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第6章.死闘編
第6章.死闘編:第9話「夢」
 二人の治療を終え、周りを見てみると、シュバルツェンベルクの町はすっかり日が落ち、完全に暗闇に包まれているのに気付く。
 雪は相変わらず降り続き、血に染まった赤い雪の上にも新たな雪が積もっていく。

 俺はミルコの遺体から離れ、意識の無いノーラ、アンジェリークの横に座る。

「ごめん。俺のせいだ...油断した俺のせいだ...」

 俺は自責の念に囚われ、ノーラとアンジェリークの顔を優しく撫でている。

 すると遠くからカティアの叫ぶ声が聞こえてきた。
 カティアはクロイツタールの騎士4人とともに現れ、俺を見てビックリしている。

「ご主人様、大丈夫? ノーラは? アンジェは? ミルコは?」

 次々と問いを発してくるカティアに

「ミルコは死んだ。ノーラとアンジェは大丈夫だ」

 俺がそういうと騎士の一人、従騎士で治癒師のアロイスが俺の前に立つ。
 緊迫した様子で、俺たちの会話に割り込み、

「アマリー様とシルヴィア殿が危険な状態です。アクセル卿、テオフィルス卿も重傷を負われました。こちらの状況が許すようでしたら、アマリー様とシルヴィア殿の下に向かってはいかがでしょうか」

 俺には何のことか判らなかった。
 だが、聞き直している暇は無さそうだと、「案内を」と言った後、

「カティア、クリス。3人の騎士はここに残す。動けるようになったら屋敷に戻ってくれ!」

 そして3人の従士たちに、

「聞いたとおりだ。この者たちの護衛を頼む」

 レーネは魔力切れ寸前で判断力が落ちているため、カティア、クリスの二人に後を任せ、従士3人に護衛の指示を出した後、答えも聞かずに走り出す。

(危険な状態? 何があった? 屋敷にいたはずだが、アクセル、テオも重傷だと、どういうことだ?)

 走りながら、アロイスに事情を聞くが、数分も掛からず現場に到着した。
 現場にはラザファムが数名の従士たちに指示を出し、警備に当たっていた。
 ラザファムは俺に気付くと、直立不動の姿勢で

「副長代理。申し訳ございません! 自分の判断ミスでお二人が...」

「謝罪は後でいい。二人のところに案内してくれ」

 俺は逸る心を押さえつけ、アマリーとシルヴィアの所に向かう。

 寝台の上に横たえられたアマリーとシルヴィア。
 鑑定で確認すると、アマリーの体力は0以下になり、状態は心肺停止状態、臓器損傷となっている。シルヴィアは出血が完全に止まっておらず、体力も継続的に低下している。
 アロイスにシルヴィアの傷の治癒を任し、アマリーの横にいるもう一人の治癒師エーベルに状況を聞きながら、人工呼吸と心臓マッサージを行う。

(プール監視員のバイトで習った方法は確かこんな感じだったはずだ。間に合ってくれ!)

「アマリー様は5分ほど前に呼吸が止まりました。背中の傷、脇腹の傷は治療したのですが、内臓に損傷があるようで私では治癒しきれませんでした。申し訳ございません」

 エーベルは魔力切れで倒れそうになりながらも俺に謝罪してくる。
 俺はそんなことはいいと言いたかったが、アマリーの蘇生に手が離せない。

(5分...まだ間に合う。帰って来い! アマリー。帰って来い!)

 何度目の人工呼吸だろうか、絶望で目の前が暗くなっていく。

(やっぱり遅かったか。クソッ! まだだ、まだだ...)

 さらに数回、人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す。

 もう止めよう、そう思った時、突然アマリーが咳き込み、意識が戻った。

「アマリー、判るか。俺だ、タイガだ」

「タイガさん? うっ、痛い。体が...」

 アマリーは意識が戻ったことから、傷の痛みを感じ、苦しそうに顔を歪めている。
 俺は治癒魔法で彼女の脇腹と背中の傷の奥に再生を掛けていく。

(くそっ! 俺の魔力が切れる! あと少し、あと少しだけもってくれ!)

 魔力が切れる直前、アロイスにアマリーに治癒魔法を掛けることとシルヴィアの傷にも再度治癒魔法を掛けるよう指示する。
 彼が大きく頷くのを見て、俺は意識を手放した。



 アマリーは突然激痛に襲われてから、ベッドで目が覚めるまでの記憶が無い。

 目が覚めると大河が自分に覆い被さり、口付けをしている状態で必死に何かをしている姿が目に入ってきた。
 大河に声を掛けようと名前を呼んだところで、体中に激痛が走り、言葉が続かない。

(痛い! 何が起こったの?)

 その痛みが記憶の一部を蘇らせ、彼女は自分が何をするために外に出て行ったのかを思い出した。

(襲われたって言っていたけど、無事だったんだ。良かった)

 ホッとしたことから緊張感が緩み、矢傷の痛みがぶり返してきた。

(痛い! この痛みは何? 私はこのまま死ぬの? いや! やっとタイガさんと一緒になれたのに...)

 騎士団の治癒師が必死に治癒魔法を掛けているが、あまり効果が無いのか激痛は一向に治まらない。
 隣には自分と同じようにベッドに横になっているシルヴィアがいる。

 大河が再生の魔法を掛けると徐々に体の感覚が戻ってきた。
 それと共に激痛が走るが、大河が必死に治療してくれることを思うと耐えなければと歯を食い縛る。

 大河は微笑んだ後、いきなり倒れ、騎士に抱きかかえられていた。
 その姿を見て、

(私のためにこんなに必死に...もう一度、もう一度だけ、この人の声を聴きたい...)

 彼女はそう考えたところで意識を失った。



 襲撃のとき、午後4時過ぎに時間は遡る。
 シルヴィアは突然の襲撃に対応できなかった。
 タイガが襲われたと聞き、そのことだけが気になり、周りが見えていなかった。

 すぐ横でアマリーに数本の矢が刺さるのを見て、一瞬頭が真っ白になる。
 すぐに自分の革鎧にも数本の矢が突き刺さり、更に革鎧の腰当スカートの隙間から矢が入り込み、足の付け根に深く突き刺さっていた。
 だが、タイガに頼まれたアマリーを守るという義務を思い出し、咄嗟に彼女に覆い被さった。そうして、自らを盾にするが、矢は雨のように降りかかって来る。
 テオフィルスが更に上から覆い被さり、矢はほとんど防がれるが、自分の下に出来た血溜まりが徐々に広がっていくのが見えていた。

(テオフィルス卿の血か? それともアマリーか? 早くアマリーに治癒を掛けないと...治癒魔法が使えない自分が恨めしい...)

 シルヴィアは出血のため、次第に意識が朦朧となり、考えがまとまらない。

(寒いな。雪が降っているから当たり前か...矢が来なくなった...テオフィルス卿も退いたようだ...)

 彼女は何とか意識を繋ぎ止めているが、体が動かない。
 どこかの民家に運び込まれ、ベッドに横になると治癒師による治療が行われる。

「私よりアマリーを。アマリーを頼む...」

 消えいりそうな声でそう呟き、自らの治療を拒否する。

(タイガ、来てくれ! アマリーが危ないのだ! 早く!)

 意識が何度も飛ぶ中、大河の声が聞こえてきた。

「状況を報告しろ! アマリーの息はいつ止まった!」

「5分ほど前です...」

 彼女にはよく見えないが、大河がアマリーに覆い被さり、必死に何かをしている。

(何をしているんだ! 魔法を、治癒魔法を!)

 大声でそう叫んでいるつもりだが、実際にはかすれた声で囁くようにしか声が出ていない。
 しばらくすると、大河とアマリーの声が聞こえてきた。

「アマリー、判るか。俺だ、タイガだ」

「タイガさん? うっ、痛い。体が...」

 大河が最後の気力を振り絞り、アマリーに治癒魔法を掛けている。

「アロイス! アマリーに治癒魔法を! シルヴィアの傷にも、早く...」

 彼はそう叫ぶと魔力切れで意識を失い、その場に倒れこんだようだ。

 アロイスと呼ばれた治癒師が必死に魔法を掛けているのが見える。

「アマリー様! もう少しです。もう少しがんばってください!」

 その姿を見ながら、シルヴィアの意識も遠くなっていった。




 午後5時、ここは娼婦おんな目当ての客が入り始め、次第に活気が出てきた娼館。

 エルナは今、幸せの絶頂にいた。
 明日には大河に身請けされ、一緒に住むことが出来る。
 多少の不安はあるが、大河がまだ自分のことを愛してくれていることに満足していた。

(明日が待ち遠しいなぁ。今夜は眠れそうに無いし、長い夜になりそう)

 部屋に残り、明日の準備をするが、娼婦の彼女にまとめるべき荷物はほとんどない。
 大河が持ってきた土産の菓子を食べながら、金の首飾りを弄んでいた。

 突然、廊下が騒がしくなった。
 男のどなり声がしたと思ったら、女将と客引きの悲鳴が廊下に響き、パニックを起こした娼婦たちの足音がバタバタと聞こえてくる。

 彼女は何が起こったのか気になったが、恐ろしいことが起こっていることだけは判ったので、扉をしっかりと閉め、部屋の奥で息を潜めていた。

(何が起こっているの? 喧嘩? それにしては変だわ)

 突然、扉が乱暴に開けられ、二人の男が部屋に入ってきた。

「お前がエルナか。本当に大した女じゃねぇな」

 鋭い目付きの若い男が蔑んだような表情でそう言うと、もう一人のやや年かさの男が、

「さっさと始末してずらかるぞ!」

 エルナは状況が掴めず、震えているが、剣を構えて二人の男が迫ってくると、悲鳴を上げて部屋の奥に後ずさる。

「いやぁ! 助けて! 誰か助けて! いやぁぁぁ!」

 男たちは悲鳴に構わず、大股で近づいて行き、彼女に向けて剣を繰り出す。

 二本の剣が彼女の胸に吸い込まれ、悲鳴が唐突に途切れた。
 彼女は剣を引き抜かれた反動でベッドに倒れこむ。
 真っ白なシーツはみるみる赤い血に染まっていった。

「よし、ずらかるぞ。もう用はねぇ」

 二人の男がエルナの部屋に入ってから、わずか一分の出来事であった。

 彼女は唐突に始まったこの事態が現実のものとは思えなかった。

(なぜ? なにが起こったの? この血は? どうして声が出ないの? 痛い! 痛い! タイガ、助けて! 苦しいの、助けて...)

 彼女は大河に貰った首飾りを握りしめ、彼に助けを求めていた。
 だが、次第に薄れゆく意識の中でそれはすぐに消え、ある夢に変わっていく。



 彼女はキッチンで朝食を作っている。
 外は春の暖かい日差しに溢れ、気持ちのいい風が入ってくる。

 彼女の横には、ようやく1歳になったばかりの息子が眠っており、その子を見守る5歳の女の子がいた。
 女の子は父親譲りの黒い髪と鳶色の瞳、男の子は自分と同じ薄い茶色の髪。
 彼女は微笑みながら、女の子に父親を起こしてくるよう頼んでいた。

「ティリア。お寝坊なお父さんを起こしてきて」

 ティリアと呼ばれた女の子は、

「うん。起こしてくるね。もうほんとにお寝坊さんなんだから」

と可愛い仕草で母親の真似をしてから、隣の部屋にパタパタと走っていく。


「ふふぁあぁ。おはよう、エルナ。おはよう、ティム」

 大きな欠伸をし、息子の顔を見てから、2人の父親が食卓につく。

「おはよう、タイガ。あんまり時間はないわよ。指導員が遅れて行ったら、示しが付かないんじゃないの」

 タイガと呼ばれた20代後半の男は眠い目を擦りながら、

「大丈夫、大丈夫。あいつらなら、ちゃんと自主練をやるから、少々遅れても問題ないよ」

 彼女はお茶とパン、スープを食卓に出しながら、疑わしそうな目で男を見る。

「もう早く食べて訓練場に行って来なさい。ほんとにお寝坊さんなんだから」

 男は朝食を平らげ、愛用の剣を担いで家を出ようとしている。
 そして、思い出したかのように

「今日も若いのが5人、晩飯を食べに来るから。準備をよろしく、エルナ」

 彼は彼女の腰を引きよせ、口づけをした後、駆け足で仕事場に向かった。

(でも本当に良かった。ギルドの指導員になってくれて。もし今でも冒険者を続けていたら、心配でたまらなかったと思うわ)



 夕方、美しい夕焼けが空を染める中、10代半ばくらいの5人の若者を連れて男が帰ってきた。

「「おじゃましまーす」」

 若者たちは元気に挨拶をすると、いつものようにリビングにあるテーブルに向かっていく。

「お帰りなさい。準備はできてるわよ。あとはお酒だけ」

 男がにこりと笑って、酒壺を持ち上げると、後ろの若者たちも同じように壺を持ち上げている。
 彼女は「こういうときはほんとに準備がいいんだから」と言いながら笑っていた。

 ささやかな晩餐が始まると、若者たちが口々に話を始める。

「師匠のしごきはきつすぎますよ。奥さんからも何とか言って下さいよ」

「奥さんの料理って、ほんとにうまいっすよね」

「ティリアちゃん、また可愛くなりましたね」

「ティリアはやらんぞ! 欲しければ俺を倒してからにしろ!」

「タイガったら、そんなこと言ってたらティリアは誰にも貰ってもらえないじゃない」

「そうっすよ。師匠に勝てなきゃ、駄目なんて無茶っすよ」

 そして食卓はいつものように明るい笑いに包まれていた。


 食事も終わり、若者たちが帰っていく。

「「ご馳走様でした。また、お願いします」」

 彼らが帰ると急に静かになる。
 娘、息子も既に眠っており、二人だけの時間になった。

「みんないい子たちね」

「ああ、いい弟子たちだよ。まあ、もっと鍛えて死なないようにしないといけないけどな」

 二人の間に無言の時間が流れた。
 男が彼女を引き寄せると、情熱的な口づけをしてきた。

「エルナ、もうそろそろティムの弟か妹を作らないか」

「もうタイガったら...そうね、ティムも手がかからなくなってきたし、ティリアも手伝ってくれるようになったから...」

 彼女は顔を赤らめながら、彼に寄りかかる。
 そして、二人はそのままベッドに倒れこんだ。

 彼女はすぐ横にある男の顔を見ながら、自分は今のこの瞬間、世界中の幸せを一人占めにしていると思っていた。

(ああ、幸せ。この幸せがずっと続けばいいな...ねぇタイガ)

 エルナはタイガの腕に抱かれる夢を見ていた。


 外では用心棒と思しき男たちが大声で叫んでいるが、娼館の彼女の小さな部屋だけは静寂に包まれていた。
 そして、彼女は誰にも看取られず静かに息を引き取った。
 殺されたとは思えない、幸せそうな笑みを浮かべて。




 午後7時、屋敷にギラーの使いを名乗る一人の男がやってきた。
 ラザファムは先の罠のこともあり、屋敷に入れることを躊躇い、用件だけ確認していた。

「今取り込み中だ。用件だけ聞こう」

 男は頷き、周りを確認しながら、小声で話し始める。

「タイガさんにエルナが殺されたって伝えて下さい。それからギラーさんに会いに来るのも当分止めて欲しいとのことです。それだけお伝えください」

 そう言うと男は早足で屋敷から立ち去って行った。

(タイガ殿はまだ魔力切れで意識が戻らない。エルナという女性は身請けする予定の方だったはず...)

 ラザファムは守備隊に連絡し、検死が終わり次第、屋敷に遺体を運んでもらうよう手配することにした。


 午後7時30分、俺は魔力切れの状態から回復し、意識を取り戻した。
 すぐに近くにいたラザファムを捕まえ、

「みんなは大丈夫ですか! アマリーは、シルヴィアは。アクセル、テオ、ノーラ、アンジェは...」

 焦っている俺は名前を叫ぶだけで言葉になっていない。
 ラザファムは、危険な状態にあるものもいるが、全員生きていると教えてくれた。
 俺が少しだけ落ち着きを取り戻すと、ラザファムが苦痛に歪んだような表情で話しかけてきた。
 その表情を見て、俺は悪寒のようなものを感じ、本能的に聞きたくないと耳を塞ぎたくなった。

「報告すべき事項があります。先ほどギラーの使いを名乗るものが現れ、エルナ殿が亡くなられたと伝えてきました。現在、守備隊が遺体を収容しに行っているようで間もなく詰所に到着する予定と聞いています」

 俺はその時、彼が何を話しているのか理解できなかった。
 頭の中に“エルナが死んだ”という言葉が浮かび、ぐるぐる回っている。

「エ・ル・ナ・が・死・ん・だ・?」

 俺は間違っていると言ってほしいのか、一言ずつ区切ったような口調で彼に問い掛けていた。

「はい。娼館で...」

「嘘だ! 嘘だ! さっき会ってきたところなんだ! ラザファム殿、なあ、嘘なんだろう?」

「・・・」

 その後のことはよく覚えていない。
 逆上し、ラザファムたちに押さえ込まれたのか、自分の殻に閉じこもるため意識を手放したのかは判らないが、1時間ほど全く記憶が無かった。

 午後9時前、意識が戻り、放心していた時、守備隊からエルナの遺体を運んできたと連絡があった。

 エルナの遺体は、ミルコの遺体と同じ一階に安置されたが、俺はただ茫然とそれを見ているだけだった。

 ふらふらと歩きながら、エルナに近づていく。
 真っ赤に染まった服に青白い顔。だが、その顔は微笑んでいるように見える。

「エルナ? 嘘だろ。寝ているだけだろ」

 俺はエルナに近づき、彼女の頬に手を当てる。

「どうしてこんなに冷たいんだ。暖めてやるよ。寒いだろ...」

 後ろではクリスティーネとカティア、それにラザファムが心配そうに俺を見ている。
 クリスティーネとカティアは俺の様子を心配したラザファムが呼んだらしいが、俺にその記憶はない。

「ごめん。ごめんよ。痛かっただろ。苦しかっただろ。ごめん...」

 俺はエルナの横に跪き、涙を流しながら冷たくなった彼女の体を抱いていた。

「ラザファム殿、これもウンケルバッハ守備隊、いや、グンドルフの仕業か」

 俺は感情が抜け落ちたような声でラザファムに確認する。
 彼は黙って頷き、俺の言葉を肯定した。

「なぜだ! エルナが何をした! 俺が身請けするから、俺に関わったから、こうなったのか!」

 最後の方は逆上して何を言っているのか自分でも覚えていない。
 クリスティーネとカティアが俺に抱きつき、

「「ご主人様! ご主人様!」」

 二人とも掛ける言葉が見つからず、ご主人様と連呼するだけだった。
 俺は魔力が戻りきっていないこともあり、逆上したまま再度気を失っていた。



 大河は夢を見ていた。

 訓練場でいつものようにミルコは酒を飲んでいる。
 タイロンガを見せると珍しく食い入るように見つめ、大河が剣の型を見せると目を輝かせていた。

「おめぇもようやく一人前だな。あのデュオニュース(偏屈)がこんな凄ぇ剣を打ってくれたんだからな」

「まだまだ半人前だぜ。もっと鍛えてくれよ、なあ師匠」

「甘えるんじゃねぇ! これからは一人でやりな」

 ミルコはそう言うと静かに消えていった。


 エルナが笑いかけている。
 大河は彼女を連れ、屋敷を案内していた。

「ここが自慢の風呂だ。早くエルナを入れてやりたいよ」

 彼女は寂しそうな表情で笑っている。

「ここが食堂、奥が厨房だよ。そう言えば結構料理を覚えたって言っていたよな。楽しみだ」

「ごめんね。もう料理は作って上げられないの。ごめんね」

 また、寂しそうな笑顔でそう言ってくる。

「えっ! 何でだよ。今日からここに住むんだぜ。一緒に住むのが嫌になったのかよぉ」

 彼女は大きく首を横に振り、

「ううん、違うの。私はもうすぐ別の場所にいくの。そう、あなたが別の世界から来たように、私も違う世界に行くのよ」

 大河は泣きながら、エルナを捕まえようとする。
 だが、彼女の体は徐々に薄れ、消えていこうとしていた。

「行かないでくれ! いやだ! 帰って来てくれ!」

「馬鹿ね。この世界では会えないかもしれないけど、きっとまた会えるわ。それじゃ、またね。さようなら、タイガ...また...」

 大河は彼女を抱きしめようと腕を伸ばしているが、彼女は悲しい笑顔を残しながら消えていった。
夢の話が3つ続き、少し鬱陶しいかもしれません。
こういう風にしか表現できませんでした。


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