もう一つは、企業依存型の雇用の安定は、「企業内の正社員」だけについての雇用の安定だということだ。雇用調整を迫られた時、日本では「新規採用を抑制する」という手段を取りがちだが、この場合は、企業内の雇用を守るため、若年層の雇用を不安定化させていることになる。また、企業内の正社員を強く守ろうとすると、企業は正社員の採用にかなりの決断が必要となるため、正社員になるためのハードルが高くなり、非正社員との格差が大きくなる。この場合は、正社員の雇用を守るため、非正社員の雇用を不安定化させていることになる。
日本型雇用慣行を変えるための提案
もちろん長期雇用がすべて悪いというわけではない。企業の核として働き続けてほしい人材は長期雇用で一企業に特化して働き続けた方がいいかもしれない。要はバランスであり、日本では長期雇用か非正規かという二つの選択肢しかなく、長期雇用で守られている人々がそうでない人々に比べて守られ過ぎていることが問題なのだ。
この点はOECDが、対日審査報告で繰り返し指摘していることである。例えば、2011年の報告では「1990年以降経済成長が著しく減速する中、長期雇用、年功賃金、そして60歳での定年といった伝統的な労働市場慣行は、ますます経済状況にそぐわなくなった」とし、特に、日本の労働市場は、強く保護された「正規労働者」と、賃金が低く、訓練の機会も少なく、社会保険制度によっても十分カバーされていない「非正規労働者」に二極化しており、労働市場の流動性がないため、非正規雇用から正規雇用へ移行が妨げられていると指摘している。
こうした日本型雇用の問題に対応するためどうすべきかについては、多くの議論がある。前回紹介した「40歳定年制」もその一つだ。これは、「期限の定めのない雇用契約については、20年の雇用契約とみなすことにし、それ以外の長さが必要な場合は有期契約とする」というものだ。もちろん、20年以上の期間を契約期間としてもよい。
つまり、40歳という年齢で定年になるのではなく、勤め始めて20年でいったん定年になるということであり、それが多分40歳前後になるということである。20年たった段階で、同一企業と再び雇用契約を結んでもよいし、他の企業に移ってもよい。ここで期限の定めのない契約を結ぶと、60歳前後で再び定年を迎えることになる。つまり、職業人として2回やり直しのチャンスがあることになる。この点は提案者である柳川範之先生自身が日経ビジネスオンラインで解説しているので、こちらを参照してほしい。
この40歳定年制について、多くの人が抱く最大の懸念は、40歳前後で職を失うことにならないかということである。最近私は、大学の授業で、この40歳定年制を紹介し、意見を求めたのだが、学生諸君からは「40歳で収入がなくなるのは困る」「40歳以降仕事をしないなんて考えられない」というコメントが続出した。
定年といっても、40歳で仕事をやめるわけではなく(やめたければやめてもいいのだが)、職場を変える機会を設けようということなのだが、どうしても「定年は仕事をやめる時」という先入観があるので、こういう反応が出るのだ。確かに、他の誰もがやらない中で一社だけ40歳定年制にすると、多くの人々が定年後に路頭に迷うことになるかもしれないが、多くの企業がこれを実施すれば、雇用機会は減らず、働く人がリシャッフルされるだけだから、失業者が増えるということにはならないはずだ。