スキルは身につけるものではなく、買うものになった
エイベック研究所代表取締役。日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「企業コミュニティ」の理論と手法を独自開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア(矢野経済研究所調べ)。2011年7月に出版した著書『ソーシャルメディア進化論』は第6刷のロングセラーとなっている。JFN(FM)系列ラジオ番組「マーケの達人」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。
武田 現在、ソーシャルゲームで多くのユーザーが遊んでいますが、かつての「たまごっち」のように、サーッと潮が引くように衰退するということはないのでしょうか。
名越 ソーシャルゲームって、オンライン上に友だちみたいな人間関係ができるじゃないですか。そうなると、自分だけ抜けるわけにはいかないという心理が働きます。飲み会じゃないですけど「お先に」とは言いづらい(笑)。みんなで戦うゲームだと、なおさらです。だから急激にみんながフェードアウトするということはないと思います。
そこは開発側もわかっているでしょうから、気持ちが冷めるのを遅らせたり、冷めそうになったら他の関連ゲームに誘導したりと、そのあたりをかなり研究しているでしょうね。
また、マズローの欲求5段階説でいうと、ソーシャルゲームって、3段目の「所属と愛の欲求」と4段目の「承認(尊重)の欲求」を満たすものだと思うんです。孤独は嫌だとか、人に認められたいとか、そういう根源的な欲求に訴えかけているので、一度始めるとそんなにすぐには抜けられないんじゃないかな。
武田 なるほど。それはゲーム以外のソーシャルメディアも同じ特性を持っているかもしれません。
名越 でも、ゲームの過程で、お金は「いただく」ものであって、「取り上げる」ものではないと思うんですよ。これはクリエイターそれぞれの考え方かもしれませんが……。
武田 ソーシャルゲームは「取り上げる」感が強い、ということですね。確かに、そういう感じを抱いている方は多いかもしれません。私も実験と称してさんざんやりこんでしまいました(笑)。
名越 どうでしたか?
武田 うーん……。お金を払えば払うほど、のめり込むというのは新しい感覚でしたね。
アーケードゲームで一世を風靡したバーチャファイターの場合、操作の仕方を身につけて、だんだんいろんな技が使えるようになって強くなっていきますよね。技術が上がって意のままに操れるようになると、ジャッキー(キャラクターの1人)の必殺技「サマーソルト・キック」もベストタイミングで放てるようになる。そのキャラクターと自分との関係が深くなって、我が事化していくんですね。ロールプレイングゲームも、冒険が進んでレベルが上がっていく過程で、物語もキャラクターも我が事化していく。
これがソーシャルゲームだと、努力で強くなるというのではなく、お金を払うことで我が事化しているように感じます。
名越 あぁ、そうですね、スキルを「買う」ということですから。
武田 たとえば、競馬場などで、馬が走っているのを見ているだけで我が事化する人は少ないけれど、馬券を買うと、自分の賭けた馬の勝敗が気になって、お馬さんに感情移入してしまう。府中や中山の競馬場に行けば、そのサンプルをたくさん見つけることができます(笑)。それに善し悪しはあるとしても、お金を払わせることで我が事化するというのが、ソーシャルゲームの発明だったと思うんです。