この国と原発:第7部・メディアの葛藤/1 続けられた批判記事/石油危機、広告の転機(その1)
毎日新聞 2012年10月22日 東京朝刊
「この国と原発」はこれまで6部にわたり、原発推進を巡る政界や地元自治体、中央省庁、業界、学者たちの強固な結びつきの歴史と現状などを報告してきた。多くの読者から評価を頂く一方で、「メディアはどうだったのか」との指摘を受けた。可能な限り過去にもさかのぼり、私たちの足元を見つめたい。第7部はメディアと原発の関係を追う。
「毎日新聞は原発推進の広告と引き換えに原発批判キャンペーンをやめた」。東京電力福島第1原発事故後、こんな話が広まった。共産党機関紙「しんぶん赤旗」や「週刊東洋経済」「別冊宝島」などの雑誌に記事が載り、ブログなどで引用されている。いずれの記事も、鈴木建(たつる)・元電気事業連合会広報部長(故人)の著書「電力産業の新しい挑戦」(日本工業新聞社、1983年)が根拠だ。
74年8月6日、朝日新聞に日本原子力文化振興財団の原発推進広告が掲載された。同書によると、国内初の原発推進の新聞広告で、実質的には電事連が主導した(同書では同年7月と表記)。その後、読売新聞と毎日新聞からも広告出稿を要請され、鈴木氏は読売には応じたが、毎日には「原発反対キャンペーンを張っている」と断る。毎日は編集幹部が「原発の記事は慎重に扱う」などと約束。鈴木氏の指摘したキャンペーン記事は「いつとはなしに消えた」ため、読売に1年遅れて広告を出した−−というのが骨子だ。