第4章.シュバルツェンベルク編
第4章.シュバルツェンベルク編:第4話「迷宮探索11階~15階」
翌日は、ミルコの下で訓練。折角、弁当と水筒を用意してきたのに結局無駄になった。
訓練終了後にミルコから、
「明日は迷宮だ。ノルマは20階。お前でも12時間以上掛かるだろうから、食いもんと水は持って行け」
あまり戦闘をせず突破だけを考えようと思っていたら、
「レベルアップが目的だからできるだけ数を倒して行けよ」
と言われてしまう。
(さらっと12時間以上掛かるって言うな!)
文句を言っても仕方が無いので、11階から20階までの魔物の情報を手に入れるため、ギルドに行く。
11階からは、ホーンラビット、ワイルドドッグ、ジャイアントバットの組合せになる。
11階はいずれか1匹だけだから、あまり問題は無い。
いずれも動きが早いので、複数出てくる12階以上は、注意が必要だ。
特にジャイアントバットは一度も戦ったことが無いし、複数で立体的に襲い掛かってこられるとかなり梃子摺るかもしれない。
16階はコボルトウォーリアで、17階以上はコボルトウォーリアに加え、アーチャー、シャーマンが入ってくるため、遠距離攻撃の対応が必要だ。17階以上は魔法の使用も考えておく必要がありそうだ。
翌朝7時に弁当と水筒を持って迷宮に入る。
10階の転送室まで転送してもらってから、11階に下りていく。
11階も通路の大きさは10階までと同じだが、壁、天井が天然の洞窟のようなゴツゴツした岩でできている。
幸い床は石畳ではないものの平らな土の地面で移動に支障は無い。
11階の通路を歩き始めて数分後、ワイルドドッグ=野犬が1匹近づいてくる。
ゴスラー周辺で多く戦っている相手なので、余裕を持って対応できる。
ワイルドドッグ:
通常の飼い犬・猟犬とは異なる犬科の獣
HP200,DR10,防御力15,獲得経験値15、牙(AR40,SR30)
森や草原にいた野犬よりかなり好戦的でこちらの力量を無視して攻撃を掛けてくる。
「グワゥ!」
のど元を狙ってきたワイルドドッグをサイドステップでよけ、そのまま上段から斬りおとす。
ギャンと一鳴きし、あっけなく、光となって消えていく。
(スピードがあるだけで、ゴブリンとほぼ同じHPしかないから楽勝)
更に11階を進んでいく。
10分ほどして、現れたのが、ジャイアントバットだ。
大きさは大型の猛禽類くらいで、翼を広げると1.5m近い大きさがあるコウモリだ。
ジャイアントバット:
大型のコウモリ。回避能力が高い。
HP200,DR40,防御力5,獲得経験値15、牙(AR30,SR40)
動きが早く、回避能力が高いが、4.5m×4.5mの狭い通路ではかなり窮屈そうだ。
1匹だけであれば、相手の攻撃に合わせ、カウンター気味に攻撃を入れれば一撃で片付けられる。
更に30分ほどで11階を歩き回り、ホーンラビット、ワイルドドッグ、ジャイアントバットをそれぞれ1匹ずつ倒したところで、12階への階段を見つけた。
12階に降り、ワイルドドッグとホーンラビットのペアと遭遇。
森や草原ではありえない光景だ。
直線的な攻撃のホーンラビットとやや変則的な動きをするワイルドドッグが時間差をつけて攻撃を掛けてくる。
時間差をつけてこようが、動き自体は見切れているので全く問題なく、2匹とも一太刀ずつで片付ける。
次にジャイアントバットとホーンラビットのペアだが、こちらは少し手間取った。
4.5m幅の通路であるため、ホーンラビットの攻撃に対応している時にジャイアントバットに後ろに回りこまれ、立体プラス両面攻撃を受けることになった。
ホーンラビットの角の攻撃力は無視できない威力があるが、ジャイアントバットの攻撃力は弱く、顔や首、腕の防具がないところに攻撃を受けない限り、ダメージは負わない。
そう判っていても、後ろや横から顔に向かって攻撃されると反射的に防御してしまい、結果としてホーンラビットにもダメージを与えられない。
(鬱陶しい!)
割り切ってホーンラビットに攻撃を掛けることで何とか2匹とも倒せたが、これが3匹、4匹、5匹と増え、連携されるとかなり厄介だ。
魔法を使えばあっさり倒せるのだが、20階まで行かなくてはならないので、低層階で無駄に魔力を消費できない。
剣を主体にする限りは、壁を背にして戦うしかないと考え、ゴブリン戦と同じように魔物が現れたら壁を背にするように戦い方を変える。
4匹による攻撃はかなり鬱陶しいが、背後さえ取られなければ、体捌きで充分に対応できる。
少々動きが早くても単調な動きしかせず、HPの少ない魔物ばかりであるため、ミルコ直伝の剣技で、ほぼ一太刀ずつで倒していった。
その後、時々休憩を交えながら、4時間ほど掛けて15階に到達。
15階まで進んだが、大きな傷は無く、腕や足にかすり傷を負ったくらいで済んでいる。
15階では、5匹による攻撃だが、魔物同士の連携がないため、同時に2匹くらいしか攻撃を掛けてこない。
相手の動きを良く見て、攻撃を掛けてくる相手のみに対応すれば、5匹でも10匹でも問題なさそうだ。
30分ほどでボス部屋に到着。ボス部屋の前の扉を押し開け、中に入る。
シルバーウルフ:
銀色の毛の大型の狼。灰色狼に比べ体力、攻撃力が大きい
HP600,DR25,防御力30,獲得経験値150
牙(AR90,SR35)、爪(AR60,SR35)
さすがに大型の狼だ。攻撃力が今までの魔物に比べかなり大きい。
俺の防具では防ぎきれないので、大きなダメージを食らう可能性がある。
部屋の大きさも30m四方くらいあり、スピードを生かしたヒットアンドアウェーで攻撃を掛けられると厄介そうだ。
シルバーウルフは、俺のほうを見ると低く唸ってから、真直ぐ攻撃を掛けてきた。
「グルルゥ、ガゥ!」
俺も剣を構え、狼の噛み付き攻撃を剣で捌くつもりで動きを止め、剣を前に突き出す。
最後にジャンプして俺の喉元に攻撃を掛けてくると思ったが、狼もこれを想定していたのか、直前で俺の左横に跳び、更に俺の膝に向けて攻撃を掛けてくる。
急にジグザグに動かれ、一瞬、見失いかけたが、狼が俺の左膝に攻撃を掛けてくるのに合わせて、突きを放つ。
「ギャン!」
俺の突きは狼の鼻面に命中する。
だが、狼の勢いは衰えず、俺の左膝に体ごとぶつかってくる。
狼の体重が左膝に掛かったため、俺はバランスを崩し、転倒。そのショックで剣を手放してしまった。
狼も鼻を大きく傷つけられたため、一旦距離を取ったが、俺が倒れているのを見て、すぐに攻撃態勢を整え、俺に向かってくる。
俺の方は、体当たりによるダメージ自体、大したことはなかったが、剣を手放してしまい、狼の攻撃を防ぐ手段を失っている。
「グルルゥ、ガアゥ!」
狼は牙をむき、俺の喉を食い千切ろうと襲い掛かってくる。
俺は以前の狼戦と同じようにバーナー型ファイアで狼に攻撃を掛けるが、狼はバーナーの炎に構わず、突き出した俺の右腕に噛み付いてくる。
革製のガントレットで何とか狼の牙を防いでいるが、強力な顎の力と鋭い牙により、ギシギシという音を立て、すぐにも防具を貫通しそうだ。
俺は右腕を噛み付かれたまま、左手でスローイングナイフを抜き、狼の右目にナイフを突き刺す。
「ゴワァン!グゥゥ!」
悲鳴に近い鳴き声がするが、それでも狼は噛み付いたまま、腕を食い千切ろうとしている。
(痛覚はあるみたいだが、生存本能の方が制限されているのか?)
ナイフの攻撃では埒が明かないので、噛み付かれ不自由な右手で何とか狼の首元にファイアボールを撃ち込む。
「バフゥッ!」
至近距離からのファイアボールの攻撃により、狼もさすがに噛み付いていた俺の腕を放した。
俺はすぐに立ち上がり、剣を拾い上げようとするが、狼の方が早く体勢を整え、再度攻撃を掛けてきた。
剣を拾いに行く余裕がないため、止むを得ず魔法かナイフで戦うことを選択する。
接近戦で使える魔法はファイアくらいしかないが、炎への恐怖感が無いこの狼に対しては牽制の効果がない。仕方がないので、左腕に噛み付かせた上で、潰れていない左目をナイフで潰しに行く。
ナイフを構え、狼が噛み付いてくるのを待ち構える。
狼もこちらがナイフしか持っていないことを見て、接近戦で決着を付けるつもりのようだ。
狼は喉を狙わず、最初と同じように足元を狙ってくる。
(こっちのリーチを見て、攻撃が届かない足を狙ってきやがった)
狼の狡猾な攻撃に対処すべく、狼の攻撃が届く直前で体を捻り、狼の攻撃を回避。
狼が通り過ぎるのを確認し、剣に向かってダイブし、剣を掴む。
狼は数メートル進んだ後、向きを変え、再度俺の方に向かってくるが、俺は剣を掴んだ状態で倒れており、立ち上がることができない。
(いけるか?)
狼は俺が無防備な体勢であることを見て、俺の首目掛けて飛び掛ってきた。
「ガアゥ!」
(このタイミングを待っていたんだよ!)
俺は狼が飛び上がったのを見て、剣を突き出す。
狼は空中で方向を変えることができず、俺の剣に向かって突っ込んでくる。
俺の持つ剣が狼の勢いと体重のため、狼の腹に深々と突き刺さる。
狼に乗りかかられる体勢だが、さすがに狼も俺の上から横に転がってもがいている。
俺は立ち上がり、狼に止めを刺すべく、5mくらい先の狼に近づいていく。
腹を切り裂かれ、半ば内臓がはみ出ているが、それでも狼は襲いかかろうと立ち上がる。
こちらも油断せず、慎重に間合いを詰め、ミルコとの訓練で叩き込まれた鋭い踏み込みで瞬時に数メートル先の狼の首に斬撃を叩き込む。
深いダメージを負った狼はこの動きに追従できず、遂に俺は狼の首を切り落とすことに成功。
(ふうぅぅ。せめてボス戦だけは最初から魔法を使うべきかな?)
と息をつきながら、次の階以降のことを考える。
例のごとく、宝箱があったので開けてみると、錆びたダガーが1本。
穴の開いた右手のガントレットを見ながら、
(修理代がいくらになるか判らないのに安そうなダガー1本とちょっとだけ大きい魔石が1個かよ。割に合わないねぇ)
資金に余裕があるから、こんなことを考えることができるが、ゴスラーにいた頃なら、1セット7Gもした防具を壊されて、こんな少ない見返りならチャレンジした自分を責めていただろう。
大金持ちなのに7Gのガントレットの修理代を気にする小市民のタイガ君です。
(決してケチではないのですが...)
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