「早読み 深読み 朝鮮半島」

「慰安婦」で韓国との親交もお断り

「反日国家に工場を出すな」と言い続けてきた伊藤澄夫社長に聞く(下)

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2012年11月2日(金)

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日本を叩く時は中国が助けてくれる

 私は「反日国家の会社との協力はうまくいかないと思う」とお断りしました。鈴置さん、こう言う時にこういう申し入れをして来る韓国人とは、どういう神経をしているのでしょうか。

鈴置:多くの韓国人、ことに戦争中のことを知らない世代は「慰安婦は強制連行だった」と教え込まれ、信じ込んでいますから「慰安婦の像に怒るなんて、日本人は反省が足りない」と考えるでしょう。

 「日本人に対しては何をやっても大丈夫。報復して来ないから」という空気もあります。さらに「日本叩きをする際には、中国がバックアップしてくれる」との自信も持ち始めました(「『尖閣で中国完勝』と読んだ韓国の誤算」参照)。

伊藤:韓国だって、このまま行けば中国に飲み込まれてしまいます。4年前に韓国の金型工業会での講演で「中国に併呑されないよう、日韓が技術面でも協力すべきだ」と訴えたのですが、反応が今一つでした。

鈴置:韓国人は中国に併呑される覚悟を固めたと思います。「中国が天下をとる。だったら、米国や日本とは距離を置き、昔のように中国の傘下に戻るのが得策だ」という判断からです(「日韓関係はこれからどんどん悪くなる」参照)。

はた迷惑な「日韓共闘論」

 そんな時、日本と協力して中国に対抗するなんて中国に見なされたら大変です。伊藤さんの呼びかけは、韓国にとってさぞ、はた迷惑なものだったでしょう。

伊藤:鈴置さんの本(『朝鮮半島201Z年』)や日経ビジネスオンラインの一連の記事(「早読み 深読み 朝鮮半島」)を読んだ今では「強いものに従っておかないと国を失う」という韓国人の恐怖感が少しは分かります。

 でも、韓国には期待していたのです。「反日国家だけれど中国とは異なる。誠心誠意、協力すれば、いつかはきっといい関係が築ける」と信じていました。

鈴置:伊藤社長もそうですが、関係改善を願って地道に韓国に協力していた日本人がいました。でも、李明博大統領の「日王への謝罪要求」や「竹島上陸」でついに、というべきか、彼らが一斉に韓国から離れました。

伊藤:私は今でも韓国が大好きです。親しい仲にも互いに礼儀を持って、手を取り合っていけるとまだ、期待したいのですが……。

鈴置:伊藤さんの愛した韓国――米国との同盟を重視し、反日を看板に掲げるけど実態面では日本とはうまくやる韓国――ではなくなったと思います。


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鈴置 高史(すずおき・たかぶみ)

鈴置 高史 日本経済新聞社編集委員。
 1954年、愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。
 77年、日本経済新聞社に入社、産業部に配属。大阪経済部、東大阪分室を経てソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜03年と06〜08年)。04年から05年まで経済解説部長。
 95〜96年にハーバード大学日米関係プログラム研究員、06年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)ジェファーソン・プログラム・フェロー。
 論文・著書は「From Flying Geese to Round Robin: The Emergence of Powerful Asian Companies and the Collapse of Japan’s Keiretsu (Harvard University, 1996) 」、「韓国経済何が問題か」(韓国生産性本部、92年、韓国語)、小説「朝鮮半島201Z年」(日本経済新聞出版社、2010年)。
 「中国の工場現場を歩き中国経済のぼっ興を描いた」として02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。

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