東日本大震災:津波被害の牡鹿半島、伝統アナゴ漁が復活 漁師仲間、助け合い “浜”の経済復興の一歩 /宮城
毎日新聞 2012年10月23日 地方版
東日本大震災で津波被害を受けた牡鹿半島で、伝統のアナゴ漁が復活している。豊漁が続き、東京電力福島第1原発事故の風評被害も比較的少ないうえに首都圏のウナギ不足も加わって高値安定。“浜”の経済復興の一歩だ。原動力には漁師仲間の助け合いがある。【武田良敬】
「おめえのおっかね顔、新聞さ載ったら、ハモ(マアナゴ)が風評で売れなくなっちまうべ」−−漁師同士の軽口に船上が沸く。石巻市・小渕浜の沖合での出荷作業だ。イカダに下げた各人のびくには体長40〜50センチ、銀褐色に光る活アナゴが500匹(100キロ)前後。1キロ1100〜1200円。笑顔がこぼれる。「この海が一番。船とやる気さえあればね」と木村勝一さん(60)は言う。この道45年のベテランだ。
マアナゴといえば江戸前が有名だが、牡鹿半島も全国有数。その中心が小渕浜、給分浜など4浜で構成する表浜地区だった。塩ビ管の捕獲具「胴」を数百本延え縄で流し、取ったアナゴを活魚のまま築地へ直送、天ぷらやすしネタとして珍重されていた。
しかし、震災で表浜地区(370世帯約1200人)も壊滅状態に。犠牲者は35人。300隻あった小型船も50隻に……。木村さんは家族ともども無事だったものの、大勝丸(5人乗り、10トン)は流失、自宅も全壊した。
入り江のがれき撤去を続け、光明が見えたのは昨秋。国県市の補助により自己負担1割で新造船が手に入ることになった。約1トンの小舟(850万円)を申し込んだ。造船の順番を決めるくじ引きに県漁協表浜支所に行くと、残りは最後の1枚。「大勝丸さんだよ」と周囲の笑顔にうながされ引くと「1番」だった。漁具をそろえ、今年6月末、漁へ。穴場に「胴」を仕掛けると変わらずアナゴが“湧いて”いた。
同支所によると震災で47隻から一時は3隻まで減ったアナゴ船は22隻に。水揚げも6〜9月で約100トン(1億1000万円)に上り、以前の豊漁年の7割近くに回復した。
「漁師は海ではライバルだけど陸では仲間だ。震災前よりまとまりが強くなったね」と木村さん。「みなさんの税金のおかげで働ける。ありがたい。定年もないんで身体の動く限り頑張る」。被災者が住む仮設住宅にアナゴを配るのが楽しみという。