江沢民氏の執務室閉鎖、党大会前に中央軍事委 影響力に陰り

2012.11.01


中国の江沢民前国家主席【拡大】

 【北京=矢板明夫】8日に開催される中国共産党大会を前に、軍の最高機関、中央軍事委員会の建物にあった江沢民前国家主席(前軍事委員会主席)の執務室が閉鎖されたことが中国の軍関係者の話で分かった。最近行われた一連の軍指導部人事で、胡錦濤国家主席と習近平国家副主席の側近が主要ポストを占め、江派だった将軍たちが引退。執務室の閉鎖は江氏の影響力低下を象徴しており、中国軍は今後、胡派と習派の2大勢力が対抗する構図に様変わりする。

 江氏は2004年秋に党中央軍事委員会主席を退任したが、軍関係者によれば、中国のペンタゴンと呼ばれた中央軍事委員会の建物「八一大楼」の中に主席時代とほぼ同じ大きさの執務室を残していた。複数の専属秘書も配属されており、江氏は時々訪れ、現役の軍幹部や元軍首脳と面会するなどして、軍への影響力を行使していた。

 しかし、最近、軍内の江派の存在感が急速に低下し、胡主席を支持する一部の軍長老から「引退した指導者が軍中枢で執務室を持つのはおかしい」との批判が高まった。この夏、江氏は秘書を通じて、執務室の閉鎖を軍事委員会に申し出たという。

 エンジニア出身で、軍歴を全く持たない江氏だが、1989年秋に最高実力者だった●(=登におおざと)小平氏の後任として軍事委員会主席に就いて以降、人事を掌握して軍内に自身の一大派閥を形成させた。中国国防省の公式資料によれば、江氏は退任するまでの約15年間で、計81人の上将を抜(ばっ)擢(てき)した。同主席退任後も、軍人事などに口出ししていたという。

 しかし、江氏の腹心と呼ばれる将軍たちが近年、次々と現役を去り、現在38人いる現役上将のうち、江氏が昇進させたのは6人しか残っていない。しかも、今回の党大会で全員引退することが決まり、軍首脳の中で、江氏の直系といえるのは、江氏の秘書を長年務めた賈廷安・総政治部副主任(上将)のみとなった。

 共産党内でいまだに大きな影響力を持つ江氏だが、もはや軍にほとんど口出しができなくなったという。10月に行われた軍人事で、胡派が作戦指揮と人事の両部門の責任者を確保するなど躍進する一方、習派も兵(へい)站(たん)と武器開発部門を押さえるなど存在感を示した。江派と習派が良好関係にあるため、軍内における江派の残存勢力は習派に吸収されるとの見方も浮上している。