総合広告代理店の電通が英広告大手イージス・グループを約50億ドル(3984億円)で買収する計画が遅れている。中国の規制当局からの承認がなかなか出ないためだ。同社のイージス買収は日本企業によるM&A(合併・買収)では今年最大級となる。
自国市場に影響を及ぼす日本関連のM&Aに対して中国の独占禁止法絡みの規制当局が審査を先延ばしするのは今回が初めてではないが、今回の遅れは尖閣諸島の領有権をめぐり日中関係が緊迫している時期と重なっている。
電通は7月、イージス買収に合意したと発表、その成立時期については10月から12月になるとの見通しを示していた。
電通による買収計画に対しては、まずオーストラリアと米国、ドイツの独禁法当局が8月中旬までに承認したのを皮切りに、ロシアや英国など他の4カ国も追随した。その結果、関係国でまだ承認していないのは中国のみとなった。
中国の独禁法では、同国に影響を及ぼす海外のM&A案件について規制当局が審査することが認められている。電通によると、イージスと合併した場合、中国内で3番目に大きな広告代理店になるという。
弁護士は中国当局のM&A審査について、通常30日程度かかると指摘する。ただ、それからさらに90日程度ずれ込むこともあり、最悪のケースでは6カ月を要するという。
M&A案件を審査する中国商務省は電通の案件に関してのコメントを控えた。また外務省からもすぐにコメントを得ることができなかった。
ただ、今回の買収案件に詳しい筋の間では、承認に長く待たされるのは尖閣問題が原因ではないかとの憶測が流れ始めている。
一方、電通の広報担当者はこの件について懸念しておらず、中国商務省との交渉は継続中であると述べた。さらに、12月末までの合併成立を目標としていることから、中国当局の審査は時間的にまだ余裕があると語った。
日本企業による大型買収案に対して中国当局の承認が遅れるケースはこれが初めてではない。例えば、鉄鋼大手JFEホールディングスと造船重機大手IHIは、造船子会社の統合を延期すると発表した。
日本の造船会社はここ数年、割安な韓国勢や中国勢との競争で業績が低迷しており、今回の統合は競争力強化に向けた施策とみられている。
統合は当初10月1日に予定されていたが、9月中旬に11月1日に変更された。そして先週には2回目の延期が発表され、予定日は12月1日となった。関係筋の1人は中国当局による承認の遅れが原因だと語った。
中国の独禁法当局による承認を待っている案件は他にもある。丸紅の広報担当者は、同社による米国穀物大手ガビロン・グループ買収計画もその1つだという。ただ、承認手続きの詳細についてのコメントは控えた。36億ドルに上るガビロン買収は5月下旬に発表されたが、成立すれば丸紅は世界最大級の穀物商社になる。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所のパートナーで、中国関連のM&Aを専門にしている中川裕茂氏は、同法律事務所が担当している日中間のM&A交渉に関して、大半はスムーズに進んでいると述べた。ただ、中国の独禁法当局から承認を得るのに予想以上に時間のかかっている案件もいくつかあることを認めた。
半導体製造装置大手の東京エレクトロンの広報担当者によると、太陽電池パネル製造装置のスイスのエリコンソーラーを約225億円で買収する計画について、中国の当局から最近承認を得たという。親会社のエリコンと株式譲渡契約を締結したのは3月上旬であり、中国の承認を得るまでに7カ月かかったことになる。
この広報担当者は10月中旬になってようやく承認されたことに関して、審査手続きが長引いたようだと語った。