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第3章.逃亡編
第3章.逃亡編:第8話「鍛冶師デュオニュース」

ドライセンブルクの鍛冶師街でも一番有名なデュオニュースの工房に着いた。
工房も周りの建物と同様に4階建てで1階が工房、2階が店舗のようだ。3階、4階は住居なのだろうか?

有名な店なので、店の前を旅人風の人たちが多く通っていく。
一応店舗があるので、覗いてみようかと思い、2階に上がっていく。

一見いちげんさんお断りではないが、前を通る人が多い割には工房に入っていく人はほとんどいない。
勇気を振り絞って、店の扉を開けると、やはりというか予想通りというか、客は誰一人いない。

(しまった。やはり入るんじゃなかった。お店の人に捕まらなければ、このまま退散しよう。)

と思ったが、後の祭り。ディルクと同じ髭面のドワーフが声を掛けてきた。

「おい、小僧。何のようだ!」

「い、いえ。オステンシュタットのディルクさんに聞いたので、一度覗いてみようかと...」

(「何のようだ」はないよな。ここは武器屋だろ。武器を見に来るのに決まっているだろう。)

と声には出さず愚痴をこぼす。

「ディルクの野郎の紹介か。小僧、こっちに来て背中の両手剣を見せろ!」

「いえ、今日は店の場所を見に来ただけで武器を買いに来たわけでは...」

「つべこべ言わず。さっさとしろ!」

(ドワーフはみんな気が短いのかな。)

と思いながら、デュオニュースと思われるドワーフの方に近づいていく。

「10日前にディルクさんに売ってもらった剣です。ディルクさんにはこの剣を使いこなせるようになったら、デュオニュースさんのところに行けと言われたんですが、まだ使いこなせていません。」

と言って、愛剣を渡す。

「ほう。ディルクがこの型の剣を...。小僧、お前の戦い方を説明しろ。」

(なんだ、この展開は。とりあえず説明しないと怒鳴られるんだろうな。)

「俺のスタイルは、魔法で弱らせてから、接近して急所を狙って止めを刺すスタイルです。対人戦の経験は少ないので、対魔物の戦い方ですが。」

「下に行くぞ。」

「えっ?」

「下の試し切り場でお前の闘い方を確認させてもらう。とっととついて来い。」

とさっさと歩き出す。デュオニュースは弟子たちに

「お前ら今日引き渡す物を仕上げておけ!俺は下でこいつを見てくる。」

「「わかりました。親方!」」

弟子たちはいつものことなのか、特に疑問を差し挟むことなく仕事にとり掛かる。

俺はデュオニュースに連れられ、1階の工房横にある訓練場のような土間の部屋に行く。

「この部屋は少々の魔法じゃ何ともならん。あの的に好きに攻撃しろ。」

と言って、5mくらい先にある金属製の防具を着けた木の人形を指差す。
ここまで来たらやらないわけには行かないようだ。

剣を地面に突き刺し、最高出力の高密度型ファイアボールを唱え、的の腹辺りに叩きつける。
鋼のプレートアーマーだが、さすがに最高出力のファイアボールを至近距離から撃ったので前面側は貫通し、木の人形が焦げている。

デュオニュースは少し驚いたのか、目を見開いている。

俺は、デュオニュースにかまわず、そのまま剣を引抜き、ダッシュで接近し、首を狙って突きを入れ、更に横薙ぎの一撃を加えて、首を跳ね飛ばす。

「すいません。ファイアボールの出力を上げすぎて的の防具を壊してしまいました。部屋が狭かったんで調整すればよかったんですが...」

「そんなことはどうでもいい。それより聞きたいことがある。」

デュオニュースはさっきまでと少し様子が違い、何か考えるように話しかけてきた。

「それだけの魔法が使えて何で剣も使う?俺が見たところ、今のファイアボールは王国騎士団の魔術師部隊以上だぞ。その防具はダンクマールが作ったものだ。ただの鋼とは言え、ファイアボール如きで貫通できるもんじゃねぇ。」

「へぇ?」

俺は今の言葉を理解できず、素っ頓狂な声を上げ、固まっている。

(王国騎士団って言えば、ドライセン王国最強騎士団だろ。その魔術師部隊ってことは、最強の魔術師実戦部隊なんだよな。そんな魔術師と比較される???)

「おい、何で剣も使うのかを聞いてるんだよ!」

「あっ、すいません。えっと、ほとんどソロで戦ってきたんで魔法だけじゃ倒しきれなかったからですが...」

「はぁ? それだけの魔法が使える魔術師がソロだと? ありえんだろ。」

「まだ、冒険者になって3ヶ月くらいですし、魔法もファイアボールの他にはあと2つくらいしか知らないんで接近戦もできるようになりたいなと思って...」

「3ヶ月だぁ?とことん、訳がわからん奴だな。まあいい。それでどんな武器が欲しい。」

「魔法を使うたびに地面に突き刺しているんで、できれば、ミスリルかアダマンタイト製のが欲しいです。形はディルクさんの作ってくれた、このタイプが使いやすいのでこれがいいんですが。」

「ふ~む。ミスリルかアダマンタイトか。前金で1000G払えるか。無理なら玉鋼かダマスカス鋼辺りになるが。」

(いきなり、作ってくれるってこと?1000くらいなら楽勝だけど、前金が1割とか言われると困るな。)

「払えますが、総額どのくらいになりそうなんですか?」

「1500~2000Gだ。ミスリル、アダマンタイトを素材に使うとなると素材を集めるだけでも金が掛かる。そのための前金だ。」

「わかりました。とりあえず2000G支払います。今の俺では使いこなせないでしょうから、完成は急ぎません。足りなければ後1000Gくらいなら払えます。」

デュオニュースは駆け出しの冒険者である俺が3000Gまで出すと言ってかなり驚いている。金持ちの貴族の子息と思われるのも癪なので、

「この金は俺が一人で稼いだものです。もうすぐ、ここにも噂が届くとは思いますが、南部のゴスラーでグンドルフの盗賊団の根城を襲い、奪ったものなので、怪しい金でもありません。まだグンドルフが生きているので、俺がこの金を持ってここに来たことは黙っていて欲しいんですが。」

「グンドルフか。何ヶ月か前まで西部辺りで荒稼ぎしていた盗賊じゃねえか。なるほどな。その話は俺の胸に収めておいてやる。剣については半年以内には作り上げてやる。グレゴールやコンラートの剣以上のものを作ってやるから、腕を上げておけ。」

(グレゴールやコンラートって誰だろう?きっと名のある騎士なんだろう。)

「よろしくお願いします。がんばって腕を上げてきますよ。」

「もうひとつ気になっていたんだが、おめぇ、そのスローイングナイフ使えねぇだろ。そんなもん、なんで身に着けているんだ。それだけでも魔法の邪魔になるはずだが。」

「これですか。飾りみたいなもんですよ。まあ、これを着けておけばスローイングナイフの射程に入るのを躊躇うから、その分、呪文を唱える時間が稼げるってのも理由の一つなんですが、実際、ナイフは食事に使うだけなんですよね。」

「ハッハッハッ。面白い奴だな。上でミスリル製のスローイングナイフを売ってやる。もちろん食事にも使えるから、買っていけ。」

と笑われてしまった。少しでも練習しておけばよかったかな?

「ところで鍛冶師のデュオニュースさんにこんなこと聞くのも何なんですが、さっきも言いましたが、俺が使える魔法は3つくらいなんです。どこかで魔導書が手に入るところって知りませんか?」

「鍛冶師に聞くなといいたいところだが、お前の持ち味は魔法と剣術のコンビネーションだからな。魔法を覚えることも大事だろう。ノイレンシュタットのラングニック地区にあるオルトヴィーンの魔道具屋に行って、主人のオルトヴィーンに相談してみろ。」

「助かります。この後、ノイレンシュタットに行くつもりだったんで、ちょうど良かったですよ。」

デュオニュースと共に2階に戻りギルドカードで2000Gとミスリル製スローイングナイフ3本分の50Gを支払い、店を出る。

カードの残金は6600Gあるので、魔導書を買っても大丈夫だろう。


大河がデュオニュースの店を出た後、隣の防具店のドワーフの店主ダンクマールがデュオニュースに呼び出されている。

「デュオ、いきなり呼び出して何のようだ?」

「ダン、これを見てみろ。お前の鋼のプレートアーマーだ。」

デュオニュースがタングマールに先ほど大河に壊されたプレートアーマーを見せる。

「お前のところで、なんでこんな穴が開くんだ?フレイムランスくらいの高位魔法の攻撃跡だろう。」

「いや、ファイアボールを撃ち込まれた結果だ。それも専門の魔術師じゃなく、俺のところに剣を買いに来た冒険者がやった。」

「何だと!お前さんが冗談でこんな手の込んだことをするとは思えんが、そんな話信じられんぞ。」

「俺も目の前で見なけりゃ信じられなかったよ。」

「どんな奴だ。」

「さっき、ディルクの剣を持って、ふらりとやってきた。冒険者になって3ヶ月だが、剣の素質はある。もしかしたら、コンラート以上、いや、グレッグ並かもしれん。」

「嘘だろう!いやすまん。お前が嘘を言うはずはないな。龍殺し並の剣の素質に、この魔法の素質か...」

「見た感じは、駆け出しを卒業した程度のどこにでも居そうな若造だ。装備もディルクの剣以外は大した物は持っていなかった。ディルクの剣もあまり使い込んでないようだが、試しにここに連れてきた。いつも通りやってみろと言ったら、そのファイアボールを撃ちやがったんだ。」

「で、剣を打ってやるのか。」

「ミスリルかアダマンタイトの剣を作ってやると約束した。」

「ほう、いつ取りに来るんだ。そん時は俺のところにも越させろよ。」

「半年後くらいだろう。もしかしたら1年くらい掛かるかも知れん。」

「まあいいだろう。どんな奴か楽しみ待っていてやろう。」

ドワーフ2人は、久しぶりにいい仕事のきっかけができたと、仕事場に戻っていった。
作者がこれを言うのもなんですが、3000G=3億円の剣って一体どんなものなんでしょうか?
RPGなんかで、非常に高級な個人用の武器が出てくるといつも思ってしまいます。
美術品なら判るんですが、実用品で...中古の戦車なら買えちゃいそうです。


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