台湾も尖閣諸島問題めぐって抗議

 


領土より漁業 日本の譲歩で解決?

 沖縄県の尖閣諸島の問題をめぐり、「自分たちの領土だ」と主張する中国との対立が深まり日中関係が緊張していますが、台湾からも漁船や行政の船が日本の領海に侵入しています。中国と台湾は、どうして同じ時期に抗議行動を取っているのでしょうか。

 

 

尖閣に向かう台湾の漁船が掲げた横断幕には「主権を防衛し、漁業権を守れ」とある=9月24日、台湾宜蘭県で©朝日新聞社

 

 

 

 

  どうして台湾の船が日本に抗議に来るのですか。
  台湾は、日本や米国など主要国と外交関係を持っておらず、国連の加盟国でもありません。それでも、台湾自身は「中華民国」という国名を持って、憲法もあり、指導者の選挙も行って、一つの「国」として存在しています。そして、「自分たちこそ本当の中国政府だ」と主張しています。「中国政府」としては、自分たちの領土だと考える尖閣問題を放っておくことはできないのです。


  尖閣諸島問題で中国と台湾の考え方に違いはありますか。
  「日本が日清戦争のどさくさに紛れて尖閣諸島を盗み取った」という立場に違いはありません。しかも台湾にとって尖閣問題は自分たちが中国よりも「本家」だという意識があります。


  台湾が「本家」? それは意外です。
  日本から見ると、尖閣問題は日中関係の話のように思えます。ただ、地図で見れば尖閣諸島は中国からは330`メートルほど離れていますが、台湾からは170`メートルほどしかありません。ちなみに、日本から最も近い石垣島からも同じ170`メートルです。尖閣海域は伝統的に台湾漁民の漁場で、昔から台湾の漁民は尖閣諸島近くで盛んに漁も行っていました。台湾にとって身近な問題なのです。


  だから台湾の多くの漁船が尖閣の海にやって来るのですね。
  そうなんです。1970年ごろに最初に尖閣問題が騒がれたときも、日本に最初に抗議したのは台湾のほうで、中国が領有権を主張したのは台湾の後でした。


  台湾と中国は一緒に行動しているのですか。
  中国側は台湾に対して、日本と対抗するために共同行動を取ろうと呼びかけているのですが、台湾は応じていません。理由は、そんなことをすれば、中国に主導権を奪われ、台湾の存在感が示せなくなるからです。
 また、台湾のなかには中国との関係が近づきすぎることを警戒する世論も根強く、中国との共同行動は避けています。


  じゃあ、台湾は中国より穏やかな姿勢なのですね。
  確かにそうです。中国のような経済制裁は取っていませんし、観光客の日本訪問も制限していません。
 ただ、何もしないと逆に台湾の中から「弱腰だ」などと批判されてしまうため、抗議や主張はしっかりとやっています。例えば最近でも、米国の新聞に大きな広告を出して自らの主張の正しさを世界に向けてアピールしています。


  台湾はどのようにして尖閣問題を解決しようと思っているのですか。
  将来の方針について、中国と台湾は大きな違いがあります。中国は、日本に対して尖閣問題が「領土問題」であると認めさせて、何らかの交渉を日中で始めるように求めています。
 これに対して、台湾が実際に求めているのは、漁業問題の解決です。台湾のなかでも、日本に強硬な主張をしているのは、この問題が自分たちの生活とかかわる漁民が多いのです。
 台湾は日本との交渉で、台湾漁民の尖閣海域への入漁を認めさせることを目指しています。日本側にも、漁業問題である程度譲歩し、台湾との対立を先に解消したほうがいいという意見も出ています。


 

 中華民国 辛亥革命で清朝が倒れ、1912年に成立した。中国国民党政府が28年に全国を統一したが、戦後に中国共産党との内戦に敗れ、49年に本土を離れて台湾に移った。
 日台関係 1972年の日中共同声明で、非政府間の実務関係となっている。日本から台湾を訪問したのは年間129万5千人、台湾から日本へは99万4千人(2011年)。
 日台漁業交渉 排他的経済水域内で他国が魚などをとることは2国間の漁業協定で定められる。日本と台湾は1996年から漁業協定を結ぶ交渉を16回繰り返したが、折り合いがつかず、交渉は3年余り中断している。

 

 

朝日新聞国際編集部 野嶋剛

1968年生まれ。92年に朝日新聞入社。シ ンガポール支局長、政治部、台北支局長な どを経て、現在、国際編集部次長。著書に 「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)「ふた つの故宮博物院」(新潮社)など。

 

2012年10月28日

 

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