吾輩はキメラである、名はまだ無い。
こんばんは名無しのキメラです。
スライムとの戦闘の後に時間を知ろうと思ったが、日の位置から正午頃である事しか分からなかった。
その後しばらくは辺りを探索していたので、今は夜になってしまい薄暗い。
スライムを取り込んだ後は、ずっとスライムに擬態して這って移動していた。
何故そんな面倒な事を?と思うだろうが、知性のある生物に見つかり新種のモンスターだと騒がれても面倒だからだ。
今の俺はレベル2と弱いのに対して、冒険者たちの上級者ではレベルが800に迫る猛者もいるのだ。
勇者でだいたいレベル1000に届くかどうからしいので勝ち目なんて全くと言っていいほどない。
そんなのが調査等と言って出張ってきたら、まず殺られるだろう。
いつかその領域に至るまで我慢である。
屈辱ではあるが今は雌伏の時であると無理矢理に自分を納得させる。
イライラするので気分を変えるために話題を変えよう。
さて探索と言っても何をしていたのか。
それは与えられた知識が正しいのかを自分の目で確め、何か違いが無いかを探していたのだ。
光がほとんど入らず光苔の薄ぼんやりとした光を頼りに、深い森をビビりながら探索するのは心臓に悪かった。
え?
お前、スライムを倒した時に覚悟した癖に今更暗闇を怖がるのかって?
いやいや、暗い森を移動する事は問題無いのだがスライムの視線で動くことが怖かった。
すべてが巨大に見えるのだ、しょうがなかろう。
3メートルもある巨体のオークを見た時なんて、不覚にも圧倒されて身動きが取れなかった。
あれを見てしまった今なら心の底から昔話の一寸法師に共感できる、いや師と仰いでもいい。
あんなのどうやって倒しt・・・・・・・・ん?
一寸法師?
・・・待てよ。
あいつって、腹の中で暴れて鬼を泣かしたんだったかな?
腹の中、強酸の身体、暴れる?
・・・・・フ、フフフ、ハハ、ハーッハッハッハーーーー!!!
勝つる、これで奴に勝つるぞっ!!
アハハハハハハーーーーーー!
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すまん、取り乱した。
冷静になると勝てそうなプランに見えて穴だらけだった。
大体どうやって腹の中に入るのか?
というか、胃酸に耐える胃袋に対して俺の強酸ボディは有効なのか?
うーむ、要検討と言った所だな。
まあいい、今はどこか安全な場所で探検の成果と知識のすり合わせをするとしよう。
おっ、あの木の枝の上なんか良さそうだ。
よーし、あそこに向かて身体の一部を・・・投げるっ!
ビタンッ!
間抜けな音がしたけどちゃんと貼り付いたみたいだな。
後は繋がってる身体を縮めるイメージで飛ぶっ!
うむ、着地成功だな。
絶叫マシンに似て、なかなか気に入ったぞ。
今度からこれで移動しよう。
いかん、ワクワクしてどうする俺。
さて、安全を確保したので今までに分かった事を纏めておこう。
・この身体は基本的に直径80センチくらいの大きな水溜りの様な見た目であるが、自由に変形させる事ができ人型をとる事も可能。人型時は目覚めた時の身体と大差無い。
・身体を構成するスライムの量をある程度増減させる事が出来る。その体積量のどこに隠していたとか、質量保存の法則はどうした等とツッコミ所が満載だったが、異世界という事で納得した。
・HPは休んでいれば時間と共にじわじわ回復した。
・この森はオークと異種族を頂点とした生態系でできていて、多種多様な生き物が生息している。モンスターの強さはゲーム風にいうなら下級から中級の冒険者用のマップくらいと言ったところだろう。
・今の時期の森は繁殖期になっていて、危険なので冒険者は基本的に入ろうとしない。また、生まれたばかりの弱いモンスターが多いので狩りに困る事は無さそうである。
・この森でのスライムの立ち位置は前世のヒトデに近いだろう。目立った天敵も無く、襲われる事は無いのだ。探索中も見つけたモンスターに近づいても逃げられるか、砂や木の棒で追い払われるくらいだった。まあ、好き好んで強酸性の身体を持つ生物を食べようとする奴はいないだろう。
ふむ、好都合な事象が多いな。
情けないがオークは後回しをにして、レベル上げとキメラ術式で身体の性能を上げる事を優先しよう。
今後の方針も決まったことだし、お腹の空き具合を満たすと共に身体の強化も兼ねて狩りに行こうか。
では、運悪くもこの枝の下を通ろうとしているキラーバットに犠牲になってもらおう。
キラーバットは体長70センチ程のコウモリで、大きさ以外は普通のコウモリと違いは無い。
だが、この森の暗闇でも周囲を把握出来るって便利だよね。
欲しい能力だな。
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戦闘を前にして興奮している自分に気付いてしまった。
戦闘狂にはなりたくないぞ。
深呼吸をして心を落ち着かせ、タイミングを測る。
3
2
1
今だっ!
のん気に飛んでいるキラーバット目掛けて、勢いを付けて枝を蹴り矢の様に跳ぶ。
キラーバットはこちらに気付いて避けようとしているが、それを封じるべく身体の一部を触手の様に変化させて伸ばし絡め取る。
キラーバットが俺を振り落とそうと暴れるが、こっちも生き残る為に必死だ。
相手の羽をスライムで絡め取り身動きを封じる。
羽ばたきが止まった事で落下するが、この身体は軽いので地面に衝突する程度ではダメージを受けない。
なのでキラーバットに止めを刺すべく、窒息を狙い相手の顔をスライムで覆っていく。
ドサッ
音を立てて地面に衝突するが想像していたよりも衝撃が強かった。
HPにして3ダメージを受けてしまった。
だがHPはまだ余裕があるので問題ない、続行だっ!
キラーバットは顔の周りに付いたスライムをどうにかしようと噛み付いているが、その程度ではダメージにならない。
ダメージを与えたいなら噛み千切るぐらいしなくては。
今思い出したが、身体を強酸性にするのを忘れていたので強酸に変えておく。
スライムが覆っている辺りから煙が上がり始め、キラーバットが一層激しく暴れだした。
もはや風前の灯といった感じだが、何かの偶然で逃げられても嫌なのでダメ押しをする。
口や鼻、耳から強酸のスライムを体内に注入したのだ。
ビクンッ
と身体を1度震わせるとやっと動かなくなった。
我ながらえげつない事をしたと思うが、これは他のモンスターにも有効そうなので問題無しとしておこう。
これならば振り落とされても、身体の内から確実に仕留められる。
敵に猛毒のバッドステータスを与えるようなものだろう、毒蛇や毒虫などの攻撃と一緒だ。
スライム注入とでも名付けようか?
安直でネーミングセンスの欠片もないが、分かりやすくていいだろう。
さて、何時までもここに居ると他のモンスターに獲物を取られるのでもう一度木の上に行こうか。
安全な枝の上に来たので早速キラーバットを取り込むとしよう。
身体を構成するスライムの量を増やし包み込み、消化しながらキメラ術式を発動する。
前回と同じ様に強い快感を受けて、癖になってしまいそうだが我慢して変化を確認する。
う~ん、目に見える変化は特に無しかな。
まあ、今回は欲しい特徴が無かったからこんなものだろう。
なんで羽を手に入れなかったのかって?
だって、腕と同化した羽では手が塞がって不便じゃないか。
それに気が生い茂る森の中だと飛行は不利だ。
むしろ木の上を移動できるのだから、さっきの様に木の上から獲物を奇襲した方が良いだろう。
まあ、背中に生える翼とかなら手も塞がらないから欲しいけどね。
何よりかっこいいじゃないか。
遅れてきた厨二病なのだろか、深く考えると自分の精神にダメージを与えそうなので止めておく。
さて、目に見えない変化だが感覚が少し鋭くなった気がする。
きっと動物の因子を取り込んで五感が鋭敏に成ったからだろう。
目を閉じると周囲の様子がぼんやりであるが把握できた。
これはコウモリの特性なんだろうか?
この森での狩りに大いに役立ってくれそうだ。
ではメインのステータス確認と行こうか。
ステータス
名前:・・・
種族:キメラ
Lv:2(10)
HP:12/15
MP:4/4
物功:12
物防:10
魔功:4
魔防:5
敏捷:10
スキル
キメラ(1)・・・取り込んだモンスターの潜在能力(成長限界)や欲しい能力を得ることができる。
スライムボディ・・・身体の酸性度を自由に操作できるゲル状の体。また、スライムや溶解液等による攻撃を無効化出来る。
敏律が上がっただけで他は変化無しか・・・・。
なんでだ?
もしかしてキメラ術式は能力の数値を上乗せするのではなく、現在よりも高い潜在能力を得るという、能力を良い所取りをする力なのか?
早い話が今よりも優れた才能の持ち主を取り込まなくては、レベルが上がるばかりで潜在能力は高まらないと言う事だろう。
だとしたら少し不便だな、同じモンスターでも個体によって能力に違いがあるのだから。
いや、レベル上げの為にモンスターを喰いまくるのだから結局同じか。
しょうがない、強くなるために狩りを始めよう。
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