特集ワイド:「打ち切って終了」でいいのか 週刊朝日問題 橋下市長の言い分と識者の見方
毎日新聞 2012年10月25日 東京夕刊
今回の朝日への対応とは「温度差」があるように感じる。再び22日の囲み取材。その点を橋下氏自身にぶつけた。「僕はこういう立場ですから一定の情報が出ることは仕方がないと思ってます。(大阪市長選という)選挙戦において公人たる人物を判断するうえで、先祖だったり親を出すということは一定の範囲だったらありうる。文春、新潮だって落としてやろうという意図があったのは間違いないが、まあそれは、選挙戦の範囲の中で、有権者にそういう情報を提供するという……(略)頭にくるけど、まあ選挙戦」
週刊朝日の記事で、佐野氏は<この連載で橋下の政治手法を検証するつもりはない>と断りつつ<もし万々が一、橋下が日本の政治を左右するような存在になったとすれば、一番問題にしなければならないのは、敵対者を絶対に認めないこの男の非寛容な人格であり、その厄介な性格の根にある橋下の本性>と、両親やルーツを調べることの“正当性”を主張してはいる。
橋下氏はこう続けた。「文春、新潮の時にああいう抗議で収めたから、週刊朝日が調子に乗ったということがあるかもしれない。文春、新潮への態度も、もう一回考えなきゃ」
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大阪府在住の作家、高村薫さんは週刊朝日の記事を読み、<この男は裏に回るとどんな陰惨なことでもやるに違いない>といったどぎつい表現に「ぎょっとした」と語る。
「昨年の週刊誌の報道については、知事という職についている以上、出自について書かれるのは仕方がないと思いましたが、今回の連載は必要以上に個人を侮辱するものです。そもそもタイトルからして、あえて『ハシシタ』などと呼ぶ必要があるのか。橋下市長が怒るのは理解できます」
「同和地区が特定できるように表記した部分は確かにひっかかるし、問題だ」と指摘するのは、立教大メディア社会学科の服部孝章教授だ。河畠編集長自身、今週号の「おわび」で<ジャーナリズムにとって最も重視すべき人権に著しく配慮を欠くもの>だったと認めている。
しかし、「連載中止」という週刊朝日の判断が正しかったかどうかは別途、検証すべきテーマだろう。「記事内容が不適切だったのであれば、わびるべきはわび、正すべきは正すとしても、連載自体までやめる理由はない。政党の代表ともなればいろんなことを書かれるのは当然で、表現さえ気を付ければ、正当な取材に基づくノンフィクションとして継続してもよかった。いろんな力が働いたとしか思えない」と高村さんは言う。
服部教授は「週刊朝日の対応を“潔い”と評価すべきではありません」と強調する。