The Economist

日本の原発作業員:勇敢さと謙虚さ

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(英エコノミスト誌 2012年10月27日号)

「フクシマ50」――原発事故の最前線に立った男たち

福島原発「前日からの顕著な悪化なし」、IAEA専門家

英エコノミスト誌が「フクシマ50」と呼ばれた男たちの話を聞いた(写真は2011年3月14日に撮影された福島第一原子力発電所)〔AFPBB News

友人たちによれば、2011年の災害当時、福島第一原子力発電所の責任者だった吉田昌郎氏は、まるで硫黄島にいるような感じだったと話しているという。硫黄島は、1945年に日本軍が死守しようと雄々しく戦ったが、結局、米軍の手に落ちた北太平洋の島だ。

 吉田氏の部下だった吉澤厚文氏と福良昌敏氏は、当時の苦闘をそれほど生々しく描写しない。

 彼らは事故後初めてのインタビューで、昨年3月11日の地震と津波後の数時間、数日間に、原発から放出される放射線レベルの急上昇に命懸けで立ち向かった「フクシマ50」と呼ばれる男たちの責任感について語った。

 彼らはとりわけ、作業員の家族も多く暮らす地元社会を守りたいという強い思いに突き動かされたという。

カメラから顔を隠した作業員の心情

 だが、英雄的な奮闘にもかかわらず、フクシマ50はいまだに、敗け戦から帰還した兵士が経験するような複雑な感情に苦しんでいる。今も後ろめたさや汚辱感を引きずっているのだ。

 そうした心情は、10月初旬に野田佳彦首相が彼らを招いて感謝の念を伝えた時にもはっきりと分かった。懇談は事故から丸18カ月が経過した後のこと。野田首相が言うように、日本を救ってくれた人たちを称えるにしては随分と長い時間待ったものだ。

 作業員たちは3月11日の後の殺気立った日々がどのようなものだったかを首相に伝えた。彼らを死に追いやる恐れのあった爆発、寒さと暗闇の中で行った電力復旧作業に伴う感電のリスク、放射線を帯びた瓦礫、ビスケットと水以外に食べるものも飲むものもなかった環境――。

 しかし印象的だったのは、出席者8人のうち6人がカメラから顔を隠したことだ。彼らは英雄気分に浸るどころか、自分の身元を必死に隠そうとしたのだ。

 福島第一原発を所有する東京電力は長い間、こうした作業員への取材要請をすべて拒否してきた。だが、機能不全に陥った東電は今や国有化され、政府は初めて、幹部2人に本誌(英エコノミスト)の取材を受けるよう指示した。

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