ソフトバンクは、2012年度第2四半期(2012年4月1日〜9月30日)までの連結業績結果を発表した。
ソフトバンクの孫氏 |
■ 連結業績
グループ連結の業績結果は、売上高が1兆5861億900万円(前年同期比3.3%増)、営業利益が4027億円6200万円(7.9%増)、経常利益が3630億円1000万円(15.4%増)、四半期純利益が1694億円3200万円(22%減)となった。増収となった背景は携帯電話契約数の増加による、通信量収入の増加を理由としている。
通期の予想では、国内の営業利益は7000億円としており、2016年度には国内だけで営業利益1兆円を目指すという。
第2四半期までのソフトバンクの資産は5兆381億1700万円で、負債は3兆5173億3500万円。差し引きした純資産は1兆527億8100万円となっている。
なお、営業キャッシュフローは4722億5100万円、投資キャッシュフローは3260億3400万円のマイナス、フリーキャッシュフローは1473億1600万円となっている。投資キャッシュフローのマイナスは、通信関連の設備投資に2728億円9000万円を計上したことや、ヤフーのアスクル株取得などによるもの。
■ 携帯電話事業の業績と販売数など
移動体通信事業の売上は1兆484億4500万円(前年同期比2.7%増)となった。第2四半期の純増契約数は151万2200件。主力のiPhoneなどスマートフォンが堅調に推移したことに加えて、iPadや「みまもりケータイ」の販売が好調に推移したとしている。この結果、ソフトバンクモバイルの累計契約吸うは3046万1200万件、シェアは23.9%となった。
なお、第2四半期までの携帯端末の出荷台数は前年同期より10万2000台多い、499万台となった。新規契約は338万2000件と前年同期よりも19.4万件多く、機種変更も220万2000台と前年同期17万5000台増しとなった。
出荷台数に占めるフィーチャーフォーンの販売数は減少する一方で、スマートフォンやiPad、みまもりケータイ、モバイルデータ通信端末が堅調に推移したとしている。
■ ARPU
一人あたりの月間通信収入を示すARPUは、前年同期から230円減って4070円となった。中でも音声ARPUは前年同期から290円減少して1490円、データARPUは60円増しの2580円となった。
音声ARPUの減少についてソフトバンクは、通話機能がないiPadやデータ通信端末の増加と、事業者間接続料金の値下げによる着信料収入の減少を要因とした。データARPUは、スマートフォン契約の拡大が収入増に貢献した。
■ 解約率とインセンティブ
なお、端末の解約率は1.06%で、前年同期よりも0.03ポイントの微減。機種変更率は1.42%で前年同期から0.11ポイント増えた。機種変更の割合が増えた要因を「iPhone 5」の機種変更数の増加としている。
新規の顧客獲得手数料の平均単価、いわゆるインセンティブは前年同期から7800円減少し、2万3000円となった。手数料単価の低い端末の上昇によるものとしている。ソフトバンクでは、主力のiPhoneについては販売手数料を高く設定しているため、それ以外の端末の販売構成比が拡大したものとみられる。
機種変更時のインセンティブは前年同期2200円減少の2万6400円となっている。
■ Yahoo! BB
Yahoo! BBなどのブロードバンドインフラ事業については、売上高が前年同期比5.6%減少の823億5400万円、営業利益が0.6%減少の195億3600万円だった。Yahoo! BBの累計契約者数自体は増加したものの、ARPUの低い「Yahoo! BB 光 with フレッツ」の契約数が伸びたことで減収となっている。
営業利益の微減しており、販売手数料など営業費用は減少したが、減収を補うほどではなかったため。Yahoo! BBの累計契約数は422万7000件となっており、このうちADSLの契約数は前年同期23万7000件減少の236万4000件、光回線は25.5万件積み増して186万3000件となった。
■ ソフトバンクテレコム
固定通信事業は、モバイル事業の電波中継設備の設置業務の売上げを計上し、さらにグループ内伝送路の貸出が増加したことで増収。前年同期比7.8%増の1919億7800万円となった。
営業利益は26.9%増の346億4000万円となった。おとくライン用の設備のリース料や事業者間接続料金が減少したことを要因としている。
■ Yahoo!
Yahoo! JAPANなどのインターネット・カルチャー事業については、売上高が前年同期比7.8%増の1524億3800円、営業利益が7.6%増の808億7800万円となった。
Yahoo! JAPANの検察連動広告や、「インタレストマッチ」と呼ばれる利用者の興味関心と連動した広告の売上げが拡大した。求人や不動産などの情報掲載サービスの売上げが大きく増加し、データセンター関連やゲーム関連サービスの売上げも貢献した。
■ 孫氏が眠れない理由
ソフトバンクの代表取締役社長の孫正義氏は、プレゼンテーションの冒頭に「運動会の前の日は楽しみで眠れない」と語り、小学生の頃、徒競走が一番速かったと話した。同氏はリレーがもっとも興奮すると話し、アンカーの孫氏にバトンが渡ると、先行する大きな体の走者に追いつき、一人また一人と抜いていくと説明。走者を追い抜いていく瞬間について「たまらないものがある。第3コーナーでは小さな私の足が見えないぐらい回転し、客は大騒ぎになる」などとした。
孫氏は単に過去を振り返ったわけでなく、会社経営のたとえ話として語り、「会社経営には困難が伴い、必ずしも恵まれた条件ではない。しかし立派な競合他社を抜いていく快感は小学校のリレーの快感をはるかに上回る」と語った。
プレゼンテーションで孫氏は、売上高が3期連続で過去最高で、償却前営業利益を意味するEBITDAが9期連続最高益、営業利益が7期連続最高益などとアピールした。EBITDAでは「まず第1コーナーで抜いた」とKDDIの業績を超えたとし、さらに営業利益では「各社それなりの事情がある中、我々は言い訳抜きに営業利益を上げてきた。ドコモを第3コーナーで抜きにいきますよ」と話し、ドコモの背中が見えてきたことを印象付けた。
孫氏は、営業利益の増減率という数値を元に「業界で唯一の増益、営業利益率ではトップ」と続け、北米の携帯電話事業者と比較しても営業利益率が首位であるとした。
このほか、経常利益や純利益、営業キャッシュフロー、純有利子負債、自己資本比率などが改善しているとアピールした。
■ 孫氏、本誌記事を誤解と説明
国内事業について説明する中で、孫氏はiPhone 5について2つの誤解があると語った。プレゼンテーションでは、本誌を出典とする9月26日のKDDIのインタビュー記事が紹介された。
9月26日の本紙インタビュー記事では、KDDIによる調査と明記した上で、au版iPhone 5のLTE網における連続待受時間が225時間、ソフトバンク版iPhone 5が160時間と記載している。孫氏は、ソフトバンク版LTEの電池消耗が早いのではないか? という疑問を自ら掲げ、本誌の記事が誤解でありauより長持ちであるとアピールした。
だが、そこには孫氏自身の大きな誤解もある。9月26日の記事に対し、ソフトバンクがLTEの待受時の接続を最適化したのは10月19日である。事実関係をただせば、誤解ではなくそれは、ソフトバンクが後から対応したものを「誤解」と独自の表現で語ったに過ぎない。
孫氏の説明によれば、10月19日以降、iPhone 5の連続待受時間はauより長持ちであるという。このデータが誤解でないことに期待したい。
■ 二つ目の誤解
もう一つの誤解として、他誌の記事をベースに孫氏が語ったのは、ソフトバンクのLTE基地局に関するものだ。KDDIの田中社長が「ソフトバンクの基地局がオムニばかりで、auが3セクターである」と語ったものである。
簡単に説明すると、3セクターの基地局は1箇所の基地局でバンドの異なる3つの電波を送信するもので、オムニセクターは1つの電波を送信する方式だ。3波を送信できるため3セクターの方が多くの利用者を収容可能で、オムニは収容数が1/3となるが敷設が簡単と言われる。
今回、孫氏はKDDIの主張は誤りであり、ソフトバンクのLTEは大部分が3セクターであると反論した。3セクターかオムニか、KDDI側ではソフトバンク側の主張以降も調査の結果を変更していない。KDDIの技術担当者は10月第1週の時点において、周波数をモニタリングする装置を利用して調査した結果であり、見かけ上3つのアンテナが積載された基地局でも同一周波数、つまり1波しか吹いていないと話している。ただし、基地局設備への小規模な装置追加で3波対応にできるため、後から容易に変更できるものであるとしていた。
なお、本誌インタビュー記事では、10月6日にソフトバンク広報部を通じて申し入れがあったため、記事内にソフトバンク側の主張も記載している。無線電波は目に見えず、どのように周波数が運用されているかは本誌では確認する術がないため、両社の主張を併記する形をとっている。
孫氏は決算会見において、「我々のLTE基地局は数合わせではない」と語り、97%が3セクターの基地局だとアピールした。
■ ソフトバンクが「圧勝」と孫氏
孫氏はまた、週をおう毎にソフトバンクのiPhone 5が圧勝していると話し、auとのやりとりは「局地戦」と表現した。ソフトバンクによると、販売4週目におけるiPhone 5のシェアは、ソフトバンクモバイルが59%、auが41%。
また、最終的には大切な数字は、「売上=契約数×ARPU」であるし、純増数でトップを走り、ARPUも「唯一増加傾向にある」とアピールした。契約数でもARPUでも営業利益でもソフトバンクは圧勝だという。
■ 国内の通信整備、孫氏の語る“都市伝説”
さらに米Sprint Nextelの買収に伴う、国内の通信インフラ整備への懸念について、基地局敷設計画を前倒しして展開していること、連結の設備投資も設備投資額を2012年度に7000億円、2013年度に5500億円に拡大して進めているとした。孫氏は「米国への投資で日本を後回しにするなんてとんでもない」と話した。
LTEのエリア整備については、「都市伝説がある」とし、JR山手線駅で繋がらない点を都市伝説であるとした。
孫氏はホームで計測した結果を公開し、auのiPhone 5と同じく29駅で接続できるとアピールした。ただし、孫氏は29駅に達したことについて、「先ほど昼間に開通し29駅山手線を制覇した」と語っている。少なくともこれまでは事実だったことになり、これから孫氏の言う“都市伝説”になるのかもしれない。
このほか、10月26日の調査として、JR各駅の乗降客数の多い駅1000駅を対象に、iPhone 5の接続状況をチェックし、ソフトバンク版が繋がるエリアが807駅だったのに対して、au版は542駅だったとした。通信速度の面でもソフトバンクが優勢で、平均スループットは、ソフトバンクが5.8Mbpsに対して、auが3.4Mbpsだったとした。
これに買収するイー・アクセスの1.7GHz帯が利用可能になるため、「なおさらLTEのエリアが広くなる」(孫氏)という。
なお、イー・アクセスの買収については、一旦完全子会社とした上で、その後資本比率を下げることも含めて検討しているとした。
■ ガラパゴスでは結局、国内もダメになる
このほか、Sprint Nextelの買収についてあらためて説明し、成長著しい同社への出資はもっともリスクが少ない“買い物”であるとした。
ソフトバンクの出資に対して、証券アナリストが好感しているとして、「歴史的な買い場、うれしい。周りから抜け! と応援されているリレーの走者。買収はけしからんという向きもあるが悪いことはしていない」などと語った。
最後に孫氏は、ソフトバンクが拡大戦略をとることに触れて、経営基盤を強くすることで、世界の最先端のものが手に入るとした。「日本の電子機器メーカーは、世界で取り残されてしまったら結局、国内もダメになる。日本だけで小さくて美しいという考えは、経営には成り立たない。世界と競合していかないといけない。かつて日本のケータイは日本のユーザーにもっとも喜ばれるという説があったが、結局それはガラパゴスで、スマートフォンが売れている。井の中の金魚ではなく、大海に飛び出すリスクを取りに行く。クレイジーなことである。世界規模で勝負をやり続けていかなければならない」などとした。