写真:急増する金属・自動車盗、摘発法令に限界

自動車盗で摘発された外国人らが経営していたヤード。盗んだ自動車を解体し、売却していた=今年2月、岐阜県中濃地域

岐阜県警など有識者会議 県独自で不備是正へ

 岐阜県内で金属・貴金属盗や自動車盗が急増している。背景には金属需要の高まりや、関係法令の抜け穴を突いた不正取引の拡大があるとみられ、昨年は金属盗が前年の約4倍、貴金属盗は同約1.5倍発生。自動車盗も被害者に車両が戻る回復率が初めて2割を切った。事態を重く見た岐阜県警は29日、業界関係者や岐阜県議らを交えた有識者会議を初めて開き、法律の不備を埋めるための全国初となる県独自の条例制定に向け動き出した。

 「そもそも盗品かどうかをチェックする仕組みがない」。県警幹部が明かすのは、法律の不備だ。盗難事件の発生件数の激減に伴い金属くずに関する条例は2000年に廃止されたほか、貴金属と自動車も、盗品の流通形態が巧妙化したため法律の適用に限界があり、取り締まりが困難となっている。

 特に摘発が難しいのは自動車盗。最近の摘発事例などによると、盗まれた自動車はすぐに「ヤード」と呼ばれる作業場で解体され、部品として海外に輸出、売却されている。ヤードの経営は、自動車リサイクル法に基づく県への登録・許可が必要で、県警も各務原市や安八郡安八町など県内に計約100カ所のヤードがあることを把握。だが皮肉なことに、同法が悪質業者摘発のハードルを上げる結果になっている。

 同法では、外部からの侵入防止などを目的に四方を囲うことが義務付けられているため「内部が容易に見通せない」(県警幹部)。また、内部に立ち入れるのは営業許可を出した岐阜県職員のみで、県警に権限はなく、立ち入り検査では「ヤードの入り口までしか行くことができない」(同)のが現状。同法は環境汚染防止や再利用を前提としており、盗品の流通を取り締まるには「大きな問題がある状況」(同)だ。

 有識者会議には、岩井豊太郎県議や朝日大の大野正博教授(刑訴法)、業界関係者が出席。非公開で行われたが、県警によると「法律が時代に合っていない。いろいろな法律を一気に変えるのは難しいので、隙間を是正していくのが必要」などの意見が出たという。同会議は条例制定に向けて年内にあと2回の会議を開き、具体的な内容や手順を詰める。

【岐阜県内での金属・貴金属盗や自動車盗の現状】

 金属盗は昨年566件発生。今年は既に8月末現在で340件発生しており、増加傾向が続く。貴金属盗は、盗品が「貴金属」ではなく「貴金属原料」として古物営業法の規制を逃れて取引されるのが問題化しており、一昨年は222件、昨年は334件発生。また、自動車盗は減少傾向にあったが一昨年に増加に転じ、昨年は724件発生。被害回復率は一時50%を超えていたが、解体・輸出の横行で、昨年は18.9%まで落ち込んだ。