沖縄国際大学教授 前泊博盛
 
いま、ここ数週間、沖縄問題が大きくクローズアップされています。問題は二つあります。
アメリカ海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの沖縄配備問題。そして、二つ目は、先週、沖縄で起きたアメリカ兵による女性暴行事件です。
 危険な米軍機の沖縄配備の強行、繰り返される米兵犯罪。二つの問題は、沖縄県民の反発と怒りを、かつて無いほどに高めています。
怒りの矛先は、日本政府とアメリカ政府です。中でも日本政府に対する怒りが高まっています。なぜでしょうか。

 まずオスプレイの問題に触れましょう。オスプレイとはヘリコプターのように垂直に離発着できる機能を持ちながら、飛び立ったあとはプロペラを垂直方向から水平方向に動かし、飛行機のように飛ぶことのできる垂直離着陸飛行機です。アメリカ軍は1980年代後半から開発を進め、2001年から実戦に配備をしてきました。
 問題は、このオスプレイの事故率の高さです。開発段階から多数の事故を起こし、50人近いアメリカ兵たちが死傷しています。死亡者は36人に上ります。アメリカ兵の間では「ウィドーメーカー」「未亡人製造機」との異名で呼ばれています。
しかし、日本政府は10万飛行時間あたりの事故率は1.93件に過ぎず、海兵隊全体の米軍機の平均事故率2.45件を下回るため「比較的安全な軍用機」と強調して、配備に反対する沖縄県民の意向を全く無視する形で住宅密集地の真ん中にある沖縄の普天間飛行場に配備を強行しました。今月1日のことです。
しかし、その事故率は、200万ドル以上の「クラスA」と呼ばれる重大事故のみでの数字でした。200万ドル以下の「クラスB」、50万ドル未満の「クラスC」を含めると事故件数は40件を超えることが明らかになりました。
防衛省は、オスプレイの沖縄配備の直前の先月19日になって、その事実を初めて認め、公表しています。「事故を多発させる欠陥機」として沖縄配備に反対してきた沖縄県民は、配備直前まで事故件数の公表を抑えてきた日本政府の対応に「県民の命を軽視する暴挙」として、強い不信感と怒りをぶつけています。
オスプレイの配備を強行された沖縄では、現在も普天間飛行場のゲート前で連日反対運動が展開されています。市民たちは風船やたこ揚げをして、配備反対と撤去を求める運動を続けています。
沖縄では、復帰後だけでも米軍機事故は500件を数え、うち墜落事故も43件起きています。
そこに、先週はじめ、沖縄県民の怒りを倍増させる事件が起きました。アメリカ本国の海軍に所属するアメリカ兵二人による女性暴行事件です。事件は、米軍基地の外の市街地で、深夜、帰宅途中の20代の女性を執拗に追いかけ、暴行するという凶悪なものです。
兵士たちは事件の数時間後には、グアムに移動する予定でした。今回は被害者の迅速な訴えのおかげで犯罪直後に兵士たちの身柄を沖縄県警が逮捕し国外逃亡を阻止しています。

 米軍による犯罪は、沖縄が日本に返還された1972年以降の過去40年間だけでも5700件を数えています。そのうち、1割に当たる568件が殺人や放火、強盗、女性暴行といった凶悪事件です。
 今回の女性暴行事件でも、日本政府やアメリカ政府は「再発防止と綱紀粛正」を表明しています。しかし、6000件近い犯罪が繰り返されてきた沖縄では、犯罪抑止はもはや困難との見方が広がっています。
 「抜本的な犯罪抑止のためには、沖縄のアメリカ軍基地の全面撤去しかない」という見方が、これまで基地を容認してきた保守系の政治家、市町村長までにも広がっているのが今回の大きな特徴です。
 一方で、日本政府の中には「沖縄の反基地運動は、沖縄振興予算の上積みを得るためのパフォーマンス」と見る向きもあります。
 これまで沖縄で反基地運動が起きると、政府は沖縄振興予算を上積みして、沖縄県民をなだめるという対応を講じてきました。基地と振興予算のリンク論です。そして、犯罪米兵の逮捕や犯罪捜査を阻む「日米地位協定」の改定など、沖縄県民が求める米軍犯罪の抜本的な防止には消極的な対応に終始してきました。
 
 沖縄は基地がなければ経済的にやっていけない。だから沖縄の人たちには基地が必要だという見方があります。しかし、はたしてそうでしょうか。

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結論を先に言えば、現在の沖縄県における基地経済は「不経済」です。最も単純な指標でみると、米軍基地の面積は沖縄県全体の10%、沖縄本島面積の18%を占めていますが、米軍基地の県経済への貢献度はわずか5%に過ぎません。
県民総所得は約4兆円ですが、基地経済は約2000億円と5%の水準です。
米軍基地の雇用吸収力も9,000人(基地従業員総数)と全労働力人口(約62万人)の1.5%に過ぎません。
沖縄には34の米軍基地があります。

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4000メートル級滑走路2本を抱え関西新空港や成田空港級の米軍嘉手納飛行場(約2000ヘクタール)、2800メートルの滑走路を抱えディズニーランド2個分の面積を持つ米軍普天間飛行場(480ヘクタール)、県都・那覇市の中心にある那覇軍港、大型倉庫群の米軍牧港補給基地(274ヘクタール)など主要基地が人口密集地の都市部に集中しながら、基地収入は2060億円にとどまっています。
一方で、4000メートル1本と2500メートル1本の成田国際空港は総面積940ヘクタールと嘉手納飛行場の約半分にすぎません。しかし、千葉県への経済波及効果は9789億円、雇用効果は6万4000人、税収効果は316億円をあげています。
それに比べ、沖縄の米軍基地は、成田空港の24倍の面積を持ちながら経済効果は2000億円と2割の水準にとどまっています。
沖縄県が作成した「沖縄21世紀ビジョン」(2010年)では「米軍基地の面積は、県全土の10.2%で、沖縄本島でみると約20%を占めているのに経済貢献度は6.3%程度」と、米軍基地の貢献度の低さを指摘しています。
土地の生産性も、沖縄県内の平均的な土地は1平方㌔㍍当たり16億円程度(06年)に対し「9億円程度」とほぼ半分の水準で、「基地面積からは毎年1600億円も損している」との試算を公表しています。

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普天間基地の経済効果は1ヘクタール当たり2200万円、宜野湾市全体の8400万円の4分の1程度になっています。また、牧港補給基地の場合は、基地内が6000万円、基地の外では1億5000万円と、半分以下の経済効果にとどまっています。
沖縄県は米軍基地の存在が「県の経済的な生産能力を抑制」「土地利用にも歪みをもたらし、経済的に不効率な土地利用」を強いて、県経済の潜在成長力を押し下げ、沖縄の経済発展のチャンスも奪っていると「21世紀ビジョン」の中で指摘しています。
基地の不経済に加えて、毎年減り続けてきた沖縄予算に対する反発などもあって、沖縄県は県土の有効利用の観点からも「米軍基地の返還・撤去による新しい沖縄経済の振興」を真剣に検討を始めています。
不経済な基地の存在。そこに、相次ぐ米軍事件、欠陥機の強行配備という問題が起こったことで、沖縄での脱基地の動きは加速度を増しています。日米両政府は、沖縄の基地負担の軽減を早急に取り組む必要があります。