鈴置:なぜ、日本しかできないのでしょうか。
伊藤:理由は2つあります。まず、金型の設計力です。日本には長年、蓄積したノウハウがあります。加えて、我々は新しく開発された技術を日々、注ぎ込んでいます。日本から技術移転しない限り、そう簡単に真似できません。
「近道探し」では切り拓く力がつかない
鈴置:しかし、中国にも腕のいい職人はいます。
金型・プレス加工の伊藤製作所代表取締役社長。1942年、四日市市生まれ。65年に立命館大学経営学部を卒業、同社に入社。86年に社長に就任、高度の金型技術とユニークな生産体制で高収益企業を作り上げた。96年にフィリピン、2012年にインドネシアに進出。中京大学大学院MBAコースなどで教鞭をとる。日本金型工業会の副会長や国際委員長など歴任。著書に『モノづくりこそニッポンの砦 中小企業の体験的アジア戦略』がある。
伊藤:金型が職人芸の世界だった時代は終わりました。組織人が集団戦法で戦う時代です。個人の能力が高いのは当たり前。その上にチームワークや愛社精神、こだわりが要るのです。
経験者が喜んで若い人を教える、という風土がないと強い会社はできません。中韓にそうした風土は希薄です。日本と近隣諸国とはそこが決定的に異なるのです。
鈴置:“追う者”は近道を選べます。
伊藤:“近道”ばかりを探していると、自ら道を切り開く能力は身に付きません。真似は出来ますが、新しいモノを作り出すという意味で、近隣諸国が10年や20年で日本に追いつけるとは思えないのです。
設計力に加え、もうひとつは、日本にしかない特殊な加工機械の存在です。プレスとは金型という“刃物”で金属をたち切る加工方法です。
先ほど「名刀で大根をすぱっと切ったよう」と言いました。金型という“刃物”を研ぎ澄まして名刀を作ることで、部品の切り口もシャープな断面となるのです。
「名刀」を作る研削盤は日本にしかない
では、どうやって「名刀を作る」のか。金型の表面を徹底的に平らに研削して「超鏡面」――つまり、鏡のように磨きあげるのです。そうすると金型が金属の部材をすぱっと切れるようになります。その結果、このように歯車の形がきれいに抜けるのです。