一部修正しました。
(擬音の使い方を変えてみました)
第4章.シュバルツェンベルク編
第4章.シュバルツェンベルク編:第5話「PK」
15階のボス部屋から転送室に移動。休憩と昼食をとる。
15階制覇まで約5時間半。
ペース的には悪くないが、16階以降の方が当然難易度は上がるため、時間はもっと掛かるだろう。
(これは12時間では無理だな。夕食には間に合わないなぁ)
山シギ亭の夕食は20時まで、このままでは酒場で夜食をとるはめになる。
30分ほど休憩し、16階に降りる。
コボルトウォーリアとは5階のボス部屋で既に戦っており、1匹であれば全く問題なかった。
17階に降りるとコボルトウォーリアとコボルトアーチャーのコンビが現れた。
コボルトアーチャー:
コボルトの稀少種。弓と短剣を使うことができる
HP300,AR8,SR2,DR2,防御力5,獲得経験値25
弓(スキルレベル10,AR30,SR10,レンジ50)
片手剣(スキルレベル5,AR30,SR10),アーマーなし
コボルト側は、こちらを見つけるとウォーリアが前に進み、アーチャーがその10mくらい後ろからついてくる。
シュ!
アーチャーは俺との距離が15mくらいになるとショートボウより更に小さい鳥撃ち用の弓で俺を攻撃してくる。
矢の勢いは弱く防具で充分防げるが、顔、首、二の腕、太ももなど防具で守られていない部分に当れば、ケガをする可能性がある。
「ガゥ!」
どうやって連携しているのか判らないが、前に立つウォーリアは後ろのアーチャーが攻撃するタイミングが判るようで、矢が放たれるたびに体を射線から外してくる。
盾を持っているか、2人以上のパーティであれば、ほとんど問題にはならないのだろう。
だが、俺のようなソロは矢を防ぎながら、ウォーリアの攻撃を捌かなければいけないため、なかなかウォーリアを仕留められない。
シュ!
アーチャーの矢が放たれた瞬間を音で感じ、回避。
次の瞬間、ウォーリアに上段からの強烈な斬撃を入れる。
「キァゥン!」
肩口から脇腹に掛けて切り裂かれ、犬が泣くような情けない声を上げたコボルトウォーリアはその場で白い光を放ち、消えていく。
後はアーチャーだけ。
矢を避けつつ接近し、短剣を抜かせる間も与えず斬り殺す。
(飛び道具対策をどうしようか)
ウォーリアを無視して一気にアーチャーに接近するのが一番よさそうだ。
18階に降りると、コボルトウォーリア、コボルトアーチャー、コボルトシャーマンのトリオが出てきた。
コボルトシャーマン:
コボルトの稀少種。属性魔法を使うことができる。稀に治癒魔法も使う。
HP300,MP300,AR8,SR2,DR2,防御力5,獲得経験値35
火属性魔法(ファイアボール,AR100,SR40,レンジ50,消費MP100)
17階と同じようにウォーリアの後ろにアーチャーとシャーマンが並ぶ。
ウォーリアは短い足を必死に動かし、俺に取り付いてくる。
アーチャーが矢を放つ横でシャーマンが詠唱を開始している。
(まずい!魔法だ!回避できるか!)
今までファイアボールを散々敵に撃ち込んできたが、撃たれるのは初めてだ。
「キァゥン!」
ウォーリアの攻撃を捌きつつ、ウォーリアの首に強烈な横薙ぎの一撃を打ち込んで、ウォーリアを倒す。
その間にもアーチャーからの矢が飛んでくるが、シャーマンの方に集中し、ファイアボールが放たれるのを待つ。
シャーマンが直径15cmくらいの火の玉を俺に向かって飛ばしてくる。
(遅っ!)
飛んでくるファイアボールは時速100kmくらいの速度。
バッティングセンターの初級者用のボールと同じくらい。バットに当てるならともかく避けるだけなら、ほとんど問題にならない。
(この程度のスピードなら10m離れていれば確実に回避できる。一発撃たせた上で接近、切り倒す作戦が一番有効だろう)
ファイアボールを回避し、アーチャーの放つ矢を剣で叩き落しながら、シャーマンに接近。
防具もなく、素手のシャーマンは必死に後退しようとしている。
「キャウン!」
俺はアーチャーを袈裟懸けにして切り倒す。アーチャーが光になって消えていくが、それを無視し、更に距離を取ろうとしているシャーマンの背中に接近、背中に突きを入れて仕留める。
「クゥゥン!」
シャーマンも光となり消えていく。
アーチャーの放った矢が防具の所々に刺さっているが、幸いすべて革鎧で防げており、ケガは無い。
(アーチャーの矢が鬱陶しいな)
シャーマンがいる時にはシャーマン側を気にする必要がある。
目に当ったら大変だし、太ももに当っても機動力をそがれる。ウォーリアをさっさと無力化し、シャーマンに魔法を撃たせ上で、一気に接近する作戦で行くことにする。
その後、18階で数回戦い、2回アーチャーの攻撃を腕に受ける羽目になった。
(矢を打ち落とす練習がいるかな?)
コボルトアーチャーはおもちゃに毛が生えたくらいの弓だが、もっと強い弓で撃たれたら打ち落とすのは難しいだろう。やはり魔法で先に倒しておく方がいい。
19階に降りていくと、初めて自分以外の冒険者を見つけた。
5人のパーティで4匹のコボルト(ウォーリア2、アーチャー、シャーマン各1)と戦っている。
冒険者は15~16歳の少年たちでレベルは10くらい。盾を持った片手剣使いが2人と両手斧を持った大柄の少年、ロングボウを持った弓使いに治癒魔法の使い手までいる。
見ていると片手剣の少年2人が盾でアーチャーの矢を防ぎ、斧使いがウォーリアにダメージを与えていっている。
弓使いはシャーマンに攻撃を集中し魔法を撃たせないようにしている。
治癒魔法の使い手も木製のクラブでウォーリアを牽制している。
メンバー的にはバランスがいいし、攻撃の仕方も悪くない。だが、なぜか意外と梃子摺っている。という印象を受けた。
手を出すのも悪いので、鑑定を使いながら見学していると、武器のスキルが低いことに気付いた。
片手剣使いが8と9、斧使いが7、弓使いが10、治癒師が片手槌5。
治癒師の片手槌のレベルが低いのは仕方ないとして、前衛の3人のスキルレベルが低すぎる。
(訓練していないのかな?この程度だと20階までは無理だろう。ここから15階まで戻るのかな?)
見始めてから10分ほどでコボルトを全滅させたので、声を掛けてみた。
「お疲れさん。なかなか強いね」
「誰だ、あんた。俺たちは大した金も装備も持っていないぞ」
と思いっきり警戒されている。
この世界でもPKみたいな行為があるのだろうか。
「いや、すまん。名乗りがまだだったな。俺の名はタイガだ。ソロでここまで来たら、君達が戦っていたから少し見学させてもらったんだよ」
できるだけ、フレンドリーに話しかける。
「ソロなのか...俺の名はケヴィンだ。」
(なんか、気負っていると言うか、肩肘を張っていると言うか。若いから舐められないようにとか思っているのかねぇ。あまり係わり合いになるのも面倒だから、さっさと先に行かせて貰おう)
「それじゃ、先に行くわ。気を付けてな」
と言って、ケヴィンたちのパーティから離れる。
一瞬殺気のようなものを感じ、振り向くとケヴィンたちが襲い掛かってきた。
「冗談はやめてくれ。お前らに恨みを買うようなことはしていないはずだが」
「うるさい!お前の装備は俺たちのよりかなりいい。それなりに金も持っていそうだ。悪いが全部頂く。この迷宮の中で殺してしまえば証拠は残らないからな!」
「問答無用かよ。そっちがその気ならこっちもそれなりの対応をさせてもらうぞ」
「ソロでここまで来る力があっても5対1だ。おとなしく死んでくれ!」
(なんだこの状況は。いきなりPKなんて聞いていないぞ。帰ったらミルコに抗議しよう)
俺は剣を床に落とし、素早くファイアボールを唱え、両手斧使いに向かって放つ。
前衛3人は俺を逃げられないようにするためか、通路幅一杯に広がっており、斧使いはファイアボールを避けられない。
斧使いのチェインメイルはファイアボールに対して防御力を全く有しないため、斧使いは胸にファイアボールを受け、転倒する。
「魔法を使うぞ!」
「くそ、ただの剣士じゃなかったのか!」
ケヴィンともう一人のロングソード使いはファイアボールを撃たれたことに衝撃を受け、前進するスピードを緩めてしまった。
俺はその隙に更にファイアストームの呪文を唱え始める。
ケヴィンは魔法の威力に恐れを生したのか、
「お、おい、冗談だよ。本気になるなよ。なあ、今ならギルドに黙っておいてやるから、ここで手を引かないか」
と言っている。
(ギルドに報告されると困るのか。冒険者同士での殺し合いは禁止されているんだな)
と考えるが、このまま手加減すれば、再度攻撃を仕掛けられる。
(ここは一気に倒してしまうか)
こちらが立ち止まっていることを手打ちの条件が悪いと勘違いしたのか、ケヴィンが、
「悪かったよ。金なら渡すから、怒りを納めてくれよ」
と言って、小さな皮袋を投げてよこす。
「そっちが先に手を出してきたんだ。覚悟の上だろう」
とできるだけ低い声で呟く。ケヴィンたちは恐ろしくなったのか、口々に、
「助けてくれよぉ!」「済まなかった!」「何でも言うことを聞く!」「殺さないでくれ!」
と泣き叫ぶ。あまりの情けなさに手を下すのを躊躇い、
「お前らの安もんの装備やこんな端金はいらないんだよ。ここで俺に会ったことを黙っていられるか。魔法が使えることもだ。それが約束できるなら、殺さないでおいてやる」
「判った。なんでも言うことを聞くから、ここで会ったことは誰にも言わない。魔法が使えることも黙っているから、助けてくれ」
気絶している斧使いを除く4人は這いつくばって懇願する。
我ながら甘いなと思いながら、
(このまま放っておいても迷宮から出られないだろう)
と、5人を無視して迷宮の奥に進もうとした。
その直後、「バシュッ!」という音と共に左太ももの後ろに強い衝撃を受け、激痛が走る。俺はそのまま壁を背にして倒れこむ。
弓使いが俺の背中に向け、矢を放ったようだ。
「背中を向けるお前が悪いんだよ。もうこれで戦えないだろう。さっさと武器を捨てな!」
と弓使いは勝ち誇ったようにそう俺に告げる。
すでに勝った気でいるのか、追加の攻撃がない。
この隙に、俺は座ったまま太ももに刺さった矢を引抜き、素早く治癒を掛ける。
弓使いが気が付き矢を放つが、焦っているのか避ける必要もないくらい大きく外す。
「自分で死刑執行書にサインをしたな。さて、誰から殺されたい」
と俺は怒りを抑え、できるだけ低い声で言い放つ。
4人も覚悟を決めたのか、武器を手に襲い掛かってくる。
弓使いの放つ矢が一番厄介だが、前衛が邪魔になり、絶えず動いている俺になかなか照準が合わせられない。
ケヴィンともう一人のロングソード使いの利き腕を狙う。
2人とも盾で攻撃を防ぐものの、コボルト戦のダメージが残っていることと俺の斬撃の強さで体が大きく揺れている。数回、盾を切りつけると完全に防御に回ってしまい、少しずつ後退していく。
このまま盾を切りつけていても仕方が無いので、ミルコに習ったフェイントを織り交ぜ、前衛2人の足を攻撃。あっけなくフェイントが決まり、2人のつま先、膝を切り裂くと、2人は相次いで転倒。これで前衛の戦闘力はほぼなくなる。
「来るな!来るな!」
前衛2人が倒れたことで弓使いの攻撃が激しくなるが、ロングボウの扱いに慣れていないのか、矢を番える速度が遅い。
(遅い!)
ベッカルト村のギル、マックスのパーティのニックやシリル、カスパーのパーティのアルフォンスなど優秀な弓使いを見ていたため、手際が悪く見える。
ダッダッ!と10mほどの距離を2秒ほどで駆け抜け、弓使いを攻撃する。
ショートソードを装備しているが、頭が回らないのか剣を抜くことも忘れ、俺の斬撃をロングボウで受けようとする。
だが、所詮細い木の棒である弓ではディルクのツーハンドソードを受け止めることはできない。
俺の剣は弓を叩き切り、勢いを失うことなく、弓使いの左腕を切り落とす。弓使いは左腕を押さえ、床を転げまわっている。
「あぁぁ...」
治癒師はクラブを持っているものの、攻撃の意思を見せることも、命乞いをすることもなく、立ちすくんでいる。
殺す価値もないから、クラブだけ叩き折っておき、
「後は好きにしろ。運がよければ迷宮の外に出られるだろう。ギルドにはキチンと報告しておいてやるから、楽しみにしておけ」
そうは言ったものの、この5人が生きて出られる可能性はほとんどない。今までの戦いの音を聞いて、コボルトたちが近寄ってきているはずだ。
(この無駄な戦闘で随分魔力を浪費してしまった。20階は大丈夫かな)
既に5人のことは意識の中からほとんど消えていた。何事もなかったのように19階を進んでいく。
「助けてくれぇぇ」
「来るなぁぁ!」
「ギャアァァァ!」
1~2分後、後ろの方で5人の悲鳴が聞こえるが、無視する。
(5人の方にコボルトが寄ってくれると助かるな。もう少し手加減しておけばよかったかな)
我ながら悪辣なことを考えながら、更に進んでいく。
19階では3回戦闘をこなすが、シャーマンに気を付けてさえいれば、コボルトウォーリア2匹をミルコ直伝の複数同時攻撃の型で倒してしまえるので、ほとんど無傷で4匹を倒せる。
ようやく20階に到達。
コボルトウォーリア3匹、アーチャー1匹、シャーマン1匹のコボルトパーティもシャーマンに魔法を撃たせておいて、前衛3匹を複数同時攻撃の型で斬り殺し、その後一気に後衛を切り倒すパターンで次々に倒していく。
なかなかボス部屋にたどり着かない。
既に15階で休憩をしてから5時間半。時刻は18時半になっている。
(集中力が切れてき始めている。一度休憩を取ろうかな)
大胆にも通路の真ん中で休憩を取る。
休憩し始めて5分もしないうちにコボルトたちの気配がする。
逃げるのも面倒なので、いつものパターンで勝負を決め、そこで休憩を再開する。
どうも20階と相性が悪いようで、休憩中の10分の間に更に2回の攻撃を受ける。
面倒になってきたので、休憩を諦め、ボス部屋を探すことにする。
更に30分歩き、5回の戦闘をこなした後にようやくボス部屋の入口を発見。
(5分だけ休憩してから、ボス部屋に入るか。魔力もファイアボールなら5発くらい撃てるから、魔法も併用してさっさと帰ろう)
ボス部屋に入ると、コボルトキングがいた。
見た目はコボルトを大きくし、少し腹が出て、太った大型犬が防具を着け、棍棒を持って立ち上がっている感じだ。
コボルトキング:
コボルトの最上位種。属性魔法と棍棒を使う。
HP600,MP600,AR25,SR5,DR5,防御力30,獲得経験値100
火属性魔法(ファイアボール,AR150,SR70,レンジ100,消費MP200)
片手棍棒(スキルレベル10,AR50,SR30)アーマー(スキル5,50)
(気を付けるべきはファイアボールだけだな。まあ、撃ち合いになってもこちらのファイアボールの方が強力だから問題は無いか)
キングと付いても所詮コボルト。さほどの脅威ではない。
コボルトキングがファイアボールの呪文を唱え始めたので、こちらも剣を置き、ファイアボールを唱え始める。
消費マナを抑えたので、俺の方が先に発動させることができる。この辺りは応用力の無い魔物の弱点だと言えるだろう。
俺のファイアボールがコボルトキングの腹に命中し、コボルトキングの呪文は中断。
俺は再度呪文を唱え始めると、コボルトキングが重そうな体をゆすりながら棍棒を振り上げ、突っ込んでくる。
太った大型犬がドコドコ走っているように見え、コミカルな感じに、つい笑いそうになる。
振り回している棍棒は、コボルトの体には大きすぎる感じがするが、軽がると振りましているようにも見える。
俺も剣を拾って、迎撃体勢に入る。
接近戦に入るとこちらの攻撃が面白いようにあたり、あっという間に決着が付いてしまった。
(コボルトはコボルトということか。飛び道具を持っていればそれほど脅威のある敵では無いな)
魔石を拾い、宝箱を開ける。宝箱には銀貨が5枚入っていた。
さすがに慣れたが、このガッカリ感はどうにかならないものだろうか。
朝7時に迷宮に入り、13時間。現在20時。
ようやく迷宮を出ることができた。
(今日はもう遅いので、魔石の換金は明日にしよう)
帰る頃にはすっかりケヴィンたちのことを忘れているような...
+注意+
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