宇宙航空研究開発機構(JAXA)は開発中の小型固体燃料ロケット「イプシロン」を内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)から2013年8―9月に打ち上げる。運用が停止された固体ロケット「M5」の後継機で、液体燃料の国産基幹ロケット「H2A」の機器・部品の共通化や、M5の技術転用などで低コスト化を実現した。小型科学衛星「スプリント―A」を載せ、打ち上げコストはH2Aの約半分に当たる53億円を目指す。(編集委員・天野伸一)
イプシロンはJAXAとIHIエアロスペースが開発。国産固体燃料ロケットの打ち上げは、打ち上げコストが高いなどを理由に運用が停止されたM5以来7年ぶり。これでH2A、国産最大ロケット「H2B」に加え、国産ロケットは3種類となり、国内外からの幅広い受注獲得につなげる計画だ。
イプシロンの全長は24・4メートル、重さ91トンの3段式ロケットで、総開発費は205億円。1段はH2Aの固体補助ロケット「SRB―A」を使い、M5の上段(2、3段)の技術を継承。打ち上げ能力は地球周回の低軌道への投入の場合、M5の約3分の2に当たる1・2トン。1基数百キログラムの小型衛星を数基相乗りして打ち上げができる。
煩雑な点検作業はコンピューターで自動的に行うなどして、コスト削減とともに運用性を向上。発射場に据えてから打ち上げまでの日数は6日。M5の41日間を大幅に短縮できる。
初号機に載せる衛星は金星や火星などの観測用で、15年度には別の科学衛星の打ち上げを予定している。
JAXAの森田泰弘プロジェクトマネージャはイプシロンの開発の意義について「未来につながるロケット開発。未来を開くロケット開発だ」と話す。とくにコストを下げたことと、点検作業の効率化などにより「打ち上げシステムをシンプルにした。宇宙への敷居を下げ、打ち上げ機会を増やすことになる」と“自信作”に意欲を示す。
JAXAではイプシロンの打ち上げコストを17年度以降に30億円以下に抑え、国際競争力を高める方針。これによりロケット市場では欧州の「ベガ」(低軌道打ち上げ能力2・3トン)や、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を転用した米国「ミノタウルス4」(同1・7トン)とコスト面でほぼ肩を並べるという。
果たして“日の丸技術の粋”を集めた新鋭ロケット・イプシロンが、日本の宇宙ロケットの未来を切り開くことができるか。くしくも、今年は日本のロケットの父・糸川英夫博士の生誕100年。糸川博士が開発した「ペンシルロケット」の技術と宇宙科学者たちのDNAを受け継ぐイプシロンへの期待が、よりいっそう高まっている。