翌日、一応ミルコに事情を説明してから、ノーラたちと一緒に迷宮に入る。
　
「好きにしろ。へなちょこの戦いを見るのも勉強だ。その代わり、さっさと４０階を突破しろよ」

　ミルコはそう言って、ＯＫを出してくれた。

　やる気満々の５人とパーティを組み、久しぶりに２０階の転送室に飛ぶ。
　一抹の不安を覚えながら、俺が手を出さないことを伝えておく。

「５人の連携を見てみたいから、危なくなるまで手は出さない。いつも通りやってくれ」

「「はい！」」

　２０階の転送室から、２１階に下りると早速オークが１匹近づいてくる。

　前衛は右にノーラと左にアンジェリーク。２人は２ｍくらいの間隔を開け、その間の２ｍくらい後ろに槍使いのカティアが立つ。弓使いのクリスティーネが右後方、治癒師のレーネが左後方に立ち、これが彼女たちのフォーメーションのようだ。

（一応、形的には理には適っているようだな。後はどう戦うかだ）

　前衛２人は警戒しながらゆっくりと近づいていく。レンジに入った瞬間オークが棍棒でアンジェリークを攻撃、その重い棍棒の一撃をラウンドシールドで受け止めるが、明らかにパワー負けしており、たった一発で数歩後ずさってしまう。

　その間にノーラが右に回り込み、掛け声と共にロングソードで斬り付けるが、へっぴり腰で踏み込みが甘いため、オークの分厚い皮膚で斬撃が止まってしまう。

　次にカティアが棍棒を振り切った後の空いた脇にショートスピアの突きを入れるが、レンジギリギリからの突きに威力は無く、これも大したダメージを与えていない。

　後衛の２人は、最初から攻撃には参加せず、周囲の警戒をしている。

（攻撃力不足が酷いな）

　基礎訓練以降、鍛錬をしていないのか、ノーラもアンジェリークもロングソードを使いこなせていない。カティアの突きもオークの突進を怖がってへっぴり腰になっている。

　怒り狂ったオークを相手にノーラとアンジェリークが盾で防戦し、カティアのスピアで少しずつオークの体力を削っていく。
　盾を叩く棍棒の音が辺りに響き、少しずつダメージを与えられるオークが時折咆哮を上げているが、どちらも動きが悪く、どうも緊迫感を感じさせない戦闘に思えてしまう。

　１０分ほどでオークの動きが徐々に弱まり、ノーラとアンジェリークの前衛コンビも攻撃に転じることができようになり、ようやくオークを倒すことができた。

　満足げにノーラが魔石を拾い、他の４人も戻ってきた。

（このまま見ていても仕方が無いな。一旦階段に戻って話し合うか）

　俺は戦い終わった５人にねぎらいの言葉を掛けた後、階段室まで戻るように指示する。

　安全地帯である階段に戻り、今の戦いの感想を聞いてみると、いつも通りで時間が掛かるが、確実に倒せる方法だとの認識だった。

「確かに１匹だけなら確実なんだが、２匹以上になったらきついよな。クリスティーネが攻撃しないのはなんでだ？」

「クリスのショートボウだと、オークに効かないので、警戒に回ってもらってるんですが．．．」

　俺が何を言いたいのか理解できていないが、ノーラが意図を説明してきた。
　言葉で言うより、やったほうが早いので次の戦闘には俺も参加することを宣言する。

「次は俺が前に出て攻撃を受ける。レーネ以外の全員で攻撃してみてくれ。」

　俺が盾役になり、４人が攻撃に専念した時の攻撃力を見てみることにした。

　俺はオークの棍棒を受けることに専念し、ノーラ、アンジェリーク、カティアが俺の横から攻撃を仕掛け、クリスティーネがオークの顔を狙って矢を放つ。

　オークは攻撃を尽く俺に受けられた上、弓での顔面への攻撃が鬱陶しいのか、防御が疎かになっていく。

　その隙を突いて、カティアが右太もも目掛けて槍で突きをいれ、ノーラとアンジェリークがそれぞれ両脇に回り、切り込んでいく。
　しかし、オークの棍棒がまだ恐ろしいのか、前衛３人の攻撃は及び腰でダメージの入り方が少ない。

「カティア！　もっと体全体で槍を突き出せ。槍ごとぶつかるつもりで突きを入れろ！」

「ノーラ、アンジェリーク！　手だけで剣を振るな！　もっとしっかり踏み込め！」

　俺がそう叱咤するが、なかなかうまく行かない。

　それでも攻撃に専念したおかげで７～８分でオークを倒し、再度、階段に戻る。

「矢って言うのは、効果が少なくても顔の辺りに飛んでくるだけで結構、嫌なもんなんだよ。クリスティーネは顔を狙って攻撃を掛けること」

「カティア。槍は棍棒よりレンジが広いんだから、もっとギリギリまで突っ込んでいけ！ノーラとアンジェリークは、自分の剣と盾に振り回されすぎ。しっかり剣を振り抜くこと！」

「レーネは槍とか使ったことはないか？治癒師になる前に使っていた武器は？　魔法を使わなければ武器を持っていても問題ないだろう」

　５人それぞれに指示を出し、再度オークと戦うが、劇的な変化は無い。

（やっぱり基本がなってないから、小手先ではダメだな）

「今日はここまでにして外に出る」

「まだ、戦えます。それにもっと魔石を集めないと宿代がなくなってしまいます」

　不満気なノーラが代表してそう言うが、俺はこれ以上いても仕方が無いと思い、

「５人とも基礎がなっていない。このまま迷宮にいてもいつまで経っても先に進めないぞ。これから最低１ヶ月は訓練を続けてもらう。宿代は心配するな。俺が出してやる」

　５人とともに迷宮を出て、訓練場に向かう。

　ノーラとアンジェリークは片手剣の指導員に、カティアとレーネは槍の指導員に、クリスティーネは弓の指導員にそれぞれ引き渡す。
　ミルコ以外の指導員は、それほど変人では無いので、きちんと指導してくれるだろう。
　訓練の様子を少し見てから、俺は迷宮に戻ることにした。

　夕方、迷宮を出て、訓練場に戻ってくると、５人が疲れ果てた様子で俺を待っていた。

「とりあえず金貨１０枚を渡しておく。これで１ヶ月くらいは困らないだろう」

「どうしてこんなに良くしてくれるんですか」

　ノーラはビックリした表情の後に少しはにかんだような表情になる。他の４人もなにか期待するような目で俺を見ている。

「ここまで係わった連中に死なれたら目覚めが悪い。それに貸した金が返ってこなくなるのも困る」

（どうもこういう雰囲気は苦手だ。かわいい女の子に好意を持たれること自体は大歓迎なんだが、どうも疲れる）

　話題を変えるため、

「明日から１ヶ月間訓練をこなしてもらう。日の曜だけは休んでいい。レーネは槍で行くか、自分に合った武器を探すかして早く決めてくれ。槍以外ならその武器を買いに行くから」

　なぜか、目を潤ませたレーネが、

「ご主人様は月に１回くらいしか休まないのに、私たちだけ週に1回休むなんて変です」

「ご、ご主人様って．．．タイガでいいから。ああ、俺の場合は好きでやってるわけじゃなくて、ミルコの命令だからな。それに今の体力だと休まないと体が持たないだろう。ミルコほどじゃないにしても結構厳しい訓練だって聞くぞ」

（ご主人様は止めてくれ！　このノリを何とかしないと俺の精神が崩壊する）

　まだ、納得いかないのか、「でも．．．」と言葉を濁してくる。

「じゃあ、こうしよう。明後日の日の曜は休まず、６日間連続で訓練をやってもらう。その状況を見て、休みを決めよう」

　結局、５日目にカティアが過労でダウンし、他の４人も目に見えて訓練の効率が落ちたので、週休１日になった。

　レーネの武器は昔使っていたショートスピアに決定し、前衛２名、中衛２名、後衛１名という編成が確定した。