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今回で、第2章ゴスラー編が終わります。
第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第23話「出発」
 翌日、朝一番にアントン達の泊まっている宿に向かう。

 アントン達を捕まえ、

「昨日の俺の噂を聞いたか」

「はい、聞いています。すごいですよね。盗賊15人をやっつけてしまうなんて」

「ああ、あれは運が良かっただけだ。実力じゃない。そんなことより頼みがある」

「なんですか?」

「俺は盗賊の生き残りに命を狙われることになる。そこで明日にはこのゴスラーを出て別の土地に行こうと思っている。今のところオステンシュタットまで行くことは決めているが、その先はまだ決めていない」

「えっ! この町からいなくなっちゃうんですか?」

「ああ、そこで4人に頼みなんだが、俺がこの町を出て行った後にある噂を流して欲しい」

「どんな噂ですか」

「俺が盗賊の報復を恐れて、オステンシュタットを経て東のプルゼニ王国に逃げようとしているという噂だ。俺が東方の生まれでプルゼニ王国から大陸東部域に逃げ出そうとしていると思わせてくれればいい。俺と一番仲が良かったのがお前たちだから色々聞いてくるだろう。その時にそんな噂を流してくれると助かる」

「そんなことでよければ。他に何か手伝うことはないですか?」

「特にないが、当分町から離れない方がいい。俺を狙う盗賊がお前たちを狙わないとも限らない。クエストを受けられなくなるから、これで凌いでくれ」

といって、金貨10枚を手渡す。

「こんなの貰えませんよ。大丈夫です。俺たちも気をつけますから」

「すまないが、1ヶ月間クエストを受けないでおいてくれないか。俺の所為で誰かが不幸になるのは嫌なんだ。頼む。受け取ってもらえないと俺が安心できないんだ」

「判りました。じゃ頂きます。ちょうどいい機会なんで、1ヶ月間はクエストを受けず、訓練に励みます」

「そうか。すまないな。それじゃ当分戻ってこないが、いつか必ず帰ってくる。それまで元気でな」

と言ってアントン達と別れる。

 ギルドに行き、ギルド長にも事情を説明しておく。

「グンドルフと言えば、元Aランクの冒険者だ。いくらお前さんでも直ぐにやられてしまうだろう。この町を出るのは賢明な選択だよ。オステンシュタットまでは郵便の配達クエストにしておいてやる。後でクエストを受けておけよ。それから噂についてはわしも積極的に流しておいてやろう。あの若いもんのこともわしに任せておけ」

「クエストの件、ありがとうございます。あいつらのこともよろしくお願いします」

 挨拶をするのはこのくらいか。

 2ヶ月くらい居たのに狭い交友関係だったな。よっぽどベッカルト村の方が知り合いは多かった。

 昼食を取り、守備隊詰所に向かう。
 守備隊の責任者から確認が終わったので、懸賞金を渡される。
 懸賞金は全部で222Gだ。
 15人分だと考えると多いんだか少ないんだか良くわからない。

「副頭目のザムエルが金貨50枚で他に8人が1人当たり金貨20枚、その他の6人は懸賞金が掛かっていなかったが、報奨金として1人当たり金貨2枚が支払われる」

「盗賊の装備類や持ち物はどうでしょうか」

「装備類はそちらで勝手に処分していい。馬はできれば守備隊に売って欲しいがどうだろうか」

「1頭だけ残して残りはお売りします。4頭でいくらになるんでしょうか」

「一番いい馬以外だと全部で金貨10枚ならどうだ」

「それでいいです」

 懸賞金と馬の売却金合計232Gを得る。

 守備隊で荷車を買い、武器屋、防具屋、雑貨屋に向かう。
 結構いい武器や防具を持っていたので、100G近くになった。
 ツーハンドソードもいいものがあったが、盗賊が使っていたものだったのでどこで生き残りに目を付けられるか判らないから、すべて売ってしまった。

 荷車を返してから、馬とともにドラゴン亭に帰る。

 主人のマルティンに

「明日の朝、オステンシュタットに行くんだ。世話になった。ゴスラーに来た時には必ずここに泊まるよ」

「そうか、お別れか。あんたには面白い料理を教えてもらったし、楽しかったよ。オステンシュタットで冒険者をやるのかい?」

「いや、オステンシュタットは通るだけのつもりだ。多分プルゼニ王国に行くと思う」

「そうか、明日の弁当はあんたの”ベーコン”ってやつで腕によりを掛けておいてやるよ」

「明日の朝、夜明けとともに出発の予定だから、いいよ。気持ちだけ受け取っておく」

「気にするな。朝食と弁当は用意してやる。いつでも泊りに来いよ」

 マルティンと握手をし、浴室の準備を頼む。

 明日からは知らない土地だから、いつ浴室を使えるかわからない。
 今日中に体をきれいにしておき、万全の体制で出発したい。

 体を洗い、夕食を取り、今日は早めに就寝するつもりだったが、明日からのことを考えると目がさえてしまう。

 そういえばステータスを確認していなかったと思い、確認すると、一気にレベル11に上がっていた。

 高山タカヤマ 大河タイガ 年齢23 LV11
  STR830, VIT715, AGI780, DEX820, INT3715, MEN1640, CHA665, LUC655
  HP664, MP1640, AR2, SR2, DR2, SKL227, MAG90, PL28, EXP73489
  スキル:両手剣14、回避9、軽装鎧5、共通語5、隠密9、探知6、追跡6、
      罠5、体術3、乗馬1、植物知識9、水中行動4、
      上位古代語(上級ルーン)50
  魔法:治癒魔法6(治癒1、治癒2、解毒1)
     火属性9(ファイアボール、ファイアストーム、ファイアウォール)

 両手剣のスキルも順調に上がっている。
 魔法のレベルも上がっているが、呪文は増えていかない。初期設定で火属性5にした特典分だけで、新たな魔法は自分で覚える必要があるようだ。
 金は現金だけでも600G近くある。都会に出たら、魔導書を探してみよう。

 翌朝、まだ暗いうちに出発の準備をし、外が白み始めた頃、食堂に下りる。

 マルティンは約束通り、朝食と弁当を準備していてくれた。

「済まないな、早起きさせちまって」

「気にするな。あんたには世話になっているからな。また今度面白い料理を教えてくれ」

 朝食の準備があるのか、マルティンはそのまま厨房に戻っていく。
 朝食を取ってから、部屋に戻り

(ここが冒険者としての出発点か。2ヶ月ですっかり俺の部屋って感じになったな)

と感慨深く、もう一度部屋の中を見渡す。

 外はかなり明るくなってきている。

 荷物を馬に載せ、宿を出る。
 荷物も2ヶ月で大分多くなり、背負い袋1つと大き目の皮袋2つある。
 皮袋は途中で回収する財宝を入れるため、かなり余裕がある。

 北門の前で開門を待っていると、アントン達がやってきた。

「昨日別れは済ませたつもりだったんだが」

「どうしても見送りたくて来ちゃいました。絶対戻ってきてくださいよ。じゃあ、気をつけて」

「ありがとうございました」

「こんど帰ってきたら、女らしい私を見せてビックリさせてやるから」

「元気で帰ってきてください」

 アントン、ベリエス、ダニエラ、キャサリンがそれぞれ別れの言葉を掛けてくれる。

「いつになるかわからないが、必ず戻ってくる。みんなも無理せずがんばってくれ。じゃあ行くわ」

 開門と同時に馬を進める。

 後ろは振り向かない。

 ここが俺の出発点だから。


「行っちゃったね」

 ダニエラが誰に言うでもなくポツリと呟く。

「うん。これから本当に僕たちだけなんだよな」

 アントンがそう答える。

「タイガさんに会えていなかったら、私たち今頃どうなっていたのかしら?」

 キャサリンも呟いている。

「多分、今頃お金も住む所もなく、誰かに騙されて売られていたかもしれないな」

 その呟きにベリエスが答える。

「俺たちが今あるのはタイガさんのおかげだよな。これから、色々経験して、今度会った時、ビックリさせてやろう」

とアントン。

「「そうね(だな)」」

と3人も声を揃える。

「しかし、タイガさん、これから大丈夫かな。盗賊の頭目って無茶苦茶強いんでしょ」

とダニエラがアントンに聞く。

「タイガさんだから大丈夫だよ。それより俺たちの方もあんまり悠長にしていられないよ。タイガさんの心配って結構当るから、言いつけ通り、1ヶ月間町で特訓をするぞ」

「そうね。あの人に言われた噂を広めることもやらなきゃいけないし」

「じゃあ、朝飯を食べに戻ろう。今日は忙しくなりそうだ」

 4人は一度だけ北を見つめ、宿に戻っていった。



-7年後-

 ゴスラーギルド支部の前に多くの冒険者が集まっている。皆明るい表情でいいニュースが発表されるようだ。

「今日、このゴスラーの町に30年ぶりにBランク冒険者が誕生した」

とキルヒナーギルド長がそう宣言した。

 若い男女4人がギルド長の横に赤い顔で恥ずかしそうに並ぶ。

「アントン、ベリエス、ダニエラ、キャサリン。4人ともよくがんばったな。ここにいる4人は、7年前ここゴスラーギルド支部の扉をくぐり、冒険者になるべく...」

「ギルド長、話がなげえぞ! さっさと終われ!」

と集まった冒険者から野次が飛ぶ。

「ええい、うるさいわ。こっちも久しぶりに盛り上がってんだ。好きに挨拶させろ!」

とギルド長も怒鳴り返す。

「まあいい。4人ともこれからも町のためにがんばってくれ! みんなも彼らを祝福してやってくれ!」

 ギルド長の一言で大歓声が沸く。

 4人はますます赤い顔になり、少し俯いてしまう。

「アントン、みんなになんか言ってやれ」

「で、でも...」

「お前がリーダーなんだから、なんか言わないとみんな納得しないぞ」

「皆さん。僕たちのために祝ってくれてありがとうございます。僕たちはギルド長始め皆さんのおかげでここまでやって来られました。今日、ここにいない恩人にこの姿を見せられないのが...あっ!」

 アントンは観衆の向こうにある人物を見つけ、言葉を失った。

 他の3人も口を開け、呆然としている。

 観衆は一瞬静まり、一斉に後ろを振り返る。

 後ろには背中に両手剣を背負った黒い髪の男が立っていた。

「アントン。馬鹿面してないでちゃんと挨拶しろ! 折角、遥々(はるばる)遠くから20歳のBランカーってやつを見に来たんだからな!」

 男は満面の笑みを浮かべ、そう叫んだ。

「「お帰りなさい!」」

 4人は、式典や観衆のことを忘れ、彼らの恩人に向かって走り出していった。
次話からは、第3章.逃亡編です。
現代のような情報社会と違い、この世界では情報伝達が遅いので、盗賊との手に汗握るような駆け引きは出てこないと思います。(その分工夫はしていますが。)


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