脊髄性筋萎縮症

・疾患の概要
 脊髄性筋萎縮症(SMA) は、進行性の筋力低下を主徴とする常染色体劣性遺伝病.このうち乳児期に発症するタイプをSMA1またはWerdnig-Hoffmann病という.原因は神経学的には脊髄前核細胞の異常であり、遺伝学的には染色体5q13.1のSMN遺伝子領域の欠失.90%以上にSMN遺伝子のエクソン7-8領域の欠失を認め、この欠失PCRで比較的簡便に検出できる.患児で遺伝子異常が確定すれば、出生前診断は技術的には可能.

・臨床像
 
SMA は、出生後まもなく筋緊張低下で明らかになる.他の筋緊張低下疾患との鑑別 が問題になるが、仮性肥大がない点でDuchenne型筋ジストロフィー症と、発達遅滞がない点で福山型型筋ジストロフィー症や筋強直性型ジストロフィー症と、筋力低下に改善傾向が見られない点でPrader-Willi症候群とそれぞれ鑑別 可能である.SMAのタイプは3つあり、タイプ1は急速に進行し呼吸筋も侵されて1歳頃に死亡.タイプ2はそれに比較し進行は緩徐で座位 や一人立ちまで可能となり10 歳ごろまで生存.タイプ3はKugelberg-Wellander病ともいわれ、成人発症の進行の緩徐なタイプ

・ 発症機序
 
ホモザイゴシティー・テスト(兄弟間の遺伝的相同性解析)により染色体5q11.2-q13.3領域に遺伝子座があることが明らかにされ、この領域内の逆向き重複DNA領域内におよそ半数の患者で欠失を有することが明らかにされた.この欠失内にはNAIP遺伝子とSMN遺伝子が存在し、とくにSMNのエクソン7-8領域は90%以上のSMA患者の欠失共有領域であることが明らかにされ、この欠失の同定が、現時点でもっとも検出率の高い診断方法となっている. NAIP遺伝子の欠失体を神経細胞に導入すると細胞死が生じたことから、この遺伝子の欠失が患者の神経細胞内でも異常を起こしていることが推測されている.SMN遺伝子は、PWSのSNRPN遺伝子のようにRNAスプライシングに関与しており、マウスで脊髄で発生初期から生涯発現していることが確認されている.Smn遺伝子をホモでノックアウトしたマウスは脊髄や筋に顕著な障害を認めて胎生期に死亡し、神経組織だけに発現低下を起こしたコンディショナルノックアウトマウスにおいても振戦などの神経症状と神経細胞核の著減を認めた.この遺伝子に異常を有するテトラサイクリン系コンディショナルモデルも作成され、発現を回復させたところ症状も改善したとの報告もある. 一方で、SMN遺伝子欠失は重症のSMAタイプ1・中等症のタイプ2・重症のタイプ3のいずれでもみられ、欠失の大きさと臨床的タイプとの相関もみられていない.したがって重症度や症状の差異を決める因子がこの遺伝子以外に存在すると想定されるが、そのような因子については全く不明.

・ 遺伝子診断法
  SMNのエクソン7-8領域の欠失をPCR法で同定する方法で、90%の患者を診断できる.

遺伝子診断手順

・遺伝子診断依頼可能施設
  国内の検査会社で診断サービスを行っているところはない. 遺伝子解析は国内研究施設で行っている.その最新情報については、いでんネットを参照のこと.

・ 遺伝子診断に際しての配慮事項  
  常染色体劣性遺伝病であるので、両アレルで異常があることを確認する必要がある(通 常両アレルとも欠失).これが確認できれば、十分な遺伝カウンセリングを行った後、その情報をもって出生前診断を行うことが可能.

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