社説:技術の海外流出 官民協調し競争力守れ

毎日新聞 2012年11月02日 02時30分

 高性能鋼板の製造技術を不正取得されたとして、新日鉄(現新日鉄住金)が韓国の鉄鋼最大手ポスコを相手取り、約1000億円の損害賠償を求めた裁判が始まった。

 日本は企業秘密の漏えいに対する備えが甘く、「産業スパイ天国」との指摘もあるだけに、トップ企業が提訴に踏み切った意味は大きい。技術の海外流出は、国内製造業の競争力低下の一因ともいえる。流出防止に官民で知恵を絞る必要がある。

 問題の高級鋼板は新日鉄が独自に開発し、世界一のシェアを持つ。欧米の競合企業は同社からライセンス供与を受けて製造しているが、ポスコは自社開発したとして、シェアを急拡大してきた。

 ポスコは裁判で技術の盗用を否定し、全面的に争う姿勢だ。しかし韓国では、この技術をポスコから中国の鉄鋼メーカーに流出させたとして、ポスコの元社員が有罪判決を受け、その裁判で元社員は「技術は新日鉄のもの」と供述している。

 新日鉄はポスコと戦略提携を結び、株式も持ち合う関係にある。それでも裁判に訴えたのは、技術の優位性を守れなければ、激しい価格競争が続くアジア市場で勝ち残れないとの危機感からだろう。

 国内の製造業はかつて、半導体や液晶テレビなどでも強い競争力を誇ったが、先端技術の海外流出によってシェアを失っていった。今回の裁判は、国内製造業が置かれた厳しい立場の反映ともいえるが、先端技術を守るモデルケースのひとつになることを期待したい。

 政府は産業スパイ対策として不正競争防止法の改正・強化を重ねてきた。しかし、営業秘密を不正に持ち出す場合は処罰できても、在職中に蓄積した知識や経験を転職後に使うことは抑えられない。その境目は微妙であり、実効性に疑問が残る。

 一方、経済産業省が10月にまとめた国内1万社対象のアンケートによると、製造業大手の8社に1社で過去5年以内に営業秘密の漏えいがあった。その半数は中途退職者によるものだ。新日鉄の案件も元社員が介在したとされる。

 ところが、退職後の守秘義務契約を役員と結んでいる企業は製造業大手でも半数弱にとどまる。まだ、自衛努力の余地があるのではないか。

 韓国などの企業は、リストラされた日本の技術者を吸収して競争力を高めた面がある。技術の流出が続けば、国内企業の競争力は一段と低下し、さらなるリストラ、情報流出につながるおそれがある。その悪循環を断ち切るには、企業が自衛の努力を積み重ね、その成果を政府が法整備などの施策に反映させるといった官民の協調が欠かせないだろう。

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