アメリカ原発のハリケーン対策
2012年10月30日
Photograph by Stan Honda, AFP/Getty Images
巨大ハリケーン「サンディ」の進路上には、アメリカで最も古いオイスタークリーク原子力発電所が立地している。
ニュージャージー州南東部のアトランティックシティから約60キロ北にあるオイスタークリークは、630メガワット(MW)、60万世帯分の発電能力を持つ。汽水の入り江「バーネガット湾」から約2キロの沿岸に位置しており、設計は津波によって破壊された日本の福島第一原子力発電所と共通だ。業界関係者や規制当局は10月29日、未曽有の大型ハリケーンに直面するオイスタークリークなど20以上の原発について、最悪の事態にも耐えられる準備が整っていると主張した。
オイスタークリークを運営する電力大手エクセロンの広報担当者スザンヌ・ダンブロシオ(Suzanne D'mbrosio)氏は、「直撃の可能性が少しでもあるとわかった時点で、すぐに準備を始めた」と話す。なお、オイスタークリークの原発は2年に1度の燃料交換のため、先週から運転を停止している。
◆政府の検査官を派遣
アメリカの原子力規制委員会(NRC)は、国内104の原発すべてに検査官を2人ずつ駐在させている。オイスタークリークなど、ハリケーンの進路内の9原発には、衛星通信システムを持った検査官が追加で派遣された。NRCによれば、予想される高潮に耐えられるよう、すべて万全の対策が講じてあるという。
さらに、主要な業界団体「原子力エネルギー協会(NEI)」の広報担当者トム・カウフマン(Tom Kauffman)氏は、ハリケーンの被害を受けた場合でも核燃料の崩壊熱を制御できるよう、最低7日間は冷却装置に給電可能なディーゼル発電機を用意すると述べた。2011年3月、福島第一原発で核燃料が損傷し、建屋が爆発したのは、この極めて重要なバックアップ電源が正常に作動しなかったからだ。
アメリカの原子力業界は、1979年に発生したペンシルバニア州スリーマイル島原発事故以来、安全性向上のために多数の対策を実施してきた。カウフマン氏は、「原子力をめぐる状況は日本と全く異なる」と断言する。オイスタークリークは福島第一と同じゼネラル・エレクトリック(GE)社の沸騰水型原子炉で、マークI型の格納容器を使用している。しかしアメリカでは、すべてのマークI型に耐圧強化ベントを採用しており、事故発生の場合でも、格納容器内の圧力が危険なレベルまで上昇しないという。それでも、福島第一の事故後、ベントのシステムに対する懸念の声が上がり、業界は確実性と信頼性を向上させると約束した。
「不測の事態も想定に入れて取り組んできた」とカウフマン氏は語る。
◆自然災害への対応
アメリカでは、時速75マイル(秒速約33.5メートル)以上の風が予想される場合は原発を停止する。風によるダメージを懸念しているのではなく、一帯が停電し、冷却を予備のディーゼル発電機に依存する事態に追い込まれる可能性があるからだ。ハリケーン「アイリーン」が大西洋沿岸を直撃した2011年8月、オイスタークリークはこの理由で停止している。
「特に珍しい状況ではない。過去にも竜巻や強風、洪水を切り抜けている」とカウフマン氏は話す。
福島第一後、アメリカの原子力業界は、電力や水を喪失した場合でも運転を続けられるよう、発電機やポンプ、ホース、バッテリーといったバックアップ装置を整備すると約束した。しかし、整備はまだ完了していない。また、オイスタークリークを含む複数の原発では、使用済み核燃料の安全性に関する懸念も指摘されている。保管する冷却プールに非常用電源が義務づけられていないからだ。使用済み燃料棒は放射能を持ち、何十年にもわたって大量の熱を発生させる。冷却を続けなければプールの水が蒸発し、損傷した燃料棒が放射性物質を放出する悪夢のシナリオが待っている。
Marianne Lavelle for National Geographic News
「アメリカ原発のハリケーン対策」(拡大写真付きの記事)
2012年10月30日
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