若干番外編気味に。「事故調査」と書いていても、多分これは通じていないなと感じたので。



 勝手に「委員会」にされて、私も気付かずうっかり「委員会」と書いていたことも何度かありますが、私達の行なっている事故調査は誰かに委任されているものではないため、委員会には当たりません。この事故調査・委員会という言葉がどこから出てきたかというと、2008年まで存在し、現在の「運輸安全委員会」の元になった「航空・鉄道事故調査委員会」でしょう。そして実際私達の事故調査も、ほぼこの航空・鉄道事故調査委員会を基本とした姿勢で行なっています。


 1986年、東急東横線横浜駅で、負傷者すらいない小さな脱線事故が発生しました。現場は構内の急カーブ部分でしたが列車は十分低速で走行しており、原因は最初は謎でした。が、この事故を起こしたのが新機軸を多数採用した東急の当時最新鋭の車両であったためもあり、東急は調査を進め、原因「輪重比の不均衡」を究明し、具体的な管理基準なども決定し対策を行いました。

 東急はこの調査結果を公表していましたが、現行の運輸安全委員会は当時「航空事故調査委員会」であり鉄道事故は管轄外、運輸省も他事業者への通達などを出しませんでした。そして2003年、死傷者69名を出す大惨事、営団地下鉄(当時)日比谷線での列車脱線衝突事故が発生します。原因は正に「輪重比の不均衡」で、その度合いは東急が策定した管理基準のゆうに3倍にものぼっていました。



 この事故は、事故調査委員会の存在理由を余りにもよく語っています。実際この事故を契機に航空事故調査委員会は航空・「鉄道」事故調査委員会へと改組されたのですから。

 今回のこの空折結婚式のトラブルも、内々で原因の調査を行なって、知り合いの間だけで調査結果を活かすこともできますし、多分その方が波風は立たないでしょう。もし後に同じ原因で同人トラブルが再発したとしても、空折結婚式のトラブル原因を公開しなければ「同じ原因」であることが特定されませんから問題ありません。

 ですが、本当にそれでいいのでしょうか。「それでいい」と言えるのであれば、私達は事故調査報告書を作ろうなどとしていません。



 もう1つ。航空・鉄道事故調査委員会の調査が警察・検察などの調査と大きく異なるのは、事故の再発防止を目的とする調査であり、関係者の責任を問うことはしない点です。事故原因を調べる上で、「当事者しか知らない情報」というのは結構あります。その中には当事者が情報の存在を明かさなければ、情報があることすら分からないものもあります。ではもしそれが、事故原因究明に直結するもので、かつ当事者の過失などを証明してしまうものであれば、どうなるでしょう。情報は明かされず、正しい事故原因が判明せず、事故は再発し、甚大な被害を出すこととなります。

#これを「社会的責任を鑑み情報を公開すべきだ」と当事者を叩くのは、適切とはいえません。刑事では「何人も自己に不利益な供述を強要されない」という自己負罪拒否権がありますし、民事でも(基本的に黙っていると不利になるとはいえ)供述の義務はありません。

 ですから事故調査委員会の調査においては、関係者の責任を問うことはしません。そしてこれは私達の報告書でも同様です。イベントに関わった個人や機関の責任を、私達の事故調査及びその報告書で問うことはしません。それは刑事ならば警察・検察によって、民事ならば当事者間、或いは互いが指定する第三者によって行われるべきものです。よって事故調査報告書についても、イベントに関わった個人や機関の責任を問う場合に、報告書そのものを責任追及の根拠にできない旨を明記させて頂きます。(する人はいないでしょうがね)

 この報告書作成は、基本的に個人が勝手にやっているものです。そして、ここまでが個人がやることができる1つの限界点であると考えています。個人がやっている限りなので、警察のように強力な捜査権もなければ、調査結果に特段の効力を持たせることも不可能。報告書で責任を問うのはそもそも無理というものです。ですが「事故調査」の範疇において、責任追及を行わず事実調査をすることは、個人でも可能な範囲です。そして同人イベントで同じようなトラブルが起こることを防ぐには、これは十分有効な調査になります。




 以下おまけ。「事故調査委員会」は可能であれば、なるべく中立な立場であることが望まれます。「可能であれば」と言ったのは、場合によっては内情をきちんと把握している人があまりにも少なくて、そうできない場合が往々にしてあるのですね。今回は正にそのケースで、中小規模同人イベント×大規模な郵便物未達というのは前代未聞のケースだと思われます。とはいえ中立性の重要さには変わりがなく、私達の場合、なるべく誰もが見ることができるレベルまで公開された情報を根拠として報告書を作成するよう心掛けています。ところがすると今度は、事故調査委員会に求められる他の要素である迅速性が阻害されるのですね。事故が再発した後では遅いので、迅速性も求められるのです。同人イベントで同様のトラブルはそうそう発生しないだろうと思って私達は迅速性をかなり切り捨てています(というか中立性と両立させる方法がないので切り捨てざるを得ない)が、本来はあまりいい事ではないです。「独自調査による情報から」「迅速に」結論を発表して「勧告などを行う」のが本来の「事故調査委員会」ですが、ここは個人の限界ということで容赦頂きたいところです。