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原発への依存度が高い関西電力をはじめ、電力各社が値上げを検討している。原発の代わりに動かしている火力発電の燃料費がかさんでいるためだ。火力への依存[記事全文]
景気の急速な冷え込みを防ぐため、日本銀行が2カ月連続で追加の金融緩和を決めた。政府と日銀が一体でデフレ脱却に取り組むという異例の共同声明も出した。[記事全文]
原発への依存度が高い関西電力をはじめ、電力各社が値上げを検討している。
原発の代わりに動かしている火力発電の燃料費がかさんでいるためだ。
火力への依存が高まることによる当面のコスト増は、ある程度、利用者全体で広く薄く負担するのもやむをえまい。
しかし、それも電力会社が先々の電力供給や経営のあり方を真剣に見直したうえでの話である。それなくして、値上げには説得力がない。
原発への新しい安全基準は、来年7月をめどに原子力規制委員会がまとめる。追加的な対策をとるのが難しく、稼働が認められない原発も出るだろう。
運転寿命を40年とする規制を厳格に適用する方針は、すでに示されている。大飯原発など、活断層の存在が懸念される原発もいくつかある。
こうした危ない原発、古い原発から閉めていくことになる。
廃炉には多額の費用がかかるが、まだ十分に引当金を積めていないところが少なくない。
そうした状況を考えれば、経営戦略を早急に切り替えなければならない。
事業を見直し、経営の無駄をとりのぞく。安全対策費がかさみ、維持だけでお金がかかりすぎるなら、自ら原発を閉める選択肢もある。
世界一高いとされる液化天然ガス(LNG)の購入費も、政府の支援などを得ながら調達先を広げるなどして下げていく必要がある。
効率のいい新型火力や自然エネルギーなど、新たな電源を確保する。利用者に省エネ・節電を促す新しいビジネスを活用していく。やるべきことは、山ほどある。
ところが、各社の発言を聞いていると、まだ全ての原発の存続を前提に、当座をしのぐ策ばかり練っているようだ。
政府・与野党も、エネルギー産業の構造改革に向けて早く議論を深め、電力会社が自ら脱原発へと動くような枠組みを講じていくべきだ。
実際に値上げ申請となれば、少なくとも家庭向けの料金については、公認会計士など専門家による査定を受ける。
消費者庁も別途、検証の場を設けるだろう。どちらも広く公開される見込みだ。
原発依存からの脱却へ経営を切り替えているか――。コスト負担を引き受けるうえで、注意深く点検する必要がある。
「燃料代が上がったので」という説明だけなら、とうてい納得できない。
景気の急速な冷え込みを防ぐため、日本銀行が2カ月連続で追加の金融緩和を決めた。
政府と日銀が一体でデフレ脱却に取り組むという異例の共同声明も出した。
だが、一連の動きを見ると、政治が自らの機能停止のツケを日銀に押し付けているとしか思えない。特例公債法案の成立など、政治が責任を果たすことが先決だ。
今回の緩和では、国債や上場投信など計11兆円を買い増す。単に資金を積み上げても景気への効果が見通せないため、銀行が企業への新規融資を行う資金を超低利で供給する仕組みも新たに設けた。
ただ、企業に資金をいくら押し込もうとしても、実体経済の側に資金需要を生むような事業の盛り上がりが生まれなければ効き目がない。
政府による規制や制度の改革が不可欠だ。むろん民間の努力は重要だが、経営環境の展望が開けなければ、民間が動こうにも動けない分野も多い。
金融緩和だけでは、「何もせず景気回復を待つ」という現状維持の心理を助長し、民間経済を沈滞させかねない。
政府・日銀の共同声明は、こんな懸念を意識してのことかも知れない。政府はデフレを生みやすい経済構造の改革に政策を動員するという。
決意表明は大いに結構だ。しかし、現下の政治はこれを素直に受け取れるような状態ではない。機能停止にとどまらず、むしろ自ら不況をつくりだしつつあるといっていい。
臨時国会は始まったものの、特例公債法案は成立のめどが立っておらず、歳出抑制の動きが広がる。米国で不安視される「財政の崖」の日本版を自らつくり、解散するか否かのチキンレースに励んでいる。
さすがに機関投資家の間では不安が広がっている。12月に国債発行が停止になった場合、たとえ後から法案が通って発行が再開されたとしても、「だんご発行」になる恐れがある。
となると、市場で消化しきれず、歴史的な高値相場が変調をきたし、金利が急騰しかねない――。もっともな懸念だ。
そんな危機を覆い隠そうとばかりに、政府、与野党はこぞって日銀に緩和圧力をかけた。
予算の資金繰りすら始末をつけられない政治が、中央銀行に物申すことで何か一仕事しているかように振る舞うのは、まことに見苦しい光景だ。
政治不況は起こさない。政府と与野党はまずこの一点から良識を取り戻してほしい。