特集ワイド:「打ち切って終了」でいいのか 週刊朝日問題 橋下市長の言い分と識者の見方
毎日新聞 2012年10月25日 東京夕刊
「権力の監視」はメディアの仕事だ。ならば、今もっとも注目される政治家の一人であるこの人については、どこまで書くべきなのか。16日発売の週刊朝日に掲載された記事を巡り日本維新の会代表の橋下徹・大阪市長が抗議した一件は「おわび」「連載打ち切り」に終わった。とはいえ、ことは差別問題と知る権利の微妙な境界にかかわる。橋下市長が記者に語った「言い分」と識者の見方を紹介する。【江畑佳明、井田純】
◇「文春、新潮は選挙戦の範囲」
◇問題は表現取材拒否に疑問/他メディア萎縮/議論深まっていない
「今回の週刊朝日のやり方は有権者の判断のための情報じゃなくて、要は人格否定、もっと言えば家族抹殺。そういう意図がはっきり見えた」。22日午後5時過ぎ、大阪市内での囲み取材で、橋下氏は改めて同誌を批判した。言葉はさらにエスカレートし、筆者のノンフィクション作家、佐野眞一氏に対して「(佐野氏の)ルーツも暴いてほしい」、朝日新聞全体については、親族への取材方法や謝罪のあり方を取り上げ「人間じゃない」「鬼畜集団」とまで言い放った(後に「事実誤認」と陳謝)。
橋下氏が「家族抹殺だ」と憤った記事は「ハシシタ 奴の本性」と題した「緊急連載」の1回目。佐野氏と週刊朝日の記者2人が「本誌取材班」として名を連ねる。同和地区名を具体的に記述し、さらに橋下氏の実父の縁戚者のインタビューや家系図を掲載。実父が暴力団関係者だったなどと書いている。橋下氏は「一線を越えている」「血脈主義、ナチスの民族浄化主義に通じる極めて恐ろしい考え方」と激怒し、朝日新聞などの取材を一時拒否。週刊朝日が23日発売号で河畠大四編集長名の「おわび」を載せるに至ったのは周知の通りだ。
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一つの疑問がある。橋下氏の生い立ちや父親の人物像などについては、大阪府知事だった橋下氏が大阪市長選にくら替え出馬しようとしていた昨年10月、「新潮45」「週刊文春」「週刊新潮」が既に報道している。この時、橋下氏はツイッターなどで<バカ文春><バカ新潮>と罵倒する一方、<直接僕に質問してこい。いくらでもその機会は作る>と呼びかけ、選挙戦に入ると「結構毛だらけだ!」とネガティブキャンペーンを逆手にとった。