達だった。
「うまそうな匂いがすると思ったら、半妖…か?」
「半妖といえば、半分人間か!!こりゃ旨そうだ!!」
「ひひひひひ!!」
「ヒャッハー!!」
いかにも妖怪らしい風貌ということは、どれもこれも低級妖怪であることを示していた。
しかし、霖之助は焦った。
霖之助は元々まったく戦闘向きではなく丸腰では低級妖怪相手でも勝ちを拾うのが難しかった。
しかも、1対4では逃げ切る自信も無かったからである。
案の定、あっという間に霖之助は取り囲まれてしまう。
霖之助は焦り、打開策を考える、すると打開策は簡単に見つかった。
自分では勝てないが、ハニューならまったく問題が無い相手ではないかと気がついたのだ。
案の定、ハニューの方を振り向くと、ハニューの雰囲気が先程までとは完全に変化していた。
「っぐわ!…くそ!…また暴れ出しやがった…」
ハニューは、息を荒げながら必死に自分の腕を押さえていた。
予想外の事態に「ハニュー!?」と霖之助は声を上げてしまう。
「っは…し、静まれ…俺の腕よ…怒りを静めろ!!」
その異常な光景と、霖之助の『ハニュー』という言葉に、低級妖怪に動揺が走る。
「ハニューってあのハニューだよな!?」
「博麗の巫女殺害未遂事件の首謀者で…」
「あの龍もまたいで通るという…」

「「「ジオン総帥ハニュー!?


   どうしましょうリーダー!?」」」
一斉に、リーダーである蜘蛛の妖怪に指示を仰ぐ低級妖怪達。
指示を仰がれた蜘蛛の妖怪は、体中から汗を流していた。
何を隠そう、この蜘蛛の妖怪はハニューが幻想郷で始めて出会った妖怪であり、そんな彼にとって、ハニューはトラウマになっていたからだ。

敵(ハニュー)を攻撃しようとする最も自分が無防備になる瞬間に伏兵(大ちゃん)によって撃破される。

という卑怯な罠によってハニューに負けた直後は、彼はハニューを見つけ出して復讐しようと考えていた。
ところが、博麗の巫女を殺そうとしたり、USC(アルティメットサディスティッククリーチャー)を撃退したり、異変を単独で解決したり、鬼を罠に嵌めて退治したりと…
危険度Sであるハニューが、自分の復讐相手だと知ったとき(道端に捨てられていた文々。新聞より)、彼の復讐心はトラウマに変化した。
高位の存在がほんの戯れで、低位の存在の命を奪うことはよくあることだ。
自分は、ハニューのちょっとした遊び心(弱い妖精を演じて獲物を罠に嵌める)で命を奪われる直前だったのだと彼は気がついた。
彼の命が助かったことに何も深い意味は無い、ただのハニューの戯れ。
いや、ハニューにとっては道を歩く際に知らず知らずに踏み潰すアリと同様、彼の命など興味の範疇外だったのだ。
彼は命が奪われなかっただけ、幸運だったと思い知った。
そのため…
「が…あ…離れろ…死にたくなかったら早く俺から離れろ!!」
そうハニューが叫んだのをきっかけに、彼は一目散に逃げ出した。
幸運の女神が二度も自分に微笑んでくれると思うほど、彼は楽観的ではなかったのである。
「「「待ってくださいリーダー!!」」」
そして、逃げ出した彼を見た他の妖怪達もまた、彼を追いかけ逃げ出したのだった。

霖之助は、逃げ出す彼等を呆然と見つめていた。
あまりにも、劇的で理解が追いつかない展開だったからだ
だが、ドサリとハニューの方から音がしたことにより、霖之助は我に返り、ハニューの方を振り返る。
すると、そこには涙目になりながらガタガタと振るえるハニューの姿があった。
しかも、驚き近付く霖之助にハニューは「怖かった!!!怖かったよーーー!!!」と抱きついてきた。
霖之助はいったい何が怖かったのか理解できないが、霖之助の腕の中で、震えながら泣きじゃくるハニューを放っておくことができなかった。

結局、ハニューが落ち着いたのはそれから数十分後のことだった。
ばつの悪そうな様子のハニューは「ありがと…店主を助けてあげたから、あいこってことでいいよな?」と、いかにも強がってます、まだショックが抜け切れていません!
という雰囲気で解散を提案し、その日はそれで解散となった。


霖之助はその日、家に帰りつくとハニューについて悩み始めた。
それは、今日目の当たりにしたハニューの姿は、これまで見たことが無い姿だったからだ。
今日話しをした内容、目にした内容だけを考えるなら…

普段着では、最高に可愛いと思ってしまうほど、とても清楚な姿を見せる少女で…
ハニューは男性の友人は多いが、特に付き合った経験も無いどころか、それに対して真っ赤になって否定するほど初心な少女で…
少し間が抜けているけど、嫁入り修行をしている少女で…
霖之助との他愛も無い話でも、楽しんで話せるような少女で…
パンツは純白で…

どこからどう見ても、自分の周りにいた『たくまし過ぎる女性』達とは違う清楚で可愛い『普通の少女』じゃないかと、霖之助は思った。

しかし、低級妖怪が現れたときの事を思い出し、霖之助はその考えを捨てようとする。
あの様子は明らかに普通ではなかった感じたからだ。
そして、更に悩み続けた霖之助は、ハニューが何を恐れたか、ある仮説にたどり着いた。
その仮説とは『静まれ』『俺から離れろ』といったハニューの言動から考えて、低級妖怪の敵意に反応したハニューの力が、ハニューの意思を無視して外に出ること。
つまり、意図せぬ力の行使による殺戮を恐れていたというものだった。
自分の意思を無視して、人を傷つけてしまう力。
過去にそのような力で多くの悲劇が生まれたことを霖之助は幻想郷の書物や外の世界の漫画という書物で知っていたため、そのような仮説に簡単にたどり着くことが出来た。
ハニューの将来も、もしかしたら彼等と同じく悲劇が待っているのかもしれない。
そう考えた霖之助の頭の中に、もう一つの仮説が浮かび上がる。
霖之助や世間一般がハニューへ持っていたイメージと言えば、革命家や女王や悪女というものだったのだ。
だがハニューの性格は本来『普通の少女』であり、与えられた役割と強大な力がそれを歪めているだけではないかというのが、霖之助の仮説だった。
ハニューの側近であるアリスやルーミアが、まるで妹か子供を守るかのようにハニューに接していることを不思議に感じていたこともある霖之助は、
その考えが真実を言い当てているように感じられた。

しかし、これまでのハニューの印象がそれを邪魔する。

『今日目の当たりにしたのが私人のハニューで、これまで自分を酷い目に会わしていたのは公人のハニューだ。』
『いや、だからと言って、ハニューの行動が許されるわけじゃないし、そんなに簡単に私人と公人を行動を切り替えられるものか。』
『だけど、今日の姿はとても嘘や演技には見えなかった…』

結局、色々考えた挙句、いったいどちらが本当のハニューなのか霖之助は分からなくなってしまった。



そして霖之助はふと思う。
どうして自分は、こんなにハニューの事で悩んでいるのだろうか?と。
自分はハニューのことを可愛いと思ってしまったが、別にそれは外見だけの事であり、別にそこにやましい気持ちなどまったく無い筈だと。

「ただいま、霖之助さん?起きてますか?」

そう悩んでいる所に、朱鷺子が帰ってくる。
霖之助は、自分へ色々と悪さをした相手に、予想外の側面があったから気になっているだ。
そう結論付け、強引に思考を打ち切ったのだった。



----------


二人で出かけた次の日から、霖之助の周りで少しの変化が現れた。
何かにつけて、ハニューが霖之助の近くに来るようになったのだ。
廊下ですれ違うだけが、ハニューが足を止め、二三立ち話をするようになったり、遠くで見かけただけでハニューが笑顔を向けてきたり…。
以前の霖之助なら何かを邪推するようなことだったが、不思議と今の霖之助はそれを好意的に受け止めることが出来た。
ただし、ハニューのお供から殺意の籠った眼差しで睨み付けられるのだけは、いただけなかったが…。

そして一週間後。
突然ハニューから夕食を供にしないかという誘いが入った。
断ったら何をされるか分からないと一瞬思うが、何故かそんなことは無いと霖之助は思う。
それなら、断るべきじゃないかと思うが…
先週目撃したハニューの新たな側面が演技なのか、それとも本物なのか確かめる必要がある。
と考えた霖之助は、誘いに乗ることを決めた。

だが、シフトで朱鷺子の帰りが遅いとはいえ、自分が遅くなれば朱鷺子が帰ってくる時間までに帰って来れないかもしれない。
そう考えた霖之助は、朱鷺子へハニューと出かけると書置きを書き始めるが…
何故か筆が止まってしまった。

何故筆が止まるのか?
そう自分でも不思議に思う霖之助だったが、悩んでいる間に待ち合わせの時間が迫っているのに気がつき、書置きを残さないまま、部屋から飛び出していったのだった。

霖之助は、自身の心の変化にまだ気がついていなかった。

----------

ハニューと合流した後、霖之助が向かった先は、人間の里で妖怪を相手に商売しているお店が集まっている区域だった。
これは、これらの区域のお店は、妖怪を相手にしている都合上、夜が主な営業時間となっているからであり…
一方、その他の区域のお店は、妖怪を恐れ早々に閉ってしまうからだった。
しかも、例えその他の区域の店が開いていたとしても、半妖と妖精といった組み合わせでは歓迎されないことを霖之助は理解していたからだった。

さて、どの店に入るべきか…
そう悩む霖之助の袖をハニューが『クイックイッ』と引っ張る。

「ねえ店主…お店はメイド喫茶にしようか。」
少しはにかんだ表情でハニューが指差す先は、ジオンが経営しているメイド喫茶だった。

…メイド喫茶!?
そ、そんな所に僕とハニューが行ったら…
『ハニュー総帥と森近さんってどういう関係なのかな??』『これは不倫、不倫なのね!』『ニュース、ニュースよ!!朱鷺子ちゃんに伝えないと』

『霖之助さんは相手がロリだったら誰でもよかったんですね…サヨウナラ』
という展開になりかねない!?
そう考えた霖之助は「ぼ、僕はああいう所はに、にに、苦手でね。」と慌てだす。
しかし、ハニューは「まあまあ、遠慮するなって~。あそこなら特別に安くなるし~。」と言って、そんな霖之助を無視して引っ張っていこうとする。
「いや、だ、駄目なんだ、あそこだけは不味いんだ!!」と必死に抵抗する霖之助にハニューは更に爆弾発言をする。
「大丈夫だから、俺がメイドとしてご奉仕するから!場所も個室のVIPルームで俺と店主の二人っきりだから!」
ハニューと個室で二人っきりで…
ハニューがメイドとして僕をご奉仕する…
『ご主人様のお体にご奉仕させてください…』
ハニューの言葉に、ピンク色の妄想をしてしまう霖之助だったが…
「おい…あれってハニュー総帥じゃ…」
と聞こえてきた言葉に現実に引き戻される。
周りが暗くなってきているとはいえ、大声で騒いでいた霖之助とハニュー。
霖之助が気がついた時には、周囲からの視線が既に集まり始めていた。

焦る霖之助。
しかし、日頃の行いが良かったのか、天祐のように一軒のレストランが脳裏に思い浮かんだ。

「そ、それより、僕がいい店を知っているから、僕が奢るからそこにしてくれ!!」

「ホント!?店主最高!!愛してるぜ!!」
何も邪気がないような笑顔で『愛している』と霖之助に抱きつくハニュー。
その行動と言葉に霖之助はまたもドキッとしてしまうが、自分の置かれた状況を思い出し、足早に洋館のような造りのレストランへと向かっていった。

----------

人間の里には、妖怪を主な顧客として仕事をしている店が何十件もある。
それらの店は、人間と妖怪との無用なトラブルを避けるため、人間の里の外れに集められていた。
霖之助の選んだ店は、そんな店の中でも特に成功した店の一つ。
外来人のオーナーが持ち込んだ各種調理法をアレンジし、妖怪向けに提供することで人気を博した高級レストランだった。

「店主、なんだか立派なお店だな。」
大妖達が満足するよう、贅を尽くした内装に、まるで子供のように好奇の目を向けるハニュー。
そこへ、この店のオーナーがやってくる。
「いらっしゃいませ、森近…………!!」
霖之助の顔を見た後、ハニューの顔を見て、驚きで目を見開くオーナー。
長年何人もの妖怪を迎えたオーナーだったが、今や幻想郷の話題の中心となっているハニューが、予約も無しに…
しかも、男連れで来店したということに驚いたのだった。
「失礼いたしました、本店のオーナーを務める者でございます。ハニュー様森近様ようこそいらっしゃいました。
 ささ、奥のお部屋へ。」
しかし、彼はプロだった。
身分違いの恋によるお忍びデート、いや対等な関係というより…森近様は若い燕になったのか??
等と、ハニューが聞いたら卒倒するようなシチュエーションをいくつも直ぐに想像したオーナーは…
とにかく二人の姿を隠したほうがよいと考え、二人に深々と頭を下げると霖之助達を待合室へ案内したのだった。
大妖を多数顧客に持つこの店では、客同士の無用のトラブルを避けるため、客同士が顔を合わさないように色々と構造が工夫されていた。
これが霖之助がこの店を選んだ理由だったが、実はもう一つこの店を選んだ理由があった。

「本日はどのような趣向がよろしいでしょうか?」

「彼女に合わせてくれ。それとすまない、実は以前の『貸しの分』を使って食事をさせて貰いたいのだが…。」

「畏まりました。森近様へはまだまだ返しきれておりませんでの、お連れ様の格に合うものを十分にご用意できます。」

「そうか、安心したよ。ありがとう。」

霖之助はこの店の立ち上げ時に、外の世界より流れ着いた調理器具を多数収めていた。
そしてそれは、値段以上の価値があったらしく、そのことをオーナー直々に伝えられ
「出世払いということになりますが、必ず貰いすぎた分は耳を揃えてお返しします」と言われた霖之助は…
「価値を見抜けなかった自分が、これ以上の御代をいただく訳にはいかないですよ。
 どうしてもというのなら、貰いすぎた分は貸しとして、いつか貴方の料理で返してくれれば十分です。」
と答え、このレストランに霖之助は貸しを作っていた。
一方、ジオンに勤めるようになり、一時期の危機的状態から脱した霖之助だったが、ハニューの格に合う高級店で食事が取れるほど霖之助の懐は暖かくなかった。
つまり、霖之助にとってこの店以外の選択肢は無かったとも言えた。

因みに、オーナーは一つだけ嘘をついていた。
霖之助の『貸しの分』の残高だけでは、幻想郷の頂点に手をかけようとしているハニューに見合った格の食事を用意することなど不可能だったのである。
食事というものは、ある水準までは味と値段のバランスが一定の比例で上昇していく。
だが、それがある水準…格という要因が影響する水準まで達すると、そのバランスが崩れ一般人の常識から外れた値段になるからだった。
しかし、オーナーは嘘をついた。
それは、ハニューの来店はオーナーにとって千載一遇のチャンスだったからだ。
幻想郷の有力者達に支持されてきたことが、自分の店をここまで大きくした原動力だと、オーナーは良く分かっていたのだった。


----------

待合室で待つこと数分後、霖之助らが案内された部屋は、普通の部屋ではなかった。

天井があるはずの場所には、満点の夜空が広がっており、壁があるはずの場所には砂浜と、どこまでも続く海が広がっていた。
そして、その波打ち際に、白いテーブルとの椅子が並べられていた。
そう、そこには幻想郷には存在しない、海に浮かぶ小島のような光景が広がっていた。
実は、この部屋そのものが、魔法使いによって造られた魔法具であり、大妖が見ても違和感が無い程精巧な海岸を再現することができたのだった。

霖之助は知らなかったが、この部屋は幻想郷には無い海を体験でき、ムードも良いため、最も人気のある部屋であり、最も高級な部屋だった。
そんな部屋に霖之助とハニューが予約も無しに通されたのは、ハニューの格の高さと、ハニューに当店を気に入ってもらいたいというオーナーの思い。
そして、霖之助の表情から、ハニューと霖之助が男女の仲であると見抜いたオーナーの粋な計らいからだった。

「ハニューはぁ、これとこれ、あと、これも食べたいな~。」
コースを選んだ後、ニコニコとした笑みを見せながら、コース以外にオードブルを次々と頼み始めるハニュー。
しかもその内容は、オードブルというより、メインと呼ばれるものまで入っていた。
無茶苦茶な注文に、自分への嫌がらせかと一瞬思うが、先日見た清楚なハニューの姿が脳裏に浮かび、その思いを押さえ込む。

「そ、そんなに食べるのかい?」

「ごめん…いつもは自分の好きなものばっかり食べるって訳には行かなくて…
 その…つい…うれしくて………悪いかよ?」
まるで、はしゃぎ過ぎたことを怒られた子供のように、少しシュンっとした表情になるハニュー。
そして、霖之助が怒っていないか心配するかのように、上目遣いで霖之助の様子を伺い始めた。
その少女らしい表情に、霖之助の胸は高鳴るが、霖之助はあることに気がつき、冷水を浴びせられたような気持ちになる。

ハニューはVIPのため、立場上自由に食事を取ることができない可能性がある。
例えば、敵対勢力の攻撃を恐れて、厳重に安全性が調べられた食事以外は口にできないといったように。
だから、今日のように自由に食事ができる機会は自分達が想像する以上に、嬉しいことではないのだろうか。
となると、先程メイド喫茶に行くよう進めたのは、安全性が調べられた食事を口にする必要があるという義務感から生まれた行動だった可能性が高い。

それに比べて僕は、自由な生活を長年続けていた、趣味を仕事とし、店を開けたい時に開け、閉めたいときには閉める。
勿論、食べたいものを食べ、食べたくないものは食べなかった。
しかし、ハニューは先日の結婚の件といい、それとはまったく別の世界にいる。
恐らく僕では耐えられないような世界に…
そこまで考えた霖之助は、ハニューへの罪悪感を感じると同時に、先日より深い哀れみを感じた。
「…………コホン…悪くない。」
そして霖之助は、少し咳払いをして、ハニューの主張を認めたのだった。


----------



ハフハフ!

「おいしー!」
スープを口に入れると、満面の笑みで頬っぺたに手を当てるハニュー。

パクパク!

「紅魔館はお嬢様好みの味ばかりだからなー、こういうのは久しぶりー!」
驚いたような表情をした後、羽をピコピコと動かしながら、うんうんと笑顔で頷くハニュー。

モグモグ!

「景色もいいなー!」
目をキラキラと輝かすハニュー。

「ふふふふふ…」
ハニューのあまりにも、純粋で愛らしい表情の変化に思わず笑いが出てしまう霖之助。

「どうした店主?」

「いや、まるで朱鷺子のようにはしゃいでか…!?」

「嬉しくてさ……、店主ごめんな、不愉快にさせちゃって…」
ばつの悪そうな表情で、謝るハニュー。
だが、霖之助はそれどころじゃなかった。
それは、霖之助はハニューを、これまでのように最高に可愛いといった、町ですれ違った女の子に対して『可愛いな』と思う感情ではなく…
朱鷺子のように愛する人への『可愛い』と同列に感じてしまったからだった。

霖之助は自分の感情に戸惑い、何かの間違いじゃ…
と思ったが、それにはちゃんとした理由があった。

霖之助が朱鷺子を愛した理由、その一つが彼女が本を読む時の姿が純粋で愛らしかったからだ。
本を読んでいる時の朱鷺子の表情は、驚きや喜びといった本への反応が素直に現れていた。
肉体、精神共に『たくまし過ぎる女性』に囲まれていた霖之助にとって、その『普通の少女』な姿にたちまち虜になったのだった。
そんな朱鷺子と同じ様な反応をして食事を取り、しかも朱鷺子と同じく美少女であるハニューが…
朱鷺子との生活がすれ違い始めた時を狙ったように現れる…
霖之助が朱鷺子と同列にハニューを可愛いと思ってしまうのは仕方がないことだった。
しかも、霖之助は自覚していなかったが…
中の人が一般人のメンタリティを持ち、
朱鷺子のような反応をし、
朱鷺子を参考にした服装をし、
朱鷺子の影響で好みの対象年齢が下がり気味になった霖之助と朱鷺子に近い年齢の見た目のハニュー、
という組み合わせは、霖之助の好みを完全に射抜いてしまっていた。
「……そんなこと…ないかな。
 そうだな…普通っぽくていいと思う…かな?」
だが、朱鷺子という彼女を持ち、ハニューに酷い目に会わされてきた霖之助は、ハニューが可愛いと認めることができなかった。
何でもない様子を装いながら、霖之助は自分の心を必死に否定しようとする。
ところが…
「そっか、よかった。大好きな店主に嫌われたらどうしようかと思った。」
続いてハニューの口から出された『大好きな店主』という言葉に、霖之助の動揺は更に激しくなるのだった。


----------

そしてその後、店から出た後に霖之助は、ついに止めを刺されることになる。
帰ろうとする霖之助の上着の端をハニューがつかむ。
そして…とんでもない言葉がハニューの口から発せられた。
「店主帰らないで…今日は帰りたくない。」
そう言ったハニューは俯いていたが、顔を真っ赤にしていることが霖之助の目からもハッキリと分かった。
『た、たしかこの近くに外来人が作ったそういう目的の宿があるはずだが……』
真面目そうに見える霖之助も健全な男子。
ハニューが暗に何を言っているのかすぐに察しがついた。

って、僕は何を!?
朱鷺子が居るから答えはノーに決まっている。
いや、男としてここで逃げてどうする。
色々な考えが頭によぎり、完全に迷ってしまう霖之助。

霖之助の手はそんな心の迷いのままに、ハニューを連れ去ろうと両肩を掴んだかと思うと、直ぐに手放すという行動を繰り返す。

すると…
コチンとハニューが霖之助に頭をぶつけてきた。
驚く霖之助が、ハニューを見ると、ハニューは…










酔っ払っていた。

「あれ??おかしいな俺酔っ払っているみたい??お酒は飲んでいなかったのにな…」
お酒に極度に弱いハニューは、料理に僅かに使われていたアルコールで酔っ払っていたのだった。
なんとも肩透かしを食らったような展開に、霖之助は手放しかけていた理性を完全に取り戻す。
「やっぱり帰ったほうがいい。」
「ごめんね、そうするよ。
 ねえ、店主…悪いけど肩を貸して。」
ハニューに密着されドキリとするが、ハニューが酔っていたと分かったことに、ほっと胸を撫で下ろす霖之助。
しかし、酔っ払っているからこそ、本音が出たのではないか?
という考えに至り、納まりかけた動揺が再び激しくなっていく。
結局、霖之助の動揺はその後も激しくなる一方だった。
特にハニューの華奢な体の感触が朱鷺子によく似ており、先程の帰りたくないという言葉と相まって、霖之助の動揺に更に拍車をかけていった。

そして、それから一週間。
霖之助の動揺は、違う意味でどんどん激しくなっていった。
最近、毎日のように廊下や食堂で会話を交わしていたハニューと、まったく出会わなくなってしまったからだ。
自分が避けられているのか?
どうして?
そういった動揺がどんどん激しくなり、前回ハニューと出会ったちょうど一週間後。
つまり、朱鷺子が不在となる日にそれはピークに達した。
朱鷺子に体調不良を疑われるほど動揺が激しくなった霖之助に、待望の待ち人ではなく…
アイリスが訊ねてくる。

「アイリス親衛隊長?」

「ハニュー総帥から伝言がある。
 『ごめんね、暫く会えないの。代りに、来週に人間の里で夏祭りがあるから、それに一緒に行こうね。いつもの場所で待っているから。
  
  PS
  先週はごめんね、色々と迷惑をかけて。
  何を言ったのか自分でもあまり覚えていないんだ。
  先週の事は忘れて。』
 ということだ、わかったな?」
苦虫を噛み潰すような表情のアイリスから言われた伝言は、しばらくは会えないということと、来週の夏祭りへの誘い、そして謝罪だった。
アイリスの視線は、霖之助を呪い殺しそうな程厳しいものだったが、霖之助は自分の感情をコントロールすることで精一杯だった。
二度あることは三度ある、そう思っていた霖之助は今日もハニュと出会えると思っていた。
そして、それが裏切られたことに、ここまで自分が落胆しているという事実。
そのことに、霖之助はもはや否定できないと理解した。


自分は、ハニューを好きになってしまっていると。



----------



霖之助を苦しめたハニューとの一時的な別れ。
それの原因はアイリスによる、霖之助とハニューを分断する企みだった。
場面は一旦、数週間前に戻る。

ハニューの行動を常に監視している親衛隊にとって、ハニューと霖之助の行動は筒抜けだった。
そして、ハニューが霖之助の疑いを晴らすために行動していることも知っていた。
しかし、それがどうしてハニューが霖之助とデートすることになるのか、親衛隊、特にアイリスにはまったく分からなかった。
そのため、アイリスの頭の中ではある疑惑が浮かび上がってきた。
ハニュー総帥は、霖之助の疑いを晴らすという大義名分の下で、霖之助と親密な関係を作り出そうとしているではないかと。
そう疑ったアイリスは、ハニューの行動の妨害に動き始める。
当初は、ハニューがサンドイッチを作る際に、塩と砂糖をわざと逆に入れたり、目を盗んで砂糖をドバドバと入れたり…
朱鷺子のシフトに介入し人間の里のメイド喫茶に朱鷺子を派遣したりと画策したが…
全て上手くいかなかった。
そのため、アイリスは小悪魔に助けを求めた。
小悪魔は、ハニューと肉体関係があると仄めかす、親衛隊にとっては怨敵とも言える存在だが、「男」の霖之助にハニューを取られるのではないか?
という危機感に囚われたアイリスにとっては、小悪魔と親衛隊の関係など些細な問題だった。

アイリスから相談を受けた小悪魔は、アイリスの危惧は考えすぎだと即座に見抜いた。
小悪魔から見て、ハニューの好みは女性であり、どう間違っても男性を好きになることなどありえないからだ。
ハニューの男性に向ける視線は、同性に対するものか、淫魔が獲物として男性を見るときの視線だけであり…
対して女性に対してのそれは、敵対関係にある咲夜相手ですら、スカートが捲れようものなら、純粋な反応…
ドギマギした視線を送っていたことに、小悪魔は気がついていたからだった。
小悪魔がここまで繊細なハニューの心の動きに気がついたのは、彼女の淫魔としての血(純血ではない)と、
ハニューと肉体関係を持ったという事実(誤解)による精神的な余裕によって、
彼女の能力を遺憾なく(誤解なく)ハニューに対して発揮できたからであり、極めて稀有なケースだった。
そのため、小悪魔の「きっとハニューの演技だから、気にする必要がないですよ。」という言葉にアイリスは納得しなかった。

結局、あまりにも必死なアイリスの様子に、元来の人の良さから小悪魔は真面目に解決策を考えることになってしまう。
そこで出た結論は、冷却期間を置いてハニューを冷静にさせる、ハニューに適当な女性を充てて霖之助を忘れさせる。
というものだった。

いかにしてハニューを霖之助から遠ざけ、そのハニューの心を埋める女性を誰にするか。
最初に二人の頭に浮かんだのは、大妖精だった。
ところが、大妖精は最近になって『修行の旅』に出かけたことが分かり、大妖精という案は直ぐに消えた。
二人は知らなかったが、ハニューの行動の意味を誤解なく見抜いたもう一人の稀有な存在、ルーミアが問題の複雑化を恐れて、大妖精にチルノをつけて修行の旅に送り出したのだった。
次に二人の頭に浮かんだのは、それぞれ自分の姿と何処かの別荘地だった。
だが、そのような発言をすれば血を見る結果になると、それなりに常識人の二人はそのアイデアを頭から追い出した。

中々良いアイデアが浮かばない二人だったが、紅茶を持ってきたパチュリーの出した助け舟によって、やっと答えが見つかった。
「明日からハニューと一緒に訓練している訓練生達が合宿に出るはずよ、それにハニューは同行しないのかしら?」
パチュリーは、訓練生向けの教本を図書館から見繕うということで、訓練生達と関わりを持っていた。
そのため、訓練生達の大まかな行動を知っていたのだった。

パチュリーの言葉を聞いたアイリスは、直ぐに引率する教官陣トップの立場に居るマリーダに会いに行った。
しかし、マリーダからはハニューは合宿に参加しないという話を聞かされることになる。
それは、今回の合宿は卒業に影響する試験を含めた重要な合宿であり、ハニューのように強すぎる存在がチームに参加すれば、公平な試験にならないというものだった。
だがアイリスも負けてはいなかった、ハニューが合宿に参加することによっての士気の向上、公平な試験が行えないのなら何らかのハンデを用意すればいいことなど…
必死にマリーダを説得した。
そして、それに小悪魔も参戦し、一時間に及ぶ説得劇が展開され、マリーダは「分かった、善処する。」と言い、折れた。
因みに、マリーダが折れた言葉は…
「大妖精もルーミアも、勿論親衛隊もいない状態でハニューとキャンプができますよ?こんなチャンスもう二度と来ないかもしれませんよ?」
というマリーダの淡い恋心を突いた小悪魔の言葉だった。
そう、アイリスと小悪魔は、ハニューの心を埋める役割の女性にマリーダを選んだ。
合宿に同行する者達の中で、最もハニューとの距離が近いという意味もあるが…
最大の理由は、ハニューと親密な関係になることをアイリスが容認できる数少ない女性の一人だったからだ。
マリーダはアイリスにとって妹のような存在であり、昔から何かと手を焼いてきた存在だった。
そのため、マリーダの食事をハニューがアーンして食べさせていた事件は、アイリスにとってマリーダを応援したい半分、羨ましくて悔しくて苦しい気持ち半分だった。

マリーダの説得に成功したアイリスは、マリーダの荷造りを手伝った後、ハニューの説得に向かう。
アイリスにとってハニューの説得は苦労するかと思われたが、小悪魔によって授けられた作戦により簡単に成功してしまう。
作戦は、小悪魔曰く…
「ハニューが男性相手にデートをしている理由を、演技以外で考えると…欲求不満の可能性があります。
 だから、マリーダちゃんのことや、合宿の噂の件について、話せば効果的だと思いますよ。」
というものだった。
あまりにも簡単にハニューを説得できたことに、アイリスは改めて小悪魔への警戒を強めることになるが…それはまた別の話である。

一方、棚ぼた的展開でハニューとのひと時を過ごすことになったマリーダは上機嫌だった。
マリーダはその地位の高さ、妖精としては天才的な頭脳、そして何より無表情でいることが多いということで訓練生の間では恐れられていた。
しかし、合宿時のマリーダは笑顔だった。
しかも、キャンプでハニューと何人たりとも進入できない二人だけの空間をつくって遊び、好きな人は?と聞かれて困った際に、ハニューに庇われると…
熱い視線でハニューをジッと見つめてしまうという有様だった。
そのため、マリーダに関して流れていた噂。
『マリーダ教官はハニュー総帥が好き。』
という噂がこの合宿後、確定的な噂となって訓練生達の間に広まることになった。

このように、アイリスの企てによりハニューと霖之助を引き離すことに成功したように見えたが…
結果からみれば、アイリスの企ては失敗に終わった。

ハニューが合宿いに行く前と何も変わらず、霖之助とのデートを続行しようとしたからだ。

それを見たアイリスは、更なる妨害を企てようとするが、それをルーミアに止められることになる。
ルーミアは、ハニューの目的を理解しており、アイリスの妨害をこれ以上容認できなかったからだ。
しかも、ルーミアには人手が必要だった。
ハニューが人目につく場所で霖之助とデートを行った結果、人間の里ではある噂が広がり始めていたからだ。
『ハニュー総帥が情夫を連れて、人間の里をデートしていた。』
この噂を打ち消すために、ルーミアは相当な数の人員を投入しており、親衛隊を遊ばせておく訳にはいかなくなっていたのだった。

とにかく、アイリスの妨害はここで終わりになり…
ルーミア主導による、大規模なバックアップの下、夏祭りの日を迎えることになる。
ルーミアはハニューと霖之助の間に邪魔が入らないよう、人間の里の上層部に「影武者が訓練を行う、手出し不要。」と通知を入れ、
不測の事態に備え、普通の祭り参加者に偽装した隊員を、夏祭り会場に配置する計画を立てた。
更に、林の中に前線基地を設け、そこで全ての状況を監視する体制を整えたのだった。

----------

そして夏祭りの日。
いつもと同じく、朱鷺子はシフトの関係で霖之助の家にはいなかった。

朱鷺子がいるんだ、ハニューが自分を誘う理由が何であれ、自分はハニューの誘いを断るべきだ。
照明を消した暗い部屋の中で、霖之助は必死で自分にそう言い聞かせていた。

しかし、約束の時間直前になると『そうだ、ハニューの誘いを断れば何をされるか分からない。』
と、まるで突然思い立ったように、自分への言い訳が頭に過ぎり始めた霖之助は、ハニューとの待合場所へと向かっていった。
本人は悲痛な覚悟で向かっているつもりだったが、その表情は緩んでいた。

----------

「待ったかい?」
綺麗に染め上げられた浴衣と、小さな団扇を持った少女…ハニューに霖之助が声をかける。
ゆっくりと顔を振るハニューに、霖之助はまたも目が釘付けになる。
それは、ハニューの服装だけではなく、ハニューの持つ雰囲気が過去二回とは違ったからだった。
過去二回の明るい感じではなく、この日のハニューは恥じらいと艶っぽさがあり、月並みな言い方だが恋する乙女のような雰囲気があったからだ。
しかも、どことなく思いつめたような…何か重大なことを伝えようとする決意、そういったものがハニューの瞳の奥に宿っていると感じたからだった。

いつもと違うハニューの様子に、霖之助はある予感がした。
その予感のために、霖之助が戸惑ってしまう。
霖之助の戸惑いを感じたのか、ハニューがリードして祭りを回り始める。
ハニューは出店を見つけると、遊びだし、楽しそうにはしゃぐが、どこかそのはしゃぎ方には無理があるように見えた。
その様子を見て、霖之助の予感は更に強くなる。
そして、出店を一通り回ると、ハニューが演劇を観ようと言い出した。
ハニューと観た演劇は、幼馴染とお姫様が一人の男性を奪い合う三角関係の話。
演劇は、三角関係に悩んだ結果、それぞれあるべき所、男性は幼馴染の下へ、お姫様はその身分にあった世界へ戻っていく話だった。
どこかで見たような、あまりにも出来すぎた展開の話に、霖之助の予感は確信に変っていった。
どう考えても、主人公は霖之助自身、幼馴染は朱鷺子、そしてお姫様はハニューだった。

そして…
演劇が終わり、花火が始まる時間になり…
霖之助はハニューに人気の少ない林に連れ出される。
空には、夏祭りのフィナーレを飾る打ち上げ花火がきらめき始めた。
それを見上げていたハニューが、思い詰めた表情で霖之助の方を向く。


霖之助はついにこの時が来たと感じた。
これから僕は、ハニューに告白される、と。
そして、僕達の関係が終わる時だと。

霖之助は、ハニューとの関係にずっと悩んでいた。
そして、一時はこのまま続けて行きたいと思ってしまっていた。
しかし、ハニューと観た演劇が、霖之助の心を朱鷺子に引き戻した。
霖之助はそこに自分達の姿を重ね合わせていた。
悩む主人公。
健気に主人公を待つ幼馴染。
いつまでもこんな関係は続けられないと分かっているお姫様。
どれもこれも、全て自分達と同じだった。
彼、彼女達の苦しみ、悲しみが自分達の過去、現在、未来に被り、霖之助の心を冷やしていった。

「店主、今日の演劇を見てどう思った?」

「いい終わり方だったと思う…そういう君はどう思うんだい?」
霖之助は演劇のストーリー。
本来あるべき人、あるべき立場に戻るという保守的な話しを肯定した。
それは、霖之助からの「自分は朱鷺子を選ぶ」という苦渋のメッセージでもあった。
だが…
「俺は、あの結末は納得できない…店主もそう思わないか?」
ぐっと、霖之助に顔を近づけ、ハニューはその保守的な考えを否定した。
そう、ハニューは朱鷺子ではなく、自分を選べと言っていた。
その必死な表情に、霖之助は一瞬頷きたくなるが、朱鷺子の顔を思い出し、グッとこらえる。
「あれで…あれでいいんだ。
 人にはそれぞれ分相応というものがある、あの結末でいいんだ。」
そして、自分とハニューは吊りあわない、自分達はもう別れた方いいと霖之助はハニューに伝えた。

「それは分かっているさ…だけど…せめて作り話の中だけでも…そう思っちゃいけないのかな?」
しかし、吊りあわないのは分かった上で、作り話(霖之助の心がハニューには向いていない偽りの関係)でもいいから続けたいと、霖之助に縋るハニュー。
そう言ったハニューは、悲しい目をしながら笑っていた。
その姿は大人びて見え、とても魅力的なものだった。
霖之助は、このままでは自分の心はハニューに捕らえられ、引き返せなくなると感じた。
だから…
「僕は朱鷺子を愛している………」
霖之助は自分の理性が残っているうちに、ハニューに対してきっぱりと別れの言葉を発したのだった。

「俺は馬鹿だよね、店主の答えが分かっていたはずなのに…」
霖之助の答えを聞き、傷ついた顔をしたハニューは、霖之助から視線を外し、自分を馬鹿だと呟いた。
その悲しそうな姿に堪らず「ハニュー…」と霖之助が声をかける。
すると、ハニューから大粒の涙がこぼれだした。
「…あれ…涙が…おかしいな…どうしてかな…?」
不思議そうな顔で、手に落ちた自分の涙を見るハニュー。
自分自身を騙そうと気丈に振舞っていたハニューだが、その涙がハニューの心の傷の深さを表していた。
自分の発言がどれだけハニューを傷つけたのか、それを理解した霖之助は思わずハニューを抱きしめてしまった。

しかし…

ハニューは霖之助を突き放し「■■■■■■■■!」何事かを大声で叫んだ。
だが、クライマックスを迎え、激しさを増した打ち上げ花火に、その声はかき消される。
そして…
「店主…朱鷺子さんと幸せになってね!!」
そう言い残すと、ハニューは霖之助に背を向け、暗い林のなかへと消えていった。
霖之助は、ハニューを追いかけることが出来なかった。
最初にハニューが何と叫んだのか、霖之助には聞こえなかったが、ハニューの顔には霖之助への拒絶。
別れの意思が見て取れたからだった。
そして、涙を流しながら言った、ハニューの最後の言葉。
朱鷺子と幸せになってくれという言葉を何度も何度も反芻していたからだった。




霖之助は、そのまま十分ほど立ち尽くすと、突然自分の頬を叩き家へと帰っていった。







霖之助の真夏の陽炎のような恋は終わった。

----------

夏祭りから一週間後、ハニューの執務室に霖之助と朱鷺子の姿があった。
霖之助達の目的は、ハニューへ霖之助と朱鷺子の結婚式を今年末に行うという報告のためだった。


なぜ、こうなったのか、その理由は夏祭りの夜に戻る。
家へと帰った霖之助を朱鷺子は涙しながら迎えた。
「霖之助さん、やっと戻ってきてくれましたね。」

戻ってきた。
この言葉に籠められた意味が分からないほど、霖之助は鈍感ではなかった。

「ただいま。




 朱鷺子…気がついていたのか…」

「だって霖之助さん、ここ何週間も私の目を見て話してくれませんでしたから…


 それに、知らない香水の匂いが…」

霖之助は良くも悪くも正直な所がある男だった。
そのため、ハニューと出かける約束をした直後に、朱鷺子は霖之助の行動がおかしいことに気がついていた。

「うっ…ごめん…」

「いいんです、最後に私を選んでくれたから…」

そして、霖之助の服から知らない香水の匂い。
しかも、相当の高級品を思わせる匂いがしていることに、霖之助がハニューと出かけたその日の夜に気がついた。
朱鷺子は、霖之助が不倫していると直ぐに感づいてしまった。
朱鷺子は悩んだ、霖之助を怒るべきか、何も言わずに去るべきか、それとも待つべきか。
悩んだ朱鷺子は霖之助を信じ、待つことに決めた。
霖之助への愛、そして高級品を思わせる香水の匂いがその決め手になった。
これほどの高級品の香水を使える存在は、紅魔館やジオンでも限られている。
スカーレット姉妹、咲夜、パチュリー、小悪魔、ハニュー、ルーミア、アリスといった、朱鷺子や霖之助にとって雲の上の存在だ。
そんな存在に、強引に誘われたら、霖之助は断れるだろうか、私や自分を守るために断れないのではないかと考えたのだ。
朱鷺子自身、穴がある理屈だと分かっていたが『そう信じたい』という思いから、その考えを信じ、霖之助を待ち続けたのだった。
そして、密かに霖之助を観察し続けた朱鷺子は、今日こそが山場だと分かってしまった。
仕事を早退し、物陰から玄関を伺う朱鷺子の視線の先で、霖之助が誰もいない家に「行って来ます。」と言い、出かけていく。
朱鷺子は「行って来ます。」という言葉に、もう二度と霖之助は戻ってこないかもしれないと思ったが…
『行って来ますがあるなら、ただいまがあるよね?』と思い直し、じっと霖之助を待っていたのだった。


そして朱鷺子の願いは叶った。


そんな朱鷺子に、霖之助が真剣な顔をして言う。
「朱鷺子、結婚式を挙げよう。」

「えっ…」

霖之助と朱鷺子は、いつの間にか事実上の夫婦と言える関係になっていた。
外の世界の人間とは違い、妖怪の世界には戸籍というものが存在しない場合が多かった。
よって、妖怪基準では霖之助と朱鷺子は夫婦と言えるのだが、朱鷺子はずっと証が欲しいと思っていた。
霖之助を囲んでいた女性達の中で最も地味だった自分が霖之助の隣にいる。
いつの間にか始まった、そんな奇跡のような状況が、なんの触れも無くある日突然に壊れるのではないか?
朱鷺子は常にそんな不安に苛まれていたからだった。
子供が生まれていれば、そういった不安も無くなっていたかもしれない。
しかし、二人はまだ子供に恵まれておらず、香霖堂を失った今では、子供を産み育てる余裕も無かったのだった。

「やっと…言ってくれましたね…」

「小さくてもいいから結婚式を挙げよう。
 僕と君が、夫婦なんだって示すために。」

だから、朱鷺子は結婚式という証を欲しがっていた。
夢にも見た言葉だとも言えた。
だが、趣味で香霖堂を経営していたように、本来自由人な性格の霖之助は、束縛されることを心のどこかで嫌い…
朱鷺子の希望に気がつきながら「そんなに急ぐ必要はないだろ…」と、気がつかないフリを続けてしまっていたのだった。

「霖之助さんうれしい…でも、急にどうして…」

「僕の背中を押してくれた人がいる。
 そして…朱鷺子をもう泣かしたくない。」
ハニューの朱鷺子と幸せになってほしいという言葉、そして朱鷺子の涙。

元はと言えば、霖之助の曖昧な態度が原因で、ハニューと朱鷺子という二人の女性を傷つけてしまった。
霖之助はそのことに後悔し、もう二度とこんな馬鹿なことはしないと、心に決めたのだった。
そしてその決意と感謝を、ハニューに示すために霖之助はハニューとの謁見を望んだのだった。

まったく女心の分かっていない行動だと霖之助は自分が嫌になった。
だが、ハニューもきっと今日の報告を待っている。
演劇を観た霖之助には、そんな確信があった。

「今年の十二月に結婚式か…わかった。」
霖之助の報告を聞いたハニューは、若干の動揺が見えたが、総帥らしい何時も通りの態度だった。
罵倒や嫌悪されるのではなく、まるで無理して何事も無かったように接されたことが、霖之助の不安を余計に掻き立てる。
そのため、これで謁見は終わりだと視線で示す親衛隊を無視して、霖之助は思わずハニューに声をかけてしまった。
「僕達を祝福してくれますか?」と…
その質問に、ハニューの表情が一瞬曇る。
そして、薄っすらと笑うと「店主は『友達』だからな、祝福するよ。」と答えた。


霖之助は「ありがとう」という言葉を搾り出すのが精一杯だった。


霖之助はそのままハニューを見つめながら立ち尽くしていた。
霖之助の心には表現しきれ無い程の感情が渦巻いていたからだ。
しかし、いい加減にしろと、親衛隊員が霖之助を引きずるようにして外に出そうとする。
すると、朱鷺子がするりと親衛隊員の間をすり抜けハニューの下に駆け寄った。

「本当にごめんなさい。霖之助さんをあなたから奪って。」
朱鷺子は、ハニューと霖之助の間に流れる雰囲気から、霖之助の不倫相手、そして霖之助の背中を押したのがハニューだと分かった。
朱鷺子は、ハニューに何か言わないといけない、そういう思いだけに突き動かされ、ハニューの下に駆け寄った。

そして、何も考えずに出た言葉が謝罪の言葉だった。

朱鷺子は、霖之助が自分よりも圧倒的に優れるハニューより、自分を選んだことに罪悪感にも似た気持ちを持っていた。
それは、霖之助の周りにいた女性達が、自分より圧倒的に優れた存在ばかりだったと感じていた朱鷺子は、いつしか自分を卑下するようになっていたからだ。
そのため、本来ならハニューに文句の一つでも出ておかしくない状況で、謝罪の言葉が出てしまっていた。
「気にしないで。」
そんな朱鷺子に、ハニューは気にするなという。
「それでも、謝らせてください。」
しかし、朱鷺子の頭は上がらなかった。
そんな朱鷺子に困ったような顔をしたハニューは、優しく語り始めた。

「しっかりした人だな朱鷺子さんは…
 朱鷺子さんみたいな人だったら、安心して店主を任せられるよ。
 俺が言うのは変だけど、店主をしっかり支えてね。
 それと…もっと自分に自信を持って。」

「はいっ!
 ありがとうございます!!」

ハニューの言葉を聞いた朱鷺子は、自分が霖之助の妻としてやっと認めてもらえたような気がした。
それは、ハニューの言葉がまるで霖之助の母親の言葉のように聞こえたからか、それとも絶対に霖之助の横に立つ勝負をしたら勝てないと思った相手から認められからなのか…
それともその二つが原因なのか…
朱鷺子は分からなかったが、その頬には嬉し涙が流れていた。



-----以下蛇足-----

side 神綺

神綺にとって、アリスをレイポゥした相手を探し出すために行った行動は、反省すべき内容だった。
それは、アリスのためとはいえ、ジオン隊員への調査をジオン側に察知され、ハニュー総帥自らがホットラインで連絡を取ってくるという事態…
つまり、外交問題に発展したからである。
ハニューがジオン隊員への調査を、魔界首脳としての行動ではなく、神綺個人としての行動であると外交的配慮をしてくれたため、外交関係断絶という最悪の事態は回避されたが…
神綺はハニューに貸しを作ったことになり、魔界としてはマイナスが目立つ結果となってしまっていた。

アリスの相手を先に探すという手段を封じられた神綺にとって、この問題を解決する手段は最早一つだけになっていた。

「アリスちゃん、お母さん、真っ向勝負することを決めたわ!!」

「急にいったいどうしたの??」
神綺の剣幕に、驚くアリス。

「アリスちゃんをレイポゥした奴は誰!?」
しかし、そんなアリスを無視して神綺はぶっちゃけた。



「な、何言っているのお母さん!?私はそんなことされていないわよ!!」
神綺の酷すぎる発言に、アリスは一瞬固まるが、直ぐに顔を真っ赤にして全否定する。

「嘘だ!!」
だが、神綺はそんなアリスの言葉を信じず、押し問答が始まった。

「お、お母さん!?私、嘘なんていっていないわよ!?」

「アリスちゃん…どうして嘘をつくの!!!!」

「訳のわからないことを言わないで!!」

双方必死になって発言するが…
最初からボタンを掛け違えているため、双方の話が実を結ぶはずがなく…
押し問答が続いた結果…

「お母さん!もう切るわよ!!」

話は物別れに終わってしまう。
神綺は、自分がアリスの相手を快く思っていないことを察知したアリスが、嘘をついて相手を庇ったのだと解釈した。
そのため、神綺は次の作戦に出ることになる。

「まだ手はあるわよ。
 アリスちゃんが他の人を好きになればいいのよ!!」

「そんな無茶な!?」
いきなり、無茶なことを言い出す神綺に、夢子は思わず突っ込みを入れてしまう。

「何人か厳選して、アリスちゃんに言い寄らせるのよ!ルイズに、アリスちゃんに気がありそうな人を報告させて!
 魔界を上げてバックアップするのよ!!」

お母さんの暴走はまだまだ続くようだった。


----------

side out

霖之助不倫事件とも呼ばれた小さな事件はこうして幕を閉じた。
この事件によって、ジオンの大半は何も変わらなかったが、少しだけ変わったこともあった。

霖之助はジオンの技術者として、この日を境に出世街道を駆け上がっていくことになる。
彼は「頑張っているね。」と声をかけられると常に「愛する妻と愛する友人のために、全身全霊を捧げているだけさ。」と答えるようになったという。

朱鷺子は名実共に霖之助の妻として、霖之助を支え、時には霖之助を引っ張っていくようになった。
周囲は、朱鷺子が自信を持つようになったことを、好意的な変化として受け止めていたが…
霖之助はこのまま『たくまし過ぎる女性』に朱鷺子もなってしまうのではないかと冷や冷やした日々を送るようになった。

アイリスはルーミアに今回の行動は色々と駄目すぎると怒られ、反省文をいっぱい書かされた。
ついでに、ハニューの少々身勝手な行動で増えた書類の処理を任されてしまい、当分の間書類の山と格闘することになってしまった。
アイリスはちょっと涙目になっていた。

マリーダは、訓練生達から「頑張ってください!応援してます!」と応援されることが多くなった。
何を応援されているのか、マリーダは戸惑ったが、以前より訓練生達との距離が縮まったような気がして、少し喜んでいた。

ミスティアは、ハニューを連れて人間の里や妖怪の山で私服を買って回り、ハニューの私服充実に貢献した。
しかし、超有名人のハニューと、メイド喫茶のステージや夏祭りでの芸能活動で人気急上昇中のミスティア。
この二人が素顔で買い物をするということが、どれだけ目立つことなのか、三回目の買い物で思い知らされることになった。
結局ミスティアの立てたハニューの私服充実作戦は、三回目で頓挫することになってしまった。

リグルは、ハニューに自分の浴衣と水着をスルーされたため、自分のセンスが悪いのではないかと悩み始めた。
そこで、いつもとは真逆のフリフリのドレスを着て紅魔館に向かったが…門番隊に身分確認をされてちょっと凹んでしまった。
因みに、リグルの格好はミスティアに『可愛い』と大好評だったらしい。

フランのハニューへの尊敬度が+1増えた。
フラン曰く、ただ情報を集めるだけではなく、自分の部下の問題解決まで一緒に行ったのは凄い。
だけど、振り回されたルーミア達が大変だったみたいだから、少し減点して+1!とのことだった。

咲夜は、ハニューがお嬢様のコスプレを着た状態で困っている姿を思い出す度に、ゾクゾクとした歓喜を感じるようになっていた。
まだまだ仕返しが足りない、もう一度コスプレを着せてハニューを困らせてやろうと考えた咲夜は、新たな企てを考え始めた。
しかし、どうして自分はハニューぴったりのコスプレを縫おうと思ったのか?という疑問が咲夜の頭に浮かぶには、もう少し時間が必要だった。

パチュリーは、アイリスが相談に来たときの発言で、小悪魔からいっぱいご褒美が貰えた。
これからも、小悪魔のためにがんばろうとパチュリーは決意を新たにした。
因みに、主従が完全に逆転していることを、パチュリーはまったく気にしていなかった。

小悪魔はハニューが霖之助の心を上手に動かしたことを知って、負けていられないと思い、勉強により一層励むようになった。
勉強の実験台はパチュリーだった。

神綺は、アリスの恋人の候補者としてハニューの名前が上がって来たため、これまでとは違う意味で頭を抱えることになった。

アリスは、ジオン教官陣を恐怖のどん底に陥れ、ハニュー攻撃の意思を挫いた正体不明の大魔法、ザムディンの研究を始めるようになった。
ハニューからは青い顔をして「聞かないで!」とザムディンについての協力を断られたが、それがアリスの研究意欲を刺激し、その後パチュリーとの共同研究になった。
しかし、成果は上がらず、その正体は現在も謎である。

訓練生の間では…
「ハニュー総帥とマリーダ教官のあまりの親密っぷりに、キャンプ中は訓練生と教官は誰一人として二人の間に割ってはいることができなかった。」
「敵の攻撃に苦しんでいたマリーダを身を挺してハニューが守った。その姿は正に王子様で、訓練生の何人かが糖尿病になりかけた。」
等といった、尾ひれが沢山ついた噂が広がっていった。
因みに、それらの噂話は合宿が行なわれる度に、訓練生達の間で延々と語られるようになった。

オーナーは来店者名簿の中に、正式にハニューの名前を追加した。
あれは『ハニューの影武者』だったという話が伝えられたが、オーナーはそれは間違いだと考えた。
どうしてかと聞かれるとオーナーは…
「幻想郷には無い海を見たときの反応が、他の大妖に比べて非常に薄かった。つまり、来店したのは相当な胆力を持つ存在…とても影武者だとは思えない。
 最近幻想入りしただけかもしれないが…私は自分の感を信じるよ。」
と語ったという。

にとりは、テレビ放送でも始めようかと考えるようになった。
それは、にとりは光学迷彩を着てハニューと霖之助の夏祭りを撮影していたが、それをテレビで見ていた人達の反応がとても面白かったと小耳に挟んだからだ。
アイリスは「親衛隊はうろたえないッ」と騒ぎ、ミスティアは「チンチ●可哀想で泣けてきたわ」泣き、フランは「こんなメガネのどこがいいんだか…」と不機嫌になり、
リグルは「わっわっ見ていいのかな!?」と興味津々になり、マリーダは『オロオロ』と不安そうになり、ルーミアはお煎餅をバリバリと食べていたらしい。
お値段以上の価値があると言われることになるテレビ放送が実現するのには、まだもう少しだけ先の話だった。

ルーミアはいつも通りだった。



というのは嘘で、ハニューに肩たたきを要求した。
本人曰く「他の皆の苦労はルーミアが上手く労っておいたのだー、ハニューはルーミアを労うのだー、これは罰なのだー。」とのことだった。
ハニューは、ルーミアが怖いので、事件が解決した日から一ヶ月ほど、毎晩ルーミアの部屋を訪れ肩を叩き続けた。
毎晩ルーミアの部屋に行くハニューをフランは不思議に感じたが、ハニューから「バーニング・フィンガー・アタックを使っている」と言われ、何となく追求するのをやめた。

そして渦中のハニューはというと…




今日も元気だった。














チルノはアイスソードをマスターした。

大ちゃんのレベルが10上がった。

蜘蛛のパーティは大ちゃん達と偶然遭遇した。
所持金が半分になった。




【霖之助編朱鷺子ルート△トゥルーエンド△】



[6470] 短編外伝第八話 ゆうかりんの憂鬱。
Name: pzg◆1036bac0 ID:601741ee
Date: 2011/06/21 21:46
side ルーミア
多少、本編の設定と齟齬があるかもしれないのだー



side 風見幽香
「大人には興味ありません。幻想郷に妖怪の子供、人間の子供、妖精の子供、神様の子供がいたら、あたしのところに来なさい。以上。」
フフフ…
嬉しさのあまり、思わず奇声をあげてしまったわ…

でも、許してほしいわ。
だって、ついに幕を開けるのよ。



私と子供達とのエターナルタイムが!!!




気がついたら妖精
短編外伝第八話 ゆうかりんの憂鬱。



私は、風見幽香(と今は名乗っているわ)。
お花を操るという能力を持った妖怪よ。
私の能力を聞いて、感がいい人は分かったと思うけど、私は可愛いものが大好きなの。
例えば子供とか、子供とか、子供とか。
といっても、変な意味で子供が好きだという意味じゃないわ。
純粋に、子供達が大好きなの。
私の夢は、子供達に囲まれて楽しい日々を過ごすこと。
そうね、必要ならば、幼稚園とか、学校とかを作ってもいいと思っているわ。

さて、そんな私が今どこにいるかというと…
最近巷で噂の幻想郷にやってきたのよ。

どうして、最近できたばかりで、しかもド田舎ともいえる幻想郷に私が来たのか。
それには、語るも涙な、悲しい思い出があるの。




遥か昔、今から数千年前。
私はお母さんと一緒に、とある田舎の花畑で暮らしていたわ。
そんなある日、花畑に迷い込んだ人間の子供を見て、突然気がついたの。
私は子供が大好きだって。

その時は、本当に自分の能力に感謝したわ。
自分の花を操る能力で、子供達を楽しませる花畑をつくり、そこに近所の人間の子供達が集まってくる。
そして、私も子供達と一緒に遊び、楽しい一時を過ごす。
まさに、計画通りで、私天才!って思ったわ。

でも、その楽園も長くは続かなかったの。

人間の一生は、花の一生のように短いわ。
ついさっきまで子供だった子が、気がついたらオジサンやオバサンになっているのよ!!
あの光景は、私のSAN値をガリガリ削っていったわ。

結局私は、その光景に耐え切れず、生まれ故郷を飛び出したの。
そう、傷心を癒す、世界放浪の旅に出かけたの。

こんな理由で、生まれ故郷を飛び出すことになるとは思わなかったけど…(そういえば、お母さん元気かな…)
この旅は私にとんでもない事実を教えてくれたわ。
田舎という言葉がよく似合う故郷では会わなかったけど、世界には私やお母さん以外の妖怪や妖精や神といった存在がいっぱいたの。
そして、その子供達は、もの凄く長寿か、永遠に子供…そう、エターナルロリータ&ショタだったのよ!!!!!!

私のアヴァロンが直ぐそこにある!
そう気がついた私は、直ぐに子供達と接触しようとしたの。
でも、それは叶わなかった…いえ、私にはそんな資格が無いということを思い知らされたわ。




道に迷ったり、強そうな奴等から逃げ回って数十年。
やっと、初めて出会えた人間以外の子供達。
彼女たちは、後にゴルゴン姉妹と言われた子達だったわ。

まだ、生まれてそれほど年が経っていない感じの子供達だったのに…
なにこの強さ…
うわようじょつおいって感じで、フルボッコにされて、お馬さんごっこという名の虐待を受けたり、散々だったわ。

ということで、私は隙を見て彼女達から逃れ、修行を始めたわ。
だってショックだったの。
自慢じゃないけど、私は箱入り娘だったの、だから世間の事なんてまるで知らないし、戦いなんてしたこともなかったの。
そして、私は花を操る能力という、どうにもならないぐらい戦闘に向かない妖怪だったから、これまでひたすら戦いから逃げていたの。
そのせいで、人間以外の子供達と出会うのに、ここまで時間がかかっていたのだけど…
それは仕方がないことだと、諦めていたわ。

だけど、まさか自分がそこら辺の子供達より弱かったなんて。
これが世界の普通だったのね、私って本当に井の中の蛙だったわ。

だから、私は必死に修行したわ。
子供達より強くなれるように。
そして、子供達から一方的に遊ばれるのではなく、子供達と一緒に遊べる存在になれるように。





でも、まさか…
彼女達と二度と会えなくなるなんて、当時未熟だった私は思いもしなかったわ。






修行を終えて、彼女達に会いに行ったら彼女達の姿がどこにもなかったわ。


私は彼女達を探したわ、でも結局彼女達を見つけ出すことはできなかった。
そして代わりに、とんでもない事実を知ったのよ。
三人とも、醜い姿に変えられたあげく、三女のメドゥーサに至っては殺されたというの!
そして、実行犯ペルセウス、黒幕アテナとアムピトリーテ…そして元凶のポセイドン。
箱入り娘だった私にとって、こいつらがどういう奴等かは知らないわ。
ただし、ろくでもない奴等だということは間違いないわ。


怒りに怒った私は、この四人を殺しに行ったわ。
まずは、ポセイドンというジジイから。
理由は、ジジイだから奴が一番弱いだろうと思ったということと、こいつが元凶だからよ。
ジジイが、あの可愛いメドゥーサに手を出さなければこんなことには…

奴の家に行ったらビックリしたわ、まるで神殿のような立派な家に住んでやがるのよ。
メドゥーサを愛人にしたという話だったから、どんな奴かと思ったけど、家を見たところ金だけはあるようだったわ。
私は護衛を騙すために、下女に変装。
ジジイの寝室に潜り込み、そんな私を見つけたジジイを襲ったわ。
ジジイは何を勘違いしたのか服を脱ぎ始めて隙だらけだったから、これはいけると思ったわ。


だけど私は…


清清しい程に負けたわ。
ジジイは恐ろしく強かった。
ゴルゴン姉妹のことで、散々思い知らされたつもりだったけど、やっぱり私は井の中の蛙。
修行して子供達レベルに追いついたぐらいで、ジジイとはいえ大人に勝てるわけがなかったのよ。

奇跡なのか、それともゴルゴン姉妹の敵討ちだと知ったジジイの慈悲だったのか。
原因は分からないけど、私は命を取り留めたわ。

そして回復した私は、二つの事を心に誓ったわ。

『子供達を守り通す力を手を得る。』
『力を手に入れるまで、子供断ちをする。』


本気でジジイと戦った結果、世の中の大人(人外)の平均的強さを知った私は、最低限の超えるべき目標を見つけることができたとも言えたわ。
だから私は、その後修行の旅を始めたわ、世界中の戦いに身を置き、力と技を磨いたの。
運がいいのか、ジジイより弱い奴等と戦うことが多かったけど、私は元々弱虫。
いつも直ぐに戦いから逃げ出しそうになったわ。
だから私は自分に暗示をかけた「私の後ろに子供達がいる」と。
そう自分に暗示をかけた私は、自分で言うのもなんだけど、全てを投げ打って戦い続けたわ。
どんなに負けそうになっても、子供達を守るために敵に喰らいついて戦い、逃げる敵にも後に子供達を襲うかもしれないと、追いかけて倒したわ。
『花の魔王』だの『神殺し』だの厨二臭い名前で呼ばれたこともあったわ。
だけど、ゴルゴン姉妹を守れなかった私はそんな名前はいらない。
慢心は悲劇を呼ぶ。
私は花が操れるだけの妖怪だと自分に言い聞かせるためにも「フラワーマスター」という二つ名を考え、使い続けた。

とういうか、『花の魔王』や『神殺し』なんて名前、どう考えても褒め殺しという奴なんだけど…
私は、子供であるゴルゴン姉妹や金持ちだけど、あんなどこにでもいる老いぼれのジジイにも勝てなかったのよ!?




そして更に気が遠くなるほどの年月が経ち…
私は、やっと子供達を守れると自信が持てるほどの力を得た。



でも…



でも…



気がついたら、世界から妖怪や妖精や神といった者達の姿が激減していたのよ!!!



どういうことなのこれ!?

一瞬、私が修行で殺しすぎたのかと思ったけど、流石にそれはない。
私はそこまで強くない。

調べたら、原因は人間だったわ。

人間が闇を恐れるという気持ちを無くし始めていたの。
そう、世界は私達には住み難いところとなり始めていたのよ。

多くの者達が、信仰や住む場所を追われ、自らを保てなくなったり、この世界から去っていったわ。
ちなみに、絶対に殺そうと思っていた、ポセイドン達もいつの間にか、いなくなっていたわ。
修行がある程度進んだときに、そろそろジジイぐらいは殺せるだろ、と思ってジジイの家に乗り込んだのに…
既にそこは蛻の殻だったわ。
締め上げたネーレーイスによると、あのジジイはポントスとかいう奴がいるどこか遠くの世界に逃げ出したらしいわ。
旅の途中で修行の最終目標は?って聞かれるたびに、最低限ポセイドンのジジイ程度が殺せるぐらいって言っていたのに…私に殺されずに逃げなんてムカつくわ。
腹いせに奴の家を完膚なきまでに破壊して…
気が治まらなかった私は、目に付いた奴等を片っ端から叩きのめして回ったっけ。
今から思うと酷いことをしたけど、大半はジジイの家を破壊したら集まってきた奴等だ、どうせろくな奴等じゃなかったはずだわ。
あれ以後どいつもこいつも、神殺しや花の魔王とかいう名前で私を呼んだり、サタンの使いとかいう変な奴が、爵位と領地をあげるとか言って付きまとってきたり、面倒くさかったわ。
サタンの使いとかいう変な奴は「最低でも公爵?爵位なんかで私の野望が満たせると思って?(野望=エターナルな子供達と楽しく過ごすこと)」
って啖呵を切ったら、「お許しをー」とか言って逃げ出してくれたから解決したけど、厨二臭い名前は何度も否定したのに、未だに残っているのよね。
はあ…

話が逸れたわね。
それはとにかく、妖怪や妖精や神がいなくなった、つまり人間以外の子供達が激減したことに私はorzと落ち込んでいたわ。
だって、数千年努力した結果がこの有様だなんて。
あんまりじゃない…



数年かけて回復した私は、まだどこかに神や妖怪や妖精がいるかもしれないと思い、また世界を放浪したわ。
そして噂だけど、ついに糸口を掴んだのよ。

幻想郷という神や妖怪や妖精が集まっている場所が、極東の島国にあるということを!!


噂を聞きつけた私は、そのまま極東の島国に直行し、目に入った妖怪とOHANASHIして、幻想郷を見つけたわ。
幻想郷を見つけた私はそのまま突入したわ。
途中で、結界みたいのがあったけど、そんなもので止まる私ではない。
何しろ私は、数千年待ったのよ。
結界をぶち破り、丘に降り立った私は、早速向日葵畑を作り出したの。


気が早いって言われるかもしれないけど『何度も言うけど』私は数千年待ったのよ!!!


で、冒頭の所に戻るんだけど。
なかなか子供達が来ないわね。
こんなに立派な向日葵畑。
絶対に、興味を引くと思うんだけど。

誰も近くにいないのかしら?

って思ったけど…
明らかに妖怪や妖精の気配があるのよね。


そうか、恥ずかしがりやなのね。
それなら、こっちから迎えに行ってあげればいいわ。


まずは、丘の近くの森の中にいる子達ね。
流石に子供がいるかどうかは分からないけど…
いっぱいいるみたいだから、一人ぐらいは…


「動かないで。」

「話し合いの余地、あるかしら?」


突然現れたのは…
巫女服の人間に、胡散臭い感じの金髪の妖怪?
何を言っているのこいつら。

「貴方達、何?」

随分と警戒しているわね?
どういうことかしら?

「私達は幻想郷を創り、幻想郷を保つ存在。
 この子は博麗神社の巫女、私は八雲紫よ。」

「で、その二人が何の用かしら?」

「それはこっちの台詞よ。
 あなたは神殺し…いえ、フラワーマスターよね?

 幻想郷に何しに来たの。」

何しにって…この人間に言われるまでもないわ。

「それは、子供達と遊ぶためよ。」

「「……」」


どうして、黙るのよ?
そんなに変なこと言ったかしら??

「そう、子供を嬲り殺すのが趣味なの。
 流石、あのサタンが配下に欲した妖怪ね、いい趣味してるわ。」

その理屈はおかしい。
というか、金髪の頭の中はどうなっているのかしら。

「違うわよ、嬲ったりしないわよ!!」

「じゃあ食べるのね?」

「どうしてそうなるのよ…
 私は、可愛がるだけよ、食べるなんてしないわよ!!」

「…そんな嘘が通用すると思っているの?」

この金髪BBA、何考えているのかしら…
さては、人をバカにして楽しんでいるのね。
ムカついてきたわ。

ただでさえ、子供分が不足して、私は気が立っているのよ!!

ああ、もういい。

「邪魔だ、キエロ!!」

----------


はあ…どうしてこうなっちゃったのかしら。
幻想郷に来たばっかりの頃は、もっと希望に溢れていたのに。

何がいけなかったのかしら。

初めて幻想郷に来たとき、初代博麗の巫女と紫と、ついでに近くで様子を伺っていた妖怪を、まとめてフルボッコにしたのがいけなかったのかしら。
でもあれは、あの二人が私が幻想郷に侵攻してきたと勘違いしたことが原因だから、私は悪くないわ。
ちゃんと二人にも「私は、子供達と遊びたいだけなの、幻想郷の支配なんて考えていないの。」
ってことを正座させながら言い聞かせたから、誤解も解けているはず。
だから、その後数十年に亘って、太陽の丘に子供が一人も来なかったのはきっと何かの偶然のはず…
因みに、たまに勘違いした変な奴が私に勝負を挑みに来ることはあったけど…


それとも、やっぱりもっと笑顔でいなくちゃ駄目なのかしら。
私は、数千年殺し合いをしてきたから、笑顔が苦手なのよね。
だから、幻想郷に来た当初は、ずっと無表情な感じだったのよね。
最近、それが不味いって分かったから、笑顔でいるようになったのだけど…
効果はイマイチだわ。
少し前に、てゐとか言う名前の兎の子供が太陽の丘の近くに来て、落とし穴をつくっていたのよね。
それを見つけた私は、微笑ましいと思って、わざとその落とし穴に落ちてあげたの。
自分でわざと落ちてあげたわけだから、私は落とし穴に落ちても笑顔でいたわ。
そして、落とし穴に入ったまま、笑顔をてゐとか言う名前の妖怪に向けてあげたのだけど…
どうして、青い顔をして逃げ出しちゃったのかしら。
訳がわからないわ。
もっともっと、笑顔の訓練をしないと駄目ね。


そうそう、訳がわからないと言えば、紫は未だに訳がわからないわ。
これも少し前だけど、子供達との出会いが上手くいかないのなら…
自分で子供達を作ればいいじゃないか!
という素晴らしいアイデアを思いついた私は、早速紫に協力を仰いだわ。
なんと、紫は藍という式を自分で打っていたのよ。
しかも藍は、今こそ大人ボディーを使っているけど、昔はちゃんと子供だったらしく、今でもその気になればツルペタの子供ボディーにできるそうなのよ!!!!
だから、私は式の打ち方を教えてもらおうと紫の家に行ったのに…
「八雲紫?いる?」
「………何しに来たの?」
「ちょっと子供つくりに来たの、私とあなたで。手伝ってくれる?」
「………帰れ」
「は、何言っているのよ?私がこうやって頭を下げに来たのよ、一人や二人ぐらいいいでしょ?」
「…………私はそんなに安い女じゃないのよ!!!帰れ!!!!!!」
「ちょっおまっ!?」
流石に手ぶらだと不味いから、断腸の思いで花束まで用意したのに…
何度思い出しても紫の行動はおかしいわね、何か間違えたのかしら?
アレ以後、八雲紫とは以前以上に会えなくなるし、何がなんだか訳が分からないわ。
因みに、その後、式の藍も式を打てると聞いて、藍に会いに行ったけど…
藍も訳がわからなかったわね。
「ねえあなた?私、子供が欲しいの。」
「コン!?…そんなこといきなり言われても…」
「確かにいきなりこんなこと言われたら困るわね。
 でもね、紫に断られたから、あとはあなただけが頼りなの…」
「…」
「どうしたの?」
「紫様が本命で、断られたから直ぐに二番目の私の所に来たということですか……最低ですね。」
やっぱり訳が分からないわ。
式と言っても、親子みたいなものだから、似るのかしら??


ああ、何だか関係ない昔の事まで、色々思い出してきたわ。
そういえば私が昔、世界の海の支配者になるために海の神を殺そうとしたとか、血も涙もない殺戮マシーンだとか、魔王の配下では私は満足しない、私こそ魔王だ!!って言ったとか…
滅茶苦茶な内容を書いた似非新聞社に抗議に行ったら、何を勘違いしたのか、妖怪の山の奴等に攻撃されて戦争になったり…
(海の神って誰よ、魔王の配下とかそんな話聞いたことないわよ。)
それを収めたと思ったら、別の似非新聞社から私が八雲紫に言い寄ったという似非新聞が出て、再度抗議に行ったら…
その新聞を書いた天狗の文が、すでに逆さづりになっていて、大天狗の奴が「こちらでオシオキしたから許してくれ。」と頭を下げてきたり…
その後に、文が一人でやってきて「ご迷惑をおかけしました、あなたの行動をよくよく考えたら、私と同じ趣味だと気がつくべきでしたね。」
とか言って、仲直りの証として子供の写真を大量に持ってきたり(子供分が足りなかったから快く貰っておいたけど。何故か肌の露出が多い写真ばっかりだったわ)。
未来の博麗の巫女が生まれたと聞いて、挨拶に行った時に、あまりの可愛さに冗談で「可愛いから、欲しい。」とか言ったら、二代目博麗の巫女が本気の殺気をぶつけてきたり…
(冗談が分からないのは、いろいろとまずいと思うわ。)

そういえば、挨拶と言えば、紅魔館が幻想郷に来たときもいろいろあったわね。
確か、花の形をしたお菓子を持って、挨拶に行っただけなのに、気がついたら紅魔館VS当時の博麗の巫女VS他の妖怪という戦いに巻き込まれていたのよね。
紅魔館に着いたら、紅魔館勢と当時の博麗の巫女と他の妖怪達が集まっていて…ちょうど私が舞い降りた所にレミリアがいたのよね。
あの時のレミリアは可愛かったわ。
レミリアがあまりにも可愛いから「可愛くて食べちゃいたいぐらい」って言っちゃったぐらいに。
だけど、その直後にあたり一面が弾幕だらけになって…あっという間に大戦争になって、それどころじゃなくなったのよね。
あの時は、偶然巻き込まれたとはいえ、当時の博麗の巫女は子供だったから『子供達の味方』として彼女が死なないように守ってあげることにしたのよね。
(本当はレミリアを助けたかったのだけど、レミリアは従者達に守られていたから、近寄れなかったのよね。)
酷い目に会ったし、レミリアを愛でるチャンスを逃したけど、これで子供達の人気アップだわ!!って戦争が終わった直後は喜んでいたわ。
だけど…
『風見幽香、幻想郷と紅魔館の和平交渉を破壊』
『レミリア・スカーレット、風見幽香の夕食になりかける』
『汚い!!博麗の巫女、風見幽香を使い騙まし討ち!!』
『 幽 香 襲 来 』
って新聞の見出しに書かれていたのはどういうことなのかしら。
それに、紫から「頼むから、動くときは一言言って頂戴、お願い!!」って縋りつくようにお願いされたのも意味がわからないわ。
私は、お菓子を持って挨拶に行っただけなのよ!


……………もの凄く嫌な事まで思い出してしまったわ。
でも、何が悪いのか分からないけど、子供達に囲まれて楽しく生活するという目標が、全然上手く行っていないのは事実ね。

幻想郷に来て100年ぐらいかしら?
なのに、未だに私の所によく来る子供といえば、リグル一人ってどういうことなのよ。
しかも、そのリグルさえも、どことなく私に怯えている感じがするわ。
私の何がリグルを怯えさえているのかしら。


なんだかまた憂鬱になってきたわ。
そうだ、気分転換に『文々。新聞冬の増刊号 特集 子供に人気のある妖怪トップ10』でも読んでみようかしら。
流石に1位はまだ難しいけど、5位いや…8位…いやいや10位にぎりぎり入るぐらいには…ゆうかりんって謙虚(ハート)

(冬の増刊号の内容は短編外伝第一話をお読みください)

こ、心が折れると思ったわ。
こんなの認める訳にはいかないわよ。
こうなったら、この新聞社も、この新聞を読んだ奴等も全て消し飛ばして…


って流石にそれじゃ、なんの解決にもなってないでしょ。
諦めたらそこで試合終了だわ。
こうなったら、正々堂々私の素晴らしさを幻想郷全体に伝えるのよ!!

確か、もうすぐクリスマスよね。
これを使わない手はないわ!!



がんばれゆうかりん!!
諦めなければ、きっと私にもエターナルロリータ&ショタとエターナルタイムが…!!


待っていなさい!!
まだ見ぬ私の子供達!!
絶対にあなた達との素晴らしい時間を手に入れて見せるわ!!!



気合を入れる幽香。
それは似たもの同士であり、運命の相手(候補)とも言えるハニューと出会う数日前のことだった。



[6470] 短編外伝第九話 気がついたら…ゼロの使い魔!?(R-15)
Name: pzg◆1036bac0 ID:ecd9cefe
Date: 2011/08/06 08:53
短編外伝第九話
気がついたら…ゼロの使い魔!?

side ルーミア
「この短編の注意事項。
 ①この短編でこういう設定だからといって、本編でもそうだとは限らないのだー。
 ②色々と自重してないので、本編より展開に無理があるかも知れないのだー。
 ③もともと、非公開&R-15級で作成していた短編なのだー。
  なので、公開にあたって色々とまろやかにしたけど、まだきついのが残っているかもしれないので、気をつけるのだー。
 ④デフォでキャラが壊れているのだー。
 ⑤勢いで書いていたので、設定が変更されているのではなく、本気で間違っているところもあるかもしれないのだー。
 ⑥ゼロ魔ファンの人、色々とごめんなさい。ということなのだー。
 以上、注意点なのだー」

side ハニュー
このコスプレ出来がいいね!!
俺が今試着しているのが、ハマーン様(ZZ)のコスプレ。
今度メイド喫茶に応援に行くことになったのですが、サプライズになるような服を考えて…
縫ったのがこのコスプレです。
縫ったといっても、時間がなかったのでルーミアに相談して、にとりさんとアリスさんに手伝ってもらったけどね。
他にもまだ何着もあるけど、今日は遅いからもう帰って寝よう。

あれ?

こんな所に扉なんてあったっけ???


・気がついたらハルキゲニア…いやそれ違う
皆さん今晩は!
私ことハニューは、本物と見間違えるほどのヴァーチャルリアリティ(以下VR)を体験するという、貴重な経験をすることになりました!
しかも、このVRは凄いことにゼロの使い魔というアニメによく似ているのです!

いや~、扉を開けてみたら、どこかで見たことがあるような光景、ピンクの少女と、ハリーポッタ●?という感じの少年少女を目の当たりにした時は驚いたね。
因みに、所謂憑依や転生というネット小説にある展開とか、流石にそんな非科学的なことを信じる年ではないです。
ですので、そんなオカルトちっくな考えは捨てて、常識的な答えを探したのですが…
結論から言うと、これはVRだろうということでした。

何故俺がVRという答えにたどり着いたのか。
それは、俺達が生物兵器だと考えれば簡単に分かることなのですよね。
俺達生物兵器にとって最も大切なことは強くなること。
そして、強くなるために必要な要素と言えば、訓練だからです!
そう、これは生物兵器の戦闘訓練のためのVRだったんだよ!!!!(ナンダッテー!!!)
なぜアニメの中に入ったような状態になっているかと言えば、多分総合的な訓練を行うためなのだと思います。
ある一定のシチュエーションの状態に放り込まれ、そこで自らの地位を築き、仲間を作り、戦い生き残っていく…
それは下手な訓練メニューより、物凄く大変なことだということは、想像に難くありません。
因みに、オリジナルのストーリーではなく、ゼロの使い魔である理由は、単純に手抜きというか、製作者の趣味といったところでしょう。


あれ???なんだか最近そんなことがあったような…
ま、とにかく。
サイトとルイズという組み合わせだからこそ乗り越えられた世界で、サイトの代りに君は生き残ることができるか?
だなんて、なんという死亡フラグ。
例えVRと言えども、死ぬなんて、死ぬほど嫌だなぁ。
勘弁してくれ。
だからこそ、訓練としては最高のシチュエーションだと言えるのだけど…

ってことで、どこかの誰かに状況を説明したのはいいが…
「寒い…ここにあと何年…」
という感じで寒いなぁ。
やっぱり、ここが廊下だからだよなあ。
それにしても、どうして俺は廊下に追い出されたのだろうか?
原因を調べるために、今日起きたことを思い出してみるか。

俺がVRで気がついたとき、周りは…
「ゼロのルイズが人を召喚…あ、亜人だああああ!?」
「…すごい!!凄いわ私!!!!!」
「ミス・ヴァリエール! 早く私の後ろに!」
「ミスタ!?」
「私の言葉が分かりますか?分かるのなら、お願いがあります…」
という感じで騒いでいたのですが、完全にパニックになっていた俺は、周りを無視していました。
目の前の禿げてるオッサンとピンクの少女も…
「あの…聞いていますか?それとも言葉が分からないの「め、目を瞑りなさい!!!」ミス・ヴァリエール!?」
そしたら、いきなりピンクの少女が命令口調で命令してきたので…既にいっぱいいっぱいだった俺は…
「黙れ!俗物!」
とコスプレしているキャラ(ハマーン様)のように叫んでしまいました。
何かそうしたら、禿げているオッサンとか、髪の青い少女とか、髪の赤い少女が杖を向けてくるし…
目の前のピンクの少女は、ぺたんと座り込んでしまうし…
いや、確かにイラッときて、叫んだけど驚きすぎじゃない?何なのこれ。

まあ、そこで冷静になって、これってゼロの使い魔じゃね?目の前にいるのルイズとコルベール先生じゃね?
そして、これってVRじゃね?
って気がついたので、ルイズの顎を上げて、しっかりとキスをしました。
ディープな感じで一分ほど。
そこまでする必要はないかと思いましたが、ゼロの使い魔をチラ見しかしていない俺でもストーリー的にキスが無いと不味い展開だったと、なんとなく覚えていましたからね。
それに、どの程度のキスが必要だったか覚えていない俺としては、ここまでしっかりしたのをやれば、キスが足りないでストーリー崩壊!!なんて展開は防げると思ったのです。
どうせVRだから、ストーリー崩壊しても問題ないのですが、少しでも先の状況を知っている(原作に忠実)な方が俺の生存確率も上がりますからね。
何度も言うけど、VRといえども、死ぬのは怖いし。
だから、途中でルイズが逃げようとしましたが、押し倒すような感じで動けなくしました。

あ、コンなんとかサーヴァント?というのが、無事にできたみたいです。
ついさっき思い出したけど、確かキスをすることで武器を自在に操る程度の能力が手に入ったはず…
ほんのちょっと痛かったが、あいまいな記憶で行動した割には、ほぼ原作どおりに動けていて安心しました。

で、ルイズとキスをした後の展開ですが……
①何故かルイズが失神。因みに、確かキスの後に誰かが倒れるイベントがあった気がするので、それは問題なしと判明。
②だけど紳士である俺はルイズの様態を心配して、ベッドに連れて行きたいと言うが、何故か凄い形相をした赤毛の少女(後にキュルケと判明)にルイズを奪取される。
③コルベール先生に監視されながら、ルイズが気がつくまで廊下で待つ。何故監視されるのか訳がわからんが、俺の体を舐めるように見られて気持ちが悪かった。
④なぜ自分からコントラクト・サーヴァントをしたのかと聞かれた。そうしないとストーリーがおかしくなるから、とは言えなかったので、気に入ったからと言っておいた。
 確か、使い魔は呼んだ相手を気に入ってるから呼び出しに応える的な二次小説を読んだことがあるので、回答としてはこれでよいと思います。
⑤ルイズが復活。喜んで部屋に入ったら「へ、へ、変態はオシオキしないとね!!!」とか言われて杖でビシバシ叩かれ、爆破される。
 正直なぜか全然痛くなかったので、ルイズの攻撃を受けても平然としていましたが、なんかコルベール先生とキュルケが真っ青になっていて面白かった。
⑥「変態は廊下で寝てなさい!!」と廊下に捨てられる。←今ココ!!

何も悪いことしていないのに、理不尽だ…
そういえば、ゼロの使い魔でも主人公の少年、サイトが理不尽な攻撃をルイズから受けていたから、この展開は仕方ないのか??
うー…
赤毛の少女、キュルケの部屋に止めてもらおうかとしたら「私はあなたのような趣味はないのよ!!」とか言われて逃げられるし…
いや、確かに俺はオタク趣味だけど…逃げなくても…
それと、コルベール先生が泊めてくれる場所を用意してくれるとか、もし部屋を用意できなくても自分の部屋を貸してくれるとか言ってくれていましたが…
コルベール先生が俺の体を舐めるように見ていたのと、後の展開でキュルケといい仲になったと聞いたことがあったのを思い出したので止めました。
キュルケは確かにきれいな女性で、魅力的ですが…コルベール先生の年とキュルケの年を考えると…
どう考えても、コルベール先生はロリコンで、泊めてもらったら貞操の危機です。


うう…寒い。
ゼロの使い魔、しっかり見ておけばよかったなあ。
凄く生半可な知識しかないから、こういうときにどう行動すればいいのかぜんぜん分からないよ。

side ルイズ
わた、わた、私はファ、ファーストキスだって言うのに、あ、あ、あんな衆人環視の中で、娼婦のような破廉恥なキスをするなんて!!
そ、それ、それに、押し倒して何をする気だったのよ!?
変態!変態!変態!!!どうして私の使い魔が変態なのよー!!!!!!

side コルベール
黙れ俗物という言葉に、あの覇気。
見たこともない様式でありながら、見るものに覇者を思わせる服装(思わず知識欲が出て、ジロジロと見てしまいましたが…)。
そして、いくら気に入ったからと言って、あれ程人の目があるところで、あのような大胆な行動(キス)が取れる豪快さ。
それから考えるに、あの使い魔の正体は、間違いなくどこか我々の知らない亜人達の国の高位の存在…
そんな人物を使い魔として扱うことは大変難しい事態ですが…私達の知らない国から来た亜人…むむむ、興味を惹かれますぞ!!

side キュルケ
ルイズにしたキスに、先生から聞いたルイズが気に入ったという発言。
はぁ、どう考えても、あの使い魔は男が女に向ける感情をルイズに向けているわ…
可哀想に…ルイズは貞操の危機だわ。
だけど、ルイズを救うためにそんな性癖の使い魔を私の部屋に泊めるわけにはいかないし…

せめて、ルイズ以外に被害が広がらないよう、あの使い魔の危険性を他の女生徒に伝えておくべきね。

side タバサ
あの動き…間違いなく訓練を受けている。
それにあの覇気…何者?
注意すべき。


・いいことした日はいい気分
皆さん今日も一日お疲れ様でした!
俺も疲れました。
今日は、廊下で寝ていたら蹴り飛ばされるというダイナミック起床から始まりました。


「あんた…ご主人様が着替えるというのに、なに呑気に寝ているのよ!!さっさと着替えを手伝いなさい!!」とのこと。
少しイラッ☆としましたが、朝起きたらメイド長がナイフを持ってにじり寄ってきていたというシチュエーションに比べたら可愛いものなので、すぐに着替えを手伝うことにしました。
なのに…「こ、こ、こ、この変態!!!出てけ!!!!!」と、また爆破されました。
おかしいな、変な下着を着せて怒られないように、一つ一つ穴が開くほどしっかりと下着を見つめて吟味したのに…
何が悪かったのか…

ちなみに、選択イベントなるものがあったような気がしたけど、何も起きませんでした。
洗濯なら得意なのだが、いったい何を選択するのか…
VRなので目の前にウィンドウが現れて選択肢が出てくるかと思っていましたが、まったく出てきませんでした。

結局俺は、その後ルイズに連れて行かれて食堂に。
そしたら、まるで犬の餌のように、床にスープが置いてあった。

ああ、このイベント、覚えているような気がする。
確か、サイトがこんなの食えるかと切れたような感じで、余計に状況が悪化したような…
でも、紅魔館でメイド長の死ぬかもしれない虐めに耐えてきた俺はそんな馬鹿なことはしないぜ。
俺は必要とあればプライドを捨てることもできます。
例えば、このまま犬のように這い蹲ってスープを飲むことも…
と言っても、切れるまではいかないも、ルイズに一言言いたいのも事実。
そして、あまりにも聞き分けがいいと、それもそれでストーリーから離れそうなので…
「貴様は確かに優れた資質を持っているらしいが、無礼を許すわけには行かない。」
とハマーン様の台詞で、一言言ってやりました。

そうしたら、キュルケが慌てて飛んできて「調理所の方に頼めば、貴方用の食事を用意してくれると思うわ。それなら、貴族と同じ食事じゃないからルイズもいいでしょ、でしょ?」
と横から割り込んできたので、その言葉通り調理室に向かっておいた。

ちなみに、残ったスープに「いらないなら僕が!!」とか言って飛び込んできた金髪のちょいデブの少年に驚いて、思わず蹴っ飛ばしてしまったのは不可抗力だと思う。
「あふん!」とか言って転がっていったけど、脂肪がついているのかなかなかの蹴り心地だった。

それで、調理所に入って紹介されたのが、シエスタと言う名のメイドの少女。
確か原作キャラですし、これから食事の世話になるので、仲良くなりたいとテンション上がったのですが…

なんか知らないけど、シエスタを初め、誰も彼も俺に近づきたがらないのですが。
やっぱり、妖精という人間とは違う姿が怖いのかな?
と思った俺は、勝手に身の上話を話して、親近感を増そうという作戦に出ました。

最初は「シエスタといったかな?私はジオン総帥ハニューだ、よろしく頼む。」
と茶目っ気がある挨拶を行ったのですが、なんだか凄く焦っています。シエスタとか、その他のメイド達が。
なんか俺の名乗りがおかしかったのか気になりましたが、茶目っ気がある以外は別に変なところが無かったので…
そのまま話を続けました。
自分はゲンソウキョウの紅魔館という所に住んでいて、そこには吸血鬼の姉妹と、瞬間移動の能力があるメイド、七属性(七色じゃ意味が通じにくかったので…)を使い分ける魔法使いに、彼女の部下の悪魔等などがいて…
ちょっと危ないけど、楽しい所だと。
そして、自分の友達には、妖精の大ちゃんや、闇の悪魔(妖怪が伝わらなかった)や、氷の妖精や、鳥の悪魔や、虫の悪魔がいることを伝えて…
そんな友達と弾幕ごっこという遊び(弾幕を打ち合う遊びだが訓練でもあり、当たり所が悪くない限り死なないから安心と補足済み)をよく行っていることを伝えて、
交友関係がそれなりにある普通の人間であるとPRしました。

なのに…なぜか、周りを見渡したら誰も居なくなっていたorz
そしてすごく遠くから、なんか怯えた目でこちらを見ています。
せっかく、仲良くなれそうな話題を話したのに…
どうやら羽が生えているという俺の見た目って、この世界的にはそんな話題を帳消しにするほど駄目みたいですね…

ということで、悲しかったので、その後メイド服に着替えて、半ば強引に配膳を手伝って仲良くなろうとしました。
そしたら、金髪の小僧の足元に香水が落ちているのを発見しました。
因みに、香水を踏み割ったり、リア充死ねと金髪の小僧を殴るという、よくありそうな展開にはなりませんでした。
なぜなら、すぐにこれは決闘イベントと言われている奴、金髪の小僧…確かギーシュの二股を暴いてしまって決闘になるイベントだと気がついたので…
香水の持ち主であるモモランシ?(特徴的な髪型は記憶にあった)だっけかの所に行って…
「ギーシュがあなたが渡した香水を落としました、後で彼に渡して置いてください。」と言ってあげました。
モモランシの周りの女の子が「ギ-シュと付き合っているの!?」とか騒ぎ出したけど、これでミッションコンプリートです。
これなら、ギーシュの二股がばれることはなく、決闘イベントが起きることもないでしょう。
原作どおりにするという当初の大前提を考えると、このイベントを回避するのは不味いと思いましたが…
なんというか、戦う勇気が無いというか、戦う覚悟ができなかったので、こんな結果となりました。




と思ったら、噂によるとギーシュの二股がばれたらしい。
なぜバレたのか知らないが、悪は滅びる運命にあるということなのだろうか。


クシュン!


今日も廊下は寒いとです…
因みに、ルイズに廊下は嫌だと言ったら、廊下が嫌なら使い魔用の動物小屋に行けと言われたとです。
おまっ、そんなところに行って、獣臭とか移ったらどうするんだと、繁殖行動に巻き込まれたらどうるのかと。
確か、サイトが使い魔にべたべたされているシーンがあったような気がするから、冗談なしに危なそうなんですけど…

side ルイズ
放置するのも可哀想だから、せっかく私が仕事を与えてやったのに、いきなり私の下着を凝視するなんて変態行為を始めるなんて!!
変態に期待したのが間違っていたわ!!!!
それに…それに…
「貴様は確かに優れた資質を持っているらしいが、無礼を許すわけには行かない。」
ですって!?使い魔の癖に、上から目線!?
優れた資質!?皮肉?皮肉なのね!!!

side シエスタ
とんでもない人が毎日調理場に来る事になって、皆怯えています。
その人は、ゲンソウキョウという悪魔達が遊びでお互いを殺しあっているような場所からやってきた、ジオン総帥のハニュー様。
皆が言うにはゲンソウキョウとは魔界のことで、総帥とは王様のことだそうです。
つまり、ハニュー様は、残虐非道な魔王だったのです。
見た目は物語に出てくる妖精みたいで本人も妖精と言っていました。それに、女の私でも可愛いと思う容姿なので…とても信じられないと思いましたが…
ハニュー様のお知り合いやお友達は、吸血鬼や悪魔やヘプタゴンクラスの魔法使いといったとんでもない人たちばっかりですし…
神聖な妖精の知り合いやお友達がそんな人達だなんて変な話ですし…
悪魔は人を騙すために姿を変えることができるといいますから…
見た目に騙されちゃいけないと思いました。

恐ろしい魔王が毎日食事に来るなんて、私達はどうなってしまうのでしょうか。
ある日突然、私達がパクリと食べられてしまうなんてことは…

side キュルケ
もうー!!ルイズはなにやってるのよ!!
どう考えても、貴族以上の亜人に対して、床に置いたスープ一杯とか、見てられないわ。

私どうしよう、ルイズが心配で様子を見ていたけど…
あまりにも酷くて、心臓に悪すぎるわ…
少し、あえて目を離しておいた方がいいわね。

side マリコルヌ
な、なんだあの女は!!僕を蹴るなんて!!絶対に仕返ししてやる!!

side モンモランシー
どうして私の香水だと分かったの?あれは、ルイズの使い魔よね…何者なの?
大体どうしてこんなことを…

side ケティ
ギーシュ氏ね!

side ギーシュ
どうして、いきなりモンモランシーの友人が、僕とモンモランシーが付き合っていることを騒ぎ出したんだ…
まさかモンモランシーは、僕との仲を秘密にできないほど僕のことを…
僕はなんて罪作りな男なんだ…


・ハニュートラップ
やばい…

何がやばいって、主に俺の衛生状態がやばい。
気がついたら、下着の着替えも、風呂にも入らないまま、三日目なのですが…
これまで着ていたハマーン様の服や、メイド服といったコスプレ衣装はいくつかあるのですが、下着が今着ている奴しかない。
生物兵器だからなのか、不思議と臭ってこないが、精神的にきついし…
もしかしたら既に凄く臭っていて、嗅覚がおかしくなっているのかもしれない…

ということで、学院長の部屋に行きました。
なぜ学院長かと言うと…
ルイズが俺の面倒を見てくれない状態になっている以上、俺のメイドというスキルを使って、学院のメイドとして働くしか衣食住が手に入らないからです。
でも、昨日の反応から見て普通に就職しようとしても、見た目で追い出される可能性大です。
というか、実は先程メイド採用の担当者の所に行ったら「な、何か不手際でも??」と、顔が引きつっていて就職したいなんて言えそうな雰囲気じゃなかったし…
なので、学院長と直談判することにしました。
正直、学院長の詳しい人柄を覚えていませんが、なんだかすごくいい人的な描かれ方をしていた気がするので…
見た目だけで拒否するのではなく、きっと話を聞いてくれるのでは?と考えました。

結果からいうと、学院長は凄くいい人ですが…大変な事態になっていました。
学院長に現在の俺の境遇とメイドとして技能を持っていること、そしてメイドとして働きたいと伝えたら…
「メイド…はて???おかしいの?おかしいの?」と、なにやらまともではない様子でした。
しかも、学院長が俺のお尻を突然触ったかと思うと…
「ってワシは、なにをしているんじゃ!?これは死亡フラグじゃろ!?流石にこれは洒落にならんぞ!!!!」
って一人で慌てながらネズミに話しかけているし…

この奇妙な行動って、どう見てもボケの初期症状です。
そのことに気がついた俺は「学院長の専属メイドとして雇ってください!!」とお願いしてしまいました。
だって、ボケ始めている学院長を助けてあげたいと思ったのは事実ですし、ボケ始めている学院長にとってはヘルパーにもなる専属メイドは必要だと打算的に考えたからです。
それに、俺としては怖がられながら仕事をするのは辛いのですよ、だから学院長専属なら多分一人か少人数で仕事をするわけだから…
そういった人間関係での心配は不要…
つまり、俺にとっても、学院長にとっても、良いお願い。俺と学院長はwinwinの関係になるのだ。
俺のお願いを聞いた学院長は、口を開けたまま一分ほど固まってしまいました。
急に動きが止まるとか、やっぱりボケている証拠だと思います。
因みに、だからといってあまり無理に急かしたりするのは介護をする上で良くないのですが…
メイドとして雇って欲しいというお願いの是非は、俺にとっても死活問題だったので…
「学院長…恥ずかしいけど、正直に言います。
 俺の下着…すごく汚れているんです……もう我慢できないんです…だから、俺のお願いを聞いてください。」
と今俺は下着の洗濯が出来ていないという、衛生状態が大ピンチな状態で、我慢できないから早く雇って欲しいと、切実な思いを告げました。
そうしたら、急に振り子のようにガクガクと頭を揺らして、俺の採用を了承してくれいました。

ということで、俺はそのままメイドの控え室に向かい、学院長の名前を使って下着を確保し…
そして、学院長の私室に戻って風呂に入りました。
なんか、風呂から出たら学院長がソワソワしながらこっちを見ていたので。
「いや~風呂には入れないし、下着は換えられないし、本当に気持ち悪くて我慢できなかったんですよー
 学院長が雇ってくれたおかげで、生き返りました!ありがとう!!」
って言っておきました。
学院長は「どうせそんなことだろうと思ったよ!!ちくしょーーーー!!」
っと泣きながら、床をダンダンと叩いていました。
突然の奇行に驚きましたが、ボケているのを思い出して、適当に対応して置きました。

その後は学院長の食事を作ったり、部屋の掃除をしたり、洗濯をしたりして過ごしました。
そして、新しく手に入れたメイド服に羽を通す穴を開けたり、そこにボタンを付けたりと裁縫をして…
そのまま学院長の家に住み込みで働くことになりました。

学院長には迷惑かと思いましたが、俺も寝床が無くて困っていたので、遠慮せずお願いしました。
具体的には「俺…帰るところが無いんです…それに学院長をずっとお世話したいんです!!!ずっとお傍に置いてください!!」という感じで。
すると学院長は「どういうことじゃ!?どういうことじゃ!?」等と言いながら、室内を数分間フラフラ徘徊するという行動に出てビックリしました。
度重なる学院長の危険な行動を心配した俺は、学院長のベッドの横にソファーを持ってきて、そこで寝ることにしました。
夜に起き出して、家の外を徘徊し始めたら大変だからね。

因みに、ずっとお傍に置いてくれだなんて、ちょっと非常識な発言かとも思いましたが…
就職活動でも、入ってもすぐに辞めてしまいそうだな?と思う会社や、あまり行きたくない…と思う会社でも、一生をかけて御社で活躍したいとか言うのが普通なので、それほど変な発言じゃないはず。
それにこれはVRだから、そう遠くないうちに現実世界に戻されるだろうしね。


side オスマン
魔界の魔王だという噂もある、ミス・ヴァリエールの使い魔がわしに会いに来る。
そんな連絡を受けて、久しぶりに気合を入れて椅子に座っておったら、魔王ではなくメイドが転がり込んできた。
予想外の事態に混乱し、思わずいつもの条件反射でお尻を触ってしまったのは…仕方の無いことじゃったが…
流石のわしも、これは不味いと思ったの。
お尻を触ってはっきりと分かった、こやつ体の中にある魔力はとんでもない量じゃった。
それはまさに、魔王と言って差しさわりの無い量じゃ。

だからわしの命もここまでかと、思っておったら…
怒らない上にわしの専属メイドにしてほしいと言って来たのじゃ。
しかも、雇ってくれたらその…エッチなことをさせてくれると言って来た…
これは夢かの?そうじゃろ?齢三百年。妻が他界して早、二百何年じゃったかの?
ここ百年以上ずっと女性に縁のなかったわしにこんなことが起きるなんて、絶対にこれは夢じゃ!!!




そう、夢じゃったよ。
風呂に入るハニューが出てくるのをまだかまだかと待っていたのに…
わしはもう現役じゃないが、精一杯がんばろうと思ったのに…
あっさりと、わしを騙した種明かしをされて、逃げられてしもうた…

やっぱりこやつ、魔王じゃ!!
絶対わしを利用する気じゃ!!
追い出してやるぞ!!


っと思ったんじゃが、仕事はまともにするし…


それにの…



一生わしの世話をすると言ってきおった。
それは聞きようによってはプロポーズじゃぞ!?


あまりのショックに、意識が跳んだわしが既に気がついたときには、わしのベッドの横のソファーでハニューが幸せそうな顔をして眠りについておった。
その顔を見たら…情けないことに、追い出す気力が無くなってしまっておった。
無防備な寝顔を見れば見るほど、ただの無垢な少女にしか見えなくなってしまうのじゃ。


・愛人契約は違法ではない。
学院長の専属メイドになって少し経ちました…
その間は、平穏でしたが、平穏なりにいろいろなことがありました。

例えば、なんだか最近ずっと学院長が寝不足のようです。
詳しい理由は分かりませんが「このままじゃいかん、いかんのじゃ…じゃが…」っと寝ている俺を見ながら独り言をぶつぶつ言っているのと関係があるのかも知れません。
まあ、徘徊しているわけじゃないので、俺はそのまま寝たふりしているわけですけど。
とにかく、寝不足のせいで色々と仕事でミスをしてしまっているらしく、秘書のミス・ロングビルによく怒られているようです。
あ、そうそう。
学院長の秘書。ミス・ロングビルと出会いました。
初めて会った時は、学院長の家の玄関でした。
玄関で、学院長の服が少しよれていたので、それを直して…
鞄とお弁当を渡していたら、何だか視線を感じるので玄関を見たら…
ドアを開けた状態で固まっているミス・ロングビルがいました。

このときのミス・ロングビルは話しかけても、まるでロボットのような反応でまともに話ができなかったのですが…
次の日に学院の廊下で出会ったときは、まともに話すことができました。
ちなみに「人の趣味に口を出す主義じゃないけど、その器量ならもっといい相手がいるでしょ?もう少し考えたほうがいいわよ?」
と訳のわからないことを言われた。
すごく優秀そうな人なんだけどな…
まさか、最初に出会った時の反応といい、訳のわからない言葉といい、もしかして少し天然が入っているのだろうか。

それ以外にも、金髪のぽっちゃりした奴がマルコリヌとか言う名前の奴と判明しました。
なんか、微妙に名前に違和感があるが、これでいいはず…
あまり聞いたこと無いから、原作キャラじゃないのかも知れない。
「この前はよくもやったな!!」とか言って魔法で俺のスカートをめくりやがりましたので、思いっきり蹴り飛ばしてやりました。
学院長のようにボケてお尻をさわるならとにかく、明らかに故意なので…
「どうして僕の全力の風魔法が通用しないんだ!?」ってわけの分からないことを言って棒立ちになっているマルコリヌを…
サッカーでもするが如く蹴り飛ばし、ドリブルのようにバシバシと蹴り転がしてやりました。
ですが、意外と根性があるらしく最初は「あひいい!?」とか言っていたくせに途中から「もっと!!」とか言い出しました。
どう考えても『俺はこの程度ではやられん!俺を倒す気ならもっと本気の攻撃をして見せろ!!』と挑発しているので…
「これで決まったな。学院の門にはこのデブをぶつける!」と言って、これでもかというぐらいに学院の門に向けて蹴り飛ばし…
学院の門にぶつかって止まって大の字になっている、マルコリヌの横にしゃがんで、心が折れるように思いっきり冷たい視線で見つめてあげました。
でも、目が死んでいないというか、恍惚とした表情で俺の顔と、下の方に視線を行ったり来たりさせるという意味の分からない行動をする姿を見て、何となく嫌な予感がしましたが…
その次の日から何度も同じ様なことが起りましたよ…こりない奴です。
まさか…マルコリヌ⇒マダコリヌ…という単純な設定なのか??モブキャラとはいえ、手を抜きすぎだろ!

あとそれ以外には…
学院長が、自分が三百歳以上だと思い込んでいることが判明しました。
自分の年齢が分からないということは、かなりボケが進行している状態だと思います。
なので、御風呂の補助(介護)や食事の補助(介護)をスタートしました。
人間は、15センチも水が溜まっていたら溺れるといいますし、喉にものを詰まらせて死ぬ人もいっぱいいますからね。

他には…
ちょっと変な噂を聞きました。
なんでも、学院長があの年で愛人を作ったそうです。
しかも、毎晩その愛人の若い体に骨抜きにされているとか…
その噂について詳しく聞きたかったのですが、メイド達は俺の事をまだ怖がっているようで…
ヒソヒソとその噂話をしているメイド達に声をかけたら『ごめんなさい、ごめんなさい!!別に悪いとか言っているわけじゃないんです!!』
とか言って謝るばっかりで、会話が成り立たないし。
まあ、どう考えても、根も葉もない噂だから放っておいてもいいんだけどね。
なんと言っても、いつも介護している俺が愛人など居ないと一番知っているからな。

side オスマン
気がついたら、押しかけ妻ならぬ押しかけメイドのハニューと新婚生活のような日々が始まっておった。
分かっているんじゃ、分かっているんじゃ、これには全て裏があるんじゃと。
これはきっとハニートラップじゃと…、これの代償にワシの人生を揺るがすようなとんでもない要求が待ち受けているんじゃとも…
だけど、抜け出せんのじゃ。
百年以上ぶりの青春から抜け出せんのじゃ…

side ミス・ロングビル
まさかあのエロ爺の愛人…いや…後妻に納まろうとする奴が現れるなんてねえ。
エロ爺の方もまんざらじゃないみたいだし、私としてもセクハラが減るから文句はないんだけどねえ。


私の仕事の邪魔をしない限り、このまま放置しておくのが得策かしらね。

side マリコルヌ
父親にもぶたれたことがなかったのに、僕をボールみたいに蹴り飛ばすなんて。
蹴り飛ばした僕に、スカートの中を見せながら、あんな冷たい目で見つめるなんて。
ゆ、許さない!だけど…この湧き上がる感情はなんだあああああ!!
どうして、あの冷たい目で見つめられた光景が頭から離れないんだああ!?
どうして、また蹴り飛ばされたくなるんだああああ!?

side シエスタ
最近もの凄い噂が、メイドの間では流れています。
その噂は、ハニュー様が学院長様の愛人となり、しかも後妻に納まろうとしているという噂です。
こういうった話題が大好きなメイド達が集めた情報によると、まるで新婚のように仲睦まじい姿や、学院長様は寝不足になっている姿が目撃されているそうです。
メイド達は…
「やっぱり学院長の遺産狙い?」「毎日学院長が寝不足になるなんて、毎晩してるってことだよね?」「あの年でね…お盛んねー。」「まさか、腹上死させる気なんじゃ…」「「「あー…」」」
と楽しそうに噂をしていますが、私は一つだけ気になっていることがあります。
貴族様達の噂によると、ハニュー様は女性が好きだとか…

・ギーシュルート&モンモランシールートのフラグをブレイクしました
いきなりですが、今日はルイズに拉致されました。
俺を拉致したルイズは今にも爆発しそうな雰囲気で…
「あんた…ご主人様をほったらかしにして今まで『ナニ』をしていたのかしら?」
「学院長のところでメイドをしていたけど。住み込みで。」
「そう…噂は本当だったのね…そんなにちっさいお乳で、どうやってオールド・オスマンを誘惑したのか気になるけど…
 あんたみたいな変態にはしっかりと罰を与えないとね!!!!!!!!!!」
「る、ルイズ!?」
ドーン!!
という感じで、本当に災難だった。

学院長を俺が誘惑したとか、ルイズの想像力は逞し過ぎだと思う。常識的に考えて。

それはとにかく、今後は学院長が仕事の間はルイズについて回るようになった。
確かに、ルイズをほったらかしにしたのはまずかったと思う。
だけど、ルイズに爆破されたのは理不尽で、イライラしたので目に入ったマルコリヌを蹴っ飛ばしておいた。

そして、すっきりして帰ろうと思ったら、金髪の小僧に呼び止められた。
しかも、広場に呼び出された。
「事の真相がようやく分かったよ、君が全ての原因らしいじゃないか。謝りたまえ!!」
どうやら、俺が原因でモモランシと、後輩の女の子にフラれたと怒っているらしい。
とんでもない濡れ衣だと思う。
いや、それより強引に原作の流れに戻されたということか。
そう考えると、少々原作を無視した程度ではストーリーに影響が無いのかな?
ということは、このまま流れに任せば、決闘が発生してしまう。
しかし、俺の知る限りで金髪の小僧は確か主人公の友人となるキャラのはず…
となると、悪人だとは思えないので、このまま決闘とはならずに話し合いで誤解が解けると思います。
それに、やっぱりまだ戦う決意が固まらないというか…戦いたくないので…
「話は分かった。だが、君の言い分は、君の家とヴァリエール家を激突させるに足る言い分なのかい?」
「な、何を言っている!?」
「君と俺が争えば、それは最終的に君の家とヴァリエール家との問題になる。
 詳しくは知らないがヴァリエール家は国内で最も有力な貴族なんだろ?
 そんな家が、君との激突を聞いたらどう思う、最悪の場合今回の事態を利用し、君の家を切り崩し、自らの力を上げるために動くだろう。
 そして、その過程で今回の件について、徹底的に事態の真相が暴かれることになるだろう。
 君が二股をしていたという事実も含めてね。
 それで君はいいのかい?
 まさか、ヴァリエール家がその情報を使わないなんて甘い考えは持っていないだろうね?
 ここは学院とはいえ、貴族の子女が集まる場所だ、つまり宮廷闘争の延長線上にあるかも知れないという事実を忘れないほうがいい。」
「な、な、な…」
なんだか、その後金髪の小僧の体調が突然悪化して。
そのままお開きになった。
ちゃんと説得できたか心配でしたけど、金髪の小僧は悪いキャラじゃないし、三枚目だけど頭も悪かった印象は無いので…
きっと俺が金髪の小僧を心配して言った意味が分かると思う。
まあ、最初はどうなるかと思ったけど、無事戦わずに済んでよかった。

因みに、モモランシが陰から見ていたらしく、俺と入れ替わりに金髪の小僧の所に走っていった。
理不尽な暴力に走らない金髪の小僧の姿を見たことによって、少しでも二人の関係が修復されることを期待して、その日は眠りにつきました。



あ、もう一人の子へのフォロー忘れた。


side ルイズ
オールド・オスマンを誘惑するなんて、あの変態はいったい何を考えているのよ!!
私の使い魔が、あのキュルケのように年中発情しているとか噂になったら、どうしてくれるのよ!!!

side ギーシュ
ヴァリエール家の権力を使って恫喝された…
これが父上達が生きている世界というものなのか…
僕は、なんて未熟だったんだ…


うう…情けない!!
恫喝されて吐き気を催すなんて!!!
これでも、グラモン家の男か!!!

side モンモランシー
あの使い魔…ギーシュをこんなに追い詰めて、いったい何が目的なの…
原因はギーシュだけど、それに火をつけて、燃え上がったギーシュを恫喝して…

まさか追い詰めることそのものが目的とか…
こんなことをするなんて、やっぱり魔王だという噂が本当なのかしら。
あの使い魔のおかげで、ほんの少しだけ胸がすっとしたのは事実だけど…それを通り越してギーシュが哀れだわ…

あの使い魔には、出来る限り、関わらない方が身のためね。



「モンモランシー…ありがとう、やっぱり僕には君しかいないよ…」
ば、いきなり何言ってるのよこいつは!!
本当にそう思っているのなら、浮気したことをもっとちゃんと謝りなさい。そうすれば…少しは考えてあげもいいわよ…


・キャラが違う?そんなことどうでもいいんだよ!!
いきなりだけど、困りました。
ルイズに連れられて授業に参加したのですが、赤土の先生に勧められて自己紹介をしました。
自己紹介の内容は「俺はジオン総帥ハニュー!!」から始まる先日メイド達に言ったような内容だったのだが…
なぜか自己紹介が終わっても、周りが沈黙したままだった。
そして、いろんな視線に囲まれて困った。
驚いている視線や、畏怖を感じるような視線、興味を示しているような視線に、怒っている視線(主にルイズ)とか色々でした。
「なんだそれはWW」という感じで、ツッコミが入って、それに答えるという感じで色々と盛り上がると思って、ちょっと大げさに話したのだが…おかしいな??
結局、そのあと赤土の先生が「ジオン総帥…大変なお仕事ね…おほほ…さあ授業を始めましょう。」と愛想笑いしながら、授業を始めてくれた。
なんか、痛い子と思われたみたいで凄く悲しかった。

そして、その次の虚無の曜日に、突然昼食に誘われた。
俺を誘ったのは、男女10人ぐらいのグループで…
リーダー(発起人)はレイナールと言う眼鏡をかけた男の子だった。
なんでも、彼のグループは学生同士の勉強会で毎回ゲストを呼んでいるとのこと。
そして今回「我々の文化とは違うところから召喚された人物がいると聞いてね、色々と話を聞きたいと思ったのさ。」
ということで、俺が選ばれたらしい。
俺としては、しっかりとしたフルコースを食べられる、しかも特別注文の料理と聞いて、喜んで出席しました。
といっても、ここの学院の食事って、確かに美味しいが日本の高級レストランとかより遥かにレベルが低い…なんというか、食材や調味料に最適のものが使われていないというか…
色々と足りない味があるというか…
まあ、たった数百円のお菓子のために世界中から原材料を集めている地球と比べるのが無理あるって言えるんだけど。
それはとにかく、話の内容としては…色々なことを話しました。
最初は向こうから質問される形で…
やむなき事情によって吸血鬼の館でメイドをすることになったが、皆の幸福(福利厚生的な意味で)のためのジオンの総帥として働いていること。
俺のいたところはゲンソウキョウという場所で来るべき戦いに備えて、日々殺し合いが行われている場所ということ。
といった、これまで既に話していた内容から始まり…
次に、レイナールの求めで俺の出身地の政治経済等についての話へと進んでいった。
といっても、ゲンソウキョウの政治経済と言われても分からないので、日本や世界のことをそれとなく話していただけど…
例えば、経済の話ではハルゲニアの金本位制とは違い、管理通貨制度が中心になっていること、という内容から始まり、変動為替相場制に話が波及していったり…
政治の話では、レイナールから現状の政治体制について教えられ、それについて意見を求められるという形になった…
といっても、外国人である俺がトリステインの政権批判を行うのは、色々とまずいと思うので…
「君達のような若者達が王国を憂いでいる限りは、滅ばしないさ。」
「例えレコンキスタから攻撃されたとしても、君達のような若者達が立ち上がれば、トリステインが滅ぶことはないだろう。」
等と、適当にレイナール達を持ち上げるような発言してお茶を濁しておいた。

因みにその日は最後に「ミスハニューとのディスカッションは大変有意義だった。なので僕は、ミスハニューをこの会の名誉会員として迎えることを提案したい。どうだろうか?」
とレイナールが提案して。
他のメンバーのギムリやケティ(会では俺の次に新人)達に承認してもらった。

友達が出来たような気がして嬉しかった。

side レイナール&ギムリ&その他
レイナール「彼女が自身を総帥等と言ったときは眉唾物だと思ったけど…少なくとも彼女が相当高い地位にいたのは間違いないようだね。」
ギムリ「確かに、彼女の知識量の豊富さ、高度さから考えて、相当な教育を受けたものだからな。それには金が要る。」
レイナール「それだけじゃない、彼女の昼食に対する反応を見たか?」
ギムリ「ああ、知らない作法だが、しっかりと体系付けられていた。」
レイナール「そして、身銭を切って用意した、最高級の特別な食事に対して、一切動揺しなかった。
      つまり、彼女はこの程度のものでは驚かないぐらいの地位にあるということさ。」
ギムリ「しかし、彼女はオールドオスマンのメイドで愛人なんだろ?そんな地位の人物が、愛人だなんて…」
レイナール「確かに…だが理にかなっている。
      彼女は、このトリステインではミス・ヴァリエールの使い魔という地位だ。
      だが、皆も知ってのとおり、ミス・ヴァリエールと彼女は不仲だ。
      そんな彼女が地位を手に入れるために、高位の貴族。
      それも、妻を失っている男性を狙うのは何もおかしいことじゃない。
      トリステインの歴史を紐解いても、そうやって地位を得た女性は何人もいる。
      それに、彼女が止む無き事情でメイドをしていたこと、その後総帥という立場になったという事実を考えるに…
      既にそういう経験を過去に積んでいるのかもしれない。」
ギムリ「…彼女はのし上がって来るかな?」
レイナール「通常なら無理だ。
      だが、彼女自身はのし上がれると判断しているのだと思う。
      そして、僕も彼女の判断は間違っていないと思う。」
ケティ「彼女は亜人ですよ!?」
レイナール「ああ、でもそれは些細な問題になるかもしれないぞ…
     (彼女は6000年続くトリステインが滅ぶ可能性を示唆した。
      一見一笑付す内容だが、アルビオンでのレコンキスタの情勢などを考えると…
      6000年続いたから、来年も続くという発想はただの思考停止だ。   
      ある日突然、実力主義の乱世が来てもおかしくあるまい…)」
一同「………………」


・エロは世界を救う
どうしてこうなった、という気持ちです。

今日はいつもの如くレイナール達とディスカッションと食事を楽しみました。
今日のディスカッションは、俺の服装の素材についての話が弾みました。
といっても、俺の服(ハマーン様のコスプレ)の素材は合成繊維で、俺の冠(ハマーン様の冠)の素材はジュラルミンという大した事無い素材なので…
レイナール達に思う存分触らせました。
ところが、レイナール達にとっては知らない素材だったらしく色々説明を求められたのですが…
正直、専門的なことはあまり分からないので…
「どれもこれも数千リーグ(キロ)離れた海外で原材料が取られ、専門の技術者が素材として加工したものだから…詳しくは分からん。」
と言っておいた。
それでレイナール達からの質問が終わったには終わったのですが…
なんか、レイナールが「数千リーグ離れたところから献上!?………ギムリ!もっと丁寧に扱え!!ケティ!素手で触るのを止めるんだ!!」と騒ぎ始めて、それはそれで大変だった。

とまあそこまでは、騒がしいけど、平穏な一日だったのですが…
なんとその直後にシエスタがモット伯に買われたことが分かりました。
これって、エッチな本と引き換えにシエスタを助けるイベントだよね!と偶然にも思い出したのですが…
今日までイベントの事を完全に忘れていたので、エッチな本を用意できない現状では、既に詰んでいます。
ですので、諦めようかと思ったのですが…

せめてシエスタを返してくれと、言うぐらいは言おうと思いました。
正直、そんなこと言っても何も結果が変わらないのは分かっているのですが『シエスタのために努力した』という事実を残さないと罪悪感で自分の心が潰れそうだったのです。

ということで、モット伯の屋敷に向かうことにしました。
ちなみに、学院長には勝手に仕事をサボることになるので「モット伯の所に行かざるを得ないことになりました。ごめんなさい。」
と行き先と、仕事をサボることへの謝罪を書いた書置きを残しました。


で、モット伯の屋敷の前に降り立ったら、問答無用で攻撃されて焦ったので、適当に逃げ回っていたらモット伯が出てきました。
そこで、モット伯にシエスタを返してくれとお願いしました。
そしたら、モット伯が俺がメイドになるならシエスタを返すとか言い出したのですよ。
VRだとしても、男に、しかもこんなオッサンに抱かれたくない俺は…
俺の体は貧相なうえにで、下手糞(女の体に慣れていない)なので×××のテクニックが全然駄目だとべらべらと喋ったのですよ…
具体的にはエロ漫画やエロゲや同人誌やAVで行われているようなテクニックや各種ジャンルのプレイが全然できないことを説明しました。
因みに、プレイ方法のイメージが分からないようなので、即興で紙に図解まで書いてしっかり説明しました。
いやね、恥ずかしいことをしたという自覚はあったのですが、必死だったのですよ。

その結果…


「同士よ!今宵は女性の愛で方についてとことん語り合おうではないか!」
何故か気がついたらモット伯の同士になっていた。
「して、二人で出版する予定の書の名前だが…」
しかも、俺の話した女性の愛で方が画期的だとか言って、二人の共著で出版しようとかいう話になっていた。というかモッド伯が勝手に言い出した。
いや、こんなちょっとエッチな男なら知っているような方法を出版しても赤字(ry
「は、はあ…それよりシエスタは返してもらえますか?」
「む!?そうか…そうだったのか、同士よ知らぬとは言えすまなかった。
 同士が愛でていた女性を奪ってしまっていたとは…」
「え????」
「シエスタを呼べ、主人が引き取りに来たと伝えろ!」
しかも、訳がわからない間にシエスタを返してもらった。
いや、どうしてこういう展開になったのか分からないが、このまま話を合わせるとシエスタが戻ってくるのが分かったので、話はしっかり合わせましたが…


という感じで、まさに計画通り(嘘です)で大成功だったのですが…
「ご主人様、よろしくお願いします…」
なんかシエスタの顔が凄く青いのですが…
しかもご主人様とか言ってるし!?

side モット伯
女性の愛で方、その全てを知り尽くした結果…
美しい女性を手篭めにしても、そこに感動は無く…その怒りを女性にぶつけるという空しい日々がこれからも続くかと思っていたが、世界は広かった…
神秘的な少女の口から語られる、想像すらできなかった秘術の数々…
始祖ブリミルよ、この出会いを感謝します!

side シエスタ
物語に出てくるような勇者が突然現れ、私を助け出してくれる…
現実はそんなに甘くはない、私はこのままモット伯様の慰み者として一生を終えると諦めていた時…館中が大騒ぎとなりました。
そして騒ぎが収まり、モット伯のメイドが私の元に走ってきました。
私は、物語のように勇者が現れたのだと思いました…ところが…
「あなたの主人が、あなたを引き取りに来たわよ。」
私の主人?と疑問に思う私の前に現れたのが…ハニュー様でした。
モット伯様とハニュー様は大変仲がよく、モット伯はハニュー様と女性の愛で方という、とても言葉にするのも憚れるような内容を、絵を描きながら語り合っていました。
そしてモット伯様は「同士よ、今晩はあの娘で楽しむのだろう?名残惜しいが今日はこれでお別れだ。」と言っていました。
ハニュー様は、女性も好きだという噂があったのですが、やっぱり本当だったようです。
そして私は、モット伯様より先にハニュー様に目をつけられ、いつの間にか買われていたようです。
モット伯様が同士と呼ぶほどの変態であるハニュー様に買われて、私はどうなってしまうのでしょうか…


・モット伯は更生すれば出来る子
結局、翌日シエスタがマルトーさん達の所に顔を出したと思ったら、シエスタが俺のメイドになった。
メイドのメイドってなんぞ?

冷静に考えると、メイドの俺が勝手にメイドを雇うのは不味いと思ったので、学院長に許可を貰おうと思った。
だけど、学院長は昨日の夜からどこかに行ったらしくまだ帰ってきてないとのこと。
どうしたのかと思ったら…
モット伯の所に行っていたらしい。
しかも、「よくもわしのメイドを連れ去ってくれたな!!モット伯!!わしはおぬしに決闘を申し込む!!!!」といった感じで大騒ぎをしてきたらしい。
モット伯の使者によると、俺がモット伯の同士だと知り和解したらしい。
しかも、一日に及ぶ議論の結果、二人は師匠と弟子と呼び合う仲になったらしい。
和解して終わったのは良かったが、俺が連れ去られたと勘違いするとか、ボケているということは大変なことだと思った。

因みに、シエスタの件については「大と小が揃った!!」と、ボケているので意味がわからないことを叫んでいましたが、了承してくれました。

side オスマン
また騙された、年寄りをいじめて何になるんじゃ!!
と思ったんじゃが、モット伯という道を誤りかけた若人(オスマン視点)を正しい道に戻すことができたのは、本当によかったわい。
わしも昔は、地位と力を使って女性を手篭めにすることにを、それほど悪いことだとは思わんかった。
じゃがの『自制の先に進歩がある』そう気がつき、強引に女性を手篭めにするようなやり方では、更なるエロの道には進めないとわしは気がつくことができたのじゃ。
必要なのは愛じゃ…お尻を触っても、権力や地位に怯えて怒らないのではなく、愛によって怒らないということが重要なのじゃ!!!
これで袋小路に迷い込んでいたあの若人も、高みへ上ることができるじゃろう。

しかし、ハニューは何のためにこんなことをしたのかの…
まさか、モット伯はその力量を高く評価されておるが、女性を強引に手篭めにすることで、マイナスイメージが付きまとっていたが…
それが更生された以上、モット伯の宮廷での地位が更に高まるのは必然。
となると、モット伯と同士になったハニューの利益にもなる。

これはうまくハニューに乗せられたかの…

side モット伯
同士からは、数々の秘術を…
そして師からは、正しい心構えを…
たった二日で、同士と師と呼ぶべき人に出会えるとは!!
ああ、始祖ブリ(ry

・メイドは見た
とんでもないものを見てしまった、宝物庫の前でコルベール先生とミス・ロングビルがちょっといい感じになっていた。
しかも、どちらかと言うとミス・ロングビルが、コルベール先生に言い寄っているような感じだった。
なんか、宝物庫を開けるためにはどうすればいいのか的な、強引な話題を作ってコルベール先生と話すぐらいに…
ですが、ロリコンのコルベール先生に粉をかけても無駄になるだけなので、大きなお世話かと思いましたが、ミス・ロングビルに止めておいた方がいいと伝えることにしました。
「ミス・ロングビル…」
「あら、どうしたのですか?」
「先日、宝物庫の前で、コルベール先生と語り合っていましたよね?」

「……ええ、それがどうかしましたか?」
「大きなお世話かと思いますが警告します。アレに手を出しても、無駄に終わるだけですよ。」

「!!」
「アレはあなたが思っているような奴じゃないですよ。
 では、これで…」
といった感じで伝えました。
ミス・ロングビルから表情がなくなったので、ちょっとお節介過ぎたと反省しました。

side ミス・ロングビル
あの娘、私の正体と、私が狙っているものを知っていた。
なのに、私を捕まえずに、私に忠告するだけだって?
あの娘、何が目的なの…
不気味だけど、テファ達の為にも、引くわけには…


・初体験
大変なことになった。
具体的には、俺のストレスがマッハです。

現在、宝物庫のある塔の外につるされています。
そして、ルイズから爆発魔法をぶつけられまくっています。
「今度はエッチなことをするために、メイドを雇ったですって!?

 しかも巨乳!!!!

 巨乳ですって!!!!!!!!

 あんた、私と同じちっさいお乳の癖に!巨乳好きとは万死に値するわ!!!!!!!!!!!!!」

痛い痛い!!
マジで勘弁してください!!
くそっ、さっきから体を揺らして攻撃を避けようとしているのに…
全然攻撃をかわせない!!おまけに、一緒に塔の壁まで削れるほどの凄い威力!!
「無駄よ!!
 あんた言ったわよね、私は優れた資質に恵まれているって!!
 だから練習したのよ!!
 目を離せば変態行為ばっかりする誰かをサーチ&デストロイするためにね!!」
ちょっ、そんなパワーアップ原作には《ズズーン!!》

!?

この音、これまでとは違うぞ??

げ、なんだあの巨大な物体は!?
巨大な土の人形?が塔を殴っています。
なんか、こんなイベントがあったような気がしたけど、これは逃げるべきですよね。

なのに、何だか知らないけど、ゴーレムが俺を攻撃しようとしていますよ!?
まるで、俺が敵だと思っているが如く。
いや、こういうイベントがあるのは何となく覚えているけど、こいつの正体とか全然知らないし!!
俺、何かした!?

ってやばい殴り飛ばされる!?
こっちは、縄でグルグル巻きなんだし!?

ドーン!!

お!!
この滅茶苦茶な爆発はルイズ!!
いいぞ、ルイズもっとやれ!!

ってちょっとルイズ、そんな滅茶苦茶な攻撃したら…

ドーン!!ブチッ!!!

な、俺をぶら下げている縄が切れた!?
でも、俺を簀巻きにしている縄までは切れてないですよ!!
このままじゃ、羽が出せないから…地面に激突死する!?

初めは俺に期待を抱かせ、最後の最後に俺を裏切る。
ルイズ、お前もだ!
ルイズの馬鹿ー!!!





俺死んだ!!
っと思ったら、死んでなかった…
地面に頭から突っ込んだのに全然無傷なのですが…

どういうことなんだこれ…






そうか、俺がガンダールヴだからだ、俺の体は生物兵器。
つまりありとあらゆる武器を使いこなせるガンダールヴだから、俺の体の本来のスペックを引き出しているのでしょう。
俺本来の高スペックを引き出せれば、ビルの上から落ちて、地面に頭から突っ込んだ程度では傷一つ…


じゃなくて、これはVRだからだ。
多分、強さ設定というものがあって、俺の強さの設定が現実とは違うんだ。
それに、いくら生物兵器といえども、あんなビルの上から落ちたような状態で傷一つないとかありえないし、自分が生物兵器の中でもどれだけ欠陥品かは嫌というほど知っています。
俺が本物の妖精で、色々と伝説級の秘密があるのならどれだけ良かったことか…
ということで、恐らくこのVRはイージーモード的な感じになっているのだと思う。
訓練では強い奴と戦うのがいいと思われることが多いですけど、弱い敵相手に経験を詰んで、場に慣れるということも大切な訓練です。

しかし、イージーモードということは…   ニヤリ。

「このハニュー、見くびっては困る!」
やっぱり、俺を簀巻きにしていた縄を簡単に引きちぎることが出来ましたよ!?

ということは、アレもできそうだ。
「星符ファンネル!!」
という感じで、ファンネルをイメージして弾幕を飛ばしました…
そしたら…
いくつもの弾幕が、敵を取り囲んで、バカスカとビームを撃っています。
なんというか、ファンネルというより、ソルディオス砲?
敵と、巻き込まれた『学院の宝物庫』が滅茶苦茶に吹き飛びました。
強いぞ凄いぞかっこいいー!




結論から言います。
ちょっと浮かれすぎました。
色々と酷い有様です。
学院の被害的な意味で。
俺のファンネル、見た目がソルディオス砲に似ていると思った瞬間に『ソルディオス砲、自律しているぞ!!』ってな感じで…
敵味方関係なく撃ちまくってくれました。
最初はその威力に「おおお!チートキャラみたいだ!わーい!!」と喜んでいたのですが「あんなものを浮かべて喜ぶな、変態!!」
ってルイズに突っ込み(爆破)を入れられるまで、ことの不味さに気がつかず…
気がついたら、目の前が瓦礫の山でした。

学院長が必死に庇ってくれたので、なんとかなりましたが、いろいろとやばかったです。
因みに、ミス・ロングビルが瓦礫に潰されて気絶していました。おまけにルイズ(爆破に思わず反撃してしまった)と何故いたのか分からないがマルコリヌまで。
ミス・ロングビルのお見舞いに行ったら、物凄く脅えられました。
対応に困ったので…
「怪我をさせてごめんさい。俺が言えた義理じゃないけど、早く怪我を治して、学院長の秘書として復活してくださいね?仕事がたまって皆困っているんですよ?」
と当たり障りのない台詞を言っておいた。
そして、ルイズには…何か言う前にまた爆破されました。
俺が攻撃してしまったのに、いつも通りブチ切れられるルイズに救われました。ルイズは、絶対に大物だと思う。
それとマルコリヌは恍惚とした表情でベッドに寝ていてキモかったので、とりあえず無視することにしました。

side ルイズ
変態の皮肉のおかげで、強くなった私を見せ付けて、私の凄さを分からせようと思ったのにー。
そうすれば、私を無視して勝手に行動するなんてしない、使い魔らしい使い魔になると思ったのに…
なんなのあの威力は!!!
私の使い魔の癖に、私より強いなんて生意気よ!!





くぅ…なんで…私より…強いのよ…

side ミス・ロングビル
口封じのために殺そうとしたのに、逆に殺されかけるなんて…
運よく生き残ったけど、この傷じゃまともに戦うなんて………私、殺されるわね。
死ぬのは、案外怖いものね…テファ…。

----------

どういうこと?
私を殺さない上に、学院長の秘書として復活しろ???
まったく、意味が分からないわ。
いったい何を企んでいるの!?

side マリコルヌの夢の中
そんなに蹴られたら僕は、僕は、もう!!!
えへへへへへへ…


・百合の花が咲いている…
なんか、ルイズとマルコリヌとミス・ロングビルにシュバリエが授与された。
学院長によると、学院を半壊させるほどの力を持ったフーケを始めとしたテロリスト達を撃退し、宝物庫の中身を守りきった功績を称えてということだそうです。
つまり、簡単に言うと、学院半壊という学院にとっての失態を隠すための口封じだということです。
そして、この計らいにはモット伯も色々と裏で動いてくれたらしい。
大人の世界って恐ろしい。

因みにその日は舞踏会があったのですが、俺は壁の花になっていました。
レイナールやギムリが声をかけてくれましたが、断りました。
友人である彼等は壁の花になっている俺を哀れんで声をかけてくれたに決まっているので…その気持ちは嬉しいですが、素直に喜べなかったので。
二人とも酷く残念そうな顔をしていましたが、

因みに、どうして俺はこんな扱いなのかとキュルケに愚痴ったら…
キュルケ曰く「決まった相手が…しかもあんな大物が相手のあなたに手を出す根性のある奴なんて、トリステインにはいないわよ…」
と言われた。
決まった相手ってまさかルイズのこと言ってるの??
いや、原作のサイト君ならとにかく、俺達はまったく進展していないのですが!?

あ、因みにキュルケとこうやって会話ができるのは、タバサが俺に話しかけてきたからです。
キュルケはタバサが心配だからとのこと。
心配って、そんな過保護な…
タバサは俺の知っている医学知識を聞き出そうとしていました。
そこで、思い出したのですが、確か誰かのために精神を直す薬を探しているとかそういう設定だったはず…
なので…
俺はあまり医学には詳しくないけど、永琳さんという人が知り合いにいて、その人はありとあらゆる薬に精通している凄い人物で…
精神を直す薬もたぶん作れるがゲンソウキョウにいるので協力できないと伝えておきました。
可哀想だけど。


ちなみに、ルイズはチヤホヤされていた。
チヤホヤされるルイズが羨ましかったので、マルコリヌを蹴っ飛ばしてって…あ、マルコリヌはまだベッドの上だった。

仕方ないので、ケティでも踊りに誘うか…
踊りに誘ったケティは真っ赤になって可愛かった。
調子に乗ってキュルケとも踊ろうとしたら、目が合った瞬間に逃げていった。(´・ω・`)

side キュルケ&タバサ
タバサ「キュルケ……相談に乗ってほしい。」
キュルケ「え………………どうしたの急に?」
タバサ「色仕掛けの方法を教えてほしい。」
キュルケ「(・3・)ブーーーー なに考えているの!?」?
タバサ「ハニューから情報を取りたい。ハニューはキュルケをダンスに誘った…つまりキュルケに手を出そうとし、更に巨乳のメイドを囲っている。
    だけど、折檻されてもルイズを見捨てないほどルイズを気に入り、ケティにも手を出そうとした。
    ハニューは私のような体型でも、いける口。」
キュルケ「そうじゃなくて、どうしてハニューから情報を取ろうとするの!!」
タバサ「ハニューは私が知りたい情報を持っている。しかもそれを最初から知っていた。
    それをチラつかせた上で、私には『もっともらしい理由で、情報は渡せない』と言ってきた。
    これは、取引を持ちかけられていると考えるべき。
    だけど私には、取引に出せる碌な材料がない。
    だから、この体も取引に利用する。」
キュルケ「………それは駄目!!絶対駄目!!!!!」
タバサ「どうして?」
キュルケ「だって…その…色仕掛けの具体的な意味…わかってる?」
タバサ「……理論は知ってる。」
キュルケ「実践したことは?」
タバサ「………………………。」
キュルケ「そんな状態で、あのオールド・オスマンとモット伯を篭絡したハニューに対抗できるわけないでしょ。」
タバサ「……………」
キュルケ(なんとか、納得したみたいね…ホッ)




タバサ「………なら、練習すればいい。キュルケで練習させて……」
キュルケ「(・3・)ブーーーー  意味分かってるの!?」
タバサ「り…理論は知ってる。」
キュルケ(この子酔っ払ってる!?誰か、タバサを止めてーーーーー!!)

side レイナール&ギムリ
ギムリ「上手に煙に巻かれたな。やっぱり、下心が見え見えだったか?」
レイナール「ああ、焦り過ぎたな。オールドオスマンに続いて、宮廷で力を持つモット伯を仲間に引き込んだと聞いて、僕も冷静さを失っていたらしい。
      君まで恥をかかせてすまない。」
ギムリ「いや、俺も自分から乗ったんだ。
    何かと話題の彼女との繋がりを、他の連中へ示すには絶好のチャンスだと俺も考えたのさ。
    しかし、早速レイナールの言うとおりになってきたな。」
レイナール「だが、僕もこんなに早く動き出すとは思わなかったさ。
      噂だが、当初は彼女分のシュヴァリエも申請される予定だったらしい。
      流石にそれは無理だという話になったそうだが…
      この動きの早さ…驚異的だ。
      この速さだと、数年後には彼女は貴族になっているかもしれないぞ?
      いや、間違いなくなると思う。」
ギムリ「そうなると、ますますダンスを断られたのは痛いな。
    彼女が貴族になってから粉をかけるようじゃ、それこそ我々はその他大勢の一人となってしまう!」
レイナール「おいおい…僕たちは彼女を女性として欲しいのではなく、彼女の知識と、彼女が作り上げるだろう派閥。
      それを自分達に引き込み…トリステインをより良くするのが目的だろ?」
ギムリ「だがな…それを成し得るのなら、より親しい位置にいる方が有利だと思わないか?」
レイナール「まったく君は…確かに彼女は魅力的だが…その…」顔を少し赤くするレイナール。
ギムリ「おいおい。お前こそ本気か!?オールド・オスマンとレイナールとハニューの三角関係か!これは面白い!!!」
レイナール「ちょっと待て!!だいたい彼女は、さっきケティやあのゲルマニア人にも手を出そうとしていたんだぞ!!もしかしたら、本当はそういう趣味なのかも…」
ギムリ「お前なら、女顔だから大丈夫だ!!!」
レイナール「そういう問題じゃ!!」
ギムリ「ハハハハハハ!!!!」
レイナール「くそっ酔いすぎだぞ!!!!」

side ルイズ
あの変態のおかげでシュヴァリエだなんて…
複雑だけど、正直うれしい。
チヤホヤされるのもうれしい…

ああーーもう!!

なんなのよあいつは…
変態を除けば、私より強くて、私がいなくても生きていけて…
なのに、酷いことしても私の使い魔を止めるとか言わなくて…
だから私を無視しているのかと思ったら、私が何か言えば言うこと聞くし…

なんであいつは、私の使い魔を続けているのよ…

・マチルダさん!!ルートが開放されかけています。
自分の力(チート)を自覚した俺は、色々と試してみました。
ちーとを手に入れて創作物の世界へ、この展開…最強物だ!!!!

っと浮かれて頑張りましたが…




攻撃力が凄くても、コントロールが全然聞きません。
少しでも気が逸れると、攻撃が変なところ飛んでいくし…
さっきなんて『殺気が!!』ってなんとなく殺気を感じたような気がしたのでニュータイプっぽく格好つけたら、勝手にファンネルがミス・ロングビルを囲んで攻撃しようとするし。
その人殺気なんて飛ばす人じゃないから!!
ファンネル止まってくれ!!
って感じで慌てたら、ミス・ロングビルが素人とは思えないほどの身のこなしで、ビームをかわしてくれた。
所謂火事場の馬鹿力という奴だけど、一歩間違えれば『ファンネルが敏感すぎた…』という感じの事故になって、今頃どうなっていたか…

ちなみに、ミス・ロングビルに謝りにいったら、ミス・ロングビルから引退すると言われた。
今回の事で懲りたので、シュヴァリエの給付金と秘書としての給料で慎ましく暮すということでした。
「そうなのかー。」と言っておいたが、秘書を引退しないのなら、何も引退していないんじゃね?
と気がついてしまった。

俺のせいで頭を打って、天然に更に磨きがかかってしまったのかもしれない。
ミス・ロングビルには、できる限り優しくしようと思った。

side ミス・ロングビル
あの娘に完膚なきまでにやられ、さっきの暗殺も失敗。
こうなってしまった以上、あの娘の言うとおり、秘書として働くしかないわね。
でも、私にシュヴァリエなんて花道を、篭絡したオールド・オスマンに申請させるなんて…
まさか、私の事情を知っている?
その上で、私を助けた???
確かに、学院の秘書としての収入と、シュヴァリエの給付金があればテファ達を慎ましく暮らさせるには問題が無い。

本当に何が目的なの??ますます気味が悪い娘ね。
問いただしても、さっきのように『そうなのかー。』って明らかにふざけた感じで誤魔化そうとするでしょうけど、絶対にあの娘の目的を暴いてやるわ。


・アホの子
ギムリによると明日使い魔の品評会とやらが行われるらしい。
ということで、ルイズに秘密で猛特訓してきました。
そして編み出したのが「砕け散れ!!雷刃っ! 滅殺っっ!!極っ光ぉぉぉっ斬っっっ!!!」という感じの大技。
つまり雷刃滅殺極光斬だったり。
ハマーン様ネタをやっても分からないうえ、あのファンネルは危険すぎます。
なので、比較的コントロールしやすく、派手な大技を見せて、品評会を見に来た人を驚かせようという魂胆です。
因みにコントロールしやすい技の中でも、この技を選んだ理由は…
どうせ、どんな元ネタやっても誰もわからないだろうから、自分と似た容姿のキャラの技を真似してみようと、開き直っただけです。
因みに、攻撃を受けても『なんでー』とかは言わないw

そして、技の見た目も威力も十分、コントロールも空に向けてぶっ放す程度はできるようになったので、ルイズから品評会についての説明を受けた際に披露しました。
ルイズ曰くこの品評会には姫様が来るので絶対に恥をかけないらしいので、この威力なら文句は無いはずです。
と思ったら、品評会の当日に学院の地下に連れてこられた。

こんな所で何をするんだ?

「まずこの部屋に入ってくれないかしら?」

よし、入ったぞ。

「で、次は。」
「次は鍵を閉める。」

え?
ちょっとルイズ?




ここ牢屋っぽくね??
「絶対に恥をかくわけにはいかないの、だからあなたは品評会が終わるまでここで大人しくしてなさい。」

えー!?
「何が不味かったのさ??威力?それとも華麗さ???」


「せ…


 先住魔法を姫様の目の前でぶっ放す馬鹿がいるかー!!!!」


ドゴン!!!


グフッ…
…牢屋の床は冷たいとです。

side ルイズ
…どうして私の使い魔はこうも非常識なの!!
先住魔法を姫様の前で撃ったら、護衛に殺されても文句は言えないのよ!!

まさかあいつが、私の元を離れないのは、単純に常識が無いからなの!?


・口にキスをすれば、姫様ルートフラグが立つ
品評会の夜に、やっとルイズが迎えに来ました。
因みに、学院長から言いつけられたシエスタが迎えに来て、出してくれると言ってくれましたが…
出るとルイズから折檻されそうなので、大人しく待っていました。

ルイズの部屋に行ったら、お姫様がいてルイズと一緒に内戦が起きているアルビオンへ行けとのこと。
このイベントは何となく覚えてる。
詳細は覚えていないが、ラピュタのような場所に向かうイベントが後半にあった。
サイトじゃなくても原作通りのストーリーになるんだな、これが歴史の修正力…じゃなくてVRのシナリオ通りなのだろう。
ということは、確かドアを開けたらそこに誰かいたような。

ガチャ

おお、この金髪はマルコリヌ!
ってマルコリヌかよ、とりあえず、蹴っておくか。
女性の部屋のドアに張り付いているなんて、悪いことしているのは間違いないからな。

因みに、俺がアルビオンに向かうと知ったら、自分も行きたいと言い出して、マルコリヌもついて来ることになった。
原作でも誰かがついて来ていたような気がするが、それってマルコリヌだったのか?金髪だったのは覚えているのだが…
あれ?でも、マルコリヌは確か原作に出てこないし…???

とにかく、明日の準備を整えるか。
まずは夜遅いから、学院長には、また置き手紙でいいか。
『姫様の極秘任務でアルビオンに行って来ます。シエスタのことをよろしくお願いします。ずっとお傍においてくださいと言ったのに…約束を守れなくなってごめんなさい。』
学院長には悪いけど、俺が雇用しているという形になっているシエスタが心配です。
なので、俺が帰ってくるまでシエスタをしっかり面倒を見てもらうようお願いしました。
そしてずっと傍においてくれと言ったのに、勝手に長期休暇を取ってごめんなさいと謝罪しておきました。

シエスタは起きていたので、出かけるという話をするついでに、荷造りに手伝ってもらうことにしました。
なので、彼女の部屋に入って「俺は明日、姫様の極秘任務で内戦が起きているアルビオンへと発つ。だから…その…俺の部屋に来てくれ。」と俺の部屋に来るように言ったら。
「はい…覚悟はできています。」って青い顔をして言われた。
意味が分からなかったが、どう見ても体調が悪そうだったので「いや、いい。突然無理を言ってすまなかった。シエスタはもう寝ろ。」と伝えておいた。
シエスタは「え?よろしいのですか?」と驚いていた。
「よろしいも何も、シエスタは俺のメイドとはいえ、無理やりというのは好きじゃない。シエスタが納得しない限り、無理やり俺に部屋に連れ込んでだなんててんしないさ。」
と言っておいた。
何だかシエスタは、ポカーンとしていたけど「はい!それでは、明日の朝食をしっかり作るためにもう寝ます!お休みなさいませ、ご主人様!」と笑顔で言われた。
あれ…もしかして、初めてシエスタの笑顔を見たかも…

ということで、その後、ケティの部屋を訪ねて、レイナール達にアルビオンに向かうことになったので、当面食事会には出られないと伝えるようお願いした。
ちなみに、ケティの部屋を訪ねた時「今晩は!ハニューだけど、ちょっと中に入れてくれる?」ってお願いしたのに、ドアを開けてくれなかった。
女性の一人暮らしで警戒するのは分かるけど、知り合いの俺まで警戒するとか、ちょっと警戒心強すぎだと思う。

side マリコルヌ
…最近、僕が変態になったとか、ストーカー行為をしているとか、言う奴がいるけどまったく酷い誤解だよ。
僕はただ単に、ハニューが誰かを蹴りたいと思ったときに、すぐに蹴れるようにという親切心で彼女の様子を伺っているだけさ。
アンリエッタ姫の極秘任務だなんて、すごくストレスが溜まると思うんだ。
だから、僕が癒しのためについていくのは何もおかしくないと思うんだ!

side シエスタ
ハニュー様の部屋に誘われたとき、ついに来るべき日が来たと思った。
だけど、私が望まない限り、私を抱かないだなんてハニュー様は言った。
ハニュー様って、意外と紳士?
私、もしかしてハニュー様のこと誤解していたのかもしれない。

でも、戦争が起きているアルビオンに、アンリエッタ姫の極秘任務で向かうなんて…
もしかしたら、もうハニュー様とは…
だからハニュー様も、私を抱きたいと言ったのかしら…

side ケティ
こんな夜中に訪ねてくるなんて、この前のダンスの誘いといい、やっぱり私を狙っているのね!?

side アンリエッタ
あれが、ルイズの使い魔…
頼みましたよ、ルイズ…使い魔さん…

・ワルド…名前からして悪そうだ…
で、次の日出発となったのですが、多分原作と同じメンバーです。
原作と同じメンバーじゃないと、原作から乖離して、俺の知識からも乖離、そして俺の死亡率上昇となってしまいますからね。
特に今回のような、いかにも危なそうなシナリオでは…
ということで、原作どおりワルドという人が合流しました。
凄いイケメンで、少し殺意が湧いたのも不可抗力というものでしょう。
俺がじっと見つめていたら勝手に「僕にはルイズという婚約者がいるんだよ。」とか自慢し始めたり…
マルコリヌに対して「惚れた女性のために体を張るか、いい心構えだ。」とマルコリヌに上から目線で話しかけたりと…
いちいち、腹が立つやつです。
まあ、マルコリヌがどこの誰か知らないが惚れた女性のために頑張っているという、とんでもないネタをばらしてくれたのは面白かったですが。

確かこの人、詳細は覚えていないが、サイトとルイズを取り合って、痴情の縺れの果てに、サイト達と対立していたような…
となると、特にルイズに恋愛感情を持っていない俺がいる時点で、そういう展開は防げそうだから、楽な旅になりそうだな。

っと思ったら甘かった。
旅の途中で、崖の上の方から山賊たちに襲われました。
幸いなことにイージーモードなので、矢が障壁のようなものに弾かれて俺は安全です。
所謂、ある一定以下のレベルの攻撃は無効化とかそんな感じなのでしょう。
でも、ワルドに守られているルイズはとにかく、マルコリヌが危ない。

あれ?マルコリヌは意外と平気そう。
風の魔法を使って、矢の向きを逸らしながら、敵を攻撃しています。
といっても、万が一があるかもしれません。
マルコリヌの盾になったまま、相手の矢が切れるのを待つのが一番良さそうですね。
でも、それだと長期戦だな、ルイズがボンボンと敵を爆破しているようですが、何しろ数が多い…
いっそのことファンネルを展開して一気に吹き飛ばすか?

ドドドドド!!!!

あれ?
俺はまだ撃っていないぞ?
と思ったら、援軍が到着したらしい。
援軍って誰が来るんだっけか。
「わし、参上!!」
えっと…原作だと、学院長が来るってことであっているんだっけか?
という感じで、学院長がパーティに加わった。
「わしのメイドは誰にも渡さん!!わしの青春は誰にも渡さん!!例え偽りであったとしても、百年以上ぶりのチャンスは逃さん!!」
とか、またボケたことを言っていますが、戦闘力的にチート並みらしいので、助かります。
でもワルドはすごく嫌そうな顔していたけど。

因みに、おまけでシエスタとレイナールとギムリも着いて来た。
あれ、原作もこんな感じだったっけ???

side ワルド
まずい…計画の邪魔になる奴がこんなに集まってくるとは。
しかも、あのオールド・オスマンだと…。
だが、ルイズ以外は全員あの亜人に興味津々のようだ。
あの亜人とルイズを切り離せれば…全てうまくいく。

そのために、まずは適当な理由をつけて、あの亜人の実力を把握し…
亜人の動きを抑える為の襲撃を演出し、足を止める。
そしてその隙に、ルイズを船に乗せれば…
僕とルイズだけでアルビオンに向かうことができる…

side オスマン
前回欺かれたから、今度は警戒して追いかけてこないだろうと思ったんじゃろうが…
そんな手に引っかからんぞ!
アンリエッタ姫の計画など、アンリエッタ姫がわしに連絡してくる前に、使い魔を使って調査済みじゃ!
決して、アンリエッタ姫のパンツを調べようとしたら、計画を知ったわけじゃないぞ!

置手紙の文面から察するに、もう二度と学院には戻ってこないつもりだったようじゃが…
そっちにとっては偽りとはいえ、こっちは本気で青春を楽しんでおるのじゃ。
だから、簡単に手放すつもりなどないぞ。

side レイナール&ギムリ
ギムリ「姫様の極秘任務。行き先はアルビオン。アルビオンは内戦中。
    こんな危険な任務に飛び込むなんて、彼女は何を考えているんだろうな?」
レイナール「アンリエッタ姫への貸しを作るため、それとも…」
ギムリ「それとも?」
レイナール「アンリエッタ姫の極秘任務とやらを潰し、ついでにレコンキスタに協力して、王家亡き後のアルビオンで確固たる地位を得る。
      というシナリオかもしれないぞ?」
ギムリ「レイナール!!!それなら何故!?」
レイナール「といっても、彼女がそれをするとは思えない。
      裏切る気なら、極秘任務なのにそれを態々ケティに伝えるという、僕達について来いと言わんばかりの伝言なんてしない。
      そして、既にトリステインで得つつある地位をご破算にするような愚作を取るとは思えない。」
ギムリ「随分と、いい加減な根拠だな。恋は盲目とはこのことか!」
レイナール「悪かったな!ギムリ、そういう君こそどうしてついて来た?」


ギムリ「大事な親友が心配だったからだ、それで十分だろ?」
レイナール「まったく君は…僕と大して変わらないじゃないか…」

side マリコルヌ
どうしてどんどん人が増えていくんだ~
どいつもこいつもハニューについてきて、ストーカーめ!

side シエスタ
ハニュー様がもう二度と学院に戻ってこないのなら、自由になれるチャンスなのに…
学院長様や他の貴族様がハニュー様を追いかけようとしているのを見たら、私も追いかけないといけないと思ってしまいました。
私、どうして…

・ワルドさんごめん
皆と合流してからも色々とありました。
「少人数なら必要ないかと思っていたが、こうも人数が増えるとそれぞれの実力を把握しないと、いざというとき混乱してしまう。
 なので、まずは君と手合わせし、君の実力を確かめておきたい。
 君の技を見せてくれないか!!」
と、ワルドさんが俺に手合わせを申し込んできた。
ここで俺はピンと来ました。
ルイズをかけてワルドとサイトが戦った場面が原作にあった。
ということは、これはそのイベントだと。
なので…「そうか!俺はルイズが大好きなんだ!!!俺はルイズと結婚するんだ!!!ルイズは渡さないぞ!!!」
っと、多分サイトがこんなことを言っただろうと思う台詞を喋って、ワルドに襲い掛かろうとした…


そうしたら、後頭部を爆破され、転んで…

そのまま、馬乗りになったルイズに爆破され続けた。
「あ、あんた…!!初めて出会った時にあんなことするし、私を無視して勝手なことする割には、私の使い魔を止めたいとか言わないから…
 変だとは思っていたけど…
 それが目的だったのね!!!!!!!
 視ね氏ね死ね!!!変態!!変態!!大変態!!!!!!!!!!!!!!!!」
という感じで、大変だった。
いくらチートになっているとはいえ、力がコントロールできない状態では、ルイズを攻撃するわけにはいかないので、一方的にやられて大変だった…
おまけに、ワルドからは「これが伝説のガンダールヴw」って感じで笑われているし…

とまあ、ひどい恥をかいたのだが、そんなことより更にやばい事態がその後発生しました。

①宿屋で寝ていたら、襲撃された。
②ルイズを守って、ルイズの信用回復するぞ!
③ルイズが俺を無視して、というか俺から逃げて、なぜか上手くワルドと一緒に脱出。
④「この状態では仕方が無い、僕達だけで任務を遂行するから、君たちが足止めしておいてくれ!!」「そうよ!あんたは足止めしておきなさい!!」って言われる。
⑤誤解が解けないのは嫌、というか原作からどんどん乖離している気がして慌てた俺は、自分の防御力を信じて敵を強行突破。

という感じでルイズ達を追いかけたのですが…
簡単には追いつけませんでした、追いかける俺に変な仮面の奴等が飛び出してきて邪魔してきたのです。
しかも、二人。

だけど、それどころじゃない俺は「行けファンネル!!」的な感じで、全力でめちゃくちゃに攻撃して難を逃れました。
という感じで、難を逃れたおかげで冷静になって気がついたのですが…
こいつ等、ルイズ達も襲っているんじゃね?
って気がついたので、さっきの仮面の奴らと同じような気配の奴等がこの前方にいたら倒せ!!的な感じでファンネルを放っておいた。
少しコントロールが心配でしたが、あそこまで変な奴等とルイズ達を間違える心配はありません。


そしてそのまま走っていったら、道端でワルドが瀕死の状態で倒れていた。
看病していたルイズによると、突然四方八方から攻撃され、ワルドがこうなったとのこと。
その攻撃はものすごい威力で、まるで俺がゴーレムを倒したとき並みの威力があったとのこと。





えっと…
まるで、俺のファンネルがワルドさんを攻撃したような話ですが、ワルドさんはあんな変な仮面の奴等とは違うので…
たぶん伏兵がいたのでしょう。カワイソウニ。ケッシテゴシャジャナイデスヨ…

しかし困ったことに、ルイズがワルドの治療をするからと、ワルドの傍を離れません。
おまけに、追いついてきた学院長達によると、命に別条は無いけど、とてもじゃないけどアルビオンに向かうなんて無理とのこと。
なので、ルイズを置いて、アルビオンに向かうことになりました。
というかルイズに「あんた…悔しいけど、あんたならやれるわよね?主人として命令するわ!私の変わりに姫様の密命を遂行しなさい!!」って言われた。

ついに、重要な部分で原作から外れた気がする…
こんなやばい事態になるなんて、大丈夫だろうか…


side ルイズ
まさか、まさか私との結婚が目的で、私の使い魔に留まっていたなんて…
なんてことなの…

あんな力を持っていて、ジオンとか言うわけの分からない組織の総帥で、悪魔的種族のハニューが私と結婚したいとか…

どう考えても、このままじゃ私は…


だから、ワルド様の気持ち、受け入れることにするわ。
気を失っているときにこんなこと決めて、ごめんなさいワルド様。
決して、ハニューから逃れるためとかそういうわけじゃないの。
決して、大怪我をして意識を失っているから、うまく言い訳に使えるとかじゃないのよ!?



・いざ、決戦のバトルフィールドへ!!!
アルビオンにつきました。

途中で船が空賊に襲撃されたので、俺達六人で空賊船を制圧しました。
学院長はマジチートです。
高速言語を駆使して、フライのキャンセルと発動を繰り返しながら、その合間に他の魔法を連発とか…
マルコリヌに教わらないとイマイチ原理が分からなかった俺でも、あの戦い方は凄いと思います。
おまけにマルコリヌもチートに片足突っ込んでいました。
耐久力だけなら、スクウェアクラスになっているとか…
「快楽をより長く持続させるために努力した結果じゃ」と学院長が行っていましたが、なんか意味わかんない。
こんなチート集団に襲われた空賊達ご愁傷様です。
あ、ちなみに俺もチートだと散々言われました。
自由に飛び回りつつ、船を穴だらけにしましたし…
といっても、下を見たらあまりの高度にびっくり、もう二度と飛ばない、と決心したのは秘密です。

まあ、そんなことより、空賊が皇太子様だったのにはビックリしましたけどね。
弱者の俺が超強い!!
しかも、相手は空賊といういかにも犯罪者といった感じなので、犯罪者に人権など無い!!ってスレイ●ーズ的展開にテンション上がりまくったわけです。
そしてテンション上がりまくった俺は、見よう見まねのドラグスレイ●で敵の大将を数回空に吹っ飛ばした挙句、とっ捕まえて「俺達にけんかを売るとはいい度胸だ!!許してほしければお宝を出せ!!」とか、
「なにー!?お宝が無い!?それなら、お前の体で払え。ちょっと疲れたから脚を揉め!」とか、「うっ…くはっ…なかなか上手いじゃないか、空賊なんか止めてマッサージ師に転職したほうがいいんじゃないか?」とかやってしまいました。
それを見た周りの空賊の奴等が途中で「ウェールズ皇太子ー!!」とか言って半泣きなっている時点で気がつけばよかった…
皇太子様だなんて、随分と酷いあだ名だな、なんて勘違いして…
「皇太子様か酷いあだ名だなwww
 さて、もう十分マッサージはしてもらったから、そろそろ座ろうかな?

 そうだ、皇太子である君には、敬意を表して特別に俺の椅子にしてやろう。
 こんなご褒美、皇太子じゃなきゃ貰えないんだぞ?」
とか言って皇太子様を四つん這いにさせて、その上に座って大笑いしちゃうし…
大笑いしていたら、ポロッと皇太子の付け髭が外れて、学院長が「あー、ハニュー…落ち着いて聞くんじゃ…それ、本物の皇太子じゃ…」って物凄くばつが悪い表情で言ってくるし…
もう穴があったら入りたい。
完全に黒歴史だけど、VRだから何とか許せる。

そんなこんなで、本物の皇太子様だと分かった後は、皇太子様の船に乗ってアルビオンへと向かったのですが…
なんだか空気が最悪です。
皇太子様は必死に取り繕っているけど、俺の脚をマッサージしていたり、俺の椅子になったりしていたわけで…
俺は皇太子様にそんなことをさせた張本人なわけで…

そんなせいなのか、アルビオンについて手紙を回収したら、お前らさっさと帰れ的な雰囲気になっています。

ところがぎっちょん。
そう簡単に帰るわけにはいかないのです。

実は俺、これまでずっと気になっていたことがあるのです。
それは、このVRはいつになったら終わるのかということです。
既に体感時間で相当な日数がたっています。
もちろん、人間の脳の処理速度に合わせて体感時間というものは変化します。
つまり、緊急時に周りがスローモーションになるという現象も、一時的に視覚などの処理能力が上がっているためで、
同じように脳の処理能力を引き上げれば体感時間と実際の時間の流れがずれ始めます。
このVRのリアルさから見て、脳にシステムが直接接続されているのは間違いないので、
そのような方法で体感時間が長くとも実際の時間はあまり経っていないというのは考えられます。
しかし、そうだといって流石に長すぎです。

ということは、何らかの理由によって俺をVRから外さないのだと考えました。
その理由とは恐らく、俺の訓練が終わっていないということだと考えられます。
訓練目標が完了していないから、俺をVRから出すことができないと考えれば、すべて辻褄が合います。
だって俺、訓練のためにVRに入ったのに、ほとんど戦っていないし…

そういうことで、俺はVRから出るためにこの後の戦いに参加します。
確か原作でも、サイトはこの戦いに参加して、サイトVS七万と言われている戦いになったはず…。

あれ、それはもっと後の話だ、この戦いじゃないって誰かに言われたような気がするが、流石に幻聴を聞くほどおかしくはなっていません。

それはとにかく、原作でもあった例の悲しいパーティに参加しました。
そこで皇太子は自分達は明日死ぬけど~なんとかかんとか~、魔法が全然使えない自分についてきてくれてありがとう~なんとかかんとか~、という話をしていました。
原作を覚えていないが、この皇太子って魔法使えなかったのか…
まあそれはどうでもいいことなので、感極まっている皇太子達に対して「皇太子!俺も戦う。」と言いました。
皇太子は一緒に戦ったら死ぬぞ的なことを言いましたが「どう言われようと、己の運命は自分で開くのが私だっ!」と言い放ってやりました。
そうしたら、学院長達が駆け寄ってきて、何を考えているだの死んだらどうするのだの言ってきて大騒ぎです。
だけど、俺の意思が固いことを知ったら…
「まさかこの年で女のために命を懸けるとはの、血湧く♪血湧く♪」
「僕だって…命を懸けるぞ!!」
「まさかレコンキスタを倒すという展開が待ち構えているとはね…まいったよ。」
「はぁ…レイナールがやるというのなら、行くしかあるまい。」
と言う感じで、皆一緒に戦ってくれると言ってくれた。
巻き込みたくなかったので、断ろうとしたけど、戦うことを決めた男達の顔を見て、これは断れないと思いました。
だから「共に戦おう、俺達の為に!俺達の栄光の為に!」と言って。
「あ、ああ!!」「そうじゃ、ワシ等のためじゃ」「「「「「俺達の栄光のために!!」」」」」      「あの…私の意見は…」
と言う感じで盛り上がり、皇太子達とどんちゃん騒ぎをして、夜は更けていきました。

----------

ということで…
俺は兎に角、皆が俺と一緒に戦うことになったので、明日は100%中の100%で戦わないといけません。
たとえVR上の存在と言えでも、彼らは大切な仲間です。
絶対に失うわけには行きません。

コンコン!!

ん?
誰か来たな。

これは…


 ①学院長が、明日の戦いのために何か話をしに来たのかもしれない。
 ②マルコリヌが、蹴られに来たのかもしれない。
 ③レイナールが、眠れないので一緒にお酒を飲もうと言いに来たのかもしれない。
 ④ギムリが、どの女の子が可愛かったという話をしに来たのかもしれない。
 ⑤シエスタが、明日死んじゃうかもしれないなんて…怖い…と泣きに来たのかも知れない。
 ⑥皇太子が、酔った勢いでやって来たのかもしれない。
 ⑦そんなことより、帰ったらルイズにどう謝るか考えておこう。
 ⑧そんなことより、ミス・ロングビルへのお土産を探そう。
 ⑨俺はモット伯一筋だから、誰が来ようと関係ない。
 ⑩隠しヒロイン、ケティを忘れていた。
 ⑪ドアを開けたら、まだ見ぬ美女がいるかもしれない。
ん?
頭に選択肢のようなものが出てきた気がするぞ。


⇒①学院長が、明日の戦いのために何か話をしに来たのかもしれない。
 ②マルコリヌが、蹴られに来たのかもしれない。
 ③レイナールが、眠れないので一緒にお酒を飲もうと言いに来たのかもしれない。
 ④ギムリが、どの女の子が可愛かったという話をしに来たのかもしれない。
 ⑤シエスタが、明日死んじゃうかもしれないなんて…怖い…と泣きに来たのかも知れない。
 ⑥皇太子が、酔った勢いでやって来たのかもしれない。
 ⑦そんなことより、帰ったらルイズにどう謝るか考えておこう。
 ⑧そんなことより、ミスロングビルへのお土産を探そう。
 ⑨俺はモット伯一筋だから、誰が来ようと関係ない。
 ⑩隠しヒロイン、ケティを忘れていた。
 ⑪ドアを開けたら、まだ見ぬ美女がいるかもしれない。

常識的に考えて、明日の戦いが迫っている状態だと、その中核たる学院長だろうな。

「ほっほっほっこんな夜分遅くに悪いの。」

やっぱりね。

----------

学院長が何に来たかと思いきや、なんと遺書のような物を渡された。
学院長にもしものことがあったら、これを明けてその指示に従って欲しいとのこと。
何だか、物凄く気が重たくなるし、そんな事態を考えたくないが…学院長の人生最後の願いかもしれないから、しっかりと受け取っておいた。



・聖母殺人伝説は当たりさえすれば魔王すらも倒せる(公式)
とにかく、昨日の作戦会議で最高の一撃を学院長が指差す方向に打ち込め!と言われたので…
聖母殺人伝説(ジェノサイドエクストリーム)とか、ルシフェリオンブレイカーとか色々考えましたが…
一番イメージし易かったソーラ・レイを頭に思い浮かべながら、全力全開の弾幕を打ちました。

「光符ソーラ・レイ!!!!ゲル・ドルバ照準!!!」

ゴゴゴゴゴゴ…

結果、なんだか凄いことになっています。
ドラゴン●ールのような光景が、目の前に広がっています。
俺の弾幕は敵集団の中心を突き抜けていきました。
そして恐ろしいことに、その後には何も残っていなかった…
どう見ても、敵の1/3ぐらい消えてるよな…
後数発撃てば、敵を全滅させられそうだが、流石に同じレベルのをすぐには撃てそうにない。

しかし、いくらVRといえでも、この設定はおかしすぎるだろ。
ゲームなら、クソゲーレベルの設定値だよ。

おかげで、あまりの威力を目の当たりにした敵は棒立ちです。
ですが、俺達としては、これはチャンスであり、狙った状況です。
「今じゃ!!」「突撃!!」「置いて行くぞギムリ!」「おい、前に出すぎだ!」「どうして、私まで~。」
学院長を先頭にして飛び出した達は、皇太子達と一緒に、このまま一気に無人の荒野をつき抜け、敵の指導者の首を取ります!

これが俺達の作戦。

城に篭っても、確実に負ける。→なら城を出て戦えばいいんじゃね?→でもそれでも負ける。→それなら敵の指導者だけでも倒そうぜ。
ということで、命中率は壊滅的だが、威力だけは折り紙付の俺が、弾幕を撃ちまくって敵を混乱させ…
学院長達と皇太子達がその隙に、敵の指導者の首だけを狙う。
そして敵の指導者を首を取れば、そのまま中央突破で脱出。
無茶な作戦だけど、俺の火力と学院長の戦闘力、そして皇太子達の士気の高さなら、可能性が無いわけではないとのこと…
しかも、死ぬつもりだった皇太子達を落ち延びるように説得するためには、敵の指導者の首を取るぐらい戦果をあげないといけなかったのです。
VR上のキャラとはいえ、何だかんだで知り合ってしまった以上、無闇に死んでほしくないですからね。
もちろん、皇太子達は本気で敵の指導者の首を取れるとは思っていなかったみたいですけど…

今の感じだといけそうじゃない?

----------

「ぎにゅあああああ!!」
結論から言うといけました。
学院長とその偏在達があちこちで暴れ、俺は何とか制御できる範囲の弾幕を撃ちまくり、皇太子達は敵の指導者に一直線。
敵の指導者の周りには、それなりの強さの敵が守っていましたが、そんなもので止まる俺達ではありませんでした。
近衛的な奴等との乱戦を乗り越え、逃げ出そうとしていた敵の指導者に皇太子達が追いつき、そのまま皇太子が剣で敵の指導者を後ろから刺しました。
「殺ったぞおおお!!」「勝利だああああ!!!」
もちろん、これだけでは勝てないのですが、勢いは大事です。
敵は指導者が倒れ、明らかに『どうしよう』という雰囲気になっています。
敵の指導者は完全に死んでいるし、敵もここで更に追い討ちをかければ一気に崩れそうです。

どうやら勝ったか…
となると、これでもう直ぐこのVRとはお別れだけど、ルイズに嫌われたままなのが…
せめて、アルビオン土産でも買って帰って機嫌を取ってみるか。




キラ!!



あれ?





敵の指導者が何か指輪のようなものを持っているな。
…綺麗な指輪だな。


うん、手にとって見たけど、やっぱり綺麗な指輪だ。
あ、そうだ。
これを、ルイズにあげてみようか。

いや、いや、いや、流石に死体から獲ったものだなんて不味いだろ…

でも、そんなこと、ルイズにばれることもないか。

「それを返してもらえるかしら?」
誰だ?
このどことなくヤンデレっぽい感じオバサンは?



「危ない!!!」

----------

「ほっ…ほっ…わしの長かった人生もこれで終わりかの?」

学院長!もう喋るな!!

「惚れた女の胸の中で逝けるとは、エロ爺冥利に尽きるの。」

何、馬鹿なことを言っているんだ!!
こんな傷ぐらい、医者に見てもらえばすぐに直るさ!!

「もう無理じゃ…わしの遺言、よろしく頼むぞ。」

分かった、分かったから逝くな!!

おい、聞いているのか!
何寝た振りしているんだ!
おい!

「止めるんだ!オールド・オスマンはもう…」
レイナール…

「それより、早くこっちを!!こいつ何者だ!?抑えきれない!!」

マルコリヌ…だけど、学院長が…学院長が!!

「僕の知っている君は、そんな人じゃないだろ、高慢で、高飛車で、暴力的で、魅力的だ!!


 こんなことで挫ける人じゃない!!
 そうだろ皆!!!」










………いや、俺そんなキャラじゃないから。何訳の分からないことを言ってんだこのデブは!!


ゲシッ!! 「あふん!」


って俺は何をやっているんだ。
マルコリヌを蹴ったおかげで正気になるとか、腹が立つ事態だが…
落ち込むのは後だ、今は…


学院長の敵を取り、この戦争に勝利する。


それだけだ。


あのオバサン、学院長を手にかけたこと……その命をもって償ってもらうぞ!!
「こんな所で朽ち果てる己の身を呪うがいい!!」


「こ、この力は!?」

side オスマン
…考えれば、さびしい人生じゃった…
妻は200年以上前に逝き、子や孫がわしより先に逝き、気がついたらわしの周りは、わしの子というより、子孫達という遠い存在ばかりになっておった…
わしの後妻に納まろうとする者達もいた、じゃが皆わしの遺産狙いで、わしが死なないことを知ると去っていった。そして、誰もわしに近づいてこなくなった。
もちろん、自分で後妻となる女性を探そうとした時期もあった、じゃがわしは長生きじゃ…また辛い別れを経験するだけじゃった…
だからわしは、その寂しさを紛らわすためエロ爺になった。

それで納得していたはずじゃった。
じゃが…

そんなわしの目の前に、ハニューが現れた。
彼女は、あざとくて、強引で、わしを利用しようとしておった。
何度も追い出そうとしたが、追い出す気になれんかった。
ハニューと暮らす日々がとても楽しかったからじゃ…
それに、ハニューが時々見せる素の表情には、何の邪気も感じられなかったからじゃ。

魔王をしておったのかもしれない女じゃ。
そう思わせるのも、作戦のうちかもしれん、と思ったこともあった。
じゃが、すぐにそんなことはどうでも良くなったがの。
気がついたら本気になっておったんじゃよ。
本気でハニューを口説き落としたい、そう思ってしまったんじゃ。







残念じゃの。
結局口説き落とせないまま、この様かの。


じゃからの…
わしの遺書に付けたサプライズプレゼント、それを受け取ってくれる未来を勝手に想像しながら逝かせてくれ…
わしの我侭が詰まったサプライズプレゼント、きっとそれをハニューは何の感想も無く捨ててしまうじゃろうとは思うが…





ハニューはわしを篭絡しようとしたんじゃ…、それに最後の最後じゃ、やりたい放題やらせてもらっても、許されるじゃろ。




・オールドオスマンルート ノーマルEND
あの後、怒りに任せて「光符 拡散メガ粒子砲!!」といった感じで、攻撃を撃ちまくりました。
あたり一面吹き飛ばし、気がついたときには巨大なクレーターの中心にいました。
たぶん敵は取れたと思います。

指導者と切り札(おばさん)を失ったレコンキスタは壊走し、その後分裂。
そのまま各組織間の抗争となり、その隙を突いて王党派の力が盛り返し始め、現在王党派が各地で失地回復のために戦っています。
因みに、レコンキスタ内には風見鶏のような連中がいて、そんな奴等が王党派に寝返ってきましたが…
そんな奴等を信用する皇太子ではないので、信用できる貴族である俺達が楽をさせてもらうのはまだまだ先のようです。

今の発言で、気になった人もいると思うけど現在の俺は…
アクシズ軍(義勇軍)の軍団長であり…アルビオン貴族ハニュー・ジオン・オスマン男爵家当主であり…学院長の後妻というか未亡人…





どうしてこうなった。


元はといえば、全て学院長の遺書が原因だった。
戦いが終わり、学院長の葬儀の前にレイナール達や皇太子達の前で遺書を開けたのですが…
そこには、前妻の子孫へは贈与しなかった、男爵の爵位(学院長は多数の功績によって、断絶した幾つかの家の爵位を持っていた。
それらの爵位のうち、自分専用のものとして男爵の爵位《領地なし》を贈与せずに所持していた)と個人所有の財産と権利を全てを後妻である俺に相続する。
という内容と、俺と学院長の結婚を王家に申請する書類が入っていたのですよ!
ちょっとね、ボケているとはいえ、人を勝手に妻にしようとするとか…ありえないでしょ。
この時すぐに否定すればよかったのですが、あまりにもありえない事態と、戦争中で忙しいということにかまけて、その話を放置したのが不味かった。
そして、一緒に死線を潜ったせいか、俺に対して妙に好意的になっていた皇太子が繰り出す、おせっかいの恐ろしさを知らなかったのが不味かった。

皇太子は、俺と学院長の結婚の申請を、勝手にトリステインに送りやがったのです。
もちろん、貴族の結婚というのは政治的な絡みが出るので、王家の検閲が入るわけで、トリステインの宝である学院長と亜人の俺の結婚なんて認められないはずなのですが…
モット伯が、事前に根回しを行っていたことと、既にオスマン家が別にあること、領地なしの爵位だったこと。
そして俺がいかに敬虔なブリミル教徒(もちろん皇太子主導の捏造)であるかを訴えたアルビオン王からの親書と、俺が亜人というより精霊に近い存在(これも捏造)だと訴えたアルビオンの新司教(レコンキスタ分裂後に王家の支援で擁立)からの報告書がロマリアとトリステインに送られたことが幸いして、認められてしまいました。
あまりの事態にorzと落ち込んだ俺でしたが、相手は既に亡くなっているので、新婚生活どころか、結婚式すらあげなくてOKだと気がついて立ち直ったのですが…

皇太子がまたやってくれました。
俺のためにわざわざ結婚式を開いてくれました。
まさか、この俺がウェディングドレスを着ることになるとは…
結婚祝い?として、皇太子よりアルビオンの土地を下地され、名実共に貴族になれたのは良かったのですが…
式後のパーティでの、生暖かい視線やら、本気で俺のことを不憫に思っている視線や、俺のことをジジコン?と勘違いしたエロ爺達の視線に晒される居心地の悪さは異常でした。
支援をチラつかせて、交際を迫ってくる爺とかいて、本当に最悪だった。

因みに、式では俺は盛大に泣きました。
まず、式前の着付けの段階で「すごく綺麗ですよ…」と姿見で見せられた、自分の花嫁姿を見て、俺元男なのに…と情けなさで泣き。
式では、あまりの羞恥プレイっぷりに泣きました。
因みに、シエスタも「ハニュー様………ううっ…」とか言って泣き崩れていた。
シエスタが、俺の恥ずかしさとかを理解して、俺と一緒に泣いてくれたことは、ちょっと嬉しかった。
式に来ていた人達も泣いていたのは、意味が分からなかったけど。
あまりの俺の落ち込みっぷりに、皇太子も流石に悪いと思ったのか「良かれと思ってやったんだが、まさかここまで悲しませることになるなんて…すまない…」と後で謝ってきた。

そんなこんなで、元男なのに未亡人という貴重な体験をすることになった俺なのですが…
そんな事実から逃してくれるはずのVR終了がいつまで経っても来ないので、途方にくれています。
当初は、戦闘経験が足りないのが原因だと思いました。
なので、アルビオンでの俺の活躍(亜人が領地持ちの貴族になった。)を聞いて、自分達も領地持ちの貴族になりたいと集まってきたトリステイン貴族の次男・三男等(相続権がない)
を束ねた義勇軍も結成し、激しい戦いを繰り広げたのですが、駄目でした。

いったいどうなっているのでしょう。
こうもVRが終わらないとは、VRが壊れたとか、誰かの陰謀とかを真剣に疑います。
まさか、知らない間に博麗の巫女の攻撃を受けているという事態じゃないよな…(´・ω・`)


俺はそんな状態ですが、他の皆はどうなっているかというと…

・ルイズ
「ワルド様と結婚したわ。私のことは諦めて。」
という手紙が突然来て、びっくりした。
慌てて、ルイズに会いに行ったら、ワルドとリア充爆発しろ!!というぐらいいい感じになっていた。
しかも、一時期のつんつんとした感じがなくなって、女らしくなっていた。
「別にお前のこと狙ってないから!何勘違いしてるの!」と言いたかったけど、あまりの幸せオーラに「おめでとう。俺もうれしいよ!」としか言えなかった。

因みに、その後昨今の状況を説明したらルイズは…
「勝手に結婚して、勝手に貴族になって!!まったく、相変わらず勝手なことばかりしてるわね。
 あんたなんて、やることやるまで、帰ってこなくていいわよ。
 …だけど、あなたが私の使い魔であることは変わらないのよ。
 困ったことがあったら、頼ってきなさい。」
って言っていた…
なんか、心に余裕が出来たというか、なんというか…
何かあったのかな…

と思ったら、どうやら妊娠していたらしい。
つい先日、子供を出産したという手紙が来た。
女の子らしい。
喜んで、お祝いの品と「ルイズの子供なら、ルイズと似て可愛いんだろうな!!」ってお祝いの手紙を出したら。

「手を出したら殺す。」と血で書いた手紙が帰ってきた(´・ω・`)


やっぱりルイズはルイズだった。


・ワルド
以前以上にルイズに入れ込んでいた。
なんか、真剣に看病するルイズに母の姿を見て、ルイズを必死に口説いたらしい。
まだルイズが一桁の時に婚約したとか聞いたから、ロリコンかと思っていたけど…
マザコンだったのかこいつ…

・レイナール
俺の義勇軍の参謀です。
ちなみに、義勇軍の存在を追認だけど、モット伯と共に王家に認めさせたりしてくれたりと、俺の至らないところを色々とやってくれます。
そんなこんなで、とても頼りになる右腕なのですが…
「君がオールドオスマンを愛していたのは分かる。だが、君はまだ若い。あれからもうすぐ一年だ…そろそろ新しい恋を探してもいいんじゃないかい?」
という感じで、なんか俺に新しい相手を探せと五月蝿いのですが…
こいつ俺の義勇軍の参謀ではなく、俺の参謀…つまり俺を妹か何かみたいに思っているんじゃないか?
まあ確かに、せっかく貴族になったんだから、可愛いメイドをいっぱい雇って、そのメイドと…なんて男の夢を叶えてもいいかも?

・ギムリ
いっつもレイナールと一緒にいるので、てっきり掛け算の関係だと思っていたのですが…
様子を伺いに来ていたキュルケを口説いていたらしく、キュルケと復縁したそうです。
ん?そういえば、レイナールには全然浮いた話を聞かないな…
まさか、ギムリはとにかく、レイナールは本当に… ((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル

・キュルケ
ギムリといい感じになったと思ったら、いつの間にかギムリと一緒に戦場を走っていた。
燃え上がったから、もう止まらないとのこと。
ちなみに「ギムリを昔とは比べ物にならないほどいい男にしてくれて、ありがとう」と言われた。

・タバサ
理由は良く分からないが、学院長を殺したオバサンを送り込んだのは、ガリアのジョセフ王だと教えてくれた。
しかも「ガリアが動き始めている、早くアルビオンの内乱を抑えるべき…」と警告までしてくれた。
何故俺にそんなことを教えるのだとか、そんなこと言われても困ると思ったのですが…
凄くシリアスな感じで、大人しく話を聞くしか出来ませんでした。
でも、それだと何も出来なくて悔しかったので…
「時代は確実に動いている…倒すべき敵、それはジョセフ王、そういうことか…」
と格好だけつけておいた。
格好だけ、つけているのがばれたのか、タバサの目が怖かった。

・ケティ
手紙送っても、全然返事がないとです。
レイナールが送ればちゃんと返事があるのに…(´・ω・`)

・マルコリヌ
俺の義勇軍の副団長です。
鉄壁のマルコルヌと呼ばれるほど防御力が高く、安心して部隊を任せられます。
だけど、たまにとんでもないうっかりミスをして、俺に蹴られまくっています。
どうしてこんなに優秀なのに、10台の馬車が一桁間違えて100台になるのか…
まるでわざとやっているんじゃないかと思うぐらいに見事なうっかりミスっぷりです。
マルコリヌ曰く「僕は、こういうミスをしてしまうから、君のような人の下じゃないと働けないんだ!!一生君の下に置いてくれ!!」と言っていたが…
お前のうっかりミスでうちの隊の家計が火の車になったらどうなるのかと…
なので「これ以上うっかりミスしたら、クビにせざるおえないから、もう少ししっかりしろ。」
と言ったら「これじゃ、もうミスができないいいい!?これじゃ、蹴ってもらえないいい!?どうして僕は、僕の総帥になってくださいと言えなかったんだああ!?」
という感じで、錯乱して大変だった。

本当にこいつどうしよう…

・シエスタ
俺の家のメイド長です。
なんだかんだで学院長が死んだことにショックを受けていた俺を立ち直ったのは…シエスタのおかげでした。
色々と気を使ってくれているのが分かったので、俺もシエスタに心配をかけられないと頑張りました。
本当にシエスタはいい子です。
ただ、時々…
「旦那様のことを忘れるまで、私は待ってます。」
とか…
「私の気持ちは固まったのに、ハニュー様の気持ちを旦那様に取られてしまったなんて…」
といった、変な発言や行動に出て、意味が分からないので俺がスルーするという光景がたまにあるのが欠点といえば欠点ですが…
それを差し引いても本当にいい子で、名目上とはいえ、夫である学院長には悪いが、こんな子が奥さんだったらと思います。

・マチルダ
学院長の私的雇用だったらしく、俺が学院長の財産を相続すると同時に、そのまま俺の秘書になった。
なので、俺の家臣団長になってもらい、領地で活躍してもらっています。
それと、仕送りをしている家族がアルビオンにいるとか学院長から聞いていたので、なんなら家族皆で引っ越してきたらいいと言っておきました。
もちろん、引越し費用はこっち持ちで。

どうしてここまで…って感じで驚いていたので…
「学院で初めて出会った時から有能な人だと思っていたんだよね。だから、その有能な人が俺の元で働いてくれるよう、色々と動くのは当たり前さ!」
って言っておいた。
ちょっと格好をつけ過ぎたかな…と心配していたけど。
「まいったわね…私を生かしていたのは、私を引き込むためだったの…私の仕事のことも知っていたんだ、テファのことも知った上での提案ね…
 まあ、いつまでも森に隠れているわけにはいかないし、亜人のあんたなら、テファを受け入れてくれるかもしれないと、期待していたのは事実だしね…」
と一人で納得していたので、問題はないと思います。

その後、マチルダさんの家族がやってきて、俺と面会した。
ちなみに、そのうちの一人はハーフエルフで、可愛いから俺のメイドにしたいと言ったら、マチルダさんとシエスタに殴られた…

あ、そうそう。
マチルダさんとは、ミス・ロングビルのことです。
本当はマチルダさんという名前だとのこと。
驚きました。

・モット伯
最近、トリスティンにこの人ありというぐらい、大活躍してます。
そして、勝手に俺との共著ということで「●●●の楽しみ方」という本を出版しやがりました。
(挿絵は、俺が殴り書いた絵を、どこかの画家が綺麗に清書したものだった)
そのおかげで、ファンレター等が俺のところにも来て大変です。
「あなたのおかげで、妻との関係が修復されました。」とか「サインをください。」という内容はまだいいのですが…
「1万エキューお支払いしますので、会員にご指導をお願いします。[ゲルマニア愛の伝道会]」といった顔を合わせての指導依頼とか…
「●●●●●の際には●●●の●●●●●●た方が私は好きです、どう思いますか?」といった内容が全て伏字になるような質問は勘弁してください。
ファンレターの全てをゴミ箱に捨てたいと思いましたが、モット伯によると外交工作にも使える人脈が育ちつつあるから、丁寧に回答してくれとのこと。

おのれモット伯め!!

・皇太子
出会いは最悪でしたし、色々と迷惑を被りましたが、今は最高の親友です。
そして、現在はアルビオンの全てを奪還するまであと一歩というところまで来ています。
おまけに、アンリエッタ姫との婚約の話が進み始めたり、虚無殺しなんて二つ名がついたり、これなんて主人公?って感じです。
まさに英雄という感じで、俺と違って眩しいこと眩しいこと。

なので「初めて出会った時(あの悲しいパーティの時)に比べてずっといい顔になった」と言ったら俺のおかげだと言われた。
側近の人達によると「ハニュー様の戦いっぷりと、自分の道は自分で切り開くといった内容の言葉のおかげということですよ。」という事らしい。

「てっきり、俺が椅子にしたりしたから、Mに目覚めて、辛い事への耐性がついたから、英雄になれたかと思った!」
と冗談を言ったら、側近の人達も皆笑ってくれた。
昔なら、険悪な雰囲気になるところですが、今はこんな酷い冗談も笑い合えるぐらいの関係になれたのは、何だか嬉しかったです。
ですが、皇太子が汗をダラダラ流していたのを見て、ちょっといじり過ぎたと反省しました。
冗談とはいえ、王族である皇太子にとっては、きつ過ぎて笑えないネタだったようです。

とまあ、こんな風に皇太子とはいい感じです。

----------

という感じで、色々なことがここ一年間に起こりました。
なんというかね、あまり原作覚えていないけど、内容が全然違う感じになっている気がするね。
その割には、まるで主人公のように何だかんだで世界の流れの本流近くにいる気がします。
これが、何かのSSなら…
「ここは原作とは良く似た別の世界、若しくは何らかのイレギュラーで原作通りには行かなくなった世界…
 だから、サイトを召喚しても対応できずに世界が滅びてしまうから、代わりに呼び出されたのが…
世界を救う力を持った勇者である俺だ!!」
っていう展開だったという感じだが…
残念なことに、ここはVRの中だからな、単純に訓練対象が主人公になるのは普通の流れでしょう。
あーあ、本当に俺が召還された勇者だったらなー、世界を救ったら帰れそうなものなのだが…

まさか、VRのストーリー展開が、そういったものになっていて、世界を救って訓練終了だとか!?
いや、流石にそれは…

「オスマン夫人!敵が動きました!!」
おっといけない、休憩も終わりか…
「夫人じゃない。ここでは団長と呼べ!!!」

「はっ!」

はぁ、帰りたいけど、今を乗り越えないと未来は無いからな。
とにかく、敵の残党をさっさと片付けて、早くアルビオン全土を皇太子達の手に取り戻さないと。

「出撃する!!」
さあ、いくか。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.543116092682 / キャッシュ効いてます^^