第4章.シュバルツェンベルク編
第4章.シュバルツェンベルク編:第17話「アンデッド戦」
翌日、ギルドの受付にCランク昇格試験の申請をする。
受付嬢の話では、シュバルツェンベルクでは受験者が6人程度になった時点で臨時パーティを組むそうだ。屋外の討伐クエストを受け、試験官とともに規定数を討伐、合格となるそうだ。
討伐対象はなにかと聞いたら、オークか狼を10匹くらいが標準だそうで、オーガやトロルを1匹というケースもあったそうだ。
受付嬢に1人で受けることは可能かと聞いてみたが、不可とのこと。6人程度のパーティを組まざるを得ないようだ。
面倒だが、オークや狼なら一人でも十分なので問題ないし、オーガやトロルも難易度的に同じだろうから、気楽に構えることにする。
現在、受験資格者は俺一人。多分5日くらいで規定数になるとのこと。
Cランク昇格のことは忘れ、迷宮に向かう。
今日からは41階。いよいよアンデッドエリアに入る。
41階からはスケルトンが現れ、42階からはゾンビも現れる。
ゲームやホラー映画でおなじみの魔物だが、子供の頃に見たゾンビ系の映画を見たトラウマの所為でどちらも苦手な相手だ。
当然、子供の頃から一回も遊園地のお化け屋敷にも入ったことはないし、大きくなってからも、ホラー映画は絶対に見に行かず、ゾンビ系のシューティングゲームもやらなかった。
(某神話に出てくる邪神たちは現実感が無いから、それほど怖いと思ったことはないんだけど、ゾンビとかスケルトンとか見るのもイヤなんだけどなぁ。早めに50階まで進みたい)
40階の転送室へ移動し、覚悟を決めて41階への階段を降りていく。
41階は、それまでのフロアより更に薄暗く、空気もかび臭いと言うか、生臭いと言うか、何とも言えない匂いがする。
入ったことはないが、古い墓場や古墳の匂いと言われれば納得しそうな、そんなにおいが立ち込めている。
ぬらぬらとした湿気を帯びた土の壁、柔らかい土の上に砂利がまかれた床の通路を進むと、前方からカタンカタンという硬い音が近づいてくる。
徐々に近づいてくる音。どこからともなく吹いてくる風。
10mくらい先に白い全身骨格がゆっくりと現れてきた。
スケルトン:
死霊術により蘇った骨のアンデッド。魔力で骨格が強化されている。
HP800,AR25,SR15,DR5,防御力70,獲得経験値150
片手剣(スキルレベル20、AR60,SR40),
盾(スキルレベル20、防御40,SR35)
特殊:矢無効,槍(刺突)ダメージ1/2
見た目は学校にあった全身骨格だが、右手には錆びたロングソード、左手には黒ずんだラウンドシールドを持ち、禍々しい力を強く感じる。
カタン、カタン、カタン
精神耐性のおかげか、スケルトンを見てもパニックになることはなく、ゆっくりと歩を進めるスケルトンに対し、俺も同じようにゆっくりと間合いを詰めていく。
攻撃の間合いに入ったタイミングが同じだったのか、俺とスケルトンは同時に斬りかかり、唐突に戦闘が開始された。
スケルトンは見た目の動きの硬さからは想像できないほど、滑らかに剣を振るってくる。俺は剣でスケルトンの攻撃を払い、スケルトンも俺の攻撃を盾で受けていく。
(見た目以上にうまい剣捌きだ。さすがに片手剣スキルが高いだけのことはある)
防御力が高いから、両手剣や斧のような攻撃力が高い武器じゃないとダメージが入りにくいのだろうが、俺の場合は両手剣だし、ミスリルコーティングされているから、それほど気にする必要はない。
数回、剣を合わせると、敵の動きが徐々に読めてきた。
ダグマルのミスリルコーティングソードで連続攻撃を掛け、首を刎ね飛ばす。
(さすがにダグマルの剣だ。ディルクの剣とほぼ変わらない威力がある)
その後、41階では1時間ほどで8回戦闘を行うが、最初の見た目のインパクト以外は特に問題もなく、42階へ降りる階段に行き着く。
42階に降りると、遠くから何かを引き摺りながら歩く、ズッズッという耳障りな足音とスケルトンのカタンカタンという足音が聞こえてきた。
(遂にゾンビにご対面か。俺の精神は大丈夫かな)
足音が聞こえ始めて10秒ほどで腐敗臭とともにゾンビがスケルトンとともに現れる。
ゾンビは、茶色の汚い服、腐敗し半ば崩れた顔、濁った目、よだれを垂らした半開きの口をしており、元の年齢・性別はわからない。
ゾンビ:
死霊術により動く腐敗した死体。通常の武器による攻撃は無効
HP1000,AR25,SR5,DR5,防御力20,獲得経験値150
噛み付き(AR70,SR40,麻痺2)
特殊:通常武器無効、水属性ダメージ1/2、火属性ダメージ1.5倍
(気持ちワルゥ! やっぱ、こういうの苦手だわ。こいつらに囲まれたら、パニックになりそう)
俺はミスリルコーティングソードを構え、スケルトンとゾンビに対峙する。
(今後のこともあるから、ダグマルの剣がどの程度効くのか、良く確認しておく必要があるな)
まず、動きの早いスケルトンを倒し、ゾンビにどの程度ダメージを与えられるか確認することにした。
スケルトンを牽制し、誘い出す。
スケルトンは、一見知性はなさそうなのだが、俺の誘いには乗ってこない。
仕方が無いので、強引にスケルトンに攻撃を掛け、先に倒すことにしたのだが、動きが悪そうなゾンビが思いのほか、絡んでくるため、なかなかスケルトンを倒せない。
5分ほどでスケルトンを倒し、ゾンビへの攻撃を開始する。
さすがにスケルトンほどの動きは見せない。
ゾンビは、精々オーク程度の動きであるため、こちらの攻撃は面白いように当たる。
(ゾンビの攻撃は噛み付きだけで捕まりさえしなければ問題ないな。ダグマルの剣も今のところちゃんとダメージを与えているし、問題はなさそうだ)
大技を使わず、じっくり攻め、7~8発命中したところでゾンビは光を放って消えていく。
剣を確認すると少しだけ、コーティングが剥がれている所があるが、大きな問題はなさそうだ。
43階への階段がなかなか見つからず、2時間ほど探し回り、ようやく43階に降りることができた。
36階付近とは異なり、攻略中のパーティはほとんどいない。生者には誰にも会うことなく、43階に到着する。
43階からは、スケルトンとゾンビの3体の組合せになる。
ゾンビは動きが遅く、油断さえしなければ、問題ないのだが、ここに来て、僅かな油断からミスを犯してしまった。
(見た目の気持ち悪さにも慣れてきたし、ゾンビ3体の今回は楽勝だ。よほどスケルトン3体の方が厄介だ)
そんな風に考えたことが仇となったのか、2体のゾンビを葬り、3体目を倒そうとした際に2体目のゾンビの止めを刺すのを忘れると言うミスを犯してしまった。
3体目のゾンビに斬撃を加えている時、2体目のゾンビが俺の足元に這って近づいてきた。2体目のゾンビは俺の足を掴み、太ももの裏側に噛み付いてきた。
「ウワッ! クソッ! 離せ!」
ちょうど、3体目のゾンビに止めの突きを入れた時だったため、バランスを崩し、3体目のゾンビに抱きつく形で飛び込んでしまった。
3体目のゾンビは口を大きく開け、俺の首目掛けて噛み付こうとしている。咄嗟に突きを入れている途中の剣で振り払い、噛み付き攻撃をかわすが、太ももを噛まれたため、麻痺状態になりつつある。
(痛ぇし、やべぇ! 少し麻痺してきた!)
俺はまだ動く両腕で目の前のゾンビを素早く切り裂いて倒し、振り向きざまに太ももに噛み付いているもう1体のゾンビを倒す。
3体とも倒した後、完全な麻痺状態になる前に治癒魔法の麻痺回復を掛けて何とか麻痺状態に陥ることなく、立ち上がることができた。
これが映画やゲームのゾンビ物と同じなら、俺もゾンビ化してしまうのだが、迷宮のゾンビに噛み付かれてもゾンビ化しないと聞いている。
(ふぅう、やばかった)
もし、完全に麻痺してしまったら、治癒魔法を掛けることもできなかったし、そもそもゾンビに食い殺されていた可能性が高い。
(油断大敵だ。今日はこの辺でやめておき、明日以降に45階に挑むことにしよう)
その後、10回程度の戦闘をこなし、40階の転送室に戻る。
いつもよりかなり早い午後3時。
本日の成果は、スケルトン29体とゾンビ20体。さすがに割が良いだけあって金貨7枚、銀貨35枚の儲けだ。
この後、ダグマルの工房に行き、剣の調子を報告。僅かにコーティングが剥げただけなので、このまま明日も使うことにする。
アンデッドはおいしいです。
ですが、アンデッド用の武器を手に入れるのにお金がかかります。
普通のパーティはどうしているのでしょう?
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