ケニア独立運動:植民地時代の拷問に補償 英高裁決定
毎日新聞 2012年10月06日 13時23分(最終更新 10月06日 13時38分)
【ロンドン小倉孝保】英国植民地時代のケニアで発生した民族運動「マウマウ団の乱」(1952〜60年)で独立のために活動したケニア人元闘士3人が拷問を受けたとして英政府に補償を求めた訴訟で、ロンドン高等裁判所は5日、3人に請求の権利があるとの決定を出した。英政府は半世紀以上前のことであり請求の権利がないと主張していた。植民地時代の個人補償請求権を司法が認めたことで、今後、補償請求が相次ぐ可能性が指摘されている。
補償を求めているのは男性のパウロ・ヌジリさん(85)、ワムブグ・ニンギさん(84)と女性のジェーン・マラさん(73)。ヌジリさんらは54年、植民地政府に拘束され、去勢されたうえ殴るけるなどの暴行を受けたと主張。マラさんは同じころ拘束され、性的暴行を受けたとし09年に補償を求め提訴した。
英政府は3人のケースを含め、「マウマウ団の乱」での植民地政府による不適当な対応を認めているが、ケニア独立(63年)によって植民地時代の法的責任はケニア政府が引き継いだ▽半世紀も前の件であり、公正な裁判を期待できない−−とし、3人には英政府に補償請求の資格(権利)がないと主張していた。
公判では補償の是非の前に補償請求資格の有無が争われ、高裁は「今でも書類や証人によって公正な裁判は可能」などとし、英政府への補償請求権があると認めた。
原告側の弁護士は「歴史的な判断。英政府は3人への拷問を認めながら、法的責任から逃れようとしてきた。この判断はイエメン、キプロス、パレスチナなどにいる植民地時代の拷問の犠牲者(の補償請求)にも影響を与えるだろう」と語った。
一方、英政府は決定は認められないとして上訴する意向。英紙ガーディアンによると、「マウマウ団の乱」で拘束されたケニア人のうち約2000人が存命で補償請求の可能性があり、イエメンやマレーシア、キプロスなどでも植民地時代に拷問や虐殺が行われたおそれがあるという。
◇マウマウ団の乱
英国植民地時代のケニアで1952〜60年に発生した民族独立運動。英国植民地支配に対し、ケニア最大民族のキクユ族が中心となって反乱を起こし、英国植民地軍と激しく衝突。英国側が鎮圧したが、結果としてケニアの独立を早めることになった。推定15万人が拘束され、強制収容所に収容された。ケニア人権委員会によると、9万人のケニア人が処刑や拷問にあったとされる。