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第6章.死闘編
第6章.死闘編:第30話「奇跡」


 午後6時40分
 街道を進む騎士たちは、森の奥からドォーンという低い爆発音を聞く。
 だが、厳しい訓練を積んだ騎士たちは無駄口を叩くことなく、そのまま進んでいく。

 ロベルト・レイナルドは今の音を聞き、このまま進ませるべきか悩んでいた。

(今の音は何だ? 大きな岩が落ちたような音だ。このまま部隊を進めても大丈夫だろうか)

 冒険者のアルフォンスが、レイナルドに、

「さっきの音は罠を仕掛けた辺りだ。タイガの罠が作動したのかもしれない」

「了解した。全員、このまま進め!」

 5分ほど進むとアルフォンスが手を上げて、停止の合図をする。

「ここだ。ここから入っていく」

 部隊が停止し、馬から下りると、街道脇の木に大河が殺した盗賊の死体が転がっているのが確認できた。

 レイナルドはその死体を一瞥し、盗賊の一味と判断した。

 レイナルドは騎士たちを整列させ、1個小隊に馬の確保を命じる。
 そして、アルフォンスに、

「案内を頼む。何かあればすぐに下がってくれ。我々が対応する」

 アルフォンスは頷き、部隊を先導していく。


 午後6時50分
 森の中を進んでいく騎士たちの中で、シルヴィアは次第に強くなる隷属の首輪がもたらす痛みに苦しめられていた。
 胸の奥を刺すような鋭い痛みが断続的に彼女を襲ってくる。
 彼女は顔には出さず、そして歩みを遅くすることなく、騎士たちについていく。


 午後6時55分
 アルフォンスが右手を挙げ、レイナルドに注意を促していた。

「前方から呻き声が聞こえる。ここの辺りから弩と落とし穴の罠があったはずだから、罠に掛かった盗賊かもしれない。木の枝にロープが吊るしてある下が安全なルートだ」

 10mも進むと、盗賊の死体と重傷者が転がっていた。
 レイナルドは盗賊たちを放置することにし、更に先に進んでいく。
 シルヴィアの顔色はかなり蒼ざめてきているが、松明のオレンジ色の光のせいで誰も気付いていない。


 午後7時00分
 前方にまだ燃えている木が見え、次第に焦げ臭い匂いがたち込めてきた。

 燃えている木の傍には焼け焦げた盗賊の死体があり、そのすぐ先には斬り殺された盗賊の死体が転がっている。

「先に進むぞ。しかし、一人でこれだけのことを...」

 レイナルドは大河の能力に感歎していた。
 シルヴィアの胸の痛みが突然なくなった。
 彼女はこれが凶兆のような気がし、早く大河の下に行きたいと焦り始めていた。

 アルフォンスがこの先を見ると、150mくらい先に松明の光が見えた。

「この先に松明が見える!」

 レイナルドは先を急ぐように指示を出し、自らも先頭を走っていく。


 午後7時05分
 若い木が倒され、一本の木に盗賊の死体が叩きつけられたような場所を通り過ぎる。
 その時、シルヴィアが騎士たちの列から離れ、一人飛び出していった。

「タイガ! ああ、治癒師を! 早く!」

 彼女は大河の姿を見つけ、走り寄っていた。

 彼の体には長剣(ロングソード)が突き立てられ、彼の周りは大量の血で雪が赤く染まっている。
 彼女は彼の体を抱え、何度も名前を呼んでいる。

「タイガ! タイガ! 私だ、シルヴィアだ! タイガ!」

 極弱い息をしているが、彼女の問い掛けにも全く反応しない。
 騎士団の治癒師が鎖骨に刺さった剣を引き抜くと、彼の体から更に多くの血が流れ、シルヴィアを濡らしていった。
 治癒師とアルフォンスは彼に治癒魔法を掛けようとするが、彼の魔力がほとんど尽きているため、止血すらできない。

 治癒師はレイナルドに向かって、報告すると共に、深々と頭を下げている。

「報告いたします! 副長代理は魔力切れ。このため治癒魔法が掛けられません! 止血も鎖骨の下の動脈であり、我々では手の施しようがありません! 申し訳ありません!」

 レイナルドは僅かに間に合わなかったこと絶望しそうになるが、すぐに盗賊の残党が潜んでいないか確認させる。

「周りに盗賊どもがいないか確認しろ!」

 彼女は彼の血に真っ赤に染まりながら、彼の命をつなぎとめようと叫んでいた。

「タイガ、死ぬな! 死なないでくれ! 私を一人にしないで...いやだ! いやだ!」

 レイナルドは泣き叫ぶ彼女の肩に手を置き、

「シルヴィア殿...」

 彼女は彼の命が消えていくのを見守るしかなく、力なく呟いている。

「どうして...どうして、置いていく...私も連れて行ってくれ...頼む...」

 大河の体がビクンと動いたのを最後に彼の息は止まっていた。

「いやだ! 私の命をやる! 魂でも何でもいい! だから、彼を、タイがを連れて行かないでくれ!...誰でもいい! だから...」

 彼女の叫び声が消えると、突然、、森の雰囲気が変わった。
 木々の擦れる音や松明の燃える音が消え、無音の世界のように音が無くなる。
 静寂の中、神聖とも言える清涼な空気が流れ、森が浄化されていくような気さえする。
 そして、木々がざわめくように風が吹くと、騎士たちの前に大きな銀色の狼が立っていた。
 大河であればすぐに判ったのだろうが、他のものたちは魔物が現れたと思い、武器に手を置く。
 レイナルドは目の前の狼がただの魔物ではなく、知性を持った神獣であると確信した。

(神獣か? 銀色の狼...フェンリルか!)

 レイナルドが声を上げずに、騎士たちを制する。

 銀色の狼はゆっくりとシルヴィアに近づいていく。そして、

『我が魂の欠片を持つ娘よ。そなたの望みはその男を生かすことか』

 頭の中に直接声が聞こえ、彼女は慌てて頷き、

「助けてください! 彼を、タイガを...」

『余は何もしない。助けたくば自らの力で成せ』

「でも、私には無理です。私は何もできない...」

『では、その者への想いはその程度ということ。余が出てくるまでも無かった...』

 銀色の狼はその場を立ち去ろうとしている。
 彼女は、わずかな希望を託すように神獣に教えを請う。

「どうしたら、どうしたらいいの! 教えてください! どうしたら...」

 銀色の狼は振り返りもせず、

『そなたの想いを見せよ。そなたの想いを...』

 そう言って一陣の風と共に銀色の狼は消えていった。

 シルヴィアはその姿を見ることなく、彼を抱きしめ、祈り始めた。

「タイガ、貴方を愛しています。誰よりも愛しています。だから...」

 彼女の顔はさっきまでの険しい表情とは異なり、穏やかな表情になっていく。
 そして、彼女の銀色の髪が徐々に白く輝き出し、彼女の体も同じように白く、眩しく輝き始めていた。
 彼女の体を中心に白い光が溢れ、レイナルドを始め、騎士たちは彼女の姿を見ることが出来なくなった。

 何分が過ぎたのだろう。
 彼女の白い光が弱くなり、辺りは元の森に戻っていく。

 彼女は大河を抱いたまま、雪の中に倒れていた。

 アクセルとテオが近寄り、彼女の体を支えると、大河が息をしていることに気付いた。

「タイガ卿が息を、息をしています! 治癒師! もう一度治癒を!」

 アクセルがそう叫ぶと、レイナルドとアルフォンスも駆け寄ってきた。

 アルフォンスが慌てて治癒魔法を掛けると、大河の鎖骨から流れていた血は止まる。

「何とかなるかもしれない。治癒師殿、あとを任せる」

 シルヴィアはゆっくりと目を開け、

「タイガは、タイガは帰ってきたの?」

 いつもの彼女とは別人のように柔らかい口調でテオに聞いている。

「タイガ卿は一命を取りとめたようです。シルヴィア殿も休んでください」

 レイナルドは、部下たちに

「担架を用意しろ。タイガ殿とシルヴィア殿をゆっくりと運ぶ。フックスベルガー、このことをフォーベック殿たちに直ちに伝えてくれ」

 アクセルは二人の従士を連れ、街道に駆け戻っていく。

(奇跡だ。だが、神の奇跡ではない。彼女の、いや、皆の想いが奇跡を起こしたのだろう)

 レイナルドは目の前で起きたことが頭では理解できると思っていないが、心は何が起こったか感じ取っていた。
 彼を助けたいという想いが神獣を呼び、そしてその神聖な空気の下で奇跡が起きた。

(本当にそうなのかは判らない。だが、判る必要があるのか?)

 レイナルドは奇跡について考えることを止め、部下たちに盗賊の死体と重傷者の収容を命じた。

(この中にグンドルフがいればこれで終わりなのだが、タイガ殿の近くに倒れていた男がそうなのだろうか?)

 彼がその男のカードを確認すると”グロッセート王国カロチャ村”の”グイド”と書かれていた。

「こいつがグンドルフで間違いないようだ。これで終わったんだな」

 彼は騎士たちの警戒は緩めず、周りを警戒していた。
シルヴィアの奇跡=人魔法のところはブラッシュアップする予定でしたが、気力がなくなりましたので、中途半端です。


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