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「基金」受け取り7人を差別した
韓国「市民連帯」の人権感覚を疑う



1997.6.1「ハッキリニュース」NO.55
 
 

 5月28日、日本の「アジア女性基金」に反対して韓国内で独自の募金活動を行っていた「強制連行された日本軍『慰安婦』問題解決のための市民連帯」(以下市民連帯と略)は、解散式を行い記者会見した。取材した共同通信特派員は次のように書いている。

 「昨年10月の結成以来、約30億ウォン(約4億円)の募金を目標としてきたが、日本の市民運動から9731万ウォン(約1500万円)を含め5億5000万ウォンにどまった。必要経費などを除き、一人当たり約350万ウォン(約46万6000円)を韓国内の元慰安婦15I人に近く配布する。日本からの一時金200万円と医療福祉事業としての300万円の計500万円を受け取った7人の元「慰安婦」に対しては配布しない。韓国内で従軍慰安婦問題に取り組んできた約40の市民団体が参加していたが、募金額が目標を大きく下回ったことで、今後、日本の一時金の受取を求める元慰安婦が引き続き出てくる可能性もある。」

 結局、韓国の知識人、活動家で構成する市民連帯は、日本からの基金を受け取った7人の被害者たちを切り捨て、見せしめの社会的制裁を選択したことになる。そうするかもしれないということは1月以降、受け取り表明をしたハルモニたちに対する誹謗中傷、様々な制裁的行動で予測はされた。しかし、これまで自国民であり、もっとも悲惨で過酷な体験をさせられた被害当事者に対して、あからさまな差別はしないという韓国の良識と人権意識に一縷の期待を込めてきた。
 1月以降、7人のところに押し寄せ「いくら受け取った?」「通帳を見せろ !」といった脅迫的な言動に始まり、一方で受取拒否するハルモニたちは政府の生活援助金を7人に対し打ち切るように働きかけた(挺身隊問題対策活動便り11号)。韓国政府の生活援助金は打ち切られることなく続いているが、余命いくぼくもない被害当事者にとって、こうした仕打ちは精神的な打撃と怒りを呼んだ。
 「日本からの汚れた金を受け取れば、本当の娼婦になる。7人は娼婦だ!」とまで侮蔑され、金田さんらは怒りの気持ちを電話口の向こうでこの間何度も訴えた。あらゆる活動、行事から7人を疎外する韓国運動体の制裁は、被害当事者の人権を無視した行動で「慰安婦」被害者をさらなる被害者とするものだ。75歳前後で、糠尿、心臓、心身症などの持病を抱える高齢の被害者に対し、私たちは侵された彼女たちの尊厳回復を実現するためにもまず深い人権的な配慮を根本に持つべきだと思う。

 水曜デモで、挺対協代表のユン・ジョンオク氏は次のようにハルモニたちに訴えたという。
 「一部の人たちは、ハルモニたちが日本の募金を受け取ろうとするのをなぜ挺対協は邪魔するのかと言っているが、糖尿病にかかった夫が甘いものを食べようとすれば、涙をのんでもこれを止めさせるのが愛する妻のつとめである。ハルモニたちが、民族の自尊心と尊厳を日本に売り渡すことのないよう我々はハルモニたちを支えねばならない。」と。

 これまでハルモニたちは、「慰安婦」としての悲痛な自己体験を証言しながら、日本政府や日本国民に尊厳と勇気をもって訴えてきた。94年11月、冷え込む国会前の路上での座り込みも、15日間、金田さんたちは自分の体のことも顧みずやりとげた。運動資金が不足しているからと、夜遅くまで寝ずにキムチ作りを必死でやってくれた。6年もの間、裁判の原告として、また運動のなかで先頭に立ち闘ってきたのは被害当事者だったという認識が私たちにはある。そして、基金の受け取りも基金や支援団体の工作といった浅薄なものでなく、深い逡巡と悩みのなかからの主体的な選択だった。私たちは、91年以降、辛い過去を克服して名のり出たハルモニたちの勇気と隠蔽された歴史の事実を自ら証明しようとするハルモニたちの気迫と熱意、努力にむしろ啓発され、ともに学んできたし考えてきたと思っている。その当事者が選択する意思こそ尊重すべきだと考える。

 団体の考える方向と違った選択をしたからといって被害当事者を差別し苦しませ結果的に不幸になるようなことは避けるべきだ。なぜなら、ハルモニたちは決して病人でもなく、自己の体にとって何を食べればいいかはすでに十分ご存じだからだ。仁川在住の李相玉ハルモニが数日前から、危篤に陥っているという連絡があった。また別のハルモニも、腹水がたまって具合が悪いとしきりに訴えている。金田さんは、精神的に落ち込んで「生きてる方が死ぬより辛いよ!」と珍しく弱音をはいている。本当に、この状況で残り少ないハルモニたちの人生は、幸せの方向に向かうことができるのだろうか……。(臼杵敬子)