阿部
「39人。
これは、去年(2011年)1年間で、児童虐待によって命を奪われた子どもの数です。」
鈴木
「歯止めのかからない児童虐待をどうすれば減らすことができるのか?
今、関係者が注目する取り組みがあります。
こちら、名古屋市の児童相談所に誕生した『児童虐待・緊急介入班』です。
虐待の疑いがあれば、子どもを親から引き離す『一時保護』を専門に行うチームです。
全国でも珍しいこの取り組みに密着しました。」
泣き叫ぶ、幼い女の子。
親から虐待を受けた可能性があるため、一時保護されました。
保護したのは、名古屋市の児童相談所にこの春、誕生した「緊急介入班」のメンバーです。
「緊急介入班」では、子供の命を最優先に考え、確かな証拠がなくても虐待の可能性が高ければ、一時的に親から引き離すことにしています。
抵抗する親とのトラブルに備え、現役の警察官もメンバーに加わっています。
虐待緊急介入班 八木健太郎さん
「誰だってお子さんと引き離されるのはいやですけど、泣かれようが、どなりこまれようが、保護しない理由には全然ならない。」
この日、「小学生の女の子が虐待されている」という情報が、電話で寄せられました。
「子どもが聞いたと。
親しくしている友人にあざを見せたと。
普段はあまり着ない、あざが見えないような(服を着ている)。」
「母親から叩かれた」という女の子。
あざを隠すため、暑い日でも長袖の服を着ているといいます。
すぐ学校に連絡をとります。
虐待緊急介入班 八木健太郎さん
「中央児童相談所の八木と申します。
本人に、できれば会って一時保護ということも我々としては検討している。」
学校に向かった緊急介入班。
女の子の腕と足に複数のあざを確認し、一時保護することになりました。
保護した後、より深刻な虐待の実態があきらかになりました。
「子供のおしりが真っ赤にはれあがっている。
モノを使ってたたいています。」
児童相談所に呼び出された母親は、しつけがエスカレートし、歯止めがきかなくなったと、虐待の事実を認めました。
すばやい一時保護によって、早期に虐待を食い止めることができました。
虐待緊急介入班 八木健太郎さん
「命に関わらないという保証はない。
一時保護以外の方法があれば、それをすればいいと思う。
それがないので一時保護という手段をとっている。」
これまでに70人以上の子どもたちを一時保護してきた緊急介入班。
チームが作られたきっかけは、去年、名古屋市で起きたある事件でした。
中学2年生の男子生徒が、母親の交際相手から頭や胸を何度も蹴られ亡くなった事件。
児童相談所は虐待の事実を知っていましたが、指導すれば状況が改善すると考え一時保護に踏み切らず、最悪の事態を招いたのです。
名古屋市中央児童相談所 羽根祥充主幹
「中学2年生のお子さんが死亡したことの反省に立って、迅速にまずは一時保護を最優先に考えなっければならない。」
二度と同じ過ちを繰り返すまいと始まった、一時保護の強化。
成果を上げる一方で、あらたな課題も浮かび上がっています。
親と子を引き離すことによって、思わぬ事態が起きることがあるのです。
この日、緊急介入班が向かったのは育児放棄の疑いがある家庭です。
担当者
「こんにちは。
お母さん、こんにちは。」
1歳の赤ちゃんがいる母子家庭です。
ミルク代に困るほど生活が困窮し、週1回しか風呂に入れていませんでした。
このままでは危険だと考え、赤ちゃんを一時保護しました。
しかし、3日後、担当者が自宅を訪ねると、予想外のことが起きていました。
母親が外泊を繰り返すようになり、家にほとんど帰らなくなってしまったのです。
結局、赤ちゃんは施設で育てられることになりました。
担当者
「お母さんにしてみたら、子供さんがいないから、あえて帰らなくてもいいのではというのもあるんだと思う。
(子供を)預かったことで、お母さんがもっとお母さんじゃなくなる。
残念だけど、あります。」
一時保護したことで、親子の関係が壊れてしまうという現実。
子どもにとって、本当に正しい選択といえるのか、迷いながら取り組みが続いています。
担当者
「それは簡単です。
こっちも安心できるから、保護してしまえば。
その子が本当に将来(保護されたことを)よしとするかは、その後の人生に関わる。
いいのかなと、いつも悩みます。」
阿部
「『一時保護』が強化され、成果を上げる一方、新たな課題も出てきているんですね。」
鈴木
「専門家は、虐待の可能性が高ければ、子供の命を守るために一時保護は欠かせないとしています。
一方、今、見たように一時保護をきっかけに、親の自覚が失われてしまうケースもあります。
専門家は、親に対して粘り強く指導を続け、再び子供と暮らせるように支援する必要があるとしています。」