■感想 神山健治監督『009 RE:CYBORG』(サイボーグ009)
【本予告編】 『009 RE:CYBORG』 PH9 公式 - YouTube
PH9 神山健治監督作品(最新作『009 RE-CYBORG』)(公式HP)
■素晴らしい3D映像のエポック
『009 RE:CYBORG』+初日舞台挨拶を名古屋109シネマズで観た。
まず、期待していた3D映像が凄い(^^)!このような刺激的な映像を観せて頂き、プロダクションI.Gと3Dを担当したスタジオ サンジゲン、サブリメイション、ラークス・エンタテインメントに最大限の感謝を捧げたい(^^;)。我々観客のために、素晴らしい仕事をありがとうございます。
立体映画としては『アバター』と同様に大きなインパクトがあり、そして日本アニメのセルの手法(リミテッドアニメーション)を正統進化させたエポックメイキングな作品だと思うので、まずその点から感想をまとめる。
まず結論を書くと、3D CGなのだけれどセルライクな2Dの絵に描き割りでなく、スムーズな奥行きが付けられた不思議な映像空間が現出している。
実写3Dやピクサー3Dは元々立体であったものを3D空間で両眼視差を持たせたカメラで撮ってきてるけど、この映画は平面絵画を立体化したような観たことのない映像、それが「RE:セルアニメ」(^^;)といったエポックを達成している。
セルの2Dキャラが、その塗られたセルのテクスチャーそのままで、そこに立体物として肉体を持ってしまった不思議な映像。絵画が立体視化したような、そしてそれによってもたらされた奇妙な実在感。
セルアニメで育った僕ら世代の日本人と、そうでない世界の映画鑑賞者ではこの実在感を受け取り方は、もしかしたら大きく変わるのかもしれない。
ある約束事/記号として、その画面の中の実在を認識しているキャラクター達の受容の仕方の差。
これは想像にしか過ぎないけれども、この約束事が脳内の認識回路に生じていない人間が観たら、別の感触を持つかもしれない。だが、セルアニメで育った僕らは、この映像に間違いなくある種異様な実在感を持ってしまっていると思う。これが、不思議な映像の第一点。
そしてもう一つ、映像の中で特筆すべきは、立体視による高高度の空と海上の船舶の波の透明感。息を飲む美しさ(^^)。
名アニメーターが雲や海を動画で表現した時、2Dが立体的な空間の映像を脳にもたらす事があるけど、この映画の映像は元々立体であるため、その透明感、空気感が凄い。奥行きを持った眼の前の空間として、映像が存在している。
まさに手描きで表現される絵画的な平面世界とコマの数を自在にコントロールするリミテッドアニメーションの立体化は、日本アニメの正統な進化型である。
端正なイラストレーターの画が立体で動いているような息を飲むシーンが幾つもあった。『アバター』の3Dの魅力とは明らかに異なる立体映像のエポックと言えると思う。
クライマックス付近の壮大な空の映像は、美術の竹田悠介さんの功績がでかいと思う。素晴らしい背景画。
■ハリウッドエンターテインメントへの挑戦
Twitter / kixyuubann(神山健治監督) (shamonさん経由)
"自分の中に、日本人が撮った、日本人主役の洋画と言う裏コンセプトもあったので、これは嬉しい感想です。ありがとうございます。続編作りたいですw~"
ここで神山監督が語られたコンセプト通り、洋画まさにハリウッドエンタテインメントと同様の規模感と迫力を持った作品として仕上がっている。
緊迫感のある引きつけるドラマも、畳み掛ける様なアクションも素晴らしく楽しめる。同じドバイのブルジュ・ハイファのシーンがあるので敢えて比較すると、『M:i:III』を超える超高速のアクションにドキドキする。
この予算で(幾らか知らないけどw。数十分の一?)、ハリウッドの一級エンタメに張り合えてる。
さらにそれに加えて、いつもの練りこんで高密度な神山ドラマの展開が加わり、一級の知的アクションエンターテインメントになっている。
ただ海外では009自体が知名度ないだろうし、アベンジャーズより映画だけでわかるようにキャラの説明が丁寧にされているわけではないので、北米で闘うのは難しいだろう。なので、まずサイボーグ戦士9人の能力とか設定さえ理解させるPRをすれば、米国公開でもかなりヒットするのではないだろうか。
ひとつ心配なのは知的すぎて(^^;)、次で述べるテーマ部分がエンタメとしては過剰なため受け入れられるかどうかの心配は残る。なにしろミルチャ・エリアーデですから。
--------★★★★★★ 以下、ネタバレあり ★★★★★★-------
■テーマ “全人類の正義とは何か?”
石ノ森章太郎が遺した“問い”に挑む。神山健治監督が語る『009 RE:CYBORG』 (ぴあ映画生活)
" 神山監督は冷戦が終わり、正義が乱立し、国家の枠組みが溶解しようとしている2012年に…「かつて石ノ森先生は“全人類の総意が悪を生み出すわけだから、人間がいくら頑張ったって悪が滅びることはないのだ”という結論を出してしまっている。でも、そうであるならば、人類と対決するのか? そもそも神とは何なのか?そういったことを描いて行く中でエンターテインメントとしての落としどころを喪失したのではないかと思うんです。だから僕なりに そこに挑戦してみようと」。
映画の舞台は2013年。世界各地で起こる無差別テロ事件はみな“彼の声”と呼ばれる謎の指令に従って行われ、009こと島村ジョーの耳にも“彼の声”は届く…「グローバル化していく中で“多国籍
軍”のような009が必要とされなくなり、有史以来、最も個人主義が台頭している。だからこそまず“悪”ではなく“全人類の正義とは何か?”を考えたんで
す。それは現実に照らし合わせるとありえないこと。でも、人類が危機に瀕し、それを守ろうとする状況を描くことで、石ノ森先生が考え抜いて、棚上げした問題をみんなで改めて考え直そうということに立ち返ったわけです」"
神山健治作品としては、まさに『SAC 2nd』『東のエデン』に繋がる社会的なテーマ性が高い。そして上に述べられている様な石ノ森章太郎の原作が持っていた社会性と解かれなかった問題の、現在的な神山監督の解答のアプローチ。
舞台挨拶では「国家、個人が優先される現在、シンプルにこれが正義と言えない中、どう正義を描くのかに注力した」と語られた。
その部分については、まず上の石ノ森009の“全人類の総意が悪"という認識から、ある意味、一度すべてが滅んでしまっても良いのではないか、というような視点が前半で映画として提示されている。
ここは神山監督作を見続けてきたファンとしては、まずえっと思った。まさかそんな視点が神山作品で提示されるとは思っていなかったから。
ただここで引用した神山インタビューにあるような、石ノ森作品から出発したことによる部分が強く出ていたのでしょう。映画を見てから、これを読んで少し納得した。(観賞後は、ここまで監督の世界認識が暗く重くなってしまった理由に想いを馳せていたのだが、、、w)。
そしてその後、描かれるのは、神山監督らしいわずかな希望へ掛ける登場人物達の死闘。「水は低きに流れ、人もまた低きに流れる」この認識との戦いと垣間見える可能性。
■神山健治の『神狩り』
SFとして観ると押井守の「天使の化石」コンセプトと、「彼」の解釈部分が上の問題と絡み合って興味深かった。
これも未完の石ノ森作品にひとつの決着を付ける位置づけなのだろうけれど、従来の社会派な神山作品にはなかったアプローチ。
「SWITCH」2012年11月号Vol.30 No.11の神山健治監督インタビューで、押井とコンセプトの話をしている時に、山田正紀『神狩り』の話も出ていたという。
僕が想起したのは、まさにこの『神狩り』。この009の物語も、神山健治によるまさに神との戦いなのである。
山田正紀は、この映画ほど神の正体をズバリと書いていない。
ただ読み込んでいくと、書かないけれども(書いてしまうと詮無いw)、まさに同等のことを言っている様に読める。
神山監督は、この神の解釈について、論理的に納めすぎている様な気もするけれども骨太なコンセプトが映画を刺激的にしている。(押井守の衒学趣味が神山監督に乗り移ったかの様な高密度のセリフ、あれは加速装置がないと聴き取れませんw)
ラストの美しい宇宙と西欧の崩れかけた水の都市の光の光景。
映画的には、特に水の都市の意味がストーリー的に疑問を残しており、観客の想像力に大きなきっかけを残しているあのラストをどう受け止めるかで、神の問題もふくらみを持ってくる。僕自身はそこにある齟齬をまだ解釈出来ずにいるので、もう一度観た時はその解釈をどう考えるか、という視点になると思う。
■その他 初日舞台挨拶 他
舞台挨拶において、映像面で石井プロデューサーからビッグニュースがあった。
10/27に、アメリカの立体3D映像協会の会長が日本で『009 RE:CYBORG』を観て「ハリウッドの3Dに負けない作品。是非、来年2月の3D映像協会の大会へ正式出品を」とコメントしたとのこと。
この会長は、Twitter / 3d3d3d_infoさんの情報によると、この週に開催された国際3D協会 ルミエール・ジャパン・アワード2012 授賞式で、来日していたI3DS:International 3D Societyの会長 ジム・チャビン氏のことではないかとのこと。国際的な3D映像の研究者、開発者に新しい日本の3D映像がどう受け止められるか、たいへん興味深い。
舞台挨拶でスカイウォーカーサウンドについて。
アカデミー賞受賞経験のあるサウンドデザイナー トム・マイヤーズが、神山版『009』のPVをYoutubeで観たことから採用されたということらしい。
当のマイヤーズから「まだサウンド担当が決まってないならやらせてほしい」とオファーがあったそうなのだ。
もともと押井作品『イノセンス』や『スカイクロラ』はスカイウォーカーサウンドなので、関係は深いがこのオファーも素晴らしいなぁとファンとして感慨w。
まさに、本格的な映画の香りにあふれた作品になっていたのは、舞台と物語の規模感に加えてサウンドの充実が貢献度大でしょう。厚みがあって迫力がすごかった。
加速装置シーンはまさにそれ。
舞台挨拶では氷河の下の音を流して、加速シーンであることを、観客に無意識に理解させる試みとのことだったけれども、その試みは成功している。
最後に蛇足だけれど、、、今回の3D映像のもう一つの大きな可能性について。
ある意味、2次元萌えが欲する理想型がそこにあったのかもしれない(^^)。
『009
RE:CYBORG』の切り開いた進化したセル立体視映像の金脈の一つは、2Dキャラ萌えの世界のオタクに、眼の大きい娘の理想的立体像を提供できることなのかもしれない。それは眼の前に立体として存在してしかも動くのであるw!
のちに動かない立体であるフィギュアは、過渡期の産物であったと呼ばれるのではないか(^^)と、萌えとは違う003を観ながら思ったので、究極映像研の予言として書いておく(ギャグギャグww)。
◆関連リンク
・『アニメスタイル 002』
・『神山健治 (文藝別冊/KAWADE夢ムック)』
・『SOUND OF 009 RE:CYBORG』
・『009 RE:CYBORG THE COMPLETE』
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