第4章.シュバルツェンベルク編
第4章.シュバルツェンベルク編:第8話「初黒字」
25階に降りる階段で、23階の階段であったパーティを見つける。
5人ともかなり憔悴しているようで、こちらに話しかける余裕も無いようだ。
少し心配になったので、俺の方から声を掛けてみる。
「大丈夫か?」
「ああ、なんとか大きなケガはしていないが、治癒師の魔力が尽きてきたんで、休憩を入れているところだ」
鑑定で見てみると、年齢は16~17歳。レベルは10~11。スキルは、ロングソードとカイトシールドを持った前衛2人が片手剣10、リーダーらしき槍使いが短槍12、ショートボウを持ったポニーテールの少女が弓9、杖を持った治癒師らしき少女が治癒魔法8でHPは全員概ね8割くらいある。
これなら大丈夫だろうと思い、
「それじゃ、気を付けてな」
と片手を上げて横を通り過ぎていく。すると後ろから、
「なあ、あんた。ここまでソロなのに無傷で来れたのか。できれば臨時でパーティを組んでほしいんだが」
俺は面倒だったのと、一昨日の記憶があるため、警戒しながら、
「ここまで5人で来れたのになぜだ。俺と組む必要は無いだろう」
「24階なんだが、実はほとんど逃げ回っていたんだ。今から25階を抜ける自信も無いし、20階の転送室まで戻る自信も無いんだ。完全に手詰まりなんだよ」
と情け無い声で懇願してくる。
情に絆されてパーティに入ったら、後ろからバッサリでは泣くに泣けない。
「じゃ、なんでここまで来たんだよ。自分の力を信じてここまで来たんだろう。ゆっくり休んで上に向かえばいいじゃないか」
「オークに追い回されて散々な目に遭った。もう戻る気力も無いんだよ」
憔悴しきった声に同情を覚える。
「なあ、助けてくれ。頼む」
リーダーらしき男は頭を下げて懇願してくる。
まだ、一昨日のことを引き摺っている俺は、
「一昨日、この迷宮の中で5人組に殺されかけたんだ。お前らが後ろから斬りかかって来ないという保証が無い限り、一緒に行動するつもりは無い」
俺は、冷たくそう言い放つ。更に俺に何のメリットがないことを強調し、
「そもそも後ろを気にしながら、オークと戦うメリットが俺にあるのか」
「なあ、助けてくれたら、今日手に入れた魔石は全部やるから頼むよ」
「どれだけ稼いだのか知らないが、今日一日で少なくともオークの魔石を100個近く手に入れた。それに金には困っていない。金の問題じゃないんだ。命の問題なんだよ」
少し哀れにも思ったが、俺が面倒を見る義理がないのも確かなので、ここで話を切り、進もうとした。
「私たちはあなたを襲ったりしないわよ。どうしたら信じてくれるのよ」
とポニーテールの少女が疲れ切った擦れた声でつぶやく。
俺は無茶な条件で諦めさせようと
「そうだな。全員武器を封印して俺の後ろ20フィート(=6m)の位置をキープして着いてくるなら連れて行ってやってもいい」
「判った。その条件でいい。頼む連れて行ってくれ!」
リーダーがその条件を呑むと言ってくる。他のメンバーも反論することなく、肯いている。俺は唖然とし、
「お前ら、見ず知らずの俺に命を預けるのか!本気か!?」
「ああ、どっちにしてもジリ貧なんだ。俺たちだけで無理して進むより、ソロで自信を持って進んでいくあんたに命を預けた方がよっぽど助かると思うんだ」
(ここまで追い詰められているとは思わなかった。まあ、この程度なら襲い掛かってきても対応できるだろう。連れて行ってやるか)
「判った。俺の名前はタイガだ。見ての通りの両手剣使いだ。オーク5匹程度なら1人で対応できるから、オークが出てきたら、できるだけ下がって見ていろ」
「助かったぁ!俺はユリウス、こっちのロングソード使いがリュック、もう一人のロングソード使いがディータ、ショートボウを持っているのがベルタ、治癒師がカリンだ」
さっきまでの絶望感に満ちた声が一気に明るいものになった。
(現金なものだな)
「歩けるなら早速25階に進むつもりだが、大丈夫か」
と言うと、5人ともすぐに立ち上がり、武器を片付け始める。
「さっきのは冗談だ。武器は持っていてもいい。但し、少しでも襲う気配を感じたら、問答無用で叩き切るからそのつもりでな」
(これだけ素直なら、大丈夫だろう。金魚のフンを連れて迷宮探索か)
ゴスラーのアントン達を思い出す
(元気にやっているかな)
俺は先頭に立ち、25階を進んでいく。
10分もしないうちにオーク5匹が前から襲い掛かってきた。
「手を出すなよ。3分くらいで片を付けるから、お前たちは後ろを警戒していろ」
俺はユリウスたちに叫びながら、オークの列に突っ込んでいく。
一撃を加えた後、壁を背にして、複撃の型でオークたちを攻撃する。
5匹ともなるとさすがに攻撃を受けてしまうが、急所に当らないよう注意する余裕が出てきたので、致命的なダメージは防いでいる。
複撃を5回繰り返し、オークを全滅させる。この攻撃の間に3発攻撃を受けたが、革鎧で充分吸収で来ているので、治癒の必要も無い。
魔石を拾い、ユリウス達に声を掛けるが、ユリウス達は口を開け、固まっている。
「あの、タイガさんって、お強いんですね」
「オークに囲まれたのに、あっという間にオークの方が倒れていくのって、魔法みたいでした」
と口々にしゃべりかけてくる。しかも口調は敬語になっている。
「強いかと言われれば、まだまだだな。訓練だと1時間に1回は地面にキスしているし、強い人はたくさんいるからな」
と剣の師匠のミルコやクロイツタール公爵を思い浮かべながら、そう答える。
更に25階を進んでいく。後ろでは
「今思い出したけど、タイガさんって、ミルコの訓練を受けている人じゃないか。あの剣鬼のミルコの訓練を受けている人が最近いるって聞いたたけど、それがタイガさんだったんだ...」
「さっき、一昨日襲われたって言ったけど、そいつらタイガさんのこと知らなかったんじゃないか。剣鬼の弟子って知っていたら俺たちレベルで襲い掛かるなんてことは絶対無いよな...」
などとこそこそ言っている声が聞こえる。
さすがに警戒しながら歩いているので、注意する気は無いが、面白い話も出てくるのでつい聞いてしまう。
(ミルコって、”剣鬼”なんてあだ名があるんだ。早速、明日、からかってやろう。)
その後、1時間の間に5回の戦闘を行い、ようやく25階のボス部屋の前に到着する。
「ユリウス、この先はどうする。オークウォーリア1匹だから、5人で掛かれば充分勝てるんじゃないか」
「できれば一緒がいいんですが、ダメですか?」
「別に構わんが、魔石と宝箱は俺が貰うぞ。いいな」
「もちろんです」
ということで、5人を引き連れてボス部屋に入る。
中には、オークウォーリアがいた。
オークウォーリア:
オークの希少種。大型の剣を好んで使う。
HP800,AR15,SR5,DR5,防御力30,獲得経験値120
両手剣(スキルレベル15,AR50,SR34),アーマー(スキル5,50)
醜い豚面が笑っているのか、更に醜く歪み、こちらを挑発するようにゆっくりと前に進んでくる。
「こいつも俺一人でやるから、後ろで見ていろ。すぐに終わる」
俺は愛剣の切っ先を斜めに下げた状態でオークウォーリアに向かい、突っ込んでいく。
オークウォーリアが上段に構えた瞬間、左にサイドステップを踏み、振り下ろされた剣を避ける。オークウォーリアの剣は、俺が直前にいた位置に振り降ろされ、床を叩いている。
俺はサイドステップに入った瞬間に、更に下げた剣を振り上げ、オークウォーリアの無防備な両腕を斬り裂く。
「グァァァ!」
さすがに、一太刀で腕を斬りおとすことはできなかったが、両腕に大きなダメージを与えることに成功。オークウォーリアは自分の剣を取り落としてしまう。
俺は慎重に更に左に回り込み、オークウォーリアの背後から太ももの裏を狙って斬り付ける。太ももの裏も大きく切り裂かれたオークウォーリアは立っていることができなくなり、膝を着いた状態になる。
それでもオークウォーリアは剣を拾い、膝を着いた状態のまま、俺に攻撃を掛けてくる。だが、ダメージを負った腕で腰の回転も効いていないノロノロとした剣速の斬撃なため、軽く剣で弾いて、そのまま首を刎ねる。
時間にして約1分。あっさりと戦いは終了した。
15階のシルバーウルフの方が強かったような気がするが、俺との相性の問題かもしれない。
呆けているユリウス達に
「帰るぞ。先に転送室に向かってくれ」
といって、声を掛け、その間に宝箱を確認する。
鑑定で確認すると、簡単な罠が仕掛けてあることが判ったので、解除してみることにした。
罠は、蓋の止め具を外すと鋭い刃物が止め具側に飛び出してくる仕掛けのようなので、ナイフで止め具を外し、罠を無効化する。
中には銀貨が10枚。
銀貨を回収して転送室に向かう。転送室にはユリウス達が既に待っており、
「タイガさん。ありがとうございました。生きて出てこられたのもタイガさんのおかげです」
と全員で頭を下げて礼を言ってくる。
俺も最初は助ける気がなかったので、ここまで礼を言われると少し気が咎め、
「まあ、なんだ。今度、晩飯をおごってくれればいい」
と誤魔化し、ユリウス達と別れる。
時刻は午後4時を少し回ったところだ。結局8時間くらい迷宮に篭っていたことになる。
今日はギルドに行っても夕食に間に合うのでギルドで魔石を換金することにした。
今日の成果は、オークが116匹とオークウォーリア1匹。オークが1匹当たり銅貨15枚、オークウォーリアが銀貨2枚、宝箱の銀貨10枚を加え、銀貨29枚と銅貨40枚。今日は物を壊していないので、迷宮3日目で初めて黒字になった。
プルゼニ王国を出たグンドルフは、グロッセート王国北部のカロチャという小さな村近くに潜んでいた。
カロチャの村に斥候に出すと、村人は十数人、しかも老人ばかりだった。
疫病が発生したか何かで放棄された村のようだ。
「野郎ども!村に入るぞ!」
グンドルフの言葉に手下の一人が疑問の声を上げる。
「お頭、こんな村何にもありませんぜ?」
「俺に考えがある。黙ってついて来い!」
グンドルフは村に入ると、村人を捕まえ、村長の家に案内させる。同時に手下たちには村人全員を村長の家に集めるよう指示を出す。
グンドルフは怯える村長に
「俺たち全員を村人にしてもらおう。カードを発行しな」
「できねぇです。村の掟じゃ...」
グンドルフは村長の胸倉を掴んで、言葉を遮る。
「黙ってやるか、村人全員死ぬか。選ばせてやる」
村長もグンドルフの眼光に気圧され、遂に承諾する。
グンドルフは満足そうに、
「俺の名前はグイド。これからはカロチャ村のグイドだ。そう登録してもらおうか」
村長は仕方なく、村民登録用の魔道具を操作し、グンドルフに村民カードを発行する。
その後、手下23人のカードも発行させられた。
「村長、ご苦労だったな」
グンドルフはそう言うと、両腰に差した2本のショートソードを引抜き、村長の首を刎ねる。
手下たちに集めた村人たちを殺すように命じ、村に火を掛けて立ち去る。
グンドルフは、グロッセート王国内での行動の自由を得られたことに満足し、高笑いを上げながら、南に下っていく。
初めて黒字になりました。
普通のパーティの損益分岐点は35階なのですが、一人で総取りなのでこのくらいの階でも黒字になったようです。
グンドルフの武器は双剣でした。
また、描写の難しい武器にしたとちょっと反省しています。
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