二極化した正社員と非正社員の間に中間的な雇用形態を広げるという提案もある。玄田有史東京大学教授は、正社員と非正社員の間に「准正社員」(別途、準社員という概念があるため「准」という言葉を使っている)という雇用形態を設けることを提案している(2010年2月18日、日本経済新聞、経済教室)。これは、異常時には柔軟な雇用調整の対象となるが、平常時には安定的な処遇が保障されるというものだ。これによって、働きながら能力・経験を積んだ非正社員は、「准正社員」→「正社員」とステップ・アップしていく道が開ける。企業の側も優秀な非正規の社員に長く働いてもらうことができる。
同じような考え方で、特定の仕事がある限りは雇用が保障され、転勤はなく、労働時間も自分で決められる「専門職正社員」を設けるという案もある(八代尚宏「整理解雇の論点(上) 金銭保証ルールの明確化を」日本経済新聞、経済教室、2010年11月29日)。
整理解雇についての条件が厳し過ぎることが雇用の流動性を妨げているという観点から、適切な金銭保証を軸として解雇規制を見直すべきだとする考えも多くの専門家が提唱している(例えば、前掲、八代論文)。
前述のOECDの対日審査では、正規労働者に対する雇用保護を減らす一方で、非正規労働者の社会保険の適用範囲の拡大、職業訓練プログラムの充実などを図ることによって、二極化した正規・非正規の差を縮めていくことを提案している。
以上のような諸提案は、それぞれについて多くの議論があり、いずれも簡単に実現できるわけではない。しかし、日本型雇用慣行が多くの問題を持っており、これをできるだけ円滑に変えていく必要があるという意識が強いからこそ、こうした提案が出てきているのである。
日本型雇用慣行のさらなる問題点
さて、ここまでで述べてきたことはそれほど目新しいことではなく、おそらく経済学者の間では「常識的で何の変哲もない考えだ」と受け取られそうな気がする。そこで、以下、私の考えを付け加えておきたい。それは、日本型雇用慣行の問題点はかなり広範囲に及んでいるということだ。私が考えつく例としては、次の三つがある。
第1に、公務員の天下り問題や縦割りの意思決定問題にも長期的雇用慣行が関係していると思う。
公務員が自らが所属する省庁職員の再就職先の確保に熱心であることは事実である。これは、採用した各省庁が、ある年齢までの職員の雇用を保障しているからだ。キャリアの役人の世界では、入省年次に応じてピラミッド式に上位のポストに上がっていく。上位に行くほどポストは減るから、途中でポストに就けない人が出てくる。この時、首にして放りだすわけにはいかないから、何とか再就職先を世話することになる。これがいわゆる天下りである。現在は、役所のあっせんは禁止されているので、様子が違っているかもしれないが、私が勤務していたころはそういうことであった。