※物語の結末まで記載されていることがあります。
夏の終わり。引っ越したばかりの部屋で、ユキエ(江口のりこ)は学生時代からの恋人である玉川(ARATA)と過ごしていた。ユキエと玉川は婚約している。普段はOLとして会社勤めをし、淡々とした日々を過ごしているユキエだったが、家に帰れば玉川がいて、そこでは別人のように玉川と戯れる。そんな折、玉川の母から電話がかかってくる。実家の旅館を継ぐ話があがっているが、玉川は電話を無視する。ユキエにも同じ電話がかかってくるが、自分のところにはいないと言い、切ってしまう。玉川がどこにいるのか母親にはわからない。隣人の嫌がらせにも、大家のお節介にも、おしゃべりな同僚にも、ユキエは心を動かされず、玉川との蜜月を重ねていく。玉川はまるでユキエのために存在しているかのよう──玉川は、幻影だった。そんなユキエに惹かれる同僚の男、真島(米村亮太郎)は、会社の倉庫に家をつくって住んでしまっている変わり者だった。彼だけが、頑なに他人と接触をしたがらないユキエに心を寄せていた。迫ってくる真島に「婚約者がいる」と唐突にユキエが返すも、まるで真島はすべてわかっているとばかりにするりとかわしてしまう強さがあった。彼だけが、ユキエの世界に足を踏みいれようとする。ユキエが留守の間に部屋にやってきた真島。しかし帰ってきたユキエは真島に気付かない。執拗に手を洗うユキエに、何を話しても真島の声は届かない。突然今まで無表情だったユキエが、幼い子供のように泣きじゃくる。真島の存在によって、ユキエの世界のバランスは少しずつ狂い始めていたのだ。ユキエの部屋の不審さに気付いた大家は中へと入る。異様な臭いと静かな部屋がそこにあった。大家は浴室のドアに手をかける。荒涼とした砂漠には、独り静かに微笑むユキエがいた……。