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新しい政治勢力の結集をめざす「第三極」の動きが活発だ。東京都知事を辞職した石原慎太郎氏は、たちあがれ日本を母体に近く新党を立ち上げる。名古屋の地域政党だった減税日本も、[記事全文]
脱原発について、日本維新の会の立ち位置が定まらない。8月に固めた党綱領「維新八策」では、「先進国をリードする脱原発依存体制の構築」とうたっていた。ところが維新の国会議員[記事全文]
新しい政治勢力の結集をめざす「第三極」の動きが活発だ。
東京都知事を辞職した石原慎太郎氏は、たちあがれ日本を母体に近く新党を立ち上げる。名古屋の地域政党だった減税日本も、国政政党に衣替えした。
ともに、橋下徹大阪市長率いる日本維新の会などとの連携に意欲をみせている。
既成政党の惨状は目に余る。地域から新しい勢力が国政に参入すること自体は歓迎したい。
一方で、石原氏のこんな発言は見過ごせない。
「原発や消費税とかは大事な問題かもしれないが、ある意味ではささいな問題」「小異を捨てて大同につくしかない」
本当に「ささいな」問題なら乗り越えることもできよう。
だが、第三極をめざす各党の基本政策は、根っこから食い違っている。
たとえば原発政策。維新とみんなの党、減税日本は脱原発の方向だが、石原氏は脱原発論をこう切り捨てる。
「人間だけが持つ英知の所産である原子力の活用を一度の事故で否定するのは、ひ弱なセンチメント(情緒)に駆られた野蛮な行為」
たちあがれは消費増税に積極的だが、みんなは反対。維新は消費税の地方税化を主張し、減税日本は消費税減税を訴える。
環太平洋経済連携協定(TPP)では、維新やみんなが交渉参加に積極的なのに対し、石原氏は「米国の策略。頭冷やして考えた方がいい」と反対だ。
たちあがれと維新は憲法改正では一致するが、維新が掲げる首相公選制や参院廃止には、たちあがれが反対する。石原氏は「憲法破棄」が持論だが、これには橋下氏が「憲法破棄という方針はとらない」。
ことは、国の針路や国民生活の根幹にかかわる基本政策である。互いの違いを「小異」「ささいな問題」で片付けることは到底、できない。
中小政党が選挙で戦うには政党の枠を超えた協力が必要な事情はわかる。だが、そのために政策を置き去りにするなら「野合」批判は避けられまい。
橋下氏が「カラーが違う」と、たちあがれとの連携に二の足を踏むのも無理はない。
既成政党、とりわけ民主、自民両党もひとごとではない。原発・エネルギー政策やTPPなどで、ともに党内に根深い意見の対立を抱えるからだ。
総選挙に向け、各党は党内論議を尽くして責任ある公約をつくるべきだ。そのうえで、政党の枠を超えた連携には、重要政策のすりあわせが欠かせない。
脱原発について、日本維新の会の立ち位置が定まらない。
8月に固めた党綱領「維新八策」では、「先進国をリードする脱原発依存体制の構築」とうたっていた。ところが維新の国会議員団が先週まとめた公約素案では、それを実現するための道筋がまったく見えない。
素案は「既存の原発は2030年代に全廃する」としつつ、「世界最高水準の原発で国際的貢献を果たす」と原発プラントの輸出を促している。脱原発路線に逆行するような内容だ。
プルトニウムを利用するための高速増殖炉や使用済み核燃料の再処理は「当面凍結」にとどめ、撤退方針を示さなかった。
代表の橋下徹大阪市長は「たたき台だ」とし、さらに議論するという。だが出発点がこれでは、本気で脱原発社会をめざすのか、疑問符がつく。
維新は他党と選挙協力することを前提に政策のすりあわせを始めた。自党の公約の中核が不確定なのに、連携の協議をすることには無理がある。
綱領に「脱原発依存」を明記した維新の原点にたち返り、ぶれずに原発ゼロをめざし、いつどうやって実現させるのかを国民に示すべきではないか。
脱原発も「即時ゼロ」から、みんなの党が唱える「2020年にゼロ」、民主党の「2030年代ゼロ」までさまざまだ。
橋下氏は昨日の記者会見で「安全に対するルールをしっかり決めて電力改革をやれば、原発がどうなるかおのずと見えてくる。原発から違う電力供給に転換していくルールを今構築している」と語った。
橋下氏のブレーンらでつくる大阪府市エネルギー戦略会議は、脱原発社会実現へ向けた意欲的な提言を出してきた。
中間まとめでは、安全のために、運転開始から40年での例外なき廃炉や、使用済み核燃料の総量抑制で運転に歯止めをかける方向性を示している。
橋下氏はこれらのアイデアに財源を示して肉付けし、政策案として取り込めばどうだろう。
経済界は原発再稼働の圧力を強めている。いま政党が説得力ある脱原発の道筋を示してこそ、有権者の判断材料になる。
選挙協力について、橋下氏は「理念、価値観で一致することが大前提だ」という。ならば脱原発で首尾一貫した公約を作り、率先することだ。
今夏、橋下氏は関西電力大飯原発の再稼働に反対したが、最後には容認に転じた。「停電リスクにおじけづいた」と説明した。維新が今後、脱原発を貫けるのか。有権者は見ている。