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【放送芸能】

指揮者西本智実 自らオケ結成 2、3日に上野で記念公演

 燕尾(えんび)服に身を包み、鋭敏な動きでオーケストラをぐんぐん引っ張る。さっそうとした演奏風景、凜々(りり)しい容姿に、同性の女性も熱い視線を注ぐ指揮者・西本智実。今秋、自らプロデュースしたオーケストラを旗揚げし、新たな目標に向かって歩みを始めた。西洋音楽と接点を持った祖先の血が、自らの体に受け継がれていることも強く意識しながら。 (安田信博)

 江戸幕府の弾圧を逃れた隠れキリシタンの里として知られる長崎・生月(いきつき)島。西本智実の母方のルーツをたどると、南北約十キロ、東西約二キロのこの小島に行き当たる。

 島では、「オラショ」と呼ばれる祈りの歌が、口移しで、絶えることなく今日まで歌い継がれている。宣教師らによって西洋から伝えられた“聖歌の灯”は、信者たちの命がけの行為で守られた。原曲は誕生の地、スペイン・グラナダ地方でも伝承されておらず、楽譜だけが残されている。西洋音楽の道に進んだ西本は最近、先祖に深い関心を寄せ、調査を始めた。キリシタンであるゆえに離縁させられた人もいたことを知った。

 伯母は音楽大学卒業後、カトリックのシスターになった。演奏会では、暗譜している曲でも譜面を前に置いて指揮するスタイルは、この伯母の影響を強く受けてのものだ。

 教会で神父は、信者にイエス・キリストの教えを伝える際、必ず聖書を手にして朗読するという話を聞かされた。「作曲家とつながっていたい。だから、そこに楽譜があることが大事なんです」。作曲家への敬意の表れといってもいい。

 高校二年の春。「箕面の滝」で知られる大阪・箕面公園に出掛けた。モミジの樹木が風に揺られている様子にひかれ、木の下にたたずんで眺めた。それぞれの葉は、一つとして同じ形のものはなく、揺れながら光と影を成している光景を見て、感動で涙腺がゆるんだ。その美しさに、「音楽的なものを強く感じた」という。音楽家への道を志す大きな体験となった。

 研ぎ澄まされた感性は、生来のものだ。四歳の時、ボリショイ・バレエ「白鳥の湖」を見て、熱が出るほど感動。親しんだクラシックで、同じ曲でもレコードによって音色やテンポに違いがあることに気付く。音大出身の母親に疑問をぶつけると「指揮者が違うからよ」。指揮者の存在に目が向いた。

◆クラシックの枠を超え

 「今までの既成概念にとらわれない形で発信していきたい」−。数年来の思いを具現化する第一歩として、自身のプロデュースによるオーケストラ「イルミナートフィルハーモニー」を発足させた。啓蒙(けいもう)、輝き、光明などを意味するラテン語を語源にアート(芸術)を組み合わせた造語で命名。オーケストラの首席経験者、内外で活躍する若手奏者を中心に活動を始めた。

 今後はバレエダンサー、オペラ歌手、さらにはクラシックの垣根を越えて美術、衣装、空間デザイナー、アニメーション作家なども加えた「総合芸術家集団」に発展させていくという。海外にもネットワークを巡らせて、国境を超えた活動も視野に入れている。「理想の劇場とは何かを、化学反応を起こしながら、ソフトの面から追い求めていきたい」

 生月島の「オラショ」のメロディーから採譜して、オーケストラと合唱で再現する構想も温めている。

 十一月二、三の両日、東京・上野恩賜公園野外ステージでオーケストラの結成記念コンサートを開く。

 会場は、「光のアート」で知られるインタラクティブアーティスト・松尾高弘さんによる照明技術と映像で彩られ、手作りで積み上げていく音色とによる「科学と自然の対比」を際立たせる。野外ステージを何度か経験している西本は「目に見えない音が、風で流されていく不思議な現象を体感した。皆さんにも、五感を働かせて自分の中でクリエーティブな作業をしてほしい」。

 ※開演は二日午後六時、三日午後五時。曲目はムソルグスキー「はげ山の一夜」、スメタナ「モルダウ」など。結成記念コンサート事務局=(電)03・3505・1322(平日午前11時〜午後4時)。

 にしもと・ともみ 1970年4月、大阪市生まれ。大阪音楽大学作曲学科卒業後、ロシア国立サンクトペテルブルク音楽院オペラ・シンフォニー指揮科に留学し、ゲルギエフらを育てた名匠イリヤ・ムーシンに師事。ロシア国立交響楽団、サンクトペテルブルク国立歌劇場の各首席客演指揮者を外国人で初めて歴任。近年は欧州各地から米国にも活躍の場を広げている。9月、イルミナートフィルハーモニーオーケストラ芸術監督兼首席指揮者、日本フィルハーモニー交響楽団ミュージックパートナーに就任。11月24、25日には自身のプロデュース公演オペラ「蝶々夫人」を、東京・オリンパスホール八王子で上演する。

 

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