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卓上四季

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不完全な遊戯

<私たち日本人は、国を動かす基本の力は国民みなが持ち寄って生まれるものであることを、まず宣言する>。札幌在住の作家池澤夏樹さんが9年前に発表した「日本国憲法」前文の「新訳」▼憲法の原文は確かに読みにくい。でも、<政府のふるまいのために恐ろしい戦争が再びこの国を襲うことがないように(中略)自分たちと後の世代のために、決めたことである>と続くしなやかな“池澤訳”を読み進めると、一見とっつきにくい憲法が決して忘れてはならない大切な理念を伝えようとしていることが分かる▼どうやら、この人は、心の底からいまの憲法が嫌いらしい。きのう、辞表を出した東京都知事の石原慎太郎さん(80)。突然の記者会見では会計制度が硬直的だとか、文科省の「ゆとり教育」によって子どもたちの学力が落ちたとか―▼国への不満をくどくど述べていたが、一番言いたかったのは現行憲法のせいで「国民全体がセルフィッシュ(自己中心的)になった」ということのようだ。だから新党を結成して憲法を変えたいそう▼憲法のせいで国民がわがままになった? 東日本大震災を「天罰」と言い放ったり、東京五輪招致を途中で投げ出したり。ご本人の方が、よっぽどわがままに見える▼若かりし頃の小説に「完全な遊戯」という短編があった。その政治人生が「不完全な遊戯」に終わらぬといいが。2012・10・26

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