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第3章.逃亡編
第3章.逃亡編:第19話「報酬」
 到着した時刻はかなり遅い時間だったが、ルーブレヒトに完了確認をもらって、ギルドに完了報告を行う。
 完了確認をする際に、ルーブレヒトから御者の死亡にペナルティはないと言ってもらえた。

「御者が一人死んだ件は、私が強引に移動距離を伸ばしたことが原因だ。だから、報酬の減額等のペナルティは付けない。というより、今回は本当に助かった。またよろしく頼むよ」

 ギルドへの完了報告を終え、這うように宿に向かう。

 カスパーたちの勧めで「山シギ」亭に宿泊することにした。
 疲れ果てた俺たちは食事もそこそこに部屋に戻り、倒れるように眠っていった。

 シュバルツェン街道を強行して移動した翌日、俺は早く寝たせいかすっきりと目が覚め、午前7時頃に朝食をとるため食堂に向かう。
 カスパーたちも同じタイミングだったのか、5人とも揃っていた。

「タイガ、今日の午前中はギルドに行ってルイスたちの死亡報告とオークの報奨金を貰いに行くぞ。その後は守備隊の詰所で盗賊の賞金を貰う。それから、武器屋、防具屋で盗賊たちの装備を換金する。欲しいものがあったら、先に俺かユルゲンに言ってくれ。現金分と引き換えにその装備を渡すから」

「了解。昨日までは忙しくて聞けなかったんだが、カールのことを聞いてもいいか。あんたたちみたいなベテランの護衛が何で盗賊の一味を引き込んでしまったのか、気になっているんだ。いや、別に非難している訳じゃないぜ。単純に俺の好奇心だ」

と前から気になっていたことをカスパーに聞いてみた。

「ああ、そのことか。タイガ以外の4人とは以前にも何回か臨時で組んだことがあったんだ。当然カールも前に2回、一緒に護衛クエストを受けた。武器の扱いはそれほどでもなかったんだが、スカウトとしては優秀で、盗賊の待ち伏せを2度見破っている。今から考えるとこちらの信用を得るための芝居だったのかもしれないがな」

「なるほど、盗賊側が用意周到だったわけか。それにしても何で今回に限って襲撃されたんだ。盗賊が売り捌くには面倒な食料と武具だったはずだが」

「それについては俺もわからん。ルーブレヒトさんが何か特別なものを運んでいたのかもしれない。高価なものを運ぶ時は護衛にも内容を言わないのが常識だ。護衛がいきなり盗賊に変わるかもしれないからな」

「判ったよ。今回は運が無かったんだな。ルイスたちには悪いが、自分が生き残れたことで良しとしておくよ」

 食事が終わり、午前9時頃にギルドに向かって宿を出る。
 ルイスたちの死亡報告、裏切り者のカールも含めてギルドカード回収で80S、オークの報奨金30S×5匹=150Sを受け取る。守備隊の詰所に行き、19人分の首級を渡す。大した盗賊がいなかったようで、2G×19人=38Gを受け取る。

 装備類に欲しいものはなく、すべて換金するが、質が悪く19人分なのに25Gにしかならなかった。駆け出しの装備でももう少し高く売れるんじゃないかと内心思ったが、交渉はカスパーに任せているので、特に口出しはしない。
 最終的に65G30S分の収入になった。計算が面倒だということで、俺が11G受け取り、残りをカスパーたちのパーティが受け取ることにした。
 護衛の報酬2Gと合わせ、13Gの儲けだ。
 ノイレンシュタットからクロイツタールの護衛で21.5G、クロイツタールからシュバルツェンベルクの護衛で13G、実働10日ほどで34.5G=350万円くらい儲けている。
 このことをカスパーに言ったら、

「普通は3回に1回も襲われたら多い方だよ。続けて2回も襲われて討伐の報奨を受けるなんていうのは、タイガくらいじゃないか。普通、襲ってくる盗賊の方が戦力は上なんだから、そんなに何回も襲われたら、死ぬか大怪我をしているよ」

と呆れられてしまった。

(そういえば、ベッカルト村からゴスラーに向かう時の行商人フーゴの護衛をしたときも襲われたよな。護衛クエスト3回連続で襲撃に遭ったなんて言うと疫病神って思われそうだ)

 昼時になったので、カスパーたちと一緒に昼食をとることにした。
 昼食を食べながら、カスパーが

「タイガ、俺たちのパーティに入らないか。歓迎するぞ」

「そう言ってもらえるのはうれしいんだが、俺はここシュバルツェンベルクで力を付けたいと思っているんだ。悪いが当分ソロでやっていくつもりだ」

「そうか。ユルゲンにも多分無理だろうと言われていたが、言わずにいられなかったんだよ。縁があったら、一緒にやろう」

(どうもこの世界の人は俺のことを過大評価する傾向にあるな。それにグンドルフのこともあるし...あっ、魔法のことを口止めしておくのを忘れていた。とりあえず、カスパーたちは口止めしておこう)

「みんなに頼みがあるんだが、俺が魔法を使えることは黙っていてくれないか。まだ、クロイツタールまで噂は流れてきていないが、俺は南部でグンドルフという盗賊の根城を壊滅させたんだ。その時、グンドルフはいなかったんで恐らく奴は、俺のことを探している」

「グンドルフか。聞いたことがあるぞ。確か西部、中央部で荒稼ぎして数ヶ月前から消息が判らなくなった盗賊じゃないか。そいつに追われているのか。そいつは大変だな。」

「そうなんだ。だから、力をつける必要があるんだ。力を付ける時間を稼ぐためにもしばらくの間、内密にして欲しいんだ」

「判ったよ。俺たちから漏れることはない。安心しろ。ルーブレヒトさんにも一言いっておくよ」

「助かる」

 昼食も終わり、午後は自由行動になったので、皆、楽しそうに町に散っていった。


 その夜、カスパーたちと護衛任務成功の打ち上げを行っている。
 特別料理も頼み、かなり酒も飲んだ。クエスト完了をみんなで祝う打ち上げは楽しい。

(これから迷宮に入るようになると、こんな打ち上げは無いんだろうな)

 マックスたちにも感じた羨望をカスパーたちにも感じている。自分がパーティを組まない限り常に感じる羨望かもしれない。



 グンドルフたちがプルゼニ王国に潜入して既に半月以上、過ぎている。手持ちの資金が減っていく中、大河の足取りは一向に掴めない。

 グンドルフに従っている手下たちも次第にグンドルフのリーダーシップに疑問を持ち始め、グンドルフは一層焦りを募らせていく。

「クソッ!どこに行きやがった!なんで見つからねぇ!」
「お頭、資金も乏しくなってきやした。ここで資金稼ぎと手下集めをしてはどうです。金がありゃ、情報も手に入るし、手下が増えりゃ、探す手が増えやす。ドライセンで稼いだみてぇに、いっちょ、ここいらで一稼ぎしやしょう」

 焦りに我を忘れそうになっていたグンドルフであったが、大河を探すのに金と手足は必要だと思い、手下の提案に乗ることにした。

 こうしてプルゼニ王国の西部は、グンドルフの狩場と化していくことになる。

(諦めた訳じゃねぇぞ。今のうちに楽しんでおきな。殺してくれって泣き叫ぶまで、いたぶってから殺してやるからよ)

 グンドルフは体の中に暗い炎が燃え上がっていくのを感じている。
中途半端な終わり方ですが、第3章「逃亡編」は終わりです。
次話からは、第4章「シュバルツェンベルク編」になります。

久しぶりにグンドルフの親分さんが登場でした。
(実に10話ぶり、忘れていたわけではないんですが...)


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