北朝鮮の通貨
両替について・・・
夕食後、妙香山ホテルの部屋で休んでいると金さんが来た。
「両替をするなら急いで下さい、もう両替の係りが帰ってしまいます。」
両替といっても、北朝鮮の通貨単位もしらなかった。
「あのーすいません、共和国の通貨は何なんですか?」
「ウォンです。」
「南朝鮮のウォンと同一ですか?」
「いえ、違います。」
「大変申し訳ないんですがレートを教えていただけますか?」
「はい、1円=0,016ウォン、1ウォンが約60円。1$=2.05ウォンです。」
「おいくら両替なさいますか?」
”いくら”といわれても 何が”いくら”で買えるのか全くわからない の
で判断のしようがない。
(右の写真:国外に持ち出すことも違法だといわれた人民100ウォン 若き日の
金日成主席の顔がすてきだ)
「皆さんは、幾らくらい替えられますか?」と尋ねると
「そうですね、1万円くらいなされば、取り敢えず大丈夫じゃないでしょうか。
もし余ったら再両替できますから、なるべく多く持たれた方がいいんじゃないかと思いますよ」
と答えられた。
なるべく多くといっても、二人とも余分な金など一切ない。
取り敢えず40$=82.6ウォンを持つことにした。
因みにウォンの下には”チョン”という単位があり 100チョン=1ウォンとなっている。
漢字で書くと「円(ウォン)と銭(チョン)」となるらしい。
しかし、ガイドの言葉の中に気になる部分があった。
「なるべく多く・・・」は外貨獲得のためと思われ
るが
「再両替できる・・」とはどういうことだろう。
北朝鮮ウォンなんて通貨が無条件に外貨に替えられるとは考えにくい。
日本で暮らしていると 円から他の通貨に両替したり、日本円を持って旅をして あちこ
ちで現地通貨に替えてゆくことを当然のように思ってしまうが、世界的にみると無条件に外貨に両替できる
通貨なんてほとんどない。
中国元なんかでも国外では紙屑同然だし、東南アジア全般に絶対的な力を持つ
タイバーツにしても、銀行に表示してあるレートで外貨に再両替する事は難しい。
韓国ウォンですら国際通貨ではない。ラオスでは「ラオス・キップ」というお金をラオス人でも欲しがらなかった。
気になったので尋ねてみた。
「あのー もしかしてそれは 外貨兌換券ですか?」
「はい、外貨兌換ウォンです」
それは困った。
「人民の方が使われている人民ウォンとは違うんですか?」
「ええ、違います」
少し声を荒げた。
「私が欲しいのはこんな券じゃなくて、人民の方が使っているお金が欲しいんです。
それに替えて下さい」
「御免なさい、森本さん。それは出来ないことになっています」 あっさり断られた。
しかし気になる。外貨兌換ウォンと人民ウォンの力の差はどうなんだろう。
当然外貨兌換券のほうが強いだろうと思われる。聴いてみよう。
「すいません、ぶっちゃけた話しですね、人民ウォンと兌換ウォンの力の差はどれくらいあるんですか、1
0倍くらいですか?」
「そんなにはございません」
「5倍くらいですか?」
「そんなにはございません。国家は2倍の差があると認めています」
いやにきっぱりと言い切った。
それならと質問を続けた。
「共和国にはブラックマーケットはありますでしょうか?」
「いえ、そういったものはございません」
そう言われてしまうとそれを信じるしかないではないか。つまり外貨ウォンは60円、人民1ウォンは
実質30円の価値があることになる。
そこで、その外貨兌換ウォンでどんなものが買えるかというと、
絵はがき10枚が1ウォン 0.5ウォンで箱に入ったミカンゼリー
0.8ウォンでクッキー1パック 板門店で買ったバッヂは0.5ウォンだった。
他には国際郵便切手が葉書用1.2ウォン 封筒用1.4ウォン
(これは重量に関係なかったので国際的に見てもかなり安い)
0.65ウォンで瓶入りの”すぐり(木の実)”ジュース 1.5ウォンでソフトクリーム
板門店のガイド小冊子は 白黒1.5ウォン カラー3.5ウォンで入手した。
つまり 1ウォンというのはけっこう使いでのあるお金なのである。
北朝鮮の滞在中に色んな場所で色んな買い物をした。
しかしそれらの場所でついぞや人民を見かけたことはなかった。
そして金さんはいつも
「ゲストの方は兌換ウォンで、人民の方は人民ウォンで同じようにお買い物していただけます」
と繰り返した。
〜北朝鮮旅日記(中盤)〜
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