ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第5章開始です。
第5章.ドライセンブルク編
第5章.ドライセンブルク編:第1話「ギラーとの交渉」
 冬至の日の夜、夕食後に発表した俺のドライセンブルク行きの話で少し沈み込んだ雰囲気になったが、新年を迎える頃には5人も少しずつ明るさを取り戻していった。

 この世界の時間管理は都会なら城や庁舎にある機械式の時計で得た時刻を時鐘で知らせる方式で、一般市民は3時間に1回鳴らされる時鐘で時を知ることになる。
 冬至の日が終わり、新年を迎える午前零時にはいつもと違い盛大に時鐘が打ち鳴らされる。

 翌朝、日本の元日とは異なり、簡単な挨拶だけで新年を祝った後、明日からのドライセンブルク行きの準備をする。
 必要なものはほとんど揃っている。
 今回の準備で必要なことはノーラたちの安全に関することだ。
 今まではドライセンブルク、ノイレンシュタット、クロイツタールと俺が立ち寄りそうな場所での情報収集が主であったが、俺の名前がその三都市で噂されるのは時間の問題のような気がする。
 俺がシュバルツェンベルクを離れている間に、グンドルフがここを嗅ぎ付けないとも限らない。グンドルフに先手を取られノーラたちに危害が及ぶのが、最も避けたい事態だ。
 裏家業とも繋がりのありそうなギラーを利用することを考えている。
 ギラーにシュバルツェンベルクの情報屋を管理してもらい、グンドルフが現れたという情報を得るか、俺のことを知りたがるやつが現れたときにミルコや守備隊に情報が流れるようにしておきたい。
 ギラーを信用してグンドルフの話をするのはリスクが高いが、合理的な考え方の持ち主であるギラーなら、逆にうまく操作できる。

 ギラーの商会に行き、新年の挨拶を交わした後、この話を持ちかけてみる。

「ギラーさん、今日はお願いがあってね。ちょっと時間をもらえるかな」

「ほう、何ですかな」

「屋敷の引渡しのときにノイレンシュタットの奴隷商を紹介してくれるって言ってましたよね。ドライセンブルクに行く用事ができたんで、ついでにノイレンシュタットに寄ろうかと思って」

「グロスハイム商会のノーマンという男と懇意しておりますからの。その男に紹介状を書きましょう」

「助かります」

 ギラーから紹介状を受け取った後、本題に入る。

「実はもう一つお願いがあるんですがね。これはお願いというより商売に関することなんですが、話を聞いてもらえますか」

「商売ですか。タイガ殿の提案なら興味はありますぞ」

 ギラーが話に乗ってきたので少し長くなるがと前置きをした上で、俺がグンドルフに追われている話をし、情報屋の管理について話をする。

「なるほど。いくら凄腕の冒険者とはいえ、いきなり金貨2000枚以上をポンと出すのはおかしいと思っておったのですよ。グンドルフに追われておると...」

「ギラーさんに頼みたいのは、今やってもらっているドライセンブルク、ノイレンシュタット、クロイツタールの情報収集のほかに、シュバルツェンベルクの情報屋を統括してもらって、俺に関する情報を調べている奴が現れたらすぐに情報を俺かミルコに教えて欲しいってことなんです」

「ふむ。タイガ殿、商売といいましたな。報酬と条件はどうなっておりますかな」

「経費として金貨50枚。俺か関係者が襲われる前に情報が手に入れば成功報酬として金貨50枚。期間は1年。情報屋はこの町にいる情報屋に限定。情報屋はギラーさんが選ぶ。これでどうですか」

「悪くはないですな。だが、儂がそれをやるメリットがあまりないですな。情報屋という奴は誰にでも情報を売る。儂がタイガ殿のために動いているとグンドルフに知られればこっちまで狙われかねん」

(まずいな、報酬よりリスクが大きいと考えているぞ。こっちに引き込む方法は...)

「ギラーさん、この町に情報屋と呼ばれる者が何人いるか知りませんが、金貨50枚あれば情報屋とコネクションができるでしょう」

「どのくらいおるか知らんが、精々20人といったところじゃろうの。だが、情報屋とコネクションができても儂にメリットがありますかな。情報屋なんぞゴロツキと大して変わらんが」

「20人からの情報を使えば色々できるのでは? ゴロツキと言っても複数の情報があれば真偽はわかると思いますよ」

 俺は何とかギラーを引き込もうと必死だが、できるだけ余裕があるように見せ、ギラーにも利があるように話を誘導していく。

「例えばそのコネクションを使って高ランク冒険者の好みなんかが判れば商売に使えませんか。他にも行政府の動向なんかも手に入れば商売に有利では?」

「確かにそうじゃが...」

 ギラーは腕を組み考え込むような顔で上を見上げている。

「俺に関する情報だけじゃなくていろんな情報を集めていれば、ギラーさんが俺に肩入れしているようには見えないでしょう。それに20人からの情報屋を牛耳っていれば情報操作もできるんじゃないですか」

「例えば?」

「例えば守備隊が大規模な盗賊狩りをするという噂があるとします。この噂を積極的に情報屋が発信すれば盗賊たちは街道での襲撃を控える盗賊も出てくるでしょう。そのタイミングでギラーさんのところの商品を運べば盗賊のリスクを下げることができるはずです」

「うむ。確かに...しかし、そう簡単に行くものですかな」

 ギラーは俺のほうを見ながら、穴がないか必死に考えているようだ。俺は畳み掛けるようにメリットを並べていく。

「そうですね。そうそううまく行かないでしょうね。でも考えてください。少なくともさっき言ったデメリットは解消されますよね。情報屋を組織する金も俺から出るからギラーさんの懐が痛むわけではない。どうです?」

「うむ...しかし、タイガ殿。この話では儂を信じることが前提じゃが、何を根拠に儂を信じるのかのう」

俺はその問いに笑顔で

「ギラーさんは商売人ですから」

と言うと、ギラーは何を言いたいのか判らず、困惑の表情を見せている。

俺は続けて根拠を並べていく。

「ギラーさんは俺が金を持っていて使うつもりもあることを知っています。俺に恩を売ることで俺がギラーさんから何か買うようになれば当然普通より利益が上がる」

 一旦言葉を切り、ギラーの表情を伺いつつ、

「さっきの紹介状の件もギラーさんに利益はないでしょう。でも俺のために骨を折ってくれるのはその後の商売を考えてのことでは? 逆にグンドルフに情報を売ったとしても大した利益は上がらないことも知っていますよね。商売人であるギラーさんだから信用できるんですよ」

 ギラーは一頻り大きな声で笑った後、

「タイガ殿はおもしろいの。確かに商売を考えればタイガ殿に肩入れした方がいい。この話お受けしよう」

 ギラーとの交渉を終え、明日からの足である馬を借りるため、ギルドの馬場に行く。
 馬場にはゴスラーから一緒に来た馬が残っていた。
 ギルドの職員に馬の賃料を聞いてみると、保証金10G、1日あたり10S。
 買取について聞いてみると、金貨15枚とのことなので買い取ることにした。
またまた、ギラーさんとの商売話でした。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。