たとえば講談社の小説「新世界より 上(貴志祐介著)のキンドル版は紙の17%引きとなる630円だが、ブックウェブもリーダーストアも630円。コミックも同様で、小学館の「マギ(大高忍著)」のキンドル版は全巻、紙と同額の420円。扱いがあるほかの電子書店と同じだった。
一方、注目すべきはアマゾンが値付けできる卸売りモデルだ。角川グループ、新潮社、ダイヤモンド社、NHK出版、幻冬舎、PHP研究所、朝日新聞出版といった多くの出版社が選択した。日本には、著作物の小売り価格を維持する「著作物再販適用除外制度(再販制)」があるが、電子書籍には適用されない。アマゾンが「価格破壊」を仕掛けることも可能なのだが……。
■若干安い卸売りモデル、差額は消費税
たとえば角川文庫の「天地明察(冲方丁著)」キンドル版は、上下巻とも紙から7%引きの540円。リーダーストアや角川直営のブックウォーカーは567円で販売しており、キンドル版が若干安い。同様に、ベストセラーとなったPHP研究所の「現実を視よ(柳井正著)」キンドル版は1067円だが、ブックウェブやリーダーストアでは1120円だ。
ただ、これらの差額はきっちり5%。つまり消費税分の違いでしかない。卸売りモデルの販売主体はアマゾン。本社もサーバーも米国にあり、国内法である消費税は適用されないという考え方だ。消費税の扱いについて議論はあるが、その考察は別の機会に譲るとして、卸売りモデルでも、アマゾンがほかの電子書店と事実上、同一価格を設定していることは興味深い。
卸売りモデルで契約した、ある大手出版の担当者はこう打ち明ける。「うちは、消費税の扱いを除けば、どこの電子書店で買っても同じ価格。基本的にキンドル版の価格がほかの電子書店を下回ることはあり得ない。そんなことがあったら、どの出版社も引き上げると思いますよ」
■キンドル開始時は日本の商慣習を崩せなかったアマゾン
アマゾンは、圧倒的な販売量と価格破壊による新市場の拡大を実現してきた。だからこそ、国内出版勢にも卸売りモデルの契約を迫った。すべてが代理店モデルとなり、品ぞろえと価格が横並びになれば、自らの経営努力でコンテンツの魅力を打ち出すことができない。需要に応じた柔軟な値付けやセールなどのプロモーションをアマゾン側の判断で行える卸売りモデルが基本路線だ。
ところが国内出版勢は、長年維持してきた再販制をベースとする「商慣習」が崩れてしまうことをおそれた。国内の既存電子書店はというと、どこも日本の商慣習を「理解」し、事実上、出版社の希望小売価格を受け入れているのが実態だ。しかし、再販制のない米国のアマゾンと卸売りモデルで契約すれば、何が起きるかわからない。「米国流」に相容れず、契約書のサインを拒んできた国内出版勢とアマゾンとの交渉は、長引いた。
だが、およそ2年の本格交渉を経て両者は歩み寄った。最後はアマゾンが日本の商慣習を理解し、「配慮」した格好でのスタートになったということだ。キンドルストアの価格が、それを如実に物語っている。しかし、だからといってキンドル上陸に意味がなかったと考えるのは早計だ。
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