【2012年10月 更新】
東武鉄道で行く、湯野上温泉郷の旅
湯野上温泉郷
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猿湯伝説が残り、旅館や民宿がひしめく温泉街、湯野上温泉。
その周りには国指定天然記念物がたくさんあった。
会津鉄道の湯野上温泉駅(地図:)は日本でも唯一の茅葺き屋根の駅舎だ。ホームでもお湯が大きな桶にちょろちょろと流れ出されており、温泉地へやってきたという気分が盛り上がる。
湯野上温泉には猿湯伝説というものがある。
闘いに敗れたボス猿が湯に浸かり傷を癒しつつも、もはや飢えて死ぬしかないという状況のときに、通りかかった老婆が握り飯を与えたところ、猿は拝むような仕草をしてから食べたというものや、猟師に打たれた手負いの猿が湯に浸かって傷を癒したという話などがこの地に残っている。
1890年(明治23年)に温泉宿として最初に開業した清水屋旅館から国道121号線を約20分ほど歩くと、神社と足湯がある。そこから登ったところが国指定天然記念物の「中山風穴」(地図:)だ。正式には「中山風穴地特殊植物群落」というらしい。
標高600~800mにあり、約200万年前に地下から現れた火成岩の隙間から冷たい風が吹き出ているという。風穴と呼ばれるその涼しい穴がいくつかあり、この一帯は夏でも気温が上がらないことからさまざまな種類の高山植物が群生している。
神社からアスファルトの坂を登ってくると案内板があった。ウォーキングコースになっていて、6つの指定地に分けられている。
進んでみる。
細い道で木の階段状になっているところや土だけの坂道もある。前夜の雨のせいか、ややぬかるんでいるのがちょっと恐怖だった。
ロープが張ってあり、「危険。ロープの近くを歩かないように」と書いてあるところもあった。
上り下りを繰り返し、結構息が上がってきたところで“風穴”発見。洞窟のようなものを想像していたがそれほど大きくはなかった。近づいてみると、確かに冷たい空気が感じられる。風穴はいくつかあるはずだが、この日はここしか見つけられなかった。というか、足元に気を取られて気付かなかったのかもしれない・・・・・・。
また残念なことに、高山植物の開花時期が過ぎていたため、そこかしこにあるのは葉っぱばかり。それほど知識がないので、あまり「わー!」という感動はなかった。
6~8月上旬くらいまでが花の見ごろらしい。
しかし、アスファルトの道にある冷感体感施設「中山風穴地倉庫跡」というところでは、思わず「わー!」と声を漏らしてしまった。そこは昔、この冷気を利用して食物などを保存していた天然の冷蔵庫のようなものだったらしい。7×5.5mほどの四角く仕切られたところへ入った瞬間、一気に冷気を感じた。霊気ではなく、自然の冷気だ。倉庫跡はふたつある。
しばらく涼んでから気持ちよく坂を降りた。
茅葺き屋根の古民家が軒を連ねる
「大内宿」で名物を食べ、景色を楽しむ
湯野上温泉駅から約6km。腹ぺこなのでタクシーで向かったのが、「大内宿」(地図:)。
車で走る道を見ていたら、歩道もない坂道なので歩かなくてよかったと心から思った。あとで聞くと、その道以外にウォーキングコースもあるという。ただしそちらは10km以上の道のりらしい。
タクシーで正解。すいません、腹ぺこなんです。
大内宿というのは国の重要伝統的建造物郡保存地区に指定されている、江戸時代の町並みが残されている観光地だ。会津若松と日光街道の今市とを結ぶ下野(しもつけ)街道の宿場町だったところで、かつては参勤交代の大名行列や旅人、行商人などが行き交っていた。明治時代になると国道121号線が開通し、この宿場町はひっそりと存在するだけになってしまったが、戦後再び注目を集め、さまざまな人の尽力によって貴重な文化財として保存されるようになった。現在は約400mの両脇に茅葺き屋根の古民家が軒を連ね、その景観はまるで江戸時代のようだ。ただし、飲食、土産物屋、民宿などさまざまなお店が営業していて、観光客もたくさん来てくれている。
ここには観光客がほとんどいない、雪が積もっている時期に来たことがある。
そのときは「三澤屋」(地図:)で名物の「高遠蕎麦」を食べた。
二代将軍徳川秀忠の三男が、信州高遠藩で育ったのちに会津藩の藩主となって以来、この呼び方がされるようになった蕎麦で、三澤屋では水を一切使わず、大根のおろし汁だけで作られた蕎麦つゆが特徴。さらに“名物”らしい特徴は、
蕎麦に長ネギが1本刺さっているその姿だ。ネギで蕎麦を掬って食べるのだ。食べながら薬味としてかじってもいい。
今回は、入口近くにある「分家玉屋」(地図:)の名物、「とりせいろ飯」をいただいた。かまどで炊いたご飯に柔らかく煮込んだ鶏肉を乗せ、タレをかけたもの。
おいしい。
この店はスイーツもあり、隣のテーブルでは女の子同士がおいしそうに頬張っていたのだが、時間と腹具合がギリギリだったので、そそくさと店を出た。
大内宿を奥まで歩く。
土産物屋やじゅうねん味噌を付けたお団子などが炭火で焼かれている。どれもこれも食べたくなってしまう。
じゅうねんというのは別名えごまという、シソ科の植物だ。これも会津名物で、えごま油などはそのまま飲んでもいいらしい。
突き当たりまで進むと、何やら急な階段が・・・・・・。階段の先の高台を見ると数人の人が写真を撮っている。
・・・・・・あ~、そこ、ビューポイントですか・・・・・・。
登らずばなるまい。
神社などにありがちな一段の幅が狭く、やや急な階段を昇った。
「この階段、降りられるかな」という不安もあったのだが、確かにそのビューポイントからは絶景が堪能できた。登って正解。しかも下りは別の道があり、そちらはやや緩やかだった。ホッ。
100万年かけて造られた自然の芸術。
縦に伸びる崖=へつりの壮大さを感じよう
湯野上温泉駅の隣にあるのが、無人駅の塔のへつり駅(地図:)。ここにも国指定天然記念物がある。その名も、駅名そのまんま、「塔のへつり」(地図:
)だ。へつりというのは方言で険しい崖のことを言い、その形が塔のように縦長になっていることから、“塔のへつり”と呼ばれるようになった。
ここは、凝灰岩をはじめとした多種類の岩が互い違いに重なり、それぞれの浸食の度合いが異なることから不思議な景観を創りあげている。浸食によってこのような景観になるまでには100万年かかるともいわれている。
そのへつりは大川の対岸にあり、そこまで行けるように吊り橋が架かっている。
渡ってみる。
吊り橋といっても縄で吊ってあるものではなく、頑丈なケーブルで吊られているので安心だ。しかしそれでもまったく揺れないわけではないので、橋の上でふざけるのはやめよう。
子どものようにジャンプする大人もいた・・・・・・。揺れるからやめてってば。
へつり側に渡ると、浸食された断崖の道を歩くこともできるし、昔からあった自然崇拝的な信仰から造られた菩薩像や神社などを見ることもできる。
またしても急な階段や滑る岩肌などを歩くことになった。しっかりしたウォーキングシューズで来てよかった。それでも歩き方はおじいちゃんみたいだったかもしれない・・・・・・。
近くにはお食事処や土産物屋もたくさんある。マムシ酒にされる前の生きたマムシも陳列されていた。
そこは素通りして、猫へのお土産「マタタビの枝」(100円)を購入して無人の塔のへつり駅へと戻った。
取材・文/はるやまひろぶみ
●「湯野上温泉旅館組合」
http://www.yunokami.jp/
●「大内宿観光協会」
http://ouchi-juku.com/
●分家玉屋
住所:福島県南会津郡下郷町大内権現上358
電話番号:0241-68-2948