第4章.シュバルツェンベルク編
第4章.シュバルツェンベルク編:第7話「オーク戦」
翌朝は、8時から迷宮に入る。
今回のノルマは25階までなので、今日は1日オークと闘うことになる。
20階の転送室に飛び、21階への階段を降りていく。
すぐに太った醜い姿のオークが現れる。
オーク:
中型の豚の顔を持つ人型の魔物。人の肉を好む。
HP500,AR15,SR3,DR3,防御力30,獲得経験値30
片手棍棒(スキルレベル10,AR40,SR30),アーマーなし
コボルトやゴブリンに比べれば、膂力が強く、まともに攻撃を食らえば、少なくないダメージを負うだろう。それに体力もあるので最低3回の攻撃が必要だ。
だが、所詮技能レベルが低いパワーだけの魔物。実力差から見て、7~8回に1回当るかどうかだろう。どんな強い攻撃も当らなければ問題ない。
オークは、俺を見つけると重い体を震わせ、棍棒を振り回しながら、猛然と突っ込んでくる。
「ブガァァグァ!」
俺は冷静にオークの脚を狙い、左下方からの鋭い切上げの斬撃を加える。
剣を振り抜くとオークの右脚から血が噴き出し、オークはバランスを崩して転倒。そのまま壁に激突する。
立ち上がる前にもう一撃加えようと後ろから接近していく。
オークは頭を振りながら立ち上がろうとしているが、まだ背を向けたままだ。
オークの腰の辺りを狙い、上段から剣を振り降ろす。
左脇腹を切り裂くと、オークは苦悶の咆哮を上げる。
俺は咆哮を無視して、オークの喉に止めの突きを入れる。
唐突にオークの咆哮が途切れ、白い光とともにオークは消えていった。
(ふぅぅ。1匹なら問題は無いな。2匹以上になったら、今まで通り壁を背にして戦ってみるか)
魔石を拾い、21階を進んでいく。
7回の戦闘をこなし、一度もダメージを受けることなく、22階への階段を降りていく。
22階では、情報通り2匹のオークが現れる。
オークは通路幅一杯に広がりながら、突撃してくる。
「「ブガァァグァ!」」
俺は通路中央からやや左にステップし、向かって左側のオークに攻撃を掛ける。
左側のオークの攻撃をかわしつつ、がら空きの胴を斬り付け、更に通路の左側の壁際をすり抜ける。
右側のオークは左側のオークが邪魔になり、攻撃機会を逸していた。
左側のオークは胴を切られたことにより、憤怒の表情を浮かべ、再度殴りかかり、右側のオークも傷ついた左側のオークのすぐ後ろから続いて攻撃を掛けようとしている。
(先頭のオークの右側を抜けると後ろのオークの攻撃を受ける。左側を抜けつつ、脚に攻撃を掛けるか)
瞬時にそう考え、傷ついているオークの脚に更にダメージを与えつつ、壁際から通路を横切るように移動する。
傷ついているオークはそのまま転倒。
無傷のオークが「グォガァァ!」と怒りの咆哮を上げて俺のほうに向かってくる。
傷ついているオークがすぐに攻撃に転じられないと判断し、向かってくるオークに対して、相手の勢いを利用した突きを喉に入れる。
オークの突進力と剣の切断力でオークの首は半ば千切れかけ、そのまま壁に激突。白い光となって消えていく。
剣は消えていくオークに突き刺さったまま。
オークが消えるのを待たず、素早く引抜き、最初に傷つけたオークを迎え撃つ。
突っ込んでくるオークに向かい、肩口を斬り付け、止めを刺す。
(オークは真すぐ突っ込んでくるだけだから、予想が楽だな)
2匹のオークを倒し、魔石を拾った後、更に22階を進んでいく。
22階では、6回の戦闘で3度ダメージを受けたが、防具でほとんどのダメージを吸収でき、重大なダメージは受けなかった。
順調に23階に到達し、3匹のオークと遭遇する。
幅15フィート=4.5mの通路では3匹並ぶと隙間が無くなる。
その分、左右どちらかの壁によれば、2匹からの攻撃は受けるが、同時に3匹からの攻撃を受けることはない。
俺は死角になりやすい左側をカバーするため、左の壁際に寄り、オークを迎え撃つ。
オークは3匹すべてが全速力で接近してくるため、思惑通り2匹の攻撃を捌くだけで済む。俺はオークのタイミングを外すため、左側に踏み込み、一番左のオークの鳩尾辺りに突きを入れる。
突きはきれいに決まり、オークは呻き声を上げ、うずくまる。
俺は突きを入れた直後にバックステップで後退。中央のオークからの攻撃をかわす。
一番右側のオークは中央のオークと入れ替わるように攻撃を仕掛けてくるが、無理に方向転換をしたせいか、棍棒の軌道が定まらず、かわす必要もなかった。
オーク3匹に囲まれる形となったが、1匹のオークはダメージが回復しておらず、まだ攻撃態勢に入っていない。
最初中央にいたオークは攻撃をかわされた後、すぐに体勢を立て直して、棍棒を振ってくる。もう1匹のオークも体勢を立て直せたのか、再度攻撃を仕掛けてきた。
2匹同時の攻撃だが、どちらも棍棒を上から振り下ろすだけなので、左にステップして簡単にかわす。
余裕を持って対応していたが、最初にダメージを与えたオークへの注意が疎かになっていたようで、左の腰に棍棒の一撃を受けてしまった。
(痛ってぇ!)
ダメージ自体はそれほどでもなかったが、不意打ちを受けたショックで中央のオークからも攻撃を受けてしまう。
(このままでは袋叩きになる。なんとかこの包囲網を抜けなくては!)
俺もパニックになっていたようで、冷静さを失い、左側と中央のオークの間を強引に抜けようとした。
うまく2匹の攻撃をかわし、抜けたと思った瞬間、背後から右肩に攻撃を受けてしまい、無様に転倒してしまった。
(まずい。どうする。くそ! こんなところで死ねるか!)
思考は無駄にぐるぐる回るが、体の動きの方はいつもよりかなり悪い。
立ち上がった瞬間、オーク3匹の攻撃が俺に向かってきた。
2匹の攻撃はかわすものの、1匹の攻撃を受けてしまう。
(痛ってぇ!2匹が限界なのか)
動き自体は単調なのに体が付いてこない。棍棒の一撃は痛いがミルコの木剣の方がきついはず。
一撃食らうのを覚悟して、1匹ずつ倒していくと開き直り、3匹の同時攻撃に向かっていく。
1匹からの攻撃を受けたものの、勢いを殺さず、手負いのオークにコンパクトな突きを脇腹に入れる。
「ガァァグェ!」
傷ついたオークは咆哮を上げ、後ずさり、包囲網が緩む。
(チャンスだ。今のうちに2匹にもダメージを与えてやる!)
最小限の動きの突きであったため、ほとんど体勢も崩さず2匹の攻撃に対応する。
少し冷静になったことと2匹からの攻撃であるため、余裕を持ってかわすことができ、かわしながら、中央のオークの右腕を斬り付ける。
これでオークの同時攻撃も崩れたので、ダメージを負っていないオークの脛に向けて低い斬撃を入れる。
脛を斬られ、ひるんだオークの横をすり抜け、すぐに向きを変え、大上段からの渾身の一撃をオークの頭に加える。
頭をかち割られたオークは短い悲鳴を上げ、白い光とともに消える。
残るは、あと2匹。
右腕を切られたオークは、棍棒を左手に持ち、打ちかかってくる。
俺は下段からオークの腕目掛けて切り上げ、左手を切断。脇腹にダメージを負ったオークもようやく戦列に復帰してきたのか、腕を切断されたオークの横から殴りかかってくる。
ダメージにより動きが鈍くなっているため、これも軽くかわして横薙ぎの一撃で首を跳ね飛ばす。
腕を斬りおとされたオークはまだ蹲っているので、慎重に接近し、後頭部に突きを入れて止めを刺す。
(ようやく終わった。3匹はきつい。今後は魔法を使うべきだろうな)
幸い、受けたダメージでは骨に異常はなく、打撲のみ。
治癒魔法を掛けてから、魔石を拾う。
まだ、23階に着いたばかりなので、一旦階段に戻り、休憩と昼食をとることにした。
階段で休憩していると、22階から人間の男2人、獣人の男1人、人間の女2人の5人のパーティが降りてきた。リーダーらしき槍使いが、
「仲間はどうした。大丈夫か?」
と声を掛けてきたため、警戒しつつ、
「ソロなんだ。23階で苦戦したから、ちょっと休憩を取っているだけだ。ケガは無いよ」
「そうか、それじゃ気を付けてな」
と爽やかな笑顔で俺の横を通り過ぎていく。
一昨日のことがあったから、かなり警戒してしまったが、ミルコの言う通り、あれは異常なことだったようだ。
10分ほど休憩し、5人のパーティが進んだと思われるほうに行ってみる。
順調に進んでいるのか、5人に追いつくことはなかったが、オークの出現数も少なく、23階の移動が楽になった。
20分ほど戦闘も無く進んでいたが、ツキもここまでのようでオークが3匹現れた。
さっきの教訓を生かし、まずはファイアボールで1匹にダメージを与えておく。
1匹の進行速度が遅くなったことを確認して、2匹に突っ込んで行き、スピード差を生かしてダメージを与えていく。
ファイアボールのダメージから立ち直ったオークが接近してくる前に1匹を倒し、通路幅をうまく使って挟まれないように注意して、2匹目、3匹目と葬っていく。
(この通路幅では3匹からの攻撃が限界なんだ。俺が一度に対応できる数は2匹。要は魔法でもフェイントでもいいから、何らかの手段で1匹からの攻撃に抑えてしまえばいいんだ)
23階から24階への階段を見つけたが、3匹への対応を極めるため、23階をうろうろする。
2時間ほどで10回の戦闘をこなし、ようやく形らしいものが出来てきた。
オークはこっちが逃げないようにするためか、必ず3匹並んで襲い掛かってくる。
この時、両サイドのどちらかに突っ込んでいき、ダメージを与えてから、急激に後退すればオークは2匹での攻撃を余儀なくされる。この30秒程度の時間を利用して更にもう1匹にダメージを与えれば、ほぼ勝ちパターンに入る。
通路ではなく、部屋に入った時は、部屋の角を取れば、2匹からしか攻撃を受けないので、全く問題はない。
(これで大体の方針は出来上がった。冷静さを失わなければ何も問題はない。よし、24階に降りよう)
階段で小休止を取った後、24階に向かう。
通路でオーク4匹に出会うが、ヒットアンドアウェーでダメージを与えて、相手の同時攻撃を防ぎ、後は1匹ずつ葬っていって、無傷で倒しきる。
(これで4匹だろうが5匹だろうがパニックになることはない。次はミルコに習った複数同時攻撃=複撃の型を極めることにするか)
対処方法が判ったので、技を極めることにした。
俺の得意な型は複撃と急所への狙撃だが、複数に囲まれることが多い迷宮では複撃の方を早く極める方が安全だろう考え、オークにある程度ダメージを与えておいた後、敢えて囲まれてから複数に同時攻撃を掛けることにした。
すぐにオーク4匹が近づいてきたので、ヒットアンドアウェーで3匹にダメージを与えた後、通路の真ん中で4匹に囲まれてみる。
複撃を掛けてみるが、1匹目はきれいに切り裂けるが、さすがに4匹すべてのオークの体をきれいに切り裂くことができない。
3匹のオークまではダメージを与えることができたが、4匹目に攻撃を掛ける頃には、初めの勢いを失い、型もかなり崩れていた。
3匹にダメージを与えたため、反撃してきたのは1匹のみ。1匹の反撃であれば楽に避けられる。
反撃をかわし、再度、複撃を掛ける。
やはり、3匹にしかダメージを与えられない。
しかし、逆に言えば、オークのような回避スキルや防御スキルを持たない敵に一気にダメージを与えられるので、かなり有効な攻撃方法だろう。
(これを繰り返せば、ほとんど攻撃を受けないから、今日の残りの戦闘は、これを極める練習をしよう)
24階で6回の戦闘をこなし、25階に向かう階段を見つける。
休憩を挟んで既に7時間、午後3時を過ぎた。
(少し疲れが出てきたな。25階は無理をせず、出てきた分だけ倒していこう)
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