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第4章.シュバルツェンベルク編
第4章.シュバルツェンベルク編:第2話「特訓」
 翌朝、目が覚めるとカスパーたちは帰りの護衛のため、すでに出発していた。

(別れの挨拶をしたかったが、まあ、ここに泊まっている限りは時々会えるだろう)

 今日の予定は、武術指導のミルコに会うこと。
 会えなかった場合は迷宮に入ってみることとしている。

 朝食をとった後、ギルドの訓練場に向かう。
 ギルドの訓練場は、ギルド支部の直ぐ裏側にあり、山シギ亭からは歩いて10分程度。
 訓練場は、雨でも訓練ができる全天候型の施設と屋外スペースとがあり、全天候型のほうは、大きな倉庫といった建物で30m×50mくらいの広さがある。
 中に入ると、既に10人以上が訓練を行っていた。

 指導者らしいベテランの冒険者にミルコについて聞いてみると、奥の方でいすに座って酒を飲んでいる老人を指差された。
 年齢は60歳くらいと聞いていたが、見た目は70歳を優に過ぎている感じで、背も両手剣使いにしては低い。
 近くによると酒臭く、朝からかなり飲んでいるようだ。

(アル中の爺さんかよ。外したかもしれないな。受付嬢がやめておけって言うはずだ)

 念のため、鑑定でミルコの能力を確認してみる。

(レベル59!今まで会った人の中で最高レベルじゃないか)

 更にステータス、スキルを確認すると

(両手剣65って、クロイツタール公でも50だったのにすげぇ!)

 酔っぱらって話はできそうにないが、折角来たので一応声をかけてみる。

「すいません。ミルコさんですか?」

「なんだ、てめぇ!気持ちよく酒飲んでるのに邪魔するんじゃねぇ!」

「両手剣の指導をしてくれるって聞いたんですが、間違いですか?」

「おめぇみていな、ひょろっとした奴が両手剣だと。はっ、冒険者も落ちたもんだ」

 高レベルの先輩だと思って敬語で話してみたが、あまりの対応に段々面倒になってくる。

「で、指導はしてもらえるのか。それとも立つこともできねぇのか。なら邪魔だからどっか行ってくれないか」

 面倒になり、タメ口でそう言うと、ミルコはいきなり立ち上がり、

「なんだと!俺の指導を受けられるか試してやる!」

と怒鳴る。
 酔っぱらっていると思ったミルコは、意外としっかりとした足取りで壁に向かい、訓練用の木剣を2本取り、1本を投げてよこす。

「今から俺と打ち合え!10分後に立っていられたら、剣を教えてやる」

「そっちは大丈夫なのか。かなり酒が入っているが」

「うるせぇ!お前如きひよっこ相手なら後10本飲んでも問題ないわ!」

「判った判った。それで10分後に立っていればいいんだな。それまでは何度倒れてもいいんだよな?」

 ミルコは一瞬濁った眼が見開かれるが、すぐに元の酔っ払いの表情になる。

「10分後に自分の足で立てりゃ、それで良しとしてやる。その代わり骨の2,3本は覚悟しておけよ」

(朝から物騒なこと言っている。骨を折られるのは勘弁して欲しいな。最後に治癒で直せば何とか立ち上がれるだろう)

 周りには野次馬が遠巻きにし始めたが、

「てめぇら、見せもんじゃねんだ!それともこいつの後に俺と手合わせするか」

と睨みつけると野次馬たちは潮が引くようにいなくなった。

(これで目立たず治癒が掛けられる。後はできるだけダメージを食らわないようにすることを考えよう)

「それじゃ、いくぞ。若造!」

と叫び、ミルコはかなり長めの両手剣を水平に構え、突っ込んでくる。

 座っていた時は小さく見えた体が、剣を構えた瞬間大きく見える。

 酒を飲んでいたとは思えないほどのスピードで突っ込んでこられ、最初の攻撃を受けただけで、後の連続攻撃はすべて体に当ってしまう。

ドスッ! バスッ! ガギッ! ドン!

 一瞬にして、4発の攻撃を入れられる。

 (痛ってぇ!なんだよ、この爺!)

 俺はこの状況を打開しようと打って出るが、こちらの攻撃はミリ単位でかわされ、その後にカウンターの攻撃を一々入れられてしまう。

(なんで当らねぇんだよ!)
 
 さっきの鑑定で回避スキルが50だったことを思い出し、

(これが超一流の剣士なのか?)

 2分もしないうちに腕が痺れ、剣を取り落とす。
 その直後、鳩尾に強烈な突きを貰ってしまう。

「グゥェ!オゥェ!ゲボォ!」 

 俺は胃の中のものを吐きながら、地面を転げ回る。

 その姿を見たミルコは興味を失ったのか、椅子に戻り、すでに酒を飲み始めている。

(くっそ!舐めやがって!俺だって修羅場を潜り抜けてきたんだ!絶対立ってやる!)

「我の体内に宿りし魔力よ。治癒の力となり我の受けし傷を癒せ」

 俺は小声で治癒を自らの体にかけ、剣を拾って立ち上がる。
 さすがに鳩尾への一撃は回復しきれないが、腕の痺れなどは回復できた。

(まだやれる!こうなったら指導なんかどうでもいい。10分間これを続けてやる!)

 酒を杯に注いでいるため、ミルコはこちらに気付いていない。

「ミルコ。まだ終わっちゃいねんだが、疲れちまったか。続きをやろうぜ」

 ミルコは目を細め、

「ほう。少しは根性があるようだな。じゃ本気で行くぞ」

(さっきのは本気じゃないのかよ)

 ミルコの嵐のような連続攻撃が次々と俺の体に吸い込まれていく。

 2分後、側頭部に当った一撃で意識が飛び、顔から地面に倒れこんでしまう。

(パンチドランカーって治癒魔法で治るのかな?まあいいか。少し気持ちよくなってきた。ボクサーがいいパンチをテンプルに食らうと天国を見るって話は本当だな)

 何分倒れていたのかわからないが、少し意識が戻ったので再度治癒を掛け、立ち上がる。
今度はミルコも見ていたようで、

「後、3分だ。今と同じように意識を失くしたら、終わりだな」

(3分くらい意識がなかったのか。まあいい。頭への攻撃に注意すれば腕が折れても我慢してやる)

「さっさと攻撃してこいよ。それとも酒が切れて動けないのか」

 魔力が減ってきたので、最低限の治癒しか掛けられていない。顔はかなり腫れているだろうし、声もおかしくなっている。
 俺は意地になって、ミルコを挑発し続ける。既に剣で防ごうとか避けようとかそういった意識はない。
 立っていることだけに意識を集中させ、ミルコの斬撃をすべて受けるつもりになっている。
 ミルコは無言で更に斬りかかり、肩、脇腹、太もも、膝と容赦なく木剣で撃ちつけていく。

 俺は2分くらい耐えた後、再度倒れこむが、必死に意識だけを繋ぎとめておく。
 声が出るようになったところで最低限の治癒魔法を掛け、剣を杖に立ち上がる。

「10分だ。約束通り、指導してやる。俺のやり方に文句があろうが、すべて従ってもらうぞ。今日はもう無理だろう。明日、8時にここに来い」

俺は「判った。それから...」と言ったところで膝を着き、ミルコは俺が何を言いたいのか判らず、問い返す。

「それから、なんだ?」
 
「俺の名前は、タイガだ。覚えてお...」

 ここから先の記憶がない。

 夕方、気付いたら宿の部屋のベッドに寝ていた。今まで気を失っていたようだ。

 体を確認すると一応手当ては行われているようで骨折等も無かった。

 8時間くらい寝ていたため、魔力も回復したので、治癒を掛け、食堂に下りていく。

 宿の女将が心配そうに声を掛けてきた。

「大丈夫かい。あのミルコがボロボロになったあんたを担いでやってきてさあ、”こいつの部屋に案内しろ”っていうんだよ。仕方が無いから、部屋に案内したら、”明日からもこういう状態で帰ってくるから今から慣れておきな”って。あんた、本当に大丈夫なのかい」

「大丈夫だと思います...」

(この状態がデフォルトかよ。被虐主義じゃないからこういうのは勘弁して欲しいんだが)

 治癒でほとんど治っているが、朝飯は吐いてしまったし、昼飯は食ってないしで、腹が空いて力が出ない。
 少し早いが夕食をとり、浴室で体の状態を確認するが、大きなあざや傷跡はない。

 明日に向けて、今日は早く寝ることにした。

 翌日から、ミルコの特訓が始まる。
 やり方は至ってシンプルでミルコとの模擬戦だ。

 昨日のような無茶苦茶な攻撃はないが、それでも1時間に一回くらいは地面にキスをしてしまう。

「タイガ、今の打ち込みはなんだ?ばあさんが匙でスープをすくってんじゃねぇんだ。ふらふらさせねぇで、気合入れて最短距離で打ちこまねぇか!」

「タイガ、おめぇの目はどこに付いてんだ。正面の攻撃も見えねぇのか」

「タイガ、おめぇの攻撃はなんだぁ、餓鬼が棒振ってるのと変わんねぇぞ。そんなもん目瞑っていても避けれるわ」

とか、ボロクソ言われながら訓練が10時間続く。当然、休憩はなし。

 ミルコ曰く、腕が上がらなくなってからが、本物の剣士の本領が発揮できる。

 貴族様の剣術ごっこなら、休憩を入れてじっくり覚えればいいが、命がけの冒険者の剣はそれではいけないそうだ。

(冬にしておけば良かった...)
 
 水分補給もなしで10時間ぶっ通しの訓練。

(どこのスポコンだよ!熱中症で死んでしまうわ!)

 この特訓を5日間続けた。精神耐性が無ければ、精神が壊れていただろう。

 ギルドでは、俺が1週間もつか賭けをしていたそうで、ミルコが一人勝ちしたそうだ。
 賭けの対象が賭けても有効なのか?と思ったら、ミルコが「文句があるなら、タイガの訓練と同じことをやってやる。いつでも言って来い」と言って賭けが有効になったそうだ。

 この特訓で、両手剣のスキルは16から17に、回避が11から13に上昇。その他に治癒魔法も8から11に上がっている。剣術の訓練なのに治癒魔法が一番上がっているのはおかしい気がするが、毎日魔力切れ寸前まで治癒を掛けているので当然の結果だろう。

 6日目の朝、訓練場に向かうとミルコが先に待っていた。

「タイガ、今日から技を教える。俺がやるのを見て覚えろ」

といって、ミルコの華麗な連続攻撃の型を見せられる。

(こんなもん、一回見ただけで覚えられるか!そうか、携帯で動画撮影すればいいんだ。自分の型の確認もできるし、それで行こう)

「ミルコ、済まないが、もう一回見せてくれないか。ちょっと試したいことがあるんだ」

「試したいことって何だよ。まあいい。よく見ていろよ」

 俺は携帯を取り出し、動画撮影を開始。

(うまく撮れている。足捌きもわかるし、いけそうだ)

「タイガ、何してたんだ?その道具はなんだ」

「ミルコ、見せてやってもいいが、誰にも言わないでくれよ。世界に一つしかない魔道具なんだから、盗まれたら大変だ」

といって、今撮った動画を見せる。

「これは、俺じゃねぇか。俺の姿をここに閉じ込めたのか。タイガ、大丈夫なんだよな?」

と珍しく弱気な感じで俺に聞いてくる。

「ああ、大丈夫だ。これは高速で絵を描く道具だ。よく見ていろ。たくさんの絵を繋いで動かしているだけだから、魂が吸われるとか呪われるとかはないから大丈夫だ」

 動画をコマ送りにして見せ、ミルコに説明する。
 ミルコは納得していないようだが、有用性は理解したようだ。

 次に俺の動きの撮影だ。
 椅子の上にバックパックを置いてその上に携帯を置く。試し撮りをするとアングル的にはいまいちだが、何とか俺の動きとミルコの動きの違いは判る。

 動画撮影を何度も繰り返して訓練すること1日。何とかミルコの型に近くなってきた。

「タイガ。俺はこの型を覚えるのに1月掛けたんだ。魔道具の助けを借りたとしても1日で覚えるのかよ」

 ミルコにしては力なく、そうつぶやく。

 1ヶ月は掛けるつもりだったようで、相当悔しかったみたいだ。
 残りの基本の型も毎日覚え、1ヶ月でミルコの基本攻撃パターンを覚えることができた。

 ミルコとの訓練に集中していたため、秋分の日の収穫祭にも気付かず、空の月=10月になっていた。
 レベルは上がっていないが、スキルはかなり上がっている。

 高山タカヤマ 大河タイガ 年齢23 LV13
  STR984, VIT847, AGI923, DEX960, INT3858, MEN1808, CHA785, LUC775
  HP735, MP1808, AR3, SR3, DR3, SKL241, MAG108, PL30, EXP120803
  スキル:両手剣20(複撃1)、回避15、軽装鎧10、共通語5、隠密9、探知6、
      罠5、追跡6、体術8、乗馬8、植物知識9、水中行動4、
      上位古代語(上級ルーン)50
  魔法:治癒魔法12(治癒3、解毒1、精神ダメージ回復1、麻痺回復1)
     火属性12、水属性1、風属性2、土属性1

 両手剣のスキルに複撃というのが、入っている。
 同時に複数へ攻撃できる特別スキルのようだ。そう言えば、ギルの弓にも狙撃1ってのが付いていたような気がする。スキルが20になると、おまけか何かが付くのかもしれない。
良い子の皆さんはきちんと水分と塩分を取って練習しましょう。(R15だから、大丈夫だよね)
間違っても10時間ぶっ続けの運動なんていうのは某テレビ局のマラソンだけにしましょう。

意外と根性を見せた日本人のタイガ君です。(少しキャラが変わってないか?)
複撃は複数同時攻撃の略です。ステータスに表すためにに簡略化したものです。(短くてかっこいい名前があれば、教えてください)


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