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脱字、矛盾点(スキルレベル35→39)修正しました。
第4章.シュバルツェンベルク編
第4章.シュバルツェンベルク編:第9話「休日」
 25階突破後、訓練と迷宮探索を交互に繰り返し、レベル、スキルとも順調に上った。

 26階からゴブリンウォーリア、ゴブリンアーチャー、ゴブリンシャーマンのゴブリンシリーズだが、コボルトウォーリアらと比べ、体力と攻撃力が若干上がっている他は特に問題なく、簡単に突破できた。

 30階の主であるゴブリンキングもほとんど瞬殺できるレベルの敵だったので、30階までは1日でクリアできた。

 31階から、グレイウルフ、ワイルドボア、ベアの野生動物系の魔物で、動きが早いグレイウルフ、突進力のワイルドボア、耐久力のあるベアの組合せにかなり苦戦した。
 レベルアップ、スキルアップを重ね、10日でレベル16、両手剣スキル35に到達。ようやく目途が付き、更に10日で何とか突破できた。

 特に35階の主であるレッドベアは、体長15フィート=4.5mの大物で、魔法を駆使し、ヒットアンドアウェーで少しずつ体力を削る方法で何とか倒すことができたが、HPが2000近い大物相手の戦いは、いまだ苦手だ。

 苦労した結果、レベル18、両手剣スキル39になった。

 ダグマルの鞘への細工もうまく機能し、魔法を使ったあとの剣を拾うまでのタイムラグが無くなった。
 そのおかげで属性魔法もコツコツ使えるようになり、何とかすべての属性で第三階位まで使えるようになれた。

 高山タカヤマ 大河タイガ 年齢23 LV18
  STR1369, VIT1585, AGI1281, DEX1310, INT4216, MEN2228, CHA1085, LUC1075
  HP1049, MP2228, AR5, SR5, DR5, SKL276, MAG153, PL34, EXP259882
  スキル:両手剣39(複撃2、狙撃1)、回避30(見切り2)、
      軽装鎧25(防御力向上1)、共通語5、隠密11、
      探知13、追跡8、罠5、罠解除8、体術20、乗馬8、植物知識9、
      水中行動4、上位古代語(上級ルーン)50
  魔法:治癒魔法18、火属性16、水属性9、風属性9、土属性9

 ミルコの訓練を受け始めて約2ヶ月。

「明日は休みだ。たまにはゆっくり休め」

 昨日、ミルコがそう言った時、自分の耳を疑ってしまった。

「ここまで続くとは正直思わなかったぜ。まあ、俺の弟子を名乗ってもいいレベルにはなっただろう」

「ふぇ?」

 俺はミルコの言葉が信じられず、固まったままだ。

「明後日からは、大型の魔物相手の技を教えるから覚悟しておけよ」

 やっぱり特訓は待っていた。そう甘くは無いということだ。
 やられっぱなしでは癪なので、「俺も遂に”剣鬼”の弟子か。うんうん、いい響きだ」とからかっておく。

「てめぇ、その名を口にするんじゃねぇ! 恥ずかしくて、こうむずむずするんだよ!」

と背中を掻きながら、怒鳴るのが面白く、もう少しからかってやろうかとも思ったが、休みを取り消されると困るので、早々に退散する。

 自分でもよく体がもったなとも思うが、ミルコの言う”最後に勝つのは諦めない奴だ。”という意味が今ならよく判る。

 人間一度限界を突破すると、少々のことでは動じなくなり、精神的なタフさというやつを持てるようになる。もちろんこのやり方がいいのかは何とも言えないが。

 ミルコの無茶な方法のおかげかどうかはともかく、何度か迷宮で死にそうになった時も不思議と「自分はもう死んでしまうんだ」と思うことはなかった。

 特にきつい時には、「ミルコの訓練の方がきついよな」と思うと自然と体が動くようになった。
 ここまで到達したから、ようやく休みがもらえたのかもしれない。


 今日は、8時頃までゆっくり寝てから、朝食をとりに行く。

 山シギ亭の主人のモリッツが、

「珍しいな。タイガがこんなに遅くに起きてくるなんて」

「ああ。2ヶ月ぶりの休みなんだ。今日は”鬼”にも会わずに済むし、迷宮にも入らなくてもいい。幸せな一日をゆっくり過ごそうと思ってね」

「そうかい。じゃ、ゆっくり食べな」

と言って、朝食をおいて厨房に戻っていく。

 朝食後、今日の予定を考える。

(そろそろ、41階からのアンデッドエリアに入る。アンデッド対策が必要だよな。剣の手入れと合わせてダグマルの店にでも行ってみるか。その後は、のんびりとシュバルツェンベルクの街を散策してみよう)

 10時頃、宿を出発し、ダグマルの店に行く。

「タイガ、今日は遅いな」

 どうもみんな俺がゆっくりしていると違和感を覚えるようだ。

「今日は2ヶ月ぶりの休みなんだ。剣の手入れに合わせて、ちょっとダグマルに相談があってね」

「ほう、何の相談だ」

「もうすぐ、41階からのアンデッドエリアに入るんだ。俺の剣は、切れ味はいいんだが、アンデッドには効果がない。何かいいものがないかと思ってね」

「なるほど、ちょっと待ってろ」

と言って、工房の方へ歩いていく。5分ほど待っていると、

「これなんかどうだ」

と言って、一振りの両手剣を持ってきた。形は俺が使っているものに似ている。

「これはな、鋼の剣にミスリルをコーティングした廉価版のミスリルソードなんだ。俺の試作品で一応アンデッドに効果があることは確認できている。欠点は頻繁にコーティングし直さないと効果が無くなることなんだが、2~3日は効果がもつから、使ってみないか」

「面白そうだな。再コーティングにはどのくらいの時間が掛かるんだ」

「1日貰えれば充分だ。中が鋼だから切れ味もいいし、自信作なんだが、使いこなせる奴がいなくてな。今なら、ただで使わせてやるぞ」

「ただでいいのか! ミスリルのコーティングって結構金が掛かるんじゃないのか」

「まあ、そうなんだがな。アンデッドエリアに行くような奴は自前の装備を揃えているし、こういった誰も使ったことがない武器は使ってくれる奴が極端に少ない」

 いやな思いででもあるのか、ダグマルは続けて、

「それに慣れない奴が使うとすぐに壊される。その点、お前さんなら、あまり気にせず使ってくれそうだし、変な使い方で壊すことも無いだろう」

「まあ、ダグマルの作ったものなら信用してるから、気にせず使うな。ところで、効果は突然切れることはないんだろ。段々落ちていく感じか?」

「そうだな。コーティングが剥がれたところから効果がなくなるが、一気になくなることは無いよ」

 大体のところは確認できたので、工房の奥の試し切り場に向かう。

 振ってみるとディルクの剣と同じバランスでほとんど違和感はない。

(これならすぐにでも使えるな)

 試し切りでワラ人形を切り裂くが、さすがに鋭い切れ味だ。

「OK。こいつを買おう。いくらだ」

「貸すだけでいいだろ。どうせ近いうちに師匠の剣を手に入れるのに俺の剣はいらないだろう」

「まあそうだが、本当にタダって訳にも行かないだろう」

「いや、まだ試作品だから金は取らない。その代りアンデッドを斬った時の感想と言うか、何か感じたことがあったら教えてくれ」

(モニタ契約みたいなものか)

「了解。じゃ、必要になったら借りに来るよ」

 武器屋での用事も済んだので、街をブラブラと歩く。

(どこへ行こうかな。こっちの世界に来て随分経つが、遊びらしい遊びをしていないよな。色街でも行ってみるか)

 することもなく、遊び仲間もいないので、娼館が並ぶ色街へ行ってみる。
 色街は、シュバルツェンベルクの中心からやや北側に行ったところにあり、冒険者相手の娼館が多く並ぶ。
 通りを歩くと、客引きがひっきりなしに声を掛け、娼婦、男娼などが出窓から手招きしてくる。
 冒険者や隊商の護衛らしい男女が娼館の中をのぞき、値踏みをしながら、歩いており、時折、娼館に入っていく。

(すごい活気だな。昼間からこれなら、夜になったらどうなるんだろう)

 俺もきょろきょろしながら、大通りを歩いていく。

 学生時代を含め、大都会の歓楽街とは縁がなかった俺は、すぐに客引きの若い男に捕まってしまう。

「冒険者のお兄さん。うちで遊んでいきなよ。うちは別嬪揃いだし、エルフ、ドワーフ、獣人も揃えているし、よりどりみどり。夕方までなら半金貨1枚でどうだい」

(すげぇ。エルフにドワーフまでいるのか。それにしても半金貨1枚=5万円は高いだろう。冒険者価格なのか?)

「獣人ってどんな獣人がいるんだ?」

「狼人、猫人がいるよ。どっちも胸がでかくてかわいいよ」

と言って、ドンドン引っ張っていく。

 まだ、入っていく覚悟が出来ていないので、なんとか振り解こうとするが、どんな技なのか知らないが腕を取られたまま館の中に引き込まれてしまう。

(ジャイアントスパイダーの糸より強いんじゃないか。どうしよう、入っちまったよ)

「お一人様、ご来店だよ」

と言って、入り口近くに座っている化粧の濃い年嵩の女に渡されてしまう。

(わぁ。ドンドン罠にはまっていくような気がする)

「あら、お兄さん。こういうとこは初めてかしら?今はお客を取っている子がいないから、選びたい放題よ」

と腕を絡めながら、娼婦たちが控えている部屋に連れて行かれる。

 クラクラするくらいキツイ香水とタバコの匂いが立ち込め、中には10人ほどの娼婦が扇情的な薄手の服を着て、こちらに流し目を送ってくる。

(こうなったら、腹を括って遊ぼう。俺にはウィルス耐性があるし、金もある)

と気合をいれて、部屋の中の娼婦たちを見てみる。

(結構美人が多いな。折角だから亜人がいいな。)

 一人のエルフの女性に目が留まる。

 鑑定で見てみると、年齢38歳で隷属の魔法が掛かっている。首には革製の首輪が着けられており、よく見ると娼婦全員が同じものを着けている。

(全員奴隷なのか。奴隷ってことは、儲けも貰えないだろうから、客を喜ばせようっていうインセンティブが働かないんだよな)

 急にやる気がなくなり、面倒になってきた。

(なんか一気にやる気がなくなったな。でも、このまま帰してくれるはずはないし、半金貨1枚なら払って帰るか)

 一度萎えてしまうと、体臭がきついそうとか、目が死んでいるとか、毛じらみは大丈夫だろうかとか、悪いところばかりが気になってしまう。

(どうせ、1時間くらい話をするだけだから、一番客に相手にされそうにない子にしよう)

 田舎者っぽい野暮ったい感じの25歳くらいの人間の娼婦を指差し、

「この子」

「えっ!このエルナでいいのかい。他にもきれいどころが一杯いるじゃない。だれでも同じ値段だよ」

と女将らしい女が驚きながら、他の子を薦める。

「この子がいいんだが、駄目なら帰るよ」

「判ったわよ。じゃ先払いで半金貨1枚。エルナだから朝まででいいわよ」

「日没までじゃなくてもいいのか」

「どうせ、夕方から客を取らせてもほとんど相手にされない子だからね。昼から客が着くなんて滅多にないことだよ。存分にかわいがってもらいな」

 後半は、野暮ったい娼婦のエルナに向けての言葉だ。

 俺は半金貨1枚を支払い、奥の個室に向かう。

 個室は4畳半くらいの大きさでベッドと小さなテーブルといすが置いてあるだけ。小さな明り取りの窓がひとつあるが、中は薄暗く、澱んだ空気の中にろうそくが1本灯されている。

 エルナと呼ばれた娼婦は、身長は160cmくらい、薄い栗色の髪で茶色の目、丸顔で鼻は低く、笑うと愛嬌がありそうだが、今は少しおどおどしており、知らない人に怯えるチワワみたいだ。

 鑑定で調べると、歳は23歳、病気はしていないようだ。

 俺がボーと立っていると、エルナは服を脱ぎ始め、

「あのぉ、お客さんも脱いで下さい。それともあたしが脱がした方がいいですか?」

と聞いてくる。

(そうだよな。こういうところに来て、することなんてひとつしかないんだから、突っ立ったままなのは変だよな)

「まあ、時間はたっぷりあるんだから、ゆっくりしよう。ちょっと話をしないか」

「はぁ?」

と不思議そうな顔でこちらを見て、服を脱ぐ手を止める。

「立っているのも変だし、ここに座って」

とベッドを指差し、先に座る。

 エルナは俺のすぐ横に座り、しな垂れかかってくる。

「まあ、ゆっくり話をしないか。俺は見ての通りの冒険者。名前はタイガだ。そっちの名前はエルナでよかったよな」

「うん。でも、おかしなお客さんね。まあ、あたしを選んだ時点で変だけど」

「そうかい。話して楽しそうだから、選んだんだが」

「そうよ。普通はエルフの子とか、獣人の子とかから選ばれていって、あたしはいつも一番最後。売れ残りのエルナなのよ」

 話し始めると、予想通り愛嬌のある笑顔を見せ、話をするのも好きそうだ。

 エルナは、北部のウンケルバッハ伯爵領のある村の農家の生まれで、4人兄弟の一番上。
 10年前の不作の年に13歳で奴隷商に売られたそうだ。
 最初のうちは、商家の小間使いとして働いていたが、7年前にその商家が盗賊に荷を奪われて没落し、エルナはオークションに出された末、この娼館に買われてきたそうだ。
 買われてきた当初から、娼婦としては全く売れず、酔っ払いか変わった趣味(どんな趣味かは教えてくれなかった)の客の相手ばかりしているそうだ。

 話をしていると、よく笑う娘で、迷宮で時々舐める飴を渡すと物すごく喜んでくれた。

(中学の同級生にこんな感じの女子がいたな。なんか、“構ってほしい”って、じゃれつく子犬か何かみたいに、喜怒哀楽の判りやすい子だよな)

と思ってしまう。

「お客さん、そろそろする?」

「う~ん。今日は止めておくよ。どうも奴隷のと無理やりやるみたいで、やる気が起きないんだ」

「ここに来てそんなこと言うなんて、ほんと、変わってるね。でも抱いてもらえないとあたしが困るの。あとで女将さんから“客を満足させられないなんて何してんだい!”って叱られるから」

と女将の声色を真似ておどける。

「それなら、大丈夫だよ。帰りにチップを渡して“エルナは良かった”と言って帰るから」

「やっぱり、あたしじゃダメか。魅力ないもんね」

と今度は少し寂しそうな顔をして俯く。

「そんなことはないけどね。話をするだけじゃ、ダメかい」

「そんなことはないけど...無理に抱いてもらうのも変だし、う~ん」

「俺も最近忙しかったから、仕事の話以外、あまり人と話しをしていないんだ。たまにくるから、話に付き合ってくれよ」

 その後、2時間ほどいろいろ話をして、個室を出る。

 女将たちに変に思われないよう、エルナの腰を抱きながら、玄関のほうに歩いていき、

「今日は楽しかったよ。女将、チップだ」

と言って、半金貨1枚を投げる。

 女将はビックリした顔をして、投げられた半金貨を慌てて受け取る。

「どうも...また、御贔屓に」

と言って、頭を下げる。

 俺は手を挙げて応え、

「忙しいから、滅多に来れないけど、楽しかったからまた来るよ」

 俺は、そのまま宿に向かって歩いていく。

(かなり散財したけど、楽しかったし、こんなに仕事以外の話をしたのは、ベッカルト村でギルやリサと食事しながら話をしたとき以来だもんな)

 自分が思っているよりストレスが溜まっていたようだが、久しぶりに迷宮や剣術、装備以外の話ができ、かなり精神的な疲れが取れたようだ。

(ふ~。今日はいい休日だった)


 その頃、娼館では、

「あのエルナが気に入られるなんて、どういう趣味をしているんだろうね」

と売れっ子の娼婦が言うと、女将がエルナに向かって

「そうだね。でも、今時、あの若さで半金貨1枚をぽんと出してくれるなんて、相当腕の立つ冒険者じゃないの。エルナ、絶対に逃がすんじゃないよ」

「でも、あの人、今日は2ヶ月ぶりに休めたから、次はいつになるか判らないって言っていたし、2ヶ月も経てば、あたしのことなんか忘れちゃうわよ」

「2ヶ月ねぇ。名前はなんて言うんだい。まさか聞いてないなんて事はないだろうね」

「えっと、確か“タイガ”っていう変わった名前だった」

「タイガねぇ。どっかで聞いたけど、思い出せないわ。どっちにしても、うちの御贔屓になってもらうようにがんばりな」

「うん」

「運が良ければ身請けしてもらえるかもしれないんだよ。あんたの稼ぎはうちで一番悪いんだから、身請けしてもらえるんだったら、その方がうちにとっても助かるんだからね」

 エルナは上の空で、

(ほんと、おかしな人だった。でも、久しぶりに普通に男の人と話したかな。また来てくれると嬉しいけど、あんまり期待しない方がいいかな)
事務員、既婚者、彼氏持ち以外の女性キャラが初登場です。
彼女はヒロインになれるのでしょうか?

そう言えば、久しぶりに戦闘シーンがありませんでした。
休日だから当たり前と言われても、隠れトラブル体質のタイガ君のことですから、どこかで一戦交えるかと思っていましたが、逆に娼館で一戦も交えませんでした(笑)。

追記分:
コメントを受けて一気に25階から35階に行ったわけではありません。
プロット通りです。


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