原発から60キロ 「安心」遠く 避難区域外の福島市
洗濯物、食材、遊び場…警戒なお
福島第1原発事故の直後、60キロ以上離れながら一時的に高い放射線量を記録した福島市。線量が低減した今も、見えない放射能を警戒して生活する住民は少なくない。子どもの将来のために、今からでも県外移転を考える家庭もある。原発事故は避難区域だけでなく、広い範囲の住民の心に影響を及ぼしている。(谷悠己)
福島市野田町の主婦中野瑞枝さん(45)は事故後、布団を1度も外で干していない。洗濯物は屋内につるしている。「空間線量は減ってきたけど、わざわざ放射性物質にさらしたくない」
最も心配なのが高校2年の長女(17)の健康。だから食材は、原発事故後に開業して西日本産ばかりをそろえる専門店で調達する。高知産のサトイモが450円、三重産のチンゲンサイは230円。地元スーパーが扱う東北産より3割程度、高いが「安心には代えられない」からだ。
地元の野菜も国の基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を下回ってはいるが「娘は事故直後に高い放射線を浴びた。せめて毎日、口にする食材は、選んであげたい」。長女が所属する陸上部の顧問には「校庭以外を走るときは見学させてほしい」と頼んだ。校庭は除染が済んでいるが、落ち葉などが残る河原や山間部は不安。単身赴任中の夫と話し合い、転校を望まない長女の卒業を待って、県外へ移住する計画だ。
第1原発3号機が水素爆発した翌日の昨年3月15日、福島市内の放射線量は風向きの関係で、最大で平時の600倍に当たる毎時24マイクロシーベルトを記録した。現在の線量は毎時0.3マイクロシーベルト以下の地点が多く、一般市民の年間被ばく線量限度の1ミリシーベルトを大きくは超えない。
市の担当者は「安全だと強調するつもりはないが、危険性はないと思っている」と説明する。実際、市街地を行き交う学生たちにマスク姿は少なくなり、スーパーでも県内産の野菜や果物が並んでいる。住民同士が放射能を話題にすることも少なくなった。
だが、9月にまとめた住民アンケートの結果は市を動揺させた。回答者の4割が「洗濯物を外に干さない」と答え、根強い不安感を浮き彫りにした。
「放射能に色が付いていれば、こんなに悩まなくて済むのに」。3人の娘を育てる福島市飯坂町の芳賀幸子さん(35)も、遊び場所や食材選びに頭を悩ませる。ただ、夫婦ともに仕事をしているため、県外移住はできない。「その分、子どもの健康に役立つ情報をできるだけ集めている」と話す。
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